銀色の永遠 〜はぶられっこの願い〜


「あのさ…さゆ、この後映画見に行かん?れいな券持っとるんよ」
「え?」


放課後、レッスン終了後の部室。田中れいなの場合…


新人久住小春へのダンスの特別指導中、壁際で小春の動きを見守る道重さゆみに話かけた。
道重はただこちらをちらっと見ただけで、再び視線を小春へと戻した。

「れいな昨日商店街で買い物して福引券もろうとよ。
 で、ガラガラのやつやったけん。そしたらこれ当たったと。すごくなか?」

道重の目の前に映画のチケットを二枚ヒラつかせる。

          『仁義なき戦い。 〜そこら編〜』

(れいなこのシリーズ大好きっちゃ!!)

「今ならS市でやってるけん、見に行かん?それとれいなプリクラも撮りたか…」
「ねえ、れいな…」
「ん…何?」
「あのさ…見てもらえば分かると思うんだけど、今ちょっと忙しいの」

道重は顔をしかめる。依然、顔は前方を向いたままだ。
明らかに『ちょっと』どころでは無い。

「そ、そう。じゃ明日は…」
「小春ちゃんまだ演劇部に入ったばかりだし、色々覚える事多いからしばらくは…
 小春ちゃんッ!!良いのォッッ!!
 VERRYYYYイイ感じになってきたのォォッッ!!!!」


ズダダダダダダダダダダダッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!


いきなり大声を出すと道重は小春の方へと猛然とダッシュしていった。

「…そう……なんか大変そうっちゃね」

仕方ないので反対側を見てみる。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「うおおぉぉッ!!こんこんッ!!ここの店ランチ600円で食い放題だってよおぉッ!!」
「うんうんうんうん…これで味も良ければ最高ですッ!!」

小川麻琴と紺野あさみの二人のタウン情報誌を見ながらの場違いなおしゃべりが聞こえてくる。

高橋愛は相変わらず指定の位置で黙々と読書中で、ほとんど身動きもしない。
ずっと以前、あまりにも(2時間位)動かないので気になって声を掛けたら、
『邪魔しないでくれます?』とかサラリと言われてしまった。

(あれはかなりショックだったばい……)

窓際を見ると、


ニイイイイイイイィィィィィィィィ…


新垣里沙が怪しい笑みを浮かべながらまだ何も生えてもいない植木鉢を眺めている。
この人は自宅でもハムスターを飼ったりと、何かを育てるのが好きらしい。

(マメな人っちゃね)

亀井絵里は病院で目の検査があるので今日は欠席。ほとんど治ってるけど念の為。
頼みの藤本美貴は練習にはまるで参加せず、この部屋は単なる授業のサボリ用だ。
部長である吉澤ひとみは掛け持ちの部活で忙しいらしく、最近は顔見せ程度で帰ってしまう。

「お先に失礼しまーす」

一応がてら軽く声をかける。やはり反応が無い。行こ。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ブロロロロロロロロロロロオオオオオオオンンンン…


「人の多か場所は好いとぉ。ワクワクすると!!」

れいなの出身はここからうんと南。H県H市が生まれ故郷ばい!!
ここらより温くてうるさか街やったけれど、ばってん!!あの雰囲気が大好きだったばい!!
あの時分はよく気の合う友達と一緒に買いもんや食べ歩きばしていたと!!
カラオケにもよく行ったと。プリクラだって手帳一杯貼ってあるばい!!
美しか青春の1ページっちゃ!!

れいな歌に自信があったけん。歌手ば目指して特別な教室まで通ったと。
イタリア帰りの先生の下、一生懸命に腹式呼吸とか色々練習したばい。
人里離れた山にこもって、家族とも友達とも会えない孤独な修行やったと。
えらく辛かとばってん、歌もうんと上達したと思うしさらに『波紋』の力も手に入れたばい!!
演劇部に入っとぉはちょっと不純な理由からたい。今はもう関係無か。
寺田せんせはれいなの事いつかエースになれると期待してくれてると!!
だかられいな…その期待に応える為にこれからもうんとうんとがんばるっちゃッ!!


ババババアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!


演劇部のみんなライバルっちゃ。気は抜けん。練習にも気合が入ると。
それがイカンの?みんなれいなの事近寄りがたく思っとるばい。
雰囲気が怖か?そんな事無か。れいなはみんなのコト好き。ただけじめば付けたいだけ。
なかなか理解してもらえんのがジレンマっちゃ。寂びしかね。
でもれいなは大丈夫。あの修行以来孤独には慣れとる。一人でも笑える…………ハズ。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「そこのお嬢さん」

ふいに声を掛けられ振り向く。
『占いの館・ホソキ』……とかいうアヤシイ感じの店の前にこれまたアヤシイ笑顔のおばさん。


ニコニコニコニコニコニコニコニコ…


「そうそうあなた、お嬢さんあなた占いに興味ない?」
「無か。運命は自らの力で切り開くものたい。神様なんて当てにしないっちゃ、それじゃ」

そう言って先へ急ごうとする。別に急ぐ用事など無いのだが…。

「待って」
「まだあると?」
「あなた神様って言ったわね。占いってただの神頼みだと思ってるの?それは違うわ」
「…どう違うっちゃ?」

『しめたッ!!』という顔付きのおばさん。

「占いに来る人のほとんどはね、何かしらの悩みを抱えた人達なの。分かる?
 彼、彼女達の力ではどうにもならない不安や悩み。それを解決するのが私達占い師。
 占いはね……人生相談でもあるのよ」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「あなたにだって悩みはあるでしょう?」
「れいな…別に悩みなんて……もう行くっちゃ!!」

悪いけどこれ以上付合ってられない。踵を返し足を一歩進める。

「例えばあああッ!!人間関係とかさッ!!」


ズッキュウウウウウウウウンンンンンンッッッッ!!!!!!


その一言に胸を打たれて思わず振り返る。
「…人間関係?」
「そうよ…ここじゃ何だから、サッ、中にお入りなさい」

おばさんは店の中に入って行った。結局れいなもその後に続いた…。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


思っていたより広めの部屋は、やや薄暗くロウソク型の照明が周囲に並んでいる。
その一番奥の方にまるで玉座の様な椅子がある。その周囲には禍々しい程の装飾。


ドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロドロ…


(怪しい店ばい……)
 

ドサァァッ!!


大きな音を立てておばさんが玉座に腰を下ろす。怪しい笑みを浮かべたまま。

「私は『カーズ・ホソキ』。世の中に悩みを持たない人なんていないの。
 その悩みを少しでも解消させてあげるのが私のお仕事。どう、素敵でしょ?」
「…………」
「うふ、緊張してるの?可愛い。今から私のお仕事あなたに体験させてあげる」

ホソキはさらに照明を落とす。
部屋の明るさに比例して、まるで空気まで薄くなっていくように感じる。


ジジジジジジジジジジジジジジジジ…


妙に体が暑く、額に汗が浮かんできた。やはり緊張してるのだろうか?

「お仕事って…お金はいくら?れいな欲しい物あるけん、あまり高いのは困るばい」
「れいなちゃん」
「な…何?」
「あなたあまり占いを信じない性質みたいね。だから今回は無料(タダ)で良いわ」
「無料!?ほ…ホントッ!?」
「そう、私の力がどんなものか見せてあげる。今日は特別よ。どうする?」

(よし、どうせ無料たい。別に当たらんでも損はしないっちゃ。ここは試しに…)

「…れいなを占ってみると良か」


ニカァァッ!!


「よしッ!!決まりねッ!!」

れいなからは見えない角度で、ホソキは口の端を歪め、小さな声でつぶやく…。

「そう…今日だけは特別……」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「ささッ、楽にしててね」

それが必要なのかは知らないが、何かマントだかローブみたいなのをまとっている。
いかにもそれらしい数珠やら水晶の珠やらを手に持ち、こちらを見据える。

「……じっとしてて…動かないで」


グググッ…グググッ…グググッ…グググッ…


(かッ…体が動かないっちゃッッ!!何でッ!?!?)

「あなたの悩みは何?言ってごらんなさい」
「ぁぁ…れいなの…悩み……」

おばさんは不気味なまでに目を開いてこちらを見ている。

「さあ…言いなさいィ…すべてえェェ…わたしにィィィ…いうんだよォォォォ…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「…れいな…お友達が欲しか…部活の仲間とかそうゆんじゃ無くて…
 一緒に遊んだり笑ったり喧嘩したりできる…そうゆうのが許される友達…」
「おおォォ…いいぞおおォォォォ…んでェ…それェからァァ…」


ドキッ…ドキッ…ドキッ…ドキッ…


「…困ってる時に助け合えるような…親友…親友が欲しいっちゃッ!!」
「よおォォしッッ!!分かったァッッ!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!
シイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーンン……


体が動くようになった。あれほどしていた動悸も治まっている。

「れいな…どうしたと…?」


ニカァァッ!!


「…あなた、今から1日だけ…24時間食事とるのはやめなさい」
「えッ!?何で!?」
「そうしたら…願いが叶うかも」
「ホントッ!?」
「そうよ…我慢しなさい」
「分かったばい」

(24時間なら簡単っちゃね……)


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌日。


(あぁ!…お腹空いたっちゃッ!!)

演劇部の活動を終え、一人で駅へと向かう途中…。
昨日の占いの事もあり、試しにみんなに声を掛けてみたが結局いつもと変わらず。

(今日こそはと思っとったのに…あの占いはインチキとね?まあ無料やけど……)

たった1日くらいなどと高をくくっていたが、そういえばあの時点で空腹だった。
しかもこんな日に限って、練習はハードでロングときたもんだ…。

(あぁ…目が回るたい…濃厚とんこつラーメンもつ鍋めんたいこだっちゃ……)


フラフラァァ……ドッシャァァァァン!!


こけた。豪快にこけた。ついでにかばんの中身もぶちまけてしまった。
かなり恥ずかしい。慌てて立ち上がりかばんの中身を回収する。

(人もいるしもたもたしてられん!!こうなったらD・エレジ……ん?)


セッセッセッセッ…


1つの手が・・・いや誰かが道に落ちてる小物達を拾っている……女の子だ!!
手伝ってくれているのだろうか?背中越しだが、ゆっくりその子に近付く。


クルッ!ニコッ!


「はい、どうぞ!!これで全部かな〜?」
「あ…ありがと」
渡されたものをかばんに詰めながら女の子の全身を眺めてみる。

(……可愛いっちゃ。同い歳かな?ぶ中(ぶどうヶ丘中学)の制服を着とる)


「大丈夫?ずっと後ろで見てたんだけど、何かフラフラしてたよ」

まさか空腹で倒れたなんて言えない。

「だ、大丈夫たい。何でも無か」

すると……

「ねえねえ、それどこの言葉ッ!?方言?…すごく可愛いねッ!?」
「えッえッえッえッ!?!?」
「わたし美野島みさき。あなたは?」
「え?あたし?…れいな…田中れいな」
「れいなちゃんッ!!名前も可愛いねッ!!
 ねえ、お腹空かない?今から一緒にごはん行こうか?」
「えッ!?えッ!?」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


占いからちょうど24時間後の出来事だった……。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(ふう、ようやく今週最後の部活も終わったっちゃ)

部屋の後片付けをしながら昨日までの事を考えてみる。
占い…『美野島みさき』との出会い…二人での食事…次の約束…。
あまりの急な展開にただただ驚くばかりだ。
あの空腹が好転した訳だ。やはりあの占いは正しかった。

(みさきちゃんホント可愛か。楽しい1日だったばい)

「ねえ、れいな…」

ふと声を掛けられる。振り向くとさゆが側にいた。ちょっとぎこちない笑顔。

「…何?」
「あのね、最近は忙しくてごめんなの。今日は小春ちゃん用事あるみたいだから」
「…それで?」
「で、今日なられいなと遊んであげられるの。ほら、れいな映画に行きたいって…」


カチン


「それならもう良かよ」
「え?」
「もう良か。それに『遊んであげられる』って何ね?偉そうに。それって失礼や無か?」
「あ…そんなつもりじゃ…ごめんなの」
「じゃ、お先に…」
「れ…れいな!!」

無視してそのまま部室を出る。

(本当に良かもん。れいなにはみさきちゃんがいるっちゃ!!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…で、れいなしょうゆとソース間違えたっちゃッ!!」
「あははははははッ!!あるあるゥッ!!」
「ケチャップとマヨネーズも間違えたっちゃッ!!」
「間違えねぇよッ!!」


ズビッ!!


「あははははははははッ!!」
「あははははははははッ!!」

(あはは、こん娘ホントに面白か。ノリが良いっちゃね)

あれから校門でみさきと待ち合わせ、カフェ・ドゥ・マゴでお茶をする。
出会ってまだ2日目だというのに、まるで旧来の友人のように気が合うのだ。

少し怖いくらいだ……。


「あッ!!あれェ!?どうしようッ!?」


かばんをガサガサと探りながら急にみさきが慌てだした。

「どうしたと?」
「お財布が無いの!!学校に忘れちゃったのかも…」
「え!?」
「どうしよう…お金無いよ。学校まで遠いし…」

(……しょうがないっちゃね)

「良かよ。れいなが出すと」
「えッ!?でも…」
「そんな遠慮せんと。ここはれいなの奢りたい!!」
「ええッ!!ホントにッ!?優しいのねッ、持つべきものは友達ね」

(トモダチ……良い響きたい!!にゃーッ!!)

「困ってるの時に助け合えるのが友達たいッ!!」
「れいなありがとうッ!!」

(ホント嬉しか。これなら神様も信じられるっちゃッ!!)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


「ねえねえ、あのパフェすごくない?」

みさきが隣のテーブルを指差す。

「ん?ああ…すごいっちゃね」

正直言ってあまり興味無い。元々いかにも女の子って感じが好きでは無いのだ。

「おっきいの〜!!ねえ、食べてみたくない?」
「う、うん…まあ…」

せっかくの友達だし、いちいち否定するのも悪いので生返事をしておく。

「すみませ〜ん!!」

みさきが手を挙げて店員を呼び出す。

「はい、お客様何でしょう?」
「すみません、あの…チョコレート・パフェ2つ下さいッ!!」

(ええええええええェェェェッッッッ!?!?)

思わずみさきの顔を凝視する。

「今何と!?」
「パフェ頼んじゃった。一緒に食べよ」
「一緒に食べよったってれいなの…」

(……お金じゃ無か?)

「食べたく無かった…?」

みさきが寂しそうな目をこちらに向けるが、そういう問題じゃない。しかし…

「ううん、れいなも食べたかったと。みさきちゃんありがとう」
「あはははははははははッ!!どういたしましてッ!!」

(……何でれいながお礼を言うと?)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


日曜日、みさきとS市でショッピングをする。
怪しいイラストTとボロGそれにスカジャンのれいなと違って、
みさきは白のワンピに淡いブルーのカーディガン。あまりに違い過ぎる。

「あははははははッ!!」
「あははッ…」

この娘は本当に良く笑うので、思わずこっちも釣られてしまう。
ここ最近ここまで笑った時があっただろうか?利賀岡峠での戦いは痛快だったが、
部活やバトル無関係の完全プライベートの楽しみは久しぶりだ。
みさきとの付き合いは本当に楽しい。

……ただ気掛かりが1つ。

(お金…まだ返してもろうや無か……)

ドゥ・マゴでのお茶の後、結局彼女の電車賃までれいなが立て替えたのだった。
細かいのは面倒なので千円札1枚渡したのだが、それが2日経った今でも返ってこない。
しかし、催促するのも何だかこだわっている様でためらわれた。

(あっけらかんとしとるし、もう忘れたんやろうか?)


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


雑貨屋で小物を物色。特に買うつもりも無いが見るだけでも楽しいものだ。

「ねえねえ、れいな」
「何?」
「今度みさきのお友達がお誕生日なのッ!!」
「うん」
「だからここでプレゼント買ってあげるのッ!!」

(きっとこん娘は友達も多かね。れいなとは大違いっちゃ。羨ましか)

「ねえ…れいなは何を買ってあげるの?」
「…え?」


ザワザワザワザワザワザワザワザワ…

(何でうちが誰かも知らんこん娘の友達のプレゼントを買うと……?)

「これなんかどう?」
「あの…れいなも買うと?」
「買わないの?…お友達の誕生日祝ってあげないの?」
「え…だって…それって…みさきちゃんの友達じゃ無か?」
「みさきのお友達はみんながお友達だよ…れいなは違うの?」

急に悲しそうな目を向ける。普段終始笑顔なだけにこのギャップが胸に刺さる。

「じゃ…れいなも祝うと。何買おうか?」
「あはッ!!ありがとうッ!!」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


レジに並ぶ。相手の趣味が分からないのでみさきに選んでもらったのだが、
結局、見ず知らずの人間の為に1万円近い出費をする事になった。

「あれ?みさきちゃんは買わんと?」
「良いのが無かったから今日は諦めちゃった。あははははッ!!」

笑えない。なんとも複雑な気持ちで支払いを済ます。


ガサッ!!


「じゃ、これみさきがお友達に渡してあげるッ!!」
勝手に紙袋を持って店を出て行くので慌てて追いかける。

(こん娘何かおかしいっちゃ…それともただのマイペースなんやろうか?)


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


「あ…博子ちゃん」

通りを歩いていると、クラスメイトの『多々良博子』が前方から近づいてきた。

「博子ちゃ…あ…」

手を振ろうとしたが、相手はこっちに目もくれず、すれ違って行ってしまった。

「あはは…クラスメイトなんだけど…気が付かんかったみたいね…」


ジ…ジジジジ…ジ……メラメラメラメラ……プツーン!!


「ちょっとアンタッ!!」

みさきが叫びながら博子へ向かって行く。

「オマエだよオマエッ!!」

その声で博子が振り向く。

「今れいなが挨拶しただろッ!!シカトぶっこいてんじゃねえよッ!!」


ダダダダダダダダッッ!!!!

「はぁ…アンタ誰?」
「ざけんなッ!!礼儀も知らねえのかこのカイワレ大根頭ッ!!
 いつもいつもれいなの事はぶってんじゃねえよッ!!腐れウジムシ共がッ!!」

博子が冷めた目をれいなに向ける。そして、みさきに向き直り。

「さっきから何なの?同じぶ中の3年みたいだけど誰?何組?」
「ああッ!?んな事どうでも良いんだよッ!!ド低脳がッ!!」
「はぁ?こっちは生徒会の人間だけど、アンタなんか知らないって言ってんだけど」
「うるさいッ!!話があるのはこっちだッ!!謝れよッ!!ビチグソッ!!」


ムカァッ!!


「あんだとッ!!人が大人しく聞いてりゃ調子こいてんじゃねえぞッ!!
 別に気付かなかっただけだけどねッ!!ここまで言われたらもう知るかッ!!
 はっきり言って田中なんかどうでも良いんだよッ!!こんなDQN女ッ!!
 空気読めねえで勝手に浮きまくってんのはこの女の方なんだよッ!!タコッ!!」

(……あぁ…はっきり言われた……)

「てめえッ!!ぶっ殺してやるッ!!」


…………


結局、れいなが何とか二人を引き離して無理矢理喧嘩をやめさせた。
自分が一番ショックなはずなのに落ち込む事も出来ず、何か必死に仲裁していた。
正直ここまでやられると、有り難いどころかもはや迷惑でしかない。
しかし、みさきのあそこまでの人格の変わり様を見ると、まさかそうは言えない。

「アイツ……ただじゃ置かないよ」
「そんな…もう良かよ。れいなも悪いっちゃ」
「れいなは何も悪くないよッ!!」


ビクゥッ!!!!


「私達友達だよね。友達なんだから遠慮しなくて良いよ。みさきが助けてあげる。
 れいなをいじめる奴等は絶対に許さない。部活動の連中もそうなんでしょ?
 許さない。みんな許さない。殺してやりたい…」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌朝、教室に入ると何だか雰囲気がおかしい。
いつもの騒がしさが無いのだ…ある一角を除いて…。

「わあああああんんんッ!!ひろこォォォォッッッッ!!」
「何でェェあんな事にィィィィィッッッッ!!!!」

クラスメイトの何人かが大声を上げながら泣き崩れている。
ちょっと様子を見ただけでもタダ事で無い事が分かる。

「ねえ…何があったと?」

そばに立っていた子に話し掛ける。

「あ、あのね…多々良さんが昨日の夜、誰かに襲われたんだって…」
「!!!!」
「あまり詳しい事は分からないけど…何かで頭を殴られたらしくて…
 ひどいよね…どうやら強盗じゃないかって話だけど……?」

よく見れば、泣き喚いているのは『多々良博子』の特に親しい連中ばかりだ。


ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ…


          『アイツただじゃ置かないよ』
            『殺してやりたい…』

昨日のみさきの言葉を思い出す。

(まさか…そんな訳……無かよね?)


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


その日の演劇部の練習はまるで集中できなかった。
おかげで夏先生にこっぴどく叱られたが、それでも不安はつのるばかり。
それは今朝の出来事に加えて、練習前に調べた事が気に掛かっていたからだ。

(やっぱりみさきちゃんはぶ中の生徒じゃ無か……)

もう何だか怖くなってきた。相手がスタンド使いであれば負ける気がしないが、
まさか普通の女の子をぶっとばす訳にいかない。まあ普通なのかは疑問だが。

「おう、れいなッ!!」

部室を出た所で不意に藤本に声を掛けられた。

(……美貴姐、練習も出んと何ばしとるのやろうか?)

「れいな、これから亀井達と一緒にマゴ行かねぇか?」

後ろから亀井と道重が出てくる。

「えり、もう完全に大丈夫なんだって。みんなでお祝いをしようと思うの」
「まあ、あんま人いてもうぜぇし、同期の4人だけでパァ〜ッと一杯やらねぇ?」
「『一杯』って…何か言い方が居酒屋でも行くみたいなの」
「未成年でアルコールは駄目だよ…」
「るせーな、お茶だってジュースだって水だって『一杯』て言うだろうがッ!!
 八名信夫だって『もう一杯!』って言ってっけど、青汁は何だよ?酒かッ!?」
「論理が飛躍し過ぎなの」
「藤本さんだと本当にお酒飲み出しかねないからな…」
「な訳ねーだろッ!!」

「ははは…」

(美貴姐は相変わらずばい。さゆとえりがいるとさらに磨きが掛かると)

この3人の他愛の無いやり取りがすごく新鮮に感じた。

「な、れいなも行くだろ?」
「う…」
「どうしたんだよ、おめぇは?行こうぜ。なんなら奢るぜ……亀井が」
「何で僕なのさッ!!」
「良いじゃねぇか。金持ってんだろ?4人分くらいは」
「みんなに奢るのッ!?僕の全快祝いなのにッ!?…さゆ何か言ってよッ!!」
「いただきますなの」
「さゆまでッ!!うわああああああああんんんんッ!!!!」
「ま、そういう事だから行こうぜ」

(正直みさきちゃんにも会い辛いし、今日は良かね……)

「う、うん。行こう…かな…?」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


(……あ…ああ……ダメっちゃ……)

藤本達の背中越しに人影が見える。あれは…美野島みさきだ。こっちを見ている。
離れた位置にいるにも関わらず、その凄まじい眼差しはこちらに鋭く突き刺さる。


         『部活動の連中もそうなんでしょ?』
            『殺してやりたい…』


(このまま一緒に行ったら、タダ事では済まないっちゃ…)

「…れいな…今日は行けん」
「え?マジかよッ!!」
「行けるんじゃなかったの?」
「用事を思い出したけん、ごめん今日は無理っちゃ」

出来るだけ笑顔を保ちながら応える。

「そうなんだ…どうしよう?」
「仕方ねぇな、今日は3人でやるか。れいなはまた今度な」
「うん、美貴姐さゆえりごめんね…」
「まあ良いって事よ。じゃあ明日な」
「うん」

3人の背中を見送る。

「…………」

その3人とすれ違いでみさきが近付いて来る。

(……どうしたら良か?)

「れいな大丈夫?何かされなかった?」
「…何もされるワケ無か」

思わず憮然とした態度になる。

「れいな…どうしたの?やっぱり何かあったの?言ってよ。いじめられたの?
 邪魔者は消してあげる。昨日の子だってちゃんとお仕置きしたんだから。
 だから何でも言って。今度はあの人達?大丈夫、みさきが助けてあげる」


          『ミ サ キ ガ タ ス ケ テ ア ゲ ル』


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…


ダッ!!


れいなは駆け出した。D・エレジーズも波紋もここでは何の役にも立たない。
部活の仲間を被害者にも加害者にもする事はできない。
何とかしなければ。自分一人の力で何とかしなければ…。

(……運命は自らの力で切り開くものたいッ!!)


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『占いの館・ホソキ』


真っ先に向かったのはここだった。思えばあの占いからおかしくなったのだ。
最初は本当に嬉しかったが、今ではもうインチキとしか思えない。

(事の次第によっては許さんばい!!!!)

意気込んで店内へ入って行った。


ドカドカドカドカッ!!!!


「ホソキさん、いるっちゃッ!?」

はたしてそこにいた。この間のように玉座にドンと座っている。

「あら、あなたどうしたの?そんなに興奮して」
「…どうしたのじゃ無か。占いのせいでれいな酷い目にあったとッ!!
 みさきちゃん…あん娘ちょっとおかしかッ!!」
「…なあに?それって相談?悩み事なら聞くけど、今度は無料じゃないわよ」
「あの占いのせいなのにお金なんておかしかッ!?早よう何とかせんねッ!!」
「そんなの知らないわね。占えって言うなら、そうね料金は…20万円になるわ」
「にじ…そんなん払える訳無かッ!!アンタれいなをだまかすとねッ!!」

ホソキの表情が変わる。まるで悪魔の形相だ。

「ちッ…とことん搾り取ってやろうと思ったのによ。とんだ計算違いだね」
「やっぱりあんたのせいっちゃねッ!!アンタの為に博子ちゃんまでッ!!許せんッ!!」
「だから何よ?アンタみたいな小娘が何するって言うの?」
「せからしかッ!!いいかげんせんとくらすぞッ!!デュエル・エレジーズッ!!」


ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンッッ!!!!!!!!


「あら?何それ?」
「見えると?アンタもスタンド使いとね?」
「スタンドっていうのコレ?で、それでどうするつもり…?」
「アンタがスタンド使いなら問題無か。ちょこっと荒っぽくさせてもらうばい」

ホソキに一歩近付く。

「そう、分かったわ。そっちがその気なら…」

相手も立ち上がり一歩進んだ。

(D・エレジーズに勝てるワケ無か。この勝負れいなの勝ちたい)

D・エレジーズは戦闘態勢に構える。

「アンタには固まってもらうたい。覚悟…」
「動くなああああァァァァッッ!!!!」


ビクッ!!ビキビキビキビキッ!!!!!!!!

「あ…体が…動かん!!」
「どうしたの?どうやら固まったのはあなたの方ね」
「な…何を…?」
「さあね、さ、その緑色の変なのも引っ込めてちょうだい」


スウゥーーーッ


D・エレジーズを引っ込める。どうしても相手の言う事に従ってしまうのだ。

「ほら、あなたのお友達が来たわよ」
「れいな……」

(み……みさきちゃん!!!!)

「れいなどうしたの?急に走って行っちゃうんだもん。びっくりしたよ」

そしてそのままホソキの隣に並ぶ。

「よしよし私の可愛い子…」

ホソキはみさきの頭を撫でている。

「みさきちゃん…ひどか。れいなせっかくお友達が出来たと思って…」
「れいな…ごめんね」

ホソキに促されてみさきがれいなの近くに寄る。とても悲しそうな顔だ。

「私も残念だよ。せっかく仲良くなれたと思ったのに」
「…みさきちゃん」
「でもしょうがないよね。これからは天国で仲良くしましょ。私が殺してあげるから」


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


ドガアァッッ!!!!


「グハァッッ!!」

腹を一発殴られ後ろへ吹っ飛ばされる!とても少女とは思えないものすごい力だ。

「…まさか…みさきちゃん…スタンド…!?」
「ハッハッハッハッハハハハハハハハッッッッッッッッ!!!!!!!!」

ホソキの高笑いが部屋に響く。

「私の能力は『声』…『心の響き』!!『ハートビート・シティ』!!
 まず『私の声』で相手を操り、そして『相手の声』を具現化する能力ッ!!」

れいなは立ち上がる。

「あら、どうやら声の射程距離から出てしまったようね?まあ良いわ…」

みさきが近付いてくる。

「そっちは射程距離なんて関係無いもの」
「アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッッッッ!!!!」

みさきが加速し襲ってくる。

(ずっと友達だと思っとったけん…でもみさきちゃんゴメンッ!!)


バゴォォォォォォォォォォンンンンンッッッ!!!!!!!!


「D・エレジーズのダイヤより硬い一撃たいッ!!」
能力で固められた拳に殴られたみさきは、奥の壁まで吹っ飛び叩き付けられた。

(相手がスタンドって分かってても辛か。どうかれいなにもっと強い気持ちを……)

「ハハハハハハハハッッッッ!!なかなかやるわねッ!!」
「えッ!?何でやられんと?本体にダメージは無かとねッ!?」

ホソキはまるで何事も無かった様にピンピンしている。
スタンドを攻撃すればそれを操る本人もダメージを受けるという法則を明らかに無視している。

「何よそれ?この子を倒したところで無駄なのよ」

ホソキの肩に何か妙なモノがまとわり付く。
毛むくじゃらのボールに大きな唇そして歯…まるでマリモに口が生えたようだ。

(まさかあれがスタンド本体…じゃ、みさきちゃんは……?)

マリモスタンドから毛が抜ける。そして、その毛はなんと一人の男性となった!!

「れいな紹介するね…みさきの…カレシダヨ…」
「君がれいなちゃんか…いやあ…カワイイネ…」

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「この毛から出来たスタンドは私が操ってるという訳でも無いの。分かるかしら?
 あくまであなたの声から生まれたものよ。私はただ最初に命令をするだけ。
 後はこの子達の意思で動き、そして今はあなたを襲うのよ」

(みさきちゃん達はあくまで本体の毛の1本から生まれたものに過ぎ無か。
 毛をいくら攻撃したところでダメージが無いのは当たり前ばい!!)

「ソリソリソリソリソリソリソリソリソリソリッッッッッッ!!!!!!!!」


ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカッッッッッ!!!!


二人を倒してもすぐにまた起き上がる。固めても崩れてからまた復活するのだ。

「だから無駄だって言ってんだろうがよッ!!このトンチキが〜ッ!!!!
 これはテメェの声…つまり願いから生まれたスタンドなんだよッ!!
 良いかッ?テメェの願いが続く限りはこいつらも消えないんだよッ!!!!」

(……どういう事っちゃ!?)

スタンド本体の毛が次々と落ちてゆき、その度にスタンド達は増殖してゆく…。

「レイナ…ネエ…アソボウヨ…」
「レイナ…ボクタチハトモダチジャナイカ…」
「レイナ…イタイヨ…ナグラナイデ…」
「レイナ…サア…イッショニイコウ…」


ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカッッッッッ!!!!!!!!


倒しても倒しても復活してくる。かといってホソキに向かえば声の攻撃がある。

(キリが無かッ!!)

「まだ分かんねえのかよッ!!無駄無駄無駄なんだよッ!!この薄ら脳みそッ!!
 テメェが願いを失わない限りはこいつらは消えないっつってんだよォッ!!!!」
「そ…それって…」
「あきらめるんだよッ!!『もう友達なんていりましぇ〜ん』ってなあッ!!」

(……願いを…友達をあきらめる…れいな……そんなの嫌たいッ!!!!)

ホソキが一歩こちらに近付く。思わず後ずさりする。


ガシッ!!


(しまったッ!?ワナっちゃッ!!)

油断した隙についに足を捕られた。さらにそのまま羽交い絞めにされる。
もはやD・エレジーズやれいなの周りにもスタンド達が群がっている。


ボゴォッ!!


「がはァッ!!」

思い切り腹を殴られた。一発、二発と続く。蹴りも入る。
もはや完全に囲まれ身動きも取れない。

(あぁ…結局お友達できんかった……ただそれが悔しか……)

「レイナ…イツマデモイッショダヨ…」
「レイナ…ネエ…ワラッテ…」
「れいなぁッ…しっかりしろォォッッ!!!!」
「レイナ…モウスグデオシマイダヨ…」
「レイナ…ズットズットトモダチ…」


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…


(意識が薄れてきたっちゃ…もうオシマイか…短かか人生だったと…。
 夢はどうしてもあきらめられん…れいなみんなのコト好きやけん……)

「れいなぁッ!!!!」

(あぁ…何だか美貴姐の声まで聞こえてきたっちゃ…幻聴ばい……)

「もう少しだあァァァァッ!!!!」

(あぁ…美貴姐の幻覚まで見える……美貴姐は今えり達と一緒ばい…ここにおる訳無か…。
 ……みんな………サヨナラ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「れいなああああァァッッッッ!!!!あきらめるんじゃねええェェェェッッ!!!!
 おおおおおおおおォォォォッ!!ブギートレインッ!!オオォスリイィィィィッ!!」


ドカドカドカドカッ!!!!バキバキバキバキッ!!!!


藤本美貴のスタンドがれいなを取り囲む敵達を蹴散らす!!

「美貴姐ッ!?……ホントにホントに美貴姐なのッ!?」
「イエ〜ス、アイアムッ!!最近オメェの様子が何だかおかしいしよォ…。
 やっぱ4人の方がおもれーし……気になっから来ちまったよ。へへッ」

藤本はニカッと悪戯っぽく微笑む。その背後からスタンド達が襲い掛かる。

「ああッ!?美貴姐ッ危ないッ!!」

「シャボォォォォォォォォンンンンン・イィィィィルゥゥッッッッ!!!!!!!!」


バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ!!!!!!!!


スタンド達は激しい爆音と共に砕け散る。

「藤本さん油断は禁物なの」
「さゆッ!?さゆまでッ!!」
「一人で抱え込む癖は相変わらずなの、バカなのれいなは」

道重さゆみは怒った顔を見せたが、すぐに笑顔に戻る。

「何だ…コイツ等!?…いきなり現れやがって…」

突然の乱入者にホソキは少し狼狽する。

「おい、てめぇ……よくもうちのれいなにひどい目を合わせたなッ!!許せねぇッ!!」

藤本はがホソキに向かって行く。

「見たところ、こっちを叩いた方が早そうじゃねえかッ!!」

「あッ!!美貴姉いけないッ!!あいつの声を近くで聞いたらいかんッ!!」

ホソキは声の射程距離を確認するとニヤリと笑った。

「ククク…おいッ、お前だよッ!!そこを動くんj

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


………
……



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


一瞬何が起こったのか分からなかった。
ただ、目の前では藤本のBT・03が音も立てずにホソキをブチのめしていた。

見た事のあるスタンドが3人の周囲を巡り、本体の側へ寄るとその能力を解除する。

「サイレント・エリーゼACT1ッ!!周囲の音を消したッ!!」

亀井絵里はピンと背筋を伸ばし、声高らかに宣言した。

「…ふう…間に合った。……もう二人ともひどいよッ!!二人で先に行っちゃってッ!!」
「…絵里ッ!?」
「今頃来たの?」
「おい、おせーぞ亀ッ!!」
「二人ったらマゴで注文した後に、急に走って行っちゃうんだもんなあ…。
 何も口にしなかったからって、お会計しなかったら犯罪なんだからねッ!!」
「ああ、そうか…悪い…今度改めておごれや」
「やっぱり何も食べていないと、おごられた気がしないの」
「何じゃそりゃあッ!?そうですかッ!!またおごりますよッ!!うわあぁーんッ!!」


ザッザッザッザッ…

「ま、うちら4人揃えばもう怖か無ぇだろ」
「さっさと終わらすの」
「うへへへ…」
「みんな……」

ホソキは完全に失神しているが、人形スタンド達の攻撃はやむ事は無い。

「な…何なんだ!?コイツ等ッ!?」
「本体はやられているのに…自動操縦なのッ!?」
「これって、どうすりゃ良いのッ!?」
「みんなッ!!これは…れいなの願い…夢のスタンドたいッ!!
 れいなの願いが消えんと…れいなが夢をあきらめんと消えないっちゃッ!!」
「ああん?何だそりゃ!?何であきらめなきゃいけねーんだよ?」
「そんな事は認めないの」
「そうさ、れいなの夢は僕達が守るッ!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!


とは言え、倒しても倒しても押し寄せてくるスタンド達。さすがにみんな疲れが見えてくる。

「ぐあッ!!」

亀井が攻撃を受け遠くまでふっ跳ばされる。やはり肉弾戦ではエリーゼは不利だ。

「うううう…負けるもんか…」

「きゃあッ!!」

道重のシャボン玉はそもそも屋内では不向きな上に、
ここまで入り乱れているとやたらには使えない。
しかし、ピンポイントで確実に仕留めるやり方では間に合わない。

「ちくしょォォォォッ!!キリがねぇぞッ!!」

タフな藤本の額にも大粒の汗が流れ、息が乱れる。

(……もう見てられないっちゃ)

「ねえ…もう良か。早く逃げて。このままじゃみんなやられるばい!!」
「はあッ!?」
「みんなれいなが悪か。だかられいななんか放って置いて逃げて!!」
「あ?意味分かんねぇよ!!クソッ!!…負けねぇ!ぜってぇ負けねぇ!!」
「私たちに逃げるとかあきらめるなんて言葉は無いの」
「大丈夫だよ。きっと勝てるッ!!」


ドクン…ドクン…


「……ねえ何で!?何でみんなれいなの為にそこまでしてくれるとッ!?!?」
「ああんッ?何言ってんだおめぇ?決まってるじゃねえかッ!!!!!!
 仲間だからだろうがッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ズッキュウゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンッッッッ!!!!!!!!


「悩みがあったらいつでも相談して欲しいの」
「困っている時に助け合うのが友達じゃないかッ!!」

ジワァと涙が溢れてくる。

(あぁ…れいながアホやった…こんな近くに素晴らしか仲間がおるのに…
 気付かんかったと…美貴姐…さゆ…えり…みんな……ホントにありがとうッ!!)


パアァァァァァァァァァァァァン!!!!


すると……


ピタッ!!!!


「え!?」

敵スタンド達の動きが止まったかと思うと、突然ボロボロと崩れ出した。
ほとんど音も立てずに崩壊してゆくその姿は、
まるで石像が風化してゆく様をビデオの早回しで見ているようだ。

「何!?コイツ等!?」
「どうしちゃったの?」
「勝っちゃったの…僕達?」
「おかしか…そんなワケ…無か…?」

カーズ・ホソキは『願いや夢を失わない限りスタンドは消えない』と言っていた。
しかしなぜ?無意識にでも夢をあきらめてしまったのだろうか?バカな!?

(ハッ!!…そうか……そうに違いないっちゃッ!!
 『夢を失う』というのには二通りの考え方があるばい。
 1つは夢をあきらめてしまう事!!そしてもう1つは……!!)

「夢を叶えて、もはや夢では無くなる事たいッ!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!


「…占いは本物……れいなの願いが…叶ったっちゃ……!!」


…………


「おい、いつまで寝てんだ?起きろよ」

藤本に蹴飛ばされたカーズ・ホソキはようやく気絶から目を覚ました。

「ヒ…ヒイイィィィィッ!!!!」
「さてどうしてやろうか、こいつ?」
「ヒィッ!!許して下さいッ許して下さ〜いッ!!
 正直に言いますッ!!最初はこづかい稼ぎがしたかっただけなんですッ!!
 それなのにあの子が勝手に色々と余計な事をしていたんですッ!!
 スタンドのくせに友情だとか守ってやるだとかもう困っていたんですッ!!
 本当は暴力とか殺すとかそんな恐ろしい事は考えていなかったんですッ!!
 先程言っていたひろこって娘も大丈夫です!!占いました!本当ですッ!!
 あのスタンドがここに持ってきたお金や物は全部そっくりお返しますッ!!
 調子に乗って反省してますッ!!もうしませんッ!!もうしませんッ!!」
「テメェ何都合の良い事言ってんだよッ!!こっちは殺されかけてんだぞッ!!」
「お仕置きが必要なの」
「キツイのをネ」
「ウヒイィィィィッッッッ!!!!」

(まさかみさきちゃんは、ただ純粋にれいなの事を守りたかったと…?)

もちろんそれで博子の一件が許される訳では決して無い。でも何か複雑な気分だ。

(崩れてゆく時のみさきちゃん、とても悲しそうだった……)


          『ミ サ キ レ イ ナ ノ コ ト ダ イ ス キ ダ ヨ』


「…待つたい」

藤本達とホソキの間に割って入る。

「れいな?」
「そうだな一番酷い目にあったのはおめぇだもんな。やっちまえよ」
「できん」
「は?何だって!?」
「れいな…友達が欲しいってお願いしたと…いつでも助け合える様な友達…」
「なんだよ…うちらじゃダメだってのかよ…」
「違うっちゃッ!!れいな、みんなの事誤解してたばいッ!!
 みんな忙しそうだったし……誘っても断られてばかりやったけん!!
 だから、誰もれいなの事相手にしてくれんと思ってたばい…」

さゆがとても申し訳無いような顔をする。

「でもそれはれいなの勘違いと分かったと。れいなには素晴らしか友達がおると。
 願いが叶ったっちゃッ!!だからこの人には感謝しとる」
「おいおい、それってただの結果オーライってやつじゃ…」
「れいなは人が良過ぎるの。だから色々抱え込んで悪い奴に騙されるのッ!!」
「ホントにそう思えるの?れいなは?」
「うん。だからもう良か。許すっちゃ」

「うわあーんッ!!ありがとうございますううゥゥッ!!!!」
「もう悪い事はせんと約束すると」
「はいッ!はいッ!分かりましたッ!!約束しますぅ」
「約束を破ったら……石像にして杜王港に沈んでもらうばい」
「ええッ!?」


ポンポン!!


「うふふ……ジョーダン!ほんのジョーダンばい!うふふふ…」
「…………」

「じゃ、みんなそろそろ行くと」
「うん、そうだね」
「さよならなの」
「もう妙な事すんじゃねーぞ、ババァ。じゃーなッ!!」

4人はガヤガヤとおしゃべりしながら出て行った。
メチャクチャに荒らされた部屋の真ん中に、ただ一人ホソキがうな垂れていた。

(……じょ、じょうだんに…き……聞こえなかった…orz)


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「お、おい…こんな感じで良いのか?」
「藤本さん表情作り過ぎなの」
「証明写真じゃないんだから」
「るせーな…だいたい狭いんだよ4人一緒なんてよ。亀ッ、おめぇ外れろ」
「えェッ、何でですかッ!!」
「4人一緒じゃないと意味が無か。我慢すると」
「そうか、まあれいなが言うなら仕方ねえな…」
「プッ…怒られてんの」
「あん?亀ッ何か言ったか?やっぱてめぇは一度シメる必要あるみてーだな?」
「あ〜ん、何で僕ばっかりイィッ!!」
「二人共すごく仲が良くて羨ましいの」
「ああ、もう!!さゆまでそんな事言うし〜!」
「これで良か?もう押すっちゃよ」
「あ〜ッ!ちょ…待てよッ!!これじゃアタシの顔が半分だけ…」


ピロリ〜ン!!


「だああああああああッ!!!!!!マジかああああああああッ!!!!!!」
「藤本さんうるさいよ…」

こうしてみんなで撮ったプリクラは、ずっとずっとれいなの宝物っちゃッ!!


ちゃんちゃん☆


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追記1

……博子ちゃんは、あれから1週間程で学校に復帰したばい。
   ただの気絶が大袈裟になったけん。ホント噂って当てにならん。
   博子ちゃん自身も強盗だと思っとるらしく、れいなを見ると、
   「あの時はごめん」って言って、後は今まで通りだったばい。

追記2

「占いの館・ホソキ」…S市街

『S駅から歩いて3分程にあるこの店はすごく当たると評判である。
 何でもホソキ氏に相談すると、「なぜだかその気になってしまい、
 ついつい言われた通りに体が動いてしまう」らしい。
 噂が噂を呼んで、今では午後の開店前から行列が続いているという。
 その説得力は凄まじいものがあると体験者は語る』

 

カーズ・ホソキ
スタンド名:ハートビート・シティ

TO BE CONTINUED
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