435 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:35:00 0
第三章「発覚」

─あたしは混乱していた。
あたしを助けてくれた見ず知らずの女の人が、なぜかあたしの名前を知っている・・・?
「えーっと・・・ど、どこかでお会いしましたっけ・・・?」
「うーん、どこから説明したらいいかな・・・。」
「・・・もしかして姉の友達の方ですか?」
「こういう説明とか苦手なんだよね、アタシ。」
・・・なんだか会話が噛み合ってないような気がする。
それによく見ると、この人服装がどこかおかしい。
もう秋だというのに、上はタンクトップ一枚に下はホットパンツという、
いかにも夏真っ盛りといった、およそ季節に似合わない格好をしている。
髪型はあたしと同じ上でまとめた形・・・ってそこはどうでもいいか。
「あ、あのー・・・あたしこれから行くところがあるんですけど、
用がないのなら、そろそろ失礼してもいいですか・・・?」
あたしがそう言うと、彼女は慌てて気づいたようにこちらの方を見た。
「あ、ゴメンゴメン。今ちゃんと説明するね。」


436 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:37:01 0
「希美はさあ、ドッペルケンガーって知ってる?」
「ドッペルケンガー・・・?」
・・・そういえば、確か漫画でそういう話がやってるのを読んだことがあるような気がする。
自分と姿も声もそっくりな人間が目の前に現れるとかいう・・・。
「アタシはね、まあ・・・つまり、それみたいなものなの。」
「・・・は?」
何を言ってるんだこの人は・・・。
「あの・・・もしかしてからかってるんですか?」
「・・・あ、違う違う。これは本当の話なの。
今すぐには信じてもらえないかもしれないけど。」
・・・確かに、あたしは中学では数学を除けば、成績の方はそれほど思わしくなかったりする。
が、しかし、いくらなんでもこの程度の嘘に騙されるほど馬鹿という訳でもない。
それに、まだ向こうの名前も知らないのに勝手に希美呼ばわりされてるし・・・
なんかムカツクなぁ・・・この人。
「・・・それに、ドッペルケンガーって、見たら早い内に本人の方が死ぬんじゃなかったですか・・・?
あなたが仮にドッペルケンガーだとすると、
それをちょうど今見ているあたしは、もうすぐ死ぬってことになりますよね・・・。」
「・・・・・・。」
彼女は明らかにしまったという顔をしている。
おいおい十年早いぞ、人を小馬鹿にするのは。
「・・・だ、大丈夫よ!あ、あたしはホラ・・・は、背後霊!背後霊みたいなもんだから!・・・アハハハ。」
「は・・・背後霊って・・・。」
ますますうさんくさくなってきた。どこか頭がおかしいんだろうかこの人。


437 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:39:07 0
「・・・じゃ、じゃあ・・・そ、そうだッ。」
と、彼女はいかにも思いついた、という顔をすると
あたしに向かい、嬉々とした表情でこう言った。
「あ、アタシはね、希美の考えてることがいつでもわかるんだよ。
具体的にどういうことを考えているのかまでは、詳しくはわからないけどね。」
「・・・は、はぁ。」
・・・なんだかもう疲れてきた。
命を助けてくれたのはありがたいけど、まさかこんな変な人だったなんて。
ていうか、最近どうも妙なことに多く巻き込まれてるような気がするなあ・・・。
「希美・・・あなた今、どこかに向かって急ごうと思ってるでしょ?当たった?」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・さっき言いましたよね・・・?これから行くところがあるって・・・。」
「・・・・・・。」
「そ、それにッ!さっきからうざいなーこの人。早く消えてくれないかなーって思ってるでしょ・・・ってちょっと待ってッ!」
やれやれ、これ以上付き合っていたらあっという間に日が暮れてしまう。
そう思うと、あたしはまだ後ろの方で何かを叫んでいる彼女を背にし、
亜依の家へ向かおうとした。


438 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:40:39 0
「ま、待って!ごめん言い方が悪かった!謝るって!」
どうやらまだ付いてくるつもりでいるらしい。
もう・・・鬱陶しいなあ・・・。
と、その時、道の向こうから高校生らしき若い男二人が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
なにやら、あたしの顔を見ながらぶつぶつと何かを呟いているようだが・・・。
(・・・おい、本当にあの娘でいいのか?どう見てもまだ中学生にしか見えないぞ。)
(あの子で間違いない。写真の通りだ。)
(だけどよォ、・・・あんな小さな女の子相手にマジでヤッちまっていいのか?
それに一人無関係な女の人までそばにいるしよォ・・・)
(仕方ないだろ・・・やらなきゃ俺達の方がマズいんだからな・・・。)
二人組はあたしの目の前まで来ると、ちょうどそこで立ち止まった。
一方は明るいというか、少し軽い感じのする男であり、
もう一方はどこか寡黙な雰囲気のする男である。
どちらも中々のイケメンだが、うーん両方ともあたしの好みではないかな・・・。
あたしがそんなことを考えていると、軽い感じの方の男があたしに声をかけてきた。
「あー・・・すいませんちょっといいですか?」
「・・・・・・あ、はい。」
なんだろう・・・まさか道を尋ねられるとは思えないけれども・・・。


439 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:42:55 0
「えーっといきなりで申し訳ないんですけども、
僕らは高校で、手品同好会というものに所属している者達でして、
僕が相葉という名前で、こっちの少し堅物そうなのが松本と言うんですけども・・・」
・・・て、手品同好会・・・?
こんないかにもバスケ部やサッカー部に入ってそうな人達が、
なんでまた手品の同好会なんぞをやっているのだろうか・・・。
まあ、ナンパをしにきたとか、おかしな勧誘の類とかではなさそうだけれども・・・。
あたしが少し疑わしそうな視線を向けていると、それに気づいたのか、
相葉という男は困ったような顔をして、隣の男とまた何かひそひそと小声で話し始めた。
(・・・お、おい、なんかすげー怪しまれてないか?本当に大丈夫かよこの作戦で・・・?)
(・・・いいから続けろ。もう一人の女は俺がなんとかする。)
「・・・で、僕らは今、課外活動の一環として、一般の方にちょっとした手品を披露して、
評価してもらうって感じのことをやってるんですけども・・・
・・・よかったら試しに一つ見て行ってもらえませんか?お金の方とかは全く必要ないんで。」
「おー、面白そうじゃん。見ていこうよ、希美。」
「・・・げっ!あ、あんた・・・いつの間に・・・。」
「さっきからずっと後ろの方にいたんだけどね。」
「おっ!そちらのお姉さんは随分と乗り気ですね?決して見ていって損はしないと思いますよ!」
・・・ま、いいか。本当にただ自分達の手品を見てもらいたいだけのようだし、
こいつよりはまともな人たちに決まってるだろうしね・・・。
「・・・じゃあお願いします。」
「・・・わかりましたッ!」
そういうと、相葉という男は持っていたバックから
何やら黒いシルクハットを取り出し始めた。


440 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:44:38 0
「・・・えー、手品にありがちなパターンとして、
よくこういった帽子から鳩をとり出すというマジックがありますが、
・・・僕の場合はなんとッ!ハンドパワーでこの帽子そのものを鳩に変えることができます!」
「おっ!そりゃすごいッ!」
・・・おいおい乗せられるなよ簡単に・・・こっちが恥ずかしくなってくる。
「というわけで松潤、ちょっと帽子持っててくれ。」
「OK。」
相葉という男は、松本というもう一人の寡黙そうな男に帽子を持たせると
何やら両手を帽子に向かい、妙な形に構え出した。
すると突然、彼の手の中に一本の細長い剣が出現した。
「・・・!?」
「ではッ!行きますよッ!せーのッ!」
ドスッ。
相葉が現れた剣で帽子を一突きすると、
帽子は一瞬にして一匹の小さな鳩に変化した。


441 :NON STOP:2005/11/11(金) 00:46:08 0
「おーッ!す、すごいッ!」
・・・た、確かにこれは凄いかも・・・。
・・・い、いやいや騙されてはいけない・・・この女と同レベルになってしまう。
でも、突然手の中に出現したあの剣は一体・・・?
「すごーいッ!一体どうなってるんですか?その剣!」
「え・・・?」
と、あたしが今思ったことを、横にいた彼女がそのまま口にした途端、
相葉の表情がみるみるうちに凍りついた。
「・・・あんた今・・・なんて言った?」
「へ・・・?」
「お、俺のこの剣が、見えるっていうのか!?」
何をそんなに驚愕しているのだろう。
隣の松本という男もあたしたちの様子を見て少なからず動揺しているようだが・・・
「・・・えーっと、希美・・・普通に見えるよね、あれ?」
「・・・え?う、うん・・・み、見えちゃなんかまずかったですか・・・?」
相葉という男は神妙な顔でしばらく考えこんだ様子の後、
突然、ハッと気づいたような顔をして、あたしたちの方を見た。
「・・・松潤やべえッ!こいつら・・・スタンド使いだ!」
「・・・お前・・・少しは誤魔化すとか知らん振りするとかしろよな・・・。」