銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪は@〜

part1:『蟻と鋏』

12月23日 AM10:30
ぶどうヶ丘高校 校門 

早朝・・・・という時間では無いがこの日は風が強く道路は夜の冷たさを残していた。

一台の白いミニバンが校門に近づいてきた・・・
排気が唸りタイヤが夜の残り香を蹂躙する。
ナンバープレートが妙にカタついて震える・・まるで『取り外して違うモノ』を付けたように・・・

ミニバンは校門を少し離れた所で停止し中から二人の男がドアを開けて降車した。

「あー。腰が痛ェ!!ったく!車出すなんつーからどんな車かと思えば・・・・」
「うるせーよ!これは仕事用の車なんだからしょうがねぇだろォ!」
「仕事ォ?」
「金、借りて返さねーよーなのをとっ捕まえるのにバンが便利なんだよッ!」
「・・・『身柄を拘束』ってか?怖い怖い・・・」

「で?これからどーやって『始末』を付けるつもりなんだよ!」
「俺はここまでの案内を頼んだだけだぜ!もう帰れよ・・・・」
「帰れだと?ふざけるなよ!俺が何でここにお前を連れてきたのか解ってんのか?」
「あー?」
「お前がどんな馬鹿をやるかそれを見ていたほうが債務者追っかけてるより面白いからだって事よ!」
「・・・・お前と一緒だと目立ちすぎるンだけどなぁ?」
「お前のソレよりマシだろ?」
菅沼はやたらとフリルの付いたジャケットを指で触れながら答える。
「しょうがねぇだろ?『姫』の所で見繕って貰った中でもこれ位しか着れるモンが無かったんだよ。」
「いやソレじゃねぇよ・・・」
「コレか?」
星型の派手というよりもセンスを疑われるようなサングラスに指を掛ける
「ソレもそーだがお前の髪型を言って居るんだわ・・・」
伊達の目線は菅沼の頭に行った。
菅沼の頭は左右が刈り込まれている異様な頭髪をしていた・・・・
「だぁーから俺は『演劇部』の何人かに顔が割れてるンだよ。解るか?
 コレ位やらんと潜入なんて出来ないンだよ!」

「だからってモヒカンはねーだろ?」
伊達は呆れた様に溜息を付いた・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はA〜


12月23日 AM10:35
ぶどうヶ丘高校 校内

「おい?学校ン中に入ったのはいいけどサ?お前、場所解るのか?」
伊達は黙々と歩みを進める菅沼に問うた。
「わかんねーよ。・・・だから聞き込み・・まぁ取材っつー『設定』で頼むわ!」
伊達の方を見ずに菅沼は手をひらひらさせて答えた。
「『設定』ィ?」
「そう『演劇部を取材する短波放送のDJ』とこいうのを頼むワ!」
「なんだそれェ?」
「ホソキのオバちゃんが接触した『タナカレイナ』ってのに色々と答えて貰う。」
「・・・大丈夫なのかよ・・・」

あまりの突飛な発想に一抹の不安を覚え始めた伊達は帰りたい気持ちと
馬鹿騒ぎに付き合いたい気持ちに揺れ始めた。

「それより・・・・何だか・・・やべーなぁ?」
辺り・・・壁や柱を見回しながら菅沼は不穏な空気を感じていた。
「あぁ・・・・なぁ〜んだか・・・嫌な感じだぜ・・・何だか知らんがよ。」
空気の澱み具合に同意した伊達は咽喉の乾きを覚える。

「菅!ちょいと水が飲みたい!」
「あぁ?・・・どうぞ!」
廊下の有る給水所の蛇口を捻る・・・冬休みの為、使ってないからなのだろうか?
やたら塩素の臭いが強く感じる水が溢れてきた・・・・
「こりゃひでーな?ったく!」
ゴブゴブと勢いよく水を飲み干す伊達に菅沼は耳打ちするように声を掛ける。
「さっきから思ったんだが・・・・人が居ないよな?」
「あぁ・・・・単に年末だから・・・・てだけじゃないな?」
口元を拭いながら伊達は答えた。
「犬どもはいつでもココ来れるが・・・・お前の方は?」
「心配無用だぜ〜。少なくともこのフロアを占拠出来るくらいの蟻は仕込んでいるって。」
パチンと指を弾くと伊達の周りに黒い塊が集合する。
「まぁこいういう事だ・・・」
もう一度指を弾くと潮が引ける様に蟻の満ち潮は姿を消した。

「ここは『アイツ等』の領域だからな・・・何が起こるか解ンねー・・・用心に越したことは・・」
そう言いかけた菅沼の横を人影が横切る。
     女生徒!
待ちに待った『情報提供者』だ!
菅沼はチャンスを逃すまいと少女に声を掛けた。

「いきなりで申し訳ないんだけど『エンゲキブのタナカレイナ』さんって知っているかなァ?
 あッ!俺?こんな格好だけどこういう仕事をしてるんで・・よろしく!」
菅沼は相手に拒絶の反応が出る前に偽造した名刺を少女に渡した・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はB〜

part2:「死神の鎌」

12月23日 AM9:15
ぶどうヶ丘高校 演劇部

今日は早くから練習が有る訳でもなく通常通りの練習だった。
たった一日・・・・彼女一人の活躍で劇は殆ど完成してしまったのだ・・・
それもこれも仇敵の『後藤真希』の活躍だ。
という事実に虫唾を走らせながら三好と唯はいつもの様に部室の扉を開く。

戸を開ける音が響く

ガランとした部室の中央に部長の吉澤ひとみが居るだけだった・・・

「な・・・・これは・・・・どない事ですか?」
一瞬絶句した唯は中央に佇む吉澤に問いかけた。

「今日は・・・誰も来ないぜ・・・・」
鋭い視線を唯に向けた吉澤はそれだけを言って沈黙した。
重い沈黙だった・・・

「どう言う事か?唯やんはそう聞いたンだけど?」
三好は吉澤を怒りに満ちた視線で穿つこうとする!

「・・ミキティの見てきた『未来』を聞かされていない・・そしてノコノコ此処に来たって事は
 麻琴やコンコン、ミキティを襲ったヤツってのはどうやらお前等みたいだなぁ?」
三好の視線を押し返す程凄まじい圧力が吉澤の眼から発せられる。

ガラスのイヤな引掻音の様な空気が音を立てて硬化する!

「何を証拠に・・・その起こるかどうか知らんような『未来』が証拠・・でっか?」
気圧されながら唯は吉澤に問う・・・・
「見てきた『未来』を確認する為に俺は此処に居るんだよッ!」
吉澤の咆哮に合わせて空を切った<衝撃>が唯の髪を掠めて後ろの壁に激突した!
「てめぇ!吉澤ッッッ!」
三好のスタンド『シーズン・オブ・ディープレッド』が周囲の空気をその熱線で歪めながら出現する!
「三好・・お前・・3日前・・『コウダ』っての殺したろ?ここはな・・・・・
 ・・・・殺人集団じゃねぇんだよッッッッッッッツッ!!!!」
吉澤の蹴り放った<衝撃>が三好の顔面を襲う!
「ぐッ!」
避けきれない事を悟った三好は<衝撃>をガードして凌いだ。
ボクゥ!
弾かれた<衝撃>は宙に舞う!
「HEY!待っていたぜ!」
吉澤は其の身を空中に舞わせる!
「!?」
一瞬!視界が影で覆われる!
三好の視界が再び光を浴びた瞬間ッ脳天に激しい衝撃が走る!
「うぐぅ・・」
ガードして弾いた<衝撃>を吉澤はオーバーヘッドキックの形で<衝撃>を脳天に叩き込んだのだ。
急所への攻撃に三好は膝から音を立てて崩れ落ちる。

「『スタンド』は法律にも見えないし解らない!だから俺が裁く!
 裁くのは俺の『スタンド』だァッーーーーーーーー!!!!」
 
 メキィアヤ!!!
鈍い音が鳴り響く!
落ちかけた三好の顔面をMr,ムーンライトのボレーシュートが強かに捉えた!


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はC〜


12月23日 AM9:23
ぶどうヶ丘高校 演劇部

弛緩した状態で<衝撃>を喰らった三好はそのままの姿勢で倒れた。
頭部への連続攻撃で脳震盪を起こして気絶しているのは必至の状態だった!

「さてと岡田、お前への尋問も終わっていないな・・・・・説明してもらおうか?
 ・・・・お前等は何をしようとしたのか。をな!!!」
吉澤は激しい威圧を撒き散らす!
「何を・・・でっか?決まってますやん。害虫駆除!『イロイロ』嗅ぎまわってましたやん?
 あいつ等は此処を喰い潰す虫やった・・・・・それだけですえ?」
唯は吉澤の放つ全てを薙ぎ払う様に笑みを作りながら答えた。

「・・・・・・てめぇ・・・・」

「そう怒り為さんな・・・そんなんで『部長』は務まりまへんえ?」

「あんさんはもっと部の為に考えるべきなんやあらしまへんか?」

そう言って唯は後ろ髪を掻き揚げる。
   ズギュ!!
鋭い何かが肉を穿つく不快音!
「おぉ・・・コード3・・・・・」
髪が逆立ち蔦が腱や筋骨を保護するように覆う!
「岡田・・・・その姿は・・・」
初めて見る岡田唯の新しい能力・・・吉澤に緊張が走る!
「部の為に為る事を優先出来ンような人は・・・・・部長の資格なんかあらしまへんえ!!」
と唯が言ったと同時に床から弾けるような音が聞こえた!!
「!」
颶風が吉澤に向かって吹きすさぶ。
『何か』を感じて身を攀じる・・・が顎の辺りに強烈な衝撃を受けて後方に弾き飛ばされる!
吉澤の身体は引力に惹かれる様に床に叩き付けられた・・・・
「あぁああぁ・・・」
衝撃に顎が割れ頚椎にダメージを負ったらしい・・・・
「あらまぁ・・・苦しまずにあの世に送ったろ思えば、変に避けるから・・・」
唯の声が吉澤に降りかかる・・・・・

  ガッツ!
「!!!」
吉澤の首が踏み躙られる!

「何て様ですか・・・・」
メリッメリッ・・・・
「?」
唯意外の何者かが自分の首を折らんとしている?三好の声ではない!
「・・・だ・・・だれ・・・」
メリッ!
「あなたは私に戦い方を教えてくれた・・そして凛々しくとても強い、そう思ってました・・・」
メリメリッ!
「あなたは私を導いてくれる・・・そう思ってたのに・・・」
メリッ!
「お・・・まえ・・・は・・・こ・・・」
「・・・・失望させるんじゃねェェェェエェェエェェェェェエ!!!!!!」
        ゴキン




「ふぅ・・初めて・・・・・人を殺した・・・けど想像してたよりなんて事ないですね」
少女は唯の方に視線を移す。その目は興奮が冷め遣らない事を物語っていた!
唯は嬉々としながら少女に話しかける。

「小春ちゃん♪良う出来たやん!・・・じゃぁ話した通り、出迎えの方頼める?」



AM9:30 吉澤ひとみ 死亡 


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はD〜

part3:「運命のうねり」

12月23日 AM10:43
ぶどうヶ丘高校 校内

「いや〜。声を掛けたのが本人だったとはねぇ〜!あはは・・・チョコでも食べる?」
モヒカンの男・・・ローカルラジオ局のDJ「木野 克己」はポケットから取り出した
チョコレートを「タナカレイナ」に差し出す。
「いや・・・結構です・・・・」
連れの赤い髪の男はだんまりをキメている・・・。

「じゃあタナカさん!ウチの番組の「突撃!隣のミナミちゃん!」ていうコーナーが有るんだけど
 それで君が推薦されたんだ・・・ちょっと『取材』したいんだけど・・・いいかなぁ?」
「木野 克己」の言葉に躊躇したような素振りを見せたが「タナカレイナ」は承諾した。

「あぁ〜善かった。断られたらどうしょうかと思ったよ・・・」
モヒカンの男はフリルの付いた妙なジャケットを手で撫で下ろして安堵のポーズを取る。
すると今までだんまりを決めていた赤い髪の男が何やら耳打ちをして話し出す。
「・・・おい・・・いいのかよ・・・聞いた話だと・・・」
「いいんだよ!『コレで』!!」
「木野 克己」は耳打ちを打ち消すように遮る。

「え〜とそれじゃあ「タナカ」さん。『取材』の許可を取りたいので担任の先生に会わせて貰えるかなぁ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

少女に先導されて場にそぐわない格好をした二人組が学園内を闊歩する。
見ようよってはロックバンドのPVにも見えるかもしれない・・・・
見ようによって・・・だが・・

三人組の前を用務員らしき男が通過した。
モヒカンと赤毛の二人を思い切り訝しみながら・・・
それを知ってか知らずか「木野」はヘラヘラと笑いながら会釈する。

「ここが職員室です・・・今日は部活が有るので居ると思いますが・・」
「あぁ。そうなんだ!じゃあ申し訳ないンだけど呼んで頂けるかなぁ?」

「タナカレイナ」は職員室に入ると直ぐに担任の寺田を連れてきた。

「なんなん?あんたらは?」
教師・・・とは言いがたい風体の男が革靴を響かせて「木野」達に近づく。
「おはようございます。私!こういうモノで・・・・」
寺田は差し出された名刺を手に取る。
「何や?・・・DJ?・・・なんやねんおま・・・」
お前等・・・と言いかけた瞬間、無数の鋏が寺田の身体を覆う。

     シャキィイイイイインン!

開閉音が響く
     その瞬きするような時間で寺田の身体は靴から上が消えてた。


「・・・・・・菅!・・・・おめぇ・・・・」
伊達は光景が信じられないように菅沼を見る。
「あ?これが『始末』だろ?・・・お前等の世界でもそーなんじゃないのか?
 ・・・これで『力』を悪用するヤツは消えた・・・次は『矢』だ・・・」

少女の咽喉に凶刃が突き立てられる。

「こっちの情報だとな、「田中れいな」ってのは博多弁で喋るってんだが・・・
 お前はそうじゃ無い・・・・何者だ?お前は?」


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はD〜

part4:「未来を知る者」

12月23日 AM10:50
ぶどうヶ丘高校 校内

銀色の鋏が死の彩りを魅せながら少女の命を玩ぶ。
カシャン!と金属の摩擦音がすれば彼女は助からない程の怪我を負うだろう。

「さて、答えて貰おうかな?お前の名前と『矢』のある所を・・・」
菅沼は名を知らぬ少女の前に立った。

ドドドドドド ドドド ドド

「オイッ!菅!これはどう言う事だッッッ!!!」
「あ〜ん?」
後ろから声を掛けた伊達に視線を移さず菅沼は返事をした。
「お前が消した『担任』ってヤツは確か革靴を履いていたハズ・・・・」
「・・・・?」
「だが此処に有るのは・・・サンダルだ・・・・コレは・・先刻の・・用務員が履いていたヤツ・・・」
「!!!!!!!!!!」
慌てて菅沼は後ろ振り向く!

が、どうだろう?

その首は振り向くより更に回転し『絵の具のフタ』を開けたように菅沼の頭部が千切れ飛ぶ!
首は回転しながら廊下を跳ね多量の血を撒き散らす。

「何なんだ・・・・これ・・・こんな・・・おい!菅ァァァァァア!!!!」

AM10:53 菅沼英秋 死亡










ふっかつのじゅもん を にゅうりょく して ください

hxbc化lsbjfd化l氏ヒアcfがdsこはおうちょいあしょちゃしpdxはいぽ


首から溢れ出る血液が妙な動きをし始めた。
目の錯覚に見えるかも知れない現象だが・・・・逆流し始めたのだ。
流れ出た筈の血流が綱引きの様に頭部と胴体を引き寄せ始める。

フィルムの巻き戻しの様に菅沼の頭部と胴体が結合し菅沼は何も無かったかのように立ち上がる。
軽やかに身体を捻りながら体勢を整え左右に視線を奔らせる。

「やってくれるッ!!!謙!!気を付けろ!!あの先公のスタンドかッッ!?」

絶命したハズの友人の言葉に伊達は声を失う・・・
「あ?何ボサッとしてんだよ!何か問題でも有ったのか?」
「・・・なんで・・・お前・・・生き返ってんだよ・・・?」
尤もな友人の問いかけだ。
「話すと長くなる・・・・・・俺の『能力』だ・・・」
菅沼はさらっと言い放った。

「凄いですね!寺田を仕留め損ねたのは残念ですけど!ソレが昨日、話していた『黒耀石』の力ですか!」
「!!!!!!・・・・・なんでその事を・・・俺は誰にも・・・」
少女の言動に菅沼は蒼くなる・・・
「ふふ・・・昨日あんなに雄弁に話していたじゃないですか?尤も私は離れた所で聞いていたのですが・・」
菅沼を額を押さえて昨日の事を思い出そうとするが全く覚えがない!
「く・・・。だが秘密を知ったからには・・・・『始末』するのみッ!」
少女の咽喉を小ぶりな鋏が襲う!

「ハァーンン!!!!」
奇妙な声と共に『鋏』が消失した!
「あぁッッ!!??」
突然の消失劇に菅沼は眉を顰める。
「役に立ちそうな鋏なんで貰っていきますね!あと『コレ』も・・・」
少女の手に黒く輝く石の付いたペンダントが光る。
「な・・・・・お前・・・・・ッッッッ!!!!!」
胸の辺りを弄り目の前のソレが本物だと解った・・・
「何時の間に・・それがお前の能力かッ?」

「それでは・・・ごきげんよう。」
少女はその場を全速力で離れた。
「ふざけろッ!!」
「お・・・おい!なんなんだ!話が読めない!!」
激怒しながら走りだした菅沼を伊達は訳がわからないまま追った。

「くッ!スポルトマティクッッ!!」
菅沼は少女の足止めをしょうとスタンドを出した。その瞬間ッ。
        
              ガッ!

何かに足を盗られ伊達もろともその場に転倒をした。

「〜〜〜〜〜ッッ!何なんだ?何が起きた??」
「お前といるとこんなのばかりだなッッ!!!」
菅沼と伊達は辺りを見回す。
「?」
斜め後方に別の少女が立っていた・・・・。

「待ってたよ・・・ここに・・この時にお前は『小春』を追ってここに来る・・・。
 ここから先には行かせない!菅沼!お前を『屋上』には行かせない!!!」

少女・・・藤本美貴は悲壮に満ちた目で目の前の悪魔を睨んだ!

突如現れた少女の言動に菅沼は困惑した。
「何でお前・・・俺の名を・・・それに『屋上』・・・?」

チャラリ!

美貴は胸元からネックレスを取り出す・・・その先に付いていたのは 『矢じり』だった。
「!?」
「あんたの考えている通り、これが『矢』!あんたこれが欲しいんだろ?」
「・・・・・何でお前が知っている?」
菅沼の問いかけを無視する様に美貴は胸元に『矢じり』を収めた。
「あたしを倒さない限り・・・あんたの目的は達成されない・・・」
そう言って肩に掛けていたナップザックを降ろしその紐を手繰り寄せた。
「謙・・・・すまないがさっきのガキから俺の『ペンダント』を取り返しては呉れないか?」
「ああ・・・」
「すまない・・・すぐに済む・・・すまないな。」
「そう思うのなら後で酒でも奢れ!」
伊達は菅沼を置いて小春を追い駆けた。
美貴はそれを止めもせずに傍観した。

「おい。俺が駄目でアイツはいいのか?」
と言いながら菅沼は美貴に近づく。
「・・・あの人は関係無いから。」

「訳が解らない・・。だが俺の目的を知っていてそれを邪魔するならば・・・
 『始末』するだけッッッ!!!!!!」

菅沼の昂りに同調するように
銀の残響音が響いた。


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はE〜

part5:「掛け違えたボタン」

12月23日 AM11:00
ぶどうヶ丘高校 校内

ゴクリ。

・・・菅沼の咽喉が上下動する。
「こんな事は・・・・有り得ない・・・俺の『スポルトマティク』が・・・避けられるなんて・・」
頚部を狙った斬撃。『石』の奪還の為、手加減などしないで本当に【殺す】つもりだったのに・・
まるで分かっていたかのように身を屈めて避けられた。
「いや・・・偶然だ・・・チョップシザースッ!」
美貴に向かって縦に鋏の軌跡が奔る。
これもまた見切られる。
「・・・・」
「『何度も』見てるからね・・・お前は攻撃をする時、必ず目がピクつく癖がある・・・
 それさえ判れば後はタイミングを合わせるだけ・・・簡単に避けられる。」
「癖?    そんな?」
菅沼は目尻を押さえて一瞬、硬直する。
「このウスノロッ!」

動きの止まった菅沼を尻目に美貴は間合いを一気に詰める!

「くッ!おぉおおおおおおッ!シザース・スプリッツアッッッ!!!!」

20本の小ぶりな鋏が空中に現れる!
その全てが違ったタイミングで美貴に襲い掛かる。が
攻撃を見切らた動揺でその精度は低い。
閃く銀を身避わしながら菅沼の息が掛かるほどの距離まで強引に詰める。

「喰らえェ!バケモノッッ!ゴールデンゴールぉおぉぉおおおル決めてえぇえッッ!!!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッッッ」
密着状態からの高速連撃ッッ!

ドォボグシウァーーーーーッ!

菅沼の身体は打撃の嵐に吹き飛ばされる。
「まだだァ!『満月の流法』ッ!!」
時間は戻り菅沼の身体は打撃を喰らう前に戻る!
「ッッッィりおおォォォォオオオオオおおオオオオオ!!!!!!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」

ドォオオォォオォォオオオーッ!!

「ダメ押しィイイイ!!!『満月の流法』!」
再び菅沼の身体を引き戻す!
「ハットトリッツッッツックぶち込むぜェェェェッェェエ!!!!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!」

渾身の拳が菅沼の身体にビートを刻む!
「・・・・そして時の流れは戻る・・・」

ドォォォッォォオオオリッツッッツパアァァァアアッッッ!!!!

三回分の拳のスコールを浴びたその身体は派手に吹き飛んだ。
「・・・あの時の倍はブチ込んだ・・・・これなら・・」
美貴は乱れきった呼吸を整えながら吹っ飛んだ菅沼を見る。
「立ち上がって・・・こない・・やったのか?・・・・」

・・・・・・・・・・・

美貴が安堵したその瞬間だった!
ゆっくりとその身体は持ち上がる・・・

「クッ!!何なんだお前?!再生するまでこんなに時間が掛かる攻撃を一瞬で叩き込むなんて・・
おまえみたいな『力』を持つヤツに・・・・『矢』を持たす訳には行かないッ!!」
菅沼の視線は美貴を射抜いた。
その視線を叩き潰すように美貴は菅沼を睨み付けた。
「大丈夫だ・・・落ち着け・・美貴・・・・未来を・・運命を変えるんだ!
 あいつは強い・・・だけど私は『先手』が打てるんだ!」

互いの意思を交錯させながら・・菅沼と藤本の間合いは再び近くなった・・・。


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はF〜

part6:「従者達のダンス」

12月23日 AM10:55
ぶどうヶ丘高校 玄関前

「あったく。『学校に来ンな!』とか言ったかと思えば今度は
 『ここで犬が来ない様に見張ってろ!』なんて訳分かンネ!ミキティは勝手だがし!」
校内とはいえ外で待機をさせられるのは堪える。
高橋愛は愚痴を言いながら身を屈めて寒さを凌いでいた。
「しょーが無いでしょ!ミキティが能力を使って見てきた『未来』の予測だっていうんだから!」
真面目に警戒をしない高橋に向かって新垣理沙は叱った。子供を言って聞かすように。
「まぁまぁそうカリカリしなさんな・・・ここにいれば犬が来て私達はソレを阻止すればいい。
 それだけだろ?」
柱に靠れかかった里田まいは高橋のほうに顔を向けてなだめる様に言った。
「oh!犬っていっても昨日、中等部の子に襲い掛かった『スポルトマティク』の犬でしょ?
 しかも全部スタンド能力を持ってるって・・・・よっちゃんが居れば心強いのに・・・
 なんでまだ来ないのかなぁ・・・」
里田の隣にいた木村絢香は未だに此処にこない親友の事が気がかりだった・・・
「大丈夫ですよ!これだけのタイプのスタンド使いが此処にいるんですから!
 吠えズラ掻かせてまゆ毛でも書いちゃいましょうよ!」
そう言いながら斉藤美海はサインペンを取り出してニコニコと笑顔でいる。
「マユゲて・・・そんなことしたらあかんやろぉ〜」
ゆっくりと立ち上がった高橋は軽く屈伸を始めた・・・
ピリリと奔るモノを感じる。
自分だけでは無い。ここに居る全員がこの違和感を感じていのだ。
違和感の主達は音も無く姿を現した・・・・


12月23日 AM10:59
ぶどうヶ丘高校 玄関前

『・・・・主が呼んでいると思ったら・・・何なんだ?コイツらは?』
喜丸が不愉快そうに額を顰める。
『ここから先は通さない・・・とでも言いたいのか?俺達は急いでいるんだがな!」
ブレイブは牙を見せて少女達を威嚇する。
『まぁっったく!また主は厄介ゴトに首を突っ込んで・・・』
志麻は後ろ足で頭をガリガリと掻きながら愚痴る。
『愚痴るな!・・・急ぐぞ!!』
ボルトは少女達を無視するかの様に走りだす。
『おでも・・・!おでもがんばんでぇ〜ッ!!』
がんずきはボルトに続いて走りだした。

野生の咆哮が空に響く!

高橋愛は別段感じる事も無く犬達を睨みつける
「動物愛護って考えからすればココロが痛むんやけど・・・やるしか無いンやよッ!!!」
    ボクゥウン!
突如。高橋の目の前の地面が抉れたような角度で凹む。
そして間を置かずに凸みだす。地面の「迫り出し」は先頭を行くボルトに直撃した!
『ぐぉ?』
『ボルト!』
「余所見してるんじゃないのだッッ!!ラブ・シード!!」
地面から急成長した蔓が志麻の身体に巻きつく・・・
『うぁたた・・・何だ?こりぁ?』
『志麻!!!』
喜丸の「Brown Metallic」の鋭角が蔓を切り裂く!
「GO!HOME!!!FUCKIN’DOG!!」
スラングと共に喜丸の身体は横殴りの衝撃を受ける!
『ぐ・・・衝撃波・・か?』
体勢を整えながら木村アヤカの方を睨んだ。
『埒が開かない!俺は先に行かせて貰う!』
ブレイブは『Barrio chino』の能力を使ってその身を宙に舞わせる!
「そうは行くかよッッ!!」
翼犬の頭を蹄が掠めた!
ブレイブより高い空間を首の無い馬が天駆ける。
里田まいの『スタンピート&ダウンビート』だ。
『俺より高く舞うとは・・・・いい度胸だッッ!!』


「よぉ〜し!わたしはぁ〜ッッッ・・・・?ってアレ・・一匹居なくなってるッッッ!!」
斉藤美海は自分の対戦相手に成るはずだった犬を目で追う!
・・・が犬は『あぶく』の様にその姿を消していた・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はG〜

part7:「デュエリスト」

12月23日 AM11:05
ぶどうヶ丘高校 校内

パタパタと人の気配が妙に少ない校内を靴音が響く。
「あばば・・・今日は学校に来ちゃダメって言われたけど・・・なんだろ?凄く胸騒ぎがする・・
 此処に来ないと・・・・取り返しの付かない事が起きそうな・・・気がするもん!」

トボトボと足音が校舎に鳴る。
『あ〜・・・おでだけ中に入っちゃったけど・・・主の場所が解らない・・・
 どこいったら・・主に逢えるのかなぁ・・・』

曲がり角を曲がる・・・

「!! お前!がんずき!!!」

『お・・・お前? り・・・りさ子!!』

突然の闖入者に梨沙子は硬直し、がんずきは小便を漏らす。
両者に暫しの沈黙が流れる・・・

『お・・・お前ら〜!!また主をッッ!!許さんど!』
がんずきは梨沙子に飛びつく!その高さ。落下速度を利用して前足で梨沙子の頭を数回叩く!
「あば・・・・何するんだもんッッッ!!」
負けずにがんずきの頭を叩き返す!
『あで!あで!こんのぉ〜!』
「そっちが先に叩いてきたくせにッッ!!」



12月23日 AM10:33
ぶどうヶ丘高校 屋上

風が軽やかに舞う・・・冬の気候とほ思えない程、緩やかな風・・
少女の黒髪は艶やかにたなびく
「・・・ねぇ?唯ちゃん・・・・」
唯と呼ばれた少女は機嫌が良さそうにニコニコとした表情を崩さない。
「もぉ少し、待っててくれますか?石川さん」
石川梨華は躊躇いながら言葉を紡ぐ
「あたしね・・・・見たのよ・・・あなたがお見舞いに来てくれた日・・・527号室に・・」

ガチャリ!

何でも無いドアの開閉音だが雷鳴の様な緊迫感が奔る!

来訪者はドアの向こうから漆黒の渦を身に纏っていた。
「田中ッち・・・これどー言う事?」
田中と呼ばれた少女はいきなりブレーカーでも落ちたようにその場で失神した!

「そっちの操り人形・・・使わせて貰ういましたえ・・」
唯は微笑を浮かべながら『後藤真希』の方を見た。
「・・・・・」
後藤は不機嫌そうに唯を見返す。

「こんな所にあの子を呼びつけてッ何をする心算なの!!」
梨華は激昂して唯を叱り付けた。
意に介さないように唯は笑みを絶やさず梨華に答える。
「何って・・・石川さんの為のお膳立てやのに・・・気に入りまへんか?」

「・・・・・?」

「東俣野健太さん・・・・亡くなりはったのは何時でした?」

「イヤ・・・やめて。聞きたくない。思い出したくない。健太が死んだなんて・・思いたくないのッ!」
梨華は唯の言葉を遮断するように耳を塞ぐ。
「健太さんの身体・・・酷い状態やったそうですねぇ?」
唯の言葉に梨華は頭を左右に振るだけだった・・
「石川さんの為に私、調べたんですえ?犯人を・・・」
「・・・・犯人?」
唯は後ろから梨華の両肩を掴む。
「石川さんの友人を惨殺した憎い憎い殺人鬼は・・・アイツ・・・『後藤真希』・・でっせ。」
「!!!」
梨華の視界は暗転した。


12月23日 AM11:10
ぶどうヶ丘高校 校内


「クソッ!さっきの転倒のお陰ですっかり見失っちまったゼ・・・」
伊達は蟻のナビゲーションを頼りに見知らぬ校舎を右往左往する。
ゾジズゼゾゾジズゼ・・・
「この階段か・・・?」
眉を顰めて階段を上り始めた。
階段を思っていたより高い所まで続いている様で『屋上』まで続いている様だ。
「くッ!思ったより疲れるなぁ〜。この分だと相当高い酒でも奢ってもらわなければなッ!」
伊達はひとりごちながら階段を上り続ける。


「・・・・・・」

「おい・・・オメー。なにをしている。」
伊達の行く手を阻む様にショートカットの少女が階段を占拠していた。
「あぁッ?テメーこそ何なんだよッッ!ここは部外者意外立ち入り禁止なんだよ!」
少女の物言いに伊達は酷くイラついたッ。
「おいコラァ!素人が調子に乗ってんなよッッ!!この伊達謙をなめてんじゃねぇぞッッ!!!」
伊達の凄みを解さないように少女は笑いだした。
「退屈してたんで丁度いい!!チンピラッ!テメエこそ三好絵里香をなめんじゃねぇぇええッッ!!!」


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はH〜


12月23日 AM10:36
ぶどうヶ丘高校 屋上

「何これ?梨華ちゃんの差し金?」
そう言って後藤真希は梨華の方に歩き出す・・・
「アンタは何でそんなに涼やかなんやろねぇ・・・」
唯は近づいてくる真希を仄暗い瞳で威嚇する。

「・・・・」
その場にへたり込んだまま梨華は動く事が出来ないで居た。
『健太の死』は彼女にとって禁忌だった。
安易な恋愛感情などではなく・・・健太の事には友愛があった・・・憎まれ口を叩き合いながらも
大切な友人だった・・・その彼が・・・突然・・・あまりにも残酷な死を迎えた事は・・・
事実でも信じたくない事だった・・・・それと同時に・・・・罪を犯すような人格でない健太を
惨殺した犯人を『コロシテヤリタイ』・・心の片隅でずっと・・・そう思っていた・・・・


その『仇』が目の前に居る。

その事にどういう感情をぶつけたらいいのか?ソレが分からずただただその場にへたり込むしかなかった。

真希は二人と4mほど間合いを取ってその場て立ち止まる。
「さてと・・・ごとーはどっちからでもいいよ?梨華ちゃん?あんた?どっちから?」

「さぁ!石川さんッ!『仇討ち』の場は整いましたよ!東俣野さんの無念を晴らす時ですえ!」
唯は梨華の肩を強く握った。
「か・・・仇・・・討ち・・?」
梨華は薄く反応はしたがそのままの姿勢から動かなかった・・・

「・・・誰であろーと・・ごとーの邪魔をする者は許さない・・・東俣野クンだろうと・・
 ・・あんたら演劇部だろうと・・・この街はごとーが守る・・・」

そう独白した真希の周りを漆黒の旋風が渦を巻く・・

「・・・・?・・・何?・・今なんて言ったの・・?」
突然の告白に梨華は呆けたように真希を見た・・・
「石川さん・・・あんたほんまに手ぇが掛かるお人やねぇ・・・」

   ズギュ!!
唯の指から出た骨針が梨華の脳髄を穿つく。
「ぅぐ・・・」
「石川さん・・・ちゃぁあぁんと『押して』おきましたぇ。『未知なる力』を見せて貰いまひょ・・」

「ぅううぅ・・・・ぐぅぅうぅううぅッッッ!!!!!!」

ビッ

バリッ

バリバリバリバリッッッッッ


12月23日 AM11:02
ぶどうヶ丘高校 校内

「俺は・・・『力』を憎む!そして『力』を欲する奴も!『力』を生み出す石も矢も!
 そして何も知らない奴を利用する奴も・・・全て・・全て俺が断ち切る!それが俺の定めだッッ!!」

「ふざけるなッ!お前のチンケな正義感で何人も何人も・・殺してきたような悪魔に・・・
 言い分なんかあるかぁぁぁぁあぁぁッッッッ!!!!!!」

空気は弾ける。

美貴と菅沼の間合いが激突する!

「るおぉぉぉっぉぉぉッ!断空の流法!」
鋏の開閉音と共に菅沼は不可視の存在になる。

「来たなッ!『透明』ッッ!!」
美貴は知っていた。それが菅沼の奥の手だ。という事を!
そしてその攻撃には『妙な』癖が有る事を・・・
ナップザックの紐を緩める。

シャキィイン。
美貴の目の前を銀色の光が煌く。
急速に息苦しくなる・・・『知った苦しみ』だった。
遠くなる意識を振り払いながらナップザックからスプレー缶を取り出す。

缶のラッパのような吸い込み口からその気体を吸引しながら後ろに駆け出し間合いを取る。
呼吸を整え缶を口から放す・・・・
「はぁ・・はぁ・・・菅沼!お前の奥の手・・・攻略したぞッ!!」
缶を持ったままの右手で菅沼の居るらしい場所を指刺す!
その缶には『携帯酸素供給スプレー』と印刷がしてあった・・・

「・・・ な  に ッ  ?  何  なん だ  そ  の用 意の 良さ ? お前 の能 力か?」

「それだけじゃぁ無いぜッッ!!!」

メキァァア!!

ブギー・トレインO3の拳が天井の突起を破壊した。
「天狗の隠れ蓑って話を知っているか?菅沼!!」
「?!」
「あの話のオチはこーだったなァッ!!!」
B・TO3の拳が天井から離れる
噴出音と共に大量の水が撒かれる。
『突起物』火災感知スプリンクラーから撒かれた水が有る場所だけ音を立てて弾け飛ぶ!
「!!!!!!!」
「そこに居たか!菅沼!」

美貴はナップザックから皮の袋を取り出す!
「麻琴ッ!力を貸してくれッッ!!」
皮袋から取り出したベアリング弾を水飛沫に向かって連射する。
麻琴の能力を受けたベアリングは『空気抵抗を失い』超速で菅沼を射抜いた!

「ぐぅぅぅうッ!」
『断空の流法』が解け水浸しの菅沼が姿を現した・・・
美貴は時計を見つめて時間を計る。
「もう少し・・もう少しで『アレ』が来る・・・アイツを倒せる唯一の希望が・・」


12月23日 AM11:13
ぶどうヶ丘高校 校内

「おい・・・・口は慎めよ!」
ザジズゼザジゾ・・
額に血管を浮かせた伊達の周りに黒山が広がる。

「はぁ?何だぁ?その汚らしい蟲は?それで私をどうしょうってんだァァアア!!」
三好の周囲の空気が歪む。
背後に赤黒い人影が煮え立つ。

「てめぇ!『スタンド使い』かッッ!?」
伊達は階段を三段ほど下がり間合いを取る!
「だったらなんなんだってんだァァッァァッァ!!!!」


メシャヤッ!

伊達の足元から『管のようなもの』が突き出し襲いかかる。
「くぉぉおッ!」
伊達は後ろに飛び退く。
一瞬、蟻の存在が動きを鈍らせたため管は空を切る。
「くッ!邪魔なッ!」
三好は伊達を追撃しようとするが妙な感覚に躊躇した。

「追ってこね〜のか?まぁそれが正解だな!」
空中を落下しながら伊達は余裕そうに笑みを浮かべる。

「来い!ニグラ(黒)ッ!」
蟻の一群が黒い梯子を形成し伊達はそれを掴んで着地する。
「どうだ?面白れーだろ?こいつ等一匹一匹は非力でも集合すればなぁ・・・」
伊達が三好に焦点を合わす
「出ろ!『フォルミー』ッッッ!!」
その声に感応して黒い影が三好の前に立ち塞がる。
「!!!!?」
三好を躊躇させた感覚が具現して現れた。

「一手遅いなァ!!蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 アリーィィィィッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はI〜

12月23日 AM11:16
ぶどうヶ丘高校 校内

伊達謙のスタンド『アビー・アド・フォルミーカム・フォルミー』の拳撃が
三好絵里香のスタンド『シーズン・オブ・ディープレッド』の顔面を捉えた。

「?!!」
拳に残った妙な感覚に伊達は眉を顰めた。
「何かと思えばこんな程度で・・・用心し損だったねぇ?」
三好は事も無さそうにニヤニヤと伊達に笑いかける。

伊達はフォルミーの拳が半分焼け付いて無くなっている事に気付く。
三好のS・O・ディープレッドの灼熱の表層が攻撃を通さ無いばかりか
その拳を破壊したのだ・・・
この程度でダメージは受けないのの目の前の敵に伊達は頭を悩ませた。

「ボーッとしてんじゃねえゾ!!!!蟻野郎ッ!!!」
シーズン・オブ・ディープレッドの拳が振りあがるッッ。
「SuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSURIVER--------------ッッッッ!!!!」
灼熱の拳が『フォルミー』に降りかかる!
      ドボッ!ドボッ!!
拳が当たった場所は焼け落ちエグリ取られた・・・
「ははッ!どうだァ!ああァァァア?」
意気揚々と伊達に視線を合わせたが伊達はそれほどダメージを感じている様ではない。
「な・・・?」
手応えを感じていたハズ・・・三好は目を疑った。

「ったく・・・だからアタマを悩ませてんだよ・・・お互いの相性の悪さをヨォ・・・」
伊達はその赤い髪を掻き揚げながら言い放った。
(クソッ!決定打を与える方法は有るッ・・・だが『覚悟』も必要だぜ・・・)

「・・・・ニグラ・・」
黒い蟻は伊達の手に積みあがる様に集まり始める、詠唱のような足音を響かせ・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はJ〜


12月23日 AM10:10
ぶどうヶ丘高校 屋上

破けた布片がハタハタと風に棚引く・・・

「立派ですぇ・・・石川さん。」
唯はうっとりとした表情で『ソレ』を見つめた。

煮固まりのような負の感情と唯の『押し』による干渉で石川梨華のスタンド『ザ・ピース』は新たな局面を
迎えていた・・・・・

その『才能』は夥しい流血を伴いその華奢な腕を肩口まで裂き発現した。
「ぅぅうう・・・ぁあぁああぁ・・・」
梨華はゆっくりとその場から立ち上がり真希に視線を合せる
「ふぅうん・・・どう言うんだろうね、ソレ?身に纏う・・・にしては痛痛しすぎる・・・」
真希は梨華にむかって歩きだした・・・

間合いが近づく。
「ううぅうぅううぅうッ・・・・・はぁあぁっぁぁぁあッッッ!!!」
梨華の腕に発現した長大な『サーベル』が光を放つッ!
「ぽッ?」
その光に異変を感じた真希は突風の渦を梨華に向かって射出した。


一閃

水平に光が奔ったかと思うと大気は裂け渦は上下、半分に切断されその力を失う。

風の渦を切り裂いたその能力に真希の目に緊張が奔る。

「この能力は・・・切り裂かれた痛み・・踏み躙られた痛み・・・殺された痛み・・・
 健太の痛みッッ!・・・・この全ての痛みを知れッッ!!」


12月23日 AM11:09
ぶどうヶ丘高校 校内

「ぐぁぁあ・・・・」
ポシャンポシャンと水面に波紋が出来る
菅沼の身体に打ち込まれたベアリングの金属片が排出されたのだ。
「・・・バケモノ」
美貴は菅沼に軽い戦慄を覚える、ヤツの『再生』は何度も見ている筈なのだが・・・

スプリンクラーの噴射が止み辺りに夥しい水溜りが残った。

バシャバシャと水を撥ねながら菅沼は歩きだす。
「・・・く・・けけ・・俺とした事がなぁ・・・・」
と独り語ちるその目は朧げに空虚を泳いでいた。
無構えのまま、美貴の射程距離に足を踏み入れてきた。

美貴の背中に冷たいモノが奔った!
彼女の体験ではこの先は無い。
幾度と無く菅沼に敗北し幾度と無くやり直してきた。
その結果、ヤツを此処まで追い込んだ!  が、これからは『未知』の世界だ!
唯一解っているのは前回の最後、もう直に来る『アレ』だ!
このまま、この位置なら菅沼に遮られる事無く手にする事が出来るはず・・・
アイツを傷付けられる唯一の武器が!

「コッチに来ンなよッッ!!オルゥァアッ!!!」
ブギートレインO3の拳が菅沼の顔面を捉える。
  メメタァアァッ!
肉を叩く音がが響く。が菅沼は意に介さないようにそのまま美貴に近づくッ。
「な・・?コイツッ?」
防御すらしようとしない菅沼の行為に美貴は焦りを覚える。
その動揺した一瞬。菅沼の右人差し指が美貴の制服に触れる。
・・・・・・・・・・・・・・ッツ    ドン・・・・・・

「ぐぇ      」
衝撃が奔り美貴は苦痛に膝を突いた・・・・・
菅沼は美貴の髪を掴んで頭を起こす。
「寸剄・・・寸打、1inch punchとも言うなぁ・・・これは能力じゃねぇ、技術だ。」
美貴の目は打撃の衝撃に宙を彷徨う。
    ・・・・・・・ゴッ
コメカミに一本拳が撃ちこまれる。
その一撃は美貴の意識を刈り取るのに充分だった。
「シンプルが良い・・・最初からこうするべきだったんだ・・・」
菅沼は美貴の首に手を掛ける。
チャラリと金属の鎖を指に引っ掛けソレを首から外そうと引っ張った

風を切り裂く音が鳴り響く。
突如、天井を断ち切って現れた飛来物は菅沼の肩を掠める。
「な・・・に?」
菅沼は驚いた。肩の傷はかすり傷、軽傷もいいところだが血が止まらない・・・再生されないのだ。
「そんな・・・俺を傷付けられるのは・・・」
と言いかけた咽喉にヒヤリをした金属が突きつけられた。
「『コレ』が来るのを待ってたのサッ。アンタを倒せるのはアンタのスタンド・・・・そうだろ?」
菅沼のスタンド「スポルトマティク」を手にした美貴は口元に笑みを浮かべた。


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はK〜


part8:『哀歌』
12月23日 AM10:48
ぶどうヶ丘高校 屋上


空に向かって振り上げたサーベルは光輝くッ!
「この能力ッ!『輝彩滑刀』で全てを償わせるッッッ!!」
梨華の叫び声が空一面に響きわたる。

唯はニヤニヤと笑いながらその悲痛な叫びに拍手を送った・・・
「石川さんッッ!この声は健太さんに届いてますぇッッ!!」
その声が届かなかったかのように梨華は真希に向かってゆっくりを歩み寄る。

「ふふんッ!さしずめ『光の流法』ってわけ?面白いッ!」
黒い渦を生み出しながら真希の『ゴシップ・セクシーGUY』の槍先が梨華を差す。

梨華の足が止まる。
少し遠く間を置いてお互い睨み合う・・・
「どうしたの?その遠い間合いじゃごとーには届かないぽ?」
槍先をクルクルと旋回させながら真希は梨華を挑発する。
その言葉に梨華はクスリと軽く笑みを浮かべた。
「意外とね・・・そう言うわけでもないの。」

「!」
真希の周囲のコンクリにヒビが入り始めた!
「遅いッッ!!!!『半径5m・チャーミングフィンガー!!』」
梨華のスタンド『ザ☆ピース』の黄金の刺刃が真希に向かって飛び出すッ!
「クッ!!」
前後左右に十本の黄金の煌きは奔る。
そのスピードは早く一刃、避けそびれればたちどころに全ての刃のエジキになるッ。
「だがそれならッッ!!」
真希は風の揚力を用いガラ空きの上空に身を躍らせる。
「甘いッ!」
その声と共に真希の視界に光の一閃が奔った・・・・


梨華の策略に嵌った真希に『輝彩滑刀』の刀光が降りかかる。

「DRYッ!!だがその程度で勝てるものかよッッ!!!」
すばやく槍を叩き付けサーベルの軌道を変えようとする。
チィンッ
槍はサーベルに触れたとたん軽い音をたてて槍は真っ二つに切断される。

ブレた軌跡は真希の髪を切り裂く!
美しい髪が宙に舞う!
「大した切れ味だねッ!」
真希は身を捩りながら梨華の腹に蹴りを叩き込む。
サーベルを振りぬいた腕に交差するように出された足は強かにのめり込み梨華に深いダメージを
負わせる・・・・
「ぐぅ・・・」
呻き声を上げる梨華を尻目に真希は蹴りを入れた反動を利用して間合いを取りながら
コンクリートの足を着ける。

斬られた真希の髪が宙を舞う。
冬の光に反射する亜麻木色の絹はたゆたゆと風を泳ぐ。

「面白いね・・・あんたの事ただの弱虫だとばっかり思ってたのに・・・
 人は幾らでも変われるんだね・・・だけど・・・
 その能力はかならず寺田に利用される・・・・・そしてこの町を脅かす存在になる
 ・・・・ごとーはそれを許さない。」

真希は一人語とのように呟くと奇妙な体制を取る。
真希のスタンド『ゴシップ・セクシーGUY』は両腕を前に突き出した。

亜麻木色の真希の髪片が渦を巻き始めた・・・

「風の流法<神砂嵐>ッッ!!!」
真希の声に同調して破壊劇が始まった。
『ゴシップ・セクシー・GUY』の左腕を関節ごと右回転!右腕をひじの関節ごと左回転!
そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間を生成した!
歯車的砂嵐の小宇宙が梨華に迫るッッ!!

「はぁぁぁああぁぁああぁぁあぁあぁぁぁぁあッッ!!!!!!!!!!!!!!」
迫り来る狂気の蹂躙気圧に梨華は避けもせず身を捩る!!!
柔らかい身体を存分に捻りその捻力を解放したッ!
「輝彩滑刀ッッッ!!RESKINNINHARDEN.SABER.PHENOMENONッッッ!!!!!!!」
光刀は竜巻に水平に触れた

光が奔る。
風の唸りは止み大気は裂かれる。
眩い光だけがその場を埋め砂嵐は姿を消した・・・・

「はぁ・・・はぁ・・・・」
腕を振り切ったまま梨華は乱れた呼吸のままにいた。
・・・がすぐに状態の異変に気付く。
真希が居ないのだ・・・


仄暗い風が漂う
先程、あの凄まじい竜巻を作りだして私を攻撃した本人が居ない・・・
私は目の奔らせ、後藤真希の所在に神経を張り詰める・・隠れる所なんて無い・・
『逃げた』と言うのも考え難い、なのになんで目の前から一秒にも満たない時間で・・


後輩の岡田唯が何か叫んだのが聞こえた

私の身体に背後から凄まじい衝撃が奔る
胸の辺りに熱い迸りを感じそこから空虚が広がって行く様だ

「石川さんッッ!!!」
唯の声にビクンと梨華は痙攣するように反応した。
コンクリに梨華の血液が滴る。
背後から『ゴシップ・セクシー・GUY』の拳で貫かれた梨華はその衝撃に痙攣を繰り返した。

「誰であろうとごとーの町を脅かす存在は許さない・・・・決して」
真希は死に瀕した梨華に吐き捨てるように言い放つ。

梨華は失せ行く意識の中で理解した
先程の神砂嵐は囮だった事を・・・
自らが使った策略をそのまま使われた事を・・・
敗北・・・そして死・・・という事を・・・






                   健太

                       ごめんね

梨華の足元に血溜りが出来た。
真希は梨華の絶対的な死を感じ『ゴシップ・セクシー・GUY』の腕を梨華から引き抜く

「ぽ?」
引き抜こうとした腕が途中で止まる。
真希は目を凝らした!
『ゴシップ・セクシー・GUY』の腕に黄金の指が絡みつきソレを固定している。
「な・・・・・?その身体でまだッ!?」
梨華は首を後ろに回し真希に言った
「勝手に・・・決めないでよ・・・・私の・・・命じゃ・・ない?」
笑みを浮かべた口端から大量の血が流れる。
「こ・・・こいつッ。」
真希の額に汗が流れる・・・恐怖からだッ。
「これは決闘なんかじゃぁ・・・無い!・・・健太の・・仇・・討ちッ!・・だから・・・
 ど・・んな手を使おうが・・どんな・・代償を払お・・うが・・・最終・・的に・・
 勝てばよかろうなのだァァァアァァァアッッ!!!!」
背後の真希に向かって輝彩滑刀を突き立て振り斬るッ

        光の一閃が奔る

真希の上半身がずるりと右に滑り落ちる
梨華の血溜りに下半身が倒れこみ溢れ出し血溜りを広げる

梨華は2,3回前後に揺れると何かを口ごもりその場に膝を突き事切れた・・・


AM10:56   後藤真希 死亡

         石川梨華 死亡


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はL〜


12月23日 AM10:58
ぶどうヶ丘高校 屋上

風が血の臭いのする空気を掻き乱す。

唯は血溜りの中を躊躇もしないで足を踏み入れる。
コンクリの撒かれた血が革靴に滲み込む。
後藤の上半身を通り過ぎ、梨華の遺体に歩み寄り血の気を失った白い顔に手を当てた。

「ほんま・・・立派ですぇ・・石川さん・・・」
陶酔したような表情でそう言いながら梨華の目蓋を閉じた。
唯は目を閉じ数秒沈黙をしてから身体を起こし後藤の遺体に目をやった。
「これで私達に楯突くような阿呆ゥは居なく成った・・・・いや『残党狩り』も
 せぇへんとなァ・・・本当の『いくさ』はこれから・・・やでッッ!」

にわかに流れの速くなった雲を見ながら自らの『いくさ』を夢想する・・・
その歓喜に唯の身は打ち震えた。

・・・・・だがまだだ・・・自らの能力を使いきるにはこの身体は貧弱すぎるッ。
けれどいい塩梅に克服する手段が降って涌いて来た・・・あの『能力』を身に付ければ
身体の損傷を恐れずに『コード3』を存分に使える・・・そうアレが有れば・・

ガチャリッ!

ドアの開閉音が屋上に響く。
「あれー?もう終わっちゃったんですかぁ?」
血生臭い死闘の場所にそぐわない・・・無邪気な声
久住小春はドアを閉めその凄惨な風景を眺める。
満足そうな・・不満そうな瞳で血溜りに目をやる・・・
そして歩き出そうとした瞬間、足元に引っかかるモノに気付く。
「?!。岡田さん?なんでコイツがいるんですか?」
『コード2』で操られ、意識を失って倒れた『田中れいな』をつま先で突く。
「ああ。ソレは随分と『後藤真希』に入れ込んでたみたいなんでここまで引っ張ってきて
 もろうたんや・・・小物すぎて存在忘れとったわ・・・」
頬に手を当てクスクスと笑いながら唯は答えた。
「小物だなんて・・・本当の事言ったらダメですよ。」
小春は笑いながられいなの頭を踏み躙った。
「まったく・・・こんな小物の不良がミラクルエースである私と席を同じくするなんて・・・」

踏み躙る足に力が入る。
周囲が銀色に輝き始める。

タンッ。
コンクリに靴音が鳴る。
れいなの頭部は分解され消え首からは大量の血が流れた・・・

その様を一瞥すると小春は唯の方に近づいて行った。



AM11:02 田中れいな 死亡


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はM〜


12月23日 AM11:03
ぶどうヶ丘高校 屋上

唯に近づいた小春はポケットからペンダントを取り出した。
そのペンダントには黒く光る石が付いている・・・何物も映さない様な漆黒でもあり
闇夜でも輝く様な・・・奇妙・・・不気味・・・言い難い感じを醸し出していた。

「これが?昨日、菅沼の話していた『黒耀石』・・・」
唯は小春の手からペンダントを受け取るとその『石』をまじまじと見つめる。
「・・・・ほな・・・行かせてもらうわ」
唯はそう言うと右手で『石』を握り締め腕を振り上げると勢いをつけ左腕に突きつけた。

「がっはァアアァ   」
衝撃に天を仰ぎ痙攣する。しかし苦悶の時間は短く細波のように収束した。
その有様に小春は唾を飲み込む。
「ふ  ふ   悪くは ないでッ私にも身に付いたようやで『死を克服する力』が・・・」
2、3度手を握りながらその感触で唯は『実感』をした。
「どれもこれも小春ちゃんのお陰や・・・」
唯は小春に向かって微笑んだ。
小春もそれがうれしくなって微笑み返した。

「これはお礼やッ!」

ズォドッ!

唯の指から射出された骨針は小春の咽喉を貫く。
小春はその衝撃に空を掻く様に悶えた。
「頂点に立つのは私とみ〜よで良いッ!飼い犬など要らんわッッ!」
ぬるりと骨針が抜け小春の身体が倒れ落ちる。
「ふふ・・・これで『石』の秘密を知る余計なヤツはおらん、これでみ〜よにも能力が付けば・・
 ・・・・あかん・・・笑いを堪えられん・・・」
顔に手を当てて笑いを堪える唯の瞳に異常なモノが映った。

「やれやれですね!心を許せる人かと思えば・・・」
そう呟いて制服の埃を払いながら立ち上がった。
「な・・・ま・・まさかッ!!」
「まさかですよ。ここに来るまでに『試して』みたんですよ、その『石』をッ!」
久住小春は貫かれた咽喉をさすりながら不敵に笑みを浮かべた


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はN〜


part9:『世界の果て』

12月23日 AM11:06
ぶどうヶ丘高校 屋上


唯は深く呼吸を整え小春に対峙する。
「まぁ・・・あんたの事は最初から信用してた訳や無いけど・・・どうしたもんかいなァ?」
仄暗い瞳が小春を捉える、その漆黒さは観鏡の様に透き通りそしてまた歪んでこの世を映していた。
「私はあなたの事・・結構気に入っていたんですけど・・・こうなってしまった以上、後には引け
 ませんよね?・・・お互い・・・」
小春は涼やかに答えた、その言葉には寂しさと決意が行き交う風のように入り混じっていた。

ふわりと唯のウェーブのかかった髪が宙に浮く。
脳髄に骨針が突き立たる。

『ハイドロレインジャ・コード3』は身体に這う様に生い茂り、脳に埋め込まれた芽は唯を
『加速した世界』へ誘う。

「フフ・・・思った通りや・・・この一体感・・・私のスタンドは『完成』したでッ!!」
小春を観るその表情は悪鬼や羅刹ではなく穏やかな穏やかな表情だった・・・

「まったく呆れたものですよ、人を人とも思わないような人物がなんでそんなに穏やかなんだか?」
小春はゆっくりと唯に歩み寄る。

「そんなに死に急いだらあかんで?」
笑みを浮かべて小春を観る。

小春が半歩足を前に出す、その僅かな時間・・・唯が消えるッ!

「来たッ!NO.4!5!6!7!」
『オイサーーーーーッッッ!!!!!!』

小春の目の前に『スポルトマティク』が出現し前方に勢い良く弾き出されるッ!!
肉眼で捕捉出来ないほどの速度で移動する唯に向かってッッッ!!!
「!!!!!!」

「カウンターなら速度、威力共充分ッッ!!」

「るぉおぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉッ!」
旋風が起こる。
金属の鈍い音が響き銀色の鋏は急角度でコンクリに突き刺さり
そのまま吸い込まれるように消えていった・・・・・

「なかなか面白い事・・・するやんか?」
鋏を叩き落とす代償で折れた手の甲をさすりながら唯は小春を観る・・・
折れた手の甲はボコボコと音を出しながら再生している・・

「まぁ・・・その位でないとミラクルエースの相手は務まらないですね・・」
そう言った小春の額を冷たい汗が伝った。


12月23日 AM11:08
ぶどうヶ丘高校 校内

天井から落ちる水滴が水面に無数の波紋を造る。
沈黙の空間を水の打楽器が彩る・・・・・

鋏はゆっくりと開閉し静刃と動刃が菅沼の咽喉に喰い込む。
「・・・・クッ・・・」
蒼ざめた顔で美貴の顔を見る・・・
『黒耀石』の能力で『死ぬこと』の無い身体にはなった、が同時に身に付けたそれを『断つ』能力

私利私欲の為に『能力』を使おうとした生物を片っ端から殺めて来た。
それが自らの命を絶とうとした愚行の代償。
生き返って与えられた『使命』。

絶対的な死が突き付けられる・・・・死の恐怖より奪い盗られた『石』の事で頭が一杯だった・・
俺が居なくなったら誰が・・・止められるのだろうか?

「まだ・・・俺は・・死ねないンだッ!」

「いや死ねッ!これで全て・・何も無かった事になる・・・お前さえ居なければッッ!!!」
美貴の指に力が入るッ
シュリ・・・
金属の摩擦音が鳴り響き始めた    瞬間ッ!!

       ドボォッッ!!!!!!
「ぐッッお・・・」
水の固まりが跳ね菅沼の腹を強打したッ
堪らず菅沼の身体は後方に倒れこむ。

シャキィイイインッッ。
いきなり倒れ込んだ菅沼の首が鋏の開閉を避けた。

一瞬の出来事に美貴は固まる。
「な・・・・何が・・?」
その疑問符に答える暇など与えぬ様に水塊が美貴に飛び掛る。
水塊はだたの塊から『犬』の形に変化するッ。

「い・・・犬ッッッ?」

犬は美貴の手に持つ鋏に喰いかかる。
『ヒィイヘッヒッ!』
がんずきの牙は『スポルトマティク』を引き剥がそうとするッ
「この犬!ふざけるなッ!!!!」
美貴は引き剥がされそうな鋏を引っ張り返す。

     ガキョッッ!!!!

牙から鋏が外れ美貴の手に鋏が戻る。
「このおおおおおおおおおおおおッッ」

「藤本さんッッ!!!ダメェエエエエエエエエッッッ!!!!」
廊下の奥から菅谷梨沙子の声が木魂する。

金属音が無情に響く。
がんずきの首は身体から離れ消滅した・・・・・
大量の血が藤本美貴に降りかかる。

「がんずきィィイイ!死んじゃ駄目ッッ!!!折角・・・友達になったのにィイイイイ・・・」
水の回廊を駆けて来た梨沙子はがんずきの身体を抱きしめる。
声に反応する事なくその四肢は硬直を始める・・・
「りさ子・・・がんずきはもう助からない・・・」
起き上がった菅沼は慟哭する梨沙子の肩に触れる。
「藤本さんの馬鹿ッツ!がんずきとオジサンはもう皆が寺田先生に利用されないように『矢』を
 壊しに来たのに・・・・何で?何でこんな事するのよぉぉぉぉおおおおお・・・・・」
涙が水面に波紋を造る。
梨沙子の慟哭が空間を埋める・・・

「そんな・・・・・私は・・・・」
生暖かい血を浴び私は何が何だか解らなくなっていた・・・
自分の信じた『正義』・・その為に此処に居る・・のに・・なんだこの感覚・・・
・・殺す・・・こんなに後悔とドス黒い・・・嫌な気分になるのか?
いやだ・・・こんな事がしたかった訳じゃないのに・・・ないのに・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はO〜

12月23日 AM11:15
ぶどうヶ丘高校 校内

軽快な摩擦音が響く。
『矢』と呼ばれた金属片は忽ちに消え去る。
悪夢は冬の昼光に霧散した。

「これで信じて貰えるか?」
菅沼は美貴の方を向く。
「・・・・・・・」
美貴は無言で答えた。

梨沙子はがんずきの遺体を抱いたまま蹲っている・・・
美貴は呆然自失・・といった具合だった。

水浸しの回廊は永遠とも思える沈黙が流れていた。

「おい・・・藤本っての。聞きたい事が有る・・」
そういって菅沼は沈黙の澱みを掻き出す様に美貴に歩み寄る。
「お前が言った『屋上』。引っ掛かるモノが有るんだが・・『屋上』で何が起こる?
 俺が『屋上』に行くと何か起こるのか?」

数秒の沈黙。
美貴が口を開く。

「スタンド能力は個人個人で大きく違う・・・それはあんたも知っているだろ?
 私は・・・『時を巻き戻す』能力を持っている。」
美貴の言葉に菅沼はゴクリと咽喉を鳴らす。

「一週目の今日、私は遅刻をしたんだ・・それで部室に入ったら・・・みんな・・・
 ・・・死んでいた・・・酷い状態だった・・・私は頭がおかしくなりそうになって
 教室から出た・・そうしたら血がベッタリ付いた足跡が屋上まで続いてたんだ・・
 それを追って屋上に出たら・・また死体があって・・そこに血塗れのアンタが・・
 居たんだ・・・それでアンタに殴りかかった所で『巻き戻った』・・・だから・・
 アンタがみんなを殺した・・・そう思ってそれからは何週も何週もアンタと戦っている
 ・・・教室のみんなは避難させた、だからアンタが屋上に行かなければ屋上に居る
 娘達は死なずに済む・・・演劇部のみんなが死なずに済む・・・そう思ったんだ」

美貴の独白を聞いて菅沼は暫し考察していた。

「その話だと少しおかしくないか?俺が何故屋上に?『石』を盗った『小春』とかいう奴を
 追いかけて。だとしたら解る、今も謙・・俺の連れが取り返しに行っているからな?
 ・・・だとしたら誰が『部室』で殺しをやった?俺が部室に用でも?
 その足跡は俺のモノだったのか?死体は全部切り刻まれていたのか?」

「『矢』は部室の道具室に有る、その事を知っていれば・・・部室に必ず来るハズ。
 そこで抵抗されて皆を殺した、そう考えていた・・そうだアンタ、ウチの部員を襲ったろッ!
 皆、知ってんだよッ!そうだそうに決まってるッ!」
美貴の目に不信の炎が宿る。

「だからソレは行きがかり上、闘う破目になってだな・・・俺も望んだ訳じゃないんだ!
 いきなりこんな事を言っても信じられないかもしれないが・・今は信じてくれッ!」
菅沼の目が美貴を射抜く。

「・・・・解ったよ・・じゃあ私の質問にも答えてくれ!小春がアンタから盗った『石』
 ってのは何なんだよ?あの時のアンタの慌てよう・・普通じゃないだろ?アレにどんな
 『チカラ』が有るのさ?きっちり答えてくれよ。そうしたら信じるよ、アンタの事・・」
美貴の質問に菅沼は俯き、視線を外す。

「・・・・・・それを・・・言わなければ信頼が得られないのなら・・仕方が無い・・
 あの『石』には・・・・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はP〜

12月23日 AM11:18
ぶどうヶ丘高校 校内

蟻の這い回る音が階段に鳴り続ける。

「へぇ〜そんなに蟻が居たとはネェ・・だけど私に・・この灼熱の怒りが有る限り無駄だ・・・・」
三好はニヤニヤと笑いながら伊達を見下ろす。

「解ったクチを聞いてんじゃねーゾッ!ガキッ!」
伊達は上段に居る三好を睨みつける。
蟻は伊達の手に纏わり付くようにそして何かを模ろうとしていた。

「『覚悟』の問題だ・・・ガキッ!『倒される覚悟』をしておけッ!」
そう言うと伊達はスッと腰を落とし低い姿勢で標準を合わす。
「『覚悟』だぁ?はぁ?」
三好の眉間の血管が膨張して奔り、瞬時に陽炎が周囲を覆う。
「倒されるのは、イヤ殺される覚悟をするのはテメェダァァァァァッッツ!!!」
血管針が伊達に向かって飛び掛るッ!

「・・ガキが・・・・蒼いな・・」
伊達は階段を駆け上がる。
   ズュドッ!
「ぐぉッ!」
血管針は伊達の身体に突き刺さる。
「ヒャハッ!B・I・N・G・Oォォォォオ!!!!!!!!」
三好の歓喜は長く続かなかった。
血管針は伊達の身体を貫通し高熱のヘドロは背後の階段を焼け爛れさせた。
「な・・・お前・・・バカかッッ!!!!」
畏怖する三好を余所に血管針で貫かれたまま伊達は階段を駆け上がる。
「だから『覚悟』の問題って言ったろ・・・あぁッッッ???」
伊達の気迫に三好が怯んだ。
「ガキ・・ビビッてんじゃねェゾ!ARRRRRRRRRRRIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ!!!!」
一瞬を逃さず、突き出した伊達の手から漆黒の『蟻の槍』が生成される。
高速で出現した黒の一撃はシーズン・オブ・ディープデッドの鳩尾を穿ついた。


『シーズン・オブ・ディープレッド』を覆う灼熱のヘドロに触れた途端、『アビー・アド・フォルミーカム』の集合体である『槍』が焼け付く・・・

「そんな痛い思いして私にダメージを与えられないなんて・・・ホンッッット残念だったねぇ?」
三好は血塗れの伊達を嘲った。
「甘ぇな・・・・此処からが『覚悟』の見せ所なんだぜッッ!!!!!!!!!!」
伊達は<ニグラ>に力を込める・・・・・・・『槍』は太く大きくその姿を変える。

パチッパチッ パチッパチッ パチッパチッッツ

蟻が熱に爆ぜ弾ける、太くなった『槍』は焼け付く面積も大きくそのダメージから伊達の袖口から
血が流れ出す・・・・
「・・・・行くぜッッ!!」
伊達は『槍』を伸ばしながら三好に向かって駆け出す。
『槍』は勢い良く焼け付き伊達自身を傷付ける。
「下らない意地、下らない消耗・・・・それで『覚悟』?はぁ?フザけんじゃゾッッ!!」
三好はS・O・ディープレッドの拳を振り上げ射程距離に突っ込んで来る伊達に向かって
叩きつける。

灼熱の拳が伊達に目前に迫る。

「恐れるな・・・・行けるゼェェェェェARIYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッッ!!!」
袖と言わず服から染み出した血液が階段を赤く染める、それを解さぬ様に伊達は尚も速度を上げて
走りだした。

熱線が赤い髪を焼いたその瞬間。
『シーズン・オブ・ディープレッド』の身体が浮き上がる。

「ぐぼぉぉぉぉッッ」

鳩尾を穿つかれた三好の呻き声が響く。
灼熱の表層を蟻が貫いた、考え難い出来事だが流血の代償を支払った伊達の『覚悟』そして
一点のみに集中して攻撃し続けた結果なのだ。

「ハッ・・・蟻の一穴ってな・・・・・これが『覚悟』の勝負ってヤツだゼッ。」


ドグゥァアアアアアアッッ!!!!!!

伊達は三好の身体を穿ついたまま側面の壁に叩きつけた。
激突した三好はグッタリ倒れ込む・・・・

「俺は菅沼とは違う・・・命は取らねーよ・・・俺が相手で善かったな・・」
伏せた三好にそう言い放つと伊達は手摺りにつかまりながら『約束』を果たしに階段を上り始めた。

   

・・・・・カリリリッカリリリリリリッ
壁に爪を立てながらゆっくりと・・・その身体が起き上がる。
ゆっくりとした動きは空気を舐める様に無音だった・・・

「・・・・よくも・・・おのれ・・・よくもこの・・・三好絵里香を・・・」
空間が歪む、口からは血を吐き衝撃に意識は刈り取られているハズの三好は文字通り『死力』を
尽くして立ち上がる・・・

「SURIVER--------------ッッッッ!!!!」
三好の断末魔が階段という狭い空間を埋める。
「!!!!」
一瞬の出来事に大量に血液を失い立つ事も儘為らない伊達は反応が出来なかった。
断末魔は胸を抉り、貫かれた伊達はその場に膝を突いて倒れ込む。
伊達の胸を貫いた血管針はズルリを抜けその動きに合わせて三好の身体は階段から転げ落ちた・・

「ぐぅうぅ・・・・・最後に足掻きやがって・・・」
伊達は手摺りにすがり付く様に立ち上がる、その身体は大量の出血でチアノーゼを起こし痙攣
している・・・・・・・

伊達は倒れこみ赤い血痕を残しながら階段を上りきり屋上に繋がる扉のドアノブに手を掛ける。
「・・・?・な・・・んだ?開か・・・ない・・・・」
ノブは血に濡れ伊達の手の中で空しく滑り続けた・・・


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はQ〜

12月23日 AM11:21
ぶどうヶ丘高校 校内

「あんたの話が本当だとして・・・なんで小春はソレを欲しがるんだよッ?」
美貴は水面の回廊を音を立てて駆け抜ける。
「ソレはこっちが聞きたいッ!『黒耀石』の名前も何故か知っていた、それを昨日聞いたとか
 言っていたが・・・俺には・・覚えが無い・・・」
美貴に追従するように菅沼も足取りの悪い回廊を駆ける。
「・・・とりあえずッ!『屋上』に急ごう。」
回廊を抜け屋上まで繋がる階段に出た。
美貴と菅沼は勢いを殺さずに駆け上がった。

「・・・・!」
数階、上りあがった所で美貴は立ち止まり絶句した。
いきなり立ち止まった美貴に菅沼は軽く身体を当てて静止した。
「オイッ!なに行き成り立ち止ま・・・・」
菅沼は美貴越しに前方に視線を奔らせる。
少女が血塗れで倒れていた。
ショートカットの髪が随分と血で汚れている、階段に血が随分と流れているのを見る限り
階段を頭から落下してしまったのだろう・・・・だが不思議な感じだ・・この娘・・逢った事が
・・・・有る・・・?

菅沼の思案を掻き消すように美貴が呟いた。
「何で・・・三好が此処に・・・血塗れで倒れている・・・・」

「此処に?どう言う意味だ?」

美貴は深呼吸をして己を落ち着かせながら話出した。
「一週目・・・ここに来た時、三好は倒されていたが・・外傷は無かったし場所も上の階だった
 ・・・」
菅沼は眉を顰めて美貴に問うた。
「言っている意味が伝わりずらいが・・結果が変わっている・・・って事か?」
その言葉にゴクリと唾を飲み込むと美貴は一目散で階段を駆け上りだした!
いきなり駆け出した美貴に呆気を取られた菅沼も追いかけるように駆け出す。
階段にはかなりの量の血痕が付着していた。
その赤さに美貴は嫌な予感で胸が一杯になった。
もう数段で屋上に出る扉ッッ!

「・・・・そんな・・・・」

美貴は上りきる事が出来なかった・・・・・
ドアに靠れかかるように倒れている男性・・・名前は知らない・・・が・・一週目の時には
血塗れの菅沼に掴みかかって何か言っていた・・・生きていたハズなのに・・・・

「運命が・・変わってしまったのか?・・・・私が『介入』したせいで・・・」
美貴はその場から動けなく成ってしまった。

「おい・・・・・・なんだよ?コレ・・・・・」
後方から来た菅沼は戦慄きながら血塗れの親友を見る。
ゆっくりと伊達に近づいた菅沼はその身体をそっと触れる。
脈も無く、低くなり始めた体温は絶望を物語っていた・・・・

「そんな・・・謙ッッ・・・・・・うぉおおぉぉぉおおぉぉぉぉおおおぉ・・・・・」
菅沼の泣き声が階段に鳴り響いた。


銀色の永遠  〜千年紀末に降る雪はR〜

12月23日 AM11:26
ぶどうヶ丘高校 屋上入り口

「皆・・『能力』の片鱗を見れば俺の周りから離れていく・・・俺を畏怖する・・・
 コイツは違った・・・・コイツは・・・俺の本当の友だったんだ・・・・」
溢れ出る涙を指で押さえながら菅沼は伊達の身体をゆっくりと床に寝かせた。

「諦めるなッッ!まだ助かる方法が有るッ!」
美貴はガックリとうな垂れる菅沼に叱咤した。
「・・・・何が言いたい?」
菅沼は憮然と美貴に目を遣る。
「私の能力で『5分前の状態』に戻す、それで息が有るうちに『石』を使えばこの人は死なずに
 済むんじゃないのか?」


「ふざけるなッッ!お前は自分が何を言っているのか解ってんのかッ?」
激昂した菅沼は美貴の襟首を掴み金属の扉に叩き付けた。
「ぐぅ・・・」
叩き付けられた衝撃で低く呻き声を上げるが直ぐに美貴は菅沼を睨み返す。
「一刻を争うだろッ!?5分前に時間を戻してもこの人が絶命してたら意味が無くなるッ!」
それに呼応する様に菅沼は前腕を美貴の咽喉に押し付けてそれ以上の言葉を遮った。
「勝手を言うな・・・コイツが『死なない身体』になってソレを受け入れると思うかッ!
 そうなったら誰がコイツに死を与える?寿命じゃ死ねない・・・ましてや自分で死を選ぶ事
 も出来無い・・・解るか?『死』を与えられるのは俺だけなんだよ・・・・」
押さえつける腕を振りほどき美貴はすばやく菅沼の後ろに廻る。
「だからってこのままでいいのかッ?生き返るチャンスをお前はッッッ!」

「死んで貰いたくないよ・・・だけどそれ以上に・・・謙を『バケモノ』にはしたくない・・」

「く・・・」

美貴は混乱した・・・助かる方法は有る・・・のに

「クソォッッ!『満月の流法』ッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ブギートレインo3の拳が伊達に叩き込まれ  『時間は5分前に戻る』

「・・・・・・ぁあ・・・菅・・・か・・・」
伊達は5分前の時間から舞い戻り、か細い声で菅沼を呼んだ。
「謙ッッ!俺だッッッ!俺はここに居る!」
菅沼は伊達の身体を抱かかえる。
「・・・情け・ねぇ・・・声出すなヨ・・・酒は・・奢・・って貰え・・・そうに・・無くなった」
伊達は身を震わせ言葉に詰まりながら菅沼に語りかける。
「もういいッッ!喋るなッ!喋らないでくれッッ!!!!」
菅沼は伊達の冷たくなっていく身体を強く掴みながら叫んだ。
「なぁ・・・俺・・は・・・強・・・く・・・なっ・・たか・・・?」
「お前は・・・俺が闘った中で一番強い・・・・一番だ・・」
伊達は満足したように口端を吊り上げた。
ボンヤリと空間を見ながらそのまま強く身体を痙攣させて事切れた・・・・・

「謙ッッ・・・・・・・・・・・」
菅沼は伊達の身体を強く抱き涙を流した。

「なんで・・・こんな・・・・こんなはずじゃぁ・・・」
『人の死』の凄惨さを目の当たりにした美貴に激しい後悔が襲う。
自分がした事で二人をさらに苦しめてしまった・・・・・。
『時間を操る』能力の残酷性を・・いや行為の残酷さ・・それが心に冷たい刃を突き立て掻き毟る。

末期の抱擁を終えると菅沼は伊達の遺体をそっと置くと立ち上がり血に塗れたドアノブに手を掛けた。
「おい・・・・藤本っての・・・・ボッとしてるなッ!行くぞ・・・」


ガチャリ!

扉が開き薄暗かった屋上入り口に明るい光と血の臭いが立ち込める。
その異臭が美貴を現実に引き戻す。

菅沼は慎重に扉を開くとソッと覗き込み状況を見た。
「・・・・・?!」
目の前の状況に表情を硬くする。
その表情に違和感を覚えた美貴は菅沼の身体を押しのけ屋上に出た。

目前の血の海・・・・・ドアの前の首の無い死体・・・上履きには『田中』・・・
「こ・・・こんな・・・・変わってない・・・・」
乾いていく咽喉を潤す為に生理反射で唾を飲み込む。
「それじゃぁ・・・」
目を遣る・・・・身体を真っ二つに切られた友人、後藤真希の死体。
胸を穿つかれた石川梨華の死体が血の海に浸っている・・・・・
「う・・・そだ・・・アンタじゃ無かったら・・・誰が・・こんな・・・」

美貴はその場に崩れ落ちた・・・・
結局・・・救う事が出来なかった・・・・全てが無駄に終わったのだ・・・・

「この感覚・・・まだ終わりじゃ無い様だな・・・」

菅沼はそう言うと美貴を置き去りにして屋上に歩き出す。
丁度、入り口から見えない場所でソレは行われていた・・・

二人の『死ぬことの無い能力』を持った者達は
首の骨がひしゃげ様がすぐさま立ち上がり戦い続け
腕を引き千切られようが血の縄で引っ張り上げて切断面を繋げ戦い続けた・・・

ヒトで無くなった二匹のケモノは終わる事無くお互いを喰い合っていた。

「『石』の力を身に付けた者同士の末路・・・やっぱりこんなもんか・・・」

菅沼は戦渦に近づきながらそう呟く・・・
銀色の光が奔る
ケモノの動きは止まり菅沼に鮮血が降り注がれる。
犯した罪を受け入れるように・・・・菅沼は手を広げ血の雨を身体に浴びた。

全身に血の赤を纏う菅沼の後ろ姿・・・美貴の見た悪夢の終着点だった。

「終わりだ・・・真希ちゃん・・・梨華ちゃん・・・れいな・・小春・・・」
美貴の心は砕け冷たいコンクリートに倒れ込む。
その身体を誰かが支える
血塗れの手・・・・菅沼だった・・・・
「ア・・・・アンタさえ・・・・この町に来なかったら・・・・」
美貴は菅沼の腕を押しのけて睨みつけた・・・
悲しくなるだけだった・・・例えこのヒトがこの町に来なかったとしても・・・
惨劇は起きるのだろう・・・

「諦めるな・・・・まだやり直せる・・・・俺は1週間前、この町に来た・・・
 お前はソコまで時間を戻せ!俺を探せ!顛末を俺に話せ!俺に協力を求めろ!」
菅沼は美貴の肩を揺すりながら話した。
「アンタ・・・・なんだか・・・拍子抜けするヒトだな・・・・
 解ったよ・・・アンタを信用してみるよ・・菅沼サン・・・」

ブギー・トレインが銀色に輝く
                             プァアァアンン



12月20日 ぶどうヶ丘総合病院付近

  ―スポルトマティク―

「あぁ〜。あの子可愛かったなぁ〜。俺が学生の時分には居ないタイプだな。」
そう言って俺は彼女の後ろ姿を見送って歩き始めた。

俺?俺は菅沼英秋・・・いや今は「名無し」だ。
少し歩くとベンチがあった。
「よいしょ。」
座るのにも声が出てしまう、年だなこりゃ・・・いやまだ20代後半なんだけど。

襟をつまんで臭いを嗅いで見る。まだ大丈夫だな?
ここ4日ばかり着たきりなもんでね。
ジャケットは合皮だ。合皮の臭いがする。

空を見上げる。
冬の空は冷たさを増している。

「な〜にしてんだべ?俺は?」

「おい・・あんた菅沼さんだろ?」



何だこの目つきのキツイ姉ちゃんは?
さっきの子と同じ制服?同じ学校の子・・・か?
それより・・何で俺の名前を・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
 



TO BE CONTINUED・・・・・