REMENBER 18 @
昔の話をしようか・・・・・・・
鬱蒼と茂った草木を掻き分け俺は「その場所」を探して彷徨った・・・・
生き急ぎすぎたあの頃の俺には明日が見えなかった、
自分で足元を照らす事が出来なければ誰かがソレを支えてくれる事もなく只只
薄暮れの中を一人で歩かなくては成らない事に途方に暮れていた・・・・・
だからあんな風に考えたのだろう
自ら命を絶とうと
獣道が険しくなるにつれてその場所が近くなってる事を俺は何故か理解った・・・
今、思えば俺はあの『石』に呼ばれていたのかもしれない
どうしてかって?
寓話でしかなかった『死を与える石』は簡単に見つかったから
神代の時代より悪しきモノを封じ込めたとされる黒く光る大きな石・・・・
その輝きに引き込まれるように俺は近寄った
「触れば死ぬ」そんな事は眉唾だった・・・実際は硫黄か何かの至死性のガスでも出ているのか?
そんな風に考えていたが周りの風景を見る限りどうやらそう言う訳では無さそうだ・・・・・
これに触れば・・・全てが終わる・・・・夢を諦める事も・・・下らない世襲に囚われる事も
俺を縛る全ての柵を・・・・・『断ち切れる』・・・・
俺は躊躇する事無く『石』に手を伸ばした
滑らかに光る『石』の表面は吸い付くような触り心地だった、何時までも手を触れていたい。
そんな俺の心持を痛みが遮った・・・
『石』から手を放し掌を見るや俺の視界には「赤」が映る。
触れただけ・・・触れただけなのに掌はザックリと裂けていた・・・・・・・
それがその時の事を俺が覚えている最後の記憶だ・・・
REMENBER 18 A
暗闇の中を掻き分け、俺は山中を駆けずり廻った・・・・
強烈な身体の痛みに俺は目を覚ました。
死ねなかった・・・・。
そんな感傷よりも身体の痛みが俺の神経を埋めていた。
中でも咽喉の渇きが酷い・・・・
俺はその渇きに耐える事が出来ず痛む身体を振り絞り右も左も解らない暗闇を駆け抜けた・・。
こんなに滑稽な事が有るか?
死のうとした人間が咽喉が渇いたからって水を求めて走ってるんだから。
もっともあの時の混濁しきった意識でそんな事まで考える事は出来なかったろうがなぁ・・・。
がさついたヤブを抜けると広い所に出た。
もっとも、視界など丸で無い暗黒だったが空と山の色合いの違いを見渡せる位は広かった。
唾を飲み込む度に咽喉に痛みが走り、身体は高熱を出したようにだるく節々が痛む・・・。
裂けたハズの掌には傷は残ってなかった・・・・・あの後どの位の時間が経過したのか?
明け方、あの『石』を目指して山に入ったハズ・・・・少なくとも一昼夜は経っているのか?
ぼぅとした頭で状況を整理しょうとしていた俺の鼻を獣の臭いが襲う。
その臭いに俺は思わず眉を顰めた・・・・。
「この臭い・・・・・犬・・・か?」
乾ききった咽喉を鳴らす様に俺は独り語ちる。
最近はこの山に随分と野犬が住み着いてる・・・そんな話を聞いたことがあったか・・・。
辺りに立ち込める獣の臭い・・・・
それに気圧されながらよろよろと歩きだす・・・・
ザワ
ザワ
ザワ
ザワ
木立が妙にざわめく
悪い予感はしていた・・・・・が気付いた時には全てが遅かった・・・。
暗闇を穿つく無数の光の穴・・・・・・
咽返る様な殺気・・・・
それが全て俺に向けられていた。
野犬の群れに囲まれたのでは無い・・・野犬の群れの中に入っていってしまったのだ。
異常なほど沸き立っている殺気に背筋は寒くなり動けなくなる。
野犬の群れは輪を小さくするように集まり始めた・・・・。
「く・・・・来るな・・・・。」
俺は搾り出せるだけの声で野犬を威嚇した・・・が・・・そんなコケ脅しは全く効かず一匹の犬が
踊りかかって来たッ!
グジュッ!
腕に鋭い痛みが奔る。
「ぐぎゃやゃやあああぁぁああッッ!!!!!!!!」
俺の上げた叫び声は犬を余計に刺激した。
獰猛なる獣性が俺の精神まで喰らわんとする・・・・
死
死ぬのか?
嫌だ
こんな
こんな事で
死ぬのは
嫌だ!
シャキィイイィイイイインッ!!
金属の開閉音が響き俺の顔に生暖かい液体が大量に掛かる・・・・・
「何だ・・・コレ・・・それに今の『感触』は・・・?」
ペチャ・・・・・
・・・・・・・ペチャ・・・
・・・ペチャ・・・
「は・・・はは・・・・血・・・か?ははッ!!いいぞ!!いいぞォ!!!」
俺は咽喉の渇きを満たす為に獣の血を啜った・・・・・
「まだだ・・・・まだ足りない・・・・咽喉が・・・咽喉が焼け付きそうだァァア!!!」
俺はその時、自分にこれまでと違う『何か』が与えられた事には気が付かなかった・・
只只・・・・自分の乾きを満たす為に・・・満たす為だけに・・・狂気を振り回した・・・。
こうして人間としての俺は死に
獣の血液を浴びながら、俺の魂は道を外し・・・夜の闇にどこまでも堕ちていった・・・・。