銀色の永遠  〜舞波@〜

「あのスーツの人、スタンド使いだよ。」

石村舞波は嗣永桃子にそう言った。
「ふ〜ん。高そうなモノ着てるけど・・・たいした事無いじゃないの?」
桃子は、その男の方を身ながらそう答えた。
スタンド能力は無意識の才能である。
舞波はこの能力を身に付けて以来、本人の意思に関係なく『それ』を
判別するようになった。
「にしても、このアイス美味しいね!」
桃子は舞波におごってもらったアイスをおいしそうに食べている。
部活の帰りは必ず舞波にたかるのが桃子の日常である。
舞波も毎回毎回たかられるのは正直堪らないのだが、桃子の家の事情を
知っているので、無碍に断らなかった。
「今日もだいぶ絞られてたみたいだったけど大丈夫?」
桃子の問いに
「うん。大丈夫だよ!」
と答えてはみたが舞波は歌やダンス、演技は苦手だった。
それなのに今だに演劇部に在籍出来ているのは自らのスタンド能力のお陰だろう。
直接戦闘型ではないので近距離パワー型の桃子と行動を共にしているのは間違いではない。
こんな事を思案している内にも桃子はお寒い発言を連発していた。この性格のせいで
舞波以外、親しい人間がいない事を舞波は心配している。
「じゃあね!また明日!」
と言う桃子に
「また、明日!」
と舞波は答え、桃子の影が見えなくなったのを確認して踵を返し
先刻のサラリーマンを追い始めた。


銀色の永遠  〜舞波A〜

どんな人混みであっても舞波の能力を持ってすれば発見は簡単だった。
「居た!」
舞波は標的との距離を充分に取り、観察を開始した。
舞波には友人の桃子にも話ていない寺田からの「機密事項」があった。
情報処理能力に突出した能力を生かした、スタンド能力の調査である。
自分たちは顧問の寺田から受けた『弓と矢の試練』でスタンド能力を身に付けたが
同じように『弓と矢の試練』を受けた人間がこの町には多いようだ。
その為、「そういった人間」がどの位いるのか?どのような能力をもっているのか?
を調べるのが舞波の「仕事」なのだ。

人混みを過ぎてさびしい通りに出た。人通りの少ない所だ・・・。
ここからは慎重に観察をしなければ成らない。言わばキモだ!
舞波は物陰に隠れてそこに留まった。能力のお陰で位置ははっきり解る。
角を曲がったようなので急いで後を付けるが、以外な事に標的は一人ではなかった
女性といたのだ。何時の間に合流したのか?それともナンパでも?そんな風の人間には
見えなかったのだが・・・・。舞波は少し戸惑いながらその様子をうかがっていた。
?・・・なにやら口論をしているようだが・・・妙な感じだった。
いきなり手を取って細い路地に連れ込んだッ!
舞波は異常を感じその場に駆け寄る。
      ドゥウンンッ!
小さい爆発音が響く。舞波はそっと覗き込むと。
・・・・女性は消えていた。


銀色の永遠  〜舞波B〜

「スタンドを使って人を殺す・・・そんなヤツもいるんだ・・・」
舞波は妙に納得した。
「・・・そこ、誰かいるのか?」
サラリーマンが声を掛けてきた。
「・・いるよ。」
舞波はスッと物陰から身体を出した。
「今、私が何をしていたか。それは知っているのかな?」
「人を消した、いや殺した。」
舞波は物怖じせず答えた。
「知ってはいけない事を知ってしまったようだね・・・」
  ギュウユユウウウンッッ!
吉良吉影の背後に人影が浮かぶ。
「へ〜。それがあなたのスタンドですか?」
「スタンド?お前はこれが見えるのか?」
「私はこれをキラークィーンを呼んでいるが」
舞波はニヤリと笑いながら答えた。
  ドギュウウンンッ!
「わたしのコレはパッションE−CHAE−CHA。よろしくね!」
それはマウスにパラボナアンテナが二つ付いたような奇妙なスタンドだった。
「笑わせてくれる・・・そんな小さいモノで私に立ち向かうとは・・」
        スッ!

「ふぅん。そうやってモノを爆弾に変えるんだ?」
「!?」
「なんで解ったか。不思議?」
ドドドドド ドドドドドド ドドドド


銀色の永遠  〜舞波C〜

「ほら。その小石が爆弾なんでしょ?」
舞波は目の前の小石を指差した。
「・・・どういう能力だかは解らないが・・ますます生きて貰っては困るな。」
「シアーハートアタックッ!」
キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル

キュュュュウンッ
「・・・なるほど、熱源を追尾するんだ。じゃあ・・・」
キュュュュウウウ
舞波はねずみ花火を取り出し点火、それを投げつけた。
「こちらの能力を知る能力にはもう驚かないッ!だがそんな弱い熱源は・・・」
吉良の思いを反してシアーハートアタックはねずみ花火を追いかける。
「そんな、そんな事はは有り得ない!」
「じゃあ、もっと驚かせてやろうか?」
舞波はシアーハートアタックをむんずと掴んでみせる。
「そんなッ・・」
「なんで爆発しないのか?って」
と、言い自慢の強肩でシアーハートアタックを吉良に投げつける。
「!!!!」
     ドムゥン
シアーハートアタックは吉良の目前で爆発した。
「この・・・ッ!」
シュピュッ!!
舞波の方を向いた吉良の顔面をロケット花火が襲う。
「ッくぅッ!」
キラークィーンでそれを弾き飛ばす。
「あはは。うまいうまい」
そう、言い残し舞波はその場から走り出した。


銀色の永遠  〜舞波D〜

「くそッ!」
吉良吉影はそう言い、石村舞波の後を追った。
一定間隔で後ろを振り返りながら逃げる舞波の行動が
プライドの高い吉良を激昂させる。
「誘っていいるのか。いいだろう、その誘いに乗ってやるッ」
吉良は舞波に誘われるがまま、その場所に足を運ばされた。
「? ここは・・・」
ビルに囲まれた空き地であったが。中央部分以外は廃車や粗大ごみが山積みになっている。
「何て所だ!こんな場所が在ったとはな・・・」
カサカサ カサカサ カサカサ ・・・・・
吉良はゴミの山を移動する物音を聴き逃さなかった。
「おい、小娘!そうやって物陰から私を攻撃するつもりだろうが無駄だッ!」
   ピュン
答える様に吉良を襲う飛行物。
事も無くキラークィーンでソレを捉える。
「こんなオモチャで私を傷付けられると思っているのか?」
   グショォ!
手に在るパチンコ球を握り潰す!!
キュュュユュュュュュュュュユュュン
「この音。実に不快だよ。早く消えて貰おうか?」
カサカサ カサカサ  カサカサ カサカサ  カサカサ カサカサ 
「移動しながらの攻撃か?徒労に終わるのが解らないのか?」
ピュンッ!ピュンッ! ピュンッ!ピュンッ!
四方から飛ぶ舞波のパチンコ球。
それらを片手で払いのけて吉良は言う。
「だから無駄なのだよ!」
キユュュユュュュユュュュュユュュンッッ
「また『その音』か?理解に苦しむな、お前の行動は。」
ピュンッ! ピュンッ!ピュンッ!ピュンッ!
再びパチンコ球が吉良を襲う。
「だから無駄だと・・・」
「!?」
ビシッ!ビシッ!ビシィイ!!
キラークィーンはパチンコ球の払いのけに失敗し、鉄球の洗礼を受ける。
「ぐぅぅ!馬鹿な・・・弾速が急に速くなる・・・そんな事が・・」


銀色の永遠  〜舞波E〜

「あはは。避けれないの?」
舞波の声は物陰に響く。
ピュンッツ!ピュンッ! ピュンッ!ピュンッ!ピュンッッ!ピュンッ! ピュンッ!ピュンッ!
風を切り鉄球の雨が吉良に降り注ぐ。
「ぐぅう!グウッ!!ぐあぁあッ!」
払いのけ様とするキラークィーンの手は空しく泳ぎ、鉄球が吉良の顔を強打する。
「そんなッ!どんどん弾速が加速している!お前の能力はッ・・・・」
「自分の動きが遅くなっている。っていう考えには行き着かないの?おじさん?」
キュウュュュユュユユユウウウン
「だから『その音』はやめろと言っているッッ!」
     スッ!
音源の場所を爆弾に変える!
カチッ
カチッ? カチッカチカチカチカチカチカチカチ・・・・・
「何だッ!これはッ?」
                         ドガァアァァン!
「『爆弾』を設置した場所もあんなにずれているッ?!」
「それで自分は強い!とか思ってたんだ。ウケるw」
ピュンッ!ピュン! ピュンッッ!ピュンッ!ピュンッ!ピュンッッ! ピュンッッ!ピュンッ!
キラークィーンで払うのを止め、鉄球をガードした。
「何?『こんなはずでは・・・』とか言いたいの?」
「・・・くぅッ!」
「こんな可笑しい事って無いよね。ちょっと歯車が狂えばみんな何にも出来なくなっちゃうなんて。」
吉良は声の場所を必死で断定しようとしたが・・・この場所は響きすぎる。断定が出来ない。
「私は弱いから解るんだ。強いって事が意外と脆いって事。」
暗がりの為、目視で探すのも難しい。吉良は『領域』に引きずり込まれた事を実感する。


銀色の永遠  〜舞波F〜

キュウウユウウウユウウウウウウウウン

「クソォ・・・」
吉良は妙な息苦しさを感じていた。
息が騰がってしまっている。追い込まれているのは確かだ、だがこの程度で・・・・
  プシュ!
「!」
飛行してきたロケット花火をキラークィーンで払い落とさずガードする。
射出地点を反射的に探すが、もう移動しているのだろう・・・・
   ト!
いきなり右太腿に激痛が走る!
「なんでッ!気が付かないッ!!私はどうなってしまったのだッ?」
太腿をボウガンで穿つかれたのだ。しかもその矢はパイプを斜めに切っただけ
のモノでストローの様に身体から血液を放出させる。
「あのガキィ!こんな事をッ!!」
メキャ!
吉良は矢を折り潰し血液の体外流失を止め、ネクタイで大腿部の止血を試みた。
が・・・・
「何だッ!指が動かないッ?」
ただ『縛って結ぶ』それだけの行為が何度やっても出来ないのだ。
吉良は憤りに任せてネクタイを地面に投げつけ、大腿部を右手で圧迫した。
       ト!
その刹那、右肩を射抜かれた。
痛みに耐えかね、膝を突いた吉良は頚椎に尖ったモノを押し当てられる感覚に動きを止めた。
「これで終わりだね。おじさん。」
舞波の声は微塵の揺るぎもなく吉良に「死」を与えようとしていた。


銀色の永遠  〜舞波G〜

「この矢をスタンドを使って掴もうとしても出来ないよ。」
舞波はボウガンの引き金を絞り始める。
「最後だから教えてあげる。」
キュウユウユウユウユユユユン
「この音はね。相手のスタンドの能力を調べる「スキャン波」」
「本当は調べるだけなんだけどね。連続して与えるとスタンドも人体もちょっとづつ異常を起こすの。」
「だから、動きが鈍くなったように感じたり、動かないように感じるの。」
「これで納得して死ねるね。おじさん。」
舞波は心残りなく死ねるように、配慮し止めを刺そうとした。
「私を殺してもその死体はどうする。私の様に証拠を消すことも出来ない小娘が・・・」
「安心して。友達にそういう『能力』持っているコ、いるから。」

    ドゥウゥウウウンンッッッ!!!
「!?」
吉良の『ネクタイ』が爆発する。
「何でッ?スタンド能力は使えないハズなのにッッ!」
爆撃に足を負傷し舞波は叫んだ。
吉良はゆっくりと立ち上がりながら舞波に近づく。
「何も不思議な事はないさ、私の土壇場を生き抜こうとする執念がお前の能力を上回った。」
「それだけの事さ。」
ズギャャアアッツツツ!!
キラークィーンの貫手は舞波の胸を深く、深く貫いた。


銀色の永遠  〜舞波H〜

「本来なら、私が受けた苦痛を解らせてから殺すところだが。」
「お前とはもう付き合いたくない。すぐに死んでくれ。」
グググッ!
吉良が力を込めた瞬間、舞波のパッションE-CHAE-CHAが高速で宙に舞い炸裂した。
「お、お前ッ!なにをッッ!?」
「信号弾だよ・・・。直に仲間がここに来る・・・・。」
「その身体で何処まで逃げ切れるか・・・。楽しみにしているよ。」
「うるさいッッッ!!!!!!!」
ドゥワッッッ!!
「どこまでも・・・・忌々しいガキが・・・」



さきちゃん。みや。まぁ。ちな。くまいちゃん。りーちゃん。
さようなら。
ももち。わたしが居なくても大丈夫かな?
それだけが心配、それだけが



翌朝
嗣永桃子はいつもの待ち合わせの場所で舞波をずっと、ずっと待った。

そこに石村舞波が訪れることは無かった。