銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)@〜


8月13日

杜王総合病院

:三好絵梨香

「何度も言うようですが・・・・あの時は奇跡といしか言いようの無い事態であなた・・・・
 三好さんの生命は『繋がった』・・・その事をもっと自覚して貰わないと。」
白衣を着た恰幅の言い医師は椅子に深く掛け溜息交じり言い放った。

「別に・・・・あたしは生憎『奇跡』なんて信じねーし。大体『あの時』はあたしの超回復力で
 蘇生したと思ってますんでッ!気分が悪くなった位で説教貰う義理は無いと思うんですケド?」
医師の言葉に腹を立てた絵梨香は椅子を蹴り倒すと直ぐさに診察室のノブに手を掛けた。

「ちょっと待つんだッ!!いいか!これは小言や小銭稼ぎで言ってるんじゃあ無いッ。定期的に・・・
 もっと精密に検査しなければ君の脳の状態はッ・・・このままじゃ取り返しの付かないコトに・・」

「自分の身体のコトは自分で良く解ってますからあしからず・・・・それに今更ジタバタしても無駄だろ?」

絵梨香はそれだけ告げるとバタンと扉を閉じて診察室を後にした。

「・・・・何で・・・なんで解って呉れないんだ。」
医師は膝頭を強く握りながら呟く・・・・

廊下には絵梨香の足音だけ響いた・・・・・・・・・・・


8月15日

ぶどうケ丘中学 校舎

:片倉景広

僕は登校日が大嫌いだった。
別に学校に来るのがイヤな訳じゃないし、決められた日に登校するのは必要な事だと思うよ・・・・。

だけど・・・・この暑いのに冷房設備も無い様な所に来なければならないというのは正直堪らないッ!
何時もこの日は憂鬱でしかたなかった・・・・しかたなかったんだ。
でも今日は違う・・・・・まさかこんなラッキーな事が起こるとはッ!

僕はポケットから紙片と取り出す。
『片倉景広さん。話があります。放課後、昇降口に来てくれませんか? 明神絵美 』

うひょるん☆

僕もこーゆー手紙を貰えるなんてッ。
一瞬・・・脳裏を田中さんがよぎって何故だか胸が痛くなった・・・・

なんでだろうか?

複雑な気分を払う様に紙片をポケットに捻じ込んで昇降口に急いだ。

「・・・・あれ?誰も居ない?早く来すぎた?」
周囲を見回してもソレらしいヒトは居なかった・・・・・。
からかわれたのかッ・・・・・?そもそも『明神さん』なんてヒトは居たか?
困惑しつつも僕は歩きながら周囲を注意深く見回す。

「意外と速かった・・・・ね。」

何処からとも無く聞こえた声・・・・・
僕は慌ててその声を追った。

「こっちよ・・・・」

声を追い急いで振り向いた視線の先・・・・・

「君は・・・・・演劇部の・・・」
僕の背筋をイヤな汗が伝う・・・・

彼女・・・・・『夏焼雅』はこちらに笑みを送っているが僕に警戒心を抱かせないようにしているのはバレバ
レ・・・・『岡田さん』の事があってから彼女等を『監視』していたのが・・・感づかれたか?

「待ってたんですよ。片倉さん・・・・・いやフェムトさん。」

「えぇ!?」
・・・な・・・何でそれを・・・突然の事に驚いた僕は目を大きく見開いてしまった・・・まずい・・・
落ち着け・・ペースを向こうに持って行かれる・・・・・焦燥する僕を尻目に彼女は尚も続ける。

「あなたが『少年と蟻の王』の主人公のモデルなんでしょ?」

そう言って彼女は何枚かのFDらしきものを取り出した・・・・

菅沼さんが僕と伊達さんとの出会いや敵との戦闘の事を書いた『少年と蟻の王』・・・
あの小説では僕が主人公の『フェムト』・・・伊達さんが『アト』って名前でモデルにはなっているけど
その事実は僕達の『チーム』以外は知る筈も無い事なのに・・・・それにあのディスクは・・・・・・

「夏焼さん・・・・・もしかしてそのFDは菅沼さんの『小説原案』が書き込まれているの?」
乾く唇を堪えながら僕は声を振る絞る・・・・・

「そうよ・・・・それで片倉さんに話が・・・・」

「・・そうか・・・理由は『君達』か・・・最近、菅沼さんとは連絡が取れていなかった・・・・・あのヒト
 を『殺す』事が出来なくてもあのヒトの動きを封じる事は『ライナーノーツ』には可能だものな。」
腹の中をドス黒いカタマリが沸き立つ・・・・やっぱり演劇部とアイツ等は繋がってたんだッッッ!!

「ちょっと!?・・・何を言ってるの?そんなんじゃ無い・・・私は・・・」

「五月蝿いッ!黙れよッッ。権力を傘に人を玩んで喜ぶ様なヤツ等をッッ僕は許さない!」
やってやる!もうあんなヤツ等を野放しになんかするモノか!僕にはもうコントロール出来る筈だッ!
「ぉおおおぉ!『パーソナル・ジーザス』ッッ!!!!」

僕だってやれば出来る・・・出来るンだ!!!

そうだ・・・・そ・・・う・・・
            あ・・・アレ?
  何だか・・・ド・・・ン・・・ドン・・・・視界・・・が・・・・・意・・・識が?

     ・・・この・・・ま・・ま・・・じゃ・・・・だ・・・・伊達・・・さ・・ん・・・


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)A〜


8月15日

ぶどうケ丘中学 校舎

:夏焼雅

「ッッッッッ最悪の展開ッ。」

あの部屋で見つけた『FD』の書かれている内容が『フィクション』で無く『ノンフィクション』であれば
私個人で負える問題じゃあないッ!
だからこそ真偽を問いたかったのに・・・・・・・・・戦闘になってしまうなんてッ。

「戦う」か「逃げるか」?

真相を追うにはどちらも選びたくは無いが・・・・どちらかを選ばなければならない。
「セクシー・アダルティッッ!」
私は朱の槍を翳し構えを取る。

「それでも・・・・・・やるしかないぜよッ!」

ドタッ・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・?」

戦闘が途端、片倉さんが卒倒してしまった・・・・・・・
だのに・・・『スタンド』は消えない・・・・?
・・・・何なの?

私の考えなどお構い無しに黒い液体のカタマリが粘着質な音を立てて近づいてくる。

「ったくよぉ〜。やりづらいったら有りやしないぜ・・・・小僧ごときが俺をコントロールしようとしやがって!」
黒い液体<パーソナル・ジーザス>は憎々しげに倒れている片倉を睨む様な仕草をとる・・。

「『スタンド』が・・・・喋る?」
久住小春の『ミラクルビスケッツ』や愛理の『ミスチーフ・エンジェル』の様に話をする様なタイプは知って
いる・・・けれどそれは各々の人格の鏡の様なもの・・・・それに比べコイツの言い草は何なんだ?
明らかに『本体』とはまるで違う・・・・『ジギルとハイド』みたいじゃないかッ!

「ぁあ?お前もか?・・・めんどうくせえなぁ?イチイチ説明しなきゃならないのか?」
パーソナル・ジーザスの頭部が裂け長い舌らしきモノを出すと挑発するようにビロビロと蠢かす。
「俺は俺だ・・・・独立した意識を持っている・・・そこの片倉に使われる存在じゃあないッ!」

スタンドは無意識の『才能』・・・魂を作り出している訳じゃないはず・・・・だとしたら
コイツの本体とまるっきり正反対のような物言いは・・・
「片倉さんの意識下自我・・・・?」
頭の中にそんな言葉が浮かんだ・・・・・

「意識下・・・自我だとッッッ!!!!!!ふざけるんじゃねえぞ!小娘ッ。俺は生まれた時から<パーソナル
 ・ジーザス>なんだッッ!こんな小僧のオマケみたいは訳がねぇだろッッッ!」
私の言葉に激昂した<パーソナル・ジーザス>はその身を躍らせ襲い掛かったッ。

黒い液体が空間を滑るッ。

「コイツッッ!!速いッ」
<パーソナル・ジーザス>の腕を叩き付ける様な出鱈目な攻撃。
軌道は読めたがその速度に私は身をかわすのに精一杯だァーッ!

「ひゃはァッ!ひゃはァアッ!!!殺してやるッ!ドロドロのヘドカスに成りやがれッ!!」
<パーソナル・ジーザス>はサデステックな笑みを浮かべながら連撃を繰り出す。

槍の間合いで戦いたいが<パーソナル・ジーザス>は近い間合いから離れ様とせず執拗に打撃を繰り返す!

「く・・・ヘドロ野郎が・・・・だったら粉微塵に吹き飛べよォォォオッ!!」
『セクシー・アダルティ』の切っ先を天に向けるとそのままプロペラの様に旋回させる。
「天上天下雅流!羽羅礼琉符依堵ッッッ!!!!!!!!」
槍は<パーソナル・ジーザス>の腕を弾き、旋回運動で生み出された突風が<パーソナル・ジーザス>の身体を
吹き飛ばす!

「オゴォゴゲゲッ!!」
呻き声を上げながら<パーソナル・ジーザス>はゴロゴロと無様に吹き飛ばされ地面を這う。

「この間合いッ!!!!喰らえッッ!!!天上天下雅流!牌屡玖螺津射阿ァアァアアァッ!!!!」

朱の一閃が空を穿つき<パーソナル・ジーザス>の胴体に深く突き刺さる・・・・。

「グギャヤ・・・・ァアア・・・・」
『セクシー・アダルティ』に貫かれ<パーソナル・ジーザス>は苦悶の声を上げる・・・・。

「手応え有りッッ!!・・・・・お前の負けだ!<パーソナル・ジーザス>ッ。」
勝利を感じた私は高々と勝鬨を上げたッ。

「グァアァ・・・グアァアアァ・・・・・・・・・・・・なんっつてな!」
苦しみ悶えていた筈の<パーソナル・ジーザス>は頭部の裂け目を醜く吊り上げ嗤って見せた。

「・・・・・ッな・・・?      ッッッ!!!!!!!!!」
<パーソナル・ジーザス>の笑み。
それに疑問を感じた  途端に腕に激しい痛みが走るッ!

もうもうと煙を上げ串刺しになった<パーソナル・ジーザス>が立ち上がる・・・。
「ギァャハッ!どうだ痛いかァ?俺の『能力』は物を溶かすんだよ・・ハッ!俺に触れるだけでも溶ける・・
 ・・・・ドゥウユュアンダァアアスタァアアァン!?(理解したかぁ!?)」

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」
痛みに耐えかねた私は『セクシー・アダルティ』を<パーソナル・ジーザス>から引き抜く。

「ヒャハッ!引っこ抜いちまったナァ?アァ?!俺もちびっと痛かったがどうだ?・・・・お前のほうが
 ダメージが有るんじゃないのかァ?ヒャハッヒャハッヒャハァアアァアァア!!!!!!!」
<パーソナル・ジーザス>は声を上げて雅を嘲た。

「ダボがァ・・・・・・・」
私には腕の痛みより<パーソナル・ジーザス>の嘲りへの怒りが勝っていた!

・・・・・・さりとて『セクシー・アダルティ』を突き立てれば相手に与えるダメージより此方の受ける
ダメージの方が大きい・・・・まともににやり合えばジリ貧だ・・・・・
相手に『触れないで』倒す方法なんて・・・・・

・・・・

・・・・・・・?

・・・・・・・・あった。

やってみるか・・・『空の槍術<the AIR>』

一陣の風が吹きぬけ私の前髪を揺らす

コォォオォォォ・・・・

風に身を任せる様に『セクシー・アダルティ』を水平に構え、目を閉じ呼吸を整える・・・・・

「ヒャヒャッッ!何だァ?もう観念して念仏でも唱え始めたかアァアァ?」
<パーソナル・ジーザス>は舌をベロベロと蠢かせて動かなくなった雅に向かって挑発をした。

「・・・フゥウゥ・・・・・・ゥゥウウゥウ・・・・・・」
雅は半眼のまま呼吸を整えている・・・・・。

<パーソナル・ジーザス>はニヤニヤと嗤いながら腕を広げ尚も挑発をした。
「ホラァ、ホラァッ。やってみろよ?ここをブスッとさぁぁあ?」
ポンポンと右頬を叩いて見せる・・・・・。
「ヒャヒャッ!!!!尤もやれたらのハナシだがなぁぁぁぁああああぁwwwwwwwww」

     ボッ

「えッ?!!!」
鋭い一撃が<パーソナル・ジーザス>の右頬を捉えるッ。
「・・・・今・・・・今なにが起きた?・・・・クソガキは動いて居ないのに・・・何が・・・起きた?」
一撃の鋭さに足取りが覚束無くなった<パーソナル・ジーザス>は激しく狼狽し始めたッ。

ボッ
     ボッ
   ボッ

 ボッ

感知出来ない攻撃が<パーソナル・ジーザス>の身体に刻み付けられる。

「なんなんだ?何が・・・起きてるんだァ?俺に触れればヤツの方がダメージを受ける・・・なのに?」
地面を這いずりながら<パーソナル・ジーザス>は怯えた視線で雅を見た。
雅は依然、槍を水平に構え微だにはしていない・・・・ようだった・・・。


「『空の槍術<the AIR>』・・・・。」
私は<パーソナル・ジーザス>の存在が脅威で無くなった事を悟り口を開く・・・。
「槍を音速で打ち出し発生した振動・・・・『ソニックブーム』を利用した槍術だ・・・これでお前に
 触れる事も無くお前に攻撃を加える事が出来る・・・・・。」

ズシャッ。

地に這い蹲った<パーソナル・ジーザス>に『セクシー・アダルティ』を向ける。
後はお母さんがやるように静脈に注射針を刺し込む様に槍を突き立てれば・・・終る・・けど・・
・・・・片倉さんは死なないだろうか・・・・・まだ聞きたい事があるからソレは困るナ・・

私は2秒程、思案したが意を決して<パーソナル・ジーザス>を刺す事にし『セクシー・アダルティ』に力を込め
る・・・・・・・。


ゾザジズジゾザゼジズゼザゾジゼズザゾザジズジゼゾジザゼズゼズゾザズゼザジゼ ・・・・・

「ッ?」
『大量の何か』が這い回る様な音に私の手が止まる・・・。

「ッたくよォ・・・・・『何か』妙な感じがしたと思えばこのザマとはなぁ・・・・・?」

目の前に立つ男・・・・・・その姿に私は小説の登場人物の名前を思わず呟いた。

「『蟻の王 アト』・・・・・」



「・・・・・ヒャハ・・・ヒャハハ・・・・クソガキが土壇場で俺に助けが来るとはなァ!!!
 オイッ!!『伊達謙』ッ!!!俺の本体の『片倉景広』がこのアマから攻撃を受けて俺を発現したッ!
 俺が倒されれば片倉景広は死ぬ!チンピラの腐れ脳で考えろ!答えは簡単だろ!俺を助けろッッ!!!」
<パーソナル・ジーザス>は伊達に一息で捲くし立てた。

「ッッッ!?」
思いもしなかった人物の登場に嫌な汗が吹き出る・・・・・
『リアルレコーダー』や『小説原案』で『伊達謙』のスタンド能力は知っていたが・・・・
二対一で勝てるだろうか・・・・
私は下唇に歯を当てた・・・・。

「・・・・<パーソナル・ジーザス>・・・・・俺の行動を決めるのは誰でも無ぇ・・・・俺だ。」
伊達謙は<パーソナル・ジーザス>を穿つく様な視線で睨む。

「はァ?この状況で何言っ・・・・」

     ドボォォオォッ!!!!!!!!

<パーソナル・ジーザス>の言葉を断ち切る様に伊達の爪先は片倉の腹部にのめり込むッ!

「プ・・・・・・ぷげェ・・・・・・」
片倉は絞り出す様な声を上げ苦悶の表情を浮かべ目を覚ました。

「・・・・・景広。何時までも寝くたれてんじゃねぇ・・・・とっととスタンドを引っ込めろ!」
伊達に髪の毛を引っ張られ無理矢理身体を起こされた片倉は状況確認も満足に出来ないまま<パーソナル・ジー
ザス>を引っ込める。

「や・・・・・やめろッ!!!俺を・・・俺を無の世界に戻さないでくれェェェッッ!!!!!!」
黒い液体群は絶叫と共に消え失せた。

ドッ・・・・・

伊達の手が離れると片倉景広はそのまま尻餅を突き塞ぎ込んだ。
「伊達さん・・・・・・僕は・・・また・・・・・」

パギャッ!

「がッ!」
伊達の拳が片倉の顔を捉えるッ。

「・・・・強すぎる力を押さえつけるにはそれ相応の精神力が要る・・・・・それだけだ。」
それだけを言うと伊達は片倉から目を逸らした。
「・・・・はい」
伊達の言葉に片倉は項垂れるだけだった・・・。

「で・・・・・・そこのガキ。お前は何なんだ?」


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)B〜

8月15日

レストラン ポイヤル ロフト

:夏焼雅 伊達謙 片倉景広

テーブルの上には数枚の『FD』が置いてある・・・・

「貴方達と『ライナーノーツ』との関係性はこのディスクで理解りましたッ!」
雅は強い視線で目の前の男達を睨んだ。

「・・・・・・・・だとしたらどうする?『敵対組織』として俺たちと戦争でもする気か?」
伊達は冷たい視線で雅を睨み返す。
「やめてくださいよぉ・・・伊達さん。話は最後まで聞かないと・・・ねぇ・・夏焼さん。」
片倉は引き攣った笑顔で伊達を宥める。

「私達は・・・・・少なくとも私は貴方のチームとは敵対する心算はありませんッ!」
その視線に威圧されつつ雅は自分の意思を主張した。
「口では何とでも言える・・・・・俺はお前達『ぶどうヶ丘』の人間を信じる心算は無い。」
その主張を如何にも青い。と断ち切る様に伊達は口端を軽く上げ嘲笑した。
「ちょっと伊達さん・・それじゃあ話が進まないじゃないですか。」
取り付く島のない状況・・・・夏焼雅を可哀想に思う片倉はさっきまでの戦闘の事などすっかり忘れ話を取り
付け様と必死に伊達に食い下がる。

「私達『演劇部』の人間は厳密に言えば一枚岩では無いし親しい人以外が『本当』はなにを考えているか何て
 知らない・・・只の集まりでしかありません。だからこそ本当の意味での『チーム』である貴方達に力を貸
 して欲しいんです。」
雅は席を立ちながら伊達と片倉に本心を告げた。

『仲間』の事を信頼もしたい・・・が『リアルレコーダー』の事を考えれば誰かが記帳係を担っている。
その事を巡って仲間割れや『最悪の事態』まで行ってしまうかも知れない・・・・その事を考えれば部員以外
の人物に頼って『真実の確証』を得なければならない!
それが『ライナーノーツ』との戦いに勝ちうる兵法なのだッ!

「ねぇ?伊達さん?彼女もここまで言ってるんですし話を聞いてあげましょうよ。」
片倉はうっすらと涙目に成りながら伊達に懇願する。
「・・・・勝手にしろ。」
伊達はその視線を鬱陶しそうに払いながら目を瞑った。

「・・・・じゃあお聞きします。この『NO4』のディスク。『蛇の知恵、その全て』は作り話じゃなくて本当の
 話なんですか?」
雅はディスクを指差し問うた。

「・・・・・・・・・。」
伊達は目を瞑ったまま動かなかった。
「ぁ・・・・あのォ・・・ナツヤキさん・・・それは・・・・」
片倉も歯切れ悪そうにしか答えない。

「この小説の最後は『かくて蛇は死に絶え、人形の狂宴は終末を告げた』となって終っています。・・・・
 けれど私はこの間『ライナーノーツ』と名乗った『スタンド使い』と戦いました・・・・これは『蛇』が
 未だ生存している。という事じゃないんですか?」

「・・・・ガキ・・・・何が言いたい・・・・」
雅の言葉に伊達は不快そうに眉を上げる。
「まだ何も終っていなかった・・・そういう事ですッ!」
伊達の威圧をそのままのに雅は自らの考えを叩き付ける。
「・・・そんな・・・・信じられない・・・・アイツは菅沼さんが跡形も無く細切れにした筈じゃ・・・・」
片倉は雅の発言に頭を抱え顔を蒼白させた。

「だからこそ・・・・・・かつてあの集団と戦った貴方達に私は協力して欲しいんですッ。
 お願いします、一緒に戦ってください!」
雅はテーブルに額を付けて懇願した。
自分の行為・・・・・・部の『秘密裏』の記帳を読み、敵対しうる可能性も有る集団と係りを持つ単独行動
・・・・見方によれば十分に裏切り行為だろう、場合によっては粛清も受ける。それでも『仲間』を守りたい。

「・・・・断る。」

「ッ!」

「伊達さんッッ。」

「あの時は偶然、俺と敵対する集団の構成員があの『集団』にいた・・・だから戦ったまでだ・・・
 ・・・・・俺はこれ以上係る心算はない。」
伊達はそれだけ言い残すと席を立った・・・・。
「そんなッ!」
雅の懇願も虚しく伊達は踵を返し歩き出した。
「お前らの問題はお前等でカタを着けろッ。」




「・・・・・・・・やっぱりなぁ・・・」
伊達の背中を見送りながら片倉は溜息を突きながら言葉を漏らした。
「僕たちの『チーム』は菅沼さんが居ないと全然纏まらないんだ・・・・・あの人は常識が無いし思いつきで
 行動をするメチャクチャな人だけれどなんとなく場を纏められる・・・・・今だって菅沼さんが居れば絶対
 協力するように伊達さんを説得したのに・・・こんな時になんで・・・・あの人は居ないんだ・・・・・」

「・・・・・・・・・・。」
片倉の言葉に雅は無言で『FD』を握り締めた。



「・・・・・君がどういう経緯でその『FD』を手に入れたか解らないけど・・・・・それが『道標』になるか
 もしれないね。」
片倉も立ち上がり残された伝票を手にした・・・・。

「道標・・・・ですか?」
片倉の言葉に雅は掌のディスクを見つめた。

「先刻の通り・・・・僕は暴走するから手助けしたくても出来ない・・・・ごめんね。」
雅の方を向くと片倉は申し訳無さそうに頭を下げた。
「・・・・敵集団のターゲットは『私達』です・・・・こっちこそ無理な話を持ちかけて申し訳有りませんでした・・・・・伊達さんにも謝っておいてください。」
雅は片倉よりも深く頭を垂れた。
「・・・いや、あのヒトはそんなに冷たくないよ・・・・『何か』考えが有るのかもしれないなぁ・・・。」
窓越しの青空を片倉は遠く見つめた。



「あぁ・・・・雅ちゃん。高等部の岡田先輩には気を付けなよ。あのヒトは『ライナーノーツ』に利用されて
 たのか、利用してたのかは解らないけれど幹部連中と繋がりが有ったみたいだ・・・・・・もっとも壊滅後
 は特別な動きはしてないみたいだから『それだけの関係』だったのかもしれないけれどね!」

「・・・・・・はい。解りました。」
突然の片倉の言葉に雅の顔から血の気が引いた。
まさか・・・・ここでその名が出るとは・・・・
ヘタに動けば演劇部の『虎の尾』を踏むことになる・・・・。
今後の動きを考えながら雅は自動ドアを開けた。


ゾザジズジゾ・・・

「なッ??????」
突如、雅の服に大量の黒い物体がへばり付いていたッ。
「・・・・・・このッ!!!!!!」
雅は身体を大きく捻転しながら黒い物体を振り払おうとする・・・が一向に黒集りは動く気配はない。

ズォォォッ!!!

黒集りは隆起すると手の様な形になり雅の服のポケットをまさぐる。
「・・・・・・・え・・これ・・・・コレはッッ!!!!」
『手』はポケットから『FD』を取り出し後方に投げた!

パシッ

投げ出された先には人影があり4枚のディスクを素早く手中に収めた。
「・・・・・・これはまだガキには早ぇえ・・・・返して貰うぜェ〜」
人影の主・・・・伊達謙は手の中のFDを確認しながら雅を冷たく睨んだ。
「何で・・・こんな事を・・・それに『返す』ってどういう・・・」
問い掛けた矢先、雅の視界に薄い飛行物が揺らめく。

ッ!
「・・・・・紙?・・・・名刺?」
2枚の小さい紙片・・・雅は訝しくそれを見つめた

「『FD』の変わりにソレをくれてやる。俺は今、『動けない』・・・だがソイツなら問題無く行動出来る。」

「ソイツ?」
伊達の言葉に雅は紙片を改めた。
1枚は伊達の名刺、もう1枚には『枯堂 榮』と記されていた・・・。

「枯堂榮<こどうさかえ>・・・・元システムエンジニア。会社がコケて失業してからは俺が面倒をみている。
 今は俺達の仲間だが『ライナーノーツ』のメンバーだったヤツだ・・・組織の事はソイツに聞け!」


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)C〜

8月15日

パーラーメイト 乙

:夏焼雅 枯堂榮

「ここが・・・・・?コドウさんの勤務先・・・」
騒音が外まで漏れる遊技場・・・・
その迫力に雅は暫し立ちすくむ・・・・。

「ど・・ど・・・どうしたら・・・・中に入れるんだろうか?」
雅の身体に緊張が奔るッ。
制服を着ている事も有るが正面から入るのはどうしても気が咎める・・・・。

キョロキョロと周囲を見回し雅は裏口らしき所から中へ入ることにした。

裏手は表の煌びやかさとは裏腹にみすぼらしく薄汚れていた・・・・
「うわぁ・・・・汚い」
その惨状に雅は思わず声を上げる。
「どこが入り口は解らないけれど・・とりあえずここから開けて見るか・・・・」
雅は手近の比較的キレイなノブのドアに手を掛けた。

ガチャリ。
軽い音を立ててドアは開くとその先に髪まで脂ぎった制服の男が立っていた・・・・。

「・・・・・・あ・・・・え・・・?」
『開けた直ぐ傍に店の人間が居た』という想像しなかった事態に雅は声を失う。
「何だァッ?ここはガキが来ていい場所じゃあねえぞッ!!」
中年の男は雅を睨みつけると怒鳴り声をあげた。
「い・・いや私は・・えと・・そう!・・・枯堂さんに・・・・」
中年の怒鳴り声に雅はしどろもどろに答える。
「あぁッ!?」
雅の言葉に男は顔を紅潮させる。

「何を騒いでるんですかぁ?島津さん?」
中年の男の後ろから何者かの声が聞こえる。
「俺は今イラついてるだよ話かけるんじゃねェ!枯堂ッ!!!」

「え!」
雅は目を丸くして中年の背後の人物を見た。
「君が『夏焼さん』?」
180cmはある長身の細面がぬっくりとドアの外に顔を出す。
「はい!コドウサカエさん・・・・?」
自分の名を知っていたことに驚きながら雅は返事をした。

「おい・・・・枯堂!」
中年が榮を睨みつける。
「ぁあ・・・・言ってませんでしたねェ。島津さん、この娘は伊達さんの『使い』なんですよ。あんまり怖が
 らせると怒られちゃいますよ〜」
榮はヘラヘラと笑いながら島津と呼んだ男に忠告をした。
「そ・・・・そういう事は早く言えよ・・・・お嬢ちゃん、謙さんには宜しく言っておいてくれよ。」
中年は顔を引き攣らせながら奥に消えていった。

「やれやれ・・・・カラ威張りばっかりのオッサンは嫌だねぇ・・・」
榮は蔑む様な目で中年を見送った。
「初めまして夏焼雅と言います。貴方が『枯堂榮』さんなんですね・・・・でもなんで私の名前を?」
挨拶もそこそこに雅は榮に問うた。
「伊達さんから『連絡』が入ってたからね〜。で?お嬢さんは俺から何が聞きたいのかな?」
榮は大きめの口を悪戯っぽくにかりと広げた。
「何でもって・・・何でも答えてくれるんですか?」
その言葉に雅の顔が引き締まる。
「おいおい・・・そんな顔するなよ。リラックス。リラックス。それよりその制服、『ぶどうヶ丘』の中等部
 のだろ?鈴木プロの娘さん・・・愛理ちゃんは元気にやってる?」
ニコニコと笑みを浮かべながら何処からか取り出した缶コーヒーを榮は雅に手渡す。
「愛理の事を知ってるんですか・・・?」
出された左手だけが妙に生白いそんな事を感じながら雅はコーヒーを受け取る。

「あぁ・・・・知ってるとも・・・・さあて何から・・・いや何処から話そうか・・・。」
枯堂榮は薄い青空を見上げながら独白の様に話し始めた。

「あれは・・・・今から半年前くらいだなぁ・・・俺はシステムエンジニアとして零細企業に・・まぁ小さい
 会社で働いてたんだ、仕事はムチャなのが舞い込んで来ることもしばしば・・・社員も居なかったから忙し
 かったなぁ・・・あの頃は・・・で、ある日会社が行き成り倒産して何故だか知らないが俺がかなりの借金
 を背負わされててなぁ・・・・まぁ後で知ったんだが俺の上司が俺の名義で・・・・」

「・・・・その身の上話が何に繋がるんですか?」

「最後まで話は聞くものだぜ!・・・でどこまでだぁ?あぁ・・・それで借金を返さなくちゃならないんで
 水商売でやってこうと思ってナァ・・・・ところがその職場がまたとんでもない所で俺みたいなのが一人増
 えると自分等の都合が悪いとか言いやがって俺にミスをさせるように仕組んでその事で袋叩きにしやがって
 よ〜。便所の水飲まされたことも有ったぜ・・・・・。そんな事が続いても俺は仕事を辞める訳には行かな
 かったから耐えられるだけ耐えた・・・。だがある日な、ビールビンで俺の頭を殴りやがっておれは朦朧と
 しながら地べたを這った・・・その時になぁ・・・見たことも無い様な『蛇』に咬まれた。」

「『蛇』?」

「そう『蛇』だ・・・とんでもなく痛かった・・・。でな、痛みに蹲ってる俺に後ろから声が聞こえたんだ
 薄気味悪い声でなぁ今でも忘れないよ・・・・『お前に自由な羽を与えた、高潔なお前ならこの世の糧に成
 れるだろう』ってねぇ・・・・意味が解らないって。」

「誰だったんですか?その声の主は?顔は見ましたか?」

「残念ながら・・・痛みでそんな余裕は無かったね。まぁそれで俺は『スタンド能力』ってのに目覚めてリン
 チくれた連中をボッコボコのぼろ雑巾にしてイキオイで俺に借金被せた上司を探してボッコボコにして借用
 の名義を変えせた・・・・まぁそれで俺の『復讐』は終った訳だが・・・何とも虚しい気持ちだったな・・
 ・・・・・そんな時だったぁ・・・菅沼さんに会ったのは・・・・」
 
「ちょっと!話を勝手に進めないでください。なんで『蛇』に咬まれて『スタンド使い』に成れるんですかッ
 能力は生来持っているか『弓と矢の試練』を受けなければ・・・・・・・・・・」

「話の腰を揉む子だなぁ〜ッ。この話は何回したか忘れた位したがな!伊達さんや遠見塚のマサさん、片倉
 少年はその『矢』ってのに射抜かれて能力を身に付けたって聞いた、が〜・・・俺はあの『蛇』に咬まれて
 ・・・・菅沼さんは『殺生石』ってのに触れてから能力を身に付けたって聞いてる・・・・。」

「『矢』だけじゃない・・・の?・・・・じゃあ・・・・『矢』って何なの・・・・・?」

「さぁな・・・・『蛇』に『矢』に『石』か・・・・何か繋がるキーワードが有るんじゃね〜の?
 じゃあ話を戻すか?まぁ・・・・・そんな事も有って『ライナーノーツ』って名乗る奴から連絡はあったが
 興味が無かったんで全部、無視してた。正直『能力』なんてあっても持て余してたからなぁ・・・・・・
 そんな時だった・・・・・河童に似た貧乏臭いガキや鈴木プロやそのお嬢さん、どうみても日本人顔なのに
 英語でばっかり話すネエちゃんや菅沼さんとの血が沸き立つような戦い・・・・・その中で気付いたんだ。
 俺に必要だったのは『復讐』じゃなくて『仲間』だったんだってな・・・・それからは菅沼さんと行動を
 共にしてたよ。伊達さんにも仕事の世話をしてもらったしなぁ・・・・・で、ここまでが俺の話だが参考に
 なったか?」

「・・・・・・正直解りかねない所が多々ありました・・・でもありがとうございます。」

雅の言葉に榮はにこり笑みを浮かべたが直ぐに顔を厳しくする!
「ッ!どうしたんですかッ!?」
榮の手に開封してない缶コーヒーが充填される!
「なに・・・・・・仕事だよ。見えるか?100y程離れた所に不審な奴が居るだろう?・・・・・ココの処
 出没しやがってっる『車上荒し』だよ!」

コンッ!

榮は缶コーヒーをアスファルトに立てると足を肩幅に開き奇妙な動きを始めた。
「何してるんですか?急いで走って行かなければ・・・・・逃げちゃいますよッ?」
雅は奇妙な動作を続ける榮に告げる。
「・・・・・ここから走って行っても向こうの方に逃げ切る分が有る!だから叩き落してやるさね!」
榮はサディスティックな笑みを浮かべた。
「・・・・・さかえサン?」

「距離は100。9番で行くか?ピッチングで行くか・・・・迷うな?・・・迷ったら短く・・・か」
神妙な顔つきで何かをブツブツと呟く・・・・。
「・・・・・何をする心算なんですか?」
雅の言葉を遮る様に榮は自らのスタンドの名を叫ぶ!
「『ステイ・メロウ』ッ!!」

     ズキュン

榮の左手から『棒状のモノ』が生え出すッ!
 
銀色に輝くソレは刻印のPがくっきりと浮かぶ・・・・・『ゴルフクラブ』だった。

「ソレが・・・・榮さんの『スタンド』?」
雅の言葉を無視する様に榮は『ステイ・メロウ』をゆっくりと振り上げ・・。

          振り下ろすッッッ!!!!!

ボ・・・ギィィインッ!!

鈍い音を立てて弾き出された缶コーヒーは左に逸れたかと思うと右に曲がりキレイな放物線を描く!
「良し!ナイスフェード!」
榮は缶コーヒーの軌道に口元を緩ませた!
ピュンピュンピュンピュン
缶コーヒーは風を切りながら車と車の間に滑り込む・・・・。

「うげぇぇッッ・・・・・・・・」
肉が潰れる様な鈍い音と共に呻き声を上げて男が車の間からヨロヨロと歩き出し倒れた・・・・・
「はい。一丁あがり・・・・・どうだい?俺の『物体に自由にスピンをかけて弾き飛ばす』能力は?」
榮は自らの能力を説明すると雅に白い歯を見せた。


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)D〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校

:夏焼雅 枯堂榮

スターン
      スターン

 スターン

夜の闇に包まれた学園の廊下に靴音が響く。
闇の静寂も手伝ってか?踏みしめるその音は学園全体に響き渡る・・・そんな錯覚を与えた。

「別に場所さえ教えてもらえば良かったんだ・・・ミヤビがここに来る必要は無かったんじゃないの?」
榮は歩みを止めずハンチングを被り直すと傍らの雅に問うた。
「そうも行きません。当事者は私達なんです・・・・・」
雅は心の中に有る『自分を突き動かす何か』に微かな違和感を感じながら職員室に足を進めた。

非常燈の明かりのみが煌々と廊下を照らす・・・・・・

「で・・・・・・職員室はこの先を右?」

「はい・・・・・そうですこの時間なら警備も手薄ですから問題なく取ってこれると思います。」

「『リアルレコーダー』ってのかい。去年の分と今年の分だったっけ?欲しいのは?」

「ええ・・・・兎に角、欲しいのは過去現在を含めての情報です。菅沼さんの『ディスク』と照らし合わせる
 必要も有りますし・・・・・。『蛇』の実態もそれで朧げながらでも解れば・・・・。」

「・・・・・俺があの場に駆けつけた時には終ってて、倒れてたネーチャンを車に運ぶだけだったから実際の
 所は解らないけどね・・・・・・もしかしたら・・・・菅沼さんが倒したのは・・・・フェイクだった・・のかもな・・・・・」

「影武者だった・・・ということですか?」

「さぁ・・・思いつきだよ・・・・・」
雅の言葉に茶を濁す様に榮は足を止める。

『職員室』

目線に近い掛札を榮はマジマジと見つめる。
「先に俺が入る・・・・・ミヤビは後方を目視で確認してから後に付いてきなよ・・・・。」

     ズカシャーッ!

雅にそう告げるや否や榮は『ステイ・メロウ』を発現させ職員室の扉の鍵穴をコツンと叩く。
鍵穴はガチャガチャと騒がしく摩擦音を立てる・・・・。

ガチンッ。

「回転式錠前で良かった。」
カラカラと扉を開けると榮は闇に目を凝らしながら警戒し中に入る。
「後ろ・・・・大丈夫です。私も入ります。」
雅もまた闇の暗さに心を冷たくしながら職員室に足を踏み入れる。

ジャリ・・・・・・・・・・・。
「ん?」
足が鉄の妙な感覚を感じ榮の歩みが止まる。
「?・・・どうかしました?」
榮の態度に雅は顔を覗き込むように問うた。
「・・いや・・・何か『鎖』の様なものを・・・踏・・・・・ッ!!!」
ギュルギュルギュルギュルギュルッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
榮の足首が締め付けられる様に圧迫される!
「・・・・・・・・・・あぁあぁああッ!!!」
足元を確認する暇も無く榮の身体は宙に浮かび床に叩き付けられた。

メキャアァァアーーーーーーーーーッ!!!!!

肉が叩き付けられる鈍い音が闇に鳴る。
「榮さんッッッッ!!!!!!!!!!!」
雅は地面に叩きつけられた榮に手を伸ばす。
「駄目だ!近づくなッミヤビ・・・・・・ここは下れ!逃げろ!!」

グィンッ!

その言葉を最後に榮は闇の中に引き込まれた・・・・・。

「榮・・・・さん・・・。」
一瞬の出来事に雅は動く事が出来なかった。


「キュフフ・・・・・・・・」
そんな雅に向かって闇の中から笑い声が浴びせられた・・・。
「?・・・この声・・・・は・・・」
聞き覚えのある声・・・だけれど何故、今ここに・・・?

闇の彼方から小柄な陰影がゆっくりと近づいてくる。
窓の外の月明かり・・・夜の明かりがその小柄な陰影を照らす。

「・・・・・・中さきちゃん。」
青白く照らされた友人の名を・・・・・・雅は口にした。

「キュフフ・・・駄目だよ。雅ちゃん、『リアルレコーダー』は「閲覧禁止」って書いてあるよ?」
中島早貴は幼い印象を与える顔立ちで雅に言い聞かせるように微笑んだ。
「この間、『リアルレコーダー』を見てたの早貴は寺田先生には報告しないでおいたんだよ?
 雅ちゃんは大事な友達だからって思ってたのに・・・・・・なのにこんな事になるなんて残念だケロ」

「何なの・・・・中さきちゃん?報告ってどういう事なのッ!?」
部内でも穏やかな性格のはずの友人が自分と対峙する・・・・この構図に耐え切れず雅は声を荒げる。

「早貴の『任務』だよ?この『リアルレコーダー』を詮索するような人物が居たら先生に報告するの。
 場合によっては粛清しても構わないって言われたケロ。・・・・・だけど安心してね、早貴は仲間同士で
 のイザコザは嫌なんだ。雅ちゃんがこのまま引き下がってくれたら「何も見なかった」事にするよ。
 お願いだから帰ってケロ。」

「・・・・・・何で・・・何を言ってるのか解ってるの?そのノートには私達の行動の記録が全部載ってる。
 私達は実験動物みたいに逐一監視されている・・・・・・・。寺田先生は私達を何かに『利用』しようと
 しているッ。」

「駄目だよ?雅ちゃん・・・・そんな事、言ったら・・・・先生は皆の『可能性』を広げてくれたじゃない?
 『弓と矢の試練』を受けた雅ちゃんなら尚の事ソレが理解るんじゃないの?」

「それは違う、部に入部った人間は誰として『能力』を持つ事を望んでいた訳じゃあないッ!演劇部の審査は
 ・・・・・『弓と矢の試練』で能力者を都合良く集める為だッ!!!!!!!」

「・・・・・・・・やめてよ。」

「私は『リアルレコーダー』に触れて吐き気を感じたッ。吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!なにも知らぬ
 無知なる者を利用する事だ・・・・・・!!自分の利益だけに利用する事だ・・・・・・・
                       なにも知らぬ私達を!!てめーの都合だけでッ!」 

「その発言は・・・・・・・雅ちゃんが演劇部を『裏切っ』た事になるよ?それでもいいの?」



  ゴ ゴゴ        ゴ
 ゴ    ゴゴ  ゴゴ   ゴ

「・・・・・・私の行為は皆と一緒に居れた世界を壊してしまうかもしれない・・・・・皆をズタズタに傷
 付けてしまうかもしれない・・・・・・・けれど・・・・『邪悪』を知ってしまった以上ソレを打ち滅ぼさ
 なければならない・・・・・・それが私の・・・・夏焼家の・・・・武士<もののふ>の道だ・・・・
 信じられる道だーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!」
朱色の閃光と共に『セクシー・アダルティ』を発現させると水平に構えた。

「『信じる道』?それにどれだけの価値があるの?仲間を裏切って、自分の居場所を失っても良いほど?
 ・・・・・確かに私達は寺田先生に能力を利用されてるケロ。だけれど・・・・この世界を生き続けて誰か
 らにも利用されないで生き抜く事は出来ない・・・・・でもね、早貴は『演劇部』があるお蔭で・・・・
 皆と一緒にいれる『あの場所』のお陰で異能者としての孤独を抱え込む事は無くなった。だから雅ちゃんの
 『信念』くらいであの『輝ける場所』をみすみす壊させる訳にはいかない。」
チャラリチャラリと金属の擦れる音を響かせながら、早貴の背後の『ワンダフルハーツ』が鎖を振り回す。

夜の光が鈍く照らす職員室に緊迫した空気が満ちる・・・・。


『・・・・・雅よ・・・・・この場は引け・・・・。』
雅の精神に何者かが語りかける・・・。
「十郎おじいさま・・・・・・・・ッッ。それは出来ません。彼を、榮さんを助けなければ・・・・
 それに自らの『信念』を貫く為にはここで引く事は出来ません!」
語りかける者、祖父の夏焼雅十郎の言葉を雅は跳ね除けた。
『それでは問おう、お前に仲間を傷付ける事無く伏せれる程の力があるのか?』
祖父の言葉・・・・・その現実に雅は言葉を失う。
「・・・・ッ。」
戦う・・・・・戦わなければこの状況、自分の心を貫けない・・・・そう思えば思う程、早貴のいつもの笑顔
が脳裏をチラつく・・・・・・・。
『お前に仲間を傷付ける様な事は出来ない・・・・・・・・だからここは引け。足手まといになる様な男は
 放っておけ!』

雅の心が迷いに曇り始める・・・・・・・自らの行為は・・・・本当に正しいモノばかりだった・・・のか?
偶然、見てしまった記帳・・・・それから感じた『邪悪』さ。その『邪悪』さを見極める為に・・・・
そして仲間に牙を立てようとしている『ライナーノーツ』を打ち倒す・・・・・『自らが正しいと思った道』
その為に奔走してきた・・・訳じゃあ無かったのか?

なのに・・・なんだ・・・・・・・今の状況は・・・・・何なんだ?



ジャラジャラジャラジャラッッッッ!!!!!!!
「ッ!!!!!!!!!」
金属の冷たさが雅の首を締め付ける。

「何をぼッとしてるの?」
ワンダフルハーツの鎖は雅の首を締め上げる。
「早貴はね。別に弱いから戦うのがキライなんじゃないんだよ?ただね早貴の戦い方は血が出すぎてキレイじ
 ゃないんだ・・・・・・肉が鎖で引き千切られて辺りが血だらけになるの・・・・・だから嫌なんだ・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・でも戦う事を選んだのは雅ちゃんだから・・・・・・しょうがないよね?」
早貴は薄く笑みを浮かべると鎖を引く手に力を込める。

ギュチ・・・・ギュチ・・・・・鈍い音を立て鎖が雅の首にクイ込む。
「ぎ・・・・ぎぎ・・・・」

「苦しい?・・・雅ちゃん苦しい?苦しいのは嫌だよね・・・・・・だからこの一撃で絶命させてあげる。」
ワンダフルハーツの右手が鎖に手を掛けた刹那ッ。
闇から銀の閃光が伸びる!!!!

ギチィンッ!
閃光は鈍い金属音を立てて鎖に激突する。
激突した途端、鎖はブルブルと妙な回転を始め雅への拘束を解き宙にのたうつ!
のたうつ鎖の一撃が雅を弾き飛ばす。
「うわ・・・・ッ!」
その言葉を最後に雅はガチャリと職員室の窓ガラスを割りその身体は夜の空に消える・・・・・。
「・・・・・・・ッッ?」
突然の事に早貴は閃光の軌道を辿る・・・・。

早貴の背後に立つ180cmの長身・・・・・枯堂榮の姿があった!

「本来はこんな使い方はしないんだがな、俺の『ステイ・メロウ』は結構な距離伸びるんだよ。」
大きな口をニヤリとさせると榮は虚空に叫ぶ!
「オイ!『ディープパープル』ッ。いや夏焼雅十郎!聞いてるか?」

『・・・・・・・・・・・・』

「『夏焼』なんて苗字だからてっきり親戚かと思ったが?まさか孫だったとはなぁ〜。・・・・俺が
 アンタの孫を助けるなんてスゲェ皮肉だな?あーーーッ?」
榮は尚も虚空に叫ぶ。
『・・・・・・・貸しを作る気だったらその場から生き延びて見せろ!・・・・・俺の孫娘の為にな。』
虚空からの残響音・・・・その響きに榮は苦笑したように口端を吊り上げた。

「・・・・・・全ては・・・・自分の筋書き通りってかい?・・・『ディープパープル』・・・・上等だぜ〜。」
暗闇に眼光を光らせながら榮はジャケットから黒いゴムの球体を床に落す・・・・・
球体は弾みもせずポトポトと地面に転がる。
「さてと・・・・・・ヨコワケハンサム!とっととこの勝負<ラウンド>終わりにしようか?」
榮は早貴を挑発する様に銀のゴルフクラブをクルクルと回す。

「ヨコワケ・・・・・・・・ッ!」
その挑発の言葉に早貴は眉毛を軽く吊り上げる・・・・・・。

 ドド ドド      ド
ド  ド    ドドドド ドドド


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)E〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校

:夏焼雅

 ガシャァァーーーーッ

早貴の『ワンダフルハーツ』からの攻撃を榮の機転で逃れる事は出来たがその煽りを受け弾かれた雅は
窓ガラスを割り夜空にその身を投げ出されたッ。

「くッ!」
ガラスの破片を払いながら雅は自らの向きと落下状況を確認する。
「・・・・・この落下速度・・・・・・『セクシィ・アダルティ』を地面に突き立てての着地はかなりの衝撃
 ッッッ!!!!!    ならばァ!」

朱の閃光が地面と平行に伸びる!

「天上天下雅流!不雷印愚牌零津!!!!!!!!!」

フォン!
   フォン!フォン!
            フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!

漆黒の空に朱の孤を描きながら高速旋回する『セクシィ・アダルティ』は徐々に揚力を得ていた!
 
・・・・フォン!・・・・・・フォン! 
揚力を調整しながら雅は難なく雑木林が疎らに生える校庭に着陸した。
「・・・・っと、無事着陸・・・・と言いたい処だけど・・・・榮さん・・・・・・・」
結果、置き去りにしてしまった榮の名を出し雅は自らの無力さを痛感していた・・・。
さりとてあの場所で友人である中島早貴と戦闘をすれば良かったのか?
その戦闘で・・・・・・何か・・・・・・何を・・・・得る心算・・・・得れる心算・・・・

「駄目だ・・・・・・真実を追い求めて居る筈なのに・・・どんどん遠くなって行く・・・・」
そう漏らすと雅は下唇を咬みながら耐える様に身を震わせながら校舎に足を向けようとしていた。

「そんな事は無い是ッ!」

・・・・・・!
背後から聞こえる聞き覚えの有る声・・・・・

「アナタはもう真実を見定めている・・・待っていたの・・・・『寺田先生の行動に疑問を持ち行動する』
 ような娘が現れるのを!」

背後に居た二人の影・・・・・・・・雅は先輩の名を呼んだ。
「小川さんに・・・・紺野さん?」

  ドォォオオォーン!


「あ・・・あなた方が・・・何で?」
反射的に身を翻し雅は身構える。

「oioi!そんなにカタくなるなって・・・・・アタシ達はお前の『敵』じゃあ無いんだ是?」
麻琴は肩を竦めてリアクションを取りながら雅に近づく・・・。

「雅ちゃん・・・・貴女の『志』、私達に手伝わせて。」
あさ美はそう言うと微笑みながら手を差し伸べた。

「な・・・・何でですか?小川さんも紺野さんも・・・・部でも信頼されているポジションに居るのに・・・
 これじゃあ・・・・まるで『部』を・・・・・・・」
二人の言動に雅の表情が困惑に染まる。

「『裏切る』ってかぃ?・・・・まぁアタシは最初から寺田の動きを怪しんでた所を無理矢理『矢』を打ち込
 まれて『スタンド使い』にされて入部したクチだからな・・・・・最初から裏切りモノだYO・・・・・」
麻琴は強張った雅の肩をポンと叩いた。
「すでに『彼』の精神は変わってしまいました・・・・・・『彼』の暴走を・・・・私が止めたいと思ってま
 す・・・・・・・ですから雅ちゃん私達は貴女の手助けをします、だから貴女も私達に手を貸してくれませ
 んか・・・・?」

「手助け・・・・・・」

あさ美の言葉が雅の心に『希望』という光が差す・・・・・・・



ジャリ・・・・ジャリ・・・
革靴が土を踏みしめる音が闇に響く・・・・・

「・・・・♪・・・・・♪」

闇夜に『奇妙』な歌が鳴る・・・・・

「ピザ・モツァレラ ♪ ピザ・モツァレラ ♪」

「♪ レラレラレラレラ ♪ レラレラレラレラ♪♪ レラレラレラレラ ♪ ピザ・モツァレラ ♪」


「どォよ?『チーズの歌』・・・・スゲーいい曲じゃあねぇ?」

歌い手はじゃりじゃりと土を踏みしめながら三人に近づく・・・・・・・・・・・・
その人物の影が三人の肝を一気に冷やすッ。

麻琴はその影を睨みながら吐き捨てたッ!
「お付の『岡田』はどーした?一緒じゃあ無いのか・・・・・・・・三好絵梨香ッ?」


クシャッ!!
紙コップを捻り潰す様にカシスオレンジの缶を絵梨香は片手で潰す。
「御心配無く・・・・・・唯は唯で行動してるさ!アタシは『後継』の働きっぷりを見に来たって処だけれど
 ・・・・・・・・そこに『夏焼雅』が居るってコトは・・・・・早貴もまだまだ甘ったれだな・・・。」

ジャリ・・・ジャリ・・・三好絵梨香が一歩刻む毎に周囲の緊張が強まるッ。

「『夏焼雅』・・・・お前には失望したよ・・・・・その容姿にスタンド能力・・・・・そして強い意思・・
 アタシ達の『輝ける場所』の・・・・・次の担い手だと一番、目を掛けてたのにね・・・・・それが因りに
 よって『鼠共』とつるんでるなんて・・・・・・・・がっかりだよッッ。」
絵梨香の叫び声がビリビリと圧力を示す!

「・・・・・・・笑かしてんじゃネーよ・・・・絵梨香? 『輝ける場所』?はぁ!?そんな都合の良い言葉で
 言い包められてんじゃネーーーーーーッ!!!寺田は自分のエゴの為に『兵隊』集めてるだけだろォーー
 −−−−がッッ!!!!!そんな事も解らねーーーー程!お前の脳みそは御目出度いのか!!!!!!!」

ズコォオッ!!!!
言葉に収まらない激情を麻琴は直ぐ傍の立ち木に叩き付けるッ。

「そうです!三好さん・・・・・アナタは『寺田光男』という人間が何処に向かおうとしているのか・・・
 解っているのですか?解って居ないのなら・・・・・・まだ引き返せます!あの男に加担するのはここまで
 にしなさい!」
あさ美は強い口調で三好絵梨香を窘めようと普段からも想像つかない口調が彼女の信念を露わにした。

「そう・・・・です。絵梨香先輩ッ!やめてください・・・・・私は先輩とは闘いたくありません!
 先輩が私にやさしかったのは・・・・・私を寺田先生の『操り人形』にする為だったんですか・・?」
圧倒的な戦闘能力を誇る憧れた先輩・・・・優しかったその瞳が狂気に満ちて自分を穿つく・・・・・
その現実に吐き気を覚えながら雅は声を絞り出した・・・・・。


「・・・・・・・で?お前等のこの世とのお別れの言葉は終わり?」
絵梨香はコキリと首を鳴らすと狂気に溢れた瞳を吊り上げた。

「言葉が通じないのか世?この古代肉食獣が!」
ギリ・・・・・と歯を喰いしばり麻琴の身体から闘気が発せられる・・・・・
「・・・・・止む終えませんね。麻琴ッ!準備は?」
あさ美もまた表情を引き締め麻琴に目を配らせた。
「駄目です・・・小川さん、紺野さん・・・・二人では『勝てない』・・・あの人のスタンドは・・・」
絵梨香のスタンド『シーズン・オブ・ディープレッド』を知る雅は二人を止めようとする・・・・・・

蒼ざめた貌をした雅を見ると麻琴はニヤリと微笑んだ。
「oioi・・・・・あたし等の事こそ見縊ってもらっちゃ困る是ッ!力が足りなきゃ知恵ッ!こっちにゃ『知識の女神』
 が付いてるんだからな?・・・・なぁ・・・紺こん?」

「『女神』だなんて・・・・大げさすぎですよ!雅ちゃん安心して、能力差は確かにあります・・・・・・
 ・・・ですが勝機は此方にありますッ!!」
あさ美の大きな瞳に強い光が宿るッ!そのやさしく力強い黄金の輝き・・・・紛れもない『正義』の光であったッ!

「行く是ッッ!oooooiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!!!!!!!!!!!!」
麻琴は先だって怒りに任せて殴りつけた立ち木を握る。

すポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!

立ち木はボールペンのキャップの様に勢い良く地面から抜けるッ。
「どぁらぁああぁあぁああぁぁあ!oioioioioioioioioioioioioioioioioioioioi!」
身の丈の三倍は有る立ち木を槍投げの様に絵梨香に投げつけたッッッ!
FRIENDSHIPのスタンド能力で『空気抵抗』を失った立ち木は超速で空を飛行するッ。

ビュワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

「へへ・・・何かと思えばチンケな奇襲攻撃だなァアァアアアアアァア!!!!!!!!!」
絵梨香の周囲がめらめらと熱気で歪む。
「『シーズン・オブ・ディープレッド』!」
        ブン!
シーズン・オブ・ディープレッドの豪腕が水平に凪ぐッ。
立ち木は枯れ枝の様にブンブンと回転しながら彼方に消える!
麻琴を見、絵梨香はニヤリと獰猛な笑みを向ける

・・・・・・・・・が・・・・視界から小川麻琴が消えていたッ。

「!」
その状況に気付いた瞬間。『シーズン・オブ・ディープレッド』の腹部の空間が歪み爆ぜた!
爆ぜた空間は『シーズン・オブ・ディープレッド』の灼熱の装甲を弾き飛ばし灰色の痩躯を露わにしたッ。
「どっせぇえぇぇえぇえぇぇえぇええぇえええぇええええいィ!!!!!!!!」
瞬時!空間を滑走してきた麻琴の『FRIENDSHIP』の渾身の一撃がその隙間に叩き込まれる!!

メリ・・・・・メリリ・・・

「・・・・手ごたえARIだ是?」
拳に伝わる感覚に麻琴は勝利を感じた・・・・・・


「・・・・・・・・・・・・で?」
渾身の一撃・・・・にも拘らず絵梨香の顔色は全く変わらない。

ガチィィイ!!!
シーズン・オブ・ディープレッドの腕がFRIENDSHIPの両腕ごと抱え込むように締め付けた!

「ぐ・・・・・・・・あぁぁぁあぁ!?」
灼熱の万力が麻琴を絞め潰す!!!!
その圧力に加え圧倒的な熱気が麻琴の身体を沸騰させる・・・・・

「オラ・・・・・・テメェの身体が潰れるか、脳みそが沸騰してイカれるのが早いか見物だなァ?」
もがき苦しむ麻琴の様を絵梨香は花火のように楽しむ。

「あがががが・・・・・・・・・」
耐え切れず麻琴が苦悶の呻きを漏らす・・・締め付けられた腕が軋み口や耳から熱気が漏れる・・・・

「ま・・・・・・麻琴ッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
友人の窮地にあさ美が走り出す!
抜き差しなら無い状況にあさ美の身体はシンプルに動く。

ベチィィィィイイィ!

あさ美の右足は美しい孤を描き、絵梨香の頚椎に激突した!

「・・・・・・・・なんだ?お前は・・・・・生身の攻撃なんてタルい事しやがって・・・・」
またも絵梨香は顔色を変えずあさ美の方を見やる。
「そんな・・・・・・右上段蹴りは・・・・・・・危険な位、完全に決まってるのに・・・・・・
 あなたは・・・・あなたの身体は・・・・・・・どうなっているのですか・・・?」
禁じ手とも言えるほどの角度で決まった蹴り・・・・ソレを全く感じていない絵梨香にあさ美の顔から血の気
が引く・・・・・・・・。

「あぁ・・・・・何ビビってンだぁ?こんな能力しかねェ鼠が調子に乗ってるンじゃねえぞッッ!」
絵梨香は頚椎に撒きついた右足を剥ぎ取るように掴むとねじ上げたまま、あさ美の身体を布の切れ端の様に
振り回す!
人とは思えない異常な力・・・・・絵梨香は右手一本であさ美の身体を振りまわし地面に叩き付ける!
「ぐぅ・・・・・こ・・・・この・・・力・・・・・・・・まさか・・・エンドルフィン・コント・・・」

ズダン! ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!ズダン!
宙に浮いたかと思うとあさ美の身体は何度も何度も地面に叩き付けられる・・・・・・・

「御託こいてるンじゃねえぞ?優等生?あぁ?このまま干物みてぇにペラペラに叩き潰してやろうか?
 クク・・・・・・・・・カカカカカカカカカカァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「に・・・・・人間じゃあない・・・・・・・絵梨香先輩は・・・・・・・・人間じゃあ無い・・・」

暴力に酔い狂った様に嗤い出した絵梨香の姿に雅は身震いし絶望を感じる事しか出来なかった・・・・。


♪〜♪♪〜〜♪〜〜♪〜〜♪♪〜〜♪♪〜♪〜♪〜〜〜・・・・・・・・・・

狂気と絶望が犇めく闇・・・・・・・・その闇をメロディが切り裂く・・・・・・・

「・・・・・・・・口笛?」
どこかで聞いた事ののある音階・・・・雅は周囲を見回す・・・・・。

「よぉ・・・・・絵梨香・・・・・・相変わらず無茶やってるね・・・・・・?」
校舎2Fのベランダから声が響く・・・・・
「・・・・・てめぇ・・・・・・・何しに来た?」
絵梨香は闇に佇む人物を睨みつける。
「『何しに』?・・・・・呼ばれたからさ・・・・・・・・
   『天が呼ぶ・・・・・・・』
     『地が呼ぶ・・・・・・・』
      『人が呼ぶ・・・・・・・』
       
        『悪を倒せと私を呼ぶ・・・・・・・』」

闇からゆらりと赤い光が揺らめく・・・・

「聞け悪人・・・・・・私は正義の戦士 紅の稲妻!サイボーグしばた!!」


ベランダの柵に立つ紅い人影・・・・・・絵梨香はそれに吐き捨てた!
「・・・・何が正義の戦士だよ・・・・この夢想家が!」

「ミュン?」
帰ってきたあゆみの返事にイラつきながら絵梨香は信念をぶつけるッ。
「腐れきったこの世に善も悪もねぇ!!強い者が生き残る!!勝ち残った者こそ正義よ!!」
絵梨香の咆哮にあゆみは簡単に答えた・・・・・・。
「あっそ・・・・じゃあやっぱり私が正義ミュン!これから楽勝に勝つのだから!!!」

カチッ
「j」
カチッ
「変換登録:ライダージャンプ」
カチッ
「Enter」

「Ready」

紅い弾丸が漆黒の闇を切り裂く!!

カチッ
「p」
カチッ
「変換登録:ライダーパンチ」
カチッ
「Enter」

「Ready」


「うえぇぇええぇえぇえいィィ!!!!!!!!」

ドッゴォォオオオォオオオンンンンンン!!!!

あゆみの拳が『シーズン・オブ・ディープレッド』の額を直撃する!
「うぐぅ!」
衝撃に耐え切れず締め付けていた『FRIENDSHIP』を放しよろめく・・・・・・。

ジュン!
「ミュ〜〜〜ンッッ!」
灼熱のヘドロに阻まれ拳を押し込めずにあゆみもまた『シーズン・オブ・ディープレッド』から拳を離した。

ゴゴ ゴゴゴゴ
  ゴ       ゴゴゴ


「・・・・やるじゃねぇか?このくされ特ヲタ・・・・今日一番のご馳走だぜ・・・・・」
絵梨香は歓喜に満ちた笑みを浮かべる。

「呆れた程の能力ミュン・・・・・・・・・だのにその能力を何でマトモな事に使う気がないのか・・・?」
あゆみは腹部のPDAを操作しながら呟いた。

カチッ
「h」
カチッ
「変換登録:モード変換『響鬼』」
カチッ
「Enter」

「Complete」



グォオォンンッ
大気が揺らめき渦を作る!
キー音と共にあゆみの身体が豪炎に包まれた!!
炎の渦がぐるぐると立ち上る・・・・・

「ハぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

気の抜けた気合と共に炎のカーテンからあゆみがその身体を示す!
紅の身体は光の当たり具合でキラキラと変色をするマジョーラカラーに『変換』されていたッ

「何かと思えば『お色直し』か?此処はデパートの屋上じゃねえんだぜ?アトラク屋!」
三好絵梨香は肩を怒らせながら青・紫・赤紫に彩られたあゆみに近づく。

「此処がどこか・・・・・・・・か?何処であろうと私は私らしく戦うさ・・・・・」
あゆみは自身のスタンンド『スカイスクレイパー・M.D.R 』で構成された棍棒を両手に構える。
「人の夢を守る為に生まれた!・・・・この力・・・・この命はその為のものだ!!」

「人の・・・・・・夢を守る為・・・・・か・・・・・・そういう奴から死ね」
絵梨香はその身をふわりと浮かせる・・・・・
「SuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSuRiSURIVER--------------ッッッッ!!!!」
野獣の如き凶刃があゆみに降りかからんとする。

タッ!タッタッタッ!
棍棒を左右に動かしながらあゆみは器用に連撃を捌く。
「トぉおーーーーーーーーー。」
気の抜けた掛け声とともに絵梨香の腹部の痛烈な一撃を加えたッ!

どぉぉおぉぉん!
太鼓を叩くような野太い打撃音が響く。

「おぉおぉ・・・・ぶ・・・・・・な・・・んだ?この衝撃・・・・は?」
身体を貫く感じたことの無い衝撃に絵梨香は苦悶の表情を浮かべた・・・・・。

「『音撃』・・・・・お前の前方の空間に振動を加えてその衝撃の波でダメージを与える技術<ワザ>だ・・
 これならお前の自慢の装甲は・・・・・役には立たないミュン!!」


衝撃を堪えながら・・・・絵梨香はヨロヨロと身体を起こし呼吸を整える。
「・・・・・・・技術<ワザ>だぁ?・・・・取って付けた様な事を言ってやがるんじゃァねぇ・・・・」
凶獣の如き殺意に満ちた視線をあゆみに送る!

「悲しいね・・・・・・同じ<能力者>同士なのに・・・・・・こんなに解り合えないなんて・・・・・・」
瞳を半眼に落しゆっくりとした呼吸と身体の動きを同調させ構えを改める。
「こんな悪夢は・・・・・・『私達』が断ち切る!!爆裂真紅の型ッッッ!!!!!!!」
咆哮と共にあゆみの足は大地を強く蹴り。低い軌道で絵梨香に飛びかかるッ!

「青っちょびたヌケサクが!調子に乗ってるんじゃぁねええええええええ!」
『シーズン・オブ・ディープレッド』の拳があゆみを叩き潰す為に打ち出される!

シュン!

拳は空を切り紅の幻影は絵梨香の懐深くに侵入する。
「おぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
棍棒は振りかざされ野太い轟音が雨霰に響き散らされるッ!
その鼓動は大地のリズム、生命のリズムをも連想させた・・・・・・。
「おぉぉぉおおぉお!三好絵梨香!この鼓動!ビート!を感じろ!そしてッ生き直せェエェーーーーーッ。」

どぉおぉおぉぉん!

一際大きい音が響きあゆみの『音撃』は終焉を告げ、絵梨香はズルズルと崩れ落ちる・・・・・・。
ふぅ・・・・・と溜息を吐き、あゆみは俯いた。

その場に・・闇の沈黙だけが残された・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・・


「し・・・・柴田さんッッ!!!」
闇の沈黙を裂くように雅はあゆみの名を呼ぶ!

「遅くなったな・・・・滝・・・・・」
ぼつりとあゆみは雅の声を掛ける。
「え?」
あゆみの問いかけに雅は困惑する。
「ミュ〜〜ン!・・・ここで『遅すぎるだろ!本郷!』じゃないとシマらないミュン!」
雅の気の利かない返答にあゆみはガックリと膝を突く・・・・・・・

「・・・笑い処がまったく解んねーコントだな?・・・・・・アンタ何をしにきたんだヨ・・・?」
倒れたあさ美を抱え起こしながら麻琴は蹲るあゆみに問う。
「助けてもらった礼は言いますが・・・・・・・しばちゃんが何でこのタイミングで此処に?」
顔をゆっくりと起こしながらあさ美もまたあゆみに問うた。

「ミュン!・・・・・・・あ〜そうそう!これが本当の目的だった!」
あゆみは立ち上がると三人の顔を見回す!

「・・・・・・『迎え』に来たよ・・・・・一緒に戦おう!」



銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)F〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校 職員室

:枯堂榮 中島早貴

「ほぉ?この言葉に反応したか?まぁ・・・俺の個人的な意見だがそんな親の仇みたいにピッチリと分けない
 で柔らか味を持たせたほうが女性的なラインが出ると思うぞ?」

ビキビク!
早貴は榮の言葉に眼輪筋をピグつかせるッ。
「そ・・・・・・・そんな事は・・・・・どぅでもいいじゃないですカ!!!ソレより覚悟は出来てますか?
 私は知り合いでも無い貴方に躊躇する理由なんて無いんですよ!!?」

「へへ・・・・安心しろよ?俺も躊躇なんてする気は無いからよォ〜」
と、言うや否や榮は床に転がった黒いゴム球を『スティ・メロウ』で素早く打ち抜く!

闇に馴染む塊が音も無く飛来する。
「キュッ・・・・フッ!!!」
素早くスタンドを使いゴム球を弾き飛ばす・・・・・
早貴の『ワンダフル・ハーツ』では防御するのがやっとの速度であった。
「・・・・このぉッ!」
防御で振り上げた腕の勢いをそのままに榮に向かって鎖を打ち出す!

シュルシュルと伸びる銀色の蛇。
榮はソレを飛び退く様に避け逃げ際に一発ゴム球を弾き飛ばす!
・・・・・鎖の軌道と交差するように打ち出されたソレは一直線に早貴に向かう。

ボッ・・・・・・・
衝撃の音は以外にも小さくゴム球は早貴の鳩尾にノメり込む・・・・
「・・うぅ・・・・ゲ・・・・」
絞り出す様な声を上げ顔面蒼白の早貴は床に膝を突いた。


その姿を見、安堵の吐息を漏らすと榮はハンチングを被り直す。
「ホールインワン・・・・勝負有ったな・・・・・・・それじゃあ俺はファイルを頂いて帰るとするか。
 そこのガラスの破片とかそのままにしとくとヤバいから掃除しとけよ?」
床に伏せた早貴にそう告げると榮はスタスタと寺田の机に近づく。
「え〜と・・・・どれが『リアルレコーダー』ってのだ?暗くて解り   ・・・・・・ッ!!!!」
背後からの戦慄ッ!榮は『スティ・メロウ』を床に突き立て跳躍するようにその身を闇に躍らせるッ。

ベキベキベキベキ!!!!
積まれていた書類を撒き散らしながら寺田の机は『鎖』によってボロ雑巾のようにねじ上げられた!

「おいおい・・・・・まだやる気なのか〜?」
榮は闇に光る瞳を睨む!
「触れさせない・・・・・・・『リアルレコーダー』には・・・・触れさせないッ!!」
苦悶に顔を歪めながら中島早貴は床を踏みしめる。
「・・・・・・ったく、じゃじゃ馬が〜。どうなっても知らないぜ〜。」
ニカリと口に笑みを浮かべる榮の瞳に闘志が宿る。
「それはコッチの台詞ケロ・・・・・・『過去』を知ろうとするヤツはグシャグシャに潰してやる!」
早貴の瞳にもまた火が宿る。何としても使命を果たさんとする信念の炎が!

「へッ」
早貴の言葉を受け嗤う様な声を上げると瞬時にゴム球を3発打ち込む。
ゴム球は全て違う軌道で早貴に襲い掛かる。

直線。右上方からカーブを描き落ちる軌道。左下方から右上に伸びる軌道。

直線の軌道や左下方の軌道を防げばガードを飛び越して右上方の軌道の球が頭蓋骨に直撃する。
右上を嫌がれば直線や左下、どちらかを喰らう!
速度的にそれらを避けることは出来ない!
防御をすれば何れかのゴム球を喰らう!究極の選択!榮の秘技『空撥打撃球<ビヨンド・スクリーム>』だ。
「これを破ったヤツは一人として 居ない。」
榮は嗤う!勝利に酔った訳ではなく自ら打ち出した回転の妙技に!

三方から襲い掛かる魔弾!

それに反応した早貴の行為は
以外ッ。
早貴はどれも避けようとせず榮に向かって突っ走る!

前方に避ける。有り得ない発想が榮の魔技を色の無いモノに変える!
当たり損ねたゴム球は「然程」ダメージを与えず早貴は榮に向かって間合いを詰める!

ドドド
    ドドドド
ドド

「こ・・・・このガキ、正気か?・・・・自分から突っ込んできやがる何て?!!!!」
常に冷静で心揺らがぬ様に徹している榮の表情が驚愕に歪む。
「キュフ・・・・・・コレが覚悟の違いだケロォォォオォ!!!!!!!」
早貴は痛みに歯えを喰いしばりながら『右手』を榮に振り上げる!
「や・・・・やばい・・・・・『接近戦』はヤバイぜェーーーーー!!!!!」
触れる距離の敵に榮の顔が蒼ざめる・・・・。
「やっぱり・・・・・遠距離型で近距離は非力!早貴の『右手』で挽き肉にしてやるケロッ!」
『ワンダフルハーツ』の右手が榮に触れる。
「・・・・・・やらいでか!」
ドボぉぉお。

「え?」
早貴の身体に銀色のゴルフクラブがのめり込む!

・・・・・・・・ギュンギュンギユンギユンッ。
「きゅふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・・・」
『ステイ・メロウ』で打ち出された早貴の身体は縦回転をして職員室の壁に激突した・・・・・。

「い・・・・・痛ぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
攻撃を加えた筈の榮が両手を開いて蹲る。
「お・・・・俺の『スタンド能力』は重いモノを打ち出す為の物じゃないんだよ・・・・・・だから接近戦は
 したくないのに・・・・・・・・・ぁぁあ・・・手首が痛ぇぇ〜〜〜〜〜〜・・・・」
痛みを堪えながら榮は立ち上がり周囲を見回す。
散乱した書類の中から目的のファイルを取り上げた。
「これが・・・・・『リアルレコーダー』か?」

・・・・・・?

「何だ?この感覚?・・・誰かに・・・・・見られてる?」


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)G〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校 屋上

:矢口真里 ???? ??? ??? ????

「ふぇ〜・・・とんでもない事になったナぁ。」
矢口真里は自らのスタンド『ブンブンサテライズ』からのビジョンを詳細に書き記す。

「・・・・でも・・・コレはどう報告したら良いのか・・・・紺野や小川が『嗅ぎ回ってる』ってのは
 報告済みだけれどあの中坊のナツヤキって子の行動・・・・それと演劇部の三好と中島の倒した柴田と
 菅沼の仲間・・・・・・正直ヤバいね・・・・今まで行動が外に向いてたからあえて野放しだったのに
 ・・・・この事が伝われば・・・・・   ?   ッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

報告内容を思案していた真里が溺れるようにもがき始めた!!

「・・・・ゥウゥウ・・・・」
短く呻くとパタリとコンクリに倒れ込んだ・・・・・・・・・・・・・

「へへ・・・・・・ちょいと口の周りの空間を干渉させて貰ったぜ。」

「サテサテと・・・・。記憶はここ3ヶ月くらいの記憶を2週間程、消しとこうか?」

「でもさぁ?コイツはあの寺田に加担してるよーなヤツだろ?やっぱり殺しておいた方が・・・」

「私、そーゆー事言う人キラーイ!」

「ぇえ!ぁあぁ・・・ああ!冗談!冗談だよ。斉藤さんッッ!」

「やれやれだにぇ。こんな二人は放っておいてマサオくんッ!とっととやりたまえ!」


銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)H〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校 

:夏焼雅 紺野あさ美 小川麻琴 柴田あゆみ 枯堂榮

「ったく・・・・なりは小さくともこの位の子供は結構重いな〜」
気を失った中島早貴の肩を掴み引き摺る様にして榮は校舎から出てきた。

雅の落下地点の辺りに目をやると数人の人影が見える。

「何だ?・・・・戦闘しているって感じでは無い様だがミヤビの仲間か・・・・?」
訝しみながら榮は雅ら居る方に足を向ける。
「お〜い。ミヤビ!『リアルレコーダー』・・・確かに取ってきたぜ〜」
榮はファイルをビラビラと振ると雅に差し出す。
「・・・・・・榮クン?」
雅の後方にいたあゆみが近づいて来た榮に声を掛ける。
「アユミ?久ぶりだな〜。お前なんでここに居るの?」
あゆみの顔を見ると榮は懐かしそうに顔を綻ばす。
「ミュン?『なんで』はこっちの台詞ミュン!榮クンこそなんで中学生なんかと・・・・」

「伊達さんの要望でな。まぁ結局は『ディープパープル』に良い様に使われたがよ〜」
あゆみの言葉に榮は自虐的な笑みを浮かべて答えた。
「『ディープパープル』?・・・・・あのじぃさんが?」

「・・・また裏で指揮ろうとしてるみたいだからよ〜。アユミも使い走りにされない様、気を付けとけよ?」
ずるりと早貴の身体を地面に置くと榮は踵を返した。
「じゃあ俺はここまでだ。また何かの機会があったら逢おうぜ〜・・・・・」
それだけ言い残すとスタスタと歩き出し榮は消えていった。

「柴田さん・・・榮さんの事を知ってたんですか?」
早貴の身体を引き起こしながら雅はあゆみに問うた。
「まぁ・・・知り合いって言えば知り合いカナ?・・・前にね怪我して病院に送って貰った事もあったし」
それだけ答えるとあゆみは早貴の足を持ち抱え上げた。
「表の道路に私の車があるから・・・・それに乗っていってくれる?」
あゆみは怪我をしたあさ美や麻琴に自分の車に乗り込むように促した。
早貴を後ろの座席に積み、二人が乗車したのを確認するとあゆみは絵梨香を連れて来ようと倒れた場所に急ぐ

「・・・・・・・そんな・・・・。」
あゆみの顔に緊張が走る。
その場所に絵梨香は居らずただ何かが這いずった様な後が残っているだけだった・・・・・・・・・

銀色の永遠 〜クレナイの狂想曲(コンチェルト)H〜

8月15日

ぶどうヶ丘公園

:岡井千聖

「わわ・・・・・・どうしたのッ?一寸、待ってよ『チッサー』!」
『チッサー』と呼ばれたゴードン・セッター犬は飼い主で有る岡井千聖をの腕を振り切らんばかり引っ張った。
・・・・ズルリ
千聖の手から紐が外れゴードン・セッター犬は勢い良く茂みに突っ込んでいった・・・・・

「もぉ〜!何してるの〜・・・・何時もはこんなにワガママなんかしないのに・・・」
千聖は半泣きになりながらゴードン・セッター犬の後を追った。

ズルズル・・・・ズルズル・・・
ゴードン・セッター犬は夜の闇から何かを引き摺り出してきた。

「え・・・・・何・・・チッサー・・・何なのコレ?」
突然の事に千聖の思考回路が止まる。

「・・・・うぅうぅ・・・・うう・・・」
夜の闇から引きずりだされたショートカットの女子高生は苦しそうに呻いた・・・・・。

「だ・・・・・大丈夫・・・ですか?」
千聖はおずおずと声を掛けた。

「だ・・・誰・・・唯やん・・?・・石川さん・・?」



TO BE CONTINUED・・・