363 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:07:15.53 0


銀色の永遠 番外編  〜 女子かしまし物語 〜


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


こんにちは。

これから…私の愛した友人を紹介したいと思いますが私は非常に心配です。

なぜなら彼女達は高校生にして悪魔的能力を持ち、男の子に対してまったく
引けをとる事のない、演劇部の中でも最も恐るべき姦し娘達だからです。

演劇部とは私の所属していた部活のことです。
舞台発表とは表向きの活動であり、その実態は…とてもお教えできません。

彼女達の行動は自分達の欲求に忠実で、邪魔する者は例え聖人であろうとも
容赦なし!我を押し通す者ばかりなのですが…

私は勇気を出して一編のエピソードを公表したいと思います。

しかしなにぶんも…関係者からの復讐と金銭的請求が考えられますので用心して…
彼女達の行動としては比較的"静かな"…

『バスケットゴール破損事件』を公表します。

これは私が彼女達の勝手でくだらないイガミ合いに巻き込まれた土曜日の話です…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


364 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:10:42.28 0

そこは狭くほこりくさい場所だった。
古い机や脚の曲がった椅子が無造作に積まれ、黒板にセロテープで貼られた
大きな世界地図は日焼けして色あせており、今にも剥がれ落ちそうになっている。
壁に立てかけられた何本もの小汚い蛍光灯は、きっと全て寿命が切れたものであろう。
中には割れているものまであった。床に散らばった破片は片付けられてさえもいない。
錆びた譜面台などの鉄クズも所々に見受けられる。

ここはいったいなんなのか?

本棚に納められていた教科書や事典の類はどれも古めかしいものばかりであった。
恐らくこの場所は、以前はなにかの授業の準備室だったに違いない。
では何の準備室だったのか?そこまではわからないが、わかったところで
嬉しくもないので、この場所の第一発見者である私はそれ以上考えなかった。
ところが、私がそうでも他のみんなはそうはいかなかったようだ。

「すげーなぁoioi!!ここ、いったい何に使ってたンだろーなァ!?」
「私達の教室の半分くらいの広さですからねぇ〜…なんにせよ、使われなくなった
今ではただの物置として扱われているようですが…」
「これじゃゴミ置き場なのだ。にしても、ぶ高にこんな場所があったとは…ニィ」
「ねぇねぇ、ここ僕らで掃除しない?片付ければさぁ〜けっこうイイ
空間になると思うんだよね〜」
「それ賛成なの。他のみんなには秘密にしちゃったりなんかして」
「なんだか秘密基地みたいっちゃね!カッコよか!!元ゴミ置き場ってことに
ちなんでここを『夢の島』なんて呼ぶのはどうやろ??」
「シカシ…けっこう手間かかると思うやよ〜。特にこの机のバリケード…
けっこうな力仕事になるがし。マンパワーが欲しいところやね」

「じゃあ吉澤さんを呼んで来ましょうッ!!」

「バカ、よせやい。気持ちはわかるがよっちゃんさんなんか呼んだらここで
練習サボろうとしてンのがバレるだろーが。それよりよぉ〜…」


365 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:13:32.15 0

この中でも最も悪知恵に長けているであろう先輩、藤本さんが私の顔を見て
ニヤニヤと笑みを浮かべた。
なんだそのイヤらしい表情は。何をさせようっていうんだこの私に。

「お、ナルホド。こーいう事に関しちゃミキティは頭がいいなァoi。ワルだネ」
「オメーだってそうじゃないのかよ。美貴はまだ何も言ってネェw」
「あ・・・・・僕、藤本さんが何を考えてるのかわかりかけてきたぞ・・・・」
「亀子、あんたもスッカリそっちの世界の仲間入りだナァ」
「え?え??そっちの世界ってなんの事っちゃ?も、もしかして・・・・・
あーしたりこーするような危ない関係が・・・・」
「ちょ!田中っち、それ違うからぁ!!まったくも〜」
「でもすごく助かります、作業も一瞬ですもんね」
「ささ、そうと決まればパッパと終わらすの。小春ちゃん」

まさかこの人達、そんなことのために"彼ら"をコキ使おうと…?
まぁ…いいだろう。私だってこの空間を有意義に使ってみたいという気持ちがある。
というわけでビスケッツのみんなゴメン!!

「ミラクル・ビスケッツ!!!」
ドッギャ〜ン☆

その場に残ったのは本棚と、まだ使えそうな机と椅子…それからところどころが
凹んでしまっているが、教卓なんかも残しておいた。
あの電気スタンドも電球を変えれば使えそうな気がしたので捨てなかった。
細かい蛍光灯の破片やゴミは先輩方にまかせ、私は9人分のお昼ご飯を
買いに行くため空き教室を一端出るとお弁当屋さんへと走ったのだが…

真に腹が立つのはここからだったのだ。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


366 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:15:36.49 0


「みなさーん!!お弁当買ってきましたーっ!!!」

私が威勢良く綺麗に片付いているハズの空き教室に足を踏み入れると、予想外!
そこはナマケモノの巣堀だったのだ。

「お、おかえり。遅かったなぁoioi」
「もうお腹ペコペコです」

oioiと言いたいのは私の方だ。
小川さんと紺野さんはハタキも持たずに床に座っていた。
二人だけじゃない、みんな何もしてないじゃないか。何してたんだ?

「おべんとおべんと嬉しいなぁ〜♪小春ちゃんありがとうなの」

道重さんが私の手から人数分のお弁当が入った袋をひったくる。
なんというか…彼女に悪気はないんだろうが、その力加減が微妙にイラッとさせた。
でもイライラしたってしょうがない。みんなにお弁当を配る手間が省けたんだから
それはそれでよしとしよう。さて、私も一休みして…

「・・・・・・ちょっと小春ちゃん何これ?」
袋から弁当箱を取り出した道重さんのテンションが下がる。

「何って幕の内弁当ですけど、見てわかりませんか?」

「そういうことじゃないの。どうして幕の内弁当なの?ちょっと何考えてるのかしら。
大仕事したあとなんだから、ふつうは生姜焼き弁当とかヒレカツ弁当を選ぶモンなの。
やだ、ホントなに考えてるのかしら。幕の内弁当なんかでスタミナつくと思うの??」

大仕事をしたのはビスケッツのみんなだ。
道重さんや他のみんなはそれを見てギャーギャー騒いでただけじゃないか。


367 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:18:24.93 0


「なに?幕の内ィ〜!?美貴、肉食いたかったんだけど!!」
「ワタシも」
「ごめんなさい、コンコンもです」

なんだこの人たち。
人がわざわざ買ってきたものにケチつけようっていうのか?
買いにいくとき何も注文してこなかったくせに。

「コラコラ、みんな。後輩が買ってきたものにあーだこーだ言うのは良くないのだ。
それにもっさんはお肉ばっかり食べすぎ〜!!たまには野菜もとるのだ」

「はぁ〜?葉っぱなんか食ってらんねぇなーッ!ま、買ってきちまったもんは
しゃーねぇ。肉少ないけど幕の内で我慢すっかぁ」

初めからそうして大人しく箸を握ってくれという話だ。
常識人は意外だが新垣さんだけか。

昼食をとってから、みんなで大掃除を始めた。
ほうきで床を掃き、ハタキをかけ、雑巾がけをして・・・・・・
だが真に頑張っていたのは私だけだった気がする。
みんな、ここにはアレを置きたいだのここにはコレを飾りたいだのと
ベラベラしゃべっているばかりで、まるで手が動いていないように見えた。

・・・・・部室にも行かずに私は何をしてるんだろう?
こんなことしてるせいで今日はまだ吉澤さんに会えてないぞ。
でもこの教室『夢の島』を自由に使いたいなぁという気持ちも強いし…まぁいいや。
あれこれ複雑に考えるのはよくない。


やがて教室の窓から差し込む光が橙色に変わり、空は藍色に染まった。


368 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:20:49.88 0


パチンパチン。
部屋が明るさを取り戻す…この教室、電気が通っているようで何よりだ。

時間が時間だけにほとんどの生徒が下校していてもいいハズなのだが、
なぜか体育館のほうからダムダムと何かの弾むような音とキュッキュッと
ゴムが擦れる音…それにたくさんの若々しい声が聞こえてくる。

あれはバスケ部だな…私はクラスのバスケ部に所属している友達が、
来週に控えているライバル校との試合に備えて今日は学校に泊り込みで
練習するとかなんとか言っていたのを思い出した。


「ねぇねぇ小春ちゃん。この棚どー思う?」

道重さんが、さっき私が丹精込めて拭きあげしたアルミ製の棚を指して言った。

「さゆみとしては、これをどかせばもっとこの教室を広く使えると思うの」
「はぁ…確かに」

せっかく拭いたのになぁ…でも道重さんの言う事にも一理あった。
正直この教室、今の状態では一度に十人入るにはちょっと狭い。
しょうがない、これもビスケッツに頼んでどこかへ運んでもらおう…


「ちょっと待つやよッ!!」


行動を起こそうとした私を高橋さんが止めた。
やけに焦っているがどうしたんだろう。


369 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:23:52.24 0

「この棚、あっしが本棚として使うンだ。勝手に処分されたら困るやよ!!」

「はぁ、そういうことでしたらやめときますけど…」

「ちょっと待つの!愛ちゃんってば、どーせいつも部室で読んでる妙チクリンな
雑誌をここにしまう気に違いないの」

「そうやけど、それがどうかしたカァ?」

「どうもこうも、愛ちゃんだけの都合でこんな邪魔くさいもの残しておかれたら
『夢の島』が狭ッ苦しくなってしょーがないの。どうせ愛ちゃん以外使う人はいないの。
だから、これは処分して大きな鏡さんを置くことにするのッ!!」

鏡に"さん付け"するところがどうにも道重さんらしい。
だが、どうやらそんなことに感心しているヒマはないようだ。

「鏡だぁ〜?ハッ!!アホか、それこそ無駄なスペースやよ。鏡なんて置くまでもなく
みんな携帯してンじゃないのカァ〜?」
「全身が写ることに意味があるの。これだけは譲れないの!!」

二人は口論を起こし始めた。
別にどっちだっていいじゃないか…ところが、他人事では済まなくなってきたのだ。

「小春ちゃんはどう思う!?」
「えっ?」
「そうだナァ、元はといえばこの場所を最初に見つけたのは久住だったもんなぁ。
アンタの意見が聞きたいやよ」

そんなこと言われても困るな…正直、興味がない。
迷う私だったが、騒ぎはここだけでは収まらなかった。


370 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:28:22.11 0


「えぇッ!?ガキさん、そこに植木鉢なんか置こうとしとーと?」

「そうだけど、なんか問題ある?」

「いや…れいな、カーテン掛けたいっちゃ。ちょっと可愛らしいヤツ。
でも、そこに植木鉢置かれると危ないっていうか」

「いいよいいよ、カーテンなんて。光合成が出来ればそれでいいのだ」

「そ、そんなのババくさいっちゃ!!れいなは絶対カーテン掛けるとッ!!!」

「バ、ババくさ…?田中っち、今なんて言った…?ちょっと小春聞いた?」


向こうは向こうで新垣さんと田中さんが何か言い争いを始めたようだ。
とりあえず聞こえなかったフリはしたが…

「くそッ、なんか思ったよりココせめぇな…おい亀」

チキシャン♪チキチキシャン♪
亀井さんはどこから持ち出してきたのかCDラジカセをヘッドホンで聞いているため
藤本さんの声が聞こえていないらしい。

「おい亀!!」
「〜〜〜〜♪」
「…うぜぇ」

パパッ。
藤本さんは亀井さんに気付かれないようにCDラジカセの電池ボックスを
開けると手際よく電池を抜き、そのまま窓の外へ放り投げてしまった。


371 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:34:46.12 0


「あ…あ、あれッ?おかしいな止まったぞッ!?どうして止まったんだ?
新しい電池に変えたばっかなのに鳴らないよーッ!ン?電池がなくなってますよ?
まぁいいや、一応プラグは持ってきたし…でも電池の方が音がシャープに
聞こえるような気がするンだよなぁ〜」

「どーでもいいけど亀よぉ〜、ここ狭くね?」

「え…あぁ、うん。僕もちょっと思ってました」

「相談なんだけどさ…おまえ『夢の島』から抜ける気ない??」

「なっ!イヤですよ!!」

「だよなぁ、おい小春!!ここよぉ〜何とかしてもうちょっと広くできねーのか?」


できるわけがない。なんでみんな私にふってくるんだ?
この場所の第一発見者だからか??
そうかと思えば今度は…

「ただいま〜。コンコンの家から冷蔵庫持ってきたゼ〜ッ」

小川さんと紺野さんが小型の冷蔵庫を二人で運んで来たのだ。
いなくなったと思ったらこんなものを取りに行ってらしい。

「むかし使っていたものがちょうど物置にありましてね。せっかくだから
ここで使おうと思って持ってきたんですよ。見ての通り小型ですから
あまりたくさんモノは入りませんが」

笑顔で語る紺野さんだったが、藤本さんと亀井さんはあまりいい顔をしなかった。


372 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:38:55.66 0

「おいおい、待てって。そんなもん置いたらますますココが狭くなんだろーが。
だいたいそれで何を保存しとく気だよ。食いモンか?」
「そうだよ、ジュースとかは生徒ホールの自販機で買えばいいんだし…
何も貯えておく必要はないんじゃあないかなぁ〜」

「まぁまぁ、二人ともそんな顔すんなって!今は何もかもが企画の
段階なんだからよォ〜とりあえず使ってみようゼ」

そう言いながら、小川さんは嬉々と冷蔵庫のアダプターをコンセントに近づけた。
彼女にしてみれば、あの中にジュースを入れて冷やすことを想像しただけで
愉快な気持ちになれるのだろう。

そして、小さな冷蔵庫に電源が入った瞬間…


プツン・・・・・・・・・・・・・・・・・・

辺りは真っ暗になった。
ど、どうしたんだ…?


「オ…oioi!!なにが起きたんだーッ!?」
「きっとブレーカーが落ちたんですッ!!CDラジカセと冷蔵庫を一緒に使ったから!!」
「ま、まずいのだ…真っ暗なのはココだけじゃないッ!!外を見るのだ!!!」
「こ…この校舎だけ…どこも電気ついとらんばい!!!」
「真っ暗なの!真っ暗なの!!」
「さゆ大丈夫だよ!!僕がついてるからこっちへおいで」
「うっ!うおぁあぁあぁぁッ!!誰だ!離せッ!美貴にやらしい手つきで
抱きついてくんなーッ!!と、鳥肌が…」
「ま、まずいやよ…この停電、ブレーカーが落ちたことに原因があるのなら…
あっしらがここでワケわからんことしてたのが先公にバレるかも知れンッ!!!」


373 :1:2006/12/10(日) 06:42:45.20 O





             そ れ は ま ず い !!!








374 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/10(日) 06:45:27.30 0


ダダダアアアアアアアアアアッ!!!

その瞬間、私はその場を嵐が吹きぬけたように感じた。
騒がしかった『夢の島』が一瞬にして静かになる…
先生か誰かが対処したのか、やがて電気が再び部屋に灯ると…そこには誰もいなかった。

ちょっと待てーッ!!
みんなして私を置いてどこかへ行ってしまったのか?
な、なんてひどい人たちなん…


「おい!!そこに誰かいるのか!?」

「げッ!!」

ドアの向こうから男性教師らしき大きな声が聞こえてきた。
まずい…出入り口はあそこだけッ!!もう逃げられない!!!

見つかる事は確定的…CDラジカセや冷蔵庫の言い訳なんて思い浮かばないよーっ!


「あわわわわ…」


ガチャッ!!

狼狽する私にはお構いなしに、空き教室の扉はついに開かれた…!!!


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 20:59:11.34 0

扉を開けた先生と目が合う。
「・・・・・・何してるんだ?こんな所で」
「い、いやあの…ここ、空き教室なんですねー!!ヘラヘラ」
「きみバスケ部員かね?違うならもうすぐ下校時間だから早く制服に着替えて
帰るんだぞ。しかし…こんなところに空き教室なんてあったっけ?物置は向こうの
校舎だったか…はて?」
独り言をブツブツとぼやき、先生は『夢の島』から出て行ったのだった。

「あ、危なかった…『ミラクル・ビスケッツ』で見られたらマズいものは
すべて分解して隠したけど…間一髪だったな…ふぅ〜」

・・・・・・・・やがて、騒がしい話し声と共に姦し娘たちが戻ってくる。
私をここに置いてきぼりにしたひどい人達だ。

「とにかくワタシはあの冷蔵庫を置くゼッ!!ここまで持ってくるのだって
苦労したンだ…今さら持って帰るなんて無理だゼ!?なぁコンコンッ!!!」
「その通りですッ!!」
「うるせー!!美貴はぜってー冷蔵庫は反対だねーッ!!これ以上狭くなったら
たまんねーからな!!あたしは寝そべるスペースが欲しいンだよッ!!なッ亀井!!」
「うんッ!!!」
「鏡なんて間に合ってるモン置く必要ネェ〜やよ!!絶対あの棚は残すッ!!!
あの棚の代わりは他にないンだカラなぁーッ!!!」
「本棚なんて家にいくらでもあると思うの。個人的な娯楽のためにさゆみ達まで
狭い思いをするのはゴメンなの!!!あそこには鏡を置くたら置くッ!!!」
「カーテンなんか掛けて大事な花にひっかかったらどうするのだ!!
日当たりだって悪くなるし、な〜んにもいいことはないのだッ!!!」
「花だか盆栽だか知らんけど、あんなモン部室にもいっぱいあるけんッ!!
なにも『夢の島』に飾る必要はなかとッ!!!」

何やらイガミ合っているようだ…これだけの自由なスペース、みんな好きなようにして
使いたいようだが、全員の願いを叶えるにはあまりにも狭かった。


34 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:04:32.78 0

「あーもう!うぜぇうぜぇ!!おめーらは抜けろッ!!いつも部室で菓子とか
食い散らかしてるしよ〜ッ!!ここもそんな風に使われたンじゃあアリンコが
たかっちまうぜボケッ!!!」

「みんなより出席率のわりーミキティこそ抜けたらどうダイ??たまにしか
部活出てこねーくせにこの場所まで好き勝手に指示されちゃ困るゼoi」

「そうやよ、よくよく考えたらなんでアンタそんなに偉そうなんよ!?
学年がちょっと上だからなんだってンだ…あ、ミキティが抜けるってンなら
鏡を置いてもいいやよ、さゆ。一人分スペース空くもんナァ??」

「はぁ〜??スペースがどうとかの問題じゃないの。さゆみは本棚自体が
邪魔だと言っているの。全存在がうぜーんだよってヤツなの」

「とにかくわたしの可愛いお花達は置かせてもらうのだ。これだけは譲らないから」

「なんなのさガキさん!!いやガキさんだけじゃない…紺ちゃんもまこっちゃんも
愛ちゃんだって!!なんで邪魔なモノを置いてスペースを削ろうとしてるの?
それじゃさっきまでの物置の状態と何も変わらなくなるじゃないかーッ!!!」

「邪魔なもの…ですって?聞き捨てなりませんね!!生活における必需品ですッ!!」

「必需品ンンン?どれもアンタらにとって都合のいいモンに過ぎないと違うか??
れいなからしたらココには必要ないモンばっかりやけん!!!」

な、なんだなんだ?
それぞれ個人的だったハズの口論がいつしかグループ化し始めているじゃないか。
なんて人達だ…私が必死に先生をあざむいている間、彼女らは私の事を心配することもなく
ずっと『夢の島』のことで討論していたっていうのか!?

ひ、ひどすぎる…ここを片付けたのはほとんど私なんだぞーっ!!!?


35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:08:04.52 0

「そうだ、小春に決めてもらおう」

誰が言ったか、私の名前が挙げられた。
みんなが私を見る。
なに?この奇妙な視線。

「そうだゼ、小春に決めてもらうか…最初にここを見つけたのは小春だモンなぁ」
「そうですね。決定権を持ってるのは小春ちゃんです」
「ふっふっふっ…小春ちゃんが決めるというならこの勝負、普段からこの子と
一緒にいるさゆみに分があるの!!ねっ!小春ちゃん♪」
「アホかオメ!!久住ッ!!ちゃんと対等な立場で選ぶンやよ!!!」

「な・・・・・・・・っ」
なんで私がそんなこと決めなきゃならないんだーッ!!!
本棚置こうが鏡置こうがカーテン掛けようが観葉植物飾ろうが私には
まるで興味のないことなんだッ!!
ただ、こーいう秘密基地みたいなスペースにワクワクしてただけなのに!!!
声に出さなかったそれは誰にも伝わる事はなく、私はうつむくだけだった。
それがさらなる事態を引き起こすことになろうとは…

「小春ちゃん、なぜ答えないと?」
「あ〜っ!イライラする!!小春ッ!!答えられないんだったら
まずオメーから抜けろッ!!!」

し、しまいにはなんて事を言い出すんだ藤本さんって人はーッ!!
自分でなにを言ってるのかわかってるのか?

「い、イヤですよ!!言わせてもらいますけど…ここはほとんど
小春が片付けた場所なんですッ!!!」

「だったら早く決めろよッ!!誰を残すか!?誰を切るか!!?」


36 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:12:10.94 0

残すとか切るとか、狭いからってそこまでするか?普通…
だれか自分から折れるような心の寛大な人はいないのか??

「小春!」
「小春ちゃん!!」
「久住!!」

夢の島でみんなの呼ぶ声が縦横無尽に飛び交う。
う、うるさい…なんで私がこんなことで苦労しなきゃならないんだ…
買ってきたお弁当にはケチつけるし…ッ!!

「oi小春!!」
「早く決めるの!!」
「誰を残すか?小春ちゃんの好きな人をありのまま答えればいいんだよ」
「難しく考えんでいいばい!ありのまま起こった気持ちを話して欲しいと!!」

れいな先輩と亀井さんは嘘くさいにおいがプンプンする優しい表情をつくった。

うんざりだ。
こんなのただの貧乏くじだ…う、う・・・・・・・・・

「うわあぁぁぁあぁぁぁあぁぁあぁあぁぁぁ〜っ!!!!!」

耐え切れなくなった私は思わず『夢の島』を飛び出す。
別に誰だっていいじゃないか!!残りたいならみんな残ればいいッ!!!
でもそれを私に決めさせるなッ!!!!
・・・・・亀井さんは『好きな人をありのまま答えればいい』と言っていたな。
よぅし、それなら望みどおり答えてやる。
私は緩む表情を必死にこらえ、ある場所に向かったのだった。

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


37 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:14:24.08 0


「オメーらッ!!なにやってんだーッ!!!!」


吉澤さんの怒声が『夢の島』に轟く。
グダグダになっていた彼女らの空気は一瞬でピーンと張り詰めた。

「な、なにぃ〜ッ!!!どーしてよっちゃんさんがここに!!!
ま、まさか小春…ッ!!!」
「チクッたのかoioi…この場所をよォ〜ッ!!!」
「な、なんてことだ…僕らの安住の地が…」

吉澤さんの後ろから顔を出すと、皆が絶望している表情がよく観察できた。
紺野さんに至ってはヘナヘナと座り込んでしまっている。

「どこ探してもいねーと思ったらこんなとこでサボッてやがったのか…
舞台で役をもらえなかったヤツらが見たら発狂するぞ??」

そう言って呆れる吉澤さん。
そんな彼の後ろに隠れていた私を藤本さんが睨んだ。

「ぐ…テメー小春ッ!!裏切りやがったなァーッ!!!」

「うわぁ!吉澤さん、ほら!ほら!!」
「こらミキティ!高三にもなって中学生をいじめるンじゃあないッ!!」

「うっ…う…うぅ〜ッ!」

吉澤さんの手にかかれば狂犬のような藤本さんでもすぐに静かになるんだ。
すごい、すごすぎる!!


38 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:17:28.77 0

「…話は聞かせてもらったよ。おまえ達は、この使われてなかった教室を
全部小春に片付けさせた挙句、なんだか狭いってんでここを誰のもんにするか
言い争ってたわけだ。しかもそれもまた全部小春に決めさせようとした、と。
どう?小春、なんか間違ってたとこある??」

「うん、全部小春に決めさせようとしたーっ!!」

「そうかそうか、とんだねーちゃんたちだな。しかし…この学校にこんな空き教室が
あったのかよ…へぇ〜…こりゃあサボるのにうってつけだわなぁ」

「だーッもう!!わかった!わかったよ!!ここでサボろうなんてこたぁよぉ〜
今後一切考えないから許してくれよ〜…小春はあとで美貴んとこ来いよ!!!」

藤本さんは頭を掻き毟り、ビシッと私を指差す。絶対行くもんか。
とにかく、吉澤さんを怒らせるとヤバいことを知っている彼女は(聞いた話だが以前
ボッコボコにされたことがあるらしい)、この場所を諦める決心をしたようだ。
ところが、吉澤さんは意外なことを口走った。


「まぁ最後まで聞けってミキティ。俺は別にここを否定しようって気はないんだよ」

「え?」
みんなの目が丸くなった。
私も例外ではない。

「こーいう微妙な狭さの空間ってさァ〜子供心をくすぐるんだよな〜ッ!!!ガキの頃、
近所のやつらとダンボールや発砲スチロールを集めて秘密基地とか作ったりしたっけ」

吉澤さんが穏やかにシミジミと語る。
…予想外だった。吉澤さんが『夢の島』に肯定的になるなんて。
そして彼は言ったのだ。


39 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:21:08.97 0


「取りあえばイイじゃん?」


「はっ?」
「取りあうって…?」

「この狭さだ…どーせ全員は一度に入らない。おまえらの中からここを使えるのは
四人、それをこれから決めるんだよ」

「四人…ですか?しかしそれはあまりにも少なすぎるような…五、いや六人は
入るスペースだと、コンコンは思っているわけで」

「少なくなんかないさ。おまえらの中の四名プラスあと二名入るンだからな」

「二名…?その二名って誰のことっちゃ??」

「決まってるだろ。俺と小春だよ」

ズバリと彼は言い切ってみせた。


「ちょ、ちょっと待ったーッ!!小春ちゃんはわかりますよ?仮にも『夢の島』の
第一発見者だし…で、でもなんで吉澤さんまで入ってくるのか僕には理解できない!」

「そーだそーだッ!後から来たくせにきったねーぞッ!!」

藤本さんと亀井さんが批難の嵐を浴びせる。
だが、吉澤さんは顔色一つ変えずに答えた。


40 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:23:59.80 0


「おまえらがここを使いたい一番の理由っつーのは部活の合間にここで
ゆったりと休憩したいからなんだろう?つまり『部活』が関わってるってことだ。
ってことは、自ずと部長である俺にも関わってくるってことじゃん?」

「じゃん?じゃねーだろ、さっきからッ!!いったいなんの権限があって…」


「部長命令だ。なんなら、この空き教室使えなくしちまってもいいんだぜ?
夏先生にここの事チクッたらどうなるかなぁ〜ヘタしたら役降ろされたりするかも…」


「そ、それはムチャクチャ困るがし!!!み、ミキティ…」

「チクショウ、よっちゃんさんめ…負けたorz」


藤本さんはついに折れてしまったのだった。
それにしても、吉澤さんの説得力はなにか不思議なものがある。


            「 俺 が ル ー ル だ ッ ! ! 」


            「「「「「「    は ー い ・ ・ ・ 」」」」」」


同じセリフを藤本さんが言っても、きっと反発しか生まれないだろう。
人は自分が正当だと思う権威から命令されると、それだけでもかなり従順になると聞く。
つまり、ここにいるメンツが私も含めて吉澤さんを信頼しているということだ。
信頼がなければ真の権威は生まれないからだ。


41 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/11(月) 21:28:27.01 0

「なにはともあれ…四人かぁ。少ねぇなぁ、oioi」
「しかし、何をもってして決めるんですか?」
「殴り合いとかはイヤなの。顔に傷がつくから」

「そうだなぁ…聞いた感じ、お前らは大きくグループでわけることができるンじゃない?
広くゆったり使いたいミキティ、亀、れいな、重さんの四人と…いろんな雑貨を置いて
便利に使いたい愛ちゃん、コンコン、麻琴、ガキさんの四人…これでチームが二つできる」

吉澤さんはテキパキと手際よく彼女らを説き伏せていく。
すごい…こんなクセのある人達を、何を苦にすることなくまとめてあげてしまうなんて…!
しかもその頃にはもう誰一人文句を発していなかったんだッ!!
やっぱり素敵すぎる!!!

「そしておまえ達は小春に『誰をここに残すか』と選択を迫った…
うん、おまえ達のその考え方は尊重してやりたいと思うんだ。小春にすべて
判断させようっていう、その考え方はな…!!小春、頑張るンだぞ」

「・・・・・・・?」
私に対し、意味ありげなセリフを残して吉澤さんは『夢の島』を出ると、
暗い廊下を進み私達をある場所へと案内した。
その場所とは…

「きゃあ☆ヨッスィーだわ!!」
「よっしーが来たわよ!!!」
「よっすぃ〜!!こっち見てェー!!!」
「ヨッスィーッ!!キャー!!!」

バスケ部が活動している体育館だった!!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


4 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:07:04.35 0


…なんと説明すればいいものか。
私の首にかかった銀色に光るものはホイッスルというヤツだ。
片腕にはバスケットボールを抱えている。


「小春、おまえが審判を務めるんだ。こいつらはおまえに「誰を残すか?」って
選択を迫ったんだよなぁ?さっきも言ったがそれは決して間違っていないんだぜ。
だから俺はこいつらのそんな考え方も尊重したいッ!!」

吉澤さんの考えとは、両チームにバスケの試合をさせて勝ったチームに
『夢の島』を使う権利を与えるというものだった!!
そのために4人ずつのグループを分けたのである…尚、第一発見者の私と部長である
吉澤さんは無条件であの教室を使うことができることに決まった。
私としてはそれだけでお腹いっぱいだ。
あとは道重さん"だけ"加わってくれれば何もいう事はないが…

審判という立場に立たされてしまった今、私情は捨てねばなるまい。



試合はコート全面ではなくハーフコートだけを使用し、両チームで一つのゴールを
奪い合う、いわゆるストリートバスケのルールで行う!!

ゴールが一つなので、相手のボールを奪ったら必ずリセットゾーン(コート全面を
使用する際に言う中央線)までボールと両足を戻して初めて攻撃を開始できる!!!

試合時間は十分ッ!!
シュートはフィールドゴール一点、2ポイントラインの外からのシュートは二点!!

ハーフコートなので開始はジャンプボールではなく先攻、後攻を決めて試合を始めるッ!


5 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:11:07.58 0

「でも吉澤さぁん。ハーフコートで4on4ってことは、コート内に八人も入ってる
状態になるんですよね?小春的には〜…それってすッごく狭いと思いますっ!!」

「理想は3on3だよな…そーすると選手交代性を採用したいんだけど、試合時間十分っつー
短い時間でそれはちょっと厳しいじゃん?校外にランニングに出て行ったバスケ部の連中が
いつ戻ってくるかわからないから、それ以上試合時間を伸ばせない…って〜のもあるが、
小春は今のこいつらに試合を端から黙って見ていられるヤツが一人でもいると思う??」

吉澤さんに促され、私は八人のかしまし娘に目をやる。
その豹のような目つきと鷹のようなオーラは言葉にせずとも

『自分がこいつらを出し抜いて奥歯ガタガタいわせてやる』

と語っていた。
なるほど、この様子じゃ選手交代はまずないな。

「それと…一つだけ忘れないでほしいことがある」

吉澤さんが真剣な眼差しで私を射抜いた。
いつだったかの指令の時と同じ、マジメな表情だ…吉澤さんがこうなった時だけ、
私は彼への想いを忘れかけてしまうほど身が引き締まるのだ。

「これはフットサルにも言える事なんだが…ストバスには『こうじゃなきゃダメ』とか
『こうであるべき』っていう共通のルールはないんだ。それに試合が始まったら
何が起きるかわからない。いざとなったらその場で勝手にルールを考え作るような事に
なってしまってもいい。要はみんなが楽しけりゃいいんだ…例え何かを懸けた闘い
だったとしても…私は小春の判断力に期待しているよ」

「・・・・・・・・ハイッ!!!!!!」

バァ〜ン☆


6 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:12:48.76 0


公正なるジャンケンの結果…

先攻は藤本さんをリーダーとした道重さん、れいな先輩、亀井さんの四人で
結成された『チーム・ミキティ』!!

後攻は新垣さん率いる高橋さん、紺野さん、小川さんが結束した『チーム・ガキさん』!!


「美貴達からのプレイボールなんて幸先良すぎるぜ…ワリィなぁ麻琴ォ。
たぶんオメーらにボールは回らねぇよ」

「勘違いされちゃあ困るゼ〜oioi。ハンデにしちゃあ足りないくらいだナ…」


試合開始直前になっても二人はいがみ合っているようだ。
いや二人だけではない…みんな相手チームに対しそれぞれの念を抱いている。

う〜む…気持ちはわかるがこんなんで吉澤さんの言うように
「楽しく試合!!」なんてできるンだろうか?


「さぁ、とっととおッ始めるばいッ!!」
「小春ちゃん、試合開始のホイッスルを鳴らすの!!!」

「ちょっと待て、おまえら」

急いている彼女らに静止を呼びかけたのは他でもない、吉澤さんだ。
彼はジャージのポケットに手を突っ込んだまま、女の子しかいないコートに
ツカツカと入り込んできた。


7 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:20:30.80 0


「何だ?よっちゃんさん、こっちは早く決着つけたくてウズウズしてるってぇのによ〜」
「まぁまぁ…みんな、何か忘れてやしないか??」

そう言ってポケットから右手を出し、下を向けて差し出す。


「俺ら十人には…何かをやるぜって時に"すること"があったよなァ〜?
舞台の本番前とかよぉ〜ここ一番に団結するときにする儀式みてぇーなもんがさァ」

「・・・・・・・でも、それをみんなでやるのかヨ?」
「こいつらとこれから闘うンやよ?」
「僕もここでソレをやるのはなんか変だと思うなァ」

「押忍に始まり押忍に終わるっていう武道の真髄とか知らない?
勝っても負けても恨みっこなし、正々堂々と勝負…これで決着がついて
どっちのチームが『夢の島』を使うことになっても決して喚いたりしないと
全員で誓うんだ。当事者も傍観者も関係ナシにな…!!」


吉澤さんがそう言うと、みんな静かになる。
きっと全員自分の心の中で何かと葛藤し、納得しようとしているのだ。

そして…

「しゃあねぇ・・・・・・やるか!!」
「そうですね。勝っても負けても恨みっこなし…です!!」
「かなわないのだ、吉澤さんには…ニィ」

やがて、差し出されていた吉澤さんの右手に全員が手を乗せ、
私たち十人はコートの中で円陣を組んだのだった。


8 :1:2006/12/19(火) 08:20:49.68 O




         「 が ん ば っ て い き ま っ ・ ・ ・ 」


           「「「「「「「「 し ょ い ! ! ! 」」」」」」」」






9 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:25:16.02 0

ピィーッ!!
試合開始ッ!私が鳴らしたホイッスルの音が体育館に響き渡る!!!

先にボールの主導権を握っているのはチーム・ミキティだ。
藤本さんはバスケットボールを規則正しくドリブルしている。

「へへん…美貴、球技は得意なんだよね〜。オルァどきなッ!!!」

華麗なフットワークで藤本さんが紺野さんのディフェンスを交わす。
さすが球技は得意と言うだけのことはある動きだ。
去年の秋に行われた球技大会でのドッジボールでも彼女は大活躍だったと聞いている。
ちなみに藤本さんの本命は私と同じバレーボールなんだそうだ。

そんな藤本さんの前に新垣さんが立ちはだかった!!

「ガキさん…あんたはバスケ得意なんだってなァ〜?でも美貴を止めることは
できねぇぜーッ!!この試合、あたし一人で十分だ!!!」

「甘いのだ、もっさん…バスケはチームプレー!!誰か一人のスタンドプレーで
勝利をつかめるほどヌルいスポーツではないのだッ!!!」

「ぬかせッ!!ほらほら、右がガラ空きだよ〜んッ!!!!!」

藤本さんが新垣さんの右へ出る!新垣さんは俊敏に反応して右へ身体を動かすが…
なんと藤本さんは右へ出ると見せかけて左へ抜いていったんだ!!!

視線だッ!右に視線をやりながら左へ動いたんだ!!!
なんというフェイク!!藤本さんはなかなか出来る人だぞ…

しかし何故だろう?
新垣さんってば、抜かれたハズなのに一瞬『ニィ…』と微笑んだような…


10 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:28:23.35 0

「このまま行かせてもら…アレ?」
ドリブルの規則正しいリズムが途切れた。
その理由は一つだッ!!

「ボールがねぇッ!?」
そう、藤本さんの手からボールがなくなっていたのだ!!!

ダムッ…ダムッ…ダムッ…
か、彼女の代わりにボールをついているのは…!!!

「oioiミキティ。ワタシらにボールは回らないんじゃなかったのカイ??」

お、小川さんだ…!!!!


  ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


見えなかったッ!!
小川さんは…いつ藤本さんの手からボールをカットしたんだ!?

「もっさんが左へ抜けていくのはわかっていたのだ…例え視線でフェイクしようとも、
足を一歩右へ踏み出そうとも…すべての動きの要である腰を見ればどちらに
進むかは一目瞭然ッ!!あえて抜かせたのだ…まこっちゃんへ繋げるために!!!」

「ちッ…経験者ってのは伊達じゃあねぇみてーだな…しかも麻琴のヤツは…!!」

小川さんは、スイスイと滑らないはずの体育館の床をまるでスケートリンクの上を
滑走するように進み、道重さんや亀井さんを華麗に抜いていく!!!
早い…早すぎるドリブルだ!!!
あのスピーディーな動きッ!!間違いない…彼女はッ!!!


11 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:31:25.24 0


「FRIENDSHIP…麻琴テメーッ!!まさかスタンドで摩擦をなくして…ッ!?」

「これがホントの『スタンドプレー』…なんてネw」

おどけながら、あっという間にリセットゾーンまで戻ると、そこからは
チーム・ガキさんの攻撃が始まる!!!

「みんな、ワタシに追いつけるカイ?無理だよなァ〜例え亀ちゃんのように
足が速かったとしても…ワタシを捕らえることは出来ないゼーッ!!!」

「や、やべぇ…誰か麻琴を止めろーッ!!ゴールに向かわせるな〜ッ!!」

ついさっきまで余裕そうな表情を浮かべていた藤本さんに急に焦りの色が見え始める。
それもそのはずだ。仮に小川さん止めに入っても、そのスピードは尋常ではない。
これはチーム・ミキティにとってかなりの脅威じゃあないだろうか…?

「止まるばいッ!!」

ゴールを目前にした小川さんの前にれいな先輩がディフェンスに入ったッ!!
でもダメだ…きっと他のみんなのようにすぐにスイッスイと抜かれてしまうだろう。

「どらぁッ!!!」
「おっとっと」

ちょん。
れいな先輩のカットは惜しくもボールに指先がちょびっと触れただけで
虚しく宙を切り、小川さんに先を行かれてしまった。
その先のゴール前には誰もいない…すべてのディフェンスは突破されたのだ!!
早くも先制点をとられたか…と思ったその時!!!


12 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:34:49.89 0


ドズンッ!!!ゴロゴロ…

ドリブルとは明らかに違う、何か重たいものが床に落ちた振動が私の足に伝わってきた。

スカスカ…
「あ、アレ??」

小川さんはボールをドリブルしていた手を空振りさせ、
そのままゴール下へとたどり着いてしまった。

「よかったばい。指先だけでも触れることが出来て…」
「お…oioiれいな!!おま…」

「ボールを石に変えたと。石は弾まんもんなァ〜?さて、こっから
れいなも張り切っていくんで世露死苦ッ!!!」

ボールを石に変えるッ!!
れいな先輩は初めからそれを狙っていたんだッ!!!
彼女が『デュエル・エレジーズ』で石にしたボールはみるみる元の橙色に戻り、
再び普通のバスケットボールへ姿を変えたのだった。

「ちょ、ちょっとタンマッ!!ボールを石に変えるとかよォ〜それ違くナイ??
バスケしゃなくない??これはファウルじゃあないのカイ??小春ぅ〜っ!」

「そんなこと言ったらまこっちゃんのFRIENDSHIPだってファウルだと思うの」

「でもワタシはボールを攻撃したりしてね〜ゼ?」

小さな言い争いが始まってしまった。
やれやれ…これは困ったな。


13 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:37:55.53 0


「これはどうなのさ、小春ちゃん」

「そうですね…ルール上はボールを蹴るのは反則ですが…別にスタンドで
攻撃しちゃあダメとは書いてないですからね」

吉澤さんが手帳にわかりやすく書いてくれたバスケのルールに目をやりながら、
そりゃ書いてるわけないかと我ながら思う。

「そもそもストバス自体のルールが曖昧なんですっ。こうじゃなきゃダメ!っていう
ルールはありませんからね」

…というのは知っての通り吉澤さんの受け売りである。
彼は隅っこで壁に寄りかかり黙って私達を見つめていた。

「じゃあこうしましょうッ。スタンドで相手チームの選手そのものを攻撃するのは
ファウルとします。ボールやそれ以外の物に対してはファウルをとりませんっ!!」

その時、私は思った。
『いざとなったらその場で勝手にルールを考え作るような事になってしまってもいい』
吉澤さんが言っていたのはこの事だったんだ。
そうだ…ここにいる私達は、少なからず普通とは違う。
だから試合展開も普通のそれとは変わってくるに決まっているッ!!!

と、いうわけで…


「試合再開ッ!!!」

ピーッ!!
ホイッスルを鳴らし、さっきの状態から再び試合は動き出した!!!


14 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:40:48.66 0


「れいなは一人で攻めようなんて思わんッ!!今こそ友情パワーをフルに
使うっちゃ!!さゆーッ!!!」

少しドリブルしてリセットゾーンに戻りつつ、れいな先輩は道重さんにパスを回す。
高橋さんがれいな先輩のディフェンスに来たようだが、どうやら無駄骨だったようだ。
さらにパスは回る。

「絵里ッ!!!」

道重さんは意外にも的確な位置にボールを投げてみせた!!
偶然かも知れないがうまいッ!!これはリセットゾーンに向かって走っている
亀井さんに美しくパスが通るぞ!!!
これからチーム・ミキティの攻撃が再開されるだろう!!!

と、誰もが思った矢先…


バスッ!!!


…亀井さんにボールが回ることはなかった。
一言で言ってしまえば、パスカットされてしまったのである…
そう…風のごときスピードを持つ小川さんに!!!

「スタンド…使ってもいいっつーなら存分に使わないとナ…ボールを奪われちまった時は
正直ヒヤッとしたが…なんてこたァないゼ。また取り返せばいいだけの話さ」

うぅむ…この人はバスケにおいて敵に回せないタイプだなぁ…
小川さんのスピードはチーム・ミキティにとって恐らく一番の脅威であろう。


15 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:44:48.18 0

「まだリセットゾーンには戻っていないなァ?つまりワタシらの攻撃は続くッ!!!」

ギュウンッ!!小川さんがボールをドリブルせずに両手でしっかり掴んだままコートを滑走し始めた。
バスケではドリブルせずに三歩以上あるくとトラベリングというファウルが科せられる。
だが驚くべきことに、小川さんはドリブルをしてはいないがトラベリングの条件は満たしていなかったのだッ!

「『ピボット』だゼッ!!軸足さえ踏み出してから動かさなければ
トラベリングにはなんないのサ!!なぁ小春ッ!!!」
「そ、そうですけど…」

軸足である右足を全く動かさず、左足を床につけないよう、小川さんはゴール目指して一直線だ。
で、でもなんかズルいような気がするーッ!!!

「両手で掴んでいるからカットされることナシッ!!掴みにきたらファウルが
かかるのはそいつッ!!侵攻!蹂躙!!破壊ッ!!これぞ攻防一体の攻めだゼーッ!!」

体重移動を駆使して亀井さんやれいな先輩をなんなく交わし、再び小川さんがゴールを目前とした!
今度こそチーム・ガキさんの得点だろう…
ところが、このバスケ勝負は予想をことごとく裏切ってくれるものであった。

「アホかッ!!!!!!!」

ドギャスッ!!!!
藤本さんの罵声が響くと同時に、勢いのついた小川さんがボールを持ったまま宙に浮いたのだ!!


「ooooooooooooooooooooooooiィッ!!?」


なんとも情けない声をあげながら、小川さんはそのままゴール下を通り過ぎ、
ガッツ〜ンと頭から突っ込んでいった。


16 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:47:07.13 0


「あ〜あ…ラインから出ちまったなァ麻琴。こりゃあ〜スローインだなーッ!!!」

「い、イテテ…お星さまが回ってるゼ。つーかちょっと待てヨ、ミキティ。
アンタいまワタシに足ひっかけただロ?」

「なんのことだよ?冗談はよせやい」

「コンコンは見ましたよ。ミキティは麻琴のコースに足を出して転ばせました」

「おいおいちょっと待ってくれよ。二人して美貴をハメようってか??
審判は小春なんだぜ?おい小春、いま美貴が足ひっかけたように見えたか?」


藤本さんの質問に私は答えられなかった。
一瞬の出来事だったし、二人は私から遠くの位置にいたのでよく見えなかったのだ。
だからわからなかったんだ…っ!!!


「…そ〜れ見ろ。ジャッジメントは美貴が転ばせたところは見てないようだぜ。
答えられないのがその証さ…つまり証拠はねぇ!!さぁッ!!美貴たちの
スローインで試合再開だッ!!!」


藤本さんは意気揚々にとても不満げな小川さんからボールをひったくった。

確かに、私は小川さんが転んだ際の詳細を見れていなかった…


17 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/12/19(火) 08:47:47.94 0


『オレハ見タゼッ!!ミキティがマコッちゃんヲすッ転バセルノヲヨォ〜!!』

「なッ…!!!」

『アァ!!ミキティが足ヲ引ッ掛ケテ転バセタンダヨナァーッ!!』
『ファウルヨッ!!"パーソナル・ファウル"ダワッ!!』


でも見れている者はいたな…

こんなこともあろうかと、小春の『ミラクル・ビスケッツ』をコートの
至る所に配置しておいたんだ…

私を含めた八人のジャッジ…この久住小春に死角などないッ!!!!


ピピーッ!!!!

「藤本さんのパーソナル・ファウルですねッ!!よってチーム・ガキさんに
フリースローの権利を与えますーっ!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン


280 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:09:57.71 0


「なんだってええええええええええええええッ!!」


藤本さんは頭を抱えてペタリと膝をついてしまった。

『パーソナル・ファウル』とはッ!!
相手プレーヤーに対し『殴る』『蹴る』『つかむ』といった暴行を与えた際に科せられる
ファウルのことである!!!
ちなみにそれと対を成す言えるであろう『テクニカル・ファウル』というものがあるが、
それは審判(つまり私のこと)や相手のプレーヤーに暴言を吐いたり物にあたったりすることで
とられることになるファウルのことだ!!

今回の場合、藤本さんが進行中の小川さんを『蹴る』という手段で食い止めたので、
上で言った『パーソナル・ファウル』を言い渡したのだ。
フリースローの権利は直接的な被害者である小川さんに与えられる。


「なんでだよ!!…おいビスケッツ!!見間違いだと言えッ!!!」

「No.3はしっかり見たと言っています。ファウルしたことを認めて下さい!!」

「ハァ〜?納得いかないね。だいたいぶつかってきたのは麻琴の方かも知れ…」

「藤本さんッ!それ以上グダグダぬかしてゲームの進行を遅らそうと言うのなら
さらにテクニカル・ファウルもとりますよッ!!!」

「なッ!?オメー、先輩に向かってなんて口の利き方しやが…」


「小春がルールです!!!」


281 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:13:35.13 0


「なッ…」

私がややきつめに出てみせると、藤本さんが半歩たじろいだ。
あの強気な藤本さんが尻込みしているのだ…この私に!!
なんだかすごく気分がいいな…審判って素敵かもしれない。

よぅし、調子に乗ってさらに追い討ちをかけてみよう。


「あと四回ファウルしたら5ファウルで即退場してもらいますからね!!小春は容赦しませんからね!!
もう一度言いますけど、小春がルールなんですからね!!…ヘラヘラ」


「ちぇっ…わかったよ!わかったからそうピッタシ詰め寄ってくんなって!!…ガックシ」


藤本さんは小春から逃げるように後ずさりしている。

お、面白い…ッ!!!



ドッバァ〜ン☆


282 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:15:45.63 0


そんな風に私が気分を良くする一方で、紺野さんがこんなことを呟いた。


「麻琴を蹴り転ばせるなんて…コンコンはミキティを買いかぶりすぎていました。
球技に自信があるっていうのは、根拠のないことだったんですね」

「…あん?コンコン、あんた何が言いたいんだ??」

「ミキティは根拠のない自信の持ち主だと納得したんですよ。真の自信を持つ人間というのは
他人に敵意を…ましてや暴力など振るわないハズです。麻琴に勝てないと悟ったから
足を引っ掛けて転ばせるという暴挙に出たんです」

「うっ…」


紺野さんの一言一言が藤本さんを貫いているようだ。
なぜそうだとわかるのか…それは藤本さんが紺野さんに何も言い返さない…
いや、何も言い返せないからである。


「軽挙妄動…あなたにはこの言葉がピッタリですね、ミキティ」


紺野さん、うまいな…テクニカル・ファウルもギリギリの、この言葉攻め。
これではいくら藤本さんといえど、紺野さんに言われたことが気になって、
もう大胆なプレーはできなくなってしまうんじゃあないだろうか?


283 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:17:19.36 0

「け、ケーキョモードー…?おい亀、ケーキョ流法ってなんだ?」

「深く考えないで軽はずみな行動にでることだよ。つまりバカにされてるんだ…
藤本さんの自業自得とはいえ…なんだか僕も悔しいですよ?」

「とにかく、やってしまったことを今さら悩んだって何も始まらン。今は後のことを…
フリースローの後のことを考えるばい…美貴姐ッ!どんまいっちゃ!!」

「しょーもないファウルだったけど、足踏みしちゃった分はみんなで取り返せばいいと思うの。
遠回りしようが何しようが…最終的に勝てばよかろうなのーッ!!」


「逆に考えるっちゃ!!」
「ファウルしちゃってもいいさと考えるんだ!!」
「さぁ!気を取り直して行くのッ!!」

「そ、そうかァ…?面目ない…けど、やっぱ持つべきもんは同期だなッ!!
なんだかやる気が沸いてきたぜ…!!!」

どうやらそんな心配はいらなかったらしいな。
試合は藤本さんのスタンドプレーが目立っているように見えたが、どうやら彼女たちの
結束力の強さは私の想像を遥かに上回っていたようだ。

ほぼ同じ時期に演劇部に入部した四人…それは『スタンド使い』となった時期も同じだということ。
きっと、ほかの部員にはわかることのない見えない絆のようなものが彼女たちにはあるんだ。
そういえば、私には同期というものがいないや…なんか、うらやましいな。

ちょっとセンチになってしまったが、とにかく今後は軽はずみなファウルを行わないようにと願いたい。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


284 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:21:27.82 0

ホイッスルを鳴らし、シューターである小川さんにボールを渡す。
フリースローのシューターは、ボールを受け取ってから五秒以内にシュートをしなければならない。
小川さんがボールを構える…その瞳は、いつもの茶らけたものではない。
ベアリングを投げ慣れている小川さんだ、止まっているゴールにシュートを決めるのは
容易いことではないかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。

「ワカんねーなoioi…当てるのと投げ入れるっつーのはコントロールがまるで違うカラ…
みんなワリィ!!フォローは頼んだゼッ!!」

五秒経過直前、小川さんの手からボールが離れる!!
ボールはいい軌道を描いてゴールのリングを目指すが…

ガィ〜ン!!!

ダメだ、強く投げすぎだ!!!
小川さんのシュートは、リングの奥に当たって弾んだ…その瞬間ッ!

フリースローレーンの外側にいたみんなが弾んだボールを我が物にしようと一斉に動き出す!!!
だが、誰よりも早くいいポジションに赴いたのは他ならぬバスケ経験者の新垣さんだった!!

「速攻なのだ…例えシュートが決まろうと外れようと…常にいいポジションをッ!!
どんな状況にも対処できる場所をキープするッ!!」

新垣さんが手を伸ばして飛躍…見事に落下してきたボールをキャッチした!!!

「リバウンドを制するものはッ!!バスケットを制すのだ!!!」

叫びながら、彼女は地に足が着く前にボールを手から離した。
シュートしたのか…?リバウンドをキャッチし、そのままの体制でッ!!?
さ、さすがは経験者だ!新垣さんはスタンドなどではなく、技術で勝負しているッ!!
これに敵う人は…


285 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:22:52.90 0


「させるもんぁーッ!!!」


「なッ!!!」

ものすごい速さで亀井さんが飛び出した!!
新垣さんがボールを投げた瞬間、亀井さんがシュートブロックに入ったのだ!!!
こんな早く追いついてしまうとは…なんて足の速さだ!!
ボールをキャッチすることはできなかったが、触れることはできたようだ。
触れることができたということは、ボールの軌道が変わったことを意味するッ!!


「うへへ…これでシュートは外れましたね?」

「なんてヤツなのだ亀…その足の速さ、かなり侮れないのだ…ニィ」


ゴゥン!!

軌道の逸れたボールは再びリングに弾かれた。
リバウンド合戦が始まるぞ!!
ボールの落下予測地点にいる選手は二人ッ!!
その二人とは…


道重さんと高橋さんだッ!!!



 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


286 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:24:54.80 0


道重さんと高橋さんがお互いを意識しながら落ちてくるボールを睨む!!


「今まで…今までさゆみは自分の身長を呪っていたの…160cmを超えちゃった今、
舞台に立ったとき自分だけ巨大に見えちゃうんじゃあないか?そんな風に悩んでいた…けどッ!!
今だけはこのデカさに感謝するッ!!!リバウンドは背の高いほうが圧倒的に有利ッ!!
愛ちゃんには絶対ボールを渡さないのッ!!!」

「甘いやよ…例えタッパがあろうが、そいつに技術がなければ只のデクの棒ッ!!
背で負けているというのならあっしにも考えがあるザ!!!」


グイッ!!
高橋さんは道重さんをそのポジションから追い出すように体でブロックした。

しまったッ!!
今取られてしまった立ち位置は今落ちてくるボールを取るのに最適なポジション!!
あそこを取られてしまったら、いくら背が高かろうと…

「あっしも言わせてもらうがし…リバウンドを制すものはバスケを制すやよ!!」

高橋さんが跳んだッ!!
道重さんも慌てて後を追うように跳んだようだが、後から跳んだのではダメだ!遅すぎる!!!

ガシィッ!!
「取ったッ!!ボールはあっしのモンやよーッ!!!」

空中でボールをつかんだ高橋さんが歓喜の声をあげた。

だが…しかし!!!


287 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:27:44.75 0


「言ったハズなの。愛ちゃんには絶対ボールを渡さないってね…シャボン・イールッ!!!」


ニュルン!ギュルルルゥン!!!

高橋さんと共に空中にいる道重さんが上へ伸ばした右腕から、彼女のウナギのような形をしたスタンド
『シャボン・イール』が勢いよく出現した!!!
道重さんのシャボン・イールは彼女の右腕を昇ると、さらに身体を伸ばして高橋さんがつかんでいた
ボールへ手の間を縫うようにして、なんと巻きついたのだ!!
これは高橋さんの身体にはまったく触れていない状態ッ!!
ま、まるで鯉の…いやッ!ウナギの滝登りだ!!!

「シャボン・イール・リバウンドなのッ!!」

「なんだとおぉぉぉぉぉぉぉッ!!?」


ズルンッ!!

高橋さんの手から盗むようにして滑らかにボール奪うと、その頃には二人とも地面に足をついていた。


リバウンドで勝ったのは…道重さんだったのである!!!



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


288 :1 ◆F37EdmrkOk :2006/12/25(月) 07:31:42.45 0


「か、勝ったの…さゆみが愛ちゃんに勝てた…!!や、やったの!やったの!!
さゆみ勝ったの!!!」

「見直したぜ〜さゆッ!!速攻だ!!ボールを早くッ!!!」

「ハイなのッ!!!」

道重さんのパスが藤本さんに通る。
ここから再びチーム・ミキティの反撃が始まろうとしていた!!
そんな彼女たちとは対照的に、石のように固まっている高橋さん…

「…あっしが負けた?あっしが…さゆに…負けた?」

彼女は試合そっちのけで自問自答しているようだ。
リバウンド勝負で道重さんに負けたことがかなりショックだったらしい。

「あっしを負かした…ッ!?この罪は大きいやよ…くらわしてやらねばならン!!」

「…高橋さん?」
何を…言ってるんだ??


「くらわしてやらねばならんッ!!然るべき報いをーッ!!」


なんだかよくわからないけど…
波乱はまだまだ巻き起こりそうである。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


46 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:14:30.29 0


それからの『チーム・ミキティ』のチーム・ワークは感嘆に値するものであった。
もうさっきまでのように藤本さんが一人でボールをキープし続けるようなことはない。

「行かせねぇゼッ!!ミキティイィィイィィィッ!!!」

小川さんが猛スピードで突っ込んでくるも、藤本さんは焦りの色を見せなかった。
むしろ余裕すらあるように感じられる。

「正直なことを言うとよぉ…コンコンの言うとおりオメーのスピードには
ビビッてたんだぜ麻琴。だが…打開策はもう見つけたッ!!」

そう言うと藤本さんは…
す、涼しい顔で左サイドへとボールを投げ捨てたぞッ!?
誰もいないっていうのに…ボールは一直線にコートの外へ飛び出そうとしている。

「oioi気でも狂ったのカイ!?おかしなところにボールを投げちまうとはヨ!!
ラインから外へ出たらスローインッ!!ボールはワタシ達のもん…」

バシィッ!!!
だが、ボールがコートから飛び出すことはなかったのだ。


「うへへへ…ナイスパスですよ?藤本さぁん」

「か、亀ちゃんンンンッ!!?」

なんと藤本さんはサイドを走る亀井さんがボールに追いつくのを見越して
あらぬ方向へパスを投げたのである!!
人は見かけによらないというが、なんという足の速さであろう。
あの小川さんもビックリしているほどだ。


47 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:19:29.28 0


「攻略法はパス回しさ…たった一つのパスでアンタをかわすことができるんだ。
マンツーマンじゃ麻琴の天下かも知れないけどよ〜、美貴たち全員を相手に
それができるか?…無理だよなァーッ!!」

間もなくして、亀井さんがセンターラインを超える。
ボールは完全にチーム・ミキティのものとなった!!


 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 



「攻撃は最大の防御!!亀井ッ!!そのまま突っ走れェーッ!!!」


藤本さんの叫び声に、亀井さんは言われるまでもないとでもいうかのように
グンとスピードを上げた。

「さっきの亀ちゃんとミキティのプレー…阿吽の呼吸とでも言いましょうか。
まずいです!!動きがまったく読めないッ!!!」
「や、やべェぜoi!!こいつら、さっきまでとまるでプレーが違うッ!!
これは自分に自信を持ってる動き方だゼーッ!!」

「ほら〜取り乱さないッ!!こんこんは重さんッ!!まこっちゃんは田中っちに
つくのだ!!亀はわたしが止めるッ!!パスを封じるのだ!!!」

「ミキティはどうするんですか!?ノーマークのミキティはッ!!!」

「今の亀が後方のもっさんにパスを繰り出すことはないのだ!!自信を持った
亀が前に進まず後ろを振り返るわけがなぁいッ!!!」


48 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:25:17.49 0

敵の攻撃に取り乱しかけるチーム・ガキさんの面々だったが、チームのリーダーと
呼べるであろう新垣さんの一声に高橋さん以外の三人は自分を取り戻したようだ。
そんな三人の動きは実に早かった。
小川さんと紺野さんは言われたようにサッとマークにつき、パスのコースを塞ぐ。

なんだかんだで、両チーム全員は運動神経がいいのだ。
運動神経が悪いと思われる者も数名いるが、それは演劇部の中だけで
比べた話であり、並みの一般人と比べてみればやはり順応性は高いのだろう。

「亀はここで止めるッ!!それ!!!」
「来たねガキさん…必ず誰か止めにくると思っていたよ。でも、僕だって
何も考えず闇雲に突っ走っていたわけじゃあないッ!!!」

亀井さんが新垣さんを前にしてボールを投げた。
投げた先は…小川さんがマークについているれいな先輩に方角ッ!!
しかし、コースは微妙にずれている。あさっての方角だ。

「かかったッ!周りをよく見ていなかったな〜っ?田中っちには麻琴が
ついているのだ!!しかもその無謀なパスコース!!ボールは誰にも
触れられることなくコートの外へ飛び出すッ!!!」

コースのずれたパスボールは当てのない方向へ突き進む。
これは確実にラインから出て行くぞ…そう思った私はホイッスルを口元に運んだ。
しかし気にかかるな・・・さっきからだが、どうしてチーム・ミキティの四人は
何が起きてもあんなに涼しそうな顔をしているのだろう。
亀井さんの表情を見ても「やっちまった!!」というような雰囲気は現れていない。
そんな空気の中でれいな先輩が呟く。


「いいコースっちゃ…最高のパスってやつたいッ!!いま!!間違いなく
れいなと絵里の心とパスは繋がったと!!!」


49 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:32:04.41 0

ギュッギュウウウウウウウウウウウウン!!!!


突然、れいな先輩の右腕が伸びる!!
な…なんだこれはーッ!?目の錯覚かッ!!?

いや、間違いなく伸びているぞ!!
腕が伸びてコースのずれたパスボールを受け止めたではないか!!!

バシィッ!!

『ニ、人間技ジャナイワーッ!!!』
『れいなの腕ガ伸ビタゾ!!ゴムみてーニッ!!!』

「『ズームパンチ』っちゃ!!間接をはずして腕を伸ばす!!
その激痛は波紋エネルギーでやわらげるッ!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


「そ、そんな…ワタシがマークしていたのに…パスを許しちまうなんてーッ!!!」

自信をつけたチーム・ミキティに反比例して、小川さんの自信はみるみるうちに
消沈していくのがわかった。
れいな先輩が走り出すと、亀井さんも止まることなくゴールに向かってひた走る!!

「・・・・・・・・・!!!」

だが、ゴール前には高橋さんがいるぞッ!!
れいな先輩は彼女をどうやって交わす気だろうか…!?


50 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:37:57.69 0

「絵里ッ!!」

なんということはない、れいな先輩は新垣さんを抜いた亀井さんにパスを回した。
藤本さんが小川さんを相手にした時と同じように、パス合戦で翻弄しようというのだ。

「ふん」

だが高橋さんに怯む様子は見受けられなかった。
まっすぐ亀井さんの方へと走り出し…

「えッ!!?」

驚いたのは亀井さんだけではなかったハズだ。
かくいう私も驚きを隠せない。
いったい何を考えているんだろう…?
高橋さんはボールをドリブルする亀井さんには目もくれず、
彼女のすぐ横を走り抜けていったのだ!!

「あ、愛ちゃん?気でも狂ったのかな…?」

ゴール下をフリーにしてまで高橋さんが向かった場所は…紺野さんが
マークしている道重さんのところだ!!
二人で道重さんをマークしようというのか?しかし現在の状況からして、
後方の道重さんをマークする必要など、もはやないハズ!!
亀井さんがつぶやいたように、気でも狂ったンじゃあないか?


「重さんはあっしが見とく…こんこんッ!!アンタの出番がし!!!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


51 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:44:40.02 0

「oioi!!出番がし、じゃあねーだろォ〜がよォーッ!!愛ちゃんッ!!!
亀ちゃんとれいなをフリーにしてどうすんだ!?ちゃんとマークにつけェッ!!!」

小川さんの目から希望の光が消えた…だがしかし!!
紺野さんの目には希望の光が灯ったのだッ!!

「フリー…『フリー』だからいいんですよね、愛ちゃん…マークにつくなんて
とんでもない!!『フリー』がいいんですよ。愛ちゃんがさゆみんを引き受けてくれた
おかげでコンコンは安心して『フリー』に動けるッ!!!」

ドギャン!!!
紺野さんの背後に出現したのは、彼女のスタンド『ニューオーダー』!!!
だが…今から亀井さんを追いかけるには遅い過ぎるッ!!!

「先制点ッ!!さゆの心にダアァ〜ンク・シューッ!!!」

亀井さんはドリブルしていたボールをガッシリつかむと、誰もいないゴール下を
二歩ほど歩いて宙に飛び上がった!!!
しかしダンクシュートだって!?ゴールに直接ボールを叩き込む史上最強の
シュートじゃあないか…この人にそんな跳躍力があったなんて、驚きを隠せない。
もしかしたら『サイレント・エリーゼACT3』の能力をうまく使ったのかも…

だが紺野さんは、そんな亀井さんの姿を見ているのにまったく怯まなかった!!


「生きる喜びを日々から拾い上げることが出来るように…逆境から
チャンスをつかみ取る努力は必要なんです!!そのダンク・シュート!!!
おじゃッ!!マァ〜ルシェッ!!!」


ギュン!!ガキョンッ!!ガキョンッ!!!


52 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/01/11(木) 18:47:43.71 0


そのとき、私は紺野さんのスタンド『ニューオーダー』の腕が消えて
なくなっていることに気づいた。
消えた腕はどこへ行ったんだ?その答えは…


「こ、これは…ッ!!?」

跳躍し、今にもボールをゴールに叩き込まんとする亀井さんの前に、
ニューオーダーの腕が出現したのだ…空間の歪みをまとって!!!


グインッ。


ゴールに向かって飛んだハズの亀井さんだったが、歪められた空間の影響か、
まるで空中で方向転換をしたかようにゴールに背を向けてしまい…

「え…えッ!?なんだこれはッ!!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「ちょ、ちょっと待つけん!!絵里ィーッ!!!!!」


ゴシャアアアアア!!!!
「ぐげッ!!!!」


勢い余った亀井さんは…れいな先輩の脳天へ見事にダンクシュートを
叩き込んでみせたのだった!!!


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


486 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:00:03.70 0

「つっがああああああああああああああああッ!!!!」


体育館に悶絶の声を木魂させたれいな先輩は、そのまま頭を抱えて
床に伸びてしまった。

「うわああああっ!ごめんネッ!!れいなごめんねーッ!!!」
「い、痛か…」

亀井さんは、テイン…テイン…と弾み転がるボールをそっちのけでヒザを折り、
れいな先輩の身を案じているようだが…!!!


「試合はまだ終わってないですよ…!!!」

ガシィッ!!

主を失った床に転がるバスケットボールを手にしたのは先ほど能力を
使ってシュートブロックをした紺野さんだった!!

「れ、れいなが倒れてるってのに…なに考えてるんだッ!?こんちゃんはッ!!!
こんなのタイムだ…タイムだよーッ!!!」

「彼女をそんな風にしたのは亀ちゃんでしょう?敵であるコンコンには
関係のないことです…麻琴ッ!!」

ビュウン!!!
紺野さんが振りかぶって投げたボールは一直線に小川さんへ…
じゃなくて道重さんに向かう!!
なんて無茶苦茶なパスコースッ!!しかもあの異常な弾速!!!
パスボールとはまるで思えない…そもそもパスを出す相手を間違ってるッ!!


487 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:07:41.56 0

「え?え?なんでさゆみなの?わぁっ!!!!!」

あぁ、このメンバーの中では一、二位を争う鈍さの道重さんじゃ対処しきれないぞ。
顔面にあたってしまう。道重さんが命と等しいくらいに大事にしている顔に…ボールが…


「きゃーッ!!!!!!」

「…問題なく曲がります」
ガキョン!!ガキョン!!!

迫り来るボールに腰を抜かした道重さんの顔面スレスレで軌道を変えて曲がり、
ボールは勢いを殺すことなく彼女の顔から逸れた。
道重さんの顔の脇からはニューオーダーの腕が伸びている…空間に歪みを纏って!!

『ソウカッ!!コンコンはハジメッカラソノつもりダッタノヨッ!!』
『さゆみんにボールヲブツケルふりヲシテ空間ヲ歪メタッ!!ソシテ歪ンダ空間ヲ突キ進ムボールの先ハ…!』

バシィッ!!!
小川さんだ…紺野さんのパスボールは常識じゃ考えられないコースで通ったんだ。

「ナイスパスだゼ…コンコンッ!!!」

「速攻なのだ!!田中っちは伸び!!亀はヒザを折り…重さんは腰を
抜かしている今が攻撃のチャンスッ!!でかしたよォ〜ッ!こんこんッ!!」


「今なら敵はミキティだけですね…すべて計算どおりです」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


488 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:10:39.53 0


平和主義者で、争いを好まない…紺野さんはそんな人だ。

だがやる時はやる人だということがわかった。
彼女はやはり実力者だ…たった一人で数秒のうちに、三人の選手を
行動不能にしてしまった!!!
反則ギリギリのスタンドを用いたプレー!!おっとりした紺野さんがこれまで
数々の激戦を潜り抜けてこられた理由が今ので伝わってきたような気がする。

小川さんがセンターラインを超えると、ボールはチーム・ガキさんのものとなった!!


「いくゼェ〜『FRIENDSHIP』!!そこから始まる…Ride on!Ride on!!」


ギュンッ!!…小川さんのスピードが増した。
また能力を使ったんだ…これは文字通り『速攻』だぞ。
チーム・ワークなら小川さんを止められると言った藤本さんだったが、
それは同時に一人では止められないということを意味している。
藤本さん、どうする気なんだろう…

気になった私は彼女のほうを見やる。


「・・・・・・・・・・なッ!!」


…それは信じられない光景だった。


489 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:13:07.00 0


「オラァッ!!れいなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

グワシィ!!!
鬼のような形相で藤本さんが床で伸びているれいな先輩の髪をつかむと、
強引にその身体を起こしているではないかッ!!

「い、いでででででででッ!!美貴姐ェッ!!!」

「うわーッ!!藤本さんやめてよ!!!れいなは怪我人なん…」

「うるせーッ!!!伸びてる暇なんかねーんだよッ!!ボゲッ!!
さっさと立ち上がるんだ!!ヤツを止めるぜーッ!!!」

「わ、わかったと…だから髪を引っ張らないで欲しいっちゃ!!」


藤本さんはれいな先輩の髪を鷲づかみにしたまま走り、今度は腰を抜かして
尻餅をついている道重さんの元へ向かう。

「や、やめてーッ!!さゆみの髪は引っ張らないで欲しいのーッ!!!」

「だったらさっさと立ちあがんだよッ!!ゴルァ!!!」

怯える道重さんの尾?骨に、藤本さんは容赦なく…

ゲシィッ!!
「おひーッ!!!」

ひ、ひどい…蹴りをかましたぞ…
だがその反動で、道重さんは立ち上がった!!


490 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:17:54.72 0


「立てるじゃねえか…さっさと愛ちゃんのマークにつくんだよ!テメーはァッ!!!」

「さ、さゆのおしりになんてことをーッ!!僕まだ触ったことないのに!
それを蹴り飛ばすなんてーッ!!」

「オメーはコンコンをマークしろ!!意地でも『ニュー・オーダー』は使わせるな!!
後で美貴にぶっとばされたくなきゃあなッ!!!」


『ム、ムチャクチャヨ…ミキティはムチャクチャダワ』
『シカシ、モノノ数秒デ全員ヲ行動サセテシマウトハ…』

確かにやり方はムチャクチャだけど、リーダーの素質はあるなぁ…藤本さん。
なんだか無駄に納得してしまう自分がいた。


「麻琴は美貴とれいなで止めるッ!!いけぇれいな!!派手にやれッ!!」

「ちょっちょあああああッ!!!」


まるで投げつけるかのようにれいな先輩を小川さんに突っ込ませた藤本さんだったが、
なんの策もなかったれいな先輩はアッサリ小川さんに交わされてしまう。

「大したことはねぇなoioi。がむしゃらに突っ込んでくるだけじゃワタシは
抜けネェぜ!れいなァッ!!」


491 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:21:44.48 0


「ま…麻琴!!ちゃんと前を見なさいって!!!油断禁物なのだ!!
今の田中っちは罠なのだーッ!!!」

「え?」


確かに、れいな先輩には何も策はなかったのであろう。
だがれいな先輩を先に向かわせた藤本さんには策があったようだ…
審判である私の位置からはそれがすぐにわかった。


「見事な抜きっぷりだなァ、麻琴!!」

「み、ミキティ!?oioiバカなッ!!いつのまにワタシの前に…アンタは
さっきあそこかられいなを投げつけてきたはずッ!!!」

「『スクリーン・プレー』だよ…そんなこともわかんねーでバスケやってんのか?」


スクリーン・プレー!!
簡単に説明すると、マークについた味方選手のさらに後ろにもう一人選手が
隠れていて、一人が抜かれても後ろの選手がすぐそれをカバーできるディフェンス・プレーである!!
って言っても私も体育の授業でちょこっと習っただけなんで、詳しくは知らないが…


「れいなの後ろに隠れてやがったのかヨ…けどよッ!スクリーン・プレーだかなんだか知らネーが!!
交わしちまえばそれまでサ!!oiッ」

けっきょくすぐ交わされてしまった。
やはり小川さんのスピードは尋常じゃないのだ。


492 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/02/12(月) 03:25:25.01 0


「ところでよぉ麻琴…オメーのその能力だけど…滑るためには“どこに”能力を
使う必要があるんだろうなぁ…!!!」


その時、私は見逃さなかった。
藤本さんの身体から彼女の銀色のスタンド『ブギートレイン03』が浮かび上がり、
すぐに消えたその瞬間を…!!!


ヅッ!ドバァッ!!!

それに気づいたとき、小川さんはバランスを崩し宙に浮いていた。
まるで何かにつんのめったかのようだ。


「うおあッ!!なんだよoiッ!?・・・・摩擦が・・・戻ッ・・・・・・・・!!!」

「満月の流法…アンタの館履きを五分前に戻した…五分前といやぁ試合はまだ始まって
なかったもんな…おっと勘違いすんなよ。わざと触ったわけじゃねーからこりゃ反則じゃあねぇ。
ボールを奪い合う際にぶつかっただけの事故ってやつよ。スポーツではよくあることさ…」

「み、ミキティッ!!アンタって女はよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーッ!!!!」



「キスでもしてんだな……スピードがついてる分だけ『床さん』に熱烈なヤツをよォ〜ッ!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


206 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:13:32.68 0


藤本さんのディフェンスの前に小川さんは敗れたのだ。
消していた摩擦を急に戻された小川さんは宙に浮いてしまうほどの勢いで
つんのめり、あとは地面に身をゆだねるだけだったが…


「ひるむと・・・思ってるのかヨ・・・・・・・これしきのことでヨォォォォ!oiッ!!!」


叫んだ彼女は抱えていたボールをおもむろに投げ捨てる!!
ボールはまっすぐと高橋さんと道重さんの立つ場所へすっ飛んでいった。

『“パス”ダッ!!マコが愛ちゃんニ“パス”ヲ回シタゾッ!!』
『ダガ愛ちゃんハさゆみんニ“マーク”サレテイルッ!パスは通ラナイ!!』

まるで悪あがきとも取れる強引なパス!!
そんなパスを回した小川さんは…


ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!


床さんと熱烈なキスを交わしていた。


「麻琴ォ・・・・・・アンタの想い、あっしがしかと受け止めるやよッ!!!」

高橋さんが向かってくるボールに向かい走り出す。
道重さんにマークされている今、ボールを手にするには彼女より前に
出る必要があるからだ。
もちろん、道重さんもそれを黙って見過ごすわけがなかった。


207 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:16:15.73 0


「待つのッ!!ボールは渡さな…」
ドガァッ!!!!!

「あぐぅっ!!?」

しかし、高橋さんを追うことは叶わなかったんだ…
目の前に突如出現した壁によって行く手を阻まれたのである。
壁に顔面から衝突した道重さんにしてみれば何が起きたのかわからないだろう。


『セ、迫り出しダッ!!イキナリ床ガ凸リ出シタゾ!!』
『愛ちゃんノ能力ダワ!!』
『叩イタモノヲ凸ラセル能力ッ!!!』


「ライク・ア・ルノアールッ!!アンタの動くコースを既に叩いといたンやよ!!!
障害物を作ってアンタをブロッキングしたんざ!!」


『デモ、アレッテ“パーソナル・ファウル”ナンジャナイノ?ネェ小春ちゃん』

「いや、高橋さんは地面を叩いただけだよ。たぶん。ぶつかっていったのは
むしろ道重さんの方なんだ」


そう、あれは道重さんの自爆だ…と、私は解釈した。


208 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:18:36.76 0


パスは見事に高橋さんに通った!!
しかも道重さんが『迫りだし』に翻弄された今、高橋さんはフリーである。
大ピンチ…この局面において、もちろんチーム・ミキティの面々が
黙って見ているわけがない。


「美貴が相手してやる…そこを動くなよッ!!愛ちゃんンンッ!!!」


見事に小川さんを出し抜いた藤本さんが高橋さんの進攻を止めようと接近を試みるが…

「アンタ、詰めが甘いンやよ」
「あぁ?試合中に何言ってんだオマ…」


その時だ!!!


「ミィィィィッキティィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッンンン!!!!!!!」


もはや奇声にしか聞こえない声で藤本さんを呼ぶものがいたのだ!!
その人は、地面に横たわったまま猛スピードで藤本さんに迫るッ!!


「ま・・・・・・・・・・・・麻琴だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


209 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:21:22.22 0

どういう原理だ!?
なぜ吹っ飛んで床とキスしたハズの小川さんが藤本さんに突進しているんだ!!?


「地面にぶち当たる直前に全身から摩擦と抵抗をなくしたッ!!戻されたのは
館履きだけだからな…ワタシはタダでは転ばないゼェ〜ミキティィィッ!!」


青くアザの出来た口の端から血を流しながら、小川さんは一気に距離をつめる。

「こ、このスピード…コイツまさか…つまづいて吹っ飛んだ勢いを利用したのか…?
吹っ飛んだ勢いのまま滑って・・・・・・ッ!!」

「壁にぶち当たって跳ね返ってきたゼッ!これがワタシ達のチーム・プレーだァ〜ッ!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


寝そべったままの小川さんが藤本さんの足元に突っ込んでいく!!
このスピードだ、もし衝突すれば二人ともタダでは済まない…
だが、伊達に藤本さんの反射神経は悪くないのだった。

「うおぉぉぉおぉおぉぉぉっ!!!」

その場で高くジャンプした藤本さんの真下を、小川さんは虚しく通過していく。
勢いは死んでいない…小川さんは恐らく再び壁に激突し、能力を解除しない限り、
その勢いが死ぬまで、アイスホッケーのパックのように止まることはないであろう。
南無阿弥陀仏だ。
しかし、小川さんが悔しがることはなかった…!!!


210 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:25:36.76 0


「作戦通りだ…うまくいったゼ、oioi…」

「・・・・・・・え?」

「一手遅らせることが出来たんだからナ…ミキティ、あんたはワタシを避けたために一手遅れたんだ。
もう、すぐにでも愛ちゃんはシュートする体制に入るゼ…?これが…ワタシの作戦ッ!!!」


かわすことなく、わざとぶつかってしまえばワタシの『パーソナル・ファウル』だったのにな…
と小川さんは付け足すと向こうの壁に派手にぶちあたり、動かなくなったのだった。

能力が解除されている…恐らく気を失ったに違いない。


「ま、麻琴めェ〜〜〜〜〜〜!!!くそッ!!!!」


高橋さんはすでにゴール間近、スタンドにドリブルをさせてシュートの体制に入ろうとしている。
もう藤本さんが追いつくことは出来ない!!

チーム・ミキティの中で今、最も高橋さんから近い位置にいるのは…


「絵里ッ!!絵里が愛ちゃんから一番近いっちゃ!!」

「で、でもこんちゃんのマークがッ!!」

「シュートを決められる方がやばいのッ!!ゴールを最優先で守ってッ!!!
守るのおぉぉぉぉぉ!!絵里ィィィィィィ〜ッ!!!」


211 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:28:47.53 0

亀井さんは皆に言われるがまま紺野さんのマークを離れ、ゴール前で立ち止まり
ドリブルをする高橋さんに大接近する!!
敵が迫ってきているというのに高橋さんに焦りの色は見えない。
何をしているんだろう、あの人は…
何かを計っているように見えるのは気のせい…カナ?

「よ、よし…シュートブロックだ!!行くよッ!『サイレント・エリーゼACT3』!!」

亀井さんがスタンドと共に高橋さんの前方に立ち塞がる!!
こ、これは手に汗を握る展開だッ!!


「亀井!愛ちゃんを止めろッ!『ライク・ア・ルノアール』にシュートを打たせるな!!」


「いいや!!『限界』だッ!打つやよッ!!」
と言って…

「今だ!!シュートとはこう…」

それは誰もが予想できない光景だった。
高橋さんは…彼女のスタンド『ライク・ア・ルノアール』はドリブルしていたボールを
ゴールに向けることなく!!


「シャープに極めなァねーッ!!!!」

グッボオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォオォ!!!

地面に叩きつけたのだッ!!
そして、その手にボールはなくなっていた。


212 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:31:21.42 0

『ボールが消エタッ!!』
『愛ちゃんがボールヲぶっ潰シタンダッ!!!』
『コレハ“テクニカル・ファウル”ジャアネェーノカ!?小春ゥ!!!』

「い、いいや・・・・・・・・・・・・・・違うッ!!」


ボールは…消えてなど!!潰されてなどいないッ!!!!

高橋さんの『ライク・ア・ルノアール』が床に力強くついたボールはッ!!!


「こ、これは…ッ!!?」

亀井さんが驚きの声をあげた。
それもそのはずだ…

「窪んだ床の中にボールが…これはッ!!!」


「おぉっと、警告しとくやよ亀子。火をつけた後の花火ってのはナァ〜…」


亀井さんが凹みの中に納まったボールを覗き込んでいる、その時だ。


「覗き込んじゃアいけないンやよ」



グッボイィィィィイイィィィィイイィィィィイイイインンンッ!!!


213 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:35:42.35 0


「うわぁッ!危ない!!!」

間の抜けたような音と共に、凹みが凸ったのだ!!
亀井さんは迫り出しをギリギリのところでかわしたようだが…

道重さんの進路を妨害した迫り出しが今度はボールを天高く突き上げている!!!

それはまるで砲弾のようにッ!!
打ち上げ花火のようにッ!!
バスケットボールを上空に押し出したのだッ!!!

そして天井スレスレまで突き上げられたボールは、ゴールリングを目指し
真っ逆さまに落下してくる。


「まだ間に合うの…さゆみの『シャボン・イール』ならまだシュートブロックできるの!」


「だ、ダメたい!!さゆ…今ボールに触れるのはまずいっちゃ!!体育の授業で
習ったから覚えてるばい!落下中のシュートボールに触ると…ファウルになると!」


「な・・・・・・・・・ッ!!?」

「ちょっと待てよ…じゃあ美貴たちにはあのボールがゴールをスパッと通り抜けるまで
何もできないのかよ・・・・・・・・・・指をくわえて見ていろっていうのかよーッ!!!」

「ぼ、僕のせいだ・・・・・・・僕が愛ちゃんをしっかり止めなかったから・・・・・みんな・・・・・・ッ」


214 :1 ◆F37EdmrkOk :2007/03/09(金) 01:38:30.93 0


まさに無敵のシュート!!
高橋さんのスタンド能力を駆使して放ったシュートは誰にも止めることは不可能ッ!

絶望の空気が天井を仰ぐチーム・ミキティを取り囲む。


そして…



「はぁイ。詰んだ」

スパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…



バスケットボールは、シャープな音を立ててゴールリングを通り抜けた。
チーム・ガキさんの先制点…試合時間はすでに半分を過ぎていたのだった。




            チーム・ミキティ   vs   チーム・ガキさん

                    0    −    1




ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…