銀色の永遠  〜ありがとうおともだち@〜   
  
   笑えるウワサなら  XXX

5両編成の電車が心地よく揺れる。
休日の電車は行楽やショッピングの客で活気付く。

「ウワサ?」

「そう!ウワサ!」

「宇宙のハテを知らないようにそんなウワサしらないよぅ・・・」
熊井友理奈は凛々しい眉を顰めて答えた。
「えーーー?マジで知らないの?」
徳永千奈美は吊革に掴まっている友理奈に靠れかかる様に詰め寄る。

既に160cmを越えているモデルのような体型の二人の少女は満員の電車の中でも目立っていた。

「ほら最近、聞かない?翼の生えた犬が空に飛んでるのを観たとか、角の生えた犬に車が串刺しに
 されたとか!口から長ーーーい紐、吐き出した犬とか、夜にカミナリみたいに光る犬とか・・
 あとイキナリ水みたいになって消えた犬とかさ!」
嬉々としてウワサ話を立て並べる千奈美の表情はとても生き生きとしていた!
本人は怪談は嫌いだが単なるウワサ話!楽しくて仕方なかった!
「・・・・・犬ばっかりじゃない?」
怪談のような話しに友理奈は気味が悪くなってきた・・・最近聞くウワサでそういう犬が
杜王町を徘徊しているらしい・・・根拠の無いウワサならいいけれど、自分の住む町にそんなのが
本当にいたらと思うと不気味でしかたなかった。
「ちょっと前にあった『幽霊トラック』もすっかり霞んじゃったね〜。」
千奈美は腕組みをして真剣に考え始めた。

「そんなウワサもあったね・・・・」

車窓から流れる景色をみながら友理奈は千奈美に相槌を打った。
『突然現れては消えるトラック』・・・・そんな理解しかねる存在はもしかしたら・・・・
自分達の持っているような『スタンド能力』じゃ無いのか?
    そんな事を考えながら・・・

「じゃあサ!じゃあサ!」
そんな考えにお構い無しに千奈美が詰め寄る。
「何?まだウワサ話?」
流石にとなり町までの道中の間、ずっと聞かされ続けたウワサ話に友理奈は食傷気味になってきた・・
「コレは絶対!聞いたことが無いって!本当に〜〜〜〜ッ!」
「ハイハイ・・・で?どんなハナシ?」
興奮気味の千奈美を受け流すように友理奈は相槌を打った・・・

「B市T町で『舞波』を見かけたってウワサッ!」

「・・・・え?」
友理奈は突然の事に一瞬、身体が動かなくなった。
不思議な事だが『失踪』は杜王町では多く起こる事件だ・・。
『舞波』とは去年、失踪してしまった友人の事だ・・・その後はようとして見つからない。

「それ・・・本当の事なの?」
友理奈は千奈美の話を信じたかった・・・舞波が生きている事を・・

電車に振動が奔り停車した。

「あッ着いたヨ!T町に!早く降りよッ!」
千奈美は友理奈の腕を引き降車した。
「ちょっと千奈子!今日T町に来た目的って!」
千奈美に腕を引かれつまづきそうになりながら友理奈は問うた。
「くまいちょ〜!鋭い!そうだよ、ウワサの真相を突き止めに来たの!」
一指し指をスッと立てて千奈美は答えた。
「真相って言っても・・」
ウワサはウワサ・・・友理奈は膨らんだだけの希望に寂しさを覚えた。
「何テンション下げてんの?このウワサ・・・確かめる価値は有ると思うよ!」
千奈美は張り切って改札に歩き出した。
「ちょ・・・待って・・」
置いていかれた友理奈は慌てて後を追う・・・・その瞬間。

     ブチン!

友理奈の持っていたバックのハンドルが切れて中身が路面に撒かれた!
「えぇええぇええ?」
友理奈は慌てて中身を拾い集める。
「くまいちょ〜!何やってんの?」
千奈美も慌てて駆け寄り拾うのを手伝った・・・
「買ったばったりなのに・・・なんで?」
気に入っていたバックが突然壊れた事に気を落とした友理奈だったがすぐさま奇妙な事に気付いた。

バックのハンドルは千切れたのではなく・・・・・鋭利に切り裂かれていたのだ・・・

     笑えるウワサなら  XXX


銀色の永遠  〜ありがとうおとだちA〜

休日の街は華やいでいた。
バックが壊れてしまったという事も在って期せず、本来の目的のショッピングに暫し興じていた。

「うわ〜。コレ!可愛くナイ?」
千奈美ははしゃぎながらガラス越しにバックを指差す。
「それ、お金が足りないよ〜。」
友理奈は壊れたバックを抱えて苦笑した。
「わっ!!コレ!コレ!良くない!!?」
千奈美は友理奈の身体を掴んでショーウインドウに無理矢理、近づけた。
「ちょっと!ナニするの?」
急に引き寄せられた為、バックの中身を溢しそうになった友理奈はガラスに手を付いた。

「・・・後ろを見ないで・・・尾行けられてる・・・」
顔を寄せながら小声で話す千奈美の言葉に友理奈は驚きを隠せなかった。
「えぇッ!」
そう言って反射的に後ろを振り返った。
見るな。と言われても心理的な動揺があればソレを守るのは難しいモノだ・・・
「だから見るなって言ってンのッッ!!」
千奈美はムリヤリ友理奈の顔を前に向かせた。

「今の挙動で警戒されてるよッ!もぉ〜ッ!」
小声で叱られた友理奈はすっかり落ち込んでしまった。
「・・・ごめん・・・で?どうなの?」
そう問われた千奈美は友理奈の手を引きながら歩きながら答えた。
「ソナーは反応してる・・・『スタンド使い』ね・・・」
その答えに友理奈の足が止まる。
「・・・スタンド・・使い?」
動きの止まった友理奈を引っ張りながら千奈美はバックに手を伸ばした。
「このバックを壊したのもアイツだと思うよ・・・」
そう言ってバックからコンパクトを取り出した。
「でも何でワタシ達を・・・・」
友理奈は困惑した・・・『スタンド』を出している所を見られた訳でもないのに・・・
『何故、自分達が監視をされたり危害を受けなくてはならないのか』を。

「さぁ?どうしてだかウチも解らないヨ。だけど現状はウチらは恐らく敵意のあるスタンド使いに
 尾行され危害を受ける可能性すら有る。て事じゃん?」
千奈美はコンパクトで髪を直すフリをして後方を見ていた。
「体型はやせ型・・身長はワタシ達より・・・低いかな?」
ボリュームは押さえていたが友理奈に聞こえる声で感想を述べた。
「でも・・・『能力』は・・解らないね・・・」
友理奈は緊張した声で千奈美に返した。
「それは見せてもらったでショ?『バックを斬った』・・・それがヒントなんじゃない?」
後方からの情報を得ようとコンパクトから目を放さずに答えた。
「なるほど・・・・でもそれだと近距離型なのかな?それとも・・・」
コンパクトを覗こうと身を乗り出して来る友理奈を鬱陶しそうに制止しながら千奈美は答える。
「それまでは解らな・・・ッッ!マズイ!アイツ携帯電話を使ってる!仲間を呼ばれてるかもッッ!」
千奈美の顔に緊張が奔った!
そしてその動揺からミスをした。
・・・・鏡の中の人物と千奈美の目が逢ってしまったのだ。


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちB〜

鏡に映る人物の顔・・・その自分に良く似た人物の顔に千奈美は戦慄を覚えた・・・
「・・・・友理奈!走ってッ!」
千奈美は友理奈の身体を突き飛ばして前へ進めた。
「なッ?どうしたの?」
突き飛ばされた友理奈は前のめりに躓きそうな身体を立て直しながら走り出す。

雑木林の様な人混みを掻き分けながら友理奈と千奈美は疾走する。

「道も良く知らないのにこんなに走って大丈夫なの?」
友理奈は心配そうに千奈美に問うた。
「ウチも解らない・・・だけど今は逃げないと・・・」
千奈美は軽く息を切らせながら走り続けた。

暫く商店街を走っていると千奈美は或る事に気付いた。
駅から離れていくに従って暗い路地裏が目立ってきた、恐らく離れれば離れるほど美化には疎く
こういった風景が目立つのだろう!

「友理奈!二手に分かれて捲こう!ウチが右の路地。友理奈が左の路地でッ!」
千奈美は後ろに見えないよう死角を使って指で合図した。
「連絡とりようないのに・・・どうやって落ち合うの?」
友理奈は目だけを千奈美に向けて問うた。
「ウチのソナーで友理奈を探す。でも二時間たってウチが来なかった時は杜王町に帰ってこの事を
 みんなに話して!そこまで来たら・・・ウチらで如何こう出来る問題で無いかもしれん!」
千奈美の言葉に友理奈は唾を飲み込んだ。
『最悪の場合』も有るという事に・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「クッ・・・ん?コッチの動き、読まれたワ!大丈夫・・・今追いかけてる最中!『ライナーノーツ』
 の『伝言』通り・・・そう!私等にそっくりな子ともう一人背の高い子・・・アッ!・・・
 二手に分かれた!・・・大丈夫。私が私達に似た子を追いかけるから・・背の高いほうをお願い・・・
 ・・・大丈夫。ハンドルの無いバックを抱えて辺りをキョロキョロしてる背の高い子を探して!
 ・・・『ライナーノーツ』から何か?そう・・・それじゃ、よろしゅう!」

薄暗い路地。
靴音が遠のく・・・・

壁の側面から『波紋』が起き細く長い指が姿を現す、するすると勢い良く『千奈美』の身体が壁から
姿を現した!

「ふふん。名付けて『ダイブ・イン・トウ・ミィボディ』・・・物体を潜航するスタンド能力を・・
 ぶっつけ本番だったけど応用を考えてみた価値は有ったね!・・・・それにしても何?・・
 ・・・『ライナーノーツ』?『私等にそっくり』?・・・・訳が解らない・・・というよりも
 ・・・・ヤバイね・・・だけど追われるのはココまで・・ココから追われるのはアンタ達だ!」

そう言い千奈美は右手の甲に浮かぶソナーに目を遣る。
それに映る機影に反応する機械音が反撃の狼煙となった!


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちC〜


路地を抜けるとまた人混みに出る、路地は大通りと大通りも結んでいた様だ。
千奈美は追跡者、いや『標的』に悟られない様、自然に風景に溶け込む・・・

「さてと・・・どうしょっかな?奇襲して倒すか・・それともこいつ等の実態を知る為に
 もう少し泳がすか・・・『ライナーノーツ』とか言うのも気になるしね・・・」

それから十数分、千奈美は標的を観察したが時々携帯電話で連絡を取る意外は周りをキョロキョロと
見回すだけで標的の追跡技術はオソマツなものだった・・・

「何だか・・・調子ハズレっていうか・・こう言う事に馴れてない・・シロウトみたいね・・
 電話の内容でもまだくまいちょーは見つかってないみたいだし・・・・」
千奈美は耳に当てていた『ソナー』を下げながら標的も見つめた。

ソナー能力の応用で標的の電話内容を『ワッチ』していたのだが・・『ライナーノーツ』という単語が
かなり多く飛び交っていた・・・『ライナーノーツ』・・・団体名なのか?個人名なのか?
指示を仰いでいるようだけど・・・連絡は取れてないみたいだし・・・なんだか・・・奇妙だ・・

「・・・あの子の口を割らせて『ライナーノーツ』の正体を探るってのも悪くないかな?」
千奈美の目は鋭く『エモノ』に向かう、狩りは静かに行うモノなのだ・・・

風景に紛れる狩人を獲物は気付く事も無かった・・・・
間合いのみが近くなる。

どうやって人気の無い所に引き摺り込むか?千奈美はその事だけに集中していた・・・
が・・・その集中が解けた。
目の前を通り過ぎる紺の服を着た少女に目が行く。
「?・・・・!!!!」
思わず腕を引っ張って引き止めてしまった・・・・

「イヤァアアァッァアッ!!!!」
少女は突然の事に叫び、絶叫は周囲に響く。
その声は千奈美の居場所を知らせるには充分だった・・そして『獲物』は『追跡者』へと変貌した。


銀色の永遠  〜ありがとうおとだちD〜

「・・・捲くって言ったってどうすればいいのよぉ〜・・」
熊井友理奈は勝手の解らない土地を彷徨う。

何だかどんどん道に迷ってきている・・・・こんな所で追跡者に不意を突かれたらまず反撃は無理だ!
オマケにこの高い身長だ・・・目立つ事この上ない・・・

千奈美に発見されるまで何処に身を置くかも問題だ。
離れすぎれば発見に遅れる、動きすぎても見つけるのに時間ばかりを浪費するだろう・・・
人気の無い場所を選べばそれだけ入り組んだ所になるだろうし、かと言って人気の多い場所は
動きは取り易いが落ち合う前に追跡者に見つかる可能性が多くなるだろう・・・

「地理もそうだけど・・敵についても情報が少なすぎる・・・・どう動けばいいの?」

友理奈は親指の爪を軽く噛みながら・・・・思案の限りを尽くす・・。

右手には大きめの通り・・・左に入れば路地だ・・・千奈美を追う形に為らなければ時間は浪費する
だけ・・・だけど追っ手とかち合うか挟み撃ちになる可能性も・・・ある・・。

「くッ・・・」

友理奈は選択に迷い足を止めた。
ドン!
「きゃッ?」
足を止めた途端。
友理奈は後ろから押されつまづき、抱えていたバックの中身を地面にブチ撒けてしまった。

「あぁ〜ッ!ゴ・・・ごめんなさい、お姉さん!」
白い服を着た身長は150cm台の子が友理奈の後ろから駆け寄った。
友理奈とは身長差は随分有るが年齢は近いのだろう・・・
「すみません!・・・もぉ〜、未来ちゃん!前見て歩かないから・・」
黒い服を着た少女が『未来』と呼ばれた子に駆け寄りブチ捲かれた荷物の中身を拾い集める。
この二人は仲の良いともだちなんだろう・・・・そう思い、友理奈はうらやましくなった。
信頼出来る友達が・・千奈美が一緒だったら・・・敵地だろうが心強いのに・・。

「本当にすみませんでした。お姉さん!」
二人は深々と頭を垂れた。
「いいよ!イキナリ止まったりした私も悪いンだし・・・それより拾うの手伝ってくれて
 ありがとう・・私・・・今ね・・友達とはぐれちゃって・・・ちょっと心細かったんだ・・。
 でもね、二人を見てたらなんか元気が出て来ちゃった!ありがとう!友達って本当に良いよね!」
友理奈は二人の顔を見ながら朗らかに笑った。

「お姉さんもそうなんですか?実は・・私達も友達とはぐれちゃって・・・そうだッ!
 だったら一緒に探しましょうよッ!」

『未来』と呼ばれた少女は有無を言わさず友理奈の腕を引いて走り始めた!


銀色の永遠  〜ありがとうおとだちE〜


すごく!!似ているッ!!でも違うッ!!

それが千奈美の『ウワサの真相』に触れた感想だった。
確かにこの紺の服を着た子は舞波をよく知らない人だったら見間違いをするだろう。
顔のパーツよりも醸し出す雰囲気が『似ている』のだ・・・・
結局、舞波が生きているというのはガセでただ良く似た子が居た言う結果に終わった・・・・

ウワサはウワサ・・・最初から解っていた事だけどそんな程度の情報でも・・信じたかったのに・・。


    「イヤァアアァッァアッ!!!!」

絶叫が千奈美を現実に引き戻す。
紺の服を着た子が叫んだのだ!

「あ・・・イヤ、知り合いに似てたからつい・・人間違い!よくあるでしょ?そんな叫ばなくても。」
千奈美は弁明をし少女から離れようとした。
が、千奈美は穿つくような視線を感じる。

自分に良く似た『獲物』いや『追跡者』の視線だ!



          じり・・・
     じり・・・

相手は一気に間合いを詰めては来なかった・・・千奈美もそれに合わせるように後ずさる・・・。
この状態で後ろを見せて走り出すのは危険だ・・・後ろを向いて走り出す、その隙を突かれるのは
目に見えている・・・オマケに友理奈のバックを切り裂いた『能力』も見極める必要がある!

      ここは多少、危険でもあえて後手に回る・・・!

千奈美は覚悟を決め、追跡者を対峙する・・・相手は一定の間合いから近づこうとして来ない。
近距離型では無いのだろうが、遠距離でもない。
この少し遠間が射程距離なのだろう、千奈美は相手の動きに集中した。


ピッ・・・・

赤い光が千奈美の目に映った。
「ッッ!!」
目くらましのような光に一瞬怯む!

  ツツ・・・・
熱い『何か』が腕を伝い激痛が走る!
「な?・・・何時の間にッッ!?」
目くらましを喰らった一瞬、ほんの少しの時間に千奈美の右肩は斬り付けられていたのだ・・・。


「うぅ・・・」
千奈美は左手で右肩を圧迫して止血を試みる・・・傷自体は深くは無いが出血が止まらない・・・
余程鋭利な刃物で斬り付けられた様でズギズギと激しい痛みの鼓動が奔る。

「え?何?だ・・・大丈夫?」
紺色の少女が千奈美に近寄る・・・

「ッ!来ないでッ!!」
千奈美は紺色の少女を突き飛ばす。押された勢いで紺色の少女が尻餅をつく。
赤い光が煌き視界を奪う。次の瞬間、千奈美は手の甲を切り裂かれた!
「痛ッ!!!」
千奈美はその場に倒れ込む。痛みの為ではない、前面投影面積を小さくする為だ!

これまでの二回の攻撃で『赤い光』がキーワードなのは解った。
それから知覚出来ないスピードで射撃が鋭利な刃物を投擲して来るのだろう・・・。
倒せない敵では無いが真正面から立ち向かって勝てる相手ではないだろう・・ここは体勢を立て直す
のが良策・・・・・コイツが仲間と落ち合う前に仕留める!



「もしもし?うん・・仕留めたみたい・・・ん、今確認する・・・そっちは?まだ?じゃあ一回
 切るから・・・うん。そっちで何かあったら・・・うん・・」

・・・・・
・・・・
・・・
・・


「居ないやん・・・・さっきといい・・逃げるのが得意みたいやなぁ?」
 ?
「あなた・・・大丈夫?」
追跡者は紺色の少女に手を伸ばす。
「す・・・すみません」
紺色の少女は手を引かれ身体を起こした。
「さっきの子?知り合い?」
追跡者は優しく笑顔を作りながら少女に話しかけた。
「いえ・・・違いますけど・・」
少女はその笑顔を訝しみながら答えた。
「そんなに警戒せんといて!ちょっと話が聞きたいだけやから・・・そう名前まだやったね?
 あたしマナ・・三倉茉奈・・あなたは?」

「杏・・・・永井杏・・です・・・。」


銀色の永遠  〜ありがとうおとだちF〜

路地の薄暗がりに奇妙な波紋が起こる。
その中心から千奈美の細い腕が生え出る・・・
「はぁ・・・っ・・・はぁっ・・思ったより距離が・・・有ったな・・・」
壁に手を付きながら呼吸を整える・・・・千奈美のスタンド能力で千奈美自身が地面に潜航は
出来るが呼吸の度、地表に頭を出さなければ為らない。
相手に見つかる危険を避けるため息継ぎ無しで千奈美は相当の距離を移動したのだ・・・

呼吸を落ち着かせた千奈美は暗がりから『標的』を覗き見る・・・・

『口を割らせる』なんてマダルっこしいのはヤメだ・・・
どんな敵だかは知らないが『潰す』!絶対!
行動はシンプルが良い・・・

狩人たる決意を新たにしソナーに目を遣る。
   「機影X1」
あそこから動いてはいない・・・・呑気なものだ。
千奈美そう思いながら『シークレット・ディーヴァ』を潜航させる。

「光」がキーワードなのだとしたら対処法は有る。
あの光そのものがスタンド攻撃なのか?光がなんらかの作用をして攻撃になるのか?
それは解らない、が光は直進しかしない・・・曲線的には攻撃できないはず!
建物の死角になっているここには届きようが無い・・。
だったらこうやってトーチカに隠れてジワジワと撃ち殺す。
相手から千奈美を探す事は出来なくても、千奈美には相手の居場所は手に取るように解る!

「何だっけ?昔見たマンガ・・・古いマンガだったな・・。力も無くて役立たずの浪人生が
 他人の秘密を見ちゃって・・・口止め料を貰い続ける・・・それで実感するんだよね。
 力が無くてもウサギが生き残れるのはその耳で情報を集めるからだ・・・
 これからは情報の時代だってオチだったよね・・・?確か?だからこれも同じ!
 自ら情報も得られない愚図の末路は決まってるんだ!」

どこから潰していくか?千奈美は思案した。
文字通り『足止め』に足から潰して行くかな?だとしたら右足?左足?踵?膝?それともそれとも?
最も効果の有る一手に迷いながら興奮を舌なめずりで抑える。

    ピコン!
「!?」
突如、ソナーに浮かんだ機影に千奈美の眉が動く!
「機影X2・・・仲間が来たみたいね・・・・まぁ・・・一人潰すのも二人潰すのもゆっくり殺れば
 一緒・・・だよね・・・そう・・ゆっくりジワジワと・・・」
千奈美は笑みを浮かべながら状況を目視しよう身体を乗り出して暗がりから大通りを窺う・・。

千奈美の表情は凍りついた。
仲間と思しき機影の正体は『友理奈』だった。

「な・・・・」
何故?、疑問符が頭に渦巻く。

だが、よくみると友理奈の腕を誰かが引いている・・ようだ・・・見える範囲だと150cm位の
おかっぱみたいな髪型の子・・・ソナーには引っ掛からない・・・スタンド使いでは無いみたいだけど
・・・・何者?・・・それより友理奈が『標的』に向かってドンドン近づく・・・

「・・・・ど・・・・どうしょう・・・」
急転した状況に千奈美の顔に緊張が走る。


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちG〜


友理奈は『未来』と呼ばれた少女に手を引かれ人混みを泳いだ。

こんなに無策に人通りの多い場所に出るのは危険極まりない行為だ・・・・・だけど・・・
地理も良く解らない場所・・・・彼女達に案内してもらえば少なくとも今よりは状況を把握出来る
だろう・・・彼女等を巻き込む事になるかも知れない・・・だけど手段は選んでられない!
 
 今すぐに千奈美と合流しないと危険な予感がする

何故だか解らないけどそんな気持ちになった・・・・

「ここも人通りが多い所だからお姉さんの友達もいるかも知れませんね!」
未来少女はにこやかに笑いながら友理奈に話しかけた。
「う・・・ん そうだね・・」
何も知らない他人を利用している。その罪悪感から友理奈の返事は切れの無いものだった・・・
「大丈夫ですか?顔色が優れないみたいですけど?」
黒い服を着た少女が心配そうに声を掛ける
「いや   ダイジョウブダヨ・・」
口の中が乾く・・・・私は超能力を持った超人になったハズだったのに・・・こんな姑息で卑怯な
・・・・こんなのは・・・・やっぱり間違ってる!私は私が後悔する道は歩むべきじゃ無い!

「やっぱり・・・・ここまで来たら後は自分で探せると思うから・・・もう良いよ。」

友理奈は立ち止まり未来の道案内を断った。
「戦略の第一は情報」千奈美が見たら笑うだろう・・・こんな事で情報の提供を断ってしまうのは・・だけど・・
こんな事かもしれないけど・・・私はこの子等を利用してまで身の安全を得ようとは思わない!

「え・・そうなんですか?折角、友達になれたと思ったのに・・・・」
未来の笑顔が消え、しょげかえった声で友理奈の方を見た。
「ともだち・・・?」
友理奈は思いもしなかった言葉に驚いた!
「一緒に私達の友達を探してくれたじゃないですか?私達もお姉さんの友達を探してたし・・・
 お互い困ってる所を助け合ったじゃないですか・・そういうのってもう「ともだち」って事じゃ
 無いですか?」
黒い服をきた少女が友理奈の語りかけた。
「でも・・・あなた達の名前も知らないし・・・」
口籠もる友理奈の声を未来が遮った。
「私は未来、志田未来って言います!で〜この子が」
「福田麻由子です。よろしくお願いします。え・・・と」
「熊井友理奈。よろしくね、未来ちゃん!麻由子ちゃん!」
友理奈は吹っ切れた表情で新しい友人に自己紹介した。

そうだ・・・そんなに難しい問題じゃ無い!
敵に出くわしたら私が彼女達を守れば良い!
『追跡者とその仲間をブチのめす』のと『千奈美と落ち合う』そして『友達を護る』。
この3つを同時に行うのは難しい事じゃない!

そう・・・誰かを護れる『力』を私は持っている・・・・『フィール・イージィ』を!
本来の気高さを取り戻した友理奈は力強く歩みだした。

「で・・・・探してる友達ってどんな感じの子なの?」
友理奈は未来達に問うた。
「こう・・・・髪はこんな感じで目はちょっとこんな感じで・・・・とにかく可愛い感じの子です!」
「それじゃ解らないよ!」
的を得ない未来の答えに麻由子が捕捉して伝えた。
「・・・・それで名前は永井杏って言うんです。」
「杏ちゃんね・・・・感じは解ったよ!」
麻由子の解説を理解した友理奈は千奈美の事を詳細に伝える。
「千奈美さんですね・・大体感じは掴めました!」
麻由子は深く頷いてからそう答えた!

・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・
「友理奈さん!こっちです!」
未来は相変わらず友理奈の腕を引きながら先導した。
大通りをしばらく歩くと未来は跳びはねながら手を降り始めた。
「どうしたの?未来ちゃ・・・・・」
そう言い掛けた友理奈の視界に目を疑うものが飛び込んだ。

  すごく!!似ているッ!!でも違うッ!!

一人は舞波に・・・麻由子ちゃんから聞いていた印象で雰囲気は近いからもしかしたらと思った
のだが・・・矢張りウワサの彼女だったのだろう・・・・

もう一人は千奈美に・・・何と無くだが感じが似ていた・・・たぶんそうなのだろう・・
私を見た途端に、目つきが変わり、携帯電話で何か話し始めた。
彼女が『追跡者』なのだろう・・・連絡を取ったという事は仲間は此処には来ていない。
そして直に来るのだろう・・・だったら答えは決まっている!

友理奈は未来に手を引かれるまま、『追跡者とその仲間をブチのめす』と『友達を護る』を
行動に移すため追跡者との距離を近づけた。


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちH〜

友理奈と敵との距離が近づく。

『フィール・イージィ』の粒子で飲み込んでしまえば直ぐにカタは着くだろう。
だがそれではこの子達に万が一が有るかもしれない・・・『友達を護る』事が出来ない!
そう考えた友理奈は粒子を固めて始めた・・・。

「フィール・イージィ・ソリッドヒューマン・・・」
友理奈の呟きが粒子を人型に成形する。
『人型』の状態は攻撃力が酷く落ちるが能力は平均的だ。防御も粒子時より安心できる・・・。
今の「敵を倒す」事と「友達を護る」を同時に進行するのには打って付けの状態だ。

敵の『バックを斬った』能力については何も解らない、だがいきなり斬り付けられる事は無い!
何らかの事前の動きが有ってから斬り付けて来る筈。そこを絶対見逃さなければ・・・。
友理奈は拳を固く握りながら『その瞬間』を待っていた。

「杏ちゃん!どこ行ってたの〜?も〜・・・」
未来が杏に近づいたその時、友理奈の視界に『赤い光』が奔った。

「?なッ?」
急な事に友理奈の身体はビクッと軽く跳ね上がった。
そして気付いた・・・これが攻撃のモーションなのだと・・・。
完全に一手遅れ、防御姿勢も出来てはいない。
敵の攻撃速度が『光速』・・・予想もしていなかったが事実の様だ。

上腕に鋭い痛みを感じた。

「うぐぅッッ!!!」
次の瞬間には血が流れる・・脈を打つような激しい痛みだ。
「どうしたの?友理奈ちゃん?」
突然、不自然な出血をしだした友理奈に麻由子が近づく。
「なんでも無いよ・・・ほら?」
麻由子に何もなっていない腕を見せた
友理奈は慌ててフィール・イージィの粒子を使って傷口を焼き塞いだのだ。
「え・・・でもさっき・・・・」
さっきの出来事を不審に思いつつも麻由子は腕の状態にとりあえず安心した。

「それより凄い偶然だね?『チナミ』。杏ちゃんと一緒に居たなんてね・・」
友理奈は敵を『チナミ』と呼び近づく。
「ぐッッ・・・」
『チナミ』は身体を仰け反らせて硬直させる。
「その人が千奈美ちゃんだったの?凄い偶然だけどさっき聞いた感じとちょっと違うような・・・」
「それじゃあ未来ちゃん、麻由子ちゃん。私達、電車の時間も有るし急がなくちゃいけないんだ・・
 知り合えて本当に良かった・・・・またこの町に来た時は・・・また逢えると良いね!」
麻由子の言葉を遮るように友理奈は『チナミ』を前に歩かせ路地に消えた。

「・・・・駅ってあっちじゃ無いのに・・・それにしてもあの『チナミ』って人の咽喉・・・・
 なんか押されたみたいな窪みが出来てたみたい・・・・」
二人を見送っていた麻由子の呟きは雑踏に掻き消された・・・・


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちI〜

「さてと・・・ここは人通りも無いみたいね・・・」
友理奈は人気の無い路地に敵を連れ込む。
「ク・・・・ッカ・・・」
『フィール・イージィ』に咽喉を掴まれた敵は抵抗出来ず友理奈の言うままに路地に連れ込まれた。

   メシィ!!!
『敵』は『フィール・イージィ』の指を緩め咽喉の戒めを解かれた代わりに壁に頭を押し付けられた!

「私の名前は熊井友理奈。あなたは?」

「・・・・・・」

ゴンッ!!
敵の頭部は壁に強かに打ち付けられる。
「・・・・答えて!」

「・・・・・・・・・・・・・」

ゴンッ!ゴンッ!!!ゴンッッッ!!!!!!

「あなたの名前を聞くまでやめないよ・・・・」
言葉の冷たさが路地に激突音になって響く!


「み・・・三倉・・・・三倉・・・茉奈・・・」
敵は自分の正体を呻く様に曝した・・・
友理奈はこんなものかと言うような素振りをし尋問を続けた。
「それじゃあマナさん・・・私達に危害を加えようとしたり尾行したのは何故ですか?」
ガスッ!!!
「あなたはどうやって『スタンド能力』を身に付けたの?」
ガシッ!!ガシッッ!!!

「答えてくださいッ!!」

尋問は重鈍なリズムを響かせながら続いた。

「ふ・・・ふふ・・・『ライナーノーツ』言う通り・・や・・・」
血に濡れた茉奈の口から聞きなれない言葉が漏れる。
「・・・・!?何を言ってるの?ライナー・・・・」
茉奈に問いかけた友理奈の背中に煮え立つような激痛が走る!

「お・・・げぇ・・・・」
背後からの突然の攻撃に友理奈は膝を突き倒れそうになる身体を留める。

「ふふん・・・やっぱり『ライナーノーツ』の言う通り、『杜王町の『スタンド使い』は決してT町に
 入れては為らない!』てのは正しい意見やねぇ・・・・」

『フィール・イージィ』の拘束を跳ね除けた三倉茉奈は崩れかけた友理奈に近づく。
「あなたのスタンドが・・・何で・・・背後から・・・」
友理奈は呼吸を必至で整えながら声を絞り出す!
「はぁ?なに言ってんねん?後ろ?・・・周りを良く見てみい?」
茉奈は薄暗い路地の天を指差す。
「な・・・・何・・・コレ?」
友理奈は目を疑った。

灰皿のような銀色の物体が無数に宙に漂っているのだ。

「何・・・コレ?まさかこれがあなたの『スタンド』!?」


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちJ〜

銀の円盤群が友理奈の上空を覆う・・・・。

「なんなの・・・この数・・・・」
余りの数に友理奈は言葉を詰まらせる、一個一個はCDぐらいの大きさだが数は少なく見ても200は有る。
「そりゃ驚くわな?こんな狭い路地に連れ込んで優位に立ったつもりが仇になってんのやから・・」
茉奈は笑いながら友理奈の方を向く。

友理奈は苦々しくその顔を睨んだ、が同時に疑問が直ぐに浮かんだ。
相手の攻撃は光線を介して『斬り付ける』ハズ、なのにこの煮え立つ様な痛みは何なのか?
『斬り付け』こそ能力の応用で本来は違う攻撃をするためのモノなのか?
早くこの疑問の謎を解かなければ・・・・・友理奈は唇を強く噛み締めた。

「さてはて如何したもんかいな?・・・カナはまだ来ぃいへんし・・・かと言ってあんたらをこのまま
 返す訳にもいかんしなぁ?」
茉奈はスッと人指し指を下げると円盤の一つから赤い光が友理奈の右太腿に照射される!
「ぎゃ   !」
沸き立つような痛みに友理奈は叫び声を上げる。
「あらぁ?・・・・さっきのスゴ味は何処へやら?」
茉奈は友理奈を嘲った。

「くッ・・・・オォ!!!!ダストォオオオオ!」

    メシャッ!!

友理奈は防御の意味も含めて『フィール・イージィ・ソリッドヒューマン』の拳を円盤に叩き付けた!
軽い音を立てて円盤は簡単に四散した。
・・・が本体の三倉茉奈はダメージなど感じては居ないように涼しい顔をしている

「一個や二個、私の『PrettyFly』を壊しても私は何にもダメージは受けないよ・・・」
茉奈は友理奈から距離を放す様に後ずさる・・・

友理奈と茉奈との離れた空間を銀色の『PrettyFly』が埋め尽くした・・・・・。
 

その銀色の飛行群はキラキラと明かりに反射しながら友理奈を威嚇しているようだった。

「1個や2個だから無事なだけでしょ?」
友理奈は口端を上げ、『フィール・イージィ』に力を込める!
「100や200だったら大問題だろッッッッ!!!!!!!!」
怒号と共に白い拳が唸りを上げて銀色の円盤を叩き割る。
「ダストッ!ダストッ!ダストッ!ダストッ!ダストッ!ダストッ!ダストトゥダストォォオ!!」
薄く張った氷を踏みしめるような希薄な破壊音が路地に響く。

「ッッ!このッッ!開き直りくさって!」
茉奈は『PrettyFly』に光線を放つように指示する仕草をするが友理奈を捉える事は出来なかった。

『フィール・イージィ』の拳は光を感じたモノを選んで打ち抜いていたのだ!
光線で攻撃されかかっても直ぐに円盤を破壊してしまえば攻撃は続かない!
オマケに余りに単調なリズム。安直な攻撃ポジション。
戦い慣れている訳では無く友理奈の敵ではなかった・・・・

肩を起点に楕円の軌道で拳の打ち出しと引き戻しを一動作にする。
入門書で覚えたボクシングの『ジャブ』の動作でリズム良く円盤群を叩き落とす。
力もスピードも凡庸な『フィール・イージィ・ソリッドヒューマン』でも操作次第でどうにも対応
出来きた・・・・才能とは与えられるだけの物ではない、進化するも退化するのも本体の
気持ち一つなのだ・・・・。

三分の一ほど撃墜した所で状況が見えてきた。
茉奈の表情が曇り始めた、ダメージを感じ始めたのだ!
如何に速い射出速度を誇る攻撃手段を持っていても確実に敵にダメージを与える事が出来なければ
意味を持たない。

友理奈は拳を弾きながら茉奈との距離を近づける!
「さぁ?勝負は見えて来たみたいだけど?どうする?ランナーノーツとか言うのゲロっちゃう?」
その言葉に茉奈の眉が釣りあがる!
「このあかんたれが・・・・のぼせるなッッッッッ!!!!!!!!!!!」
憤りを具現したような光線が奔る。
その光は友理奈には向かわず同士討ちの様に円盤に当たる。
「ちょ・・・・何?」
光は円盤群を乱反射し友理奈の周囲を縦横にに奔る・・・・・
「しまったッッ!!!」
予想だにしない方法で光線の射出を許してしまった友理奈は光源の円盤を潰そうと奔る
が・・・全てが一手も二手も遅れを取っていた。

光源の円盤に拳が届く瞬間、友理奈は肩を打ちぬかれ地面に倒れこんだ・・・・。



銀色の永遠  〜ありがとうおともだちK〜

「うぎぃい・・・・ぃぃい」
乱反射して打ち出された光線は今までの光線の痛みの比ではなく
右肩を打ち抜かれた友理奈は激しい痛みにその場で動けなくなった。
痛みを全身に回している様に腕が激しく痙攣する!

「どや?腕が煮えるようやろ?・・・もっとも実際、煮えてるんやけどね」
茉奈は笑みを浮かべて友理奈を見下す。

ピリリリ・・・・・
茉奈の携帯電話が電子音を鳴らす。
「あ、佳奈?いま何処?早ぅ来ぃ!一人捕まえたで。あぁ・・・まだ一人潜伏してるようやけど・・
 で・・・『ライナーノーツ』からは?・・・あ・・・そう。じゃ直ぐ来て!」

プッ・・・
茉奈は携帯の電源を切り友理奈も顔を見る。
その目は余裕みに満ちていた・・・
『見下す者と見下される者』
文字通り地面を這う友理奈とソレを見下す茉奈の間には天地ほどの優劣の隔たりが有った・・・。


・・・・・アイツの『能力』もまだ解ってないのに『仲間』を呼ばれたッッ!
友理奈は歯を食いしばりながら立ち上がろうとした。
左手でビルの雨樋を掴みながらゆっくりと身体を起こす・・・・。
「私は・・・・負けられない・・んだ・・・私は・・・『進化』するんだ・・・」
呟くように、唱えるように、その言葉を口にしながら友理奈は立ち上がる。
打ち抜かれた腕をだらりと垂らし、目前の敵に立ち向かう姿は悲壮そのものだった・・・

「・・・・もう勝負は着いとんのちゃう?まぁ・・・まだヤルちゅうなら付き合うだけやけど・・」
茉奈は指で友理奈を指す。
その合図で円盤から光線が射出される!

「ッ・・・!」

友理奈は横に倒れこみながら光線を避けた。
光線は友理奈の肩に触れ皮膚を切りながら雨樋に直撃する。

カタカタカタカタカタ・・・・・・・

光線を受けた途端、雨樋は物凄い勢いで『振動』し始めた。
「?・・・・・・ッッッ!!!!」
その光景を目にした友理奈の瞳い強い光が宿る!
「なるほどね・・・・なんだかカラクリが解けたみたい・・・」
友理奈は『フィール・イージィ・ソリッドヒューマン』で身体を支えながら立ち上がる。
「これが探偵小説だったら『謎は八割がた解けたッ!』てトコかしら?」
友理奈は茉奈を指差しながら眼光を光らす!

「謎が解った所でどないすんねん?そんな事より・・・その目ぇ・・気に入らんわッ!」
茉奈の指の動きに合わせ円盤が友理奈を囲む。
「茉奈さん・・・・覚悟はいいかな?」
友理奈は不敵に笑みを浮かべながら茉奈の目を見る・・・
「カクゴ?覚悟するンはアンタやろッ?」

指揮者のタクトの如く振り下ろされた茉奈の指先を合図に友理奈を囲んだ20枚程の円盤から
波状的に光線が照射される!

「ふふ・・・焦ったね?このシロウト!『フィール・イージィ・ディハレーション』!!」
人型に固められた友理奈のスタンドは戒めを解かれ粉雪のような純白の流砂に変貌する。
白き死の流砂は貪るような獰猛さで標的である『三倉茉奈』に襲い掛かる。

「ぃぎゃぁああぁああぁあぁッ!!!!!!!」
茉奈の身体に付着した『フィール・イージィ』の粒子は強力な脱水作用で茉奈の身体の水分を奪う。
踊るような仕草で粒子を払おうとするが粒子が凄まじい勢いで身体を覆う。

友理奈は光線を打ち込まれながら耐えていた・・・・。
『物質に振動を与える光線を照射する能力』、相手のスタンド能力は解いたが手負いになって満足
に動く事が出来ない友理奈に出来る事は『耐える』事だけだった。
光線の当たった部位の水分が振動して電子レンジで加熱されるようなダメージを受ける。
激しい痛みを受けている・・・が向こうも『フィール・イージィ』の脱水攻撃で相当の痛手の筈・・
こういった泥仕合なら耐えれれば勝てる・・・耐えれれば・・・・。

「ぐぅッ    !」
光線に太腿を穿つかれ友理奈の身体が地面に激突した。
雨の様に上空から光線が降り注ぐ
友理奈の意識は打ち込まれた光線の数だけ遠のく・・・・
「こ・・・・ここまで・・・なの?・・・・ゴメ・・ン・・・千奈・・」

消え行く友理奈の視線に白い物が横切る・・・・いや友理奈は地面にうつ伏せているので
正確には地面から白い物体が飛び出してきたのだッ!

「対空ミサイルッッ!20門ッ!発射ッッッ!!!!」

その掛け声と共に友理奈に苦痛を与えていた茉奈のスタンド『PrettyFly』が地面から打ち出された
ミサイルによって次々と割れカスになる。

地面に波紋が走り友理奈の身体がゆっくりと持ち上がる。
「ホント・・馬鹿みたい。人前だろうがあのまま殺ッちゃえばこんな目に逢わなかったのに・・・
 『あの子等』を巻き込まない心算でこんな所で一人でカタつけようなんて・・・馬鹿だよ・・」
地面から出現した千奈美は肩に友理奈を抱えた姿勢のまま浮き上がる。
「私は・・・・カッコつけるのが性分なんだ・・・・あそこであの子等を巻き込んだら・・
 カッコがつかないよ・・・・」
友理奈の言葉に呆れながら・・・・・千奈美は地面を踏みしめて立ち上がった。
「特盛の馬鹿だよ・・・友理奈・・・だけどウチはキライじゃないよ・・・そゆ所!」


銀色の永遠  〜ありがとうおともだちL〜

友理奈の身体を引き摺りながら、千奈美は茉奈に近づく。
「あんたらの目的が何なんだかかもうどうでもいいよ・・・・」
地面からシャープペンシル程の大きさのミサイルが茉奈に向かって射出される!
高速で射出されたミサイルを茉奈は『PrettyFly』で打ち落とす事が出来ず直撃を食らう!
「うぎぃッ・・・・」
『フィール・イージィ』の脱水攻撃で弱った身体には十分過ぎるダメージにその身を捩らせる。
「だけどね、友理奈をこんな目に逢わせた落とし前はキッチリ付けさせてもらおうジャン?」
千奈美は息も絶え絶えに壁に手を着く茉奈に引導を渡すべく間合いを詰める・・・。

「オトシマエ・・・・?ふふ・・・笑わせんといてや?」
追い詰められいるはずの茉奈は不気味な笑顔を見せる。
「何?・・・オマエ?頭がバグっちゃってる?」
訝しい表情で千奈美は茉奈を睨み付ける。
「違・・・千奈・・・!コイツのこの表情・・・仲間が・・・・・」
千奈美の肩に靠れかかった友理奈が言葉を言い切る寸前、銀色の風花の様な物がはらはらと舞い降りる
「?・・・・もしかして連絡を取ってた仲間?!新手のスタンド使いッッッ!!!」
相手の位置を確認しようと千奈美がソナーを見た瞬間、異常が起こる。
手の甲に浮かぶソナーに砂嵐が走り機能を全く果たしていないのだ・・・。
「な・・・・何コレ?・・ジャミングされてる?」
銀色の風花が千奈美と友理奈達だけを取り囲む様に舞っている。
「千奈ッ!?こ・・・これは?」
銀色を目で追いながら友理奈は千奈美に問いかける。
「chaff・・・・チャフ、電波欺瞞紙。こいつ等は一人が攻撃で一人が電子戦を受け持ってるんだ・・
 レーザー衛星兵器にジャミング兵器・・・・・・ワンダー過ぎるSFセンスじゃんッ!」
自らの十八番である情報収集能力を封じられた千奈美は苦々しく吐き捨てる。

chaffは銀色の光を乱反射させながら千奈美と友理奈の視界を灰色に染めていった・・・・。



銀が光を失い始め鈍色の灰に変わると妙な感覚が千奈美を襲う。
肩に感じていた友理奈の重さが無くなっていたのだ。
「友理奈!ウチから離れないで!敵の術中ダヨッ!」
そう指摘しながら友理奈のほうを向く・・・。
千奈美の肩には友理奈が寄りかかっていた。
「!?」
異常に目を見開く千奈美の表情を見て友理奈も何かを喋っているようだが・・・
口が動くだけで声が出ていない。
否、
聴覚や触覚が、感覚器が『敵のスタンド能力』に遮蔽されているのだ。
友理奈と千奈美はお互いに意思を疎通させようと必至に身振りをするがそれをも許さぬ様に
お互いの顔が白く霞みがかる・・・・視覚をも遮断され始めたのだ。
霞がかり始めから2秒も無い短い時間でお互いの場所が全く解らなくなってしまった・・・。
視覚、聴覚、触覚、おおよその感覚がたかだか銀粉の様な形を成さぬスタンドに短い時間で奪われた。

千奈美と友理奈はこんな狭い空間で孤立させられてしまったのだ!


「ヤレヤレ・・・・危機一髪やった?」
路地の脇からひょっこりと同じ顔が出てくる。
「かなりやられとるの!全然遅いっちゅ〜ネン!」
三倉茉奈は遅れてきた双子の片割れ三倉佳奈を軽く睨む!
佳奈は茉奈を引っ張って起こし制御を失った友理奈のスタンドを払い落とす。
「さてと?これからどうすんねん?『ダフト・パンク』の干渉を受けていればあの子等は動けない!
 やけどこのままって事はあらへんやろ?」
茉奈はダメージを受けた所を押さえながら問うた。

「『ライナーノーツ』は?何か連絡は入ったの?」

「残念ながら一個も連絡は無いでぇ・・・・・」

「さよか・・・ほなウチらの独断で行動するしかないわな?」

「そやね・・・『近づけるな』とか『警戒しろ』とかしか言われてへんもんね」

二人は示し合わせたように頷くと茉奈は破壊されてない数枚の『PrettyFly』で灰色の瘴気を取り囲む
円盤と円盤はお互いを光線で組成式の様に繋がりあい円盤で作られた箱の内部の大気を振動させる。

「さてこれで中の二人はボーンッ!やね!」

「そうやね!後が残らなければ問題は無いやろ!」
茉奈と佳奈は同じ顔をしながら笑った。
とても無邪気な笑顔で・・・。



銀色の永遠  〜ありがとうおともだちM〜


灰色の虚無の空間。

上なのか下なのか

右なのか左なのか

音も無く

色も無く

只々、偽りの空間が目前に広がる。

千奈美はその中でもがく様に動こうとする。
が、もがけばもがく程・・・・クモの巣の様に銀粉の世界から逃れる事が不可能に思えた。

「く・・・・たかだか情報遮蔽する・・・それだけの癖に・・・・」
千奈美は苦々しく唇を噛み締める。
友理奈も本当は直ぐ傍にいる筈、なのにそれすら感覚が遮蔽された世界では感じえる事すら不可能
なのだ・・・・友理奈の交戦中にワッチしたもう一人の方の能力は『物体を振動させる光線を放つ
能力』・・・だとしたら・・・・この動けない状態は・・・・ヤバい・・・

千奈美の危惧は的中した。

初期症状は何処と無く居心地の悪い・・・くすぐったいというか妙な焦燥感だった。
しだいにむず痒さは広がり身体の中心が沸き立つような不快感が広がる。

「ウッッッぐぅ・・・・」
その衝撃に千奈美は卒倒した・・・・そして絶望的な状況を認識した。

敵スタンドは危惧通り千奈美と友理奈の居る空間その物に振動を与えているのだ。という事に。
振動は大気を通じ体内の水分に干渉を与え発熱作用を及ぼす。
内部から熱を与えられたその後の状況は電子レンジで卵を温る事を想像すれば簡単だろう。

「どや?・・・まだ破裂せえへんの?」
佳奈は茉奈に問う。
「温めてる空間が広いからレンジで1分でワケにはなぁ・・・」
茉奈は腕を組みながら『ダフト・パンク』で覆われた空間に目を遣る。

   グゥキュウウウウウウウユウウウウウウウウュン!!!!!

どこからとも無く聞こえた得体の知れない不快音が路地に響いた。

その音の不審さに茉奈と佳奈は辺りを見回す・・・・・。

「・・・・・・?」

「・・・・・・」

「・・・・!」

「!!!!!!!!!!!」

異常事態は目前で起きていた。
佳奈の意思とは無関係に『ダフト・パンク』が解除され『PrettyFly』も活動が停止しているのだ。

「「・・・・そ・・・そんな?馬鹿な事が有るかいなッッッ!!!!」」



     ゴゴゴゴ  ゴゴ   ゴゴゴゴゴゴ

「千・・・・・千奈美・・・・・」
息も絶え絶えに友理奈は千奈美の名前を呼んだ・・・・。
「どう言うワケだか解らないケド・・・助かったみたいね・・・」
千奈美は友理奈の肩を抱えて起こす。

「「何で私達のスタンドが動かない・・・・何やねんな?何やねんなッッ!!!!!」」
茉奈と佳奈は『PrettyFly』と『ダフト・パンク』を操作しようとするが一向に反応しない。
「あの『音』か?あんな『音』で・・・・」
血の気の引いた顔に影が二つ映りこむ。

「形勢逆転だネ・・・・・ウチの分も含めて倍返しでオトシマエ・・・つけさせて貰おうジャン!」
千奈美は友理奈を引き摺りながら茉奈と佳奈に近づく!

「・・・・『ライナーノーツ』からの連絡が来なかったのも・・・この事態を『予見』してた・・・から?」
引き攣った顔で茉奈は後ずさりをする。
「そ・・・そんな・・・私達は・・・・見捨てられたん?」
佳奈は茉奈の腕を掴んで声を荒げる。
「『ライナーノーツ』の言葉を信じてたのに・・・『ライナーノーツ』は町を・・・人を護る・・
 正義・・・・だったハズ・・・なのに・・・」
苦々しく呟く茉奈の言葉を掻き消すように佳奈が絶叫する!
「嘘や!私はそんなん認めへんッッ!!」
佳奈の足元にミニチュアの大砲のようなモノが出現する!
「もう一回!もう一回!灰の世界に消えろ!『ダフト・パンク』ッッッッ!!!!!!!!!!」
『ダフト・パンク』から射出された弾丸のような物は千奈美達の頭上で爆散し銀粉が舞い降りる。

はらはらと感覚を断ち切る燐粉が千奈美達を襲う!

「最後の最後まで足掻くなんてお前等、本当に『NO』<最低>なヤツ等だね!」
千奈美は一指し指を茉奈と佳奈に向けて睨みつける!
「『NO』<最低>なヤツに『NEW』<未来>なんて無いんだヨッッッ!!対空ミサイル全弾ッ発射ッッッツ!!!」
千奈美の怒号を合図に爆雷の嵐が標的に襲い掛かった・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


「千奈・・・・やり過ぎだよ・・・・『ライナーノーツ』とか言うの・・聞き出しとく必要が
 有ったんじゃないの?」
『シークレット・ディーヴァ』の爆撃を受け再起不能になった敵を見て友理奈は苦言を漏らした。
「上から切られたヤツ等に何を期待するのサ・・・それにベラベラ口を割るようだったらコイツ等の
 命が無いンじゃないの?」
そう言いながら千奈美はソナーを見つめ眉を顰めた。
「そんな事よりさ・・・くまいちょー、マラソンの選手って1kmをどの位で走るんだっけ?」

「?」
いきなりの・・・・千奈美の突飛な質問に友理奈は答えられなかった。
「先刻のね・・・ウチらがチャフの中から出たときにソナーでアイツ等の場所を確認しようとしたら
 あの時あの場所にウチ等とアイツ等のほかにあと一人別のスタンド使いが居たんよ・・・・
 そいつがどう言う訳だかウチらを助けた・・・コレまでは良いとしてソレからの反応が消えてるの
 ・・・・2分位の時間で半径一キロのソナーから消えるなんて考えられる?」

「それって・・・・・」
友理奈は答えようとしたがそれから先は口に出せなかった・・・・・・


三倉茉奈 再起不能
スタンド名 『PrettyFly』

三倉佳奈 再起不能
スタンド名 『ダフト・パンク』




TO BE CONTINUED…







「・・・僕らがあまり干渉するのは良く無いんじゃないの?」

「あのまま見殺しにするのも死人が増えて私達の行動がやりずらくなると思っただけですよ・・・・
 それより『彼』は見つかったんですか?」

「い・・・いや・・・・ここでは見つからなかった・・・・」

「・・・じゃあまた杜王町を探しましょうか?『東俣野さん』」

「あぁ・・・急ごうか・・・」