347 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 06:52:42.53 0


 銀色の永遠   〜 エリックかめりんは女の子に戻りたい 〜



●あなたにとって"亀井絵里"とはどんな人物ですか?

笑うとマジで可愛い子。
あの茶髪とショートヘアーにやられた。
名前に同じ『亀』がつくし、運命的だと思うんだよなぁ〜。
年下だけどね。


●あなたにとって"亀井絵里"とはどんな人物ですか?

勝負事でオレを負かした女。
あの時の気迫には恐れいった。
つーか惚れた。
ま、俺は黒髪ロングだった頃の方が好みだけどよー。



348 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 06:53:07.86 0


●あなたにとって"亀井絵里"とはどんな人物ですか?

康一くんの周りをちょろちょろしてる泥棒猫。
あたしにはわかるのよ。
だってあいつから泥棒猫のにおいがプンプンにおって来ますもの!!
いけない、また眼輪筋がピグついてきたわ。


●…それでは、あなたにとって"亀井絵里"とはどんな人物ですか?

親友かなぁ。
それ以上でも、それ以下でもないと思うの。




           − ご協力、ありがとうございました −




349 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 06:55:16.94 0


「はぁ〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


茶髪の少女はひどく重たい溜息をはいた。

彼女の名前は亀井絵里。
最近、高等部の2年生に進級したばかりだ。


「はあぁ〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


今日だけで何度目の溜息であろう。
演劇部の部室の隅で、絵里はひたすら溜息をはき続けた。
どんよりとしたその空気は部室内に充満しており、部室にいる他の部員達は
肩に重苦しい何かを感じ始めている。


あいつよォ〜何かあったのか?
こんこんは何も知らないです。
なんだか話かけづれーなァ、oi。


そんな会話が耳に入ってくるが、意に介しているほど心に余裕はなかった。


350 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 06:56:58.51 0


絵里が落ち込んでいるわけは、至って単純(シンプル)なことだ。

好きな人にショッキングな言葉をぶつけられた、ただそれだけである。

恋をするものなら、避けては通れぬ難関な関門であろう。
彼女の場合、その相手側も女の子というイレギュラーがあるが。


まず最初に言われたのが『くっつきすぎじゃない?』だった。
この時は、まだ何とも思っていなかった。

次に言われたのが『なんでそんなにベタベタしてくるの?』だった。
その時も、事の重大さには気付いていなかった。
そもそも、ベタベタすること自体、不自然なことではなかったからだ。
女の子同士なのだから。

だが、それからさらに言われたことに、絵里は我が耳を疑った。



351 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 06:57:56.24 0









                『 鳥肌たってきたの 』










352 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:00:31.02 0

・・・・・・。

鳥肌である。
恐れや寒さのため、毛を毟ったあとの鳥のようにボツボツできるアレだ。
いったい、向こうはどちらの意味を込めて言ったのか?
ちなみに今日の気温は13度。
最近まで冬の寒さに打ちひしがれていた人々にとっては、暑いぐらいの気候だ。
小春日和というやつか。
そうすると、『鳥肌』のその意味は必然的に前者・・・・と、いうことになる。

ちょっと待ってよ。

さすがの絵里も、それには抗議した。
なぜ鳥肌を立てる必要があるんだ?
さゆはどちらかと言うと自らベタベタくっつきにいくタイプじゃないか。
僕以外にも、小春ちゃんや、れいなにだって。

すると、絵里の好きな女の子・・・・・道重さゆみはこう述べた。


『さゆみ、甘えるのは好きだけど甘えられるのは嫌いなの』

さらに、こうも言った。

『ってか、ぶっちゃけ絵里のスキンシップは異常』

そしてトドメの一撃。


『なんか、キモいよ』


353 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:03:40.36 0


「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜・・・・・・・・・・・・・」


以上が、今も止まらぬ溜息の理由である。
もはや部活などしている気力も起きない。
かといって、椅子から立ち上がる気力も起きなかった。
自分の重い溜息が、彼女をしっかりと押さえつけて離さないのだ。


「かめちゃん、さっきからどんよりしているのれす。どーかしたのれすか?」


誰もがその重たい雰囲気に関わろうとしない中、前髪バッチリの高等部一年、
辻希美が勇敢にも立ち向かっていった。
いや、なにも考えていないだけかも知れないが・・・・

高等部一年ではあるが、諸事情により留年しただけで、
実際は絵里と同い年らしい。


「のんちゃん、僕に敬語なんか使わないで下さいよ・・・・・・」

「かめの方こそ」

「いやのんつぁんの方こそ」

「で、どうしたのれすか?」


辻希美は舌っ足らずな口調で訊いた。


354 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:05:55.48 0


「よかったらのんに相談するのれす。ホラ、そんな眉間にシワ寄せてないで。
『暗い美人より明るいブス』の方がマシなのれすよ。『女の青春』は」

「ちょ、遠まわしにひどい事言ってないッ??」

「ん?かめのことをブスって言ってるんじゃあないれすよ。いくら顔がよくても、
今のかめみたいにドンヨリしてちゃあ、いくら美人でも錆びた宝石なのれす」


いまいち何を言わんとしているのかわからなかったが、少なくとも
悪意はないことはしっかりと伝わってきた。
そんな辻希美が、同い年で演劇部では先輩にあたるハズなのに、
なぜか年下のような印象を受けるから奇妙だ。


「で、なんかあったのれすか?」

「・・・・・・うん、まぁそうですね。『女の青春』ってヤツかなぁ」

「『恋』れすか」


絵里は頭をかきながら頷いた。
さすがに「相手は女の子」とは言わないでおいたが。


355 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:08:54.34 0


「てかさ・・・・実際ね?好きな子に振り向いてもらうにはどうすればいいのかな」


しかも相手は同性だ。
自分に恋愛感情を持たせること自体がいきなり難関なのだ。

難関ッ!!
例えるなら、250tのバイクで大型バスを牽引する以上に難関なのである。

そんな疑問を投げかける絵里に、意外にも辻希美はキッパリと言い放つ。


「人の顔には『人相』ってヤツがあるのれすよ」

「にんそう?」

「そう、人は顔の相によって運が変化するものなのれす。『愛される顔』を
持てば『愛と出会う』運勢になれるのれす」

「・・・・・?なんだか言ってることがよくわかんないんですけど・・・」

「つまりッ!!好きな人を振り向かせるには・・・・いま振り向かれていないとすれば
整形やメイクでもして変えるしか方法はないのれす。それが人相。手相みたいな
もんれすね。すべては運勢として固定されてしまっているのれす」



356 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:12:17.66 0


「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・・じゃあ僕にはどうすることもできないの?」

「いくら絶世の美女でも必ずしも幸せとは限らないれすからね・・・・そうれしょう?」

「そ、そんな・・・・・」

「…なーんて、いま言ったことは全部"エステティシャンだった"のんの
お姉ちゃんの受け売りれすけどねwテヘテヘwwwま、その『男の子』と
縁があったら結ばれるんじゃないれすか?」


だった、というのに引っかかりを覚えたが、敢えて聞かないでおいた。

そんなことよりも・・・・・


絵里はショックだった。

今日だけで、二度もどん底に落とされた気分だ。
整形やメイクがどうたらと言う前に、自分は女の子である。

ここをなんとかクリアーしない限り、さゆとの『縁』そのものが
生まれないんじゃあないのか?
友情止まりで終わってしまうんじゃあないのか?

しかも、その友情にも何だか亀裂が入ってきているような・・・・・



357 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/08(土) 07:14:05.14 0


絵里は自分の運命を呪う。

どうして僕は女の子なんだ。
どうして男の子として生まれてこなかったんだ。


・・・・・・男の子になりたい。


彼女が真実の幸せを手に入れるには、もはやそれ以外方法が残されて
いないような気がしてならなかった。
もし自分が男の子だったら、きっと何もかもうまくいってる。


さゆと、真の意味で一緒になれている・・・・・・!!!


絵里は心からそう思っていた。

少なくとも、女の子であったこの時までは。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


29 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:41:46.25 0


パシャッ!パシャッ! ボチャン!!!


絵里の投げた小石は水面を2回跳ねたあと池の中に沈んだ。

ここはぶどうヶ丘高校の近くに位置する大きな池だ。
何もしないで部室にいることに疲れを感じた彼女は、重い腰を上げて
この池に来たのだった。


とにかく、気分を変えたかった。


部室にいると胸がキュン!キュンッ!!と絶えず唸り声をあげるのだ。

それは彼女の胸の中にある心の痛み。
絵里は間違いなく恋する乙女だった。

しかも、その相手もまた乙女なのだからたまったものではない。


「チェッ!!」


どこにもぶつけようのない腹立たしさを拾った小石に込めると、
絵里は力強く水面を切らせるように投げ放つ!!



30 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:43:12.42 0


パシュッ! ボチャン・・・・・


力のこもり過ぎた小石は、水を切り続けることなく池の中に飲み込まれた。
うまくいかない・・・何かコツでもあるのだろうか?


『ま、その"男の子"と縁があったら結ばれるんじゃないれすか?』


部室で辻希美に言われた言葉が頭を過ぎる。
その男の子と縁があったら。

男の子。


「くそッ!!」


彼女にしては、珍しく汚い言葉を吐く。
今の絵里には唇を噛んでこらえる事ぐらいしか出来ないのだ。

「どーすりゃいいんだよぅ」

あまりに強い腹立たしさからか、思わず弱い独り言が漏れた。

自分が女の子じゃなければこんな想いをせずに済んだのに。
そうだよ、自分が男の子だったら・・・・・

そんなことを考えながら無意識に次の小石選んでいた、その時だった。


31 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:45:18.26 0

 パシャッ! パシャッ! パシャッ! パシャッ! ポチャン・・・


水を切る軽やかな音が、絵里の耳に入った。
四回・・・・四回だ。
四回、石が水を切ったのだ。
もちろん投げたのは絵里ではない。

「水切りか・・・・・・ぼくも昔よくやったもんだよ」

「す、すごいなぁ・・・でも、あなた誰ですか?」

絵里はいつの間にか隣に立っていた青年に疑問を抱いた。
彼のヘソを出したファッションセンスもそうだが、気になったのはその髪形だ。
ギザギザのヘアバンドをしている・・・・んだろうか?
なんにせよ、絵里はその青年を見て『オシャレだな』と思った。


「きみ、ぶどうヶ丘高校の生徒?」

「え・・・・・・まぁ…そうですけど」

「そうか。いや、訊かなくてもわかってはいたんだけどね。制服でわかるし。
アレだよ、訊いてみたのは俗に言う『保険』ってやつさ」

「・・・・・僕になんか用ですか?」


新手のナンパ師か何かか?
絵里は青年に不信感を抱き、低い声で訊いた。


32 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:47:39.74 0


「ああ、たずねたいことはあるんだけれど・・・・・それよりちょっと気になったことが
あるから、まずはそれからにしよう。きみ、なんで水切りなんかしていたんだい?」

「え・・・・別になんだっていいじゃないですか」

「深い意味はなくたっていいんだ。"女の子"が"男の子"みたいな
遊びを一人でしてることが気になっただけだからね。一体どういう気持ちで
水切りなんかしていたのか・・・・参考までに教えてくれよ」

「!!!」

青年のセリフに絵里は震撼する。
"女の子"が"男の子"みたいな・・・・・
彼女は言われて改めて実感した。

やはり自分は女の子なのだ・・・・と。


「・・・・・何を黙ってるんだ?なんか悪いことでも言った?」

「いえ・・・・やっぱり現実はそうなんだなぁって・・・・・その、単にイライラしてた
だけなんです。水切りしてたのに、特に意味なんてないです」

「現実?まぁいいや。女の子はイライラすると水切りをして遊ぶこともある・・・
なんだか微妙だな。あまりマンガのネタには出来そうにない。使えないね」

青年の言っている意味はよくわからないが、そのセリフを言われて
あまりいい気はしなかった。


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:50:15.57 0


「で、用ってなんなんです?」

「ああ、それなんだが・・・・・おいおい、そう眉間にシワを寄せないでくれよ。
大したことじゃあない。訊きたいのはきみの学校のことでね」

「学校のこと・・・・・ですか?」

「そう。細かく言えば、ぶどうヶ丘高校の『演劇部』に関してなんだが」

「・・・・・・・!!!!!」


絵里は目を丸くした。
ぶどうヶ丘高校の『演劇部』・・・・見ず知らずの青年の口から
その単語が出てきたことに驚き、そして警戒したのだ。

「・・・・・・どうしたんだい?」

「い、いや・・・・なんでもないです・・・・」

この青年は何者だろうか。
なぜ、演劇部のことを僕に・・・・・?
そして絵里は一つの答えにたどり着く。
演劇部のことを訊いてくるなんて、まさか・・・・・・


新手のスタンド使いか!?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


34 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:52:42.56 0


そんな絵里にはお構いなしに、青年はさらに質問を投げかけてきた。

「ぶどうヶ丘高校の『演劇部』っていうのはどんな部活なんだい?
どんな活動をしていて、どれだけの部員がいるのか・・・・・」

「な、なんでそんなことを・・・・?」

「理由なんてどうでもいいだろ?質問してるのはこっちなんだ。
きみ、友達で『演劇部』に所属してる人とかいない?」

絵里は青年のそのセリフに引っかかりを覚えた。
彼は自分に対して『演劇部に友達がいるか』と訊いている。
それは、絵里の事を『演劇部の人間』だと知っていたらあり得ないセリフであった。
つまり青年は彼女が『演劇部の人間』だということを知らないという証明である。

では、この青年は一体なにを・・・・


「そんなこと訊いてどうするんですか・・・?」

「学習能力ないね!!テストの答案用紙に質問書いたところでマルなんて
もらえやしないんだぜ?きみはぼくの質問に答えてればいいんだよ」


ビクッ!!!

青年はいきなり声を張り上げると、絵里を罵倒した。
なんで初対面の人間に、いきなり怒鳴られているんだろう?
道重さゆみのことも重ねて、ホントに今日はツイていない。


35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:55:30.06 0


「で、どうなんだよ」

「そ・・・・それは・・・・・・・」

「それは?」

「・・・・・・・」


妙に絡んでくるな・・・・絵里はそう思った。
理由はわからないが、とにかく目の前にいる青年が演劇部のことを
探ろうとしているのは間違いない。
不信感は高まるばかりだ。
そんな相手に、演劇部のことなど話せるわけがなかった。


何も知りません。


その一言を口にしようとした、まさにその時だ。



「すぐに答えられないみたいだね。きみはいま、僕に激しい不信感を
抱いていると見た。それは何故か?きみの友達が演劇部に関係が
あるからか・・・あるいはきみ自身が演劇部と関係があるからか・・・・・」


36 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:57:17.18 0


ドキッ!!!!!


「な・・・・ッ!!そ、そんなことは・・・・僕は演劇部なんてッ!!」

「知らないっていうのかい?それなら何故初めからそう言わないんだ?
額に汗がにじんでるぜ・・・・何を焦っている?」

「な、なんなんですか!あなたはァーッ!!僕は何も知りません・・・・・
知らないんだ!!質問には答えましたよ!!!」


すごく嫌な気分だった。
心の中を舐めるようにして読まれているような感覚に、
絵里は激しい嫌悪感を覚えた。


37 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 07:58:12.88 0


この青年と関わりあいになるのはまずい。


絵里の第六感がそう教えた。

部室へ戻ろう。

戻ってこの不審者の事をみんなに伝えなくては!!



「まぁ、本当のことを言わないならそれでもいいんだけどね。元より、
ぼくと会話したことはすべて『忘れさせる』つもりだった・・・」

「・・・・・え?」


「ヘブンズ・ドアァァァァァァァァァァーッ!!!!!!!」



ズキュウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!・・・・・・・バカァッ


38 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 08:00:03.99 0


 なになに・・・・・こいつの名は・・・・『亀井絵里』・・・・S市に住んでる16歳か…

 男の子になりたい?男の子に生まれたかった?
 なんだか変わってるヤツだ。女の子のクセに女の子が好きなのか。
 なんというか・・・・人はみな、妙な悩みをもっているもんなんだな。
 どれ、面白そうだから少し協力してやるよ。   ズキュン

 同級生の由花子さんがちょっと怖い。
 フーン!!世間って狭いんだな。

 スタンドは・・・・・あったあった。
 3タイプの姿を持つ『サイレント・エリーゼ』。
 やはりこいつ、演劇部員だったか・・・・演劇部そのものは大好きらしいが
 争いごとはかなり好まない性格らしい。

 ・・・・こんな程度しかないのか。ホントに使えないな。

 スタンドは・・・・・・ボロボロにしてやってもいいが、康一くんの
 友達みたいだし、ヘタなことをしてぼくのことがバレたら面倒だ。

 でも念のため、この岸部露伴には攻撃できないと書いておこう。

 しかしムカつくな。
 康一くん、なんだか裏切られた気分だぜ。

 まぁいい・・・・今起きたことは、すべて忘れる・・・・・・と。


ズギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!


39 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 08:03:30.79 0


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・




「・・・・・じゃあ水切り頑張りなよ」

「はい!!なるべく平べったい石を使うんですね!!」


青年は軽く水切りのポイントを教えると、用が済んだのか
絵里に背を向けた。



40 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/19(水) 08:05:27.72 0


「ああーっと!そうそう、一つ忘れていたよ」

「はい?」

「昔の上流階級の女性は『水だらい』という洗面器に水をためて、
それを鏡の代わりにして化粧をしていたそうだ。この習慣からか、水には
女の子をリラックスさせる効果があるらしい。つまり最高のデートスポットと
言えるね、この大きな池は」

「え?」

「好きな子をここに誘うといい・・・・・あと杜王港とかもいいんじゃない?
もしかしたらいい感じになれるかも知れないぜ?それじゃあ・・・・・」


そう言うと、青年は今度こそ絵里に背を向けてその場を去っていった。


それにしても奇妙な青年だった。
通りがかりに、ただ水切りのコツを教えてくれただけだったのだから・・・・

と、絵里は思っていた。


この瞬間を境にして、亀井絵里の歯車は大きく狂い始める。



ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


236 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 17:55:15.55 0


「ふわぁ」


朝、ぞろぞろと通学しているぶどうヶ丘高校・中学の生徒の中に混じって、
どうどうと大きなアクビをかましている者がいた。
そんな彼女もまた、ぶどうヶ丘高校の生徒である。

「髪型決まんない〜そんな日はBlue&Blue〜♪」

自作の歌を口ずさみながら、彼女は後頭部のイビツに跳ねた寝癖を手グシで
何度も何度も整えていた。


彼女の名前は藤本美貴。

そう、我らが英雄(ヒーロー)ミキティである!!


先日、ひょんなことから愛車の自転車『シルバー・チャリ・乙』を
パンクさせてしまったミキティは徒歩での通学を強いられてしまったのだ。
だったらパンクした自転車を直せという話だが、バイトもせずに小遣いだけで
一ヶ月をやりくりしている彼女には酷な話であった。

「そうだ!アイツに頼んで直してもらおう!!」

ミキティはナイスアイディアにその場で手をポンと叩いた。
ちなみにアイツというのは学年が一つ下の男子生徒、東方仗助のことだ。
知り合った経緯に関してはいろいろとややこしい事情があったが、
今は『知り合い』程度に落ち着いていた。



237 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 17:57:47.34 0


「でも美貴が直接頼みにいくのもアレだしなぁ。亀にでも頼んで伝言して…おッ?」

ミキティは眠気の覚めかけている目を擦って前方を歩いている
女子生徒の姿を凝視する。
ショートカットの、メリハリのある体系…間違いない、後輩であり友人の亀井絵里だ。

「ラッキー♪なんだか都合いいじゃん。おい亀ッ!!」

小走りで駆け寄ると、ミキティは絵里の肩に手を置く…
その時、奇妙な違和感に襲われた。

(・・・?コイツ、こんなガッチリしてたっけ??)

まぁ些細なことであろう。
起きてからまだ時間も経っていないのだ。
気のせいか…ミキティはそう思った。
そして振り向いた絵里は…

「あ、おはよーッス。藤本さん」

と、爽やかに言って見せた。
しかしなんだろうか、ミキティはまたも違和感を受けていた。
前よりも、昨日よりも、顔つきがキッと引き締っているような…


「・・・・?」

「藤本さん?」

「あ、おお。おはよ」


238 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 17:59:54.44 0


絵里を頭頂からつま先まで舐めるように見ながら、ミキティは思う。

おっかしいなぁ〜。
目の前にいるコイツは確かにいつもの亀なのに、なんだか別人みてーだ。


「…僕、なんか変かな?そんなジーッと見られると、困っちゃうなぁ」

「あ、いや・・・・・・お前よー、チャリ通はやめたのかよ。いつも乗ってる
あのマウンテンバイク、パンクでもしたのか?」

「チャリ通?何言ってんですか。僕にはこの親から授かった足がありますからね。
必要ないんだ。徒歩万歳ッ!!運動って素晴らしい!!!」

「それ以上足太くしたいのかよ。丸太みてーになるよ」

「いいことじゃあないですか。まぁこうして毎日家から学校まで
往復していればとてつもない脚力が身につくんだろうなぁ」

「ちょッ!!家からって、オメーS市から歩いてきたのかよッ!!!」

「え、おかしいですか?」


絵里は表情をまったく崩さずミキティに引き締った顔を向けている。
その後も絵里は『脚力つけたい』『いざって時にスタミナがないと困る』など、
いくら元陸上部と言えどあまり女の子らしいとは思えない発言を繰り返していた。


239 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:05:05.88 0

そして校門のあたりに差し掛かった頃、絵里の信じられない行動に
ミキティは叫ばずにはいられなくなった。

「な、なにやってんだオメェエエエエエエエッ!!!!!」

それでもまったく変わらぬ涼しい顔で、絵里は表情を崩すミキティを眺める。
自らのスカートの中に右手を突っ込みながら。

「ちょっ…ちょっとお前!!指でどこさわってんだよォォォーッ!!!」

絵里は言われるまま自分の右手の在りかを確認する。
徐々に彼女の顔が紅潮していくのがミキティにもハッキリわかった。

「あっ・・・・・ごっ!誤解しないでよッ!!別に触ってたんじゃあないんだ!!
ゴムのところが痒かったんだッ!!!変な意味なんてこれっぽっちもないんだッ!!!
いやホント申し訳ない!!!」

「わかったから大声出すのはやめろッ!!こっちまで恥ずかしくなってくるッ!!!
み、みんな見てんよ…」

「は、初めに大声出したのは藤本さんじゃあないか…うぅ…どうして僕は
こんなお尻が上がってるように見せるパンツなんかはいてるんだ…ッ」

だから締め付けられて痒いんだ…と、絵里は複雑な表情で呟くと、
ミキティをその場に残し逃げ出すように校舎へと駆けていってしまった。

友人、亀井絵里の奇妙な行動と言動。
おかげでミキティは、東方仗助への伝言を頼むのを忘れた。


ドォーン!!!!


240 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:08:16.78 0


その日の絵里の奇人変人っぷりはこれだけでは収まらなかった。


休み時間のことだ。
綺麗で整った顔立ちの男子生徒が二人、小便器の前で用をたしている。
赤西仁と亀梨和也である。
そう、連れションというやつだ。
二人は珍しく女子トイレの外にまで続いていた列を見て『自分は男でよかった』と
心から感謝していた。


「そうそう亀梨。バイト代、溜まりに溜まったからよォ〜ついに買っちまったよ」

「なにを?」

「これ」

「うおぉ、なんだよその腕時計。ヴェルサーチ?いいなぁ、居酒屋のバイトって
稼げる??つーかションベンしながら見せてくるのもアレだと思うけど。汚れるよ?」

「やべー稼げるよ。労働基準法にドロップキックかまして23時までは働かされるし。
高校生なのにな。まぁその分こうしてオイシイ思いも出来るからなァ。汚れねーよ」


他愛もない会話を繰り広げる二人の気は緩みきっていた。
加えて、他の男子にソレを"見られる"ことをあまりいとわしく思わない
彼らの性格が、さらなる不幸を呼ぶことになろうとは。


241 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:09:19.51 0


蛇口の勢いも弱まり始めた、その時であった。

トイレの外で並んでいるであろう、何人かの女子生徒がザワザワと
騒ぎ出すのが聞こえたのだ。
何かあったのか?ふと、トイレの入り口の方へと顔を向けると・・・・・・


「あ〜、漏れる漏れるッ!」


頭をかきながら、小走りで登場したボーイッシュな雰囲気を醸し出す
女子生徒が当然のように男子トイレに入ってきたのだ。
言うまでもない、亀井絵里だ。

「トイレトイレ!!」

「うおぉッ!!!!!!」

「な・・・なんだこの野郎はァーッ!!」


年頃の女の子を前に、年頃の男の子が隠すものはただ一つだ。
二人は便器にピッタリとくっついて、大切なものを隠すことしか出来ない。
絵里が個室のトイレに入ったのを見て、二人は呆然とした。


242 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:11:09.31 0


バタム!!ジャー…

いや、呆然とするしかなかった。
水の流れる音が止むより早く個室のドアを開けた絵里は、さらに信じられない
暴言を吐く。


「うわぁ!!なんでキミたちがここにッ!!?信じらんない!!!」

「し…信じられねーのはどっちだぁッ!!てめー変態趣味になったか!!」


気の短い赤西仁は、ションベンまみれになった腕時計を見せ付けるかのように
左手を振り上げた。
まぁ気が短くなくても健康な男子なら怒るところであろう。


「赤西くんが何を言ってるんだかわかんないね!!ここは男子トイレだよッ!!!」

「テメーの方が何言ってんだかわかんねーよ!!そうだよ男子トイレだよ!!!
テメーが用をたす場所はここじゃあねェーってこたぁテメー自身もよくわかってる
みてぇだがなーッ!」

「そうさ!!男子トイ・・・・・・・・・ん?」



243 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:12:07.32 0


絵里は二人に訝しげな表情を向けた。
視界に入るズラリと並んだ小便器は、今まで御目にかかったことのないものであった。


「そんな・・・・・おかしいぞ。僕の入るべきトイレはここだったハズだ・・・・・
いや・・・・むしろそんなこと初めから思っちゃいなかったッ!!無意識だったんだ。
僕は無意識に男の子のトイレに・・・・・・う、うわあああああああああッ!!!!!」


湯気の出る勢いで朝以上に顔を紅潮させると、絵里は半ベソをかきながら
男子トイレから逃げていったのであった。

そして、亀梨和也は"見られてしまった"ことに半べそかき、
赤西仁は半べそをかきながら汚れた腕時計を水洗いしていた。


バァーン!!!!


244 :1:2006/08/22(火) 18:13:27.88 O


放課後…





245 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:17:28.50 0

「お前よォ〜…三年生の美貴たちにまで伝わってきたよ…男子便所に
堂々と入って用をたした女子生徒の噂。よっちゃんさんもぶったまげてたぜ」

「…自分でもよくわからないんだ・・・・・・今は反省してます、ハイ」

部室の隅の机に腰掛け頭を抱える絵里に、ミキティは呆れて目を細めた。
まるで怒っているように見える表情だが、声のトーンはどこか心配げだ。

「アンタがどういうヤツなのかは美貴だって何となくだけど気付いてる。
知り合ってもうすぐ一年だもんな。誰が好きだろうとも、別に何も言わねェよ。
でもな、世の中にはどーにも出来ないことってのがあんだよ」

「どーにも出来ないこと?」

「そうだよ。亀、アンタは女の子なんだ。なにをどう足掻いても男にはなれない。
アンタが何を訴えようが、男子トイレに入ろうが、周りは『亀井絵里』が
女の子だっつー認識を変えることなんてないンだよ。もう一度言う。アンタは
男にはなれない」

「・・・・・・・」

絵里は机の先を睨み、むくれた。そんなことはわかってる・・・とでも言いたげだった。
確かに男の子になりたいと願ったのは事実だ。しかし、今日の行動は
すべてそれを狙っていたものではない。無意識だったのだ。


「・・・・・・やれやれだぜ」


そんな絵里を見て、ミキティが口にすることが出来るセリフは
たったそれだけしかなかった。


246 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:19:30.95 0


押し黙ってしまったミキティと絵里に、中等部の生徒である演劇部員が
静かに寄ってきた。
黒い髪を束ねたポニーテール、年齢のわりに足が長くスタイルのいい少女。
久住小春である。


「あのぅ」


「ん、なんだよ小春。一人?相方はどうしたんだよ」

ミキティは背伸びして部室を見渡すが、相方・道重さゆみの姿は見当たらない。
もともとみんな出席率はいい方ではない部活だし、探すまでもなく不在なのは
わかっていたので、背伸びはアドリブのようなものであろう。
さすがは演劇部員である。


「藤本さんには用ないんです」

「・・・あっそ」

「…?あれ、何か怒ってますか?」

「いや別に。アンタのその無意識な暴言にももう慣れたよ…」


あなたが何を言ってるのかよくわかりません。
そんな表情を一瞬浮かべて首を傾げる小春だったが、すぐに頭の回転を
切り替えると、絵里を見つめた。


247 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:21:24.90 0


「小春ちゃん、僕に用があるの?」

「あ、ハイ。道重さんが『昨日は言い過ぎちゃったの、テヘ♪』って」

言いながら、小春は首を傾げて軽く頭にゲンコツをコツンと当てて見せた。
恐らく道重さゆみの真似をしているのだ。
彼女もまた、演劇部員であるということか。

「で、仲直りしたいから屋上来て欲しいのって言ってます!!」

「へえぇ〜マジかよ。何があったのか美貴は知らないけど、良かったなぁ〜亀」


「・・・・・・・・・」


絵里は黙っている。
何も答えない。
なにか考えているのか、それともなにも考えていないのか…それすらも、わからない。

「あの、亀井さん?小春の話聞いてます??」

「おい亀どうしたんだよ。喜ばないのか?喜ぶよなァ〜お前なら」


「・・・・・・ぃ」


「「え、なんだ(なんです)って?」」



248 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:22:44.79 0




              「 めんどくさいよ… 」






249 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 18:25:22.59 0


・・・・・・・・・・・・・・・・。

場は一瞬にして静まった。
まるで時が止まってしまったかのような、そんな形容がよく似合う。


「・・・・・おい小春、聞いたかよ」

「・・・・聞きました」

「スタンドも月までブッ飛ぶこの衝撃…なんとあの亀がさゆのお呼び出しを・・・・」

「あぁ…センチだわぁ・・・・海に行きたい」


「いやちょっと待ってよ。二人は何か勘違いしているッ」


絵里は椅子から立ち上がると、二人をしっかりと見据えた。
それは、どこかたくましさを感じさせる眼差しであった。


「そりゃあ僕だって、仲直りというかその…さゆが今まで通り接してくれる
みたいなのは嬉しいよ、うん、ホントに嬉しいです、ハイ。でも…」


「「でも?」」


255 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 19:13:35.90 0


二人に聞き返された絵里は、わざと二人から視線を逸らし、バツが悪そうに
頭をかいてこう言った。


「それでまた、この先…緊張したり、ソワソワしたり、ハラハラしたりして…
また凹む思いをするのは、正直ゴメンなんだ。好きだけどイヤだ」


「「・・・・・・・」」


「ねぇ、藤本さんも小春ちゃんも、わかんないかな?こーいう気持ち」


妙な話の展開に言葉を失ってしまった二人に対し、絵里は訊いた。
だが、ミキティも小春も『う〜ん』と低く唸るばかりだ。


「なんつーかよォ…美貴はいま恋なんかしてねーし、昔の恋とかけっこう
サッパリ忘れちまうクチだから、なんとも言えねーんだよなァ」

「コイ?これって恋の話なんですか??えッどこから?藤本さん!!」

「ちょ、シャツひっぱんじゃねーよ小春。オメーも知ってんだか知らないんだか
ハッキリしないのな。こりゃあ根本から恋の話なんだよ。なぁ、小春はどう思う?
亀の今の話をよぉ〜」



256 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 19:16:08.97 0

ミキティはアゴで小春を差すと、絵里も彼女の返答を待った。
二人の視線が小春に注がれる。

「あの・・・・」

「「・・・・・・??」」


「なんだかよくわかりませんけど・・・・その、私はミラクルな大スターであり、
演劇部のミラクルエースなんです。だから恋なんてものは・・・・・」


ガチャッ!!!

その時、部室のドアが景気よく開いた。
ジャージ姿だが、金髪の彼は何を隠そう演劇部の部長である吉澤ひとみだ。


「あ、いたいた小春。夏の舞台でやる台本の読み合わせしよーぜ。俺ら今回も
メチャクチャ絡み多いからなぁ〜なんせ《父と息子》だからな、俺と小春の役は」


    「 ハイッ!!今すぐ準備しむぁああぁぁあぁぁあぁぁすッ!!!!!!!! 」


ドダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!

彼の顔を見るなりいきなり溌剌とした声をあげた小春を見て、ミキティも絵里も
度肝を抜かれて目を丸くする。
あの小川麻琴の能力にも負けないんじゃあないかというほどの速さで、
小春は部室を出て行ってしまった。


257 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 19:18:06.70 0


「おいおいおい、何も走っていくこたぁねーだろうに・・・・ま、小春の気持ちは
これで100%わかったが・・・・」

「小春ちゃん、僕が『屋上に行かない』ってこと伝えてくれないのか…
結局行かなきゃダメってことですか、そうですか」

「…アンタ、乗り気ではないんだな」

「・・・・・・・・うーん」

絵里は自分でもこのおかしな感情に疑問を抱いていた。
あんなに追い求めていたハズなのに、どうしていきなり意気消沈してしまったのだろう。
男の子になりたいとまで思うほどだったのに。
無意識にその気持ちを諦めてしまったのだろうか。
そうなったら友情も終わってしまうのか?
バカな。
そんな浅はかな絆ではないハズなのに。
それなのに…

この、心に湧いてくる『どーでもいいですよ』という気持ちはなんだろう…


「でもよ、亀。なんで急に気持ちが変わったのかは知らねーが…考え直してみりゃあ
これは決してタマゲたことではないんじゃねーの?。オメーは女だし、さゆも女なんだ。
今までのアンタがタマゲてたんだよ…いいコトじゃねーか。アンタはやっぱり列記とした
『女の子』なんだ。全然悪いことじゃあないさ・・・・・・・・喜劇は終わったんだ」


部室を出る絵里に対し、最後にミキティはそう伝えたのだった。



258 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/22(火) 19:18:54.73 0



喜劇は終わった・・・・?





・・・・・違う!!





喜劇は始まったばかりなのだ!!!!




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



346 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 08:45:54.88 0


翌日の放課後。
ミキティは言葉を失った。

「いや〜すごい大変でしたよ。スカートの履き心地ったらもう悪いこと悪いこと。
なにも履いてないみたいだったし。お父さんが学生時代に着てたっていう
学ランが残っててホント助かったなぁ〜!!案外ピッタシなんですよコレ♪」

黒い学帽、短ラン、スラックス…のように見える真っ黒なデニム。
第二ボタンまで開けた制服の隙間からは、切り返しのオシャレな白の
デザインTシャツが覗いている。
ベルトのバックルには亀の甲羅が光っていた。

・・・・・・どう考えても、女子高生が身にまとうべき服装ではない。
それなのに、似合っているように見えるから本当に奇妙だ。


「亀・・・・オメー、今日一日中ずっとそんなカッコしてたのかよ…」

「え、なんかおかしいですか?」

「おかしいなんてもんじゃあねーだろ。その姿でこのまま部室に入ってみろ、
みんなビックリして椅子から落ちて、一斉に泡吹くぜ?」


もしかしたら、絵里と同じ学年である新垣里沙や高橋愛はすでに
この仰天する姿を見て泡を吹いたかも知れない。
ミキティには絵里が何を考えているのか、さっぱりわからなかった。
理解不能!!理解不能!!!


347 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 08:50:06.77 0

「そ、そーいやお前さ、昨日さゆに会いに屋上行ってから部室に戻ってこなかったろ。
それが何か関係してるんじゃあねーの?アイツになんか言われちまったのか??
まぁ美貴に話してみなよ、なんだかマジで心配になってきたぜ」

口の端を引きつらせながら、ミキティは絵里の肩に手を回す。
とりあえず、このわけのわからんコスプレのような格好のままで
部室に入ったらただのバカだ。
中等部の後輩達の冷たい視線を思い浮かべると、他人事のハズなのに
ミキティは放っておけなくなった。

「何って…なんもないですよ?」

「嘘つくなよ。昨日の今日でこれだろ…亀、あんた"ここ"のつくりが
おかしくなっちまったんじゃねーの?」

言いながら、空いた手でミキティは自分の頭の上で手を広げ孤を描く。
『くるくるぱー』・・・・彼女のジェスチャーはそう告げていた。

「さゆになんか言われたんだな?そーなんだな??」


「言われたも何も、僕・・・・昨日は屋上へ行ってないんです」


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「・・・・・え、待って。今なんつった?」

「だから、僕はさゆに会いに屋上へは行かなかったんだ」


348 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 08:54:24.30 0

絵里のカミングアウトに、ミキティは月までブッ飛ぶような衝撃を受ける。
こんな行動パターンは、今までの絵里にはまったく見られなかったからだ。

「ハァ!?お前なにやってんだぁ〜ッ!!バックレたのか!?嘘だろ??
オメーさゆのこと好きじゃあなかったのかよ!!?」

「ちょ、好・・・・」

ブンブン・・・!!絵里は何かを振り払うようにして頭を振り、そして続ける。

「か、勝手に決めないでよッ!!僕は一度でも藤本さんに『さゆが好き』だなんて
話した覚えはありませんけどね!!!」

「話した話してないは関係のない話なんだよッ!!見てりゃあすぐわかることだって
あるんだマヌケッ!!!人生の先輩を舐めんな!!!!」

「人生の先輩だなんて、たかだか一年じゃあないですか・・・しかも藤本さん、
早生まれだし。どーでもいいですけど、肩の手…離してくださいよ。たかだか
一年とはいえ、年上のお姉さんにくっつかれる"男"の身にもなって下さい…」

威勢が良かったかと思えば、今度はどんどんトーンダウンしていく…
まるで燃え盛っていた炎が勢いをなくして小さくなってしまったようだった。
だが、ミキティの瞳から目を逸らした絵里は意気消沈したのではなかった。
彼女は照れているのだ。
年上の女性に触れられて、絵里は照れているのだ!!


「か、亀・・・・オメー・・・・・・・!!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


349 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 08:55:46.15 0



こいつ、いったいどーなっちまったんだ?



なんで頬を染める?


照れか?照れなのか??


それはあたしに対してなのかッ!?



いいや!!そんなことよりもッ!!!




こいつ・・・・・いま自分のことを"男"だと・・・・・・!!?



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



350 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 08:58:49.53 0


バッ!!!!
反射的に絵里の肩から手を離す。

…凄く複雑な気分であった。

推測ではあったが、亀井絵里は道重さゆみに好意を持っている…と、
ミキティはずっと思っていた。
しかしそれは同性に興味があるとか、そういうものではなかったと解釈している。

以前『自分に対し"可愛い"と称賛した対象を自由に操る』スタンド使いの術中に
見事にハマッた絵里ではあるが、あれは恋情ではなかったであろう。
そう、愛情表現だ。犬や猫に対して感じるものと同系列のものだったハズだ。

ミキティは同性愛を否定しているわけではない。
だが、絵里はその類に入る人間ではないとも考えていた。

亀井絵里は、道重さゆみを一人の人間として愛している!!


そう、思っていたハズなのに…


目の前にいる絵里は!!
明らかに同性であるハズのミキティのことを、まるで憧れていた女性を
見つめるかのような眼差しを向けて照れていたッ!!!



ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


351 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:00:35.04 0


タン・・・・・・タン・・・・・タン・・・・・・・


その時、開いた口も塞がらないミキティの耳に、階段を上る軽やかな
リズムが響いてきた。

誰かが来る。

ここは演劇部の部室の前だ。
向かってくる足音は間違いなく、関係者のものであろう。

そして、こういった状況に限って神様はイタズラな巡り合わせを生むものだ。


「さ、さゆじゃあねーか…」


…なんで美貴がさゆの顔見てオドオドしなきゃなんねーんだ。
違うだろ…!!

ミキティは心の中でそんな自分に首を振った。


「あ、絵里」

「や、やぁ…さゆ、元気?」


明らかに動揺している声で、絵里は学帽のツバを傾ける。
そんな彼女にさゆみはむくれた。


352 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:03:10.87 0

「絵里ってばひどいの!昨日屋上でずーっと待ってたのに来てくれなかったし!!
それとも小春ちゃんから何も聞いてないの?」

「うーん、聞かなかったと言えない事もなかったりして…」

「なら答えは一つッ!!『じゃあ来い』の一言なの!!せっかくさゆみが
許してあげるって言ってるのに〜ッ!!!」


普段、仲のいいところばかりを見ていただけに、絵里に怒りをぶつける
さゆみの姿が、ミキティにはほんの少し大きく見えた。

きっとこの後、亀のヤツが必死に謝り倒して許してもらうんだろうな。

ミキティは、そんな展開を予想した。
彼女だけじゃない…きっと怒っているさゆみも、実はミキティの考えと
似たような展開を予想…いや、希望していたに違いない。

だから、予想外のセリフをぶつけられたとき何も言えなくなってしまうのだ。


「・・・・・・ょ?」

「え、なぁに??よく聞こえなかったの」


「うるさいよ?心からそう思う」



「「・・・・・・・・・・・・・・え??」」

353 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:07:00.55 0


さゆみだけでなく、ミキティまでもがそのセリフに我が耳を疑い、
聞き返してしまう。
予想することがまったく不可能なセリフだったのだ。

「そもそもさぁ〜、僕ってなんか悪いことしましたっけ?してませんよね??
さゆが一方的に嫌がっただけであって、むしろ傷つけられたのは僕のほうだ」

「な、何を言って・・・・・・?」

「僕は覚えてるよ、散々言われた…キモいの三文字は特にきました、ハイ。
本当に悩んだよ…辛かったんだ。そんな僕に対して『許してあげる』っていう
セリフを自信満々に吐ける図太い神経が信じられないね。立場をわきまえてよ」


「え、絵里・・・・・・ィッ!!!!!」


さゆみは雪のように白かった顔を怒りの赤で染め、カバンを握る手に
ギリギリと力を込めた。
だからといって絵里に掴みかかる度胸もないので、彼女は下唇を
血が出るほど噛むことしか出来ない。
この話の第三者でしかないミキティは、その場の空気に果てしない
居心地の悪さを感じていた。

「お、おい二人とも落ち着けよ。まぁなんだ。喧嘩両成敗っつーか、
喧嘩するほど仲がいいっつーか…おあいこって事でこの件は水に流そうぜ」

慣れない仲裁役を演じるミキティだが、うまい言葉が出てこないことに一人苦しむ。
もはやヒートしてしまっている二人の炎は、そこらの水では消火することも
できないようであった。

354 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:09:27.23 0


「絵里むかつくの!!もう絶交してやるッ!!!二度と口きかないから!!!
でも今謝るっていうなら許してやってもいいのッ!!!」

「絶交??やったね!!これでワガママから開放されるんだ♪」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!知らないッ!!!!!!!!!」


バタンッ!!!!

さゆみは怒り任せに部室のドアを蹴破るようにして開けると、
今の気持ちを象徴するかのような音を立ててドアを閉めた。

乱暴に扱われた部室のドアを眺めながらミキティは言う。


「・・・・・正直、美貴は驚いたよ。アンタがさゆにあそこまでズバズバと
言うとはよぉ〜…向こうはどう考えても仲直りしてーみてぇだったのに」

「・・・・・・・・・・」

「あれじゃあ火に油をドブドブ注いだようなもんだぜ」

「・・・・・」


「・・・・おい、亀?」

355 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:11:22.40 0


「なんてことをしてしまったんだ・・・・」

「あン?」

「どうして僕はあんなことを・・・・・・わざわざ嫌われるような真似を・・・・?
でも正直さゆが騒いでるとムカついてくるし・・・いや、けど僕はさゆの
そんなとこも・・・・・・ん、僕はいったい何をどうしたかったんだ・・・・」

「ちょっとお前・・・・ブツブツ何言ってんだ・・・・・・・?」

「あれ?ダメだダメだダメだダm」

「・・・・・・・おい亀!!!!」


ガンッ!!!!!


「!!!?」

大声を出したミキティに答えるかわりに、絵里は拳を壁に叩きつけると、
頭を抱えて駆け足で階段を下りていってしまった。



「・・・・・・もう何がなんだかわかんねぇ」




356 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/08/25(金) 09:14:00.47 0


ミキティは考える。


あの二人の仲は終わってしまうのだろうか、と。

友人の、百貨店にもないような珍しい恋はこうして幕を下ろしてしまうのか?
ちょっとばかり残念だ・・・・・そんな風に思った。


いったいどうしてしまったっというのだろう?

服装といい、道重さゆみへの態度といい・・・・


まるで・・・・・



「すべて"逆"になっちまったみてーだ・・・・・・あいつ、いったい…」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


387 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:27:37.03 0

さらに翌日のことである。
その日は十月の演劇コンクールで発表する予定の劇を一度通しで練習するということで、
普段の何倍もの人数の部員が部活動に参加していた。
しかし季節的にまだ夏も迎えていない今、根っからマジメに取り組んでいた生徒は
エースと呼ばれる高橋愛以外ほとんどいないように見えた。
ところが・・・・・・

「ブラボー!!おぉ…ブラボー!!!」

部室に部長・吉澤ひとみの感嘆の叫びと拍手が鳴り響く。
彼は感動していた。
ある部員の迫真の演技に、心を打たれているのであるッ!!!
そのある部員とは他でもない、亀井絵里だった!!

「え、そんなに良かったですかね?て、照れるなぁ〜・・・うへへ・・・・」

「グッド!!だったよ。正直、練習始めたの最近だったから演技に関しては
期待してなかったんだ。自分自身も含めてな。それがなんだよ今のは。
俺には今の亀ちゃんが"騎士"にしか見えなかった…力強くて何万もの兵を
まとめて率いてやって来た『男らしい』騎士にしか見えなかったッ!!!」

「だな、美貴も今の亀は男にしか見えなかったぜ。気持ちわりぃくらいによォ〜。
こりゃあ負けてらんねーな。美貴ももっと"魔女"になりきんねーと」

「いや、ミキティは普段どおりでもじゅうぶんハマると俺は思うよ」

「おい、それどういう意味?」

「まぁみんなも亀ちゃんを見習って役になりきってくれ。俺も頑張るわ」

「よっちゃんさん答えろ!!」


388 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:30:11.15 0


このように、絵里の演技は部員の誰もが驚くほどの名演技だったのだ。
その男らしい仕草、声使い、立ち回りは、彼女が『女の子』だという認識を
どこかへふっ飛ばしてしまうほどである。
絵里は騎士と言う"男役"を見事に演じて見せたのであった!!!
しかし、どういうわけか彼女の瞳は自信に満ちてはいなかった。



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!



問題は今回の絵里が一人二役ということにあったのは、その瞬間がくるまで
誰も気付かなかった。
もう一つの役を演じている絵里を見て、その場にいた誰もが思った事を
率直に口にしたのは小川麻琴である。


「な、なんか亀ちゃんがいつもより可愛くねぇなァ…oi」


絵里のもう一つの役とは"淑女"…つまり女性の役なのだが、その立ち回りが
ありえない事この上ない。
ガサツな腰つき、滑らかとは言えたものではない立ち回り…
一言で言うと、美しくなかったのだ。
ましてや同じ役が3人もいる上に隣で華麗に踊っているのだから、尚更である。



389 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:33:14.62 0


「ちょっとちょっと?なんか騎士の役が抜けきってないんじゃねーの??」

「え、あ、あの・・・・そうですか?スイマセン・・・・」

「これじゃあ俺が演じた方がよっぽど色っぽいんじゃあないか?なーんて」


本気で言っているのか冗談で言っているのか定かではないが、そのやり取りを
端から見ていたミキティは、いつもならツッコミを入れるところである。
それが出来なかったのは、恐らくミキティも吉澤ひとみと同じ事を考えて
いたからであろう。

絵里の女役は、本当に似合っていなかったのだ。

外見は何一つ変わっていないハズなのに、どういうわけか男子が女装した時のような、
得も知れぬ違和感が拭えない。


そして、それを感じていたのはミキティだけではなかった。



「僕・・・・・・この役出来ないです。だから降りたいです、ハイ…」



いつになく弱気なセリフを口にする絵里。

そう、誰よりも絵里自身がその違和感を大きく感じていたのだ!!


390 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:35:12.53 0


「出来ない?亀、突然何を言い出すのだ??ダメでしょ、そんなこと言っちゃ〜」

「ガキさんの言う通りばい、これは与えられた使命っちゃ!!れいな達は
選ばれたと。ってーか、さっきあんなカッコいい演技かましてン、悔しいけど
絵里ならこの役もすぐにモノに出来るはずっちゃ!!!ねぇ、さゆもそう思わん?」

「え?あぁ、まぁ」


同じ役回りである3人は、急に弱気なった絵里を励ますが、一度心に手を
突いてしまった人間を立ち直らせることはなかなか難しいことであった。

なにより、誰も気がついていないことがある。

それは、実は絵里が心に手をついてしまったのはもっと前だということ…
騎士役の演技を絶賛されていた、その時からだったのだ!!!


自信をなくした瞳で絵里は部室を見渡した。

視界はジャージ姿の女の子でいっぱいだった。
それもそのはずだ、この部は女子演劇部なのだから。
しかもどういうワケか、唯一の男子生徒、吉澤ひとみを見るとなぜか
不思議と安心感が湧いてくる。
同時に言い様のない不安も彼女の心を覆う。


それがいったい何なのか、絵里自信もまったくわからない。

わからないから、怖い!!!


391 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:36:42.13 0


「亀井さん…?どうかしたんですか??」


挙動不審に目を泳がせる絵里を心配して、後輩の久住小春が絵里の身体に
触れようとしたその時だ。



「うわあああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」



絵里が突然大声を出して驚いたのだ!!
いったい何に驚いたのか定かではないが、その顔は何故か真っ赤である。


「わーッ!!!なんですかいきなり!!!!?」

絵里の声に身体全体を使ってビックリする小春だったが、驚いているのは
なにも彼女だけではない。
その部室にいる全員が驚き、そして頭を抱える絵里に奇異な眼差しを向けたのだ!!!


「ここは違うッ!!なんか間違ってるぞ!!おかしいッ!!!何かがおかしい!!!」

「お…おかしいのはオメーだろ!!亀ッ!!!何が何だかわかんねーよボケッ!!!
お前いったいどうし・・・・!!!!」



392 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:39:35.48 0


ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァーッ!!!!!


うろたえる絵里にミキティが言い終わる前に、絵里は逃げるようにして
部室を飛び出してしまったッ!!!

一瞬静まり返る部室…しかしその場はすぐにザワザワとざわめき始めた。



亀子、どうしたンだぁー?
なんか悩みでもあンのか??oi…
こんこんは何も知らないです。
何だかいつにも増して心配になってきたのだ。



「・・・・・・やれやれだぜ」


「ん、oioi。ミキティどこ行くんだい?亀ちゃんを追いかけるのかヨ??」

「ああ、思い当たる節が・・・・・いや、ネェけどさ、アイツとちょっと話がしたいんだ。
いろいろ引っかかることがあるんでね」

「でも走って行っちまったゼ??どこ行ったかわかるのかィ???」


「あ・・・・」



393 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:43:16.43 0



「更衣室なの」



立ち往生を余儀なくされたと思ったその時、救いの言葉をかけたのは
道重さゆみであった。


「更衣室・・・・?なんでわかるんだよ、さゆ」

「さゆみのカン。これでも長いこと友達やってないわけじゃあないの」

「・・・・・そうだったな、アンタ達"親友"だったもんな」

「だったじゃないッ!!」

「わりわり…親友だもんな。つーわけでよっちゃんさん、美貴は一端抜けるぜ!!
まぁどーってことないでしょ?魔女はそんなに頻繁に絡む役でもねーしよぉ!!!」

「えっおい!!ちょ・・・・ミキティッ!!?」


そう言い残すと、ミキティは彼の返答を待たずに部室を飛び出していった。


394 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:45:18.95 0


ミキティは更衣室を目指し考える。


ここ最近の亀の様子は奇妙だ。
おかしなくらいに変人になっている…いや、元から多少は変人だったけどよォ〜…
そのレベルが尋常じゃあねーもんになってんのは確かなんだ。

チッ…嫌な予感がするな・・・・

なんか関わりたくもねーモンに関わらなきゃならなくなる…
そんな・・・・やけにハッキリとした悪寒っつーか・・・・


それでも、絵里を追うミキティの足は止まらなかった。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


395 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:49:16.23 0


「ったく…2、3人集ったら姦し姦しって言うけどよぉー…いつもより部員が
多いだけにうるせぇーことこの上ねーんだよ。この部室はよぉ〜!!石川ァ〜ッ!!
自販機でポカリ買ってきてくれ!!部長命令だ!!!」

「なによー!!女の子をパシろうとするなんて最低ッ!!!」


重要な役回りの人物が二人抜けてしまったため、部活は練習どころでは
なくなってしまった。
それから始まったのは女性陣の談笑と他愛もない噂話だけである。
その中に先ほどの絵里についての話もあれば、それとはまったく関係のない
杜王町の名所についての話もあり、様々だ。

そんなヌルいどよめきの中、小春とさゆみは部室の隅の壁にもたれかかり、
尻餅をついている。

(なんだか昨日から道重さんといるの気まずいなぁー)

絵里とさゆみにイザコザがあったことを知らない小春は、さゆみのドンヨリとした
謎の負のオーラを身体中に受け、その空気に耐えていた。

その時、とある部員の声が偶然耳に入ってきた。


「亀子のヤツ、まるで"こないだの時"みたいになっちまったナァ…」


それは小川麻琴と話している高橋愛の声であった。
こないだの時みたいになった?
いったい何の話であろうか?


396 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/09(土) 09:51:47.90 0


「高橋さん、あの…こないだの時ってなんですか?」

「ン?久住あん時いなかったっけかァ??あっしが亀子と元小説家の桜井さんっつー
人の家に遊びに行ってからオカシくなっちまった話ヤヨー…まっ、最もアレは
桜井さんの"スタンド攻撃"だったんだがネ」

「スタンド攻撃・・・・・?」

「それよりも、あン時はダメになった亀子にブチ切れかけたミキティが今回は
やけに心配してた事のほうが不思議だネェ〜。気分屋ってワカンネ」

「・・・・・・・・」

「・・・・?どしたー??」



「高橋さん、その時の話…小春に詳しく聞かせて下さい」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



441 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:26:40.01 0


バタァム!!!!

ミキティは女子更衣室のドアを勢いよく開け放った!!
だが・・・・・


「亀井は…いねぇじゃねーか。さゆのカン、見事にはずれて・・・・」


いや待てよ…と、ミキティは思いとどまる。
先日、絵里は何をした?
男子トイレに駆け込んで伝説を残したのではなかったか??

「まさか・・・・」

ミキティは訝しげに近くの教室…『男子更衣室』のドアを睨んだ。

アイツは"あっち"にいる。
直感だが…きっと"あっち"にいる!!!

そんな直感に迷うことなく従うと、ミキティは躊躇することなく男子更衣室の
扉を開けたッ!!!!


バアアアアアアアンッ!!!!!!


更衣室の中は静かだった。
これが男子更衣室…男くさいと思わせる何かの臭いが漂っていたが、
想像していたものと違い、そこまで不快感は感じぬ臭いであった。


442 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:28:24.25 0


「やれやれ・・・・・・見つけたぜ。もしもし亀よぉ〜♪」

「・・・・・」

「あれ、返事が聞こえねーなぁ。次のフレーズは『亀さんよ〜♪』だよ」


更衣室の隅で頭を抱え込むようにして体育座りをしていた絵里を見つめ、
ミキティは穏やかに声をかける。
着替える気があるのかないのか、いまだジャージ姿のままであった。

「・・・・・・・・わかってると思うけどよ、ここは男子更衣室だぜ??」

「ホント申し訳ないです・・・・・」

「なら、どうしてココにいるんだ?」

「・・・・・・・」

「おい、聞こえてるなら答え・・・・」


何とか顔を向けさせようと、ミキティはしゃがみ込み絵里の肩を揺さぶる。
そうして、ようやく持ち上げられた頭から覗きこめた表情は…


ブワアアアアアッ!!!!!!!


涙にまみれていたッ!!!!


443 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:30:31.53 0

「お、おいおいおいおい!!何を泣いてんだオメーはぁッ??」

「男子更衣室ッ!!えぐっ!そうッここは男子更衣室なんだ!!ひぐっ!」

「だからそう言ってンじゃんか!!問題はなんでオメーがここにいるかって
話なんじゃあねぇーの!?」

「藤本さんはトイレに行くとき何か考える!?ひんっ!!男子トイレと女子トイレ、
どっちに入るかいちいち気にする!!?うぐッ・・・・」

嗚咽交じりの震える声で、絵里は必死でミキティに質問を投げかけてくる。
トイレに行くとき、男子トイレと女子トイレのどっちに入ろうかと気にするか。
ミステリーな質問だったが、ミキティはありのままに思った事を話すことにした。

「美貴は・・・・・気にしない。っつーか入る方は女子便に決まってるんだから
気にするもなにもないだろう?まぁ、慣れない場所だったら間違えて男子便に
入らないように気をつけたりはするだろうけど・・・・」

「そう、僕も同じなんだ!!男子トイレと女子トイレ、どっちに入るかなんて
気にしないし、考えもしない・・・・入る場所は決まっているから・・・・なのに・・・・
なのになのに・・・・ああッ!!!!」

絵里はどうしようもなく歯を食いしばり、汚れた天井を見上げながら、
苦しそうにこう言ったッ!!!

「気付けば男子トイレなんだ!!!意識していないのに気付けば『男の子の場所』に
当然のように立っているんだよ僕はーッ!!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!!


444 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:32:52.90 0

「な・・・・・だったら意識すりゃあいいだろーが!!!普通はしねーけど…
女子便や女子更衣室に入る意識をすりゃあいいだろッ!!!!!」

「ダメなんだよ!!それでもッ!!!意識するともっとダメだ!!!
『女の子の場所』はその・・・・すごく恥ずかしいというか・・・ドキドキするというか・・・ッ」


キイィ・・・・・

その時、更衣室のドアの開く音がした。


「うわーなんだぁ!?女子生徒が二人も男子更衣室で何やってんだぁ!!?」


どうやら体育会系の部活に所属している男子生徒が、着替えに着たのか
サボりに着たのか、汗だくで更衣室に現れたのだ。
バッシュを履いているところからして、たぶんバスケ部の部員であろう。


「おい出てってくれよ!!」

「うるせー田吾作がッ!!美貴たちはいま取り込み中なんだよ!!!
すぐに出てってやッから終わるまで待ってろ!!もちろん外でなッ!!!」

「そ、そんな・・・・ここ男子更衣室なのに・・・・・ブツブツ」


一喝。
ミキティの怒号には体育会系の男子もシッポを丸めてしまうのだ。
男子生徒が出て行ったのを確認すると、ミキティは視線を再び絵里に戻す。


445 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:35:33.01 0


「・・・・・と、いうわけだ。今の男子のセリフ…聞いたかよ?女子生徒が二人…
だってさ。美貴はもちろん、アンタも女子生徒にしか見えなかったわけだ。
つまり・・・・・・・こんな制服着てても女が男になれやしねェーのさ」


バサッ!!!

ミキティは数あるロッカーの中から絵里の着ていた学ランを探し出すと、
それを乱暴に取り出し絵里に見せ付けた。

「わかってるよ・・・・・そんなことわかってるですけど・・・・・うぅっ・・・・
意識すればするほど女の子の時に自然としていたことが出来なくなって・・・・・
もうスカートだって足がスースーして気持ち悪くて履けないんだッ!!
どんどん自分じゃなくなってるみたいだ!!!違う誰かに変わっていってる
気がして・・・・すごく怖いんだよーッ!!!!!!」

「・・・・・・・アンタ・・・・マジでどうしたってんだ・・・・もう美貴にもわからねぇ・・・・
アンタが何を言っていて、何に苦しんでるんだかわからねぇ・・・・」


「どうして僕は無意識に男子トイレに入っちゃうの?男子の更衣室に入っちゃうの??
もう嫌だ・・・・男の子になりたいとは思ってたけど、こんなの望んでないですよ…」

「亀井・・・・・・」

「まだ女の子みたいだった時に戻りたいよぅ・・・・・女の子に戻りたい・・・」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


446 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:38:24.73 0


ドッタァン!!!

再び男子更衣室の扉が開く音が響いた。
だが今度は男子生徒ではなかったのだ。

「藤本さんッ!!!」

その名を呼んだのは自称ミラクルエース、久住小春だったッ!!!


「小春だとぉ〜!!?お前なんで美貴たちが男子の更衣室にいるってわかったんだよ?」

「今し方亀井さんの声が聞こえてきたからですッ!!女子更衣室にいなかった時は
正直とても焦りました!!!」

ハァハァ・・・・と息を切らしているようだが、走ってきたのであろうか?
ヒザに手をついて、呼吸を整えている。
ミキティにはそんな小春の動作がなんともダサく見えた。


「そんな慌ててどうしたんだ?」

「これから桜井って人の所に行きましょう!!高橋さんから話を聞いたんです!!
きっと亀井さんがおかしくなったのは"スタンド攻撃"の影響なんです!!!
桜井って人の仕業に違いありませんッ!!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


447 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:43:21.99 0


突拍子もない小春の発言に、ミキティは度肝を抜かれた。
その後ろに立っている絵里も同様だ。

「あ、あのな小春。どーいう経緯で桜井さんの話を聞いたのか知らないけどさ、
愛ちゃんの話、最後まで聞いたのか?」

「へ?」

「その様子じゃあ聞いてねーみたいだな・・・・桜井さんはな、その・・・・・記憶喪失に
なっちまったんだ。美貴たちと一悶着あった後によ」

「えッ??」

「何でかは知らねーけど、そーいうこった。それに、あの人の能力は『意思を読み
記憶を消去する』能力・・・・いま、亀に何が起きてンのかはわかんねーけど、そんな攻撃は
食らった様子もないし、あの人がコイツにまた何かするなんて考えられない」

「そ、そうだったんですか・・・・・・迂闊でした」


ミキティに説明され、小春はガックリと項垂れてしまう。
しかし、彼女のその行為は決して無駄ではなかった。
小春の発言は、ミキティに最大の大ヒントを与えたのだから。


もし、彼女の勘違いがなければ・・・・・この物語は最悪の結末を迎えたかも知れない。



448 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:46:15.34 0

「スタンド・・・・・・スタンド攻撃・・・・・・んなバカな・・・・・」

ミキティはボソリとその言葉を反復した。



                 ―スタンド攻撃―



もしそうだったとしたら、なんのために?
どういう能力だ??
人間の思考を逆にする能力?
狂わせる能力??
それ以前に、なんでコイツがそんな珍妙な攻撃を受けているんだ??
まったくもってわからない。

「亀、オメー最近誰かに何かされたか??」

「えッ・・・・・誰かって、誰です?」

「新手のスタンド使いに襲われて戦ったとか、ない?」

「ないなぁ・・・ひょうたん島で変なウサギに絡まれたぐらいです、ハイ」

やはり違うようである。
スタンド使いとスタンド使いはひかれ合うとはよく言うが、だからといって
何か異常が起きたらスタンド攻撃だと考えるのはおかしいのだ。


と、そこまで考えてミキティは考え直した。


449 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:49:07.25 0

もし、コイツがスタンド攻撃を受けたってことに"気付いてない"のだとしたら?
もしくは"忘れた"のだとしたら??

じゃあ何のために亀のヤツにこんなワケのわからん攻撃を仕掛けたんだ?
何のために演劇部の亀井に・・・・・・

「藤本さん・・・・?」

小春が呼びかけてきたようだが、ミキティは反応しなかった。
考えていたのだ、いろいろな可能性を模索していたのだ。

亀井に恨みがあるスタンド使いの仕業か。
演劇部に恨みのある人物の仕業か。
もしくは栄高の残党・・・・?

ミキティはこれまで自分達の"敵"となったスタンド使いを思い返す。
そして・・・・・やがてある人物に引っかかり、ミキティの思考は止まった。

以前、ミキティは自身のスタンドをボロボロにされたことがある。
しかもその能力は"攻撃をされた"ということも一言書き加えるだけで
すべて忘れてしまい、尚且つ書き加えた内容の効力は持続し続ける凶悪なものだ。
だが、彼女はそのスタンド攻撃を『ブギートレイン03』の能力によって
回避し、攻撃を受けた時のこともしっかりと知ることができたのだが・・・

問題のその人物、そしてスタンドの名は・・・・・


「岸辺露伴の『ヘブンズ・ドアー』・・・・・・いや、まさか・・・・・」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


450 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:52:31.96 0

「岸辺ロハン?なんですかそれは??」

「あれ、僕はなんか聞き覚えあるな。こんちゃんが言ってたような…」

「…小春は少年誌なんか読まなそうだから知らねーだろうけど、漫画家だよ。
しかもスタンド使いっていうお墨付きのな」

「漫画家のスタンド使い・・・・・どんな能力なんです?」

「なんつーかな、関わったら負けって感じの能力だよ。しかも演劇部のことを
詮索してるみてーだったな、今はどうかよくわかんねーけど・・・」


ミキティの話を聞き、絵里は同級生の広瀬康一のことを思い出した。
そういえば去年の冬、なぜか演劇部のことを聞かれたような・・・・
しかし、その話と今の話は関係がないものと判断し、絵里は一人首を振った。


「まさかとは思うけど・・・・なぁ亀。スタンド攻撃を受けたか、受けてないかは
もうどうでもいい。お前、最近変な髪形の兄ちゃんと会わなかったか?」

「変な髪形のにーちゃん・・・?」

「あぁ。ここんとこがギザギザで、けっこうオシャレな格好してる男なんだけど…
直接話してなくてもいいよ、すれ違ったとかでも・・・・・なかった??」


人のプライベートを堂々と読んで見せたあの漫画家のことだ。
演劇部のことを調べるために、人気のないところでぶどうヶ丘の生徒を
一人一人すれ違い様に『面接』していてもおかしくはない。
もちろん、あの恐ろしい能力をつかって・・・・だ。


451 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/10(日) 13:55:23.20 0

「頭にギザギザ・・・・ですか・・・・?」

「そうだよ、思い出せ」

絵里の問いに、ミキティは頭の辺りを指差して答える。
おそらくアレはヘアバンドかなんかなのであろうが・・・・ミキティには
そう言い切る自信はなかった。

そんな中、絵里は思い浮かべていた。

頭にギザギザ・・・・・
数日前に、ぶどうヶ丘高校近くの池で水切りを教えてくれたお兄さん。
漫画家かどうかは知らないが、頭にギザギザをつけていた気がする。

「でもあの人に何かされた覚えはないぞ・・・水切りのコツを教えてくれただけだったし」

「ちょっと待てよ亀ッ!!!やっぱ会ったことあんのか??岸辺露伴・・・・その・・・
頭にギザギザの兄ちゃんによぉ〜ッ!!!」

「う、うん・・・・・」

ああ、なんということであろう!!
絵里は岸辺露伴らしき人物と遭遇していたかも知れないというのだッ!!!
仮にそれが本人だとして、いったい絵里にどんな理由で何と"書き込んだ"のかは
わからないが、一度彼と遭遇しているミキティの口から出る言葉はただ一つだったッ!!


「・・・・・・・・・・・なんてこった」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


478 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:42:34.84 0

絵里にスタンド攻撃を仕掛けたのは、漫画家の岸辺露伴!!
スタンド名は『ヘブンズ・ドアー』…人の体験を読み、さらに記憶として
書き込むことも出来る能力!!!


「そんなにヤバイんですか…?その『ヘブンズ・ドアー』とやらの能力は…」

「ああ・・・小春は実際に見てないからわかんねーだろうけど、今まで出会った
スタンド使いの中でも恐らく最低最悪最強の能力ッ!!最!最!最!の三拍子だぜッ!!
正当法じゃあ、まず敵わない相手だ・・・・・ッ!!!」

「だからといって、亀井さんをこのままにしておくワケにもいかないんじゃあ
ないですか?」

「・・・・けどよ、犯人はあの漫画家かも知れないっていう・・・そう"かも知れない"
ってぇのは断定じゃない、仮定だ。犯人は別にいるかもしれねーよ?それに・・・・・」

「それに?」

「もし攻め込んだとして犯人がアイツじゃあなかったらどうする?人違いでした、
ごめんなさいとでも言って謝るか??ヤツはそれで『ハイそうですか』って
易々と帰してくれる男じゃあないんだ・・・・あたしら全員のスタンドをボロボロにして!!
さらにそのことすら気付かせないで生活を送らされることになんぜーッ!!!」

「それなら正当法じゃあなくてもけっこうですから。卑怯なこともしましょう、
地獄に落ちることもしましょう・・・・・何もしなかったら、亀井さんはずぅ〜っと
このままかもしれないんです。それだけは・・・・あっちゃあいけないことです」

やけに引き下がらないな・・・小春に対してミキティはそう感じた。
もちろんミキティだって、絵里をこのままにしておくつもりはないし、
なによりしておきたくない。


479 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:45:59.44 0

しかし・・・・こうして敵の正体を仮定としてでもつかめた事は奇跡(ミラクル)に等しいのだ。
もし、何も考えず攻め込んだりしたら・・・・・露伴にスタンドを封じられ、そしてさらに
封じられた原因を永遠に忘れ去られたまま過ごしていかねばならなくなるのだ!!!
岸部露伴という人間の存在すら忘れさせられてしまうかも知れない!!
そうなれば、この奇跡(ミラクル)と呼べる偶然はすべて"無駄"の一言で流れる。


「1%でも犯人の可能性があるなら、小春はその岸辺露伴とやらを攻撃します!!」

「お前、やけにヤル気があるみてーだけど・・・・美貴はビックリしてるよ。小春は
さゆやよっちゃんさん、そして自分の夢以外の事…ましてや亀井のことなんて、
正直どうでもいいのかと思ってた」

「そりゃあ、亀井さんがおかしくなってから道重さんもおかしくなって、
その空気に耐えられないってのもありますけど・・・・・それ以前に、亀井さんは
道重さんの友人です。そして同じ演劇部員という小春の仲間なんです。
綺麗事に聞こえるかも知れませんが、仲間を救いたいんです!!だから小春は行きます。
漫画家、岸辺露伴のところへ…これだけじゃあヤル気の理由付けにはなりませんか?」

「おめー・・・」


「それに亀井さんがこのままじゃあ、舞台の練習もはかどりませんしね」

最後に付け加えるようにして小春はそう述べたが、ミキティにも絵里にも、
それが彼女の精一杯の照れ隠しだということに気付くのは容易であった。



ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!


480 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:47:55.89 0


「小春ちゃん・・・・」


小春の言葉を聞いて、絵里は唇を噛み締める。
今まで怒りや悔しさで唇を噛み締めた事は幾多とあったが、こんな気持ちで
唇を噛み締めたのは初めてだった。
嬉しい気持ちと感謝の気持ちが折り重なって、何も言葉が出てこない。
少しでも声を出せば、違うものまで溢れ出すであろう確固たる自信があった。

そんなギリギリの状態で、さらに彼女の心を揺らす出来事が起きる。


ガチャン・・・・


再三、男子更衣室の扉が開けられたのだ。
その人物に、一同は全員目を丸くした!!!


481 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:50:32.28 0



「さゆみも行くの」



「さゆ!??」

「道重さん?いつからそこに??」

「小春ちゃんが愛ちゃんの話を聞いてる途中でいきなり部室を飛び出していったから
気になってついてきたの。ちょっと気まずくて、すぐにはココに入れなかったけど…」


そう言って、さゆみはチラリと絵里に目をやった。
絵里もそれに気付き、思わず視線をさゆみのつま先に逃がしてしまう。


「でも、話を聞いてみれば何てこたぁーないの!!絵里がおかしくなったのは
その漫画家とやらの"スタンド攻撃"のせいッ!!!すべての元凶はそいつにあるの!!」

「さ、さゆぅ・・・・でも、僕はさゆにひどいことをしたんだ・・・屋上で待ってるのを
知ってて行かなかったし、ひどい事もいっぱい言った気がする・・・それも最近生まれた
本心から・・・・それなのに・・・・・・僕を許すっていうのかい?」

「それは全部、絵里がおかしくなってからのことじゃあないの?なら許すも
許さないもないの。悪いのは全部、絵里をおかしくしたヤツに決まってるッ!!
それに・・・・あの時絵里が言ってたことは、あながち間違ってることではなかったし。
今までの絵里に対しての言動、ちょっと反省したの。ゴメンなさい」



482 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:54:46.05 0


さゆみはペコリと頭を下げると、ゆっくりと絵里に近付き、その身体を
引き寄せ腕の中に優しく収めた。
身長のせいもあるのだろうが、この時ばかりはミキティの目にも小春の目にも
絵里よりも年下であるハズのさゆみの方がお姉さんに見えてしまった。


ギュウッ…


「わぁ・・・・・・・っ」

「可哀想な絵里・・・・・絶対にさゆみが…さゆみ達が元の絵里に戻してあげるの」


まるで子供をあやすかのようなフンワリした声で、さゆみは絵里を包む。



「・・・・良かったなぁ亀井。オメーの周りには、こんなに素敵な仲間がいてよぉ〜」


!!!



「仲間だから素敵なんです、きっとそうです」


!!!!



483 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 07:58:49.93 0


「・・・そうと決まればとっとと着替えて行動に移すの。踏み出せIt`s all right なの!!」

「そうですね。女の子なら誰でも思うHappy End Story!!を信じましょうッ」

「やれやれ・・・・・・可愛い後輩たちが動くってんなら、美貴も黙って見送るわけには
行かねーよなぁ・・・・・Jump!Jump!!Take off しようぜーッ!!!」


意気込む3人を見て、絵里は思う。

演劇部に入って良かった。
本当に良かった。
歳の差なんて関係ない。
こんなにも素敵な仲間たちにめぐりあえたのだから!!!




「あ、あれれ?亀井さんッ!!どうしたんですか??」


「おいおい、また泣き出しちまったよ。今度はなんだぁ??亀、オメーそんなに
涙もろかったっけ?」


「感動のフィナーレにはなだ早すぎるの。ほら、泣かない泣かない!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


484 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 08:01:39.81 0


「・・・・・・ここが岸辺露伴の家ですか、大きいですね。敷地何坪ぐらいあるんでしょう?」


「中学生でそんなこと気にするのは小春ちゃん、あなたぐらいなもんなの」


「それにしても、こんこんが露伴の家を知ってるのは意外だったな。
いったい何をどこまでどうやって把握してるのか…マジで謎だらけだぜ」


「こんちゃん、岸辺露伴の漫画のファンだったらしいよ。で、引っ越してきた当時、
その彼が杜王町に住んでるとわかったんで、この家を探して訪ねたことがあるんだって。
もっとも、留守だったらしいけど・・・・・こんちゃんは『居留守使われた』って言ってた」



目的地を目の前にして、4人はそれぞれ言葉を交わした。

自然とその声も小さくなるのは、自分達がこれから何をするか・・・・
すでに断固として意を決していたからであろう。


485 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/11(月) 08:06:51.10 0


「いいか?打ち合わせ通りの作戦で行くぜ・・・・・・あと、さっきここへ来る途中にも
話したけど、美貴は岸辺露伴に対して"攻撃できない"っつー状態だと思う。
美貴のスタンドをボロボロの状態から元に戻したとき、それまで解除しているとは
考えられないんでね。そのかわり、全力でサポートに回らせてもらうからな」

ミキティの言葉に、3人は深く頷く。


「それと・・・・・・絶対に先手を取られるなよ。後手じゃあ悔しいがアイツには
勝てないな・・・そうなったら全部終わっちまうんだ。小春もやばいと思ったら
ビスケッツを飛ばせ。それでも厳しいようなら逃げ出しても構わない、
それが最善だと思うからだ」

「ハイ、逃げませんけどね」
「わかったの、逃げ出すってのは聞こえなかったことにするの」


「やれやれ・・・・・・・それじゃあみんな、覚悟を決めて・・・・・」




                
          「「「「   行 く ぞ !!!!! 」」」」




バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


558 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 06:55:11.06 0

カリカリカリカリ・・・・・・ドシュッ!!ドシュッ!!

バッ!!バッ!!ピシャッ!!ピシャピシャッ!!

シャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!


ドオォォォォォォォォォォォン!!!!


彼の名は岸部露伴・・・漫画家である。
あと3枚で今週分の原稿が完成するというところで、彼はとてつもなく
耳障りな音に気がついた。

・・・・・・いや、これは音ではない。
声だ。
それも一人ではないようで、かなり騒がしい。

「こんな真昼間から人ん家の前で…ムカツクな」

イラついたものの、気になった露伴は窓から姿を見られぬよう、ほんの少しだけ
顔を出し、玄関の前にいる人物を窺う。
そこには奇妙な女子学生が二人ほど、何やら騒いでいるようだった。


「ぶどうヶ丘高校の生徒か?うるせーなぁ・・・・・しかし、はて。あの二人の顔は
どこかで見たことがある・・・・どこだっけか・・・・・もしや・・・・・!!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


559 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 06:57:45.08 0


「道重的にはァ〜こーんなに大きな杜王町(ばしょ)でェ〜本当ぉに素敵な漫画家の
先生と一緒の町に住むことが出来て、とおぉ〜ってもッ!うれ〜ピンク!!ですッ!!!
でェ・・・・・こはっピンクは??」

「小春的にはァ・・・・・・・キャハ!!露伴先生、露伴先生、露伴先生・・・・・・・
すぅ〜ッごく!!キャハ!!!ふぇ〜ん!!!!」


「わぁああぁあぁぁ・・・どうしよう・・・・こんなに露伴先生のことばかり考えて・・・・
わたしって、こんなにピンク色だったっけ??」

「桃の花〜恋が実ると〜初夏になるぅ〜・・・・あぁ、センチだわぁ!お家入りたいッ!!」

「えッ!!まさか!!?」


「「同じ人のファンなの??」」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


一通り騒いだ後、二人は岸部露伴の家の敷地に足を踏み入れた。
あとはインターホンを押すだけなのだが…



560 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:00:57.12 0


「道重さん・・・いまの小春たちの"演技"って、何か意味があるんですか?」


風に消えそうな小声で小春はボソッと呟く。

「大アリなの。さっき絵里が言っていた・・・・以前、こんちゃんが訪ねたときは
『居留守を使われた』っていう話があったでしょ?」

「えぇ・・・」

「普通のなりふりじゃあ、さゆみ達も居留守を使われるかもしれない。だから…」

「なるほど。そんじょそこらのファンとは明らかに違うんだぞってところを
見せ付けてやったわけですね!!!」

「グッド!!さすがは小春ちゃん、マジで理解が早いの。それじゃあ・・・
覚悟を決めて行くの・・・・・ッ」


さゆみは恐る恐るインターホンに人差し指を伸ばす。
小春もその指先を見つめ、ゴクリと音をたてて唾を飲んだ。

二人は岸辺露伴のスタンド『ヘブンズ・ドアー』の能力を聞いていない。

いや、正確には聞けなかったである。
露伴に対して"攻撃出来ない"状態であるミキティの口から、その能力を
口にする事は出来ないのだ。
それは岸辺露伴への"攻撃"に繋がるからだ!!
聞けたことと言えば『最低最悪最強』『関わったら負け』。
そして『一度スタンドをボロボロにされた』ということぐらいであった。


561 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:02:33.37 0


いったいどのようにしてスタンドをボロボロにしたのだろう。

どうやってミキティは岸部露伴に"攻撃出来ない"状態にされたのだろう。

ヤツの攻撃方法は??


さゆみと小春は、それを知らないのだ。

スタンドをボロボロにされる・・・・・二人には想像も出来なかったが、わかっているのは
ミキティが言っていた『先手必勝』ということだけだ。
敵を・・・・・露伴を後手に回し、尚且つ屈服させてしまえば自分たちの勝利!!!

二人の緊張感は高まっていく・・・・・・



ピンポーン!!!!!


そして、ついにインターホンのベルは鳴り響いたのだったッ!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


562 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:05:32.78 0

ガチャ・・・・・

((来たッ!!))


玄関の扉は静かに開けられた・・・・・が、完全に開け放たれたわけではなく、
数センチだけ隙間を作っただけであった。
その隙間から中の様子を窺うことは出来ない。
中で誰かが、わざとなのか、たまたまなのか、隙間を塞ぐように立っており
家の中を垣間見ることが不可能だったのだ。

その誰かというのは他でもない、漫画家の岸辺露伴である・・・・!!


(居留守を使わなかったの・・・・・これは絶交のチャンスッ!!!だ、だけど・・・・)

(何だろう、この近寄りがたい空気は・・・・嫌な重圧を感じるなぁ・・・・
だ、ダメだダメだ久住小春ッ!!オーラごときに足をすくませてどうする!?)


「なんだ?きみ達は・・・・さっきから外で騒いでいるようだったが・・・・ぼくに
何か用事でもあるのか?それとも、ただのイタズラ??」

眉間にシワをよせ、露伴は二人を見下ろす。


「い・・・・・イタズラなんてとんでもないッ!!"さゆみ"達はファンなの!!
えぇっと・・・・そう、露伴先生の読者ってヤツなの!!!ねぇ"小春"ちゃん?」

「そ、そうなんですーッ!!あぁどうしようッ!!憧れの露伴先生に
会えたもんだから小春はキャッキャッキャッてなっちゃう!!!」


563 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:09:07.40 0

さゆみはガムシャラに岸部露伴の読者であることを演じた。
小春に至っては普段の彼女からは想像もつかないような黄色い声を
張り上げてヘラヘラしている。
そんな二人に、露伴はどこか小バカにしたような口調で対応した。

「読者?ファンなの??フーン、住所バレたのか」

「は、ハイ・・・・ちょっと小耳に挟んだんで・・・・ねッ!!小春ちゃん!!!」

「そうなんですー!!それでブシつけだとは思うんですけど、サインとか
欲しいなーとか思っちゃってるんですッ!!!キャッキャッ!!!」


「ぼくのファンか・・・・その話、乗ってあげよう」

露伴は口の端を釣り上げた。


「「え?」」

「いや、なんでもないよ。最近不審者が多くてね・・・・もちろん読者の中にも
変な人がいたりするんだ。キミたちみたいなね」

そう言うと、玄関のドアをゆっくりと大きく開放する。
それは二人を招きいれようとしている無言の了承であった。

「露伴先生??」

「サインの一枚や二枚、おやすい御用ですよ・・・・それに、わざわざここまで
やってきて疲れたろう?せっかく来てくれたんだ、紅茶くらい出すよ。
ついでに中へ入って仕事場でも見学してくといい」


564 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:12:11.98 0

!!!!!!


「仕事場ッ!?いいの!!?」
「キャッキャッ!!素敵ですー!!!」

かかった!!
さゆみは心の中でガッツポーズをとる。
もちろん小春も同様で、笑みがこぼれてしまうほどであったが、この状況に
おいて、その笑顔は演技として大きく役に立ってくれた。

「さぁ、靴を脱いで。仕事場は2階なんだ・・・・・」

二人は屋敷の中に足を踏み入れると、その広さに驚きを隠せなかったが、
今はそんなことに感動している場合ではない。

ガチャン・・・・・・小春は静かに玄関の扉を閉める。
カギはかけなかった。
そして露伴が二人を案内しようと、完全に自分たちに対して背中を向けた
その瞬間を、さゆみは見逃さなかったッ!!!


ダタンッ!!!


ローファーのかかとがフローリングの床を強く踏みしめた音が屋敷に響き渡ると
同時に、さゆみは露伴の背中にピッタリとくっついた!!!
右腕に絡まったスタンド『シャボン・イール』の銃口(口腔)を押し付けてッ!!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!


565 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:17:34.07 0


「チェック・メイト・・・・なんてことはなかったの。先手はさゆみ達が取った」

「ン・・・・・なんのつもりだ??ぼくの背中に何か柔らかいものが
当たっているようだが・・・・」

「おっと!それ以上は許可なくしゃべるな、なの。これからあなたはさゆみの
質問に答えてればいいの。それ以外のことを口にした瞬間、露伴先生・・・・いや!!
岸部露伴ッ!!!あなたは一瞬のうちに爆裂して吹っ飛ぶの!!」


勝ったッ!!
さゆみは露伴の背後をとることに成功したのだ!!!
ペースは完全にこちらのものになっている・・・・あとは絵里をおかしくした
張本人なのか否かを、露伴の口から割ればいい。

張本人ならば、いますぐこの状態で絵里を来させ、元に戻させる。
そのために今、小春は『ミラクル・ビスケッツ』を数人、絵里の元へ飛ばしたばかりだ。

もし、万が一彼が犯人ではなかった時は・・・・・
返り討ちにされないよう、このまま再起不能にするつもりであった。
一度ミキティを攻撃している男だ、ここでぶっ飛ばしても問題はないだろう。


どちらにしろシャボン玉でぶっ飛ばす・・・選択の余地はなし!!


さゆみはそう考えていた。


566 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:20:46.92 0

「で、質問ってのは何だ?」

露伴のセリフに、さゆみは右腕のシャボン・イールをさらに押し付ける。

「・・・・あなた、さゆみの言ったことがわかってないようなの。耳クソでも
詰まってらっしゃる?・・・・・もう一度言うの。さゆみの許可なく口を開くな」

「・・・・・・・・・」

背を向けているので表情は窺えないが、露伴が黙ったのを確認すると
さゆみは質問を始めた。

「・・・・・まず一つ。あなたのスタンドの名前、そして能力は?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「制限時間2秒以内に何も答えがない場合は無条件でふっ飛ばさせてもらうの。
必殺・ゼロ距離シャボン玉・・・・・手動の時限爆弾なの。手動の時限爆弾とか
自分でも言ってて意味わかんないけど」

右手をさらに背中へギリギリと押し付け、さゆみは露伴を威嚇した。

「1!!」

強制的にカウントを開始し、もっと緊張を煽ってやる。
しかし奇妙なことに、背を向けている露伴からは恐怖だとか、焦りだとかは
まったく感じられなかった。

「に・・・・・・」

だが2秒カウントが終わる直前、ついに岸辺露伴は口を開いたのだ!!!


567 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:24:03.68 0


「スタンドの名は・・・・・・『シャボン・イール』。ウナギに酷似した姿で
シャボン玉の形をした爆発物を吐き出すスタンド」



「なッ!!!!?」

「当たってるかい?・・・・・・・・・道重さゆみ!!!!」

突然のことに、さゆみは一瞬我を忘れてしまった。
コイツ、どうしてさゆみのフルネームを知っている!?そう思った。
しかもスタンドの名前とその能力まで!!

「み、道重さんッ!!何かヤバイです!!!直感ですが何かヤバイッ!!!!
すぐに離れて下さいッ!!!!!!!」

小春の声にハッと我にかえるさゆみだったが、その瞬間、こちらに背を向けている
露伴の右腕が動いたのが見えた。


「う、うおぉああぁぁぁあぁぁぁーッ!!動くんじゃあねェーのッ!!!」

「遅いねッ!!『ヘブンズ・ドアー』!!!!」

「シャボン玉ァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」


バシュッ…

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!


568 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:25:49.64 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お、おい・・・・・なんだ・・・・?今の爆発音は・・・・・」

「爆発・・・・さゆのシャボン玉・・・・・・?」

「おいビスケッツのNo.5!!中の様子は・・・・さゆと小春はどうしてるッ??
何が起きたんだ!?」



『ア・・・・ア・・・・コ、コレハ・・・・・・・・No.2ガ・・・・コレハまじデやばいト
言ッテイルッ!!!』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


569 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:28:31.09 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やれやれ・・・・・去年の夏前に立て直したばかりだというのに・・・・
二千万近くかかったんだぜ?派手に吹っ飛ばしてくれたもんだよ・・・」


そう言って、露伴は溜息をついた。
さゆみのシャボン玉が爆破したのは露伴の背中ではなかったのだ。
どういうわけか自分達の真上・・・・・天井を爆破していた!!!


「そんな・・・・・なんでなのッ!!!」

幸い(?)天井は吹っ飛んだだけで、多少焼けてはいるものの大きな炎は生まれていない。
さゆみは焦げて穴の開いた天井を見上げていた。

「しかし・・・・・ぼくとしてもちょっと遊びが過ぎたようだな。あんなのを
まともに食らったら死んでしまうじゃあないか・・・・ちょっとビックリしたよ。
すまないね、侮っていた」


焦げて穴の開いた天井をチラリと見て、露伴がゆっくりと振り返る。
さゆみは尚も天井を見上げたままだ。

パラパラ・・・・・

細かい木片が彼女の顔に降り注いでいる。
それでも顔を背けることなく、天井を見上げ続けていた。


570 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/13(水) 07:31:32.77 0

「な、何をやってるんだぁー!!道重さんッ!!!露伴がこっちを向きます!!!
下がってくださいッ!!!早くッ!!!!」

「う・・・・うっ・・・・・頭が・・・・ッ!!」

「下がらないんだろう?残念だが先手を取ったのはぼくだったというわけだな。
そして見てみろ。キミの心の扉はすでに、我が能力『ヘブンズ・ドアー』によって
開かれているんだぜ!!!」

天井を見上げたままでいるさゆみの右腕をグイッと乱暴につかむと、露伴は
その腕を上を向いている彼女の眼前に無理やり持っていった!!

「あ・・・・・・」

さゆみと、さゆみ自身のスタンドの目が合う。
もしかしたら初めて自分のスタンドの正面顔を見たかもしれない。
簡略化された顔だが、どこか自分の面影があるな、と思った。

そんなスタンド『シャボン・イール』のおでこにあたる部分が不自然に
捲れ上がっているのだ。
そして、捲れ上がったそこにはこう書いてあった。



                  『 上を向く 』


「な・・・・・・・・・・・・・・にいィィィィィィィッ!!!!!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


13 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 03:55:03.65 0


さゆみは上を向いてしまった顔を下げることができない!!
それは岸部露伴のスタンド『ヘブンズ・ドアー』の能力によるものなのだ!!

シャボン玉を吐き出すその瞬間ッ!!!
人間業とは思えぬ異常な速度で、しかも後ろを向いたままの姿勢で!!!
さゆみのスタンド『シャボン・イール』の額を攻撃したのだ!!

だからシャボン玉も天井に放たれてしまったッ!!!



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!



「上を向く・・・・・だってぇ・・・・ッ!?な、なんなのこの文字は・・・・!!!」


どんなに顔を下げようとも、身体がいうことをきかない。
いや、いうことがきかないという表現は正しくないだろう・・・
これは"意思"を書き加えられてしまったさゆみ自身の意思によるものなのだ。
頭では顔を下げたいと思っているのだが、身体にはまったくそんな気はないらしい。

「やばいのッ!!スゲーやばい気がするの!!!は、早くこの文字を
かき消さなくてはッ!!」

さゆみは左手の甲でシャボン・イールの捲れ上がったオデコに書かれてしまった
奇妙な文字を必死に消そうとゴシゴシ擦るが、これはスタンド攻撃だ。
書かれてしまった文字が消える事はない。


14 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:03:28.30 0

「無駄な足掻きだね。ぼくの能力『ヘブンズ・ドアー』によって書かれたものは
ぼくがその能力を解除するまで永遠に消す事はできない。それに・・・きみからは
見えやしないだろうが、きみ自身の額のページも徐々に捲くれつつあるんだぜ?」

「・・・・・・・・・ハッ!!!」

「さて、きみとのおしゃべりはここまでだ。来客者はそこにもう一人いるのだからな。
ヘブンズ・ドアーッ!!!!!!!!」

バシュッ…ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

一閃!!ハットを被った少年のようなビジョンが、まるで顔を切りつけたかのように
見えたその瞬間、さゆみの顔全体がバラバラと音をたてて本のようになっていくッ!!

「さ、さゆみの大事な顔がァ〜ッ!!!あ、あひィ・・・・・」

「安心しろよ、顔には傷一つつけちゃあいないさ。ただ、そこの・・・・そう、その口元の
左下辺りにあるホクロのちょうど下あたりに書き加えさせてもらっただけだ」


             岸部露伴を攻撃する事はできない


「ぎゃあぁぁあぁ〜ッ!!!!!!」

「本当はそのウナギのようなスタンドも使い物にならなくしてやりたかったんだがね。
どうやらそんな余裕は今ないらしい・・・そこにつっ立っている"クソガキ"も
黙って見ているぞってわけじゃあないようなんだ」

本になった顔を閉じようともがき、ヒザを折ってしまったさゆみを尻目に
露伴はもう一人の来客者…久住小春を見つめた。


15 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:09:20.70 0

「なんだいその目は?ぼくに対する怒りの眼差しに見えるが」

「よ、よくも道重さんを・・・・許さないッ!!!」

「おいおい何か勘違いしてないか?被害者は誰がどう見たってぼくの方だぜ。
土足で人の家にあがり込んだ上に恐喝、おまけに器物破損・・・去年の夏前に
二千万もかけて建て直したっていうのにこのザマだ。ムカっ腹がたつね」

露伴は穴の開いた天井と、ヒザをつき取り乱すさゆみを交互に見ながら言った。

「しかし・・・・・正直きみたちのことを軽く見すぎていたようだ。ぶどうヶ丘高校の
演劇部…女子学生だからと思って相当見くびっていたけど、まさかこんな行動力が
あったとは・・・・この天井の穴はその戒めとして受けいれるとしよう」

「・・・・・・・!?」

小春は露伴の発言に目を丸くし、我が耳を疑う。
ぶどうヶ丘高校?ぶどうヶ丘高校の演劇部と言ったのか?今ッ!?
小春の疑問はそれだけではない・・・先ほど露伴はさゆみのフルネーム及びスタンドの名前、
さらにその能力までズバリと言い当てていたではないか!!

「どうして・・・・・どうしてそれを知っているッ!!?」

小春の頬を嫌な汗が伝う。
不可解な状況に怖気づきそうになるも、小春は同じ演劇部員である『夏焼雅』が
部活動中に言っていた、いつだったかのある言葉を思い出す。

(・・・・・・勝負はビビッた方の負けなんだっけ)

冷静になれ、冷静になれ・・・・・小春はそれを自分に沁み込ませようと念じた。
今はこの目の前にいる人を小バカにした漫画家を出し抜く方法を何としても考えねばならない。


16 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:12:18.01 0


そんな小春に気付いているのかいないのか、露伴は先ほどの質問に
今回は律儀に答え始めた。

「簡単な答えだよ。きみも、この娘も、自分のことを名指しで呼んでいたからさ。
その名前ときみらの顔が一致しただけだ。"イタリアで出会った女"の記憶に
しっかり書いてあったよ。あと、きみらの友人の・・・・・えぇっとなんだっけ・・・・
亀・・・?まぁいいや、そいつの記憶にも書いてあった」

「亀・・・・・亀井さんのことじゃあッ!!?」

「そう、そんな名前だったな」


どうやら絵里の奇妙な変化には、やはり岸辺露伴が関係しているらしい。
ミキティの憶測は見事に当たったというわけだ。
"イタリアで出会った女"というのが小春にはよくわからなかったが、
今の彼女にはそんなことを考えている暇はなかった。

「これでも漫画家なんでね。記憶力は並みの人間よりはいいつもりなんだ」

露伴が何か言っているようだが、小春はもう耳を傾けなかった。
いま最も必要なことはッ!!

『いかにしてこの自信に満ち溢れた漫画家をギャフンと言わせるか!』

と、いうことなのだから!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


17 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:15:19.22 0


「しかし・・・・・・なぜぶどうヶ丘高校の演劇部員がぼくのところへやって来たんだ?
繋がりは絶ったはずだが・・・・・まぁ、それはきみの記憶を読んで調べるとしよう」


「フムム…小春の記憶を読むとでも?」


「ごもっとも、だね」


「無理ですね、あなたには」


「無理だって?ためしてみたいな」


「なぜならあなたにとても『ゾッ』とすることをお見せするからです」


「へぇ、どうぞ・・・・・ン?」



『『『ヤンヤァヤヤァヤアアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!!』』』




ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!



18 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:17:59.86 0


「なッ!!?」

大きな振動と共に、突然露伴の視界が濁る!!
その衝撃に一瞬構えてしまったが、奇妙な話し声にすぐ耳を傾けた。



『…コイツ、油断シテタゼ』

『アァ。さゆみんヲ倒シテいい気ニなってイタンダ』

『気分イイもんダヨナァ?いい気ニなってル奴ヲ「ぎゃふんと言ワセル」ノハヨォ〜!!
腹ノ底からムフフな笑イガ込み上ゲテくるゼーッ!!!』



「な、なんだ・・・・・この大きなカプセルのようなものは・・・・・ッ!!」

「さっさと攻撃しに来ないで小春としゃべくっていたのは岸辺露伴!!
あなたのドジだ・・・・・あなたがベラベラやってるヒマに、ビスケッツに頼んで
外から『電話ボックスの外枠』を分解してきてもらったんですよッ!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


19 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:20:57.20 0

岸辺露伴を閉じ込めた!!
以前、新垣里沙にこれと同様の作戦を行った時は相手のスタンド能力故に
簡単に破られてしまった作戦であったが、先ほどさゆみに仕掛けていた彼の
スタンド攻撃を見るに、露伴の能力は殴ったり蹴ったりするような
パワータイプに見えなかったのだ。
つまり足止め成功ッ!!
床にヒビを入れてシッカリとめり込んだ電話ボックスの外枠を退けることは
人間の力ではまず不可能である。
・・・あとは外に潜んでいるミキティたちを呼び出すだけだ。
露伴の心が折れるまで、何時間でも電話ボックスの中に閉じ込めていればいい!!


「あなたのスタンドではその電話ボックスから脱出することは出来ないッ!!」


・・・・それなのに。

あぁッ!!それなのに!!!!


「くだらん・・・・くだらないぞ!!久住小春ッ!!!!」


露伴は困る様子もなく、小春を睨みつけたのだ!!
そして叫んだその瞬間ッ!!!


バシュンッ!!!

露伴を閉じ込めていた電話ボックスは、ビスケットにヒビが入ったかのように
砕け散り消えてしまった!!!


20 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:23:53.23 0


「えッ!!?」

突然の出来事に小春は驚きを隠せない。
いったい何をしたのだ!?

「そんなバカな!!スタンド能力は一人一つのハズじゃあッ!!!」

そうだ、小春の見る限り岸辺露伴のスタンド能力は記憶を読んだり
意思を書き加える能力ッ!!!
電話ボックスを消し去るような芸当が出来るとは決して思えない!!
しかも、まるで『ミラクル・ビスケッツ』が分解を行うときのような
砕け散るビジョンで・・・・・


『No.2!?オマエ、ナニヲヤッテイルッ!!!』
『ワ、ワタシ知ラナイワッ!!』
『オマエが電話ボックスをマタ"分解"シタッ!!何ノツモリダNo.2ッ!!』
『マ、マテ・・・・No.2の背中ニなんかヘンナ文字ガ・・・・コ、コレハッ!?』


ビビッ・・・・・


「うッ!!」

ビスケッツ達が騒ぐ中、小春は自分の頬に異変を感じた。
頬の皮が捲れている・・・・?
いや違うッ!!これは・・・・・・・!!!!



21 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:26:26.65 0

ド ド ド ド ド ド…


「こ、小春まで本になり始めているぅ〜ッ!?そんなバカな!!!
まだヤツに触れられてもいないのにィーッ!!!!」


「確かに、ぼくのスタンドでは今の電話ボックスから外へ抜け出すことは
できなかった。しかし!!それを"どかす"ことの出来る者はいたな・・・・・
それも3体いたんだ・・・・・電話ボックスを"分解"できる者がーッ!!!!」


『アァッ!!No.2ノ背中に書カレテいるコノ小さな文字ハァ〜ッ!!!』



                 また分解する



「い、いつの間にそんなマネをッ!?岸辺露伴ンンンンンッ!!!!!!」


「おまえの負けだッ!!ヘブンズ・ドアアァァァーッ!!!!」



バシュッ…ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!

ズギュン!!



22 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:28:38.69 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


一方、岸辺露伴の家の庭にある大きな木によじ登り身を潜めていた
ミキティたちであったが…

『ア・・・・アァ・・・・・・ッ!!!』

突如、ミラクル・ビスケッツNo.5が何かに怯えるように震え始めた。


「ど、どうしたんだNo.5…?」

『逃ゲロ・・・・小春はミキティ達ニ逃げろト言ッテイル・・・・・・ッ!!!』

「なに・・・・・・?」

「さ、さゆ達に何かあったんだッ!!いったい何が起きてるのさNo.5!!
ねぇ答えてよ!!!」



23 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/09/29(金) 04:31:30.42 0


『オレタチニ・・・・・コイツハ・・・・・岸辺露伴ハ倒セナイ・・・・・早ク、ミキティ・・・・』


「ビ、ビスケッツどうした!?しっかりしろよッ!!美貴たちは・・・・」


『コノ敷地カラ・・・・脱出スルンダ・・・・デキルダケ遠クへ・・・・・コイツハヤバイ・・・・・

  ヤ・バ・ス・ギ・ルウゥゥゥゥウゥゥゥウウウゥウヒャヒャヒャヒャヒャア!!!』


バリバリバリ・・・・・・ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!



「う、うわああああッ!!ビスケッツがああああああッ!!!!!!!!!」


最後の雄叫びとでもいうのであろうか。
ミラクル・ビスケッツNo.5は、物凄い形相で壊れたように狂い始めたのだ!!!
いったい何が起きたというのかッ!!!


『ウヒャヒャヒャヒャッ!!パミーッ!!!!!!!!』


グッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


4 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:19:56.68 0


ガッシャアァンッ!!!!


耳を劈くような冷たい音が、階下の玄関にいる露伴達の耳に響き渡る。
誰かが2階から侵入したのだろうか?
侵入したとするなら…

「藤本美貴、それに亀井絵里のどちらか・・・・もしくは両方か・・・・」

「う、う・・・・」

露伴は巻物のようになって床に崩れた小春の記憶を読みながら呟く。
4対1・・・・・だが、もはや露伴の敵ではなかった。
顔だけを本にしてそこに転がっている道重さゆみも、全身巻物のようにされた上に
スタンドをボロボロにされてしまった久住小春も、もう岸辺露伴に攻撃することは
できないのである。


「シャボン玉ァアァアアアッ!!!!!」

「ム?」


ドゴォン!!バゴォン!!!ズドォン!!!


上を向いた顔が正面を向くよう、廊下を這いつくばった姿勢でさゆみは
スタンド攻撃を試みたようだが、やはり無駄な抵抗だったようだ。
シャボン玉は小春の記憶を読んでいる露伴の身体をそれて、壁やドアに当たり
割れて、爆裂してしまった。


5 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:22:36.36 0

「おまえ、ふざけるなよ。ススで壁が汚れちまったじゃあないか・・・ドアも・・・
おまえが修理費を出してくれるのか?それならいくらやってくれても構わないけどね」

「ぬぐぐ・・・・っ!!」

「もうしばらくの間そうして待っていろよ。コイツの記憶を全部読んでから
おまえのスタンドもちゃんと使い物にならなくしてやるからさ。後始末は疎かには
出来ないからな…!!」


そう言って巻物になった小春の記憶に目を落したその時、彼の耳に
ドタドタと忙しく靴の踵が床を叩く音が聞こえてきた。
足音は一人のものではない・・・・恐らく二人以上だ。


「あぁッ!!さゆ!!?小春ちゃん!!!」

「亀井、オメーに水切りを教えた兄ちゃんってのはよぉ〜…
こいつで間違いネェーよなァ?」


そう・・・・それは言うまでもなく、ミキティと絵里であったッ!!!


「役者は揃ったようだな・・・そして・・・そう、藤本美貴。ぼくが一番
奇妙で理解できないと考えているのはおまえだ・・・・・!!!!」

「岸辺・・・・露伴ッ!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


6 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:25:51.13 0


『チュミミ〜ン!!!』
『メッシャアーッ!!!』
『ロードォ〜…ロードォ〜…』
『ウゥバアアアアアアァ!!ッ』


「ビスケッツのみんな・・・・・うぅ・・・・っ」

ボロボロにされて狂ってしまったビスケッツの大合唱の中、
ミキティと露伴は数ヶ月ぶりに対峙した。


「…なぜだ?ぼくと出会った事はミキティ、おまえは覚えているハズがないんだ。
あのバスの中でちゃんと書いてやったんだからな…しかし、コイツを読んだ限りでは
ここにいるヤツらは皆おまえの話を頼りにここまでやってきた・・・・と、書いてある」


露伴は巻物になった小春の腕の部分を読み上げる。
もちろん、小春はそれに抗うことはできない。


「他に書いてあることと言えば・・・久住小春、13歳。7月15日生まれの蟹座、
好物はお菓子の梅干し、愛読している雑誌はCanCam・・・・フーン!中学生のわりに
背伸びした雑誌を読んでるんだな。将来ミラクルな大スターになるため、演劇部の
ミラクル・エースを目指している…」


「なッ!!!!」




7 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:28:39.00 0

「なになに?スリーサイズは怖くてまだちゃんと測ったことがない。最近は
ハイビスカスの柄の下着がお気に入り。好きな男のタイプはほどよくムキムキな
タイプだが、実際に好きになったのは部長の…」

「い、言わないで…!!!!」

「…吉澤さんであり、中性的で並の女の子より遥かに美人だ・・・・か。他にも何やら
ゴチャゴチャと書いてあるようだが、どれも今必要な情報ではない・・・・コイツは使えんな」

「ぅ…ぅぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


ひ、ひどい!!
なんと容赦のない男なのだ!岸辺露伴という男はッ!!!
彼は目的のために小春のプライバシーを侵害したのだ。
小さな乙女心を踏みにじったのだッ!!!


「こ、この男はァ〜ッ!!小春ちゃんを傷つけやがったの!!」

「…相変わらず趣味のわりースタンドだぜ。人のプライバシーもお構いなしってか?」

「藤本さん・・・・僕には・・・・何だかこの人が許せなくなってきたよ・・・・・
自分より何歳も年下の女の子を傷つけるなんてドス黒いヤツだッ!!!」


「大人気ないって言いたいの?いいや、最高の気分だね・・・・ガキを負かすのはね!!」


露伴はそう言うと、その場にいる全員をバカにしたように『カッハッハ』と
渇いた笑い声をわざとらしくあげてみせた。


8 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:32:50.08 0


「漫画家なら他人のプライバシーに土足で入ることが許されてるとでも思ってんのか?」

「フン、おまえ達のプライバシーなんて別に興味ないさ。ただぼくは脅威となりうる
"悪意の種"を根絶やしにしたいだけだ・・・・別に正義感ぶるわけじゃあないが、
『スタンド使いだけを集めた部活』だなんて、その存在そのものが怪しいだろう?
何を企んでるのかは知らないが、そんなものはもはや『部活』じゃあない。『組織』だ」

「悪意・・・・・?悪意の種だって??美貴達の事を大して知らねーくせによぉ〜…
よくそんなことを言いきれるな、アンタ」

「よく知っているさ。おまえは『時を戻すスタンド』の能力者だったな」

「スタンドのことじゃあねぇよッ!!美貴は…それに亀井やさゆ、小春だって
スタンド使いの前に一人の人間なんだ…アンタは美貴達の人間性を無視してる。
何も知らないくせに、悪人だと決め付けてやがんだッ!!!」

「じゃあ聞くが、おまえの言う『人間性』というのは何のことだ?思想??性格??
体裁??そんなもの、並の女子高生らと何も変わらないのはわかっているがね」

「それならどうしてこんなことをすんだよ!?美貴には見境のないテメーの方が
よっぽど悪人に見えるけどなァッ!!」

「だからこそ、さ。『神無き力は知恵ある悪魔を造る』という言葉があるが…
おまえ達のような集団はその予備軍と言えるんだぜ」


熱の上がるミキティとは対照的に、露伴は冷めた口調で語る。
その態度が、ミキティや他の者の感情をさらに逆撫でしていた。


9 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:35:29.69 0


「スタンド使いではあるが、普段は普通の女の子…それが最も危険なんだ。
おまえたちは、いわばまだ無色透明…これから先、どれだけドドめいた色に変わって
いくのかわかったもんじゃあない。これから先、永遠に『無色透明のままで』いる
ことなど出来はしないんだからな」

「ちィ・・・・ッ!!!」

ダメだこりゃ・・・・・ミキティは、ただそれだけを思った。
わかってはいたことだったが、話し合いで納得させられるような人間ではなかったのだ。
それじゃあどうする?
・・・・・・・答えは一つしかない。

ドギュン!!!

「・・・・・・スタンドを出したか。やはり暴力に訴えるというわけだな・・・・そいつの
名前は確か『ブギートレイン03』…ボロボロにしてやったハズのスタンドが
何故そんなにまで美しい銀色の光をはなっているのか・・・・・それはおまえを読んで
調べるとしよう。ついでに、そのスタンドも今一度使い物にならなくしてやる」


「暴力に訴える・・・・・・それは違うぜ岸辺露伴!!わからず屋のオメーの身体に
直接"思い"を叩き込んでやるだけだッ!!!」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


10 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:40:03.01 0

とは言ってみせたものの、ミキティが岸辺露伴に攻撃できないということは
彼女自身が一番よくわかっている。
問題はそれをどう克服するか・・・・だ。
すぐそこに這いつくばっているさゆみはすでに『岸辺露伴に攻撃できない』ようだし、
小春にいたってはスタンドがボロボロ。
残る頼みの綱は絵里の『サイレント・エリーゼ』であるが、露伴のことだ。
彼女を本にした時、安全装置として既に書いておいた疑いがある。


「行くよエリーゼACT2ッ!!」
『ビィーッ!!』

ドッギューン!!!

怒りに先走った絵里が、攻撃力抜群のACT2『サイレント・エリドリアン』を
露伴に向けて飛ばしたッ!!!
その巨大なシッポは露伴を叩きのめしたくてウズウズしているようだ。


「おまえの人をバカにして舐めきった態度ッ!!正義という名前を借りた
自己中心的で思いやりのないその考え方!!!僕のシッポですべて叩ッ壊してやる!!
悪人はおまえだぁーッ!!!やれッ!!エリーゼACT2!!!」

『ビッギィィィ〜ッ!!!!!!』


いつもに増して男らしくなった(露伴の攻撃の影響もあるが)絵里に、
ACT2も勇ましく答え、露伴に迫っていった!!!


ゴオォォォォオォォォオォォォォォオォォォオォォォォォオォォォォオォッ!!!!!!l


11 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 05:42:31.74 0

「くらえ!!これがシッポのラッシュだッ!!!デラデラデ・・・・・・」

ガッツ〜ン!!!

『ビッ・・・・・・』


ところがッ!!!
意気の高ぶっていた絵里とエリーゼACT2は、勢いのありあまった
モンスターマシンのように露伴のわきを通りすぎ、壁に激突してしまった!!

「な、なにをやってるんだ〜ACT2ッ!?マジメにやってよーっ!!!」
『ビ・・・ビ・・・・・・』

「無駄だよ。初めて会った時…おまえにもちゃんと書き込んでおいたんだ・・・・
この岸辺露伴を攻撃することは出来ないってね!!」


露伴ヲ攻撃スルコトハデキナイ!


「な・・・・」


デキナイ!!


「なんだってええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


30 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 21:52:11.91 0


絵里の悲しいほど無意味だった行動により、ミキティは完全に理解した。

最悪の状況だ・・・と。
この場に、もう露伴を攻撃できる者はいないのだ・・・と!!

だが愕然とするミキティにはお構いなしに、露伴は指先を光らせ
既に何かを高速で投げ飛ばしてきていた。


シュバッ!!シュバッ!!!


その光は、スタンドとの距離を大幅に離れてしまった絵里に向かって
一直線に飛んでいくッ!!!


「う、うわぁー!!やられるッ!!!!」


絵里はガードできないッ!!
スタンドを戻すのが間に合わない!!!


「ブギートレインッ!!!!」

バシバシバシッ!!!!


しかし何かが絵里に突き刺さる直前、ミキティは彼女を庇い
スタンドの拳でそれを叩き落したッ!!


31 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 21:54:53.18 0


「これは・・・・・ペン先か?小細工に出しやがって・・・・・・」

「フム・・・・・おまえならきっとその彼女…いや、彼と呼んだほうがいいか?
防御してやるんだと思ったよ・・・・・ぼくが今それを投げ飛ばしたのは
攻撃のためではない。ミキティ、きみのスタンドを観察するためだ」

「観察だって?」

「そうだ。どうやらそのスタンド、本当に何事もなくピンピンしているようだな…
なぜ、ボロボロにしてやったハズのスタンドがそんなに眩く輝いているのか。
ぼくを一撃で倒しでもしない限り、能力の解除はあり得ない・・・・・だがバスの中で
出会ったのは事実だ・・・・・そうなると、おまえはあの日以来どこかでぼくと再び出会い、
何らかの方法でヘブンズ・ドアーを解除させ、さらに時を戻した・・・・・という
可能性が考えられるな。他には…」

「もういいよ。美貴は『バスの中』でのことなんか詳しく知らねーしさ。
勝手に妄想してれば?」

「職業柄いろんな可能性を考えるタチでね…この場合『ヘブンズ・ドアーの
術中から逃れた方法』ということになるんだが…実に興味深いんだ。
なぜならぼくが関与しない限り絶対に"あり得ない"ことなのだからな…」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


32 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:02:53.31 0

強い口調で答えていたミキティだったが、内心ゾッとしていた。
実際、彼の推理はほとんど当たっている。

バスの中で出会って攻撃を受けた事は記憶にはないが、去年の冬に幼稚園で
彼と出会っているのだ。(※ブギートレインは白銀に輝いて〜参照〜)

時を戻したのでミキティしか知らないことだが、露伴の言う"バスの中"以来、
確かに露伴はミキティと出会っているッ!!!


「や、やばいよ藤本さんッ!!攻撃できないんじゃあ・・・・僕らにはもう
どうすることもできないじゃないか!!!」

「騒ぐなッ!!美貴だっていま考えてんだよ!!!」

「逃げた方がいい・・・・藤本さんだけでも逃げてよ!!そしてみんなに知らせるんだ…
愛ちゃんやガキさん達に…じゃなきゃあ僕らの行為は無駄になってしまうッ!!!」

「亀・・・・なんのつもりだ?オメーはどうする気だよ」

「僕は逃げないよ。元はといえば僕がいけなかったんだ…あの時、この漫画家と
出会っていなければ・・・・男の子になりたいなんて思っていなければ!!!
こんなことにはならなかったッ!!それに、さゆをおいてなんていけないよ…!!!」


絵里は沈んだ声で言った。


自分だけでも逃げてみんなに知らせる・・・・

それが今、最善の選択なのかもしれない。


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:05:52.25 0


しかし・・・・ミキティは思いとどまっていた。
絵里やさゆみ、小春をこの場に置いて自分だけ逃げるということに
後ろめたいという気持ちもあるにはあるが、それ以上に思うことがあったのだ。

「モタモタしないで!!!僕が足止めをするから早くッ!!
戻れっ!サイレント・エリーゼACT2ッ!!!」

『ビーッ』


「おっと!!そうはさせるものかッ!!!」


エリーゼACT2に露伴の手が迫る。
捕まってしまうッ!?
いや、違う・・・・露伴の手の先にいるのは・・・・・

道重さゆみだったッ!!!


ガシィッ!!!

「のッ!?」


倒れている彼女の腕をグイッと乱暴に引き上げて起こす!!
いったい何をする気なのだ!?
岸辺露伴はッ!!!


34 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:12:40.17 0

「あぁッ!!さゆを離せ!!!」


「仲間を置いて逃げる…聞こえは悪いが、戦術的には良いアイディアかもな。
後からこいつらを助ける思惑なら、仲間を裏切ることにもならないだろう・・・・・
しかしぼくの立場から言えばいま正体を知られたミキティに逃げられてしまったら
非常に困るね。何人仲間を連れてこようとしているのかは見当もつかないが、
そうなってしまってはさすがに骨が折れるよ・・・・」


「い、いたた・・・腕を離して欲しいの」


怒鳴る絵里と呻くさゆみを無視して、さらに露伴は続けた。


「もしぼくがマンガの主人公ならこの場合どうするか?・・・・・どうやってミキティを
屋敷から逃がさず『ヘブンズ・ドアー』で攻撃するか・・・・さて…どうやって…」

空いた手でアゴに指をあて、露伴は考える。
だが、本当はもういくつか手段を考え付いているんじゃあないかと
ミキティに思わせる何かが露伴の表情から窺えるのだからいけ好かない。


「一気に間合いを詰めて攻撃するか?いや・・・明らかな近距離パワー型のスタンドに
それは賢くないよな。もし、ぼくが書き込んだことがすべて無効になっているものだと
すれば、おまえに接近戦を仕掛けるのは危険すぎる・・・・・・」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:17:23.27 0


ガクンッ!

その時、さゆみは無理やり吊り上げられた腕が伸びたような錯覚を覚えた。
肩が外れたような感じもするが、痛みはない。
痛みはないが・・・・眼前に広い床が迫ってくるッ!?

ゴォォォォォォ…

・・・・・腕は伸びているのではないッ!!
小春の全身と同じように、腕が巻物のようにされているのだ!!


ズルゥ〜・・・・・バラバラバラバラバラッ!!!!!!
ベちッ!!

「ぎゃッ!!」


「だから最も安全な策を取らせてもらうことにしたよ・・・・久住小春、
この道重さゆみの腕に書き込んだところを読んで説明することを許可しよう。
おまえにはその資格がある」

ペラペラの巻物と化したさゆみの腕を、転がすように小春の元へ放り投げる。
そのページは、小春のちょうど顔の前で開かれていた。

その資格がある・・・・?
いったいどういうことだろうか??


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


36 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:21:12.21 0


「あ・・・・・・・あああああああッ!!!そ、そんな・・・・」

「小春ちゃん・・・・?さゆみは何を・・・何を書き込まれたの?」

「こんな・・・・なんてことを〜ッ!!」

「だから何を書き込まれたの!?小春ちゃ・・・・・・」


そう言いかけて、さゆみは気付いた。
どうしてさゆみは上を向いたまま立ち上がっているのだろう?
ゆっくりと天井が動き始めた・・・
天井が動く?そんなバカな。


「ど、どうしたんださゆ・・・・小春ッ!!さゆの腕にはなんて書かれてやがんだ!!」



「ふ・・・・"藤本美貴が"・・・・・"岸辺露伴を困らせた時"・・・"わたしは"・・・・」



さゆみの耳に入ってくる小春の震えた声がだんだん大きくなっていく。
気付けば、自分のすぐ真下から聞こえてくるような響き方をしていた。



37 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:22:41.33 0


・・・いや違う!!
声が大きくなったのではないッ!!!

足元に小春がいるのだ!!!

しかも、さゆみから近寄っていったのである!!!!
天井は動いていたのではなく、自分が歩み寄っていただけなのだ!!!
上を向いてしまっているため姿は確認できないが、間違いなくさゆみの
足元に小春がいるのだ!!


さゆみはその時初めて気がついた。

巻物になっていない自分の右腕で構えているものは・・・・



「小春を・・・・・"久住小春を爆殺します"・・・・・!!」



さゆみの爆弾スタンド『シャボン・イール』だった!!!!!



38 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:23:47.99 0







                  藤本美貴が
               岸辺露伴を困らせた時
             わたしは久住小春を爆殺します









39 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/02(月) 22:28:19.65 0


「う、うわぁあああああッ!!道重さん!!!」


「「「な・・・・なんだってえええええええええええええええええええぇぇぇッ!!!」」」







絶対絶命…

岸辺露伴の能力『ヘブンズ・ドアー』とその戦い方は…


ミキティ達の想像をはるかに邪悪に超えていたのであった。



希望は…ないのか・・・・・



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!



61 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:05:01.26 0

それは実に奇怪な光景であった。
さゆみは巻物にされた左腕を床に垂らしながら、上を向いたままの姿勢で、
同じように全身を巻物にされて散らばり動けない無抵抗の小春に右腕の
スタンドを構えて制止している・・・・


 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


「で、でもそんなバカなことがあるわけ・・・・・さゆが小春ちゃんを
爆殺するわけが・・・・・」


「わあああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!」


苦笑いの篭った絵里の言葉を遮ったのは、小春の悲鳴であった。


「道重さンッ!?く、口からシャボン玉がハミ出てきてます!!!うわぁあ〜ッ!!」
「さ、さゆみは何もしてないのッ!!うっ、う・・・・・うぅぅぅぅぅぅッ!!!!!」

さゆみは思い出していた…
後藤真希との戦いのときを・・・・誤って小春を爆撃してしまった時のことを
思い出し、全身から嫌な汗を吹き出していた!!!


「う・・・・ぐあぁ〜っ!!!!!」


あんな絶望感はもうゴメンだというのに・・・・・それをまたここで・・・・・ッ!!?


62 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:08:09.85 0


「ほら、黙って見ているヒマはないんじゃあないのか?ミキティ」

「これがアンタの正義かよ・・・・それしか方法はないのかよーッ!!
本当にこれが善い人間のやることなのか!?」

「うるせぇーなぁ・・・・善い人間の在り方について云々するのもいいけど、
おまえこそそろそろ善い人間になったらどうだ?手伝ってやるよ・・・・
なぁに簡単さ。いま一度スタンドをボロボロにされるだけでいいんだ」

「・・・・・・それで気が済むのか?本当にそれだけなのか?」

「それだけだよ、ぼくがイジるのはね…それ以外を書き込む事はきみのリアルな
人生をニセモノにすることだからな。いい加減普通の女子高生になれよ」


スッ・・・・

何かを決意したのか、ミキティは足を一歩踏み出す・・・・
背後に立っていた『ブギートレイン03』は、静かに空間にとけて消えた。


「藤本さん・・・・・・何、やってんですか・・・・・?」


絵里の問いに答えず、さらに一歩、露伴との距離を縮める・・・・・

まさか・・・・まさかミキティは・・・・!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


63 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:14:08.84 0


「い、行っちゃダメだ藤本さんッ!!藤本さんまでやられてしまったら・・・・
誰がこの漫画家を止めるんですかッ!!!」

「もういいんだよ亀井・・・・・美貴が行かなきゃ小春が助からないし、
さゆもまた傷ついちまう」

「で、でも・・・・・」

「大丈夫だって。たぶん殺しはしねーだろう・・・・・なぁ?露伴先生よぉ…」

ミキティは一歩ずつ近寄りながら、露伴に訊いた。

「さぁね。わかっていることは、おまえがぼくを困らせれば間違いなく
久住小春は攻撃を受ける・・・ということだけだな」

「なら簡単な話じゃんか。美貴がアンタを困らせなければいいんだ・・・」

さらに近付いていく・・・
今度こそ本当に『時を戻す』という危険なスタンド能力をこの世から
封印することができる。
そう思った露伴だったが、ミキティの表情を見て、彼は『奇妙だな』と思った。

「おまえ、これからぼくの攻撃を受けるっていうのに…スタンドをボロボロに
されるっていうのに随分と余裕ぶっこいた表情をしているな・・・・・」


その時、露伴は思い出した。
ボロボロにしたハズのスタンドが無事だということは・・・・

『時を戻す能力』も健在ということになるのではないか?


64 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:18:39.25 0


「まさかおまえ・・・・・すでに時を戻したりしたんじゃあないのか?
打開策を見つけて戻ってきたのか??見当もつかないが・・・・・・」

「いいや、戻してない」

「証拠は?」

「自分の意思じゃあ時を戻せない・・・・それじゃあ証拠にならない?
ま、もし自分の意思で戻せたとしても美貴は戻すつもりなんかねーけどな。
アンタなんかにはわかりゃしねーだろうが、さっき真の友情ってヤツを目の当たりに
してきたんでね。アレをなかったことにはしたくないんだよ・・・・・・なッ!亀井!!」

「ふ、藤本さん・・・・ッ」


真の友情・・・・・それは先ほどの更衣室での出来事を言っているのだろう。


「それに、だ。美貴はハナッから演劇部のみんなに助けを求める気もないのさ・・・
そんなことしたら、こいつの言う通り・・・・・あそこは『部活』とは言えなくなっちまう。
やられたからやり返す・・・・それじゃ栄校のやつらと一緒だろ?なぁ、さゆに小春よぉ」



ザッ!!

…ついに、ミキティは露伴の射程距離に入った!!

あぁ・・・・ミキティはこのままやられてしまうのか!?
もう二度と彼女の勇姿を見る事はできないのかッ!!!


65 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:20:49.44 0



「そう、やられたらやり返すじゃダメなんだ・・・・特にこの場合は・・・・・

















           やられる前にやんねぇーとなアァッ!!!!!!!     」




ドッギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!!!




66 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:25:14.32 0


「なにィッ!!!!?」


突然のミキティのスタンド攻撃にその場の誰もが驚愕する!!!
一瞬のうちに飛び出してきた『ブギートレイン03』は左のストレートを
岸辺露伴の顔面に繰り出したッ!!


ヒュン!!


だが・・・・・ミキティは露伴に攻撃できないのだ。
拳のコントロールはおもいっきりおかしくそれてしまった!!


「なんだ・・・?今のは・・・・・正直あせったが・・・・今の動きを見る限り、どうやら
この岸辺露伴に攻撃できないようだな…しかし正気か?今の行動は明らかに
このぼくを困らせ・・・・」


「まだだッ!!ブギートレインンンンッ!!!!」

シュバッ!!!


今度は右のストレート!!
もちろん、岸辺露伴に当てる事はおろかカスらせる事も出来ない。


67 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:33:30.01 0

「ミキティおまえ・・・・仲間を見捨てる気か?」

露伴の問い掛けにミキティは答えない。
答えないかわりに、両の拳を握り締め往生際が悪く、大きく振りかぶっていた。

「おぉぉぉぉぉッ!!ゴールデンッゴォォォォォォル決めてェッ・・・・・」

「もういい、幕を下ろせよ・・・・ヘブンズ・ドアーッ!!!!!!!」

ドシュッ!!!!
バラバラバラバラバラバラッ!!!!!!

「・・・・つゥッ!!!」

カウンターを受けて顔を本にされてしまったミキティは、そのまま露伴の
すぐわきを前のめりに倒れてしまう。

あぁ・・・・・ミキティがやられる!!
スタンドをボロボロにされてしまうッ!!!
そして小春の運命は・・・・

「終わったな・・・・おまえはこの岸辺露伴を困らせたんだ。ぼくとしては
ちょいと残酷趣味だが・・・・ミキティ、おまえが引き金を引いた・・・・
道重さゆみという引き金をな・・・・」

「・・・・・・・・・・それはどうかな?」

「え、なn」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シーン


68 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:44:29.20 0

突如、聴覚に起きた異変に露伴は思わず絵里を見た。
この能力は・・・・・絵里の『サイレント・エリーゼACT1』の音を消す能力だッ!!!
一度読んだから知っている…現に絵里の肩の上でエリーゼACT1は能力を発動させていた。

(なるほど・・・確かあの能力は限定された空間全域に影響を及ぼすタイプ。
だからぼくの存在に関係なく能力を使えたわけか・・・・・しかし)

いったいなぜ、絵里はこの状況でそんな能力を使ったのだろう?
使う理由もなければ、メリットもない。
友人の悲鳴を聞きたくなかっただけであろうか・・・・?


シュウゥゥ・・・・・ン

彼の耳に音が戻ってくる。
絵里が能力を解除したようが・・・その理由は依然つかめなかった。

「いったい何のマネだ?いきなり音なんか消して何をしようと・・・・」


『待ッテタゼ』
『えりりんガ能力ヲ解除シタゾ』

!!!!!?
耳元で囁かれた奇妙な会話に露伴は思わず振り返る。
そこにいたのは、顔が本になっているミキティと、上を向いたままであるさゆみと…

しっかりと自分の足で床を踏みしめた久住小春だった!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


69 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:51:39.89 0


「な、なんだッ!?なぜコイツが『ヘブンズ・ドアー』の術中から逃れているんだ!!?
ということは・・・・まさか今の声はッ!!!!」


「小春の『ミラクル・ビスケッツ』だぜ。"満月の流法"で小春を五分前の
状態に戻した・・・・・危なかったよ、ビスケッツがおかしくなってからギリギリ
五分経過しちまうとこだったからな・・・・・!!!」


「お、おまえ・・・・・・まさか初めッからそれを狙って・・・・・・?倒れた拍子に
そいつに触れたということか…!?アイツが音を消したのも、注意を逸らすための
フェイクだったというのか!!?」


「アンタにとっちゃあ亀井の能力を“読んで知っていた”ことがアダになったな。
知る事は難しいことじゃあねーんだよ・・・・本当に難しいことはッ!!その知っている事に
いかに身を処するかってことの方なんだ!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


70 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/03(火) 08:59:55.44 0

そういえば、道重さゆみはどうしたのだろうか?
ミキティが露伴を"困らせた"のだから、書き込んだ爆殺の命令は
発動しなかったワケがないのだが…


「苦労したぜ・・・・・学期末のテスト並みにフルに頭を使ったよ。アンタが何と
言おうとこのままぶっ飛ばさせてもらうかんな・・・・やれッ!!小春!!!!」


「ハイッ!!!!ミラクル・ビスケッツNo.4!!お願いッ!!!!!」

『シャボン玉☆カナァァァァァァァッ!!!!!!!?』


「こ、このシャボン玉は!!?うわあああああああああッ!!!!」



ボッグオォォォォォォォオォォオォォォォォオォォォォォオォォォォォォン!!!!!



「今のは美貴がアンタを困らせた時、小春に放たれ分解された"さゆのシャボン玉"・・・
それを再形成してアンタを困らせたのは小春だから、今の攻撃でさゆに書かれた
命令が発動することはない・・・やれやれ、美貴が困らせなけりゃいいってのは
確かに本当だったみてーだな・・・・」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!!




208 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:04:59.75 0


「こ、こいつ・・・・ッ」

爆煙の中で動く影に、ミキティは驚きを隠せなかった。
やや威力の高いシャボン玉の直撃を受けてしまった露伴だったが・・・・
なんと彼はヒザを折ることなく、地を踏みしめていたのだ!!!

「うぐぐ・・・・・・・さっきまでは大して威力のないシャボン玉だったのに・・・・・
よりによってこんな威力のシャボン玉を食らってしまうとは・・・・な」

煙に紛れてうっすらと見えるその姿は凄惨なもので、爆発の衝撃により
イヤリングの片方をどこかへなくしたらしく、頭からは血を流している。
そんな露伴の哀れな有様を見て、あれが本来なら我が身に起こるものだったと
思うと、小春は鳥肌がたってきたのだった。


「そういえば書いてあったな・・・『声の音程をとるのが苦手』だと・・・
スタンドとはその人間の精神を象徴している・・・・・だからシャボン玉の威力も
強かったり弱かったり、安定がとれていないのか・・・・・それにしても」

露伴は力なく右腕をあげる。
その指先は、しっかりミキティを指差していた。

「藤本美貴・・・・おまえの能力、そうとう侮ってはいけない能力らしいな。
特にその"触れたものの時間を戻す"能力は・・・・・」

「た、立ち・・・・あがるのかよ・・・・・その傷で・・・・ッ」

彼の執念に、ミキティは思わず一歩引いてしった。
これぞまさに『THE マン パワー』というヤツであろうか…冷や汗が頬を伝う。


209 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:06:20.41 0


「だが、おまえがこの岸辺露伴を攻撃できないとわかった以上、おまえに
近付くという"恐怖"はもうなくなったな。ぼくのヘブンズ・ドアーに大人しく
本にされてもらおう・・・・!!!」


「アンタを攻撃できない・・・・・その点に関して美貴は必死だ。ゴホッ!ひでー煙だな。
けどよぉ…こっちには元気満々の小春がいるんだぜ?…無理しないほうがいい」


「ミラクル・ビスケッツか・・・・さっきは不覚をとったが、そいつだけで
いったい何が出来る?攻撃に特化しているワケでもないそのスタンドに
このぼくを超えることはできないな・・・・・」


       ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


露伴の背後にハットを被った少年のビジョンが浮かび上がった。

次の攻撃で、恐らくこの戦いは終止符をうつであろう。

この場にいる全員を包み込む爆煙が晴れるより早く、決着はつくのであろう…!!!



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


210 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:08:37.49 0


「あんなシャボン玉の一発や二発、受けたところで何も問題はない…
養分を取られた時のほうが遥かに痛かったね!!おまえ達の負けだァーッ!!
ヘブンズ・・・・・・」

露伴が動いた・・・・・その時ッ!!!!


「Thanks・・・・幸せだったのによぉ〜…立ち上がる余力なんてなかった方が…」


「なに・・・・・・・ハッ!!!」
ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!

ミキティを攻撃しようと踏み出した露伴の視界に透明な壁が生まれたッ!!
これは・・・・・この壁はまさかッ!!!

「今日で二度目になりますが・・・・ご存知、電話ボックスの外枠です。
藤本さん、これで良かったんですよね?」

『さっきテメーガNo.2ニ分解サセタ"電話ボックス"ダゼッ!』
『コレヲ狙ッテタンダヨナァ〜!初めッからコレヲヨォーッ!!』

そう!!露伴を再び閉じ込めたのは、彼が一度ミラクル・ビスケッツに
"命令"して分解させた電話ボックスだったのだ!!!

「な、なんだとぉーッ!!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


211 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:10:31.70 0

「こ、このカプセル・・・・いや、電話ボックスは・・・・ゴホッ!!ゲホッ!!!」

露伴は四方を完全に閉鎖された電話ボックスの中で、必死に脱出を試みた。
ドアは開かない・・・・床に埋まるように再形成されているせいだ。
しっかりと床にはまり込んだ電話ボックスは、人の力で動かせるシロモノではなかった。

「ぼくが命令して分解させた電話ボックス・・・・ッ!!こんな、こんなことが・・・!!!」

拳で電話ボックスを叩き割るしかない!!
だが、それは無駄な行為であった…分厚い強化プラスチックをぶち破る力など、
すでに露伴には残されていなかったのだ。
そして何よりも・・・・

「ゴホッ!!ガホッ・・・・!!!すごい煙だ・・・・このボックスの中に
充満しているのか・・・・ッ?ゴフッ!!!!」

「それはこの場に漂っていた『煙』を"分解"して電話ボックスと一緒に
再形成したからです…あなたを参らせるために!!」

「露伴先生よぉ…知ってるか?空気が焼けた時に発生する煙の毒性を・・・・
しかもさゆが壁や天井を爆破した時に焦げて生まれた煙も混ざってるんだ。
アンタ、漫画家だろ?このままでいたらどうなるか…わかってるよな?」

「が、ガホッ!!あ、頭が痛い・・・・吐き気もするぞッ!!ば、バカな・・・・
この岸辺露伴が・・・・・気分が悪いだと!?」

肺に熱を感じて激しく咳き込み始めた露伴は、ついにその電話ボックスの中で
ヒザをついてしまった!!
残された時間はそう長くない…早く脱出しなければ、一酸化炭素中毒に
かかり、無事ではすまないだろう。
現に、もう初期症状が出始めている。

212 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:12:52.12 0


「・・・・亀井を女に戻せ。あと、そこで本になってるさゆもだ。
そうすれば命だけは助けてやるよ」


「な・・・・に?」


「美貴達の目的はそれだけだ。そのためにここまできたんだからな…
ほら、時間はもうほとんど残されていないハズだぜ岸部露伴!!
早くしねぇと命は助かっても中毒による重い後遺症は残っちまうぜーッ!?」


「ハァ…ハァ…そいつを・・・・・・・元に戻せば・・・・・ゴホッ!!」


露伴は煙に焼かれた声で必死に続けた。


「本当に・・・・ここから出してくれる・・・・・のか・・・・?」


「あぁ、約束するよ。交換条件だ」


ミキティが言うと、露伴が軽くニタッと笑ってこちらを見たようだった。

そして彼は表情をガラリと変えてこう言ってみせた。


213 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:13:28.22 0








                  「だが断る」














214 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:15:37.87 0


ことわる・・・・?
断ると言ったのか!?今ッ!!!

誰もが我が耳を疑った瞬間であった。


「この岸辺露伴が最も好きなことのひとつは・・・・・・自分で強いと思ってるヤツに
『NO』と断ってやることだ・・・・・」

「あ、アンタ・・・・・正気か?自分がどうなっちまうかわかってんのか?」

「あぁわかってるとも・・・・きみら"クソガキ"に屈服して生かされるくらいなら・・・
ぼくはぼく自身の選択で物語の最終回を迎える・・・・・ぼくは漫画家だ・・・・・ッ」


そう言い残し、彼は電話ボックスの中で寄りかかるようにして倒れた。


パシシッ!!パシパシパタンッ!!!

ミキティの本にされていた顔が自動的に閉じていく。
さゆみの顔も同じように元に戻っており、巻物にされていた左腕も
元の長さを取り戻していた。
岸辺露伴の術が解けたのだ!!!


「首が動く・・・・・やったの!!!」

露伴が手を下す間でもなく能力が解除された。
それが意味するものは何か・・・

215 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:17:23.82 0


        サアァァァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・



彼はもう、動いてはいなかった。
まだ生きているとは思う・・・だが一酸化炭素犯されている彼は、
中毒症状によって時機に息を引き取るであろう…

そんな露伴の姿を見たミキティは・・・・・



「やれやれ・・・・・やっぱ美貴はアンタみてーなヤツは大ッ嫌いだな。
扱いにくすぎだぜ・・・・ッ」



ドギュン!!

ミキティの背後に立ち上がった銀色のビジョン!!
『ブギートレイン03』である!!


「ゴオォォォォルデンッ!!ゴォォォォォル決めてェッ!!!
V!!!V!!!V!!!V!!!Vッ!!!!」



ドガッシャアアアアアアアアアン!!!!!


216 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:18:39.36 0


ブギートレイン03が殴打した電話ボックスの外枠は、
いとも簡単に破られた。
そして、ブギートレイン03が中から引っぱり出したのは・・・・・

動かなくなった岸辺露伴である!!!


「ちッ・・・すげー煙だな・・・・よく喋ってられたもんだ、関心するぜ・・・・
小春ッ!!煙を全部"分解"してどっかに捨てといてくれ」

「もうやっていますが・・・・藤本さん、その人をどうするんですか?」


「どうするも何もネェだろ・・・・・・ブギートレイン03『満月の流法』ッ!!!」


ズキュン!!!!!!

顔面蒼白の露伴の身体に触れたスタンドの手が一際明るく輝いた。
その輝きには限界などないのではないかと思わせるほどだ。

これが・・・・ブギートレイン03、第二の能力『満月の流法』ッ!!!



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!!


217 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 09:22:46.56 0

「・・・・・・・ム・・・・」

露伴が呻き声を上げた…蒼白であった顔色も、血の通った肌色に戻っている。

「おまえ・・・・ぼくに何をした・・・・・ッ?」

「アンタが侮れないって言ってた"触れたものの時間を戻す"能力を使ったんだ…
アンタを煙の毒にやられて昏睡状態になる三分前に戻した。あんな濃度の煙の中で
よく三分も耐えたもんだと褒めてやんよ」

「お、おまえ・・・・・いったい何を考えているッ!?」

バシィッ!!!…露伴がミキティの手を振り払う。

「美貴達はアンタを殺しにきたわけじゃあない・・・・だからだよ。それより、
今のうちに外へ出て深呼吸しまくった方がいいぜ?そうすれば三分後、時が戻っても
アンタは倒れることはない・・・吸収して体内に沁み込ませた酸素はもうアンタのもんだ…
中毒症状を起こす要素はまったくなくなるってわけだな」

「・・・・・そんなことにこのぼくが従うと思うのか?」

「従いたくなかろうがアンタが外に出るのは決まったことなんだよ。
さて・・・・・・・それじゃあッ!!!」

ミキティは立ち上がると、スタンド『ブギートレイン03』を引っ込めてこう叫んだ!!


「さゆ!!亀ッ!!小春!!!こっからズラかるぜーッ!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


245 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 21:54:23.00 0

「えぇッ!!何を言ってるの!?ず、ズラかる?」
「ちょっとぉ!?僕まだ元に戻ってないんじゃあ…!!」
「小春なんてもうすぐビスケッツが壊れますよッ!!」

ミキティの軽々しい決断に、3人は抗議の声をあげた。
ここまできて帰るなんて、この短い時間だが苦しかった戦いの意味が
まったくなくなるではないかッ!!?
小春に至ってはスタンドをボロボロにされているのだし、
むしろ損しかしていないのでは!?

「こ、小春は絶対認めませんからねッ!!」

当然の意見だった。

「まぁまぁお前ら落ち着けよ。この漫画家を相手にすることがまず間違っていたのさ・・・
こいつはたぶん、どんなに説得したところで絶対あんたたちを元には戻してくれねぇ」

「じゃあどうするんですか…?」

「美貴にまかせろ。治すことに関しちゃ得意分野の知り合いがいるんだ・・・・
なぁ亀井。最も、そいつの能力で亀井や小春が治せるのかどうかはかなり疑問だが」

ミキティは露伴に背を向けると、踵を返して言った。

「じゃーな、漫画家の先生よぉ!もう二度と会わないことを祈るぜ…
ゴルァ!!亀井!さゆ!小春ッ!!ボケーッとしてっと、露伴がまた
元気になっちまうぜー!!!」

「そ、そんな・・・・」
「いったい何しにきたのかわかんないの…」
「しかも律儀に玄関から出て行くんですね・・・・」


246 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 21:55:42.36 0


岸辺露伴は考える。
このまま逃がしていいものなのか・・・・と。

時間を戻すスタンド使いである彼女をこのまま野放しにしてもいいのだろうか?
露伴の頭には『演劇部』というスタンド使いの集まりの存在が引っかかっていた。
スタンド使いの集まり・・・・集まっている理由がないワケがない。
目的があるから集まって・・・いや、きっと集められているのだ。彼女たちは。

幸い、今は何も動き出していない・・・・だが動き出してからでは遅い。
彼女達があの殺人鬼"吉良吉影"と同じくらい、もしくはそれ以上の驚異となる日が
いつか来るかも知れないのだ。
もしそうなったら…『時を戻す』スタンドなど、どうやって相手にすればいいのだ?

彼女達は悪い人間ではないのだろう。
それは読んだからわかる。
しかし・・・・・やはりこのままではいけない気がするッ!!!


バタンッ!!!


玄関の扉が閉まった。
ダメだ、やはり逃がすわけにはいかない!!!

「待てッ!!!」

露伴は立ち上がると、流血した重い頭を抱えて走り出し、勢いよく外に飛び出した!!!


ガチャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!


247 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 21:56:58.62 0


扉を開けたそこには・・・・・


「お、おまえ・・・・」

「言ったろう?あんたが外に出る事は決まったことなんだってよぉ〜」


ミキティたちが、彼が出てくるのを待っていたのだ!!!


バアァァァ〜ンッ!!!


こいつまさか・・・・・
ぼくを外に出すためにわざと外へ出たのか・・・?
ぼくに外で新鮮な空気を吸わせるために、逃げるフリをしたのか・・・ッ!?


「これでアンタの命は助かったな」

信じられないというような表情を浮かべる露伴に、ミキティはさらり言った。


「なんてやつだ・・・・」



ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!



248 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 21:58:40.37 0


ドシュッ…


「あああああああああッ!!!」

「ど、どうしたの小春ちゃんッ!?」

「藤本さんに戻してもらってから五分経ったのに・・・・なのに!!」


『オレ達ガ元気ナンダゼーッ!!』
『ワタシ見タワッ!!ソイツガいま小春ちゃんニなにか書キ込ンダノヨ!!』
『アタシモ見タ!!書キ込ンデタ!!ネーッ!!!』
『書キ込ンダ書キ込ンダ!!!』

ビスケッツ達は騒ぎながら、一斉に露伴を指差した!!!


「書き込んだ・・・・とは人聞きが悪いな。消しただけだよ・・・さっき書き込んだ
命令を全部ね・・・・そして、その娘の命令もな・・・・」

ドシュドシュッ!!ビシィッ!!!!


岸辺露伴のヘブンズ・ドアーが宙に何かを書き込んだ瞬間!!
絵里の右頬がベリッと捲れ上がった!!!


『男の子の気持ちになる』・・・・・その文字が薄くなり、やがて消えていった。


249 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:00:57.62 0

「これで全部だな・・・きみたちに書き込んだ命令は・・・ほら、早く逃げろよ。
またぼくの気が変わってしまうかもしれないぜ?」


「Thanks・・・・とでも言っておくか。どういう風の吹き回しだがわかんねーがよぉ」

「藤本さん・・・・?ぼく、戻ったの?あんま実感ないんだけど・・・」


「…さっさと行けよ。ここでなくても談笑はできるだろう?それからミキティ…
きみとは二度と会いたくないな」

「美貴も同感だね・・・・でも一応礼は言ったからな。さ、みんな行こうぜ…」


ミキティの背中を見て露伴は思う…

今でもおまえに殺されかけたと思っているから、命を助けられたとは思っていない…
だが、しかし・・・・外までぼくをおびき出したおまえの行動には…

『まさか』って感じだが・・・・・グッときたな。

露伴はその時、どうして友人の広瀬康一が彼女らの事を問題視せずに
自分に伝えにこなかったのか…"言葉ではなく心で理解できた"。


「頼むからぼくの前に二度と現れてくれるなよ・・・・・・ぼくの気持ちが変わって
しまわない保証はないのだからな・・・・・藤本美貴!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


250 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:02:55.59 0



その日の夕方・・・
ぶどうヶ丘公園でミキティは考えていた。

先程、公園の女子トイレに自然に入っていった絵里を見て、泣いて喜び抱きついてきた
さゆみに対して以前のように顔を真っ赤にした絵里の事も興味深いと言えば
興味深いのだが、それ以上に思うことがあったのだ。


「小春よぉ・・・・中学生のオメーにこんなこと聞くのもアレなんだけど・・・・」

「はい?・・・あ、コラNo.6ッ!!これは小春のアイスキャンデーなんだから
齧らないでよー!!・・・・はッ、すいません…何ですか?」

「お、おう・・・あたしら『演劇部』ってよ・・・・しらねーヤツから見たら
やっぱり『組織』なのか?」


小春はミキティの質問に表情で疑問符を浮かべた。
小春の注意がそれてしまったアイスキャンデーは、意地の汚いNo.3やNo.6に
ガジッガジッと音をたてて食われ始めているが、もう気にはとめなかった。


「いつだったか・・・・吉澤さんや石川さんが言っていた気がします。
演劇部の事を『組織』だって・・・・・栄高の人達も・・・・きっと演劇部を
そういう目で見ていたハズです」

「・・・・・・だよな・・・・見るよな・・・・・そういう目で・・・・・」



251 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:03:52.33 0


組織・・・・露伴もそう例えていた。

スタンド使いの組織だ。
そうだと考えるなら・・・・いったい何が目的の組織なんだろうか?


「くそッ!寺田のおっさんが考えることはわっかんねーな!!!」

「わかりませんね・・・・でも・・・・なにかとてつもなく恐ろしい何かを・・・・
今は従っていなければならないと思わせるものを持ってるのは確かです」


小春は思い出していた。
去年の冬の夜の出来事を…
寺田の部屋に忍び込み、恐怖の片鱗を味わった時の事をッ!!


「意味深な発言だな。おまえさぁ・・・寺田となんかあったの?」

「・・・・い、いえ、そーいうわけでもありませんけどね・・・・」


なぜか誤魔化してしまう小春であった。
この場にいないのに奇妙な重圧を感じる・・・・
そのために、口に出す気が起きなくなったのだ。

口に出しては、寺田との距離が縮まる気がして嫌だった。
彼とはできるだけ距離をとっておきたい・・・・そう考えていた。


252 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:05:07.55 0


「そーいや話は変わるけどよぉ〜!!やっぱアンタ、よっちゃんさんのこと
"好き"だったんだなぁ〜ッ!!えぇ?おいッ!!」


「な!…なんですかいきなりッ!?」


「いや、わかるよ。その気持ちよくわかるぜ美貴様には。そうだな、
美貴達はいわば姉妹みたいなもんだ」


「あ、あの・・・小春には道重さんだけでじゅうぶんなんですけど…」


「そーいう意味じゃあねーんだなぁ。まぁいいや。どこに惚れた?
美貴はすっかり飽きたけどよぉ・・・キレると容赦なく男女の差別なしに手ェ出すような
よっちゃんさんの、どのへんがいいんだ??」


なんて頭の切り替えが早い人なんだろう・・・と、小春は思った。

自分よりいくつも歳は上のハズなのに、自分と同年代か、それ以下に見えることがある。
もちろん、自分よりも遥かにすごい人間に見えることもあるのだが・・・



253 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:06:58.08 0


「おいおい、どこにグッときたんだよ?教えろよぉ〜w」



「せ・・・背中・・・・・」



「え、なんだって?」




・・・・・・・




「うわーッ!ビスケッツが小春のアイス全部食べちゃってる!!
も、もう一個買ってきまーすッ!!」


「あ、待て小春!!話の途中だぜッ!逃げんなーっ!!!」



今、この時は…

間違いなく年上のお姉さん的な風格は見えなかったのだった。



254 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/10/07(土) 22:08:35.87 0



岸辺露伴  再起可能
スタンド名 ヘブンズ・ドアー




                 ※お知らせ※

        今週号の『ピンク・ダークの少年』は休載です。




TO BE CONTINUED…