銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬ@〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室

必死に窓枠を握ろうとするが指が『滑る』。
「ク・・・話しが違う・・・・」
そう言っている間にも体はずり下がる。

12月23日から12月16日に時間を巻き戻した美貴は言われた様に菅沼を探し
12月20日に菅沼を見つけた、顛末を話し菅沼の協力は得る事が出来た。
『交換条件』を出されたが今は四の五の言っていられないので呑む事にした。

今日起こる事、コンコンと麻琴が操られて『惨事』が起こる前に行動する心算だったが
約束の時間を過ぎても菅沼は現れなかった・・・

時間も刻々を過ぎていく・・・元の時間になってしまえば『惨事』が起こる・・
私は菅沼の到着を待てずに部室に向かった。

遅かった。

床に流れる液体が『惨事』が起きた後を物語っていた。
「まだ・・時間じゃない・・ハズ・・・未来が・・・変わってるのか?」
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

「どうして・・・未来が・・・早くなった?私が介入し過ぎたせい・・・なのか?」
             ズルン
腰が珊からずり落ちる
「うぁああぁああぁああぁああアアあぁああああぁぁああああああああ・・・・・・」

美貴の体は空気抵抗を失い高速で落下した。
弾丸のような速さで美貴は落下する。

「これじゃあ全く『同じ』展開になる・・・このままみうなに助けられて真希ちゃんと合流する。
 その流れは・・・・それだけは変えなくちゃ為らないのにッッッッッッッ!!!!」

迫る地面。

突風が美貴に吹き荒ぶ。
落下のベクトルは変わり凄いスピードで美貴の身体は上昇した。
強いパヒュームの香りに眉を顰めた・・
「この『物を風に乗せる能力』・・・なんでテメェが私を助けた・・・」
美貴は倖田來未 を激しく睨みつけた。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬA〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 校内

「さてと・・・『コウダクミ』・・『風を操る能力』か・・これで何とか届けられそうだな?」
菅沼は旋風を見送ると目の前の修羅と対峙した。

「おい・・・知ってるか?革ジャケット?獲物を横取りされた動物がどんなに凶暴になるかって?」
目を異常にギラつかせながら三好絵里香は新しい獲物に牙を剥いた。

「・・・・お前は『ミヨシエリカ』ってヤツだな?ちょっとオイタが過ぎるみたいだなぁ!」
菅沼はメモ帳をジャケットの内ポケットに仕舞いながら目を細めて三好を見た。
「何で私の名前を知って居るか・・・スゴイ疑問だがテメェをブッ殺してから調べさせてもらうよ」
三好はジリリを間合いを詰め革ジャケットを射程距離に入れる
「はッ!自分が何を言ってるのか・・・解ってんのか?コォオォォォラァァァッッ!!」
その安っぽい威圧に感情を逆撫でられた菅沼は怒りを露わにする。
「喰らってくたばれッッ!!怪焔王の流法ッッッ!!!!!!」
三好絵里香のスタンド。シーズン・オブ・ディープレッドの血管針が唸りを上げて迫り来るッ。
「くぉぉぉおおぉおおおッッ!断空の流法ッッ!!!」
菅沼英秋のスタンド。スポルトマティクが可視光を断ち切りながら旋回を始めた。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬB〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 屋上

「テメェ・・・」

「助けて貰ったのに・・・口の利き方も知らないなんて何様の心算や?」
硬化した空気が奔る。

「まぁ別に礼なんてしなくてもイイけどね・・コレをアンタに渡す様に言われただけだから・・」
來未は美貴に銀色に光る鋏を手渡した。
「コレッッ!?何でお前がッッ!!!」
美貴は目を見開いて驚いたが同時に菅沼の来なかった理由が解って来た。
「コレで貸し借りは無し。革ジャケットの男にもそう言っておいて・・・」
そう言って髪を掻き揚げた來未の足元には血が流れ出ている。

「誰かと思えば・・・・美貴ちゃんと・・・コウダ・・・」

ッッッ!!!!!!!!

この空気感ッッ!!
美貴は思わず唾を飲み込む・・・

「怪我・・・してるね・・・ソイツにやられたの?」

友人の後藤真希の声だった・・・

なんで・・・屋上に居るんだ・・いや『居た』のか!
ここなら騒ぎが起これば直ぐ解る・・騒ぎを知ってここから降りて来たのか・・・・
美貴の心を読める筈も無い真希は友人に近づく。

「後藤真希・・・・・責任取って貰おうか!」
來未は真希に敵意を向けた。
「ぽ?」
真希はその視線に歩みを止める。
「さっきもアンタのお陰で痛いメを見たんだよ・・・だからアンタをブチのめしてその責任を
 取って貰うって言ってるんだよッッッ!!!!!!!」
その怒りに同調するように吹き上がった突風が独特の香りを撒き散らす。
「やめろ!やめるんだ!真希ちゃん!違うんだ・・・・コイツは・・・」
弁解しようとする美貴の口を來未の手が塞ぐ。
「良いんだよ別に・・・アンタを助けようとした訳じゃ無いって言ったろ?
 それに何時か後藤真希をブチのめすッて思ってたんだ・・・その『何時か』が『今』に為った・・
 それだけやッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
倖田來未のスタンド『バタフライ』が豪風を作り出し來未の身体を飛翔させる。

「ふ〜ん・・随分と成長したみたいね・・・いいよ・・・ごとぉと闘う資格は有りそうだねッッ!!」
後藤真希のスタンド。『ゴシップ・セクシーGUY』がその漆黒の翼を空に広げる。
「美貴ちゃん・・・危ないから此処に居ない方がいいよ・・それとも・・・観てく?」
真希は誘う様に美貴に笑みを浮かべた。
その笑顔に冷たいモノを感じながら美貴は背を向けて其処から走りだした・・・
「クッ!『未来』は確かに変わった・・・だけどコレで大丈夫なのか?」
美貴はそう思いながらドアノブを廻し屋上を後にした。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬC〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 3階

屋上から部室の有る階へ移動した美貴は周囲を窺う。

前回と同じ展開ならすでに麻琴は何処かに潜んでいる・・・
ここで部室から紺コンを連れて来るのは返って危険だ。
そう考えを纏めた美貴は部室と逆の通路に足を運ぶ、行き止まりになる部室側を避けて広く吹き抜けた

通路を選んだのだ・・・・・

「出て来いよ・・・麻琴・・・」

その声に合わせる様に無音で麻琴は姿を現した。
気配は完全に消えていたがその目は憎悪に満ちていた。

「麻琴・・・助けてやるよ・・・」
美貴の手に銀色はが輝く。
「この『スポルトマティク』で断ち切ってやるよ・・・悪夢をッッ!」
そう言い鋏を前に突き出して構えた、鋏は美貴に呼応するように光出す。
光の乱反射が麻琴の顔を照らす。
その光が闘争の始まりを告げたッ!

「おぉッ!!FRIENDSHIPッ!!」
    ゴギャン!!
麻琴のスタンド。『FRIENDSHIP』は緑のビロードの様な輝きを放ちながらその滑らかさを魅せた。

「来いッッ!!ブギー・トレイン・O3ッッ!!」
美貴のスタンド。『ブギー・トレイン・O3』は銀色の輝きを帯びて辺りに光を放つ。

空気が張り詰める。

距離は4m。

互いに『決定打』を叩き込むには距離が少し遠い。

間合いを牽制し合う・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ズビュッ!ズビュッ!!ズビュュッ!!

空気を切り裂く音が静止した時を動かした!

麻琴の金属球の散弾が真希達に降り注ぐ。
文字道理、空気を切り裂きながら高速で接近する金属弾!

「おぉぉおッ!!満月の流法ッ!!!」
迫り来る金属弾の『時間』を僅かに戻し散弾のコースを薙ぎ払う!
「おぉッ!」
間を置かず美貴はその場で垂直に飛び上がる。
飛び上がったその下を麻琴が高速で通過した!

「!????????」
自分の行動が完全に読まれた事に顔色を変えながらも麻琴は加速しながら通路を滑走する。

「あのスピード・・・そしてあの低い体勢・・・緑のヒモみてーのを断ち切れば終わる・・
 しかしアイツは強い・・・出来るか・・・?」
呼吸を整えながら美貴は次の麻琴の攻撃に対応する構えを取った。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬD〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 3階

グッ! ギュン!!

麻琴の軌道が急変した!

ギュッギュギィイユュン!

天井を伝い壁そして床と凄まじい速度で螺旋状に滑走する。
麻琴は方向転換をし体勢はスライディングのまま低い姿勢は勢いを増しスピードはさらに加速する。

「来い・・・一瞬だ・・・擦れ違い様の一瞬に賭けるッ!」
美貴は全神経を集中させて麻琴の滑走移動に備える。
タイミングを乱すように・・・螺旋の疾風が回廊を奔るッ!!
美貴はその動きに乗せられない様、静かにその時を待つ。

距離2m!
滑走してくる麻琴に美貴はタイミングを合わせて跳躍した。


美貴の身体が弧を描いて宙に舞い、高速で移動する麻琴の襟首に銀の軌跡か走らんとしたその時。

「ぎゃぁややぁぁぁあぁやぁァぁァァァぁぁぁあアアぁぁぁああぁッッッ!!!!!」

「!!!!????」

窓に人影が走り断末魔が通過した。
誰かが屋上から落ちたのだ・・・

その一瞬に美貴の手元が遅れた。
銀の軌跡は空を切り好機は高速で過ぎ去った。
「ぐぁッッ!!!」
美貴はそのまま床に倒れ落ちる。
強かに顎を打ちつけその痛みが身体を駆け抜ける。
痛覚に顔を顰めた、その瞬間。

足首に圧迫感を感じ身体が強い力で後ろに引っ張られた!
突然の事で混乱したが直ぐに理解した。
去り掛けに麻琴が足を掴んで行ったのだ!
状況を理解しながらも高速で引き摺られる。
『引き摺る』こんな単純な行為でも与えるダメージは大きい!
その激痛に耐えかねた美貴は自らの足を掴む手を蹴り付けて引き剥がそうとしたッ!
何回か蹴り付けると握力が弱っていくのを感じた!
『行けるッ。』
そう思った瞬間だった、美貴の視界は急激に横方向にスライドし上方に引っ張られる。
「な?」
疑問符が壁に叩き付けられる衝撃で打ち消される。
麻琴は滑走のコースを変え再び螺旋状に廊下そのものを移動したのだ。
『抵抗』を失っていない美貴は滑らず勢いのまま壁に激突する。
美貴の身体は壁に天井に床に何度も何度も叩き付けられた。

何回叩き付けられたのか・・・・・解らなくなった所で麻琴の滑走は終了した。
「うぅ・・・・・・・・ぅ」
麻琴は意識の朦朧とした美貴の襟首を掴んで引き起こす。
「・・・・これで・・・終わりだ是ッ!!」
麻琴の背後にFRIENDSHIPが灯る!
「ユゥウウウゥウウウウウゥキャァアアアァアアアアアァアアアンンンドゥゥゥウウゥウウウッッッ!

!!」

鈍い音が響き美貴の身体に怒涛が刻み込まれる!

「あッ  がぁア  ぐぎィ・・・満月の流法ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

ブギー・トレインo3が銀色の煌きを放ち時は連撃を喰らう前に『巻き戻る』。
「オルゥゥアアアアアアア!!!!!!!」
B・トレインの前蹴りが重く当たり麻琴の身体は後方に吹き飛ぶ!
と同時に美貴の時間は元に戻り、衝撃がその身に踊りかかるッ。

「ぐぎゃぁあああああッ!」
衝撃に耐えられなくなった身体は跳ね飛ばされた様に飛び上がる・・・・

ドッッ・・・
後方に跳ね飛ばされた美貴の身体を誰かが受け止めた。
「く・・・遅ぇンだよ・・・菅沼・・・」
息も絶え絶えなほど憔悴した藤本美貴は遅刻してきた異邦人に安堵を覚えた・・・

「その怪我・・・あそこの小川ッてのにやられたの?『美貴ちゃん?』」
「『美貴ちゃん?』」
語りかけてきた声の違和感に意識を戻した美貴は自分を抱えている人物を凝視した。
「・・・・?」

後藤真希だった。
美貴を抱えているのは菅沼ではなく真希だったのだ。
「そ・・・んな・・・」
思わず絶句した・・・未来は変節はあっても変わる事は無い。
この展開はそれを雄弁に語る様であった。
真希は美貴を壁にゆっくりともたれ掛らせ踵を返した。
麻琴に歩み寄る真希に美貴は止めようとするがその余力は最早残されては居なかった・・・
力の無い身体からは声は出ない・・・

「ごとーの『友達』をよくも・・・やっぱりお前達『演劇部』はとっとと『始末』すべきだったぽ・・
 回りくどいことなどせずに・・・今ここで消えてなくしてやるッッ!!!!」

真希は一人語とのように呟くと奇妙な体制を取る。
真希のスタンド『ゴシップ・セクシーGUY』は両腕を前に突き出した。

ギャロン! ギャロン!

ゴシップ・セクシー・GUYの左腕を関節ごと右回転!右腕をひじの関節ごと左回転!

そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間を生成した!

「風の流法<神砂嵐>ッッ!!!」

 ドワァアァァアァァアアァアン!
     オパゥ!
砂嵐の小宇宙は滑走をする麻琴を無情にも呑み込んだ。
    ゴシャァャヤ!!!!
麻琴の身体は風圧の歯車に蹂躙される。

「やめろォオォオォッ!!!」

美貴の有りっ丈の力を振り絞った絶叫が響く。
と同時に金属の擦れた音が聞こえたッ! 
砂嵐は真っ二つに切断され消滅し、麻琴の身体はボロボロになりながら落下した。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬE〜

12月22日 ぶどうヶ丘総合病院 523号室

「うあぁあぁぁあッ!」

私は身体を跳び起こす!
目を左右に奔らせる。此処は?アイツ等は・・・・?
・・・・・

白い壁にカーテンで仕切られたベット・・・・独特の臭いがここがどこかを再確認させてくれる。
「はぁ・・・・」
深く溜息を吐いてあまり柔らかくないマクラに頭を落とす。
倖田來未。紺野あさ美。小川麻琴。三好絵里香。岡田唯。後藤真希。
そして私、藤本美貴を含めた7人は『不審者』に暴行を受けて負傷し入院した事になってしまった。

不審者は菅沼だ・・・
暴行をされた現場を押さえたってヤツはいなかったがその場所場所で目撃されたのは『革ジャケット』
を着た『不審者』だった。

「どうするんだよ・・・?これから・・・」
美貴はぼんやりと薄暗い天井を眺めながら、次の動きを考えていた。
このままだったら23日の惨劇は回避できるかもしれない・・・・
これで『矢』を破壊出来れば『交換条件』を満たせるだろう・・だけどそれからどうする?
このままで・・・幕引きは出来ないだろう・・・

「はいはい、藤本さん調子はどうかな〜?」

「あぁ、島田サン。もう頭が痛いのも直ったんで良い具合ですよ。出来れば早く出たいンですけど?」
看護婦の島田サンだ・・何処となく保健室の保田センセイみたいな空気感のヒトだな・・
「昨日の今日じゃまだ退院許可は出ないわよ〜。それよりまたアンタの学校の娘が救急で来たわよ?
 本当、物騒やね〜・・・」

「・・・・・?!何時?誰か解ります?!!!!!」

「ッッッッ!・・・昨日の深夜・・・名前はカメイエリ、ミチシゲサユミ。って娘だけど・・・」

「な・・・?」
美貴は愕然としながら俯いた・・・
「何?どうしたの?大丈夫??」
島田は美貴に触れ状態を確かめるように俯いた顔を覗きこむ。
「いや・・・大丈夫・・・です・・・」
美貴は瞳を強く瞑りながら顔を上げた。
「ショックなのは解るけど、こう言う時ほどしっかりせなアカンよ・・・あ、そうそうこれアナタに
 ッて渡しとく様、頼まれてたんだ・・・」
島田は封筒を美貴に渡した。
封筒には『フジモトミキサマ』と書いて有るだけで差出人の名前は無く封は『〆』ではなく
『S』と走り書きがしてあった。
「これ・・・誰が・・・?」
「うん・・私が受け取った訳じゃないから良くは解らないんだけど・・何か『革のジャケット』
 を着た人だって聞いたけど?」

乱暴に封筒を開け、書いてある文章に目を奔らせる。
「ッッッッあの・・・バカッッッ!!」
手紙を握り潰すと美貴は跳ね上がり身支度を始めた!
「なッッッ!何してんの!!!?藤本サン!!!!???」
制止しようとする島田の身体は『何か』に押さえ付けられた様に動けなくなる。
「・・な・・・身体・・が・・?」

「それじゃぁお世話になりましたッ!事後処理お願いしますね?」
それだけ言い残し藤本美貴は病室を後にした・・・・


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬE〜

12月21日 杜王町 図書館

「歴史・・・270 オセアニア史!ここだッ!」
美貴は菅沼の指定した場所に急いだ。
図書室の凛とした空気感。
・・・・・・・。
左右を見回す・・・菅沼の気配は有るが・・姿は無かった。
「おい・・・居るのか?菅沼?」

「居るよ・・・・だがこっちを向くな・・・」
木魂だけが響く、『断空の流法』を使って姿を消しているのだろう。
「何故、亀井達を襲った!?答えろッッ!」
拳を硬く握りながら問うた。
「アイツ等にいきなり攻撃されたんだよ。『フジモトさんやコンノさんの仇だッ!』とか言ってな!」
木魂に美貴は眉を吊り上げる。
「な・・・・?私達の仇?・・・・」
菅沼をさゆみの姉を殺した犯人と思い違えたって訳じゃなかったのか?
ヤバイ・・・・方向が変わって来てる・・・

「その場でやられたフリをしてたんだ。それで向こうが仇を取った気にでもなればそれで済むだろうし ・・・だが人が集まりすぎた・・騒ぎが大きくなり過ぎたんだ・・最中に警察を呼ばれた・・・
 あのままだったらあの子等は未成年でも引っ張られかねない。こんな事で賞罰なんてあんまりだ!
 だから加害者から被害者になってもらった、それだけだ・・・」
黙々と紡がれる菅沼の言葉に美貴はやり切れなくなって来た。
「あんたは・・・それで良いのかよ・・・」

「俺は旅人だからな・・・どうでも良い。そんな事よりお前の学校の生徒・・『演劇部』の連中が
 随分と動き回っている・・・俺を探しているみたいだな?」

「ああ・・皆、練習もしないで『革ジャケットを着た不審者』を探してるよ・・・」
美貴は苦苦しく答えた。
「そうか・・お前の仲間は俺を探せる能力を持っている奴も居るみたいだしな・・・・ここにも
 長居は出来ないみたいだな・・・」
菅沼の木魂か悲しく響いた。
「どうするんだよ・・・?」
木魂のする方を向いた美貴の目の前に紙片が突き出された。
「今から全てを終わらせる。このシナリオ通り、頼むぜ!『演劇部』!!」
紙片に目を通した美貴の顔が曇る。
「アンタ・・・・本気か?」 


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬF〜

12月22日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室

校内は何時もよりも静寂に覆われていた。
その中を壁を伝いながら美貴は部室の扉を開く。

部室には吉澤ひとみが一人、黒板の傍で俯きながら椅子に腰掛けていた・・・。

「よっちゃん・・・」
その弱弱しい声に吉澤は慌てて美貴に駆け寄り身体を支えた。
「ミキティ!大丈夫かよッ!?まだ退院は早すぎるんじゃ無いのかッッッ?!!」
吉澤は美貴の様子を見て叱り付ける様に心配をする。
美貴の涙袋がピクリと小さく上下した。

「私は大丈夫・・・それより大変なんだ!急いで皆を此処に集めてくれッ!時間が無いッッ!」
袖を強く握りながら訴える美貴の言葉に並々ならない状況を悟った吉澤は机の上の『信号弾』を
手にし窓から3発、空に向かって打ち出した。

「緊急招集の『黄色3回』・・・直に皆、戻ってくる。それより先に用件だけ聞いておこうか・・」
椅子を引いて美貴を座らせると相向かいになるように吉澤は椅子に腰をかけた。
「・・・昨日、私達を襲った『不審者』が言い残していった事なんだ!アイツはまた此処に来る!
 アイツの狙いは『弓と矢』・・・それと自分以外の『スタンド使い』なんだ・・」
その発現に吉澤は不快さを露わにした。
「それ・・・本当?」
場が殺気立つ。
吉澤から発せられる殺気に美貴は一瞬、呑まれたがシナリオを続けた。
「どう言う経緯で『弓と矢』の存在や『私達の事』を知ったのかソレまでは解らない・・
 けれど去り際にそう言い残して行ったんだ・・・だから皆バラバラに行動するのはマズイ!」
美貴は椅子から立ち上がって吉澤に事の緊急さを説いた。
「なるほどね・・・理屈は通っている・・・何人かで固まっていても危険かもしれない・・・。
 ありがとう。実は考えあぐねてたんだ・・打って出ることのほうが倒せれば早くカタは付く・・
 だけどリスクのほうが大きいんじゃないのかってね。」
浅く座って椅子の靠れかかった吉澤は俯いて溜息を一つ吐いた。
「じゃあ『弓と矢』の管理はどうしょう?道具室に有るがこのままってワケにも行かないな?
 寺田のおっさんに預けるのも私は気が引けるんだ・・・。ミキティ、何か意見は?」

「私は隠さないでむしろ『餌』に使うべきだと思う!」

「餌?・・・誘き寄せる為の?」
その発言に吉澤は椅子から立ち上がった。
「危険すぎかもしれない!だけどアイツは今にでも『弓と矢』や私達を狙っている・・。
 だったらここで迎撃する方法を取るのがベターだと思う!」
美貴の発言に吉澤は顔を曇らせる。
「だが・・・・全員、此処に居ると言うのは・・・」
吉澤の言葉を遮る様に扉を開く音が響いた。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬG〜

12月22日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室

勢い良く扉が開きざわついた会話とその空気が流れ込んだ。
「あれー!なんで藤本さんがおるん?」
高橋愛が素っ頓狂な声を上げ、釣られるように後続の部員が騒ぎ出す。

「緊急事態なんだ!お前等、早く部室に入るんだッ!!」
吉澤の一喝で静寂が起こり部員達は部室の中に納まった。

「『狩り』から戻ってもらったのには訳が有る。昨日『不審者』に襲われた藤本が奴の目的を
 聞いた!その事で皆には此処に戻ってもらった、ここまででヤツを発見、もしくは情報を得た者は
 居るか?」
車座に座ったその中央に居る吉澤の問いに答えるモノは居なかった・・昨日の夜、亀井、道重
両名が襲われて以来『消えたように』姿を消し去っているのだ・・・

「『もうこの町には居ない』という訳ではないのですか?」
久住小春が立ち上がって意見を述べる。
「ソレは無い!何故ならヤツの狙いは『弓と矢』と『自分以外のスタンド使い』だからだッ!」
強い口調で吉澤は言い放った。
その内容に、にわかに周囲がざわめく。

「コレはミキティがヤツの口から聞いた情報だ!ヤツがどう言う経緯で『弓と矢』の存在を知ったの
 か?それはどうでもいい、俺が許せないのは自分以外のスタンド使いを潰すっつー傲慢さだッ!」
吉澤は額を歪めて怒りを放出する。
その殺気だった風景に誰も声を上げる事が出来なくなっていた・・・・

突然扉が開き派手な音を立てる、その無神経な行為で重い空気が突然払われた。

「ど〜も!『不審者』でーす!!!!」
その発言いや出来事に皆、呆気に取られ動けなかった・・・
『革ジャケット』の男はお構いなしにスタスタと部室内、車座の中心に歩き出す。

「ヤ〜ヤ〜・・・どうも!」
その『不審者』はにこやかに吉澤に近づく。
「てめえが『犯人』か?」
吉澤は有りっ丈の殺意を『不審人物』に注ぐ!
「そうカリカリすんなよ。お前には用件は無いんで寝ててくれ!」
その瞬間、不審者の右腕が消えた!
吉澤の目はソコに行ってしまった!

カチィイイイィィイン

軽い音が響き不審者の拳が吉澤の顎を打ち抜く。
吉澤は2、3回、頭を揺らすと卒倒してしまった・・・・

「さてと・・・それじゃぁ・・・」
不審者の手が伸び近くに居た美貴の腕を掴み引き寄せる!
銀色の巨大な鋏が美貴の咽喉に突きたてられた。
「オラァア!!!!!『弓と矢』を出せェェェ!!!じゃないとコイツの命はねーーーゾ!!」
陳腐な台詞が部室に響いた。


銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬH〜

12月22日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室

ざわつく部室、その中央では『侵略者』が藤本美貴の咽喉に凶刃を突き立てていた。

「そんなコケ脅しがあっし等に通用すると思ってンがッッ!!!!」
高橋愛の怒号に合わせる様に『演劇部員』達は一斉に自らの『スタンド』を発現させた。

「俺は『弓と矢』を出せって言ってんのに・・・じゃあこう言う趣向で行くか?」
パチン。
侵略者が指を弾く音を合図に部員達は冷たい銀の戦慄を突き付けられた。
全員の咽喉に小ぶりの鋏が開いた状態で押し付けられたのだ・・・

「お前等が少しでも変な動きをしたら動いた奴以外の鋏が閉じるぜ・・・」
侵略者は冷たい笑みと浮かべた。
「さぁ・・・・状況確認はこんな所で・・・早く『弓と矢』をここに持って来い。」
全員の命が握られている・・・この状況で逆らえる『能力』を持っている者はここには居らず
従うしか無かった・・・・

新垣理沙が道具室から麻で作られた袋を侵略者に差し出した。
「これが・・・『弓と矢』なのだ・・・」
侵略者はひょいと袋を受け取るとすぶさに中身を確認した。
古めかしい弓、妖気を帯びたような矢。
「これが・・・弓と・・・矢・・・。『これで力は永遠になる』」
そう言った途端、手にしていた鋏が巨大化し矢じりの部分をシュレッダーの様に細かく刻み始める!
刻まれた金属片はキラキラと光を放ちながら大気に霧散した!!

呆気に取られた部員達は状況の変化に気付かなかった・・己達を拘束していた鋏が消滅していたのだ。
いや正確には『侵略者』の手元にスタンドエネルギーが収束したために自分達からは消えたのだろう。

「テメエの注意が削がれる!この瞬間を待っていたぜッッッ!!!!」
いち早くその状況に『気付いた』美貴が侵略者に踊りかかる!
「何ぃぃい?」
迫り来る美貴の気迫に押された侵略者はたじろぎ後ずさりした。
「おぉぉおおおおおおおおおお!!!!!ゴールデンゴール決めてぇぇえええ!!!」
藤本美貴のスタンド『ブギー・トレイン・o3』が銀色に煌く!!!
「コレで!全てを終わらせる!VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!」
ブギー・トレインの拳撃が侵略者に打ち込まれる。
その威力、迫力に侵略者の身体を激しく振動させる!

「ぐぎゃぁあぁぁぁぁぁあぁあああああああああああああああぁああッッ!」

衝撃に耐え切れなくなった侵略者の身体は宙に吹き飛び窓ガラスをブチ破り三階の高さから落下した。

「はぁ・・・はぁ・・・馬鹿・・・・野郎・・・」
美貴は床に膝をついて呼吸を整えた・・・・

部室内が安堵の空気に満ちる。
正体不明の『侵略者』は『弓と矢』を破壊したものの皆が見ている前で疑いようの無いほどに
ブチのめされた・・・近距離型のラッシュ、加えて三階の高さからの落下。誰もが侵略者の終わりを
感じていた・・・これで『死なない』訳が無いと・・・。

「美貴姐ェッ!大丈夫と?」
後輩の田中れいなが美貴に駆け寄る。
「こんな位・・・どうって事ねーよ・・」
美貴はゆっくりと立ち上がり顔を上げた。

「・・・つまんねー台本書きやがって・・・・・大馬鹿野郎・・」
美貴は誰にも聞こえないような小声でそう呟いた・・呟かずには居られなかった・・

「どうしたと?痛かとですか?アイツに攻撃されたとですか?」
れいなの発言に美貴は一瞬、何を言っているのか解らなかったが直ぐに気が付いた。
「何だよ・・・これ・・?」
顔を幾筋もの水が流れていた。

涙が・・・・止まらなかった



銀色の永遠 〜地を這う者に翼は要らぬI〜

12月25日  ぶどうヶ丘高校 体育館

「おぉ〜お。やってるやってる・・・」
白いフリルの付いた妙なジャケットをきた男が体育館の扉を押し開いた。
文化祭の季節でもないがここの学校の『演劇部』がクリスマス公演ってのをやってるらしい・・
そんな話しを町で聞いたので足を運んだのだ。

「どれどれ・・・フジモトはちゃんと出来てるかな?」
男は星型のサングラスをずらして舞台の方に目を遣った・・・・
舞台を観ては居るが決して中には入ろうとせずに入り口で扉に身体を沈めるように、奇妙な体勢で
観劇をしている・・まるで自分の存在が向こうから気付かれないように・・隠れるように・・

「さてと・・・行くか・・」
終盤に差し掛かった所で男は踵を返し体育館を後にした。
冬の風が冷たい・・・男は先日短くしたばかりの髪を弄りながら寒さを実感していた。

「そろそろ俺は俺の世界に・・帰るか・・・」
男はそう独り言をいいながら駅に足を向けた。

この数日で色々あったな・・・この町に逃げ込んで・・・暫くしたら『未来から飛んできた』とか
言い張る『フジモトミキ』ってのに逢ってから・・随分と奇妙な体験をしたなぁ・・・
もっとも俺みたいな『能力者』が居たってのが一番驚いたがな。
『スタンド使いは引かれ合う』か・・・
 
             ドンッ!

「ッッと!」
色々と考えていた所為か前を歩いてる奴と肩が当たった!
「オイ!コラァッ!テメエ何処見て歩いてんだァッッ!!」
何だ?この派手な赤い髪のヤツは・・・?
「すまない。」
男は凡庸に謝罪すると赤い髪の男は苛立つようにその場を去った。
「ったくよ・・・・門出だってのに」
男は再び駅ヘの道のりを歩き始めた・・・

冷えた突風が男を襲う!
「うう!寒い!これはもしかしたら・・・来るかもな!」

男の予想通り目の前に白い結晶が舞い降りた。
「・・・雪か・・・何年ぶりかな・・・?」
妙に嬉しそうに雪空を見上げた・・

「ふふ・・・千年紀末に降る雪・・・か」

男は笑いながら自らの居るべき場所へと走り出した。



                          菅沼編 完


























「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」

俺の身体を誰かが揺する。
気が付く。
ここは?え?俺、駅に向かってたハズだろ!何だ??

「気が付いた様ですね!良かった・・・あなたは急に此処で倒れたんですよ!」

「そうだったんですか・・・済みませんでした・・『神父さん』」

「いえ、礼には及びません。神に仕えてる身でなくても困っている人を助けるのは当たり前ですよ。」

俺は礼を言いその場を後にした・・・





「『完全な不死』の能力とソレを『断ち切る』能力か・・・」
『神父』は懐から二枚のDISCを取り出すと独り言のように呟いた。
「それがアンタが目ぇ〜付け取ったヤツの能力かいな?」
チンピラの様な派手な服装をした男が神父に話しかけた。
開いた上着の内側に妙に光るモノが有る、貴金属にしては大きすぎる・・・まるで矢じりの様だった。
「あぁ。だが彼の生き方を見せて貰ったが『死なない』という事は私が目指す『幸福』とはかけ離れて
 いた・・・彼も望んで居た様ではなかったようだ・・・」
神父はDISCを懐に仕舞うと深く溜息を吐いた。
「なかなか大変そうやな?あんたの願いは?」
茶化すようにチンピラ風の男は神父に言い放ちケラケラと笑い始めた・・・

その声は冬の宇宙に舞う

悪夢は終わらない