882 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:13:41.73 0

  ―演劇部・部室―

(だりぃー……)

ある日の放課後。
夏の日差しが強くなってきたこの頃。 藤本美貴はやる気が出ない。
ここのところ特訓ばかりしていた反動からか、今日は格別無気力だった。
部活が始まるまでの間、美貴が椅子に座ってだらんと手足を伸ばしているところへ
田中れいなが部室に入ってきて、近くに腰を下ろした。

「……」

れいなは鞄から何やら雑誌を取り出し、ぱらっと開いて
折り目をつけていたページから読み始める。

「なぁ、れいなよォ」
「んー?」

雑誌に目を落としたままれいなは答える。

「なに読んでんだ?」
「図書室に置いてあった本」
「ふぅん、なんて?」
「『宇宙のファンタジー』っていう昔の雑誌。 宇宙人とか、UFOとか、
 そんなんがいっぱい書いてある本」
「へぇ…」

(何が面白いんだか、そういうの…)
そう思う美貴をよそに、彼女は興味津々な様子で活字を追っている。
美貴は再び、だらしなく手足を伸ばして机に伏した。


883 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:14:15.30 0

「あ、美貴姐!」
「あン?」
「あのー、アレ! ちょっとド忘れしたんやけど、ほら…畑とかにさ、
 謎の円型模様…人の足跡も無かとに綺麗に草がなぎ倒されとって…
 えーと! あれの名前なんやったっけ? テリーマンじゃあなくて…」
「『ミステリー・サークル』?」
「そうそう、それそれ! 『ミステリー・サークル』!」
「それがどうしたんだ? その雑誌見てんのもそのせいか?」
「うん、まあそうなんやけどね。 前に杜王町にそれが出来たん知っとお?」

(杜王町に…? そんなんあったか?)
美貴は首を振った。

「去年の夏だか秋頃、学校の近くの畑にそれが出来たことがあったんやって。
 すぐ消えてしまったらしいけん、見た人は少ないらしいっちゃけど」
「ほぉ〜。 どうせ『ヨッシー』ん時みたいに見間違いじゃねーの」
「うんにゃ! 仗助くんから聞いたんやけん間違いなか!」

と、れいなは鼻息を荒くして語っている。
しかし美貴はそんなことには興味は無く、むしろ気になるのは、
(仗助からって、おめーらいつの間にそんな仲良くなってんだよ…)という事だった。

「で、仗助くん宇宙人と会ったんやって、それから…」

れいなは子供のように目を輝かせながらその話を続けた。
もっとも美貴のほうはそれを半分聞き流しながら、
れいなと仗助が2人で歩いている姿などを想像して、
(案外似合いかもしんねーな)
と、笑いをかみ殺していた。


884 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:14:47.49 0


ガラガラッ!!


部室の扉が開く。

「おーし、部活はじめんぞー」

入り口から吉澤ひとみが入ってくるのと同時に美貴は席を立った。
それからスタスタと入り口に向かって歩き、吉澤と入れ違いに出て行こうとする。

「おいおいミキティ、部活始めるって言ってんじゃん」
「さーぼーりー」
「部長の前で堂々と言うなっ」

吉澤は部員名簿で美貴の頭をペシッと軽く叩く。

「美貴お腹いたいのー」

鼻声の裏声(?)のような声を出してふざけながら美貴は部室を出た。

「キモッ」
「うっせ!」


--------------------------------------------------------------------




885 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:15:19.63 0


  ―カフェ・ドゥ・マゴ前―

部活をサボっての帰り道、ドゥ・マゴの前を通ったところで
藤本美貴はなんとなく喉が渇き、店内を見渡した。
オープンテラスのテーブルには学生服の男子が2人座っているのみ。
1人は見知らぬ制服で、見ない顔である。
もう片方はどうやらぶどうヶ丘の学ランのようだが、背を向けていて顔は見えない。

(うっし、コーヒーでも飲んでくか…)

久世光彦との戦いの後、特訓ばかりしていた疲れもあり、
ちょうど静かな気分に浸りたいと思っていたところだったため、
客が少ないのは好都合だった。

「すんませーん、これ1つ。 Mサイズで」

アイスコーヒーを注文し、テラスのテーブルへ戻って座る。
それからストローで少しずつチューチューと啜りながら、
日差しの暑さと、アイスコーヒーの冷たさのギャップに心地よさを感じ、
まったりとすぎる時間を過ごすことにした。

(あー…。 亜弥ちゃんにでも電話してみっかな…)


ザッ


鞄から携帯電話を取り出そうとしたところで、すぐ近くで足音が聞こえた。
ふいに顔を上げると、そこに見知った顔があった。


886 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:15:51.27 0

「座っていいか?」
「アンタは…」

返事を聞く前に、『辺土名一茶』はテーブルへ腰掛けた。

「……」
「ひさしぶりだな」
「ああ…。 てかよォ、別に相席はかまわねーけど、他にも席は空いてるぜ?」
「そうだな。 しかし知らぬ顔じゃあ無いんだ、いいだろう」

一茶は無表情なのか微笑んでいるのかよくわからない表情である。
好意的とも言えないが、敵意があるようにも見えない。

「知らぬ顔じゃないつったって、アンタんとこの会社で一度会っただけだろ」
「まあそう言うなよ」
「ふん。 つーか、アンタ一応サラリーマンだろ。
 なら平日の昼間にこんなとこでサボってて大丈夫なわけ?」
「なに、仕事に差し支えないさ」
「援交だと思われたって知らねーからな」

そこで一茶はくくっと笑った。
それから店員を呼び、美貴と同じくアイスコーヒーを注文した。

「それで、何か用があるんじゃねーの?」
「まあな…」

そうして一茶は話始めた。
すぐに本題に入り、それは実に単刀直入であった。
彼の話の内容はこうである。


887 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:16:22.72 0


『寺田とは何者か?』


「……」
「社長からの命令でね、極秘事項だ」
「なんであたしにそんなこと聞くんだよ」
「ぶどうヶ丘高校には何人か知り合いがいるもんで、そいつらから聞いたんだが、
 君は演劇部に入部してもう1年以上にもなるんだろう。 詳しいかと思ってね」
「あたしより長く在籍してる部員なんてたくさんいるだろ」
「いやいや、その中でも君は特に部活に熱心というわけでも無さそうだ。
 そういう人間に聞いたほうがいいだろう」

そう言って彼は少しニヤけた。

「アンタなァ、あたしをバカにしてんのか? これでも歌には自信あるし、
 それなりに夢持って演劇部入ったんだ」
「なら平日の放課後にこんなとこでサボってて大丈夫なのか?」
「うっ…」

ついさっき自分が言った言葉をそっくりそのまま返され、美貴は言葉に詰まった。
確かに一茶の言う通りではある。

「教えてくれないか。 何か知っていることがあれば少しでも…」
「悪いけど、」

一茶の言葉を遮り、アイスコーヒーを1口吸ってから、美貴は彼を見据えた。

「話すことは出来ないな。 その代わり目的も聞かないし、
 あんたらが奴のことを知りたがってることも黙っててやる」


888 :マイマイ268:2006/10/24(火) 21:17:09.65 0
「やっぱり、か…」

答えを聞き、そこで一茶もようやくアイスコーヒーを口にした。

「どうしても聞きたいなら力付くで聞きだしな」
「いや、そんなことをする気はない。 それに、収穫はあった」
「…?」

収穫はあった、とはどういう事かと美貴は首をかしげる。

「君の口ぶりから、君が彼を普通の教師だと思ってないことくらいは察した。
 普通は顧問教師の事を他人に向かって“奴”だなんて言い方はしないだろうし、
 それを隠したがるのがますますもって怪しさを強調させる。
 もし君が“何考えてるかわからない変な教師だよ”程度の事を言っていれば
 もっと上手く隠し通せたかもしれないが」
「…ふんッ」

少しだけ悔しさを感じ、美貴は彼から視線を逸らす。

「今日はここらで引き上げることにしよう。
 一応、名刺を渡しておく。 もし話す気になったら連絡してくれよ」

一茶は自分の名刺を置くと、代わりに伝票を手に取った。

「おごってもらう義理はねーよ」
「男のたしなみって奴だ。 情報料代わりとでも思ってくれ」

そう言って一茶は伝票を持ってカウンターへ向かった。
美貴一茶の背中をぼけっと眺めながら頬杖をついた。

938 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:49:04.01 0
スーツをビシッと着こなし、淡々と清算をする彼の後姿は
スキンヘッドでさえ無ければどこかのエリート営業マンのように見える。

(何やろうってんだ、アイツは…)

ぼんやりとそう考えていると、隣のテーブルの学生の会話が聞こえてきた。




「で、ミキタカよォー。 俺の帰還命令はいつ出るわけよ」




別に他人の話を盗み聞く趣味はないが、なんとなくその会話を聞くことにした。
帰還命令? 何か“ごっこ”でもやってるのか、と耳を欹てた。

「すみません、インズさん。 ぼくの所にはそういう話は来てないので…」
「そうかよ…。 別によ、ここの生活も嫌いじゃあねえが、
 俺もそろそろ故郷に帰りたいわけよ。 恋しい気持ち、わかるだろお前も」

故郷に帰りたい…。 まるで出稼ぎにでも来ているかのような口ぶりである。
学生がするような会話でも無いように思えるが、
逆にそれが気になって美貴はその2人の会話を聞き続けた。

「ええ、まあ。 でもぼくはまだここに来てそんなに長くないですし、
 そんなに帰りたいとは思いませんけど」
「…あっそう。 俺はお前と違って長くここにいるし、
 だいたいお前みたいに“完全体”でここに来ているわけじゃあない。
 俺ん時は体まで降ろす技術は無かったからな…」


939 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:49:50.63 0
「こっちの感覚で言うと…10年、くらいですかね?」
「ああ、窮屈だよこの格好は。 いろいろめんどくせーし。
 だいたいなんで俺がこんな町に呼ばれなきゃいけねーんだ?
 どうせ駐留するならもっとデカい街がいいんだがよォ…」

(駐留? こんどは軍隊みたいな言い方だな…。
 しかしこの声、どっかで聞いた覚えがあるんだけど、どこだったか…?)

美貴はこちらに背を向けているぶどうヶ丘高校の男子生徒の背中を見つめた。

「だからそれはぼくの報告のせいです、たぶん。
 ぼくの友人のことなんです。 すごく面白い人たちで…」
「ああ? 『スタンド使い』の事か?」


(……!!)


スタンド使い。 学生の口からは確かにそう発せられた。
美貴は目を見開いて立ち上がった。

トッ…

テーブルの傍に、清算を終えて帰ろうとしていた一茶が立っている。
そして訝しげな視線を彼らに向けていた。
おそらく彼もその言葉が耳に入ってきたのだろう。

「そうです、スタンド使い。 なかなか興味深いですよ。
 だからインズさんもこの町に呼ばれたんだと思います」
「けっ、スタンド使いねえ。 …ってかよォ、ミキタカ。 何度も言ってると思うが、
 こんな町中で俺のことをその名前で呼ぶなって言ってんだろ」


940 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:50:24.42 0
「あ! すみません。 えーっと…“ケイタ”さんでしたっけ」
「そうそう。 “橘慶太”だぜェ〜〜〜、俺はッ!」


(なんだって…!? 今なんて言ったんだ、コイツは!
 橘慶太と言えば、MCATに乗り込もうとしてた時に手紙を持ってきた奴!
 確かよっすぃーの部活の後輩で、亀井とクラスメイトの…!?
 それがなんでスタンドなんて言葉知ってやがる!?)


橘慶太もスタンド使いなのか、とも一瞬考えたが
今までの会話を聞くとそこまで詳しくは無いように思えた。
しかし聞き捨てならない会話である。
この2人はスタンド使いではないが、その存在は知っている!
盗み聞いた会話をまとめるとどこか組織に属しているとも取れるが、
一体この男達は何者で、何をしようとしているのか…
美貴はゆっくりと席を離れ、彼らのテーブルへ近づこうと歩き出した。


「慶太!?」


先に声を出したのは美貴ではなく、一茶のほうだった。
慶太が一茶の所属するMCATの富樫社長と面識がある事は美貴も知っている。
だがその一茶が驚いているということは、彼も知らなかった事なのだろうか。

「あぁン?」

一茶の声を聞き、慶太は顔だけをこちらにぐるりと振り向いた。
紛れも無く『橘慶太』である。
その慶太が目をギラつかせ、ガンを飛ばすような目つきで一茶を見ている。


941 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:51:30.39 0

「誰だ? 俺の名を気安く呼びやがって…」
「慶太、お前何をやってる!? 何故こんなところで
 スタンド使いなんて言葉をぺらぺら喋ってやがるんだ…!?」

(…? 一茶は知っているのか…?)

「はァ? 誰だよお前」
「な…、ど、どうしたんだ? 何を言ってる!?」

慶太はじろりと一茶を見つめて、しばらく考えた。

「あー…、ちょっと待て。 少し整理するからちょっと待ってくれよ。
 んー、んー、んー…ああ、あったあった。 あったぞォ〜」
「…?」

彼はしばらく目を閉じ、唸るように考え込んだ後、再び目を開いて微笑んだ。

「“なァんだ、一茶さんじゃあないですか〜!”
 俺の仲のいい友達の一茶さん! こんなところで何やってるんです?」

突然、まさに“今思い出したように”、慶太はにこやかに話し始めた。
目の前の出来事に一茶は動揺を隠せないでいる。



942 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:52:02.32 0

「おいアンタ…こりゃいったいどういうことなんだ? 説明してくれ。
 アンタと橘慶太の関係はなんなんだよ? あたしはさっぱりわかんねェ」

と、美貴は問いかけてみるものの、一茶もどう答えていいかわからない様子である。
すると慶太は美貴のほうを見て、また微笑んだ。

「あなたは…! ぶどうヶ丘高校2年の藤本美貴さんじゃあないですか!
 俺のクラスメイトの亀井絵里と同じ演劇部の、藤本先輩!
 学校いち目つきが怖い藤本先輩! 俺の彼女の友達の藤本先輩!」
「な、なんだぁ…?」

(なんでいちいちそんな説明臭い喋り方しやがるんだ?
 だいたい目つきが怖いだと? 生まれつきだボケ!
 それに“俺の彼女の友達”ってどういうことだ?
 つーことはあたしの友達の彼氏が橘慶太って事か? 知らねーぞンなこと!!)

「お二人でどうしたんですか? まさかデートってやつですかあ?
 いやぁ、知らなかったなァー! ヒューヒュー!」

先程までとはうってかわってニコニコしながらはやし立てている。
どうも様子がおかしい、と美貴は感じた。

「コ、コイツなんだか変だ…。 慶太ってこんな奴なのか?」
「いや違う! 慶太はこんな奴じゃあない!
 慶太…なにかおかしいぞ、お前…。 誰かに操られてるのか?
 誰かのスタンド攻撃にやられてるのか!?」
「へ? 操られてる? 一茶さん、何を言ってるんです?
 スタンド…。 あー、そうか。 一茶さんも『スタンド使い』でしたよねえ…?」

慶太はニコニコしながら首を傾げる。


943 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:53:13.76 0

美貴はコソコソと一茶の近くまで行き、耳元でボソッと話しかけた。

「おいアンタ…、橘慶太はあんたがスタンド使いだって事知ってたのか?」
「ああ…。 さっき言っただろう、ぶどうヶ丘高校に知り合いがいると。
 慶太もその一人だ。 だから俺達や社長、それに君ら演劇部員が
 スタンド使いであるという知識だけは教えてある」
「じゃあ…いつだったかコイツが部室に手紙を持ってきた時も?」
「そうだ。 だがそれについて詳しい事はあとで話す。
 今はこの慶太のことを調べる必要がある。 様子がおかしすぎる…」
「ああ、そうだな…」

美貴と一茶は再び慶太、そして同じテーブルに座っている学生に目をやった。

「んん? 何ジロジロ見てんですかあ?」
「慶太…。 お前やはり誰かに攻撃されてるんじゃあないか?」

一茶がそう問いかけたところで、慶太の目の色が変わった。



944 :マイマイ268:2006/10/26(木) 02:54:01.41 0

「おいいいいいいいいいいい!! 一茶あああああああああああ!!!!」

「…?!」

「俺は今なんつった!? 『何ジロジロ見てんのか?』って聞いたよねえ!?
 質問してんのは俺で、お前じゃあねェーーー!!
 何故質問に答えずに自分の質問をするんだ? ジコチューって奴かあ?
 それにその前にも『スタンド使いでしたよね?』って質問したよなあ!
 なのにお前らときたら無視してコソコソ喋りやがってよお!」

突然慶太がキレだした。 テーブルをバンバン叩いてがなっている。

「あー、クソッ! こーいう時なんて言うんだっけな、ああ、そうだ。
 “ムカツク!!” ムカツクぜぇ、ホントよォーー!!」
「あの、イン…じゃなくてケイタさん、落ち着いてください…」

同じテーブルに座っていた学生がなだめにかかっている。

「うっせーよミキタカ!! もう目的は見つかったんだ!
 『スタンド使い』のこいつらを調べりゃあ俺はここに駐留しなくて済むんだろうが!
 だったらここでこいつらを倒して船に連れて帰ばいいんだろうがよお!!」

慶太は殺気をむき出しにして美貴達と睨んでいる。
今にも飛び掛ってきそうな勢いだ。

「藤本…スタンドを出したほうがいい」
「言われなくてももう出してるよ…」


69 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:35:38.96 0


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


一方は電車のような鎧を纏った姿、一方はメタリックな天使のような姿。
それぞれが最も信頼する最高のパートナーが姿を現す。
しかし…

「どうした? 突っ立ってるばかりで何もしてこねーのかあ?」

橘慶太は動揺すら見せない。

「まさか、見えてないのか慶太の奴…。 スタンド使いなんじゃあ?」
「いや、慶太はただ操られているだけで本体は別にいるのかもしれん…気を抜くな」

「そっちが来ねーんなら、こっちから行くぜェ!!」


フッ


「き、消え…」
「どこいっちまったんだ、奴は…おぐっ!!!!」

ぐらんっ、と美貴の頭が激しく揺さぶられた。

「藤本ッッ!!」



70 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:36:36.86 0

慶太は美貴の懐に入っており、その拳が彼女のアゴにクリーンヒットしていた。

「あが…い、いつの間n…はがァッッ!!!」

ドズンッ ドズンッ ドズンッ

体勢を整える間もなく、がら空きになった腹部に連撃が加えられる。
スタンド攻撃を繰り出す暇もないほどの早さである。
美貴はよろめき、腹を抑えながらその場にうずくまった。

「慶太あああーーー!!!! お前ッ!!」

一茶のファイナル・リバティーが慶太に突っ込んで行く。
しかし、慶太は彼のほうを見てニヤリと余裕の笑みを見せた。

スカアァッッ

ファイナル・リバティーの拳が虚しく空を切る。
そこに慶太の姿は既に無かった。

(バカなッ! スタンドはやはり見えているのか!?)

「どこに行ったッ!?」

キョロキョロと辺りを見回すが、慶太の姿は見えない。
美貴のように不意打ちを食らわぬよう、防御姿勢に入る。


71 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:37:07.68 0


「ここですよォ、一茶さァ〜〜〜ん!」


声がしたのは……上空!!!


見上げると、慶太の体が宙を舞っていた。
そしてそのまま放物線を描き、ドゥ・マゴの屋上へ華麗に着地する。
なんという跳躍力…!!

「一茶さァん? 今俺に、“何かしようとしましたァ?”
 なんつうか殺気みたいなモン感じちゃって、思わずここまで飛んじゃいましたケド、
 何なんスかねェ…もしかしてそれがスタンドって奴ですかァ?」

(…危険だ! 危険だぞ…お前は…慶太ッ!)

一茶は屋上の慶太を睨みつけ、歯を強く噛み締めた。
そんな中、後ろでうずくまっていた美貴がよろよろと立ち上がる。

「い…一茶…、店の人達に逃げるように言ってくれ…
 それから、本体だッ…! 本体がどこかに…!」

美貴の言葉に頷くと、一茶は店の中を見渡した。
2名の店員と数名の客が何事かとこちらを見つめている。

「早くここから逃げろ! ここにいたら死ぬかもしれんぞッ!」



72 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:37:38.10 0

ざわざわざわざわ…

店員と客はどうしてよいのかわからずオロオロしている。

「逃げろと言ってる!!」

ガッシャアアアアアアアア!!!

威嚇のために、一茶はスタンドで窓ガラスを派手に殴り、ブチ破った。

「キャアアーー!!」
「なんかヤベーぞっ!」

勝手に割れたように見えた窓ガラスと、一茶の『凄み』に
店員と客がわらわらと逃げ出していく。
そして、残った者が一人…

「………」

さきほどまで慶太と会話していた、見慣れない学生服の男。
オープンテラスのテーブルにずっと同じ姿勢で座っている。

「お前が本体か…? そうなんだなッ!」

一茶が男に詰め寄ろうとした、その時…

「そうはさせませんよ、一茶さァーーん…!!」

屋上にいた慶太が飛び上がり、一茶に向かって飛び込んでくる!!


73 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:38:12.34 0

ガズッ!!

慶太の拳がアスファルトを叩き、地面にヒビが入った。

「尋常じゃあ無いぜ…慶太…」

一茶はかろうじて避けたが、そうでなければ大怪我を負っていただろう。

「ミキタカァッ!! お前は逃げろッ、戦闘向きじゃあねェからな!」
「ええ、そうさせてもらいます…」

ミキタカと呼ばれた男は椅子から立ち上がり、その場から離れていく。

「ま、待てっ…」
「待つのはアンタだ、一茶さん…!!」

隣にいた慶太が再び攻撃を繰り出す!!

ボグッ! ボグッ!

またしても目にも留まらぬ速さの2連撃。
それを、攻撃を予想していた一茶がスタンドでガードする。

「うッ!!」

しかしそれでも衝撃で数メートルほど後ろに吹っ飛ばされてしまった!!

「おかしいな、何も無い空間でパンチが止められた…。
 見えない“何か”がある。 それがスタンドってやつ☆カナ?」


74 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:38:53.61 0

笑みを見せながら、慶太は少しずつ一茶に近づいてくる。
また攻撃を仕掛けるつもりのようだ。

「……」

だが今度は一茶も動揺しない。

「んん…? こ、これは…?」

慶太が眉に皺を寄せた。

「お前にスタンドが見えていようが、見えていまいが俺の攻撃には関係ない…」
「ゲホッ! ゲホォ!!! おごぉ…」

胸を押さえ、激しく咳き込む慶太。

「俺の攻撃は誰にも見えない…慶太、知っているか? 酸素には毒性がある。
 お前の周りの酸素濃度は今、通常の10倍だ…」
「ゼヒーッ! ゼヒーッ! ゼヒーッ!」

徐々に呼吸が荒くなっていく。

「いくらお前が超人的な力を手に入れようと、毒には勝てない!」
「うう…! おご、うううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…ッ!!」

ついに慶太が地面に膝をつく。 そして両手を伸ばして天を仰ぐような体勢になった。


75 :マイマイ268:2006/10/29(日) 23:39:24.13 0


「うンまァァァァァァァァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜いッ!!!!」


そして『歓喜』の雄たけびを上げた。

「…?!」

「うまいぜェェェーーーーーーーー!!!!
 ひさしぶりだこの『空気の味』! 最高じゃあねえか!
 “故郷の味”って奴だよ、これがッ!!!!」

一茶は動揺した。
人体にとっての毒、見えない攻撃…最強の攻撃方法だと自負していたはずの
酸素を操る能力がこの相手には効いていないのか、と。

「実に、実に気分がいいッ!
 深・呼・吸ゥゥゥゥゥー!!!  んんん〜〜〜〜〜〜〜!!!
 最高に『ナイスグッド!』ってやつだァァァァァァハハハハハハハハハハーッ」

(逆効果…だったのか、これは…。 そういう能力なのか?
 ならば今度は酸素を薄く…!!)

「ハッハァーーー!!!」

一茶が二度目の攻撃を仕掛けようとした瞬間、
まるでドラッグを吸ったかのようなテンションで慶太は跳躍する。
そして今度は街灯の上の小さなスペースの降り立ち、見下ろした。


57 :マイマイ268:2006/11/04(土) 00:54:39.89 0

「すげーぜ、アンタ! これがスタンド能力って奴かよォ!
 こんなオイシイ能力持ってんなら早く言ってくれよな〜〜。
 早いとこお前を調べて、その能力を解明したいッッ!!」

街路灯の上でニタニタを浮かべる慶太。

「ここまでは来られねーだろう。 じわじわ上から嬲ってやる!」

そしてそれを見上げる一茶。

「猫とナントカは高いところが好きという言葉があるな…」
「はァ?」
「いや、ナントカと煙は…だったか、まぁどちらでもいいが…」
「なにブツブツ言っちゃってんの! もっと近くでハッキリ言ってくんないかな?
 ここまで来れるもんならなァーー!!」


バサァッ!!


一陣の風が吹くのを美貴は感じた。

「……!」

そして、見た。
まだダメージが抜けずによろける体で、一茶の『ファイナルリバティー』の
背中から生えた大きな翼が開き、羽ばたこうとする様を!



58 :マイマイ268:2006/11/04(土) 00:55:10.71 0

「俺はそのナントカじゃあない、高いところが特別好きというわけでもない。
 だが…!!!」

スタンドの背中に立ち乗った一茶は、街灯の上に座る慶太を睨みつける。


バサッ!! ブワアァァァァッッ!!!!


翼が激しく羽ばたきはじめ、そして大きく舞い上がった!

「何ッ…ヒトが空を飛ぶなどォーーーーッ!!」

驚愕の表情を見せる慶太の頭上まで一気に飛び上がる!!

「高いところでバカ面さげて、いい気になって見下ろしてる奴を!!
 更に高いところから叩き落すのは最高に気持ちがいいッ!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
 テメー! 人間のクセに俺を見降ろすんじゃあねェェェーーー!!!」


ガキンッ!!




59 :マイマイ268:2006/11/04(土) 00:56:06.34 0

上空で死闘が始まった…。
ちょうどその頃藤本美貴は、慶太から食らったアゴへの衝撃も和らいできて、
だんだんと体の感覚が蘇ってきたところであった。

(くっそ…)

テラスのテーブルに寄りかかりながら歯を食いしばる。
自分を強いと思っていたが、間違いであった。
スタンドでの闘いならまだしも、生身での戦闘で
何も手を出すことなく敗れてしまった自分を歯がゆく思った。

「はァ…はァ…はァ…な、なんなんだあの力は…」

上空ではまだ一茶と慶太がほぼ互角の戦いを繰り広げている。
スタンドと生身で互角…人並みはずれたケタ違いの強さである。

(何か…勝つ方法は…)

美貴は辺りを見回し、最善策を探す。
壊れたテーブルや窓ガラスの破片…何か使えるものが無いか…。
そしてある一点に、美貴は気づいた。

「こんなんで、奴を倒せるのか…」

いや、それに賭けるしかない。
美貴は『それ』を取りに、誰もいない店の奥へ入っていった…。



60 :マイマイ268:2006/11/04(土) 00:56:48.58 0


そして店の上空では…


「DORRRRRRRRRRRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!!!」


一茶のファイナルリバティーが渾身のラッシュを叩き込む。


「よっ、ほっ…」

しかし慶太は見えていないはずのスタンドの攻撃を
全てその殺気のみを感じて紙一重で避けてた。
慶太は空を飛ぶことすら出来ないが、街灯や電柱、建物の屋上など、
様々な場所を飛び移りながら攻撃をかわしていた。

「ハァーッ…ハァーッ…ハァーッ…」
「どうしたのかなァ、一茶さん。 叩き落すの好きとか言ってませんでした?」

建物の上の大きな看板の上に器用に降り立った慶太は
連続攻撃で息を切らす一茶を見て笑っている。

「慶太…お前には何故か酸素の毒性が効かないようだ…。
 だが、今度は酸素を消し飛ばすッ!!
 下手をすればお前を殺すことになるかもしれないが、
 どうやらあまりそこにも構っていられそうにないッ!」

ファイナルリバティーの翼が大きく開き、キュイイイイイイッと音を立て始めた。
辺りの気圧がだんだん変わっていくのが慶太にも感じられていた。


61 :マイマイ268:2006/11/04(土) 00:57:44.35 0

「へェ〜…やってみなよ」

「死んだらすまんな、慶太…。 今のお前は危険すぎる…ッ!!!
 『ファイナルリバティー・ジ・オキシジェンデストロイヤー!!!』」


グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!


慶太の周辺にある空気中から酸素だけが徐々に消えていく!

「かっ……は……、こ、これは…」

喉を押さえて苦しみだす。
大気中の酸素が急激に失われていき、辺りはほとんどが窒素ばかりになっている。
そして慶太は徐々に『窒素酔い』状態へ陥っていく。
『窒素酔い』とは大量の窒素を吸い込み、一種の麻酔状態になることである。
一定量を超えると簡単な計算や言葉の理解などができなくなり、
ひどい時には意識を正常に保てなくなってしまうのだ。

「…………ッ!!!!」

慶太が明らかに苦悶の表情を見せている。

(いくら超人的な力を持ってしてもやはりこれには耐えられなかったか…)

一茶は苦しむ慶太を見ながらも、集中を解かない。
何故なら完全に酸素をゼロにして慶太を殺してしまわないようにするためである。


73 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:22:02.62 0

(慶太が…目の前にいる慶太が本物なのか、そうではないのか…
 今はまだよくわからない状況だ…殺すのはまずい…
 活かさず殺さず…闘えない程度まで弱らせてから直接聞き出すしか…)

「…はっ…はっ…はっ…はっ…!」

眼球をむき出しにし、喉をかきむしりながら慶太が悶えている。

「お前は何者なんだ、慶太…。 いや、若しくはそれを操る誰か…」

集中し、微妙な酸素調整を行いながら尋ねるが、慶太はもがくばかりである。

「あぐううッ…」
「答えるんだ!」

看板の上に立っていた慶太は、今はそこにへばりつくようにして
端のほうにかろうじて捕まっている状態である。
超人的な力のせいかまだ意識は失っていないようである。

「はァーッ…はァーッ…た、たすけ…」

慶太はあらぬ方向に向かって片手を振り回し助けを求めた。
その表情に以前の慶太を思い出し一瞬怯みそうになるが、まだ力を弱めない。

「…何者かと訊いているんだっ!!」
「い、息ができな…意識があァァ…」



74 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:22:37.14 0


ビクンッ!!


「!?」

そこで、慶太の体が大きく跳ねた。

「…おおおお…ああ? …こ、ここはどこだ…? 俺は…?」

慶太の様子が変わった。 口調も普段の慶太のようである。

「慶太…?」
「がぁッ!! くる…しい…! カハッ…こ、呼吸が…」

先ほどまでの耐えるような苦しみ方では無い。
今は抗えずに死を待つような、そんな苦しみ方に見えた。

(どういうことだ…? “戻った”のか? いつもの慶太に…。
 しかし、そういう演技だと考えることも…)

「ああ… い、一茶さん…どうしてそんなところに…
 た、助けてください… いいいい一茶さんんんん…ッ」

看板を掴む手の力も弱まっているのか徐々に体がずり落ちている。
体もガタガタと震えだし、今にもそこから落ちてしまうそうになっている。

(敵の演技なのか…それとも、いつもの慶太なのか!?)



75 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:23:13.27 0

「……あッ ……がッ」

今度は震えるどころか体中がビクビクと痙攣を始めた。

(迷っている暇はない…!)

「慶太ーッッ!!」



          バシュウッ…



 ……………………

静寂が訪れる。
辺りには消えかかっていた酸素が戻ってきている。
一茶は一瞬にして酸素の状態を全て元に戻していた。

「……………………」

慶太は看板に手を掛け、突っ伏したままそこからピクリとも動かない。

「慶太…?」

声を掛けてみるがやはり動かない。

「…間に …合わなかった」


76 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:24:01.48 0

一茶は、ファイナル・リバティーの背に乗ったまま、がくりと膝を落とした。

(動かない…死んでしまった…慶太が…
 俺が殺してしまった…判断が一瞬遅かった…)

慶太は動く様子は無い。

下を見ると、藤本美貴が見上げていた。
哀れむような視線ではない。

「まだだ! 一茶…!」

恫喝に近い声で美貴は叫んだ。

「………」
「“そいつはまだ生きてる”ッ!」

同時に美貴が慶太の体を指差す。
その方向を見るが、やはり慶太はさっきの姿勢のまま…

…いや、手が少し違っていた。
今にも落ちてしまいそうだった慶太は、がっしりと力強く看板の端を掴んでいた。

「お前の位置からは見えなかったろうがよォ…
 ここからは見えた! そいつがうつ伏せながらニタリとほくそ笑むのをよォーッ!!」


 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ




77 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:24:45.78 0

「『解除』シタナ…」

慶太、と思われるそれは、ゆっくりを顔を上げる。
その目には白目が無く、全て真っ黒い眼球をしていた。

「…お、お前は…誰なんだ…」



          フッ



看板の上から慶太の姿が消える。

(さっきと同じ… 藤本の時と――)

ズシンッ

一茶が身構える間も無く、次の瞬間には慶太は彼の背中の上に飛び乗っていた。

「なに…ッ」

再びスタンド攻撃を繰り出す暇を与えず、更には振り向く間すら与えず
慶太は一茶の首根っこをガシッと掴んだ。

「がっ…」
「アホがよォ…ホントに死ぬかと思ったじゃねェか、一茶ァッッ!!!」



78 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:25:29.43 0

(演技…演技だったというのか、今のが!!
 演技で出せるような表情、苦しみ方ではなかった…!)

一茶は自身のスタンドの背中に跨り、慶太は一茶の上に馬乗りしているという
まるで亀親子の図のような状態で彼らは空中に留まっていた。

「しかしまァ、上手く騙されてくれて助かった!
 コイツの体を使っていてラッキーだったぜ…」
「くっ… その口ぶり、やはりお前は慶太を操っているのか!!
 どこだ! お前の本体はどこにいる!?」
「はぁ?」

その問いに慶太は片眉を挙げて疑問の声を投げ返す。

「あー… お前はまだ、俺がスタンド能力とやらを使って
 この“俺自身”をどこかから操っていると思っているのか?」
「!?…な…んだと…では、慶太…お前は本当に…俺達を騙して…」

一茶の狼狽ぶりを見て、慶太が口の端を吊り上げて笑った。


「ハハハァーッ!!! バカがッ!
 俺は人間じゃあねえんだよ! 一茶ァーッ!!」


そう言って上に少し飛び上がったと思うと、今度は両足で
一茶の背中に数発の蹴りの連撃を加える。

「ぐはッ!!」


79 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:26:09.97 0

まだ意識は失わず、かろうじて空中に留まる事が出来ている。

「自己紹介をしてやろう… 俺は橘慶太の体を借りてこの地球の調査をしている!
 名前は『インズ』! 職業はパイロット兼エスピオナージ!
 研究体になるお前が覚える必要はねェがなーッ!」
「かっ…」

(体を借りて…? 地球の調査…? イカれてやがるのか…)

「今まで10年、地球に潜み続け、様々な体を借りてきたが… 橘慶太!
 この体はなじむ! 実に! なじむぞ! フハハハハ!」

(何者かが… 慶太の体を乗っ取っている? スタンド能力以外の力で…)

尚も慶太は続ける。

「一つ言っておく! お前はどうやったって俺には勝てない!
 スタンド能力なんぞ持っていようが、地球人以上の力を持った俺にはなァ!」

(こいつの言っていることは本気なのか…? 本当に地球人ではないと…
 それに俺を研究体にするだと? だとしたら危険だ! 非常に!
 俺だけではなくこの町のスタンド使い全員が! 社長も! あの藤本美貴も!!)

見下ろすと、美貴は店の前から一茶達を見上げていた。
どうしていいかわからず困惑しているように見える。 しかし…
何かを狙っているような…何かしら策を持っているような表情にも取れた。
しかしそう確実な策では無い、そんな不安げな表情である。



80 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:26:45.58 0

「け…慶太… いや、インズとやら! やはり危険だ、お前は…!
 お前が言っている事が本当かどうかは知らんが、野放しにするにはあまりにも…
 だからここでお前を、阻止する…!!!」


バサァッ!!!


攻撃を受けてしおれていたファイナル・リバティーの翼が広がり、
残りの渾身の力を込めて大きく羽ばたいた!

「むっ!?」


グイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!!!


そして慶太…もといインズという男を乗せたまま数十メートル上空まで飛び上がる!

「このままお前を…」

「地上に叩き落すってかぁ〜?」

一茶のセリフを先読みしてインズが答える。

「お見通しなんだよカスの人間がァーーーー!!!! 叩き落すのは俺だ!
 お前を殺すことになるが…死体になっても研究は出来るからなーッ!」



81 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:27:16.27 0


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


「ッッッ!!!」


腹部、胸部の急所に複数のパンチが浴びせられ、
一茶はあまりの衝撃から白目を剥き、血ヘドを吐き出した…

(強い…! このままでは… 本当に…)

「あがいてもあがいても人間の努力には限界があるのさ!
 スタンド能力など無駄無駄無駄ーーーーーーっ!
 猿が人間に追いつけるかーッ!! お前はこのインズにとっての
 モンキーなんだよ一茶ァァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

インズは一茶の服のネクタイを掴み、その体から離れる。
そしてそのまま真っ逆さまに自由落下をはじめた!


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


徐々に迫ってくる地上!

あと数秒で一茶の体は地面に激突する!





82 :マイマイ268:2006/11/12(日) 00:27:49.72 0

5…………!


4………!


3……!



だが!

その落下地点に彼女はいた! 藤本美貴!
鋭い眼光で睨みつけ、時を待っている!
確実ではないが策を! 賭けの一策を持って!!


「止まれよ、インズ! この腐れ脳ミソ!!」
「ぬうッ」


ピタァーーーッ!


激突1秒前…!
地面から数メートルの地点でインズは空中に停止した。
一茶のスタンドは姿を保っている。 まだ意識はあるようだ。

「ああ? なんだテメー…地球人のメスガキが…
 何呼び捨てにしてんだ? “さん”をつけろよ、デコ助野郎!」



228 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:52:04.70 0

 ――インズ。
橘慶太の顔をした男が名乗った名前。

この男は何者なのだろうか?
一茶が闘っている間、美貴は順を追って考えていた。
何故この男が自分達を襲ったのか…。

よく思い出すんだ。 あの時していた会話は…



『俺の帰還命令はいつ出るわけよ』

『お前みたいに“完全体”でここに来ているわけじゃあない』

『駐留するならもっとデカい街がいいんだがよォ…』

『ああ? スタンド使いの事か?』



帰還命令… 完全体… 駐留…

一茶との会話では地球人ではないということも話していたが、本当なのだろうか。
仮にそうだとして、何故橘慶太の姿をしているのか…
何故この町にいるのか… もう一人の男の正体は何者なのか…
あの超人的な力はいったいどう説明すればいいのか…

宇宙人… 本当にそういった類のものなのだろうか…――


229 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:52:35.56 0


「…今度はこの美貴が相手だ」

目の前の敵にクイクイと指を動かして招く仕草をする。

「い〜ぜェ〜、藤本美貴。 そんなに言うならよォ…。
 どうせもうこいつは満足に闘えねえだろうし」

ドサッ…!

乗っかっていた一茶の体を足蹴にし、乱暴に地面に落す。
インズのほうは華麗に着地を決めた。

「お前も聞こえてたか? 上での話は」

一歩一歩近づきながら、インズは上空を指差した。

「ああ。 だからちゃんとインズって呼んでやってんだろーが」
「そうかい。 …ってかよォ、“コイツ”と親しかった一茶ならまだしも
 なんでお前なんかに呼び捨てされなくちゃならねーんだ?
 あぁ? 俺はお前より200歳以上も年上なんだぜ?」

“コイツ”と自分を指差しながら言う。
200歳以上年上というのも冗談ではなく本気で言っているのだろうか。

「驚いてるのか? まあそりゃあ驚くわな。
 おめーら地球人の平均寿命から考えると桁違いだからなあ」

イカれているのか本当のことを言っているのかはまだわからない。


230 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:53:12.15 0

「教えてやろう。 俺はお前らが言うところの『宇宙人』ってやつだ。
 マゼラン星雲系銀河のとある惑星から地球を調べに来ている」

宇宙人… 異星人… 地球外生命体…

「俺はさっき一緒にいたミキタカと違って完全な体でここにいるわけじゃあない。
 俺達の体はもともと地球にはあわないんでなあ。 当時の技術では
 “精神体”だけを転移させるしか方法が無かった」

本当のことなのか…?

「だからこうやって地球人の体に乗り移って、潜伏してるわけよ。
 この町ではたまたまこの橘慶太って奴の体を借りたわけだ。
 ここまで理解できたか? んん?」

操られている…という言葉はこの場合正しいのだろうか。
今までの行動に慶太の意思が関係が無いのであればやはりそうなのであろう。

宇宙人!

この男、インズが言っている事が本当であれば
本当のことであれば…やはり!

「理解しようがしまいが関係ないがよ。 相手になるっつったよな?
 だったらたっぷりしてもらうぜ! 勝つのは俺だがな!
 そしてお前も研究材料になる運命だッ!」

勝利を確認した笑みを浮かべながらインズが歩いてくる。


231 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:53:43.44 0

「そこで止まれ」
「はァ?」

美貴は手のひらを突き出して制した。
自分の2メートルほど先でインズ立ち止まる。

「止まれだと? お前が相手してくれるんじゃあないのか?」
「ああ…相手をしてやる。 だがこの位置からやらせてもらうぜ」
「おいおい…拍子抜けだな。 やる気あんのか、お前」
「やる気ならあるさ。 もう攻撃は始まってる」
「…?」


ドシュ


何かの気配を感じ、インズは身構える。
気配とは美貴のブギートレインO3の拳なのであるが…


シィーーーーーーーーーーーーーン…


…何も起こらない。
拳が当たったような様子でもない。

「…藤本美貴… これもスタンド攻撃ってやつかァ…?
 何も起こらねーじゃあ………ん?」



232 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:54:13.96 0

インズは変化に気づいた。
自分の周りの空気の変化に。

「んん…?」
「今、お前が立っている場所。 その場所の時間を戻した」
「時間を戻した、だと? それがお前の能力か? しかし、これは…」
「ああ、さっき一茶が“酸素濃度を高くした”場所だぜ、そこは。
 確か故郷の味だとかほざいてたけどよ…」

インズのいる場所は一茶のファイナルリバティーで酸素濃度が高くなっていたが
それは時間が立つうちに周りの空気と混ざって既に霧散していた。
美貴はそれを再び高濃度の状態まで戻したのだった。

「いやいやいやいやいや…わかんねェな。 何をしたいんだ?
 確かによォ、ンまいぜッ! この空気の味はなあ。 懐かしいし…」
「そりゃあよかったな」
「わかんねェーーーーー!! イラつくぜ、お前ッ! 理解不能ってやつだ!
 俺の力に観念して服従でもするつもりだってんなら理解可能!
 だが! 相手をしてやるっつうんだよな、お前は…?」
「だからそうだっつってんだろヌケサクが」
「あー… そうかよ…」

…インズの眼光が鋭くなる。

「おちょくってんだなァーーーーーー!!! お前はァーーー!!!
 意味わかんねーことばっかしやがって!! ふざけんじゃ…」
「ところで、だ」

ブチギレ寸前のインズの言葉を遮り、冷静に話を始める。


233 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:55:13.07 0

「テメーッ! 人が喋ってるのを止め…」
「足元見てみろよ」

構わず言葉を遮り、今度はインズの足元を指差した。

「あぁ!?」

血管をむき出しにして怒りながらも、美貴の指差す先を見る。
そこには一本の焦げたマッチが転がっていた。

「そのマッチはさっきあたしが店の中で拝借してきたもんだ。
 火をつけてすぐ消しちまったけどな」
「だから何を…」


ドシュ


再びブギートレインO3の気配。
今度もそれを感じてインズは身構えるが、パンチも何も繰り出される様子は無い。
その代わりに…

「やっぱおちょくって……って、おぶぁッ!!!」



ボシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!





234 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:55:51.30 0

突然マッチに火がつき、そして高濃度の酸素を使って盛大に燃え出した!
瞬く間に炎はインズの体を取り囲み、その体を焼き尽くしていく!

「マッチの時間を戻したぜ。 焼きエイリアンのできあがりだ」

物凄い速さで肌と肉が焼け爛れていく。

ウジュルウジュルウジュルウジュルウジュル…

「おごおおお… デメェ… ブジボドミギイィィィィ…!!!」
「熱かろう熱かろう。 いくらお前が宇宙人だろうとな」
「あああああああ熱ああああああああ…」

ドシィッ!

炎に身をやかれながらもインズは一歩前に足を踏み出す。
これほどの炎であれば通常の人間なら立っている事もできないはずなのに、
なんという身体能力!

ドシィッ!

「ウジィ…ブジィ…モドォォ…ミギィィ…」

ドシィッ!

「ウルザン…ユル…ユルザンンンン…」

火達磨状態で顔立ちもわからないほどまでなっているが
その、口と呼べるあたりから声にならない声を出している。


235 :マイマイ268:2006/11/15(水) 00:56:47.75 0

「やれやれ、きたねー声だぜ…」

ドシィッ!

「…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…!」

ウジュルウジュルウジュルウジュル…

ドシィッ!

「ブ…ブジモト……ミギィィィィーーーー!!!」

ウジュルウジュルウジュルウジュルウジュル…

一歩一歩踏み出すたびにだんだんとその声がはっきり聞き取れるようになっていた。

そして、

ウジュルウジュルウジュルウジュルウジュルウジュル…

「ゴロズゥゥゥ…!」

この音は肉が焼ける音ではない。

「もう殺ス!! フジモトミキーーーーーーッ!!!!」

肉が! 肌が! 毛が! 骨が!
体中の全細胞が尋常ではないほど活発に活動し、
それぞれが再生していく音であった!


337 :マイマイ268:2006/11/17(金) 02:27:23.51 0

「もう治ってんのか… フツーじゃあねーとは思ってたけど…」

美貴はその驚異的な回復スピードに呆気に取られた。
もはや燃えているのは周囲にあったテーブルや椅子などだけであり
インズの体は全裸の状態でほぼ半分以上人体が再現されていた。

「フハハハハハハーッ!! 恐れているなッ! この回復力にィ!!」
「よかったな」

驚いてはいたが、美貴は冷静である。

「余裕ぶっこいてるフリか? まさかこの状況で勝てるとは思わんよなーッ!」
「いやいや、よかったよ。 予想以上だ、その回復力」
「あぁ? 何を言ってやがる…」
「だから“よかった”と言ったんだ。 回復してくれて良かったってな」

既に約7割ほど回復しているインズは、ウジュウジュと細胞が活性化して
回復を続けているその首を傾げた。 この女は状況をわかっているのか、と。

「負け惜しみにしか聞こえないんだがよォ… 何が次の手でも用意してあんのかい。
 酸素攻撃もダメで、火攻めもダメ。 次は水攻めでもするつもりか?」
「水攻めか、それも面白いけど」

と、美貴は意に介さない。
ただ表情を崩さず、時を待っていた。

「…火をつけたのは、試す意味もあったな。 うん」
「試すだと?」


338 :マイマイ268:2006/11/17(金) 02:27:54.15 0

「もともと効かないだろうとは思ってたよ。 今までの戦いを見てたらな。
 ただ、どの程度お前の体が回復してくれるのか、それを見たかった。
 ホントに“良かった”よ、お前の体が… 慶太の体がちゃんと無事で…」
「何が言いてぇんだ!?」
「あともう一つ… こっちも結構重要なんだけどさー。
 あたしが“ウソをつかなくて済んだ”ってことだ」
「テメェ…」

今にも飛び掛ってきそうなインズを前に、美貴がぽつりと粒やいた。

「そろそろか? この町のは、対応が早いよ」
「???」

美貴の言っている事が理解できず、頭に疑問符を浮かべている。


  ……――――――――――……


ぴくり、とインズの眉が動いた。 何かに気づいたのだ。

「確かさァ、人間の数十倍の身体能力があるとか言ってたよな、あんた」
「おおお…」


  ……―――ゥゥゥー―――……


「だったら、美貴よりも先に既に聞こえてきてんじゃあないのかな」
「ギァァ……」


339 :マイマイ268:2006/11/17(金) 02:28:25.35 0

インズは突然頭を抱えてうずくまった。


  ……―ウウ〜〜〜ウウ〜〜―……


「その様子じゃあ、当たりだったようだなあ。 ふぅ、危なかったぜ」


 ウウ〜〜〜〜〜〜ウ〜 ウウ〜〜〜〜〜〜ウ〜 


「ギャアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!!!!」

その音が美貴の声にも聞こえるようになった。
同時にインズは目を見開き、口をパクパクさせながら苦しみだす。

「話半分に聞いてたからよォ、思い出すのに時間がかかったけど…」


 ウウーーーーーウ〜 ウウーー ウウ〜〜 ウウ〜〜


「ウゲェーーーーアアアアアアアアアアアアアア!!!」

インズの顔には蕁麻疹のようなものが一斉に吹き出している。

「れいなが話してた『宇宙人の弱点』ってやつ… 大当たりだったみたいだな!」



340 :マイマイ268:2006/11/17(金) 02:30:11.72 0


 ウウーーーー ウーーーー ウ〜〜 ウ〜〜 ウーーーーー


「この音を…! この音は嫌だ… この音を止めてくれェ〜〜〜〜!!!
 この音は嫌なんだ〜〜〜! アレルギーなんだよぉーーーーーーー…
 止めてくれェーーーーーーーっ!!」


鳴り響くサイレンの音!

放課後に美貴に向かって話していた田中れいなの『宇宙人の話』。
美貴は他の事を考えていてその話をほとんど聞いていなかったが、耳には入っていた!
東方仗助が宇宙人と遭遇した時、その宇宙人が恐れたのがこのサイレンの音だったと
確かにれいなは語っていた! それを記憶の奥底から呼び起こしたのだった!

「良かった! ホントに火が燃えてないと消防車来た時に
 ウソだったら消防士さんに怒られちまうからなーッ」

インズのそばにあったテーブルから炎が他の席へ燃え移り、
誰の目から見ても『火事』という状態が出来上がっていた。

「お前が本当に宇宙人なら、まさかと思ってイチかバチかだったけど!
 良かったぜ、ホントに! 大当たり! 美貴ってサエてるサエてるゥ!!」

苦しむインズの前で陽気に「よしっ! よしっ!」とガッツポーズを取る。
それからインズを見下ろし、指をポキポキと鳴らした。

「ひィィィィィィィィ」
「さて… どうしてくれようかね…」


447 :マイマイ268:2006/11/20(月) 00:53:37.91 0

 ―経緯を説明すると、こうだった。
上空で一茶とインズが戦っていた時、何か策は無いかと辺りを見回していると
店内に置いてあるマッチに目が留まった。
火あぶりはどうだろうか、と考えたときに
火事になったら困るな、との心配も同時に浮かんだ。
そこで火事→消防車と連想していた時に田中れいなの話を思い出したのである。
すぐさま携帯で119に連絡してドゥマゴ付近で小火があったと通報をし、
マッチの準備をして時をまった、というわけである。

「正直、本気で賭けだったよ。 れいなの話がホントかどうかもわかんねーし。
 でももうこれをやるしかねーって思ってたんだ」
「おおおお…音を止めてくれェェーーーーっ」

インズは地面にしりもちをつき、左手は耳を押さえ、
右手で美貴に「待った」のポーズを取りながら後ずさっている。
その顔は恐怖に浮かんでいた。

「この野郎、どこからぶん殴って…」
「も、もうダメだぁぁーーーーーーーッ!!」

美貴が拳を振り上げたとき、インズは急に頭をガンガンを振り出した。
過激なメタルのライブの観客に似ているな、と美貴は思った。

「おいおい、そんなに苦しいのかよ、これ」

ヘッドバンキングは更に速度を上げ、目視できない速さになっていた。
そしてその速さが頂点に達したかと感じたとき…

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…」



448 :マイマイ268:2006/11/20(月) 00:54:08.52 0


ぼしゅんッ


「…へ?」

一瞬、空気が抜けたような音がした。
あまりにもマヌケな音で、美貴も一瞬力がゆるんでしまうほどだった。


ふしゅーーーーーッ ぽわんっ ぽわんっ


インズの…いや、橘慶太の左耳から何か煙のようなものが吹き出ていた。
煙というよりは霧状で、しかしぼやけているわけではなくはっきりと見える。
そして霧状のそれが固まっていくつかの球体を作り、空中にふわふわ浮かんでいる。

「なんだ? このシャボン玉みてーなやつは…」


ぽわんっ


霧状のそれは全て慶太の耳から出てしまったようで、
それが全て固まり、複数の球体が集まって1つの球体になった。
大きさはサッカーボール程度である。


449 :マイマイ268:2006/11/20(月) 00:54:58.39 0


(あああ…やべーぜ! 出ちまったあーーっ!!)


その球体から、声が聞こえた。
しかも耳に直接聞こえてくる感じとは違い、脳に響いてくるような…
いや、“スタンドの耳が聞き取っている”と言ったほうがしっくりくる。

「なんだこの声は…? もしかしてこれがお前の言ってた…」

(出ちまったじゃあねーかよこのデコ助ェェーーー!!
 “精神体”の姿でよォ! 素っ裸と同じくれー恥ずかしいんだ! コレは!)

インズの“精神体”は、空中をふわふわと漂いながら“声”を発した。

「“精神体”か、それが… それってさー、触れんのか?」

(アホかおめーは!! 精神体が人に触れるわけねーだろうが!
 しかしよォー…恥ずかしーけど、これは逆に助かったかもな!
 これで誰にも攻撃されずに逃げ切れる! 後で誰かの体を借りてから
 たっぷり復讐してやれるぜェーーーーー!!!)

と、逃げ切る自信満々で“声”を発しているのだが、
それに美貴は「う〜ん」と唸った。


450 :マイマイ268:2006/11/20(月) 00:56:33.03 0

「じゃあ、なんで…」

(あぁ?)

「なんで、美貴はオメーの声が聞こえてんだろうなーって思ってさー」

(ハッ! そういや、なんで俺とお前は会話が出来てんだ!?)

動揺しているのか、“精神体”は空中を不規則に動き始めた。

「…ひょっとして、『見えて然るべき』なんじゃあないのかな。
 なんたって“精神体”なんだからな、オメー」

美貴が“精神体”を指差し、近づく。

(な、何が言いたい!)

「言ってなかったか? スタンドってのは“精神のエネルギー”なんだ。
 それを操るスタンド使いに、“精神体”が見えるのは当然なんじゃあないか?」

(精神のエネルギー… じゃ、じゃあ、さっきからお前の後ろに見えているのはッ!
 あああ…まさかあああああああああああああああああああああああああ)



 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



「…ようやく見えたみてーだな、美貴の『ブギー・トレインO3』がッ!!」


715 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:05:32.96 0

インズは精神体のまま怯えるように空中でふらふらと漂っている。
身体が無いため精神体では上手く動くことが出来ないのだろう。

「最初のアゴへの一発…痛かったからなァー… まずはッ!」

バゴォッ!
(オゲッ!!)

ブギー・トレインの右の拳が精神体の下部へヒットする。

「んー…? 精神体ってのはさー、アゴはそこでいいのかな?
 フツーの体じゃあないんだから別の場所にあんのかもなー」

バゴッ! ドコッ!
(はごおおおっ!)

今度は両腕で適当に狙いを定めた場所へ。

「いや、こっちかな〜?」

バギッ! ドグァッ! ボゴッ!
(アギッ! メギャアアッ!!)

「アゴの場所がわかんね… もういいや」

そこで美貴はいったん攻撃をやめた。 インズはそれを見て安堵した。
もっとも、精神体なので表情まではわからないのだが。


716 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:06:14.29 0

「このまま当たるまで適当に殴るッ!」

(えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!)

ブギー・トレインが腕を大きく振り上げる。

「(アゴに)ゴールデンゴール決めてェェェェェェ…」

(ひっ)


「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


インズの精神体は殴られ地面に叩き落され、衝撃で跳ね上がる。 そこを…

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


すかさず横殴りして、今度はドゥ・マゴの壁に向かって叩き付けた。

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



717 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:06:46.17 0

そしてまた跳ね返ってきたところをタコ殴りする…

「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!!!!!!!!!」


ドゴゴゴゴゴゴ!! ドッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


(……ッ!!!!)

最後にブギー・トレインの指にしっかりと掴まれ、地面に押し付けられた。
インズはもはや声さえ出せずにその場で動かなくなった。

「ふぅ……スカッ!としたァ〜」

と、それから倒れている一茶の方に目をやる。

「おっと、一茶の仇も討ってやらねーとな」

インズのほうへ向き直った。

(……!)

声も出ず表情もわからないが、怯えているのは感覚でわかった。
それでも美貴は容赦するつもりはなかった。

「よーし。 これは一茶の分…」
「待て…」


718 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:07:17.36 0

また殴りつけようとしたところで後ろから声がした。 一茶の声である。

「アンタ… 動けたのか」
「藤本、仇を討つってのは…死んだ奴に使うもんだ…俺はまだ死んでない…」

ゆっくりと、覚束ない足取りでは在るが、一茶は立ち上がった。

「ははッ 別にいいだろ、そんな細かいことはよー」
「こだわる主義なんでね…」
「ま…立ち上がれるんなら、とどめはアンタに任せるよ」
「ああ…そうさせてもらう…」

ドシュンッ

再び一茶のファイナル・リバティーが姿を現す。
天使の姿の見た目とは裏腹に、異様な殺気が立ち上っていた。

(ああ…ゆ、許してくれええ!!)

「もう慶太の体から出ちまってるんなら…何も遠慮することはないな…」

一歩一歩、地面に転がっているインズの精神体のもとへ近づいていく。

(もうしねえッ! アンタらの周りに手出しはしねえから!!)

「窮屈だったんじゃあないか…? 地球人の体の中は…」

インズの声は聞こえているが、一茶には理解する気はなかった。


719 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:08:04.53 0

(うわああああ!! もう出ていくから! この地球から出てくからよォ!!)

「狭い他人の体のなかで、もう縛られる必要はないんだ…
 お前に自由を与えてやる…この俺の愛(コブシ)でな…」

(ひ、ひぃぃぃぃ…!)


「LOVE IS THE…FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL…」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!! 

「FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINAL FINALッ!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!

今までとは比べ物にならない、迷いの無い連撃!

「LIBERTYYYYYYYYYYYーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
「ウゲアアアアアアアアッッ!!!!!」



ドッギャーーーーーーーーーーーーーン!!!!!



最後に下から豪快なアッパーを見舞い、インズは空中へ吹っ飛んだ。

「My love 2 U…」


720 :マイマイ268:2006/11/26(日) 01:08:43.52 0

そこで一茶は力尽き、その場に倒れこむ。
地面にその身を叩きつける瞬間に、美貴が咄嗟に駆け寄り、体を支える。

「スゲーよあんた…」

あんなにいたぶられた後でもここまで渾身の力を出すことが出来た一茶に
美貴は呆気に取られるのと同時に敬意を表した。

「でも、いきなり倒れんなよな〜。 これから消防士さん来るんだからよォー。
 このままだと放火犯ってことで捕まっちまう!」


 ウウーーーー ウーーーー ウ〜〜 ウ〜〜 


サイレンの音はもうすぐ近くまで来ている。

「よっこいしょっと」

一茶の体を背負って立ち上がったものの、男の体は結構重い。
これから担いだままどうやって逃げようかと美貴は考えた。

「んー、ぜってー見つかっちまうよなァ… 何か言い訳でも考えねーと…」

グワンッ

「ん…?」

どうしたものかと唸っていた美貴の足元に何か違和感があった。


877 :マイマイ268:2006/11/29(水) 22:13:56.92 0




ドァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ



「うおッ!?」

美貴の靴には何か粘膜のような、ゴムのような得体の知れないものが纏わりついていた
それは彼女の背後に伸び、そこから上に向かって伸びている。
その先の木の上に人の顔のように見える部分があった。
その顔に美貴は見覚えがあった。

「お、お前は… さっき慶太…いやインズと一緒にいた奴ッ!!
 確かミキタカとか呼ばれていたッ!」

ドゥ・マゴのオープンテラスでインズと向き合って座っていた
“ミキタカ”と呼ばれていた少年である。
既に人間の姿をしておらず、このゴムのような形状になっているのである。

「そうです。 ええと、藤本さん? だったか… 突然で悪いのだけど…
 あまり余裕がないもので、ぼくを連れていってくれないか…!」

シルシルシルシルシル…

そう言うと、その顔は見る見るうちに崩れていき、ゴム状になり
美貴の靴にぐるぐると絡み付いていく。

「テメー! 何をしやがるッ!」


878 :マイマイ268:2006/11/29(水) 22:14:39.19 0

美貴が話すのも無視してミキタカは次第に姿を変えていく。

グオオオオオオオオオオオオ…

「ぼくは… 何にでもなれる『能力』を持っている…
 ただ… 機械のような複雑で『自分以上の力で動く』ものにはなれない…
 君に連れて行って欲しい…!」

グニグニグニグニ… グォッ!!

そしてその体が完全に靴と一体化した状態になり…

「は…早く… この音の中では頭が割れそうだ。 たまらない…
 頼む…『スニーカー』になるから…」

ジュルジュルジュルジュル…

「はいて連れていってくれーっ!!」

グオオオオ グイイイ〜〜ン

「お礼になんでも話すから!」

ビシッ ギュッ!

美貴の足に纏わりつき、新品のスニーカーの形に変化した!


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン




879 :マイマイ268:2006/11/29(水) 22:15:15.64 0

「うおっ おっ! テ、テメーはスタンド使い…
 それともマジにあいつの仲間で…宇宙人?」

ダンッ

美貴の問いには答えず、スニーカーになったミキタカは一気に跳躍をする。
一茶を抱えたままにも関わらず、その高さもスピードも常人以上!


ドギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


「うわぁっ! な、なんてスピードだっ!」
「『君の力』と『ぼくの力』で速さも跳躍力も2倍になっているからね…」

“スニーカー”から声がする。


ダンッ ダンッ ダンッ スタッ!


建物を次々に飛び移り、そしてついにぶどうヶ丘高校の屋上にたどり着いた。

(んだよ… 学校に戻ってきちまったじゃあねえか…)

既にサイレンの音は聞こえていない。
同時にミキタカもスニーカーの形状を解き始めていた。

「いったいなんなんだァ…?」


880 :マイマイ268:2006/11/29(水) 22:17:27.17 0

徐々に美貴の足を離れ、人間の形に戻ってきている。
美貴は一茶を肩から下ろすとスタンドを出現させた。
そして間髪いれずに殴りかかる!

グオオオン!

「オメーはよぉ〜ッ! 何モンだッ!」

ビタッ!

…とりあえず殴ってしまおうと考えた美貴だったが、
目の前の男があまりにも表情を変えないので、顔面寸前で拳を止める。
ミキタカはその拳をじろじろと眺めている。

(こ…こいつ見えてるのか? インズと同じ宇宙人だってんなら
 このブギートレインO3の拳は見えねーはずだが…やっぱこいつは…)

「ありがとう、助かった」

ミキタカが口を開く。
美貴はやはりそのまま殴り飛ばしてしまおうと思ったが、
彼の話にも興味があったので、それを聞いてから決めることにした。

「以前にも同じようなことがあって、ぼくはその時もこうやって助けてもらった。
 …それにしても地球人はこの『スタンド』というのを使って
 殴りあうのが好きなようだ。 実に興味深い」


881 :マイマイ268:2006/11/29(水) 22:18:38.80 0

BTO3の拳を目の前にして平然としている。
宇宙人なのか、スタンド使いなのか、美貴はまだ判断しかねていた。

「オメーは“これ”が見えてんだな?
 だったらやっぱ『スタンド使い』ってことだよなぁ…」

「さあ…?」

と、彼は美貴の問いに首を傾げる。
美貴はその様子に少しイラつき、顔をしかめた。

「ぼくも最初は見えなかった。 けれど、いつの間にか見えるようになっていて…
 まあ、原因はよくわからないけれど」

「ふんっ よくわかんねーけどさ。 さっき『何でも話す』って言ってたよな?
 じゃあぜーんぶ教えてくんねーかな。 もう頭がショートしそうだ」

そこでようやくBTO3の拳をおさめて戦闘態勢を解く。
そして屋上にどかっと腰を降ろし、ミキタカを見据えた。

「ええ、いいですよ」

ミキタカも真似をしてどかっと腰を降ろすと、話を始めた。

「こういうの、なんでしたかね? 『腹を割って話す』って言うんでしたか?
 地球人の…日本の人間は『セップク』が好きだそうですけど…。
 話すたびに腹を割らなきゃあいけないんですかね? 大変ですね」
「……」


90 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:10:04.49 0

と、いきなりこんな調子で話し始めたミキタカだったが、
その内容はとても簡単に受け止められるものではなかった。

まず、自分とインズはともに同じ惑星出身の地球外生命体であること。
それから2人とも調査を目的に地球に来ていること。
これらは既にインズが自分から話していたことであり、
それをもとに彼女もサイレンによる攻撃を思いついたのであるが、
やはりいきなり「ぼくは宇宙人」と言われても信じられないのは当然である。

「言い忘れましたが、ぼくの本名はヌ・ミキタカゾ・ンシ。
 地球では支倉未起隆と名乗っています」
「は…はぜくら…」
「ええ。 杜王町の支倉さんのご家族を洗脳させてもらって、
 ぼくを息子だと思い込ませています」
「はあ…」

美貴はどういうリアクションをしていいものかわからず生返事を返す。
実際、れいなの言っていた『サイレンの音に弱い』というのは当たっているので
ただのイカれた野郎だとも思い切れないのである。

「インズさんに関してはいろいろ複雑で…
 慶太さんや、そこに倒れている一茶さん?には大変迷惑をかけてしまいました」
「迷惑被ったのはあたしもだけどな…」
「はい。 本当にすみません」

ペコリと頭を下げる。

「で、インズのことを話してくれよ」
「わかりました。 では……」


91 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:10:36.87 0

ミキタカの話の内容をまとめるとこうである。
まず、ミキタカやインズ達の種族はもともと地球の環境に合わない体質であること。
そのためこれまで本体から“精神体”のみを抽出し、
人間の体を乗っ取ってごく自然な形で地球を調査していたこと。
またこれは何百年も前から行われたことだという。

「そんなに昔から…」
「ただし、これには限界があって、精神体の状態で本体から離れられるのは
 せいぜい5年ほどなんです。 それを超えると徐々に精神が崩壊しはじめ、
 常に破壊的な衝動に駆られ、残虐な性格になってしまうのです」
「なるほど。 それで奴は…」

と言ったところで、だんだんとミキタカの話を信じ始めている自分に
美貴はなんとなく嫌気がさした。
どうしてこんなSF話に納得して頷いているのか、と。

「その通り。 5年前、日本の別の街にいる時に彼の消息は途切れました。
 本来なら帰還すべき時期に行方をくらまして、それきりだったんです」
「じゃあお前の目的ってのはインズを連れ戻すため?」
「まあ…それだけが目的ってわけじゃあないんですが、そうですね。
 捜索の結果この杜王町に潜伏しているらしいという情報を掴んで、
 たまたま地球に降りてきていたぼくに指令が下ったわけです」
「でもお前、さっき喫茶店ではスタンド使いがどうこうって言ってなかったか?」
「それはインズさんをおびき出すための作戦のひとつでした」
「作戦?」
「はい」



92 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:11:27.57 0

…当時インズは既に自我を失いまともな精神ではなかった。
しかし自分が調査員だということは頭に残っていたようであり、
ミキタカの仲間はそれを逆手にとっておびき出そうと考えた。
それは精神崩壊によって好戦的な性格になっている彼を引きずり出すために
『闘う』ことを目的としたもっともらしい指令を用意する事。
その事を嘘だと思われては元も子もないため、少し現実を混ぜなければならない。
そして最も彼の興味をそそるであろう対象…。
それが地球人の『スタンド使い』の存在なのだと彼は説明した。

「なるほどねぇ… けどさ…」

スタンド能力。 …この宇宙人と名乗る男はスタンドのことを知っていた。
だとすればどこで知ったのか。 それはどんな奴なのか…。

「お前はスタンドのことを知ってるんだよな?」
「ええ、実はぼくの友人にスタンド使いがいるんですよ。
 偶然にもあなたと同じこのぶどうヶ丘高校の生徒なんですけど」
「な、なんだって!? そいつはまさか…」

同じ学校の生徒…。 それで美貴はひとつ思いついたことがあった。

「知っているんですか?」
「…『東方仗助』って名前じゃあないか?」
「おおっ、そうです! 仗助さんです! なァ〜んだ、お知り合いだったんですね。
 せっかく紹介しようと思ってこの高校まできたのに」
「はは…」


93 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:12:34.08 0

これで点と点が線で繋がった。
れいなが仗助から聞いたのは、目の前のこのミキタカの事で間違いない。
先ほど言っていた『以前にも同じようなことがあった』というのは
おそらく仗助に助けられたことを言っていたのだろう。
これもれいなの話と噛み合ってくる。

「話が反れましたが、そのスタンドの話を使って彼をおびき寄せたわけです。
 作戦ではあの後、仲間との集合場所と偽って港に呼び出し、
 そこで母艦に強制連行する予定だったんですが…」
「ああ、そこに美貴たちが居合わせちまったってわけか」
「はい。 まさかそれがインズさんが体を借りていた橘慶太さんのお知り合いで、
 しかも2人ともスタンド使いだったのは全くの偶然でした」
「ははあ…つまり美貴達が何もしなくても慶太は救われてたわけだ…」
「まあ…そういうことになりますね」
「……」

なんて厄日だ、と舌打ちをする。

「ツイてねー日だぜ今日は…奴のせいで……ん? …あれ?」
「どうしたました?」
「いや、何かを忘れているような… ああ、そうだ!
 そのインズはあの後どうなったんだ? あの時は逃げることばっか考えてて…
 一茶の奴が上空にフッ飛ばしてたからさァ…」
「ああ、それならここに…」

と、ミキタカは自分の頭を指差した。


95 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:13:20.83 0

「は?」
「ええ、ですからここにいます。 “ぼくの頭の中に”」
「頭ン中ぁ?」
「あの時、インズさんの精神体が上空に飛ばされたのを回収して
 ぼくの体内に封じ込めているんですよ」
「じゃ、じゃあお前はあの時逃げたわけじゃあなくて、ずっとあの場所にいたのか?」
「はい。 急に皆さん方が戦闘を始めたのでずっと見守ってたんです。
 サイレンの音に耐えるのはかなり辛かったですけど」
「ご苦労なこった… ま、話はだいたい分かった」
「話はもういいんですか? これからもっといろいろお話しようと思ってたのに」

そこで美貴は腰を上げる。

「あんたが宇宙人なのかそうじゃあないのか、そういうことは置いといて、
 とりあえずは問題は解決して慶太も無事なんだし、一件落着と」
「まあ…そうですね、ぼく達の問題も解決したので」
「あっ! ちょっと頼みがあるんだけど」
「なんです?」
「倒れてる一茶が目を覚ましたら、また何かに変身して病院にでも運んでやってくれ」
「ええ、お安い御用です」
「頼むよ。 それじゃあな、ミキタカ」

手を振って去ろうとしたところで、ふと美貴の頭に疑問がよぎった。

「あ、そういや… お前は誰かの体を借りてるんじゃあなくて
 支倉さんてとこの家族を洗脳してるとか言ってたけど…
 確かお前達の体は地球に合わないって話じゃあなかったか?」
「ああ、そのことでしたら、なんというか、ぼく達の世代は違うんです」
「っつうと?」


96 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:14:06.80 0

「数年前に技術革新があって、体をそのまま地球上で活動させる技術が出来たんです。
 それでこれまでよりも長い年月を地球上で過ごせるようにもなりました。
 ぼく達の世代は今までと違うんですよ」
「へえ…」
「なんと言いますが、普通と違うというか、こういうの、なんて言うんでしたか…」
「ん? 『特別』ってことか?」
「あ、そうです! それ! その言葉を使えばよかったんですね。
 たまに地球の言葉を忘れちゃうんですよね、『特別』…『スッペシャル』」
「スペシャル、な」
「つまりぼく達は『スッペシャル・ジェネレ〜ション』というわけです!」
「だからスッペじゃなくて…」

再度訂正しようとしたが、面倒なのでやめておくことにした。

「ま、とにかく一茶のこと頼む。 そんじゃ!」
「今度またぼく達の地球での歴史を聞かせてあげますよ」
「ああ、機会があったらな」

美貴は今度こそ彼に手を振って別れた。

「なんか長い話聞いてると疲れるわ…」

ミキタカの話には難しい単語がたくさん出てきて
その部分はほとんど美貴の頭の中には入っていなかった。
要点だけ掴めばいいと思ったのだが、それにしても長すぎた。
それにこれがまだ本当の話かどうかもわからない。


97 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:14:52.06 0

「そういやインズには見えなかったのになんでアイツにはスタンドが見えるんだ?」

やっぱりミキタカもインズもただのイカれたスタンド使いだったのかもしれない。
そう考えながら、屋上からの階段を降りていたところ…

「あれー? こんなところで何してるんです?」

そこで偶然にも亀井絵里に見つかってしまい、演劇部の部室に連行され
そこからまた体の傷の説明などこってり長い話をするはめになってしまうのだった…


(だ、だりぃー……)


--------------------------------------------------------------------


一方、橘慶太はカフェ・ドゥ・マゴでの火災の被害者として
駆けつけた消防員によって病院に担ぎ込まれた。
多少の火傷はあったものの、その傷は驚異的な速度で回復したという。
またその日から急に身体能力が異常に高くなり、体育でも好成績を残すようになった。
後日、退院した一茶から事情を聞いた慶太は、
彼らがスタンド能力に名前をつけていることにあやかり
自身の人並みはずれた身体能力に『スーパー・ラヴァー』と名づけた。


―TO BE CONTINUED



98 :マイマイ268:2006/12/03(日) 22:15:28.48 0

インズ(本名 ウ・インズ・バナ)
ミキタカの体から精神体を分離され、精神治療の後に収監される。