747 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:00:33 0
第二章「邂逅」

─目を覚ますとそこは森の中だった。
あたりには空が見えないほど、木々が深々と覆い茂っており、
その木に囲まれるようにして、小さな泉が一つそばにあるだけだった。
そして、あたしはちょうどその泉の近くに倒れるような感じで一人静かに横たわっていた。
「あれ、あたし・・・なんでこんなところにいるんだろ。」
頭が少しくらくらする。さっきまで自分のしていたことがはっきりと思い出せない。
確か、あたしは部屋に戻ってこない亜依を探しに行こうと思って、そうしたらお母さんが・・・。
「!?」
突然、背後に人の気配を感じて、あたしは咄嗟に後ろの方を振り返った。
そこには、あたしがよく見慣れた顔の人物が立っていた。


748 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:02:49 0
「お、お母さん!?」
紛れもなくあたしの生みの親であり、人生の苦楽を共にしてきた母だった。
だが、どうして母がこんな所に?そもそもここは一体・・・
・・・と、その時。あたしは母の手に「あるもの」が握られていることにちょうど気がついた。
「・・・ッ!?・・・ちょっと、お母さん・・・まさかそれって・・・?」
・・・この状況は、どこかで見たことがある。
確か、亜依を探しに行こうとしたとき、お母さんが急に部屋に入ってきて、そしてそれから・・・
「・・・って、まさか・・・この次に起こることってまさかッ・・・?」
あたしは急に背筋が凍りつくのを感じた。
そして次の瞬間、あたしの想像した通り、
母はあたしに向かって手に持った包丁を思いっきり振り下ろしてきた!
「あああああああッ!!!!やっぱりィィィッ!!!!!!!!!!!」
・・・今度こそ確実に刺されて殺される!
そう思って身を庇った刹那、
あたしはそこでようやく本当の意識を取り戻した。


749 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:04:12 0
「・・・希美ッ!しっかりしなッ!希美!」
「・・・ぁ?」
目を開けると、姉が必死にあたしの名前を呼びながら、体を揺さぶっているのが見えた。
「よかった・・・気がついたんだね・・・。」
「・・・お、お姉ちゃん・・・こ、ここは・・・?」
「病院のベッドだよ。あんた丸一日は眠ってたんだからね。」
病院のベッド・・・?なぜ、あたしはそんなところで寝かされているのだろう・・・。
・・・って、ちょっと待てよ・・・何かとても重大なことを忘れているような気が・・・。
「・・・ところでお姉ちゃん・・・。あたし、どうしてここで寝てるの?」
「えっ・・・?」
姉は信じられないといった様子で、あたしの方を見た。
なんだろう、なにかとてつもなく嫌な予感がする・・・。
「希美・・・アンタ、まさか何も覚えてないの・・・?」
「・・・え?」
「・・・・・・ちゃんと説明するから、落ち着いて聞くのよ。」


750 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:05:49 0
そう言うと、姉は家が火事になったこと。あたしがなぜか庭先の方で倒れていたこと。
近所の人がそれを見つけて通報してくれたこと。自分が高校から現場に来たときには、
すでに家の半分以上が焼け落ちていたことなどを、あたしに説明した。
「うちが・・・焼けたって?」
「・・・そう。・・・警察は恐らく放火の疑いが強いと見て捜査の方を進めているわ。
近所の人が何人も激しい爆発音を耳にしているらしいの・・・。」
・・・あたしはようやくそこで全てをはっきりと思い出していた。
お母さんに殺されそうになったことや、その時に起こった奇妙な現象も含め、全てのことを。
「そうだ・・・爆発したんだっけ・・・あたしの家・・・。」
「うん・・・。でも、希美が無事だってわかった時は何よりもほっとしたけどね。」
そう言いながらも、姉の表情にはどこか悲痛の色が見え隠れしていた。
無理もない。自分が生まれてからずっと住み続けた家が一瞬にしてなくなってしまったのだから。
だが、それよりもずっと気がかりになっていることがあたしにはあった。
「それで、お母さんはどうなったの・・・?亜依は?」
「・・・・・・!」
あたしがその言葉を口にした瞬間、姉は聞きたくなかったとでも言うふうに顔を横にそむけた。
その様子をみてあたしは悟った。
・・・間違いない。これは・・・二人の身にきっと何かがあったのだ。


751 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:07:11 0
姉は、しばらく黙ったのち、ゆっくりと口を開いてこう言った。
「・・・お母さんはね、駆けつけた消防隊員の人によって無事救出されたわ。
今は別の病室で静かに眠ってる。・・・命に別状はないそうよ。」
「・・・・・・えっ?」
帰ってきた意外な答えに、あたしは思わず拍子抜けした。
お母さんが救出された?消防隊の人によって?
・・・なんだ。それなら何も心配することなんてないじゃないか。
おねえちゃんも随分思わせぶりな顔をするものだ。
「・・・で、どうせ亜依も逃げだすかなんかして結局、無事だったんでしょ?
・・・まあ、あいつがそう簡単に死ぬわけないもんね。あはははは・・・。」
しかし、姉がその後口にしたのは、全く予想外の言葉だった。
「・・・亜依ちゃんはね・・・あれ以来、行方がわからなくなってるの・・・。」
「・・・ッ!?」
しばらくの間、病室に嫌な沈黙が流れた。


752 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:08:17 0
「行方がわからない・・・?」
姉のその言葉にあたしは驚きと戸惑いの色を隠せなかった。
母のように無事に救出されたというのなら、話はまだわかる。
だが、行方がわからないというのは一体・・・?
「もしかして・・・誘拐された・・・?」
ふと、そんな考えがあたしの脳裏をよぎった。
しかし誘拐する時に、犯人がいちいち家に火をつけるような真似をするだろうか・・・?
それにもし、亜依を誘拐するつもりなら、あたしの家でわざわざその行動に出る必要はないはずだ。
と、あたしがあれこれ想像して不安になっているのを見かねたのか、
姉は努めて優しい口調であたしを慰めようとこう言ってくれた。
「・・・大丈夫よ、希美。絶対に警察の人がなんとかしてくれる。
亜依ちゃんも、きっとどこかで生きてるはずよ。
もしかしたら今頃無事に家に帰って来てるかもしれないしね。」
「・・・う、うん。」
亜依は一体どこへ消えてしまったのだろうか・・・。
あたしの心には大きなしこりが残ったままになった。


753 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:10:02 0
幸い、ショックでまる一日気を失っただけですんだあたしは、
お昼すぎに病院を後にすることができた。
お姉ちゃんはその後、高校があるからと言って同じく病院を後にし、
連絡を受けてかけつけて来たおとうさんは、あたしの元気な姿を見てほっと一安心したようだった。
それからお父さんはあたしを新しい家が建つまでの仮住まいである、
ウィークリーマンションに車で連れて行こうとしたが、あたしはそれを断った。
行方不明のままになっている亜依の家を、そのまま尋ねてみようと思ったからである。
そしてお父さんからマンションへの行き先が記してあるメモをもらった後、
あたしは亜依が住む住宅街へ足を運こぼうとしていた。
「あいつ・・・どこ行っちゃったんだろう・・・本当に・・・。」
警察の話によると自宅はもちろんのこと、親戚等の家にも全く姿を現していないらしい。
やはり何かの事件に巻き込まれた可能性があると見て、現在調査をしているとのことだが・・・。:
「なんかいまいち引っかかるんだよなァ・・・。」
これはあたしの勘に過ぎないのだが、
どうも亜依が何らかの事件に巻き込まれたとは、あたしには到底思えないのである。
明日になればまるで何事もなかったのように、亜依が目の前に戻ってくるような気がしてならないのだ。
「とにかく、行ってみるしかないか・・・あいつの家に。」
あたしはさらに足を進め、目的の場所へと向かった。


754 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:12:09 0
しばらくすると手前に横断歩道が見えた。車道には車がひっきりなしに走っている。
「・・・・・・・・・・・。」
信号はまだ赤のままだ。仕方ない、待つか。
「・・・・・・・・・・・。」
随分赤の時間が長いような気がする。こういう時じっとしてられないんだよなァ。あたし。
「・・・・・・・・・・・。」
・・・なんだかイライラしてきた。まだ変わらないのか。ええい、糞ッ。
「・・・・・・・・・・・。」
あーもういいや!渡っちゃえッ!
と、しびれを切らして横断歩道を渡ろうとした時、
あたしの横にはいつの間にか巨大な2tトラックがすぐ近くまで迫っていた。
「・・・・うそ。」
マズイ、轢かれる・・・ッ!

キキキキィイイイイイッ!!!!!!!!

死を覚悟して目を瞑ったその瞬間、
あたしの体は誰かに抱きかかえられていた。


755 :NON STOP:2005/10/31(月) 17:13:22 0
「大丈夫?」
「・・・?」
・・・一体何がどうなったのだろう。
あたしがおそるおそる目を開けると、そこには姉と同じくらいの年齢の女性が映っていた。
「危なかったねー。もう少しで轢かれるところだったよアンタ。」
「あ・・・」
彼女のその言葉で、あたしは自分の置かれていた状況を瞬時に把握した。
そして咄嗟にその人から身を離し、深々と頭を下げた。
「す、すいませんッ!助けていただいて、ありがとうございましたッ!」
「あーいいっていいって。助けたのはアタシじゃないから。」
「・・・へっ?」
言ってることの意味がよくわからない。
轢かれそうになったあたしを抱きかかえて向こう側まで非難させてくれたのは、確かにこの人で間違いないはずだが・・・。
「・・・と、とにかくありがとうございました。失礼しますッ。」
そういうとあたしは、きびすを返し、逃げるようにしてそそくさとその場を立ち去った。
まいったな。ああいう時どんな顔をすればいいのか、顔を持ち合わせていないや。
と、早歩きで事故にあった現場を離れようとした途中、ふと妙な感じがしてあたしは何気なく後ろの方を振り返ってみた。
「・・・・・・あれ?」
そこには、なぜかたった今あたしを救ってくれたその人が、すぐ後ろの方まで来ていた。
なんだろう、まだあたしに何か用があるのだろうか。
「・・・え、えーっと・・・まだ何か・・・?」
「・・・・・ふう。」
彼女は一つ大きなため息をつくと、やれやれといった感じで、あたしに向かいこう言った。
「何も恥ずかしいからって逃げださなくてもいいじゃない。ねえ、希美?」
「・・・えっ!?」
こ、この人・・・。
あたしの名前を知っているッ?

それが、あたしと彼女との、奇妙な出会いの始まりだった。

TO BE CONTINUED