216 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 04:56:32.63
0
ジョジョの奇妙な冒険 外伝 真金色の狂風
取材旅行だった。
現在、連載中のマンガの舞台背景に『物足りなさ』を感じたぼくは、
連載を二週間ほど休載して、このイタリアまで足を運んだのだ。
ちなみに休載はこれで二度目だ。
去年、クソッタレ仗助のおかげで一ヶ月も休載させられてしまったからね。
すごく腹立たしい出来事だったな、あれは。
前述した通り、ぼくは取材のためにこの街に来ている。
資料だけではどうしてもつかめない事を感じ取りに来たんだ。
君たち、おもしろいマンガというものはどうすれば描けるか知っているかい?
・・・・・『リアリティ』だよ。
『リアリティ』こそが作品に生命を吹き込むエネルギーであり、
『リアリティ』こそがエンターテイメントなのさ。
資料や本を読んで知識を得ただけでは、ちっとも足りない。
自分の見た事や体験した事、感動した事を描いてこそ、マンガは面白くなるんだ。
しつこいようだがもう一度言おう。
ぼくは取材のためにイタリアに訪れたんだ。
それ以外に理由はない。
断言する。
ぼくは取材のために、この南イタリアに位置するネアポリス空港に足を踏み入れた。
217 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 04:57:44.20
0
ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風
外伝
〜 真金色の狂風
〜
218 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:01:13.97
0
「コ・・・・コイン・・・・・ちぇ、チェンジチェンジ!!チェンジするとこ!!!」
「???」
「Thisはジャパニーズマネー・・・・これを・・・・イタリアマネーにチェンジ」
「ハァ?????」
「つ、通じないぽ・・・・・ごとーの英語が・・・・もっとマジメに英語の授業聞いとくんだった」
派手な服装の日本人の女の子と、緑色のポロシャツをオシャレに着こなしている
この国の男性が非常にたどたどしい会話を展開している。
いわゆる海外旅行をするときってのは、予め下調べを充分に済ませておくものだ。
だからこういう光景に出くわすのは極めて貴重である。
なるほど、きっとあの日本人の少女は『円』を『ユーロ』に換金したいんだな。
でもそれを日本で済ませてこなかった上に、誰かに尋ねたくても英語をろくに
話せないものだから困っているんだ。
その少女は金色に染めた髪をかいて、キョロキョロと挙動不審に辺りを見回している。
・・・・勉強になるなぁ〜。
言葉の通じない国で異国の少女が途方に暮れている姿か。
どれ、面白いから取材も兼ねてもう少し眺めていよう。
219 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:03:41.18
0
そう思った矢先、その少女と目が合ってしまった。
少女は表情をまるでその髪の色と同じくらいにパッと明るくさせると、
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
どうやら彼女自身以外にぼくという日本人がいることに気付いたらしい。
つまらないな・・・・・
年の頃はいくつぐらいだろう?
見る限り、未成年だと思う。
しかし威風堂々としているものだから、どこか大人っぽく感じられるぞ。
そういえば、この子の親や、連れらしき人の姿がどこにも見当たらないが・・・・・・
まさか一人でこの国に来たわけじゃあないだろうな。
「んぁ・・・・・日本人?日本人ッスよね??」
「・・・・・・・」
案の定、そいつは話をかけてきた。
近くで見て思ったが、日本人の女の子にしては随分と整った顔立ちをしている。
それでいて髪の毛の生え際が黒くなり始めているもんだから、おかしい事この上ない。
こいつ、もしかしていわゆる『コギャル』ってやつか?
220 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:08:09.42
0
「いやぁ〜助かったぽ!!何も考えずにイタリアまで来ちゃったもんだからさぁ〜」
彼女は嬉しそうに言った。
・・・・なにが助かったんだか。
「・・・・・ぼくになんか用かい?悪いけどこっちはきみの与太話に付き合ってるほど
暇じゃあないんだ。馴れ馴れしくしないで欲しいな。それに仕事もあるんでね、
失礼させてもらうよ」
「え・・・・?」
呆然とするその少女を置いて、ぼくはベンチから腰を上げ、その場を離れることにした。
さて、これから仕事だ・・・・といっても、今日のところはホテルで一休みってところか。
おっと、そういえば大きなお金しか持っていないんだった。
崩すか・・・・水かパニーニを買って細かいお金を作らなくっちゃならない。
小銭がないとルームメイド代を払うときに困るからね。
221 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:10:30.01
0
「ねぇ、日本人のお兄さん」
誰かが後ろからぼくのカバンを引っぱる。
振り返るまでもなく、そいつが誰か言葉でわかった。
あの金髪の少女だ。
「あのさ、ちょっと尋ねたいことがあるんだぽ」
「尋ねたいことだって?それに答えて、ぼくに何か得でもあるってのかい?」
変なガキだ。
どーせ他に一緒に来てるヤツがいるんだろう?
外国に、こんな高校生ぐらいの女が一人で訪れるわけがないからな。
そいつと相談すればいいじゃないか。
「・・・・・・・・・・・」
そいつは黙ってぼくを見つめた。
なにか言いたげだったが、ぼくには関係ないね。
「もう一度言わせてもらうけどね、ぼくは仕事があるんだ」
「仕事って?」
「そんなの、きみに言う必要ない。邪魔だからあっち行けよ」
222 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:13:33.30
0
ボストンバックの取っ手を握りなおし、ぼくはそいつに背を向けると
タクシー乗り場へと急ぐ。
別に急ぐ理由なんてなかったけど、足が勝手に動いた。
そんなぼくに向かって、その少女はこう言った。
「ごとーを観察していたことが仕事?」
足は止まった。
動き出したときと同じく、自動的に止まった。
少女は続ける。
「お兄さんはこのベンチで・・・・そう、ごとーが緑色のポロを着たおじさんに
換金はどうすればいいか訪ねているぐらいから・・・・見ていたぽ。ごとーのことを
バカにしていたような目でずっと見ていた」
ごとー・・・・?
それが彼女の一人称であり、名前なんだろうか。
「ま、ごとーを観察するのが仕事ってのは冗談としても・・・・・・お兄さんは何かを
観察するためにここに来たぽ。仕事・・・・それは取材?例えばマンガ家とか・・・・・」
223 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:16:05.99
0
!!!?
いま、こいつなんて言った?
マンガ家と・・・・言ったか?
どうして・・・そうだとわかったんだ・・・・・・?
「なんだか空気が変わったぽ。当たっちゃったかな」
「・・・・・・残念だけどNOさ。ぼくはファッションデザイナーに携わる者でね。
イタリア人ってのはセンスがいい・・・・・勉強しに来たってわけさ。それが仕事だよ」
ぼくは嘘をついてやった。
例えば〜・・・・などと言いながら、表情では自信満々に『マンガ家』と言った。
そんなコイツの態度がすごく気に食わなかったからだ。
この岸部露伴が最も好きなことのひとつは、自分で強いと思ってるやつに
『NO』と断ってやることだ・・・・・
ところが、そいつは無表情でこう言ってきた。
224 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:17:42.36
0
「 嘘 つ い て る 」
225 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:20:43.40
0
「・・・・・・・・・なんだって?」
こいつ、何が根拠でこんなこと言ってるんだ?
ピキッと頭にくる反面、段々とこいつに興味が湧いてくる自分が
なんだかすごく悔しい。
「どうして『嘘』だと思うんだ?」
「んぁ・・・・右手中指の第一関節でわかるって言ったらどうする?
よーく観察するとさぁ・・・・印は肉体に現れてるんだぽ」
思わず、自分の右手の中指に目をやってしまう。
そこにあるのは・・・・・・タコだ。
俗に言う、ペンダコってやつなんだが・・・・・・
「ゲーセンのスティックとか毎日のように握ってると、まれにタコができるんだぽ。
『ゲームダコ』ってごとーは呼んでたけど、お兄さんのタコは右手だぽ。ゲーセンの
スティックは左だったしなァ〜・・・・ペンを毎日のように握ってると見た」
「・・・もしかしたら小説家かも知れないぜ?意味のない検算や書類の清書ばかり
している、しがない公務員の端くれかも知れない」
「小説家は知らないけど、こんな若くてドギツイお洒落した公務員なんていないぽ」
・・・・・・・・面白いやつだな。
めずらしく素直にそう思ってしまった。
226 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/15(木) 05:24:10.65
0
「・・・・・あそこに『CAMBIO CHANGE』って看板あるだろう?
そう、でかでかとしたアレだ。あそこが換金所さ」
「・・・・・・・・・・?」
「ボヘーッとしてないで早く換金してくれば?なかなか楽しかったよ。
きみの言う通りぼくはマンガ家だ。これはきみに対する『敬意』だよ」
そう言って、彼女に背を向けるとぼくは今度こそタクシー乗り場へと向かった。
旅先での小さな出会いってヤツか・・・・・よくある話だ。
ん、これもマンガのネタに使えそうだぞ。
「ねぇねぇ」
彼女は尚もぼくを引きとめようとする。
まだなんかあるのか?
あまりしつこいと、せっかくの気分も興ざめするんだけどな。
「なんだよ」
「んぁ、あのさ・・・・・ごとー、英語サッパリだから一緒に換金所来てよ。
マジ、ちんぷんかんぷんなんだ・・・・・・orz」
これが、光り輝く金色の髪をした少女との奇妙な出会いだった。
48 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:08:32.90
0
金髪の少女は言った。
一人でこの『イタリア』まで来た、と。
正直、こいつバカなんじゃあないのか?・・・・・最初はそう思った。
49 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:11:11.75
0
「んぁ・・・・・あの人たち、無用心だぽ。カバン、あんなとこに置きッぱにして
立ち話なんかしちゃってさ」
空港からすぐ近くのカフェにつくと、金髪のそいつは店の外で街灯の柱に
寄りかかり静かに談笑している二人組みのスーツの男を見て言った。
まぁ何も知らないヤツには無用心に見えるんだろうな。
「ねぇねぇ、あのおっさんたち田舎者なのかなー」
「きみの方がここでは立派な田舎者だと思うけどな。あの男達のカバンを
盗ろうなんてマヌケなやつ、この界隈には一人としていないだろうよ」
「へぇ、イタリアって随分と治安いいんだ・・・・・想像してたのと違うぽ」
「きみがどんな想像してたのか知らないし興味もないけど・・・・って、おい。
あんまりジロジロ見てるんじゃあないぜ」
しばらくすると、男たちは壁に寄りかかるのやめた。
向こうから歩いてくる人物を気にしているようだ。
気にしている、というのは違うか・・・・・待っていたのかも知れない。
向こうからやって来た、その『スコップを持った男』に対し、男二人は静かに
頭を下げると、カバンを置いたまま何事もなかったかのようにその場を立ち去ってしまった。
そして男達の置いていったカバンは、スコップを持った男が目頭にハンカチを
当てながら持っていってしまったのだった。
・・・・・今の光景、素晴らしくマンガのネタになるぞ。
50 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:12:22.14
0
「でさ、うぅ〜んと・・・・」
金髪のそいつが何かを言いかけて唸り始める。
言いたいことがあるなら早く言え。
「お兄さん、マンガ家だよね?」
「あぁ」
「じゃあ今から『先生』って呼ばせてもらうぽ」
「先生?・・・・・別にいいけど。名前は聞かないのかい?」
「うん、情がうつると面倒臭いし」
変なところで『わかってる』やつだな、こいつ。
51 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:13:53.95
0
「で、なんの話だよ」
「まず・・・まずだよ。ごとーは何をすればいいかって話でさ。換金も済ませたし、
先生に言われたとおり、水も買ってお金を細かくした・・・・・」
「それで?」
「これから先、ごとーはどうすればいいのかよくわかんないんだぽ。
海外に来るのって初めてでね。外国に来たら、まず何をすればいいもんなの?」
「自分のしたいことをすればいいじゃないか。どうせ一人なんだろう?
きみの行動に一々文句つけるヤツはいないんだからな」
そう言って、自分でもおかしな感覚にとらわれた。
こいつ、一人でこの『イタリア』まで何をしに来たんだ・・・・・?
時期的に言って海外旅行?
たった一人でか?
考えれば考えるほど奇妙だぞ・・・・・こいつ。
後先を考えてない、ただのバカかも知れないが。
52 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:15:36.32
0
「・・・・・・・・・」
そいつは黙ってコーヒーの煎れられたマグカップを見ている。
これから先の計画でも立てているのだろうか。
そして、こんな言葉を口にした。
「英語、わかるようになるかなぁ」
・・・・・・・・英語ねぇ。
そろそろ説明してやってもいいかも知れない。
右も左もわかってないこいつにこんなこと言っても混乱させるだけだとは
思うが、それもまた『マンガのネタ』ぐらいにはなるだろう。
「きみさぁ、さっきから二言目には英語がどうとか言ってるが、英語が
通じるのは空港までと考えた方がいいぜ?英語は世界の共用口語だからな。
最も、きみはその『英語』すらまともに話せないワケだが・・・・」
「・・・・・・・・・?」
説明するぼくの顔を、そいつはポケーッと見ている。
こいつ、きっとぼくの言ってることがわかってないぞ。
こーいうヤツがいるから、海外へ行った時に日本人はなめられてしまうんだ。
53 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:19:02.59
0
「ぼくの言ってる意味がわからないならそう言えよ・・・・例えばこのテーブルの
脇に置いてある砂糖。これ、英語でなんていうかわかる?」
「んぁ、バカにしないでよ。しょっちゅうその手のガム噛んでたんだから。
うん、わかるぽ。え〜っと・・・・そう、シュガーレス」
「それは『砂糖不使用』って意味な。砂糖は英語で『シュガー』だ」
「そう、それ」
「本当にわかってるのか?・・・・まぁいいや。砂糖は英語で『シュガー』、
ここまではいい?」
そいつはコクリと頷いているが、どうもぼくには理解していないように思えてならない。
これだからバカの相手は疲れるぜ。
「英語では『シュガー』・・・しかしこれが一歩街へ出ると『ズッケェロ』に変わる」
「ずっけろ・・・・・・?なにそれ?」
「砂糖のことだよ。砂糖はイタリア語で『ズッケェロ』と言うんだ」
「い、イタリア語・・・・・・だって?」
「塩もそうさ。英語では『ソルト』だが、イタリア語では『サーレー』と呼ばれる。
いいかい?確かに英語でも通じないことはない・・・・・だが、街に出ればそこは
イタリア語の世界なんだ。こっちが日本人だからって向こうは気を使ってご丁寧に
英語なんか話はしないのさ。大阪に住む人間が、相手は外国人だからといって
方言を使うのをやめるか?」
「・・・・・・・・・・」
54 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:22:09.96
0
「もっと煮詰めた話をしようか。物語を作るうえでの構成要素って知ってる?
そう・・・『起承転結』と呼ばれているアレだ。この中でも最も重要な部分は
どこだと思う?」
「んぁ・・・・・そんなこと言われても、ごとーはマンガ家じゃあないからさぁ。
もったいぶらずに教えてよ、いじわる」
「きみに訊いたぼくがバカだったよ・・・・・教えてやろう。起承転結の中で最も
大事な部分・・・・それは『起』だ。物事の始まりにはすべて『きっかけ』が存在する。
推理小説なんかで例えると、事件が『起きる』から主人公である探偵が動く・・・・・
ぼくが何が言いたいかわかるか?きみを物語の主人公とするのなら、まったく
面白くならないんだよ。イタリアにいるのにイタリア語が話せない・・・・・きみは物語の
要となる『起』の部分・・・つまりスタートラインにすら立っていないんだ」
「・・・・・・・・」
「そんなやつに、これから先の未来はないね。だって何も『起きない』んだからな。
『起』があるから『承』があり『転』があり、『結』末するのさ」
「・・・・・・・・・・」
そう言って、ぼくはぬるくなってきたコーヒーを一口すすった。
55 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:23:56.31
0
これで少しは学習しただろう。
無知で他国に訪れることが、どれだけ愚かな行いなのか・・・・・
いったい何日滞在するつもりなのかは知らないけど、おそらくこいつは
この国で『楽しい思い出』を作ることはほぼ不可能だろうね。
「じゃあ、ごとーはどうすればいいのさ」
そいつは口をへの字に曲げてふてくされた。
どうするもこうするもないだろう。
だからぼくは・・・・・
「日本に帰れば?」
と、言ってやった。
別にイヤミとかじゃあない。
こんな状態でイタリアに滞在したってしょうがないだろうと思ったからだ。
言葉の通じない国で、なにか問題を起こしてみろ。
下手をすれば、事件や事故にだって繋がりかねないんだぞ?
・・・・こーいうやつは、気軽に海外旅行なんてするもんじゃあないのさ。
56 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:25:10.51
0
ところが、彼女は言ったんだ。
キッパリと、ハッキリとした口調で言い返してきた。
「それはない」
「・・・・え?」
「この後藤真希には意思がある!!」
そいつはまっすぐとぼくを・・・・いや違う。
きっと、こいつにしか見えない『何か』を見つめて言っていた。
57 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:27:35.93
0
その金髪の少女は、のほほんとした顔つきを急に鋭く変えてぼくに話をし始めた。
「ギャングになる」と。
そのためにイタリアまで来たのだと。
『ギャング』だって!?
こいつ、何を言ってるんだ?
話が馬鹿げている・・・・・・!!
しかし、考えてみればこんな高校生くらいの少女がたった一人で
このイタリアに訪れていることがすでに奇妙なんだ。
ましてや英語もイタリア語も話せないのに・・・・正気の人間ならあり得ない。
無知なフリをしてぼくのことをバカにしているのか?
いや、それはない・・・・・
なぜなら、こいつの話の中には『何か』が感じ取れたからだ!!
先ほどまでの、どこかボケているような表情はもうどこにも見当たらなかった。
こいつ・・・・マジにそんなこと考えているのか?
どうして、そんなものになろうとしているんだ?
・・・・・まぁ、知ったところでぼくには何も得はないし、止める気もない。
いや、得がないってことはないか。マンガのネタにはなるな・・・
それに、止めることなど誰にも出来やしないだろう。
これが自分のエネルギーだと言わんばかりの『何か』を、彼女は持っているのだから。
58 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:31:40.50
0
カフェを出ると、太陽の日差しが眩しかった。
時刻は午後二時半か・・・・日本との時差は八時間だから、康一くんや
プッツン由花子は今ごろ夢の中だろう。
クソッたれ仗助にあほの億泰はまだ起きていそうだ。
バカは次の日のことや後先なんて考えやしないからな。
うん、あいつらはまさにそうだ。
しかし・・・・・
このぼくの目の前にいる、金髪のこいつは・・・・・
本当に、後先を考えていないバカなんだろうか?
確かに無鉄砲なところが見受けられるが・・・・・
さっきも思ったけど、こいつには決して逃げずに突き進もうとする『何か』を感じるぞ。
たった一匹で敵の群れに突っ込んでゆくライオンのような『何か』を感じる!!
それは言葉や見た目の印象じゃない。
心で理解する、つかみどころのない『何か』なんだ。
こいつ・・・・・いったい今までどんな生き方をしてきたんだろう・・・・・・・・
その時、ぼくの中にある好奇心が静かに燻り始めた。
59 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:33:30.44
0
「さて、そろそろお別れだな」
「ねぇ先生。ごとー、この国に慣れるかな?」
「心配か?・・・・心配なんかしてないか。きみのことだ・・・・どーせ心の中では
『どーにかなるさ』とか考えているんだろう?後先も考えずに」
「まぁね」
ふん、魔性の女め。
「・・・・・『刑務所』だよ」
「え?」
「前にこの国に来たとき、小耳に挟んだことがある・・・・・あくまで噂だろうから
鵜呑みにはしない方がいいと思うが・・・・『刑務所』でギャングになるための
試験を行ってるらしい。奇妙な話だが・・・・・」
「ギャングの試験を刑務所で・・・・ギャングになるために刑務所・・・?
確かに奇妙な話だぽ・・・・・」
「ぼくが知ってるのはここまでだ。あとは自分で調べるんだな」
60 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:35:25.86
0
そう言って、ぼくはタクシー乗り場の方へと身体を向ける。
やれやれ、ちょっと長話が過ぎたみたいだ。
「・・・・・ところで」
ぼくは背を向けたままそいつに言った。
危ない危ない・・・・忘れ物をするところだったぜ。
「んぁ?」
「きみ、イタリア語が話せるようになりたいだろう?」
「そりゃあ・・・・・まぁ、じっくり覚えていこうとは思うけど」
「・・・・・・取引きしないか?ぼくはきみをイタリア語が話せるようにしてやる。
その代わり、きみは・・・・・・きみ自身のプライバシーをすべてぼくに提供する」
最も、語学は経験で身につくものだから『書いた』からといって
ペラペラとイタリア語がしゃべれるようになるのか疑問だが・・・・
ここで試してみるのも悪くないぞ。
61 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:40:08.76
0
「話せるようにしてやるって・・・・いきなり何?ってか先生・・・・先生と呼ばせて
もらってはいるけど・・・・・あんたはイタリア語の先生じゃあないぽ。マンガ家の先生じゃん。
それに、いくらごとーでもプライバシーは提供できないぽ」
「話せるようにならないと、どうせきみはやっていけないんだぜ?大丈夫、
『破ったり』はしないから減ることはないさ。すべて詰め込むよ、この中にね」
そう言いながら、ぼくは自分の頭を指差した。
「破る・・・・?ちょっと・・・・さっきから言ってることが理解不能・・・・」
ぼくはゆっくりと振り返り、彼女を見据える。
そこで初めて、こいつは微妙に警戒心を見せた。
「きみに選択の余地はないのさ・・・・恨むかい?こんなぼくを・・・・・
いや、むしろきみはぼくに感謝してもいいくらいだね」
「・・・・・・・・・あんた一体ッ!?」
おっと、もう遅いぜ。
「『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』ッ!!!」
ズキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!・・・・・・バカァッ
62 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:43:13.79
0
「・・・・・・・・・・ハッ!!ごとーはなにを・・・・あ、あれ・・・どうして倒れてるんだろう・・・・
先生・・・・・んぁ?先生?どこに行ったぽ!?」
「あの・・・・・・・・大丈夫ですか?」
「あ、えと・・・・大丈夫です・・・・・あれ?」
「救急車、呼んだほうがいいんじゃあ・・・・?見たところ観光客の方のようですけど・・・・
お連れの方とかいらっしゃいますか?」
「だ、大丈夫だぽ・・・・時差の影響で寝不足なだけ・・・・・ありがとうございます、
おばさん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・なんだ・・・・・・この感じは・・・・・・・・・いったい・・・・・・・・・・・・・・・・・
ごとーは・・・・・・・・・・・なんでイタリア語を理解して・・・しかも話しているんだ・・・・・・・・・・・?」
63 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:45:58.32
0
ぼくは物陰から金髪の少女の様子を窺っていた。
あの小娘・・・・・・・どうやらイタリア語が話せるようになったようだな。
ぼくのスタンド『ヘブンズ・ドアー』・・・・・・・人の体験を絵や文字で読み、
そして逆に記憶を書き込むこともできる能力・・・・・・
どうやら語学までも、たった一言書き込むだけで話せるようになるみたいだ。
あのページ・・・・・第3ページ目の余白にこう書き込ませてもらった。
『イタリア語が話せる』
それだけだよ、ぼくがイジルのはね。
それ以外を書き込むことは、あの少女のリアルな人生を偽者にすることだからな。
64 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:48:07.49
0
しかしあの女・・・・・・驚いたな。
まさか『スタンド使い』だったとは・・・・・
それも、ぼくと同じ『杜王町』の出身だったなんて。
スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う・・・・
久々に思い出させてもらった。
姉を探しにこの国までやって来たその行動力といい、きみは大したヤツだ。
きみから感じられた『何か』の正体が、たった今わかったよ。
無鉄砲で、少しばかり考えの甘いヤツだけど・・・・
一度決めたら何に代えてでも貫き通そうとするその『黄金の意思』だ・・・・
実にいいッ!
実に気にいった!!
きみのその性格・・・・・・読者からもきっと好かれると思うよ。
だけど・・・・・ちょっとばかし『優しすぎる』かもな・・・・
それが、きみをこれからも狂わせるだろうぜ・・・・!!
65 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:52:51.44
0
ぼくはカバンから鉛筆とスケッチブックを取り出すと、その場で簡単に
あいつを描いてみる。
ラフスケッチってやつだ。
ドシュッ!ドシュッ!!
「フーム・・・・・」
・・・・あいつの記憶に書いてあったことだが・・・・・
やはりぶどうヶ丘の演劇部員は『スタンド使い』の集まりと考えていいな。
そしてその主力となる部員をほぼ全員叩き潰したのがあいつ・・・・・か。
人は見かけによらないもんだね。
それにしても、康一くんは何をやっていたんだ?ちゃんと調べてくれてたのか?
そんな連絡は全然なかったけど・・・・・・
ぼくの頼みを『軽視』してたんだろうか・・・・いや、彼はそんな人じゃあない。
しっぽをつかませないってことなのかもな・・・・・だとしたら、とんでもない連中だ。
『演劇部』という存在、あいつの記憶を読む限り危険すぎるぞ。
そういえば、以前バスの中でぼくがボロボロにしてやった『時を戻すスタンド』を
持つ女・・・・・あいつは今、どうしているんだろう。
確かあいつも演劇部員だったと思うが・・・・・
66 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:56:47.86
0
さてと・・・・いい加減、市内に向かうことにするか。
短い時間だったが、なんだか疲れたぜ・・・・・仕事は明日からにしよう。
あんま書き溜めてると安っぽく見られるしな。
「あのう、日本人の方ですか?」
タクシー乗り場に着くと、若い日本人の女性二人に声をかけられた。
「えぇ」
「あの私たち、初めて海外旅行するんですけど、空港の近くにカフェとか
ないかなあって。一緒に探してくれませんか?あ、ここで会えたのも何かの縁だし、
よかったら一緒にお茶でも」
なんだ?このそこら辺に生えてる木よりもバカそうな女達は。
「あそこにここら一帯の地図がある。あの看板の下だよ。あれ見て探したらいい」
「あ、いや、あれ見ても載ってなかったんで・・・・」
「じゃあないんじゃない?カフェなんて。あきらめれば?」
バカそうな女二人は、ブツブツと何かを言って去っていた。
これだから日本人の観光客は外国でなめられてしまうんだ。
ようやく順番のまわってきたタクシーに乗り込むと、ぼくはネアポリス空港を
後にし、市内へと向かったのだった。
67 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/18(日) 04:59:15.92
0
あ、そうそう。
金髪の少女に書いたのは『イタリア語』のことだけと言ったけど、
あれは嘘だった。
確か、こんなことも書いたっけなぁ。
『 きみはギャングになれる 』
こうしてぼくは、願ってもない収穫を手に入れることが出来た。
それもそのはずか。
だってぼくは、あくまで取材をしに来ただけなんだからな。
TO BE CONTINUED…