295 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:48:16 0
第一章 「覚醒」

1
─あたしは悩んでいた。
この状況に一体どうやって白黒はっきりつけるのか、ということに。
恐らく一歩でもミスを犯せば、あたしにもう、道は残されていないだろう。
「ちょっともう、早くしてよ。いつまで待たせるつもり?」
「待って、あと十秒だけッ。」
敵はもはや一刻の猶予すら与えてくれそうもない様子である。
仕方がない。ここは思い切って、ケリをつけるしかない。
「じゃあ、これでどうだッ!」
「それじゃ、ここをこうして、と。」
「ああああああああああああッ!?」
あたしはあっさりと、敗れ去ったのだった。


296 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:50:54 0
2
「本当、希美ってオセロ弱いよね。」
「うるさいな。あんたが変に強すぎるだけでしょうが。女の癖に。」
「あ、女性差別ですぞー希美さん。今の発言は。」
希美とは、他の誰でもなくこのあたし、私立和泉中学三年生辻希美15歳のことである。
「つーか本当イライラする。一体どこでそんなスキル身につけてきたの?あんたは。」
「まあその、昔ちょっとねえ、いろいろありまして。」
そしてこのあたしより年下の癖に何かと調子がよくて、鼻につくヤツの名前は、加護亜依。歳はあたしより一つ下の14歳。
あたしとは同じ中学の同じクラスに通うクラスメイトであり、また一番仲のいい友達でもある。
時折、ちょっとした言動がいちいち勘に触ったりするけれども。
で、今までの事の次第を簡単に説明すると、中学が土曜日でお休みな今日、
いつものようにあたしの家に遊びにやってきた亜依は、いつものようにあたしにやりたくもないオセロを挑み、
そしてまたいつもの通り、あたしは案の定亜依にぼろぼろに負かされた、と言うわけである。
「あー、もうやめたやめたオセロなんか。ちょっと下からなんか食べるもの取ってくるね。」
「おーおー、負けたからって逃げるのはよくないですぞ、希美さん。」
「うるさいなー。本当に。ていうか、いい加減家に来てあたしとオセロばっかりするのやめろっつーの。」
「あ、牛乳は絶対持ってこないでね。人の家来てまで飲むなんてゴメンだから。」
「人の話を全然聞いてないなこいつは・・・。はいはい、わかったわかった。」
ちなみにあたしと亜依は牛乳が大の苦手である。まあ至極どうでもいいことではあるが。
あたしは口の中でブツブツ文句を言いながら部屋のドアを開け、階段を降りた。


297 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:52:21 0
3
二階の階段を降りてキッチンに向かう途中、リビングルームのテーブルに母が座っていた。
あたしの母親だけあって、少し前の方に突き出た前歯が特徴的である。
「あ、希美、また亜依ちゃん遊びに来てるの?」
「うん、今二階の部屋にいる。」
「本当、仲がいいわねえ。でもたまには二人で外にも出かけてみたら?ずっと前から家で遊んでばかりじゃない。」
亜依が基本、出不精なのである。決してあたしのせいではない。
「ま、あいつの気が向いたらね。」
「・・・そうそう、ところで希美。あなた亜依ちゃんとは本当に仲良しなのの?」
「・・・え?」
たった今あたしたち二人の仲がいいと言ったのは母のような気がするのだが。
「・・・もちろんだよ。まあたまにムカツいたりすることもあるけどさ。」
「・・・そう・・・それならいいんだけど・・・。」
「・・・?」
おかしな母である。あたしと亜依が小学校の頃からずっと友達でいるのは、前々から知っているはずだ。
「変なの。お母さん。」
そう言うと、あたしは冷蔵庫にあったグレープフルーツジュースと、
棚にあったお菓子を手に取り、二階の部屋へと向かった。


298 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:53:57 0
4
「おーい戻ったよー・・・あれ?」
階段を昇り部屋のドアを開けるとなぜかそこに亜依の姿はなかった。
「おかしいなー・・・下に降りてきたのなら普通に気づくはずなんだけど。」
あたしの家は階段を降りれば、すぐ横に廊下を挟んでリビングルームの入り口がある。
そしてトイレはその入り口に向かって左の奥の方にあるので、
そこに向かうにはどうしてもその入り口を横切って行くことになる。
さらに、入り口にはドアがついてないのであたしと母の姿も簡単に目に留まるはずである。
いくら馴染みの友達とは言え母に挨拶くらいはするヤツなのだが・・・。
それとも単にお互いが気づかなかっただけなのだろうか。
「まあ、どうせ、またなんか変なことでもたくらんでいるんだろーな・・・。」
あたしはカーペットの上にごろんと寝転ぶと適当に傍に置いてあった雑誌をめくり、持ってきたお菓子をつまみ始めた。


299 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:55:16 0
5
しばらくしておかしなことに気づいた。亜依が三十分経っても下から戻ってこないのである。
「あいつ・・・何やってんの・・・?まさか勝手に帰ったとかじゃないよね・・・?」
下にいた母を見つけて二人きりで世間話でもしてるのだろうか。どうにも気まぐれな奴である。
「二人で話するならあたしも呼んでくれればいいのに・・・白状な人達だなあ。」
とりあえず、ここであれこれと愚痴を言っていても仕方がない。
あたしは下に降りて二人に軽い文句の一つでも言ってやることにした。
と、その時、部屋のドアが静かに開いた。

「あれ・・・お母さん?」
突然、母が部屋の中に入ってきた。どこがもの憂げそうな表情である。
「どうしたの?何か用?」
なんだかさきほどと比べて顔にあまり覇気がないような気がする。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
母は何を思っているのか無言のまま立ち尽くしてそこを動かない。あたしに対して何か怒っているのだろうか。
「・・・・・・・・・・?」
「何・・・?怖いんですけど・・・そうやって何にも言わずに立っていられると・・・。」
・・・それに、お母さん。さっきからなんで右手だけ後ろに回しているの?」

刹那、母の背後から何かが光った。
「ッ!?」


300 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:57:02 0
6
「何?今のッ?」
一瞬何が起こったのかあたしは全く理解できなかった。
しかし、母の手に握られているものを見て、あたしはようやく何が起こったのかを理解した。
「ちょ、ちょっと、お、お母さん!?それ何持ってるの?」
あたしは今母があたしに向かって振り下ろしたそれを凝視した。
母の手には刃渡り20cmはあろうかという鋭利な文化包丁が握られていた。
もし、あれで体を突き刺されたりでもしたら、恐らくあたしはひとたまりもないだろう。
「ウ、ウソ?冗談だよね?」
勿論信じられなかった。母があたしを包丁で刺そうなんて
この15年間、いやこれから先も絶対に考えられないことだからである。
だが彼女の目はまさに真剣そのものだった。
母は実の娘であるあたしを明らかに殺そうとしているのだ!!
(なぜ?どうしてお母さんが私を?普段はあんなに穏やかでやさしい人なのに!)
戸惑うよりも絶望するよりも、あたしはとっさに本能で次の行動の答えを出した。
「とにかく逃げなきゃ。逃げなきゃマジで殺されるッ!」
そう言うと、私は急いで後ろの方へと走り、ガラス戸を明けてベランダの方へ逃げようとした。
が、しかし、いくら引っ張ってもガラス戸はびくとも動かない。
「あ、開かない?なんで?鍵はちゃんと開いているはずなのにッ!」
まるで何かに押さえつけられているかのようにガラス戸はあたしの力を全く受け付けない。
そしてあたしが戸の前で必死にもがいているその隙を狙って、
母があたしに包丁を高く振り上げた!
「イヤァァアアアアッ!!!!!!」

次の瞬間あたしの体は宙に浮かんでいた。


301 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:58:09 0
7
「!?」
「・・・な、なにこれ?一体なにが起こってるの?」
などということを考える暇もない内に
あたしの目の前のガラス戸が突然、大きな音を立てて勝手に粉々に砕け散った!

ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

「!?」

そして次の瞬間、またも驚く暇もないうちに、
あたしの体が突然外の方へと独りでにほうり出される!

「!!!!!!!!」

声にならない悲鳴を上げながら庭の方へと放り出され、
そのままあたしは地面に強く打ち付けられ・・・

「!?」

地面に打ち付けられる、その瀬戸際。
あたしの体は再び空中でストップした。


302 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 04:59:41 0
8
頭がパニックになる。
まさか、まさかまさか
人 間 の 体 が 宙 に 浮 く な ん て ッ ?

確かにあたしの体は地面からしっかりと約1mは離れた状態で静止している。
これは精神の混乱による幻覚症状なのだろうか。それともすでにあの世の存在であるということの証明なのだろうか。

・・・いや、違う。あたしが今感じているのは「浮いている」なんて感覚じゃない・・・。

これは・・・何か目に見えない力によって・・・・

浮 か さ れ て い る の だ ッ !


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!

「!?」

激しい爆発音とともに
あたしの家から火の手が上がった。


303 :名無し募集中。。。:2005/10/25(火) 05:01:15 0
9
「あ・・・あ・・・」
あたしが15年間住み続けた家が今激しく燃えている。
火の手は驚くほど回りが速く、今にも隣家に燃え移りそうな勢いだ。

「亜依ィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!お母さああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!」

中にはまだ母も亜依も残っている。
あたしは喉がはちきれんばかりの大声で二人の名前を絶叫し続けた。

「おい!どうしたッ!?なんの騒ぎだ?」
「君ッ!大丈夫か!?君ッ!」

数分後、駆けつけてくる近所の人の声が薄れていくのを感じながら
私は意識を失った。

To be Continued・・・