215 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/03(月) 02:28:02

今僕はまたここで一人佇んでいる…

海岸を二人で歩いていた時、君が僕から離れていく予感がしたんだ
どんな気分だった?心臓が冷たくなっていくのって…

(blue monday / neworder)




216 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/03(月) 02:28:42
「お前知ってる?」
「いや唐突に知ってる言われても何のことやら」
「夜な夜な誰も居ない音楽室からピアノの音が聞こえるっていう」
「ああ、あの絵に描いたようなベタな話な。美人幽霊の仕業らしいぞ」
「そんな美人なら一度逢ってみたいもんだ」
「シブいねぇ…おたくまったくシブいぜ。女の子にモテないからって
 幽霊にコナかけようって…」

「今男子たちが言ってた話だけど」
「バッカバカしい…幽霊なんているわけないぽ」
「とか言っちゃってホラー映画見てのけぞってビビっちゃうくせにッ」

ぶどうヶ丘高校。放課後の廊下でめいめい他愛のない会話をしながら
生徒たちが通り過ぎてゆく。一週間後に開かれる文化祭の準備に追われ
慌ただしい雰囲気が漂っている。


217 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/03(月) 02:29:43
─夜もすっかり更け、ほとんどの生徒はすでに下校し残る生徒も
帰り支度を済ませて次々と学校から帰り始めていた。

「こんこんどしたの?」
「ごめんちょっと教室に忘れ物しちゃった。先出ててよ、
後から追いかけるから」
「こんこん走るの得意だもんねぇ分かったなるべく早く来てね」

私紺野あさ美は年齢の割にはしっかりしている方だと言われるが、
天然ボケだともよく指摘される。ここぞという時の集中力には
自信がある。日頃弛緩しているように見えるのは、有事の際に備えて
鋭気を養っているのだ。うんそうだ、そういうことにしておけば
いい感じだ。

私はいったん友人と別れ、教室へと向かった。

292 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/04(火) 03:37:39
夜の学校は普段のそれとは別の顔を覗かせる。
闇はいつの世でも畏怖の対象であったし、在るべき場所に人がいない
と言う非日常的な空間は、それだけで恐怖を感じさせるのに十分だ。

「あ〜早く済ませてさっさと帰ろ」

誰に声を掛けるともなく無意味に声を出してみたが、音が空しく響いて
余計に孤独感を増長させるだけでしかなかった。
思うに幽霊の類と言うのは、夜を恐れた人が、その精神の綻びが、
人に幻をもたらすのではないだろうか?
その隙に滑り込んでくる、自身の心の闇を投影した姿なのかもしれない。
メルヘンやファンタジーの世界じゃないのだから、いるはずがない。

ただでさえ気持ちの良い場所ではないのに、わざわざ『恐怖』について
考えるなんて、私はイカレているのか?この状況で…。


267 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/25(火) 02:06:09 0
『動揺』は正常な判断力を奪う。だから私は常日頃より、
平常心を保つように心がけている。
ホクホクかぼちゃが2…3…5…7…落ちつくんだ…
美味しいモノの『個数』を数えて落ちつくんだ…11…13…
17……19…その『個数』は私に勇気を与えてくれる。
ほこほことした食感からやがてネットリと舌に絡みつくに至る
その経過と口に広がる濃厚な甘さ。ブラボー!おお…ブラボー!!

その時、階下からピアノの奏でる旋律が聞こえた、ような気がした。
それが危険なものであると本能的に感じ取ったにも関わらず、
私の足はその音の方へと歩みを進めていった。戦慄へと。


416 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/26(水) 15:12:42 0
薄暗い階段を降りながら、思考は以前読んだ漫画の内容に飛躍していた。

「ピンクダークの少年で、階段を降りようとしても何故か元の位置に
 戻ってしまうって話があったっけ。まーどうでもいいけど」

─音楽室のある1階へ降りた私の耳に響く音。
それは空耳という域を越え、まさしく音楽として認識されるものだった。
1階の端にある音楽室の前へ来た私は、一瞬の逡巡の後、
意を決してノブに手を掛けた。

「!!!!!!!!!!?」

ありのまま今起こった事を言葉にするなら、『扉に触れたと思ったら
いつの間にか中に入っていた』この事象について興味は尽きない所だが、
今はそのような状況では、ない。


417 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/26(水) 15:13:52 0
仄暗い部屋の中に視線を配ると、容易にそれは見付かった。
音を出している正体のただならぬ雰囲気に気圧されそうになる。
発している気配が明らかに普通の人間のものではない。
ピアノの前に座り美しくも物悲しい調べを奏でる女性、艶やかな長い
黒髪の持ち主。その表情は憂いを帯びていて怖しいほどに美しかった。

やがてひとしきり弾き終わると、その人はゆっくりとした動作で
顔を起こしこちらに顔を向けた。

「いらっしゃい圭織の世界へ」

微笑みを浮かべながら芝居がかったような言葉を放つその姿に、
不気味さと少々の苛立ちと嫌悪感を覚える。前世で何かあったのだろう、
本能だこの気持ちは。



418 :季節外れの幽霊夜話:2005/10/26(水) 15:14:39 0
圭織と名乗る女性はピアノの蓋を閉めてスッと立ち上がる。

「音楽はねメロディやリズムだけが全てではないの。例えばこうして
 蓋を開ける音や閉じる音もまた1つの音楽と言えるわね。
 ジョン・ケージって知ってる?」
「はぁショートケーキは好きですが…ジョン・ケージと言うのは
 初めて聞きました」
「お茶やお菓子は出せないけどゆっくりして行ってね」
「いえせっかくご招待いただいてこんなことを言うのはなんですが、
 あいにくここに長居するつもりはありません」

そう言うと振り返って扉に…扉…?

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

入ってきた筈の扉は跡形もなく消え、ただ無機質な白い壁がそこに
冷たく立ちはだかっていた。

「ドミネ・クォ・ヴァディス(どこに行かれるのですか)?
 可愛そうな仔猫ちゃん。圭織のスタンドが許可しない限り、
 決してこのステージから降りる事は出来ないッ」


957 :季節外れの幽霊夜話:2005/11/04(金) 02:29:29 0
「見かけによらずせっかちね…人の話は聞く物でしょう、ねえ?」

その時、直感が囁いた。この人は確実に『ヤバい』…美しい姿の中に
狂気をはらんでいる。背中に冷たい手を突っ込まれた気分だ。

「それでね、圭織とちょっとしたゲームをやってもらおうと思うの」
「ゲームですか?私コンピュータゲームの類はあまり得意じゃあ
 ないんですよ」
「ううんもっと単純なものよ。今から圭織と戦って、もしあなたが
 負けたなら、あなたの生命力を貰うわ」
「…ちょっと今さらりと不穏なこと言いませんでしたか?
 なんです『生命力』って、殺すってことですか?」
「んー保証は出来ないけど多分死なないんじゃあない?
 詳しく言っちゃうと、あなたの心が負けを認めた時、
 圭織のスタンド『タンジェリン・ドリーム』はあなたの生命力を
 著しく奪う。それは決して抗う事の出来ないこの部屋の秩序」
「それでは逆の時は?あなたの心が負けを認めたときは?」
「その時はスタンドの力が自動的に解除されるわ。
 つまり、あなたはここから解放されるということね」

全く釈然としないが、埒があかないので考えるのをやめた。

「その顔は納得が行かないって顔ね。でも…信じようと信じまいと、
 助かるためにあなたが取れる行動は1つしかない、そうでしょう?」
「いいでしょう、やるしかないみたいですしね」
「フフッ…良い目をしてる、あなたの『覚悟』が伝わってくるわ。
 『生の躍動』に溢れてる


31 :季節外れの幽霊夜話:2005/11/05(土) 00:20:44 0
─私は今、壁を背に彼女と対峙している。その位置までの距離10数m、
間には机や椅子などが並べられていて、動きは制限される。
向こうの攻撃方法が分からない以上、迂闊な行動は取れない。
まずは相手の出方を観察し、分析し、考察するのが肝要だと考える。
そして、いつでも対応できるようスタンドは発現させておく。
(…ニューオーダー!)
黒地にピンクのラインが入った、アディダスのジャージを彷彿とさせる
人型のスタンドが私の前に姿を現した。これは遠距離型ではないから、
今のこの状況はあまり好ましくない。

「へ〜それがあなたのスタンド?痩身の筋肉質タイプって言うのかな、
 理想の体形かも」

そう軽口を叩く彼女のスタンドは未だに見当たらない。
どこかに隠れているのか、あるいは…。

スタスタスタ…

彼女は無造作に、それがさも当たり前かのように、ピアノの前から
歩いて移動した。剛胆かつしなやかに、平然とやってのける。
大胆だが隙はない。生徒の机の前まで来ると、その机に手を触れた。


32 :季節外れの幽霊夜話:2005/11/05(土) 00:21:38 0
「リコシェ!(跳飛)」

机が一瞬浮いたかと思うと、次の瞬間こちらに向かって一直線に
突っ込んできた。もし当たったなら、ただでは済まないだろう。
しかしさほどの脅威は感じない。

シュゴォォォォッ!!

頭の辺りを狙って飛んできた机を、身を屈めながら潜るように前進し、避けた。

ガゴォッ!!

後ろで嫌な音が鳴り響いた、机が壁に激突したのだろう。その間にも
目は常に相手の動向をうかがっている。
既にもう、彼女は攻撃モーションに入っていた。机に何らかの力を込め、
宙に浮いた状態で待機させている。果たして相手の能力は、どの程度の
精度で、モノを動かすことが出来るのか?
決して侮ってはいけないが、先程のような単純な動きしか出来ないので
あれば、これは私にとってやり易いと言ってもイイ。

「うぐっ!!」

突如背中と肩に鈍い衝撃が走った。見ないでも分かる、迂闊だった…。

「意外とそそっかしいのね。そう…最初に放った机は依然としてまだ、
 圭織のコントロールの支配下にあるわ。避けやすいと思ったでしょ?
 間抜けね、わざとよわざとッ!確実に当てる為にわざとそうしたのよ。
 それに、あまり激しくブチ当てて元の形が著しく損なわれると、
 コントロール出来なくなっちゃうのよね」

チェストッ!バギャッ!!…やや痛む肩を押さえながら、咄嗟に私は
ニューオーダーに蹴りを繰り出させ、この忌々しい机を粉砕した。

「痛い?痛いでしょ?でも大丈夫、痛みを感じている内はね。
 痛みは『生の証明』だから」

彼女が喋っている間に私は、無言でそっと『ある仕掛け』を施した。

「今度はさっきみたいに眠くなるようなスピードじゃあないわッ!
 うまく避けられるかしらね?」

そう言うか言わないかの内に、風を切るような唸りと共にそれが
一瞬にして目前に迫る。刹那、

ガキュウォォォッ!!

軋むような音を立てると同時に、机は逆の方向へと弾き飛んだ。
あらかじめニューオーダーの能力によって、空間に歪み(ひずみ)を
生じさせておいたのだ。
これに巻き込まれたモノは、いかに運動エネルギーを持っていようと、
大半のモノはそれを保つことは出来ないッ。

ドヒュゥン!!

弾き飛ばした方向には呆然と彼女が立ち尽くしていた。


509 :季節外れの幽霊夜話:2006/02/11(土) 03:07:17.37 0
一撃で再起不能とは言わないまでも、相当な痛手を負うことは
間違いない勢いで衝突すると思われた矢先、奇妙なことに
机は体を通過して壁の辺りに激しくぶつかった。
見ている限り、スタンドで何かをしたようなそぶりはなかった。
だがそれは私が認識出来ないだけで、何らかの能力が働いている。
そう…確かに目の前で何かが起こったのだ。

「…あなた、圭織のスタンドの形が見えないから本体同化型の
 スタンドだと思った。ね?そうでしょう?」

私の無言が肯定を示していると捉えたのか話の続きをし始めた。

「だから本体を狙ってそれを跳ね返した、なのにすり抜けるなんて
 どうかしてる、と。そうよね?
 …赤ペン先生じゃないしわざわざ丁寧に説明する義理もないけど
 教えてあげる」

余程能力に自信があるのかフェアプレイ精神でも気取っているのか?
一方的に閉じ込めておいてフェアも何も無いと思うが…
ともかくここは好意を甘んじて受けるのがベターな選択だろう、
とこの紺野あさ美は思う。


510 :季節外れの幽霊夜話:2006/02/11(土) 03:08:08.77 0
「あなたの考え方は間違ってない…ペーパーテストに例えるなら、
 限りなく○に近い△と言う所かしらね。
 紛れも無くこれが圭織の本体のベッピン顔だし、スタンドも
 ここに在る。さっきみたいなものが当たったなら、ただじゃあ
 済まなかったでしょうね、普通は」
「では模範解答を教えて下さい」
「…GOOD!先生そういう素直な子は嫌いじゃないよ。
 確かにスタンドは本体と同化してる、ここまではあなたの想像通り。
 ただね…スタンドで何かしたと思ってるでしょう?
 そうじゃあないんだなあ…これは圭織自身の特性によるものなの」
「……」
「簡単なことよ生身ならスタンド以外の攻撃も受ける、
 『生身』ならねッ」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

何を言ってるんだこの人は?私は異様な雰囲気に気圧されている…
まるで背中にツララを突っ込まれた気分だ…!


690 :季節外れの幽霊夜話:2006/02/13(月) 19:06:02.52 0
「圭織は死をもって肉体と言う枷から解放されたの、純粋な精神体、
 一言で言えば…」
「幽霊?」
「えー?もうちょっと情緒のある表現して欲しいんだけどなァ、
 まーそう言うこと」
「でも私は幽霊なんて信じませんよ」
「いやいやいやここにいるから!」
「幽霊なんて在りませんよ、漫画や映画じゃあないんですから」
「意外と強情な子ね」
「自分を宇宙人と言い張るスタンド使いにも遭った事ありますから、
 妄想癖が激しいんでしょうパラノイアって言うんですか」
「フーン…まっ信じる信じないも自由だよ、攻撃を受け付けないのは
 事実だから」
「要はスタンドで攻撃すれば良いって事ですよね?
 シンプルな話じゃあないですか…その理屈だけ理解出来れば十分、
 完璧です」
「あなたのそのスタンドね、見たところ近距離型っぽいけど
 それで圭織に触れられるかしら?」
「私は根拠の無い自信で行動する程マヌケじゃありませんよ」
「可愛くないのね、でもそういう子を屈服させるのも楽しいかな…
 絶対参ったと言わせてあげる。タンジェンリンドリームッ!」


24 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:32:19.33 0
「…私は…演劇部に入部してから歌や踊りや人に出会って…
 新しい世界と壁と可能性を知りました。劣等感を感じた経験も
 初めてだし…赤点なんてありがたくない称号も貰って…」

彼女は面食らったような顔で口を開いた。

「それで?」
「…それでも人は成長出来るんです、歩みの早さはそれぞれだけど。
 あなたには過去しか存在しない…先へ到達する事はありません」
「へ〜言ってくれるじゃない…それじゃあこんなのはどう?」

その時、彼女の手元にぼんやりと光る何かが一瞬見えたような気がした。
危険を感じた私は、咄嗟にスタンドを前に立たせて防御の体勢を取らせる。
直後、不可視の何かと思われていた物が姿をあらわした。


25 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:33:02.96 0
決して目の慣れだとかそんなものじゃあない。単に『それ』がこの肉眼で
捉えられるスピードになったというだけの話だ。
それは鋭利な刃の付いた小振りなナイフだった。スピードを緩めながら
矛先をこちらへ向け真っ直ぐ突っ込んでくる。
…油断を誘っているのか?こんな時は決して迂闊に行動してはならない。
ギリギリまで耐えて相手の出方を見極めるべきだ。
サッカーのキーパーじゃあるまいし、この状況で飛び出して得する事など
まずない。

「そんな悠長に構えてていいの?」
「……」

彼女の声を無視して観察を続けていると、大きな変化が訪れた。
『一対』のナイフは二手に分かれ、どこか幻惑するかのような弧の動作で
スタンドの横をすり抜けて行く。…まずいッ!直感が行動を促した。
反射的に前にいるニューオーダーに私の手を掴ませ、スタンドの股の下を
くぐらせるように引っ張り出すッ!そこで、一瞬振り返ったスタンドが
見たものは、私がつい今しがたまでいた場所を薙ぐナイフの姿だった。

ゴスッ!バキィィィンッ!


26 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:33:57.94 0
きっと目標を失ったそれが壁だか床に当たったのだろう…だがここで
振り返りはしない…いや振り返れないのだ。相手の次の行動は既に、
完了していた。彼女は片膝を着いた姿勢で床に両手を触れている。

「畳返しよッ!ぶっつぶれなさいッ!!!」

バリバリバリ…ドッパアアアアアアアァァァァ!!

数m四方の床ごと、その上の机や椅子やあらゆるものが弾け跳んだ。
も…ものすごい視界を覆い尽くすような広がりと、その爆発さながらの
スピード!


27 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:34:35.74 0
「ワールド・イン・モーション!」

空間の歪みを発生させる球状のモノをニューオーダーに放出させる、
先程使ったものよりもっと強大で…破壊を伴ったものを。
…接触まであと3…2…1…。

バキャァ!メキョォッ!バキュアォッ!バギバギバギィッ!

次々と物体が衝突していく。反力と圧力が綯い交ぜになった球によって
あるものは弾かれ、あるものは四散し、巻き散っていった。


28 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:35:36.50 0
砕けた破片や半壊した机や椅子などが舞う中、一瞬の隙を突き
スタンドと共に彼女との中間地点まで一気に間合いを詰めた。

「あなた…近づけば有利になると思った?…マヌケねッ!
 すでに出来上がっているのよ…見なさいッ!周りをッ!!」
「…!?」

いつの間にか、無数のナイフが私を中心にして取り囲んでいた。
holy cat!(なんてこった!)…なんだろう、英語に興味があるからって
スラングばかり覚えてる愛ちゃんの癖が移っているようだ。そうか…
さっきの派手な攻撃はこれを仕込む為の囮…。

「全形360度エレメントスラッシュ、これが終わりへの始まり。
 あなたはもう、圭織にも『先』へも近づけないッ!」
「私はあなたに…近づかない」
「…?」


29 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/05(日) 13:36:46.91 0
(バニシングポイント…)
私はスタンドに何も無い空間へと突きを出させた。瞬間、手首から先が
まるで何かに飲み込まれたかのようにふっと消える。その消えた手は…
空間を飛び越え、彼女の眼前に『空間の歪み』をまとって出現する。
そして…その半透明の球は、彼女を飲み込もうとしていた。

「ヒッ…いやあああああああああああああああああ」

私の周りに浮かぶ狂気の凶器が力なく落ちていく。視界が徐々に白んで
霞んでいく。最後に映ったのは恐怖に引きつる飯田圭織の顔だった…。



247 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:47:36.67 0
気が付くと私は音楽室の前の廊下に立っていた。視線を下に落すと、
そこには床にうずくまる飯田圭織の姿があった。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」

荒い息遣いをしながら彼女は立ち上がって、こちらの様子を窺いながら
やがて口を開いた。

「…なんで圭織を攻撃しなかったの?」
「私はただ、そこから出ることしか考えていませんでしたから。
 あなたの精神が負けを認めてスタンドを解除した、それでいいんじゃあ
 ないですか」
「ふーん変わった子ねえ」
「そう言うあなただって、本気出してなかったじゃないですか」
「それは…あなたを殺ることが目的じゃあないからよ」

そして彼女はちょっと昔の話でもしましょうか、と喋り始めた。


248 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:48:18.27 0
「圭織は2年前アーティスチックなものに憧れて演劇部の門を叩いた。
 そこで顧問の寺田に入部テストと称して、有無を言わさずに
 いきなり取り出した弓矢で射抜かれたのよッ!信じられる?」
「私も似たような体験してますから」
「そこからは記憶があやふやで定かじゃないの。…おぼろげに記憶に
 あるのは、長い間高熱でうなされていたような苦しさだけ」

私の声が届いているのかいないのか、過去を手繰り寄せるかのように
目線を上のほうにやりながら話を続ける。

「気づいたら圭織は死んでいた。境目なんて分からないものね、
 でも確かに死んだという実感だけはある。その時ね、不思議な力が
 身に付いてる事に気が付いたの。あっ身はないわね」
「霊になってから、スタンド能力が備わったってことですか」
「今となっては調べる術も無いし想像でしかないけど、矢で圭織の能力を
 引き出された時に、体が拒否反応を起こしたんじゃないかしらね」

自嘲気味の笑みを浮かべながら他人事のように語る姿が哀しげだった。


249 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:49:00.43 0
「それからよ、何故かは分からないけど魂が欲するの、抗えないのよ。
 生命と精神のエネルギーをね」
「…だから殺すのではなく、あくまで相手を負かすことにこだわってた…
 そういうことですね」
「そんな所ね。…なんか圭織眠くなってきちゃった…。あのね知ってる?
 幽霊だって活動したら疲れるし休息を取らないと維持出来ないのよ」
「はぁ、それは初めて聞きました」
「秋も終わりだって言うのに、季節外れの幽霊やわぁってね」
「……」
「じゃあねッ、もう帰らなきゃ」

そう言い残すと、薄曇りの淡い月明かりに溶け込むように消えて行った。


250 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:49:33.30 0
─翌日

「…と言うことが昨日あったんですよ」

放課後、珍しく部活に顔を出したミキティに事の顛末を話した。

「…あーはぁ。いや別にこんこんの話信用してないって訳じゃないけど、
 美貴この部活に入部届出しに来た時飯田先輩に会ってんだよ」
「ええっそうなんですか?」
「ああ。先輩はよっちゃんさんの前の部長でさ、入れてくれって言ったら
 門前払いに近い扱い受けてムカッ腹が立ったのよぉく覚えてるぜ。
 そのあとすぐ引退したみたいで、一回しか顔合わせてないけどな」
「ううん…そーすると、部員だったはずの飯田さんが矢で死んでるわけ
 ないんですよねえ…」
「演劇部にいたってことは、スタンド使いってことだもんなぁ。
 まさかスタンド使いの幽霊が部員なんて漫画みてえなことないだろ?」


251 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:49:59.41 0
「そう言やあ、その音楽室はどうなってんだ?」
「それなら昼休みに様子を見に行ったんですけど、荒らされた様子も
 痕跡すらもありませんでした」
「っつーとその敵?の能力は幻覚を見せるとか…」
「…それか別の世界に取り込む類のものなんじゃあないかと。
 諸々を踏まえて考えられる相手の正体は…」

1 飯田圭織本人であり、何らかの意図をもって姿を現した。或いは
  何者かによって操られていた。
2 飯田圭織の姿を借りたスタンド使いによる攻撃。
3 飯田圭織の姿をした幽霊の仕業。
4 飯田圭織の姿に化けたスタンド使いの幽霊。
5 紺野あさ美が見ていた夢。



252 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:50:27.85 0
「まーそんなとこだろうけどよぉ、何がしたかったんだろうな」
「結果的に大した被害を受けてる訳じゃないし、さほど悪意らしい悪意も
 感じられないんですよ…相手の狙いが分からなくて」
「引き際があっさりし過ぎてんだよなぁ」
「結局要領を得ない話なんですが、一応吉澤さんに報告はしておこうかと
 思ってます」
「今やれることって言ったらその位しかねーよな」

そしておなかが空いたので
―そのうち私は考えるのをやめた。


253 :季節外れの幽霊夜話:2006/03/09(木) 04:51:18.49 0
たぶんこれまで知っていた人みんなの住所も名前も忘れてしまったように思う
でも後悔なんかしないさ
どうにかなるよ

(regret / neworder)

「お前知ってる?」
「いや唐突に知ってる言われても何のことやら」
「夜な夜な誰も居ない図書室から物音が聞こえるっていう」
「ああ、食べ物与えると満足して消えるって幽霊な。可愛い女らしいぞ」
「そんな幽霊なら一度逢ってみたいもんだ」

TO BE CONTINUED
────────→

本体不明 状態不明
スタンド名:タンジェリンドリーム?