銀色の永遠 〜無人島へ行こう!〜


「ありがとうございました〜!」
「うむ」

ペットショップを出て、買ったばかりの大量のヒマワリの種を見て微笑む。


ニイイイイイイイィィィィィィィィ…


ちょっとばかり怪しい笑顔だ。

新垣里沙は毎日が忙しい…。
朝からハムスターの『ビビちゃん』の世話に部屋&庭の植物達の手入れ。
家を出ると近くのコンビニでパンを買い、通学途中にあるぶどうヶ丘公園へ行く。
そこには小さなオリがあり、中の小動物達にパンをやる(本当はエサ遣り禁止)。

学校へ着くと真っ先に花壇へと行き、そこでまた植物達の手入れを始める。
彼女は園芸部員では無い。演劇部員である。教室に入ればまた然りである。
演劇部の部室にもいくつかの植木鉢が置いてあり、全て彼女が管理している。
まだ何も生えていない鉢もあるが、
いつか大きく育つことを期待しながら、日々丹念に世話をしている。

家に帰ったらまたビビちゃんと植物達の手入れをしてやる。
とにかく新垣里沙は毎日が忙しいのだ。

「何かを育てるという事は、自分を育てるという事にも通じるのだ」


ババババアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!


学校からの帰り道、いつも通り公園の中を歩いて行く。決して近道などでは無い。
こうして毎日動物達の営み、植物達の成長、季節の移り変りを眺めるのだ。
夜には恨みを持って死んだ女の幽霊が出るという噂もあるが、日中は平和そのもの。
公園の池の前に来る。自然公園であるので結構な大きさがある。
この池は特別何か楽しむものがある訳でも無く、定期的に手入れをされる程度で、
辺りに点々とベンチはあるが、普段からあまり人気は感じない場所だ。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


歩きながら横目で池をチラリと見ると何かいつもと違う。立ち止まり良く見てみる。

(むう…あれは何なのだ?)

池のちょうど中央辺りに何かが浮いている。
こんもりと山の様に膨らんでいて、全体的に草が伸びて…島の様にも見える。

「今朝まではこんなものは無かったのだ。奇妙だニィ…?」


ガササッ!!


「むむッ…何かいるのだ。動物だろうか?」

ビーバーが小枝等でダムを作るというのは知っているが…?

「まさかそんなものはいるはず無いのだ…。不思議なのだ?
 気になるので調べてみるのだ。飽くなき探究心が人を成長させるのだ」


ズシュゥゥゥゥン!!……バスッ!!
ググググググググググググンンンンンンンンンンッ!!!!!!!!


新垣のスタンド「ラブ・シード」で地面を殴る。
木は池の小島に向かって横にグングン伸びて行く。その先端に新垣は立っている。

「楽ちんなのだ」

小島の前まで到達するが、たったの5、6畳程の大きさの小さな島だ。

「むむ…何もいないな…身を隠す場所すら無い…気のせいだったか…?
 …しかし…これは…人が乗っても大丈夫なのだろうか?」

興味次いでではあるが、浮島である事を考慮し片足を乗せ力を入れてみる。


ググッ!!


沈まない。どうやら地盤はしっかりしているらしい。
しかし、それだけになおさら疑問は深まる。なぜいつの間に?
両足を地に降ろす。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「な……何なのだこれはッ!?!?!?!?!?!?!?!?」


ザザーン……ザザーン……ザザーン……


左右に長く延びる砂浜に波が幾度も打ち寄せている。
わずかに草の生える平地もあるが、ほとんどは鬱蒼と茂る森林と言っても良い。
その木々達が前方にそびえ立つ山をすっぽり覆い尽くしている。相当な大きさだ。

 (……何かヤバイのだッ!?)

慌てて振り返る。

「こ……これは……………!?!?」

眼前には、ただ荒々しくうねる大海原が遥か彼方まで広がっていた……。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


足を踏み入れた途端に変わる景色…。

「むう…これはスタンド攻撃に違いないのだ。相手は誰か…?」

砂浜から辺りを見回しながら平地部分まで歩く。

「それと…一体どこに?」

この手のスタンドで遠隔操作は有り得ない。
恐らくスタンド使い自身もこの島に潜んでいるはずだ。
神経を尖らせながらゆっくりと歩いて行く。

「…………」


………
……



カサ


ドッシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンンッ!!!!!!!!


一瞬にしてラブ・シードの蔓が森林の草陰に延びてゆく。
そして何モノかを絡ませた状態で戻ってくる。

「うわあァァーッ!!」
「捕獲なのだ」


ドサァッ!!


「おお、いででででッ……!!」

蔓で手足を縛った状態のまま横倒しにする。男だ。と言うより…おじさん!?

「な…何するだぁ…いでで…」
「貴様は何者なのだ。早くスタンドを解除するのだ」
「スタ…何だぁ…そらぁ?」
「とぼけるな。貴様こっちの様子をうかがっていたではないか」
「そらぁいきなりこんなトコ迷い込んで、訳分からんモンが来たら警戒するだよ。
 …それより何だぁ!?手と足がくっ付いて動かねぇどッ!!」
「むむ!?!?…それはどういう意味だ?貴様にはラブ・シードの蔓が見えないのか?」
「先からおめぇの言ってる事はよう分からん。おめぇ、おらを殺す気かぁ?」


シュルシュルシュル…


ラブ・シードを解除する。

「嘘は付いていないようだな。目を見れば分かるのだ」

(……しかしそれでは誰が?)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


…………


「おら遠見塚正宗っていうだ」

どうやらこのおじさん(マサさんと呼ぶ事にした)はいわゆるホームレスってやつで、
普段は公園で寝泊りしているのだが、いつの間にかこの世界に迷い込んでいたらしい。
「おら昨日の夜、誰だかに襲われただよ。やっとこ池んトコまで逃げてきて、
 木の陰で隠れてたら寝ちまっただ。そんで目が覚めたっけこれだぁ。訳分かんね」
あらましを一通り話すととマサさんはそのまま地べたに寝転んだ。

「あの公園で寝泊りとは勇気があるのだ。あそこは幽霊が出ると聞くぞ」
「おらそういうモンは良く分からん。人間よか怖ぇモンなんか無ぇ」
「うむ、同意。ところで貴様…マサさんはこれからどうするつもりなのだ?」
「どうするったって…おらにはどうする事も出来ねぇだよ」
「あきらめの早い奴なのだ…ならば私が考えよう」

(むむむ…これは幻覚を見せられているのか?本体はどこにいるのだろう?
 しかし、島をまるまる再現しさらに普通の人間でも可視できるなど、相当のパワーなのだ。
 船を再現するスタンドなら演劇部の資料で見た事がある。恐らく攻撃範囲は狭い!!)

「ならばッ!!ルアァァヴゥゥッ・シイィィィィィドッ!!!!」


バッコォォーンッ!!グングングングングングングングングンッ!!!!!!!!


瞬く間に数本の大木が伸びる!伸びる!伸びる!伸びる!伸びる!伸びる!!!!
一定に成長すると自ら根元から折れ!枝葉は切断され!整列され!蔓で縛られ!
そして……海に浮かべられる!イカダの完成だ!!!!


ジャジャァァァァーーンッ!!!!


スタッ!


イカダに乗り込む。

(これで攻撃範囲の外へ出れば解決なのだ。せめてその距離だけでも確かめなければ……)

イカダに乗りチラとマサさんを見る。寝てはいないようだが横になって頭を抱えている。

(スタンドが見えない者を乗せるのはアレか…まあ後で助けに行けば良い。行くのだ)

遥か大海原へと乗り出した。


ザザーン……ザザーン……ザザーン……


島から次第に遠ざかる。
やや荒れる海上。陸地からの追い風に乗ってオールを漕ぎながら進んで行く。

「なかなかシンドイなこれは…」

そしてさらに進んで行く…。


ザザーン……ザザーン……ザザーン……


だいぶ進んだ様にも感じるが、一向に攻撃範囲の端に行き着く気配は無い。
遠くまで水平線が広がっている様に見えるが、どこかでその壁にぶつかるはずだ。

ザザーン……ザザーン……ザザーン……

「まだなのか…?そんなはずは無いのだッ!?」

(まさか…私は…このまま出られないのか…?)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「ぉぉーぃ!!ぉぉーぃ!!…」

後ろから声が聞こえるので振り向く。
マサさんがこっちに手を振りながら叫んでいる。

(何を騒いでいる?自分を置いて勝手に行ってしまった事に怒っているのか?
 それとも水上を歩いている様にしか見えない私に驚いているのか?)

「そんな事より…この状況はマズい」

スタンドの限界が見えない以上、このまま漂流し続けるのは死につながる。

「も…戻らなければッ!!」

ポジションを変えてオールを反対側へ漕ぐ。
しかし、引き潮に加え、強い向かい風によってまるでイカダは進まない。
それどかろかむしろ陸地は離れてゆくばかりだ。

「こ…これでは……」
「ぉ……!!………!!」

もはやマサさんの姿は肉眼で確認出来なくなりつつある。

「…ちと軽率だったか…これは非常にマズイのだ」

マサさんの姿が完全に見えなくなった。島が下の方から水平線に消えて行く……。

「…あ…ああ……」


ザザーン……ザザーン……ザザーン……ザザーン……ザザーン……ザザーン……


もはや島も山の頂しか見えなくなっている。その内それも水平線に沈むだろう。しかし…


ニイイィィィィ…


「随分と離れてしまったな……ちと焦ったが、こういう時にこそ人の真価が問われるのだ。
 落ち着けば何て事は無い。ノープロブレムなのだッ!!」


ガコンッ!!グングングングン…!!


イカダの中央部分の木から枝を伸ばす。それが大きく伸び、枝が広がり、沢山の葉を付ける。
その葉が1枚の布を織る様に重なってゆく…。

「帆を作ったッ!!帆船てのは海の上で向かい風を帆に受けるほど速くなるのだ。
 『向かい風』なのだ!…さあ、風を受け進んで行くが良い」


ザザーン……ザザーン……ザザーン……


数十分後、新垣は再び島へ上陸した。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


マサさんが慌てたように駆け寄って来る。

「お、おい、ネェちゃん、大丈夫か!?」
「ああ、少々無茶をし過ぎたが、まあ大丈夫ではある」
「おら起きたらネェちゃんが海のずっと向こういるもんだから不安になっただよ。
 イカダさ乗って器用なもんだぁ。けんど、悪いこたぁ言わねぇ。海は危険だ」
「そうだな、別の脱出方法を考えねば…」
「やっぱ地に足着けねばなんねど」
「ああ……?」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「…マサさん今何と言った?」
「え、ええッ!?そんなの覚えてねぇだよ」
「イカダと言ったなッ!!」
「おお、その事か?言っただよ。ネェちゃんイカダ乗るの上手いもんだなぁ…」
「やはりッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「マサさんがスタンド使いなのだ。間違い無いのだ」


ドッギャァァァァァァァァァァァンッ!!!!


マサさんがスタンド使いだと分かったのは良いが、肝心の本人の自覚が足りない。
そもそも無意識の内にこの島のスタンドを発動していたのだ。

「…やはり昨日の出来事が原因では無いのか?」
「分かんねぇだ。おらだた逃げるのに夢中で…」
「弓矢には見覚えが無いのか?」
「弓矢だか?何もまあそんな古臭いもん持ち歩く奴ぁいるかぁ?」
「そうか…まあ良い…」

(……ホントは良くないのだ。なんて頼りないオヤジなのだ)

「しかし、自覚できたのであれば、いずれコントロールもできるだろう。
 そうすれば自分の意思でスタンドは消せる。この島ともおさらばなのだ」
「そうかぁ…おらがなぁ…不思議なもんだぁ…」
「感心している場合じゃ無い。さっさと消すのだ」
「そんな事言われてもおら分かんねぇだ。そもそもそのスタンドってヤツも何だか…」

(ダメだこりゃなのだ……)

「よし、スタンドを上手く操作するには思い入れも必要なのだ。名前を付けてやろう」
「名前だか?おらカッコえぇの期待するだよ」
「うむ」

腕を組みながら周囲を見渡し、何かそれらしい特徴を探す。そして、前方を指差す。

「裏側は知らんが、おそらくこの島のほとんどは山なのだ。あの山を見るのだ。
 ちょうど左右に膨らんで双子山の様になっているのだ。そこで…」
「おっぱい山だか?」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「うぇっ!?ちょ、ちょちょっと、な、何言ってるんですかー!?そんなはしたない。
 ム、ムリムリ、もうホントダメダメッ、そんなコト言ったらダメですよー!!」

まるで見えない何かを掻き消すかの様に、慌てて両手をバタバタと振り回している。

「おいネェちゃん、何だかしゃべり方が変わってきてるだよ」
「……下ネタは駄目なのだ」
「下ネタってあんたぁ…たかがおっぱいぐらい…」
「うぇっうぇっ!?ちょ、やめれ、あーあー、聞こえませんよー、あー聞こえません!!」

今度は両耳を塞ぎながら首を思いっきり振っている。

「…ネェちゃん…おもしれぇヤツだなぁ…」
「……からかうのはやめるのだ」
「…………」


気を取り直して…


「山の形が瓢箪に似てるのだ。小さい頃ばばちゃんに聞かせてもらった話を思い出したのだ。
 確か…そうだ!!それで決まりなのだ!!
 スタンド名は『ひょっこりひょうたん島』なのだッ!!!!!!」


バアアアアァァァァーーーーンンンンッ!!!!!!


「…もっとカッコえぇのは無ぇだか?」
「格好良いのだ」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ラブ・シードで小屋を急造し、そこで休む事にする。
ただ丸太を四角く組んでドアも窓も無いただの吹き抜けだが、それでも居心地は悪くない。

「ちと暗いな」


ドサァッ!!


マサさんが自分の荷物を床に置いた。言ってみれば全財産なのだろうか?

「マサさんはどこの人なのだ?家は無いのか?」
「うんにゃ、家はあるだよ…おら、S市からもっと山の方の出身だ」
「何だそうなのか。ならばなぜそこへ帰らないのだ?」
「帰れん。おら家族に会わす顔が無ぇだよ」

この辺りでは働き口の無いマサさんは毎年首都圏へと出稼ぎに行っているらしい。
ところが今年は、騙され手持ちの財産を失い、勤め先もクビになり、住処も追われ、
まあとにかく散々な目にあったらしい。
こうして地元まで帰ったのは良いが、やはり意気揚々として出て行った手前、
いまさらどんな顔して帰れるのかと、これからの事を悩んでいるらしい。

「簡単なのだ。帰れば良いのだ」
「そら簡単過ぎるべ」
「いずれにせよ、今の状況では帰りたがっている私まで帰れないのだ」
「そら困るべなぁ…」

(マサさんが一番困るのだ……)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「ネェちゃん、将棋って知ってっか?」
「はぁ?」

(突然、何を言い出すのだ?)

「いやぁ、暇だからよ。知ってんならやんねかと思ってよぉ」

リュックの中からマグネット式のポケット将棋を取り出した。

「暇?…暇じゃ無いのだ。早くスタンド消すのだ。さっさと頭を忙しくするのだッ!!」
「まあまあ、慌てたって何も良いこたぁ無ぇ。リラックスだぁ」

(ここまで来るともうある意味大物なのだ。)


カチャカチャ…


マサさんは一人勝手に駒を並べ、それから適当に駒を動かしている。
説明をしてくれている様だ。

「将棋っつーのはよぉ、駒を使って相手の王様さ追い詰めるゲームだぁ。
 あっちゃこっちゃ動かしてよ、身動き出来なくさすんだぁ。
 それさぁ詰んだって言うだよ。知ってるかぁ?」
「それくらいは知ってるのだ」


(そういや、高橋愛ちゃんが『詰んだ』とか言っているな。実は将棋ファンなのか?)


「降参する時は投了って言うだよ。じゃやるべ」
「マサさん悪いがさすがにそんな暇は無いのだ。そんな事している間に日が暮れて…」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


慌てて外へ飛び出し、周囲を見渡す。
空に太陽が登っている……いや沈んでいる。明らかに先よりも位置が低い。

「このスタンドは日も暮れるのかッ!?」

(後数時間…暗くなっては何もできない。明るい内に何とかしなければ……)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


小屋の入り口で問いかける。

「マサさん何か明かりになる物はあるか?それと火ッ!!水ッ!!食料ッ!!」
「んだぁ?…少しずつならあるなぁ。ホームレスは町も島も大して変わらん」
「水もあるのか?」
「ん…水はさすがに無ぇなあ…」

(それが問題なのだ。人の暮らす場所との違いは正にそれだ。
 『簡単に飲み水が手に入れられるか?』だ)

再び駆け出し、海岸で水をすくい舐めてみる。

「しょっぱい……しかも、とてもスタンドとは思えないリアルさがある」

(スタンドの水でも何とか暮らせるのか……?)

「……マサさん、今から水を調達しに行くのだ」
「今からかぁ?」
「日のある今じゃないと駄目なのだ」

(……これはマサさんに島の事を理解してもらう為でもあるのだ)

「さて、ひょうたん島の探検なのだッ!!」


ジャッジャン、ジャジャッジャジャッジャン、ジャジャジャジャーン…♪


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ガサッガサッガサッガサッ…


草を掻き分けながら歩いてゆく。
まず海岸線から川の河口を見つけ、そこから川沿いに上って行く

「やはり上流でないとキレイな水は採れないのだ」
「んだなぁ」

さすが山育ちだけあるのか、マサさんは険しい道も割りと平気そうに歩いて行く。
むしろこっちの息が上がってきた。

「懐かしいなぁ。おらちっけぇ時よく山で遊んだなぁ。川で魚釣ったりしてよぉ」

このはしゃぎ様は本当に子供みたいだ。

「ほらちょうどこんな景色だったど!あの岩を登ると大きめの沢があってよぉ、
 そこで魚釣りしたんだぁ。水もキレイでよぉ……おら達の秘密の場所だべ」

前方を指差しながら、まるで思い出を再現するかの様に同じ道筋を辿り、岩も登ってみる。


サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ…


森が開けたと思うと、はたしてそこに沢があった…。
大きく広がった水面は夕日を反射しキラキラと揺れている。

「おんやまぁ…あの場所とまるで一緒だべ。不思議なもんだぁ」

底が見通せる程の透明な水の中では、川魚達が優雅に泳いでいる。

「なるほど…」
「どうだぁ、ネェちゃんも感心するほどすげぇキレイさ所だろ」
「そうではない……恐らく、この島はマサさんの思い出の再現なのだ」
「おらのか?」
「そうだ。マサさんの故郷での記憶がこの島を作り上げているのだ。
 どんなに年月を経ても、常に心には故郷の思い出が残っていたのだ。
 色々辛い事もあっただろうが、故郷が心の支えになってたのだな…。
 大丈夫。元々思い入れのある場所なのだ。きっと上手く操作出来る!!」
「……ネェちゃん…おらグッと来ただよ…」


サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ…


「むう…冷たくて美味いのだ」

岩場の方の湧水を両手ですくい取り飲んでみる。

(……本当にスタンドなのかこれは?やはり本物と区別が付かないのだ)

その圧倒的な再現力に驚いてしまう。

「うわぁッ!!」

今度は声に驚く。
マサさんが手足をバタつかせながら奇声を上げている。

「な…何なのだ?」

マサさんは必死にズボンを両手で叩いている。よく見ると…数匹のアリが足に集っている。

(たかがアリくらいで人騒がせな……)

だがその数はだんだん増えてきており、やがて足を埋め尽くす程の数となる。

(さすがにこれは異常なのだ。もしや…?)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


ズルーッ!!…ドシャァッ!!


マサさんはついに足をとられて転倒する。
アリの大群はマサさんをそのままキャッチし運び去ろうとする。

「うわッ!!背中が気持ち悪りぃどッ!!」


ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ…


「むう…このままではマサさんが連れ去られてしまうのだ。ラブ・シードッ!!」


シュルシュルシュルシュル……ガシッ!!


ラブ・シードの蔓でマサさんの足を攫み、そのまま引っ張る。
まるでカツオの一本釣りの如くにマサさんの体がこっちまで跳ねて来る。

「うおわッ!!いでで…」
「あのアリ…スタンド?……マサさんのスタンドとは無関係か…?」
「な…あれは何だべ…??」
「恐らく、私達の他にも誰かがいる…」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「ラブ・プリズナー(愛の虜)ッ!!」


ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ…


新垣達を中心に蔦の網をまるで蜘蛛の巣の様に八方に広げてゆく。

「この網の結界内にいる者なら必ず掛かるはずなのだ。はたして…」


ピクン!


「キャッチ(捕捉)ッ!!」

一気に引っ張り上げる。周囲に広がっていた網も一方に集中して捕捉の力を強める。

「もう逃げられないのだッ!!」


ズルズルズルズル…


確かに手ごたえはあった。
しかし、網には何も掛かってはおらず、何かに食い破られた様な跡だけが残っていた。

「むむむ…逃げられたか……しかし一体何者?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「うわぁぁぁーんッ!!」

突然の叫び声。…というよりも泣き声。マサさんのものだ。

「突然どうしたのだ?」

マサさんは泣きながらうったえる。

「おら街で散々な目にあってやっとこ故郷に帰ったども、家族に会わす顔も無く、
 ただ日がな公園でブラブラしてただけだぁ。
 んで、やっぱここでもこんな若ぇネェちゃんに世話になりっぱなしだぁ。
 でけぇ図体したおらが何してるべと思うと、何だか情けなくてよぉ…うぅっ!」
「泣くな。大の大人が」
「だどもよぉ…えぐえぐ…」
「こんな所で泣き言を言っている場合では無い。もう辺りは暗くなってきてるのだ」

空を見上げると、暗く深い紺色をした空に黒い雲が掛かってきている。


ポツ…ポツ…ポツ…


「……雨か?」

次第に雨脚が強くなり、否が応でも視界を遮ってゆく。辺りはさらに暗くなる。

「これはマズイな。水は確保できたのだから急いで帰ろう…さあ、マサさん」
「…ん…んだ」

結局、マサさんは帰り道もずっと泣き通しだった。


           ………そして夜が訪れた………


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ザーザーザーザーザーザーザーザー…


「雨の内は…恐らくはあのアリのスタンドも襲っては来ないだろう」

あの小さな形状では雨の流れには抵抗できないだろうという理由からそう判断したのだ。
小屋の中、燃える上がる焚き火とまだ嗚咽の止まないマサさんを交互にを眺めながら、
未だ得たいの知れない敵への対応策で頭を巡らせていた。

しかし……

「おい、いつまでそうして泣いているのだ?」
「おらはホント弱ぇ男だぁ…一人じゃ何もできねぇ…」
「何を言う?ホームレスも楽では無いだろう。もっと自分の意思をしっかり持つのだ」
「おらこれからどうしたら良いのか…このままのたれ死ぬんだべか…?」


バアアンッ!!!!


「ふざけるなッ!!それでは私も死ぬ事になるではないかッ!!
 自身の能力に囚われて死ぬなど笑い話にもならないのだッ!!」

一瞬、頭に血が上った新垣だったが、相手の弱気も理解出来ない事も無い。
改めて落ち着いた口調で語りかける。

「……良いか?マサさんは本当は強い人なのだぞ」
「………おらがか?」


ザーザーザーザーザーザーザーザー…


「そうだ。スタンドのパワーというのはその人の精神力に比例するのだ。
 つまりこれだけの島を作り出すマサさんの精神力はとてつもないはずなのだ。
 その源は何だ?故郷の思い出か?家族か?考えてみるのだ」
「おらの力の源…」
ようやくマサさんは泣くのを止めた。そしてじっくり考え込む…。


ポツ…ポツ…ポツ…


(雨が止んできたか…そうかッ!!)

「この雨もまたスタンド!!天候はマサさんの心の動きを表しているのだ!!
 マサさんが悲しめば雨が降り、落ち着けば晴れる!!
 良いぞッ!!少しづつだがコントロールできているのだッ!!」

新垣は普段植物や動物達に接するのと同様に優しく語り掛ける。

「良いか?まずはイメージするのだ。自分が思い通りにスタンドを操っているのを!!
 大切なのは『認識』する事なのだ。そしてそれを当たり前に感じるのだ!!
 スタンドを操るという事は、できて当然と思う精神力なのだッ!!!!」
「当然だべか?」
「コーラを飲んだらゲップが出るように、カキ氷を早食いしたら頭がキーンとなるように、
 それを当然のごとく思うのだ!!」
「風が吹いたら桶屋が儲かるようにだべか?」
「そうなのだッ(…本当は違うがまあ大体おっけーなのだ)!!
 そうやって『認識』しさらに『当然』にするのだ!!」
「おら…やれるだべか?」
「うむ…マサさんは本当は強いのだから」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


すると突然…!!


ドガガガガァァァァァァァァンンッ!!!!


「うわあッ!!」
「む…!?」

突然の壁の衝撃音と震動!!慌てて外を窺うと闇の向こうから何か人影が見える…。

「雨が止んで、敵も動いてきたか…」
「またおらを攫いに来ただか…?」
「かもしれぬ。マサさんはここで待っているのだ。私が行ってくる」
「ネェちゃん一人じゃ危険だべ?」
「大丈夫。私は戦いには慣れている。マサさんは一人で将棋でも指してろ」

マサさんは恐る恐る訊ねる。

「ネェちゃん…なぜ他人のおらの事を助けてくれるんだかッ!?」


ニィィ…


「さあな…そこんとこだが私にもようわからん」


バアアアアァァァァーーーーンンンンッ!!!!


新垣里沙は仲間内から冗談交じりながらも『血も涙も無い女』と呼ばれる事がある…。

普段は生き物と自然を愛し、とても穏やかに日々を過ごし、
アカデミック(マニアック?)で落ち着いた印象の持たれる彼女だが、
過去の戦闘で見られる様な、非情で容赦のないやり方をしばしば批判される。
ケンカの相手を必要以上にブチのめし、病院送りにした者も数知れず…。
仲間を想うがゆえなのだが、キレると常軌を逸するのだ。人前で涙を見せる事もほとんど無い。
冷静と情熱が入り混じる…それが演劇部の『ガキさん』コト新垣里沙なのである。

「さすがに演劇部は一筋縄ではいかない連中ばかりだが、それだけに面白い。
 敵も多く、本来の活動より戦ってばかりの印象の方が強いが…それもまあ悪く無い。
 だがこれだけは断言出来る………確かに私は演劇部を愛している…」

まるで独り言の様に語り、入り口の方へと向かう。

「戦いは…辛くは無ぇのか?」

マサさんの一言に振り返る。

「人間生きていればな…」

そのまま話を続ける。

「苦しい事もあるだろう。悲しい事もあるだろう。
 だが私達はくじける事は決して無い。
 泣く事よりも笑顔でいる方が前進できるからだ」
「…………」
「行くのだ…」

新垣は出て行った。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ザッ…


「ん?さっきからちょろちょろしてんのはアンタか?何だ…女かよ。
 でさ、あのおっさんはどうした?そこにいるよね?」

外に立つ男は小屋を指差した。見たの感じでは20歳前後で身長は170少しだろうか?
頭髪を真っ赤に染めて、頂上部分だけ黒い髪がわずかに伸びてきている。
彼の足元には無数のアリ達がうごめいている。

「アンタ…引っ込んでなよ。俺、おっさんに用があるんだから」
「お前の様な奴が、マサさんに何の用事があるのだ?」
「あ?あいつは俺達に借金があるんだよ。勝手に逃げられちゃ困るんだわ。
 借りたモンは返すのが筋ってもんだろうがよ…違う?」
「まあそうだな」
「やっぱアリの追跡能力はすげえよ!!ちと時間は掛かるが確実に相手を見つけ出す。
 そしたらよ…なんとあのおっさんも矢に射抜かれてやんの、俺の目の前で。
 ……しっかしまあ、何なんだろうなあの紙切れ?」
「紙切れ?」
「ああ、何か写真だか絵だか分かんねぇけど、そっから矢が飛び出してよ…」

(……何だ?先生では無いのか?あの矢は他にもあるというのか?)

「ま、そんな事はどうでもイイんだわ…」
「なるほど…お前の話は大体理解した」
「だろ?じゃ、さっさとおっさん出しなよ」
「だが断る」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「な…何ぃ…?」
「借金の話は本当だろうが、どうせ人の良いマサさんを騙したのだろう?
 …目を見れば分かる。お前は悪い奴だ」
「ぎぎぎぎ…アンタ後悔するぜ。良いのか?もっとよぅく考えてみなよ…」
「後悔は後でするものなのだ。今考えても仕方ないのだ」
「そうかよ……だったら…アンタから先にぶっ潰してやるよッ!!」


ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ…


「軍隊アリって知ってるかい?あのアフリカとか南アメリカにいるヤツよ。
 常に移動しててよ、遭遇した生物の全てがヤツ等のエサになるんだぜ。こえーだろ?
 …コイツ等は俺の軍隊アリだ。アンタを食い尽くしてやろうか?」


ザザアァァァァーッッ!!!!!!


黒に赤み掛かったアリの群れがジリジリと寄せてくる。
夜という事もあって非常に目視がし難い。

「むむ…沢で現れたヤツとはやや違うような!?」
「コイツ等は俺の任意で種類を変えられる。先のは偵察・捕獲用のニグラ(黒)だ。
 このルベル(赤)はかなり凶暴だぜッ!!食われなッ!!」


ゾザジズジゾザゼジズゼザゾジゼズザゾザジズジゼゾジザゼズゼズゾザズゼザジゼ
ズゾゼザゼジゼザズジゾゼズザゾジゼジズザゾゼゾザゼズゾザズゼジズゾズゾゼジ
ゼズジズジザゾズザゾゼジザズゼザジザゼゾザジズゼザゾザズジゾザジズゾザジ…


ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!


ラブ・シード本体の射程距離は短いが、植物達は数十メートルは伸びる。
ここはアリ達の未知の攻撃に備えて距離を置く。

「むう…ここまで来られたらマズいのだ。あくまで自分の距離なのだ」

ラブ・シードの木々でアリ達を薙ぎ払うが、そんなモノお構い無しに群れは突進してゆく。

「むう…アリは好きな生き物の1つ。ちと辛いがスタンドと割り切るか…」


ドガガアアアアァァァァァァァァーーンンッ!!!!


地中から巨大で不気味な植物が生えてくる。
大きな空洞に牙…その姿はまるで緑の口である。

「食虫植物ッ!!反対にお前達が食われるのだッ!!」


ガシン!!ガシン!!ガシン!!ガシン!!…


植物達がまるで腹を空かせていたかの様にアリ達を貪り食らってゆく。
しかしなにしろ大群だ。それだけではこの突進は止まらない。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「無駄なんだってアンタ…それくらいで怯むアリ達じゃないぜ。
 それに数十…いや数百アリ達をやったくらいじゃ俺にはダメージは無い」

男は余裕の薄ら笑いを浮かべる。

「だが私は攻撃を止めるつもりは無い!!ビビちゃんごはんごめんッ!!」

ポケットから何かの粒をバラバラと空中に放り投げる……ヒマワリの種だ。
その種から芽が出て、さらに加速を付けてヒマワリは空中で成長してゆく。
完全に成長し沢山の種を付けたヒマワリ達はグルっとその表面をアリ達に向ける。

「くらえッ!!サンフラワー・ガトリングシャワーッ!!!!!!!!」


ババババババババババババババババババババッッッッッッッッ!!!!!!!!


スタンドと同化したヒマワリの中央部分にある種が勢い良く一気に噴出される。


ビスビスビスビスビスビスビスビスビスビスッ!!!!!!!!


アリ達にヒットし潰してゆく。さらに種をばら撒きヒマワリを成長させる。

「例えそれが地味で気の遠くなる様な作業であっても、決して退かないッ!!」

「ん…?」

男の小指にわずかに切り傷が付いて血が流れている。

「本気であのチンケな攻撃で俺を倒すつもりらしいな…」

あれだけの攻撃にも関わらず、アリ達の突進の勢いはまるで衰えを感じない。

「まったく無駄って言ってるのに…ねえ、もう逃げた方が良いんじゃないの?」


ニィィィィィィィィ…


「やれやれなのだ。逃げる必要は無い…お前があと一歩進むうちに倒すのだ」
「は!?倒す!?この俺をか??あと一歩で??アンタ馬鹿じゃないの??」
「ならば一歩進んでみるが良い」
「あ?そんなもん、何歩だろうがいくらでも……!!!!!!!!」


ググッ…グググッ……


「馬鹿なッ!!歩く事が…できないッ!!」

良く見ると足元から木…いや根が生えてきて足に絡み付いている。
それは完全に男の足を捕らえ、その場から動く事ができない。

「教えてやろう。植物は何も天に伸びるだけでは無いのだ」
「!!!!」
「終わりだ…必殺ッ!!まゆげビイィィィィィィムッ!!!!!!!!」


ドリュリュリュリュリュリュリュリュリュウウウウウンッ!!!!!!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!


「ぐっはああアァァァァァァァァッ!!!!」


ドッギャァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!!


モロに攻撃を受け宙に舞う体。そして錐揉みしながら地面へと落ちる。


ドガァッ!!!!


「がはッ…!!ハァハァ……」

相当のダメージだが、それでも何とか立ち上がろうとする。

「う…ううッ…!!」

それは……新垣の方であった!!!!

「ば…ばかな…そんなはずは…!?」
「あはははははははッ!!!!ほら、良く見なよ」

先程まで自分が立っていた場所を見る。
その地面には直径10センチ程の穴が開いていて、周りにはアリ達がうろついている。
さらにその黒いアリ達が集合し、やがて人の腕を形成する。そしてこっちを指差す。

「そんじゃ俺も教えてやろうか。アリも地中を進むのは得意なんだぜぇ〜!!」


バアアアアァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!


「ついでにコイツも外させてもらうぜ。アルバ(白)!!」

男の足元にこれまでとはまた別のアリが現れる。白アリだ。
白アリ達は素早く木の根を食い破った。
恐らく、沢でラブ・プリズナーを食い破ったのもこの白アリなのだろう。

「俺はよ…この黒白赤の3種のアリを操ってんの。で、それぞれ役割が違うんだけど、
 それぞれ割合を変えながら使い分けてるってワケよ。分かる?
 『アビー・アド・フォルミーカム(蟻の元へ去れ)』ッ!!こいつらの名前だッ!!」

男はアリ達の形成する腕と同じ様にこっちを指差す。

「どうよ?ニグラ(黒)達のパンチの味は?」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


穴からアリで形成された腕が伸びて肩が現れる。さらに大量のアリが出て来る。
顔が出る。そしてもう一方の腕、胸、腹、腰と続き、足が伸びて来る。
そして、ついには10センチの穴から見事な真っ黒な人物が現れ出た。

「俺はこの人型のヤツを特別に『フォルミー』って呼んでるんだ。
 こいつはパワーがあってさ、こういう風に合体しちゃうとさらに強くなるワケ。
 だけど、その代わりに移動できる距離が短くなっちゃうのが欠点だな」

声が近い。新垣がアリ達に気を取られる間に、男はもうすぐ側まで来ていた…。

「まあ、ここまで近付けば何でもできるわッ!!」
「くぅッ!!スプラッシュ・ビーンズ(鬼は外)ッ!!!!!!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!!!


素早く男の前に白い壁が立ちはだかる。


バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!!!


豆粒弾は白アリで形成された壁に当たった瞬間に食い尽くされてしまう。

「ぬるいんだよ、アンタの攻撃は。もう諦めなよ」

黒アリの人型スタンドが構える。

「蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 アリィィィィィィィィーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドガアアアアアアァァァァァァーーーーーーーンッ!!!!!!!!


新垣は再びボロキレの様に宙へと舞い上がった。


ドッシャアアアアアアアアアアアァァァァンンンン!!!!!!!!


体が地面に叩き付けられる。

「ぐぐッ…」

ラッシュのダメージは大きい。それでも立ち上がろうと四つん這いで踏ん張る。

「これでも手加減してやったんだぜ。何故だか分かる?アンタが女だからさ。
 アンタ、可愛い顔してさ…もう止めたら?なんなら俺の女にならない?」

そう言いながら、人差し指と中指、薬指と小指をそれぞれピタリと合わせた、
4本指のピースサインの様なものこっちに向けた。

「…ふ…ふざけるな……クソが」
「あ、そ。じゃあ死ね。一片のカスも残さずにさ」

人型スタンドがバラけて、今後は赤く変化する。

「ジ・エンドだね」
「………ッ!!」

もはや観念するしかなかった…その時である…


サアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァ…


雨上がりで曇り掛かった空が、すっと雲が晴れやがて満月が顔を出した。
月明かりによってボロボロの新垣の体が浮き彫りにされる。地面には血が滴っている。

(まだだ…まだ負けていない……)

ふと目の前に人影が現れる。敵かと警戒し身構えたがすぐに様子の違いに気付く。
そして、厚ぼったい皺だらけの手が差し伸べられその小さな体を抱え上げる。

「…ま…マサさん……」
「もう良いだ。しゃべるでね」
「私は…まだ大丈夫だ……」
「バカこくでね。ネェちゃんは向こうで休んでろ」

マサさんはそっと新垣の体を木陰に下ろす。

「おらが戦う」


ジャジャァァァァァァァァンンンンンッ!!!!!!!!


マサさんが男の前に立つ。

「伊達さん…アンタか、公園でおらの事を襲ったのは?」
「たりめーだ。こっちも商売なんでね。
 この伊達謙から逃げられると思ってるの?」
「金は払う」
「あ?」
「こうなっちゃあ、ぐだぐだ言ってらんねぇ。もう逃げも隠れもせんど。
 ま、家族には迷惑掛けるけども、田舎の家と土地売れば何とかなるべ」
「なんだよ、随分拍子抜けだな。少しは抵抗してくれると遊べるんだけど」
「そんな事よりもっと大事な話さあるだよ」

マサさんは近くに転がっていた棒切れを拾い上げる。

「坊主…おらオメェを倒さねばなんねぇ」
「あ?坊主だぁ…?」
「坊主…オメェはおらの恩人にあんな大怪我をさせただ。しかも女子でねぇか?
 それは許しちゃぁおけん。悪い子にはお仕置きをせにゃならん」
「は?金は払う、けど俺は倒す?バッカじゃねーの?意味分かんねーよw」
「これはおらのケジメの問題だ。おらは強くなる。ネェちゃんの為!!家族の為!!」

そして2メートル弱程しかない棒切れを前方へと構える。

「坊主…覚悟しろ!!」


ドッギャァァァァァァァァァァァンッ!!!!


「だったら先にお前が食われなッ!!ルベル(赤)ッ!!!!」

伊達は手の平に赤アリ達を集めると、それをマサさんに向かって投げつけた。
てっきり地を張って来ると思っていたので、予想外の出来事に慌ててしまう。

「わわわわッ!!わッ!!わッ!!わッ!!!!」

棒切れを使って体中を叩く。まるで自分を攻撃している様にしか見えない。

「いでッ!!いでッ!!いでッ!!いでッ!!」

体中に細かい傷が沢山付いたが、大した数で無かったお陰で何とか凌いだ。

「あー、びっくりさすなぁ…」
「おっさん、腕見てみなよ」
「!!!!」

腕の内側部分にポッコリとイボの様に膨らんだ部分がある。
それは少しづつ上体の方へ移動している。その度にチクチクと痛む。

「こりゃアリだべか!?アリが腕の中に入っているどッ!!」
「油断したな。そいつはそのまま移動して、やがて心臓にたどり着く。
 そしておっさん、アンタの心臓を食い破って出てくるだろうよ」
「うおおッ!?そら大変だべッ!!」
「アリは一匹でも恐ろしいぜぇ」
「うがあァッ!!!!」
「!?!?!?!?」


ガブゥゥゥッ!!!!!!!!グチュグチュグチュグチュ……ペッ!!ぺッ!!


なんとマサさんはアリのいた部分を自分の腕もろとも食いちぎってしまった!!

「おっさん…イカレてるの?」
「命よりは安いベ?」
「だったら今度はバリバリバリ…ドッパアアアアアアアァァァァ!!って出させてもらうよ」

赤アリの大群がの前に並ぶ。

「ほらヨーイ…」
「そうはさせんどッ!!」


バアァァァッ!!ガチャンッ!!


マサさんはビンを地面に投げ付けた。ビンは割れ、中の液体が地面に広がってゆく。

「ほぅらッ!!」

さらに火の付いたマッチ棒をその液体に投げる。


ボウッ!!!!ボボボボワァッ!!!!!!!


何と地面に炎が燃え上がり、伊達とマサさんの間を隔てる。

「おらの酒だべ。ちと勿体無ぇが仕方ねぇ」

伊達はニヤリと笑う。

「おっさん知らないの?スタンドはスタンドじゃないと倒せないんだよ。
 まさかその酒はスタンドじゃないよね?無駄だよ」

(私のヒマワリはスタンドと同化したから意味があったのだ…。
 ただの火では駄目なのだ…マサさん…やはり私が……。

新垣も体は休んでいるものの、気持ちは休まらなかった。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「無駄かどうかはまだ分かんねぇ」
「じゃ、くたばって理解しな!!ドンッ!!!!」


ギギギギギギギギギギギギギギギギィィィィィィィィ!!!!!!!!


赤アリの大群が一気に突進する。そしてそのまま火の海へ突っ込む。

「ほらッ!!俺にはダメージが無いッ!!それが無駄だという証拠…」


ドガアアガガガッガッガガガッガッガガガッガガガッガガアアアアンン!!!!!!!


…………


一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。しかし、やや落ち着いて周囲を見ると…。
なんと…今まで炎があった場所には空洞があった…。
いや、正確には亀裂だ。地面が割れて大きな亀裂が走っている!!!!

「おめぇのアリンコ共は全部この裂け目に落ちちまっただよ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ガシィィィィィンンンン!!!!!


再び亀裂が閉じ、元の状態に戻る。

「うおォォッ!!!!」

伊達は左腕を抑える。それでも袖口からは幾筋もの血が流れ地面へと滴る。

「あの火はオトリだ。どうやら沢山アリンコ潰れちまったようだべなぁ?」
「おっさん…なかなかやるじゃないか…」

(……マサさん…確実にコントロールし始めているのだ)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ…


突然の地鳴りと震動。かなり大きな地震だ。

「坊主、分かるか?これはおらの怒りの地震だぁッ!!
 おめぇに対する怒りだけで無ぇ。これはおら自身に対する怒りの地震だべッ!!」


ドッガアァァァァァァァァァァァンンンンッ!!!!!!!!!!!!!!!!


何と背後では山が噴火をし始めた!!山頂から溶岩も流れ出る。

「おらは何て情けない男だと腹が立って仕方ないだ。
 いつもいつも泣き言ばかり言って、嫌な事には逃げてばかりいただ。
 だども、それも今日でサヨナラだ。おらは生まれ変わるど!!おらは強くなる!!」
「下らねぇよ、おっさん。人間そう簡単に変われるものかよ?」
「おらホントは誰も傷付けたかぁ無ぇし、自分が傷付くのも嫌だ…。
 でもよ、やっぱ生きてるとそうも言ってらんねぇってのがつくづく分かっただ。
 坊主、おらおめぇを傷付けねばなんねぇ。これからも誰かを傷付けるかもしれん。
 だから…おらも傷付くのを恐れねぇ…」

マサさんは今まで見せなかった真剣な…年季の入った男の眼差しで言う。

「おらが傷付けた人達の為、おら自身も甘んじて傷付こう」


バアアアアァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!


「ニグラ(黒)ッ!!フォルミーッ!!」

黒アリで固められた人型スタンド『フォルミー』が現れる。
しかし、これまでと違ってやや形が歪だ。先程の赤アリが潰されたせいであろう。

「もう小細工は止めだ。やっぱ基本形であるこいつで仕留めてやるッ!!」


ダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!


フォルミーがマサさんに迫って来る。

「ほりゃッ!!」


ガガガーーーーーンッ!!!!


マサさんは再び亀裂を作り、スタンドを地中に落とし、すぐさまその亀裂を閉じる。

「二度も引っ掛かるなんて単純だべ」

しかし、伊達がさらなるダメージを受けている様子は無く、ヘラヘラ笑っている。

「わざとだよわざと。ニグラ(黒)にそんなもん通用しないよ」


ドバッ!!!!


マサさんの目の前にいきなりフォルミーが現れる。地中から出てきたのだ。

「蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻ーッ!!!!」


ドッパアアアアアアアァァァァンンンンッ!!!!


フォルミーのラッシュをモロに受け、吹っ飛んだ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ…


地震はさらに強くなり、後方では火山の噴火も激しくなる。マサさんの怒りの頂点か?

「はぁ…はぁ…はぁ…」
「おっさん、言っておくが俺は男には…特にアンタみたいなおっさんには容赦しないぜ」
「ふん!…あのアリ人間が駄目なら、坊主、おめぇを倒せば良いべ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…ガガガーーーーンッ!!!!


再び地割れ攻撃。しかし今度はスタンドではなく、本体である伊達に向ける。
だが、それも簡単にジャンプしてかわされてしまう。素早い反撃に閉じる間すらもない。

「あのさ、ゴゴゴのガーンじゃ、予備動作が長過ぎるんだよね。簡単に避けれるって。
 貧弱!貧弱ゥ!ARRRRIIYYYYYY!!!!!!!!!!!!」

再びフォルミーのラッシュ攻撃を受ける!!
それでもマサさんは地割れ攻撃を繰り返す。その度に避けられ攻撃を喰らう。
その繰り返しばかりで、周囲は亀裂だらけになっている。

「なあアンタ、ただのおっさんがよ、一体何でそこまでして戦うワケ?
 痛い思いまでしてやる意味あんの?もうイイ加減諦めたら?」
「この痛みは…」
「は?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「この痛みは!!おらが今までずっと逃げてきた痛みだッ!!!!
 だが今度はもう逃げねぇ!!この痛みを受け入れ!!そして乗り越えるッ!!!!」

またもや地割れ攻撃。しかし、やはりそれも虚しくもかわされる。

「それしかやる事ないのかよ?」
「坊主…大人をなめるなよ…」


…ゾクゥッ!!!!


伊達は何故か恐れを感じた。いつの間にか、マサさんの気迫に圧されていた。
圧倒的に優勢なのは自分のはずなのに思わず冷静さを欠いた…。

「くそじじいがッ!!てめぇこそ老いぼれのクセになめてんじゃねぇぞッ!!!!!!
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 アリアリィィィィーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドッパアアアアアアァァァァァァァァァンンンンッ!!!!!!!


再びマサさんは吹っ飛んだ。


ドシャァァンッ!!!!


ヤケクソの攻撃だったが、今まで最高の速さと強さを持ったラッシュ!!!!
もう何度マサさんは吹っ飛ばされただろうか?それでも立ち上がろうとする。

(マサさん…もうやめるのだ……このまま続けたら死んでしまうのだ……!!)

新垣も最早休んでいる訳にはいかないと感じた。

するとマサさんは立ち上がる事が出来ないのか、そのまま地べたにあぐらを掻く。
もうボロボロの状態で肩で大きく息をしながらも、伊達に強い眼差しを向ける。

「何だ、おっさん?フラフラでもう立てないってか?それともついに観念したのか?」

その問いに対してマサさんはニヤリと笑う。

「うんにゃ、立ち上がる必要は無ぇ。おらの攻撃はもう終わってるだよ」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「何ぃ…攻撃は終わってるだぁ?どこがだよ?俺はまだピンピンしてるぜ。
 あの女といい、いちいちハッタリかましてんじゃねえよ!!」
「坊主、将棋って知ってっか?」
「はぁ?」
「将棋っつーのはよぉ、駒を使って相手の王様さ追い詰めるゲームだぁ。
 あっちゃこっちゃ動かしてよ、身動き出来なくさすんだぁ。それさぁ詰んだって言うだよ」
「おい、おっさん!!アンタの趣味なんかどうでもいいんだよ!!もうこれで…」
「坊主、周りを見てみろ」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


周囲を見ると、マサさんと伊達の二人を取り囲むようにして地割れが走っている。
底は深く、幅はジャンプをして越えられない距離ではないが、相当の勇気が必要だ。
まるで一歩はみ出せば地の底へ直行する土俵である。
攻撃をすればお互いに避けられない状態だ。そこに二人は対峙する。

「これでもう逃げられねぇ。おめぇは詰んだ。で、降参する時は投了って言うだよ」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「……さあ、投了するべ?」

伊達は一瞬ポカンとした顔をしたが、それから思い出した様に笑い出す。

「あはははははははは…!!何を言うかと思えば、アホかよおっさん?
 周りを囲んだから何だ?追い詰められたのはおっさんの方だろがよ?
 俺にはこのアリ達がいる。アンタには俺を攻撃するモノなんて無いだろうが!!」
「…投了しねぇのか?」
「うるせえええええええええええええええええッッッッ!!!!!!!!!!!!」

伊達の顔が怒りに歪む。そして、フォルミーが一気にマサさんの下へ迫ってゆく!!
しかし、マサさんはあいかわらずあぐらを掻いたままで、動じる様子も無い。

「やれやれ、冷静さを失ってしまったようだべな…。
 忘れたか?おらのスタンドはこの島全体である事を。そして…」

マサさんは真っ直ぐに天を指差した。

「あの火山の噴火もだべッ!!!!!!!」
「ええッ!?!?!?!?」


ドガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアンンンンンッ!!!!!!!!


伊達とフォルミーの両者は飛んでくる火山弾の一撃をまともにくらった!!
それはこれまでの誰のどんな攻撃よりも重く強烈な一撃だった!!

「プギャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「おらはこの戦いで強くなれた気がするど。坊主、おめぇも強くなれ。肉体も精神的にも…」
そう語りかけるマサさんの顔は、まさにこのスタンドを操るに相応しい強い男の顔だった!!

「……うむ、見事な投了図なのだ」


ババババアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!!


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「さて、これからどうするのだ…?」

夜の『ぶどうヶ丘公園』……お互いボロボロの場違いな格好で話している。

「おら家に帰るだ。借金も返さねばなんねぇし、家族に頭下げるだよ」
「うむ、それが良い」
「財産も無くなっちまうし、これから色々と面倒も多いだろうが、まぁ何とかなるべ」
「今のマサさんなら何があっても大丈夫。…本当に強くなったな」

マサさんはグスンと涙ぐむ。

「新垣さん…おらが強くなれたのはネェちゃんのお陰だぁ。
 ネェちゃんに会わなければ、おら、ずっと駄目なまんまだったどッ!!
 おら本当に感謝しているだよ!!この恩は決して忘れねぇッ!!」
「やめるのだ。くすぐったい」

「しかし、色々と巻き込んでしまって済まなんだなぁ。怪我もさせちまった」
「別に構わないのだ。それはそれで結構楽しめたのだ」
「ん!?…楽しめたんだか?あんな大変な目に遭ってか?」
「ああ…ちょっとした冒険気分だったのだ!!だから気にするな」
「ああああ…おらもう感謝の言葉も無ぇだ!!!!…えぐえぐ」
「いちいち泣くな。強くなったのだろ?」
「それとこれとは別モンだべ…」

「マサさんはこの一件で本当に大きくなった。これからさらに大きくなれるだろう。
 生き物に衰退など無い。死ぬまでが成長なのだ」
「そうか……じゃ、ネェちゃんももっとおっぱい大きくなると良いべな」
「うぇっ!?!?ちょ、ちょちょっ…!!!!!!!!」
「あはははッはッはッはッはッ!!……冗談だべ」
「……ニィ……ははははははッ!!!!」

「はははははははは…!!」
「はははははははは…!!」

夜の公園に二人の笑い声が響いた。


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数ヵ月後…


「拝啓 新垣里沙様

 今年も残り少なくなり、心せかれる今日このごろですが、新垣様にはお変わり
 なくお過ごしのことと存じます。
 いつぞやは新垣様には大変お世話になり、今でも感謝の気持ちであふれてお
 ります。
 借金も無事返済を完了し、今ではささやかながらも家族と穏やかな生活をすご
 しております。
 さて、この度新しい事業を立ち上げる事となりました。
 なんと私のスタンド『ひょっこりひょうたん島』を利用した、レジャー施設を始める
 次第です。
 親戚を招いてみたところ好評でしたので、計画を始めたのですが、事は円滑に
 運び、外装工事だけですので、来春にはオープンできる予定であります。
 これも、全て新垣様のお陰です。
 あの公園での新垣様の一言、『ちょっとした冒険気分だった』という言葉がヒント
 になったのです。私の心に光が照らし出された気分でした。
 改めて新垣様には心からの感謝を申し上げます。
 ぜひオープンの際には、新垣様を始め、ご家族や演劇部の皆様もご一緒に遊
 びにお出で下さい。
 お忙しい年の瀬、どうかお体をご自愛いただくようお祈りしております。
                                             敬具

                                         遠見塚正宗」

「…そうかマサさん…良かった。……むむ…私は血も涙も無い女だったはず…」

新垣の目に一粒の涙が光った。


ちゃんちゃん☆


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追記

『さあ!!れっつ!!アドベンチャー!!!!
             レジャーアイランド〜ひょっこりひょうたん島〜』

S市から東へ10キロ程。O羽山脈のふもとにその施設は立っている!!!!
建物の外観は小さいが、中に入るとビックリ!!!!信じらんな〜い!!!!
なんとそこにはT京ドーム100個分をも越える島が!!!!まじでじま!?
そう、この施設では「無人島疑似体験」が出来ちゃうのだ!!!!
しかも希望によってあらゆる天候や季節まで体験できちゃう!!!!
家族連れなら命が芽吹く春の山でハイキングなんてのも良いし、
恋人同士なら海水浴の後、水平線に沈む夕日を眺めるってのもグー!!!!
持ち込みも可だけど、ここでは地元で取れた豊富な山海の幸、
そしてあの高級S牛まで用意してあるよ!!!!ブラボー!!おおブラボー!!
一年中同じ条件で楽しめるからね!!これはもう行くっきゃないでしょ!?!?
今ならオープン記念予約受付中。。。締め切り間近!!急げ!!!!
……ところでアレ…どういう仕組みなんだ????



遠見塚正宗
スタンド名:ひょっこりひょうたん島

伊達謙 再起不能
スタンド名:アビー・アド・フォルミーカム



TO BE CONTINUED
────────→