<イントロダクション>

「はぁ?・・・・何言ってんだぁ?」

『ですから新装丁版の挿絵の交渉をお願いしたいと・・・・』

「だ・か・ら!何で作家の俺が交渉に行かなくちゃ成らないんだよッ!そっちの仕事だろッ?」

『我々編集では取り合って貰えなくて・・とりあえず直接、菅沼先生が行けば何とか成りますよ』

「簡単に『何とか成る』とか言うなッッッ!!!!!」

『それではお願いします!旅費は経費の方で落とせますので領収書はキチンとお願いしますよ。』

「おい!ちょっと待て切るなッ!柳原切るなッ!アッ・・・・・・」

プープープー・・・・・・

「・・・・な・・・・何なんだぁ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


『・・・・・・・・・アレ?・・・俺・・・今・・・何してたんだろ?誰かに・・・・・
 何か・・・・・気の所為かなぁ・・・・?』


銀色の永遠 〜太陽とヴィーナス@〜

>菅沼編

「・・・はぁ〜・・・」
駅を降りて俺は思わず溜息を漏らす。
見慣れた町だった。
俺は此処を知っている、去年末の話だ・・・・。
此処に・・・・引き寄せられた俺は『フジモトミキ』とか言うガキの話に乗って一芝居打ったのが
懐かしく感じられる・・・。

あれから3ヶ月か・・・・
あの後、俺は俺自身のスタンド能力と不死の力が『何故か』無くなって居た事に気付いた。
望んでいた事とは言え急に無くなったのは不可解だったしアイツ等・・・・
『犬供』を感じ取る事が出来なくなっていた・・・・
・・・アイツ等も俺を感じ取れないから姿を見せないのか?

兎に角ここには置き忘れちまったモノがあるらしい・・・
そしてまた俺がこの町に引き寄せられたって事は・・・また何かに巻き込まれるって事か?

そんな事を考えながら俺はツバの広いカウボーイハットを被り直した。
派手なので被る時には勇気が入ったが被り慣れれば何て事はない、非常に気に入っている。

「とりあえず、キジベとか言うヤツの家に行くのは後回しにして・・・・一息入れるか?」

俺は近くにあったオープンカフェに足を急いだ。
コーヒーを頼みついでに軽食も頼んだ。
そう言えば前に来た時はこんなに穏やかな気分で食事ッつーのは無かったな・・・・

「改めて見ると・・・この町はスガスガしくて・・・良い町だったんだな・・・」

ぼんやりと町並みを眺めているとウエイターがコーヒーとトーストを持ってきた。
熱いコーヒーは身体を心地よく温めてくれたしカリカリに焼かれたトーストには溶けたバターが
しっとりと溶け込みとても美味しかった。
良く焼いてから固まったバターを塗りつけるっつーのは好きじゃなっかったので俺は嬉しくなって
デザートを追加してその場で全ての料金を支払った。

「さてと・・・これでのんびりと考え事も出来るってものだな・・・」
そんな事を呟きながらトーストを口に運び、『次回作』の構想に思いを馳せる・・・・
編集サイドからは「直ぐにでも取り掛かってくれ」とは言われているものの中々面白いアイデア
が生まれてこないのが現状だ・・・・まぁ『前回』みたいにとんでもない事に係ればネタにも
困らないだろうになぁ・・・・まぁ巻き込まれたら巻き込まれたですげぇメーワクな話だけどな!
    と取り留めの無い事が頭を巡る。

「ネタが涌かないンじゃどうしようも無いよなぁ・・・・。    ・・・・・!
 そうだな・・・・折角、杜王町に来てるんだったら『フジモト』に遭ってみるのもいいか!
 あの時の交換条件が生きてるのならネタ出しには協力するはずだ!どうせあのワルガキは
 またとんでもない事をしてるのに違い無いだろうし・・・・」

そうと決めた俺は追加のデザートを頬張ってオープンカフェを後にした。

ブドウガ丘とか言う高校に向かって足を進める商店街をブラつく・・・・
もう交渉とかはどうでもいいや。
そもそも断られてるのをどうにか!
とか頼み込んだ所で向こうは無理矢理渡された仕事に良い結果は出さないだろう。
俺もそんな仕事を自分の本に載せては貰いたくないしな・・・編集には適当に言っておくか。

「ティゥリトゥリトゥリラー ティゥリトゥリトゥリラー
トゥラーリー ティゥリトゥリトゥリラー ティゥリトゥリトゥリラー
アー ティゥリトゥリトゥリラー ティゥリトゥリトゥリラー
トゥラーリー ティゥリトゥリトゥリラートゥーレリラー」

心が軽くなった俺は足取りも軽やかに路地を歩く。

暫く進むと酷く目に付く・・・・気になる物に出会った。
最初は何かの仕出しかと思ったのだが軽バンの側面には『遠見塚農場』と書いてあったので
作った作物を直接届けているのだと言う事が理解出来た。
これ自体は珍しい事でもないのだが気になるのは痩せた背の高い男が積みすぎだろうと思う位
の量の荷物を抱えて運ぼうとしているのだ。
仕事に熱心なのは解るが限度が有る。
俺は妙に心配になって脚を止めたままその場所を動けなかった。

案の定、バランスを崩した。
見ていられなかった俺は空かさず駆け寄り落ちそうになった荷物を支える。
「おい・・・大丈夫か?」
とっさに声を掛けた、これがいけなかった。
男は丁寧にコッチを向いて返事をしてきたのだ!
荷物は再びバランスを崩し俺の顔面に直撃した。
鈍い音が響き鼻骨に激しい痛みが走る・・・俺は手で患部を押さえ意識を集中させる。

痛みは次第にやわらぎ出血も止まった。
「ヤレヤレ・・・だぜ」
俺は自嘲的な気分に成って来た・・・前だったらこの程度は痛みを感じる間も無い位の早さで元に
戻ったものだが・・・クリスマスを境にスタンド能力と同時にその能力を失った。
今では集中すれば何とか直る位の能力に成ってしまった・・・・・まぁ便利ちゃあ便利だが
生き返る程の力はもう残ってないのだろう・・・・疎んだはずの能力も失ってしまえば情けない
気持ちになって来るもの・・・だな。

「す・・・すみません。大丈夫ですか?」
俺の身長より高い位置から声がする・・・農場の男の声か・・・
怪我をする度に反芻する感情を噛み締めながら俺は顔を上げた。

顔を上げた俺の目に件の男の顔が映る。
蒼い目。妙に白い肌。彫りの深い顔立ち。黒い髪。
何だコイツは・・・・外人だったのか?

コレが『吸血紳士』ことジォルジュ・エネスコとの出会いだった・・・。



銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスA〜


「へぇ〜・・・じゃあ君はトマトの栽培が主な仕事なんだ?」

「ええ。ですが作物の配達も大切な仕事です!」

俺はこの奇妙な青年に興味が出たので農場の見学を頼んだ。
青年は嫌な顔もせずバンに乗せてくれた、お礼をしたいんだってさ。
ただ荷物を運ぶのを手伝っただけなのにな・・・・
こういうヤツを『紳士』っつーのか・・・・キザなようだがこういうのは嫌いじゃない。

暫く進むと「レジャーランド〜ひょっこりひようたん島〜」なる看板が目に付いた。

「なぁ?アレって・・・・・」
俺は青年に問うと意外すぎる答えが帰ってきた。
ガイドブックにも乗ってる施設と青年が働いてる農場の経営主が同じだそうだ!
何だか面白くなってきた!
そういう成功者ってのはどんな人物なのか?
成功の秘訣は何なのか?
そう言う『生な』情報は今後の制作にきっといい刺激になるだろう!

レジャーランドを少し離れた所に幾つかのコンテナが設置されていた。
ここが『遠見塚農場』のようだ。

俺は停車した車から降りると青年に経営主と話しが出来ないか、頼もうとした。

・・・・・が・・・・そういえば名前も聞いてなかったな・・・・

「そういえば名前。聞いて無かったよな?俺は菅沼、菅沼英秋!宜しく!」
俺は手を差し出すと青年は嬉しそうに握手をしてきた。
「私はエネスコ。ジォルジュ・エネスコと言います。こちらこそ、菅沼さん!」

「?・・・・JoJu?ジョジュ・エネスコ?」

「・・・・・ジォルジュ・エネスコですよ・・・菅沼さん・・・」

「い・・いや、済まない・・・エネスコさん。で、ちょっと話が有るんだけど・・・」
と話を切り出そうとした瞬間、野太い声が響き渡った!
「エネスコぉ!今、帰ぇりだか?帰ぇって直ぐで悪ぃがって・・・・・・・おめぇさん誰だぁ?」
俺は『その人物』に面食らってしまった。
『経営者』とかいうから頭デッカチでソロバン弾いてるだけかと思ったら・・・何なんだ?
格好こそ黒のスラックスに同色のベスト、真っ白いシャツに赤いアスコットタイ・・・・
洒落た風貌だが・・・・この威厳とういか誇りに満ちた目は・・・まるで俺が良く知っている
『闘士』のような迫力・・・・これは・・・面白い!

「始めまして!え〜、自分は菅沼英秋と申します!物書きを生業にしていまして・・・
 先ほど知り合ったエネスコさんにここの見学をお願いたんです!」
俺は遠見塚氏との間合いを一気に詰める、こういう時は勢いが肝要なのだ!
「ほぉ?物書きっちゅーのは雑誌の人だか?新聞の人だか?まぁ良く見てったらいいべよ。」
遠見塚氏は俺に笑いかけてそう言った。これは取材いけるな?

「それでですね。唐突で申し訳ないのですが農場とレジャーランドの経営をしている遠見塚さん
 のお話も少しお聞きしたいのですが・・・・宜しいですか?」
遠見塚氏は眉を顰めて考え出した・・・・・強引すぎたか?
「う〜ん・・・『企業秘密』で喋れん所も有るだで・・・それで良かったらいいべ。」

ベネ!取材に取り付けた!  俺は心の中で小さくガッツポーズを取った!


それからは衝撃的な半生を聞かされた・・・こんな広い農場とレジャーランドの経営主が少し前
まで借金苦でホームレス生活を強いられてたとは・・・人生は解らないものである!
挫けそうに成ったときに励まされた『恩人』てのにも興味が涌いたがコレは詳しくは聞かせて貰え
なかった・・・・惜しいなぁ・・・その人物にも遭ってみたかったのに・・・・。

「それではですね・・・・レジャーランドの構想が何故、生まれたのか?そこの所を教えてもらえ
 ますか?レイアウトとか制作期間とか・・・・あ・・・『企業秘密』になっちゃいます?」

「そうだでな・・・・・おめぇさんが熱心だから特別に話してやんべ。」

「!」

「アレはな。おら自身なんだべ!」

「・・・・・・・・は?!」

「何てな!おめぇさんがあんまり真剣だから要らん事まで話ちまっただなぁ・・・後は楓にでも
 案内して貰ってくれや!」
そう言って遠見塚氏は俺の肩を叩いて農場の裏手に行ってしまった・・・・。

遠見塚氏の最後の言葉・・・・・引っ掛かるなぁ・・・・

俺はふと・・・・去年のクリスマスの出来事を思い出した。
この町に多く存在する能力者達を・・・・。

「まさか・・・・あの施設そのものが・・・・『スタンド』とか言うんじゃないだろうなぁ?」
で・・・・・遠見塚氏はスタンド使いってか?
・・・・・・スケールがでか過ぎる話だな?おい?
大体『スタンド』が見えるのは『スタンド使い』だけだろ?

跳びすぎた発想が俺を現実に戻す・・・・さて次は『楓』とか言う人のも話を聞くかなぁ。

「エネスコさん。楓という人は?」

「マサさんの息子さんです。逢って話をしますか?」
俺はエネスコに連れられて『楓』氏に逢った。
父親である遠見塚氏に良く似た風貌の人物で人の良さが滲み出ている好人物だ。
ガイドの話や見回り時のバカ話など面白おかしく話してくれた。
すっかり打ち解けた感を覚えた俺は愚にもつかない質問をした。
「最近、何か困った事は有る?」

「最近ねぇ・・・?あるよ」

「へ〜、何?」

「出るんだよ!」

「出る?」

「そう夜、見回りしてる時にな。男と女の幽霊が・・・・」



銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスB〜

>デットマンズ W編

にぎやかな遊技場。

人は笑顔を紡ぎ和やかな空気が場所を埋める。

その中に似合わない黒い影が二つ。

華やかな場所に不似合いな喪服のような漆黒な服装、明らかに奇妙だ・・・・・。

だがもっと奇妙なのはそんな目に付く二人を皆、気が付かない事だった。

「まったく・・・なんでこんなに人が多い所に潜伏するんだか・・・・」
黒衣の青年は人混みの中、他人に触れないように丁寧に避けながら移動する・・・。

「多い所だからココを選んでるんですよ・・・・東俣野さん」
黒衣の少女は更に続ける。
「これだけ人が多ければ私達が『彼』を見つけるのも困難になるのを見越してだろうし
 オマケにここの施設そのものがスタンドで形成されてるから私の能力では何処にいるのか
 全く解らない。更に・・・これは憶測ですけどコレだけ人の関心を誘う場所だったら『彼』
 の目的を果たすのに好都合だからとも考えられますね・・・・・。」

少女の意見を感心したように東俣野が相槌を打つ。
「なぁるほど・・・・確かにこれだけ人が居ればわざわざ危険を冒して出向く必要もなく誰にも
 触れられ無に場所を探して身の安全を確保しながら『目的』を果たせる訳だ・・・
 待ってるだけでいいんだから・・・・・さすがだね、舞波ちゃんは・・・・。」

舞波と呼ばれた少女は東俣野の方を見ず足を進めながら話を続けた。
「東俣野さんも薄々感ずいてるようだと思いますが・・・誰かが『彼』に知恵を着けた様ですね
 ・・・・・・・恐らくは・・・・・」
東俣野は舞波の言葉にある人物を思い浮かべた・・・・そう・・・『彼』のように強い怨念を
抱いた人物を・・・・。

「あぁ・・・・多分、『彼女』だろうね・・・・。」


自ら人に触れる事は問題ないが触れられるれば痛手を負う二人は時間を掛け人混みを抜けた。

「ふぅ・・・・・やっと着いたね?」
東俣野は安堵の声を上げる、ここまで来るのにすっかり精神を磨り減らしてしまったのだ・・・。
「『彼』がここに逃げ込んで3日目・・・・ここが最後ですね。」
舞波は毅然とした瞳で火山型のアトラクションを見つめる。

火山の中をくり貫いた建物を歩く、人気のアトラクションだ・・・・。
確かに所々には柵はしてあり立ち入れない場所が有る。
幽霊である『彼等』には都合の良い潜伏場所なのだ・・・。

「どうしますか?東俣野さん?」
舞波は東俣野の顔を見上げて問うた。
「・・・・・どうするって?」
東俣野は舞波に聞き返した。

「・・・・・・・彼が・・『岩出山さん』が話し合いに応じなかった場合ですよ!」
舞波は呆れたように肩を竦めて再び問いかけた。
「その場合は・・・・・しょうがないンじゃないの?」
東俣野は歯切れ悪く答えた。
「覚悟は出来てるんですね?頼りにしてもいいんですね?」
「いいーんです!」
東俣野はお道化て返事をした。
その緊張感の無さに舞波は深く溜息を吐いた。

ソレを見ると東俣野は軽く満足して火山へ足を進めた。
傍から見れば東俣野の行為は空気を読まない行為だが彼の中には渦巻くモノがあった。

『復讐』

生前、殺害されて死ぬ事に成れば誰でも考える事だろう。
僕自身も『後藤真希』という人物の身勝手な意見で惨殺されたのだ。
彼の・・・・・岩出山の気持ちは解らないでもない。
だからこそ!僕が彼の復讐を止めなくてはならないのだ。
死者には死者の『道』があるはず、『道』を外れるならそれを正すのも死者でしかない!

怨みや憎しみ。
こんなドロドロした感情の渦に舞波ちゃんのような子は巻き込みたくは無かった。
そんな物を彼女に触れさせたくは無かった。
軽蔑されようが重い空気を換えるためなら軽口も叩こう!
どんな思いだろうが変えてやろうじゃないか!

僕は手品師<マジシャン>なのだから・・・・・。


火山の中は薄暗く、そこ彼処に走るマグマのような赤い光源が暗闇を灯す。
その中を歩くだけで野生の息吹というか原初の鼓動が聞こえるようなそんな場所だった・・・・。

「おぉ〜お。人が一杯いるよ・・・・こんないい雰囲気の所だったら生きてるうちに来たかった
 なぁ・・・・・舞波ちゃんもそう思わない?」

「・・・・真面目にやってください・・・・」

僕等は立ち入り禁止の柵の中を歩いていた。
狭い館内でいちいち人を避けて歩くのは困難だからだ。
横にはマグマの赤い河が流れる・・・・この施設そのものがここの経営者のスタンドらしい。
解っていてもそのパワー、規模には脱帽する。
そのお陰で『彼等』の場所も全く特定できないのだけれど・・・・。

「やっぱり入り口の付近に居る訳は無いよねぇ・・・・やっぱり一番上かな?」

「でしょうね。・・・それも人目に付き辛いような場所だと思います。」

影に隠れてブッスリてかい?蜘蛛じゃないんだからなぁ・・・骨が折れるよ。

10分も歩くと頂上部に到着した、左右を見回すが・・・居ないなぁ・・。

「お〜い。岩出山君、出て来いよ!迎えに来たぜ!」
僕は取り合えず暗がりに声を掛けてみた、素直に出て来るとは思ってはいないが。

モゾッ!

「!!」
暗がりの影が波打つ!
・・・・・意外と早く出てくるか?僕は注意深く闇の動向を窺った。

モゾッモゾゾッ

「な・・何しに来たんですか?・・・あ・・・あなた・・には・・関係ないじゃないですか・・」
暗がりに鋭い眼光が浮かぶ。
「まぁまぁ同じ殺されたモノ同士、カンケー無いとかは言いっこなしだろ?」
僕は暗がり近づく。

「東俣野さん!」

「!」

暗がりから一閃!何かが射出されて来たッ。
「カマータイムッッ!!」
  パチィイン!!!

トトトッ!

射出された釘は『ラッキーストライク』の能力で小さくして持っていた『マンホールの幽霊』に
突き刺さり事なきを得たが・・・・・・・一筋縄では行きそうに無いなぁ。

さてはてどうしたものか?そう思いながら僕は手の中の<タネ>を軽く玩んだ。



「まぁまぁ落ち着けよ、岩出山君!」
僕は間合いを詰めずにその場で彼を説得しようとした・・・と言うか出方を窺った。

「・・・・・・・・」

暗がりから動きは無い、僕は話を続けた。
「君は誑かされているだけなんだよ、どうせ『あの子』に一緒に怨みを晴らそうとか言われたんだ
 ろう?馬鹿な考えだぜ!死人には死人のルールが有るんだ!現世に干渉するべきじゃないぜ!」

 プッ

  プフッッ

      ププッ


   「アハハハハハハハハハ     ウヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
     ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

笑い声が狭い頂上部に反響する。

「話し合いは無理みたいですね・・・・・・・」
傍らに居る舞波ちゃんが冷静に言い放つ。
「・・・・・・みたいだねぇ・・・」
闘わずに済ませたかったが・・・・・・・都合道理進まないのは生きていても死んでいても同じだ・・
・・・・・僕は軽く奥歯を噛み締め足を前に進めた。

「ハハハハハ・・・良いのかい?センパイ?自分から間合いを詰めて?エェ?」
岩出山の声が暗がりに響く。
「大丈夫だよ・・・・当たらないから・・・」
僕は岩出山に返事をした・・・・こんな状態でもまだ説得出来るとか考えているのは甘いのかな?
「はぁ?大した余裕じゃないですか!センパイ?・・・・・じゃあさ!
  喰らって串刺しになれよォォォオオオオォオオ!!!!!!!!!!!」

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

漆黒の空気が切り裂かれ無数の針が僕に向かって射出される!

「ジャミングウエーブッ!エクストリィイームッ!!!」

 グゥキュウウウウウウウユウウウウウウウウュン!!!!!

目前に波動の渦が起こり針は色を無くす!
舞波ちゃんのスタンド『パッションE−CHAE−CHA δ』のジャミング波だ・・・。
「東俣野さん!今です!」
舞波ちゃんの声が響く。僕にはそれがとても・・・・とても冷徹に聞こえた・・・が・・・・
彼等を止めるのにはコレしかないのだ!むざむざ殺人を犯させる訳には行かない!!

僕はいつかの様に覚悟を決めてタネを岩出山の頭上に投げつけた!
    パチィイィンン!!!!
その物体は黒い影を作り岩出山の居る暗がり全体を覆った!

「カマータイム!『ロードローラーの幽霊』だッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」





銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスC〜

>ライナーノーツ編

ピリリリ・・・・・・・・

「おっ・・・何々・・・『ここで騒ぎを起こせ』か・・・・良く解らないケド・・・始めますか」



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「おぉ!凄いですねぇ?外装よりも随分広い!」
菅沼は興奮気味にレジャーアイランド〜ひょっこりひょうたん島〜の中を見回す。
「そうだろう?まぁ俺も詳しくは知らないんだが・・・・オヤジが全部作ったんだ。」
はしゃぐ菅沼に楓がぼそりと本当の事を話す、とはいってもこの施設を独りで作ったという事を
話しても誰一人信じる者は居なかったのだが・・・・・
「ここは・・・・まるでマサさんの才覚そのもののような・・・そんな気がしますよ・・・」
エネスコも何時もの働き先をしみじみと見回した。

「うわぁ〜!本物みたいな迫力だ!こりゃ人気も出るわけだ!」
すっかり童心に返った菅沼は巨大な樹木に向かって走り出した!
「おい!作家さんよ!そんなに急いだら危ねぇよッ!」
楓の忠告は僅かに遅れた!

「オワッ!」

「え?」

年甲斐もなくハシャいだ菅沼は足が縺れその場で体勢を崩し派手に転ぶ!
哀れにも近くにいた少年が巻き込まれる・・・・・・・・・。

グシヤァアアアァ!!!!!!

「い・・・・痛てて・・・・・ごめんよ少年!大丈夫か?」
菅沼は巻き込んでしまった少年に直ぐに詫びる。
「・・・大丈夫です・・・・それよりもバックが・・・」
倒れた拍子に少年のバックの中身がぶち捲かれてしまったのだ・・・・。

「済まない・・直ぐに拾うよ。」
そう言って菅沼は慌てて『中身』を拾う。
テッシュやハンカチ・・・・?何だ?人形?『ソフトビニールの人形』?
見た感じ小学校高学年位なのに少し幼すぎはしないか?
菅沼の頭に疑問符が浮かぶ・・・・・。

「それ・・・知ってるんですか?」
少年が菅沼に語りかける。
「いや・・・・解らないなぁ?流行ってるのかい?」
菅沼は人形を少年に手渡す。
「これ、おばぁちゃんが買ってくれたんです!『ローカルヒーロー』って知ってますか?
 この人形がおばぁちゃんの地方の『ヒーロー』なんです!だから僕にとって物凄く大切な物なん
 です。皆にはいつまでもガキみたいだってバカにされちゃうけど・・・・。」
大切に人形を握る少年の肩を菅沼が軽く叩いた。
「大切なモノってのは他人の理解なんて必要ないよ!ソレ・・・ずっと大切にしろよ!」

「ハイ!そうします!」
菅沼の言葉に少年はハッキリとした声で答えた。
「おぉ・・・いい返事じゃねーか!いいね!気に入ったよ!お詫びがてら何か奢ってやるよ!」




「へ〜・・・随分面白い所が出来たネ〜」

「去年ぐらいに出来たらしいよワタシもココは今日が始めてなんだけどね・・・」

「相変わらずヒキコモっちゃってるの?身体に良くないヨ。」

「大盛りで安い定食屋には行ってる!」

「・・・・・・・・・・・。」



「楓さんどこか食べる所は?」
菅沼は楓に問うた。
「あるよ。この道をもう少し真っ直ぐいけば。俺はまだちょっと点検に行く所が有るから・・・
 そうだなぁ・・・エネスコ、ちょっと案内してやってくれよ。」
楓は腕時計で時間を見て思い出したように言った。
「えぇ、良いですよ。楓さんはまた来ますか?」
「おう、また戻るよ。じゃあな作家さん!」
楓がその場を離れようとした、その瞬間だった!

周囲がざわつく

細波のその中心には前髪だけを金色に染め抜きティアドロップのサングラスを掛けた派手な女性と
やたらと派手な色と形の髪型の女性だった・・・・。

「な・・・・・・なんで・・・ここに?」
菅沼の声が上ずる。
「?。菅沼さん?どうしたんですか?」
突然、小刻みに震えだした菅沼の奇妙さに思わずエネスコは声を掛けた。
「どうしたもこうしたも無い!なんで『半蔵門ひとみ』がココにいるんだッッッーーー!!!」
菅沼は指をさし絶叫する。
「・・・・はぁ私は流行には疎いので・・・・楓さんは知ってますか?」
エネスコの問いに楓は首を傾げた。
「安倍ナナとか後藤あゆみとかなら学校で話たりするけど・・・・」
と言った少年の頭を菅沼は鷲掴みにして呟き出した。
「だ・・・・大丈夫だ・・・俺も一応著名人なハズ!大丈夫だ・・声掛けるくらい・・・」
そう言って顔を上げた菅沼の目に久々に見た奇妙な人影が映る。
「え?何・・・・・半蔵門さんの隣の女から出てるのは・・・・『スタンド』!!!!」











「アレ?なんだったっけ?何か・・・・があったような?」
菅沼は実に奇妙な感覚に包まれたが・・・
「え〜と・・・そうだ点検だ!じゃあな作家さん!」
楓の言葉で食事に行く事を思い出した。
「あ・・そうか!そうだった!エネスコさん、少年、行こうか。」













「・・・・・・別にファンサービスがキライな訳じゃないんだけど・・・・」

「ひとみんの気持ちは解るけどね・・・・場所が場所だし・・・それより。」

「それより?」

「私のスタンドが見えていたみたいなヤツが居たんだけど・・・・」

「そうなのッ?・・・・・・でもこの町だったら不思議でもないよね。」



銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスD〜


「この先に食事が出来る所があります、時間的には混雑する時間でないのでゆっくり出来ますよ」
エネスコの配慮に菅沼は感動を覚えていた。
「ありがとうエネスコさん。あんたみたいな人を『紳士』っていうんだろうな。」
「紳士?」
傍らの少年が聞きなれない言葉を聞き返した。
「あぁ・・・そうか・・・最近『紳士』とか『ジェントルマン』とかは使われないからなぁ・・
 解りやすく言えば・・・・『義に生きる人間』ってとこか?」
「そ・・・・そう言うものなのでしょうか?」
菅沼の誤訳にエネスコは首を捻って苦笑した。
「えぇ?本当はどういう意味なの?」
困惑した少年の言葉が笑いを誘った。

        !

菅沼の足が止まった・・・・・・・
「・・・・?どうしました?菅沼さん?」
突然、顔が曇り始めた菅沼にエネスコが問うた。
「気のせいかもしれないがな。そこの壁際から妙な気配を感じてる。」

ゴゴゴゴ ゴゴゴ ゴゴ ゴゴゴ

「作家さん、何言ってるの?早く行こうよ!」
均衡を破る様に少年が菅沼の腕を引き駆け出そうとした。

スッ・・・・

壁際から赤い人影が現れた・・・・

その良く知った造形に少年の目は釘付けになる。

「エ・・・・エネスコさん!ココはアトラクションショーをやるのかいッ!?」
菅沼は突然現れた目の前の人物に恐怖に似た感情を覚える。
「いえッ!そんな予定は有りませんッッ!」
職場の情報なら漏らさず知るはずのエネスコにも緊張が走る!
「じゃあコイツはッッ・・・・・?!」

その『ヒーロー』は白いマントをはためかせ叫んだ!

『焼肉大好きッッッ!!!!アカギレェェッドォッッッッ!!!!!!!!!!』


「な・・・・・何だってェェエェッッッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


ドドドドドドドド  ドドドドドドドドドド ドドドドドド


「ア・・・・アカギレッド!」
少年は目の前に現れた『ヒーロー』に引き寄せられる。
「少年!ダメだ!これはおかしい・・・妙すぎる!!」
菅沼の声は少年には届かず『ヒーロー』に歩みよる・・・・。

     ボクゥゥゥウッッ!!!
「ぎゃッ!」
突然放たれた『ヒーロー』の拳は少年の顔面を捉え少年はその場に倒れた!


「少年ッッ!!!!」
菅沼は直ぐさに倒れた少年を抱かかえる。
「うぅ・・・・」
少年は鼻から血を流しグッタリとしてしまっている・・・。

突然の流血劇に周囲が潮騒の様に騒ぎ出してきた。

菅沼は身体を震わせながら言葉を紡いだ・・・・。
「貴様の叩いたのは少年の体じゃない・・・・心だ・・・解るか?
 コイツは祖母に貰った思い出を馬鹿にされようが大事に・・大事にしていたんだ・・・
 それを・・貴様は叩き潰した!それが・・・それがどんな事か解るかァァッッッ!!」
憤りが弾丸の様な速度で打ち出された足刀蹴りに変わる!
   
菅沼の怒りは『ヒーロー』の鳩尾を穿つく!
「な?何だ」
会心の一撃の蹴り・・・・だがその感触に菅沼は違和感を覚える。
 
菅沼の足が『ヒーロー』の身体に『のめり込んで』いるのだ・・・・・。
   
   「テァアアアアアッ!!!!!」
『ヒーロー』の拳が菅沼の顔面を捉える!
「グッ!」
菅沼は後方に仰け反りその勢いで足が抜け倒れ込む。
「・・・・クソ・・・が・・・」
地面に倒れた菅沼は目の前に立ち塞がる『ヒーロー』を睨みつける。

  ボコン!
窪んだ鳩尾は誇らしそうに音を立てて復元した。
「ウラムーンの手下め!!成敗してくれる!!!」
『ヒーロー』はそう叫ぶと派手に構えを取る!

『ソフトビニールの人形』の様な身体を持つ『ローカルヒーロー』・・・この異常な敵を前にして
菅沼の頭に浮かぶキーワードが有った・・・・人智を超えた能力者達の総称を・・・・。




「エヒッ!エヒッッ!!」

住宅街に情けない鳴き声が響く。
「も〜!うるさいよ!エイプリル!」
少女の声に反応したように鳴き声は静まりかえる。
「やっと静かになったもん!」
ソファーに身体を預け読みかけの雑誌に視線を戻す。
・・・・・・・
・・・・
・・

外の妙な静けさを奇妙さを感じ取った少女は堪らず外に飛び出した。
庭には首輪とロープのみが残されていた・・・。
「あばばッ。やっぱり!〜〜〜〜〜〜〜〜ッッまた逃げたッッ!!」
少女の声は昼の光の白さに溶けた。




「『スタンド使い』の仕業・・・・か」
菅沼は拳を強く握る。
「菅沼さん!今、何と?」
「おい!エネスコ!作家さん!どういう事だよ!コレは!!」
エネスコの問いかけは騒ぎを駆けつけた楓が叫び声に掻き消される。
「どーもこーもねーよ楓さん!コイツが襲い掛かってきたんだよ!」
菅沼が楓の方を向いて簡潔に状況説明をした。
「コイツ?コイツ等じゃなくて?」
「はぁ?」
菅沼は楓の言葉に前を向く。
「増えてる・・・・」

『義理人情に厚き正義の戦士ッッ!!!アカギレェェェェッド!!!!!』

『閃光輝く稲妻のパワーの力の戦士ッッ!!!ハルナブルーゥゥゥッッ!!!』

『かかあ天下の度胸と優しい心を持つ愛の戦士ッッ!!!ミョウギイエローォォォ!!!!』

『赤』、『青』、『黄』の色を持つ『ヒーロー』は威風堂々とその存在をアピールした!


「〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!」
菅沼はビキビキと眉毛を痙攣させる。
「だからコイツ等はなんなんだって?アトラクションなんて頼んでないだろ?」
楓はエネスコに駆け寄り説明を求める!
「見たとおりです!彼等にココを占拠されようとしています!」
エネスコは楓の問いに冷静に答えた。
「ッッ?!じ・・・じゃあどうすンだぁ?」
余りに客観的なエネスコの言葉に楓は動揺する!
「お客さんの避難を!それと、この事態をマサさんに伝えてください!」
「お・・・親父に?」
「マサさんなら・・この事態を打開出来ます!」
エネスコの力強い言葉に楓は従い従業員を使い客の避難を促すと父親である遠見塚正宗の元に急い
だ・・・・・。

「頼みますよ・・・楓さん!」
楓の後ろ姿を見送ったエネスコは渦に目を向ける。

戦闘の潮流は菅沼と三人の『ヒーロー』に覆いかかっていた!

「タァァァアアッ!」
菅沼は打ち出される拳を事も無くかわすがその瞬間を外の二人に攻撃される!
「ぐぉ・・・・。」
よろけながらも間合いを詰める。

ト・・・

ハルナブルーの胸元に拳が置かれた。

弾ける様に菅沼の身体に捻れが奔り菅沼の『虎の子』が発動する!
      
         ゴボンッ

鈍い音を立てて蒼き戦士の身体がシンバルのように振動する・・・・・・・が。
・・・・打撃を受け凹んだ箇所はゆっくりともとに戻り始めた。

「・・・・・コレも効か無いのかよ・・・・」

愕然とした菅沼の横っ顔に打撃が加えられ菅沼は派手にフッ飛んだ!
「大丈夫ですか?菅沼さん!」
倒れた菅沼にエネスコが駆け寄りその身体を起こした。
「俺は大丈夫だ・・・それより少年は?」
「心配ありません!従業員が安全な場所に避難させました!アタナも早く!」
「いや・・・・アンタこそ早く避難しな!ここは俺が何とかする!」
エネスコの手を払うと菅沼はゆっくりと立ち上がった。
「な・・・何を言ってるんですか!ここは私達に任せて避難しなさい!」
菅沼を非難するようにエネスコは強い口調で言い放った!

「そうも行かない!俺がココを離れたらアイツ等を誰が食い止める?」
「私が彼等を止めて見せます!だからあなたは早く・・・・」
菅沼はその言葉を鼻で笑う。
「はぁ?アンタはフツーの人間だろう?何が出来る?あぁ?」
「?な・・・何を・・言ってるのですか?」
「見ろ・・・・」
そう言った菅沼の顔の傷が見る見る中に修復していく。
「あ・・・あなたは?」
その一瞬にエネスコは言葉を詰まらせる。
「俺はフツーじゃぁねぇ・・化物なんだ・・『アンデット』なんだよ・・・・」
そう言って菅沼はエネスコの肩を突き放した。
「だから大丈夫だ・・・・遠見塚さんが来るまで持ち応えて見せるさ・・・」
「フフ・・・・」
 
  !?

突然笑い始めたエネスコを見遣る。
その蒼い瞳は白く、白目は真紅に彩られていた。
「・・特別なのは貴方だけでは無い・・・・私は吸血鬼なんですよ・・・『元』ですが・・。」
エネスコはこの騒ぎで倒され散乱している椅子やテーブルの残骸の中から白いテーブルクロスを拾
い上げるとソレをマントの様に羽織った。

「エ・・・エネスコ・・・・・」
白い外套を身に纏った吸血鬼をマジマジと見つめる。
「余所見しているヒマはありません!」
エネスコは菅沼を一喝する。
「!?」
鈍い音が響き菅沼の体が宙に浮く!
2m程吹っ飛ぶとその身体は強かに地面に叩きつけられる!
「うげぇ・・・・なんだ?蹴られたのか?」
立ち上がった菅沼の目には銀と赤、銀と青の人型が映った。

『湧き出す一滴の水のように清き心を持つ精粋の戦士 上州源龍ッッ!!』

『噴きあがる豊富な温泉のように熱き心を持つ情熱の戦士 上州源仙ッッ!!!』

二人の戦士は力強く己の存在をアピールする。

『ブルー!イエロー!源龍ッ!源仙ッ!』

『オウッ!!!!』

『自然豊かなグレート群馬を護るッ!!我等!裁きのからっ風ッツ!!!!

        超 速 戦 士ッッッ!!!!!!
       
    G-FIVE(ジィィイィ!ファァアァイブッッッ!!!!!!!!!!!!!)』

    ジャキィイイイイイイイイイイィイイインッッッ!!!!!!!!!!

「『ヒーロー』が揃いも揃ってよォ〜!」
テンガロンハットを被り直しながら菅沼は鼻息を荒げた!
「差し詰め私達は悪役という訳ですか?」
エネスコは口端を軽く上げ冗談めいた言葉を放つ。
「はッ!面白い事言うなぁ?不死鬼と吸血鬼じゃ十分過ぎる悪役だぜ!?」

『ヒーロー』達は菅沼とエネスコ達を囲む様に陣を組み始める・・・。

「それでは悪役は悪役らしく・・・・行きましょうかッ!!」
「あぁ行くぜッ!ジォルジュッッ!!!!!!!!!!」


「只今設備不良が起きました。誠に申し訳有りませんが御来場のお客様は係員の指示に従って
 一時避難をしてください」
スピーカーからの避難勧告に人の流れが変わる。
「何?何かあったのかなぁ?」
突然の事に普段は他人事に興味を持たない雅恵が興味深そうに詮索し始めた。
「・・・・成程ね・・・こーゆー事・・・・」
「・・・・?何、ひとみん?それって何か知ってるって素振りじゃない?」
避難の真相を知っている様に納得しているひとみに雅恵が興味深そうに問う。
「さっきマサの『スタンド』が見えてるってヤツの話聞いてね・・もしかしたらって思ってたら
 ・・・・『お前がこの町に来れば只では済まない』・・・・か・・・
 あの蛇野郎が私を追っ払う為に脅しただけと思っていたんだけどね〜・・・」
「なぬ!? ヘビヤロウ?」
友人の口から出た聞きなれない言葉に雅恵は怪訝な表情をする。
「コッチのハナシ。マサはむらっちゃんとあゆみと合流しておいてよ。」
「ひとみんは?」
「ワタシ?ワタシはヤボ用!それじゃあね!」
そう言い残すと斉藤瞳は金色の髪の毛を揺らしながら喧騒の渦に歩きだした。



銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスE〜

「テリャァアッッ!!!!」
正義の拳が舞い怒声が木魂する。
アカギレッドの拳は不死鬼の顔面を射抜かんと弾き飛ぶ!
「ラウラァッ!!!」
菅沼はその腕を両腕で挟み込むように受け止める。
直ぐさに右手で拳を左手で肘関節を押さえながら身体を反転させた!
振り回すように勢いを付けお互いの位置を入れ替える・・・・。
位置が入れ替わった瞬間、『仲間』を助けんとして打ち出されたハルナブルーとミョウギイエロー
の攻撃が入れ替わったアカギレッドに叩き込まれた!
「ッとよォ!」
そのまま蹴りを入れながらその反動で間合いを遠のかせる。
「へッ!どうだ?『仲間』の攻撃ってのはさぞかし痛かろうよ!?」
菅沼はブルース・リーよろしく親指で鼻の頭を軽く弾きながら言い放つ。

ゆっくりと菅沼の方を向くアカギレッドのその顔には攻撃を受けた後がクレーターの様に凹んでい
る・・・・・・。

バゴォ

鈍い音と立てその場所は隆起し簡単に復元してしまった・・・・・。

「・・・・・マジかよ・・・・」
同じスタンドで操られた同士の攻撃なら効果はあるか?との思惑が外れた菅沼のコメカミに冷たい
汗が流れる・・・・。
「ヤベェなぁ・・・・・コレ・・・」

バァァッ!!!!

菅沼のボヤキを掻き消すように布が勢い良く風を切る音が鳴り響く!
エネスコの身体を軸に舞い広がる白は上州源龍と上州源仙の攻撃を打ち引く波の様にその力を消し
去っていた!
「防戦ばかりではいけませんね!ではッッ!」
     白が捻る!
霧を攻撃しているように、手応えの感じられて居なかった上州源龍の腕が白い布に捻り込まれる様
にのめり込んでいく!
「!!」
上州源龍が危機を感じた瞬間その身体は捻り込まれた地点を軸に勢い良く宙に舞う!

  ギュンッ!

エネスコは力の流れを更に加速させ上州源龍を脳天から地面に突き刺す!
「よくも!上州源龍をッ!!!」
怒号と同時に上州源仙が踊りかかる!
エネスコはその拳を軽い体重移動のみでかわすとその腕を掴んだ。
「FuUUUUUU!!!!!!!!!!!」
戦闘が始まる前に施した自己催眠により得ている常人の数倍の握力でその腕の肘関節を握り潰す!

ぐちゅッ・・・。

軽い音を立てて上州源仙の腕は絞った様な形になったがダメージを感じている様ではない!
「人間相手では無いとは言え・・・・・コレは困りましたね・・・」
エネスコはゴクリと唾を飲み込んだ・・・。





「にょほ?」
避難の人波から妙な嬌声が聞こえる。
「どうした?真里?」
背の高い男が誰が見ても釣り合いが取れていない程、背の低い『彼女』に声を掛ける。
「ううん、なんでもないよシュン君!」
シュンと呼ばれた男はその言葉を聞いて安心したように続けた。
「しかしなんだな、折角の休みに来て見ればこんな事に巻き込まれるなんてなぁ・・・」
シュンは肩を竦めて申し訳無さそうに空に視線を移した。
「まぁ、たまにはこんな事もあるよ!気にしないで!帰りにまたパチンコでも行こうよ!」
真里は気を落とした恋人を気遣う様に言った。


・・・・・・・それにしても騒ぎを起こしてるのが不可侵を言い張っていたライナーノーツの所属
の奴でクリスマス公演の時に部を襲った菅沼英秋と高橋藤本小川亀井が接触したエネスコ・ジォル
ジュがなーんで一緒に闘ってるのか・・・・山の方でもワケわかんない感じが有るし、だいぶ前に
退学した斉藤瞳が何故か戦闘地帯に向かってるし繋がりのある柴田村田に大谷が接触しようとして
て・・・・・・なんだ?この馬鹿騒ぎっぷりは?・・・・・・・・・・

矢口真里は自らのスタンド『ブン・ブン・サテライツ』での監視を続けながら人波に消えた。



「打撃も効かない上、関節を極めるのも意味が無い・・・・・どうやったら・・・・」
菅沼は独り言を呟きながら『ヒーロー』の連撃を受け流す!
彼等の攻撃には法則の様なものが存在し間合いに関係なく常に赤、青、黄色の順番で攻撃をしてく
るのだ・・・。
もっともそんな事が解っても攻撃の手は休まる事を知らないし、こちらの攻撃はまるで効かない!
エネスコの方も防戦を強いられている様だ・・・・・。
赤の攻撃を捌きながら青の攻撃の出鼻にカウンターを合わし、黄色を牽制する!
『一対多』は慣れっこだったがこうも続くと流石に疲労が見えてくる。
「こんな事だったらもっと真面目に修行すべきだったぜ・・・・先生・・・・」
菅沼は頭の中で高校の時に手解きを受けていた師の事を思い浮かべていた。
「よく叱られたっけなぁ『先の事ばかり見ようとして事の在り様を理解しようとしていない』って
 なぁ・・・・『事の在り様』か・・・・・」

「在り様・・・?・・・・!!!!」

「・・・・そうだ・・・俺は人形と闘っているんだった!」
菅沼の目に光が宿る!
「そこだッ!!!」
動きの止まった悪役の身体に『ヒーロー』の存在意義が打ち出される。
「ハァッ!!!」
菅沼は右拳を左手の掌底で掬い上げる様に受け流す!
「・・・いくぜッ!アトラクヒーロー!」
そう叫ぶと素早くアカギレッドの右手を掴みながら右脇腹に左足で蹴りを入れた!
タンッ!
軽く押し出されるように出された蹴りを素早く戻し交差するタイミングで右足をアカギレッドの
右脇目掛けて蹴りだす!
地面から両足が完全に離れた菅沼の身体は重力に引かれアカギレッドの腕を引きながら自由落下する!
脳天か地面に触れた所で身体を猛烈に右回転させながら菅沼は叫んだ!
「オォッ!百舌抉りッ!」
            ギュォッ!
菅沼の身体は独楽の様に回転する、軸はアカギレッドの右脇だッ。

キュ・・・ポン。

伸びきった所で強烈に捻られた腕は根元から音を立てて抜け落ちた!


キュキュッ!

回転をそのままにブレイクダンスの様に身体を捻りながら菅沼は立ち上がる。
「ヘヘ・・・ビンゴだぜ!お前らの身体は弱点も人形そのままって事か!」
菅沼は手したアカギレッドを腕を軽く振り回す。
「アカギレッドの腕を返せッ!!」
仲間を傷つけられ逆上したハルナブルーの拳が唸る!

「はッ!!イタダキだぜッ!王魚燐ッ!」
菅沼はアカギレッドの右腕を地面に落とすと円を書く動きでハルナブルーの右腕を払いそのまま
後方に引っ張り重心を崩す!
「オマケだぜッ!」
そう言いながら重心が崩れ前のめりになったハルナブルーの右肩に踵落としの要領で左足全体を乗せそのまま体重を掛けながらハルナブルーの腕を上方へ引っ張り上げる!

キュポッ!!

軽い音を立ててハルナブルーの右腕が抜け落ちる!
「大漁、大漁!今日二本目の右腕だなぁ・・・・」
菅沼は青色の腕を見ながら少し満足そうな表情でそう言うとエネスコに向かって叫んだ!
「おい!ジォルジュッ!コイツ等の弱点は両肩とベルトラインに有る接合部分だッ!蟹の関節を
 外す要領でやれば簡単に抜けるぜッ!  ・・・・ってこの表現・・解るか?」

「大丈夫ですよ・・・・解りましたッ!」
菅沼の言葉を聞いたエネスコは笑みを浮かべながら向かって来た上州源仙の頭部を一握りにした。
「ueeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeッ!!!!」
上州源仙の頭部を握りつぶしたまま下腹部に強烈な前蹴りが炸裂する!

 ポンッ!!!!!

高い音を立てて上州源仙の上半身と下半身が分離し蹴り飛ばされた下半身は勢い良く飛んで行った!
「こう言う事ですね?英秋?」

「ベネッ!ディ・モールト!」


銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスF〜

「ふぅ・・・・こんなもんか?」
菅沼はバラバラに分解した『ヒーロー』のパーツを腕、胴体、脚部に分けてにテーブルクロスで
包んだ。
パーツは抵抗はするが這い回るのが関の山で分けてしまえば身動き一つ取れなかった・・・。
「遠見塚さんが来る前に何とか一段落着いたな?ジォルジュ?」
菅沼は気の抜けた表情でエネスコの方を見る。
「英秋さん。あなたに聞きたい事があります!」
エネスコは対照的に厳しい目を菅沼に向けた。

「おい?なんだよ?どうかしたのか?」

「あたなは『スタンド使い』なのですか?」

「な・・・・・?」
その目の真剣さに菅沼は怖気づいた。
「戦闘が始まる前、「『スタンド使い』の仕業・・・・か」と言いましたね?」
「何でお前が・・・・いやお前もなのか?」
菅沼はゴクリと唾を飲み込みながら答えた。
「私は違います、スタンド使いでは有りません・・・あなたはスタンド使いなのですね?」
問いかけに菅沼は返答に困りながら言葉を紡いだ。
「いや・・・それは答え辛いんだ・・元スタンド使いというか・・ある日能力が無くなった・・」
「無くなった?・・・・ではスタンド使いでは・・」
と言いかけたエネスコの視線が突然外れる。
不審に思った菅沼は直ぐさに視線の先を追う!
「な・・・・・何だァーーーーーーーーーーッ!!!」
『ヒーロー』の身体を包んでいたテーブルクロスが妙な光を発しながら宙に浮いているのだ!

光は強くなり爆発するようにテーブルクロスを破壊するとバラバラのパーツはそれぞれの色の光を
放ちながら磁石の様に部位同士が接合した!
「チッ・・・・また振り出しに戻る。かぁ?」
再生したヒーローを菅沼は苦々しく睨みつける。
「やはり『スタンド』は『スタンド』でしか倒せない様ですね。マサさんさえ来ればカタが着くの
 ですが・・・・」
エネスコの言葉に菅沼は眉を顰めた。
「その物言いさっきも言っていたが・・・まさか、いやそうなのか?遠見塚さんも? ぐえッ!」
「英秋さん!」
エネスコに話しかけていた僅かな時間を見逃さずに『ヒーロー』は己の使命を全うせんと菅沼を殴
りつける!
油断していた所に直撃をくらった菅沼は勢い良く後方に吹き飛ばされた!

トンッ!

吹っ飛ばされた菅沼の身体を何者かが受け止めた。
「大丈夫?」
どこかで聞いた事が有る声、そんな奇妙な感覚が菅沼を支配する。
・・・この声、何処かで・・・どこだ?
菅沼は顔を上げ声の主を見る・・・・・・。

・・・・・・・何で?何で『半蔵門ひとみ』?何でここに?この場所?

CD、著作は勿論、同じ写真集を三冊も持っているほど熱烈に応援している偶像が目の前に居る。
菅沼は緊張のあと混乱、思考回路が全く働かない状態に陥ったッ!!!!

「あ・・・・あの・・・ファンです・・・」
混乱仕切った菅沼は気の利いた事も言えず行き成り握手を求めた。
「あらッ!?もぉ〜・・・こちらこそ応援お願いしますね!」
半蔵門ひとみは笑顔で握手に応じた。
「それと、もう一つ有難うございますね!」
「え?」
偶像の言葉が理解できず菅沼は呆けた顔をした。
「あいつ等と戦う理由が出来たから!ワタシのファンを傷付けるなんてのはちょ〜と許せる事じゃ
 ないからね!」
半蔵門ひとみは菅沼を地面に置くと『ヒーロー』達に足を進める・・・。
「だめだ・・・半蔵門さん・・・行っちゃ駄目だ・・・」
菅沼の声を掻き消すように叫び声が響いた。

「アネステック・エロスッッ!!!!」

その声と供に半蔵門ひとみの身体は金色の光を発する。
「は・・・半蔵門さん・・・・その身体は・・・・?」
菅沼の指差すその先には、シャンパンゴールドに輝く甲冑を身に付けた半蔵門ひとみが居た!


     ギュィィイイ!

瞳の両肩の車輪が威嚇するように高速で回転する!
「え・・・・ぁ・・・・・・・・?」
『両肩に車輪が付いた西洋甲冑の様な・・・昆虫の外骨格の様な姿』、初めて見る『身に纏う形態のスタンド』に菅沼は絶句した・・・。

「さぁ〜て!単刀直入に行くけど、あんたらが『ライナーノーツ』の手のものなのかしら?」
瞳は人差し指をフラフラと泳がせながら問うた。
「貴様こそウラムーンの手のものだなッ!!美しいグレート群馬を汚させる訳にはいかないッ!」
『ヒーロー』達は瞳を囲む様に足を運ぶ!
「ったく!質問を質問で返すんじゃ無いヨッ!!!」
金色の甲冑、『アネステック・エロス』の車輪が瞳の感情に合わす様に高速回転をする!

「「「「「トァアァアッ!!!!!!」」」」」

『アカギレッド』『ハルナブルー』『ミョウギイエロー』『上州源龍』『上州源仙』、五人のヒーローが一斉に踊りかかる!

「イェェン!」
瞳の声に合わせ車輪が射出された!

ッッ・・・

一瞬、世界の動きその物がスローになったような錯覚が走る!
否、その程、猛烈なスピードで『アネステック・エロスの車輪』は『ヒーロー』達を一瞬で薙ぎ払った!

  ギュォォォオオオォオン!!!!
音が遅れてくる錯覚を起こしながら車輪は両肩に収まる。
「ン・・セェクシィ!」
瞳はその反動に身を捩らせた。

「半蔵門さん・・・あなたもスタンド使いだったのか?」
ようやく話が出来る程落ち着きが戻った巣が菅沼が呟く!
瞳はその言葉を聞き漏らさず菅沼に歩みよる。
「マサの言ってたのがあなたなのかしらねェ?もしかしたらもしかするかもしれないから聞くけど
 あなた『ライナーノーツ』の手のもの?」
菅沼は突然の偶像の質問に呆気を取られながら質問を質問で返した・・・。
「・・・・ライナー・・・ノーツ?」
その呆気た顔に答えを見出した瞳は安堵の表情をした。
「ファンの方が敵じゃなくて良かった・・・・・   ッ!!!!!!!!!」
表情は直ぐさに戦闘状態に切り替わる!
『アネステック・エロスの車輪』で表層を派手に削られた『ヒーロー』達はヨロヨロと立ち上がり
今また戦いに火蓋を切らんとしてるのだ!
「『車輪』喰らっても立ち上がるたぁ〜・・大したタフさだね・・・・だったらッッ!!!」
瞳は地面にしゃがむ様に座る!
「チェンジ!ビーグルモードッ!」
その声に合わせ『アネステック・エロス』はキャストパズルの様に複雑に動き一つの形に変わる!
「へ・・・変形するスタンドだと・・・・?」
目の前の現象に菅沼は口を開けて戦慄くだけだった。
半蔵門ひとみ・・・いや斉藤瞳の身体は二つの車輪と金色のカウルで囲まれた『バイク』に成っていた!


無人のバイクは爆音を放ち激しくホイルスピンし始めた。
もうもうと煙を立たせながらゆっくりゆっくりと地面を舐める様に車輪は空転する・・・。

キュュユユッ!

スリップ音がグリップ音に変わったその瞬間、金色の弾丸が地面を爆ぜた!

「H・H・Aッッッ!!!!!!!!!!!」

超速の弾丸が『ヒーロー』達を次々と轢き飛ばす!
縦と言わず横と言わず、蹂躙の車輪が惨劇を作り出した・・・・。
ピクリとも言わなくなったのを確認すると『アネステック・エロス』は螺旋状にローリング走行を
し円周が最小に成った所で飛び上がる様なアクションをし『人型』に戻った。
「フフ〜ン。これだけ入念に轢いて置けばさすがに・・・・。」
瞳の言葉を遮るように『ヒーロー』達はゆっくりと立ち上がり始める・・・・
「な・・・・・ここまで丈夫だと非常識じゃないのッ!?」

プァン・・・・・・・

瞳の苛立ちは『有り得ないクラクション音』に掻き消される!

       プァン・・・・
「何・・何で・・・?」
 
             プァン・・・・・・
「何でこんな所を『トラック』が走ってるのッッッ!!!!!???????」


銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスG〜


「う〜ん・・・・ここにエイプリルが居る感覚があるんだけど・・・・」
感覚を頼りに菅谷梨沙子は「レージャーアイランド ひょっこりひょうたん島」の前に来ていた。
彼女の飼い犬「エイプリル」は今年の元旦に彼女の家の前でブラブラしていた野良犬だ・・・
以前、飼われていたのか?雑種だからか?とにかく人懐っこい犬を彼女は非常に気に入り飼い始めた。
しかし飼って見るとお手やお座り、お預けが全く出来ないあふぉ犬だった・・・その馬鹿っぷりか
ら「エイプリルフール」を取って「エイプリル」と名づけたのだ。
頭が悪い意外大して問題の無い様な犬では有ったが時々、蒸発した様に『消える』てしまう・・・
その度に梨沙子の第六感とも言うべきチカラで探している。
何時もなら近場の筈だが今回は妙に遠くまで来ているようだ。
「も〜!エイプリルの奴ッ!許さないンだから!」
息を巻いて入場しようとすると直ぐさに係員に止められた。
「すみません・・・今、ちょっと機材のトラブルが有りまして入場を制限しているんです・・
 本当に申し訳ありません・・・・。」
見れば入場口は立ち入り禁止の柵が置かれていた。
「ウチで飼っている犬がココに逃げちゃったんです・・・入れてくださいーッ!」
梨沙子は腕を振り回しながら強引に入ろうとしたが係員に二人ががりでつまみ出されてしまった。

「・・・・・もう・・・ケチ!」
ほっぺたを膨らませながらむくれた梨沙子は入場口を離れ、園の柵沿いを歩き始めた。
暫く歩いた所で辺りを見回す。
「入れてくれなきゃ勝手に入っちゃうんだもーん!」
スリスリと柵を撫で始めた・・・・
「あばば!ファイアフライズ・スターッ!」
梨沙子は自らのスタンドを発現させるッ!
「ドロドロになっちゃえッ!めるでってぃん・ぱるむ・ふぇのめのんッ!!!」
ファイアフライズ・スターの触れた箇所は夏場のアイスクリームの様に瞬時に溶け出したッ!!

「っと。こんなのモノかなッ?」
自分が通る幅を溶解すると『首尾よく入場』する。

「ん〜・・・ 何だろ?みんな帰ろうとしてる・・・・何でだろ・・・?」
梨沙子は不思議そうに周りを見回す。
「あッ!  あのヒト!ふじもとさんと一緒に居るヒトだ・・・・何てヒトだったっけ?
 え・・・と・・え・・と・・まつ・・松・・・ナントカ・・・」



瞳の目に映る黒塗りのトラック!
ほぼ無音のまま凄いスピードで迫ってくる!

「く・・・コイツもライナーノーツ・・?」
その迫力に瞳は唾を飲み込む・・・・。
「半蔵門さん?あんたさっきから『ライナーノーツ』って・・・」
聞き慣れない単語に菅沼は口を挟んだ!
「あのトラック・・・何故かコチラを狙っているようですな・・・英秋!早く退避しましょう!」
エネスコは菅沼の手を引き退避を促す。
「あ・・あぁ。そうだな・・・半蔵門さんも早く!あんたの能力が幾ら強くても危険だ!」
『トラック』の奇妙な迫力に何かを感じ取った菅沼は瞳を気遣ってそう言った。
「ありがとうございます・・・でもね。そんなチンタラ走ってたら追いつかれちゃうよ!」
そう言うと『アネステック・エロス』は再び動き出した!
「チェンジ!ビーグルモード!」
斉藤瞳の身体は直ぐさにバイク形態に変化し大地を蹴る!
「なッ?」
感嘆符が出るより早く『アネステック・エロス』の車体から生え出てきた斉藤瞳の腕が菅沼とエネスコの身体を掴みスピードの世界へ誘う!
「うぉぉおおぉ!ちょっと!半蔵門さん?」
突然、高速の世界に引きずり込まれた菅沼は叫び声を上げた。
「男の子が叫ばない!後ろの方、どうなっているか見て貰える?」
スピードメーターの辺りから聞こえる瞳の声に促され菅沼は状況確認をした。

依然、高速でコチラに向かってる『トラック』それに追いかけられる様にしてコチラに向かっている『ヒーロー』達・・・6対3か・・・・こりゃあ・・・・厳しいな・・・

「厳しい状況」という事を瞳に告げようとスピードメーターの方に目を遣ると、とんでもないモノ
が目に飛び込む!
「半蔵門さんッ!!前!前!!!!」
目前に人が居るのだ!
菅沼の声は届かぬ様にスピードは加速し始めた・・・・。


S K Y S C R A P E R

PDAに素早くその単語を打ち込む。

『SKYSCRAPER』

PDAはそのキーワードを理解し赤く光だした!

『cord:SKYSCRAPER』

コード認識と共にEnterkeyを押す。

『standing by・・・』

「戦う事が罪なら…私が背負ってやる!…変身ッ!!」

金属音を立てPDAは腹部のベルトにはめ込まれた!!

『complete』


「だから!半蔵門さん!前に人がッ!!!」
菅沼がそう叫んだ瞬間ッ!強烈な赤い光が視界を奪った!
「何が起きたんだ?・・・・人はどうなった?」
周りも見回した菅沼の目に『淫らな赤』が映る。
スピードメーターの上に立つ赤い光を発するその姿・・・・。
「何なんだ・・・お前は・・・・?」


「柴生ゆる豊穣な 田園を護り正道を 歩む者・・・・ミュン」

その答えに菅沼とエネスコは呆気に取られた・・・・・。
「こんな日本語を私は聞いた事が無いのですが・・・彼女は何がい言いたいのですか?」
「・・・・・・・解らない・・・」
エネスコの問いかけに菅沼は答える事が出来なかった・・・・。

「ミュン!・・・この英雄的行為<ヒロイック>な登場が理解出来ないなんて・・・貴方達はそれでも日本人ですかッ!?特撮は日本の文化なんですよッ!!」
柴田あゆみは二人の文化感を叱り付ける様に言った!
「そう言われましても・・・私はルーマニア出身なもので・・・・」
「ミュン!」
エネスコの言葉にあゆみは叩かれた様なリアクションを取る!
「じゃあ、あなた!そのズバットみたいな帽子を被った貴方はどうなんですか?!」
「いや・・・これはカウボーイスタイルが格好いいかなと思っただけで・・・・それに俺・・
 ヒーローものはあまり見てなかったし・・・」
「ミューン!」
菅沼の言葉にショックを受けたあゆみは頭を激しく振ってうな垂れた・・・。
「もう駄目ミュン・・・平成版仮面ライダーTVシリーズ復活は無いミュン・・・あったとしても三文小説
 以下の脚本で玩具販売の売り上げだけでしか評価されないミュン・・・」


「ちょっと!あゆみ!人の上で何、ふざけてるのッ!?今は戦闘中!あんたは何しに来たの!」
足元のスピードメーターから発せられた瞳の怒声があゆみを戦闘状態に引き戻す!

「あぁ・・・そうだった!まーしーに言われて『手伝い』に来たんだった!」
あゆみは突然何かが繋がったように身体を起こすと後方を目視する。
「追いかけてくる『トラック』と『ヒーロー五体』・・・・・これが『件の敵』な訳?」
「いや・・・どっちが『ライナーノーツ』だかは解らない・・「どっちも」かも知れない!
 どのみち、アイツの事を知る私が此処に居るのはアイツには不都合なわけ・・・・」
「『警告』を無視した代償がこの騒ぎ・・・・『ライナーノーツ』って立派な悪の組織ミュン!」
  柴田あゆみは右拳を強く固める。
「・・・・そうなれば『ヒーローの仕事』は一つミュン!」
そう言うや否や、その身を高速の世界に躍らせた!


「・・・ッッ!先走らなないでよッ!あゆみッ!!!」
カタパルトから射出された様に敵に突っ込んで行ったあゆみに向かって瞳はホイルを滑らせ方向転換する!
「ぐげぇ!」
「クゥッ!!」
「え?」
突然加わった急激な遠心力に菅沼とエネスコは苦悶の声を上げた。
その声を聞き瞳は急停止し、今度は激しく前方に投げ出された!
「ハッ!」
「どぁッ!」
エネスコは華麗にその身を舞わせ何事も無く着地したが菅沼は派手に地面に落下した・・・・。
「あっちゃ〜・・・・・・ゴメンね、二人共・・・変なタイミングで止まっちゃったから・・・・
 埋め合わせは後でするから早く避難しといてネ!」
瞳はスピードメーター越しに謝罪すると爆音を響かせその場を去ってしまった・・・。
「・・・・・カミカゼのような女性ですね・・・・・」
「ったく・・・・・イカしてるよ・・・・半蔵門さんは・・・」
『スタンド使い』では無い二人は金色の弾丸を只々、見送るだけだった・・・。



カチッ
「g」
カチッ
「変換登録:グランインパクト」
カチッ
「Enter」

「Ready」

弾丸の様な勢いで空中を高速移動しながらあゆみは腹部のPDAを器用し操作する!
その『操作』に合わせる様に身体中の『赤い光』が右拳に集約し途轍もない輝きを放つ!

「Exceed charge」

その拳は弾けんばかりの鼓動を宿した!

距離:3m。あゆみは『対象』であるアカギレッドに向けてその拳を振り上げたッ。

    :グランインパクト

「ウェェェェェェエィイッ!!!」

溢れんばかりの光の奔流がその身体を穿つく!
「く・・・グレート群馬・・・は俺・・・ガ・・・・・・」
光の球体に飲まれるようにアカギレッドは消滅した・・・。


ズザザザザザザ・・・・・・・・・・・・・

敵を見事爆散させたあゆみはとんぼを切りながら『ヒーロー』らしい着地をした!
「ミュンッ!」
チャクッ!
あゆみは手首が何か収まりが悪いかの様にスナップを効かせた。

振り返ったあゆみの目前には残りの『ヒーロー』とトラックが迫るッ!
「まだるっこしい・・・・・一気に行くミュンッ!」

カチッ
「a」
カチッ
「登録変換:アクセルフォーム」
カチッ
「Enter」

「Complete」


あゆみの身体を覆う『スカイスクレイパー・M.D.R』は赤から白銀に変化を遂げる。
迸るスタンドエネルギーの全てをその身体に蓄積し通常の1000倍の稼動速度を可能とする『加速の形態:アクセルフォーム』へのシフトだった。

『Start Up』

加速された世界であゆみは標的に向かって走り出した!
高速移動で起こる残像現象はまるで分身したかのように数を増やす。

『3』

カチッ
「c」
カチッ
「登録変換:クリムゾンスマッシュ」
カチッ
「Enter」

「Ready」

『2』

腹部のPDAから赤い迸りが右足に奔る!
「Exceed charge」
高速移動で五つの残像を生み出しているあゆみは各々の標的に向かって流星の如き勢いで飛び掛る!

『1』

 :クリムゾンスマッシュ

「ウエェエエエエェイッ!!!」
赤き流星と化したあゆみの身体はG-FIVE達を次々に光の奔流へと飲み込ませた・・・・

「ミュン!?」

ドギャヤャャヤャャヤ!!!!!!!!
激しい衝突音・・・否、抵抗音が響く!
『ヒーロー』達は消失したが『件のトラック』は無傷・・・寧ろクリムゾンスマッシュを押し返す勢いで地面を蹴り続ける!
「コ・・・・コイツッ!クリムゾンスマッシュを・・・押し返してくるなんて!!!」

『Time Out・・・・・Reformation』

『スカイスクレイパー・M.D.R』は白銀から赤に戻り加速した世界は元に戻る・・。

「うあッ!!!!!」」」」」」
途端にあゆみの身体はトラックに押し負けその身を宙に舞わせる!
「あゆみッッッ!!!!」
金色の叫び声が聞こえた!
「トォッ!」
あゆみは伸身側宙をしながら『ソコ』へ目掛け身体を躍らせた。
身体は空をうねり弧を描きながら落下した!

・・・・ト!

あゆみの勘は見事に当たり走行中の『アネステック・エロス』にバランスを崩す事無くスッポリと着席した!


「ナイス位置!ひとみんッ!」
そう言うが速いか!あゆみは『アネステック・エロス』のアクセルを捻る!
「ちょッ!!!あゆみッ!勝手に操作しないでよッ!!!!」
斉藤瞳は柴田あゆみを乗せたままトラックに急接近する。
「かぁ〜・・・。あゆみの『キック』も効かない相手にど〜するつもりだぁ〜あッ!?」
スピードメーターから流れる瞳の声にあゆみはしばし思案する・・・・。
「ミュン・・・ミュン・・・ミュンッ!!!!!」
あゆみはピーンと閃いたようなリアクションを取ると不敵に口元を緩めた!
「久々にだからさ・・・・『アレ』で行かない?」
「『アレ』ェ!?・・・・・好きねぇ・・・・アンタも・・・・・」

瞳の声を聞くや否やあゆみはPDAに手を伸ばす!

カチッ
「f」
カチッ
「変換登録:ファイナルベント」
カチッ
「Enter」

「Ready」

ボウッ!!

赤い光の奔流が流れるように広がりあゆみ達の周囲を覆う!

「Exceed charge」

大輪の赤い花の様な二人は

                   光の粒子を散らしながら

                                    加速する!





        ファイナルベント:ライダーブレイク




「ウェェェエエエェエェィィィィイイィイィッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスH〜

ギュリリリリリリリリリリリィィィイッッ!!!

激しいホイルスピンが砂塵を撒き散らす!

後輪を滑らして斉藤瞳の『アネスティックエロス』は停車した・・・。
「ミュンッッ!!」

チャカッッ!

柴田あゆみは不機嫌そうに手首を下に振り下ろし、スナップを効かせながら呟いた。
「逃げた・・・のか・・・・」
苦虫を噛む潰す様な表情をしながらゆっくりと降車する・・・・
あゆみの必殺の突撃にトラックは激突せんとした瞬間、霧散した様に消えてしまったのだ。

「よっこいしょッ!」
斉藤瞳は『アネスティックエロス』の形状を人型に戻し腰のストレッチを始めた。
「ねぇ?あのトラック・・・・やっぱり『ライナーノーツ』とか言うヤツラなの?」
あゆみの問いかけに瞳はストレッチをしながら答える。
「さぁね!知らねーケド、アイツには『仲間を増やす能力』があるからね・・・・・
 アタシん時みたいに自分の都合にあった奴に能力を与えてんじゃねーの?」
その言葉にあゆみは深く溜息を吐く。
「また・・・・闘いが始まるの?」
「・・・あゆみだけにはやらせないよ!アタシ自身のケジメでもある訳だしね・・・」
瞳はそう言うと踵をかえした。
「行こうか。むらっちゃんやマサの所に・・・この騒ぎの後始末しなきゃね!」
「ミュン!・・・・そうだね!急ごう!」



「おぉ〜お!随分と派手に光ってるなぁ・・・オイ。」
菅沼は目を凝らしながら戦闘区域を眺めていた。
「・・・これで終わりですか?」
「いや・・・まだだよ・・・・」
エネスコの問いに菅沼は素っ気無く答えた。
「終わりでない?英秋、それはどういう事ですか?」
エネスコに正対しながら菅沼は答える。
「まだ『黒幕』を倒していない!この騒ぎの『黒幕』をな!」
菅沼は鋭い目付きでエネスコを見た。
「『黒幕』・・・ですか?」
その目の鋭さにエネスコはゴクリと唾を飲み込んだ・・・・。
「作家さん!外人さん!!」
二人を呼ぶ声が聞こえた。
「おぉ!君!怪我の方はもう大丈夫ですか?」
エネスコは恭しく駆けて来た少年を迎えた!
「災難でしたね・・・でももう心配する事は無いのですよ・・・そうですよね、英秋?」
菅沼の方に顔を向けた瞬間、エネスコの視界に何かが走った!

パァン!

破裂音が響く!
エネスコは目前の状況を疑う。
菅沼が鋭い張り手で少年を打ち据えたのだ!
「な・・・・何をするんですかッ!アナタはッッッ!!!!」
崩れ落ちそうになった少年の身体を抱き抱えるとエネスコは菅沼を怒鳴りつける!

菅沼は悪びれる様子も無く鋭い視線を少年に向けていた。
「俺は戦闘中、ずっと考えていた・・・・何故、少年の持っていた人形が等身大になって暴れたのか?・・・を」
エネスコはその言葉を直ぐさに否定した!
「それだけで彼を疑うのですか!?彼もまた被害者ではないのですか!?」
「そう・・・そして何故、少年が殴られなければならなかったのか・・・もな・・・」
菅沼は続けた。
「そんな事を考えていたら少年との出会いを思い出していた・・・。
 俺の不注意で少年に当たってバックの中身を撒き散らしてしまった・・・・だが考えてくれ!
 普通にぶつかった位でバックの中身が飛び散るか?」
「何が・・・言いたいのですか?」
エネスコは菅沼の発言の意図が読めなかった。
「だから、コイツはバックから『何かを取り出そうとしてた』んじゃねーのかって事だよッ!」
「そんな!!!!?」
エネスコの身体が硬直する・・・・・否定したい事だった・・・まさか・・まさかこんな子供が・・と。

「チッ・・・・・なぁ〜んだ・・・・バレてら・・・・作家さん、アンタ鋭いネ?」
少年はエネスコの手を突き放すと菅沼の方に歩みだした。
「へ・・・・ガキ!お前、中々役者だなぁ・・・えぇ?」
菅沼は『黒幕』に凄まじい勢いで戦意を滾らせる!
「ふふん。そんなチンケな威嚇でこの神木隆之介がビビると思ってンの?」
滾る戦意を神木隆之介は笑顔で事も無さそうに受け流した。
「大した余裕だなぁ?オイ?・・・・お前のスタンドのネタは何と無く解ってるんだぜ?」
菅沼は拳を前に出し牽制する。
「ネタ?そんな事、解ったって無駄さ・・・・・。」
神木はポケットに手を突っ込みながら笑みを浮かべる。
「キキ・・・・」
神木の肩から白っぽい小猿の様な動物が顔を出す・・・穴だらけの鉄仮面を装着した生き物とは言い難い奇妙な物体だった。
「それがお前のスタンドかい?随分と小さくて闘え無さそうだなぁ?」
「『タタカイ』は大きい小さいじゃないよ・・・・戦闘能力は「依代」が持って居ればいいのさ。」
その言葉の菅沼は覗き込むように姿勢を低くして恫喝した。
「だぁーから!もう『弾切れ』ってンじゃ無ーのかよッ!!アァッ!!!」
菅沼の恫喝を遮るように神木は早撃ちのガンマンのようなスピードでポケットからから手を抜き出す。
「!!?」
そのスピードに菅沼は一瞬、動きを硬くした!
神木の手にはカードの束がブリッチ状に溜めを作りながら曲げられている。
「別に「依代」は人形である必要はないのさ。必要なのは「設定」だけでね!」


ブゥゥゥァアアァァアアァアアァアアアアァアァアァアアァアッッッ!!!!!!!!!!

カードの束が勢い良く空に舞う!
「『AQUA』ッッ!!!!「カートゥーン・ヒーロー」ッッッ!!!!!!」
神木の号令に反応して『AQUA』の不気味な鉄仮面が激しい光を放ち、その光はカードに照射される!
カードは焼き菓子の様に膨れ上がりカードの設定道理の形になる。
「な・・・・・・何つう数だァァァ??」
あっという間に増えた神木の軍勢に菅沼は驚愕する・・・。
・・・・がその軍勢は菅沼を無視するように走りさった。
「・・・・?」
疑問に彩られた菅沼に神木が答えた。
「彼等にはあの『お姉さん達』の相手をしてもらうよ・・・作家さんには敬意を払って切り札を使ってやるよ・・・・・ホントに特別なんだよ?」

  メリッ
      メリッ
          メリッ

歩行する度にその爪はコンクリートを押しつぶす。
その巨躯が作る影に菅沼はスッポリと隠れてしまった・・・・・。
「・・・・・おい・・・・・冗談・・・だろ?」
「冗談なんかじゃないさ!全長20m、体重1tのカマキリ怪獣の『マンモス・マンティス』!
 ヒーロー人形と違って硬質ゴム製なんだ・・・。これって死角がないよね?」
神木は微笑みながら菅沼を見遣る。

「クェエェエェエェェェェエッッ!!!!!!」
巨大なカマキリが両腕の鎌を高々と振り上げ死の舞踏の儀式を始めた!
三日月の様な曲線の影が菅沼やエネスコの頭上を何度も横切る。
鎌が虚空に急停止した。


一瞬か

永遠にも感じる『間』が時の流れを塞き止める!

ピュッ、

小さい空気を切る音が聞こえたかと思うと落雷の如き速度で鎌が振り下ろされた!
鎌の切っ先は菅沼に向かって空気の壁を切り裂きながら伸びるッ。

「おぉ・・・・・・」
菅沼にはそれはスローモーションの様にゆっくりと見える。
がそれに反応を拒むように足が動かない!
「あの高さ、スピードでの攻撃!よ・・・避けなければ・・・鎌に切り裂かれて死ぬ!」
再生不可能の斬撃!
それが迫るが身体は『死』に魅せられた様に言う事を効かない!
身体を思いっきり振り切る。
纏わり着く空気の澱をズルリと抜ける様に身体が動いた。
横に動いた視線の先にはエネスコが見える!
何か口を動かしながら此方に駆け出している・・・・・。
「・・・・・自分の身だって危ないのに・・・俺を助けようってか?
 ジォルジョ・・・アンタは馬鹿だぜ!
 ・・・・だが・・・・うれしいぜッッ!!!」
そう呟くと菅沼は覚悟を決め鎌に向かってを拳を突き出した!
「俺は!俺の仲間の為にも!負ける訳にはいかないッッッ!!!!」
渾身の鉄拳を鎌に向かって繰り出す。鎌を叩き落そうとしているのだッッッッ!!!!!!!!!
「はぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッッ」
雄叫びが拳に宿る!





「ハヒィッッ!!!!」






「ぉぉお?」
拳が空を切り菅沼の身体は泳ぐように前のめりになった!
『鎌が消えた?』この奇妙な状況に左右を見回すとソレは真っ二つに斬り落され地面に突き刺さって
いた・・・・・。
その斬り口の滑らかな断面・・・まるで『超高水圧ジェット切断機』のようなソレは・・・・

「もしかして・・・か?   ヘへ・・・相変わらず来るのが遅せーんだよ・・・・
 『がんずき』ッッッ!!!!!!」




突然現れた水溜りが盛る上がるように集まり形を成し始める。
水は透明から白に変わり犬が出現した。

「犬の『スタンド使い』ッッ!?」
初めてみる『存在』に神木は唾を飲み込む・・・。
「『スタンド』を使えるのは人間だけじゃねーってコトだよ」
菅沼は諭すにやけながら諭すようにように語る。
ヘヘヘヘ・・・・と息を荒げながら菅沼の足元に犬が擦り寄る。
「コレで形勢は逆転だなぁ?小僧?」
菅沼はがんずきの頭を撫でながら眼光を鋭くする。

「な・・・何にさ・・・・そんな犬一匹で何が出来るのさ・・・・えぇッッッ!!!!!!!」
神木の咆哮に合わせる様に巨大なカマキリの斧が振り下ろされる!
振り下ろされた斬撃は菅沼ではなくエネスコに向かう!
「なッ!!!テメェッ!!何してるんじャッツ!!!!!」
「抵抗出来ないヤツを狙う!コレ基本だろ?!!!!!!!!」
『ハ・・・ハヒィ!!!と・・・遠すぎるッ!!!あ・・主!どうしたら???』
     
      ゲィンッッッ!!!!!!!!

鈍い衝突音が響き斧は弾かれた・・・。
「・・・・残念ですね。」
エネスコは左手の手の甲をさすりながら神木の方に視線を向ける。
「・・・・ウソだ・・・・有り得ない・・・なんで・・普通の人間がマンモスカマキリの一撃を・・
 手で・・弾き飛ばすなんて・・・・・」
視線に射抜かれたように神木の顔はみるみると蒼くなる・・・。
「世の中には貴方の見解を超えるものは多々あります・・・それだけですよ?」
エネスコは笑みを浮かべて答えた。それが神木をさらに追い詰める!
「ヒュ〜・・・流石はジォルジュ!やるねぇ・・・・」
擦り切れた口笛を吹き、一人で納得しながら菅沼は囃し立てた!

「う・・うるせぇ!・・この三文もの書きッ!!!まだ終わったわけじゃね・・・・ェ?」

地鳴りが響き地面が揺れ出す!
まるで煮え立つ様な揺れが空間を占拠し畏怖を与える・・・

「何だ?この地震??揺れ方が・・違くないか?」
菅沼はその揺れに度肝を抜かれた様に辺りを見回す!
「大丈夫ですよ・・・英秋。マサさんが到着したようです!」
「遠見塚さん?」
菅沼の上擦った声に合わせて爆音が空に響く!

空が夕焼けの様に赤く燃える!
その光源は赤く赤く燃え盛る火の山・・・・。
怒りの様な振るえが赤き山を支配している。


ドドドドドドドドドド ドドドド ドドドド ド ドド

「スタンドを倒せるのはスタンドだけ・・・・・・神木君・・・然るべき裁きを受ける時間ですよ」
エネスコは乱れた襟を正しながら神木に宣告する。
「裁きだと・・・・誰が僕を裁けるっていうのさ?この騒ぎを起こした証拠なんで何処に在るのさ?
 えぇ?僕は裁かれやしない・・誰も僕を止める事なんか出来やしない!出来やしない!!!!
 何故なら僕こそが僕自身が『英雄<ヒーロー>』そのものなんだッッッッッ!!!!!!!!」
神木の激情に合わせる様に巨大な蟷螂が狂ったように斧を振り乱す!
「・・・・バラバラにしてやるッッ!!!」
神木の言葉にエネスコはヤレヤレと言った具合に小さく溜息を吐く。
「マサさんの言葉をお借りすれば『詰んでいる』んですよ・・・」
エネスコはそう言い真っ直ぐに天を指差した。 
「ええッ!?!?!?!?」
巨大な・・・巨大な火山弾が高速で落下していているのだ。
我を忘れ目の前の菅沼やエネスコだけを見ていた神木には噴火現象なと目に入らなかったのだ・・。

ッドォォォオォオォォオォオォォオオォンンンンンン!!!!!!!

「ギャース!!!!」

火山弾の直撃を受けたマンモスマンティスはバンザイをしたポーズのまま横倒しになった。
マンモスマンティスの影が神木を覆う!
「な!?こ・・・・・・こっちに倒れるな・・・・か・・解除だ!AQUA!「カートゥーン・ヒーロー」を解除するんだ!!!!!!!」
神木の背中にへばり付いていた『AQUA』がひょっこり顔を覗かせ赤い光を放つ。
光を浴びた途端、塩をまかれたなめくじの様にカマキリは縮小し元のサイズに戻った・・・。
「ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・」
神木は汗だくになりながらその場に腰を抜かした。

・・・ザッ
「おぉ〜お。護ってくれる兵隊を『解除』しちまうなんてどうするつもりなんだ?お前?」
・・・・ザッ
『ハヒィ?』
・・・・・ザッ
「さあ・・・・御仕置きの時間ですよ・・・・もっともソレを行使するのは私達では有りません!」
エネスコは後方を指差す、神木は釣られるように後ろを見た。
ゆっくりとゆっくりと影が此方に近づいてくる・・・・その男の名は・・・


銀色の永遠 〜太陽とヴィーナスI〜




ドグゥゥォオオオォオォオォオオォオオォオォオンン!!!!!!

狭い空間に重低音が響く!
『ロードローラーの幽霊』の幽霊はその大きさを誇るように場を埋める。
「・・・・やりましたね、東俣野さん。」
舞波ちゃんの声を遮るように『ロードローラーの幽霊』に2,3回蹴りを入れる。
「この感覚・・・・逃げられたね。」
取り逃がしたのに彼を始末出来無かった事に少々の安堵を覚える。
・・・・何なんだ僕は?死者と現世人、どっちが大切なんだ?この抜き差しなら無い状態なのに・・
どこまで甘いのか・・・・正直凹んで来たよ・・・・・。

「何時までそうやってる心算なんですか?東俣野さん。早く追いましょう!」
「あぁ・・・そうだね。早く行こう!もしかしたらもう彼女と落ち合ってるかもしれない!」
僕は『ロードローラーの幽霊』を回収すると踵を返して走り出した。
彼女・・・・・渡引智美と岩出山篤好。この二人を引き合わすのは幾らなんでもマズイ・・・・

何故なら彼等の復讐の標的は同じ人物なのだから・・・。

その事を改めて考えると背筋に冷たいものが走る。
急がなくては・・・甘ったれたコト何か言っていられない!
僕は急ぐ気持ちを足に込める!・・・・・がどうだろう?先刻から妙な感じが足の裏に伝わって居る
のだ・・・・幽霊なのに・・・
「舞波ちゃん?」
「解ってます!地震にしては・・・・妙な振動ですね・・」

ドドドドドドドドドド ドドドド ドドドド ド ドド

異常な振動が狭いアトラクションを支配する!
幽霊だから落盤で死ぬ事は無いにしろ幽波紋はどうなんだろうか?
妙な危機感を覚えた僕は舞波ちゃんの手を引き走り出した!



遠くから威風を纏って近づく男・・・・
『レジャーアイランド ひょっこりひょうたん島』のオーナー遠見塚正宗、その人だ!

「楓に言われて来て見れば・・・・こんな小僧っ子が騒ぎを起こしてただか?」
普段からは想像出来ないほどの威圧感!
これが遠見塚正宗と言う人物の芯の部分という事を如実し知らしめた・・・。

「ひぃぃい・・・なんなんだ?このおっさん?聞いた話と別人・・・」
後ずさる神木に遠見塚正宗はゆっくりと歩み寄る。
「おめぇ自分が何したか、わかってんか?」
遠見塚正宗は狼狽しきった神木に続ける。
「おらんとこの信用問題とか売り上げがどーのとかそんなんじゃねんだ・・・・ここで騒ぎが起きて
 迷惑を被ったお客さんの大切な『楽しい時間や思い出』。小僧っ子・・・おめぇは踏み躙ったッ!
 それがどんな事だか解るか?」
遠見塚正宗の威圧は完全に神木を飲み込む。
「・・・・それが・・・それがどうだってのさッ!そんな吹き飛ぶ位の思い出なんて幾らでも書き換
 えられるんだッッ!!そんな茶番よりも僕が作り出す破壊劇の方が何倍も何倍も面白可笑しいに
 決まってる!決まってるんだッッッ!!!!!!!」
威圧を弾き飛ばさんと、神木は捲くし立て残る力を『AQUA』に込め光を再びカマキリの玩具に
照射する!
「『カートゥーン・ヒーロー』!!!そうだ僕だけの世界を作るんだ!すべてをブッ壊して僕だけ
 の世界をッッ!!!!」
「こりゃ話になんねぇな・・・・・・・」
「うるせぇ!クソジジィ!!!僕が!僕こそがッ!」
「口で言って解らんようなヤツはッッ!!鉄拳制裁だべッッッ!!!!!」

   ッゴンッッ!!

「うぎゃぴーッッ!!!」
遠見塚正宗の鉄拳を受けた神木は弾ける様に吹き飛んだ!
「全く近頃の小僧は・・・・一人遊びばっかり上手くなってんじゃしょうがないべ」
首元のアスコットタイを直しながら遠見塚正宗は軽く嘆息した。

「マサさん!私が居ながらこんな事になってしまったなんて・・・申し訳ありませんでした。」
遠見塚正宗に駆け寄ると開口一番でエネスコは頭を下げて謝罪した。
「エネスコ・・・顔を上げるべ・・・」
エネスコは遠見塚正宗に言われるように顔を上げる。

ベチィィイ!

エネスコの頬を遠見塚正宗の平手が強打した!
「さっさと避難しねぇでおらが来るまで食い止めようだなんて・・・おら達がどんだけ心配したか
 おめぇ・・解るか?おめぇはもうおら達の『家族』なんだ!あんま無茶すんじゃねぇ!」
遠見塚正宗は肩を震わせながらエネスコの顔を見つめる・・。
「マサさん・・・すみませんでした・・・そんな風に言って頂けるなんて・・・」
エネスコはグッと堪えるような表情で遠見塚正宗の顔を見た
「おぉ!なんかすげぇいい話だなぁ!俺、感動してきたよッ!」
『ハヒィ!』
綻んだ菅沼の顔にも痛烈な一撃が叩き付けられた!
「ぐぇえぇぇぇえ!」
『ハヒィ?』
「おめもだ!若ぇからって無茶しやがって・・心配したべよ!」






ズル・・・・
    ズル・・・・
       ズル・・・・・


「クソ・・・こんな・・・こんな筈じゃ・・こんな・・・ライナーノーツは・・何でこんな事・・」

神木は隙を突いて這う這うの体で逃げ出した。

スッ

神木の身体に不自然な影が掛かる

「はぁ〜い。ボクゥ?何処に行くのかなぁ?」
妙に色気の在る声が神木の身体に降りかかる。
「こんな事して覚悟は出来てるミュン?」
「ひとみん!コイツが『ライナーノーツ』ってやつらなの?」
「まぁまぁ時間はたっぷり有りますからにぇ・・じっくり『尋問』しましょ!」














「ぁぁあ・・・イテェ・・・これじゃ心配されてても嬉しいか解らんぜ。」
菅沼は赤くなった頬を涙目で撫でる。
『あ・・・主・・・大丈夫か・・?』
がんずきは久方ぶりの主人に甘える様に飛びつく。
「大丈夫だよ・・・・・お前の元気そうな姿が見れて本当に良かったぜ!」
菅沼はがんずきの頭をグリグリと撫で付ける。
「それより他のヤツ等はどうしてるんだ?一緒じゃないのか?」
頬の肉を撫でながら菅沼はがんずきに問う。
『そ・・・それが・・・』

「エイプリルッッッーーーーーーーーー!!!!!!」

がんずきの返答を甲高い声が遮る。
「えいぷりる?」
眉を顰めた菅沼にがんずきが答える。
『あ・・・新しい飼い主が付けたおでの名前だ・・・』
「飼い主ッ!?お前?飼い犬に戻ったの?」
その事実に菅沼は思わず立ち上がった!
立ち上がった瞬間に合わせる様にがんずきをエイプリルと呼んだ少女が駆けつけた!

「もぉ〜!探したんだぞ!エイプリル!」
少女はむくれた表情をしながらがんずきの首の肉を摘みあげる。
『ハヒィ!』
がんずきは『これは参った』と言うような表情を造った。
その光景が何だか微笑ましくなった菅沼は少女にがんずきを託す事が一番だ、そう思えた。
「すいませんー!ウチのエイプリルが何かしませんでしたか?」
少女は菅沼に謝るように話しかけてきた。
「いや・・・逆にがんずき・・・じゃなかったその犬に助けられたよ、礼を言うのはコッチだ!」
「が・・・がんずき? あ・・あば・・・もしかしてこの子の前の飼い主なんですか?」
少女は険しい表情を作りがんずきを抱えて菅沼を警戒する。 
「ちょっと!誤解しないでくれ!確かにその犬は『知り合い』だが俺は飼い主じゃないよ。」
菅沼は手を振って少女の「連れ戻しに来たのかも」という疑念を晴らそうとする。
「ソイツは君みたいな子と一緒に居るのが一番なんだ・・・・大切にしてやってくれよ。」
そう言って菅沼はテンガロンハットを取って深く頭を下げた。
「お・・・おじさん・・・・」
   !
「お・・・俺はまだ若いの!解るか?お嬢ちゃん?」
眉尻をピクつかせながら菅沼は続けた。
「それじゃソイツの事・・・頼むぜ・・・・」
手に持ったテンガロンハットをポフンと少女・・・菅谷梨沙子の頭に乗せると菅沼は踵を返した。

「おじさん!・・・・梨沙子、こんな変な帽子要らないもん!」

ズルン。



「な・・・・・」
菅沼は振り返って梨沙子の顔を見る。
「知らないヒトからはモノを貰っちゃダメだって学校で習ったもんッ!」
梨沙子は胸を張ってそう答えた!
「あのな・・・・俺はただお前に帽子をやった訳じゃねぇんだよ・・・・・俺はここには居れない
 だから俺の変わりにかんずきの傍にこの帽子を・・・そう思ったんだよ・・解るか?」
「お前じゃないもん!りさ子だもん!」

   プッツーン!

把を得ない梨沙子の返答に菅沼は激情する!
「オメーの名前なんて聞いてねーだろ!だいたいだな俺はこれでも名の知れた作家なんだぞ!
 有名人なんだぞ!どうだ!有り難味が出てきたろ!」
逆上しきった菅沼の言動は子供染みたものに変わった!
「梨沙子、本なんか読まないもーん!」
「お・・・お前みたいな若年層が書籍を買わないから業界の売り上げが落ちるんだよッ!」
「弱燃焼?・・・梨沙子弱いの?」

プッ・・・・・プッツーン!!

「わ・・・わかった!YESYES・・・どういうレベルかは良く解った!」
菅沼は内ポケットから自著を取り出しサラサラをサインをして梨沙子に渡した。
「これが俺の本だ・・・特別にサインしておいたから取り合えず本を読むトコから始めよう!」
「だから本なんか梨沙子読まないもーん!」
「オメーの人生の為に読んでおけッッッ!!!!」
「ぷぎゃー!!!」

「な・・・何をしてるんですか英秋ッッッ!!!」
菅沼の暴走はエネスコやその他従業員の手によって漸く幕を閉じた・・・・・。



「ギギ・・・・ッ」
従業員に取り押さえられた菅沼は搾り出すような声を上げる。
「全く・・・・貴方は何をしているのか・・・」
呆れながらエネスコは菅沼を見遣る。
「本当だよ・・・・怖かったろ?もう大丈夫だからな。」
そう言いながら楓が近よると梨沙子の顔が強張る。
「あ・・・・あば・・・・」
囁きにも近い言葉を発すると梨沙子は犬を連れて一目散でその場を駆け出した。
「ちょっと!・・・・・・あぁ〜あ・・・・作家さんよぉ〜、これトラウマってのを与えちまった
んじゃないのか?」
走り去る梨沙子を目で追いながら楓は呆れた作家にそう告げた。










「はぁ・・・はぁ・・・これだけ逃げれば直ぐには追ってこないよね?」
梨沙子は息を整えながら後方を見た。
『ハヒィ?』
「ここに入るのにお金・・・・払わないで来ちゃったんだもん・・・」
そう言うや否や首輪を引っ張ると出口に向かって走り出した。



「さぁさぁボクゥ?知ってる事はこれだけかなぁ?早い所、全部話さないともぉおっと苦しいメに
 遭っちゃうよォ?」
斉藤瞳の囁きなど聞こえぬ様に神木隆之介は地面に伏しのた打ち回っている。
「むぅ〜・・・これだけ重くトリップして吐かない所を察するにこれ以上は知らないのかもにぇ。」
村田めぐみはスッと眼鏡を掛け直すと何かの実験を見るような目つきでそう語る。
「ミュ〜ン!『相手を直接は知らない、スタンドしか見たことが無い』じゃなんのヒントにもなんな
 いじゃないかよー!!」
柴田あゆみはふくれっ顔で怒りを露わにする。
「しかしそんな姿を見せない様なヤツをなんで信用するのかねぇ?」
大谷雅恵は腕を組みながら漏らす。
「姿が見えないからこそソイツの邪悪さに気が付かないンだよ・・・・昔のあたしみたいにさ・・」
瞳は神木の耳を突っつきながら独り言の様に言った。

「良し!じゃあこの子はもういいや!マサ。この地域一体の30分前の記憶『消しといて』くれる?」



「・・・と?アレ?おかしいな?アレだけ酷く揺れたのに何だか『普通』だね?」
僕は周囲を見回す。
なんだか妙な感じで『普通』・・・・だぞ?もう少しパニックになっても良い様なものだけど・・
「・・・・・確かに妙ですけど・・・そんな事でどうこう言ってる場合じゃ無いですよ!」
そう言うと小走りで舞波ちゃんは僕の前を走り抜けた。
「そうだね・・・急がないと!」
僕は舞波ちゃんの後を追いかけた。



「人波は流石に多いですね。急いでますしココは避けましょう・・・」

「・・・・・どうしました?東俣野さん?」

「・・・・え?何処へ・・・・行ったんですか・・・東俣野さん・・・」





「アレ?なんだったっけ?何か・・があったような?あ!そうだアトラクヒーローとカマキリが!」
菅沼は実に奇妙な感覚に包まれ朧げに浮かんだキーワードを出した。
「・・・・何を・・・言っているのですか?菅沼さん?」
行き成り話始めた菅沼にエネスコは気怪訝な表情をした。
「え・・・?一緒に闘ったろ?覚えてないの?」
菅沼は朧げな記憶を伝いエネスコに問う。
「作家さん、何言ってるの?俺とエネスコでここの案内をしてる最中だぜ?何?白昼夢ってヤツ?」
楓は笑いながら作家の虚言めいた発言を茶化した。

「白昼夢・・・・?」

「そう言えば親父。なんでここに居るの?」
「おぉ!なんでだべか?なんでオラ此処にいるだか?」




「お〜し!上手く行ってるみたい!」
雅恵は周囲の動きを見ながら能力の効き具合を感じ取った。
「知らなければシアワセって事の方が多いしネェー・・・これで取り合えずは一件落着ね。」
瞳はティアドロップのサングラスを掛けながら軽く溜息を吐いた。
「でぇ〜・・・これからどうするの?『ライナーノーツ』で奴等をブッ壊しに行くの?」
あゆみはファミレスにでも行く様な口ぶりで仲間に問いかける。
「平和があってこその『芸術』だからにぇ〜。それを乱すヤツはワタシは許せんね!」
めぐみはマラソン選手の如く脂肪率の薄い細く白い腕を露わにして決意を表明する!
「まぁ・・・・これがアタシ等の『運命』ってんじゃね〜の?・・じゃあ行こうか?」

瞳の声を合図に4人は一斉に踵を返し自分達の信じる『道』を進み始めた。



「あらぁーッ!中等部のりさ子チャンッ!何してンの?」
市内をぶらついていた高橋愛は見かけた後輩に気さくに声をかけた。
「何って見れば解るでしょ!犬の散歩中なのだ!」
隣に居た新垣里沙は愛の発言を凄まじい勢いで突っ込む。

「はぁ・・・散歩というか犬が逃げてそれを追いかけてたんです・・・」
行き成り漫才の様な事を始めた先輩に梨沙子は引き気味に答えた。
「へぇ〜!あっしも犬は飼ってるけど室内犬だカラ家の中だけで逃げ回るだけだがし外で飼ってると
 色々大変やねぇ?」
「あ〜解る解る!私もビビちゃんを飼ってるけどハムスターだから偶に家の中を大脱走するのだ!」
普段は聞かない様な先輩達の話に梨沙子はなんだか嬉しくなり話の輪に飛び込んだ。
「ニイガキさんハムスター飼ってるんですか?ハムスターだったら佐紀ちゃんも飼ってるんですよ」
「佐紀ちゃん・・あぁ清水さんだっけ?ふぅ〜んそうなのか・・・今度ハムスター談義でもしたい
 モノなのだ・・・・」
新垣里沙は腕を組みながら頭を上下に振り頷いた。
「ところで・・・・りさ子チャンッ。それ本やろ?何の本ね?」
高橋愛は目敏く梨沙子が抱えている本に興味を示した。
「え?あぁ・・これですか?あば・・・なんでこの本持ってんだろ?」
「ちょっと?りさ子ちゃん?大丈夫?」
新垣理沙は梨沙子の危うい言動に不安を覚えた。
「ちょぉ見せテね・・・・お!『千年紀末』!スポルト☆摩天楼の著作やね!」
高橋愛は梨沙子から本を取り上げるとペラペラと捲り始める・・・。
「・・・・えぇ?・・・何コレ・・・・サインが書いてあるデ!?」
巻末に書かれていた『サイン』!それを見て高橋愛は素っ頓狂な声を上げた!!
「何々?なんなの愛ちゃん?それは凄いの?」
新垣里沙は釣られるように本を覗き込んだ。
「良かったらあげますよ・・・・私は本、読まないですから・・・・」
梨沙子は異常に盛り上がり始めた先輩達を見てそう言った・・・最も読みもしない本を持っていても
しょうがないのであげちゃってもいいかな?と思ったのだが。
「ホントに!?有難ウッッ!!!」
「うわぁ〜・・・よかったねぇ、愛ちゃん!」
二人の喜びように梨沙子も何だか嬉しくなった。
「有難うネ!りさ子チャン!その帽子、よく似合ってンざ!」
そう言うと二人の先輩はその場を後にした。



「・・・・・帽子・・・・あたし何でこの帽子被ってんだろ?・・・・まぁいいか」
梨沙子はテンガロンハットを被り直すと手綱を軽く引いた。
「・・・あたし達も行こうか・・・・『がんずき』・・・・  
       ・・?あれ・・・お前の名前・・・・そんなのだったっけ?」








神木隆之介 スタンド能力に関する記憶を全て消去される
スタンド名:AQUA


TO BE CONTINUED・・・