51 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:40:53.40 0


 銀色の永遠  〜 平和な町、杜王町にて 〜


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

久住小春が演劇部の部室で『親友の惨劇』を目の当たりにしたのとは…
時間的に前後した事になるが…


「重さん・・・・・・重さん!!」
「・・・・・・」
「さゆッ!!!」
「・・・・・え?」

本来ならば休日であるハズの第二土曜日。
道重さゆみはその日もせっせと通学していたのだった。

「なんだ、藤本さん」
「なんだとはご挨拶だなァ〜…オメー、幼稚園ン時に習わなかったか?
朝の挨拶はよぉ〜向かい合って『おはようございます!』だぜ」

やけにテンションの高いミキティにさゆみは違和感を覚えた。
おかしい…いつもの朝なら眠たそうにして男子生徒もおののくほどの
ひどい目つきをしている人なのに…

だが、それもそのはずだ。
英語の成績が著しく悪い生徒が学年関係なく強制参加させられてしまう
『特別基礎講習会』は今日の小テストをもって終了するのだから。
第一、第三土曜日は午後から、休日の第二、第四土曜日は朝からという、
非常にかったるい一ヶ月も、もうすぐいい思い出(?)となるのだ。


52 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:44:05.66 0

「いや〜長かったよな。ま、これで英語の単位はなんとかなるよな、うん。
卒業がまた一歩近付いた感じだよ」
「藤本さんは受験生のハズなの。今のセリフ、とても受験生のものとは思えないの」
「受験ン?そんなもん、大学目指したいヤツが頑張りゃいーんだよッ!!
忘れたのか?美貴の夢は大スターになることで…」

珍しくベラベラしゃべり始めるミキティがうざったく感じ始めたさゆみは、
まじめな顔をして聞いているフリをすることにした。興味のない話は流すに限る。
最近は考え事も多くなってきたので、他人の与太話で盛り上がれるほど
気持ちに余裕はなかった。

「・・・・・・・ってなワケでよぉ…ン?おい、聞いてんの??」
「・・・・・・あ、テリヤキチキンサンドを食べたってとこまで聞いたの」
「んなこと、一言も言ってネェよ」

まずい!!ミキティの目つきがいつものモノに戻っているッ!!!
これはイライラし始めている前兆なのだ!!非常に危険な状態なのだッ!!
しかしミキティは一度瞬きをすると、まるでスイッチが切り替わったかのように
一変して、今度は心配そうな表情でさゆみの顔を覗きこんだ。

「さゆ、オメー…まだ小春と仲直りしてねーだろ?」
「!!?」
「その表情は図星だな。まぁなんだ…美貴は前にアンタの話をちょろっと
聞いただけだから大それたことは言えねーが・・・・そんな眉間にシワ寄せてたって
何も楽しくないだろ?さっさと謝っちゃえよ」

謝る・・・それが出来れば苦労はしないのだが、さゆみの『姉』としての
プライドがそれを邪魔していたのだった。
いや、プライドはあれど心の中では仲直りして以前のような関係に今すぐにでも
戻りたいという気持ちでいっぱいだ。
二人で同じ時間を共にしているという時間は何にも代えられないものなのである。


53 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:49:20.66 0

だが、ケンカしてから時間もだいぶ経ってしまっているし、自分はともかく
小春の方はどう思っているかわからない。
だから踏み出せない…さゆみはミキティにそう説明した。

「・・・・・・美貴は末っ子だからわかるんだ。美貴も小学生のころ姉ちゃんによく
パシられたりしたなァ〜…お母さんに頼まれた御使いおしつけられたりしてよォ」
「そうなの?さゆみはお姉ちゃんと一緒に御使い行ってたの」
「そりゃオメー、環境の問題だよ。とにかく美貴の姉ちゃんはそんなヤツだからな。
ま、そーすっと美貴としては小春みたいな気持ちになっていくよなぁ〜?
姉ちゃんムカツク!っていう気持ちによ〜…」
「うぅ・・・・・っ」
「明太子スパロールを隠れて食った小春も悪いかも知んねーケドさ、
それをずっと根に持ってるアンタも悪いよ。パシッてたんだし。女が食いモンのことで
ビービー騒いでたらカッコ悪いぜ?譲っちまうくらいの気持ちでいかねーとなッ!!
美貴なんか、加護ちゃんにテリヤキチキンサンド譲ったことあるんだぜ!?」

ミキティは「すげーだろ!!」と言わんばかりに胸をボンと叩く。
本当のことを言うと、テリヤキチキンサンドの件で加護亜衣とは思いっきりもめたが、
それはもうミキティ自身しか知らないことなので良しとした。

「…なんなら謝るとき美貴も一緒についてってやるよ。正直、あんたらが
バラバラでいるとこっちも何かこう…むず痒くなって来るンだよな〜」


肩にポンと置かれたミキティの手を見て、道重さゆみは考える。
いつもガサツで男勝りな人だけど、やっぱり年上のお姉さんなの…と。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


54 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:51:33.25 0


寺田先生は『町を守り続ける』という目的を持っている…


と、吉澤さんから聞いたから、私…久住小春は一ヶ月ほど前に与えられた
指令を今頃になって遂行することにしたんだ。

やっぱり気は進まなかったけれど、それを終えてしまえば、
もう二度と後ろめたいものを感じることなくきらりちゃん(月島きらり)と
共に歩いていけると思ったんだ。


でも、考えてもみて。


どうして寺田先生がきらりちゃんに会おうとしたのか。

なぜ小春と道重さんの二人に指令が与えられたのか。


そして…『町を守り続ける』ということがどういう意味なのか・・・・・・・



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



55 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:56:20.35 0


「天にまします主よ…彼女、月島きらりを導いて下さい…」

寺田先生は派手なスーツのポケットから小さなクロスを取り出し、
左手で胸の前に掲げ、ブツブツと何か唱え始めた。

「天国へ行く権利は誰もが持っているもの・・・・と、神父はんは言っていた」

・・・・・何を言ってるんだ?
小春には寺田先生の言っている意味がまったく理解できない。
しかし時間が一秒一秒を刻むにつれ、心の中にわきあがってくる望まない実感は
徐々にカタチを作りつつあった。

「綺麗な心のまま、向こうの世界に逝けた月島は幸せモンやな…
地獄の業火に焼かれながら、天国に憧れる想いをせんで済んだわけや。
月島きらりの魂は、まっすぐに天国へと召されてゆく…」

寺田先生が足元の血溜まりに向かって右手で宙に十字を描く。
言っている意味はわからないし、そんな事実は認めたくない。

だから…


「やめてよ・・・・・きらりちゃんに向かって十字を切ることなんかやめろッ!!!」


パシッ!!!

小春は先ほど分解した扉のドアノブを再形成して、寺田先生の掲げている
小さなクロスに向かって飛ばした。
クロスは彼の手を離れ、床に落ちてカランと渇いた音をたてる。


56 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 19:59:13.93 0


「神父はんから貰った十字架が・・・・・やれやれ。これやからおまえ一人だけに
任せたくなかったンや。この指令において…最も恐れていたのは月島きらりに
情がうつってしまうということや。せやから絆の深いおまえと道重の二人に任せて
情の入り込む隙間をなくしたつもりやったのに・・・・・とんだ計算外やったな」

「きらりちゃんは…とても素敵な子だった!!あの子のスタンド…ううん!!
"なーさん"を見ればわかる・・・・・『動物や植物と話ができる』っていう
女の子なら誰だって一度は空想する魔法のような非カガク的な素敵さが
その表れなんだ・・・・・・それを・・・・・・あなたという人はあああああッ!!!!!」

「むっちゃ恐ろしいことやないか・・・・・・動物や植物と話ができるということは!!!
すべての情報を網羅できるということに等しいんやッ!!木々はいたるところに生え、
動物は当たり前のようにそこらを歩き回り、虫は俺らーの知らぬところで存在して
人間を見つめている・・・・・・ヘタすると矢口以上のネットワークやで、こいつは。
最も、もうそんな心配する必要はあらへんけどなぁ〜…」


・・・・・もう彼の話なんか耳に入らなかった。
『町を守り続ける』という男の話に聞く耳など持たなかったッ!!
今・・・・この男は今ッ!!!

小春とッ!!あなたを信用している吉澤さんの"心"を裏切った!!!

この男がきらりちゃんにいったい何を仕掛けたのかはわからない。
今もまだ信じたくはないが、きらりちゃんの亡骸がどこにもない事も奇妙だ。


だけど・・・・・・こうなってしまったのは小春の責任だッ!!

よく考えもしないできらりちゃんをここに連れてきてしまった小春の・・・・ッ!!!


57 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 20:01:37.06 0


「・・・・・・・・っ」

「どうした?怒り狂ったのかと思えば・・・・・おまえほど肝っ玉の据わったヤツが
なぜ涙を流しとるんや、久住…」


絶対許さない・・・・・こいつだけはッ!!!


「…我が名は久住小春。我が親友、月島きらりの魂の安らぎのために。
尊敬する吉澤ひとみの心の名誉のために…」

『悪ヨッ!!コイツハ生マレツイテノ悪ダワッ!!!』
『コイツはくせぇーッ!!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜーッ!!!』
『コンナ悪ニハ出会ッタことがネェーほどナァッ!!!』


ミラクル・ビスケッツのみんなが小春に呼応してくれている。

小春がすべきことはただ一つだッ!!!


「・・・・・死をもって償わせます」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!


58 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 20:10:50.24 0


小春はきらりちゃんの仇をとらなければならない…
今の小春には悲しみで泣いている時間なんてないんだ!!!

この部活を愛している新垣さんや、心の支えにしている亀井さんには悪いが、
もうこの目の前にいる邪悪な男の手のひらで遊ばされているワケにはいかない!!

演劇部は活動中止だッ!!!

今日この日をもって・・・・・顧問はいなくなるンだから!!!!!


「口は災いの元っちゅう言葉があるが…久住、おまえももう少し考えてから
もの言った方がええんとちゃうか?ミラクルエースの名が廃るで」

「おっとッ!!動かないで下さい・・・・・小春のビスケッツはなんだって分解できるんです。
これから生きたままあなたを分解するわけですが・・・その前にッ!!!きらりちゃんを
どこへやったのか、それだけ話してもらいます・・・・!!!」


きらりちゃん、待っていて。

まだ実感はないけれど・・・・・これが終わったらちゃんと埋葬してあげるから!!


「やれやれ・・・・・そう急がんでもええやんか久住・・・・お前にとって月島きらりとは
"しばしの別れ"でしかないんや。おまえという非常に有能な『部員』を失うのは
むっちゃ痛いことやが・・・・しゃあないわな。ほんま残念やわぁ…」




59 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/29(日) 20:16:41.91 0


ズ ゥ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン ・ ・ ・ ・ ・  


寺田の背後にゆっくりと人型のビジョンが上ってくる。
わりとシンプルでノッペリしているボディのハズなのに派手に見えるのは・・・・

その首にファーのようなものがギラギラと赤く光り揺らめいているからだ。
右手だけにグローブをはめて、身体のいたるところにこの男のネクタイと
同じ『♂』の文字が刻み込まれている。

それらがすべて、ギリギリのセンスで保たれていた。


「こっ・・・・これが・・・・・・ッ!!!」

「久住、おまえを始末させてもらうで」


初めて見る・・・・・これがッ!!

演劇部の顧問、寺田光男のスタンド!!!



「 『 シャ乱Q 』 !!コイツが俺の“愛の第六感”…そうッ!スタンドや!!!」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド・・・

130 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:01:54.65 0

『シャ乱Q』ッ!!!
これが寺田のスタンドなんだ!!
見たところ近距離パワー型のように見えるが…その派手な外見からだけでは
如何なる能力を備えているのかまったく検討がつかない。
つかないけれど・・・・・!!!

「動くなと・・・・・言ったはずですッ!!!小春の『ミラクル・ビスケッツ』を
なめるなぁあぁぁぁあぁあぁぁあぁッ!!!!」

ドビューンッ!!!
小春のビスケッツNo.1、2、3が多方面からそれぞれ一直線に
寺田に向かって突き進んでいく!!!

『キラリンリンッ!!!』
『シャラランラッ!!!』
『ハレルヤアァッ!!!』

その身体ッ!!分解してバラバラ砕いてやるッ!!!!


「ッ!?久住のミラクル・ビスケッツがこんなにも素早く動き回るとは…
聞いてへんかったぞ・・・・・・ッ!!!」

「このイカレ教師があぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
『ウゥゥゥゥゥハッ!!!』
『ハイッ!ハイハイハイィッ!!』

「だがそんな程度で怯むと思うとんのかッ!!!」


ドバババババババババババババババババババババババババババババババッ!!!!!


131 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:03:37.20 0


寺田のスタンドが迫るビスケッツを払いのけようと拳で牽制しているが
そんなものを食らうほど小春のミラクル・ビスケッツはヤワじゃないね!!!

ビシィッ!!!
「ぬぐッ!!」


よしッ!!手応えアリだッ!!!


「No.1ッ!2!!3ッ!!戻ってッ!!!」
『ヤリィィィィィィッ!!!』


寺田のスタンド…やっぱり近距離パワー型と見た!!
もし遠隔操作型なのだとしたら、ヤツは小春のところへ戻ってくるビスケッツを
攻撃しようと追ってくるハズッ!!

でも、ヤツの能力がよくわからないうちは深追いしすぎるのはちょっと危険なカンジだ。
『シャ乱Q』の射程距離はどのくらいだろう…小春はジリジリと寺田との距離を
じゅうぶん保ちながら部屋をゆっくり移動する。

部屋の唯一の出入り口からは遠くなってしまっているが…これでいいんだッ!!!
小春は逃げるために戦っているんじゃあない・・・・


寺田のヤツを倒すために戦っているんだッ!!!


ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


132 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:07:54.52 0

「やはり・・・・やはり俺の目に狂いはなかったようやな・・・・久住よ、おまえは
間違いなく"ミラクルエース"や…元部員の後藤といい、天性のスタンド使いは
そのスタンドの扱い方が違うわ・・・・・なかなかやっかいやで・・・・・いでで」

寺田が右手をこちらに差し出し述べる…彼の右手の小指は、先から血が滴っていた。

「でかしたよッ!ビスケッツのみんな!!!」
『イェー小春ゥッ!!右ノ小指ダゼーッ!!!』
『ツメーッ!!小指ノ爪ダーッ!!!』

分解して生爪を剥がしてやったぞ・・・・もう逃さないッ!!!
本当はヤツの身体を分解してやるつもりだったが…それも時間の問題だ!!
必ずや寺田を"分解"してッ!!何の罪もなかったきらりちゃんの無念を晴らしてやるッ!!!

「…楽しそうやなァ。うらやましいスタンドを授かったモンや…
それだけ騒がしければ退屈とは無縁なんやろなァ〜」

「ずいぶんと余裕ぶっこいた口ぶりですね…もうあなたは小春の間合いに入っている
状態なんですがね。いつでも仕掛けられる…しかしあなたの方はどうですか?
どうやら近距離パワー型と見ましたが、射程距離は1〜2メートルあるかないか…
そうなんじゃあないンですか?」

「ふむ、ごもっともやな・・・・・大正解や。偉いで久住・・・・せやけど
俺は"やると決めたらやる"で・・・?」

なんだかシャクに触る答え方をするな…間合いは今、小春が圧倒的有利なんだッ!!
なのに・・・・どうしてそんな冗談をかましている余裕があるんだ?
それが不気味で、すごく奇妙だ・・・・・


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


133 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:12:00.48 0

「小春は手加減しませんよ・・・・きらりちゃんの仇を討つためならなんだってする…
人殺しだって・・・・・!!!それにきらりちゃんだけじゃないッ!!きっとあなたは
これが初めての殺人じゃあないハズだ。そんな人間を同じ町にノホホンとおいとく
ワケにはいきませんッ!!!」

「人殺し・・・・確かに人殺しやな。認めよう…だがこれは『町を守る』ための、
正義の人殺しや。久住、おまえに俺が言うてる意味わかるか?勘違いしている
ようやけど、俺は"殺すために"月島きらりと会いたかったワケではない…」

ッ…!?いま、なんて言った!!?
きらりちゃんと会いたかったのは殺すためじゃないって言ったのか?

「今さら・・・・・言い逃れをするんですか?あなたがきらりちゃんを
殺したのは事実じゃあないかぁーッ!!」

言ってから、小春は後悔した。
あぁ・・・・小春は・・・・・たった今きらりちゃんが"死んだ"ことを認めたんだ・・・
心の奥底に残っていた"実はどこかで生きてるかも"なんていう根拠も何も
まったくない希望は、自ら発したセリフによって粉々に砕けていった。

絶望の二文字に打ちひしがれている小春に寺田は言う。

「まぁ人の話は最後まで聞けや久住。俺はな、場合によっちゃ月島を
生かすつもりでいたんや」

「えッ!?」

「俺はあの娘に言った・・・・『ぶどうヶ丘中学に戻ってくる気はないか?』とな・・・
でもあいつは言ったんや・・・『自分には叶えたい夢があるからそれはできない』と。
残念やったわ・・・月島もあの世でさぞ後悔しとるやろな。もし戻ってくるというなら、
これから先、おまえとは部活の仲間として仲良く暮らしていけたンやから・・・・」


134 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:14:56.98 0

何を言ってるんだ・・・・・この男は・・・・正直、理解不能だ。

「もしそうだとしても・・・・殺す必要なんてなかったハズですッ!!!
あの子は素敵な子だった…きらりちゃんのようになりたいとまで思っていたッ!!
あんなにいい子だったのに・・・・・・邪悪なものなんて微塵も持っていない、
真っ白な子だったのに・・・・・・ッ!!!」

「そう、それなんや」

ビシッ!!・・・・・寺田が小春を指差した。

「邪悪なものを微塵も持っていないということはッ!!真っ白だということはッ!!
これから先、何色に染まるかわからへんということやッ!!!ええか?
これは俺のせめてもの罪滅ぼしなんや。スタンド使いはひかれ合う・・・いずれ月島も
そうなっていたやろな。いや、もうそうなってたんや…おまえと出会ってから
運命の歯車に巻き込まれていたんやッ!!」

「そんなものッ!!なんの理由にもなっていないッ!!!」

「月島をスタンド使いにしたのは俺や。その責任はとらなあかん・・・・・・
杜王町に住んでいる以上、俺がスタンド使いにしたからにはそいつを
管理せにゃならんのや!!しかし月島はそれを拒んだ・・・・それがこの結果やな。
自分が能力を引き出したったヤツが敵に回ったらシャレにもならんからなァ」

「管理だって・・・・?小春はあなたなんかに管理されているつもりはないッ!!
だいたい卒業した安倍さんたちはどうなんです?まだあなたが管理しているとでも
言うんですかッ!!?」

「いんや・・・・それは不正解やな。なぜならあいつらは『黄金の精神』を
ここで受け継いだからや。それがある限り大丈夫…それに、あいつらーが示した
その『精神』は確実におまえたち次の世代へと染み渡っていく…」


135 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:18:09.58 0


「つまり、自分がスタンド使いにした人間以外は生かさないと・・・・ッ?」

「わかってへんやつやな。他のスタンド使いなんて俺はどーでもええねん。
町の平和を脅かすと感じたらそいつを処分すればいいんや…俺がスタンド使いにして
この部活にいない人間で、他の町へと出て行ったヤツなんかもどーでもええかなァ。
杜王町にいなければそれでええ…卒業生の倖田來未?あいつなんかがそうや。
最も、まだ町にいるようなら始末しにかかったがね・・・・・俺には責任がある」

「自分勝手な責任感…人にはそれぞれ意思があるんだ。あなたがしてきた事は
意思の強制でしかないですね。自分に酔いしれた歪んでいる正義でいい気になって…」


ようやく確信できた。
当然だが、やはり寺田は正義なんかじゃあない。

正義という皮を被り、自らを満たしている自己中心的なドグサレだ。

そうやって吉澤さんをだまし続けてきているんだ…
今まで多くの人々をだまし続けてきたんだッ!!


でも・・・・・小春はだまされない!!決してッ!!!



「あなたは…自分が『悪』だと気づいていない…もっともドス黒い『悪』だ…」



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


136 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:20:40.71 0


寺田に対して憎悪の感情がむき出しになっていくのがわかる。

おさえられない・・・・・ッ!!
こんなやつをッ!!のうのうとさせているワケには絶対にいかない!!!


「『悪』か。そう思うならそれでええよ…正義のカタチは人それぞれやからな。
それに、今言ってきた事をおまえに押し付けるつもりもない・・・・・なぜならッ!!」


ブンッ!!

寺田と、そのスタンド『シャ乱Q』が同時に小春を指差した!!


「おまえはッ!!すでに平和を妨げる"町の敵"なンやからな!!
そして時は訪れたッ!!!!」


町の敵はおまえだッ!!!

もう話しているだけ無駄ッ!!無駄無駄無駄無駄ッ!!
分解してやる…おしゃべりの時間は終わりですッ!!!


「いくよッ!!ミラクル・ビスk」


ビスゥッ!!!!!!



137 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:23:25.29 0


「ッ!!?」

な、なんだ・・・・・急にノドの奥がつまったような・・・


「カハッ・・・・・」

い、痛い・・・・!!!
ノド元に手をやる・・・・・すると細いものが一本、指先に触れた。


これは・・・・・毛?

小春・・・こんなとこに毛なんか生えてたっけ・・・?


ヂクンッ!!
「うッ!!!!!!!」


痺れるような痛みがノドの中を電気のように走り抜けた。

ち、違う・・・・これは・・・・・毛なんかじゃないッ!!!!!


「は・・・針・・・・ッ!?なんでこんなものが小春のノドにィーッ!!!」


ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


138 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:26:24.12 0


どうやってこんなものをーッ!!
なんで針がノドに深く突き刺さっているんだ!!?
なにが起きたんだ!?寺田が何かしたのかッ!!?
で、でもアイツはまだ動いていないのにどうやって…


「言ったやろう?俺は"やると決めたらやる"と・・・・・おまえとベラベラ
しゃべくってる間に、持っていた針にちょっとした細工をしかけといたんや…
そしてその針は余興や。舞台の幕開けはこれからやでッ!!久住ィーッ!!!」


何をどうやったのかはわからないが・・・・
小春に正義がどーたら話していたのは寺田の作戦だったのか・・・・ッ!?

と、とにかく!!早くコイツを引っこ抜かなくてはッ!!!
ノドに深々と突き刺さった針と格闘している小春に対し、寺田はスーツの懐に
隠していたらしい銀色に光るものを見せ付けてきた!!

あのギラリとした輝きは・・・・・ッ!!!


「"ナイフ"やで・・・・どこにでもあるタイプのものやが・・・・切れ味はバツグンや。
毎日研いどるからなぁ…指の一本や二本切り飛ばすぐらい容易いほどになッ!!」


そのナイフを寺田のスタンド『シャ乱Q』が手にする…
ナイフを手にしている右手がギラギラと妖しい光を放ち始める…ッ!!!


くそぅ・・・ようやくノドの針が抜けたが・・・・・脅威はこれからみたいだ…ッ。


139 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:27:51.67 0


「これが俺の能力や!!くらえィッ!!!久住ッ!!!!!」


ドヒュンッ!!!

ヤツのスタンドがナイフを投げた!!!
恐ろしい切れ味のナイフが一直線にこちらへと向かってくる・・・!!!・


「ですが・・・・・そんな程度の攻撃ッ!!わざわざかわすまでもないッ!!!
ミラクル・ビスケッツのみんな!!!」

『マカセロッ!!コンナ"ナイフ"一本ドーッテコタァーネーヨナァ!?』
『ウシャアアアアアアアアアアッ!!!!』


ビスケッツの能力で迫り来るナイフを分解して消してやるッ!!
そしてそのままあなたに返してやりますッ!!!


「今だッ!!砕けビスケッツ!!!」


フッ・・・

ナイフは、小春の前から消えた。
小春に向かって飛んでくるナイフはなくなったのだ。


・・・・ビスケッツがナイフを分解する前に!!!


140 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:30:39.89 0


『コ・・・小春ゥーッ!!手応えがネェーッ!!!』
『ナイフが消エタノヨッ!!ワタシタチが砕くヨリ早クッ!!!』

「な、なんだって・・・・?」

そんなバカな!!ナイフが独りでに消えるなんて事があるもんか!!!
だけどビスケッツが分解したような手応えもない・・・・・ナイフはどこへいった!?

小春たちが混乱を始めたその時、寺田が言った。


「My Babe …時は訪れる」

フンッ!!!


「なッ!!!」

なにが起きたのかわからなかった。
小春はよそ見なんかしていたわけじゃない・・・・それなのに!!

あぁ・・・それなのにッ!!!


「なんだこのナイフはッ!?うわああああああああああああああああッ!!!」


ナイフが目の前に出現したんだ!!!

み・・・・身をよじるしかないッ!!せめて急所だけでもかわすんだーッ!!!


141 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/31(火) 19:36:48.59 0


ドカァッ!!!!

「あぐうぅぅぅぅぅぅッ!!!」


ナ、ナイフが刺さってしまった!!・・・・・スゴク痛いッ!!
小春の右腕に深々とあのナイフが突き刺さっているんだ・・・!!!

今までに経験したことのない痛みに、叫び声をあげられずにはいられない。

痛みのあまり、床にヒザをついてしまったことにも気付かなかった。


お気に入りだったVネックの白いニットが、ナイフを中心に徐々に
赤い模様を作り、そして広げていった。


小春のノドに突き刺さった針。
一瞬消えたかと思えば、すぐ眼前に出現したナイフ。

何が起きているんだ・・・・?


『シャ乱Q』の能力は・・・・いったいなんなんだッ!!?



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・!!!


3 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:14:28.19 0


痛い・・・・ナイフの刺さった小春の右腕が痛いッ!!

う、腕が上がらないィ・・・・これは痛みによるものなんだろうが、
まるでズッシリと重たいものが腕に引っかかっているような錯覚を覚えた。


「う、う・・・・」


でもナイフが独りでに消えたり現れたりするわけがないよな・・・・

それは非科学的すぎるよな・・・・

だがこの状況で科学的云々というのは無意味だってことは、じゅうぶんわかっている。


そうなると…考えられる可能性は一つしかない!!


「寺田の能力!?小春のノドに針を刺し、ナイフを一瞬この世から消したのは…ッ!!」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


4 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:19:33.59 0

とにかくナイフを引っこ抜かなくては…!!
傷口を広げぬように、そうっと引っこ抜くんだ。


い、いや・・・・・引っこ抜いている暇はない!!!

寺田がこっちへ向かって駆け出してきているぞッ!!!?

「う、うわあぁッ!!!!!」
「くらえィ!!久住ッ!!!」

ヤツのスタンドの右足が地を踏みしめピーンと張った。
あれは・・・・軸足にしているッ!?

こいつッ!!左足で蹴りを放とうとしているんだ!!!

まずいッ!!アレを狙っているんじゃあないのか!!?
間違いない・・・・あそこを蹴るつもりだッ!!!


「な、No.3ッ!!!!!!!」
『シバッ!!!』

ピキ…パヒュッ!!!!


蹴りを受けるより早く、腕に刺さったナイフを側にいた『No.3』が分解して取り除いたッ!!!
血をせき止めていた栓を失った傷口からは生暖かいものがドロッと湧き出して来る。

だが、腹をくくらなければならないのはここからだ…ッ。
ヤツの蹴りはもうすぐそこまで迫っている!!!


5 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:23:12.06 0

メメタァッ!!!!!!!!!!!!!!ミシッ…

「うげッ!!!」


寺田の『シャ乱Q』が放った蹴りが小春の傷ついた右腕を襲った。
その勢いで、小春は左の方…部屋のさらに奥にあったソファの上に突っ込んでしまう。
やはり・・・・ナイフの刺さった右腕か・・・・・!!!

「うーん、おしいなぁ…蹴りでナイフをさらに深く押し込んでやろうと
思っとったんやけど…あかんなぁ〜、しかもお前にナイフ取られてまうとは…」

寺田が呑気に言ってみせた。

「くそ・・・・・腕が・・・・・ケガしたところを狙うなんて・・・・・ッ」

なんて残忍なヤツ!!
蹴られた腕の感覚がぬるい・・・・折れてはいないみたいだが・・・・
骨にヒビが入ってしまったかも・・・・

「久住・・・・・俺はな、無駄なことに時間をかけん主義やねん。そろそろマジで
いかせてもろてええかな?こうして話してるのも時間の無駄やと思わんか?
会話をするということは…そいつの生きている時間を、話を聞いてもらうために
もらっていることと同じなンや・・・・・これから死ぬだけしかないおまえのために、
なんで俺の大事な生きている時間をやらないとあかんねや、なぁ…?」

シャ乱Qの右の拳が妖しく光り始める。
ギラギラと、目に毒な揺らめきだ・・・・スタンドのグローブが発光しているのか?

・・・待てよ。
そういえば・・・・さっきナイフを投げつけてくるときもあんな光が・・・


6 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:27:21.95 0

「おまえ、本当いい女だったで・・・・なぁに…一撃で済ますさかい!!!」

く、くそ・・・・・休ませてもらえない・・・・・考えている暇がないッ!!!!!
こいつ、一気に決めてくるつもりだッ!!!
シャ乱Qがギラギラと光り輝く右腕を振り下ろしてくるぞ!!!


「これで終わりや!!吹き飛べッ!!久住!!!!!」


う、うわあああああああああッ!!!!
この拳だッ!!この右の拳に何か秘密がある!!!
あの輝きは何かを秘めているからこんなに光っているんだッ!!!

な、殴られてはまずい!!
絶対にこの拳に殴られてはならないッ!!!

あ・・・・アレをやるしかないのか?

この身体がもつかどうかわからないが・・・・いや、でもこの拳に殴られたら
もっと取り返しのつかないことになる気がする・・・・・

うぬーッ!!もう迷っている時間はない!!!


「み・・・・ミラクル・ビスケッツゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」

『マ…マジカヨオォォォッ!!危ネェヨォォォォォ小春ゥーッ!!!』
『怯エテル暇ハナイワッ!!ヤツノ拳ガくるワヨッ!!!』
『小春ノ精神力ニ賭ケルシカナイッ!!イクゾーッ!!!』


7 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:28:54.72 0



ビキビキビキ・・・・・シパァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!



「な、何ィーッ!!!!!!?」

ゴシャアアアアアアアア!!!


寺田が驚いた声が一瞬だけ聞こえて、小春の目の前は真っ暗になり何も聞こえなくなった。

シャ乱Qの拳は、小春ではなく小春が突っ込んだソファを殴りつけたようだ。


どうして寺田のスタンドは攻撃を外してしまったのか?



なぜなら・・・・



小春自身を・・・・分解したからだ・・・・ッ。



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


8 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:29:54.33 0


く・・・・く・・・・

こ・・・こいつは・・・・やっぱりきつい・・・・

このまま意識を・・・・・失うとマジに・・・・



い・・・・逝ってしまう・・・・・



笑い話にもならない・・・・・

このまま・・・自分のスタンドでバラバラに・・・・・なって・・・・

し・・・・死んでしまったら・・・・・


ビスケッツのみんな・・・・早く再形成を・・・・・・

小春の意識がなくなるその前に・・・・


そして・・・・・反撃するんだ!!!!



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


9 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:32:15.68 0


パシッ・・・・パシッ・・・・・

フゥッ・・・・・・




視界に光が戻る・・・・世界が時を刻む音が聞こえる・・・・


小春がヒザをついてるのは・・・・・寺田の机の上だ!!

かわしたぞ・・・・・ヤツの拳を・・・・・


「ビスケッツのみんな・・・・よくやってくれた・・・・・ハァ…ハァ・・・」


いつも思うが・・・・・この『自分を分解する』行為は本当に危険だ。
小春の意識が消えた中で再形成を行うこの行為はかなりの博打なのである。

もし、再形成をおこないきるより早く、ビスケッツまで逝ってしまったら・・・?
考えるだけでゾッとするよ。


小春の気配に気付いたのか、寺田が振り返った。
彼が小春のかわりに殴りつけたソファは・・・・


どこにもなくなっていた。


10 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:34:31.74 0


「なんてヤツや・・・・話には聞いた事があったが・・・・・自分を分解するとは・・・・
そのまま逝ってまったらどないするつもりなんや・・・・?」

「それが最善の方法だと思ったからです・・・・・あなたのそのスタンドの拳には
触れたくなかった・・・・・だからおこなったまでです」

「フム・・・・久住小春。おまえは中学二年生であり演劇部の部員としては
まだ一年弱と長くないが…14歳とはまるで思えんブッ飛んだスケールの判断と
行動をす…」


「うるさいッ!!!!!!」

ドガッ!!!


小春は立ち上がると、寺田が何か言い終わるより早く机の上に置いてあったペン立てを
ヤツに向かって蹴り飛ばす!!

「ムッ」
バンッ!!!


蹴り飛ばしたペン立てはヤツのスタンドが難なく弾き飛ばした。

なるほど・・・・・かなり反射神経、そして精密動作だな。


11 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 05:36:03.45 0


「失礼なヤツやな・・・・人が話している最中にそないなもん蹴り飛ばして来よって…
反則やで?ホント、せっかちやなぁ…」

「あなたの口数が多すぎるからです・・・・あなた・・・・無駄なことに時間をかけないと
おっしゃいました。ですが・・・・そのわりにはチンタラしすぎじゃあないですか?
それに、そこにあったはずのソファが"なくなっている"ことに疑問は多々あります・・・が」


初めにこの町の正義云々を語り…そのあと小春のノドに突き刺さった針。
目の前で一瞬消えてすぐ現れたナイフ。
そのあと、蹴りをはなってきたスタンド・・・・重要なのはここだ。
最後に、ソファを消し去った右拳の一撃。

無駄なことに時間をかけないと言うのなら・・・・・
なぜ、ナイフのあとに蹴りなんか放ってきたんだ?
初めからあの右拳で殴りにかかればいいものを、それをしなかったということは…

わ・・・・・・わかりかけてきた!!

こいつの・・・・シャ乱Qのスタンドの特徴がッ!!!


「あなたのスタンド…ひょっとして連続して『能力』を使えないンじゃあないんですか?」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


25 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:01:26.98 0


きらりちゃんが寺田に殺害されて、小春がこの部屋に飛び込んでから・・・

まだほんの二百数十秒…三分ほどしか経っていない。

しかし・・・・あとその半分にも満たない時間で最終の決着はつくであろう…


  ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


「もし、連続して能力を使えるのなら・・・・・小春はもっと翻弄されているハズです。
何がなんだかわからぬまま、そこにあったソファのように"この世から消されて"
いるはずなんです・・・・もっとも、まだ手加減しているというのなら話は別ですが…」

「この世から消されて・・・・・この世から・・・・?ンッン〜・・・・それはちょっと違うなァ」

小春のセリフに何か不満があったらしいな。
寺田は自分のアゴをなでながら首を傾げ、こちらを静かに見据えた。

「この世から消してなどおらんのやなぁ…久住、冥土の土産に教えてやるわ・・・・・
どうせお前はスデに『シャ乱Q』によって始末される運命にあるんやからな・・・」

ヤツのスタンドが右手をかざす・・・・・
再び光が集まり始めているッ!!


「シャ乱Qの特殊能力・・・・・それはッ!!『時を駆けぬける』能力ッ!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


26 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:05:24.13 0



             "時を駆けぬける"能力ッ!!




「時を・・・・・駆けぬける・・・・?」

それが寺田の能力!?
ということは・・・・・さっきまでそこにあったソファは・・・・?


「"背中を後押しする"って表現があるよなぁ・・・・迷っているヤツの背中を
後押ししてやるっつーアレや・・・・本来ならこの時間から消え、未来へ駆けていくのは
ソファではなく久住、お前やったンや・・・俺の能力で間違えて後押ししてもうた
ソファはいったいどこまでブッ飛んでってしまったんやろうなぁ?二年後?三年後?
かなりの力でぶん殴ってんから十年ぐらい先の時間に飛んで行ったのかもわからんなァ」


ウオォン・・・・・ウオォン・・・・・

かざしたスタンドの右手の光が、ユラリ、ユラリ揺れている。
あの光が・・・・時を駆けるほどのパワーを持ったエネルギーのビジョンか…!!


「見えるか?聞こえるか?感じるか?この強力なスタンドパワーの揺らめきが・・・・・
これこそ我がスタンド能力…今度こそ貴様を時の彼方に吹っ飛ばしてやるわーッ!!」


ギュウウウウウウウウウン!!!!!!!


27 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:10:16.10 0


寺田が机の上に立つ小春に向かってきた!!
・・・・・次の一撃で決めてくるようだ。

自分の能力を敵に教えるという事は、その能力にかなりの自信があるということッ!!

小春をッ!!時の彼方とやらに吹っ飛ばそうとしている!!


だが・・・・・それぐらいで慌てる久住小春じゃあないんだ。


演劇部のミラクルエースだということを!!
たった今あなたに思い知らせてやるッ!!

小春は・・・・再形成係のビスケッツを四人、正面に構えて見せた。


「舞美ちゃんが言っていた・・・・"冥土の土産に教えてやる"と口にした者は・・・・
どんなに狡猾で頭の切れる優れたヤツでもそれがアダになってやられると・・・・・
それはなぜか・・・・・・理由はただ一つだッ!!!!」


「何をゴチャゴチャ言っとんのや!?これで・・・・さよならやでーッ!!!」


「そうそれはッ!!そいつが"勝った"と思い込んでいるからだ!!!
勝ったと思ったとき!!そいつはすでに敗北しているッ!!!」


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!


28 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:15:06.19 0


スタンドの拳が小春に迫ってくる!!

なんというスゴ味!!
だが・・・・・絶対に屈するもんかッ!!!


いまだッ!!!


「ミラクル・ビスケッツ!!!」
『アイアイッサァー!!!!』

ピシッ!!ピシピシッ!!!


寺田の攻撃を受けるより早く再形成したもの・・・・・
銀色に輝くそれは・・・・!!!


「な、なんや・・・・ッ!!!」


「あなたが毎日研いでいたとか言うナイフの切れ味・・・・・よく味わって
みるといいですよ・・・・・自分の身体でね!!!!」


バァ〜ン!!!!


29 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:18:50.02 0


さっき小春の右腕を傷つけた寺田のナイフを再形成したッ!!!
寺田に向かって飛ばしてやれッ!!ミラクル・ビスケッツ!!


『ソウレッ!!返シテヤルゼェーッ!!!』
『貫イテクレルーッ!!!』

ドヒューンッ!!


「俺のナイフやと・・・・・・フン、何かと思えば・・・・・そないな程度で
この俺が立ち止まるとでもッ!?足止めにもならんなァ〜!こんなもんッ!!!」

バシィッ!!!!!!


飛ばしたナイフはいとも簡単にヤツのスタンドの左腕で弾かれ、床に叩きつけられた。
寺田が向かってくるスピードは依然変わらない。

右拳を・・・・・振り上げている!!
小春をしとめようと心に決めているッ!!!

「終わりや久住ッ!!キサマの時は駆け出すッ!!!くらえィ!シャ乱・・・・・」


「・・・・・・・・忠告します。あなたのその右腕・・・・・今すぐ自分を守るために
使った方がいい・・・・・よそ見してちゃダメダメですよ」


「ッ!?キサマこの状況で何を・・・・」


30 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:20:27.54 0





                   
                   『ヤッタゼ』

              『エェ、コンナ近クマデ近ヅケタワ』







31 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:24:00.19 0


「・・・・・・・ハッ!?」


やれやれ・・・・ようやく気がついたようだな・・・・
小春がビスケッツにナイフを飛ばさせた真の意味を・・・・


『コイツ…思イコンデイタゼ』

『小春ちゃんニ勝ッタト思イコンデイタノネ』

『コイツニ近付キタカッタンダヨナァーッ!!スゴク、スゴク近ヅイテ
乙女心チャンス!!!』


「な、なんやこいつらーは・・・・・いつ間に俺の左腕に・・・・・集まってたんや?
まさか・・・・さっきの弾いたナイフに取り付いて・・・・」

「きらりちゃんの仇、討たせてもらいますよ・・・・この想いは止められない」

「や、やばいッ!!こいつらー・・・距離が近すぎるで・・・・は、早く振り払わねばッ」


パキィ!!

「うぐッ!」


おっともう遅い・・・・・
ビスケッツの"分解する"能力が寺田の左腕にヒビを入れ始めた。


32 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:26:43.87 0


「お、俺の腕に・・・・・ヒビが・・・・・・?こ、こんな豆粒ごときにこの俺が・・・・・
ひ・・・・・捻り潰してくれるわ!!」

寺田がビスケッツの3人を睨む・・・・・そうはさせるかッ!!!


「いくよビスケッツのみんなッ!!!!」

『ウシャアアアアアアアアッ!!!』
『イィィィッ!!ハアァァァァァ!!!』


演劇部も・・・・・

あなたの自己満足でしかない正義も・・・・・


「これで終わりだぁーッ!!!バラバラバラバラバラバラバラバラ!!!」


パキパキパキパキパキパキッ!!!!!

「ぬぐううううううううッ!!俺の身体がッ!?なんやァこれはあああッ!!!」


寺田の腕に生じた亀裂が腕を上り、胴体、足、頭部へと伸びていく。

ビスケッツの3人による直線的な行ったり来たりの攻撃だッ!!
銃撃のようなビスケッツの体当たりでヤツの身体を余すところなく
バラッバラに分解してやる!!!

32 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:26:43.87 0


「お、俺の腕に・・・・・ヒビが・・・・・・?こ、こんな豆粒ごときにこの俺が・・・・・
ひ・・・・・捻り潰してくれるわ!!」

寺田がビスケッツの3人を睨む・・・・・そうはさせるかッ!!!


「いくよビスケッツのみんなッ!!!!」

『ウシャアアアアアアアアッ!!!』
『イィィィッ!!ハアァァァァァ!!!』


演劇部も・・・・・

あなたの自己満足でしかない正義も・・・・・


「これで終わりだぁーッ!!!バラバラバラバラバラバラバラバラ!!!」


パキパキパキパキパキパキッ!!!!!

「ぬぐううううううううッ!!俺の身体がッ!?なんやァこれはあああッ!!!」


寺田の腕に生じた亀裂が腕を上り、胴体、足、頭部へと伸びていく。

ビスケッツの3人による直線的な行ったり来たりの攻撃だッ!!
銃撃のようなビスケッツの体当たりでヤツの身体を余すところなく
バラッバラに分解してやる!!!


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:29:09.56 0


「バラバラバラバラバラバラバラバラバラ!!!!」

『バラ!!』
『バラバラッ!!!』

ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシッ!!!!


寺田の全身に余すところなく亀裂が入る!!
そして・・・・・・ビスケッツがそれぞれ星を描いた時・・・・・・

「き・・・・・・・キサマなあぁんぞにィーッ!!!!!!!」


これがミラクル・ビスケッツの"分解"する能力だぁーッ!!!!!!

ビスケットが粉々に割れるようなビジョンでッ!!!

くたばれ寺田光男ォーッ!!!!!


「ぬぐわああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」



「バラバラバラバラ・・・・・・・・・・・バラライカ!!!」(砕け散れ)



ビシッビシシィッ・・・・・・バッゴォオォォォオォォオォォォオォォオォーッ!!!!!!!


34 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:31:14.60 0


サアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・


部屋に静けさが訪れた・・・・

終わったのか・・・・・・?

きらりちゃんの仇を・・・・・討てたのか?


いま、この部屋には小春以外に誰もいない・・・・


寺田の身体は、小春の前から跡形もなく消えてしまっている。


張り詰めていたものが取れたような気分だ・・・・小春はぐったりと
その場に力なくヒザをついた。




ちょっと呆気ないような気もするけど・・・・寺田に勝ったんだッ!!!


でも…


35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/03(金) 15:32:16.51 0










               …本当にこれで終わりなのか?











4 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:34:18.05 0


寺田は死んだ。
小春が殺したんだ。

そのことに関して後悔はない…

一人になった部屋で、小春は床を見渡す。
すぐ側に、きらりちゃんのものと思われる血だまりがある。


「きらりちゃん、終わったよ・・・・・・・」


失ったものが大きすぎる…
そして・・・・小春にとっては多すぎた。

これから演劇部はどうなっていくのだろう。

顧問はいなくなったし、やっぱり廃部の道しかないのだろうか。
もしかしたら他の先生がしばらく代理を勤めるかもしれない。
演劇部は人数が多いから、そんなにあっさりと廃部になるとは思えないな。

どちらにせよこれで終わったんだ。
あの男の手のひらの上で転がされていた日々は終わったんだ。

このことは…みんなには黙っていよう。

机の上から降りると、小春はソファがあったはずの場所へと足を引きずった。
そこだけ床の色が変わっているところを見ると、長年この場に置かれていたのがわかる。
今まで何人の部員が、ここにあったソファに座り、騙され続けてきたんだろう。


5 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:35:55.53 0


『コ、コハル・・・・』

ミラクル・ビスケッツNo.7が小春を呼んだ。
その声色はなぜかうろたえているように感じた。

「どうしたの?」

『No.1モ、No.2モ、No.3モ・・・・・確カニやつヲ分解シテぶっ殺シタハズ!』
『ナノニ・・・・・いないンダ・・・・・ッ!!』


何を言い出すんだいきなり。

いない?
なにが?

「No.7、何を言ってるの?」


『寺田ノ…ヤツの死体ガ俺タチの手元に存在シナインダーッ!!!!!』


ピキキ・・・・・パシッパシッ!!!

ビスケッツの4人が再形成を始めた。
小春の目の前で・・・・砕け散ったビジョンが現れそれを元の形へと直していく。
寺田の死体がそこに再形成されるハズだった。
少なくとも小春はそう思っていた。

それなのに・・・・・こ、これは・・・・ッ!!


6 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:37:11.08 0


「す・・・・スーツの・・・・・ジャケットだけ・・・・・ッ!?」


ドォォォォォォォォォォォォォン!!



ど、どういうことだ!?

小春のビスケッツは、確かにヤツをバラバラに砕いて葬ってやったはずッ!!!
なのにどうしてジャケットしかないんだ!!?


そしてこの時、ある一つの可能性が生まれてしまったことに気付く。

ビスケッツがヤツのジャケットしか分解していなかったとするのなら・・・・


「あの男は・・・・寺田はまだ生きているッ!?」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


7 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:41:08.22 0


寺田が生きている!?


バカなッ!!そんな・・・・ありえない!!!


だとしたらあの男はどこに消えたんだ?

この部屋は間違いなく小春しかいない・・・・隠れる場所なんてどこにもないッ!!




「いったいどこに消えたんだ!?ビスケッツのみんなッ!ヤツを探し・・・・」






8 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:42:00.15 0









          ド ボ ォ ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!












9 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:43:49.92 0


「・・・・・・っ」

突然、背中を襲った衝撃が息をつまらせた。
物凄いパワーだ、思わず倒れそうになる・・・・が、小春は倒れることはなかった。
爪先立ちで、前のめりにその身体は支えられていた。

なんだ・・・・この奇妙な体勢は・・・・・い、痛い・・・・

そうっと、足元に目をやる。
足元が見えない。

太い何かがお腹から先を遮っているからだ。
太い腕が、小春のお腹から生えているからだ。


そんなバカな・・・・・ありえない・・・・・

こんな・・・・ことが・・・・・・認められるわけがない!!


「チェック・メイトやで・・・・・久住」


小春の身体は、寺田の『シャ乱Q』の腕に貫かれていたんだ…!!!!


「う・・・・・うおぉぁああぁあぁああぁあぁぁぁぁあぁッ!!!!!」


ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!


10 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:49:14.13 0


「人は・・・・・なぜ"ミス"を犯すんやろうナァ…」

すぐ後ろから、もう二度と耳にすることはないと思っていた声が聞こえてきた。


「明確な"ミス"は誰にでも判断できるが・・・・この世には予知できん"ミス"と
いうものがあるわな・・・・自分ではこれこそが正しいと考え行動したことでも・・・・
気がつけば何だかうまくない状態に陥ってしまう・・・・・まさに今のお前の姿やが…
そーいった"ミス"はどうやって回避すればええんやろか?いったいどこからが
"ミス"だったんやろうか?…その答えは時が前に進む限り見つけ出すことは出来ん。
そういう"ミス"に気づくときというは、すべてが終わってからなんやからな・・・・」


寺田の淡々とした語りに比例して、ジワジワと苦痛が小春の全身を駆け巡り、
考える力を奪い取っていく。


「ガフッ・・・・・ア・・・・」

「なんにしても久住、お前は大したもんやで・・・・・ようやったと思う・・・・・
俺も今まで何度か追い詰められたことはあったが・・・・若干14歳の女子中学生に
ここまでやられたのは初めての経験や・・・・・おまえはムチャクチャ出来る子やな」


メリャッ!ボキ!ゴキッ!!


「だが、所詮『シャ乱Q』の敵じゃあらへんかったな・・・・・・お前のビスケッツに
バラバラに砕かれる瞬間"時を駆け抜けて"あの時間から脱出させてもろたで…
危なかったわ・・・・ホンマ」


11 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:52:41.72 0


「・・・ゴ・・・・・・・ボ・・・・ッ」


ノドの奥から熱い塊が込み上げてきた。

背中の骨が軋んでいる音が身体中に響き渡る。
その音が響くと、今度は小春の身体がガクガクと痙攣を始めた。


「今回の件において・・・・すべての元凶は『月島きらり』にあるなぁ・・・・
ヤツがいなければ、おまえはこんな結末を迎えることはなかった・・・・・
"ミス"に飲み込まれ!!命を落とすことはなかったッ!!!悪い友達や・・・・・
おまえの未来を大きく狂わせてしまってんからなァ・・・・」


ズボォッ!!!!!!


お腹から腕が抜ける。
身体を支えていたものがなくなると、小春はそのまま床に倒れてしまった。


ドシャッ!!!

「う・・・・ぅ」


顔に冷たいものが・・・・床の・・・・タイル・・・・・か・・・・・
ひんやりとした床の冷たさに、小春の身体まで同化していくんじゃないか?
ふと、そんな錯覚を覚えた。


12 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:55:34.48 0


『ウ、ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
『コ・・・・コハルーッ!!!!』
『〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?』
『き、消エテシマウッ!!コノママデハ俺タチの存在ガ・・・・・』
『ウェーン!!コハルちゃーん!!!立ち上ガッテヨォ〜ッ!!』

「おぉぉ・・・・あ・・・・・・・ビスケッ・・・・ツ・・・・・の・・・・・みんな・・・・・」


「フム・・・・・七体で一体のスタンド『ミラクル・ビスケッツ』・・・・・パワーはないが
その能力ゆえに殺傷能力は十二分にある・・・・・こんなもんを生まれながらに持つとは…
おまえほどのスタンド使い、正直殺すのはおしい・・・・・しかし誰であろうと
この町の平和を脅かすことはゆるさへんで。ところで・・・・・・」


寺田のスタンドが小春の血で濡れた右腕を発光させた。
ヤツが・・・・・狙っているものは・・・・



ま、まずいッ!!!



「な、No.4・・・・・逃げ・・・・・・・」


『No.4ォーッ!!!スグそいつカラ離レロオォォォォォォォッ!!!』

『エ・・・・・?』


13 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 19:59:22.52 0

「覗きを働いた悪いビスケッツはコイツか?」

寺田のスタンドがヤツのすぐ側にいたNo.4に拳を振り下ろした!!


メギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!
『ギャッ!!!』

「No.4ッ!!う、うあ!!!」
バリ・・・・バリバリバリバリバリッ!!!

No.4がヤツのスタンドにつぶされると、小春の左腕が軋んだ音を立て始める。

い、痛い・・・・・!!!
No.4の苦しみが小春の中にーッ!!!!


『コ・・・・コハルチャンンンンンンンッ!!アーッ!!!!!!!!!!!!!!!』

ブチンッ!!!!

「!!!!」


No.4が消えた。
部屋のどこにもいなくなった。

小春の左腕も、ヒジから下がどこかへ吹き飛んでなくなっていた。


ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!


14 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/07(火) 20:01:59.77 0


「おがああああああああああ!!!!!」


やばい・・・・今の一撃はやばい・・・・

左腕から、まるで蛇口の壊れた水道のように耐えることなく鮮血が流れ続け、
倒れている小春を沈めてしまうかのような池をジンワリとゆっくり作り始める。


「あああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

ギリギリ保たれていた意識が・・・・・遠くへすっ飛んでいきそうだ・・・・


「No.4・・・・・・・No.4オォォォォォォォォッ!!!!!!!!!」


No.4・・・・・うぅうぅぅぅうぅぅうぅ・・・・・No.4ォッ!!!

No.4を返せ・・・・

小春のNo.4を返して!!!


「ミラクル・ビスケッツ・・・・No.4といったか?時の彼方に吹っ飛ばしてやったで…
間違いを犯したものには罰を与えねばならんからな、それがこの世の決まりや。
なるほど、さっきのビスケッツはおまえの左腕とつながっとったわけやな」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!




35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:03:25.32 0

「う・・・・・あ・・・・・ああああ・・・・・」

「おまえの左腕は数分後、その時間が訪れればおまえの元に再び現れるやろう・・・
もっとも、それで左腕がくっつくわけでもなければ、おまえ自身その時までに
この世に存在していないがね」


出来上がった血の池の中で、小春は残った右手で必死にあるものを探した。

左手首に通していたアレだ・・・・・

アレはどこにいったんだ・・・・・


アレは・・・・れいな先輩からもらった髪飾りは・・・・・血で汚れてしまっただろうか…


残った右手でビシャビシャと血の池をかきわけるが・・・・

見当たらないよ・・・・どこにも・・・・・


「それにしても・・・・14歳のわりにええスタイルしとんなァ、久住。足は長いし
顔も大人っぽいやん。しかもなかなかのオシャレと見たで。将来性はバツグンやったのに
ホントもったいないなァ〜」


寺田は倒れた小春をまるでカメラで写真に収めるかのように両手の親指と
ひとさし指で作った枠の中にその姿をはめ込んで見ているようだ。

この状況でそんな事をしてみせるおちゃらけた寺田の異常性が恐ろしかった。


36 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:05:01.78 0


・・・・・怖い。


苦痛にまみれた身体で、目の前まで迫ってきた現実に震え上がる。







死ぬ…?








小春が死ぬ?








まだミラクルな大スターにだってなってないのに・・・・?


37 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:09:18.14 0


サアァァァァァァァァ・・・・

血を流しすぎたのか、それとも今まで感じた事のない"死"という
非現実的な恐怖におののいているのか。
おそらく後者であろう・・・・・血の気が全身から引いていった。


い、いやだ・・・・まだ死にたくなんかないっ!!!



「た、助けて・・・・・・助けてええええええええ!!!!道重さぁん!!!!」

「道重ェ?あいつがどこにおるン?痛みのあまり気でも狂ったんか??」

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・助けて・・・・やだあぁぁぁぁっ!!!!」

「ダメダメダメダメダメ!!!おまえはここで死ななあかんのや。
言ったやろ・・・・・間違いを犯した者には罰を与えねばならんと。それ相応のな…
せやから我慢しや、久住。おまえが悪いンやで。間違いを犯したおまえが悪いんや」


どうして小春は道重さんの名前を口にしたのか。
それは霞む意識の中で彼女の姿が脳裏に浮かんだからだ。

そうだ・・・・小春にはお姉さん的存在の人がいたんだ。
いつも一緒にいてくれた人がいたんだ。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 


38 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:11:51.56 0


道重さん・・・・


道重さんに会いたい・・・・

あの人に会えれば小春は安心できる…


心に勇気を湧きあがらせてくれる!!!


すがりたいよォォォ・・・・・道重さん・・・・

あの時のように・・・・あなたの後ろについてまわりたいよぉ・・・・・



道重さん、ごめんなさい。

明太子スパロールのこと。




小春はあやまりたい・・・


ソラミミより透明で空よりも青いメロディに包まれて・・・・・

あの優しい道重さんにあやまりたい・・・・・


39 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:14:43.02 0


しかし現実に目の前に立っているのは、虫の息になった小春をいつもとまったく
変わらぬ表情で見下ろしている寺田という正義の皮を被った邪悪な大人の男だ。
ここにいない道重さんへ甘い想い(もの)を巡らせれば巡らせるほど、
このどうすることもできない無力な状況が胸に沁みる。

小春の望みは・・・・もう・・・・・


「・・・・・・・・!」


いや・・・・ダメだ・・・・・
小春は・・・・ここで終わってしまうのかもしれないけれど・・・・・・


あの人の日常はこれからもずっと続いていくんだ!!


せめて・・・・伝えなくては。

あの人は純粋な人なんだ・・・・そんな道重さんがこれから先、なにも知らずに
こんな邪悪な男に騙され続けていくなんて思うと・・・・・

そんなの・・・・許されるもんかーッ!!!


道重さんはッ!!将来『お姫様』になる人なんだ!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・!!!


40 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:19:36.10 0


「・・・・・・っ」

「左腕を失ったおまえは今、何を考えとるんやろーなぁ…『もうギターのコードが
押さえられないな』・・・そんなことでも考えとるんかなぁ・・・ン〜?」


闘志が湧いてきた。
道重さんのことを想い、闘志が湧いてきたんだ。

諦めてはならない・・・・・まだ倒れるわけにはいかないッ!!!


例えお腹にポッカリとドーナツのような穴があいていようと・・・・・

左腕を失ったという絶望的な怪我を負っていようと・・・・・


小春の意思は!!
道重さんに伝えなければならないッ!!!!!!


      ヒュン・・・・・    ヒュン・・・・・


小春のミラクル・ビスケッツ・・・・・

もう少し・・・・・あと少しだけ頑張って・・・・・


まだ・・・・・終われないからーッ!!!!


41 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:24:09.63 0


「ム?・・・久住きさま・・・・・何をやっとるんや?ビスケッツたちに
何をさせとるんや?」


「痛い・・・・なんて痛いんだ・・・・血もいっぱい出たし涙も止まらない・・・・
けど、もうそんなことは問題じゃあないですね・・・・・ヘラヘラ・・・・・」


「なんや・・・?何故こないな状況でヘラヘラしてられんのや・・・・?」


「笑わずにはいられませんよ…今一度、あなたの困る顔が見られるんですから…
あなたは小春に追い詰められたんですよね?そうです・・・・たかが14歳の小娘に
追い詰められたんですよ…それもまだ演劇部に一年ほどしかいない新入りに…ヘラヘラ」


「・・・・・何が言いたいんや?」


「もう一度言います・・・・あなたは14歳のガキに殺されそうになったんです・・・・
小春が慕っている人は・・・・小春より年上なんだ・・・・・その人を前にして・・・・
あなたははたして滅びずにいられますか?・・・・寺田先生」



ゴゴゴゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・


42 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:26:26.55 0


ビキビキビキ・・・・・


小春の身体に亀裂が走る。

No.4を失った今、これが成功する可能性は極めて薄い。



でもやるしかない・・・・・



この場所で・・・・・大人しく寺田に殺されてしまったら何も変わらない!!!


だからッ!!!



「砕け・・・・・・ミラクル・ビスケッツーッ!!!!」


シパッ!!シパッ!!!シパアアアアアッ!!!



「まさか・・・・逃げるつもりか久住!!!そうはさせンンンッ!!!!」


43 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:30:09.56 0


寺田の手が伸びてくる。

小春の服のスソをつかんだようだが・・・・・


ビリッ!

「ぬぐぅッ!!?」


なんとか間に合ったようだな・・・

寺田の手に小春の破れた服のスソを残し、小春は再び亜空間の中で
再形成されるその時を待ったのだった。


「おのれッ!!久住ィィィィィィィィッ!!!!」



道重さん・・・・いま会いにいきますから・・・・

明太子スパロールのこと・・・ゆるして下さいね・・・・?



バリバリバリ・・・・・・・・ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


44 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/08(水) 06:31:45.29 0





「な、なんてことや・・・・ヤツはもうほっといても死ぬやろうが・・・・・・
このことが他の部員に知られてしまうのはまずいッ!!・・・あ、アカンッ!!!
シャレにならんで・・・・・・久住をこのまま逃がすわけにはいかないッ!!」




178 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:18:46.04 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私はまっすぐその道を歩いていた。


遠回りや道草を食ったり・・・足踏みをしたことも多いが・・・・

それでも少しずつ・・・・・一歩一歩まっすぐ歩いていた。


私はかけがえのない友人達と一緒に歩いていたのだ。



いや・・・・・・・"いた"なんて、過去形にはしたくない。


これからも、歩いてこう。

澄み切った空気を。
新鮮な贅沢を。
当たり前の自然を・・・・


私の左隣には道重さんがいて、右隣には藤本さんがいる。
その奥にはれいな先輩がいて吉澤さんがいて・・・・

みんなで手を繋いで、横一列になって・・・・歩いてる。



179 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:20:23.92 0


みんなまっすぐ前を向いて歩いてる。

とても綺麗な顔で歩いてる。


みんな疲れないのかな。
私はちょっと疲れてきた。
だいぶ歩いてきたもんな。


ふと、私の足元に小さな花を見つけた。
名前も知らない花だけど、可哀想な花なんだということはわかる。

だって茎が折れているから。
葉も左側だけ千切れ、風に吹かれて無くなっている。

このまま私が歩いていったら間違いなく踏んづけてしまうだろう。

止まらなきゃいけないのかな。


どうしよう。


私はまだみんなと歩いていたいのに。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



180 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:21:29.47 0



『サヨナラ・・・・・・・コハル』


『コハルチャン・・・ワタシタチハ離レナイワヨネ・・・・?ワタシタチハ離レナイワ・・・・・ダッテ・・・・・
アンナニ・・・・・幸せ・・・・ダッタンデス・・・カ・・・・・ラ・・・・』


『ココニおいていくノカヨォォォォみんなアァァァァ・・・・コハルヲひとりぼっちデオイテクノカヨォォォォ・・・・
オイテクナンテ・・・オレハ・・・・・ヤ・・・・ダ・・・ヨォ・・・・・』


『No.4・・・・・アァ・・・・・No.4ガ・・・・・待ッテイル・・・・・寂シカッタロ?モウ・・・・
寂シクナイヨ・・・・寂シクナンカナイヨ・・・・寂シクナンカ・・・・ナイヨ・・・・・ナイヨ・・・・・』


『NaNaNa・・・・・・コハ・・・・ルゥ・・・・・・』



サアァァアァアァァァアァァアァァァアァァアァァァァァ・・・・・・・・!!!!!



181 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:24:36.29 0


澄み切った空気が風の音を奏でてみせる。
どうやらその音で小春は目を覚ましたようだった。

「う・・・・・ぅ・・・・・・」

身体中が痛い。
ここはどこだ・・・・・土の香りが鼻をつく。

中庭・・・・・・か?

身体を起こそうとする腕に力が入らない。
よく見ると、右手はヒビだらけだった。
いや右手だけじゃない・・・・・身体中、骨の髄まで至る所にヒビが入っているみたいだ。
動くと身体の中から何か軋む音がする・・・・痛い。

「失敗・・・・・しちゃった・・・・・再・・・・・形成・・・・・」

そうだよな。
今までは成功していたけど、それはミラクルでしかなかったんだ。
本来は・・・・こうなってしまうんだ。

でも攻めないよ・・・・ビスケッツのみんな、ありがとう。

とにかく、寺田の部屋は脱出できた。
ヤツを撒いてやったんだ・・・・・!!!
たとえボロボロでも・・・・・生きてればなんとかなるッ!!!
きらりちゃんの仇だって・・・・・今はダメでも・・・・生きてさえいれば・・・・・!!!!!

だけど…ミラクル・ビスケッツが…
小春の大事なビスケッツの姿が見当たらない・・・・


182 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:27:25.76 0

『コハルタン・・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・・』
「きみは・・・・・やぁ・・・・No.6・・・・きみは残っていてくれたんだ・・・・・」
『諦メタクハねぇヨナァ〜・・・・マダ歩いて・・・・イキテェモン・・・・ナァ・・・・・』
「そうだよNo.6・・・・小春たちは歩いてくんだ・・・・だから・・・・・」
『オレハガンバルゼェ〜・・・・・だからコハルもガンバルんだ・・・・絶対ニ戻ッテクル・・・
さゆみんを連レテ・・・・・ココ・・・・ニ・・・・ヨォ・・・・・』

ビューン!!!!
小春と同じ、全身ヒビだらけのNo.6が校舎の中へと入っていく。
道重さんは・・・・・まだ学校にいるハズだ。
謝らなくちゃ・・・・・明太子スパロールのことを・・・・・

そして・・・・・寺田の本性を教えてあげなければならないッ!!!

ヤツは今頃、小春を血眼で捜しているハズだ。
すべてを知った小春を消そうと必死になっているハズだ!
でもこの場所はわかるまい・・・・ここは寺田の部屋からも遠いんだ・・・・
絶対道重さんの方が早い・・・・

そういえば道重さんは噂の『東方仗助』とは顔見知りなんだろうか?
だとしたらすごく助かるんだけどな・・・・この左腕は治せないかも知れないが、
寺田は時間が経てば腕は繋がらないけど左腕は小春のところに戻ってくるって
言っていたような気がする・・・・そうなれば治せるかもしれないッ!!
パーツがあれば治せるはずだ・・・・そうすればNo.4も・・・・・

よし、いいぞ・・・・・・希望の灯が見えてきた!!!

「道重さんは・・・・・小春が守ります・・・・希望の灯は消さないッ!!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…!!


183 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:30:40.12 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


小テストの解答欄を全部埋めて、見直しも3回ほど終えた道重さゆみは
ぼぅっと窓の外を見て考えていた。

自分自身のことと、妹的な存在である久住小春のことを。


今まで小春の姉を気取っていたさゆみだが、実家族では末っ子の
甘えん坊であり、特に姉の後ろについてその幼少時代を過ごしていた。

『お姉ちゃんはとても可愛くてケンカも強いッ!!』

近所の悪ガキにお気に入りの人形を取られ、そのドレスを皮剥ぎされそうに
なってしまった時も、姉が颯爽と現れ悪ガキをぶちのめしてくれた。
(ちなみに気の弱い兄は遠くから指をくわえて見ているだけだったが、
後日、悪ガキの報復を一身に受けていたらしい)

さゆみの姉はいつも彼女を守ってくれていた。
そのおかげなのか定かではないが、ちょっとズレた考えのさゆみを
からかったり、イジメたりする輩はほとんどいなかった。

それだけじゃない。
可愛いお洋服を見立てて買ってくれたのも姉だし、勉強を教えてくれたのも姉だ。
ただ数学(算数)だけは姉も苦手だったようで、結局赤点を取ってしまったこともあるが、
さゆみにとって大事なのは結果ではなく・・・・その姉との思い出だった。

『さゆみもお姉ちゃんのような女の子になりたいッ!!!』

姉はさゆみの自慢であり、そして・・・・誇りだった。


184 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:35:50.41 0


その姉が、いつの頃からか行方不明になった。

さゆみは絶望した・・・・・・・誇りは砕け散り、楽しかった思い出は逆に彼女の心を
冷たく締め付け、彼女をどん底へ追いやった。
親友(亀井絵里)でも、その親友が連れてきたウサギでもその傷を塞ぐことはできなかったようで、
学年が上の男子生徒に迫られたときも、つらい気持ちを紛らわそうとしてOKしようとしたこともある。

死に至る病とは絶望のことだ。
孤独が人間をフヌケにするなら、絶望は間違いなく人を殺す。
さゆみはその時期、間違いなく死んでしまっていた。


そんなとき、さゆみの前に現れたのが久住小春だったのだ・・・・


さゆみは「後輩が出来るかもしれない!」と喜んだものだが、しかし当の本人は
部活に入る意思をまったく持っておらず、非常に残念に感じたことをさゆみは覚えている。

だがどういう心境の変化なのだろうか?
ちょっと話をして帰ろうとしたところで、後輩…久住小春が目を輝かせて
走り寄ってきたのだ。
そしてそのまま演劇部に入部・・・・・さゆみにはワケがわからなかった。

いや、本当の事を言うとわかってしまったこともある。

それは小春が演劇部に入った動機が、演劇に興味があったわけでも、
ミラクルな大スターとやらになるためでもなく・・・・

自分に・・・・さゆみについてきたのだ・・・ということであった。


185 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:38:40.98 0

さゆみは人に甘えるのは好きだが甘えられるのは嫌いな人間だ。

そんな彼女でも、自分を慕ってくれる小春の存在はどういうわけか心地がよかった。
教育しているという優越感に浸っていたわけではない。

小春が可愛くてしょうがなかったのだ。

それは末っ子の甘えん坊だったさゆみが成長した瞬間であった。
きっとお姉ちゃんもさゆみに対してこういう気持ちだったのだと気付いたのだ。
強情だが、ヘラヘラとした笑顔が耐えない小春。
さゆみは“強情 + 笑顔 = 愛され上手”だということを小春から学んだ。

姉妹・・・・・
そう、姉妹である。
自分たちは姉妹同然なのだ。
それはさゆみだけではなく、もちろん小春も感じていたに違いない。

二人は本当の姉妹のようだった。
普段は深く相手の事を考えていないが、イザという時これ以上に頼りになる
パートナーはいないとお互い考えていることだろう。
そう考えているものだから、食い違いによる衝突も多かった。
思っていることをスピーカーのように話す二人だ、失言も多いに決まっている。

だからこそ二人の目的が一致した場合、二人は心強く手を取り立ち向かうし、
どちらかが倒れてしまえば途端に動揺してしまう。

さゆみには小春が必要だ。
そして・・・・・小春にもさゆみが必要だ。

(小春ちゃんに謝らなくちゃ・・・・・・このままじゃあ、さゆみヤバいの。
全ッ然!学校楽しくないの・・・・・ビビってる場合じゃあないの・・・・・)


186 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:40:56.33 0

キーンコーンカーンコーン・・・・・


テスト終了の合図が鳴り、さゆみの思考は中断された。
後ろの席に座っていた生徒が解答用紙を集めてきている。

「はっ。そういえば名前を見直していなかったのッ!」

思えば『Michosige』などと書いてしまったがためにこんな講習を
受けなくてはならなくなったのだ。
確認してみる・・・・・しばらくして、さゆみは安堵の息をついた。
どうやら今回はちゃんと名前を書けていたようだ。

「おーい、さゆ!帰ろうぜ〜ッ!!今日は何の日か知ってる?」
「11月11日だから・・・ポッキーの日?」
「ぶッ!ちげーよ・・・・れいなの誕生日だろぉ〜?これから亀井も呼んで
3人で割り勘してプレゼント買いに行かね?どうせ土曜日だし、ヒマだろ?」
「え…いいけど、藤本さんがれいなの誕生日を覚えてるとか意外なの」
「れいなの誕生日に関してはちょっとな。美貴の誕生日のとき・・・・
いや正確には誕生日の一ヶ月前だったんだが・・・・」
「・・・・?」

さゆみにはミキティの説明がよく理解できなかったが、
3人で割り勘というのがとても彼女らしい提案だと思った。

「とにかくいろいろあったんだよッ!そうだ、小春も呼べよ。ちょうどいい…
そろそろ仲直りといこうじゃんか。まぁ、アンタからは呼びづれぇだろうから
美貴が小春に連絡とってやるよ。さゆは亀井に連絡してくれ」

「えッ!ちょっと待って!!携帯から手を離すのーッ!!!いきなり呼ばれても
どんな顔して小春ちゃんに会えばいいのか・・・・さゆみ、わからな」


187 :1:2006/11/14(火) 16:42:40.36 O









『・・・ュ・・・・・・・・ミン・・・・・・・・・』









188 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 16:45:02.99 0

「・・・・・」
「どうした?いきなり黙って・・・・小春に電話していいんだよな?」

さゆみは返事をしなかった。
それは小春に電話しようとしているミキティを見て動揺しているからではない。
誰かが彼女を呼んだ声がしたのだ…確かにさゆみは耳にした。

「さゆ?」
「シッ!!静かにするの・・・・・誰かが呼んでいるような・・・・・」

だが教室の中は彼女らだけではない。
生徒のどよめきが、さゆみの聴覚を妨害していた。


『サユ・・・・・ミ・・・・・ン・・・・・・』


「お、おいさゆ!!見ろッ!!!」

そんな中で、先に気が付いたのはミキティであった。
半開きになった教室の扉からやってきた小さな影に・・・・

それはいつものように宙を浮いておらず、ヨロヨロとした足取りであり
全身に亀裂が入った見るも無残な姿でこちらに歩み寄ってきていたのだ!!


「ミラクル・ビスケッツ・・・・・?な、なんなのその姿は・・・・小春ちゃんッ!!!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



197 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:32:11.83 0


あれから何分経っただろう。
3分?4分??。
小春の体内や脳でアドレナリンやら何やらが分泌されているからだろうか。
一秒が何十分にも何時間にも感じられた。

ああ・・・ダメだ・・・・・・もう指一本さえ動かせない。
瞼も重い・・・・何よりも、吹き抜ける風が冷たくて寒かった。
風を受けているのは身体の外側なのに、全身が内側から冷えていくようだ。
時間が・・・・経ちすぎてしまった・・・・・

そういえば今日はいつだったろう。
えぇっと・・・・2000年の11月11日・・・・土曜日だ。
あれ…11月11日って何の日だっけ。
そうだ・・・・れいな先輩の誕生日じゃあなかったか?

ハハ・・・・・れいな先輩の誕生日に、れいな先輩からもらった髪飾りを
片方なくすなんて・・・・・まるで恩をアダで返してしまったかのようだ。

申し訳・・・・・ないです・・・・・


「・・・・・・・・・・・ガフッ・・・・・」


鉄の味が口いっぱいに広がる。
お腹の穴は致命傷だな・・・・・でも、よくここまで意識を保ってられたものだ。
やっぱり小春はミラクルなんだな・・・・・


198 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:34:10.79 0

「・・・・・・・・」

もう・・・・・だめか・・・・・・
道重さんを・・・・・希望の灯を信じて・・・・・

頑張って・・・・・待ってみたけど・・・・・・・


消える・・・・・小春の『命』が・・・・・消えてい・・・・・




ジャリッ!


「・・・・・・」
いま・・・・何かが聞こえたような・・・・・



ジャリッ!ジャリッ!!


「・・・・・・・!!!」
き、聞こえる・・・・確かに聞こえるぞ!!
誰かの足音だ・・・・誰かがすぐそこまで来ているんだ!!!


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


199 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:35:22.90 0


ジャリ・・・・・ジャリ・・・・・・!!



ね、眠たがっている場合じゃあない!!

もう少し頑張るんだ・・・・・小春はミラクルなんだからもう少し頑張れるハズだッ!!
そうか・・・・・No.6が・・・・・たどり着いてくれたんだね・・・・・


道重さんを連れてきてくれたんだねッ!!


「道重さん・・・・・あぁ・・・・・道重さんッ!!」


身体中の傷の痛みもどこかへ飛んで行きそうだった。
道重さんに会えるッ!!

いま確信した・・・・・小春がこんな致命傷を負っているのに意識を保っていられたのは
ミラクルだからだとか、そういう次元の話じゃあなかったんだ・・・・


道重さんという希望がッ!!

小春を生かしてくれていたんだ!!!


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


200 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:37:52.41 0


道重さん・・・・・小春の"お姉ちゃん"!!
"お姉ちゃん"がいれば、小春はなんだって出来るんだよ!!

たまにムカッ腹がたつ時もあるけど、それは"お姉ちゃん"を
本当にすごい人だと思ってるからなんだ!!
だからしょうもないことをされると・・・・その時は呆れちゃうけど・・・・

ホントはそんな"お姉ちゃん"も大好き!!

だって、小春のことを一番理解してくれてるのは好きな男の人でも
部活の先輩でもない・・・・小春の"お姉ちゃん"だけだもん!!


小春も"お姉ちゃん"みたいな人になるんだよ!!


心に壮大なゆとりを持ったまま、夢に向かって一歩一歩あゆんでいく
"お姉ちゃん"みたいな人になるんだ!!


「道重さん・・・・・おね・・・・ぇ・・・・・ちゃ・・・」



ジャリッ!!


足音は、そこで止まった。


201 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:39:46.06 0


「忌むべきものは『絆』や・・・・・」


それは道重さんの声ではなかった。

道重さんはこんなふざけた声色じゃあない。


「そして矛盾するようだが・・・・俺はこの世で『絆』に勝るものはないと考えている・・・・・
『友情』や『愛情』・・・・それらは突発的に生まれるものではないわな・・・・・決まった
速度でしか刻むことのない時間を経て、初めて育まれるものや・・・・・そうして生まれた
『絆』は何があろうと枯れてしまうことはあらへん・・・・・俺はそうした『絆』をも
味方につけたいんや・・・そのための『部活動』なんやからな・・・・・」


小春の中で・・・・何かがボロボロと音をたてて崩壊していく・・・・・

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・・」


「もしもコイツが敵だったと思うとゾッとするっていう表現があるなァ・・・・・?
俺にとってはそれが『絆』というわけや・・・・おまえをここで確実に誰の目にも
触れることなく完璧に仕留め、時の彼方へフッ飛ばさなければ・・・・・その『絆』を
敵に回してしまうことになるやん・・・おまえと他の連中との『絆』が強ければ強いほど…
俺がおまえを葬らなあかん義務感も強くなるんや・・・・」


道重さんという希望が小春に生命力をくれた。

そして寺田という絶望が再び小春から生命力を奪い取っていった。


202 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:42:45.14 0


「あ・・・・・・あああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」


「久住、おまえの服のスソが破れていなかったら未来は変わったかもしれんな・・・・
おまえの破れた服のスソを『シャ乱Q』で4分ほど吹っ飛ばし、それにつかまり
"時を駆け抜けて"ここまでやってきた・・・・破れたと言っても元々はおまえの
服やからな・・・・・こいつはおまえのもとへと戻っていったわけや・・・・・
なるほど、こんなところへ辿りついていたとは・・・・・侮れんわ」


寺田の手のひらからポトッと血に塗れた白いニットの切れ端が落ちる。


「シビアな博打やったで・・・・・・もし、俺がこの時間に辿りつくまでの間におまえが
誰かに助けられとったら・・・・・俺は思いッきしそいつの前にも姿を現してしまうことに
なっとったんや・・・・そいつも始末せなアカンことになっていたやろなァ・・・・・」


ヴィーン・・・・・・

シャ乱Qの右腕が発光を始めたようだった。


「見えるか?久住よ・・・・・この『シャ乱Q』の"時を駆け抜ける"ほどの
エネルギーを帯びた光のビジョンが…おまえを殺したのが俺だとバレたらみんなが
黙っておらんやろうなぁ…道重師匠あたりは特にな・・・・だがその心配はあらへん。
久住・・・・おまえさえ・・・・・・消えていなくなってくれればな!!!」


203 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:45:06.44 0


演劇部の顧問・・・・・寺田光男。
この男を・・・・・・このままにしておいてはいけない・・・・・・

こんなうすら汚らわしい男を・・・・自分勝手な正義のために、
人を殺すことになっても何もためらいを感じない悪魔を・・・・


平和な町・・・・・杜王町においておくなんて決して許されることじゃあないッ!!!


小春が・・・・寺田の本性を暴いたんだ・・・・・
正義という名の悪をつきとめたんだ・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・み・・・・・・」

お・・・・・教えなくちゃ・・・・・道重さんに・・・・・・・



「準備は整ったで・・・・・・ほな、何年も先へ吹っ飛ばしたるわ・・・・・向こうで死ね。
Bye Byeありがとう…さようなら・・・・・愛しい教え子よーッ!!!!」



「み・・・・・道重さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!!!!!!」


ゴシャッ!!!!!!!

バリバリバリバリバリ・・・・・・ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:47:31.80 0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅する生徒が賑わう中、それとは対照的にさゆみとミキティは固まっている。
まるで二人だけ違う空間に置かれたかのように静まり返っていた。
ゆっくりとボロボロのビスケッツが近寄ってくる。

『ア・・・・・・ゥ・・・・・・』

「なんだ・・・・その姿は・・・・・・おまえ"No.6"かッ!?他のビスケッツの
連中はどうしたんだ!?」

ミキティはあたりを見回すが、他にビスケッツの姿は見当たらない。

「一人で・・・・・きたっつーのか?まさか・・・・・」
「小春ちゃんはッ!?ビスケッツ!!小春ちゃんはどこなの!!?」


『・・・・・・・・・明太子スパロール・・・・・・』


「・・・・・・え?」

ビスケッツが場違いな単語を口にした。
だが二人が拍子抜けすることはない・・・・・なぜなら・・・・・・


『・・・・・・・ゴメンナサイ・・・・・・』


その声色は・・・・・小春の声、そのものに変わっていたからだ!!
それを見て、さゆみも、第三者であるミキティも言葉が出ない。


205 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:49:50.69 0




『ミチ・・・・シゲサ・・・・ン・・・・ダイ・・・・・・ス・・・キ・・・・・・オネェ・・・・チャ・・・・』



「え・・・・・・・?」


バリバリバリバリバリバリ・・・・・・・


ビスケッツに入っていた亀裂が、さらに深く刻み込まれていく・・・・・
亀裂からは鮮血が噴き出し、その声も小さくなる。
そして・・・・・


『ンッ!!』

バカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!


「ッ!!?」

ビスケッツは・・・・・・二人の前で砕け散り、目の前からいなくなった。



シュウゥゥゥウゥウゥゥウゥウゥゥゥウゥゥウゥゥゥゥゥウゥゥウゥゥゥゥゥ…


206 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/14(火) 20:51:35.40 0


「こ!?」
「小春ちゃんンンンッ!!?」


さゆみは廊下へ飛び出した。
辺りには小春がいたような気配はない。


「いっ・・・・・異常なの・・・・ビスケッツが弱ってバリバリ血を流して消えるなんて・・・・
普通の『スタンド』の『消え方』じゃあないのッ!!あ・・・あぁ・・・・・小春ちゃん・・・・
いったい何が・・・・・・いや・・・・まさか・・・・」


その場でガクガク震えながら、あらぬことを想像し爪を噛み始めたさゆみをよそに、
ミキティは奇妙なモノを発見し、それに注目していた。


「・・・・・・」

ミキティはそれを拾う。
これは・・・・・ボタンだ。ジャケットか何かのボタンだろうか・・・・


「さゆ・・・・・見ろよ。このボタンを・・・・・」

「ボタンがなんなの!?そんなものより小春ちゃんを早く探すのッ!!!」

「取り乱してンじゃあねぇーッ!!こいつは・・・・・今ビスケッツが消える前に
落としていったんだ・・・・・このボタン・・・・見覚えがある…なんだっけか・・・・」


207 :1:2006/11/14(火) 21:04:18.06 O


ミキティはどうしてボタンなどに見覚えがあったのだろう。
なぜなら、そのボタンが珍しい形をしていたからだ。
それは『♂』のマークにデザインされた、銀色のボタンであった。


「ビスケッツが・・・・・落としていったの?」

「あいつはNo.6だったろ・・・・きっと消える直前に再形成したんだ・・・・・
これは・・・・なんだ?No.6は何を伝えに来たんだ・・・・・?」


ドギュン!!

ミキティの背後に銀色のビジョンが現れる。
彼女のスタンド『ブギートレイン03』だ!!!


「ちッ…モタモタしてらんねぇよな・・・・・『満月の流法』ッ!!!」


ズギュウーン!!!グオゥウウウ・・・・・・・・


208 :1:2006/11/14(火) 21:12:24.09 O


ブギートレイン03が問題のボタンに触れる。
すると…ボタンは勝手に低空飛行でヨロヨロと廊下を進み始めた。


「藤本さん・・・・・・・これは・・・・・・?」



「ボタンの“時”を五分ほどリアルタイムで巻き“戻す”・・・・・何も知らないヤツから
見たらトコトン奇妙な光景だけど・・・・・とにかくあのボタンを追うぜッ!!あのボタンの
行き先がNo.6の元いた場所・・・・・もしかしたらそこに小春がいるかもしれねェッ!!!」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・!!!


243 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 04:59:59.23 0


ボタンはゆっくりとどこへ戻っていくのだろうか…

幸い、今日学校に登校してきている生徒は英語の講習会を受けていた
者だけであったようなので、この奇妙な光景を見られずに済んではいるが・・・・

「フラフラじゃねーか・・・・・No.6のヤツ・・・・もうまともに飛ぶパワーも
残ってなかったってことなのか・・・・・?」

「小春ちゃん・・・・・うぅ・・・・小春ちゃん・・・・・」

さゆみはしきりにその名前を口にしていた。
No.6の無残な消え方からして、想像を絶するようなことが
起きてしまったのだろうか。

いや・・・・・ダメだ・・・・・

考えたくもない。
真の絶望とは・・・・考えてはいけない!!

小春がいたから今のさゆみがいるのだ。
まだ約一年ちょいの付き合いとはいえ、その『絆』は誰にも劣ることはない。
もし・・・・・その小春がいなくなってしまったら・・・・・?

さゆみは一心に願った。
この世に神様がいるのなら・・・・・


   小春ちゃんが無事でいますように。 小春ちゃんが無事でいますように。
      小春ちゃんが無事でいますように。 小春ちゃんが無事でいますように。
        小春ちゃんが無事でいますように。 小春ちゃんが無事でいますように。


244 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:07:26.66 0


「ボタンが校舎の外へ出て行ったぞ・・・・・小春のヤツ・・・・・どこにいるんだ・・・・・ッ」

ビスケッツは・・・・消える前にさゆみのことを『ダイスキ』と言った。
それはさゆみだって同じことなのだ。
明太子スパロールなんかとはワケが違う。

「小春ちゃん・・・・・小春ちゃん・・・・・・っ!!!」

これ以上、大切な人を失ったら・・・・・彼女はどうなってしまうのだろう?


ボタンは外壁を縫うように曲がる・・・・・
そこを曲がると・・・・・

「中庭じゃんか・・・・・・?」

ミキティたちがたどり着いたのは学校の中庭であった。
だが人がいるような気配はない。

ポトッ・・・・・

ボタンは学校の塀際にある、季節のせいか花が咲いていない花壇の上に落ちた。
いや・・・・よく見ればとても小さなオレンジ色の花が7つ咲いているではないか。

「五分経っちまった・・・・・これ以上の追跡は美貴の能力じゃあできねェ・・・くそッ」

ミキティとさゆみは花壇に落ちたボタンに近付く。
小春はどこへ行ったのか・・・・ここまでくるのに五分かかっているから、
もしかしたらどこかへ移動したのかもしれない。
探せばまだ近くにいるかも・・・・・そんな淡い期待は花壇に近付いてから砕けた。


245 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:13:21.26 0

「な、なんだ・・・・・・この黒い液体は・・・・・ッ」

ミキティは、そっと液体に触れる・・・・指が赤く塗れた。
これは・・・・黒い液体などではないッ!!!

「血だ・・・・・これは・・・・・人間の血だッ!!!」
「血?・・・・・・いったい誰の・・・・・誰の血なの・・・・・・ッ」

さゆみもまた、花壇の側でヒザをついた。
花壇にできた大きな血溜まりを、土が吸っている。

「やなのやなの・・・・さゆみやなの・・・・・・ちょっと待っ」


ドシャッ!!!!!!

「おひッ」

突然、さゆみの顔に何か液体がかかった。
咄嗟に手でそれを拭うと・・・・・彼女の白い手に、何かが赤く伸びている。
なに?なにが顔にかかったの?・・・・さゆみは混乱するしかない。

「こ、これはッ!!!!!!!!」

だがミキティは今し方花壇の上に落ちたものを見て驚愕の声をあげた。
なんということだ・・・・・これは・・・・・

「人間の・・・・・手じゃあねえのかああああああああああーッ!!?」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・!!!


246 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:19:50.82 0

砂埃と血飛沫を巻き上げ、人間の手がいきなり花壇の上に落ちたッ!!
なんなのだ!?この手はいったいなんなのだ!!?
手の切り口は斬られたとも、千切られたとも言いがたく・・・形容しづらいものであった。

ミキティは空を見上げる・・・・窓が開けられた形跡はない。
誰かが窓からコレを落としてきたわけではないようだ。

「誰の・・・・・手なの・・・・・?この・・・・・左腕は・・・・いったいどこから・・・・」

華奢な腕だった。
綺麗な手をしている・・・・・まだ小さくて、幼い手だ。

「おい、さゆ・・・・・この手が腕につけているものはなんだ・・・・?髪飾り・・・?」

左腕は、手首に髪飾りを通していた!!
この髪飾りは・・・・・ミキティは知っている!!!
血で汚れてはいるが・・・・この緑色の髪飾りを目にしたことがあるッ!!!

「こりゃあ・・・・れいなの髪飾りじゃあねーのか・・・・・?」

二人の間に緊張が走る・・・・・

     ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 

「・・・・・・っ!!」
そして、さゆみは思い出してしまった。

あの日・・・・・最後に小春と会話した日のことを・・・・・
どうして指令のことを自分に教えてくれないのかと、小春に抗議したあの日・・・

小春ちゃんは、この髪飾りを頭につけていなかったか!?


247 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:24:22.05 0

「待てよ・・・・・前にれいなが言ってたぞ・・・・・髪飾りを・・・・・小春にあげたって・・・・
昔よくつけていた緑のやつをあげたって・・・・・ま、まさか・・・・・!!!」

サアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ・・・・・


「うっ」

風が吹いた。
花壇の砂埃を巻き上げ、空へと昇っていく。
思わず空へと顔を背けたミキティは・・・・・
空に巻きあがっていくその砂埃の中に、不思議なものを見た。

「・・・・・・・・!?」

それは錯覚だったのだろうか?
それとも小春の魂だったのだろうか?

『・・・・・・・・』

今となってはわからないが・・・・

砂埃で象られた小春の姿はさゆみを優しく見つめ・・・・・・


「こ・・・・・・・小春うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!!!!!!!!!」


ミキティの声と共に、やがて風に吹かれて・・・・・・消えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


248 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:29:02.66 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


可哀想なオレンジ色の花はもうすぐ側にある。
みんなは歩みを進めていく。

私は・・・・・

ここでとまろう。
この可哀想な花を踏み潰すよりは。

私が止まると両手を握る力が緩んできた。

え・・・・・ちょっと待って下さい。
藤本さんも・・・・それに・・・・道重さんも・・・・・・

どうして手を離そうとするんですか?

待ってくださいよぉ・・・・小春もすぐ行きますから・・・・・待ってください・・・・・

いや・・・・・違う・・・・
手を離そうとしていたのは藤本さんでも道重さんでもない・・・・

私だったんだ・・・手を離そうとしていたのは・・・・・・二人は握っていてくれたのに・・・

二人の手が私の手から離れていく・・・・・


とうとう私は・・・・・歩くのをやめてしまったんだ。


249 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:32:35.02 0


『小春ちゃん・・・・小春ちゃん・・・・・』


だれ?足をとめてしまった私なんかを呼ぶのは・・・・


『小春ちゃん・・・・』

あぁ・・・・きらりちゃんだぁ・・・・・迎えに来てくれたんだね。


『小春ちゃん・・・・見て・・・・お姉さんがっ・・・・まだ小春ちゃんを求めているよっ・・・』


ホントだ。

道重さんは藤本さんと手を繋ごうとせずコチラに手を伸ばしていた。

でも・・・・・どうして道重さんは泣いているんだろう。


歩き続けていけることは・・・幸せなことなのに・・・・



キーンコーンカーンコーン・・・・


『あ・・・・ホラ・・・・鐘が鳴っているよっ・・・・・聴こえないカナ・・・・?
あの鐘が鳴ったらっ・・・・いかないといけないんだぁ・・・・小春ちゃん・・・・』


250 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:38:39.62 0


シャラーンララーラ・・・・シャラーンララーラ・・・シャランララァーラ・・・シャンララランラーラー・・・・・・


鐘の他に歌も聴こえてきたよ・・・きらりちゃん。

あれ?歌をうたっているのはもしかして・・・・・・


わぁ〜・・・・みんなも・・・・・きらりちゃんと一緒に迎えにきてくれたんだ・・・・

ありがとう・・・・ミラクル・ビスケッツのみんな。



そして・・・・大好きな道重さん。

小春は・・・・・・夢を叶えることは出来なかったけれど・・・・


あなたと過ごしたいろんな場所で・・・・・


今度も・・・また・・・・・・・楽しい時間を一緒に過ごしてください・・・・・
とっても・・・・幸せでしたあぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・



パアァァアァァァアァアァァァアァァァアァアァァアァァァァァァァァ・・・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


251 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:41:26.45 0


「うああああああっ!!!!あああああああああああーっ!!!!!」



さゆみはその『手』を抱きしめて号泣した。

制服がその血で汚れようが構うことはなかった。


「小春ちゃんは・・・・・さゆみのことを嫌っていてもおかしくなかったの・・・・・
だってさゆみが悪かったんだもの・・・・・さゆみが大人げなかったの・・・・なのに!」


「・・・・・」


「なのに小春ちゃんは最後にッ!最後の最後にさゆみの事を大好きだって!!
こんなさゆみのことをお姉ちゃんって呼んでくれたの!!藤本さあぁぁぁん・・・・
藤本さんも聞いてたでしょう?小春ちゃんは最後に・・・・・うああああああああーっ!!」


「・・・・・・・」

「うっ・・・・・うぐうぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・っ」




「あぁ・・・・・確かに聞いたよ。小春は・・・・・あんたのことを慕っていたよ・・・・」



252 :1:2006/11/15(水) 05:43:17.32 O


・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・





253 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/11/15(水) 05:45:32.41 0






                 久 住 小 春
 
                 ― 死 亡 ―




 

                             TO BE CONTINUED…