銀色の永遠 〜真夏ノ夜ノ夢@〜

8月5日

:夏焼雅

ペラ
   ペラペラ

ペラペラペラペラ

夏焼雅は紙片を捲る。

捲る。

捲る。

『このライトノベルがすごい 2000』の頁は終わり雅は軽く嘆息を吐くと本を棚に戻した。

「この本もハズレ・・・・・・このテの本・・・・何冊目かしらねぇ・・・」
小声で独り言を漏らしながら雅は苦々しい表情を浮かべる。
書店の棚を指で弄りながら雅は『執筆者』の名前に目を光らせる。

「菅沼・・・・菅沼・・・・・駄目だ・・・どんなに探してもそんな名前の作家は居ない・・・
 やっぱり『本名』じゃなくて『ペンネーム』で仕事をしてるのか・・・・・?」


志田未来が吐き捨てた『腐れ小説家』の言葉を頼りに雅は菅沼英秋という人物の足跡を追っていた。
電話帳にも記載は無くマンションやアパートを探ってみてもそんな名前の人物は居なかった。
小説家として活動しているのなら住まいや何かしらの情報が紹介されてるのではないか?
そう考えて雅はここ何日か書店や図書館を梯子して『その名前』を探していた。

片倉景広から直接聞き出そうとも思ったが・・・・・顔見知りという訳でもないし『凶暴で操作も出来ない
スタンド能力者』と相対せば戦闘は必至!
戦闘すれば話は余計に難解になり不用意に要らない火の粉を撒く結果にも成り得る・・・・・・・・

だからこそ直接その集団の統括者と話す必要がある!

「どうしたらいいのかな?・・・・・もっと何か別のやり方にしたほうがいいのかな?」
次の行動を思案しながら夏焼雅は眉を寄せながら急いで書店を後にした。


銀色の永遠 〜真夏ノ夜ノ夢A〜

8月5日

:岸辺露伴

「ン・・・そうだな。構図はこのアングルが一番だな?」
カメラを構え路地や町並みを景色を収める。

知ってい様な風景でも知っているだけでは心を打つ『リアリティ』には繋がらない!

だから僕は時間を惜しまず取材や資料を蒐集する・・これが『漫画家』としての僕の信念であり仕事なのだ!

パシャリ。パシャリ。
小気味の良いシャッター音が響く
「もう一枚撮っておくか!」
カメラを構えなおしシャッターに指を掛けた瞬間

トンッ!!

「?!!!」

何かが僕の背中を押し勢いで狙いがずれたままシャッターが切られる!

「・・・・・・・・」
後ろを振り向くと中学生と思わしき少女が何かブツブツと言いながら通り過ぎようとしていた。
「・・・おい!待てよ!人に当たっといて謝り無しは無いんじゃないか?」
聞こえるように声を張っていってやったが少女は無視して歩き去ろうとする・・・・。

  ガシィ!!

謝りもしない無礼者の肩を強く引く!

「・・・・ッ?!!」
振り向いたその顔は突然の事に驚いた表情をしている!!

僕は暴力は好きじゃあない・・・・が、人としてのマナーも守れない猿以下には然るべき仕置きが必要だ。

「『天国への扉』ーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」


ズギュンッ!!!!!!

少女は膝を折りその場で崩れる・・・・。

「フンッ!」

さてと・・・・コイツには何と言う風に書き込んでやろうか?

ペラリ。

「何々・・・・名前は『夏焼雅』・・・・・・ッ!コイツもぶどうヶ丘の『演劇部』かッッッ!!!!!」
『スタンド使いは引かれ逢う』・・・か・・こんな精神の捻れた奴ばかりにしか逢わないのは皮肉だね。
「フン・・・・・中等部か、随分と人数は居るな・・・高等部と同じくらいの数か・・・コイツ等がもし
 『誰か』の煽動を受けて暴れたら・・・・・とんでも無いコトにに成るな・・・・僕には関係ないが・・」

ペラリ。

『菅沼英秋は何者なのか?奴は何処に居るのか』

クソったれは何故クソったれを探したがるのか?
『ライナーノーツ』?『志田未来』?『福田麻由子』?『伊達謙』?『遠見塚正宗』?
『ジォルジュ・エネスコ』?『片倉景広』?
知らない名前が多いな?・・・・なるほどな・・・・・興味が涌いてきた・・・・・・

コイツをあのムナクソ悪い偽善者の菅沼に逢わせれば色々な糸が解れる・・・それを見届けるのも面白いな。





「すみませんでした・・・・・・考え事をしてたもので・・・・本当に申し訳有りません。」
深く頭を垂れる少女に僕は笑顔で答えた。
「良いって・・・・そんな事より急いでるんじゃないのかい?」

その言葉に反応したように少女は駆け出した・・・・・僕はその背中を見送った・・・・・

「どんな結末になるか・・・・・その顛末を見届けさせて貰うよ・・・・・高い所でね・・・・」


銀色の永遠 〜真夏ノ夜ノ夢B〜

8月5日

:菅谷梨沙子   

       若しくは
            石村舞波

「あばっばーあばっばーばばばばばばあばば」

梨沙子は筆を走らせる。

『きょうもいちにちふつうにすごしました』

日記帳にそれだけ書くとパタリとノートを閉じる・・・・彼此何日同じ内容で一日を〆ているのか・・・
そのマンネリズムは彼女にとってなんの苦痛でもなかった・・・。

『あしたも今日みたいに平穏にがんずきと遊ぶ日々が続けばいいな』
ベットに身体を預けながらぼんやりとそんな事を考える・・・・・人生に大きい波は要らない心穏やか日々のみが彼女の望みだった・・・・。

コン
   コン
     コン

「・・・?」

窓ガラスに小石が当たる様な音がする・・・・
不審に思った梨沙子は窓の外の闇を凝視する。

闇に浮かぶ影。
そのボンヤリとした影は徐徐に形を作り始める・・・・
影は人型になりその姿は梨沙子の知ってる人間ににた様相を見せる。

「・・・ま・・・・舞波・・・・?」

梨沙子の口から出た名前・・・『石村舞波』・・・去年行方不明になりそれっきり姿をみせなくなってしまった・・・・梨沙子の大切な仲間・・・・・その幻影が梨沙子の前に降り立った。

「久しぶり梨沙子・・・・・・ねぇ?部屋に入る許可・・・・・してくれないカナ?」

夜の闇・・・・ガラス越しの友人の言葉に梨沙子は慌てて窓を開ける。

「舞波・・・・中に入ってッ!」

「・・・ありがとう。じゃあ中に入るね・・・・」
舞波の身体は音も無く部屋に入り込む。

久方ぶりに見る友人の顔を梨沙子はじっくりと見つめた。

「なぁに?梨沙子・・・・?」
『視線』を感じた舞波は梨沙子に問うた?

「・・・・今までどうしてたんだゆー・・・みんな・・・みんな本当に心配してたんだゆー。」
視界を涙で濡らし・・・声を震わせながら梨沙子は言葉を紡ぐ・・・・

「・・・・ごめんね・・・・私はもう生きてないんだ・・・」
梨沙子の視線から顔を逸らす様に舞波は俯きながら答えた。
「あば?・・・・何・・・それ・・・?」
舞波の独白に梨沙子の視線は宙を泳ぐ。
「いつ・・・なぜ死んだのかはどうしても思い出せないけど・・・・これが現実なんだ・・・」
強い視線で舞波は梨沙子の顔を見る。
「ウソだよ・・・何で舞波が・・・死ななきゃならないの・・・・・こんなの・・ヤダよ・・・」
その視線の強さに真実を感じ梨沙子の胸は否定したい気持ちで一杯になる。

スッ・・・・

舞波の手が梨沙子に触れる・・・・
掌から溢れ出る鼓動に真実を感じた・・・・・。

「ごめんね・・・舞波・・・・・理解したゆー・・・・」

「私こそ悲しませたりしてゴメン・・・・実はね・・・梨沙子に頼みたい事があるんだ・・・」


銀色の永遠 〜真夏ノ夜ノ夢C〜

8月6日

:菅谷梨沙子


車窓に映る緑が高速で流れる。

「いひひ。新幹線に乗れるなんて思っても見なかったもん。」
菅谷梨沙子はグリーン車の椅子にポンポンと反動を付けて飛び跳ねる。

「駄目だよ!梨沙子ォ〜。ここは公共の場所なんだから御行儀良くしなきゃ・・・・。それに遊びに行くんじゃないよ!」
隣の席に奇妙な姿勢で座る石村舞波は梨沙子を嗜めるように言った。

「解ってるもんッ!このおじさんに逢って仲間を帰してくれる様に説得するんでしょ?」
梨沙子は肩に掛けたバックから折り畳まれた雑誌の切れ端を取り出し広げる。

『すぽると☆摩天楼のセカイ 第9回 新刊『少年と蟻の王』を語ってみる!』
と題されたページには飄々とした男の写真とコラムが書き落してあった・・・・。
「まさか・・・・梨沙子がコイツと知り合いだったなんて思っても見なかったけどね・・・」
舞波はふわふわと上空に浮きながら一人ゴトのような声で呟く。

梨沙子はテンガロンハットを深く被り直して舞波に語りかける。
「ねぇ・・・・本当にあのおじさんは悪い人なのかな?変な人だったけど・・・・悪い人じゃあないゆー」
梨沙子の問い掛けに舞波は暫く沈黙をしてから答えた・・・・。
「・・・悪い人・・・・じゃあ無いと思うよ・・・東俣野さんが居なくなった『あの後』に私の行く先々
 出没して『事』が起きないように行動していた・・・・少なくとも私にはそう思えた・・・」

「それじゃ・・・・・・」
梨沙子と言葉を遮る様に舞波は続けた。
「確かに・・・・・私一人の力ではどうにも成らなかった・・・・だけれど私から東俣野さんを奪い去った
 事には変わりはないの・・・・・・」


「舞波の言ってること・・・・・・よくわかんない・・・・・・なんであのおじさんが・・・その東俣野さん
 を盗ったことが・・・・・・・・・なんでわかるんだゆー?」
舞波はぼそりぼそりと呟くような声で話し始める。
「・・・・・幽霊は限られた人間でしか見ることが出来ないし幽霊の力でしか完全に倒すことは出来ない・・・・・」
いきなり話された事に対応出来ず混乱の色が梨沙子の顔を染める。
「?」
混乱する梨沙子はよそに舞波は続けた。
「あの男が戦ってるの時にね・・・・・東俣野さんの『スタンド』を使ってたの・・・・」
舞波の言葉に梨沙子はますます混乱する。
「あ・・・あば?・・・・・あのおじさんがスタンド使いで・・・・おじさんのスタンドじゃないの?」
舞波は身体を抱えながら俯き宙を浮く。
「残念ながらソレはないよ。あの男は胸元の『黒い石』を指先で叩きながら東俣野さんの名前を呼んで・・
 まるで操るみたいにして『スタンド攻撃』を繰り出していた・・・・それにね、その戦いが終わった後
 暴れてた人に『黒い石』を近づけてマホウみたいに吸い取ったの・・・・・東俣野さんもあの男にああやっ
 て掴まったのかもしれない・・・・。」
舞波の言葉に梨沙子は唇を噛み締めた。
「・・・・やっぱりあのおじさんは悪い人決定だね!」

『ハヒィ!それは違うど。』
バッグの中から妙な声が聞こえる!
梨沙子はバックに顔を突っ込みながらペットボトルを取り出す・・・・
中を満たすのは『透明な水』・・・・・水は揺れながら自らの存在を主張するかのように獣の言葉を紡ぐ。
『あ・・・主は自分の都合で動く様な人じゃない・・・・きっと何か理由があるのに決まってんだ。』
「どんな理由があろーとあたしの友達を悲しませるよーなヤツはワルモノに即決定なんだもん!!!!」
梨沙子はペットボトルを勢い良く振って中のがんずきに攻撃を加えた!
『あ・・・・・あぶぶ・・・・りさこ・・・・・・それ以上は・・・・き・・・けん』
「ちょっと!駄目だよ梨沙子!!!!!やめなよッ!周りからスッゴイ冷たい目で見られてるよ!!!!」
「あば?」

梨沙子が周囲の冷たい視線を確認すると同時にアナウンスが流れ旅の終点を一つ刻んだ。


銀色の永遠 〜真夏ノ夜ノ夢D〜

8月6日

:カードリッジNO4『蛇の知恵、その全て』

「あばばばばば・・・・。」

広い空間。
経験した事の無い様な広さ、慌ただしさに梨沙子の心はすっかり呑まれてしまった・・・・・・。

「梨沙子?どうしたの?早く行こうよ。」
舞波の言葉に我を取り戻した梨沙子は急いで改札に走し出す。
首尾よく改札を抜けると数字の羅列が視界を覆うッ!!

「・・・まいは・・・何処へ行ったらいいの?・・・多すぎてわかんないゆー・・・」
読めない漢字、聞いた事もないような地名。そして多すぎる路線に梨沙子の情報処理能力はたちどころに臨界
を迎えた!!

「落ち着いて。グリーンの所に5の書いてある所だよ!山手線外回り品川方面。降りる駅は五反田で乗車料金は160円。」
舞波は梨沙子を落ち着かせると明瞭に目的地を告げた。
「あば・・・解ったもん。」
促されるままに硬貨を販売機に滑り込ませ五反田までの乗車券を購入した・・・。

「これであのおじさんに逢って東俣野さんって人を奪い返せば舞波も寂しくなくなるね!」
強い瞳で梨沙子は舞波を見つめる。
「大人しくコッチの話を聞いてくれればいいけど・・・・・」
自分を認識出来る人間が梨沙子しかいなかった、からとは言え巻き込んでしまった事に舞波は今更ながら罪悪
感を感じて来てしまった・・・・。
『だいじょうだ!・・・・・・主・・・い・・いや「元」主だって心の痛みは充分に解るヒトだッ!!!事情が解れば話を聞いてくれるど!』
ペットボトルの中でがんずきの獣の声が力強く響く。
「そだね!いざとなったらおまえが居るし・・・・・きっとうまくいくよ!」
梨沙子はペットボトルをなでながら舞波に笑いかけた。
「・・・・・ありがとう・・・。」
その笑顔で舞波は心の痛みが軽くなっていくのを感じた。
笑顔でいた梨沙子の頬に疾風が奔る。

ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン

騒音を立てながら銀に緑のラインがレールを軋ませ停車した。
開いた扉からは無数の他人は波を作りながら流れ出す。

梨沙子は決意を改める様に、力強く一歩を踏み出した。

ガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタンガタン・・・・

電車の腹の中で吊革に揺られながら梨沙子は網棚の舞波に小声で尋ねた。
「ねぇ?なんで舞波はおじさんの居場所。知ってるの?」
その質問に舞波は当たり前のように答えた。
「顔は解ってたしね。後を付けて色々調べたら直ぐに解ったよ・・・・・けれどね・・。」
言葉を濁した舞波に梨沙子は怪訝そうな表情を浮かべた。
「『けれど』?」
舞波は目を逸らしながら続けた。
「住処まで調べた頃からあの男の動向がプッツリと切れてるの・・・・・杜王町では見かけていないし
 五反田のアパートにも鍵が掛かってて中に入れない・・・・・私達は中の人の許可が無いと部屋の中のは
 入れない・・・・・・だからどうしても生きてる人にお願いしたかったんだ・・・・」

「むずかしいコトは良く解らないけど・・・・・・私なら舞波の役に立てるってコトね!」

電車に奔る振動の種類が変わる。
アナウンスが流れ電車は停車した。
夏の暑さに焼かれたコンクリートが咽返るような熱気を放っている・・・・・
梨沙子はテンガロンハットを被り直し五反田の町を見下ろした。

「なんかこの町・・・・・・好きにはなれない・・・」

馴れない空気に梨沙子は違和感を覚えそんな言葉が口を吐いて出る。

「急ごう・・・・・事が終わればすぐに帰れるよ・・・・」

舞波の言葉に頷くと梨沙子は足早に駅を出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

駅から30分程歩くと築10年位だろうか・・・ほど良く痛んだ安アパートに辿り着いた。
「・・・・ここだよ・・・ここの302号室『菅沼英秋』・・・そこがヤツの住処・・・」

「すがぬまひであき・・・それがおじさんの名前・・・・」

錆付いた階段が必要以上にカンカンと高い音を立てる・・・・・
梨沙子は一歩一歩階段を登り詰める。

「待っててね・・・・・東俣野さん・・・・必ず・・・・」

アパートの三階に上がると手前が『301号室』、その隣がターゲットの『302号室』だった・・・

ガチャッ!ガチャッ!

ドアノブは金属音を立てるだけで動きさえしなかった・・・・
「やっぱり鍵、かかってるね・・・・でも!」

ズギュンッ!

梨沙子のスタンド『ファイアフライズ・スター』が発現しドアノブに触れる。
「えい。」
梨沙子がノブを引っ張るとノブは引っこ抜けアイスクリームの様にドロドロに溶け落ちコンクリの床に落ちた。
「舞波ッ。中に誰か居る?」
直ぐさに梨沙子は舞波に中の状況を窺う様に促す。
「中には『一人』・・・・アイツかどうか・・・までは解らない・・・けれど一人居るッ!」
『・・・この感じは主じゃあないど!でも・・・・どっかで・・・感じた気配だど?』
「・・・・解ったもんッ!」

梨沙子はゆっくりと扉を開く。
締め切った部屋の暗がりから何かがこちらの動きを察したらしくモソモソと動く。
暗がりの動きを梨沙子は凝視しつつ出方を窺う・・・・・。

キラリ・・・・。

暗がりから鋭い光が揺らめく
・・・・その揺らめきのヤバさを本能的に悟った梨沙子は尻餅を突く様な格好で身体を下げたッ!

トォォオオオォンッ!!!!!!!

軽い音を立ててテンガロンハットが朱い一閃により扉に昆虫標本の様な無残な姿に変わる・・・・。
はらはらと茶色い髪の毛の数本が半開きの扉からの光を受け宙に舞う。

光は部屋を微かに照らし荒らされ破壊しつくされた姿を露わにした。
梨沙子はその中に立つ親しい人の姿に目を丸くして驚愕した。
「・・・・み・・・・みや・・・・・なんで?なんでココにいるの・・・・・?」
朱槍を手に収めながら・・・・夏焼雅もまた驚愕の表情を浮かべた。
「りさこ・・・・・・アンタこそ何で?・・・・・・まさか・・・・。」


TO BE NEXT SIDE・・・・・