407 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 03:28:31.64 0



「何言ってンだ、おめー…」

吉澤ひとみはイラついていた。

「まあ、いいから聞けよ。 私の話を」

出会っていきなり、慣れなれしく自分の身の上を話してくるこの女に、イラついていた。
吉澤は寺田の指令によりこの女のことを調査しにきたのだが
こちらからはまだ何も仕掛けてはいないのに、何かも悟っているように話してくるこの女。

「少しの間…昔話をしよう…」

女は吉澤を見下ろし、手すりに肩肘をついて話始めた。

「私が幼い頃、家族と一緒にアリゾナに行ったんだ。 わかるかい?
 アメリカ合衆国のアリゾナだ。 旅行に行ったんだよ。 フラッグスタッフという街さ。
 アメリカって国は、私はあんまり好きじゃあないんだがね、しかしいい街だよあそこは。
 その街から少し行ったところには遺跡やクレーターがあるんだ。
 『バリンジャー隕石孔』って知っているかな? そこに遊びに行ったんだが…」

「お前ッ! 何勝手に喋ってんだ!」

女は吉澤の言葉を無視して続ける。

「クレーターの底に行くツアーの途中で、誤って列から外れてしまった。
 ふふ…恥ずかしい話になるが、そこで私は盛大に転んでしまってね…。
 整備されているはずの道の途中に何故か『尖った石』が突き出ていた。
 それに躓いて、足にほんの小さな掠り傷を負ってしまったのだが、それが始まりだった…」


408 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 03:28:54.35 0
吉澤がいる場所は何の変哲も無い、どこにでもあるような一軒家の中だ。
その1階に吉澤がいて、吹き抜けになっている2階の階段の入り口の手すりに
女が肩肘をついて、吉澤を見下ろしていた。
短く切って派手な色に染めた髪をたまに指でいじりながら、あざ笑うように話を続けた。

「私はそれからホテルに帰ってすぐに寝込んでしまったよ。 高熱を出してね。
 1週間ほどかな、ずっと熱を出したままで、医者に見てもらっても原因はわからなかった。
 家族もそのあいだ私に付きっ切りで、せっかくの旅行を台無しにしてしまったよ。
 ようやく熱がおさまった時、とても奇妙な事が起こったんだが、聞きたいかい?」

「うるせーッ! 俺が聞きたいのはテメーが『スタンド使い』かそうじゃあないかって事だ!」

吉澤の言葉に、彼女は少しだけ眉間に皺を寄せる。

「…そんなに聞きたいのか。 まあ、この続きはそれにも関係してくる事だから聞けよ。
 奇妙な話だがね、両親は起き上がった私を見てこう言ったんだ。
 『あなた、一週間もどこ行ってたの?』ってね。
 どうだい? 奇妙だとは思わないかな。 家族は1週間ずっと私に付き添ってたんだぜ?
 なのに、『どこ行ってたの?』は無いだろう。
 後からいろいろ聞いて確認したんだが、家族は私が高熱を出した事をまったく覚えていなかった」

「何が言いてぇんだ?」

吉澤はこの女が少しでも敵意を見せようものなら
すぐにでも『衝撃』をぶつけようと身構えた。

「…なあ『吉澤ひとみ』、お前は既にこの私のスタンド能力を体験しているんだぜ?」


409 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 03:29:45.02 0
(…!!??)
吉澤は驚愕した。
(俺はついさっきこの女にあったばかりで、名前を明かした覚えは無い!
 なのに何故俺の名前を知っているんだ!!
 それに奴は、俺が既にスタンド能力を体験していると言った!
 この家に入った時既に、俺は奴の術中にハマっていたということなのかッ!?)

「『何故知っているのか?』、そういう顔をしているな…」

吉澤の苛立ちは頂点に達した。 冷静にしているつもりだったが、
あまりにも勝手なこの女の言動と、わけのわからぬ恐怖に対して抑えきれなくなったのだ。

「うおおおおおおおおおおおお!!!! Mr.ムーンライトッ!!!」

スタンドを出し、戦闘態勢に入る。
しかし、この派手な髪の色の女は涼しい顔のままである。

「…約5万年前、そのクレーターに落ちたのは『キャニオン・ディアブロ隕石』という。
 私がこの能力を手に入れたのは、その隕石のおかげなんだ」

「うるせえええッ! これをくらいなッ!!!」

Mr.ムーンライトが作り出した見えない衝撃を、吉澤はリフティングしはじめた。
それでも女は防御姿勢を取るどころか、表情すら変えない。

「無駄な事は嫌いなんだが、向かって来るんだからしょうがない…」


410 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 03:30:11.04 0

「行くぞおらあああぁぁぁぁッ!!!」

『…おやすみなさい』











411 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 03:30:42.34 0

  ―ぶどうヶ丘高校・演劇部部室―

「アレッ? 今日は指令があってなんかの調査に行ってきたんじゃねーのかよ」

藤本美貴は部室の扉を開けて入ってきた吉澤に声を掛けた。
「ん…ああ、そうだったっけ…いや、そうだったよなあ」
吉澤の返事はどうにも要領を得ない。
「ハァ? どうしたの? 先生に報告しなくていいワケ?」
「報告…つっても、何報告すりゃいいんだかわかんねーしなあ…」
吉澤の言葉を聞いて、美貴の頭に疑問符が飛び交った。
「ま、いっか。 サッカー部の様子でも見てこよう」
そう言うと吉澤は部室を出て行ってしまった。

「なんだ? アイツ…」



446 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:24:19.06 0


  ―演劇部・寺田の私室―

「またかいな…」
調査の翌日、吉澤の報告を受けて、寺田はため息を吐いた。
「はぁ…すみません」
「まったく、これで何度目や…」
寺田は部員に命じて何度か同じ調査をさせていた。 杜王町の外れに住むある女について。
女についてわかっているのは名前と住所、そしてスタンド使い『らしい』ということだけ。
しかし調査を終えて帰ってきた部員はいつも同じ様子だった。
寺田から「どうやった?」と質問してもまともな返事が返ってこない。
スタンド能力で何かをされたのかとも考えたが、傷があるわけでもないし、
その後部員に特に何か異常が起きるわけでもない。
「ええと…」
吉澤はそういってポケットから紙を取り出した。 指令の書いてある紙だ。
「ああ、そうだ。 この女の調査でしたよねえ? もう一回行ったほうがいいッスかね?」
「もうお前はええわ。 Mr.ムーンライトみたいなパワー型スタンドやと太刀打ちできんのかもしれん。
 ただ、相手が何か特殊な能力を持ってる事だけは、これまでの事でわかった…」
「はぁ…」
「吉澤、お前が何人か選んでチーム作れ。 そんで今日もう一回そこを調査してくれへんか」
「あ、はい。 わかりました」
吉澤は一礼して部屋を出た。


447 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:24:56.23 0
部室に戻った吉澤は考えた。
(チーム作れって言われても、どんな能力か全然わからねーしなあ…)
「ううーん…」
「何を唸ってるんですか? 部長」
腕組みして考え込む吉澤に、紺野あさ美が問いかけた。
「ん? ほら例の杜王町の外れの…」
「ああ、あの件ですか…」
吉澤の言葉を聞き、あさ美は納得した。
何故ならあさ美も同じ指令を受けた事があったからだ。
そして他にも吉澤自身や藤本美貴、亀井絵里など何人もの部員を調査に行かせたのだが
どうにも成果がなかったため、昨日は部長の吉澤が再度単身で乗り込んだのだった。
「寺田先生からチーム作ってもう一度行って来いって言われたんだけど…」
「チームですかぁ…」
吉澤が一番最初に寺田から指令を受けたのは1ヶ月以上前、10月辺りの事である。
暇があれば行ってきてくれ、というような簡単なものだったので
相手はそんなたいしたスタンド使いじゃあないだろうと、深く考えていなかった。
だから最初は紺野あさ美1人に任せて調査をさせたのだが、
結果は不明で、相手の顔さえ確認できなかったという。


448 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:25:17.34 0
「チームに誰を選べばいいと思う?」
吉澤はあさ美に問いかけた。
「そうですねぇ…今までその調査に行ったのは2人ペアが最高人数でしたよねえ?」
「うん、確かそうだよ。 高橋を行かせた時に夏焼だったか誰かが興味本位でついていった時かな」
「だったら今度はトリオで行かせてみてはどうですか?
 そしてそのうち一人は"潜入型"がいいと思います」
「潜入型、となると徳永のシークレット・デーヴァが向いてるかもな」
「そうですね。 2人が真っ向から突っ込んでいる間に徳永さんが気づかれないように潜入する」
「なるほど。 じゃあ後の2人はどうしようかな」
「どちらか1人は特殊な能力がいいと思います。 小春ちゃんとか、どうでしょう」
「ああ、なるほど。 確かに特殊だ、それに賢いしな。 最後は?」
「ううーん…岡田さんとか?」
「岡田ねぇ、俺アイツ苦手なんだよなあ。 あんま声掛けたくないからパス」
「あとは…ミキティ」
「ミキティかぁ、部活来るかどうかもわからねーしなあ。 昨日は珍しく来てたみたいだけど…」
「2日連続で来るってことは、無いですよね」
2人が顔を合わせて苦笑していたその時だった。

ガラガラッ

扉を開ける音がした。

「うぃーっす! あのさぁ〜、美貴、昨日ここに定期入れ落としてなかった?」
入ってきたのはまさにその藤本美貴であった。
「いやあ、昨日帰る時に気づいてさあ〜。 帰りのHRまであったのは覚えてたんだけど
 バス乗る時には無くなってたから、絶対ここで落としたと思うんだよねェ」
「おお、ナイスタイミング…」
「じゃあ決まりですね」
「は?」
ニヤニヤしながら自分を見つめる吉澤とあさ美に美貴は困惑した。


449 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:25:42.89 0

  ―杜王町の外れ―

「ンだよー、めんどくせーなー」
久住小春、徳永千奈美とともに歩きながら美貴はぼやいた。
「いいじゃないですか、どうせ藤本さんドゥマゴでだらだらするつもりだったんでしょ?」
「…そうだけどさあ」
小春のつっこみに美貴は舌打ちをした。
「私は予定無かったんで、ちょうど暇つぶせてよかったですよー」
千奈美がニコニコ顔で言った。
「同じ暇つぶしならもっと楽しいことしたいじゃんよォ」
「『敵』と戦うのも楽しいじゃないですかー」
「楽しいってアンタ、いつも仏様みたいな顔してるくせに戦う時は鬼みたいになるよね…」
「そんなこと無いですってー」
千奈美は大げさに手を顔の前で振った。


450 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:26:14.04 0
「あ、着きましたよ」
小春が一軒の家の前で立ち止まった。
何の変哲も無い、2階建ての家である。
「あー、ここかぁ。 見覚えあるなあ、でも確か中には入ってないと思うけど」
美貴は家をぼんやり見つめながら言う。
「えっ? 藤本さん中には入らなかったんですか?
 私は来るの初めてですけど、藤本さんは前にも指令で来たんでしょ?」
千奈美が尋ねる。
「ああ、確かに指令で来た事あったけどさあ、中の様子とか覚えてないし…
 たぶん何もしないで帰ったと思うんだよなあ、なんでかはわからないけど」
「ええー! じゃあ、小春ちゃんも?」
「私も実は…中には入ってない、と思う」
小春は、何か腑に落ちないような表情を残しながら千奈美の問いかけに頷いた。
「なんですかソレ〜! 攻撃されたわけでもないのに何もしないで帰るなんて!」
「いやいや、その時は美貴もやる気まんまんで行ったんだよ。 指令だしさあ。
 でも何故かわかんねーけど、何もしないで帰っちまったんだよなあ…」
「私も…」

美貴と小春は『大谷』と書かれた表札を見ながら呟いた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「んもう、情けないなあ藤本さんも小春ちゃんも」
千奈美はそんな2人を見てため息をつき、『シークレット・デーヴァ』を出現させた。
「じゃあ作戦通り、私はここで待機してスタンドを裏から回しますね」
「うん、頼むよ。 それじゃあ美貴達は正々堂々チャイム鳴らして表から入りますか!」
「はい! 覚悟していきましょう!」


451 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:26:34.17 0
ピンポ〜ン!

美貴は勢い良くチャイムを鳴らした。

・・・・・・・・・・・・・・・・返事は無い。

ピンポンピンポ〜ン!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ピンポンピンポンピンポピンポピポピポピポピポピポピンポーン!

美貴はこれでもかというくらいにチャイムを連打した。

『はいはい聞こえてるよ。 カギは開いてるからどうぞ入って』

家の中から気の抜けたような声が聞こえてきた。
「ったく待たせやがって。 今度はちゃんと成功させて帰るからな」
「じゃあ入りましょうか」
美貴と小春は静にドアを開けて家に入る。
門の柱の影からそれを確認した千奈美は潜水艦を家の裏に回した。

美貴たちが玄関に入ると、目の前には奥に続く廊下と2階に昇る階段が見えた。
1階の右側にも廊下が伸びており、左側の靴棚の上にはたいそうな花瓶が置いてある。

『どなた様〜?』

右の廊下の奥から女の声が聞こえた。


452 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:26:51.69 0
「すいませェーん! 私達ぶどうヶ丘高校演劇部の者ですけどぉ、ちょっとお話伺いたいんですが〜」
美貴は少し甘ったるい声を出した。

『…ああ、演劇部。 また来たんだ』

女の声はだんだん近づいて来た。
ペタペタと歩く音が右側の廊下から聞こえてくる。

美貴が玄関からひょいと廊下を覗き込むと、
頭をタオルでゴシゴシ拭いている女がこちらに歩いてきていた。

「ごめんごめん、風呂上りだったもので、チャイムに気づかなかったわけじゃあないんだ」

「あのう、『大谷雅恵』さんですかぁ?」
美貴は歩いてくるその女に向かって尋ねる。
「ああ、私がそうだけど。 演劇部の皆さんが何の御用?」
言いながら大谷雅恵は頭を拭いていたタオルを自分の方に掛けた。
その髪はとても派手な色をしていた。 金と青が混ざったような色だ。
「えっとぉ、ちょっと取材をさせていただきたいんですよォ」
美貴は甘ったるい声の演技を続けながら雅恵に言う。
小春は、(この人こんな声も出せるんだ!? 似合わない!)と無表情ながら心の中で驚いていた。
「取材ねぇ、演劇の勉強になるような事は何も教えてあげられないと思うがね…」
雅恵は歩みを止め、垂れた髪を手でかき上げながら壁に寄りかかった。
(・・・・・・・・・・・・・。)
藤本美貴は少しだけ訝しがった。
(この女、大谷雅恵が立ち止まった位置。 ちょうどブギトレのギリギリ射程範囲外だ。
 偶然なのか、それとも何か知っているのか…?)



453 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:27:17.35 0
「演劇の取材なんかじゃあないんだろう、君達が来たのは」
2人をあざ笑うかのような口ぶりで、雅恵は言った。
(やっぱりコイツ、何か知っているな!)
美貴はスタンドをだそうとも思ったが、射程距離外では意味が無い。
そこへ小春が一歩前へ踏み出し、チラリと美貴を見てから、再び雅恵に向きなおった。

「じゃあ、これが見えますか?」
言うと同時に小春はミラクルビスケッツを7体同時に出現させた。

「…ああ、見えるし、知っている」
雅恵は表情を変えずに言う。

「テメー、やっぱりスタンド使いなんじゃねーか!」
さきほど前の甘ったるい声をやめ、普段の声で美貴が言った。
「『やっぱり』ってのは違うな。 私はウソを言った覚えはないよ『藤本美貴』。」
(…コイツ! 何故美貴の名前を知っていやがる! 初めて会うはずなのに!)
驚愕の表情を見せる美貴をよそに、雅恵は話を続けた。
「それから『久住小春』、君の周りにいる7人の可愛らしい小人は
 確か『ミラクル・ビスケッツ』って言うんだろう?」
「はい…確かにそうです」
平静を装う小春だが、彼女も首筋に汗を一筋垂らしていた。
『聞イタカァァァァァ!? オレタチ"カワイラシイ"ッテヨォォォ!!』
『アタリマエヨ! アタシタチ、カワイイコハルノ分身ナンダカラサァーッ!』
『Uhooooo!! オレカワイイ!! オレハァハァ!!』
ビスケッツ達は小春の周りで嬉しそうに飛び回った。 No.1だけはムッとしているが…。

「藤本美貴、君は出さないのかい? 『ブギートレインO3』って奴を」
再び雅恵は美貴に向きなおり、尋ねた。
「…出してやってもいいけどよォ、その変わり『取材』にはきちんと答えてくれよなあッ!」



454 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:28:45.55 0
ドシュンッ!
美貴は、両肩に電車のような鎧をつけた銀色に輝くスタンド『ブギートレインO3』を出した。

「ああ…演劇の事については何も教えてあげられないが、スタンドについてならいいだろう」

スッ

雅恵がそう言うと同時に、背後から真っ白いボディのスタンドが現れた。
目の部分だけが黒く、後は白の全身タイツを履いているように見える。

「どんな能力なんだ、それは?」
問いかける美貴に対し、「まあまあ」と、雅恵はなだめるように両手を突き出した。
「その前に面白い話を聞かせてあげよう」
「そんな話はいいからさっさと教えろよッ!」
苛立つ美貴に対して雅恵は余裕の表情を見せて話を続けた。

「スタンドってのは確か、その人間から自然に発生する先天的なものと
 『弓と矢』ってのに貫かれて発現する後天的なものがあるそうだが…」
雅恵の話を聞き、2人は仰天した。
何故そんなことまでこの女は知っているのか!?
「藤本、君のスタンドは矢に貫かれて発現したんだろう? それなら私も似たようなものだ。
 それに久住、君は元からあったようだが、この違いはなんだろうと考える事は無いかい?」
雅恵は2人の表情を伺いながら、話を続ける。
「スタンドは精神の力らしいが、元々強い精神を持っている者は生まれつきその力を持っている。
 そう考えていいだろう。 しかし強い精神を持っていながらも
 自分の力で能力を出せなかった者、それが矢で貫かれるとこういう力が身につくんだろうな」


455 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:29:02.61 0
「テメーも矢で貫かれたってことか?」
美貴の問いかけに雅恵は少し考えた。
「うーん、似ているが少し違うな。 矢に貫かれてはいない。
 しかし矢のルーツも、私が影響を受けた『それ』に関係あるんじゃあないかと思っている」
「何が言いたいんだ! はっきり言えよコラ!」
雅恵のもったいぶったような話し方に美貴の苛立ちはだんだん増していた。
小春のほうは雅恵の話をじっと聞きながら、その後方に視線を向けている。
徳永千奈美の『シークレット・デーヴァ』の潜望鏡が雅恵の数メートル後ろに出現していた。

(もし私達2人がこの大谷雅恵の得体の知れない攻撃を食らっても
 せめて『情報』だけは千奈美ちゃんが確保してくれるだろう…)

「少し日本史の話をしてもいいかな。 と言っても教科書に出るような有名な話じゃあないが」
「美貴はベンキョー嫌いだからさー、そういう話は聞きたくないね!」
美貴はそう言って、射程距離を縮めようと一歩踏み出そうとしたが
小春が美貴の袖を引っ張って制止した。
「もう少し、話を聞いてみましょう…」
それを見た雅恵は少し微笑んだ。
「お利口さんだ。 話の腰は折るもんじゃあない」


456 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:29:19.38 0
「では話をしよう。 君達は榎本武揚という人物を知っているかな。
 幕末時の函館戦争で、新撰組の土方歳三らと共に戦った蝦夷共和国の総裁だった男だ」

知らない単語ばかりで美貴の頭はすぐさま混乱した。

「この榎本が明治になって大臣の座についている時のことなんだが
 1890年、富山県白萩村で発見された『隕鉄』を榎本が購入し、刀工に依頼して、
 長刀2振と短刀3振を製作させた。 何故作らせたのか、理由までは知らないがね」

小春は興味深くその話を黙って聞いている。

「隕鉄から作られたその刀は『流星刀』と呼ばれた。
 榎本はそのうち長刀1振を時の皇太子、後の大正天皇に献上した。
 残りは榎本家に保管されていたはずだが、短刀1振が行方不明になったという」

美貴はつまらなそうな顔をしていたが、雅恵は構わず続ける。

「『弓と矢』も、隕石から作られた物なんじゃあないかと思ってね。
 もしかしたら榎本武揚や大正天皇もスタンド使いだったのかもしれないぜ?
 そして行方不明の短刀がどこへ行ったのか? そう考えると面白く無いかい?」

「…話はそれだけか?」
美貴は痺れを切らし、冷たく言い放った。
「いや、この話は今から話す私の『昔話』に繋がってくるんだが…」
「もうそんな話はいいんだよッ! スタンド出したんならさっさと攻撃するなりなんなりしやがれ!」

「まったく、礼儀のなっていない子だね。 名前を尋ねる時はまず自分から名乗るべきだろう。
 それと同じように、私のスタンド能力を知りたいのならまず自分から教えるべきでは?」


457 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:29:43.38 0
「テメェ…」
「待ってください藤本さんッ!」
小春が再び美貴を制止した。
「アァン!? なんだよ!」
藤本は小春のほうを見ると、小春の周りのビスケッツのうちの2体がいつの間にかいなくなっている。

『HEY! パスパスパァァァーースッ!!』
『イヤッハアァァァァ!! イクゼェェェェ!!』

声のしたほうを見ると、大谷雅恵の頭上、天井の付近にNo.6とNo.7がいて
その間に大きな花瓶が現れた。 美貴はこの花瓶に見覚えがあった。
(あれはッ! この玄関の靴棚に置いてあったものだッ!
 小春の奴、もしもの時に備えてあらかじめ分解していたんだな!)

ガスッ! ガスッ! 

再形成された花瓶をNo.6とNo.7が殴る。
攻撃力こそ無いが、それは花瓶の落下スピードを増した。

「おお、玄関の花瓶が無い思っていたら、あんなところに…」

自分に向かって真っ逆さまに落ちてくる花瓶を雅恵は避けようとしなかった。

バシィッ!  ガシャァーン!!

雅恵の後ろにいた白いスタンドが腕を伸ばし、花瓶を弾いたのだった。

「大谷さん、あなたは花瓶を避けずにスタンドを出してガードしましたね。
 あなたのスタンドはパワー型では無いんですか?」

小春はまっすぐに雅恵を見つめた。


458 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:30:05.44 0
「ふふ…私のスタンドにはそんなにパワーは無いよ。 その証拠に私の腕が赤くなっているだろう?
 パワーがあれば花瓶を弾いたくらいでこんなにはならない」

確かに大谷雅恵の右腕、スタンドで花瓶を弾いた分が赤く腫れていた。

「避けても殴っても花瓶が割れるのは変わらない。 そうなるのがこの花瓶の『運命』だったんだ。
 しかし、この花瓶の運命のために私が水浸しになるのはごめんだ。
 せっかく風呂に入ったばかりなのに水をかぶって風邪を引くのは嫌だからね」

「ふぅん…そうですか」
小春は変わらず冷静に雅恵を見つめている。
しかし藤本はついに苛立ちが頂点に達した。
「小春の能力はわかっただろう! 次は美貴の番だ!」

美貴は身構えると同時に足を踏み出した。
それを見た雅恵はスタンドを自分の前に出して身構える。
「No.6! No.7! 戻って!」
小春は雅恵の攻撃に備え防御姿勢を取った。

「美貴は防御なんかしねえぜ! くらえ!!!」

美貴は跳躍して、ラッシュを繰り出そうとした。

雅恵の後方ではシークレットデーヴァの対空ミサイルが発射準備態勢に入っている。

「なんで君達はそう無駄な抵抗ばかりするのか…」

「うるせえ! まどろっこしい話は嫌いなんだ!! ボコボコにした後で聞きだす!!」

雅恵のスタンドは防御する様子は見えない。


459 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:30:21.93 0
「いいか! 教えてやろう藤本美貴! お前がこの私に会うのは『3度目』だ!
 最初に来たのは2週間前! 2度目は『昨日』だッ!
 昨日、吉澤ひとみって奴が帰ってすぐ後に、お前は来たんだよッ!!」

「な、なんだと…」

一瞬、美貴の腕から力が抜ける。

「千奈美ちゃん! 撃って!!」

小春が叫んだ。

「ふんッ、まだもう1人いたか!! だがこの私の能力の前では無力だ!!
 お前達はこれから、ここで起こった事すべてを『忘れる』!!
 何故ここに来たのか、理由すらもなッ!!」

「な、何言ってんだオメー!!
 おおおおおおおおおおッ! ゴールデンゴール決め…」

美貴が言い終わる前に、雅恵が叫んだ。

「発動しろ! 『マニフェスト・ディスティニーッッッ!!!』」





460 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:30:39.21 0



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「私の『運命』の邪魔は、誰であろうと絶対にさせない」

「お前達は今後も私に触れることすらできないだろう」

「だってこれは…運命だから。 全てを忘れて、『おやすみなさい』」

「…ああ、そうだ藤本美貴。 お前が昨日落としていった定期券は返しておいてやるよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





461 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/22(水) 21:30:55.29 0



  ―大谷家前―

藤本美貴と久住小春は民家の前に突っ立っていた。

「あれっ、小春。 美貴たちここに何しに来たんだっけ?」
「えっと…なんでしたっけ? 演劇部に関することだったような…」
「う、うぅん…」
民家の門の前でうずくまっていた徳永千奈美が目を覚ました。
「千奈美ちゃん、あんたこんなところでなに寝コケてんだよ。 風邪引くぞ?」
「えっ? えっ? 私、何してるんだろう…」
千奈美は服についた埃を払いながら立ち上がった。

「あっ、藤本さん。 バッグのポケットから何かはみ出てますよ?」
小春に指摘されて美貴は自分のバッグを見ると、ポケットにバスの定期が入っていた。
「あぁッ! 美貴の定期こんなとこに入ってたのかよ! 全然気づかなかったぁ…」
「なんだかよくわかんないけど、せっかく会ったんだしドゥマゴでお茶でもしません?」
「ああー、そうだなあ」
「うん、行こう!」
千奈美の提案に美貴も小春も頷き、その民家の前を離れていった。





19 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/23(木) 03:12:31.02 0
*

大谷雅恵は、アメリカ合衆国という国が嫌いであった。

アメリカの開拓時代、自国の領土拡大のための西方への暴力的な進出を
神から与えられた運命であるという事にして正当化させるための『自明の運命』という考え方。
その考え方は現代まで受け継がれ、アメリカ人の根本的な精神となっている。
雅恵はその言葉を幼少の頃に行ったアリゾナで覚えた。

しかし、その言葉の意味自体は気に入っている。
自分の未来を切り開くのは運命であるというその意味。
それは自分の運命を誰にも邪魔はさせないということであると捉え
その地で得たこの能力に、雅恵は『マニフェスト・ディスティニー(自明の運命)』と名づけた。

実際この能力はあらゆる場面で役に立った。
例えば、元来おとなしい性格だった雅恵が不良に絡まれてカツアゲされようとした時も
その能力を使い、不良達に『何故カツアゲしようとしたのか』を忘れさせたりした。
嫌な事が起ころうとすれば、この能力で全てを排除していったのである。
しかし雅恵はだんだん、社会そのものが嫌なものと感じてしまった。
何故なら、自分の平穏な人生を邪魔しようとするものは
幾度忘れさせても降りかかってくるからである。


20 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/23(木) 03:12:50.01 0
そうして雅恵は家に引きこもるようになった。
中学にも行かないようになり、ぶどうヶ丘高校にも進学しなかった。
家族以外のほとんど人間との交流を避け、友人もごく信頼できる数人とだけたまに電話をする程度だ。

そうして今まで平穏に暮らしていたが、ここ1年ほどはとても平穏と言えるものではなかった。
自宅にいる時も、たまに気晴らしに外に出かけたときも
雅恵と同じような能力を持ったものが自分に接触してくるのだ。
ある者は偶然に、あるものは目的を持って…。

妙な亀を取り付かせてくるセールスマンもいれば、妙な説法を説く神父や
人に罪悪感を持たせて金をせびろうとする輩などもいた。
珍しいものでは写真の中に入った親父が『矢』で攻撃しようとした事もあった。
それに何故かこの1ヶ月はぶどうヶ丘高校の演劇部を名乗る連中が何度も訪れて来ている。
『スタンド』や『弓と矢』のことは接触してきた者達に聞いて知った。
もちろんその者達は全てこの能力に寄って記憶を取り除いてやったが
何か奇妙であると感じていた。 この町に何か異変が起こっているのだろうか…。

*


21 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/23(木) 03:13:07.55 0
  ―演劇部部室―

演劇部員の半数以上が集まる部室で、紺野あさ美は3人に取り付けていた盗聴器を取り外した。
「何だよ、オメーまたそんなの付けてたのかよ!」
「念のために、と思いまして。 えへへ」
藤本美貴、久住小春、徳永千奈美の3人は、
カフェドゥマゴで待ち伏せていた紺野に再び部室まで連れ戻された。
「美貴たちはぜんぜん覚えてねーけどさ、とにかくあそこで何かあったって事なんだろ?」
「はい、かな〜り大収穫でしたよ。 大谷さんがよく喋る方で助かりました」
「ほうほう、それでどんな能力なんだ?」

あさ美は盗聴して録音していた物を他の部員にも一緒に聞かせた。

「…『忘れさせる能力』って、そりゃあ何も覚えてないわけだ」
聞き入っていた部長の吉澤が椅子にどかっと腰を下ろした。
「私なんて、何しにあそこに行ったのかも忘れてましたよ〜」
千奈美が笑いながら言った。
「そうそう、美貴も部室に帰ってきて指令の事言われるまでまったく忘れてたよ」
「そう言えば家の外にいた千奈美ちゃんも能力の影響を受けてたんですよね。
 だとしたら射程範囲はかなり広範囲ってことですね」
「はぁ〜、めんどくせー敵だなあoi」
小川麻琴は本当にめんどくさそうに、腕を垂らしながら言った。
「まだ『敵』って決まったわけじゃあないですよ。 説得しだいでは協力してくれるかも」
「そんな能力、役に立つんかのー。 能力がわかっただけで調査終了でいいと思うやざ…」
何かの本を読みながら高橋愛が言う。
「私は協力してくれるとすごく助かると思いますよ、応用さえすれば」
あさ美はそう言って笑った。


22 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/23(木) 03:13:23.41 0
「さって、それじゃあ次こそ最後にしよう。 チーム決めるとするか」
吉澤は椅子から立ちあがった。
「あの…」
それまでずっと黙っていた柴田あゆみが手を挙げた。
「お、柴田! 珍しいね。 自分から行きたいって言うなんて」
「はい、今まで黙ってたんですけど、実はマサ…彼女とは知り合いで…」
「柴田〜、そうならそうと早く言ってくれよ。 知り合いがいるなら話は早い」
「ちょっと訳があって今まで言い出せなくて…、でも一応他の人も連れてってください。
 私だけじゃ説得できる自身がないから」
「うーん、まあ詳しいことは後で聞くことにして…あとはどうする?」
そう言う吉澤に向かってあさ美が立ち上がった。
「あのー、提案があるんですけど」
「ん、なに?」
「マイちゃん、連れていったらどうかなって」
「え、私? 私のスタンピード&ダウンビートはパワー型だろ? あんまり意味が…」
里田まいが口を挟む。
「じゃなくて、小さいほうです」
「え…」
まいと吉澤は怪訝な顔をした。


23 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/23(木) 03:13:41.64 0
「…小さいほうってまさか、萩原のほう言ってんのかコンコン!?」
藤本が素っ頓狂な声を出す。
「そうですよ、萩原舞ちゃんです」
「ウソだろコンコン、舞ちゃんはまだ4年生だぞ! それに演劇部員ってわけでもない」
「それはわかってます。 でも相手の能力を封じることができるんですよ?
 うってつけだと思うんですけど…」
「そうだけど、危険な場所にあの子を行かせるなんて間違ってる。
 そりゃ舞ちゃんがいれば大抵の事はカタがつくかもしれないが、美貴は反対だねッ!」
先日、指令で萩原舞と知り合ってから美貴と舞は親しくなっていた。
今回あさ美の意見に反対したのは『情』も多少入っていた。
「大谷さんて方はそんなに危険な方じゃないと私は思います」
「んー、まあ紺野の言うこともよくわかる…けど演劇部ではない以上、無理強いは出来ない。
 まずは柴田とあともう一人、萩原舞に会いに行ってくれないかな」
「じゃあ美貴が行く!」
美貴はむすっとしたまま言った。
「オッケー。 じゃあ頼むよ、柴田、ミキティ」


96 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/24(金) 20:11:20.75 0
  ―初等部・正門前―

大谷雅恵の能力が判明した翌日の放課後、藤本美貴は校門の前で萩原舞を待っていた。
「つか、なーんでコンコンまでいるわけ」
柴田あゆみと2人で行くはずだったのだが、何故かそこに紺野あさ美もついてきている。
「いいじゃないですか。 私も、ちょっと興味あるので」
「ふぅ〜ん…」
「あ、そうそう。 言い忘れてたんですけど、大谷さんが言ってたこと…」
「へ?」
「ほら、『お前がこの私に会うのは3度目だ』って」
「ああー…、美貴が一昨日も奴の家に行ってたって話ね。 まあ、美貴は一昨日の事覚えてないし、
 昨日の会話の内容だって録音された自分の声聞いても自分が喋ってた実感ないしなあ…」
「私は覚えてますよ。 一昨日、部長が指令から戻ってきた後の事」
「へぇ…美貴なんか言ってた?」
「あの後『美貴もちょっと行ってみよっかな』って、部室出ていったんですよ」
美貴はしばらく考えた後、あきらめたような顔をした。。
「んー…全然思い出せない」
「ま、『来た理由すら忘れさせる』能力ですから、しょうがないですけど」
「んじゃ、そんとき戦うかなんかした時に定期券落としたってことか」
「そうですそうです。 でも、盗聴した内容によると大谷さんは、
 最後にちゃんと定期券返してくれてますよね。 きっといい人ですよ」
あさ美は笑顔である。

「コンコン…もしかして、たったそれだけの事であいつを信用してるワケ?」
「はい。 だって、もし自分が定期券を拾ったって想像してみてくださいよ。
 ラッキー!って思ってそのままもらっちゃいません?」
「まぁ…美貴ならたぶんそうするだろうけどさ…
 ただ、自分が乗らないバスの定期拾ったって得ともなんとも思わないんじゃないの?」
「それでも、たぶん大谷さんは悪い人じゃないですよ」
美貴は笑顔でそういうあさ美を見て、眉をひそめた。
(コンコンのその確信はどっから来るんだろ…)


97 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/24(金) 20:11:37.01 0
「あ! 舞ちゃん来たよー」
ずっと校舎の玄関を見ていたあゆみが指を差した。
「おー、来た来た。 さて、どうやって説得しようか…」
そう言う美貴の『説得』とは、『どうやって行かせないようにするか』の意味である。
「あ、お姉ちゃん!」
美貴たちを見つけた舞は嬉しそうに駆け寄ってくる。
「舞ちゃん元気してた?」
「うん! お姉ちゃんは?」
「美貴はいつでも元気バリバリだぜ!」
そう言って美貴は腕まくりしてみせる。
「ミキティ…って、ロリコン?」
舞が現れてから急に活気付いた美貴を見て、あゆみが真面目な顔で美貴に問う。
「ちょ、おま、何言って…いや、ほら、アレだよ、母性だよ母性! 母性本能!」
それを見てあさ美がくすくすと笑う。
「何笑ってンだよ! 美貴は女だぞ! ロリコンって言葉は当てはまんないの!」
「母性本能なんてあったんですねえ」
あさ美は笑いながら毒づいた。
「コンコン、あんたなあ…」
あさ美を睨みつける美貴の腕を、舞がひっぱった。
「今日はどうしたの?」
舞が美貴たちに尋ねる。
「ああ、そうだったそうだった」
「そう…今日舞ちゃんに会いにきたのは…」

説明下手な美貴に変わってあさ美が、舞に大谷雅恵の能力と
行く目的、そして舞の力が必要とされている事を伝えた。


98 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/24(金) 20:11:53.94 0
「その人…怖い人?」
舞が少し怯えながら尋ねる。
「そうだよー、オータニさんはすげェ怖い人なんだよー。 だから舞ちゃんは行かないほうが…」
美貴はわざと声を低くしながら舞に聞かせた。 もちろん舞を行かせないためである。
「う、うん…」
その効果あってか、舞は少し怯えていた。
(よし、これで連れて行かなくてすみそうだ。 あれくらい美貴がなんとかしてやる…)
と、美貴がそう思った矢先、あさ美が座り込んで舞に話しかける。
「舞ちゃん、おイモ好き?」
(お、おイモォ!? いきなり何を言い出すんだぁ? コンコンは…)
「うん、好きだよ」
さきほどの怯えたような表情とは打ってかわって、舞は嬉しそうに頷く。
「杜王町の外れの辺りにはねぇ、この季節になると美味し〜い石焼イモのお店が出るんだよー」
「え! 行きたぁーい!」
(まさか食べ物で釣ろうってのかッ!?)
「ちょっと待って、イモは関係な…」
藤本はその会話を遮ろうとするが、あさ美はその声に被せるように続ける。
「美貴お姉ちゃん達と一緒に食べに行こうって思ってたから、舞ちゃんもどう?」
「行くー!」
舞は喜んで手を挙げた。
(コ、コンコン…このアマ…ッ!)
「待てって! それ騙して…」
『騙してるんじゃあないかッ!?』と言おうとした藤本をまたも遮り、あさ美は一際大きな声を出した。
「じゃあ決定! 一緒におイモ食べようね、舞ちゃん!」
「食べよー!」
舞は大谷雅恵の話など忘れているかのように喜んでいる。
「私も食べたーい!」
あゆみも何故か話に乗ってきていた。
(柴ちゃんまで…アンタは何か事情があるんじゃなかったのかよ…)


249 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/28(火) 03:30:21.67 0
  ―大谷家―

ピンポ〜ンッ

「昨日の事は覚えてねーけど、今日は一回で出て来いよなァー」
美貴がチャイムを鳴らし、しかめっつらでドアを見つめる。
「おイモは?」
イモにつられて話半分で着いてきた舞があさ美に尋ねた。
「うん、ここのおうちの人がご馳走してくれると思うよ〜」
あさ美はそれにのん気に答える。
「そんなテキトーなこと言ってていいの? あさ美ちゃん…」
ニコニコ顔を崩さないあさ美にあゆみが呆れたように尋ねるが、彼女は黙って笑っていた。

『……どうぞ』

インターホンから大谷雅恵の声がした。

「よし、今日は風呂には入ってなかったみたいだ」
「失礼しまーす」
「お邪魔しまっす!」
美貴は意気揚々とドアを開け、続いてあさ美と舞が入る。
「……」
あゆみはその後ろに隠れるように続いて入った。

「…また、大勢で来たものだね」
大谷雅恵は廊下に椅子を置き、肩肘をついて、玄関に立つ4人を見つめている。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


250 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/28(火) 03:30:37.10 0
「待ち構えていやがったのか、大谷さんよォ」
雅恵を見返しながら美貴が言う。
「別に…ただ、どうせまた来るんじゃあないか、と思ってね」
雅恵は無表情のままそれに答えた。
「こんにちは。 はじめまして…じゃあないですよね」
相変わらずニコニコしながら挨拶するあさ美の方に雅恵を首を向けた。
「気になる口ぶりだ…まぁ、確かに君は『はじめまして』じゃあないが…
 今度はそんなに小さい子まで連れてきたのか。 その子もスタンド使いなのかな」
「ああ、まあな」
平然と答える美貴に、大谷は少し眉をひそめた。
「…今までと様子が違うな、『演劇部』」
「おおっと、そんな事言っても驚かねーぜ。 あんたのスタンド能力は既に知っているッ!」
「……」
こちらが一枚上手! と言わんばかりの美貴の余裕を見て、雅恵は沈黙する。
「驚いてるのかなあ〜? 大谷サンよー…
 昨日の記憶はねーが、アンタとの会話はしっかり録音させてもらったッ!」
「…ほう、そうかい」
「打つ手ナシッ!ってとこか? こっちはアンタの能力を知った上で、対抗策もある」
美貴は勝ち気で言っているが、舞の『アフタースクール・オブ・ミルクホワイト』を
あまり使わせたいとはもちろん思っているわけではない。


251 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/28(火) 03:30:52.79 0
「そうか…能力を知っているなら話しは早い。 その上で聞きたい事もある。
 私は君達が来るのが迷惑でならないんだよ。 何故こう何度も尋ねてくるのかねえ。
 取材とかなんとか言っていたが、何度追い返してもやってくるからなあ…
 これも『スタンド使いは引かれあう』ってやつなのかい?
 私を訪ねてきた誰かが、いつだったかそんなことを言っていたんだが」
姿勢も表情も変えずに雅恵は言う。
「そんなんじゃないけどね、調査するように言われただけだからさ。
 美貴としては盗聴してアンタの能力はわかったからそれでよかったんだけどォー…
 部長やコイツは、どうしてもまだアンタに接触したいみたいでね」
そう言って美貴はあさ美を指差した。
「えへへ、どうも」
ペコリ、とあさ美はお辞儀をする。 何故か舞もつられて一緒に頭を下げていた。
「ふう…『調査』ねぇ、なんなんだ、君達は一体…」
雅恵は俯いて大きくため息をつく。

「『マサオ』…ごめんね」

3人の後ろから聞き覚えのある声が聞こえたので、雅恵は顔を上げた。
「その声は…?」
「内緒にするつもりじゃあ無かったんだけど…」
身を隠すようにしていたあゆみが顔を見せると雅恵は目を見開いた。
「し…『柴ちゃん』!! 何故ここにッ?!」
今まで冷静を保っていた雅恵がここではじめて動揺を見せた。
「私も1ヶ月前まで知らなくてさ、マサオもスタンド使いだってこと…」
あゆみは目を伏せる。
「やっぱ知り合いだったんだ…」
ボソッ、と美貴が言ったが、雅恵はそれを無視してあゆみに話しかけた。
「その口ぶりだと、まさか…柴ちゃんも?」
「うん…」
「そうか…前に、部活に入ってたって言ってたのは、この演劇部の事だったのか…」
「マサオには関係の無いことだと思ってたし、それに公にすることでもないから
 言わずにおいたんだけど…まさかマサオもそうだったなんて…」


252 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/28(火) 03:31:08.60 0
2人の会話を聞き、美貴はフフンと鼻を鳴らした。
「お互いにスタンド使いだって知らずに友達やってたわけだ。 面白いね」
「ミキティ」
「ん?」
「黙って聞いていましょう」
「……」
あさ美に窘められ、美貴は口をつぐむ。

「私も同じようなものだ…」
雅恵はあゆみから視線を外し、窓のほうを見つめて続ける。
「平穏に暮らしたいだけなんだ。 この能力を人に知られたらとてもじゃあないがそうはいられない。
 だから今までずっとこうしてきた。 柴ちゃんもそうは思わないかい?」
「私は…偶然に授かったこの力、何かに役立てたいと思って…」
「そうかな? こんな力を表に出すと、ロクな事は無いと思うんだがね」
「そんなこと…」
「…まあ、いいよ。 柴ちゃんがそう思うのは勝手だ。
 けれど、私の平穏だけは邪魔して欲しくない。 だから…柴ちゃんにも忘れてもらう事にしよう」
「マサオ…!!」

雅恵は静かに椅子から立ち上がった。

「ここに来る目的も、柴ちゃんが演劇部に入ろうと志した理由も…
 それについでだから、君達のここ1ヶ月の記憶も全部消してあげることにしようか…」

冷徹とも思える無表情のままで雅恵は4人を見つめた。

「出ろ…『マニフェスト・ディスティニー』」



253 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/02/28(火) 03:31:24.33 0
パンッ

「はい、そこまでです」
あさ美が手を鳴らし、会話に割って入った。
「……!?」
雅恵は驚愕していた。 自分のスタンドが現れないことに。
しかしそれによって苛立たない自分にも驚いている。
「どういうことだ…?」
「だからさー、対抗策があるって言ったじゃんよー。 あんまり使いたくは無かったんだけど…」
驚く雅恵を見ながら、美貴は舞の頭を撫でた。
舞は状況をよくつかめていないようで、美貴を不思議そうに見上げる。
「この子のスタンドは怒りや闘争心を消してしまう能力を持っている。
 だから敵意を持ってスタンドを使おうとしても出来ないってこと」
「…そんな能力もあるのか」
「まあまだコントロール出来てないからさ、常時出しっぱなしみたいな状態なんだけどね。
 どう? うちらを攻撃しようって気は起きねーだろ?」
「……」
不思議なほど平静な自分の心に雅恵はまたも驚いた。
「そういうわけです、大谷さん。 これで人間同士の話し合いができますね」
あさ美は笑顔のままで、玄関で靴を脱ぎはじめる。
(…ったく、コンコンは一体なに企んでるんだか)
そう思いながら美貴も靴紐を解きはじめた。


362 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:30:14.75 0
  ―居間―

テーブルを挟んで、大谷雅恵と藤本美貴たち4人が向かい合って座っている。
紺野あさ美が代表して、雅恵に演劇部の『裏の活動』と、そうなった成り立ちを話して聞かせた。
もちろんあさ美も全てを知っているわけではないので、かなり端折っていたが。

「君達は…そんな成り行きまかせで、危険な事に首を突っ込んでいるのか?」
雅恵は呆れたような顔をした。
「まぁ、成り行きと言えば成り行きですねえ」
「理解できないな、まったく」
今度は深くため息をついた。
「あ、でもね、マサオ!」
柴田あゆみが口を開く。
「大変なこともたくさんあるけど、結構楽しいんだよ? 友達も増えたし」
「柴ちゃん…楽しい事はいい事だけど、それと引き換えに争いごとに巻き込まれるなんて、御免だな」
至極もっともな雅恵の意見に、あゆみは俯いてしまった。
「まあ、それもそうなんですけどねえ」
と、あさ美も何故か半ば納得している。


363 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:30:31.48 0
「あのさー…」
美貴が椅子から立ち上がった。
「コンコンがなんでアンタに演劇部のことを話したのかわかんねーけど、
 美貴がこんな危険と隣り合わせのことを『何故やってるのか?』って事についてはさ、
 美貴も自分で疑問に思うことは、確かにあるよ。
 演劇部に入りたいだけだったのに面倒ごとに巻き込まれちまってるのは事実だ。
 けど、自分でもはっきりとは掴めてないけど、『使命感』っつーのか…
 この街が危険なのは事実なんだし、それを守りたいって思うのは、ヘンじゃあ無いと思うんだ」
それから美貴は鼻の頭をポリポリとかいて、再び椅子に腰を下ろした。
「…なるほど、守りたい、か」
そう言うと雅恵は腕を組んで、少し考え込む
それを見たあさ美がここぞとばかりに口を挟んだ。
「まあ、そういうことなんですよ。 それで、ここからが本題なんですけど」
「なんだい?」
雅恵は考え込んだ姿勢のまま尋ねる。

「私たち演劇部に、協力していただきたいんです」

「……」

「……」

「……」

「……はァ?」
あさ美の答えに一同が絶句する中、美貴だけが素っ頓狂な声を上げた。


364 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:30:52.35 0
「おめーよォ、コンコン。 何バカなこと言ってンのよ。 協力してもらうだって?
 そういや昨日も部室でそんなこと言ってたけどさー、無理に決まってんじゃん…。
 何を企んでるのかと思ってたけど、そういうことだったのかよ。
 スタンド使いとはいえ演劇部とは関係の無い人を巻き込むのは…」
「でも、舞ちゃんも演劇部じゃあないですよ?」
「あ、それもそうか。 …って、舞ちゃんもコンコンが連れてくっつったんじゃねーか」
「そうでしたねぇ。 でもでも、これは吉澤部長の了解は得てますから」
「よっすぃーが? はぁ、あの部長も何考えてんだか…」
美貴は頭を抱えて机に突っ伏した。
「今ばかりは、藤本美貴の意見に賛成だな」
入れ替わるように今度は雅恵が口を開く。
「この街がスタンド使いだらけで、危険にさらされていることはわかった。
 しかし、私は自分の平穏が欲しいだけだ。 それを危険に晒したくは無い。
 精鋭揃いの君たち演劇部だけでやればいいんじゃあないか?」


365 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:31:08.12 0
「うーん、そこなんですよー」
あさ美が再び口を開く。
「何がだ?」
「大谷さんは平穏が欲しいんですよね?」
「ああ、そうだが」
「この街がこうなってしまった以上、あなたの力だけで自分の身を守れるとは思えないんです」
「……」
「『スタンド使いは引かれ合う』…あなたは既に何人ものスタンド使いと接触しているはずです。
 ここ1ヶ月は私達演劇部員が入れ替わり立ち代りあなたのもとを訪れていますし」
それに雅恵は反論する。
「だが私はそれを全てこの能力で排除してきた」
「ええ、それはすごいと思います。 でも今はこうして4人のスタンド使いの侵入を許してしまってい

る。
 私達だったからよかったですけど、もし敵だったらどうします?」
「それはその子の能力が特殊だからだろう。 それ以外だったら問題は無い」
「特殊なスタンドなんてたくさんあります。
 あなたが相手を敵だと認識する前に攻撃されてしまう可能性も大いにあるんです」
「……」
黙ってしまった雅恵にさらにあさ美が追い討ちを掛ける。
「私は、大谷さんの力が必要だと思っています。 そしてあなたは平穏が欲しい。
 この街に平和を取り戻すことは、あなたの平穏にも繋がってくるんですよ」
その後、この空間に再び沈黙が訪れた。


366 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:31:23.82 0
「…紺野あさ美、言いたいことはわかった。 そして私自身が危険に晒されている事もわかったよ。
 ただ、私のこの能力を見て何故必要と思ったんだい?
 こんな能力は、自分の身を守るくらいにしか使えない」
その答えを待っていたかのようにあさ美はにっこり微笑んだ。
「それは応用次第です」
あさ美は立ち上がると、まず自分の右手側に座っている美貴を見た。
「大谷さんのスタンド能力は、『ブギートレイン03』とよく似ているものだと思います」
「んぇ?」
未だ机に突っ伏したままだった美貴が頭を上げる。
「彼女も、その力の応用で強くなりました」
「…コンコン、何言ってんだ?」
「いいから聞いててください。 じゃあ舞ちゃん、ちょっとお外に出ていてくれる?」
今度は左手側に座っている舞に声を掛ける。
「お外? でも、おイモは?」
舞はさきほどからないがしろにされていた挙句、外に出ろとまで言われて少し不機嫌になっている。
どうやら『アフタースクール・オブ・ミルクホワイト』は自身の感情までは変えられないようだった。
「うん、それはあとでちゃんとあげるからね」
「うー…」


367 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:31:40.02 0
舞が渋々外に出て行ったのを確認すると、雅恵が口を開いた。
「いいのかい? 今あの子が居なくなったら、私がまた能力を使うかもしれないんだぜ?」
「もし使いたかったらどうぞ。 でも一応、見てからにしてもらえませんか?」
「…いいだろう」
その返事を確認してからあさ美は、次にあゆみのほうを向いた。
「では、柴田さんにお願いがあります。 立っていただけますか?」
「えっ、私? な、なにするの?」
あゆみは動揺しながらも椅子から立ち上がる。
「はい、じゃあスタンドを出してください」
「い、今?」
「そうです。 お願いします」
「うん…」

わけもわからず柴田は、お決まりの『ポーズ』をとり始めた。
「変ん〜〜身ッ!! 『スカイスクレイパー・M.D.R』!!」

ビカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

決め台詞とともに柴田の体がプロテクターのようなものに包まれる。
「それが柴ちゃんのスタンドか…そういうものもあるんだな」
雅恵が感心したように呟いた。
「それで…あさ美ちゃん、私どうすればいいの?」
「はい、えーとですね…ちょっと怖いんですけど」
「うん」


368 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/02(木) 02:32:09.28 0





「それで私を、『ぶん殴って』くれませんか?」




466 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:54:20.72 0
あゆみはもちろん、美貴と雅恵も、一瞬絶句してしまった。

「…コンコン、おめー何言ってんだよ!」
「何を見せたいんだ? 紺野あさ美」
「そ、そうだよ! 今の私はフツーの10倍の力なんだよ!?」
それぞれのリアクションを確認しつつも、あさ美は平然としたままである。
「そうです。 それでガツーンといっちゃってください」
「ダメだって! 私がガツーンって殴ったら顔がバキーンってなるよ!」
「あー…、じゃあメメタァって感じでいっちゃってください。 それなら大丈夫です」
「なにそれ!? 痛いのかどうなのかわかんないよその擬音!!」
あゆみは少し混乱してしまっている。
「てか大丈夫じゃねーだろ! つーか理由をまず話せよ!」
美貴も口を挟んだ。
「うーん…まだ推測なので、話しても理解してもらえないかもしれませんし…」
「ちょっとー! そんなんだったら私、余計できないってばー!」
「いいですいいです。 どーんと来てください」
そういうあさ美の表情からは不安な色はほとんど見られなかった。
「でも…」
「推測ではありますけど、ほぼ確信なんです。 さあ、殴ってください」

「コンコン…ほんとにいいんだね?」
あゆみは拳にグッと力を込めた。

「お、おい、柴ちゃん! まさかホントに殴る気じゃねーだろうな!?」
「あのねミキティ。 コンコンの表情、いつもと変わらないけど、でも雰囲気が違うっていうか
 今のコンコンを見てると、なんだか『信じられるッ!』っていう感じがするんだよ…」
「だからって…」


467 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:54:40.37 0

ガタッ

「彼女の言うとおりにさせてみよう」
それまで座っていた雅恵も立ち上がった。
「おい、アンタは今カンケーねーだろ!」
「いえいえ、大谷さんにはおおいに関係がありますよ? そしてミキティにも少し」
「え…?」
驚く美貴を尻目に、あさ美はあゆみの方に向き直り、
「では、お願いします」
と、あゆみに軽くお辞儀をする。

「…ほんとに、殴るからね。 信じていいんだよね…」
右腕を上げて構えるあゆみに、あさ美は無言で頷いて目を閉じた。

「……」
「……」
美貴も雅恵も無言でそれを見つめている。

「いっくよおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ギュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!

「10倍パァァァーーーーーーーーーーーーーンチッ!」





468 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:54:58.87 0




バッギィィィィィィィィィィィィッッ!!!


「へなっぷ!!」






469 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:55:16.97 0

10倍パワーのあゆみに殴られ、その体は居間の端のほうまで吹っ飛んで行き
派手に壁にぶつかってしまった。 壁の前に置いてあった本棚がめたくそに壊れている。

「あ、あれ…?」
あさ美は目を開けて、自分の体を見回した。
何も怪我は無いし異常も無い。 というか殴られてすらいない。




470 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:55:32.47 0






「ミ、ミキティ!!!」
「藤本…!!」









471 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:55:59.00 0
自分の隣をあゆみと雅恵が美貴の名前を叫びながら走って通り過ぎて行く。
あさ美が振り返ると、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

「痛っつぅ…、かなり痛ぇ…」
左肩を手で押さえた美貴が、よろよろと立ち上がっていた。
「こりゃこの前のおとめ組vsさくら組の戦いの時より痛ぇよ…」
「ミキティ大丈夫!?」
あゆみが美貴の右肩に手を回し、立ち上がるのを手伝っている。
「藤本美貴…お前は一体何を考えている…?」
雅恵も傍に立ち、心配そうに、というか不思議そうに美貴を見つめていた。

しかし一番驚いているのは紺野あさ美であった。
自分が考えたある仮説の立証のために殴られるはずだったのに
代わりに美貴が殴られているからだ。

「ど、どうして、ミキティが…?」
あさ美は先ほどまでの余裕の表情からはうってかわってしどろもどろになっている。

「…直前になってさァ、わかったんだよ。 コンコンがやろうとしているコト…」
痛みで顔をしかめた美貴がよろけながら立ち上がる。
「でも…何も代わりに殴られなくても…」

「ま、待ってよ2人とも! 私は飲み込めてないんだけど!!」
「私もだ…」
あゆみと雅恵は目の前の状況が理解できずにおろおろしている。
「ああ、美貴が気づいたのは…」
「あ、待って!! その前に大谷さん、スタンドを出してください!」
「え? 私のスタンドを?」
「早く!!」
「あ、ああ…」


472 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:56:27.56 0

わけもわからず頷くと、雅恵はマニフェスト・ディスティニーを出現させた。

「それで、スタンドの手で、ミキティの左肩を触ってください! 早く!」
「触るだって? そういう風に使ったことはないんだが…」
「触るだけでいいんです! そしていつもやっているようしてください!」
「いつもやっているように…?」
あさ美の言っている事を理解できないまま、雅恵はスタンドの腕で美貴に触れた。
「発動しろ、マニフェスト・ディスティニー!」

ズギュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!

「これで、いいのか?」
「はい、大丈夫です。 私の仮説が確かならばミキティは…」
言いながらあさ美は美貴のほうに向き直る。 あゆみと雅恵もそうした。

「おッ! おおおおッ!?」
なんと、次の瞬間には美貴は抑えていた右手を離し、左腕をぐるぐる回し始めた。
「痛くないッ!! 美貴が思った通り! つーかコンコンの仮説通りだ!!」
「やっぱり…よかったぁ…」
あさ美はホッと胸を撫で下ろした。

「そろそろ説明してくれないか? これは私の能力なのか?」
雅恵はあさ美と美貴を交互に見ながら尋ねる。
「はい、そうです。 大谷さんのスタンド能力の応用です」
「そうだぜ。 おかげで美貴はすっかり『痛みを忘れた』ッ!!」
さきほどまでの悲痛そうな面持ちからは想像も出来ない晴れ晴れとした表情で美貴は答えた。
「痛みを、忘れた…」


473 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:56:43.89 0

「そういうことです。 大谷さんの話によれば、今までの能力の使い方は、
 射程範囲内にあるもの全てを対象にして忘れさせていた。
 でも、それは『ブギートレインO3』と同じ応用をすることでもっと良い使い方があると思ったんです


「あ、そっか…。 ミキティの『時間を戻す』能力は、最初は全ての時間を戻していたけど
 今は『特定の物だけの時間を戻す』こともできるもんね!!」
あゆみが大きく頷く。
「スタンドの応用…」
あさ美とあゆみの話を聞き、雅恵は改めて自分のスタンドの姿を眺めた。

「美貴はそれを直前で理解したわけよ。 コンコンがさっき
『ブギートレイン03とよく似ている』って言ってたのは思い出してさ。 けっこう凄くない?」
美貴は未だに肩をぶんぶん回している。
「うん! …でも、やっぱり私の代わりになって殴られる必要は無かったんじゃ…」
「いやいや、コンコンにそういう役は『キャラじゃねー』って思っただけさ」
そう言って美貴はニカッと笑った。

「ちょっと待ってくれ!!」
雅恵が大声を出す。
「じゃあ、お前はそのことを私に教えるために、わざわざそんな危険な事をやったていうのか!?」
問われた美貴は「おう」と言って頷いた。
「なんて奴らなんだ…」
「実際に大谷さんに自分の能力の応用方法を知ってもらうのはこれが一番だと思いましたし、
 それに私達に協力してもらうとしているんですから、これくらいの覚悟は必要だと考えた結果です」
「まぁ美貴も、まさかコンコンがここまで考えてたとは直前まで気づかなかったけどな」


474 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:57:00.31 0

「フッ…」
と、雅恵は笑った。
美貴たち3人はそれを不思議そうに見つめた。

「…参ったよ。 了解した、君達に協力することにしよう」

「ホントですか!?」
「わぁ、ありがとうございます」
「苦労したぜ、まったくよー」
3人はそれぞれに喜んでいる。

雅恵も満足そうな顔をしていた。
彼女の心を動かしたのは彼女達の精神だった。
紺野あさ美の『覚悟』、柴田あゆみの『信頼』、藤本美貴の『献身』。
自分が今まで出来なかったことを平然とやってのけた3人にシビれ、そして憧れたのだった。

雅恵は考えを改め、生まれ変わった!

『ザ・ニュー大谷!!!』


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!








475 :マイマイ268:2006/03/03(金) 18:57:32.99 0

それから再び舞を呼び戻し、それまでの事情を彼女に聞かせた。
「…そうなんだぁ」
と舞は言っていたが、いまいち理解しきれていないようだった。

「『テッポウエビ』という動物を知っているかな?」
大方の話が終わった後で、雅恵は話を始めた。
「テッポウエビ?」
「そう。 テッポウエビは自分の巣をつくり、そこにハゼを住まわせる。
 ハゼは住まわせてもらう代わりに外敵からの危険をテッポウエビに知らせるんだよ」
「ほほー…」
「そういったお互いに利益がある共生、これを『相利共生』と言う。
 まあ、これからの私と君達のような関係ということだ」
雅恵は少し照れくさそうに言った。

「なるほど…」
美貴はわかったようなわからないような顔をしながらも頷いた。
「あの…ところで大谷さん」
少し前まで本棚だったガラクタを掃除しながら、あさ美が尋ねた。
「何だい?」
「スタンドで忘れさせてしまった記憶を、戻すことはできるんですか?」
「ああ、私が『解除』を命じれば戻せるが」
それを聞いてあさ美はポンと手を打った。
「よかったぁ〜。 私、以前にここに来た時の記憶が無いから
 それを忘れたままだったらどうもムズがゆくて…」
「あ、美貴もそうだなー。 今日を除けば3回もここ来てるのに覚えてないっつーのもなァ」
「なるほど。 では、記憶を戻すとしよう」

そう言うと雅恵は再びスタンドを出した。
「解除しろ、マニフェスト・ディスティニー!」


476 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/03(金) 18:58:25.73 0

ズギュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!

『…おかえりなさい』

「わっ」
一瞬のうちに当時の記憶が戻ってきたあさ美は、晴れやかな顔になった。
「思い出しました〜! ド忘れしてた事を急に思い出した時みたいにイイ気持ちです!」
「それはよかった」
しかし、晴れやかな気持ちになったのはあさ美だけであった。

「いっ」

美貴が小さく呻く。

「痛ってえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」

「あ、そっか! ミキティは…」
あさ美が再び、ポンと手を打った。

「記憶が戻ったのはイイ気持ちだがよォーッ!
 さっきの『痛み』まで思い出しちまったじゃあねえかあァーーーーーーーーッッ!!!」
美貴はごろごろと床を転げ回った。

「す、すまない! まだあまり慣れていないものだから…」
雅恵はあわてふためきながら再びスタンド能力を使って痛みを忘れさせた。





477 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/03(金) 18:58:41.37 0



「…はァはァ、死ぬかと思った」
痛みは忘れたものの、美貴はぐったりして床に横たわっている。
「痛みは『忘れてる』だけですから後で病院行ったほうがいいですよ。
 柴田さんは軽く殴ったと思いますけど、何しろ10倍ですからほうっておくのはよくないです」
「ああ、そうする…」



ピンポーン!

ドアのチャイムが鳴った。

『すいませーん、杜王ケーブルテレビですけどもー。 集金にあがりましたー』



「ああ、そうか。 今日が集金日だった」
雅恵はそう呟いて財布を取りに行った。
「集金も忘れさせちまえばいいんじゃね?」
「こればっかりは忘れさせても何度も来るだろう。 今までの君達のようにな」
そう言って雅恵は笑い、つられて4人も一緒になってくすくすと笑った。






478 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/03(金) 18:58:57.16 0


  ―大谷家前―


大谷家を出た4人は一列に並んで歩いていた。

「さーて、今日は疲れたから報告は明日にして帰るか」
そう言って美貴は大きく伸びをした。
「ダメ。 ミキティはこの後ちゃんと病院行かないと」
「あー…そっか、ダリぃ〜」
「まあまあ。 そんなに重症じゃあないでしょうから」
「へいへい」
美貴は本当にめんどくさそうな顔をしながらとぼとぼと歩き出した。
そんな美貴をニコニコ見つめるあさ美の袖を、舞がくいっと引っ張った。
「なぁに? 舞ちゃん」
「あさ美おねえちゃん、おイモは?」
「ああ…」
舞を連れて行くために適当に言った事を思い出し
さてどうしたものかとあさ美が考え始めたその瞬間、





『い〜しや〜き芋〜〜』







479 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/03(金) 18:59:12.84 0


なんともタイミングよく、石焼き芋売りが通ってきた。
「おイモやさんだぁ〜!! あさ美お姉ちゃんあれだよね!!」
「う、うん。 そうだよー」
偶然に感謝するとともに、あさ美にもどっと疲れが出てきたため急にお腹が減ってきた。
「よし! じゃあおイモたくさん買って食べようね!」
「うん!!」
「あ、美貴も食べる」
「私も!!」
皆が口々にそう言い、石焼き芋売りの車まで走り出そうとした時だった。


「おイモおおおおおおおおおッッ!! 待ってえええええええええええッッッ!!!」


後ろから大声が聞こえたかと思うと、派手な髪の色の女性が物凄い勢いで駆け抜けていった。


「あれ…今のって…」
「大谷さん?」
「あ、そういえばマサオはおイモが大好きだったなぁ〜」
あゆみが思い出したように言う。
「そ、そうなのか…。 なんかクールなイメージあったから想像つかないな…」
「ですねぇ…」


―TO BE CONTINUED




480 :銀色の永遠 〜自明の運命〜:2006/03/03(金) 18:59:38.53 0

大谷雅恵 無傷(演劇部に協力することを決意)
スタンド名:マニフェスト・ディスティニー

藤本美貴 脱臼

その他演劇部員および萩原舞 無傷


杜王ケーブルテレビジョン(通称MCAT)
町民の8割が加入している有名なケーブルテレビ会社。
社長・富樫明生