銀色の永遠 〜クレナイの葬送曲〜

第2小節:夜のヴィブラート

時は僅かに遡る・・・・

8月28日深夜:

ざりざりざり   

漆黒の闇の中、校庭の砂を蹴る音だけが響く。

ざりざりざりざり
 ざりざりざりざり

踏みしめる音は二つ・・・・・・闇を切り裂きながら

ざりざりざッ!

足音が止まり、渦を巻く様な重苦しい空気が張り詰めた・・・・。


「へぇ?雑魚共がビビらずに良く来たじゃネエか?あぁ?」
顔面を包帯で覆った少女が足音の主たちを覗き込むように語りかける。
「人を呼びつけておいて何だ!?そのクチはッ。脳死寸前だったんじゃあ無いのかヨッ!!」
金髪の少女はその巨大爬虫類のような眼光を睨み返す。
「折角み〜よが自主的に退院までして話をしに来てやってんのやで。もっとありがたがらんと。」
茶色の長髪の少女が髪をクルクルと玩びながら嘲笑う。
「・・・・・・・私達は『話し合い』に来ました・・・・ですがどうやら其方にその心算は無い
 ようですね?」
黒髪の少女は一歩下ると深く腰を落とし『準備』を整えた。

            ガッ!

三好絵梨香が紺野あさ美の肩を強く掴むッ。
「『話し合い』ッつたろ?」
一瞬、一瞬の出来事であった。
三好絵梨香と紺野あさ美の間合いは決して近い距離では無かった!
その間に居た小川麻琴にも感じえぬ程の速度で三好絵梨香は移動し紺野あさ美の肩を掴んでいた、
のだ・・・・・・・・

ギリ   ギリリ

万力の様なその力にあさ美の顔が見る見る蒼ざめる。
「やはり・・・・・やはりですね。この力・・そしてスピード・・・・・三好さん・・・貴女は
 『あの事故』以来、脳内物質を自在に操れる能力を身に付けたのですね。・・・そしてチューン
 された貴女自身の能力が『無敵』ともいえるスタンド能力に反映している・・・違いますか?」
その言葉に口元を歪めた絵梨香はまるでカバンを投げつける様にあさ美の身体を放り投げた。
「フン!ガリ勉がッ・・・・・それじゃあ65点止まりだ!」
ニヤニヤと獰猛な笑みを浮かべながら三好絵梨香はあさ美を見下す。
「そうやで?何で私等がコンビかっちゅーコトに気を配って貰えんもんかいな?」
岡田唯は三好絵梨香に歩み寄るとスっと肩に手を置く。

「つまりは岡田が三好を支配して操っていたってことか・・・・・
 親友だ仲間だとかいっておいて持ち駒にするとは・・・狂ってるとしか言いようがねェナoi?」
投げ飛ばされたあさ美を引き起こしながら麻琴は悪魔のような二人を睨んだ。

「支配て・・・・・・・言葉には気ィつけえよ?金髪?私が施したのは損傷が進んで機能しなくな
 った部分の『補強』。脳内物質の操作はみ〜よの能力やで!」
口では笑みをうかべては要るが唯の眼は確実に麻琴を狩りの標的にしていた。
「唯やん、その辺にしておきなよ。今日は『話し合い』に来たんだ・・・・・殺すのはコイツ等が
 条件を呑まなかったトキ・・・・・・だろ?」

「・・・・そうでしたw」

ド ドドドド    ドド  

   ド ドド
ドド    ドドドドド   ド  

空気がドス黒い邪気を孕む・・・・・・

その渦が小川麻琴と紺野あさ美にノシ掛かる。

「これが何か解るか?」
唯が右手をしゅるりと上げる・・・・・その手首には一匹の蛇が絡み付いていた。
「まさか・・・・・それは・・・・」
あさ美の咽喉がコクリと鳴る。
「そのまさかやこれがスタンド能力を生み出す『毒』を持つ蛇・・・『ライナーノーツ』や。」
唯は『ライナーノーツ』を高く掲げる。
「それが石和城和定の切り札・・・・・・・あなたはソレを強奪するためにあの男に取り入って
 いたのですね?」
 あさ美は緊張に乾く唇を押えながら問う。
「答えろッ!!!!!お前らは何のために弓と矢の代用品を手に入れたッッッ!!!!」
二人を押さえつける邪気を振り払うように麻琴は怒号を上げる。
「『寺田光男を抹殺する組織』を作る為、・・・・・だよ。」
遠くを見つめる視線で絵梨香はそう答えた・・・・・・・。

「ッッッッッッ????」
想像だにしなかったその答えに二人は絶句した。

絵梨香の言葉に合わせる様に唯が指をパチンと鳴らす。

ザッ!

唯と絵梨香の背後に数人の少女が姿を現す。

「こいつらは石和城和定が集めた『ライナーノーツ』のメンバーだ・・・・・
 唯やんの能力で私達の支配下に有る。」

「敵集団の乗っ取りか・・・・・・何にも解らないその子達を『洗脳』して利用する。
 その行為はなんら寺田と変わらないッ!」
絵梨香の言葉に麻琴はキリと歯を軋ませる。
「目覚めろよ・・・・たった2人で何が出来る?
 寺田を徹底的に叩くには個人では話に成らない・・・・・『組織』だ・・・
 寺田の能力以上の力を持つ組織を作らなければならない・・・・」
絵梨香は視線を二人に合わせると穏やかな口調で語りかけた。
「そうやで・・・・わたしとみ〜よは寺田に懐柔されるフリをしていたんや・・
 機会をずっと窺い続けた・・・そして対抗策を捜し求めていた・・・・」
唯は毒蛇を見つめながら何時に無い真剣は表情をした。

「だからって・・・・・・お前等は何をしてると思ってんだッ!!」
麻琴はそんな二人を弾劾するッ。
「わたしとみ〜よには時間が無いけぇ・・・手段は選ばれへんのや・・・」
真剣な表情を一変させ侮蔑的な表情で唯は二人に笑いかける。
「生ちょろい論理は通らないさね!」
その笑いに乗るように絵梨香も声を上げて笑い出す。

「グ・・・・・」
狂気に満ち満ちた嗤いに麻琴は気圧される・・・・。
「あなた達は寺田に対抗しうる『組織』を創った・・・・のですね?」
落ち着きを取り戻したあさ美は凛とした眼で凶獣達を見つめる。

「そうだ・・・・・お前等も来いッ!
                   『新演劇部』へッ!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴ

    ゴゴゴゴゴ
ゴゴ

「『新演劇部』・・・・・・だと・・・・・・?」
一言一言を噛み締めるように麻琴はその言葉を紡ぐ。
「そうだ、寺田の作った演劇部を食い潰す組織・・・・『新演劇部』だ・・・・・・」
凶暴な瞳のまま絵梨香は麻琴に笑い掛けた。
「食い潰すだと?正気かよ?お前は寺田だけじゃなく『演劇部』と戦争する心算なのかよ?」

「麻琴・・・・お前は何にも理解っていないな?あそこは砂の城なのさ。」
絵梨香の瞳から炎が消え冷め切った視線を麻琴に送る。
「ッ?」

「お前等がこっちに付けば高橋愛や新垣理沙はどうするだろうなぁ?」
絵梨香は視線を揺るめる・・・・・
「・・・・・・最初からその心算だったのですか・・・・・・」
あさ美は憎々しいそうに眉を顰める。
「ふふ・・・・どうなりまっしゃろなぁ?あの御人好し共はあんたらと刃を交わしますやろか?」
その歪めた眉をさも嬉しそうに唯はにやにやと笑みを浮かべる・・・
「お前等を引き込めばお前等のチームも引き込む事になるッ。藤本も、亀井も、田中も
 道重もこちら側に付かざるを得ない・・・・・・中坊共だってそうさ、雅がこちらなら何人が
 寺田側に残るか・・・・」

「お前等は人質と仲間の区別が付かないのかoi?」

「強引ですね、それで勧誘している心算なのですか?」

「はッ。勧誘も何もないで?断った時点で終わり・・・・残念ながら選択の余地は有りません!」
唯の背後の影が蠢く・・・・。

「力で屈服させて逆らえば殺すッ。そんなやり方に誰も付いて気はしないッ!!!」

「別に・・・・私達に付いて来る必要は無いさ。私達は器を創るだけ!後は石川さんを天辺に飾
 れば立派に組織として機能するさ。」

「石川さんまで巻き込むのですか・・・・・・?あなた達は何処まで・・・・」

「切れてるだろ・・・・・石川さんが頭なら吉澤も出ようが無いッ!つまり寺田側には誰もつか
 無いってことさね。そして寺田の能力が如何に強力でもこれだけの人数で一斉にかかれば確実に
 倒せる。」
絵梨香は指で頭をコンコンと叩きながら口を歪める。
「ッッッ!?策も無しに寺田と正面衝突したらどれだけ犠牲が出るかッッツツ!!!!」

「はぁ?馬鹿かガリ勉?寺田相手に犠牲を出さないで立ち向かえると思ってんのかァ!!!!」
嘲る様に絵梨香はあさ美を怒鳴りつけるッ!
「誰も犠牲を出さない為に私達は動いてきたんだッ!あんな外道の為に誰かが死んで良い訳が無い
 だろうッッッ!!!!!!!!」
凶獣達の言葉に麻琴は吠えた。
「滑稽やわ!ここまで来てそんなキレイゴトが通じると思うてんのか?」
唯の狂った笑い声が闇夜に木魂する

プッ
  プップ・・・・・・
それに同調するように紅い飛沫が舞う・・・・・・。

「な・・・・・え?」
口を伝う違和感から唯はそれが自分の口から出ている事に気付く・・・。
「唯ッッッッ!!!!!!!!!!!!」
絵梨香が叫びながら唯に駆け寄る。

唯の胸から白く光る・・・・・銀の剣が飛び出ていた・・・・・。


「・・・・・・ぷッ   ぱ!」
唯の口と鼻から血液が止め処なく溢れる・・・・・・気道を埋め尽くしている血液は唯をじわじわ
と窒息させていく。
「唯ィィィイイッ!!!」
唯の背後に人の頭が見える・・・・・・本来なら『敵』を叩き潰してから助けるべき・・・・だが
絵梨香は本能的に唯の身体を強引に引き抜き抱き寄せた。
出血のショックに唯の身体からは力が抜け落ち四肢をダラリとさせていた。
「クソ・・・・・・・『ガマン』しろよッ!」
絵梨香の背後に赤黒い人影が灯り紐の様なものが唯の口に滑り込む。
「アガッ!?」
唯の身体が仰け反り口から煙が立つ・・・・・・・・。
「良し!気道修繕!」
唯を下に向かせると絵梨香は肩甲骨の部分をバンバン叩き血反吐を吐き出させた。
「ぐぅッツ         はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
ベチャベチャと地面を赤く染め、血反吐を吐ききった唯の呼吸は脆弱ながら回復し始めた。

「あらら?致命傷を与えた心算だったんだけど・・・・・・・・面白い事が出来るんですねぇ?」
黒い髪を耳にかける仕草をしながら唯の背後に蠢いていた影は一歩、近づいてきた。

「てめぇ・・・・・・・なんでコード2の呪縛が・・・・・」
唯を地面に寝かせ絵梨香は怒りに満ちた表情で少女を睨んだ。

「・・・・・・・・コレ?」
少女は掌の緑の部品を絵梨香に見せた。

「ッ?」

「実は前から効いて無かったんですよね。コレ。・・・・でも『ライナーノーツ』を奪還する為に
 あえて操られてるフリをしてたんですよ〜・・・・」
少女は手に絡みついた蛇を見せながらニヤニヤと笑みを浮かべる。

「私の名は『志田未来』!」

「福田麻由子!」

「小池里奈!」

「北乃きい!」

「美山加恋!」

蠢く影はその形を現すッ。


第2小節:夜のヴィブラートA


「私達、五人はこれより貴女方『演劇部』を皆殺しにします。」
志田未来は銀色の剣『タヒチ80』の切っ先を『新演劇部』に向ける。
「はぁ?「これから私達は皆殺しにされます」の間違いじゃねーのか?この誤字野郎ッ。」
三好絵梨香は岡田唯を肩に担ぎゆっくりと立ち上がる。
「そうやでッ。後ろから刺しくさりやがって・・・・この痛みはオドレらの臓物引き摺りだして
 断末魔を聴かんと紛れそうに無いわ!」
怒りで身体を震わせる度、唯の服の裂け目からボタボタと血が滴る。

ザッ。

      「!?」

「oi!病人と怪我人だけで何か出来る心算なのかヨ?」

「そうですよ。あの子達は『演劇部』をターゲットにする。と言ったのです。だからこれは私達
 『演劇部全体』の問題ッ。三好さんは唯さんを病院へ!ここは私達が!」
唯と絵梨香のを庇う様に小川麻琴と紺野あさ美は立ち塞がる。
「よ・・・・余計なコトを・・・・・」
絵梨香は麻琴の肩を掴んでその身体を払う。
「こんなのはダメージの内にはいらへんえ!私はまだやれるでッ。」
血に汚れた手で空を掻く様に唯は手を振るう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何だか・・・うっとおしーね。ああいうの。」
志田未来は剣を肩にポンポンと当て4人のやり取りを喜劇でも見ている様に笑みを浮かべる。
「演劇部とかいう集団だから全員がこういう友情の押し売りみたいな事やってんじゃないの?」
福田麻由子は爪を噛みながら冷え切った視線で4人を見つめる。
「真剣味に欠けるね・・・・・・ねぇ?ねぇ?未来ちゃん?こんな何時でもやれる様な奴等より
『アイツ等』の方が厄介なんじゃない?」
小池里奈は未来の袖を引っ張りながら不満を漏らす。
「どうでもいいけどさ・・・・とっととやっちゃおうよ・・・・・」
北乃きいは小型の冷蔵庫程のトランクケースを地面に置くとソレにどっかりと腰をかける。
「・・・それじゃあ一気に行きます。未来ちゃん、麻由子さん、里奈ちゃん、北乃さん・・・・
 『その位置』より少しでも離れると大変な事になりますよッ。」
そう告げると美山加恋は手に在るブルースハープに口を付けた。


ファープァァァアァファファワァァーーーーワワプァパァーーーー・・・・・・・

リードの響きが闇夜を揺らす・・・・・・

「あ・・・・・あがが・・・・止めろ・・・・・・この音を止めやがれッッッ!!!!!」
まるで駆除剤を撒かれたかのように絵梨香は苦しみだし、顔の包帯をバリバリと剥ぎ取り始めた。
「あかん・・・・・・み〜よ・・・・包帯・・・・を取ってまったら・・・・・」
口や鼻・・・・胸から大量の血液を流し息も絶え絶えになりながら唯は絵梨香の掻き毟る行動を
止めさせようとする。
「何だ?・・・・・ワタシの身体は・・・・・行き成り・・・・どうなっちまったんだ・・?」
激しい痛みが全身を奔り顔面蒼白になった麻琴はその場で嘔吐した。
「『スタンド攻撃』ですッ!!皆さん・・・・その場から離れてください!!!」
あさ美は平衡感覚を失った身体を何とか支えながら叫んだ!!


「あは・・・・・『離れてください』だって。知らないってコワいねぇ?美山ちゃん?」
北乃きいはあさ美を嘲笑いながら美山加恋の肩をポンと叩いた。

ガッ

「あばッ!!!!!」
きいの頬に加恋のハーモニカ型スタンド『 ブラック・カプリコーン・デイ 』が叩き込まれた!
「・・・・・困るんですよね。『ネタばらし』になるような事は少しでも言われると!」
加恋は冷めた目付きできいを睨み付けた。
「別にッ・・・・そんな心算で言ったわけじゃないケドさ・・・・どーしてくれんの?コレ?」
きいは腫れた頬を触りながら加恋を見る。
「・・・・・・・・・・・」
加恋は無言のままきいを睨み続ける。
「確かに広範囲攻撃なら年下のアンタのほうが強いかもしれないけど・・・『対マン』だったら
 あたしの『ブードゥーキングダム』の方が遥かに強いって事を忘れてんじゃないのかッての!
 このクソガキがよぉッ!!!」
乱暴にきいは加恋のブラウスの襟首を掴み恫喝した。
「私がクソガキならあなたは何なんですか?一度に一人しか倒せない無能のクセにッ!!」
加恋はブラウスを掴んだきいの手を強く握り引き剥がそうとする。

スッ・・・・・・ と音も無く二人の目線を白刃が遮った!

「そこまで!・・・・今は『どっちが強いか?』を決めてる場合じゃないの。」