銀色の永遠第2部 〜『モニカ』のレインボー・コーリング@〜

「ねぇ?『モニカ』?あんた何読んでん〜?」
茶髪の少女が問う。

「あ〜・・・・この本?」
胸元の黒い石の付いたペンダントと弄りながらモニカと呼ばれた少女は読んでいた本を閉じ表紙を
見せた。

「あ!・・・この本・・・昔、流行ったヤツだよね?古本なの?」
隣に座っていた年齢より幼い印象の少女が興味津々に表紙を覗き込む。

「この本ね。ほら・・・最後のページにサインが描いてあるんだ!すごくない?」
『モニカ』はペラペラとページを捲り記入されていたサインを見せる。

「すぽると・・・・そうそう『すぽると☆摩天楼』!うわ〜懐かしい・・・・」

「今聞くとものすげぇ変な名前!こんな名前の人の本が好く売れたもんやね?」

「話もなんだか古臭いし、いかにも昔流行ったって感じの時代小説なんだけど・・・・妙に惹かれ
 るモノがあってさ。思わずボックオプで買っちゃった。」
100円と書かれたシールが貼りっぱなしの本を机の上に置くと『モニカ』は教室の壁を突きぬけ
遥か遠くを見ていた。

カシン・・・・・。
長針が動き午後を告げる。

「ッ!こんなゆっくりしてる暇なかったんだ!やばッ!急がないと!」
二人の少女に手を振ると『モニカ』は教室を駆け出した。

「行っちゃったよ。すみれ〜・・・・・・・何かあった?今日?」
茶髪の少女は隣の少女に問う。
「『演劇部』が部員を募集し始めたから行ってくるって行ってたよ?」

「『演劇部』ね?なんや面白そう!あたしも後で行ってくっかな?」
「行くの?だったら私も行きたい!一緒に行こうよ!陽ちゃん!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「え〜・・・・と、この部屋が『演劇部』の部室なのかな?」
『モニカ』はボロボロに傷んだドアに手を触れた。

「『モニカ』さん?・・・・あぁやっぱりモニカさん!アナタも演劇部に入るの?」

「ッ?」
聞き覚えの無い声。背後から声を掛けられたモニカは訝しみながら振り返る。
振り返ると一人の少女がニコニコと笑いながら立っていた。
「?・・・・・アナタは・・・・・誰だっけ?」
覚えの無い顔。モニカは少女に問う。
「酷いナァ。隣のクラスの光井愛佳ですよ〜」
光井愛佳はニコリと笑うがモニカには覚えがなかった・・・・。
「光井愛佳さん・・・・・はぁ・・・どうも初めまして」
モニカは頭を下げる。
「よろしく。モニカさん!」
光井愛佳もまたモニカに頭を下げた。
「・・・・・あのさ・・・・なんで『モニカ』って名前を知ってるの?」

「え?・・・いやモニカさんのクラスメートがそう呼んでるのを聞いたから・・・・。」

「あぁそう?じゃあ私のフルネーム知ってる?」

「きっ・・・・きっか・・・・きー・・・・何だっけ?」

「私の名前は・・・・・・・・


銀色の永遠第2部 〜『モニカ』のレインボー・コーリングA〜

カラカラカラ・・・・・・

吉川友は部室の戸を開けた。
「すいませェ〜ん・・・・・・アレ?誰も居ないの?」
友は部室の中をキョロキョロと見回す。
「私達、早く来過ぎたのカナァ〜」
友に続いて愛佳も部室内を覗く・・・・・。
「中に入っちゃおうか?」
「え?」
友を尻目に愛佳はトテトテと部室の中に入っていってしまう。
「待ってよ私も・・・・。」
愛佳の行動力に驚きつつも後を追う。

「うわァ〜・・・・何やボコボコやねぇ?この部屋?ねぇモニカ?」
その場所は他の教室と違いまるでバットで部屋全体を殴打し尽した様な妙に痛んだ場所だった。
「前は運動部でも使ってたのかな?なんだかスゴイ場所!」

日差しが部屋全体をセピアに染める・・・・・・。
その暖かさが二人を包む。

「はぁ〜・・・・なんだかあったかい・・・・・・・」

グサ

「え?」
机に手を付いた愛佳の手に激痛が奔る!
ポタ・・・・
ポタ・・・ポタポタポタポタ
「え?痛?え?え?」

ブシューーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!

愛佳の掌から噴水の様に血が噴出したッ。
「だッ・・・・・・・・・・大丈夫ッッッ?!!!!!」
友は愛佳の腕を押えて止血を試みる。
「う・・・うぅ・・・・・何で・・・・何でこんなに血が出るのォ〜・・・・」
友の止血も虚しく愛佳の出血は止まらなかった・・・・。
「この出血量・・・・・・・・やばいよ・・・・人の身体は何パーセント、血を失うと死に至るン
 だったっけ?」
「死ぬなんて言わんいて〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!」
友の言葉を愛佳は涙声で掻き消す。

     カラカラカラカラ・・・・・・・・・・・・・
擦り切れるような軽い音を立て部屋の戸が開く。

「?????何?あなた達は?????何をやってるの?」
戸を開けた来訪者が中に居る二人に向かって素っ頓狂な声を上げる
「大変なんです!血が止まらなくて・・・・助けてください!!!!!」
友は蒼ざめた声で助けを請う。
「血?え??・・・・何が?」
友の言葉を理解できなかったように来訪者は首を傾げる。
「見て解りまへんの?私の掌から・・・・血が・・・血が・・・・」
愛佳の言葉にも来訪者は動こうとしなかった・・・・。
「いや・・・・・・だから何か?何にも無いケド?それよりあんた等は入部希望者?」

「え?」
来訪者の言葉に友は眉を顰める・・・・・。
「どうしたの?千聖?」
その背後から女生徒の声がする。
「何だよ?千聖?何かあったのか?」
さらに後ろからは男子生徒の声がした。
「いや・・・・この子らがね・・・・・・」




銀色の永遠第2部 〜『モニカ』のレインボー・コーリングB〜


「・・・・結局なんなんだったんやろうね?」
愛佳は掌をひらひらと宙に浮かす。
「あんなに血が出てたのに・・・・・何で急に直ったんだろうね?」
納得出来ない、といった表情で友は首を傾げた・・・・。

演劇部の入部の申請を終えた二人は夕暮れの道を歩く。
夕日を受けて二つの影は長く長く伸びた・・・・・・

「何だか簡単に入れたね?演劇部。」
友は隣に居る愛佳にぼつりと呟く。
「そやね。もっと審査かなんかあるかと思とったから、拍子抜けって感じやね」
夕日を眺めながら愛佳は答えた。
「岡井先輩と萩原先輩も凄く人が良さそうな人だったしね・・・・今から練習が楽しみだな。」
友は腕を上げ身体を伸ばしながら微笑んだ。
腕を上げた友の影は更に後ろに長く伸びる・・・・・・。
「うわッ!スゴイ!見て、愛佳ッ!影が長く伸びてるよぉ〜・・・」
友に言われたままその伸びた影を愛佳は振り返りながら眺める。
「ホンマやね〜・・・・・何だかなつか・・・・・し・・・」
言葉が妙な間隔で途絶える
「?」
その言動に違和感を感じ友は愛佳を見るッ。
「アウ・・・・アウ・・・」

    ドド
ドド ド
      ド ドドド
  ドド

見る見る愛佳の貌が蒼ざめる・・・・・・
友の貌もまた緊張の色に染まるッ。

長く伸びた影法師の先・・・・その直ぐ右の電信柱に高く高くヒトの影がへばり付く・・・。
薄暮れに光る二つの目が友と愛佳を見つめていた。


「何なの・・・・・・あそこを通り過ぎる時には・・・・居なかった・・・ハズッ。」
突如現れた怪人物を友は畏怖の眼差しで見つめる・・・・。

奇怪なガスマスク姿の緑色の男・・・・・・・まるでマンガの悪役の格好・・・・・
所々が陽炎の様に夕焼けに透けるその姿に友はある感覚を感じていた。

「こ・・・・この変質者!STKッ!あっちにいけッッ。」
恐怖のレベルが限界まで達した愛佳は足元に転がる小石を掴むと怪人に向かって投げつけたッ!

シュ    シュ・・・・・

勢い良く投げつけられ当ったと思われた石つぶでが怪人の身体を透過したようにスリ抜ける・・・

「ウソ?なんで・・・なんでッ。」
愛佳は次々と石を投げつけるが尽く怪人の身体をすり抜けた。
「やっぱり・・・・アイツは・・・・」
友はくちびるを軽く噛み締めると愛佳の肩を掴む。
「ひッ?」
パニックに陥った愛佳は身体を仰け反らせて反応した。
「愛佳!ここは私に任せて逃げて!」
そう言うと友は愛佳の身体をズッと後ろに引き寄せた。

  ゴ   ゴゴゴゴ

ゴゴ ゴ

       ゴゴゴ

友は胸元からネックレスを引き出しペンダントヘッドの黒い石を強く握った。
「『お姉さん』・・・・力を貸してください」
眼を閉じ、呟くように石に語りかけた・・・

「友・・・・どないしたん・・・・早く逃げなッ」
愛佳は友の手を引っ張ろうとしたが友はその手を払った!
「な・・・・なにするん?」
友の行為に愛佳は驚きの声を上げる。

「『友』はアナタにこの場から去るように言ったんじゃあないの?」
『友』はまるで別人の様な態度で愛佳を突き飛ばす。

「え?」
呆けた愛佳を余所に『友』は怪人に向かって歩きだした。
「『時間』も限られている・・・・手早く済ませないと・・・・」
そう言いながら『友』は手の中の黒い石を怪人に向けた。

  キュュュユュュュュュュュュユュュン

高周波に似た音波が石から鳴り響いた・・・・・・・。

「ほ。成程ね!『影を地雷化する能力』か・・・・」
スンッ!
口端を軽く上げ『友』は怪人を見上げた。


「じぁあそういう事で!あの男には近づかず短期決戦でお願いしますよッ『岩出山さん』」
『友』はそう言うと再び石を握り締めた。
プッと糸が切れた人形の様に膝を落す、がすぐさま立ち上がった。
「・・・・おっと!『繋がった』か。はいはい、男に釘を刺して喜ぶ趣味は無いがこんな所で
『宿主』に死なれちゃ適わないからな!残り1分45秒!チャッチャと片すか?」
『友』の口調が男性のモノに変わりパンパンと胸元で拍手をした。

「さてと・・・・奴さんは『何故か』動かない・・・・・『舞波』のアマは何も付け加えなかった
 けれど『地雷化させた影』を維持するには動けないのか?それとも・・・何か?」
『友』は両手を組み合わせ長方形を作って『怪人』に標準を合わす。
先刻から動かない『敵』・・・・・・動かないのには理由がある筈なのだ・・・・

ガシッ!
「うぉ?」
身体を揺さぶられて標準が揺れるッ。

「ねぇ?どうしちゃったの?友?さっきからオカしいよ・・・・こんな所から早く逃げよう・・・
 直に日も落ちて真っ暗になっちゃうよッ!」
愛佳は必死で友の身体を揺すり説得しようとしていた。
「な?このガキッ!!邪魔するんじゃねェーーーッ!!!『僕等』がこの身体を使えるのは僅かな
 時間なんだってのに!それに日が暮れる前に倒さなければ・・・・」
愛佳の手を弾き飛ばした『友』の言葉が止まる・・・・

「く・・・ぐぅ・・・・・」
『友』の両手が激しく震え始めた。
「もうチアノーゼか?早すぎるッ。狙いはどうでも良いッ!メッタ刺しにしろ!『サデステック・
 デザイア』!!!!!!」

ププッ・・・・・ププッププ!!!

見えないモノか空を切り裂き『怪人』に向かって射出される。

グサグサグサッ!
衝撃が怪人を穿つッ。
胸を打ちぬかれた怪人はそのまま地面に落下した。

「時間ギリギリだったが・・・・何とかなったな」
息を荒げ・・・顔を蒼白させながら『友』は地に落ちた怪人を見下した。

・・・・・カチン

ピンが弾け飛んだ軽い音が響く・・・・・

「え?」
ドカンドカンドカンドカンッ!
電信柱の影が炸裂し周囲の空間ごと破壊しながら『友』に向かって直進する!!

「グォッ!?ちっとタンマ!!『地雷化』して爆発するのは『足元の影』じゃあないのかッ?!」


炸裂する火柱を回避しようとするが『血の通っていない』足は痺れ、動こうとはしないッ!
「クソッ!本気にヤバイッ。今すぐに友に切り替わっても・・・・」
『友』は身体を丸め後方にコロ返りながらなんとか火柱から距離を置こうとするが・・・
夕焼けに伸びた影はドンドン『友』に向かって進むッ!

「ま・・・・間に会わねぇ・・・・こんな・・・・見っとも無い負け方をするんじゃ死んでも
 死にきれねぇッ。」


「友ッ!!!」

ドガァアァアア!!!!
火柱の進行が止まるッ!

「何だ・・・・?お前が?・・・・いやそうだったお前も『スタンド使い』だったな!」
『友』の視線の先・・・・・愛佳が火柱に手を翳しその炎を受け止めていた。

「何や・・・何や解らへん・・・・だけどこれ以上、友達を傷つけることは許さへんでッ!」
愛佳は恐怖に震える下唇を噛み締めながら、炎の先に揺らぐ緑色の怪人を睨み付けたッ!

「・・・・・・・・・」
怪人は無言のまま愛佳に向かって『何か』を指で弾き飛ばした。

クルクルと薄っぺらいモノが縦回転しながらゆっくりと孤を描く・・・・・・

「ッ!?   何・・・・・・?」
攻撃とは思えないそのゆったりとした動きに愛佳は逆に動揺した!

「・・・・?いや?まさかッ!!!」
『友』の顔に緊張が走るッ!
「ガキッ!!!!その場から動け!そのコインの延長線上にいるんじぁ無いッ!」

「え?」

投げられたコインの影が愛佳の制服に浮ぶ・・・・・

                ブシュウウウウウウウウウウッッ!!!!!!

影は炸裂し愛佳の肩から血飛沫が舞った・・・・。