銀色の永遠 〜ダンス・ウィズ・ヴァンパイア 《Rose of Pain》〜


「サイレント・エリーゼACT1…クスン」


シュゥゥゥゥン…


半泣きの亀井は地味にS・エリーゼを発現させ、周囲の音を消す。
それから門を少しだけ開き、3人は敷地内へと進入する。

庭には沢山のバラの植え込みがあり、妖しい香りが周囲に立ち込めている…。
季節なのか漂う妖気なのか、肌を撫でる空気が冷え冷えと体温を奪う。
奥へと進みイバラのアーチを抜けると、ツタの絡まる洋館の入り口が目の前に現れる。

(ああ…前回の件もあるし…すごく緊張するな……)
(なんだか絵本の世界だナoi……)
(高い石鹸の匂いがするな……)

2メートル程もある豪華な両開きの扉を開く。本当ならギギギ…と音がするところだろう。
3人は『OK』サインを出し、ワナや攻撃に用心して屋敷の中へと進入する。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


玄関ロビーはやや寒さは和らぐものの、埃っぽく人の温もり等はまるで感じられない。
窓から差し込む月明かり以外に室内を照らすものは無く、
さらに全体に薄っすらと霞が掛かった様で、3人の視界をさらに悪くしている。
壁際や柱の脇には必ずと言って良い程に、バラの生けられた大小様々な花瓶が置いてある。
部屋の中心はこの屋敷の象徴とも言える何かの銅像が立てられており、
その左右から大きな階段が階上へと延びてそこで合流している。

(天井高けえゾoi…マジで貴族の館って感じだナ……)
(バラが丁寧に生けられてるなあ…すごく綺麗だ……)
(うわ〜マジでゾンビ出てきそう…ナムアミダブツ……)

3人は周囲を気にしながら階段の方へ近付く。

(上へ行くのか?)

藤本が二階を指差すと小川は軽くうなずく。

(吸血鬼サンは地下の寝室で寝るにはまだまだ早い時間だヨ)

階段の側まで来ると、部屋中央の銅像がよく見えるようになった。
高さ2m位ある何か翼を持った生き物…耳がピンと立ち牙がある…コウモリの様にも見える。

(うわ…何つー趣味の悪い……)
(家の守り神みたいなモノかな?ガーゴイルなら普通は外だけど……?)
(何か…今にも動き出しそうにリアルだナ…oi)

それ以上は気にせずそのまま3人は階段を上ろうとする。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


突然亀井が2人の肩を叩く。

(何だよ!!ビックリさすんじゃねーよ!!)

亀井は口をパクパクしながら、右手を有り得ないくらい超高速でヒラヒラさせている…。

(ど…どうしたんだィ、亀ちゃん?)

亀井は左手で銅像を指差す……銅像の顔がこっちを向いている!!!!

(バサァッ!!!!)

銅像……いや、明らかに生きたコウモリが飛び上がった!!
体を伸ばし翼を広げるとさらに大きく見える。3mくらいありそうだ。

(まさかこれが…ドラキュラ野郎のスタンドか…!?)

大コウモリは3人目掛けて急降下する。

(来なッ!!ブギートレイン・03ッ!!!!)

藤本はBT・03でラッシュするが、攻撃は簡単にかわされてしまう。と言うよりも…。

(oioiミキティ!!どこ狙ってるんだよォォ!!誰もいないトコ殴ってるじゃナイか!!)

今度は小川がラッシュを繰り出すが、なぜか階段の手すりを殴り壊してしまう。

(……な、何かオカシイぞコリャ…?)

3人は部屋の中央まで走るが、どうも足取りがフラフラと覚束ない。
大コウモリは上空を旋回し、3人が階段に近付こうとすると攻撃を始める。

(どうしても上には行かせたくねーみてーだな。
 それにしても、攻撃しようにも空中じゃどうにもならんな……)
(だったら、僕が行くよ!!)

宙を浮けるタイプである亀井のS・エリーゼが攻撃を仕掛ける。

(パワーは無いけど、これくらいの相手なら何とかなるッ!!)

しかし…何か動きがオカシイ。
素早い動きが出来ずにただフラフラと大コウモリに近付いて行くだけだ。

(亀ちゃんもダメなのかヨ?明らかに3人の感覚が鈍っているッ!?)

大コウモリはS・エリーゼをすり抜けて亀井へと向かって行く!!

(ドガアッ!!)

亀井は避ける事も出来ずに体当たりをマトモに食らい、壁まで吹っ飛ばされた。


ガチャァァーンンンンッ!!!!!!!!


花瓶が割れる音が部屋中に響き渡る。

「いてて…S・エリーゼが解除されちゃった…」
「まあ、今さら音消したってもうヤッコさんにはバレバレだからな」
「oioi…それよりも何なんだ?ワタシ等まるで動けてないじゃんよォッ!!」

再び大コウモリが向かってくる!!

「二階どころか…ここから追い出したくなってきたみてーだな」

藤本はBT・03を構え、相手の動きに合わせて殴り掛かる。


ギィッ!!ギィッ!!


大コウモリが黒板を引っ掻いた様な叫び声をあげる!!
すると…なぜか藤本はスタンドを引っ込めてしまう。

「oiッ!ミキティッ!!何でブギトレ引っ込めちまうんだよォッ!!」
「いや、そんなつもりは……体がッ…頭がッ!!」

藤本はついに膝を付く。大コウモリはそのまま牙を剥き藤本に向かって行く!!

「コンチクショーだぜ…oiッ!!!!」


ブンッ!!


小川は近くにあった花瓶を大コウモリに向かって投げ付ける。
花瓶はFRIENDSHIPの摩擦・抵抗を無くす能力で、一直線に高速で大コウモリへと向かって行く。


ギィィィィッ!!………ガチャンッ!!


花瓶は手前で割れてしまう。大コウモリはいったん上昇を始める。

「コレってよォ…もしやアレかィ…?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


『暗闇に潜み目の退化したコウモリは、超音波をソナーの様にして障害物を確認したり、
 空飛ぶ蝶や蛾をその衝撃で気絶させ捕らえるという…』


「どうやら、ヤツの能力は超音波らしいナ…まさか感覚まで狂わせるとはよォ…。
 まあ、S・エリーゼは音が聞こえなくなるだけだもんナ。
 チッ…音を消したのが反ってアダになっちまったかィ?…しかーしィッ!!」

FRIENDSHIPが構えをとる。

「タネが分かっちまえばなんてこたァねーヨ!!」


ギィッ!!


大コウモリが鳴いた瞬間にその一直線上から身をかわす。

「oioioioioiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiッ!!!!!!!!!!!!」

ラッシュを決めるが上空に逃げられてしまう。


ギィッ!!ギィッ!!


大コウモリは移動しながらも何度も鳴き続け、シャンデリアや柱を避けながら飛び回っている。

「どうもこの動き…コイツはスタンドじゃねェッ!!!!」
「ええッ!?違うのか!?麻琴ぉ!!」
「アイツが吸血野郎のスタンドなら、そんなソナーなんて面倒な移動はしねーッ!!
 アイツはスタンドどころかワタシ達や障害物も見えてねーだろうヨ」
「じゃあ、何でウチらのスタンド攻撃がかわされるんだよッ!!」
「どうやら何か別の感覚で見ているらしいナ…。
 目が見えないが為に別の感覚が研ぎ澄まされる……珍しいコトじゃあないゼ」

FRIENDSHIPは再び部屋に飾ってある花瓶を取り、大コウモリに投げ付ける。


ギィッ!!………ガチャンッ!!


「やっぱダメか…さてどうしようかィ…亀ちゃん」

小川は亀井にウインクした。

「oioioioioioioioiッ!!」


ギギギィィィィッ!!………ガガチャガチャァァァンンッ!!


FRIENDSHIPはそこら中に飾ってあるバラの生けた花瓶を手当たり次第に投げ付ける。
しかし、よほど感覚が鋭いのかギリギリ手前で全て超音波で破壊されてしまう。
その動きに釣られて大コウモリは小川にターゲットを絞って向かって行く。

「ヘーイ!!鬼さんコチラッ!!oiッ!!

小川はその追いかけっこを楽しむ様に動き回り、花瓶を次々と投げてゆく。

「ピーピーピーッ!!ピーピーピーッ!!」

軽やかに歌いながら相手を手招きする。大コウモリもその誘導に乗せられ向かって行く。

「ピーピーピーピー!!!ピーマコ小川でッス!!!!!!!!」

そして、近くにあった人が入れそうな程に大きな花瓶…むしろ壷を勢いよく投げ付けた!!


ギィィィィッ!!……グァッシャァァァンッ!!!!


正面からの攻撃、しかし、的が大きい分、敵はかえって造作も無くその壷を破壊した。


ドシュゥゥゥゥーン!!!!


すると……破壊された壷の中からスタンドが現れた!!

「おいッ!!エリーゼかッ!?!?」
「サイレント・エリーゼACT2!!サイレント・エリドリアンッ!!!!」

さすがにこの不意打ちは敵もかわす事が出来なかった。
S・エリドリアンはその大きなしっぽで大コウモリを引っ叩いた!!


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「ただ音を聞こえなくするだけじゃダメだったんだ…音波…振動そのものを消さないと…」


…バシンッ!!…バシン!!…バシンッ!!…バシン!!


音の概念を奪われた大コウモリはそれでもフラフラと飛び回るが、
音波そのものが発せられないのか、反響する音波を捉えられないのか、
空中を舞う度に壁や柱に体を激突させてしまう。

「何だか痛々しいな…」
「目を潰されちまったようなモンだからネ」
「可哀想になって来ちゃいますね」


ガッチャァァァァーーーーンンッ!!!!


ついに天井に吊るされたシャンデリアに激突してしまう。
が、傷付いた体で大コウモリは最後の足掻きなのか、3人に向かって急降下して行く!!
素早く藤本が相手の前に立ちはだかる…。

「イイぜおめぇよ…音を奪われても最後まで諦めない…そのド根性グッと来たぜッ!!」

ブギートレイン・03が構える。

「おめぇが必死だから…あたしも必死で相手してあげる…。
 おおおおぉぉッ!!!!ゴールデンゴール決めてぇぇッ!!!!!!!!!!!!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!


「…ゲームセットだ」

大コウモリはぶっ飛んで壁に打ち付けられた。


バアアアアアアアアアアアアアアアンンンンッ!!!!!!!!


「…フウ…ま、一丁あがりってか…?」

藤本は2人の方へ笑顔で振り向いた。
しかし2人は…。

「oioioi…ミキティ、ナニ最後のオイシイところだけ持っていってんだよォ!!」
「反則!!反則ゥ!!ZURRRRIIYYYYYY!!!!!!!!!!!!」
「るせーよッ!!おめぇら『やったねミキティ!!』とか言えねーのかッ!!」
「「ブーブーブーブー!!ブーブーブーブー!!」」

2人はかなり不満顔で、揃ってブーイングの嵐だ。

「おめぇらなあ!!この次期演劇部部長の藤本様に向かってそんな事やっても良いのかよ!!」
「いつそうなったんだよォッ!!」
「忘れたのか?上戸彩にやられる寸前のおめぇらを救ったのは誰だったかを?」
「げえぇッ!!今頃そんなコトを…」
「まあ何て言うの?今の演劇部があるのはこの救世主様のお陰ってワケよ。分かリる?」
「チクショー…高利貸しに借りを作っちまったゼ…トイチだトイチ」
「一生の不覚ですね…」

小川と亀井は両手で頭を抱えた。

「しかしよォ…この後もこんなのが次々と出てくんのかィ?」
「可能性は無いコトも無く無く無く無く無いな」
「どっちですかッ!!」
「じゃ制服は失敗したなァ…ジャージ持ってくりゃあ良かったヨ」
「ええッ!!ジ、ジャージッ!?!?」

亀井が驚いた様に小川を凝視する。

「な、何だヨ…亀ちゃん…?」

藤本はニヤニヤ笑って言う。

「亀井、おめぇよ…ジャージにいちいち反応し過ぎなんだよ………麻琴のジャージだぜ」
「…フッ……それもそうですね」
「意味分からんけど何か妙にムカつくんだけどよォッ!!!!」

「ところでおめぇら大した合図もねーのに、何とまあ息が合ったもんだな」

藤本は普通に感心している様子だ。

「あれだけ振動に敏感なんだから、ひょとしたらコッチの声や音もキャッチされてると思ってサ。
 で、あの超感覚をかき乱すにはやたら動き回ってデカイモノをぶん投げるというワケですヨ」
「麻琴ぉ、おめぇそこまで考えてたのか?」
「あたりきよォッ!!ま、後は亀ちゃんの勘に頼ろうかナと…」
「僕はすぐにピンときましたよ。僕の能力が必要なんじゃないかなって。
 ……でもこれって舞波ちゃんのお陰です」

「舞波ぁ!?舞波って…あの石村舞波か?」

亀井は視線を落として少しずつ思い出す様に語った。

「はい。あのコウモリの能力…舞波ちゃんのスタンドの能力に似ているなって思ったんです」
「あの『イチャイチャナントカ』ってヤツだよな?」
「もう…ちゃんと覚えてあげて下さいよ」
「イヤ、あれは分かりづれーだろ」
「あの鈴美さんと出会った日の前日、舞波ちゃんと部室で少し話をしたんです。
 その時に言ってました、『サイレント・エリドリアンには敵わない』って。
 舞波ちゃんのスタンドの能力も超音波ですから。ああ、なるほどなって感心してたんですけど」
「それがヒントになったってワケか?」
「はい、まさかここで助けになるとは思いませんでしたよ…」

3人はあらためて人との出会い、運命の数奇さをしみじみと感じた。

(結構やっかいなスタンドだって聞いてたけど…『虎は死してなお皮を残す』ってか。
 そういや、キラってどうなったんだろうな…?)

藤本にまた別の想いが込み上げてきた。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


3人は二階へと上がり、勘を頼りに通路や部屋の探索を始める。
そして右側は窓、左側はいくつかの部屋が並ぶ、長い廊下に差し掛かる。
天井に等間隔に設置されたランプがほのかに通路を照らしている。
一階と同じ様に、バラの生けた花瓶も点在する。

「オ、ここは明かりがある見てェだナ。てコトは…?」
「あそこの扉から突然巨大なゾンビがドカァァンと…」
「藤本さんゲームのやり過ぎ!!」

3人は恐る恐るながら廊下を歩いてゆく。


…………


「なあ、麻琴…この左の壁の向こう側って部屋だろ?」
「…まあ…そうなるよナ」
「何かさ…さっきから物凄い殺気みたいのを壁の向こうから感じるんだけど…」
「oioi奇遇だナ…ワタシもビンビン感じるよォ…」
「しかもさ…何か…初めてじゃない感じ?」
「ああ…一度戦った者だけが理解できますって言う…独特の感じだヨ」
「う〜ん…そうなんですかぁ?」



                『 一瞬の静けさ 』



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ドガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァンンンンッ!!!!!!!!


「うわああああッ!!!!!!!!」

左の壁からたくさんの迫り出しが飛び出してくる!!

「おいッ!!これはやっぱ!!」
「LA・ルノアールだよォォッ!!!!」
「高橋さんッ!?…ああッ!!!!」

壁の向こう側から殴っているのであろう。迫り出しがほとんど通路を塞ぐ程に無数に飛び出し、
ついには亀井と藤本・小川の2人を分断してしまう。

「亀ッ!!!!」

亀井は進行方向の先へ飛んだが、藤本達は今来た道を戻る形になった。

「あの野郎、ウチらと分かっててやってんのかよッ!?」
「反発が来る。今度は向こう側にヘコむハズだヨ」
「けッ!!じゃ、自分で自分の技食らいなッ!!」
「そんなマヌケならネ…」


バババババババババババババァァァァァァァァンンンンッ!!!!!!!!


凸っていた壁の迫り出しが、倍加して部屋側の方へ凹んで行く。
そして、通路を塞いでいたLA・ルノアールの壁が消え去ったその向こう側には…。

「はあい☆」

高橋が立っていた。白いドレスの胸には赤いバラ。美しくも残酷な…戦う花嫁の登場だ。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「アイツ…なんちゅう格好してんだ…?」
「ワォ……愛キュン可愛いナ…oi」
「萌えてる場合かよ」
「そ、そうだ…ソレより向こうへ行った亀ちゃんはドコに…?」

藤本は一歩前へ踏み出し、意外そうに口を開けている高橋に向かって叫ぶ。

「おいッ!!亀井はどこ行ったッ!!!!」
「あら〜アンタ達、何でいるん?」
「愛ちゃんを迎えにきたんだよォ。さあさあワタシ達と帰ろうゼ」
「はぁ?あっし用事があるんよ。悪いけどアンタ達は邪魔だから帰ってくれん?」


カチン


「邪魔だぁ……?」

藤本の眉間にしわが寄る。

「おいコラッ!!高橋ッ!!てめぇはあのドラキュラ野郎に騙されてんだよッ!!
 さっさと目を覚ませッ!!ボケザルッ!!」
「…ああ?誰が騙されてるってェ?」
「おめぇだよおめぇ、小ザルッ!!どうせアイツは同じ手で何人も女を騙してんだよッ!!
 さっさと逃げねぇと、あのクソッタレの吸血鬼に血ィ吸われちまうぞ、クソガキッ!!」

高橋の表情がサッと変わる。

「エネスコさんの悪口言うんじゃねーよ…死にてーのか?」

「ちくしょう…やっぱ洗脳されてるみてーだな。怒っちまったよ」
「あんな言い方じゃフツー怒るでしょ…」
「…仕方ねぇな」

藤本は『ブギートレイン・03』を発現させる。

(ヤレヤレ…力ずくで起こすしかねーようだな)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


仲間同士の戦いであるにも関わらず、2人は楽しそうに笑っている。

「ま、こうなる事は何となく予想はしてたんけどよ…」
「再戦はコッチも望んでたコトだヨ。なんか逆にワクワクしてきたゼィ…」

小川も『FRIENDSHIP』を発現させる。
向こうを見れば、高橋は既に『ライク・ア・ルノアール』で臨戦態勢を取っている。
白いドレスと紅のスタンド…紅白のコントラストが目に眩しい。

「小川ぁ…あっしが言った事覚えてるかぁ?」
「ああ、覚えてるよ。アレだろ?」

高橋はいつかと同じ様にニヤと笑いながら言った。

「もうおめーには二度と負けねぇ…」
「ワタシもあの勝ち方には正直納得いってナイんだ。今回でキッチリいかせてもらうゼ」

まだ10メートル程の距離を開けたままで会話を続けている。

「おいッ、勝手に2人で盛り上がるんじゃねぇ!!あたしだっているんだぞ!!」
「まあまあ…アチラさんのご指名だからネ。ミキティは次。順番順番」
「ちくしょう…」
「順番と言っても…ワタシで終わらせるけどネ」
「なあ…麻琴」
「何だヨ」
「…絶対に…負けろよ」
「何てコト言うんだアンタはッ!!!!」

馬鹿げたやりとりのお陰で、小川の緊張も解れ、デモンストレーションの動きも軽くなる。

「ウン、今日はすこぶる調子が良いゾ。負ける気がしねーな、こりゃ」

体調的には万全だが、1つだけ気掛かりがあった。

(問題は…『ベアリングを持ってきていない』ってコトなんだがよォ……)

小川は高橋へと向き直る。


トン……トン……トン……


高橋を対峙する小川は右足つま先をまるで貧乏ゆすりの様にリズム良く床を打っている。

「ミキティよォ…『神速』って知ってるかァ…?『神』の『速さ』って書いて『神速』…。
 し・ん・そ・く……カッコイイ響きだと思わねェかィ……?」

顔は高橋の方を向いたまま、後方の藤本に話し続ける。


トン……トン……トン……


「でよォ…『キャノンボール』ってあるじゃん…知らなイ?昔の…カーレースのヤツ…。
 ナンでもよォ…ニューヨークからロサンゼルスまでの…公道約5000kmをだゼ…。
 法律なんかまるで無視……ナンと一日半でぶっ放したそうだヨ…」


トン…トン…トン…トン…トン…トン…


次第に床を打つ速度が早くなる。

「実はコレには原型があるんダ…さらに昔だよォ…コイツは馬で走るんだヨ…馬で…。
 アメリカ大陸を横断サ…名前は確か……『スティール・ボール・ラン』!!
 そのレースによォ……いたんだヨ…『神速』を持つ男ってヤツがサ…インディアンだヨ…。
 ソイツは一人だけ…自分の足で走ったらしい…馬相手に互角の走りを見せたんだヨ…」


トントントントントントントントントントントントン…


「今から見せてやるよォ……その『神速』ってヤツをよォ…」


ピタ


今まで動かしていた足を止めた。


瞬間……小川は高橋の目の前にいた。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「oioioioioioioioioioioioioioioioioioioioioioiッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

FRIENDSHIPから繰り出されるラッシュ。不意を突かれた高橋はまともに攻撃をくらってしまう。
打撃で飛ばされる高橋にさらに追い討ちをかける小川。
しかし、LA・ルノアールの反撃!!

「オラオラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

苦し紛れのラッシュはただ残像を殴るだけであった。
床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、高速で移動する小川を高橋は捉えきれないでいる。
いくら視覚で動きを読んでも体が追い付かず、LA・ルノアールの攻撃はただ空を切るばかりだ。

「ルノアールは相手の先の動きを読んで繰り出す能力だからナ!!
 だったら動きを読ませなければイイってコトよッ!!」

死角からの攻撃が続く。それを計算して防御すると今度は真正面からのラッシュ。完全に後手だ。

「アラアラ〜!!!!もしかしてもしかしてコレで終わっちゃうのかカーイ?」

FRIENDSHIPが壁に掛けてあった額縁を高橋に投げ付ける。
摩擦を無くした額縁は高速で高橋に迫る!!


バンッ!!


ぶつかる寸前でLA・ルノアールは額縁をアッパーで殴って払い除ける。
が……その先にFRIENDSHIPが迫っていた。物の死角を利用した攻撃だった!!
LA・ルノアールの腕は上がりっ放しである…。

「oioioioioioioioioioioioioioioioiッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドガドガドガドガドガドガドガアッ!!!!!!!!!!!!!!


高橋は吹っ飛ばされた!!!!!!!!

「ヨッシャ!!サッサと終わらすかィ」

小川はさらに追いとどめのラッシュを掛けようとする…。


ドガアアァッ!!!!


「痛エェェェェッ!?!?」

突然の後頭部の衝撃…。
小川はよろけながらも、横目で先程の『額縁』が床に落下・着地するところを確認した。

(今のは迫り出しの衝撃……払い除けた時に能力を使ったのかヨ……!?)

「『戦闘の天才』って異名はダテじゃあナイってか?やっぱこうじゃなくちゃヨ…」
小川は戦闘体勢のまま高橋が立ち上がるのを待つ。

「oioioioioioioioioioioioioioioioi!!!!!!!!!!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!!!!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!!!!!!」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


(ナンなんだヨ…このスピード…どんどん早くなってるじゃネーか!!!!)

小川は横に飛び、壁を蹴り、角度を変えながら打撃を加える。

「オラアアアアアアアアァァァァッ!!!!」

素早く迫り出しの壁が床からせり上がり、小川の攻撃をシャットダウンする。

「マジかィ!?ワタシの神速が……見切られたッ!?!?」

高橋はニヤと不敵な笑みを浮かべる。

「小川ぁ…おめーのスピードはもう覚えた…ラッシュであっしに勝つのは100億年早いンだよ」


ドッギャアアアアアアアアァァァァァァァァンン!!!!


「おちょきんしねまァアアァアアァアアアアァアアアァアアアアァァァァッ!!!!!!!!」
「oioioioioioioioioioioioioioioioioiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiッ!!!!!!!!」


ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!!!!!!!!!!!!!


LA・ルノアールのラッシュを何とかしのぎ、小川は両拳同士を当ててその反動で後方へ下がる。
自らの能力で抵抗を失った体は、空中を真っ直ぐ高速で移動し、藤本の元へと戻ってくる。

「……はっきり言って…おめぇらのどちらとも勝てる気がしねーんだが…」

藤本は呆れ顔だ。

「ははは…ありがと。この神速ってヤツはサ…よーするにあの路上スキーの逆だヨ。
 靴以外の摩擦・抵抗を無くす!!普通に走ってても風を感じたりするだろ?
 空気抵抗ってのは意外と大きいんだナ。それを無くしたんだヨ」

(しかし…すぐに見切られちまったネ…さすが愛ちゃん、尊敬するゼ。)

前回の戦いなどはまるで参考にならなかった。前回の様な油断ももはや期待できない。

(やっぱ毎日の積み重ねってのは大切なんだネェ……)

元々類い稀なセンスを持ち、1年生エースとして期待されて入部したらしいが、
そこでいきなり同学年である小川の二次審査員に選ばれるという大抜擢。
そして常に上を目指し続けた結果がこの圧倒的な戦闘センスなのか!?
小川に二度と負けないと言ったのは決してハッタリでは無い。
恐らく…明日の高橋は今日よりもさらに強くなっているのだろう…。

(……でもそれはワタシだって同じコト)

小川は高橋を見て不敵に笑う。

「女子三日会わざれば刮目して見よってナァ…」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「アレでも使わせて貰いますかィ…」

小川は近くに飾ってある花瓶を手に取った。

「はい、ミキティ」

などと言いながら、藤本にバラの花を渡す。

「おい、棘が刺さるだろが」
「まあまあ…」

ポンポンと藤本の肩を叩く。同時に口を藤本の耳に寄せる…。

「おい…」
「まあ…頼むヨ」

再び高橋と対峙する。

「どうしたん?何なら2人同時に掛かってきても良いんやよ」
「愛ちゃん、ワタシ達は愛ちゃんを迎えに来たのであって、倒しに来たんじゃナイんだ。
 だからネなるべく…早く終わるようにと思ってサ…」

花瓶を上へ放り投げる。


ガチャーーーンッ!!!!


天井にぶつかった花瓶は粉々に砕け、その破片がパラパラと落下する。

「oioioioioioioioioioioioioioioioioioioi!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

FRIENDSHIPのラッシュで落ちてくる破片の一つ一つを殴り付ける。
破片はさらに細かく砕け、空気抵抗を無くした無数の粒が高橋に向かって飛んで行く!!

「愛ちゃん、大切なおべべ台無しにしちゃったらゴメンよ。
 5分以内ならミキティが直してあげるからサッ!!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!!!


襲い掛かって来る無数の破片達を見ても、高橋は動じる事は無かった。

「ふん、まるでイナゴの群れやね。鬱陶しいだけやん」


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴガアァッ!!!!!!!!!!!!


すぐさま迫り出しの壁をあちこちに作り破片弾のそのほとんどを防いでしまう。
小川はあちこちとステップして角度を変えながら破片弾を打ち続ける…。
そのほとんどを高橋はまずLA・ルノアールで防ぎ、
さらに自ら作った迫り出しにも当たらないタイミングでゆっくりと小川との間合いを詰める。
まるで破片や迫り出しが高橋自身を避けて飛んでいるようだ。

「おい、近付いてるぞ…無数の弾とルノアールの凸るタイミング…動きが全部見えてるのか?」
「ルノアールで一番恐ろしいのは実はその『動体視力』にあると聞くケド…しかし…凄まじいナ」
「おめぇ…一度勝ってるってホントか?」
「……なんだかワタシまで信じられなくなってきたヨ」

攻防が終わる。床には花瓶の破片、壁にはそれによる細かな傷があちこちに付いている。

「あら〜、もう終わりかいな?」


ニタァ〜


「ウン終わりだヨ…あくまで下準備のネ。」
「あひゃ?」
「かわされるのは計算済みでネ……で、ココからが本番。ミキティ出番だヨ」

見てるだけで退屈していたのか、藤本はその呼びかけで俄然張り切る。

「おっしゃ、行くぜッ!!」

ブギートレイン・03で床や壁にに触れる。


ボコォッ!!!!


すると一気に高橋の周囲を無数の凹みが取り囲んだ。時間を戻したのだ!!


ガチャーーーンッ!!!!


再び別の花瓶を天井にぶつけて破片をその殴る……先程の攻撃と全く同じパターンだ。

「oioioioioioioioioioioioッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「バーカ!!一度破られたモン繰り返したってあっしに効くワケが…」


スポ!スポ!スポ!スポ!…スポ!スポ!スポ!スポ!…


破片は一つ一つLA・ルノアールの作り出したヘコみの中へと収まる。

「へへ…これが狙いだったんだヨ……ほぼ全方位同時…どれだけ避けられるかなァ?」
「!!!!」
「全弾充填完了ーーーーッ!!そして、こちらも行かせてもらいマックス!!!!」


ガチャガチャーーーーーンンッ!!!!!!!!


小川はさら花瓶を投げる。そして…

「一斉射撃ッ!!!!撃てェーーーーーーーッエエエエエエ!!!!!!!!」


バババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!


床、壁、天井の凹みが一気に凸りだす!!そして中の破片が飛び出し高橋に襲い掛かる!!
加えて小川は新たに破片弾を打ち出している。
その様はまさに草木を食い荒らすイナゴの大群の如く……高橋の姿も陰に隠れる程の大群だ。

「コレだけの数を避けるのは絶対にMURRRRIIYYYYYY!!!!!!!!」


バババババババババババババババババババ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


破片達が完全に高橋を取り囲んだ。小さな粒とは言え、まともに食らえば大怪我は免れない。
それでも高橋はうろたえる様子は無く、自身を覆っている影を見つめている。


ドグシャーーーンッ!!!!!バチバチバチバチバチバチガガガガガガガガ…!!!!!!!


破片同士がぶつかり合う音、そのまま壁等に当たる音が辺りに響き渡る…。

「おい、アイツ防御しなかったぞ…いくら何でもマズいだろ!?こりゃ蜂の巣だぜ…」
「ど、どどどどうしよう…!!!!」

再び辺りは沈黙し、2人はビクビクしながら様子をうかがうが……なんと高橋の姿が見えない。

「おい麻琴ッ!!アイツ細切れになっちまったぞッ!!!!!!!!」
「ウソだろおおおおおおおおおおッ!!!!愛ちゃああああああああああああん!!!!」

小川が頭を抱えて下を向く……良く見るとちょうど高橋が立っていた辺りに穴が開いている。

「……これはもしや…?」


バシューーンッ!!!!


突然その場所から大きな迫り出し……と同時に高橋までが飛び上がって来た。

「凹みを作ってそこに避難したんやよ。これなら上だけガードすれば良いがし。
 ……さて、イナゴの群れは飛び去ったみたいやね」

小川と藤本の2人は嬉しいやら悔しいやらで、ただただ唖然とするしか無かった…。

「あっし達は時間が無いんよ…もう面倒だ!!二人同時に相手にしてやるよッ!!
 おおりゃああああああああァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

高橋が2人に向かって一気に駆け出す。小川の神速程では無いにせよ、かなりのスピードだ。
しかし、素早く小川が前に出てFRIENDSHIPで床に触れる。


ツルン!……ドスンッ!!!!


摩擦の無くなった床に足を滑らせ、高橋は転倒し尻餅を付いてしまう。
手を掛けてもツルツルと滑って立ち上がれずに、尻を付いたまま勢い良く滑走して行く。
その先には小川とFRIENDSHIPが揃ってシャドウボクシングをしながら待ち構えている。

「サアサア愛ちゃーん!!コッチへいらっしゃーイ!!!!」
「くっ!!!!」


バンッ!!


高橋は滑走して行く延長線上の床をLA・ルノアールで軽く殴る。そこに僅かな窪みが出来る。
そして、ちょうど尻が窪みにハマッた瞬間…。


ボヨーン!!


迫り出しが高橋を宙へと撥ね上げる。高橋はそのまま飛び蹴りの格好をして小川に向かって行く。
助走からの滑走に迫り出しの後押しも加えた飛び蹴りの勢いは力強いものがある。

「おちょきんしねまァアアァアアァアアアアァアアアァアアアアァァァァッ!!!!!!!!」

白いドレスをなびかせながら高橋は小川に迫って行く。

「おおおお…キャワなパンツが丸見えじゃんッ!!!!……でもそれって甘くナーイ?」

FRIENDSHIPが前に立ちはだかる。

「こりゃ餌食だネ。生身じゃスタンドは倒せないヨ」

両手を前に差し出す。そのまま蹴り足をキャッチするつもりだ。


『しかし、小川は大きな誤算をしていた…。一瞬の油断だった…。
 この派手なパフォーマンスは全て高橋の計算だったのだ。
 ある事から小川の気を逸らす為のカモフラージュだったのだ!!』


その異変を先に気付いたのは藤本だった。

「あれ?……ルノアールはどこ行ったんだ…?」

FRIENDSHIPが高橋の足を両手でキャッチする。

「はぁイ。詰んだ」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


高橋の体から同じ飛び蹴りの格好でLA・ルノアールが飛び出してきた。
そして、両手を塞がれガラ空きのFRIENDSHIPの胸に飛び込んで来る…。


  『小川麻琴は高橋愛が『戦闘の天才』だということを、再び思い知らされた!!』


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

LA・ルノアールによる蹴りのラッシュ!!
蹴りは殴るよりも数倍の威力がある。それをまともに食らってしまった。


ドッバアアアアーーーーーーーーンンンッ!!!!!!!!!!!!!!!!


小川は吹っ飛び、FRIENDSHIPは消えた!!敗北の瞬間であった。
しかし…
白目を剥き、もはや完全に意識が飛んでいるにも関わらず、小川は立った状態で着地をする。
戦いの執念であろうか!?!?虚ろな表情でただ仁王立ちしている。
高橋はそこに容赦なく追い討ちを掛ける。


ボゴォッ!!


小川の足元を凹ませそこに小川を落とす。ちょうど床から顔を出した状態になる。

「オオオォオオォオオオオォオオォォォ!!!!!!」

足を振り上げ、なんと小川の顔面に向かってローキックを加えようとする。
小川の意識は戻らない。LA・ルノアールは足を振り下ろす!!


ボグシャアアアアァァァァンッ!!!!!!!!!!!!


………
……



「な…ナンだとォ…!?」

LA・ルノアールが蹴ったのは小川の顔面では無かった…。

「……おめぇ…麻琴の首ヘシ折る気かよ…?」

藤本のBT・03のローキックがLA・ルノアールのローキックを止めていた。
スタンド同士、脛と脛のぶつかり合いだ。

「邪魔すンじゃねェよ…」
「…ったく、またイカれモード入っちまったみてーだな。ちったァ待ってろ」

藤本は穴から飛び出してきた小川をキャッチすると、そのまま抱え上げ廊下の隅の方へと運ぶ。
階段の踊り場は、斜め天井の天窓から満月の光が差し込んできている。
青白く光るBT・03。そして、小川に触れると彼女のボロボロの体がスッと綺麗に戻る。

「このまま寝かしとくかな…」

藤本は高橋の下へと戻る。やはり、月光が遮られるとBT・03の輝きも消えてしまう。

「さすがエース候補は違うねぇ…有言実行してきやがる」
「小川は強い。やけどあっしの方が強い」
「そうかい…じゃ、あたしの方がそれよりさらに強い」
「ああん?」
「おめぇまだ元気そうだもんな…さあ二回戦始めようか…」

藤本はビシッと高橋を真っ直ぐ指差す。

「あたしも心に誓ったんだ……次はあたしが勝つ。今流行りの『リベンジ』ってヤツだゼ!!」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


勾当台の外れ。杜王町からもさほど遠くない場所にまさかこんな屋敷があるとは驚きだ。
細部に意匠を凝らしたその造りは非常に歴史を感じさせる。
ここの主人は一体どんな人物なのだろうか…?しかもそれは吸血鬼だと言う…。

「すごく静かだな…」

窓を見ると、まるで星の瞬く音までがチカチカと聞こえそうだ。

亀井絵里は高橋のLA・ルノアールによって小川・藤本の2人と分断された後だが、
ちょうど目の前の扉が開いた時に、とっさに先の曲り角へ身を隠した。
扉の影から白いドレスの様なモノが現れたのを横目に見ながらも、一人先へと進んで行った。

観察をすると、確かに古めかしく埃っぽくもあり、人が住んでいた形跡をまるで感じない。
しかし、それとは対照的に目にはっきりと飛び込んでくるのは、花瓶に生けられたバラの花束だ。
赤と白のバラが互いを引き立てるかの様にバランスよく配分されている。
このバラ達だけがみずみずしい生命の息吹を感じる事ができる。

(……だけど、このバラ達が悲しそうに見えるのはナゼだろう?)

これまでと比べて一際目立つ扉が目に入る。両手開きで真鍮のドアノブが光り輝いている。
『何者かがいる』…そんな予感だけはするが、敵意とか邪悪といったものではない。
ただ、自分がそこへ優しく誘われているかのように感じるのだ。

(……中に入るのはマズいよね…みんなはどうしてるんだろう?)

なぜかドアノブに手を掛ける。イケないと思いながらも体がその誘惑に負けてしまう。


スィーー


亀井は扉を開けた…。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


すぐに気が付いた……黒いマントを羽織った男が窓際でコチラに背を向けている…。

カチというドアが閉まる音がヤケに大きく聞こえる。そして男が振り返る。
少し驚いた表情…誰を想像したのだろうか?高橋かそれとも…?

エネスコはやや相手を探るような様子で口を開く…。

「あなたは…」
「お、お前が!!高橋さんをサラった…吸血鬼だなッ!!」
「サラった…確かにそうですね…」
「許さないぞッ!!サイレント・エリーゼACT3ッ!!」


ドシューーン!!


『しゅう』の時の経験もあるので油断はできないが、
まだ相手がスタンドを出していない今の内に先手必勝で突っ込んだ!!

「それは確かに私の過ち…」

エネスコは何事も無いように亀井に話し続けるが、
亀井はソレを無視したままスタンドと声を合わせる。

「「モグモグモグモグ!!ウェー!!ウェー!!!!」」


ドカカカカッ!!!!


「エリザベスの無重力にする能力!!これでアンタの自由は奪われたッ!!!!」

エネスコはフワリと少しづつ宙に浮き始めた。

「こ…これは!?私の体が勝手に…!?」
「えッ!?アンタ、僕のエリザベスが見えてないの?」
「愛さんの言っていた『スタンド』というモノですか?はい、私には見えません」
「スタンド使いじゃない!?…だったら僕の勝ちだ!!くらえぇッ!!!」

再びS・エリザベスがエネスコに襲い掛かる。
しかし、エネスコは涼しい表情だ。

「まったく…早とちりなお嬢さんだ。良いでしょう…少し遊んであげますよ…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「モグモグモグモグ!!!!このッ!このッ!このッ!」

S・エリザベスのラッシュ!!威力は大きくは無いが動けない者を相手にするには充分だ。


スッーーーーッ!!!!!!!!


しかし、S・エリザベスの攻撃は全てかわされてしまった。見えていないのに…?
なんとエネスコは…天井の方まで舞い上がっていた。

「えッ!?何で!?エリザベスはそこまでは高く…!?!?」
「相手を宙に浮かせる能力ですか…その『スタンド』自身が空を飛べる訳では無さそうですね」
まだ状況を把握しきれていない亀井にエネスコは続ける。
「私は飛べるんですよ、このマントがあれば」

エネスコは亀井に向かって滑降してきた!!!!


ビュンッ!!!!


エネスコが亀井の頭上をかすめる。

「わッ!!わわわッ!!!!」

空を飛べる相手にS・エリザベスは全くの無意味だ。亀井はすぐにスタンドを引っ込める。

「ははは…」

エネスコはしばらく亀井の頭上を飛び回っていたが、

(少々悪戯が過ぎましたか…これ以上レディを驚かせるには忍びません……)

エネスコは床に降り立ち、そして亀井に向き合う。

「お嬢さん、安心して下さい。私はあなた方の…            」

肩に軽い衝撃を感じた。

「サイレント・エリーゼACT2!!サイレント・エリドリアンッ!!」
「…………」

エネスコの声は封じられた。

(何でしょう?これは…また別の能力……!?!?)

エネスコが考えていると、


バシッ!!ドカッ!!


見えない何者かに体を打たれている。『スタンド』による攻撃なのだろう。

(ま、待って下さい!!私はあなた方の敵ではありませんッ!!!!)

手をかざし訴えようとしても声が出ない。相手の声も聞こえない。

「今さら慌てたって無駄だぞッ!!ええいッ!!デラデラデラデラアアアッ!!!!」


ボカボカボカボカボカボカ!!!!!!!!


たまらず上昇する。空中なら攻撃は受けないと考えたからだ。


ドカッ!!バキッ!!


(何と!?『スタンド』は空が飛べなかったのでは無いのですかッ……!?)

「へへん、バーカッ!!高く飛べないのはエリザベスだけだよッ!!」


ドカドカドカドカドカドカ!!!!!!!!


(ぐはあッ!!!!)

(ああ…悪ふざけなどするのではありませんでした。彼女は真剣なのですね)


ボゴッ!!グバッ!!


(どうにかして伝えなければなりません…どうにかして……)


ギュウウウウウウウウウンンッ!!!!


エネスコは勢い良く窓際の方まで飛んでゆく。

「あ!?待てッ!!」

慌ててエリドリアンは後を追う。
エネスコはテーブルの上にあるワイングラスを手に取ると、それをテーブルに叩き付けた。


ガチャン!!!!


グラスの縁の部分が派手に割れ、ギザギザとノコギリの歯の様に尖っている。

「それで僕の事を刺そうっていうんだなッ!!そうはさせないぞッ!!!!!」
エリドリアンの攻撃はなおもしつこく続けられる。


ドカッ!!バキッ!!ボグッ!!


テーブルの上に白いクロスが掛けてある。
エネスコは相手の攻撃に耐えながら、必死にクロスに指を走らせる。

「何をしようっていうんだよおおおぉぉぉぉ!!!!!!!!」

さらに攻撃を加えようとした時…!!!!!!!!!!!!!!!!

エネスコは亀井に見えるようにクロスを掲げる。何かが書かれている。


              『 テ キ デ ハ ナ イ 』


それは……彼の血で綴られたメッセージだった…。


ジャジャアアアアアアアアンン!!!!


…………


グラスを割ったのは、指を傷付ける為のものだったのだ。
元々『恐ろしい吸血鬼』イメージとはとても掛け離れた相手だっただけに、
やがて亀井もメッセージを受け入れ警戒心を解いた。

「しかし、たくましいお嬢さん方ですね……怖くは無いのですか?」
「そりゃ怖いですよ…でも高橋さんを助ける為だったんですから!!」

亀井はすでに敬語だ。味方となるとやはり年上を敬うように出来ているらしい。

「演劇部での愛さんは一体どんな方なのでしょうか?」
「そりゃもう重要です。無くてはならない人なんです。
 ……それに、高橋さんは…僕の目標でもあるんです」
「大きな存在なのですね?」
「はい。……あの…僕、亀井絵里って言います」

亀井はトツトツと話を続ける…。

「その名前の通り、僕って亀みたいに引っ込み思案でドン臭かったんです。
 それで演劇部の練習に馴染めなくて結構悩んでた時もあったんです…。
 でも、その時に大切な事を教えてくれたのが高橋さんなんです」
「どんな事を?」
「どんなにドジでノロマな亀でも休まずに歩き続ければ…いつかウサギにも勝てるって!!
 …それに気付かせてくれたのが高橋さんなんです!!!!」

亀井は涙ながらにエネスコに訴えかける。

「お願いします!!高橋さんを僕達に返して下さい!!
 演劇部には…そして僕にも高橋さんは必要な存在なんです!!!!」

エネスコは優しく微笑む。

「ご安心下さい。私は最初からそのつもりでしたよ」
「本当ですかッ!?」
「はい。ご心配お掛けしてすみませんでした…」


ドーーーーンッ!!!!


どこからか鈍い音と共に軽い震動を感じる。

「何事でしょうか…?」
「多分…高橋さんと藤本さん達が戦ってるのかも…」
「藤本さんはお仲間ですか?…なのに戦う?」
「…そういう集まりなんです…うちの部活って…ハハ…」
「いや、それだけでは無いのかも知れません…この香りは…人を狂わせる…」
「????」

エネスコは側にある花瓶から真っ赤なバラの花を一輪取り上げ、それを亀井に示す。

「ご覧下さい」
「綺麗ですねー。この家にあるバラの花はみんな…ええと…?」
「エネスコです。ジォルジェ・エネスコ」
「全部エネスコさんが生けたんですか?庭にもいっぱいあるし。バラの花が好きなんですね?」
「はい、そりゃもう」

エネスコはニッコリと微笑む。

「バラはとても気高く美しい……しかし、どこか物悲しげには見えませんか?」
「そうですね…まるで……泣いている子供のよう…」

エネスコはコクリとうなずく。

「もう少しだけ私のおしゃべりにお付き合い下さいませんか?」
「…はい」
「ちょっとした昔話です。……私の故郷における…バラと血の歴史です…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「私はルーマニアのトランシルヴァニアという地方で生まれ育ちました。
 ルーマニアとは『ローマ人の国』、トランシルヴァニアとは『森の彼方の国』という意味です。
 15世紀の東欧は非常に不安定で群雄が割拠する時代でした。
 当時はまだ独立国家としてのルーマニアは存在せずに、いくつかのの小国に分かれていました。
 バルカン半島はヨーロッパ・ロシア・中近東アジアの国家的な境界線でもあり、
 またギリシア正教・カトリック・イスラムといった宗教的なるつぼでもあったのです。
 ……どうです?ちょっと難しいですか?」

「う〜ん…一応世界史で習った気もするけど……」

亀井は渋い顔で口をへの字に曲げ、頭を傾げている。

「ははは……では、ここから話す事は学校ではまず習う事は無いでしょう。
 ルーマニアの小国の1つであるワラキアは、あの吸血鬼『ドラキュラ』の語源にもなっています。
 ワラキア公ブラド・ツェペシュ…彼があのドラキュラ伯爵のモデルです。
 彼の居城がトランシルヴァニアという山岳地帯の頂に建てられていました。
 ツェペシュの行為は残虐そのもの…とても口で説明出来たモノではありません」

「うわッ!!そんなの聞きたくない聞きたくないッ!!!!……た、例えば?」

「彼は意に添わない者達の身体の各部を切り落としたり、串刺しや火焙り…等の拷問に掛け、
 行為の内に流れ出た生き血をグラスに取り、飲むかあるいはパンに浸して食べたと言います」

「ギャーギャーギャーギャーッ!!!!」

亀井は両耳を手で塞ぎながら叫ぶ。

「……やはり、止めましょうか?」

あまりの亀井の騒ぐ姿に、エネスコもさすがにこれ以上話すはためらわれた。
しかし、彼女は顔を上げ答える。

「……で…それから…どうなったの?」

乙女心の複雑さを改めて知ったエネスコだった…。

「16世紀のトランシルヴァニアにはもう1人有名な吸血鬼伝説があります。
 ハンガリーの貴族、エリザベート・バートリー…彼女の人生もまた凄惨を極めています」
「…お、女ッ!?!?」
「はい、女性です。トランシルヴァニアは山脈の国境線上に当たる地方なので、
 大部分はワラキアにあるものの、その一部はハンガリー王国に属していました。
 彼女はあのハプスブルク家ともつながりがある名門の生まれです」
「エリザベート…ハプスブルク…?」
「オーストリアの『シシィ』とは別人ですよ。血の繋がりも無い、本当に遠い遠い親戚ですね」
「ああ…良かった。じゃなかったら高橋さんぶっ飛んじゃうよ」
「ツェペシュが政治やあるいは宗教、個人的恨みによる殺戮であったのに対して、
 彼女は…女性特有と言えるのでしょうか?美の追求や快楽の為の大量殺戮でした。
 彼女が殺害した少女達の数は……600人を超えると言われています」

亀井の開いた口が塞がらない…。

「美容の目的で血液の風呂に浸かる為には、効率良く生き血を抜き取る必要があります。
 そこであるドイツの時計技師に作らせたのが、かの有名な拷問器具『鉄の処女』です」

体に震えが走る…!!!!
ゾンビじゃない…れっきとした人間の中にも吸血鬼は存在したのだ!!!!

「栄光華やかりし時代、城の各所に咲き誇っていた多くのバラの花達は、
 彼女の頃には手入れもされず、その大半は枯れてしまったと言います。
 しかし、なぜかそのいくつかは枯れずに残っていたという伝説があります…。
 『ブラッディ・ローズ』…赤黒く咲き誇るバラ。
 そのバラ達は人の生き血を吸って生き長らえていたと言いますッ!!
 そう……この赤いバラは人の歴史、流血の歴史を常に見詰め続けて来たのです!!
 このトゲの痛みは臆病なバラ達の心の痛みを表します…」

エネスコは落ち着きを取り戻しながら最後にこう告げる。

「今私達が感じるこの悲しみはまさにバラの悲しみ…バラの痛み(Rose of Pain)なのです…」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「なあ、おめぇ…あの男が吸血鬼だって分かってて付いて行ってるのかよ?」

藤本は戦う前に高橋の意思を確認しておきたかった。

「あぁ?そんなモン、ハナから知っとるわィ」
「知ってて付いて行くってどういうコトだよ?吸血鬼の恐ろしさくらい知ってんだろが?」
「あの人は悪くない」
「良い吸血鬼ってか?意味分かんねーよ。血ィ吸われて頭イカれちまったんじゃねーの?
 だいたい何だその格好は?『ヅカ』のヒロインにでもなったつもりかよ?
 さしずめあのドラキュラ野郎がそのお相手役ってか?…おめでてーな」
「アンタ…あっしに説教タレに来たんかィ?」

藤本は大きく息を吸って、やや落ち着いてから話す。

「別におめぇがどこで誰と会ってようが、そりゃおめぇの勝手だがよ…、
 あんだけ好きで…皆勤記録まであった演劇部を放ったらかしにして何やってんだよ?
 もうおめぇにとっちゃ演劇部はドーデモイイコトなのか?」
「…アンタが言っても説得力が無いがし」
「違うね。あたしの説得力の話じゃない。おめぇの説得力に傷が付くって言ってんだよ」
「!!!!」
「あたしゃバカだから自分の行動に何の意味も説得力も持たせらんないけど、
 おめぇの今までの努力くらいは理解できるよ。それを無駄にする気か?」

藤本はこれまでにない真剣な眼差しを高橋に向ける。

「おめぇの居場所はココじゃない……演劇部だ」

高橋は動揺する…。

「アンタ…エネスコさんと同じコトを…」
「ま、正直今となっちゃあそんなコトどーでもイイんだわ…。
 アホの麻琴もやられちまったし…あたしも前回のカリを返さないといけない…」

ブギートレイン・03は構える。

「あたしが力ずくで連れ戻してやる…覚悟しな」

ライク・ア・ルノアールもラッシュの体勢に入る。

「良いのか?…あっしはやるからには手は抜かんよ」
「たりめーだ」

お互い間合いを詰める。

「「オルアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」」


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!!!!!!!!!!


お互い急所を狙いつつの突きの連打!!序盤は互角か…に見えたが…。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!!!!!!!!!!」

やはりスピードではLA・ルノアールの方が分がある。藤本は堪らず左へ横っ飛ぶ……。
が、目の前の壁に凹みがあった。

(こ、コイツ!!いつの間にッ!!!!)


ドシューーーーーンッ!!!!!!!!


迫り出しを何とか伏せてかわす……が、床にも凹み。

(げッ!!!!)

それを転がって今度は右に避ける……が、そこには高橋の足が待っていた。

「あら〜お帰り」


ゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバゴバアアアアンンッ!!!!!!!!!!


脇腹に蹴りのラッシュ!!

「ぐはあああああッ!!!!」

そのまま壁に吹っ飛ばされる……が、やはりそこにも無数の凹みが待っていた。


ドバババババババババババアアアアアアアアンンンン!!!!!!!


全身に迫り出しの突きを食らってしまった!!
それでも藤本は痛みを我慢して、何とか回転しながらも上手く立ち上がる。

「……けッ……だろうな…」

案の定、すでに凹みに包囲されていた。

「くそッ!!満月の流法ッ!!!!」

反発が来る前に時間を戻して、高橋に迫る。

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!!」

BT・03のラッシュも、LA・ルノアールは簡単に手のひらで受け止めてしまう。

「何コレ?ラッシュのつもりなん?」

高橋は余裕の笑みだ。しかし…


ガシッ!!


BT・03の突きと見せかけて、LA・ルノアール両腕を掴み引っ張る。
胸に引き付け、その勢いのままに後方に投げる。先程の迫り出しを時間を戻した場所だ。

「自分で自分の技でもくらいなッ!!」

時間が元の流れに戻る…。


ドババババババババババババババババッ!!!!!!!!!!


「フン…」

高橋とLA・ルノアールはその場から逃げもせずに、力を抜きヒザを軽く曲げ体をクネらせる。
迫り出しは体をかすめるように伸びて行き、1つとしてヒットしない。
高橋は迫り出しを掴み、まるでうんていの様にして藤本の方へ伝って来る。

「おめぇはマジでサルかッ!!」

BT・03は狙い済まして一撃を加えるが、クルッと鉄棒の様に回転してかわされる。

「なッ…!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!!!!!!!!!!」

またも蹴りのラッシュをまともに受ける!!

「がはああああァァッ!!!!」

(クソッ!!あたしの攻撃まだ一発も当たってねーじゃんかよ!!)

「おちょきんしねまァアアァアアァアアアアァアアアァアアアアァァァァッ!!!!!!!!」
「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!」


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!!!!!!!!!!


BT・03は相手のラッシュをラッシュで受け返すが、それが無駄なのは分かりきっている。
……だが…他に術が思い付かないのだ…。
高橋はニヤリと笑う。藤本は背後をチラと見る。すでに後方の窓際の壁には凹みが作られている。

(早い!!コイツはとにかく早過ぎるんだよおおおおッ!!!!!!!!)

「おおおぉおおおぉおおおおおぉおおぉおおおおおおぉぉ!!!!!!!!!!!!」

藤本は高橋にタックルを決め、そのまま前へ押し出す。反発の迫り出しから遠ざかる為だ。
相手を反対側の壁際まで追い詰めたと思った瞬間…。


ビスビスビスビスビスビスビスビスッ!!!!!!!!!!!


「痛てェ!!!!」

藤本は背中全体に無数の突き刺すような痛みを感じた。
思わず背中を押さえると、何か硬いものが手に触れた…それは花瓶の破片だった。
高橋はおどけながら言う。

「さっきの小川の技を借りたんやよー」

(あの一瞬でそこまで出来るのかよ……なんてヤツだ!!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「オルアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

藤本に策を考える暇も与えない気なのか、LA・ルノアールのラッシュは続く。
こうして相手の戦意を喪失させようというのだろう…。

「オラァッ!!!!」

渾身の一撃がBT・03の腹に決まる!!!!…が、ナゼか藤本は痛みを感じない。
良く見ると…。

「な……ナンじゃコリャああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」

なんと藤本の腹が大きく凹んでいる。逆に背中には大きな出っ張り…LA・ルノアールの能力だ。

「ルノアールだって進化するんやよ。対象は無生物だけじゃあないんよ」

BT・03が受けた攻撃が藤本にも影響する。ただし能力による攻撃なのでダメージは無い。


ドガァッ!!!!!!!!


藤本が油断した隙を突いて、LA・ルノアールによる後頭部への延髄切りが決まる!!
BT・03と藤本は仲良く前方へ吹っ飛び、顔面と腹を激しく壁面に激突する!!
それからさらに……腹の凹みが倍加して反発する…それはすなわち!!!!


ドシューーーーーンッ!!!!!!!!


迫り出しが壁に突っ掛かり、今度は藤本は後方へと吹っ飛ばされる!!!!


グバアアアアアアアアアアンンンンンンンッ!!!!!!!!


壁に背中を叩き付けられ、藤本はまるで背骨が折れるかの様な衝撃を受けた。

「うああぁ…」

フラ付く藤本の胸に、LA・ルノアールは両拳で殴り付ける。
藤本の左右の胸が大きく凹む。

「あら〜、マイナスGカップ☆」


カチン!


「てめぇ…ふざけんじゃねーぞッ!!!!」

完全にキレた。破れかぶれの一撃を高橋に加えようとする。

「はぁイ、詰んだ」


ボイ〜〜〜〜ンン!!


胸から凹みの反発!!迫り出しが伸び、LA・ルノアールはソレを軽くキャッチする。

「今度はIカップかしらン☆」

胸の迫り出しは腕のリーチよりも長い。つまり…渾身の一撃も空振りに終わった…。
LA・ルノアールが迫る!!!!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドッバアアアアーーーーーーーーンンンッ!!!!!!!!!!!!!!!!


結局、何も出来なかった。ラッシュを受けた藤本は廊下の向こうに吹っ飛び、床に転がった。

(……こ、コイツ…1日どころか……1分毎に強くなって来てやがるッ!!!!!!!!)

BT・03は消えた。藤本は意識を失った…。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


高橋は満足げな表情で倒れた藤本を見下ろしている。

「サボリ魔に負けるワケにはいかねーんだよ」

そう言ってみたものの、先程の藤本の一言が心に引っ掛かかった。

「皆勤記録か……あっしもサボっちまった。人の事は言えん」

クルッと向きを変え、エネスコの待つ部屋へと戻ろうとする。

「oooooooooooooooooooooooiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiッッ!!!!!!!!!」

突然、背後から叫び声が聞こえ振り返る。
小川がまた白目を剥いてヨロヨロと手を天に伸ばしていたが、そのまま再び倒れてしまう。
体中はボロボロの状態に戻っている…。

「な…何なんだ…????」
「……どうやら、元の時間の流れに戻っちまったようだな……やっぱ安定してねーや」

高橋は今度は藤本の方を向く。藤本がフラ付きながら起き上がろうとしている…。

「ま、今の麻琴の叫び声のお陰でこっちも目が覚めたんだが…」


ドシューーーーン!!


床から迫り出しが伸びる。時間を戻したのだろう。それに掴まって藤本は立ち上がる。

「…へへ……まだ10カウントじゃねーよな…?」
「まさか…アンタまだやろうっての?」
「たりめーだろが…次は勝つって言ったろ?」
「あっそ、無駄やと思うけど……なんなら傷、直してもええんよ?時間戻してさ」
「イヤだね…結局それが甘えに繋がったんだ…傷なんていくらでも直せるってなぁ…。
 とは言え、さすがに体力がもたねぇ…だからこの最後の攻撃でおめぇをブッ倒してやる!!
 傷を直さねーのは賭けだ!自分をもっと追い込むための賭けだ!『死中の活』ってヤツよ!!」

藤本はジッと高橋を睨み付ける。

「負けねぇ……ぜってー負けねぇ…」

「藤本さんよぉ…そーゆーのをなあ〜……ただのヤケクソと言うんやよッ!!」

高橋は素早く駆け寄り攻撃に移る。


ババババッ!!!!


LA・ルノアールのラッシュをバック転で素早くかわす。着地した瞬間…。


ツウゥーーーーーーーーッ!!


ナゼかそのまま後ろへと滑って行く。そして、止まる。

「…おかえり…ミキティ…oi」
「麻琴ぉ!?おめぇ、起きてたのかよッ!!」
「はは…一回目で気絶して、二回目で目が覚めたヨ……かなりキツい目覚ましだったケド」
「そうか…もう一回時間戻すとどうなるんだろうな?」
「冗談でしょッ!!!!」

高橋と藤本との距離は10数メートルといったところか…?その距離を保ったまま対峙する。

「高橋…おめぇは間違いなくホンモノだゼ。そのホンモノとヤリ合うなんて気持ちイイよな。
 だけどよ……そのホンモノを倒したらもっと気持ちイイと思わねーか?」
「さっきまるで手も足も出なかったヤツが言うセリフかよ…?」
「ふん…野球で例えんならよ、おめぇはまだツーアウト取ったに過ぎないんだよ。
 ……本当の勝負ってのはこれから始まるんだ」
「フン、言ってくれるじゃネーか。やれるもんならやってみな」

藤本はストレッチをしてから、再び戦闘体勢になる。

「じゃ、見せてやるよ…美貴サマの華麗なる逆転サヨナラ満塁ホームランってヤツをさ…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「うおおぉおおおおぉおおぉおおおぉおおおおおぉッ!!!!!!!!!!!!」

藤本は高らかな雄叫びと共に高橋に向け一気にダッシュする。


ドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!


BT・03が壁に触れ時間を戻し、先程のLA・ルノアールの迫り出しを復活させる。
横から伸びる迫り出しを足場にして、藤本はまるで丸太の吊り橋の様に駆け渡って行く。
高橋は相手の攻撃に備え、防御の姿勢を構えようとするが、
小川のFRIENDSHIPの能力で足がツルツル滑って上手く身動きが取れない。

「チッ…慣性の法則か……摩擦・抵抗力が無い場所では、
 運動しているモノは等速直線運動を続け、静止したモノは静止し続ける…。
 ほやったらあっしもルノアールで足場を……う!…な、ナンなんだ…アイツ!?」

藤本の鬼気迫る突進に、高橋は思わず目を見張り動きを止める。
BT・03は壁全体では無く、なるべく藤本の足元に来る迫り出しだけを復活させるが、
移動しながらなので正確にはいかない。そのいくつかは藤本に襲い掛かり激突する。


ドガッ!!ドガドガッ!!!!


しかし、藤本はそんな事は意に介さない。ただただ高橋を目指しガムシャラに向かって行く!!
駆け抜けるBT・03!!……その姿はまさに銀色に輝く暴走列車そのものであった!!!!

「高橋ッッ!!おめぇの負けだああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!」

残り5メートル、藤本はそのまま高橋に向かってジャンプした!!!!
しかし、BT・03は壁の時間を戻していた為に、藤本本体よりも向かうタイミングが遅れる。
自然、藤本自身が先頭に高橋に突っ込んで行き、スタンドはその後を追う形となる。

「おおおおおおぉぉッ!!!!ゴールデンゴール決めてぇぇッ!!!!!!!!!!!!」

高橋は結局その場から動くのを止め、じっとノーガードの体勢で相手を待つ。

「バーカ!あっしのマネしてるんじゃねーよ!!オメーのスタンドは後ろにいるじゃねーか!!」

素早く2人の間にLA・ルノアールが割って入る。そして藤本を迎え撃つ。

「おちょきんしねまァアアァアアァアアアアァアアアァアアアアァァァァッ!!!!!!」

LA・ルノアールの高速の拳が藤本に襲い掛かる……!!!!!!!!


ボイ〜〜〜〜ンン!!


「なッ!?!?」

LA・ルノアールの拳が藤本に直撃しようとする瞬間!!藤本の両胸がグンと伸びる!!

「チッチッチッ…満月の流法ゥゥッ!!!!!!!!」

胸の迫り出しがLA・ルノアールの肩に当たる!!


『藤本自身はスタンドに触れる事は出来ない…
 しかし胸の部分はLA・ルノアールのスタンド能力で伸びたもの…
 つまり……スタンドに触れる事が出来る!!!!!!!!』


迫り出しの突っ掛かりがLA・ルノアールのリーチを空振りさせる!!
うろたえた高橋の隙を突いて、藤本はラリアットの体勢で組みかかり、背後に回り込む!!
そして、そのまま一緒に尻餅を付きながらも、両腕で高橋の首と頭部を固定する!!
しかも…さらに同時にBT・03がLA・ルノアールの背後に回り込み同様の事をする!!

「ラッシュはブラフだ!!このままおめぇを眠らせてやるッ!!!!!!!!」
「くッ…くそッ!!!!」

高橋は必死に肘で背後の藤本を打つ。が、動けば動くほど藤本の腕が首に深く食い込んで行く。

「……なあ…高橋、知ってるか…?」

藤本はスリーパー・ホールドを掛けたまま、もがく高橋の耳元でささやく。

「人間ってヤツはサ…便利なモンで、苦痛に対しては耐えられる様に出来ているらしいんだ…。
 ナントカホルモンの分泌やら、最悪の場合、神経接続を切断して苦痛を断ち切るらしいぜ」

藤本はさらに腕に力を加える。

「でもよ…どんなに鍛えたれた肉体や精神の持ち主でも、『快楽』には耐えられないらしい…。
 分かるか?…どんなヤツも『快楽』の前には『無力』なんだよ…」

高橋の動きが鈍くなる…。

「あたしもおめぇを傷付けようとは思わない……だから眠らせてあげる……」
「アア…ァ…ァ…」
「どーせもともと催眠状態なんだ…力を抜けよ……さあ…眠るんだ……」
「ァ……」


ガクーーーーンンンン…


高橋の全身の力が抜ける。完全に落ちたのだ…。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


藤本は気を失った高橋を抱え上げ、廊下の隅に移動させそっと下ろす。

「そういや…結局、コイツってほとんどノーダメージじゃねーの!?」

「ooooiiiiiiii…ミキティ!!ホントに勝っちまったよォォッ!!」

小川がハシャギながら駆け寄る。

「よぉ!舎弟」
「誰が舎弟ヤねんッ!!」
「演劇部では強いやつが一番なんだよ。……どんな演劇部だよと言いてーが、
 正直、サボり魔のあたしがここで認められるには、勝つしかねーもんな」

藤本は真顔でジッと小川を見つめる。

「ナンだヨ、ミキティ…照れるじゃネーか…oi」
「麻琴…マコ、おめぇ寺田についてどれだけ知ってんだ?」
「はぁ…?ナンだィいきなり!?」
「おめぇ演劇部調べ回ってんだろ?なぁ…演劇部ってナンなんだ?」
「いや…ワタシも正直…まだ良くワカランのだけド…」
「そうか…何か分かったらあたしに教えろよ。
 時間を戻せる…過去を取り戻せるのはあたししかいないんだ」
「oioi…いつになく真面目じゃないかィ?」

藤本は遠い目をする。それはまるでずっと未来を見ているかの様だ。

「演劇部で何か起きるぜ…いや、もう起きてるのかもな」
「ナンだヨ…もしかして『体験』してるのかィ?」
「違うけど…予感だよ。どう考えたってこの部普通じゃねーだろーがよ?」
「そうだナ…」
「そのうち……とんでもない事が起こるぜ…」

得体の知れない不安が藤本の脳内をグルグルと巡っていた…。



TO BE CONTINUED
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