99 :マイマイ268:2006/04/10(月) 03:24:19.99 0
銀色の永遠 〜UMAを見に行こう!〜


2月も半ばになった頃、杜王町にはある噂が囁かれるようになっていた…。



バタバタバタバタ…

ガラッ

演劇部の部室のドアが勢いよく開かれ、亀井絵里が息を切らせて入ってきた。

「絵里〜…どうしたと?」
田中れいなは、荒く息をしながらも目を輝かせている絵里に尋ねる。

「あッ、れいな! また出たんだよ!」
絵里はれいなに駆け寄り、嬉しそうに話し始めた。
「出たって、なんが?」
「『ヨッシー』だよ!!」
「よ、よっしー?」

「俺ならここにいるけど?」
部屋の中央にいた部長の吉澤が絵里たちのほうに顔を向けた。

「いやいや、部長のことじゃあなくて! っていうか、2人とも知らないの?」

れいなと吉澤は顔を見合わせて首をかしげた。



100 :マイマイ268:2006/04/10(月) 03:24:52.42 0

-------------------------------------------------------------------------


バタバタバタバタ…

ガラッ

教室のドアが勢いよく開かれ、広瀬康一が息を切らせて入ってきた。

「仗助君! 億泰君!」
「なんだコーイチ。 そんな慌ててよー」
「また出たんだって! ヨッシーが!!」
「ハァ?」

東方仗助は首をかしげた。
隣に居た虹村億泰は何か思い出すように顎に手を当てている。

「…あ、なんか俺聞いたことあるぜ」
「億泰、お前知ってんのか?」
「確か学校の裏山の中腹あたりにある…あー、なんつったっけな?」
再び考え込む億泰を見かねて、康一がしゃべりだした。

「『四洲の堤』だよ! そこにまたヨッシーが出たんだって!」
「いやいや、俺はそんなの知らねーよ。 なんだそのヨッシーってのは」
「ネッシーはネス湖に出るからネッシーって呼ばれてるでしょ?
 だから四洲(よす)の堤に出るのはヨッシーだよ」
「ってことはそのヨッシーってのはネッシーみたいな怪物ってことか?」
「僕が見たわけじゃあないからはっきりとは言えないけど…たぶん」

康一は自信なさ気に言って俯いた。



101 :マイマイ268:2006/04/10(月) 03:25:50.19 0

-------------------------------------------------------------------------


「バッカバカしい。 そんなのいるわけないじゃん」

いつのまにか部室に入ってきていた藤本美貴が、絵里の後ろから声をかけた。

「えー、いますってー!」
絵里は振り向きながら美貴に言う。
しかし美貴はそれに反論する材料を既に持っていた。
「あのなー…美貴も小さい頃に学校の裏山のぼって遊んだことあったけどさー。
 あそこの四洲の堤ってのはちょっとデカい溜め池みたいなもんなんだよ。
 そんなところに恐竜みたいなバケモンがいるわけないっつーの」

「うう…」
絵里が意気消沈する中、美貴はさらに追い討ちをかける。
「じゃあ仮にそんなのが棲んでたとして…なんで今更になって出てくるわけ?
 こんな身近にある堤だったら、もっと昔から噂があってもいいのにさ。
 きっと誰かが注目されたいために流したデマだよ、きっと」
「でも、僕のクラスの子も見たって…」
「どうせ枯れた木の幹か何かを見間違えて『ヨッシー』だと思い込んじまったんだろ。
 そーゆー噂を聞いた後だと、思い込みってのは激しくなるからな」

すっかり美貴に論破されてしまい、俯いてしまった絵里だったが
しばらくすると美貴のほうを向いて立ち上がった。



102 :マイマイ268:2006/04/10(月) 03:26:06.28 0

「じゃ、じゃあ藤本さん! 見に行って確かめましょうよ!」
「…へ?」
「賭けです! 実際に見に行って何も出なかったらなんでも言うこと聞きます!」
「お前なー…」
美貴は、少し直情的なところがある絵里に少しげんなりした。

「お、話が早いやんか」
部室の奥の部屋から顧問の寺田が出てきた。

「先生…話が早いって、何がです?」
吉澤が尋ねる。
「そのヤッシーのことや」
「先生、ヨッシーです!」
絵里がすぐに寺田の間違いを正した。
「ああ、そやヨッシーな。 ちょうどそれを調べてもらおうと思うててな」
「もしかして先生までそんなん信じてんスかー?」
美貴が苦笑しながら言う。
「いやいやわからへんでー。 スタンドっちゅーもんがあるんやから
 世の中にはそういう未知の動物がおってもおかしない」
「それとこれとは話が…」
「いやー、それがな吉澤。 今回はどうもそのヨッシーに
 スタンド使いが絡んどるかもしれへんねん…」
「ええッ!?」


227 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:31:12.15 0


 ―四洲の堤。

ぶどうヶ丘高校の裏山にぽつんとある細長い堤。
池と呼ぶには大きく、ダムと呼ぶには小さい。
山のくぼみに雨水などが溜まって出来た池に手を加えて堤にしたとされる。
堤までの標高はそう高くないため、子供らがたまに遊びに来ることが多く
また時期になれば釣り人たちの隠れスポットになることもある。―



「なんか遠足みたいで楽しかね!」

列の先頭で、田中れいながウキウキとした様子で歩みを進ませる。
それに亀井絵里、藤本美貴と続いていた。
結局、寺田の命を受けて四洲の堤の調査に行くことになったのだ。

「なんか子供みたいだね、れいなは」
まるで無邪気な妹を茶化すように絵里が笑う。
「な、なんね! 冗談で言っただけやけん! 本気にせんでッ!」
それで顔を真っ赤にしたれいなが、頬を膨らませて反論した。
それを見て再び絵里はくすくすと笑った。



228 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:31:30.21 0

「はァー、もう…」
楽しげな雰囲気の中、美貴が一人ため息をつく。
「美貴姐、どうしたと?」
一人不機嫌そうな美貴にれいなが尋ねる。
「なんでこの年になって山登りなんかしなきゃいけないワケよ…」
「たまにはこういうのもよかって。 エクササイズたい、エクササイズ」
「エクササイズって言ってもさ、美貴は毎朝チャリでダッシュして
 それで結構カロリー消費してるから別にこんなんしなくてもいいし」
「…あ〜あ」
れいなが美貴を、まるで養豚場の(ry …でも見るかのような目で見下ろす。
「れいな、なんなのその目は…」
「チャリ漕ぎくらいで運動したなんて言いようけんが
 美貴姐はそげにお腹がポコッてなるったい」
「あァん!?」
美貴が物凄い表情でメンチを切った。
が、れいなは物怖じせず、美貴に向かってお尻を突き出す。
「悔しかったら追っかけて来てみんね、へへん!」
と自分のお尻をペンペンと叩いて挑発し、走り出した。
「くっそ…ホントに子供みてーだな」
イライラしているのは確かだったが、美貴には追いかける気力は無かった。
「あほくさ…」
そう呟く美貴に、今度は絵里が声をかける。
「そんな言わなくてもいいじゃないですか。
 こういうのも楽しいんじゃないかなあ、と僕は思いますよ」
「ま、山登りがめんどくさいのもあるんだけどさァ…
 なんでよっすぃーは来ないワケ?」
「部長は演劇部の仕事が残ってるらしくて、忙しいみたいですよ」
「はッ、『ヨッシー』なんだからよっすぃーが行けばいいのに…」
そう言ってまた、美貴はため息をついた。



229 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:31:45.82 0

それから十数分歩いたところで、3人はようやく堤にたどり着いた。

「はー、子供の頃来た時は広く感じたけど……こんなに広かったっけ?」

幼少の頃に見た風景とは、成長してから見てみるとちっぽけに感じるものだが
美貴が小学校以来に訪れたその場所は、意外にあまり変わっていないように見えていた。
むしろ当時より大きいようにさえ思えていた。

「れいなは初めてくるけど、いい空気やねえ」
両手を左右に広げて、れいなは大きく深呼吸をした。
「んん〜、たまにはこういうところもいいなァ〜」
隣の絵里もそれを真似る。

「う〜ん…」

綺麗な空気を満喫している二人をよそに、
美貴はまだ奇妙なノスタルジーに包まれていた。

「どうしたんですか?」
絵里が尋ねたところでようやく美貴は顔を上げたが
それでもまだ狐につままれたような、釈然としない表情である。

「おかしいんだよなあ。 確かにここに来るのはひさしぶりだし、
 美貴も小さかったから記憶も曖昧なのかもしれないけど…
 絶対、こんなに広くは無かったと思うんだけどなァ…」

と、美貴は腕組みをして再び唸った。



230 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:32:02.80 0

「気のせいやない? きっとこの何年かで雨が溜まったとか」
れいながのん気に答えたが、やはり美貴は納得しないようである。

「あれ、見てみ」
美貴は腕組みしていた右腕を解き、50mほど先の対岸付近を指差した。
絵里とれいなもその指先を追う。
そこには、水面から一本の大木が半分だけその体を晒していた。

「木…ですね」
「木やねえ…。 美貴姐、あれがどがんしたと?」

「いや…あの木、見覚えあんだよね。 小学校の時は水に埋もれてなんかいなかった。
 いくら雨が溜まったとしてもよォ…たった数年ここまで劇的に変わるもんか?
 デカい木が半分埋もれてるんだよ。 まるでマングローブみたいに」

確かに、マングローブのような水に埋もれた木々など
日本では鹿児島の離島以北ではまず目にすることのないものである。
それがまるで、ずっと昔からそこにあったかのように佇んでいたのだった。

「木が折れて、偶然あんな感じに残ってるとか…?」
「そういうもん…かもなァ…」
そう言いながらも美貴はまだ半分は納得していないようだった。



231 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:32:25.28 0


…チャプンッ


「ひゃっ」
堤の縁の草むらにいたれいなが急に声を出し、飛び上がる。

「どした? れいな」
「なんか急に波が来て…」
「あーあ、足元よく見ろよ」
美貴に言われて足元を見ると、れいなの靴は水に半分浸かっていた。
「あッ、ローファーがびしょびしょやん!」
れいなはすぐに履いていた靴を脱ぎ、振って水を落としている。

「…?」
その隣で、今度は絵里が神妙な表情を見せた。
「絵里までそんな顔して〜。 ほら、絵里の靴も濡れとーよ」
絵里は自分の足元を見た。
れいなの近くにいた絵里の靴もやはり少し水に濡れている。

「ね、ねぇ、れいな…今、波が来たよね?」
「はァ? うん、来たけどそれが何?」

絵里は少しの間考え込んだ。

「海とか大きな湖では、満ち引きが発生するけど…なんか変じゃない?
 この堤は大きいほうだけど、波が起こるもんなのかなあ…」
「風とかやない?」
「でもほら、水面は全然穏やかだよ? 」
絵里の言う通り、堤には波一つ立っていない状態だった。



232 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:32:41.05 0

「そうだ! やっぱりおかしい!」
美貴が大声を上げた。

「なんか違和感あると思ったら、無いんだよ、『島』が!
 ここは『四洲の堤』だよなァ!」

『四洲の堤』という名称は、堤の浅い部分が島となって水面から出ていて
縦に並ぶ4つの中洲のように見えることからそう呼ばれていた。
しかし今は、そのような部分は堤のどこにも見当たらない。

「子供の頃はこの堤の名前の由来なんて全然気にしたこと無かったけど
 4つの『島』があったからこそこんな名前がついてたんだッ!
 それが無いってのはさァ、やっぱりおかしい!」
美貴はそう言って一歩後ずさる。

「じゃあ、まさか木が水中に浸かってたりするのは…」
絵里とれいなも堤の縁から少しずつ離れた。

「水の量が増えてるッ! 面積が広がってるッ!  しかも急激にッ!
 この何年かでこんなになるような大雨が降った話も聞かない!
 何かおかしい、この四洲の堤はッ!!」



233 :マイマイ268:2006/04/13(木) 01:33:10.53 0


チャプ…


後ずさる絵里とれいなの足がまた水に触れた。

「なァーーーーッッ!! ここまで水が来とうッ!!」
「藤本さん、これ…『増えてます』、今も、『増えつづけてる』ッ!」
「亀! れいな! そこからすぐ離れろーッ!!」


ジャパァッ!!


突然、堤のほうから音がした。 その方向に水しぶきが上がっている。

「なんだ…?」

水しぶきがおさまった水面に、ひとつの『顔』が見えた。
シュノーケルと水中ゴーグルを付けた、男の顔だ。
水面から顔だけ出した男が美貴たちを見ている。

「そーそー、名前の由来の4つの『洲』は、今ぜーんぶ底に沈んでるよ」

その男は、美貴たちを見ながらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。


312 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:57:14.82 0

「誰だァ? アンタ」
美貴はブギートレインO3を出現させ、身構える。

「おー怖ッ。 いきなりそんなん出さなくてもいいじゃないかよう」
男はニヤニヤ笑いを続けるばかりであった。

「コイツ、見えとう…」
「ああ、あなたッ! あなたもスタンド使いなんですねッ!!」
れいなと絵里は言いながら水のある場所から後ろに飛びのく。
逆に美貴は一歩ずつ堤に向かって近づいていき、絵里たちと並んだ。

「お前ッ! ニヤニヤ男! この堤をおかしくしちまったのはお前か!?」
美貴が男を指差して言う。

「ああ、そうだよ。 僕の力でこうしてやった。
 しかしまあ、噂を流してから4日…やっと当たりがかかったよ。
 長かったなあ、ずっと待ってたんだよう、僕。
 我ながら、自分の忍耐力に感心しちゃうなァ」
男は今度は水から両手を出して、さも疲れたというようなジェスチャーをする。

「うちらスタンド使いが来るのをか? アンタ栄高の関係者?」
「そんなことはどうだっていいでしょうが。 僕らはただ…、
 『ぶどうヶ丘のスタンド使いを全員潰す』って命令を果たすだけさッ」
濡れ髪を手でサッとかき上げ、男はまた気持ち悪く笑った。

「潰すだって!? なんでボク達がそんなことされなきゃあ…」
「な、なん言いようとこん男! 誰がお前なんかにやられるか!」
「……」


313 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:57:31.83 0

美貴は考えた。

(スタンド使いを全員潰すだと? 一体どんな理由があって…
 やっぱコイツは栄高に関わりのあるヤツなのか?
 …いや、それよりこの男の余裕はなんだ?
 3人のスタンド使いを目の前にして、なんで余裕かましてんだ?
 うちらを確実に1人ずつ仕留める策でもあるってのか…)

「見たい? 見たいいィィ? 僕のチカラ…」
男はニヤニヤ笑いを通り越して恍惚の表情を見せている。

「…悪りーけど、アンタにやられる言われはねーな。
 アンタがうちらを潰すっつうんならさァ、その前にうちらがお前を潰すッ!!」

その美貴の声に応じて、絵里とれいなも自身のスタンドを出現させた。
しかし、やはり男はまったく物怖じしていない様子である。

「わかってない、わかってないよお、このバカ女達はッ!
 噂に惑わされて、わざわざ僕の『巣』にハマりに来てるくせに!
 そうッ! 『洲』じゃなくて『巣』にッ! プッ! アハハハハハ!!」
男は自分の言った事に勝手に受けて、勝手に笑い出した。

「なんか…コイツ腹立つゥ〜! 美貴姐、殴ってよか!?」
「ああ、美貴も腹立ってきたよ…。 許可するぜ、れいな!」
「え、ええ!? もう少し敵の様子を…」
絵里の制止を聞かず、美貴とれいなは堤に向かって走り出した。
それを絵里も、仕方ないといった感じで追いかける。

「3人一緒に来ちゃっていいのかなああ? まとめてやっちゃうぞ!!」
男はその時初めて、目を一瞬ギラつかせた。



314 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:57:58.03 0

「うるせえッ! しょっぱなからラッシュ決めてやるよッ!!」
3人は堤の岸で一斉にジャンプした。
美貴は水面の男のところまで後1mというところでスタンドの腕を振り上げる。
れいなも持っていた鞄を石に変え、殴りかかろうとしている。
絵里も破壊力はあまり無いものの、act2の尻尾で攻撃しようと構える。

「考えナシに突っ込んでくるもんじゃあない…」

男は上げていた両手を再び水面に沈めた。

「波よ立てッ!!」



ザッ…ザッパアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!



「何ィッ!!」
「つ、津波たい!」
「こんな堤に急にーッ!?」



315 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:58:21.52 0

男が叫んだと同時に、今まで穏やかだった水面が急に波立ち
大きなうねりとなって美貴たちに向かってきた。

「ほーら、言ったでしょ。 まとめて来ちゃうからこんなことにィ」
再びニヤニヤ顔に戻った男が、クックッと笑っている。

「飲まれるぞッ! 逃げろ!」
「無理やん! 既に水の上やけん! それに波紋もすぐには練りきらん!!」
「ほらッ! だから様子を見ようって…」

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!

話している間にも津波は3人を飲み込もうと迫ってくる。
津波は美貴たちの近くにいるこの男すらも飲み込もうとしているが
それでもやはり、男は平然としたままでいる。

「逃げられんよッ! 美貴姐ッ!!」
「亀ェーーー!! 上げろおおおおッッ!!」
「え、あ、上げるってこの津波を全部浮かせろって事!?」
「ったりめーだろッ!! 早くやれよッ」
「無理ですよ、僕! こんな大量に! いきなり!!」
「絵里ッ! 早よう! もう来るッ!」
「も、もう!! act3!! モグモグモグモ…ガボガボッ!?」


ザバシャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!


無常にも波は3人を飲み込んでしまった!
そして美貴たちを襲った波は数秒と立たないうちに、穏やかな水面へと戻っていく…



316 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:58:40.98 0

ザバッ

男は岸に上がり、その姿を現した。
額に掛けたゴーグルとシュノーケルを外し、
全身ウエットスーツの体で大きく伸びをする。

「ふいー、こうも簡単に挑発に乗るバカどもとはねえ。
 そのまま溺れ死ぬといいさ…
 しっかし、わざわざ大げさな噂を流す必要も無かったかな…」

それから男は首をコキッコキッと鳴らすと、
堤の中央に向かって大声を出した。

「おおーい! ユキナリ! こっちは片付いたよ!
 そっちのほうは頼むね〜!」

すると中央の水面が揺れ、そこからなにやら黒い影が現れた。
こちらも人間の顔のようである。

『俺の出る幕無しかよ! …じゃあ、こっちは任せてもらおうかね』

ユキナリと呼ばれた水面の影は、
そう言うとすぐにチャポンと水の中に消えてしまった。




317 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:58:58.76 0

-------------------------------------------------------------------------


「億泰、康一…。 今の見たか?」
「ああ…見たぜぇ、この目でしっかりと」
「大波だよ。 こんなところで、前触れも無く…」

ちょうど美貴たちが居た岸の対角線上に、彼らはいた。
東方仗助、虹村億泰、広瀬康一の3人である。
彼らは美貴たちが来た道とは別の道を通ってこの四洲の堤まで来ていたのだ。

「こりゃあ、康一が言ってたことは本当かもなァ…」
「俺も半信半疑だったけど、確信したぜ。 ヨッシーは本当にいるねッ!」
「でしょ! 僕の友達が昨日見たって言ってたんだ!」
「でもよー、ヨッシーっつうのは間抜けな名前だよなあ。
 ついマリオに出てくるほうのヨッシー思い出しちまう」
「確かにッ! いくら怪物でも、そんなの出てきたら笑っちまうな!」
「そんなに可愛いやつだったらいいけど…」



318 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:59:15.11 0

ザバッ

突然、水面に小さな波が立った。

「おッ! ヨッシーか!? それとも魚か…」
億泰は水面の波紋が出来ている部分を凝視した。

『そんなに可愛い顔しちゃいねえがなぁ…』

「!?」

水の中から声がした。 男の声のようである。

「仗助! 何か声が聞こえたぞ!!」
「うん、僕も聞こえた!」
「お、おお…。 もしかしてアレか? 漫画とかでよくあるだろ、
 未知の生物が人の言葉を話すとかよォ、そういうのかも」



319 :マイマイ268:2006/04/15(土) 02:59:38.70 0

『脳みそがファンタジーだな、おめーら』

水の中の声が言った。

「なッ…」


ジュウッ!!

次の瞬間、水が蒸発するような音が聞こえたかと思うと
水の中から真っ赤な火の玉が飛び出した!

ボウッ!!

「うおおおッ!! 伏せろッ!」
仗助は康一と億泰を引っつかみ、岸の草むらへ倒れこんだ。
火の玉はそのまま空の彼方まで昇っていった。

「やべえぞオイ…ヨッシーさん怒ってんじゃねえかよお!!」
「康一! お前が可愛いとか言うからだぜ!」
「ええッ、僕のせい!?」


453 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:46:38.65 0


 ―『UMA(ユーマ)』
アンアイデンティファイド・ミステリアス・アニマルズ(謎の未確認動物)の略。
ネッシーやイエティ、ツチノコ、チュパカブラ、ロッズ、ヒバゴンなど
実際に生存がはっきりと確認されていない生物を指す言葉である。
見間違いか作り物であろうとされているが、類人猿のゴリラはつい100年ほど前までは
謎の生物だと思われていた例もあるため、一概に全てがそうだとは言い切れない。
時に伝説上の架空生物がその列に名を連ねる場合もある。
また、海洋などで遭遇するUMAを総じてシーサーペントと呼ぶ場合もある。―




454 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:46:57.04 0


ザシャアアアアアアッ


轟音とともに、仗助達の目の前に大きな水柱が立ち上がった。
水飛沫が3人の上に降りかかる。

「ゲッ! ついに出てきやがったぜぇぇッ!! どうすんだ!?」
「お前が見に行こうとか言い出すからだあああ康一ィィ!!」
「また僕のせいに!! 2人とも乗り気だったじゃないかあぁぁッ!!」
3人は岸の草むらに寄り固まって目の前の怪奇に怯えていた。

水柱が消え、その姿が目の前に現れた。
水面から5mほどのところに頭がある、巨大な龍のような姿。
それはまるで地方の祭りなどで見られるハリボテの龍のような姿だった。
名前から首長竜のようなものを想像していた仗助達は
その姿に圧倒され、驚愕していた。

「おいおい、恐竜とは全然違うぜえ、この姿は…」
「ああ、テレビなんかで見たことあるなァ」
「僕これ知ってる! 昔家族で九州に旅行に行った時に『くんち』を見たんだ!
 その時の龍踊(じゃおどり)ってイベントの龍のハリボテにそっくりだよ!」



455 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:47:16.65 0

そう言う仗助たちを『ヨッシー』のギョロっとした目玉が見下ろした。
その開いた口からはうっすらと煙が立ち昇っている。

カハァァァ…

龍の口から荒い息のような音が漏れる。
同時に、口の奥に赤い光のような物が見えた。

「おい、もしかしてまたさっきの火の球が来るんじゃねえか!?」
仗助は尻餅をついたまま後ずさろうとしている。


ボウッ!!


「来たぞおおお!! 康一ッ!」
「うわああああああああ! ACT3ッッ!! 守ってッ!!」
『了解シマシタ。 エコーズ 3 FREEZE!!』


ズンッ  ジュワアアアア…


火球は康一のエコーズACT3によって水面に叩きつけられ、そのまま沈んでいった。
おそらくはそのまま水底で消滅してしまったのだろう。
仗助達3人はその様子を見てほっと一安心し、再び『ヨッシー』を見上げた。



456 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:47:32.36 0

「やれやれ…全然可愛くねーじゃんよお、このヨッシーさんは」
「全くだ。 UMAだか馬だか知らねえが、攻撃してくるんならこっちもやるぜえ」
仗助と億泰は腕をポキポキと鳴らし、立ち上がった。
2人ともクレイジーダイアモンドとザ・ハンドを出現させ臨戦態勢に入る。
そこへ、『ヨッシー』の口の中から声がした。

「おっと…スタンド使いが一気に3人も釣れるとはなァ」

「ええッ!? この怪物、スタンドのことを知ってるみたいだよ!?」
康一が慌てて仗助たちを見ると、仗助たちも驚いた様子でいた。

「向こうはシノブのヤツが3人片付けたとか言ってたから
 こっちはハズレかと思って期待してなかったが…俺も結構ラッキーじゃねえか」

「何ワケわかんねーこと言ってやがる…てめぇ、何モンだ?」
「スタンドを知ってるってことはよォ、もしかしてソレもスタンドか?」
「そんなッ!! でも僕のクラスの子も見たって…」
3人がそれぞれしゃべりだす中、『ヨッシー』の口から何かが這い出してきた。
人間のようだった。 黒いコートを来た男である。

「俺のスタンドはよォ…『ドラゴン・スクリーマー』って呼んでるんだが
 どうも大味なもんで、スタンド使い以外にも見えちまうみてえなんだな。
 それにこんなにデッケー体なもんで、
 こういう人があんまりいないところでしか出せねえってワケよ。
 ま、それだけ俺のパワーが強すぎるってことかな」
龍の口から半分だけ体を出した男は、自信に満ちた顔で言う。
「フツーのヤツにも見えるスタンド…」
「由花子の『髪』みたいなもんか?」



457 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:47:50.28 0

「ユカコ…? 山岸由花子の事か」
男は顎に手をやり、思い出すように言った。
「な…由花子さんのことを知ってるのかーーッ!!」
その名前を聞き、康一が急に興奮しだした。
「ああ、知ってるぜ。 お前らはアレだろ…あー、なんだっけ。
 そうか、リストはシノブのヤツが持ってやがったんだったな…まあいい。
 ちなみに俺はユキナリってんだ。 幸せの幸に也って書くんだぜ」
幸也と名乗る男は自分の手のひらに名前を書いて見せた。

「リストだと…? 何のことかわからねーが、俺らを知ってるようだな」
億泰がザ・ハンドを身構えさせる。
「億泰君ッ! もう少しこの男から情報を聞き出そうよ!」
「その必要はねーぜ、康一ィ」
仗助が、億泰と同じようにクレイジーDを身構えさせた。
「で、でもッ! コイツ僕たちの事いろいろ知ってるみたいだし!」
「…俺達はなんもしてねーのによォ、コイツは勝手に攻撃してきた。
 つまり『敵』ってことはわかったんだから、それで充分だぜ」
仗助はそう言って億泰とともに岸まで進み出た。

「おっかねー奴だなオイ。 俺に勝つ気でいるのかよ」
幸也がドラゴン・スクリーマーの口の中でせせら笑った。

「ああ、今からてめーをぶっ潰す!
 詳しいことはその後から聞きだしてやるぜーーッ!!」




458 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:48:06.59 0


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「お、幸也が姿を現したってことは、向こうも当たりだったみたいだねえ。
 今日は僕ら2人ともツイてるなあ〜」
ウエットスーツの男…宮良忍(みやら しのぶ)は、双眼鏡で対岸の様子を見ていた。

彼と、対岸の玉城幸也は4日前からこの四洲の堤に潜んでいた。
幸也の『ドラゴン・スクリーマー』は普通の人間にも見えてしまうため
スタンド使い同士で闘うには人気の少ない場所に行く必要があった。
そのために忍の水の量を増やす能力『ラプソディー・イン・ブルー』によって、
幸也のスタンドが戦いやすいフィールドを作り、その上でヨッシーの噂を流したのだった。

「んー? 向こうにいるのは東方仗助に虹村億泰、広瀬康一か…。
 強敵だなあ…幸也はリスト持ってないから気づいてないだろうけど。
 ここはひとつ、僕が加勢してあげようかな」

そう言って忍は、自身のスタンドを出現させる。
それは御伽噺に出てくるマーメイドのような姿をしていた。

「行くよ、ラプソディー・イン・ブルー。
 部分的に津波を起こして幸也を援護するんだ」

忍のスタンドが両腕を突き出すと、途端に水面に波が立ち始めた。



459 :マイマイ268:2006/04/18(火) 03:48:22.05 0


ザバアッ!!


「何ッ!」

今にも波が立ち上がろうとしていたその時、水の中から何かが現れた。
それは物凄い速さで忍のすぐそばまで飛んできたのだ。

「ふう、戻ってきたぜ…」
「ゲホッ! ゲホッ! ちょっと水飲んじゃいました…」
「も〜〜!! 体中ビショビショやん!」
藤本美貴、亀井絵里、田中れいなの3人が忍のすぐ隣に立っていたのだ!

「き、君たちッ! 水に沈んだはずじゃあ…
 あそこは水圧を高めてあったからそう簡単に抜き出せないはずッ!?」
忍がそこで始めて驚愕の表情を見せた。

「フッ、お前が津波で美貴たちを押しつぶそうとした時によォ、
 この亀井が少しだけ水を浮かせて『隙間』を作ってくれたおかげだ…」
「さすがにあの水全部は無理でしたけど、小さい範囲なら…ヘヘ」
絵里が照れて笑う。
「で、でもッ! それだけではッ!?」
「ふふ〜ん! その浮いた水をれいなが石に変えたったい!
 膜のように周りを石化させて、空間を作ったってことよ!」
「そゆこと。 何の指示もナシにそこまでやってくれた事に関しては
 さすが戦闘の天才と褒めてやるよ」
「にひひ…」
れいなも同じように照れ笑いをした。


536 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:15:32.45 0

「くっ…でも何故ここまで戻ってこれたんだ!?
 いくら水の中に空間を作ったところで、あの水圧からは逃げられないはずだよ!」
忍の問いに、美貴は余裕の表情で答えた。

「美貴が何の考えもなしに突っ込んだと思ってんのか?
 お前が水を操ったりする能力かもしれねーと思って
 突っ込む前にそこらの石を少し削って持ってきてたのさ…」

「なるほど…藤本美貴ッ! 君の能力は時間を戻すことだったね!!
 石の破片の時間を戻し、その破片に捕まって這い上がってきたわけかい!」

「よーく知ってるじゃねーか、美貴たちの事…。 やっぱアンタ、敵だなあッ!!」
美貴は再びスタンドを出現させた。

「ふん、だからどうだって言うんだい?
 君たちのチンケな能力で僕に勝てるとでも思ってるワケェ?」
忍はまたもとのニヤニヤ顔に戻り、挑発してみせた。

「勝てると思うんじゃなくて、勝つんだよッ!!」
そう言って美貴は持っていたもう一つの石の破片を空高く放り投げた。



537 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:15:49.71 0

「ちなみにこれは水の底で拾ってきた石だ。
 …戻した時間は、時の流れに戻るッ!!」

ビシュッ!

上空の石が、元の時間…つまり水の中まで戻っていく!

「あがァッ!!」

勢いよく水中に戻っていく石はその過程で忍の肩を削っていた!!

「どうよニヤニヤ男。 ナメてたんじゃあねーのか? 美貴たちの事…」

忍はもうニヤついてはいなかった。 憤怒の表情である。

「てめェらアアーーーーーーーッッ!! ぜってー溺れ死なすッ!!!」




538 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:16:11.09 0


ブワァッ


忍はその場で大げさなバック転をしてみせた。
そしてそのままの姿勢で水の中に飛び込む。

「何する気やろ、あいつ…」

バシャッ

忍はさきほどのように水面から顔だけをのぞかせた。

「ラプソディー・イン・ブルーッ!」

そう大声で呟いた。
咄嗟に3人は身構える。


シイィィィーーーーーーーーーーーーン…


…だが、特に目立った変化は見当たらない。


「…?」




539 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:16:50.73 0

美貴たちは困惑した。
忍が叫んでからもう何秒も経っているが、攻撃が起こらないのだ。
しかし忍の顔は不敵な笑みを浮かべていた。

「お、おい…もしかして不発かァ?」
「プッ、笑えるばい!」
美貴とれいなはだんだんと可笑しくなってきて、笑ってしまった。
「いきなり叫ぶからよー、スタンド攻撃してくんのかと思ったら、なぁ、れいな?」
「うんうん! ちょっとビビった自分にも笑えるッ!!」

そんな中、絵里だけが深刻そうな表情をしていた…。
「ああ…ッ」
「どした?」
「藤本さん…僕…地面が濡れてたから…気づくのが遅れたんです…」
「はァ?」

美貴はまだ半分笑った顔で絵里を見た。
が、絵里は自分の足元を見たまま微かに震えている。

「気づかなかった…僕たち…ヤツが水を操作する能力ってことまでわかってたのに…」

「絵里、なん言いようと?」

「れいな…水だよ…足元の水…堤の水が増えていたことも解かってたのに…
 また…『また増え続けてる』…水かさが増してるんだ…」

美貴とれいなはそれでようやく自分の足元を見た。
3人が忍に突っ込んで行った時には靴のところまでしかなかった水が
今はいつのまにかスネの下あたりまで増えていたのだ。



540 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:17:10.42 0

「おい…美貴がブギトレでこの場所まで戻ってきた時はこんなに水は無かったぞッ!」
「まさかッ! ヤツが水の量を増やして…! でも、なんでそげんこと…」

「クックック…ようやく気づいたぁ?
 僕がさぁ、わざわざまた水の中に戻ったのは、そのためだ。
 顔だけ出してる状態だから、気づくのが遅れたろう? 水かさが増してることに」

確かにそうだった。
忍が岸に立ったままでいれば、水かさが増えたことに美貴達はすぐ気づいただろう。

「違うんです…水が増えた事そのものよりも、もっと奇妙なことです…
 この水に浸かっている僕の足が…」
「!?」

「僕の足が…! 動かないッ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「どうなってんだッ!? 美貴の足も動かねえ!」
「れいなも、動かんたい!」
「早く気づくべきだったんだ…もっと辺りに気を配るべきだった…」

水に浸かっている3人の足は、何かに固定されたように動かなくなっている。
それどころか水に浸かっている部分だけ締め付けられるような痛みを感じていた。



541 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:17:26.01 0

「君達の足の部分だけ水圧を変えたんだよお、フフフ。
 身動きが取れない君達をこれから嬲り殺してもいいけどさァ…」

忍は再び岸にあがり、髪の毛の水を犬のようにブルッと払い落とす。

「そんなことはしないッ! 僕はさっき言ったよねえ!
 絶対溺れ死なすってさあッ!!」

ガボオッ!!

水の中から彼のマーメイドのような容姿のスタンドが姿を現した。
その周りには3つのバスケットボール大の水の球が浮いている。

「何する気だ、テメー…」

「この水の球で何をするのかって? 気になるかい?
 フフ…この水の球を、今から君達の顔に投げつけてやるんだよ!
 そうして! 君達はこの水の球の中で溺れ死ぬんだッ!
 残念だよねえ、こんな山ん中で死んじまうなんてさあ!!
 呪うなら君達のそのチンケな能力を乗ろうといいッ!!」



542 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:17:49.64 0

忍はそう言って高笑いを始めた。
勝利を確信した笑いのつもりだろう。
美貴は無言のままそれを見つめている。

「どうしたァ!? 慌てないのかい!
 それとも潔く死ぬ決心がついたのかな? そりゃつまんないな…
 もっと怯えてくれないとさァ!!」

「…やるなら早くやりゃあいいだろうが」

美貴は…いや、絵里もれいなも既に怯えたり慌てたりはしていなかった。

「はッ…死ぬ覚悟が出来たってことかい。
 つまんないけど、まあいいよ。 それで仕事は果たせるんだから。
 じゃあ、とっとと溺れ死になああああーーーーーーッ!!」




543 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:18:09.03 0


-------------------------------------------------------------------------


「ギャアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!!!」


東方仗助の尻には、真っ赤な炎が揺れている。
意気揚々とドラゴン・スクリーマーに立ち向かっていった仗助だったが
逆にその吐く炎に攻撃されてしまったのだ。


「仗助ーーーーーー!!! 水だ、水ッ! 飛び込め!」
「うわっ、仗助くん! 僕らのとこに来ないでよ!!」
億泰と康一は、尻に火のついた仗助から逃げ回っていた。

「バカ言えッ! 水にはヨッシーがいるだろうがよおおッ」
「あれはヨッシーじゃないよ! スタンドだッ!」
「どっちでも同じだ! 敵の陣地の飛び込んでどうすんだコラッ!」
「だからってこっち来んじゃねえ仗助! 燃え移るだろうがッ!」

その様子を5m上、ドラゴン・スクリーマーの頭上から
玉城幸也がゆっくりと見物している。

「おいおい、てめーらの相手は俺じゃねーのかよ。
 自分らで追いかけっこしてどうすんだ、アホども」

ふわあ、とひとつ欠伸をして、幸也は見物を続けた。



544 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:18:25.40 0


「早く火を消せッ!」

ドンッ

「うおッ!」

億泰は仗助を堤に向かって勢いよく突き飛ばした。

「てめえ億泰ッ! ヒトデナシッ!!」

ザッパーーーーン!!   …ジュウウウ

「ブハッ! 億泰…火は消えたがよォ…
 急に何をするだァーッ! ゆるさん!」

水から顔を出した仗助は、億泰たちをにらみつける。

「…どうでもいいけどよー、そこ敵の目の前だぜ、仗助」

「ん?」

仗助が顔を上げて上を見ると、ドラゴンの顔が
ぬうっと下を向き、ギョロ目が仗助を見下ろしていた。
その頭上では幸也がのん気に耳をほじっている。



545 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:18:55.96 0

「ゲエエエエエエエーーーーーーーーーッ!」

カハァァァ…

再びドラゴンの口の中に赤い光が溜まり始めた。

「億泰ッ!」

「おうよ! ザ・ハンドッ!」

グンッ

ザ・ハンドにより仗助の体は岸のほうで引き寄せられる。

「ふう、助かったぜ億や…ぐあッ!」
「何ィ!! 仗助ッ!!」
「仗助くんッ!!」

引き寄せられたことにより一瞬だけ宙に浮いた仗助の体を
ドラゴン・スクリーマーの腕ががっしりと掴んでいたのだ。

「腕だ! これがあのスタンドの腕ッ!」
「水の中から腕が出てるってことは、水の中にはまだ長い体があるっていうのかー!」

「掴んだゼェ、仗助…東方仗助。 確かスタンドはクレイジー・ダイアモンド。
 で、お前は億泰って呼ばれてたな。 ザ・ハンドの虹村億泰。
 そしてさっき俺の炎を沈めたチビは広瀬康一だな…。
 お前らは忍のリストには、『要注意』って書いてあったなァ」



546 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:19:11.53 0

幸也はドラゴンの頭上に立ち、仗助を見下ろした。

「釣れた3人中3人とも要注意人物とはな! 本当にツイてる。
 要注意人物は、早めに潰さねーとなァ…
 このまま、文字通り握り潰してやるぜえッ!」
幸也がドラゴンの握る腕に力を込めた。

グッ…

「ドララァッ!!」

バキベキバキイッ!

「…お?」

仗助のクレイジーDがドラゴンの腕を殴り砕く!
そして腕から離れた仗助の体を再び億泰がザ・ハンドで引き寄せた。

「っと、アブねー。 本気で潰されるとこだったッスよー…」
無事に岸に降り立った仗助は、学ランについた水草を払うと
ドラゴンの上に立つ幸也をにらみつける。

「…さすがのパワーだな、仗助。
 ま、腕の一本くらい砕かれて俺はなんともねーんだがよ。
 図体がデカいせえで鈍くてなァ」
と、幸也がせせら笑った。



547 :マイマイ268:2006/04/20(木) 03:19:32.94 0

「いやいや、オッサン。 あんたがなんで攻撃してくんのか知らねーけど
 殺す気で来るんだったらこっちもガンガンいかせてもらうッスよ…」

「まあ好きにするがいい。
 俺もお前らを焼くなり潰すなり好きにさせてもらうからよォ。
 このドラゴンの炎で炙ったら、お前のその変なリーゼントが
 もっとイカす髪型になるかもしんねーぜ」
ポツリと、単なる挑発のつもりで幸也が言った。

「あっちゃー…」
「ぼ、僕、知らないよ…」


「俺の…」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「俺の頭にケチつけてムカつかせた奴ぁ何モンだろーとゆるさねえ!
 このヘアースタイルがスネオみてェーだとォ!?」


614 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:41:19.36 0


-------------------------------------------------------------------------


ザブッ…

「なッ…」

宮良忍が今まさに、3つの水球を3人の顔を目がけて投げつけようとしたその時
左端に居た田中れいなが、忍のほうに向かって足を踏み出した。
忍のスタンドによってその場の水の圧力が増し、動けないはずの!
動くことができないはずの、れいなが歩きだしたのである!

「何を…しているんだ…? 君は…なぜ歩ける…?」

「……」

ザブッ ザブッ…

「田中れいなッ!! 何故だと訊いているんだーーーーッ!!」

「……」

忍が叫んでいる間にもれいなはザブザブと水を掻き分けて進んでいる。
スネの辺りまで浸かっている水には、妙な形の波紋が広がっていた。



615 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:42:46.56 0

「…水に圧力をかけても、その圧力をかけた部分の水を移動させてやればよかったい。
 ほとんど水流が無いこの堤やけん、あんたの技は出来たっちゃろうけど
 『波紋』で水流を起こして、流してしまえば良か…」
れいなは忍を見据えながら、ゆっくりを歩みを進める。

「なんだって!? 『波紋』…? そんなもの、データに無いッ!!」
忍の表情が再び驚愕の表情に変わった。

「おお…なるほどなァ」
「ズルいよ、れいなだけ!」
美貴とれいながそれぞれ納得し、頷いている。

「な、何故てめぇだけ…君だけが歩けるのはわからないッ!
 だけど、他の2人は動けないんだろう! なら勝機はまだ僕に!
 1人相手ならどうってことは無いッ! 想定内ッ!」
忍が、徐々に近づいてくるれいなと距離を取って後ずさる。



616 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:43:03.31 0

「いいヒントをくれたよ、れいな。 水を移動させればいいんだろ?」

美貴の言葉に、れいなばかり注視していた忍が向き直る。

「移動させてやるぜ、過去になァ。 満月の流法ッ!!」

ザバァァーーッ!!

ブギートレインO3の拳が足元の水面に叩きつけられると
美貴の周りの半径1mほどの範囲の水がごっそり削り取られたように無くなってしまった。

「行くぜェ…」

「藤本美貴、てめぇ…」

水でびしょ濡れだった忍の顔に一筋、水滴が垂れ落ちる。
堤の淡水ではない。 それは彼の恐怖の汗であった。
そして今度は、その美貴の少し隣から水の跳ねる音がした。


ピチャッ…


「2人ばっかりずるいよ! 僕も移動させた、空中にッ!」

絵里の足元に、ACT3―サイレント・エリザベスが佇んでいる。
そこには水は無かった。 足元に溜まっていた水は
全てエリザベスに殴られて無重力化し、空中にふわふわと浮かんでいたのだ。



617 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:43:25.75 0

「亀井絵里ッ! てめぇまでーーーッ!!」

次々とトラップを破った3人が、徐々に近づいてくる。
それにあわせて忍は後ずさる。

「さっきさー…あんた、美貴たちのスタンドを『チンケな能力』だって言ったよなァ…」

「こんなチャチぃトラップ…どっちがチンケな能力なんやろうかね」

「バカにしないで欲しいです。 1人で僕たち3人を相手にしようなんてナメすぎです」

「くッ…」

忍は堤のほうに振り向き、自身のスタンドの背中に飛び乗った。

「また水ん中に逃げる気? 出たり入ったり忙しい奴だな」

バシャッ!

美貴の言葉通り、忍を背負ったスタンドは堤の中へダイブする。

「うるさいよ…。 水の中こそ僕のテリトリーなんだ。 
 僕を倒せるもんなら倒してみろよ…」



618 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:44:01.19 0

「ああ、そうさせてもら……ん?」

美貴は、堤に浮かぶ忍とそのスタンドよりも、その後方に目が行った。
堤の対岸、対角線上に何か、細長い物体が宙に浮いているのだ。

「美貴姐ェ…あれ、なんやろ」

れいなもそれに気づいたようである。
その、細長くて巨大な物体は、だんだんとこちらに近づいてくるようだった。

「てめーら、何を見てる!? 僕を無視するんじゃ…」
忍もつられて自分の後方を見た。
途端に、彼の顔にあのニヤニヤの表情が蘇る。
「フ…フハハハハハハハハハハハハハハッ!! 幸也ッ!!
 奴らを仕留めて僕を助けに来てくれたんだねえ!!」

空を舞う巨大な何かは、もうその姿が肉眼で確認できる位置まで飛んできていた。

「藤本さん、れいな! あれ、あれってもしかして!」
絵里がそれを指差す。

「うそだろ…あの龍みたいな姿はよー…」
「うおお! もしかしてアレがヨッシーって奴ね!?」




619 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:44:24.92 0


ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!


岸に向かって飛んでくる、細長くて巨大な、龍の姿をしたそれは
雄たけびのような声を上げながら突っ込んでくる。
しかしそれは何か、向かって飛んでくるというにはあまりにも不安定で
『吹っ飛ばされてくる』という言葉のほうがマッチしていた。

「ア、アレ…? そういやユキナリのスタンドって、飛べたっけ?」



ズドシャアアアアアァァァァァァァッ!!!



龍は、美貴たちのいる場所から数10メートルほど離れた水面に『着水』した。

「なんだこりゃあああ!!」
「ホントにおったったい…」
「ほらね! ヨッシーだよ、ヨッシーは本当にいたんだッ!」




620 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:45:09.53 0


バシャーン…


不細工な格好で着水した巨大な龍の口から、何から転がり出てきて、水に落ちる。
人の姿をしていたが、美貴達には見慣れない顔であった。

「ヨッシーの口の中には人が住んでんのかよ…」
「食べられとったんやない?」
「ヨッシーはそんなことしないよ! たぶん!」

堤に投げ出されたその男は、水の中でバタバタと手を動かしている。

「幸也ッ! 今助けるよ!」
忍はスタンドに乗ったまま、幸也と呼ばれた男の場所まで移動する。
そして幸也を担ぎあげ、意識を確認した。
「おお、忍…。 油断してたぜ、あのツッパリやろうによォ…」
「幸也…。 ってことはまだ奴を倒してないのかい!?」
忍は幸也を抱え起こして、自分のスタンドに乗せた。
美貴たち3人はそれを呆然と眺めていた。

「ヨッシーから転がり出てきた男は、あのニヤニヤ男の仲間みてーだな」
「ってことは、あのバカデカい龍はヨッシーやなくて、スタンド?」
「ち、違うよ! ヨッシーは本当にいるんだって!」

そこに、美貴や絵里にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。



621 :マイマイ268:2006/04/22(土) 00:45:51.28 0

「あれ? 藤本先輩じゃないッスかー?」

堤に体半分だけ出して横たわっている龍の上に、3人の男が立っている。
3人ともぶどうヶ丘高校の制服を着ていた。

「ひ、東方仗助! なんでこんなところに!」
「いや先輩こそ。 俺らヨッシー見に来たんスけどー」
「お前もかよ!」
1月にひと悶着起こしたばかりの仗助たち3人との再会。
美貴と絵里には記憶に新しい。
れいなも一度、仗助に傷を治してもらった事があったので覚えていた。
(もちろん仗助は覚えていないが)

「亀井さん! 君も来てたんだ…」
「うん…。 だって僕達のクラスで話題になってたから…」
そう、事の発端は絵里と康一のクラスから始まった。
2人ともクラスメイトの橘という男子生徒から話を聞いたのだった。

「あの危険な兄ちゃんとまた出くわすとは…」
れいなは昨年秋のおとめ組vsさくら組の一件以降、
その強大なパワーを目の当たりにして勝手に宿敵と思い定めていた。

「あれ、今日は紺野ちゃんいないの?」
億泰は一人、紺野あさ美の姿を探してキョロキョロと辺りを見回していた。


85 :マイマイ268:2006/04/25(火) 01:42:46.39 0

「仗助、聞きたいことがあんだが…」
美貴は、仗助たちが乗っている『龍』を見ながら言った。

「あー、これっスか。 ヨッシーじゃあないッスよ、こりゃあ」
仗助が足元の『龍』をゲシゲシと踏みながら言う。
「ドラゴンなんとかっつー、そこの奴のスタンドらしいんスよ」

(ス、スタンドだぁ? これが…
 こんなバカでかいスタンドなんてアリかよ…!)

「…で、お前、コイツをどうしたんだよ」
「いやー、この男が俺のヘアースタイルのことを
 バカにするもんだから、ついカッとなって」
「カッとなって…スタンドでここまで殴り飛ばしたってのかよ?」
「まあそんなとこッス」
と、仗助は呆けたような顔で答える。
「…の割には、あんまダメージねぇみてーだな、そこの男には」
美貴は、龍の口から転がり出した黒いコートの男…幸也に視線を移した。


「……」
「……」
忍と幸也の2人は、寄り添ったまま無言で美貴たちを睨み付けていた。
幸也は忍に肩を借りて立っているが
特に大きなダメージを受けているようには見えない。
体のところどころに小さな痣が見えているくらいだ。
何十メートルも離れた対岸から吹っ飛ばされてきたのに、である。



86 :マイマイ268:2006/04/25(火) 01:43:03.10 0


…トッ


仗助と億泰、康一が龍のスタンドの体から岸に降り立ち
美貴たちの下へ歩いてきた。

「藤本先輩、そこのヒョロっとしたウエットスーツの男も、敵なんスか?」
「ああ、どうやらそうみてーだ」
「なんで先輩達が襲われてんのかねぇ…」
「こっちが聞きてーよ…」
「まあ、でもこれで6対2ッスよ」
「おう。 ここは共同戦線と行こう、仗助」

ガシィッ

美貴と仗助は互いの右腕をぶつけ合い、共闘の意を示した。


ジャプンッ


それとほぼ同時に、忍と幸也が水中に飛び込む。

「おっと…堤の中に隠れたな。 作戦か?」
「どんな攻撃してくるんスかねえ…」
美貴と仗助がううむと唸っているところへ、れいながひょっこり顔を出した。



87 :マイマイ268:2006/04/25(火) 01:43:33.03 0

「作戦なられいなが考えたばいッ! にひひ」
「…えーと、どなた様でしたっけ?」
「れいなたい! 田中れいな! アンタのライバルになる女よ!」
れいなは仗助を指差して言う。
「ライバル…?」
仗助はポカンとした顔でれいなの顔を見返した。
「ま、まあよか…それより、れいなの作戦聞いて!」

れいなの周りに絵里や康一、億泰も集まってこそこそと話を始めた。



88 :マイマイ268:2006/04/25(火) 01:44:12.62 0

「…という風にやると」
「んー、ま、れいなの言う通りやってみるか」
美貴が腕組みしながら、しょうがない、という風な表情で言う。
だが内心はそれに感心していた。

「作戦なんてチマチマしたことやるのは面倒スけど…」
「年下の命令に従うのはシャクだが、なんかイケそうだなァ」
仗助と億泰もそう言ってはいるが、楽しそうな表情をしていた。

「これなら勝てるかもしれないね、れいな!」
「うん、チームワークってやつだね」
絵里と康一もその作戦に感心している。

「チームワークなんて生っちょろいもんやなかと!
 パーフェクトハーモニー…完全調和たいッ! よかねッ!」

れいなは右手の人差し指をビッと立てて誇らしげに笑みを浮かべた。


165 :マイマイ268:2006/04/27(木) 17:43:00.39 0

指示によって、岸に6人が横一列に並んだ。
堤に向かって左から美貴、仗助、れいな、康一、絵里、億泰の順に立っている。
れいなによれば、最初に必ず『津波』の攻撃が来るとの事であった。

「そろそろ来るよ…」

ザプッ…

れいなが呟くのとほぼ同時に堤の中央に波が立つ。
その波は瞬く間に山のように隆起し、5mほどの大波へと変化した。


ザッパアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!


そして奇妙な事にその大波は、そのままの姿勢で停滞しているのだ。
前進も後退もせず、5mほどの高さまで起った状態を維持していた。

「ゲェッ! ホントにれいなの言った通りだ!」
「おいアンタ…なんで最初に津波が来るってわかったんだ?」
仗助が隣のれいなに尋ねる。
「簡単たい、さっきあの忍って男は水の中がテリトリーやって言うたし。
 ここでれいな達を一気に潰すつもりやったら、
 津波攻撃を使って全員を水の中に引き込むつまりやったんよ」
「ほほー、なるほどなァ」
「まぁ、もちろん思い通りにはさせんけどねッ!」




166 :マイマイ268:2006/04/27(木) 17:43:15.89 0

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


津波が徐々に動き出す。
波から岸までの距離はおよそ30mほどある。
波のスピードは少しずつ上がっているようだった。


ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


津波の向こうから雄たけびのような声が聞こえる。
よく見ると、津波の左端にドラゴン・スクリーマーの頭部が見えていた。

「よし見えたァッ!! 展開ッ!」

れいなの号令を合図にそれぞれが移動を開始する。
美貴、仗助、れいなの3人は龍のスタンドが見える左側に
億泰、絵里、康一の3人は右側にそれぞれ布陣した。

「こっちはオッケーだよ、れいな!」
絵里の声を確認したれいなが右手をバッと掲げた。
「よーし、作戦開始ーッ!!!」
今度はれいなの声に全員がスタンドを出して身構える。



167 :マイマイ268:2006/04/27(木) 17:43:40.33 0



「ブギートレインO3!!」



「クレイジー・ダイアモンド!!」



「デュエル・エレジーズ!!」



「エコーズ・ACT3!!」



「エリーゼ・ACT3、サイレント・エリザベス!!」



「ザ・ハンド!!」


431 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:12:43.92 0









ザバシャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!










432 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:12:59.88 0

6人がスタンドを出現させるのとほぼ同時に大津波が彼らを襲った。
波は彼らの居た一帯を飲み込んで、それから徐々に引いていく。

ザアッ…ザアッ…

波が完全に引き、再び水面が穏やかになった時
岸にいたのは、5人。

岸の左側で、デュエル・エレジーズで作られた
石の壁によって波を防いでいた美貴、仗助、れいなの3人と
岸の右側で、自らに降りかかる水を削り取って波をかわした億泰。
…そして最後の一人は、岸と堤のギリギリの場所に
いつのまにか立っていた宮良忍だった。



433 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:13:16.02 0

「おおっとォ? 今ので2人、リタイヤしちゃったみたいだねえ」
忍はちょうど億泰の正面の位置に立っていた。
相変わらずニヤニヤした顔を見せている。

「おめーがシノブって奴か。
 藤本先輩から水を操る能力だった聞いてたからよー、バッチリ防げたぜ」

「そりゃあまいったなあ。 でも、広瀬と亀井は水の底だよ。
 3対3に別れて闘うつもりだったみたいだけど、君ひとりで大丈夫かい?」

「そうだな。 勝つだろうなァ…」
億泰は不適な笑みを浮かべ、忍を見据える。

「なに調子コイてんの? 君ィィ…」
忍のニヤニヤ顔が少しだけ崩れた。



434 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:13:43.64 0


「おーい! 億泰ゥ〜、そっちはお前ら任せるぜェー!」


岸の左側から仗助が手を振っている。

「おう。 俺らでコイツぶっ潰してやるよ!」
億泰はそれに軽く手を振り返した。

その姿を見た忍が、さらに顔を歪める。

「おいおい、あのさァ…
 『お前ら』だとか『俺ら』だとか…何言ってるワケ?
 『ら』ってのはさ、複数形で使うもんでしょーがよお!
 広瀬と亀井は水の底で溺れてるんだから…そういうときはッ
 『ら』を付けるもんじゃないだろう! 日本語おかしいんだよ!!」

「だなあ。 確かにあの2人は水の底だぜ。
 だが、日本語は間違ってねえ」

「バカなのか!? ええ?
 今から君に何度も津波ぶつけてさぁ、君がどこまで
 ザ・ハンドで削り取れるか、試してやろうか?
 そしてあの2人と一緒に溺れさせてやろうか?
 だったら『君ら』3人で、仲良く溺れ死ねるんだから!!」

「やってみろよ。
 その前にお前のハラワタ削り取ってやってもいいぜ?」



435 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:14:33.76 0


プッツーン…


明らかに忍の額に血管が浮き出ている。
クールな振りをしているが、挑発に弱い奴なのだろう、
そう億泰は思った。

「言うねえ、虹村億泰ッ!
 いいかい? 僕の体が水に触れている限りは
 何度でも波を起こせるんだよ! 際限なくッ!
 それが君に耐え切れるもんかあああああーーーーッ!」

忍は激高しながら自分の片足を堤に突っ込んだ。

「だからやってみろって言ってんだろうが」

「ああ、やらせてもらうよ!! 波よ立てッ!!」




436 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:14:50.62 0


-------------------------------------------------------------------------


オオオオオオオオオオオオオオオ…!

美貴、仗助、れいなの前には巨大な龍の形をしたスタンド、
ドラゴン・スクリーマーが、体の半分を水に浸からせた状態で荒い息を吐いている。
そこに玉城幸也の姿は見えない。

「本体の幸也って奴は、お前の言う通り、たぶん中に隠れてんだろうなあ」
「そーッスねぇ。 それで水の中も動き回れるみたいだし、便利ッスよ」
「便利って何に便利なん? 一般人に丸見えなんやけん、目立ちまくりたい…」

とは言うものの、こういったスタンド使いどうしの戦いでは
完全防御のプロテクターのようであり、便利といえばやはり便利であった。
仗助のラッシュで対岸から飛ばされてきても大したダメージは受けていない為
相当な防御力を持っていることが容易に想像できる。

「固そうだけどさァ、ホントにれいなの作戦で大丈夫なのか?」
「俺も理屈はわかるんスけどねェ、そんなに上手くいくもんなのか…」
「よかけん任せんね! ダメやったら別の方法考えればよかろーもん!」

バンッ!とれいなは無い胸を叩いて誇らしげにしている。

「うっし、じゃあ行くかあ仗助!」
「準備OKッスよー!」
「じゃあ2人とも頼むけん! ヨーイ、ドン!」



437 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:15:23.28 0

ダッ!!

れいなの合図で二人は駆け出した。
堤まで一直線に猛ダッシュする。

カハァァァ…

それを捉えたドラゴンが口を開き、その中に赤い光が灯った。

「来たぜえええええええ!!」
「うおおおおおおおおお!!」

ボウンッ!!

ドラゴンの火球が放たれると同時に2人はジャンプした。


ザッパァーンッ!!


ボスッ  ジュウウウウウ…


美貴と仗助は堤の中へ逃れ、火球もそれを追って水中へ潜る。
もちろんそのまま火球は消火されてしまう。

れいなは1人、その姿を岸から冷静に見つめていた。

「2人ともそれでOKたい…。
 虹村先輩達も上手くやってくれるとよかけど…」



438 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:15:43.94 0


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「ザ・ハンド!!」


ギャオンッ


忍が波を起こすのよりも少し早く、億泰の腕が動いた。
その動作に一瞬、忍の動きも止まる。


「……?」

「………」


空間を削って忍の位置が動いたわけでもない。
忍の周りにあるものが削り取られた様子もない。
そして億泰自身が空間を削って忍に近づいたようにも見えなかった。

「な、何をした?」

「俺は俺の能力を使っただけだぜェ…」

忍の側からよく見れば、ザ・ハンドの腕は忍のいる位置から
少しずれた方向に向いていた。



439 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:16:03.71 0

「何を削ったんだ! 億泰…ッ!」

「おめーに不用意に近づくと何されっかわかんねーからよォ…。
 一応おめーを油断させとかねーと、と思ってな」

「何ィッ」

「ん? 深くて足りなかったか? もう『ひと削り』いっとくか」

ギャオンッ

「な…」


ドンッ


「「プハァッ!!」」

突然、忍の斜め後ろあたりに、水の塊と共に絵里と康一が現れる!

「何ィーーーーーーーーーーーッ!!」

「ほおーら寄ってきたァ。 瞬間移動ってヤツさァ〜〜っ
 油断してただろーが! 水の中から現れるなんてよ!」

「億泰くん…ありがとう。 やっぱりこういう奴は本体を直接叩かないと」
「僕の番だねッ! 行くよ、エリザベス!」
『YES! モグモグモグモグ!』
サイレント・エリザベスが忍のわき腹にペシペシと蹴りを入れる。



440 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:16:23.08 0

「てめぇらあああーーーーーーーーーーーッッ!!」

そして両手を重ねて前に突き出し、”呪文”を唱える。
『ウェー!ウェー!』


フワッ


その瞬間、忍の体は無重力状態になり、宙に浮かんだ。
そしてそのままどんどん上昇していく。

「クソがッ! きたねー手使いやがってええーーー!!」
忍は手足をバタつかせながら宙に浮かび、クールな表情はまったく崩れている。

「敵だろうと、後ろから襲うなんて男らしくねーんだがよォ、
 『斜め後ろから』なら背後じゃねえ。 たぶんOKだなッ!」
億泰は勝手な理屈で納得し、手をポンッと鳴らした。

「じゃあ僕らもそっちに行くよッ! エリザベスお願いッ!」
『了解シマスタ』

サイレント・エリザベスによって絵里の体が宙に浮く。
そして康一はその絵里に捕まり、ともに浮かんだ。
2人がただ浮かされているだけの忍と違うのは、
康一のエコーズと協力しあうことで、重力のバランスを制御している点である。



441 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:16:52.17 0

「エリザベス、もう少し軽くして!」
『了解シマスタ』
「不安定だッ! エコーズ、少し重く!」
『ワカリマシタ』

…まだ不完全ではあるが、即興にしては良く出来ていた。

「てめーら! 何する気だああああ!!!」

「あなたは水に触れて、それを操るみたいですけど、
 でも水に触れられない空中ならまったくの無力だ…」

絵里と共にちょうど忍の少し上あたりまで上昇した康一は
忍を見下ろす姿勢になった。

「エ、エコーズか…?」
忍は少し不安げな表情で康一を見上げた。

「YES!」
康一が不敵な笑みを浮かべる。

「もしかして3FREEZEですかーッ!?」

「YES、YES、YES、"OH MY GOD"…なんつって」
亀井がちゃかすように口を挟んだ。



442 :マイマイ268:2006/05/02(火) 00:17:09.33 0

『必殺! エコーズ 3 FREEZE!!』

ドババババババババ!!!

「ッッ!!!」


エコーズに殴られた忍は通常の倍以上の重力を加えられて
真っ逆さまに地面に向かって落ちていく。


ドズンッ!!!


「おご…ぁ…」

地面に叩きつけられた忍はびくびくと痙攣しながら泡を吹いている。

「うげ〜っ、骨の折れる音聞いちまったぜ」

忍が落ちた場所のすぐ傍にいた億泰が笑った。


545 名前:マイマイ268 :2006/05/04(木) 03:51:29.21 0


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ガボッ ガボッ ガボッ ガボッ

水中で、美貴と仗助が派手に手足を動かして泳いでいる。

「モガッ ガボガボガボガボガボッ!」
「オゴボゴッ ゴボッブ!」

目の前に見えるドラゴン・スクリーマーの胴体を指差し
何やらジェスチャーで伝えているようだった。
ジェスチャーなのだから口を動かす必要はないのだが
彼らは少しアホなのでしょうがないのである。

「ガボッ!」

美貴の合図で、2人同時に動き出す。

「ガボァァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
(行くぜ! VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!)

「ボバァァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
(ドラララララララララララララララララララララ!!!)

一斉にドラゴン・スクリーマーの胴体をたこ殴りしはじめる二人。
しかし、ドラゴンのボディはまともに攻撃を食らってはいるものの
あまりダメージを受けているようには見えない。



546 名前:マイマイ268 :2006/05/04(木) 03:51:51.35 0

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!

それでも2人は殴り続けた。

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!

そして殴る位置をだんだんと上に上げていく。

ドゴドゴドゴドゴドゴ…


「「ブハッ」」


そうやってようやく美貴と仗助は水面に顔を出した。
目の前にはそびえるようにドラゴンの体が立っている。

「まだまだ高いぜ〜、仗助ぇ」
「そうッスね〜、藤本先輩」
「水中は動きが鈍ってたからよ、ここからが本番だ」
「ウイッス!」

息を整え、2人が身構える。
ドラゴンはその様子を相変わらずのギョロ目で見下ろしていた。



547 :マイマイ268:2006/05/04(木) 03:52:10.94 0

「スカしてんじゃねえぞ、オラァッ!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」

「ドララララララララララララララララ!!!」

2人は再びドラゴンの腹部にラッシュを始めた。
そしてさきほどのように、勢いのまま徐々に上昇していく…。

一方、岸に立つれいなは
岸の右側にいる絵里たちのほうを気にしていた。

「ちゃんと手加減したっちゃろうね、広瀬先輩…」


-------------------------------------------------------------------------




548 :マイマイ268:2006/05/04(木) 03:52:35.17 0

忍はまだかろうじて意識を保っていた。

「生きてますね、まだ…」

5mほどの上空に漂いながら、康一は忍を見下ろしている。
当の忍は、乱れた呼吸をなんとか整えながら
康一や絵里を見つめてニヤニヤと笑みを浮かべた。

「あ、またニヤニヤ顔に戻っちゃってる…」

絵里がそう言ってひとつため息をついた。

「ハァ…ハァ…き…きみたち…やってくれたね…」

「オイオイ、自業自得だぜえ。
 仕掛けてきたのはおめーらなんだからな〜」

ゲシッ

地面にめり込んで倒れている忍の傍らで、億泰が一発蹴りを入れる。

「ウグッ……
 ははは…だが、やっぱり僕の勝ちだ…」

「ああん? そんな体で何言ってやがる」



549 :マイマイ268:2006/05/04(木) 03:52:58.62 0

「ハァ…ハァ…広瀬康一ィィ…
 お前さっき、言ったよねえ…」

「?」

上空の康一は首をかしげた。

「僕の能力は水に触れていない空中なら無力だって
 …でも…今はどうだろう…」


チャプンッ…


水の跳ねる音がした。

「おめー…」

「くっくっく…ツメが甘かったなァ…
 僕が気絶するか、死ぬくらいまでコテンパンにのせばよかったのに…
 広瀬よォ…君が僕を地面に叩き落したことで…僕はまた水を得た…!」

「………」

億泰、そして上空の康一と絵里の3人は沈黙している。



550 :マイマイ268:2006/05/04(木) 03:53:16.22 0

「波よ立て!!」


ザバァッ!!



岸から数メートル沖のほうで小さな波が立たった。


「ハァハァ…フ…フハハハハハハハハハハハハ!!!
 ぎゃははははははははははははははは!!!
 僕には津波を起こすチカラがまだ残っている!!
 これで空中のお前らも! そこの億泰も!!
 あっちにいる藤本達もまとめて飲み込んでやるよおおおお!!!!」



ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!



小さな波はみるみるうちに巨大な津波へと変貌した!



551 :マイマイ268:2006/05/04(木) 03:53:31.70 0

「あーあ…」

上空の絵里がため息を漏らす。

「…?」

「幸せだったのになァ〜
 津波を作り出すパワーなんて、残って無かった方が…」




-------------------------------------------------------------------------


「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」

「ドララララララララララララララララァ!!!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!

「グルルルルル…」

美貴と仗助の猛ラッシュが続く。
あまりに至近距離のためか、それとも防御に徹しているせいか
ドラゴン・スクリーマーは得意の炎を吐けないでいる。

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!

もう何百発打ち込んだかわからないが、
二人がスタンドに捕まるようにしてちょうどドラゴンの首の辺りまで上昇した時、
これまで動じなかったドラゴンが、ほんの少しだけ体をうねらせたように見えた。

(動いた…! そろそろか…)

『おおお…』

首の辺りから、ドラゴンではない呻き声がする。
体内に隠れている本体、玉城幸也の声だ。



667 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:12:30.97 0

『無駄なのに何やってんのかと思ったらよお!!
 “これ”を待ってたのかてめーらァァーーッ!!!』

「ここまでやられるまで気づかねーとは、相当ニブいオツムしてんなァ」

ラッシュを続けたまま、ドラゴンの喉のあたりに向かって美貴が言う。

「でも遅いッ!! ラストスパートっスよ、藤本先輩ッ!!」
「おうッ!!」

ドラゴンの腕のカギ爪が2人を捉えようと迫るが
それをもパンチで跳ね除ける。

『クソがァァァーーー!!!』

美貴と仗助は一旦動きを止め、力を溜めた後、
渾身の力を込めてパンチを放った。

「ドラァッ!! ドラァッ!! ドララアアアアァァァァァッ!!」

「逆転サヨナラ満塁ホームランッ!! VVVVVッ!!!」


ドゴオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!!!


「ぐっ…」

ドラゴンの口からガボッという音とともに、幸也の体が半分飛び出した。



668 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:12:47.61 0

「ようやくお出ましか。 もう何発叩いたのか覚えてねーよ」
「まったく、永遠に出てこねーのかと思ったぜ」

そう、れいなが美貴と仗助に頼んだのは
ドラゴンの下腹部からラッシュを叩き込み、少しずつ上昇して
その体内に潜んだ幸也の体を押し上げることだったのである。

「…フンッ」

それぞれのスタンドとともにドラゴンの体にしがみつく2人を
幸也はあざ笑いながら見下ろした。

「俺をドラゴンスクリーマーの体の中から引っ張り出してもよォ…
 それが何だっていうんだ? まさか勝てるつもりでいるのか?」

幸也は素早くドラゴンの口から出ると
その口に手を掛けてドラゴンの頭部まで登った。

「俺を引っ張り出した…ただそれだけなんだぜ?
 てめーらが俺のスタンドに勝てねーことは変わらねえ!」

「まぁ…それだけじゃあ、確かにそうだろうなあ」
「そうッスね…後は時が来るのを待つだけ」

「なに余裕ブッこいてんだァ? 忘れたのか? ここは水上だ!
 向こうにいる忍が水に触れている限り、おめーらは…」



669 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:13:15.05 0


ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


幸也がそう言った瞬間、数メートル先に突然大きな波が現れた。
ドラゴンの背丈ほどもある巨大な津波である。

「ほらよォッ!! いくら俺のスタンドにしがみついてても、
 この津波に飲み込まれれば全てリセットだ!
 俺はコイツの体内に戻り、てめーらは振り出しに戻るってワケだァッ!!」


ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!


津波は大きなうねりを作り、徐々に2人へ迫ってくる。
しかし美貴と仗助は平然としていた。

「おお、ホントに来たぜ。 れいなの言うとおりだ」
「あのチビ…ここまで読んでやがったのか…」

2人はれいなから、この津波が来るのを待つように言われていたのである。



670 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:13:35.30 0

…そして、当のれいなは岸で目を輝かせていた。

「き……来たああああァァァァァーーーーーーー!!!!

バッ!!

津波が起こるのを確認したれいなは、傍に置いていた学生鞄を拾い上げる。

「読みどおり! 読みどおり! 読みどおり!
 正直、ここまで思い通りにコトが進むとは思わんかった!
 …とすると、アイツ等そーとー単純なんやね…」

言いながられいなは持ち上げた鞄に手をかざす。

「デュエル・エレジーズ!!」

バキィンッ!!

れいなのスタンドによって鞄は見る間に石化する。

ピシュウッ!!

鞄の石化を確認すると今度は素早く片手を水に突っ込む。

ゾ… ゾ… ゾゾゾ…

れいなの手を中心に、水面に妙な形の波紋が広がっていく…



671 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:13:54.44 0

ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……

「おい! そこのチビッ! てめー何やってる!?」

ドラゴンの頭上からその光景を眺めていた幸也が叫ぶ
しかしれいなはそれを意に介さず、
石化した鞄を水につけると、その上に飛び乗った!!

「無視してんじゃねーーッ!!」

ボウンッ!!

ドラゴンの口から火球が吹き出される。

シュバッ!!

しかし火球がれいなのもとへたどり着くよりも早く
れいなは石の鞄をサーフボードのようにして水面を滑り出した。

シュバアアアァァァーーーーッッ

「何をやってる!! 何が起こってるんだ!!
 何故水面を走ってやがんだあのチビはァァァァ!!!」

「…水面に起こした波紋エネルギーと、鞄に流した波紋エネルギーを
 あたかも磁石の同極どうしが反発するみたいにやらんと滑れんとよ!
 こないだ試したばっかりやけん自信なかったけど、案外ウマいもんやねッ!」



672 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:14:11.55 0

ボウンッ! ボウンッ! ボウンッ!

サーフィンの経験すらないはずのれいなは
火球を避けながら、石化した鞄を操って器用に水面を滑っていく。


ザパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!


そしてれいなはついに津波の“うねり”まで登り始めた!!

美貴は口をあんぐり開けてれいなを見つめている。
「れ、れいなのヤツ…いつの間にあんな…」

れいなの『波乗り』の姿勢は実に奇妙であった。
右手でバランスを取りながら(それだけで器用すぎるのだが)
左手は常に水に触れているのである。


パキパキパキパキィッ


なんと、デュエル・エレジーズによって波が徐々に石化しているのだ!

ザパッ!

れいなはそのまま津波を突き破り、波の『表側』まで登り詰めた。



673 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:14:40.63 0

「てめぇ、チビッ!! 何する気だッ!!」

「チビチビ言うな! こうするったいっ!!」

津波がまさにドラゴンスクリーマーの体に降りかかろうとしたその時…


ビキイイィィィィンッ!!!


れいなの半径2m四方ほどの波が一気に石化し、
波を被っていたドラゴンの頭部が完全に石で固定されてしまったのである。

「どがんね? これで炎も吐けんやろう?」

「おおおおッ!! てめえーーーッ!!!」

石化した津波の上に、れいなが誇らしげに立っている。

「じゃ、れいなはまだやることあるけん!
 そいつは美貴姐たちに任せたッ!!」

れいなはそう言うと、まだ石化していない波の上を
再びサーフィンの要領で絵里たちのいるほうへ滑っていった。



674 :マイマイ268:2006/05/06(土) 03:15:04.89 0

「…な、なんてことしやがる……ハッ!?」

バキッ ボキッ

2人の指を鳴らす音が鳴り響く…。

「つーわけでさァ、ユキナリさんとやら…」

「うっ…」

「俺らの残った力は、本体のあんたに全部叩き込んでやるッスよォ…」

「うあああああああああああああああああっ!!!」


シュバアアアァァァーーーー…


水面を滑走するれいなの耳に、幸也の断末魔の叫びが聞こえた…。


-------------------------------------------------------------------------


721 :マイマイ268:2006/05/07(日) 00:19:15.81 0


“うあああああああああああああああああっ!!!”

倒れたまま呆然と絵里を見上げる忍に、岸の左側から親友叫び声が聞こえた。

「ゆ、幸也…まさか、やられたのか!?」


シュバアアアァァァーーーー…


今度は忍の耳に何かを滑走するような音が聞こえてくる。

「な…」

音の主は、彼が作り出した津波の上を華麗に滑る田中れいなだった。

「あ、れいな! ピッタシだね!」
空中にふわふわと浮かんでいる絵里がれいなに手を振る。

「広瀬先輩〜〜〜! 頼むよッ!」
「任せて!」

れいなは康一に向かってそういうと、素早く波の上を駆け抜けた。
次の瞬間にはれいなの通った場所がバキバキと石化しはじめる。
そこにすかさず絵里がサイレント・エリーゼで蹴り入れた。



722 :マイマイ268:2006/05/07(日) 00:19:54.51 0

スタッ

康一が、巨大な岩盤と化した波の上に降り立つ。
れいなが石化させた波の上部だけが、空中に固定されたように浮かんでいた。

「ひ、広瀬……君はまさかそれを…」

「『重力加速度』って知ってますか?」

康一は忍の言葉を無視して続ける。

「…は?」

「1Gの重力において落下する物体は、毎秒9.8mの速度で加速していく」

「あ…は…」

忍は康一の言っている意味を完全に理解し、ガタガタと震えだした。

「僕のエコーズが『ひと殴り』するごとに
 一体どれだけの『G』が掛かるのか、正確にはわからないんですけど…」

『3 FREEZE!!』

ドシィッ! ドシィッ!

エコーズACT3が岩盤に2発叩き込む。

「結構な『G』が掛かると思うんですよね…、この石の天蓋には」



723 :マイマイ268:2006/05/07(日) 00:20:10.84 0


ヒュッ


石化した波は、通常の数倍の重力によって一気に落下を始めた。

「やめろおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」






ズンッ…









724 :マイマイ268:2006/05/07(日) 00:20:43.42 0

「ま…さすがに殺しまではしねーがよォ…」

忍の傍らで億泰が言う。

「って、完全に伸びてる」

地面に降り立った康一が、忍を見下ろしている。
忍は、泡を吹いて気絶していた。

「びっくりしたぁ〜! 物凄い速さで落ちるんだもん!
 間に合わないかと思った!」

絵里が、サイレント・エリザベスで岩盤を支えながら言った。
岩盤は忍の頭上1mほどのところでふわふわと浮かんでいる。
岩盤が落ちる直前に回りこみ、サイレント・エリザベスを蹴りこんだのだった。

「おい、堤を見てみろよ」

億泰が堤のほうを指差した。

「うわっ! すごい…堤の水があんなに減ってる」

たっぷりとあった堤の水は半分ほどに減っており
水のあった場所は潮が引いた干潟のようになっていた。

「水を増やしとったのもこの人の能力やったんやね…」

れいなが見上げると、石化させた『波の岩盤』もいつのまにか消失していた。



725 :マイマイ268:2006/05/07(日) 00:20:59.09 0

「そっちも片付いたみてーだな」

戦闘を終えた美貴と仗助が歩いてくる。

「見てみろよ、濡れてたはずの服が乾いてる」

美貴に言われて、絵里たちはそれぞれの制服を見た。
4人の制服はまるで何事も無かったかのように乾いていた。

「ま、俺のはズボンが少し燃えちまってるけどよォ…
 これ高かったのになあ…」

ドラゴンスクリーマーの火球によってズボンを燃やされた仗助だけ
がっくりと肩を落としている。

「さーて、『ヨッシー』もいなかったことだし…
 詳しいことは後で先生に聞くとして、帰るとすっか」
「そーッスね」

6人はそれぞれ荷物を拾い上げ、麓に向かって歩き出した。

「あ、亀井〜。 美貴は『賭け』忘れてねーからな」
「うっ…」

放課後に、『ヨッシーがいなかったらなんでも言うことを聞く』
という賭けをしていた亀井は、今になって激しく後悔した…。



730 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:21:33.24 0

 ―麓へ続く山道。

藤本美貴、東方仗助、亀井絵里、虹村億泰、広瀬康一、田中れいな…
珍しい組み合わせであったが、6人は揃って裏山を降りていた。

先頭を美貴と絵里、次に億泰と康一、最後尾にに仗助とれいなが
狭い山道をそれぞれ2列になって歩いている。

「しかしよー、あいつらが言ってた『ウチらを潰す』って…
 一体どういうことなんだっつーの」
美貴がぶつぶつと愚痴をこぼす。
「そうですよねえ。 先生ももう少し説明してから行かせて欲しいですよ」
絵里もそれに続いた。

「ま、それはそれとして、何をしてもらおっちゃおーかなー♪」

美貴がニヤニヤといやらしい目つきで絵里を見る。

「…藤本先輩、本物のヨッシーじゃあなかったけど、
 目撃されてた怪物は、一応ちゃんといたじゃないですか…」
「ダメだねッ! ニセモノはニセモノだから、賭けは美貴の勝ちッ!」
「うう……あんまり、無理なことはやめてくださいね?」



731 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:21:54.76 0

美貴は少しだけう〜んと考え込むと、ひらめいたように手を叩いた。

「思いついた!」
「な、なんですか…?」
「なーに、簡単なことだよ。 ギャグだ! 一発ギャグを見せろ!」
「ええ〜〜!!!」
「今この場でストリップやるっつうのと、どっちがいい?」

美貴が意地悪そうな笑みを浮かべる。

「うう…わかりましたよぉ…」
「ほれほれ、やって見せてみ」
「じゃあ、いいですかあ?」
「ウンウン♪」
「一度きりだからよく見てくださいね…。 この指、何本に見えます…?」



732 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:22:22.80 0

…と、絵里たちが談笑している中、列の一番後ろでは…

ジィィィィーーー…

れいなが仗助の髪をじっと見つめていた。

「……」
「……」
「…なに?」

耐えかねた仗助がれいなを見る。

「あの…その髪型なんやけど…」
「あぁん?」

また髪型のことを悪く言われるのではないかと、仗助はガンを飛ばした。

「いや、そんな怒らんで! そういう意味なんやなくて…」
「じゃあ、何だ?」

れいなは恥ずかしそうに顔を俯かせる。

「れ、れいなの兄ちゃんもね、同じような髪型なんよ」
「…へぇ」
「やけん、その髪型見たら、兄ちゃんば思い出すと…」
「……」
「れいなと兄ちゃんね、10歳くらい年が離れとって…
 無口やけどね、とってもかっこよかとよ」



733 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:23:00.91 0

れいなは嬉しそうに顔を赤らめた。

「今でもよう覚えとる事があるんやけど、れいなが幼稚園くらいの頃…
 確か杜王町に引っ越してきたばっかりの頃やったかいな?
 冬で、めっちゃ寒かとに、兄ちゃんボロボロの制服で帰ってきた事があって」

仗助はれいなの話を黙って聞いている。

「そんで、お母さんがどうしたの?って聞いたら、
 兄ちゃんね、見ず知らずの人の車が雪に埋もれとって
 大変そうやったから車を出すのを手伝ってあげたんやって。
 そのために制服あげんボロボロにして…
 でもそん時の兄ちゃん、めっちゃかっこいいって思ったと…」

れいなの話を聞き、仗助がハッとした表情をする。

「兄ちゃん、今はたまにしか帰ってこんけん寂しいんやけど
 仗助くんのその髪型見よったら、兄ちゃんみたいやけん
 なんか懐かしくなってしまったと、にひひ」

「おい、お前の兄貴って…」



734 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:23:18.31 0

「ああああああああああああああああああああ!!!!!」

仗助が言い終わる前に大声がそれをかき消した。
先頭を歩く、美貴の叫び声である。

「そこちょっと、しトゥ…って、ちゃんと聞いてくださいよ!!」

絵里が隣でわめくのも聞かず、美貴は膝を地面に落とし
前方を指差してわなわなと震えていた。

「舞ちゃんが…舞ちゃんが…」

「え?」

絵里は、美貴が指差す方向を見た。
そこは裏山の麓付近であり、ちょうど通学路が見えていた。
美貴の言う通り、そこには確かに初等部の萩原舞と
その同級生らしき生徒が見える。

「舞ちゃんが…男の子と一緒に歩いてる…」

「あ、ホントだッ!」

絵里もそれを確認した。
萩原舞と一緒に居るのは、よく男子に間違われる岡井ではなく
紛れも無い男子生徒であった。

「ん? あれって、早人くんじゃないかなあ?」

美貴たちの後ろから康一が言う。



735 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:23:36.83 0

「はやとくん?」
「うん。 去年知り合ったんだ。 初等部の川尻早人くん。
 一緒にいる女の子は亀井さんたちの知り合い?」
「そうだよ。 あの子もスタンド使いなんだけど…」
「ええッ!! そうなの!?」
「まあ害は無いから…。 それにしても、舞ちゃんにボーイフレンドかぁ…」

小学生の男女2人が仲良く帰る微笑ましい光景を見て
思わず絵里の顔に笑みが浮かんだ。

「「うう…」」

しかしそれを、2人の恨めしそうな泣き声が遮る。

「おい億泰…何も泣くこたぁねえだろうがよォ…」
「美貴姐…なにも泣くことなかやんね…」

「舞ちゃんが…」
「早人に先越された…」

美貴と億泰は泣いた。
それはもう誰が見ても女々しく感じるほど情けなく泣いた…。

康一や絵里たちは、泣き崩れる美貴と億泰をなだめながら
裏山を後にした…。



―TO BE CONTINUED



736 :マイマイ268:2006/05/07(日) 01:23:55.75 0


宮良忍 再起不能
スタンド名:ラプソディー・イン・ブルー

玉城幸也 再起不能
スタンド名:ドラゴン・スクリーマー