銀色の永遠 〜ダンス・ウィズ・ヴァンパイア 《Flowers for …》〜


「星って…あんなに沢山あるんだな。たまには夜空を見上げるのも良いかもな」

窓を開いて空を見上げれば、一面にキラキラと満天の星。
そして一際目立つ満月の光はとても神秘的でいよいよ輝きを増している。

「悪りィなマコ、今時間戻してもかえって怪我がヒドくなるだけだからな」

自分自身の傷を治した藤本は、片手で拝みながら小川に謝る。
正確には計りかねるが、現段階で満月の流法の限界は『5分』と予測される。
つまり、怪我から5分過ぎてからでは、時間を最大限に戻しても怪我は治らない事になる。

「ま、良いヨ。少し休んでたせいか、そこそこ落ち着いて来たからサ」

藤本は腕時計を確認する。ちょうど8時を回るところだ。

「さて、亀井探しに行かねーとな…」
「…oi……ミキティ…」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


すぐ側に長身の男が立っていた。色白で黒髪……写真の吸血男だ!!!!

「て、てめぇッ!!!!」

藤本は男に走り寄り、両手で胸元をグッと掴み掛かる。

「ちょッ、ちょちょちょ…待って下さい!!藤本さんッ!!」
「あぁ?亀井ッ!?」
「エネスコさんは悪くない!!エネスコさんは悪くない!!エネスコさん…」

突然飛び出してきた亀井は、同じ言葉を繰り返しながら、必死に藤本をエネスコから引き離す。

「亀ッ!…まさかおめぇまで洗脳されちまったのかッ!?」
「ち、違うよ…!!」
「おいッ!目を覚ませ!!ゴルァッ!!」


ブンッ!!!!


BT・03で亀井に殴り掛かる!!

「うわああああッ!!!!」


ビタアッ!!


寸止め…亀井の目の前で拳を止める。

「…おめぇはいちいち人を信じ過ぎるんだよ。上戸ん時だってそうだ。そうやって騙される。
 ……だけどよ…そこがおめぇの『良い所』なんだよな」

藤本はスタンドを引っ込める。

「…おめぇを信じる」
「ふ……藤本さんッ!!キャーキャーッ!!やったー!!」

亀井は嬉しそうに藤本に抱き付く。

「ありがとうございますぅ。でも大丈夫、僕は洗脳されてませんよ」
「…そうなのか?」
「はい。ついでに高橋さんの催眠もすでに解けているそうです」
「マジでかッ!?……アイツ…正気でアレだけ容赦ねーのかよ!!」
「まあ、戦闘時の愛ちゃんはいつもアンな感じだけどネ…」
「やはりこのバラの香り…バラの記憶がそうさせるのでしょう」

エネスコがそっと語る。

(コイツ、えっと…エネスコだっけか?…つか、マジイイ男じゃねーか!!)

「『記憶』とはどこで成されるものかという議論が世界の各学者達によってされているそうです。
 生物学のみでは無く、物理学、医学、社会学、心理学、天文学、考古学、哲学、宗教学…
 ほぼ全ての学問と言っても良いでしょう。
 『記憶』とは日々の生活よりも身近であり、また宇宙よりも広大な世界なのです」
「脳みそじゃ無いのか?」
「はい、脳ですね。しかし、その脳を形成する為にはまた別の『記憶』が必要になります。
 脳を持たない植物はどうでしょう?草花達の成長のメカニズムとは…?」
「い、遺伝子だろ?DNAだっけ?」
「では、DNAは一体何の『記憶』によって形成されるのでしょう?」
「ゴメン、ちょっと待った……マコ、理解できるか?」
「oioi…とりあえず今のところはナ…ナンとなくだけド…」

藤本と小川の2人が顔を見合わせていると…

「バーカ!それくらいも分からんのか!!」

怒鳴り声に2人は振り返ると、呆れ顔でコチラに近付いて来る白いドレス。

「はぁい☆」

「高橋…」
「愛ちゃんン!!」
「高橋さんッ!!」

高橋は笑顔で3人を見渡す。いつものあの笑顔だ。

「フレッド・ホイルという天文物理学は言いました…」

エネスコは続ける。

「この自然界で確率的ににも、生命が偶然誕生したと考えるのは間違っている……、
 この宇宙には『知性』という『力』がすでに存在していて『生命のもと』を形作った…と」
「「「????」」」
「ほやね」

高橋だけが納得顔でエネスコを見詰めている。

「つまり、『知性』という力はビッグバンより先に存在していて、
 全ての物質や生物は『知性』に導かれ、その『知性』をすでに保有しているのです。
 …要するに『記憶』とはその『知性』から導かれるモノなのです」

藤本は感心したようにうなずいている。

「なるほど……とりあえず分からないってコトが分かった」
「ミキティもかィ?ワタシだけじゃ無かったよォォォォ!!!!」
「僕も…分かるような気もするけど、にわかには信じ難いような…?」
「亀子の反応はごく普通やよ。この2匹は『知性』を保有していないコトが分かった」
「「『匹』ってナンじゃいィィッ!!!!」」
「バラにも己の体験した『記憶』を残し、それを後世に伝える能力があるという事ですね。
 バラの『痛みの記憶』…それがこの香りによって私達に伝わるのです」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「おい高橋、どうするんだ?まだ帰らねーのかよ?」
「あっしはまだエネスコさんと…」

高橋は名残惜しそうにエネスコを見つめる。エネスコもまた寂しそうだ。
そして、しばらくそのままお互いの目をジッと見つめ続ける…。

(oioi…ナンなんだこの2人の世界……入り込めないゼ、こりゃ)
(アイツ…ホントに催眠から覚めてるのかよ…?)
(何か……こういうの…イイな……僕もさゆと…うへへ……)

「別れを惜しむ気持ちは尽きませんが、そろそろ時間がありません。行かなくては…」
「ここからさらにどこに行くんだ?」
「私の故郷…ルーマニアです」
「今から?どうやって?飛行機たってこの時間じゃ…?」
「それは…私にはとっておきの乗物がありますから…彼が無事ならば…」
「誰ソレ?」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ズル……ズル……ズル……ズル……


全員黙る。何かを引き摺るような音…一階へと続く階段の方からだ。
そして…そいつは姿を現す…。

「へへ…へへへ……お…オンナじゃねえか…オンナ…」
「何だ?アイツ!?!?」
「ヒッヒッヒッヒッ…お、おィ…ニィちゃんよォ…キレィドコロ4人もヒトりジメたァ…
 うッウッ…ウラやマスィじゃネーかァ…オレにも分けてクレよォ…」

中年風の男はフラ付きながらこちらに近付いて来る。目の焦点が合っておらず、口が半開きだ。

高橋がある事に気が付く。

「あのオジさん…もしかして…?」
「タクシーの運転手さんですね。しかし、どうも様子がおかしいようですが…?」
「ジョ・・・女子コー生だァ…っうぇえッうぇ…ウマーそうダァ…ち…チ、血を吸っテ…アゲルゥ…」

男は口を大きく開く。そこには不気味に伸びた牙が唾液を滴らせていた。

「お、オマイラの…アソコのォ…シるを…じゅるジュルとォォォォォォッ!!!!!!!!」

男は襲い掛かってきた!!

「ブギートレイン・03ッ!!オルアァッ!!!!!!!!」

BT・03で男の肩を殴りつける!!


ボギャアーンッ!!!!…ドチュ!!ブシューッ!!!!


男は後方に吹っ飛ぶが、ゆっくりと立ち上がる……肩が大きくエグれていた。

「そ、そんな!?あたしそこまで思いっきりは…!?」
「ヘッヘッ…おねイちゃーン…もっとなグってクレてもイイよ…その代ワり…シるシる…」

男の肩が再生される…しかし元の通りでは無い。まるで腐った肉の様な塊でふさいだだけだ。

「こ、これは!!…彼は『肉の芽』に侵されていますッ!!」

エネスコは叫んだ。

「肉の芽!?!?エネスコさんソレってどういうコト??」

「演劇部のみなさんはどうやら『石仮面』の存在をご存知のようですね。
 石仮面の骨針に頭を打ちぬかれた人間は吸血鬼に変わります。
 ほとんどの精神の弱い人間はそこで理性を失い、ただの吸血ゾンビと化します」
「『しゅう』の時は…なんか意外と普通の人って感じだったな…」

亀井は思い出しながら呟く。

「精神力の強い者は以前の理性をそのままに、人間達と溶け込んだ生活をするのです。
 さらに強力な者は他者を支配しようとする。相手の精神をコントロールしようとする…。
 『カリスマ』…それを植えつける為の支配者の細胞の一部…それが『肉の芽』です」
「oioi…じゃ、あの運ちゃんもその肉の芽で支配されているってコトかよォッ!!」

小川は男を指差す。

「いいえ、『肉の芽』は本来は脳に打ち込むものです。身体そのものには影響ありません。
 しかし、彼の場合…細胞と体の同化に失敗してしまったと考えられます」
「同化って…そんなコトしてどうするの?」
「それが彼等…組織の研究だったのです。『不老不死』の体を持つ『人間』を創るという…」
「なんか…スゴい話やね…」
「いまだにその研究はは未完成のままです。どうも拒絶反応を起こすモノがほとんどでした。
 あの彼の様に……。非常に難しい研究ですが、稀ではありますが成功例もあります」
「人間と吸血鬼の細胞の融合……成功例ってま、まさか…!!」
「はい、私です」

エネスコは答える。

「私は組織の研究によって、私自身の体細胞と肉の芽の細胞とを融合させられたのです。
 失敗すれば彼のようになりますが、幸運にも私はそうはならなかったのです。
 火や太陽の光に弱いという点を除けば、ほとんどにおいて耐性が出来ています。
 しかし、『現在の問題』はですね……」

エネスコが語ってる間にもタクシー運転手だった男はゆっくりと近付いて来る。

「ウォ…のどガ…渇くんだヨォ…アァぁアあァ…クレよ…オマイらのいのチのシるをオォォッ!!」

再び男が襲い掛かる!!

「おちょきんしねまアアァアアアアァアアァアアアァアアアアァッ!!!!」


グチャグチャグチャッ!!!!


LA・ルノアールのラッシュで男の腕が飛び足が飛び首が吹っ飛ばされる!!!!

「うぇ〜、ホント容赦ねーな」

しかし…


ズリュズリュ…グチョグチョ…


体の切断面から首や手足が再生されてしまう。しかも、床に転がった身体も自身に取り込む。
当然のごとく…再生と言っても攻撃される以前の姿では無い。よりグロテスクな様を呈している。

「なんか…気持ち悪いよぉッ!!」
「どうやら…バラバラにしたくらいじゃ、死にそうも無いな…」
「タクシーの運転手さん、彼はなぜこんな姿になったのか…?」

エネスコは状況もお構いなしに、まるで独り言の様に語る。

「ナンだよ、さっき『肉の芽』がどうのって自分で言ったんじゃねーか」
「そう…つまり『現在の問題』とは!!彼と『肉の芽』を融合する者がここに来ている…!!
 すなわち……組織がすでにこの屋敷にたどり着いているという事を意味しますッ!!」


ビカーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!


突然、窓の外から強烈な光線が差し込んで来る。
ただの光であるが、みな条件反射で光の当たらない影に逃げる。
しかし、タクシーの運転手だけが逃げる事も無しにその場をフラ付いている。
光線が当たった瞬間!!

「GUGIIYYAAAAAAAAAAAAHHHHHHHH!!!!!!!!!!!!!!」

男の皮膚がブクブクと細かく沸騰したかと思うと、水分が気化したのかすぐに乾燥し始める。


ボッロロォォォォ…ボシュボシュ…!!


そして完全に乾燥した部分が、石膏の彫刻が砕け散るかの様に崩れ落ちてゆく…。

「な…なんなの!?あの光はッ!?!?」
「あれは、『紫外線照射装置』…!!」
「何だヨォ、ソイツは?」

エネスコは光の届かない奥へと移動しながら答える。

「吸血鬼の弱点である紫外線…それを浴びせて消滅させる機械です。
 第二次世界大戦時、ナチスドイツの占領下に置かれた我が国は、
 同時にナチスの先端の機械技術と医療技術を吸収しました。
 『紫外線照射装置』はナチスの発明です。そして、今の組織は元々ナチスの一機関です」
「ドイツの組織がなぜ日本で…?」
「本部はドイツです。そして支部が世界各地に散らばっているのです。
 日本支部の呼称…『D.R.I』あるいは『DOKEN(ドーケン)』と言います」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「そ、それよりもよォッ!!これからどーすんだよォ?逃げんのか?」
「それは…」

小川の問いにエネスコは躊躇する。話は複雑になって来ているのだ…。

「おい、エネちゃんよぉー!!」

藤本が口を挟む。皆が振り向く。

「藤本さん…エネちゃんって…?」
「アンタなあ!!エネスコさんに向かってナニ言うてるんよ!!」

藤本は高橋を見る。

「おい、高橋。おめぇはエネちゃん連れて逃げろ」
「は…!?」
「ここはウチ等で何とかする。いいからおめぇ等は逃げろ」
「アンタ達だけで何とかなる相手なのか?あっしだって…」
「るせえええーーーーッ!!!!!!!!」

藤本の一喝。

「…………」
「もう時間が無いんだろ?ウチらは心配いらねーよ…何とかなるって…。
 おめぇらはおめぇらのやるべき事をやるんだ…良いな?」
「……分かった」

高橋の答えを聞いた藤本は安心した様にうなずく。

「エネちゃん、1つ聞いて良いか?」
「何でしょうか?」
「故郷に帰ったら何をするつもりなんだ?その厄介な体質でさ…?」
「…もし、代々の土地が残っていれば、トマトでも育てようかと思っています」
「そうか…良いな、ソレ。アンタの作ったトマト食ってみたいな」
「はい、いつか…」
「楽しみにしている」

藤本は小川と亀井に向き直る。

「おめぇら、もう一度聞く…覚悟はいいか?」
「もちろんッ!!」
「あたぼうよォッ!!」

藤本は窓を開けて飛び出し、一階の屋根に乗っかる。そして叫ぶ!!

「おおおおいいいいいいいいッ!!!!ウチらはここにいるぜぇッ!!!!!!!!」

すかさず光線で照らし出される3人。
光線が逸れた隙に、エネスコと高橋の2人は廊下を駆け抜け、そのまま1階へと向かう。
それを確認した藤本は安心の笑みを浮かべる。

「なあ…『運命』ってヤツはやっぱ決められたモノなのかな?」
「突然ナニ言ってんだヨ?ミキティ?」
「あたしはな…ただ演劇をやりたかっただけなんだよ…。純粋にさ。
 それが何だ?いきなり寺田のやろーに矢を打ち込まれたかと思ったらよ、
 妙な能力を身に着けちまうし、ワケ分からん連中に攻撃受けるわ、
 部内の身内にまで殺されそうになるわ……めちゃくちゃ過ぎるんだよ、演劇部はよ…」

藤本は近付いて来る敵達を確認しながら話し続ける。

「生傷は絶えねーし、ホントやってらんない。マジめんどくせーよ。出席とかアホらしい。
 ……だけどよ」
「藤本さん……?」
「……なんかおもしれーんだよな。おめぇらとつるんでるとよ…。
 なんつーか……それはそれで悪くないのかなって思えてきたよ。
 おめぇらとバカやって、高橋みてーに鬼つえーヤツともヤリ合える。
 ……ここで一緒に戦ってるのもやっぱ『運命』なのかもな…」

3人は周囲を完全に囲まれてしまった。それでも藤本はニヤリと笑う。
 
「へへ……演劇部最高じゃねーか、おい」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


タッタッタッタッ…


エネスコと高橋の2人は階段を駆け降りる。そして玄関ホールへとたどり着き、エネスコは叫ぶ。

「アイゼンシュタイン!!!!」

(……誰やろ?)

高橋が疑問に思っていると、


バサッ…バサッ…バサッ…バサッ…


なんとあの大コウモリがコチラに羽ばたいて来る。藤本達にやられた傷も完治したようだ。

「彼の名は『アイゼンシュタイン』。私の親愛なる友人であり、心強い味方です。
 そして、彼もまた研究によって創り上げられたのです」
「エネスコさん、とっておきの乗物って…?」
「はい、彼です。乗り心地は悪くないですよ」

エネスコはニッコリと笑う。


タッタッタッタッ…


玄関に向い、大きな両開きの扉を全開させる。大コウモリが外へ飛び出し満月の光を浴びる。


グングングングン…


なんと、さらに大きく…羽を広げれば10メートル程の大きさになった!!

「これが彼本来の姿です。二人乗りも可能ですよ」

エネスコはどこか嬉しそうだ。

「ここにもいるぞおおッ!!!!」

ザワザワと軍服の様なモノを着た男達が集まってくる。何かの機械を持っている者もいる。

「紫外線照射装置ですね」

男達はエネスコを確認すると、

「目標確認!!エネスコ!!無駄な対抗を止め、大人しく研究所へ帰れ!!さもなくば…」
まるでスポットライトのような機械をエネスコに向ける。
「…ここで灰になってもらう」

エネスコは答える。

「残念ながらその要求に従う訳にはいきません。私の誇りに賭けて!!」
「ならばくらええええェェェェェェェッ!!!!!!!!」

眩しく光り輝く光線が浴びせられる。

「ライク・ア・ルノアールッ!!!!」


ドガガガガガガガガッ!!!!ドシュドシュドシュドシュゥゥゥゥン!!


高橋はすかさず地面から迫り出しの壁を作り上げ、光線を遮る。

「エネスコさんにはあっしが付いている。とにかく安全な場所まで逃げるんよ。
 それまでは…エネスコさんはあっしが守る!!」

(お別れは辛いけど…最後の…最後まで……)

「むむむ…ならば回りこめッ!!周囲を取り囲むんだああッ!!!!」

男達は散ばろうとするが、


ザワザワザワザワ…


なんと、庭にあるバラの植木…その枝がゾロゾロと動き出した!!!!

「ばらの騎士…『オクタヴィアン』と呼んでいます。このバラ達もまた組織の産物なのです」

男達は逆にバラのイバラによって取り囲まれる。ヘタに動こうとすると無数のトゲが彼等を襲う。

「か、火炎放射器があるだろうがッ!!こんなモン焼いてしまえェッ!!」


ボボボボボボボボウウゥゥゥゥ!!!!


あっという間にばらの騎士達が燃え尽きてしまう……その先にLA・ルノアールが立っていた。

「どうやら、アンタ達はスタンド使いではないみたいやね……じゃ、遠慮なく、
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアッ!!!!!!!!!!!!」


ドッバアアアアーーーーーーーーンンンッ!!!!!!!!!!!!


LA・ルノアールの高速ラッシュは、一瞬にして組織の連中を彼方へと吹っ飛ばした!!

「エネスコさん!!今の内やよッ!!」
エネスコは大コウモリ『アイゼンシュタイン』に飛び乗る。
「さあ、愛さん!!」

彼は手を伸ばし、高橋の手を掴み引っ張り上げる。
握った手の温もり…それはとても熱く強く、全てを乗り越えられるかの様な情熱の証であった。

「くそゥッ…追え!!追うんだッ!!」

慌てふためく男達を眼下に、エネスコと高橋の2人は羽ばたく大コウモリの背に掴まり、
うっとりとした笑みを浮かべながらそっと寄り添っていた…。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


同じ頃…


「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!!!!!!!」
「うわあああああああああああッ!!!!!!!!」


ドババババババババババァァァァァァァァンン!!!!!!!!


藤本、小川、亀井の3人は周囲を取り囲む組織の男達をことごとく蹴散らす。
あくまでエネスコ達を逃がす為の時間稼ぎだ。手加減はしている。

「ダメだッ!!ヤツ等はスタンド使いだッ!!我々の手には負えないぞッ!!」
「クソッ!!こうなったら、所長達が来るのを待つしか無いのか!?」

(……所長?)

「来たぞッ!!所長ゥゥゥゥ!!こっちでェェッす!!」

男達はナゼか空を見上げる。藤本達も顔を上に向けると…。

「オオお前達ィィィィ!!今ァァァァ!!そこにィィィィ!!待ってろォォォォッ!!!!」

「な……おい麻琴…ありゃ何だ!?」
「…ナンダカ随分と騒がしいヤツが来たじゃナイか…oi?」
「あれは…馬ですかね…?」

なんと、空中にアヤシゲな男2人が白馬に跨って、こちらに飛んで来る。
いや…良く見ると白馬の背中には羽が生えているではないか!!

「ぺ…ペガサスかよォォッ!?」

そのペガサスがしなやかな脚付きで地上に降り立つ。
なぜか白衣を着た男2人は、ペガサスに跨ったままで満足そうにニヤニヤしている。


ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


前の男から何かが飛び出す!!

「スタンドだッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


スタンドもまた白衣を着た人間のような姿をしている。
そして体のあちこちに数式や記号が黒字で大小不規則に書かれている。
それと、特徴的なのは白衣の袖から覗く両腕だ。
右が赤く左が青いのだが、それぞれに『N』と『S』、『+』と『−』、『K』と『℃』、
中には漢字で『合』と『分』、『時』と『空』なんてものが羅列されている。
そして、両手の掌には六角形の波紋のような模様…。

「いかにも研究所の…って感じだけど、どんな能力なんだろう?」

亀井は風変わりなスタンドにちょっと興味を覚えたが、藤本と小川にはサッパリだった。

「ヨシヨシ…ご苦労だったぞォ…」

前の男がペガサスに声を掛け、スタンドの両手でその体を擦る。すると…


パワワワワワワワ……チーン!!


音と共に…ペガサスは羽が消えてただの白馬に変化した。そして…


バサバサバサバサ…!!!!


どこに潜んでいたのか、白いハトがその場から飛び去って行った…。

「は、博士ッ!!ハトと馬との『融合』!!素晴らしいッ!!エクセレントですッ!!」

後ろの男がパチパチと拍手をしながら褒め称えている。

「キミキミィ…そうおだててはいかんよ」

前の男が馬から降りる。背筋をピンと伸ばし気を付けをしながら右手を高々と掲げる。

「しかァァしィッ!!これぞォォォォッ!!究極のォォ究極ゥゥゥゥゥゥッ!!!!
 私のォォォォッ!!スタンド能力はァァァァッ!!世界一ィィィィッ!!!!」

藤本達はこの2人の意表を突くやり取りに、ただただ目を丸くするだけだった。

「所長!!お待ちしておりました!!」

黒スーツや作業服を着た男達が、その風変わりな2人の元へ集まる。

「うむ。今宵は満月。やはり君達だけでは手に負えん相手だったか…?」
「いえ、実は…」

黒スーツの一人が研究所の所長でもあり『博士』と呼ばれる男にそっと耳打ちをする。

「なァァにィィィィ!!エネスコをォォォォ!!逃がしたァァァァッ!!!!
 そいつはァァ!!究極のォォ究極にィィィィ!!いかん事なのだァァァァッ!!」

『博士』は青筋を立てて怒っている。

「…つか、アンナ喋り方で疲れないのかヨ…?」

さすがの小川も呆れていた。

「ところで…?」

『博士』が3人の方を見る。

「エネスコを逃がしたのはお前達だそうな…一体ィィどォォいうつもりだァァァァッ!!」
「るせーよ!!大体おめぇこそ何者なんだよッ!!」

もう一人の白衣も馬から飛び降りる。

「し、失礼な!!このお方こそ!!『堂珍化学研究所(DOKEN)』所長でいらっしゃる!!
 堂珍嘉邦博士であるぞッ!!お前達ッ!!図が高いッ!!」

ちょっと顔が濃い目の鼻ピアスした男が咆える。

「まあまあ川畑クン、我々は常に研究研究の日陰の生活…知らんのも無理はない。
 だが、その我々のォォ研究の成果をォォォォ!!逃がすとはァァァァ!!!!
 究極のォォォォ!!究極にィィィィ!!!!許さァァァァンンッ!!!!!!」

真顔なら案外スッキリ顔のはずの堂珍博士の顔が怒りに歪む。
が、藤本の方もいい加減キレる。この無駄なテンションがいちいちカンに障るのだ。

「究極にうるせーのはおめぇらだろーがッ!!!!」
「ナンだとォォ!!なァらばァァァァ!!相手をォォしてやるゥゥゥゥッ!!!!
 この私のォォ究極のォォ!!スタンドォォ!!『ケミストリー』でェェェェッ!!!!」
「ケミストリー?…英語だよな…意味何だったっけ?…確か亀井の単語帳にあったよな?」

藤本の馬鹿さ加減がじれったく思ったのか、川畑が口を出す。

「知らないのかい?『化学変化』だよ!」
「るせーッ!!今思い出すトコロだったんだよ!!ゴリラッ!!」
「…言ったね?言ってはならない言葉を言ったね?言ったねッ!!!!」

川畑は研究者としては似つかわしくない野性味のある形相で睨みつける。

「博士!!ここは私に任せて下さい。こんな女ども私一人で十分ですッ!!」
「むむむ…それもそうだ。君のスタンドもなかなかどうしてイケテるからな。うむ、任せよう」
「ありがとうございます!!我々の研究の邪魔をした罪は重いッ!!
 …くらわしてやらねばならんッ!然るべき報いを!!この川畑要がッ!!」


ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


川畑のスタンドが現れた!!
全体的に真っ黒な人型だが、体のあちこちにシルバーのアクセサリーや鋲が打ち込まれている。
それと、体を左右二分するかの様に頭頂から股の方まで真っ直ぐに引かれた銀の二重ライン。
体の部分が妙にゴツくて太めである為、まるで黒い人型の棺に見えなくもない。

「特にお前…」

川畑が藤本を指差す。

「私を侮辱したお前には、然るべき死を与えるッ!!」
「やれるもんならやってみなッ!!」

藤本はBT・03で相手のスタンドに突っ込む!!

「先手必勝ッ!!くらいなッ!!!!」

敵が迫って来ているというのに、川畑はまるでスタンドを動かそうとしない…。
何か嫌な気配を感じた藤本は一瞬ラッシュを躊躇する。その瞬間…!!!!


ゴバアァァッ!!!!!!!!


相手のスタンドが二重のラインを境にして左右二つに割れる!!
いや、割れるというよりも開いたのだ。体の前面が両開きの扉の様に開いたのだ!!
中は空洞になっているが……内部壁面や扉内面には太く鋭利な『針』が無数に並んでいた!!


ガシッ!!


藤本は腕を掴まれる。そして、そのままスタンド内部へ放り込まれようとする!!

「や、やべぇッ!!!!VVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!」

掴んでいた相手の腕を殴り、さらにその反動で後方へと飛び退ける!!空のまま扉は閉まる。

(あんなのに閉じ込められたら、マジ全身穴だらけになって即死だぜ……)

「はっはっはっ…『アイアン・メイデン』!!これが私のスタンドッ!!
 攻撃を躊躇ったお陰で助かったね。でも、今度は絶対に逃げられないから…」
「川畑君ゥゥンン!!アレをやるのかねッ!?」
「はい、博士!!」

アイアン・メイデンの右掌が扉の様に開き、そこから鎖が飛び出す。


ジャララララララララァァァァッ!!!!


腕を振ると、鎖が伸びて行き、その先端にある輪っかが藤本の首にハマる!!
鎖を引っ張られた瞬間、息が詰まる。

「ぐえぇッ!!」

そして、川畑はもう一方の先端の輪を自分の首にハメる。2人の一騎打ちの形となる。

「くそッ!!満月の流法!!」

藤本はBT・03で鎖の輪の部分に触れるが…まるで変化は無い。

「何でだよッ!?首にハマる前は輪っかは外れてたハズだぜッ!?」

川畑はクククと笑いながら、

「輪には留め具やカギな〜どナイ!!首をすり抜けてハマったんだよ。
 コレを外したいのなら、私を倒すかあるいは……首をちょん切るしか無いのさ!!」
「マジかよ…」
「ミキティッ!!」

小川と亀井が救出に駆け寄る。

「邪魔すんな!!お前達は後だ!!ここで大人しく待ってなッ!!!!」

今度は掌から網で組まれたボールの様なものが2つ飛び出した。
それが空中で次第に大きくなって行く……それは鳥籠だった!!人を入れる為の鳥籠!!


ガチャンガチャァァァァンッ!!!!


2つの鳥籠はそれぞれ小川と亀井を閉じ込めてしまう。非常に頑丈そうだ。
しかも、その鳥籠の柵には無数の太く鋭利な『爪』が内側に向けられていた!!
これでは小川達は鳥籠の中央から動くことが出来ない。

「破壊出来るなんて思うなよ。これらスタンドの拷問器具はダイヤモンド並に固いからな!!」
「ちくしょオオォォッ!!!!」

邪魔がいなくなったところで、川畑は藤本に向き直る。

「チェーン・ネック・デスマッチ!!この棺桶の中がお前の死に場所だッ!!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


鎖の長さは6、7メートルくらいだろうか?
近付けばダラリと地面に接するが、川畑は手に掴み、常に張った状態を保とうとしている。

(くそ!当然相手はこの戦いに慣れているハズ。不用意に飛び込むのは危険か……)

藤本が距離を保ったまま攻めあぐんでいると、

「あのね…動く気が無いのなら、こっちから動く様にしてあげるよ」

川畑がスタンドを使って鎖を引っ張る!!

「ぐえェェッ!!!!」

引っ張られた藤本は前のめりのまま、川畑に向かって行く。
そこに待ち受けているのは…、


ガバァッ!!!!


棺を開いた状態のアイアン・メイデンだ!!
藤本は首を引っ張られたままで、それをかわす体勢になっていない。

「オルァッ!!」

苦し紛れにBT・03でアイアン・メイデンを攻撃するが、
無理矢理な攻撃ではやはり腕を掴まれてしまい、藤本もろとも棺に突っ込まれる!!
針の山はもう眼前に迫っている!!

「うおおォォッ!!まだだァァァァッ!!!!」


ドカッ!!!!


なんとかBT・03の足を横に伸ばし、川畑をガードごと蹴り上げる!!
本体の川畑を蹴り上げる事によって、同様にアイアン・メイデンも後ろへ飛ばされる。
BT・03は体を捻り、掴まれていた腕を引き離す。
そして、そのまま藤本は地面へと倒れこむ。

「はあはあ…危ねぇ、秒殺されるトコだったじゃねーか…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


(しかし、あのスタンド…目があるのかよ?見えているのか?)

確かにアイアン・メイデンの顔には縦に走る銀のライン以外はただ真っ黒な影の様でもある。
それに棺おけに手足が付いている様なモノなので素早い移動が出来そうにも見えない。

(よしッ!!いっちょ引っ掻き回してみるか!!)

「おおりゃああああああああァァァァ!!!!」

意を決した藤本は川畑に突っ込む!!そして…


バシュッ!!


地面を蹴り、身構え目を見開いていた川畑に向かって土を蹴り上げる!!
土が目に入り、慌てて目をこする川畑。

「うおォッ!!」

藤本は視界を無くした相手の背後へとジャンプし、延髄へと手刀を下ろす!!

「もらったァァッ!!!!」


ズドアァッ!!!!


「ぐはァッ!!!!」

アイアン・メイデンが体を後ろに捻り、鋲を打ちつけた拳が藤本のみぞおちをエグる!!

「な、何だコイツッ!!やはり見えているのかッ!?」

川畑を見ると…ナンと目を閉じたままでいる!!そして、そのままニヤッと口元を歪める。

「アイアン・メイデンの弱点は、前面が棺のフタになっている為に視界に限界がある事。
 でもね、なまじっか見ようとするからいけないのさ。見ないで感じる事が大切なんだ」

(……どういうコトだよ!?!?)

どうやら、本体の川畑自身の視界以上の何か秘密が隠されているらしいが、それは何か…?

「おいおい、考えている場合じゃないよ」

川畑は鎖を掴みユラユラと左右に揺らす。鎖はまるでヘビの様に波打つ。
当然その波は藤本の首へと伝わるが、軽く揺すられる程度のものだ。

「何か…マッサージ器みたいだな…」


ビュンッ!!


いきなり川畑は鎖を振り上げる!!大きな鎖の波が藤本に向かって行く!!


バチィィィィーーンッ!!!!


「痛ええェェッ!!!!」

繰り返し、ムチのように何度もしならせて振り上げさらに打ち付ける!!


バチバチバチバチバチバチバチバチーーーーンンッ!!!!!!!!!!!


藤本は吹っ飛ばされる……が、しかし空中で鎖がピーンと張った状態で止まる。
アイアン・メイデンが鎖を掴み、思い切り引っ張る!!藤本が頭から向かって来る!!

「いででェェうわああああああああァァァァァァァ!!!!!!!!」

アイアン・メイデンは構える!!

「サドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドォッ!!!!!!!!!!」


ドッパアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンッッ!!!!!!!!!!!!


再び藤本は吹っ飛ばされる…!!

「ムムム…さすがは川畑クンだな。感心感心、ちょーマジ感動ォォォォンッ!!
 彼が本当に究極なのはスタンドよりも、この熟練したチェーンさばきなのだァァァァ!!」
「何がチェーンさばきだ……だったらコッチも利用させてもらうだけの事ッ!!!!」

藤本は鎖を掴みブンブンと振りまくるが、重くてどうも波が上手く相手に届かない。

「ちくしょー、こうかッ!?」

オーバースロー、アンダースロー、サイドスロー…色々と試すが全く意味を成さない。

「お前…さっきから何をやっているんだ?」
川畑は呆れて、鎖を放し両手を腰に当てた状態で相手の行動を眺めている。
「…うっせーッ!!だったらコレはどうだッ!!」

今度はクルクルと回し始める。新体操のリボンのつもりだろうか…?

「ありゃ…ダメか…?」
「…………」

鳥籠に閉じ込められ、身動きの取れない小川はただ歯痒いばかりだ。

「この期に及んでミキティはナニやってんだよォ…?」

(ミキティなりに必死なのかもしれないケド…アレじゃ…完全に浮いちまってるゼ……)

「下らないね…」

川畑は藤本に歩み寄る…。

「おめぇは『無駄な事は止めろ』と言う」
「無駄な事は止め……ハッ!?」


ガシーンッ!!!!


「何ッ!!」

片足に鎖がからまり、上手く動きが取れなくなってしまう。

「まさか!?コイツ…いつの間にッ!?」
「へへへ…ふざけたフリしてこっそりおめぇの足元に輪っかを作っておいたのさッ!!」

藤本自身に気を取られていた為に、足元の輪っかに気が付かなかった。
そして、川畑が足を踏み入れた瞬間に鎖を引いて捕らえたのだ。
藤本は鎖を引き、川畑をうつ伏せに転倒させる!!

「よっしゃッ!!倒しちまえばコッチのモンだろッ!!」

BT・03はアイアン・メイデンの死角に入り込む!!

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!!!!」


パンパンパンパンパンパンパンパン!!!!!!!!


しかし、ラッシュは全て掌でかわされてしまう。

「な…何でだよッ!?!?見えてないハズなのにッ!!!!」
「だから…言っただろ。見る事よりも感じる事だって」

川畑は足に絡まっていた鎖を外し立ち上がる。

「お前の動きは全てお見通しなのさ!!」

そう言って、川畑は鎖を握ったままユラユラと揺らし続けている…。

(……なぜだ…?きっと何か秘密があるハズなんだ!!)

藤本は相手の様子をジッと見つめながら謎を解くべく頭を悩ませていたが…。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


(まさか…アレか……!?!?)

「おめぇ…鎖の振動でコッチの動きを感じ取っていたなッ!!!!」

(……そうだ!!そうに違いない!!!!)

「さあ?知らないよ。たとえそうだとしても、それがどうしたの?」
「どりゃああああああァァァァ!!!!!!!!」

藤本は両手で鎖を握って相手に振り下ろす!!
今度は上手く波が伝わって行くが、いとも簡単にかわされる。
同時にBT・03のラッシュを加えるが、やはり全て回避されてしまう。
決してスピードは速くはない。ただ完全に動きが先読みされているのだ。

(やはり振動か…くそッ、この戦い相手に有利過ぎるじゃねーか!!)

余裕の表情の川畑を藤本は睨みつける。
いや、そうではない。視線はもっと先へと向っている。
川畑の背後には木が立っているのだが、その背後に何かが隠れている。
……サイレント・エリドリアンだった。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


亀井は鳥籠の中央で2人の戦況を見つめていた。
そして、さっきの藤本の一言ですぐにS・エリドリアンを思い浮かべたのだ。

「エリドリアンは音の概念そのもの…つまり振動をも無くす能力。これならば……」

鳥籠から川畑までの距離は7、8メートルといったところか…?
S・エリザベスや小川のFRIENDSHIPでは移動範囲の外だが、
S・エリドリアンは10メートル。十分に届く距離にある。

「アイツから振動の感覚を無くしてしまえば、藤本さんはきっと勝てる!!
 こんな檻に閉じ込められて、すっかり足手まといになっちゃったけど、
 それでも何とかして…僕が…少しでも…藤本さんの助けになるんだ…!!」

木や草むらに隠れながら、そっとそっと近付く…。
こうしている間にも藤本は川畑の鎖の攻撃に苦戦している。

(藤本さんは僕を信じてくれたんだ……僕の欠点…良い所だって……認めてくれたんだ…。
 嬉しかった……だから僕も…それに応えなきゃ…。

川畑の背後2メートル程の木の陰に身を潜める。三者が一直線上に並ぶ位置だ。
亀井は鳥籠の中から、攻撃のタイミングを計る…。

(待ってて藤本さん…きっと僕が…僕が……)

「よしッ!!今だッ!!」

S・エリドリアンは一気に川畑との距離を詰める。

「くらえッ!!サイレント・エリドリアン!!デララァァァァーーッ!!!!」


ガシッ!!!!


「あ……ッ!?」

アイアン・メイデンにシッポを掴まれてしまった…。

「そ…そんな……」

亀井は鳥籠の中で落胆の表情を浮かべる。
そんな亀井を川畑はチラと一瞥すると、歯を剥き出し顔を歪める。

「バーカがッ!!!!そばに来れば鎖が無くたって振動は感じられるんだよッ!!!!」

S・エリドリアンのシッポを強く握り締める…。

「よくもッ!!一対一の戦いに水を差したなあァァァァッ!!!!
 このクソガキがあああああああああァァァァァァァァッ!!!!!!!!」


バゴオォォッ!!!!!!!!!!!!


アイアン・メイデンが思い切りS・エリドリアンを殴り付ける!!
S・エリドリアンは吹っ飛び木に打ち付けられる!!


ガシャアアアアアアアアンンンンッ!!!!!!!!


「ぎゃああああああああァァァァァァァァッ!!!!」
「ooooooooッ!!亀ちゃんッ!!!!」

亀井が叫び声を上げる!!スタンドへの攻撃はそのまま本体への攻撃に繋がる。
つまり、スタンドが吹っ飛ばされたが為に、亀井自身も吹っ飛ばされてしまったのだ!!!!
鳥籠の柵に付けられている鋭い爪が、亀井に深々と突き刺さる!!!!

「い…痛い……」

亀井の腕から大量の血が流れる…。

「おお…お前はッ!!この戦いを侮辱したああああああッ!!!!!!!!」


バギィッ!!!!…ガシャアアァァァァンッ!!!!


なおもまだ、S・エリドリアンへの攻撃は続く。

「このッ!!このッ!!このこのこのこのこのこのこのこのッ!!!!!!!!」
「やめろォッ!!てめぇの相手はこっちだッ!!!!」

藤本がS・エリドリアンへの攻撃を止めに入ろうとするが…鎖の波状攻撃が迫る!!!!


S・エリドリアンはどれだけ殴られそして蹴られ続けただろうか……?
そして、亀井はどれだけ鳥籠の爪に体を切り裂かれただろうか……?


そして……ついには内部から打ち付けられた衝撃で鳥籠が倒れてしまう。さらに…


ゴロンゴロンゴロンゴロン…


横倒しになった鳥籠は転がる……中の亀井はその回転によってさらにカクハンされてしまう。
やがて鳥籠の回転は止まる……。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


亀井の鳥籠の周囲には大量の血だまりが広がって行く……。
そして、あちこちの爪にも血液が滴り落ちている…。ボロボロの衣服…。乱れた髪…。
ぬけがら……冷たい消失……命の消失……。
もはや亀井は何も言わない…動かない…。
ただの血肉でかたどられた『人形』と化してしまった!!!!!!!!

「亀えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
 ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええェッ
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

藤本の悲痛な咆哮が、冷え切った夜空へと響き渡った…。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


け…怪我をしているだけに決まっている…軽い怪我だ……。
ほら…しゃべり出すぞ…今にきっと目を開ける…。
いつもの笑顔で…『藤本さ〜ん、こんなのカスリ傷ですよ』って言うに決まってる…。
亀…そうだろ…?起きてくれるよな…?
お…起きてくれ!…頼むよ…亀井ッ!!


亀井は動かない。


ちくちょう…なんてこった……
あたしは…あいつのコトが好きだってコトが…今分かった……
あたしっていつもそうだ…いなくなってはじめて分かるんだ……
ヘラヘラしてナニ考えてんだか分かんねー…イライラさせる女と思ってたけれど……
そんなアイツを構ってるのが楽しかったんだ……
ときおり見せる心の強さと行動力……本当は誇り高い奴だったって事が今になって分かった……


「なんでこんな時に限って時間が戻らねーんだよおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


いや待てよ……『時間』!!……あたしにはまだ『満月の流法』があるじゃないか!!!!
今日は満月…時間が戻れば大丈夫なハズなんだ!!今の能力の限界は恐らく5分……。
亀井は……5分前には生きていた!!!!!!!!

「よし…やってやるぜ……。待ってろよ…亀ぇ……あたしが何とかしてやるからな…」
ヤツを倒せば、このクソッタレの鎖は消えるんだ。そうすれば……。

藤本は川畑を指差す。

「おい!!ゴリラ野郎!!今から即効でおめぇをブッ倒してやるッ!!!!!!!!」


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り4分27秒》…………


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あっし……なんで演劇部に入ったんやったっけ…?

ずっとずっと昔から宝塚のスターに憧れていたっけ…?
いつかはあのメンバーの中で一緒にステージの上で歌い、踊り、演じる自分を夢見ていた…。
今だって忘れてはいない。……だから演劇部に入ったんだ。

ステージで演じられるような恋にも憧れていたのかなあ…?
甘く、切なく、それでいて山あり谷ありの激しい恋…。
まるで演劇の『エリザベート』の様に…黄泉の帝王が現れて、自分を愛し奪い去ってくれる…。
そんな夢見る少女の様な時期もあったよなあ…。

エネスコさん……

彼はとっても素敵な人。ある日突然現れて、今こうして自分と寄り添ってくれている。
彼は『吸血鬼』。そう、モンスターなんだ。それはとてもとても悲しい運命から…。
少しでもその悲しみを消してあげたかった。彼の為に何でもしてあげたかった。
ずっとずっと側にいてあげたかった…。

でも……!!

やっぱり…自分は演劇部員なんだ。自分の居場所は演劇部なんだ。
エネスコさんも好きだけど、演劇部のみんなも大好き。
そして何よりも…演劇が好き。歌うのが好き。踊るのが好きなんだ!!!!
自分を偽ってはいけない…。自分を裏切ってはいけない…。
だから……帰らなければいけない…………『自分の場所へ』!!!!!!!!

……そう…あっしの生き方はあっしが決めるんだ……なぜなら……。


        『あっしはあっしだけのものなのだからッ!!!!』


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…………」
「どうかしましたか…?」

考え込むように黙り続ける高橋の顔をエネスコは覗き込む。
アイゼンシュタインの背中の上。2人は肩を並べながら星空の夜間飛行を続けている。
エネスコの屋敷からどれくらい離れただろうか?
しばらくは追い続けていた組織の連中も、今は山中で見失ってしまっていた。
もはや彼等を追うものはいない。ついに自由を手に入れたのだ。

「…………」

高橋はエネスコの問い掛けにも答えず、ジッと前を見つめていた。

「…降りましょう」

エネスコは大コウモリを下降させ、どこか峠の曲りくねる道へと降り立った。
そして、しばらく2人は見つめ続けるが、やがて高橋が口を開く…。

「エネスコさん。あのぅ…あっし、そろそろ……」
「お仲間の所へ戻られるのですね?」
「あ、はい。やっぱり…あっし…みんなの事が心配。だから…エネスコさん…」
「はい」

高橋の目が潤む…。しかし、溢れ出ようとするものを何とか堪えようとグッと力を入れる…。

「……エネスコさんとはここで……ここでお別れ…」
「…………」
「あっしは行かなければいけない…戦っているみんなの元へ…。仲間は見捨てられん。
 …それが演劇部員やよ。あっしは演劇部に帰らなければいけないんよ。だから……」

高橋は辛く悲しい表情でエネスコを見つめ続ける…。

「ここでお別れ。エネスコさんはここから一人で逃げて。あっしは戻る」

エネスコはそれを無表情で黙って聞いていたが、やがて口を開く。


「……残念ですが、それはなりません。私はまだあなたを手放す気はありません」


「ええッ!?そ、それは……!!!!」
「愛さん、ここからあなた一人でどうするつもりです?もう結構な距離を進んでいるハズです。
 あなたの足ではもはや間に合わない。ですから、あなたは私と一緒にいた方が良い」
「ほやけどッ!!あっしは…あっしは…それでも…!!」
「アイゼンシュタインならすぐに戻れますよ」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「え、エネスコさん…それって…?」
「愛さん…」

エネスコは優しい笑顔で語りかける。

「私は太陽が苦手です。しかし、その代わりにあなたという『太陽』が私を照らしてくれました。
 私はまだその太陽の光を浴びていたい。出来るだけあなたの側にいたい。
 もはや私は、あなたの虜になっているのです。
 私は催眠術師ですが、魔術に掛かってしまったのはどうやら私の方だったようです」
「ぁ…あぁ……」
「ですから……あなたはただこの私に一言だけ命令してくれれば良いのです」

エネスコは高橋の前にひざまずき、そっと右手を差し出す…。

「あなたの一言があれば……私はどんなに荒れ狂う大海原であろうと、
 燃え盛る紅蓮の炎の中であろうと……喜んで飛び込んで見せましょう…」

涙が頬を伝う……。

次の満月はいつだろうか…?いや、もう次など無いかもしれない。
彼にとって引き返すという事は自殺行為に等しい。組織は絶対に彼を逃がさないだろう。
なのに……この人はいつだっていつもと変わらない笑顔を自分に投げ掛けてくれる!!

「さあ、愛さん。どうかこの私めに……」

高橋は嗚咽しながら何とか声を絞り出す…。

「……ぁぁ…ぇ…エネスコ…さん……」
「はい」
「…どうかあっしを…みんなの元へ……連れて行って下さい……」
「……はい、急いで戻りましょう」

エネスコの笑顔は、これまでと同じ様に一点の曇りも無い、清々しい笑顔だった。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「即効でブッ倒す……?」

藤本の言葉を聞き、川畑は笑う。

「ウケッウケッ、ウケコッ、ウコケコケッ…さっきまでまるで歯が立たなかったヤツが何を…」


ビシィッ!!!!!!!!


「うがあァッ!!」

BT・03が鎖を振り上げる!!大きい波が高速で伝わり、川畑を直撃する!!

「お、お前!!さっきまで鎖なんかまともに振れなかったクセにッ…!?!?」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


(な…なんだコイツ!?……さっきまでと全く雰囲気が違うぞ……?)

「悪りィけど…おめぇと仲良くおしゃべりしてる暇は無ェんだよッ!!!!」

藤本は何の迷いも無く川畑に突っ込んで行く!!

「ばーかばーか!!お前の動きは鎖の振動を伝わってお見通しだって言ったろッ!!」

藤本はジャンプし、相手の背後に回りラッシュを決めようとする!!
川畑はこれまでと同様に目を瞑る…そして、藤本の動きを先読みするが…。

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!!!!!!!!」
「うげえええええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!!」

ラッシュをまともに食らって川畑は吹っ飛ぶ!!

「な…何でさッ!?ちゃんと振動はコッチに伝わって…?」
「『満月の流法』…おめぇが感じた振動は過去のモノだ。一歩遅れてんだよおめぇは」
「何ィィッ!!」
「おめぇにはもう赤信号が灯ってんだよ。赤信号目ェ瞑って渡るバカがいるか?」


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り3分51秒》…………


「オルァッ!!!!」


バシィッ!!


BT・03の右拳をアイアン・メイデンの左掌が掴む。川畑は不気味に笑っている…。

「ウコケコケ……汝は『人狼』なりや?」
「あン?何言ってんだてめぇ?」
「そもそも拷問というのはね、罪人の取り調べで行われる事件解決の為の手段なんだよ。
 容疑者の自白を促す為のね……それがなぜここまで過酷なのか?分かる?」
「知らねーよ!!あたしはおめぇの話になんか…」
「西洋のキリスト教世界において、拷問は穢れた魂を『救う』行為なんだよ。
 『罪を犯した者』とは『悪魔の誘惑に負けた者』…つまり『人狼』と言ってね、
 拷問によって罪人の自白を促し、その穢れた魂を浄化するものと信じられていたんだよ」
「だから何だっつーんだよッ!?」
「つまり…拷問は『善行』なんだッ!!」


ズボォォォォッ!!!!


なんとBT・03の拳がアイアン・メイデンの掌を突き抜けた!!穴が開いたのだ。
そして、そのまま腕をガッシリと固定される。

「自分の行いが正しいと信じているから出来るんだよ。相手が救われると思ってるんだ。
 相手が獣や悪魔なら何の良心の呵責も無い。だから、無邪気に残酷にもなれるんだ。
 裁く自分にはその特権があると思って、自分にも非があるのではなどと微塵にも感じない。
 そこに罪があるとするならば『無知』という罪。完全なる『善意』こそが生む災い…」

もはや藤本には理解不能だった…。しかし、川畑は悦に浸るように語る。

「……結局、誰もがみな悪魔に取り付かれ、それに気付かないでいるのさ」


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り3分13秒》…………


腕に痛みを感じた。良く見ると、相手の掌の穴の開いた部分…周囲に刃の様なモノが見える!!

「これは絞り込み式のギロチンになってるんだ…」


プツ…ツツツ…


カメラのシャッターの様に掌の刃が絞り込まれ、BT・03の右腕に深く突き刺さって行く。

「うわあああああああッ!!!!」
「悪いけど…私達にも目指す道がある。ここでお前達に邪魔される訳にはいかないんだ。
 どちらが正しいかなんてヤボな事言わないでよ。誰もが自分は正しいと思ってるんだ。
 だから結局、正しい者が裁くんじゃあなくて、強い者が裁くしか無いんだよ」

ジワジワとギロチンが絞られていく…。気絶しそうな程の激痛。それでも藤本は…、

「だったらよ……裁くのはあたしの方じゃねーかッ!!!!!!!!」

ギロチンに腕を絞られた状態で強引にパンチを繰り出す!!

「ウケケ…お前、バカだね」


ゴギャッグシャアアッ!!ブシュウウウウッ!!!!


藤本の右腕が完全に切断された!!

「ンンッ!!イイ音ォッ!!この肉と骨が潰れ砕ける時の音がこれま…」


ボグシャアアアアァァッ!!!!


「ンぺぺぺ…何いィ…!?」

アイアン・メイデンの顔面にBT・03の右拳がメリ込む。
腕を切断された瞬間に、ギロチンから外れた状態で時間を戻し、腕を治したのだ!!

「……あたしには腕1本など失ってもいい理由がある!!
 てめーが何をしようがこのまま攻撃を続けさせてもらうぜ…ゴリッ!!」


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り2分37秒》…………


「アギッ…グギッ…グゲッ…」

川畑の鼻が潰れ、顎が砕け、前歯が折れ、血が流れている…。

「いいか…このパンチは亀井のぶんだ……それは亀井がおめぇの顔をへし折ったと思え……。
 そしてこれも亀井のぶんだッ!!!!!!!!!」


バギョオォォォォッ!!!!


「そしてその次のも亀井のぶんだ。その次の次のも。その次の次の次のも……。
 その次の次の次の次のも……次の!!次も!!」


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!!!!!


「亀井のぶんだああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
 これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!これも!!」


ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンッ!!!!!!!!!


川畑は吹っ飛ぶ!!が、鎖が伸びきったところで藤本に引っ張られ静止し落下する。

「ぐぐぐ…はァはァ…」

あれだけのラッシュをくらったにも関わらず、まだ立ち上がろうとしている。

「おめぇのスタンドは頑丈さが取り得のよーだな。チッ…時間が無ぇっつーのに…」

藤本は腕時計を確認する。

(亀井の鳥籠はアイツの後ろ…ここからじゃ遠いんだ…。そろそろキメないとヤバいぜ)

その藤本の焦りの表情を川畑は見逃さなかった…。


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り1分49秒》…………


「はァはァ……お前…さっきから時間ばかり気にしてる…よね?」
「…………」
「お前の能力はモノを過去に戻す能力……それであの女を生き返らせようってんだろ?」
「……たりめーだ。だからあたしは…」
「でも、どうやら戻せる時間には限界があるみたいじゃないか?」
「…ッ!!!!」
「どのくらいかな?1時間?2時間?いや急いでる雰囲気では10分くらいかなぁ…う〜ん?」
「……さあ、知るかよ…」
「いや、私は……5分と見たね!!」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


藤本の顔からサアッっと血の気が引く……。

「おっ、青ざめたなお前……図星だろう?ズバリ当たってしまったか……」

川畑はピンと人差し指を立てる。

「なァーーーーーーーーッ!?」

(……ゴ…ゴクリ…)

藤本は生唾を飲み込んだ…。

(クソッ!!…けど、それが分かったから何だってんだ!!)

BT・03で高速ラッシュを決める!!が、しかし……!!


パンッ!!パンッ!!ササッ…!!


川畑はラッシュを遠ざかる様にして回避して行く。そしてニヤニヤしながらコッチを見ている。
それから何度も何度も藤本は攻めて行くが、相手はただ逃げ回るだけで攻撃する気配すら無い。

「てめぇッ!!ヤル気あんのかッ!!ゴルァッ!!!!」

川畑は口の端を歪め、今まで以上に不気味な笑みを浮かべる。

「いや、とりあえず逃げ回る事にしたんだよ……その5分が過ぎるまでさ…」


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り1分06秒》…………


「てめぇッ!!ふざけんなッ!!!!」

藤本は鎖を引っ張り、川畑を手前に寄せラッシュを決めるが、相手はガードを固めて逃げるだけだ。
そうしている間にも時間は刻々と過ぎてゆく…。

(チクショーッ…あたしにとってこれ以上の拷問があるかってんだッ!!!!)

「まあまあ、例え彼女が助からなくたって心配する事は無いよ。彼女の死は無駄にはならないよ。
 究極の人間を創り出したら今度は『生殖』だよ!!これこそまさに究極の究極ゥッ!!
 それにはちょうど女手が必要だったんだよね。彼女にはその『母体』になってもらおうかなァ?
 ……新鮮な内に子宮だけ取り出してさッ!!!!」


プッツーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!


「うおおおおおッ!!てめええええーッ!!!!どこまでも腐りきってやがるッ!!!!」

完全にキレた藤本はただガムシャラに突っ込んで行く!!

「クケケコ…冷静さを失ったか…それが狂気の始まり!!やはりお前も人狼なんだッ!!」


ジャララララララララララララーーーーッ!!!!


「鎖を伸ばしたあ!!油断したな!!一定だと思っていたお前の負けだッ!!」

延長した分で輪っかを作り、BT・03を両腕ごと囲んで締め付ける。

「必殺技!!天地来蛇殺(ヘルヘブンスネーキル)ッ!!」

藤本の首とBT・03の体を同時に締め上げる。そして、さらに引き寄せ…、
アイアン・メイデンがガバッ開く!!ついに藤本はスタンド共に棺に放り込まれた!!!!


グッシャアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンンンンンッ!!!!!!!!


藤本を閉じ込めたまま、アイアン・メイデンの扉は勢いよく閉じられた!!!!


…………《亀井絵里死亡後5分経過まで・・・残り23秒》…………


「ooooooooiiiiiiiiiiiiiiiiッ!!!!ミキティィィィィィィッ!!!!!!!!」

小川の叫びが辺りに響く!!

「安心しなよ、次はお前の番だから……さて、まずはコイツの死体を…」


!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?


「……何か聞こえるゾ…oi…?」

vv…vv…vvvv…

「どこだヨoi?……どこか遠くから聞こえるようナ…?」

…vvv…vvvvv…!!

「だんだん近付いてくるようナ……マサカッ!?…こ、この声はッ!?」

「vvvvvvvv…VVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!!!!!!!!」

……このラッシュの掛け声の持ち主と言えば…!!!!

「ミキティだよオオオオォォォォォォォォッ!!!!」

アイアン・メイデンの棺のフタが勢いよく開く!!

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

BT・03のラッシュが続く!!棺のフタをフッ飛ばし、内壁の針もヘシ折って行く!!

「スゲーーーーッ!!ダイヤと同じ固さだつーのにヨォッ!!!!」

藤本が棺から飛び出す!!

「確かに固ぇが叩き折ってやったぜッ!!!!ちとカルシウム不足だったようだなッ!!!!」
「そんなッ!?ウソぉッ!?ありえないッ!!シー・イズ・アンビリーバボーッ!!!!」
「なぜだか分からねーのか?だったらあたしが教えてやるよッ!!!!
 てめーの敗因はたったひとつだぜッ!!たったひとつのシンプルな答え…それは…!!!!
 …………『てめーはあたしを怒らせた』ッ!!!!!!!!」
「うげええええええええェェェェェェェェッ!!!!!!!!」

「ミキティッ!!!!残り『5秒』だッ!!!!」

「おっしゃああああッ!!!!VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!!!!」


ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンンッ!!!!!!!!!


BT・03の全身全霊の力を込めたラッシュ!!川畑は思い切り後方へとフッ飛ばされる!!
小川は鳥籠の中で手に汗を握りながら腕時計でカウントをしている。

「『4』ッ!!!!」

鎖が最大限に伸びきるが、そのラッシュの凄まじいエネルギーの勢いは止まらない。
そのまま藤本までが首を引っ張られ、川畑を追う様な形で前方へとフッ飛んで行く!!
そして、その先には木が何本か並んでいるのだが…。


グッシャアアアアアアアアアアアンンンンッ!!!!!!!!


川畑は木にまるで破壊するかの様な勢いで激突する!!

「ぐへええええええええェェェェッ!!!!!!!!」

「『3』ッ!!!!」

川畑の体は木の幹にメリ込む!!
藤本はその川畑を支点とする様にして、遠心力でさらに向こう側へ飛ばされる!!
その飛ばされた先には何があったのか……!?

「『2』ッ!!!!」

藤本は鎖に首を引っ張られた状態で両手を広げ、満月の光を全身に浴びる!!!!


パアアアアアアアアアアアアンンンン…!!!!!!!!


BT・03の輝きが増して行く!!それはまるで闇の空を駆け抜けて行く銀河鉄道の様だった!!

「『1』ッ!!!!」

「うおおおおおおおおッ!!!!満月のォォ流法おおォォォォォォォォッ!!!!!!!!」


ビカアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーンンンンンンッ!!!!!!!!


…………
………
……


「……ぜ…『ゼロ』だヨ……ミキティ……?」

鳥籠は既に消えている。小川はただその場で藤本の様子を心配そうに窺う…。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


これは偶然なのか…?奇跡なのか…?それとも藤本の計算だったのだろうか…?
藤本が反動で飛ばされた先……
それは…なんと……亀井の鳥籠のすぐ目の前であった!!!!


ババババアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンッ!!!!!!!!!!!


「うおおおおおおおおおおおお!!!!亀ええええええええええええええええェェッ!!!!」

亀井はまるで寝起きの子供の様に虚ろに目を開く…。

「……藤本さん?……そうか…勝ったんですね……うへへ…やったー☆」

亀井はニッコリ笑う。

「うわああああああああああああンンンン!!!!かめいいいいいいいいいいいィッ!!!!」

藤本は亀井を思いきり抱きしめながら、ただただ大声を上げて泣いた。
……涙が止まらなかった!!


…………


「良かったヨォォ…亀ちゃんンッ!!」

小川も駆け寄り、3人で抱き合って泣いている時…、

「ノストラダムスのォォ!!予言はァァァァ!!ハズれてしまったのかァァァァッ!!!!」

研究所所長でもある堂珍がけたたましく叫ぶ。
お陰で3人の感動も気を削がれてしまった。

「な…なんなんだよアイツ!?」
「違ァアアアアうゥッ!!予言はァァ!!始まったァァァァ!!ばかりィィィィッ!!!!
 今にィィィィィィィィィ!!来るぞォォォォォォォ!!大魔王ゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」

堂珍は右手を高々と掲げながら宣誓している。
藤本がツカと歩み寄る。

「あれって7月だったっけ?見事に外れてんじゃんかよ」
「違ァう!!アレは始まりッ!!これから来るのだよ、大魔王が」
「バーカ、おめぇ本気で信じてるのかよ?一体なんの根拠があって…」
「ある。なぜなら…我々は実際に大魔王を目撃しているからだッ!!」
「はぁぁ!?」
「私は直接見た訳では無いが、60年程前…二次大戦前にナチス軍がアレに遭遇しておるのだ」

堂珍はこれまでの高揚を一転させ、落ち着いた表情で話す。

「我々の研究所の歴史を遡れば、それは自ずとドイツのナチス軍に行き着く。
 元々ナチスの一研究機関が形を変え、各国に広がり、日本では私が所長を務めるに至ったのだ。
 ……その研究の目的はただひとォォォォつッ!!!!」

再び調子が上がって来る。

「天から舞い降りる大魔王に備えェェッ!!究極の人類を創造する事だァアアアアアア!!!!」
「だからナンなんだよッ!!その大魔王ってのはよッ!!」
「ナチスではこう呼んでいた…『究極の生命体(アルティミット・シイング)・カーズ』とッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「カーズ!?それならS市の駅前で占いやってるぞ」
「藤本さん!!たぶんソレ違う!!」
「ある勇敢な青年によって、カーズはいまだに宇宙空間に放り出されたままである。
 しかし確実に言える事は、ヤツは決して死んではいないという事だッ!!!!
 いずれヤツは地球に戻ってくると我々は考えるゥゥゥゥッ!!!!」

緊張なのか?話し疲れなのか?堂珍の額や頬に大粒の汗が流れる。やや息も乱れている様だ。

「つまり、ソレがあの予言の『大魔王』ってコトか…?」
「うむ」
「ナルホド…単なるヘンな研究所でもなかったんだナ…oi」
「変とは失敬なッ!!…まあ良い、分かったのならキミ達さっさとエネスコを返したまえ」
「イヤだね」
「何ィィィィッ!!!!」

藤本は指を組んでポキポキと鳴らす。

「偉そうにお題目唱えりゃなんだって許されると思ってんのか?あン?」
「ななな…ナンだねキミ?我々は言わば世界を救う為にダネ…」
「世界が何だって?そんなモン救う前にエネちゃん救ってやれよ」
「そんなモン!?世界がァァァァそんなモンンンンッ!?!?」

予想外の返答に怒り興奮する堂珍を藤本はギロリと睨み付ける。

「今、人ひとり助けらんねーヤツが世界の未来を語ってもあたしはそんなモン信じない」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「あたしゃバカだから科学とか魔王とか言われても良く分かんねーんだよ。
 あたしが人狼?悪魔?上等じゃねーか。これがあたしだ。受け入れるしかねーだろ?
 だから、何があろうがあたしは自分の信じた道を歩く!!自分の助けたいヤツを助ける!!」

藤本は自身のスタンド『ブギートレイン03』の肩に手を掛ける。

「あたしの人生に敷かれたレールのずっとずっと向こう側……
 そいつを知りたいから、あたしはコイツ(BT・03)で突っ走ってんだッ!!」


バアアアアアアアアンンンンッ!!!!!!!!


「決裂か…ならば致し方ないな。残念だがキミ達をこのまま無事に帰す訳にはいかないのだ」
「やるってのか?見たところ残るスタンド使いはおめぇ一人みてーだけど、
 こっちはピンピンしてるのが3人もいるんだ。しかも今日は満月。負ける気がしねーな」
「なァアアにィが満月だッ!!『浮かれてる』んじゃあないぞ……皆の者ォォォォッ!!!!」


ガチャガチャッ!!ガチャッ!!


周囲の男達が拳銃やライフル、火炎放射器等を藤本達に向けて構える。

「oioioioi…ナンだヨッ!?!?汚ねーゾッ!!!!」
「フン!くだらんなァァ!!私は川畑クンと違って一対一のスタンド勝負には興味無いのだよ。
 我々の目的はあくまでも『エネスコ』!!あくまでも『究極生物』を創造すること!!
 どんな手を使おうが…最終的に……勝てばよかろうなのだァァァァァァァァッ!!!!!!」

1、2、3……十数人が堂珍の前に立ち並ぶ。距離は5、6メートル。
藤本の『満月の流法』、小川の『神速』、亀井の『エリザベス』があれば防げない事も無い。

「よっしゃ、いっちょひと暴れしてやっか…!!」


ポンポン…


堂珍は自分の後方にあった研究所の車を掌で軽く叩いた。

「この自動車はね、水素エネルギーで動いてるのだよ。クリーンエネルギィィィィッ!!!!
 水素は燃焼させても水しか生成されないからね…そう水しか……」


バコォッ!!!!


ケミストリーで自動車の燃料タンクを殴る!!腕はそのままタンクへと突き抜ける。
そして、なぜかもう片方の掌から水が流れる……次第に流れは大きくなる。まるで水道のようだ。

「水素と空気中の酸素を融合させて『水』を作ったァァァァァァッ!!!!」

大量の水は藤本達の方へと流れ、足元に水溜りが広がって行く…。

「水…?だから何なんだ?」
「でも…油断しちゃダメですよ…」
「そうだナ、亀ちゃんの言うとーりだゼ…」

ケミストリーはタンクに突っ込んでいた手を引き抜くと、しゃがみ込み今度は地面に手を付く。

「今度はァッ!!この水をッ!!地面と融合させるゥゥゥゥゥゥッ!!!!」


ドプン!!


「うわああッ!!なんだァ!?足がッ!!」

突然、地面がまるで泥地のように液化する!!そこに3人の足がハマる!!
もがけばもがくほど足は深く沈んでゆく…。

「だったら満月の流法で液状化を戻すッ!!」
「ダメだミキティ!!それだと足がハマッたままで固まっちまうよォォォォ!!」
「安心しろォ!お前がやらんでも私がソレをやってやるゥ!!水と地面を分離ィィッ!!!!」
今度は地面が固まり、水はそのまま流れて行ってしまった。3人の足はハマッたままだ。
「げえええええ!!!!動けねーぞッ!!!!」

堂珍は胸を反らし、手を拳銃の様な形にして3人に構える。

「一斉に撃て工工エエェェエエ工工エエェェェェッ!!!!」


ダダダダダダダダダダダダダダダダーーーーーーーーン!!!!!!!!


無数の弾丸!!が3人目掛けて空を切り裂き飛んで行く!!

「うわああああああああァァァァァァァァ!!!!!!!!」


ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!!!


しかし、なぜか弾丸は全て3人を逸れて飛んで行く。

「は…?」

「何をやっておるかァァ!!バカモンッ!!もう一度!!もう一度ォォォォッ!!!!」

黒服と作業服達は再び拳銃や火器を構え発砲・発射する!!
しかし、3人に命中する事は無い…!?!?


バサッ…バサッ…バサッ…バサッ…


上空から何かが羽ばたく様な音…??全員が思わず空を見上げる…。
何かが…何かが…こちらに迫って滑降して来る!!……あの大コウモリだ!!!!

「アイゼンシュタイン!!はよしねまアアアァァアアァアアアァアァァ!!!!」


ギィィィィッ!!!!


「うわああああッ!!!!」

組織の男達は今度は武器を取り落としてしまう。

「そうかッ!!さっき銃弾がソレたのはあのコウモリちゃんの超音波のせいかヨォォ!!!!」
「で……デカくなってないか?」

3人の真上、大コウモリからエネスコと高橋が飛び降りる!!
そして、エネスコが高橋を胸に抱き上げた状態のまま、真っ直ぐに両足を地に付ける。

「わぁあ…お姫様だっこですよ…」
「愛ちゃんンンッ!?!?うわああああんッ!!ミキティッ!!ワタシを抱いてッ!!!!」
「だからマコ、おめぇはいちいち泣くなッつーのッ!!!!」


ボゴォッ!!ボゴォッ!!


高橋もエネスコに手を添えられ地に降り立つ。
すぐさまLA・ルノアールで地面を殴り、3人の拘束された足を開放する。

「はぁい☆」

「エネちゃん!!高橋!!何で戻って来たんだよッ!!」

藤本は二人に大声で問い質す。怒っている訳では無く、ただ真剣なのだ。

「みなさんと一緒にいる方が楽しそうですから。故郷は次の機会にでも…」
「ああッ?次の機会って…!?」

何かを言おうとした藤本を高橋が制する。

「今私達がする事は…『全力でエネスコさんを守る』。それだけやざ。話は後」


ダダダダダダダダーーーーンン!!!!!!!!


話している間に、態勢を立て直した相手の射撃がまたもや始まる!!!!
エネスコは前に立ち塞がると、弾のいくつかは体に受け、またいくつかは手で弾き返す。
体にメリ込んだ弾を払い落とし、そのまま相手側に突っ込むと、拳銃を奪い取り…


グニャァーーン


なんと折り曲げてしまった!!

「す…スゴい。…素手ですよ?」
「いちおー吸血鬼だもんな」


ビカーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!


突然眩しい光がエネスコを包み込む!!

「……紫外線照射装置ですね」
「oioi…エネちゃン!!大丈夫なのかヨッ!?」
「この程度なら、満月による回復量の方が勝っています」

エネスコはマントで飛翔しながら組織の男達を相手に攻撃を続ける。
しかし、決して相手を必要以上には傷付けない。武器を破壊するだけだ。

「ドララララララララララララァァァァァァァァッ!!!!!!!!」

エネスコのラッシュが相手の武器になりうる物全てを破壊し尽くす。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ボボボボボボボボボボボボウウウウゥゥゥゥ!!!!


「うわあァァァァッ!!!!」

武器の区別無く攻撃していたエネスコの油断を衝いて、火炎が全身を包む!!!!
炎には耐性が無い体が焼ける。火脹れを起こし、黒く焦げ、鼻を衝く異臭が広がる!!

「エネスコさんッ!!!!」
「問題ねーよ!!満月の流法!!」

エネスコは一瞬にして元の姿に戻る。彼は少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔に戻る。

「これが愛さんが言っていた『過去に戻る・戻す能力』……素晴らしい能力です」
「えッ…!?」
「人間は何かを破壊して生きていると言っても良い生物です。破壊したモノは戻らない。
 その中であなたの能力はこの世のどんな事よりも優しく…大きな可能性を秘めています。
 この輝く満月によって与えられたモノなのでしょうか?非常に『ロマンティック』ですね」
「エネちゃん…」
「あなたは失った過去を取り戻す事が出来る……。
 あなたが優しくあれば、いつかきっとみんなが、この町が優しくなれるでしょう」

エネスコの言葉を聞き、藤本は思わず胸が熱くなる。

(この人…こんな状況でなんで笑顔でいられるんだ!?優しくいられるんだ!?)

「よし、考えたぜ!!……満月の光を浴びている時だけ出来るこの能力の名前ッ!!
 満月だからあたしが浮かれてる?ロマンティック?最高じゃねーか!!ならよッ!!」

藤本は右握り拳を親指と小指の二本だけ立てた状態で、顔の前で軽く揺らしポーズを取る。

「この能力を特別に『満月の流法…ロマンティック浮かれモード』と名付ける!!」


ババババアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンッ!!!!!!!!!!!


堂珍が大声を張り上げる。

「ならばァァァァ!!装置の出力をあげろォォォォ!!照準も絞るんだァァァァッ!!!!」


ビイイイイィィィィィィィィーーーー!!!!


エネスコに光が当てられる。その部分にだけ軽く火脹れが出来る。
照射範囲が狭くなったせいで回避し易くはなったが、当たれば回復が追い付かない。


ギィィィィイイッ!!


エネスコの大コウモリが陰になり、エネスコへの照射を防ぐ!!

「アイゼンシュタインッ!!!!」

アイゼンシュタインもまた『肉の芽』で吸血鬼化したコウモリであった。
ツヤのある見事な翼が破れた傘の様にボロボロになって行く…。
しかし、それでも自分の主人を守る事を止めず、ただ体を大きく広げ鳴いている。
紫外線照射装置は地面に固定されているので、超音波で敵を狂わせても無関係なのだ。

「だったら!!あたしの『ロマモー』でッ!!!!」

藤本が飛び出すが、その前にケミストリーがアイゼンシュタインに近寄りその体に手を当てる。
もう一方の手には拳銃…。

「や…ヤバいッ!!アイツに『融合』させるなッ!!」
「いいや!!もう遅いィ!!融合ゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!」


パワワワワワワワ……チーン!!


アイゼンシュタインの姿が消えた…。そして手に持っている拳銃を藤本に向けで打つ!!!!


ギギギィィィィ!!!!


拳銃から甲高い奇妙な音が発せられ、藤本は頭を抑えながら倒れる!!

「こ…これは…!?」
「互いの能力の『融合』ッ!!『超音波光線』の出来上がりィィィィッ!!!!


ジャジャアアアアーーーーン!!!!


アイゼンシュタインは光線銃と化した。時間を戻したところで紫外線による死は避けられない…。

「ア…アイゼンシュタイン…」

呆然と立ち尽くすエネスコを小川が引っ張る。

「oioi…ここにいたんじゃエネちゃンまでやられちまうゼ」

武器の類はエネスコがほとんど壊してしまった。
スタンド使いでは無い組織の者達はただ眺めているだけしかなかった。
小川はその男達をただ睨み付けるだけで遠避け、屋敷の入り口付近へとエネスコを連れて行く。

「エネスコさん…」

亀井は心配そうに彼を見詰める。

「彼は研究所に入ってからは、一番の友人であり、また忠実なるしもべでもありました。
 私が研究所から身動きが取れない時でも、彼はこの屋敷で私を待っていてくれたのです」

遠くを見ながらとても冷静に語るエネスコだったが、亀井は見逃さなかった…。
彼の肩が小刻みに震えている。強く握り締める拳からは血が流れる。爪が突き刺さっているのだ。

(辛くないワケが無いよ!!でも泣けないんだ!!
 彼の命懸けの行動を無駄にしない!!それが…彼に対する敬意だからッ!!!!)

亀井は『本当の紳士』とはどういうモノなのか、少しだけ理解出来た気がした。

「ンンンンッ!!素晴らしいィィィィ!!ケミストリーこそ究極の究極ゥゥゥゥッ!!!!」

倒れている藤本を眺めながら、堂珍が大袈裟にポーズを取りながら叫んでいると、


ザァッ!!


物音に堂珍が後ろを振り返ると、そこには高橋が立っていた。

「アンタの相手はあっしやよ」
「お前、いつの間に!?!?」
「友人アイゼンシュタインの魂の名誉のために!!エネスコさんの心の安らぎのために!!
 …そして、あっしの演劇部エースになる者への証明のために!!」

ライク・ア・ルノアールが発現する。

「貴様を絶望なる闇の奥底へブチ込んでやるッ!!!!」
「なああにィが絶望なるナンチャラだッ!!お前にこの私のォォケミストリィィィィがッ!!
 倒せるとでもォ…」


バキッ!!


大きな音を立てて、LA・ルノアールが近くにあった木の枝をヘシ折り、堂珍に向け構える。

「ほほう…コレで何をしようってのかな…?」
「貴様などスタンド越しに触れるのも穢らわしい。この枝1本あれば十分がし」
「ククク…強がっているが、本当は単に私のケミストリーの腕に掴まれるのが怖いのだろ?
 あのコウモリの様に何か別モノに変化させられるのが恐ろしいのだろうォォ…えェ?」

枝の長さは1.5メートル位あり、短距離型のスタンドにとって中距離を保つには丁度良い。
仮に枝を掴まれたところで結果はたかが知れている。


ブウンッ!!!!


LA・ルノアールが堂珍目掛けて枝を振り下ろす!!

「この程度の攻撃が何だァァァァァァァァッ!!!!」
ケミストリーが手を広げ、枝を受け止めようとする。


ヒュン……バシィィィィン!!!!


「ヒゲェェェェッ!?」

太さもあり、決して大きくしなる様な枝では無いのだが、
なぜかまるでムチの様にグニャと曲がり相手の防御をかわして堂珍の顔に食い込む!!


「…見たかヨ、亀ちゃん?ルノアールで一瞬に何度も枝を殴って、枝に柔軟性を持たせたんだヨ」
「…ホントですか!?僕にはサッパリでした…」
「よーく見るんだヨ、うちらのエースの戦いぶり……自分が強くなるタメにもネ…」
「は、はい!!」


「ちくしょおォォォォ!!ならばァァこれをくらえェェェェッ!!!!」

堂珍が超音波光線銃を高橋に向ける。


ギギギギィィィィッ!!!!
ドガガガガガガガガーーン!!!!


堂珍が引き金を引くと同時に、高橋の前に数本の迫り出しの柱が立ち並ぶ。

「だから何だと言うのだァァァァァァッ!!!!」

繰り返し引き金を引くが、ただ音が響くだけで高橋には何の異常も感じられない…。

「……な…なぜだ?」

何度繰り返しても、高橋は同様に迫り出しの柱を作るだけで、ケロッとしている。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


よく見ると……迫り出しが僅かに震えている…!!!!

「……ま、まさか……音叉かッ!?!?」

堂珍の問いかけに、高橋はニヤリと笑う。

「震わせた迫り出しを共鳴させて、音波の壁を作った!!
 貴様の超音波は、その壁に掻き消されたんやざッ!!!!」


ババババアアアアアアアアァァァァーーーーーーーーンンッ!!!!!!!!


「す、すごい……『科学には科学を』って事ですかね…小川さん?」
「……やっぱ学校の授業はチャンと受けるべきだナ…oi」


高橋は枝をブンブンと軽く振り回しながら堂珍に近付く。

「『水面の波紋を打ち消すには、その横に石を投げて別の波紋を作れば良い』」
「ムムムム……」


「愛ちゃん、れいなから波紋のコト色々教わっていたから、その知識なんだろうナ」
「うん……やっぱり高橋さんはスゴい人だよッ!!」


少し風が吹いてきたようだ。空には雲がチラホラと浮かび上がり、時折満月の光に影を作る…。


ブンッ!!ブンッ!!


LA・ルノアールが枝を振り回し、それをかわすべくケミストリーが何とか防御をする。
しばらくはそんな繰り返しだったが…。

「ハァ……ハァ……」

次第に高橋の息が上がって来る。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」

何かがオカシイ?この程度の運動で息が切れるはずがないのだ…?
やがて動きまでが鈍くなる。頭がクラクラするのだ。それと、何か妙な『臭い』……?

「人というものは常に究極を求めるものなのだよ。結局、お前だってそうだろ?」
「!!!!」
「人として生まれた以上は何かを極めたい…もっと言えば全てを極めたい。
 そして…あらゆる生きとし生けるモノ達の頂点に立とうと欲する!!それが人間だッ!!」

高橋は攻撃しながらも、やはりどうしても相手の声に聞き耳を立ててしまう。

「先程の言葉は訂正しよう。『世界を救う』などとは欺瞞に満ちておる。
 我々はただ『人間より優れしモノの存在』を許せないだけなのかもしれん…」

そして、堂珍は腕を高く掲げ、興奮しながら、唾を飛ばし、声を張り上げる。

「カーズのような悪の大魔王に対してでも、それを超え、跪かせる事にシビれるゥゥゥゥ!!!!
 『善悪の彼岸』をも超越し、全てのモノを見下ろし、支配する事にあこがれるゥゥゥゥ!!!!
 それこそ人間の究極の欲望ゥゥゥゥ!!究極の究極なのだァァァァァァァァッ!!!!」


ジャジャジャアアーーーーーーーーン!!!!!!!!


「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……」

高橋の顔が蒼くなり、表情も苦悶に歪んできている…。

「な…ナニが……!?コレは……?」
「太古の地球、窒素と二酸化炭素を主とする大気に『酸素』をもたらしたのはシアノバクテリア」

突然、堂珍はまるで意図の見えない話しを始めるが、さらに続ける…。

「酸素は爆発的な増加をみせたが、しかし、その頃の生物にとっては酸素は『猛毒』だった…。
 その当時の生物の大半は『酸素』によって絶滅したとされている。
 そう……『酸素の発生』が地球史上で初かつ最大の環境破壊だったのだよッ!!!!」
「…ハァ…ハァ……」
「動物達はミトコンドリアを細胞に取り入れる事によって、それをエネルギーに変換したッ!!
 今となっては、『酸素』は我々にとって不可欠のモノとなったのだァァァァッ!!!!
 ……その『酸素』を取り除いたのだよ」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「空気中の酸素を『融合』でオゾンに変えたァァァァーーーーッ!!!!!!!!
 奇しくも、オゾンは現在の環境問題の重要なファクターの1つッ!!!!
 そうコレはァァァァ!!偶然では無くゥゥゥゥ!!!!運命ィィィィッ!!!!」

あの妙な『臭い』とはオゾンだったのだろう……。
コピー機等に使用され、改良によって今ではさほど感じにくくなってはいるが…。

「オゾンは酸素以上の『猛毒』ッ!!ヘタすると私自身にも影響を起こしかねない…。
 ウマい事にオゾンは空気よりも重く出来ておる……。 
 だから空気中の酸素の濃度を低くするにとどめ、後はお前の疲労を待つだけだァッ!!」


ドゴッ!!


弱っている高橋の腹にケミストリーの一撃!!息が詰まり、高橋は軽く飛ばされる!!
空気の薄い高地で激しい運動をしている様なモノなのだろう。指先に痺れすら感じる。


ガクッ!!


高橋は地に膝を付き、もはやまともに動ける状態ではない。
ケミストリーは片手に光線銃を持ったまま、もう一方の手を高橋に向け、振り下ろす!!

「それ!!融合オオゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーッ!!!!」

(マズいッ!!!!)

高橋はとっさに木の枝を振り上げる。ケミストリーはそれを掴んでしまう!!

「何ィィッ!?」


パワワワワワ……チーン!!!!


ケミストリーの『融合』能力によって光線銃が再び形を変える。


バシィッ!!!!


すかざず地面から迫り出しが現われ、ケミストリーの手を弾く!!
宙に舞う『拳銃』…高橋はそれをフラ付きながらもキャッチすると、堂珍へ向け構える。

「ハァ…今度は…貴様がくらう番やざッ!!」


プシュゥゥゥゥ…


しかし、銃の先からは気の抜けた様な音がするだけだった。

「な…ナンよ…!?」
「バァカめ!!もうそれは超音波光線銃では無いのだよ」
「あ……!!」
「『光線銃』と『木の枝』の融合で何になったかは知らんが、まあ大したモンでもあるまい」


プシュ!プシュ!プシュシュ…


「そんなガス漏れのガラクタ使ったところで私はなァんも感じんわィ!!くらえェェェェ!!」
振り下ろされるケミストリーの腕をLA・ルノアールで防御しようとするが…
「ほれ、足元がお留守だぞォ!!」


ドガガガガーーーーンン!!!!


相手の腕にばかり注意を向けていた高橋に、ケミストリーの連続蹴りが決まった!!!!
高橋はフッ飛ばされ、そのまま全身を地面に強く打ち付ける!!

「…うぅ…ハァハァ…」

高橋は喘ぎながら、口の周りの砂混じりの血を掌で拭い取った。
純白のドレスももはや血とドロで汚れ、ただ赤いバラのコサージュだけが活き活きと咲き誇る。
堂珍はさらに追い討ちを掛ける!!

「酸欠の上にこのダメージ!!もはやどうにもなるまいッ!!!!」


ドカッ!!


再び横腹に蹴りを入れる!!

「うがあッ!!」
「人間の欲望には果てが無いのだァァァァ!!」


バキィッ!!


「あらゆる欲望や誘惑を取り込み、己が全ての欲望の頂点と化す!!それがァァアアッ!!!!」


ドゴォーンッ!!!!


「究極のォォォォ究極ゥゥウウゥウゥゥゥウウウゥゥウウゥゥゥゥッ!!!!!!!!」


ドカドカドカドカドカドカッ!!!!!!!!


高橋は地にうつ伏せで大の字に体を広げた状態で倒れるが、
やがて、それでも何とか立ち上がろうと手を突っ張らせ、膝を付く。
背を向けた状態で無防備な高橋に対し、ケミストリーの腕が襲い掛かる!!

「今度こそォォ!!融合ゥゥゥゥッ!!!!」

ついに、ケミストリーの手が高橋の肩に掛かった!!!!


ドシュドシュドシュドシューーーーンッ!!!!!!!
ドガガガガァーーーーンッ!!!!!!!!


「うげぼああアァァーーーーンンッ!!!!」

高橋の周囲から一点に集中する様に迫り出しが飛び出し、ケミストリーを後方へフッ飛ばす!!
恐らく、高橋は倒れる瞬間に着地点の周囲の地面を殴ったのだろう…。
そして、大の字になってその凹みを隠し、相手が近付いた時にそれを開放したのだ!!

「おォォお前ェ…まだそんな元気が……!?」

堂珍は額から血を流し、情けない顔をしながら高橋を睨む。
すると、高橋はスクと立ち上がり、黙ったまま堂珍を睨み返す。

「ナゼだッ!?瀕死のハズのお前がッ!?理解不能!?理解不能ゥゥゥゥッ!!!!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「あっしラ動物は…酸素をエネルギーに変えて二酸化炭素という排気ガスを排出する。
 その二酸化炭素は時に我々にとって大きな負担となり得るワケだ…」

高橋はブツブツと言いながら、堂珍に近付く。

「一方、植物は太陽光を受け、『二酸化炭素と水』を『栄養素と酸素』に変換させる…。
 つまり……植物にとっては『酸素』こそが排気ガスとなるンかィのぉ…?」

そう言うと、高橋は先程の拳銃を取り出し、銃口を口に当てる…。


プシュゥゥゥゥ…!!


「ま……まさかッ!?さっきの『融合』で完成したモノとはァァッ!?!?!?!?」
「植物は『酸素』を作り出す!!貴様の作ったのは『酸素供給銃』なんやよッ!!!!」
「そ!!そんな偶然あるワケが…!?!?」
「貴様が言ったんだろガ!!これは『偶然』ではなく……『運命』だああああッ!!!!
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーーッ!!!!!!!!!!」


ドッパーーーーーーーーンンッ!!!!!!!!


「うげええええええええええええェェェェェェェェッ!!!!!!!!!!!!」

堂珍はスタンド共々フッ飛び、あちこちの機材やバラの植木も蹴散らして行く!!
そして、研究所のトラックに激突し倒れる。

「チクショオォォォォッ!!!!許さんッ!!絶対に許さアァァーーン!!!!」

そして、堂珍は近くにあった特別大きな…まるで機関銃のような機械をイジり始める。

「よしッコイツは動くぞッ!!この『紫外線照射装置』は特別なのだァァァァ……」

何やらいくつものスイッチを切り替え、ツマミを回す…。

「ハァ…ハァ…良いぞォッ!!『照射レベル?(ガンマ)』ァァァァァァァァッ!!!!」

機械を高橋に向けて、両手を使って大きめの引き金を引く!!

「苦しんで死ねィッ!!バーカめがッ!!!!」


カチッ!


ドスドスドスドスッ!!!!


高橋は攻撃に備えて迫り出しの壁を作り、防御の姿勢を取るが……。
装置からは何も発せられない?……やはり壊れていたのだろうか?

「????」
「あーーハッハッハッハッァァァァーーーー!!」

それでも堂珍は機械を高橋に向け構えたまま高笑いしている。

「oioi…何にも起こらないジャンかヨ…?」
「それなのに笑ってますよ…?」

小川と亀井の二人は少し安心したものの、敵の意外な反応にやや首を傾げる。

「何という事だッ!!!!!!!!」

突然の大声に二人はビックリする。振り向くとエネスコが驚愕の顔を浮かべている…。

「堂珍博士!!……あなたは何という『恐ろしい』事をッ!?!?ああッ!!!!」

髪をクシャと掴み、頭を抱えるエネスコを不思議そうに見つめる二人。

「どうしたんだィ、エネちゃん?ナニがそんなに恐ろしいって言うんだヨ?」
「あの機械…何も起きないですよ?高橋さんだって平気そうだし……?」
「『何も起きていない』のではありません……『見えない』だけなのですッ!!!!」
「見えない?…ってコトは、実際には何かが起きているってコトなのかよォォ!?」
「はい。照射装置の『レベル?』とは放射線を機械から放つことです。
 目には見えませんが、あそこからは粒子線と電磁波が放たれています。
 そしてそれは…壁や人体をもすり抜け……その組織をジワジワと破壊するッ!!!!」
「ええええッ!!!!それじゃ、愛ちゃんはッ!?!?」

高橋は相手の奇妙な行動を警戒しながらも見つめていた。すると顔に前髪が掛かる……。
鬱陶しく思い、大きく掻き揚げる。何やら手の感覚に違和感を感じ、思わず掌を見る。
……手には頭髪の束が絡まっていた!!!!

「な……!!コレは…あっしの髪の毛かッ!?!?」

「もはや一刻の猶予もありませんッ!!!!」

エネスコは叫ぶ。

「お二人は早く気絶した藤本さんを起こしてあげて下さいッ!!!!」
「エネスコさんはッ!?」
「私は……愛さんを救出に向かいます!!」
「バカなッ!!紫外線が苦手なエネちゃんがもし放射線なんか浴びたらどうなるんだヨッ!!」
「分かりません」
「分からないって……」

エネスコは胸を張り、誇らしげな笑顔で答える。

「危機に陥った姫(プリンセス)を救出するのが、騎士(ナイト)の務めですから」

それだけ言うと、エネスコは走り出した!!!!


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


エネスコは思う…


なんという数奇な人生であったのでしょうか?
研究所の所長である父を持ち、比較的裕福な家庭に生まれ育ちはしたものの、
事件により姉が亡くなり、また革命によって母を失い、
日本に亡命すれば…父は研究の末に行方不明。私は研究の対象そのものに…。
楽しかった思い出は本当に短かった…。私は自由に飢えていたのだ…。

しかし!!!!

今は違う!!愛さんに出会えて私の人生は変わったのだ!!
短い間でしたが、嬉しくて楽しくて…最高の日々を味わえたのだ!!
亀井さん、藤本さん、小川さんも素晴らしい女性達です。
色々な事が私の身に起こりはしましたが、それもまた人生なのでしょうね…。
そして、これまでの良い事や悪い事の全てが、この時に行き着く為の道筋であったのなら…。


              『私の人生の全ては正しかった!!!!』


冷たい風がエネスコの頬を撫でる。流れる雲の量は多くなり満月が顔を出す時間が短くなる。
やがて月明かりは完全に隠れてしまうだろう……。
灯台の明かりのように交互に当てられる光と闇を受けながら、エネスコは駆け抜ける!!

「愛さん、私はあなたに出会う為に生を受け、こうして生きてきたのでしょう。
 ……ですから、この命はあなたのモノでもあるのです!!」

エネスコは迷わずに照射装置へと近付いて行く!!

「……ちっぽけではありますが、この私の命……全てあなたに捧げようッ!!!!」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おおおおぉぉぉおおぉおおぉぉおおおぉおおぉぉぉぉッ!!!!」

エネスコは低空飛行で堂珍に向かって行く!!

「エネスコッ!!」

堂珍は迫ってくる相手に気付くと、照射装置の向きを変える。

「ワザワザ死ぬ為に来るとは……お前等は親子揃ってバカな奴だ!!」


バキバキッ!!


エネスコの左手に亀裂が入る!!まるで石膏細工の様に硬化し、脆くなっているのだ。

「紫外線もこれも放射線!!このレベル?にお前の体が耐えられるものかァァァァッ!!!!」

黒髪の色素が落ち乾燥し、顔にもヒビが入る。それでもエネスコは突進を止めない。

「クソッ!!なんなんだァッ!?そんな事をしてお前に何の意味があるッ!?」
「堂珍博士!!あなたには決して理解できないッ!!」

エネスコはもはや思う様には動かない腕を、気力で振り上げる。
堂珍は目の前だ。しかし、その視力も既に失っていた。全身の感覚を研ぎ澄ませる。


満月は完全に雲に隠れた……辺りを闇が覆う……


「ドラララララララアアアアァァァァァァァァッッ!!!!!!!!」


ドガドガドガドガドガドガドガドガァァァァーーーーン!!!!!!!


「ぐっへええ工工エエエエェェェェェェェェーーーーッ!!!!」

装置は破壊され、堂珍もフッ飛ばされ茂みへと突っ込む!!

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……あい…さん……」

やがて、エネスコはその場に崩れ落ちる……。

「いやああああああああッ!!!!エネスコさんッ!!!!!!!!」

駆け寄った高橋はエネスコを肩を抱え軽く揺する。
しかし、エネスコの意識はすでに途絶えている……。


「ミキティッ!!oiッ!!起きたかィ!?ミキティッ!!」
「…るせーよ。耳元で騒ぐんじゃねぇ…」
「エネスコさんがッ!!エネスコさんがッ!!」
「……何だって?」


「あ…ぁあ……エネスコさん……早く…起きるん……ヤヨ…」

何度も体を揺らし言葉を掛ける。それでも動かない。むしろ体は崩れてゆく一方だ。

「あぁ…もう…ダメなのか……??」

絶望感が高橋を襲う。満月が出ていない以上藤本の能力も意味を成さない。

(もう…明らめるしかないのか?…いいや!!まだ助ける方法はあるッ!!!!)


ビシィッ!!ポタポタポタポタ……


高橋はLA・ルノアールで自身の手首を切る!!真っ赤な血が滴り落ちる。
そして、それをエネスコの口に含ませる…。

「エネスコさんッ!!はよ起きるンよッ!!」

すると……体の崩壊の進行が止まる。さらにはヒビ割れが消え、髪も黒く染まってゆく…。
エネスコの目が開く!!

「愛…さん……私は……?」
「エネスコさん……あんなコト…無茶やよ…」
「私にとって、あなたが傷付く以上の痛みなどありません…」
「ゴメンね……あっしにはこんなのしか残って無いけど…トマトジュースの代わりやよ……」
「出会いの時からそうでした……私はあなたがいないと何も出来ない男の様だ……」

お互いにニッコリと微笑む。


「アマーイ!!甘過ぎるよナァ……亀ちゃん!!」
「どうしたんですか、小川さん…?」
「ワタシはサ、実力も無ぇクセにやたら理想ばっかタレる甘ちゃん野郎は大嫌いだがよォ。
 ……このエネちゃんは違う!!」

小川の目にも涙が浮かぶ。

(エネちゃんは…自分のしたことを後悔しない、最高の大甘ちゃんだゼ!!)


高橋の肩に誰かの手が掛かる!!


グイッ!!


「余計な事をォォォォするなァァァァアアッ!!!!」
「ええッ!?!?」

高橋は腕を引っ張られる!!すでにやられていると思っていた堂珍…完全に油断していた!!

「お前なんか木になっちまえェェェェェェェェッ!!!!」

ケミストリーは高橋の腕を引っ張り上げながら、そばにあった木の枝にもう一方の手を伸ばす。

「良しッ!!今度こそ融合ォォォォゥゥゥゥッ!!」


ガシッ!!


「げげええェェェェッ!?!?」

またもや間違えたのだ!!ケミストリーが掴んだのは木の枝では無かった!?!?

「な……何すんだテメーはッ!!」

それは……高橋とエネスコを救出しに駆け付けていた『藤本の腕』だった……。


パワワワワワワワ……!!


高橋と藤本の二人を光が包む…。

「おい…マジかよッ!!!!」
「あっしら…どうなっちまうンよッ!?」

そして、二つの光は一つに重なる……。


チーーーーン!!!!


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「…………」

その場にいる一同が呆気に取られている……。

顔は小ぶりで精悍な輪郭。強い眼差し。やや大きめの口が微笑すらグッと魅惑的にする。
ピンと立った耳。茶色掛かった長い髪。軽いウェーブが大人っぽさを感じさせる。
小柄ながらも全体的にはバランスの取れたスタイル。胸…腰……ヒップ……。
少女とも言える、大人とも言える……そんな成長過渡期の女性特有の妖しさ……。

純白のドレスに高校の服が上手く融合したのであろうか?全体は白を基調としながらも、
胸と足に掛かる黒のストライプのリボンがアクセントになっている。
なぜか帽子を取り出す。やはり純白に黒のリボン。そして赤い花飾り……。
それをかぶる。まるで一昔前の西洋の貴婦人のようだ。

「わあぁ…綺麗……!!」
「oioi…マイフェアレディのイライザだヨ……」

まるで場違いな格好で堂珍に近付く藤本&高橋…(便宜上以降『藤橋』と呼ぶ)。


ドシュゥゥゥゥン!!


スタンドが現われる……!?
基本形は藤本のBT・03であるが、真紅の流線型ボディに銀色のライン。時計の飾り。
これもまた、町や山を駆け抜ける西洋の豪華な特急列車を思わせた!!

「oioioioiッ!!スタンドまで融合しちまうのかよォォォォッ!!!!」
「あのケミストリーってスタンド……実はものスゴく恐ろしいんじゃ……?」


ニコッ!


藤橋は堂珍を見て微笑む。…それが優しさからくるモノでは無い事だけは分かる。
堂珍のこれまでのダメージも大きい。
最後の賭けが最悪の方向へ向かった事を悟り、戦意も喪失し、
ただケミストリーで何とか身を守ろうとする。

藤橋は拳銃を取り出す。

「これ……ナンだか分かりますか?」

堂珍は相手の丁寧な言葉遣いにかえって恐怖を覚える。

「それは……『酸素供給銃』じゃナイのかね…?」
「そう、じゃ試しに撃ってみましょうか?」

そう言って、藤橋は銃を堂珍に向けて構える。


ギィィィィッ!!!!


「うがあァァッ!!」

堂珍は苦しそうに頭を抱える。

「時間を戻して『超音波光線銃』に変えてみました…アハ!」
「ヒィィィィッ!!」
「じゃ、次はこっちの能力で…」


ドゴドゴドゴドゴッ!!!!


地面に斜めの窪みが出来る。その穴は堂珍へと向けられている。


ボィン……ドスドスドスドスッ!!!!!


「ぼげええええええええェェェェェェェェ!!!!!!!!」

地面が斜めに凸り出したその迫り出しを、避ける事も出来ずまともにくらう!!
そして、体を地面に打ちつけながら、庭の植えられた木立の中へと突っ込む。
藤橋もその後を追い、倒れている堂珍を無理やり立ち上がらせる。

「どうやら……観念しちまったようだナァァ…」

言葉遣いが変わる。表情も今までの微笑みは消え、怒りの満ちたドスのある顔に変わっている。


ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!


「今、オメーの周りにある木を凹ませて、ついでに時間を戻した。時間差を付けてな…」


ドシュッ!!バゴォッ!!


堂珍の右脇腹に迫り出しが食い込む!!左によろけるが、今度は左からの迫り出し!!

「ぐぎゃああァァァァ!!」

「オメーよ、あらゆる欲望や誘惑を取り込むのが『究極』って言ったよなァ…?
 それは違うな…本当に『究極』なヤツってェのはなァ!!
 そういった全ての誘惑に打ち勝つことが出来るヤツの事を言うんだッ!!!!」
「!!!!」


ドシュッ!!バゴォッ!!…ドシュッ!!バゴォッ!!


堂珍はあちこちから飛び出してくる迫り出しに翻弄されている。

「じゃ、ついでに究極のラッシュってモンを見せてやるよォ。
 『ブギトレのパワー』に『ルノアールのスピード』ってヤツを体験してくれやァ」

再び、藤橋のスタンドが構える……。

「あ!その前に一言いわせてもらって良いかァ?」
「な…何でしょう……?」

藤橋はニコリ微笑み、そして口を開く。

「はぁイ、詰・ん・だ・☆」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!
 おちょきんッ!!ゴールッ!!しねまああぁああぁぁあああぁぁぁぁッ!!!!」

「うひいいいいいいいいいいいいィィィィッ!!!!!!!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


バリバリバリ…ドッパアアアアアアァァァァァァンンッ!!!!!!!!


前方からはスタンドのラッシュ!!背後や横からも迫り出しのラッシュ!!
八方からのラッシュの嵐が堂珍とケミストリーを襲う!!
もはや倒れることも許されない。ラッシュの棺おけの出来上がりだ!!


「……『おちょきんゴール』って何ですか?」
「言葉の意味はサッパリだが、とにかくスゴい攻撃だよォォォォッ!!」


「ゴルァッ!!!!」

最後の一撃が決まる!!
迫り出しを解除し、相手がフッ飛ぶところで、ケミストリーの両手を掴んで阻止する。
そして、その両腕を藤橋自身の体に当てる。

「おっと、気絶する前にこの体戻してもらおうか?」

「……ハイ」


……チーン!!


二人の体が『分離』される。堂珍はそのまま崩れ落ち気を失う。
すぐさま高橋がエネスコの元へ駆け寄る。

「エネスコさん!!」

高橋は上半身を抱き上げる。

「……愛さん」

差し出されるエネスコの手にはヒビが入っている……再び崩壊が進行しているのだ!!

「まだ…血が足りん……」

藤本との『融合』と『分離』によってダメージが分散し、
回復しつつある手首を再び切ろうとする。

「ダメです…あなたの体が持ちません。それにどちらにしても私は助かりません…。
 満月だからと調子に乗って、どうやら放射線を浴び過ぎてしまったようですね。
 その満月も隠れてしまった以上、もはや血液でも回復は追い付きません。
 そこが石仮面によって作られた吸血鬼との違いです……」

「そんな!!イヤやよ!!エネスコさん死んじゃイヤやよッ!!」

狂ったように大声で泣き叫ぶ高橋に対して、エネスコは微笑む。

「本当はあなたをこんな事に巻き込むつもりは無かった…。
 あの日あの時に私達は出会い、それだけで満足するべきだったのかもしれません。
 しかし、私にはそれが出来なかった…もうしばらくあなたと一緒にいたかった…。
 ……それはなぜだか分かりますか?」

もはや高橋は言葉が出ない。嗚咽を繰り返しながら、ただ横に首を振る。


「それは……あなたの名前が『愛』だったからです。
 人は『愛』を手に入れるが為に生きて行くのでしょう?」


エネスコの目が一瞬光った様に感じる。すると、高橋は泣き止み、目が虚ろになる。

「さあ、愛さん……今から私は3つ数えます……。
 私が3つ数えた時にあなたは深い眠りに落ちるでしょう……。
 そして、再び目覚めた時にあなたは……」

エネスコの言葉が詰まる…。目には涙が浮かんでいる…。
しかし、やがてそのためらいを打ち消すように、言葉を続ける。

「再び目覚めた時にあなたは……私の事を忘れてしまうでしょう……。
 良いですか?目覚めた時にはあなたから私に関する記憶は失われるのです……」

高橋はその言葉の意味も理解していない様子で、ただコクリとうなずく。

「さあ…良いですか?今から数えますよ……1……2…」
ゆっくりと噛み締めるように、エネスコは3つカウントする。

「……3」


ドサッ!!


高橋は体の力が抜け、そのままエネスコの胸へ倒れこむ。
エネスコはそれを優しく抱きとめると、安心した様に彼もまたそこで力尽きてしまう……。

白いドレスとタキシード……。
まるでおとぎ話の紳士と姫君の様な二人が、抱き合いながら地面に横たわり眠っている。


その二人の姿を、悲しみと痛みの記憶を持つ赤いバラ達がただ見守り続けていた……。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれから一週間後…


「あら〜、今日もオケラかいな」


放課後、部活動の帰り道。高橋愛の場合…


彼女はいつもの日課である『宝探し』をする為に、書店『三雀堂』へと足を運んでいた。
興味有る無しに関わらず、ザッと店内を巡り、
最後に一番の目当てでもある舞台・演劇関係の棚に向かう。
パッと見でもどれも一度は目を通した事のある本が並んでいたが…。

「あっひゃー!!!!」

新しく入荷された本を見つけた。
それも、以前から欲しかった『なるほど THE 宝塚・民明書房刊』だ!!

おサイフの中身は心配だが、善は急げだ。即ゲットの為に手を伸ばす…。
しかし、身長の低さが災いしてか、手を思い切り伸ばしても本には届かない!!
手持ちのカバンを床に置き、グッと背伸びをするがダメだ。まるで背丈が足りない。
周囲を見回して台を探すが、すでに中学生らしき女の子が使っている…。

(仕方ないがし、ライク・ア・ルノアールを使って……)


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


すると、横からスッと誰かの手が伸びる。その手は高橋のお目当ての本を掴み取り上げた。

(のぉ…先に取られたッ!?!?)

自分が見つけた宝を横取りされた気分だ。思わず相手をキッと睨み付けてしまう。
しかし、その長身で色白のスーツ姿の男は、高橋を見下ろすとニコッと微笑む。

「どうぞ」
「え……!?」

男は高橋に本を差し出した……。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


その他の面々の場合…


「あー疲れた〜!!やってらんねー!!二度と来る気しねー!!」
「oioiミキティ、ワタシ達はいつもこんな事やってるんだヨ」
「嘘だ。何だあの夏のババァは!!あたしばっか標的にしやがって、ちくしょう…」
「それは仕方ないですよ。今までサボってた分、目は付けられ易いでしょうし…。
 それに藤本さんはみんなの倍は練習しないとクリスマス公演に間に合いませんよ」

演劇部の練習後、部屋の隅に並んだ椅子に座った藤本の前に、小川と亀井が立っている。
自然治癒の小川だけは腕と足に包帯を巻いているが、後の藤本と亀井は元気そうだ。

「マ、こうしてしっかり部活に出て来る様になっただけ、進歩ってモンだナ」
「だろ?あたしは真面目になったんだ。週3のサボリを週2にしたんだからな」
「自慢になりませんッ!!」
「何言ってんだ?ここ一週間ではあのエース高橋より練習量を超えてるんだぜ!!」
「oioi!!そりゃ愛ちゃんはアソコに通うのに部活休んでるだけだヨ」
「しかしまあ、アイツは練習は参加しねーのに顔だけはちゃんと出すのな」
「そりゃそうですよ…高橋さんなんですから!!」
「はいはい、高橋はすげーヤツだよ」

すると、突然藤本は何か思い出し、高い声を上げる。

「あ、そうだ!!亀ッ!!」
「は、はい!?何ですか!?」
「練習始まる前に言ってたじゃねーか。どうよ?元気そうだったか?」
「oioi……ミキティ、いきなり誰の事を言ってるンだよォ…?」

「決まってるじゃねーか、エネちゃんだよ」

「何だィ亀ちゃん、エネちゃんに会ってるのかィ…oi?」
「はい。今朝、校門の前で会ったんです。高橋さんの話をちょっとだけしただけですけど…」
「ああん!?何だよ、エネちゃんのヤロウ…まだ高橋に未練があるんじゃねーか!!」
「いや、そういうワケではない様ですよ。忘れ物を届けたいとか…」
「忘れ物…?」
「こっちも通学途中なんで、あまりゆっくり話せなかったんですけど…」
「ま、朝ッパからこうやってあちこち歩き回ってるんだ。元気そうだな」
「今は朝の日差しが丁度良いらしいです。少しずつ日光に体を慣らして行くそうですよ」

3人ともしみじみと感じ入る。『これが一番良い結末だったんだ』……と。

小川は何か感心した様に藤本を見付める。

「しっかしまァ…今考えてみても、ミキティの考えるコトは滅茶苦茶だよナ」
「何がだよ?」
「マサカ…『敵の能力』まで利用しちまうんだモンなァ…相手は敵だよ!?敵!!」
「しゃーねーだろが。あーしなきゃエネちゃんは助からなかったんだぜ?
 『エネちゃん』と『肉の芽の細胞』との『分離』。それしか無かったんだ」
「それで、放射線のダメージは全て肉の芽に負わせると……完璧ですね」
「だろ?ははは…これぞ究極の究極ゥ!なんてな」

「でも、アノ時…二人が抱き合って倒れた時点でエネちゃんはもう…ダメかと思ってたヨ」
「その後の研究所での診断では、あれは栄養失調に疲労が加わったモノと言ってましたよ」
「栄養失調…何ソレ?」
「数日間、ずっとトマトジュースだけで過ごしていたらしいです。
 いくら野菜が健康的って言っても、それだけではどうしても偏ってしまいますからね」
「最近でまともな食事と言えば、高橋と行った『トラサルディー』だけ。
 でも…それが最後の最後でエネちゃんの体力をギリギリで繋いだんだってさ…」
「oi…そんな偶然あるのかヨ?」
「多分、偶然じゃあ…ありませんよ……」


『運命か……
 人の出会いってのは運命で決められてるのかもしれねえな……』


「愛ちゃんの『汚染』の方ももう問題無いらしいし、明日から完全復帰だよォッ!!」

小川が嬉々と小躍りする。

「やっぱり、あのケミストリーって能力は使い方次第ですっごい便利ですよね?」
「そうだな。ウチ等はなかなか使えるヤツを味方に付けたよな?」
「oioioioiッ!!無理矢理!!力ずくじゃねーかヨッ!!」
「はっきり言って、ヘタしたら世界的組織全体を敵に回すトコでしたよ…」
「意外にもオドシが効く相手で助かったよな、へへッ!」
「ついでに愛ちゃんの治療もバッチリしてもらえて、ラッキーってトコだナ…oi」

藤本は突然立ち上がる。

「よしッ!!動いて腹減ったからさ、これから3人で軽くメシでも食おうぜッ!!」
「ええッ!?ホントですか…でも、ソレって…?」
「安心しろ亀井。今回はあたしの奢りだ」
「う、嘘だッ!!」
「いきなり否定かよッ!!まあ、なんつーか…そんな気分なんだ。奢らせてくれよ、な?」
「そうですか…うへへへ…」

亀井はちょっとビックリした様子だったが、やがて嬉しそうに笑う。

(……これくらい…ワケないさ……)

藤本は川畑戦での亀井の死を…、またそこからの復活劇を思い出し、少し涙ぐむ。

「やったゼ!!ミキティに奢られるなんて、コレで最初で最後かも知れねェかんナッ!!」
「マコ、おめぇは自腹だ」
「ナナナナッ…何でッ!?」
「『あたしに奢られ権』を得るには、実は一回死ぬ必要があるんだ。マコ、死ぬのも悪くないぜ。
 おめぇにはぜひ究極の死に方に挑戦してもらいたい……まあ、助けるかどうか分からないけど」
「ションナ!!」


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どうしたのですか?……これが欲しかったのではなかったのですか…?」

男は心配そうな顔をして、高橋の顔を覗き込む。

「あ、はい!ありがとうございます…」

(でも、どうしてあっしが欲しかったのがコレだって……?)

高橋はお辞儀をしつつも、その小さな疑問から、ついつい相手を観察してしまう。
まるで宝石の様に深く青い瞳と目を合わせると、そのまま吸い込まれるかのようだ。

(……何やろ…この気持ち……?)

初対面のハズなのに、何かが胸に込み上げて来る……。
とても懐かしいような…それでいてモノ悲しいような……。

気を取り直して、両手を差し出し本を受け取る。

「こちらは片手で失礼ですが…」

男は恐縮がるが、別に片手で本を渡されたからって、どうとも思わないのだが。
小脇に何か別の本を抱えている。『始める有機栽培』…農家の人だろうか?

「宝塚……本当にお好きなんですね」
「あ…はい」

『本当に』という言葉が少し引っ掛かったが、まあ言葉のアヤだろう。

「そういえば……今度ぶどうヶ丘高校で演劇の公演があると聞きましたが…?」
「12月25日…クリスマスやよ!!体育館のぉ〜!!『レ・ミゼラブル』がし!!」

思わず興奮して、他人相手にナマリ丸出しでしゃべり出してしまう。

「……すみません。実はあっし…その演劇部なんです…」
「そうですか、楽しそうですね。私も観劇出来るのでしょうか?」
「はい!!もちろん!!ぜひ来て下さい!!」
「それでは行かせてもらいましょう。では…」

男はニッコリと微笑み、一礼すると本屋のレジへと向かって行く。
高橋はその男の後姿を何となく見送っていた。なぜか目が離せなかった…。

「あら〜?」

カバンの手提げ部分に白い布切れの様な物が掛けてあるのに気が付く…?
手に取ってみると、そこには『AI』の文字。どこかで無くしたと諦めていたハンカチだ!!
そして、そこにはなぜか真っ赤なバラのコサージュが付けられていた。


香水だろうか?辺りにはバラの香りがほのかに漂っていった……。


   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


<藤本美貴・高橋愛・小川麻琴・亀井絵里>
数週間後、謎の革ジャケットの男に演劇部が襲撃されるという事件が起こるが、
藤本の手によって撃退される。そして、クリスマス公演は盛況の内に幕を閉じた。

<ジォルジェ・エネスコ>
元の人間に戻る。
クリスマス公演観劇の後も、しばらく杜王町に残ってバイト生活をしていたが、
数ヵ月後、西の高原へ移り、そこで『遠見塚農場』の土地を借りてトマト栽培を始める。
そのまま日本に帰化し、永住するに至った。

<アイゼンシュタイン(大コウモリ)> 
『酸素供給銃』として堂珍科学研究所に保管される。

<堂珍嘉邦> スタンド名:ケミストリー
しばらくはDOKEN所長として勤めていたが、ある時、突然行方不明になる。
やがて再び表舞台に飛び出し、医療や環境科学における数々の功績を残す。
ノーベル賞への内々の打診もあったが、『私にはその資格は無い』とあっさりと辞退。
結局、死ぬまで世界の人々を救うが為の研究に没頭していたという…。

<川畑要> スタンド名:アイアン・メイデン
堂珍嘉邦博士の良きパートナーとして、いつまでもその研究を支えていた。
他研究者とのいざこざも絶えず、喧嘩による傷害事件をたびたび起こし、留置所送りにされると、
その度に『博士ごめんなさい』と言って、出所するまで、まるで子供の様に泣き続けたという。
残酷に思われる彼もまた、根っ子では純粋な人間なのだ。



TO BE CONTINUED
────────→