銀色の永遠 〜太陽とヴィーナス〜

>デットマンズ W編

にぎやかな遊技場。

人は笑顔を紡ぎ和やかな空気が場所を埋める。

その中に似合わない黒い影が二つ。

華やかな場所に不似合いな喪服のような漆黒な服装、明らかに奇妙だ・・・・・。

だがもっと奇妙なのはそんな目に付く二人を皆、気が付かない事だった。

「まったく・・・なんでこんなに人が多い所に潜伏するんだか・・・・」
黒衣の青年は人混みの中、他人に触れないように丁寧に避けながら移動する・・・。

「多い所だからココを選んでるんですよ・・・・東俣野さん」
黒衣の少女は更に続ける。
「これだけ人が多ければ私達が『彼』を見つけるのも困難になるのを見越してだろうし
 オマケにここの施設そのものがスタンドで形成されてるから私の能力では何処にいるのか
 全く解らない。更に・・・これは憶測ですけどコレだけ人の関心を誘う場所だったら『彼』
 の目的を果たすのに好都合だからとも考えられますね・・・・・。」
少女の意見を感心したように東俣野が相槌を打つ。

「なぁるほど・・・・確かにこれだけ人が居ればわざわざ危険を冒して出向く必要もなく誰にも
 触れられ無に場所を探して身の安全を確保しながら『目的』を果たせる訳だ・・・
 待ってるだけでいいんだから・・・・・さすがだね、舞波ちゃんは・・・・。」

舞波と呼ばれた少女は東俣野の方を見ず足を進めながら話を続けた。
「東俣野さんも薄々感ずいてるようだと思いますが・・・誰かが『彼』に知恵を着けた様ですね
 ・・・・・・・恐らくは・・・・・」
東俣野は舞波の言葉にある人物を思い浮かべた・・・・そう・・・『彼』のように強い怨念を
抱いた人物を・・・・。
「あぁ・・・・多分、『彼女』だろうね・・・・。」

自ら人に触れる事は問題ないが触れられるれば痛手を負う二人は時間を掛け人混みを抜けた。

「ふぅ・・・・・やっと着いたね?」
東俣野は安堵の声を上げる、ここまで来るのにすっかり精神を磨り減らしてしまったのだ・・・。
「『彼』がここに逃げ込んで3日目・・・・ここが最後ですね。」
舞波は毅然とした瞳で火山型のアトラクションを見つめる。

火山の中をくり貫いた建物を歩く、人気のアトラクションだ・・・・。
確かに所々には柵はしてあり立ち入れない場所が有る。
幽霊である『彼等』には都合の良い潜伏場所なのだ・・・。

「どうしますか?東俣野さん?」
舞波は東俣野の顔を見上げて問うた。
「・・・・・どうするって?」
東俣野は舞波に聞き返した。

「・・・・・・・彼が・・『岩出山さん』が話し合いに応じなかった場合ですよ!」
舞波は呆れたように肩を竦めて再び問いかけた。
「その場合は・・・・・しょうがないンじゃないの?」
東俣野は歯切れ悪く答えた。
「覚悟は出来てるんですね?頼りにしてもいいんですね?」
「いいーんです!」
東俣野はお道化て返事をした。
その緊張感の無さに舞波は深く溜息を吐いた。

ソレを見ると東俣野は軽く満足して火山へ足を進めた。
傍から見れば東俣野の行為は空気を読まない行為だが彼の中には渦巻くモノがあった

『復讐』

生前、殺害されて死ぬ事に成れば誰でも考える事だろう。
僕自身も『後藤真希』という人物の身勝手な意見で惨殺されたのだ。
彼の・・・・・岩出山の気持ちは解らないでもない。
だからこそ!僕が彼の復讐を止めなくてはならないのだ。
死者には死者の『道』があるはず、『道』を外れるならそれを正すのも死者でしかない!

怨みや憎しみ。
こんなドロドロした感情の渦に舞波ちゃんのような子は巻き込みたくは無かった。
そんな物を彼女に触れさせたくは無かった。
軽蔑されようが重い空気を換えるためなら軽口も叩こう!
どんな思いだろうが変えてやろうじゃないか!

僕は手品師<マジシャン>なのだから・・・・・。



火山の中は薄暗く、そこ彼処に走るマグマのような赤い光源が暗闇を灯す。
その中を歩くだけで野生の息吹というか原初の鼓動が聞こえるようなそんな場所だった・・・・。

「おぉ〜お。人が一杯いるよ・・・・こんないい雰囲気の所だったら生きてるうちに来たかった
 なぁ・・・・・舞波ちゃんもそう思わない?」

「・・・・真面目にやってください・・・・」

僕等は立ち入り禁止の柵の中を歩いていた。
狭い館内でいちいち人を避けて歩くのは困難だからだ。
横にはマグマの赤い河が流れる・・・・この施設そのものがここの経営者のスタンドらしい。
解っていてもそのパワー、規模には脱帽する。
そのお陰で『彼等』の場所も全く特定できないのだけれど・・・・。

「やっぱり入り口の付近に居る訳は無いよねぇ・・・・やっぱり一番上かな?」

「でしょうね。・・・それも人目に付き辛いような場所だと思います。」

影に隠れてブッスリてかい?蜘蛛じゃないんだからなぁ・・・骨が折れるよ。

10分も歩くと頂上部に到着した、左右を見回すが・・・居ないなぁ・・。

「お〜い。岩出山君、出て来いよ!迎えに来たぜ!」
僕は取り合えず暗がりに声を掛けてみた、素直に出て来るとは思ってはいないが。

モゾッ!

「!!」
暗がりの影が波打つ!
・・・・・意外と早く出てくるか?僕は注意深く闇の動向を窺った。

モゾッモゾゾッ

「な・・何しに来たんですか?・・・あ・・・あなた・・には・・関係ないじゃないですか・・」
暗がりに鋭い眼光が浮かぶ。
「まぁまぁ同じ殺されたモノ同士、カンケー無いとかは言いっこなしだろ?」
僕は暗がり近づく。

「東俣野さん!」

「!」

暗がりから一閃!何かが射出されて来たッ。
「カマータイムッッ!!」
  パチィイン!!!

トトトッ!

射出された釘は『ラッキーストライク』の能力で小さくして持っていた『マンホールの幽霊』に
突き刺さり事なきを得たが・・・・・・・一筋縄では行きそうに無いなぁ。

さてはてどうしたものか?そう思いながら僕は手の中の<タネ>を軽く玩んだ。


「まぁまぁ落ち着けよ、岩出山君!」
僕は間合いを詰めずにその場で彼を説得しようとした・・・と言うか出方を窺った。

「・・・・・・・・」

暗がりから動きは無い、僕は話を続けた。
「君は誑かされているだけなんだよ、どうせ『あの子』に一緒に怨みを晴らそうとか言われたんだ
 ろう?馬鹿な考えだぜ!死人には死人のルールが有るんだ!現世に干渉するべきじゃないぜ!」

 プッ

  プフッッ

      ププッ


   「アハハハハハハハハハ     ウヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
     ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

笑い声が狭い頂上部に反響する。

「話し合いは無理みたいですね・・・・・・・」
傍らに居る舞波ちゃんが冷静に言い放つ。
「・・・・・・みたいだねぇ・・・」
闘わずに済ませたかったが・・・・・・・都合道理進まないのは生きていても死んでいても同じもの

だ・・・・僕は軽く奥歯を噛み締め足を前に進めた。

「ハハハハハ・・・良いのかい?センパイ?自分から間合いを詰めて?エェ?」
岩出山の声が暗がりに響く。
「大丈夫だよ・・・・当たらないから・・・」
僕は岩出山に返事をした・・・・こんな状態でもまだ説得出来るとか考えているのは甘いのかな?
「はぁ?大した余裕じゃないですか!センパイ?・・・・・じゃあさ!
  喰らって串刺しになれよォォォオオオオォオオ!!!!!!!!!!!」

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

漆黒の空気が切り裂かれ無数の針が僕に向かって射出される!

「ジャミングウエーブッ!エクストリィイームッ!!!」

 グゥキュウウウウウウウユウウウウウウウウュン!!!!!

目前に波動の渦が起こり針は色を無くす!
舞波ちゃんのスタンド『パッションE−CHAE−CHA δ』のジャミング波だ・・・。
「東俣野さん!今です!」
舞波ちゃんの声が響く。僕にはそれがとても・・・・とても冷徹に聞こえた・・・が・・・・
彼等を止めるのにはコレしかないのだ!むざむざ殺人を犯させる訳には行かない!!

僕はいつかの様に覚悟を決めてタネを岩出山の頭上に投げつけた!
    パチィイィンン!!!!
その物体は黒い影を作り岩出山の居る暗がり全体を覆った!

「カマータイム!『ロードローラーの幽霊』だッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドグゥゥォオオオォオォオォオオォオオォオォオンン!!!!!!

狭い空間に重低音が響く!
『ロードローラーの幽霊』の幽霊はその大きさを誇るように場を埋める。
「・・・・やりましたね、東俣野さん。」
舞波ちゃんの声を遮るように『ロードローラーの幽霊』に2,3回蹴りを入れる。
「この感覚・・・・逃げられたね。」
取り逃がしたのに彼を始末出来無かった事に少々の安堵を覚える。
・・・・何なんだ僕は?死者と現世人、どっちが大切なんだ?この抜き差しなら無い状態なのに・・
どこまで甘いのか・・・・正直凹んで来たよ・・・・・。

「何時までそうやってる心算なんですか?東俣野さん。早く追いましょう!」
「あぁ・・・そうだね。早く行こう!もしかしたらもう彼女と落ち合ってるかもしれない!」
僕は『ロードローラーの幽霊』を回収すると踵を返して走り出した。
彼女・・・・・渡引智美と岩出山篤好。この二人を引き合わすのは幾らなんでもマズイ・・・・

何故なら彼等の復讐の標的は同じ人物なのだから・・・。

その事を改めて考えると背筋に冷たいものが走る。
急がなくては・・・甘ったれたコト何か言っていられない!
僕は急ぐ気持ちを足に込める!・・・・・がどうだろう?先刻から妙な感じが足の裏に伝わって居る
のだ・・・・幽霊なのに・・・
「舞波ちゃん?」
「解ってます!地震にしては・・・・妙な振動ですね・・」

ドドドドドドドドドド ドドドド ドドドド ド ドド

異常な振動が狭いアトラクションを支配する!
幽霊だから落盤で死ぬ事は無いにしろ幽波紋はどうなんだろうか?
妙な危機感を覚えた僕は舞波ちゃんの手を引き走り出した!


「・・・と?アレ?おかしいな?アレだけ酷く揺れたのに何だか『普通』だね?」
僕は周囲を見回す。
なんだか妙な感じで『普通』・・・・だぞ?もう少しパニックになっても良い様なものだけど・・
「・・・・・確かに妙ですけど・・・そんな事でどうこう言ってる場合じゃ無いですよ!」
そう言うと小走りで舞波ちゃんは僕の前を走り抜けた。
「そうだね・・・急がないと!」
僕は舞波ちゃんの後を追いかけた。

走り抜ける途中、ここの管理者である遠見塚正宗とその息子さんと見かけた
何でここにいるのか?は疑問だったが先を行く舞波ちゃんを追いかけ足を進める。

が・・・・・・ ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

突然腕が引っ張られるッ!

「なッ!?????」
魂がヤバイ事にならないように十分留意して走っていたはずだ!
人の身体には触れていない筈!なのになんだッッ!

僕は引っ張られている腕を振り帰る!
?!
う・・・腕が捻れた形で『吸い込まれている』?
僕の身体は『男』の胸元に吸い込まれていく!
この『男』・・・・・何者だ!?
「な・・・・・この『男』・・・じゃない!コイツが首から下げている・・・・『黒い石』!!!こ・・・これ・・・・は?」
抵抗も空しく僕の身体は『黒い石』に飲み込まれる・・・・・

「ま・・・・・・・舞・・・・・・・・・・・・・波・・・・・・・・ちゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」






「人波は流石に多いですね。急いでますしココは避けましょう・・・」

「・・・・・どうしました?東俣野さん?」

「・・・・え?何処へ・・・・行ったんですか・・・東俣野さん・・・



TO BE CONTINUED・・・