199 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:15:52.26 0


<恐怖の白昼夢シリーズ>

銀色の永遠  〜 未来行きの切符 〜



探し物はなんですか?


見つけにくいものですか?


カバンの中も机の中も


探したけれど見つからないのに…


まだまだ探す気ですか?


それよりぼくと踊りませんか?


夢の中へ  夢の中へ  



逝ってみたいと思いませんか?



200 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:18:07.91 0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

やられちまった。
コテンパンにやられちまったよ・・・・・しかも女に!!
だから鳥公は大ッ嫌いなんだ。

う・・・うぅ・・・・・俺の・・・・・・前足が・・・・・・・・・・ッ・・・・・・

足が片方なくなっちまうことがこんなに不便だとは思わなかったぜ…
雪のように白くて滑らかな自慢の体毛が、一部真っ赤に染まっている。
悔しい・・・・・痛い・・・・・腹立たしい!!
だから俺もやってやったんだ。
俺の身体に負けず劣らず白くて綺麗なヤツの身体を、そしてその翼を赤く染めてやった。
接近してきたところを『スタンド』で不意打ちさ。動物の世界に正々堂々なんてないんだ。
ワン・ツー・フィニッシュ。とどめの一撃はかわされちまったけど・・・・
まぁ、俺からは逃げおおせたみたいだが、ヤツのあのケガじゃあもう長くはないだろう。
きっと今ごろ力尽きて、腹を空かした天敵どもに骨までしゃぶられているに違いない。

それにしてもマジで強敵だったな。
しかし・・・・・・なんでとどめの一撃がかわされちまったんだろう?
まるで俺の『ブック・サーカス』が見えていたような・・・・・・

「・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・やれやれ、なんだかまた頭上が騒がしくなってきた。
今度はクソったれカラスかよ、血の匂いを嗅ぎつけてきやがったな。
鳥公の中でも、俺はカラスは嫌いなんだ。
大嫌いなんだ。

おめーら、全員ズタズタにしてやる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


201 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:21:16.10 0

『桃の花 恋が実ると 初夏になる』

よし、一句できた。
あぁ…海に行きたい。

今日の部活動が終わり、私は部室の窓から満開の桜の木を眺めている。
素晴らしい風景だ。
春の訪れは唐突で、寒い空気を運んでいた北風はいつしか暖かい春風を運んできていた。
まぁ春風はポカポカしていいのだが、これがまたイタズラなヤツで、スカートめくりが
大好きなのだ。今日も登校する時だけで三回やられた。
まったく、困ったさんである。
そんなことを思う私の隣では、新垣さんが盆栽を眺めているようだ。
ふと、ニィっと笑う彼女がなんだか気になったので、声をかけてみることにした。

「新垣さん、外は桜が満開です」

「すっかり春なのだ。あぁ桜満開」

「…春風の正体、知ってますか?」

「春風の正体?唐突だねぇ・・・・・なんなのだ??」

「・・・・・・ふふ、花咲かじいさんですよ」

そう述べる私を見て、新垣さんはまたニィっと笑顔を作って見せた。
何かおかしなことを言ったようだ。
どうもここのところ、私には茶目っけが出てきている・・・・なぜだろうか?
きっと、この春の陽光と温もり、そして春風が運んできた自然の香りのせいだろう。
つまり全部春風が悪いのだ。うん、そういうことにしておこう。
・・・・・などと心の中で非難してはいるが、私は決して春が嫌いなわけではない。
むしろ大好きなのだ。小春という名前は伊達じゃあないのである。


202 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:24:45.95 0

「桜の花びらを見ていると、なんだか一年の始まりを感じずにはいられませんよね」

「始まりを暗示させる桜の花・・・・か。しかし、実はその逆だということを
知っている人間はあまりに少ないのだ」

逆?それはどういうことだろう。
桜の花は始まりの逆??うーん…わからない。

「どういうことですか?」

「うむ、簡潔に言ってしまえば桜の木というのは死んだ人の姿とも言われているのだ。
昔、いつも桜の切り株に座っていた人が忽然と姿を消し、その死体が桜の木の下で
白骨化していたという話もある」

・・・・・・あまり爽やかではない話だ。
初めて出会ったときの豆の話といい、どうも彼女の話は私の肌に合わない。
やっぱり相性が悪いのだろうか?
最初に思いっきり激突してしまったぐらいだしなぁ…
だが、彼女は決して悪い人間ではない。言い切れる。
どんな生き物の命でも尊ぶ心を持っているし、なかなか後輩想いな一面があるのだ。
明日行われるれいな先輩と道重さんの入学祝いをしようと言い出したのもこの人だ。
なんでも、なんとか島とかいう名のレジャーランドを経営しているオーナーと
友達らしく、そこのチケットを手配してくれたのだが・・・・・・
私は行けそうもないので断った。
部活を休み続け、退院したばかりの私には、そんな余裕がなかったのだ。
道重さんもそうなのだが、この久住小春にはそれ以上の理由がある!

そうそれは・・・・・・次の舞台の主人公が私なのだからッ!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


203 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:28:20.07 0


ついにミラクルな大スターへのスタートラインに立ち始めたということか。
今回の演劇の脚本を書いた紺野さんには感謝の気持ちでいっぱいだ。
彼女曰く、主人公の設定からして私が『適任』らしい。
・・・・・・照れるな。


「明日、楽しんできて下さいね。おみやげ、期待してます」


新垣さんにそう告げると、私はそこで大きく深呼吸をして、制服に着替えることにした。


204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:28:46.65 0


「ねぇさゆ、明日本当に行かないの?きっと楽しいよ」


部室の隅っこで、亀井さんが道重さんをなにやら説得しているようだ。
きっと、明日のことだろう。
先に述べたように、道重さんも私と同じく退院が遅かった方なので、悠長に
遊んでる余裕などないようだった。
しかし、どうしてだろう・・・・・なぜか私の目には亀井さんが道重さんを口説いているように
見えてしまう。変なこともあるものだ。


「・・・」

「さゆ?」

「・・・・・・・・え?あぁ、なんだっけ??」

「明日のことだよ」

「明日?明日はぁ〜・・・・・まだ春休みなの。楽しいの」

「???いや、何を言って・・・・・」

「今日もこれから楽しいの。部活も遅れてる分を取り戻してぇ〜それからぁ…えへへ〜」

「・・・・・・・・・orz」


205 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/28(金) 06:30:37.97 0


亀井さんがなんとも言えない表情をして見せた。
まるで二人の会話がかみ合っていない。
いや、そんなレベルじゃあないな・・・・・・・道重さんが前以上にメルヘンになっている。

春の陽気のせいだろうか?

そういえば部活中もあんな感じだったな。
そんな道重さんを見て、ほとんどの部員が『しょうがないなぁ〜さゆみんは』みたいな
受け止め方をしていたが・・・・・・・


メルヘン。


そう言ってしまえば、それまでだろう。
だけど・・・・・



おかしい・・・・・・なにか・・・・・・奇妙だ・・・・・・・・・・・・・・



私の第六感がしきりに違和感を感じ、訴え、そして・・・・・・
なんともいえない・・・・・胸騒ぎが・・・・・・私の心の奥底に沈殿していた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


273 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:08:11.53 0


その日の帰り道。
私はポワポワとした表情を終始浮かべている道重さんを連れて、
カフェドゥ・マゴにやって来たのだった。
机に運ばれてきたアイスコーヒーに砂糖とミルクを数えるのもめんどくさいほど
入れると、それをストローでがむしゃらにかき混ぜてやる。
もはやコーヒーの元の色はとどめていなかった。でも、これがおいしいんだ。

彼女をここに誘ったのは他でもない、話がしたかったからだ。
ちなみに私たち以外の部員は誰一人誘っていない。
もしかしたら、突っ込んだ話になるかも知れない・・・・・そう考えての判断だ。


「道重さん」

「・・・・・・」

「道重さん?」

「・・・・・・あ、えぇっと・・・・・なんだけ?」

「いえ、まだ話に入ってないです」

「そうなの?あ、小春ちゃん。そんなに甘くしちゃうんなら初めから別のメニューを
注文すればよかったと思うの。コーヒー、すごい色してるの」


道重さんはニコニコしながら話を振ってきた。
さっきからずっとこんな調子だ。
笑顔なのはいいことなので、私も笑顔で返す。


274 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:10:24.29 0

「最近コーヒーにハマッてるんです。でも苦いから。だからいっぱいミルクを
いれるんです。すると、色がすごく変わってしまうんです」

「甘いのがいいのならさゆみみたいにパフェ食べればいいのに」

「ですから最近コーヒーにハマっているんです。でも苦いから。だからいっぱいミルクを
いれるんです。すると、色がすごく変わってしまうんです」

「だから、甘いのがいいならさゆみみたいにパフェ食べればいいのに」

「ですから最近コーヒーに・・・・・・やめましょう道重さん。キリがありませんよ」

私はストローを咥えると、口の中を甘ったるいコーヒーで満たす。
そうやって、自分の中にあったこのふざけた空気に一度終止符を打った。
これでは突っ込んだ話も何もあったものではないからなぁ。
ところが道重さんは道重さんで、チョコレートパフェを飾っている苺をほお張り、
さらに器の真ん中に塔を描くようにして盛り付けられた生クリームの中心で
上品に腰掛けているチェリーをつまむと、それを舌に乗せて弄び始めた。

「レロレロレロレロレロレロ」

「ちょ、馬鹿な真似はよして下さい。みんな見てますよ」

「ん?」

「・・・・・・・・・道重さん、最近ヘンです」

彼女の馬鹿げた行動を目の当たりにして、私はいきなり本題に入ってしまった。
さすがに見ていられなかったのだ。
確かに、彼女は人より考え方が少しずれている人間だったが・・・・・
私の知っている道重さんには、その中に誇りを垣間見せていたはずだ。


275 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:12:10.34 0

「・・・・・・・・・・・・・・・」

道重さんはなにも答えない。
心ここにあらず・・・・そんな感じだ。
でも、それでいてどこか幸せそうなのだから奇妙だ。
これが何日か前からずっと続いていた。


「道重さん?」

「え、あぁ。で、なんだっけ?」

「この間からずっと思ってたんですけど・・・・・何かあったんですか?」

「え?」

「いや、その・・・・何をずっと考えて、そんな楽しそうにしてるのかなって」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「道重さん!!」

「わ、いきなり大声出さないで欲しいの。で、なんだっけ?」


ダメだ、まるで会話になっていない。
話がかみ合うかみ合わない以前の問題だ。


276 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:13:43.12 0


「やっぱりヘンです!話しかけても上の空、夏先生に怒られてるときも
亀井さんが話しかけてる時も、ずっとそうだった!!いったいどうしたっていうんです?
あなたはマジメにやるときはどんなに出来なくてもマジメにやる人のハズじゃn」


「あああああああああああああああっ!!!小春ちゃんッ!!いま何時!?」


私が言い終わるよりも早く、道重さんが慌てたように叫ぶ。
恐らく私の話なんて聞いちゃいなかったに違いない。
・・・・・・手のかかる姉だ!!


「道重さんッ!!マジメに私の話を聞いt」

「よ、4時半・・・・・嘘・・・・・日が・・・・日が沈んじゃう・・・・・夜が来ちゃうのッ!!!」


彼女は店の時計を見て目を丸くしていた。
両手で頭を抱えて、驚愕の表情を浮かべている。


「夜が来たら・・・・・・そんな・・・・・今日だって・・・・・・明日も・・・・・
毎日会いたいのに!!!」

「み、道重さん・・・・?」



277 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:15:01.02 0

なんだ・・・・・?
突然取り乱すなんて・・・・・・
考える私をよそに、道重さんは椅子のわきに置いておいた自分のカバンを
乱暴につかむと、荒っぽく椅子から立ち上がった。


「道重さん・・・・?ちょっと・・・・・・」

「ごめんなの小春ちゃん。パフェの代金、かわりに払っといて欲しいの」

「い、いやあの…」

「大丈夫!明日返すから!!」

「そうじゃなくて…」

「マジで急いでるのッ!!じゃあまた明日ね!!・・・・・・・あぁ…お姉ちゃん・・・・」


さっきまでボヘーッとしていた表情はどこへやら、急にマジメな顔つきになって
私に吐き捨てるようにそう言うと、彼女は足早にその場を去ってしまった。
チョコレートパフェもまだ二、三口しか口をつけていないのに・・・

いや…そんなことよりも・・・・・


「小春・・・・・230円しか持ってない・・・・・・」



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


278 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:17:48.22 0


次の朝。
私はいつものように部活に出るため、家を出た。
朝の日差しが眩しい…

そういえば夢を見たのだが、その夢がどんな夢だったのか覚えていない。
誰しも頻繁に経験する『よくあること』だが、目が覚めた途端忘れてしまった夢というのは
一体どこへ行ってしまうんだろう?
忘れてしまった夢・・・・・・それは今でも私の中に眠っているのだろうか。
それとも、夢を見ていたことが夢であって、内容なんてものは初めから
存在しなかったのかも知れない。
なんにせよ、答えがなんであれ今私はこうして目覚めて現実の世界にいるのだから
考えるだけ無駄という事だ。
無駄なことは嫌いなんだ、無駄無駄・・・・・

昨日はあれから大変だった。
コーヒー代しか持ってないのに道重さんに一人取り残された私は悩んだ末、
とりあえず彼女が残した食べかけのチョコレートパフェを食べた。
すごく美味しかった。
そして、椅子に座り続けていた。
食い逃げしてしまおうか。そんなことを考えていた時間が私にもありました。
だが、そんな行為は決して正義ではない。
店員さんにワケを話して許してもらおう・・・・・そう思った時に現れたのが
同じ部活の先輩、紺野あさ美さんである。
紫芋アイスを食べにきたとのことだった。
彼女がいなかったら、きっと厨房で皿洗いをさせられたに違いない。


279 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/30(日) 00:19:19.43 0


「紺野さんにお金返さなきゃ…」


そして、道重さんにお金を返してもらおう。
そういえば、今日はれいな先輩達がS市のはずれにあるなんとか島に行くんだったな。

私も行ってみたかったな…レジャーランド。

でも私には悠長に遊んでる時間はない。
ただこの時を噛み締めて、部活動に集中しよう…みんなに追いつかなければ。
大役をもらってるんだし、足手まといになるのだけはゴメンだ。
私は雲一つない青空を仰ぐと、桜の木の下を駆けていった。

こうして、今日も長い一日が始まる…



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


368 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:17:41.00 0

今日は先生方が休みなので、自主練というカタチの活動になる。
れいな先輩達4人が堂々と部活を休めたのもそのためだ。
他の3人、亀井さんも新垣さんも高橋さんも、舞台への準備がほぼ万端なので
後ろめたいことなど一つもないのだろう。
しかし、高橋さんが自らの意思で部活を欠席したのは驚いた。
きっと雪が降るぞ。
さて、遊びに出かけている4人とは違い、苦しんでいるのは吉澤さんである。
彼もまた、私と同じように遅れを取ってしまっていた。

「油断したぜーっ。まさか俺にそれなりの役が来てるとは思わなかった…
セリフが・・・・・くぅ・・・・・」

「おいおいよっちゃんさん頼むよ。あんたは今回、美貴と二人で小春と絡む
重要な役回りなんだからよぉ〜。サッカー部ばっか出すぎなんだよ」

「しょーがないじゃん。もうすぐ引退だし、今のうちにボールにはいっぱい
触れておきたいんだよ」

そんな藤本さんと吉澤さんの会話を、先ほど耳にした。
余談であるが、今回藤本さんは吉澤さんと仲のいい荒っぽい男の子の役なので、
男装出来ることがちょっと嬉しいらしい。
まぁ、もともと男みたいな性格の人ではあるけれど。
そんな中、道重さんはと言うと・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ボヘーッとしていた。口も半開きである。
アイドルを目指す私のライバル役という、それなりに重要な役回りのハズなのに、
集中もなにもあったものじゃない。
なんだか昨日よりもひどくなっている気がする…日に日に酷くなっている気がする!!
その証拠に、彼女は今日部活を堂々と一時間も遅刻してみせた。


369 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:20:37.16 0


そして、事件は起こった。

午前中から雑談という長い休憩時間を終えて、午後になり、ちょっとみんなで
合わせてみようということになったのだが・・・・・・・


「・・・・・・・・・・・」


道重さんが、自分の出番になってもセリフを吐かないのだ。
どうやら気付いていないみたいである。


「道重さん・・・・・セリフ・・・・」

「・・・・」

「道重さん」

「あっ」


小声で二度ほど呼んで、彼女は我に返った。
まただ・・・・またこの感じだ。
もっかいこのシーンはやり直しか・・・・・これでこのやりとりは何度目だろう?


370 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:25:13.84 0


「ごめんなさいなの、ついうっかり」

こんな状態の道重さんも気になるところが、私としてはいつ藤本さんが
大爆発するのか心配でならなかった。
あの表情、目つき・・・・・絶対イライラしている。
恐ろしいな・・・・まるで爆弾を抱えている気分だ。

しかし、藤本さんの気持ちもわからなくはなかった。

単なる失敗や間違いなら仕方がないのだ。練習とは、失敗や間違いを経験し、
それを克服していくものなのだから。
だが・・・・・・道重さんの場合は明らかにそれとは違っている。
まるで集中していない・・・・・・・やる気というものが一切感じられない!!


「・・・・・じゃあ、もう一回小春ちゃんのセリフから行きましょうか。
『辛い・・・・食べられない』のところから」


今回は監督の立場である紺野さんに言われ、私はまた定位置に戻る。
道重さん、お願いですからやる気を起こして下さい・・・・・このシーン、正直もう飽きました。
そんな思いを胸に抱えながらも、私たちは演技を続け・・・・・


そして、先ほどの道重さんのセリフの場面まで辿り着くことなく、演技は中断された。


立ち位置を間違えた道重さんが、藤本さんに景気よくぶつかったのだ。
原因は・・・・・ボーっとしていた道重さんにあるということに、誰もが気付いていた。


371 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:26:49.53 0


「あ、すいませんカットで」

「ちッ・・・・・てめぇ・・・・・・」


紺野さんの声がすると同時に、藤本さんが道重さんに舌打ちをした。
終わったな。
どうやら完璧に藤本さんという名の爆弾の導火線に火がついたようだ。
爆発するぞ・・・・・・道重さんをかばってあげた方がいいんだろうか。
しかし言い訳のネタはないなぁ・・・・・・


「いいかげんにしろよ。やる気がないなら帰って欲しいんだけど」


突然言い放たれたその声の主は藤本さんではなかった。
押さえ気味の口調の中に、明らかに怒りを滲ませたセリフを口にしたのは・・・・

他ならぬ、部長の吉澤さんであった。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


372 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:29:24.85 0


「さっきから黙って見てりゃあボーっとしやがってさぁ・・・・マジメに練習する気が
ないんじゃねーの?」

「・・・・・・・・・・・・」

道重さんは俯いてしまって、何も答えない。
意外な人物から攻められて驚いているのだろうか?
少なくとも、藤本さんは驚いているようだ。


「やる気のないヤツと一緒の舞台立つなんて、俺は絶対に認めないからな」

「まぁ落ち着けよ・・・・と、言いたいところだけど・・・・・・今日のさゆは明らかに
ひでーよなぁ?いや、今日だけじゃないか・・・・・昨日も、一昨日も・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・二人とも少し抑えて。誰だって調子が悪い時くらいはあります・・・・・どんなに
頑張ってもうまく行かない時ってあるんです。こんこんにはわかりますよ」

「…するとなんだ?こんこんにはコイツが頑張ってたように見えたわけか?
美貴の目にはどー見てもッ!!何も考えてないようにしか見えなかったけどなァー」


な・・・・なんだかおかしな空気になってきたぞ・・・・・・
道重さんのことで、藤本さんと吉澤さん、そして紺野さんが衝突をしかけている。
どんよりと重く肩に圧し掛かる不穏な空気が、私たちを包み始めた。
それでも道重さんは黙ったままだ。口を開くような気配もない。

正直、この沈黙・・・・・・耐え難い!!


373 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:35:36.00 0


「・・・・・・・こんなことをこんこんが言うのもアレなんですけど、ここにいるみんなは
いろいろと仕方のない事情で練習が遅れている人達なんですよね?だとしたら、
この時間がすごくもったいないと思いませんか?」


重い沈黙の中、最初に話を切り出したのは紺野さんであった。
この空気の中で口を開くということには、相当な度胸がいたはずだ。
私はその時、素直に彼女を尊敬してしまった。
そしてその思いが伝わったのか、吉澤さんも藤本さんもあっさりと穏やかになり始める。


「それもそうだな・・・・・・せっかく先生もいない中で部活来てるんだしな・・・・」

「・・・・ま、面白おかしくやんなきゃ損かもな。舞台前でピリピリしてるだけにさ。
普段の演劇部みたく、気楽にやった方がいいな」

「そうですよ、抜くところは抜いて、決めるところは決めればいいんです。
間違ったってしょうがないでしょう?迷ってたって始まんないでしょう?
だからマイペースに、それでいてみんなのペースに合わせるように歩んでいくんです。
人は一歩一歩でしか進めないんですから。『All for one One for all』ですよ・・・・
ね、小春ちゃん」

「そ、そうですね!!」


みんなは一人のために、一人はみんなのために・・・・・かぁ。
紺野さんはなかなかいい事を言うな。
こんなみんなをうまく引っぱっている姿を見て、彼女が監督を任される理由は
単に舞台の脚本を書いただけではないからということがわかったような気がした。


374 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:39:44.98 0


「…しげさん、わりーな。俺、けっこう焦ってたもんでさ。けっこう重要な役だし・・・・
ちょっとハイペースになりすぎてたわ」

「そうだよ。よくよく考えてみりゃあ、よっちゃんさんが遅れてる理由なんて
むちゃくちゃ自業自得じゃんか」

「ミキティうっさい」

「でも、さゆだって悪くないわけじゃないんだからな。美貴たちも走り過ぎないように
練習すっからさ、さゆもあたしらに合わせるように努力してくれよな」


各々が反省すべき点を自覚し、謙遜しあう。
・・・・不穏だった空気に暖かい日差しが差し込んできたみたいだ。

仲間との和解。

例え些細なことだったとしても、こうやって、絆を深めていくんだなぁ・・・・・・
きっとこの舞台は素晴らしいものになる・・・・そんな気がした。


「・・・・・・だって。さゆみん、わかった?」

名監督の紺野さんが優しく道重さんに問いかける。
彼女の『わかった』という一言で、この空気はいつもの爽やかなものに戻る・・・・・

はずだった。



375 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:41:45.75 0

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


沈黙。
ただただ沈黙して、みんなが道重さんを見つめて数秒が経過した。
・・・・・・・なんだかすごく嫌な予感がする。


「さゆみん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


紺野さんの声に、道重さんは何も反応しない。
・・・・心ここにあらず、という感じだった。

ああ・・・・・道重さん・・・・・・お願いだから何か反応してください・・・・
嘘でしょう・・・・・・?まさかこんな時にまで・・・・・・
ま、間違ってもあんなことを口走ったりしないで下さい!!
そうなってしまったら、もう誰もフォロー出来ません・・・・・・・


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


376 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:45:03.81 0


「・・・・・・・・・・・・ハッ!!」


道重さんが、ふと我に返った。


「さゆ、どうしたんだ?」

「え?あ、あの・・・・えぇ・・・・・と・・・・・・・」


ぐあぁ・・・・・頼むから・・・・それだけはやめてください。
そんなことを言うのなら、いっその事また黙ってしまった方がマシだ・・・・
口にチャックをしてくれ。



「・・・・・・・・なんの話でしたっけ?」

「・・・・・・・・・・」




…やってくれた。

私の願いも虚しく、あっさりと言い放ってくれた。

道重さん、あなたって人は・・・・・・・



377 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:48:01.95 0


「・・・・・・・・・・なんでしたっけ・・・・・って・・・・・・さゆみん?」

「おいさゆ・・・・・まさか今までのあたしらの話、マジメに聞いてなかったのか?」

「ははは、こんこんもミキティも何言ってんだよ。そんなわけないよなぁ?しげさん」


吉澤さんが爽やかな笑顔で道重さんの肩をポンポンと叩く。
こんな大事な話を聞いてないわけないだろ・・・・・そう思っているのが表情から読み取れる。
そんな彼を突き放してしまうように道重さんは言った。


「聞いてなかったの」




「・・・・・・やっぱり真剣なのは顔だけで、なんも考えてねーんだなさゆって。
ははは、美貴の負けだよ。ははははははは」





378 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:48:35.45 0









ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!










379 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:51:06.33 0


「「「「ッ!!!!!?」」」」

突如、藤本さんの近くにあった机が大きな音をたてて砕けた。
その音に、私の身体は思わずビクッと反応してしまう。
やったのは・・・・・言うまでもない、イライラの爆弾が爆発した藤本さんだ。


「てめー帰れッ!!!!!!!!!!!」


・・・こうなってしまっては、もう誰にも止められない。
しかも今回の場合、悪いのは誰の目にも明らかであった。
紺野さんは口に手を当てて呆気に取られているし、吉澤さんに至っては
もはやかける言葉もないとでも言うかのように無言で道重さんを見つめていた。

「誰のためにみんな話してたと思ってんだよ!?練習止まったと思ってんだよッ!!?
オメーなんか『いらねーよ』!!あたしらだけでじゅうぶんなんだよ!!!」

自分が怒鳴られてるわけでもないのに、なんだか小さくなってしまう
私はもしかしたら気の弱い人間なのかもしれない。
それにしても藤本さん、相当頭に来てるみたいだな・・・・・・道重さんに本気で
怒る彼女の姿は珍しいものであった。

「・・・・・いらない・・・・・・・・・・?」

道重さんが小声でその言葉に反応した。
しかし、その様子はなんとも奇妙で、その言葉にショックを受けたというよりも
やっぱりなぁ・・・・・というような、諦めにも似た表情だったのだ。
そう思ったのは私だけなのだろうか・・・・・・?
そして、ずっと突っ立っていただけの道重さんがついに動き出した。


380 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:54:52.59 0


「あ・・・・さ、さゆみんッ!!どこへ行くの?」

「帰るの」

「帰るのって・・・・・・練習はどうするの?」

「帰るったら帰るッ!!どーせさゆみはいらないの!!!」

「ほっとけよッこんこん!!!美貴たちだけでも練習はできんだろーが!!!
あーあ、よーやくお邪魔虫がいなくなってくれたぜ。これでスムーズに
練習できるってもんだよな!!ったく!!!」

「で、でも・・・・・・」


道重さんの出て行った部室のドアを見つめ、紺野さんはただ呆然と立ち尽くしていた。
彼女のことだ、きっと心の中で葛藤しているに違いない。
道重さんを追いかけたいが、かける言葉がないのでどうすることもできないのだろう。
だって、誰の目から見たって非は道重さんにあるのだから・・・・

だから・・・・・私が道重さんを追いかける!!!



381 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/01(月) 06:57:36.42 0


「おい小春ッ!!オメーまでどこに行くつもりだよ!!!」

「道重さんと話をしてきます、私に構わず練習してて下さい」

「ハァ?バッカじゃねーの!?ほっときゃいいのにさ。大体オメーが抜けたら
あたしもよっちゃんさんも練習できな・・・・・っておい!待てよ小春ーッ!!!!」


藤本さんの大声を背中に受け止めて、私は部室を後にした。
帰ると言っていたな・・・・・・ということはあの人は着替えるために
更衣室に向かったのだろう。

道重さん、一体どうしてしまったんだ・・・・・・・
ここ最近の彼女の精神状態、やっぱり正常だとは思えない。
いつもの道重さんじゃない!!私にはわかるッ!!!
そして・・・・いや、本来こんなことを考えるのはとても縁起の悪いことなのだが・・・・


藤本さんと道重さんのケンカが、あの二人にとって最後の会話になりそうな・・・・

不快な予感がしたのだった。



ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・・・


460 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 09:56:14.95 0


演劇部の生徒は普段、ぶどうヶ丘高校の女子更衣室を使っている。
活動時にはジャージなどの動きやすい服装に着替えるのだ。
と、言っても別にジャージに固執しなくてもいいようで、亀井さんはいつも
七分袖のTシャツを愛用しているし、れいな先輩はごちゃごちゃしたカーゴパンツを
履いていることが多い。
あんな装飾品の多いカーゴが果たして動きやすいのだろうか・・・今度本人に聞いてみよう。

私は女子更衣室の前にくると、汚れて年季が入ったそのドアを開ける。
古いせいか蝶番が錆びついているらしく、キィィッと背筋にくる耳障りな音が鳴った。

更衣室の中はガランとしていて、演劇部以外のこの更衣室を利用している体育会系の部活は
午前中でその活動を終えて帰宅してしまったようだ。(最も演劇部は文化系だが)
チア部の生徒の着替えも、バドミントン部の生徒のカバンも、もうそこにはなかった。



「・・・・・・・・ぐしゅん・・・・・ズズッ」



そんながらんどうとした更衣室の中で、嗚咽のような声を漏らす者がいる。
言うまでもない、制服に着替え終わっていた道重さんだ。
藤本さんに罵声を浴びさせられたことがよほど答えたのだろうか。


461 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 09:59:36.50 0


キシィィ・・・・


扉が閉まる音に人の気配を感じたのか、道重さんがゆっくりと振り返った。
どうやら手に光沢のある紙切れのようなものを持っているようだが・・・・

「・・・・・・・小春ちゃん」

振り向いた道重さんは、至って普通であった。
だが、頬にはくっきりと洪水の跡が見て取れる。

「・・・・・泣いていたんですか?」

聞かなくてもわかっていたことであったが、確証を得たかった。
決して好奇心からではない。
そんな私に道重さんはトーンの低い声で答えた。

「・・・・・・さゆみだって人間だもの。悩みが消えなくて涙流したりするの」

「悩み・・・・ですか。小春じゃ相談相手になり得ませんか?」

「気持ちは嬉しいけど、別に平気なの。悩みはもう消えかけてるから」

「はぁ・・・・・・あの、ところでそれは・・・・写真・・・・・ですか?」

私は彼女が持っていた光沢のある紙切れ・・・・写真を指差して言った。
道重さんはそれを見て涙を流していたに違いない。


462 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:00:32.11 0


「写真なの」


「誰のですか?・・・・・って、こんなことズケズケと聞いてもいいもんなのか
わかんないですけど」


「小春ちゃんは相変わらず固めなの。見ればわかるの、ハイ」


道重さんが私に写真を差し出す。
それを私が受け取る瞬間、彼女が空いた手でサッと頬についていた
涙の跡を制服の袖で拭っていた。

写真に目を落とすと、そこには・・・・・



463 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:03:07.47 0

「道重さんが二人・・・・?いや・・・・」

違う・・・・・これは彼女のお姉さんと、道重さんのツーショットだ。
前に彼女の部屋の写真立てで見たことがある・・・・・それとはまた違う写真のようだが、
この写真でもやはり二人は仲が良さそうであった。
それにしても似てるなぁ・・・・・私なんてお姉ちゃんと全然似てないというのに。

「・・・・・気は済んだ?」

「はい、どうも・・・・」

返した写真を大事そうに受け取ると、道重さんはそれを眺め始めた。
お姉さんの写真を持ち歩いているなんて・・・・よっぽどお姉さんッ子だったのだろう。
・・・・・確か、去年の夏頃に行方不明になったと聞いているが・・・・・

「さゆみ、お姉ちゃんが大好きなの」

私の思っていたことに答えるかのように、道重さんが呟く。

「小学生の頃は毎日鏡の前で三つ編み編んでくれたし、可愛いお店にもいっぱい
連れてってもらったの。お洋服はいつもお姉ちゃんのお下がりだったけど、
お姉ちゃんのお洋服はどれも可愛いものばっかりだったから全然イヤじゃ
なかったなぁ〜・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「お姉ちゃんと一緒にお兄ちゃんハブいたりして、楽しかったの。そうそう・・・・
一昨年の誕生日のときにね、お姉ちゃんがケーキ焼いてくれてね。ちゃんとロウソクも
十三本さしてくれて。ちょっと苦い部分もあったけど、今までで一番美味しい
ケーキだったの。それからそれから、絵里がレミーちゃんをさゆみにくれた時も
お姉ちゃんが・・・・・・」


464 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:04:33.45 0


道重さんの昔話は続く。
写真を通学カバンの外のポケットにしまいながら楽しそうに話す彼女を見て、
私はなんだかやりきれなくなってきた。
しかし自分には何もできない。
こんな時、どんな言葉をかければいいのだろう?

慰めの言葉?
それとも、ただ「うんうん」と頷いていればいいの?

姉のように慕っていたハズの彼女を前にして、私は無力だった。


「・・・・・・ってごめんね。我を忘れて語り続けてしまったの」

「・・・・・いえ、そんな・・・・・・あの道重さん、お姉さんのことは辛いかもしれないですけど、
頑張って下さいね。『頑張って』だなんて、在り来たりな言葉しか言えなくてすみません…」

思わず、目を伏せてしまう。
そんな私を、道重さんが見つめているようだ。
そして次の瞬間・・・・・・彼女は信じられない台詞を吐いた。


「お姉ちゃんのことなら、もう辛くないの」


「はい?それはどういう・・・・・」

「だってお姉ちゃん、帰ってきたんだもん」

「・・・・・・・・え?」


465 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:05:57.27 0









       だ っ て お 姉 ち ゃ ん 、帰 っ て き た ん だ も ん 










466 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:09:18.63 0


そう・・・・・・言ったのか?今・・・・・・
道重さんの顔を見上げる。
彼女は、満面の笑みだった。

「お日様が出てるあいだしか会えないんだけどね。毎日いっぱいお話して、
いっぱい遊ぶの。夜になるとバイバイしなきゃいけないんだけど・・・・でも、
それでもいいの。だってさゆみのお姉ちゃんだもん」

「い、いったいどういうことですか・・・・・?」

「どうもこうもないの。お姉ちゃんが帰ってきた、ただそれだけなの。
レミーちゃんもね。だから、今さゆみはとぉぉぉぉぉ・・・・ッても幸せなの」

レミーちゃん・・・・・道重さんに飼われていたスタンド使いのうさぎだ。
あの子は狂った吉澤さんと闘ったあと、姿を消してしまったんだよな・・・
このことを、道重さんは知らない。


「なんだかよくわからないですけど・・・・どうしてお姉さんとは夜になったら
バイバイしなきゃならないんですか?家に帰ってきたんじゃあないんですか??」

「・・・・・・・・・・・・・」

「道重さん、聞いてます?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「道重さんッ!!!!」

「・・・・・・あ、さゆみそろそろ行かなきゃ。お日様が出てる時間は短いの」


467 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:12:10.11 0


我に返ったかと思えば、道重さんは思い出したようにそう言った。
恐らく私の今の話は聞いていなかったのだろう。
お姉さんとレミーちゃんが帰ってきた・・・・彼女にとってそんな幸せな夢が・・・
甘いお菓子のような話が、本当に起こったというのか?
あまりに突拍子すぎて『よかったじゃないですか!』という当たり前の言葉が生まれない。



「あっ・・・・・・ちょっと道重さん、どこへ行くんですか!?」

「お姉ちゃん達のところ、待たせちゃ悪いから・・・・・って小春ちゃん、制服の裾を
つかむのはやめて欲しいの」


「・・・・・・小春がここにきた理由、わかります?」


「・・・・・・・・・?」


道重さんが私を疑問の眼差しで見つめた。


468 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:15:36.47 0


「一緒に部活をするためですよ。藤本さんはあんなこと言ってましたけど・・・・・
あんなの本気で憎ッたらしくて言ってるんじゃないですよ。ホラ、こんな言葉が
あるでしょう?『叱られるうちが華です』・・・・・って。それに、道重さんも言ってた
じゃあないですか。『失敗から学びましょう』って」

「・・・・・そんな話なら、いらないの」

「いらない?何を言ってるんですか。大事なことです」

「だって藤本さんの言う通り、さゆみはお邪魔虫だし」

「何をバカなことを・・・・そんなことないですよ。藤本さんの性格は道重さんだって
よく知ってるでしょう?言いすぎただけですよ、熱くなりすぎただけに決まってます。
少なくとも、私は道重さんが一緒にいてくれる方が安心なんです」

「小春ちゃんはミラクルだから、さゆみがいなくても大丈夫」

「ミラクルって・・・・」

「それに、さゆみにはどうも向いてないみたいなの・・・・舞台ってやつがさぁ。
不得意なことを頑張ってたって、しょうがないの」

「み、道重さん・・・・・?」


おいおい・・・・・いったい何を言ってるんだ?
あなたはいったい何を考えているんだ!?



469 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:16:47.06 0







「さようなら小春ちゃん。部活、頑張ってね」









470 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:19:07.28 0


彼女はそう言うと、パシッと優しく私の手を払いのけて更衣室を出て行った。
ギィッという蝶番の音が、虚しく室内に響き渡る。

道重さんは行ってしまった。
追いかけるべき・・・・・なんだろうか。

立ち尽くしていたその時、ふと足元に写真が落ちていることに気がついた。
さっき道重さんがカバンの外ポケットに閉まっていたはずの写真だ・・・・
きっと、ちゃんと入ってなくてポケットから落ちたんだろう。



「・・・・不得意なことだから、頑張るのをやめてしまうんですか・・・・・?」



私はそれを拾って、仲の良い姉妹を見つめた。



「得意なことよりも、好きなことの方がいいに決まってるのに・・・・
小春に言った言葉・・・・アレは嘘なんですか?」




471 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:19:46.17 0




『さゆは敢えて遠回りをするのッ!回り道もするのッ!!その経験ですら、
すべて自分のものにする自信が、さゆにはあるのッ!!!』






472 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/02(火) 10:22:05.52 0


あなたがいなかったら、私は演劇部には居ないんだ。

今の小春はいないんだッ!!!

勝手な事情で諦められてたまるものか・・・・道重さん!!!


私は共同ロッカーの扉を開けると、自分の制服を取り出した。

今ならまだ追いつけるはず・・・・・ッ!!!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・



684 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:27:06.29 0


制服に着替えた私は校舎を飛び出し、辺りを見渡す。
道重さんの姿はもうどこにもない。
彼女は・・・・・お姉ちゃんに会いに行くと言っていたな。
そして話から察するに、道重さんのお姉さんは家に居るわけではないようだ。
と、なると・・・・・私には道重さんの行く宛てはわからない・・・・・けど!!!

「ミラクル・ビスケッツ!!!」

『HO〜ホラ行コウゼ!!!』
『ソウダ!!』
『ミンナ行コウゼッ!!!!』

「ビスケッツのみんな!!小春の頼みを聞いてちょうだいッ!!!」

『マカセロヨ!コハルーッ!!』
『さゆみんを探セッテンダロ!!?』
『ワタシ達にカカレバお茶の子さいさいヨ!!!』

さすがはビスケッツのみんなだ、話が早いッ!!!
私が指示するまでもなく、彼らは通信係りにNo.7を残し上空へ飛び上がると、
各々の方向へと飛び去って行った。

「No.7は道重さんがどこへ向かったと思う?」

『コハルがワカンネーコトを僕ガワカルワケナイダロー!!ワカッテイルコトハ
タダ一つッ!!ネーチャンに会イに行ッタッテコトダケサ!!!』

「そうだね・・・・・あの人は、お姉さんに会いに行ったんだ!!」

『アア、イナクナッタはずのオネエサンにネ!!!』


685 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:28:12.69 0


杜王町の少年少女の行方不明者の数を気にとめている人は少ないが、私は知っている。
以前、コンビニ「オーソン」で新聞の『犯罪白書』を読んで心底驚いた。
・・・・全国平均の八倍という数なんだ。この数値は異常と呼ぶ以外なにものでもない。
そして・・・・・・発見されたという事例も出ていない。
それが意味することはなんなのか。
私の考えでは・・・・いなくなった人達はもうこの世には・・・・・・・

『イタゾッコハル!!西に向カッタ「No.3」カラさゆみんを見ツケタと報告ダッ!!!』

肩につかまっていたNo.7が叫んだ。
仕事が早いな!!やっぱりミラクルという冠は伊達じゃないッ!!!

「ありがとうッ!!No.3、そこから道重さんに話しかけることは出来る?」

『イヤ・・・・・さゆみんは駆ケ足ノ様ダシ、スデニ「No.3」の射程距離外のヨウダ・・・・
ダガ、向かっている先は把握シタと言ッテイルッ!!!』

「どこ!!?」

『アア、さゆみんの向カッテイル場所ハ・・・・・・』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


686 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:30:22.18 0


国見峠霊園。
杜王町の西に位置するこの霊園には、多くの死者が埋葬され眠っている。
まだ13歳の私には到底縁のない場所であることは間違いない。

墓場に立ち入ったのは初めてだ。
怖い話の題材にされがちな場所ではあるが、私が想像していたような
墓場のイメージとは微妙に違っていた。
こう、もっとおどろおどろしている所だと思っていたが、それはここに眠っている人々に
失礼なことだったとすぐに考えを改めた。
なぜなら、そこは桜が満開だったからだ。
新垣さんの言う通り、桜の花は死んだ人の姿なのだろうか・・・・・

国見峠霊園は景色が開けているので、誰かいればすぐにわかるハズなのだが、
道重さんの姿はどこにも見えない。

「道重さん、どこに行ったんだろう・・・・・ねぇNo.3、道重さんは本当にここなの?」

『間違いネーヨ。さゆみんはネーチャンに会イニ行クとか言ッテタンダロ?
ココイラにアルノハこの霊園と「イタリア料理店」ダケダゼ?ネーチャンに会イニ
行クッつーのにノンビリ飯なんて食ッテイクワケはネーヨナァ?』

うぅむ・・・・しかし、本当にお姉さんが生きて帰ってきたものだとしたら、
そういった場所で待ち合わせをしているとも考えられないだろうか?
いや・・・・・それはないか。
待ち合わせとは『約束』をして初めて行われること。
道重さんの行動は唐突だったし、お姉さんと会う『約束』をしていたとは思えない。
それに、昨日と今日ではまるで時間も違う。
まるで会いたいときに会っているという感じだった。
だとしたら・・・・信じられないけどやっぱりこんな場所に・・・・・・?


687 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:32:43.60 0


『ネェネェ、No.2がアッチで細い小道を見ツケタッテ言ってるヨ』


No.4に言われ、私は一度ビスケッツのみんなを呼び戻すと、No.2の案内で
霊園のさらに奥・・・・彼女が発見したという小道に案内してもらった。
そこは砂利が多く、お墓の周りで花を咲かせていた桜の木もない。
小道を覆うようにして、木がたくさん生えているだけだ。
樹木の茂みが空の青さを隠し、さながら緑のトンネルとでも言ったところか。
この小道の方が霊園よりも遥かにそれっぽい雰囲気である。
一瞬だが、思わず足を踏み入れるのを躊躇ってしまったぐらいだ。

「小道というよりほとんど雑木林だねェ・・・・こんなところに道重さんが
進んで入っていったりするとは思えないなぁ・・・・」

『ナァ、ヤメネ?』
『ココマデ来て何ヲ言ウノヨNo.5』
『ナンカ不気味ジャネ?おばけ出ソウジャネー?』
『コンナ真昼間に出テクルホドおばけもヒマじゃあナイワヨ』
『コハルチャン、行くの?』

「うん、みんなご苦労様!!一端戻っていいよ!!!」

No.4の問い掛けに、私は大きく頷いた。
道重さんがこの小道に入っていったという確証はどこにもない・・・・・
しかし、この国見峠霊園に来ていることは推測した限りでは間違いないのだ。
・・・・・・彼女がこの小道に足を踏み入れた可能性は十分ある!!
例えこの奥に道重さんがいる可能性が少なかったとしても、1%でも可能性が
あるのなら私は調べないわけにはいかないんだ。



688 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:33:07.15 0


ジャリ・・・・・・・


意を決して、その不気味な場所に足を一歩踏み出す。
緑の匂いに包まれて、私は奥を目指した。


ジャリッ・・・・・ジャリッ・・・・・


自分の立てる足音が、妙な不安感を煽り立てたのだった。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


689 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:34:35.99 0



サワサワと、木の葉が擦れている音がする。

まるで、私に何か話をかけているような・・・・・そんな錯覚を覚えた。



ザッザッザッザッザッザッ・・・・・・・・・・・・・



それにしても、なんだかジメッとしてるところだなぁ。

こういう場所に長時間いると、髪の毛がへばってくるから好きじゃない。



ジャリッジャリッジャリッジャリッ・・・・・・



外はあんなに爽やかな風が吹いているのに、どうしてここは雨が降った後のような
湿った空気の匂いがするんだろう・・・・・湿地なんだろうか?
薄くではあるが、白い霞すら発生していた。


690 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:35:17.72 0








『・・・・・・・・・・耳障りな足音を立てないで欲しいの』










691 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:37:11.51 0


!!!!
なんだ・・・・・?いま、どこからともなく声が・・・・・
しかし、辺りに誰かがいるような気配はない。

空耳?
いや、そんなハズは・・・・・・・


『眠れるお姫様を起こす権利など誰にも存在しないの・・・・・・!!』

「ッ!!!!!!!!!!!!」


やはりッ!!空耳などではない!!!
今、確かに聞こえたぞ!!!
さっきと同じ奇妙な女の声が聞こえたッ!!!

「誰なのッ!?姿を見せてよ!!!」



バササササササササササササッ!!!!!!!!!!!!!!!



やかましいとしか思えなかった羽音をたてて、それは私の目の前に
どこからともなく降りてきた。
白い・・・・・・雪のように白いぞ・・・・・・そしてかなり大きい!!!
並みのウサギくらいの大きさはあるんじゃないか?
しかし・・・・・これは・・・・・・・!?


692 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:39:44.11 0


「鳥・・・・・いや、フクロウ・・・・・?いったい誰が・・・・・小春をバカにしているの!!?」


あまりにも舐めたこの趣向、なにが目的なのかわからないこの行動に、
さすがの私も怒りが湧き起こってくる。
たまたまこの小道にいたどこかの誰かが気まぐれでこんなイタズラをしているのか?
こんなフクロウまで用意して・・・・?

ふざけないでよ・・・・・・こっちはそれどころじゃあないんだから!!!



『永遠なの・・・・・・・・・・・・・・・・』



そして、また声が聞こえる。
女性の声だ・・・・・・今ので声の出所はよくわかった。
よくわかったけど・・・・・・どういうことだ?
私は困惑した。
だって・・・・そんなワケが常識ならありえなかったのだ。



693 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:40:37.75 0



『前を見ているフリをして・・・・・過去にすがっていた女の子の<永遠>が
ここにあるの』



「そ、そんな・・・・・・・ありえない!!!」



『そして、わたしの傷を癒す場所でもあるの・・・・・・・!!!』



う、嘘だ・・・・・・・こんなことが・・・・・

こんなことがこの世に存在するというのか!!?



「フクロウが・・・・・フクロウが口を利くなんて!!!!」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


694 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:44:33.68 0


金色の瞳を持った大きくて白いフクロウは、ジィッと私を見つめている。
鳥が喋った・・・・・・驚きを隠せるわけがない。
でも、どこかで聞いた事のあるような口調だな・・・・・


『わたしの名前はエルタータ。北の街から来たの・・・・・』

「北の・・・・まち?」

『真の幸せとは・・・・・過去にしか存在し得ないものなの・・・・・・過去は決して
変わることのない世界・・・・・過去にこそ、永遠の幸福が眠っている・・・・ねぇ?
あなたはどう思う?久住小春ちゃん』


「な・・・・・・・ッ!!!!!?」


白いフクロウが、目を閉じて笑ったような顔つきになった。
笑顔に対して憎悪を感じたのは初めての経験である。
そして、私は無意識のうちにゾッとしていた。



695 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:47:15.33 0


「なぜ私の名前をーッ!!!き、きみはいったいッ!!!!」

『なぜ人の口を利けるのか・・・・どうしてあなたの名前を知っているのかッ!!
そんなことはわたしにとってはどうでもいいの・・・・・重要なのはッ!!ミス・小春ッ!!』

シロフクロウは先ほどよりも深く瞼を閉じ、身体を膨張させる。
あれは・・・・威嚇しているんだ・・・・・!!!
威嚇しているのに笑ったような顔になるフクロウは、奇妙としか言い様がなかった。

『あなたが何をしに来たのか・・・・ということなのッ!!わたしはあなたを知っている、
ここにきた理由もなんとなくわかっているのッ!!そしてもし!!わたしの考えている
とおりならば・・・・・あなたにはここから出て行ってもらわねばならないの・・・・!!!』

「何を・・・・・何を言ってるんださっきから!!どうして小春を知っている!!?
それに人の言葉を話すフクロウだなんて・・・・・・!!!!」


『・・・・・遠回りも回り道も、その経験ですらすべて自分のものにする自信がある・・・か』


「ッッッ!!!!!!」

い、今なんて言ったんだコイツはああああああああッ!!!!
そんなバカな!!絶対ありえない!!!
その言葉は・・・・・・私以外の人間は知らないセリフのハズなのに!!!!



696 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:52:24.81 0

「・・・・・・」

いや・・・・一人だけいたな・・・・・
このセリフを言い放った張本人が・・・・・・

「道重さんに・・・・・・・」

『ム?』

「道重さんに何をしたんだーッ!!どうしてフクロウのお前がその誇り高い
言葉を易々と口にしているんだ!!!」

嫌な予感がする!!汗がギトギトと全身から吹き出るッ!!!
道重さんはどこにいるんだ!?
無事なのか!?彼女はッ!!!!

『夢を見ているの』

「・・・・・・・え?」

シロフクロウは道重さんの口調でそう答えた。
そうだ・・・・・これは道重さんの口調だったんだ。
どおりで聞いた事があるハズだ。

「夢・・・・・・だって?」

『そう・・・・・・・幸せな夢。永遠に壊れる事のない世界・・・・・・お姉さんや・・・・
それに真っ白いウサギ・・・・・まさかこの子の夢の中であのウサギと再会するとは
思わなかったけど、夢の中なら可愛いものなの』

「・・・・・・・?」


697 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 09:56:52.58 0


『わたしはいろいろと知っているの・・・・彼女はスタンド能力者で・・・
名前は「シャボン・イール」。去年の夏に行方不明になったお姉さんのことをとても
心配していたの。それから・・・・・その冬には溺愛していたペットのウサギに逃げられたの』

「な・・・・・・・・」

『まだあるの。11月にはお姉ちゃんの姿をしたスタンドに攻撃されたの。
えぇっとあとは・・・・クリスマスは病院で過ごして・・・・・そうそう、二月くらいに
自分の部屋のベッドの上で友達にファースト・キスを奪われた上に舌を入れられて・・・・」

「い、いいよそんな話はッ!!!小春が知りたいことはただ一つッ!!!
道重さんがどこで今何をしているかということだけ!!夢?いったいなんの話!?」


どうしてこのシロフクロウが人の口を利くのか、という非常識な問題はこの際だ、
気にしないことにしよう。非常識な目にはこれまでもいっぱいあってきているし。

でもッ!!ハッキリさせなければならないことがある!!!

どうして私も知らないような道重さんの赤裸々なプライベートをこのシロフクロウが
しっかりと知っているのか?
なぜ道重さんと同じような口調で話すのか・・・・!!!

スタンド・・・・・さっきスタンドという単語を使ったな・・・・コイツは・・・・

だとすると、このシロフクロウは・・・・・!!!!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


698 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:00:42.31 0


『だから夢を見ているっつってるの。わたしは眠るための手伝いをしているだけ・・・・・
要は案内人なの。永遠に崩れることのない現実へ行くためのね』

「言っている意味がわからない・・・・・そもそもきみが何故、そんなことをしていると
いうのか・・・・・道重さんはどこ?彼女を眠らせてどうするの??」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

シロフクロウは黙っていた。
何か答えられないワケでもあるのだろうか?
・・・・・・何か疚しいことでもあるからじゃあないのか!?

「答えて!!それにきみは幸せな夢と言った・・・・・どうして夢の内容がわかるの!?
怖い夢かも知れないし、ドキドキする夢かも知れないじゃないか!!!」

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

こいつ・・・・どうして何も答えないんだ?
先ほどまでベラベラと喋っていたシロフクロウの突然の沈黙・・・・・
な、なんだ・・・・・得も知れぬ悪寒が・・・・・

『彼女が幸せでわたしも傷が治るのだからそれでいいと思うの』

「なんだって?」

『彼女は幸せな夢を見る。わたしはその夢をもらう。これは共存なの。
困った時はお互い様ってね・・・・これは人間の言葉なの』


夢を『もらう』・・・・?


699 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:06:19.41 0

「ちょっと待って、言ってる意味がわからな・・・・」
『だーッもう。めんどくせーガキなの。「バクタリ」ッ』


ドギュウウウウウウウウウウウウンンン!!!!

突然、言葉遣いの荒っぽくなったシロフクロウの背後に、その何倍もの大きさの
黒い物体が出現した。
あれは・・・・・知っているッ!!!
黒くて大きな身体!!のっそりとした顔つき!!そして・・・・・上唇と繋がった長い鼻!!
動物図鑑で見たことがあるぞ・・・・・確か『バク』っていう生き物じゃなかったか・・・?
全身に装飾品をあしらっているが・・・・間違いない!!!

「やっぱり・・・・・スタンド使い!!!!」

『いかにもッ!!わたしはスタンド使いなの・・・・でも勘違いはしないで欲しいの。
あくまでわたしは幸福を望む女・・・・・それは自分だけじゃなく、他の生き物の幸せだって
願っている・・・・・でも、生きるために必要なことだってあるの』

「必要なこと・・・・・?」

『そう、それは生き残るために喰らうことッ!!・・・・・わたしの命は、あの時獲物として
捉えたウサギの足を一本もいだだけで返り討ちにされてしまった時点で普通なら死ぬ
運命にあったの・・・・・けどッ!!!わたしには昔から力があったの!!生き残るための
力と、他者に幸せな夢を見せる力・・・・両方を兼ね揃えた力がね・・・・・ッ!!!!』

生き残るための力と他者に幸せな夢を見せる力・・・・・
それがこのシロフクロウのスタンド能力なのか・・・・!?
このバク型のスタンドの・・・・・・ん、バク型のスタンド・・・・?
バク・・・・夢・・・・・生き残るために・・・・・って・・・・・・
・・・・・・・・・・ちょっと待て!!


700 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:10:49.27 0


「まさか・・・・・まさかそのスタンドは・・・・・ッ!!!!!」


『幸福な夢ほど、本当に傷の治りが早いの・・・・・』



なんだか謎が解けたような気がした。

なぜこのシロフクロウが道重さんの口調で話すのか、どうして道重さんの
プライベートを把握しているのか。

バクが夢を食べる・・・・・有名な話じゃあないか!!

つまりこいつは・・・・・・・



道重さんの夢を食っている!!!



夢とはいわば人の心の一部・・・・・深層心理の一部だ!!

それを食われ続けると、人はどうなるっていうんだ・・・・・・・・!!?



701 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:14:48.01 0


「ふ、ふざけないでよーッ!!バクってのは悪夢を食べる生き物のハズッ!!
幸せな夢を食べるなんて・・・・・きみは悪人じゃないかーッ!!!」

『悪夢は嫌いなの・・・・・お腹壊すから』

「道重さんはどこだッ!!!!」

『居場所を聞いてどうするつもりなの?』

「連れて帰る!!」

『何を言っているの?ダメなの、彼女はいま夢を見ているの。夜になったら
覚めてしまう夢をね・・・・・最も、わたしが他のフクロウと同じように夜行性なら
夜も夢を見せてあげられるのだけれど』

「夢だって?そんなもの道重さんには必要ないねッ!!!」

『それはあなたが決めることではないの、ミス・小春。現に彼女は夢の世界を
望んでいる。だからこうしてわたしの前に現れるの。この小道にやってくるの』

「勝手なこと・・・・・・言わないで!!道重さんは前を向いて歩いている人だ・・・・・
未来の輝きを信じて歩いている人だッ!!仮初めの幸せしか存在しない夢の中に
浸るわけがない!現実を放っておくわけがない!」

『現実?夢って言うのはね、覚めて初めて夢だと気がつくものなの。夢の中では
そこがその時の自分にとっての現実。夢から覚めなければ、夢は現実の世界なの。
彼女が夢を望んでいると言い切れるのはそこ。彼女はいつも逃げるようにここへ
現れるの・・・・・今日だってそうだった・・・・初めて彼女と出会ったあの日からずっとね』



702 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:17:58.84 0


「きみはやっぱり悪だ・・・・・・・人の弱みにつけこんで・・・・・小春はそんな話、
絶対に認めないッ!!!!」

『なんとでも言えばいいの。わたしは彼女に幸せな時間を与えている・・・・
それは決して揺るぎようのない事実!!』



サアァァァァァァァァァ・・・・・・・・



その時、周囲の異変に気付いた。
なんだか霧が増してきたような・・・・・
それに・・・・なんだか睡魔が・・・・・


「な、なんだ・・・・・・急に瞼が重く・・・・・・・ッ!!」


『あんた、頭脳がマヌケなの。わたしがスタンドを意味もなく見せるわけが
ないでしょう?でも安心していいの。わたしは幸せを願うフクロウ、あなたも
きっと幸せになれる・・・・・・・・わたしの能力は一人までだから、あの子は目を覚まして
しまうだろうけど・・・・・幸せは平等であるべきなの。だから今は・・・・・あなたがわたしの
幸せな夢の中で・・・・・おやすみなさい』



703 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/06(土) 10:22:56.96 0


バクの身体から白い霧が微かだが噴出しているのが見えた。
や、やばい・・・なんてことだ・・・
私としたことが・・・・・ヤツの術中にこんなにもアッサリとかかってしまうなんて・・・!!
今の会話は時間稼ぎだったの・・・・・?霧をたちこませるための・・・・・・!!

でも・・・・これで道重さんが目を覚ますというのなら・・・・・


「ミラクル・・・・・・ビス・・・・・・ケッツ・・・・・・・・」


あとはお願い・・・・・・・
もし道重さんを見つけられたなら・・・・・・これを・・・返し・・・・・・・・・


シーン・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・


『眠ったようなの・・・・・あらあら、夢の中でもあの子を探しているのね。
儚い夢だこと・・・・・「人」の「夢」と書いて「儚い」・・・・よく言ったものなの。
・・・・・・・・・・・・うふふ・・・・・・・・・美味しそう・・・・・・・!!!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!



39 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 06:52:34.85 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


視界が黄色く染まっていく。
目の前にいたお姉ちゃんは消え、この腕の中にしっかりと抱いていたハズの
レミーちゃんの重みも消えてしまったの。

もうお終い・・・・・・?
今日もこれでバイバイなの?

いい加減、こんな毎日イヤなの。なんとかしてお姉ちゃん達のいる世界に
い続ける方法はないんだろうか・・・・・
いつもと同じ、大きな桜のきりかぶの上に座っていたさゆみは空を見上げた。

・・・・・・・とても明るいの。

緑で覆われてるけど、隙間から差しこむ光はまだ明るいの。
お天道様は頑張っているようだし、夜はまだ来てない・・・・・・
まだお姉ちゃん達と会える時間なの!!!


「少しでも時間があるというのなら・・・・・ほんの一秒でも長く、さゆみは向こうの
世界にいたい・・・ッ!!!!」


そういえば、あのフクロウさんがいない。
北の街からきたシロフクロウさんが・・・・・・どこへいったんだろう?
いつもならさゆみの側にいてくれるのに・・・・・・



40 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 06:53:53.20 0


シロフクロウさんと出会ったのはちょうど一週間前なの。
野犬かなんかに襲われたのか、さゆみの家の庭に血だらけで倒れてて・・・・・
最初は死んじゃってるのかと思った。
でも、傷にお薬塗ってあげたら二日ぐらいで元気になってねー。
人になれてしまう前に・・・・・・ううん、シロフクロウさんに情がうつってしまう前に、
さゆみは木がたくさん生えているこの小道に放してあげたの。

その時なの、あのフクロウさんが人の言葉を喋ったのは・・・・・すごく優しい口調だった。

最初はビックリしたけど、シロフクロウさんは「恩返しに幸せな夢を見せて
あげたい」と言って・・・・・・それから先のことはよく覚えてない。

でも、これだけは言えるの。
シロフクロウさんがさゆみに見せてくれる夢はとても暖かくて、そして・・・・・
とても夢だとは思えないほど現実味があったの。
夢・・・・・・いや、違う。あれは夢なんかじゃあないの!!!
あれは現実なの・・・・・お姉ちゃんの生きている現実ッ!!!!


・・・・・・・・・・・シロフクロウさんを探しに行くの。


そしてさゆみは・・・・・・・さゆみはお姉ちゃんと・・・・・・・・
お姉ちゃん達と・・・・・・・!!!!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


41 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 06:56:29.03 0


・・・・・・・・・・・・・・なんだ、ここは?

小春はこんなところで何をしているんだ?
見たことのない建物、歩いた事のない歩道・・・・・・どうして小春はこんなところに・・・・
ここはどこなんだろう。人がたくさんいるな・・・・・

そうだ、道重さんはどこだ?

私はあの人を捜していたんじゃなかったっけ?
うん、そうだ!!道重さんを捜していたんだ!!!



「道重さーん!!」

さーん!!さーん!サーン・・・・・・・・・



初めて訪れた町中(というかいつの間にかそこにいたのだけど)で、
私は人目を気にすることなく彼女の名を叫ぶ。



「道重さーん!!どこですかーッ!!!」

ですかーッ!!すかーッ!スカーッ・・・・・・・・・・・・



42 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 06:58:09.36 0


私の声が虚しく辺りに木霊した。
ここがどこだか知らないけど、どこかにいるはずなんだ。
そーいえば、なんで小春は道重さんを探しているんだっけ?


・・・・・あれ?思い出せないぞ・・・・・・?


まぁなんでもいいか・・・・・おおかた迷子にでもなったんだろう。
小春がじゃなくて、道重さんがね。
まったく手がかかるんだからなァ〜・・・・・・


「道重さあぁぁん・・・・・・あッ!!!」


彼女を呼び続けてからしばらくして、私はようやくその姿を見つけた。
あの後姿は間違いない。

「道重さーん!!よーやく見つけ・・・・・」

ところが言い終わるより早く!!
道重さんは私から逃げ出すように走り出したんだ!!
な、な・・・・・なんだっていうんだ!?

「み、道重さん!!どこへ・・・・・ま、待って下さーいッ!!」



43 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:00:26.40 0


私の呼びかけを無視して、彼女は人ごみの中を器用に逆走し、抜けていく。
逆に私の方はというと、道行く人に邪魔されてうまく進むことができない。
中には、どういうつもりなのか私の身体をおさえている輩までいた。

「ど、どいてよ・・・・みんな!!小春を前へ出させて・・・・・道重さんを
追いかけなきゃならないんだッ!!そこをどいてよーッ!!!!」

私は邪魔な人達を力づくで押しのけて前へ進む。
なんだ・・・・・?なんでこんなに私は焦っているのだろう・・・・・?
ここで追いつけなければ私は永遠に道重さんを失ってしまう・・・・そんな気がした。


「ハァ・・・・ハァ・・・・・道重さん・・・・・・!!!」

なんとか彼女の姿を見失わずにすんだ私は、さらに道重さんを追いかける。
どうして逃げるんだ・・・・・待ってくれ!!
小春を置いていかないでくれーッ!!!
見たことのない踏切を渡り、見知らぬ商店街を抜け、坂道を駆け上がり・・・・・
そして気付くと、その景色は道端に綺麗な花を咲かせた杜王町に変わっていた。
さっきまで小春たちはどこにいたんだろう・・・・・まぁいいや。
私は一気に道重さんとの距離を縮めると、勢いよく彼女の背中に飛びつく。


ガシィ!!!!!!!!!

「つかまえましたァーッ!!!」


なんだかすごく気分がハイだ。
やっと・・・・やっとこの人を・・・・・・・


44 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:03:44.73 0


「・・・・・・・・うっ・・・・うぅっ・・・・・・・・・・!!!」


ど、どうした・・・・どうしたんだッ私は!?
なんでこんな顔をしてるんだ・・・・・・こういうときにする表情ってのは
こういうものじゃないはずだ。


なのに・・・・・どうして小春は泣いている?



「うぅ〜・・・・・・ッ!!!!」



もはや自然現象のようであった。止めようがない。
滝のように流れ始める涙は限界を知らなかった。

そしてその次に、私はこんなセリフを吐く。


「どこにも行かないで下さい・・・・・行かないで・・・・・・行っちゃやだ!!!」




45 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:05:16.59 0


ど、どうして私はこんなことを・・・・・?
しかし、さっきまで何も考えていなかった私が急に彼女を恋しく感じたのは確かだ。
道重さんに回す腕の力が強くなる・・・・腰骨を砕くほどの勢いだ。
強く抱きついてるハズなのに、なぜか簡単に振り向いた道重さんは、


「よぉしよし、なの」


と言って、まるで子供をあやすかのように小春の頭を撫でた。

普段の私だったらすぐに「なにをバカな」と言って手を払うところだが・・・・・・
どういうわけか、すごく心地がいいものに感じた。

なんだか道重さんに甘えたくなってきた・・・・・もう、何もかも疲れた・・・・・・

私は全体重を彼女に預ける。


ドッ・・・・・・



ああ・・・・なんだかいい匂いがする・・・・・・・・

あったかいなぁ・・・・・手のかかる姉だなんて思ってけど、やっぱり年上のお姉さんだな。

背も大きいし、つつみこまれている気分だ。

この優しいぬくもり・・・・・・・・・・小春はいま、最高に『幸せ』です・・・・・


46 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:07:03.06 0


バリッ・・・・・・・・・・バリッ・・・・・・・・・・・・・


やっぱり道重さんから見れば、小春は手のかかる妹なのかな。

ま、それでもいっか・・・・・

小春はすごく『幸せ』だし、道重さんもそう思っているはず・・・・・



バリッ・・・・・・・バリィッ・・・・・・・・・・・・・・



なんかお煎餅を食べてるような音が聞こえるけど、どーでもいいや。
この時間・・・・このあたたかさ・・・・・私の身体を癒すように回してくれている
彼女の腕の中は心地よすぎて溶けてしまいそうだ。

あー、なんかもういろいろマンドクセ。

ずっとこのままでいたい。


バリッ・・・・・・・・バリバリッ・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・あそこにいるのはなんだろう?

黒いなぁ・・・・おっきな動物・・・・・・・・・・・・・


47 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:08:11.12 0



・・・・・・・・・・・・・ん?



なんだか見たことがあるな・・・・・動物・・・・・つけてる装飾品も・・・・・

どこかで見たな・・・・・どこかで・・・・・・確かに・・・・・・・



バリッ・・・・・・・・バリッ・・・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・ハッ!!!!!!」


あれは・・・・・・バクだ・・・・・!!
草の茂みに顔を突っ込んでいる・・・・・何かを食べてるみたいだけど・・・・

バク・・・・黒いバク・・・・・



・・・・・・・・・って・・・・・・・ちょっと待て!!!!


48 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:10:20.15 0


ガバアアアアアアアアッ!!!!!!!!!

私は身体を預けていた道重さんを思いっきり突き飛ばした。
突き飛ばしたはずなのに、道重さんはちょっと後ずさっただけで表情を変えていなかった。
そんなことより、あのバクは見たことがある・・・・・いや、ついさっきまで見ていた!!!

・・・・・・・そうか!!

思い出したぞ・・・・・小春は道重さんを追いかけて国見峠霊園に来ていたんだ!
小春も道重さんも、こんな町中にいるわけがないッ!!!


バリッ・・・・・・・・バリッ・・・・・・・・・・・


バクはがむしゃら何かを食べ続けている。
わ、私としたことが・・・・・・夢の世界に陶酔しきってしまうなんて・・・・・
夢・・・・そうだ、ここは夢の中なんだ。
ほら、ほっぺをつねってみたけど痛くも痒くもない!!
・・・・・あのシロフクロウに眠らされてしまったんだな・・・・・小春は・・・・・
夢だけによくわからない展開だったけど、すごぉく幸せを感じた夢だったな・・・・
あのぬくもり・・・・なんだかクセになりそうだ。

・・・・・・・・・・待てよ。

あのシロフクロウに眠らされて、いま幸せな夢を見ているってことは・・・・・
ま、まさか・・・・・・あのバクが食べているのは・・・・・・ッ!!?


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・


49 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:13:23.40 0


ガオン!!!!

「うッ!!!!!!!」


突如、何の脈絡もなく胸の中に衝撃が走る!!
痛くはない・・・・けど、何かがなくなったような・・・・・・


ガオン!!!!

「うげッ!!!!!!!!」


私は思わずヒザをついてしまった。
ち、力が抜ける・・・・・・心が・・・・カラッポになっていくみたいだ!!
なんなんだ突然ッ!?


ガオン!!!!

「ぎゃああああああッ!!!!」


私は思わず地面に頭を突いてしまった。
コンクリートの地面はとても柔らかくて生温かった。


50 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:15:41.89 0

スゥゥーッ・・・・・・・・・


バクが音もなく私のほうへとゆっくりとすべり近寄ってくる。
目の前にいたはずの道重さんは、どこにもいなくなっていた。
それだけじゃあない。
景色は、まるで虫に食われたかのように穴だらけだ。

「ひ・・・・・・・っ」


夢を・・・・・・食べているのか?

私の夢を食べているから・・・・・・景色が穴だらけになっているのか?

空も、地面も穴だらけ。

道端に咲いていた花はとっくに枯れている。

私が夢だと気がついたから・・・・・・バクは近付いてくるのかァーッ!?


黒いバクはすぐそこまで来ていた。
徐々にこちらへと近寄りながら、バクは何かを口にしようと鼻を動かす。

い、いやだ・・・・・やめてくれ・・・・・・・・やめて!!!!


ガオン!!!!

「ごォ・・・・・ッ!!!!!!!!」


51 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/08(月) 07:19:45.09 0



こ、小春は・・・・・どうなってしまうんだ?

コイツ、近付いてきて何をしようというんだ・・・・・!?


「ハァ・・・・・・ハァーッ!!!!」

『クン!クンクン!!』


は、鼻を鳴らしているゥーッ!!まだ食べる気なのか!?

小春の夢を・・・・・心の中を!!!

あと何回!!小春は夢を食べられてしまうんだ!?


小春は・・・・・・小春はッ!!!



「小春のそばに近寄るなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」




ガオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンン!!!!


158 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:13:31.90 0


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はッ!!!!!!!!!!」


まるで階段から滑り落ちたときのような感覚を覚え、
私はこの現状に気がついた。
目の前には茶色の落ち葉が広がっている。
身体を横たえていた地面は固いものであった。


「ゆ、夢・・・・・そうか、夢だったんだよな、今のは・・・・・・・・」


夢の中で『これは夢だ』と認識した私はバク型のスタンドに迫られて、
情けない声をあげたんだ。

しかし、よく目を覚ませたものだ。
スタンド能力で眠らされたというのに・・・・・

いったいどれくらいの間、夢の世界に身を委ねていたんだろう。

そうだ、あのシロフクロウはどうしたんだ?


159 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:15:43.54 0

『おはようございます』

頭上から女の声が聞こえる。
あのシロフクロウだ!!

『お目覚めですね』

「なぜ・・・・・?なぜ小春を夢の世界から開放した?」

『あなたの夢、とくと拝見させていただきました。あなたの幸せというのは
目を見張るものがありますね、ミス・小春・・・・・血の繋がった姉がいるのに、
それと同じくらい・・・・いや、それ以上にあなたはあの子を本気で慕っているッ!!
100%分かり合えない他人に対して、これはすごいことですね!!私の傷も、
また少しですが癒されました』

「そんなことは聞いていないッ!!どうして小春を現実の世界に
引き戻したのかと聞いている!!!」

私はシロフクロウを怒鳴りつけた。
それと同時に、シロフクロウの口調がさっきと違うものに変わっていることが
気になったが、今はそんなことどうでもいい。
そしてヤツは答えた。

『あの子が私を求めているからです』

「なに?」

『先ほども述べたように、私の能力は一度に一人しか向こうの世界へ誘うことが
できないんです。あなたを向こうの世界へと連れて行ったと同時にあの子は
こちらの世界に戻ってきてしまった・・・・・目を覚ました彼女は私を求めているんです。
あなたにも幸せになって欲しいですが、今はあの子の方が重要なんです』


160 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:17:29.53 0


ザッ・・・・・ザッ・・・・・ザッ・・・・・ザッ・・・・・・・


『ほら、あなたにも聞こえているンじゃあないんですか?あの子の彷徨う足音が・・・
ふふ・・・・・・・手のかかる人だ・・・・・・』


ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・・・


落ち葉を蹴り、踏みしめる音がどんどん近くなってくる。
まるで導かれているように、こちらにやってくる!!
探していたはずの彼女は、向こうからやってきたのだった。


「・・・・・・・小春ちゃん?どうしてここに・・・・・」

「道重・・・・さん」


なんてひどい再会だ。
さっきまで同じ学校にいた二人が・・・・方や地面の土ぼこりで頬や制服を汚し、
もう一方は虚ろな瞳で向こうの木に寄りかかっているのだから。
どうやらビスケッツのみんなは彼女を探し出すことは出来なかったらしい。

『これでわかったでしょう?ミス・小春・・・・彼女は私を求めている・・・・・
夢という名のもう一つの現実を欲しているッ!!彼女の事を思うのなら!!
大事に思うのならッ!!!静かに見守っていることですね!!!!』


161 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:19:30.09 0

ドギュウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!

目の前に出現した黒い塊に、一瞬ではあるがドキッとさせられてしまう。
私の夢の中で、その世界を食い荒らそうとしていたバクだ・・・・・
バクは道重さんのほうに身体を向けていた。

『お姉さんに会いたいのですか?』

「会いたいの」

『それならいつもの場所に戻りましょう。ここで向こうの世界に行ってしまったら、
この子のように服も、白くて綺麗な顔も、ドロで汚れてしまいますから』

シロフクロウに言われ、道重さんは抜け殻のような表情で来た道を振り返った。
幸せ・・・・・・彼女の幸せを願うなら、私がとる行動はただ一つだ。


「道重さん待ってくださいッ!!!!!」

私が叫ぶと、道重さんはまるで活力のない動きでこちらを振り返る。
まるで何も考えていないようにしか見えない。
だから・・・・・目を覚ませなくてはならない!!!

「経験・・・・・・そう、経験です。道重さん、あなたはいつか言っていましたね。
遠回りも回り道も、その経験すら自分のものにしてみせる・・・・と。あなたの考え方は
まったくもって正しい」

『・・・・・・・なにを言ってるの?あなたは・・・・・』

シロフクロウが何か言っているが、そんなもん無視だ。
私は今、道重さんに話しているんだ!!


162 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:21:18.37 0


「あなたが向こうの世界へ遊びに行く前に言っておきますッ!!私はいま、
コイツのスタンドをほんのちょっぴりですが経験した!!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「そう、経験したんですよ・・・・・・・ありのまま今起こった事を話します!
『あなたをつかまえたと思ったら、その世界をこのバクに食われていた』」

「・・・・・・・・・・・?」

「何を言ってるのかわからないと思いますが、私も何をされているのか
わかりませんでした・・・・・ただ、その世界が作られたものだと気付いた私は、
このバクに襲われたんですよ!!!」

道重さんが首を傾げた。
どうやら私の言っていることを理解していないようである。

「あなたの夢の中にも出てきているハズなんです!!このバクはッ!!!!
あなたの幸せな夢を食べているんですよ!!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・バク・・・・・夢・・・・・・わ、わからないの・・・・・・さゆみが
見ているのは夢なんかじゃ・・・うん、夢なんかじゃあないはずだもの・・・・・・」

「・・・・・・・・・そしてもう一つ、わかったことがあります・・・・・・」


私は突き立てた人差し指を道重さんに向けた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


163 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:23:35.36 0


そして突き立てた指の先を、そのままシロフクロウへと向ける!!


「こいつの食っているものは夢だけじゃあないッ!!私達の心ごと食い散らかして
いるんです!!!道重さん、あなたの様子がおかしくなった理由がようやく
わかりましたよ・・・・私もバクに夢を食われるという経験をしてよかった・・・・・・
本当によかったです・・・・・・・・」


夢の世界で幸せな気分に浸っているとき、何度か『どーでもいい』という
気持ちが生まれた。
恐らくバクが夢と一緒に心を食っていたからだろう。
心を食われた人間はどうなるのか?
きっと活力も覇気も何もないフヌケと化してしまうに違いない。
私が夢の中で受けた苦痛は、現実を生きる糧を食われる感覚だったのではないだろうか。
痛くはないけど、何かが欠けて行く様な感覚・・・・・うん、きっとそうだ!!


「もし、向こうの世界がどうしてもいいと言うのなら・・・・私にはあなたを止めることは
もう出来ない・・・・・でもコレだけは言えるッ!!!あなたが他人に作られて用意された
幸せを選んだその時!!あなたはあなた自身が持っている未来行きの切符を
破棄したことになりますね!!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


164 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:25:36.17 0


「は、破棄・・・・・?」

「えぇ・・・・・あなたは自分の力で生きるということが出来ないという
ことですからね・・・・・幸せとは自らの手でつかみ取るものッ!!!!
過去に幸せを求めて立ち止まるなんて愚かです!!目の前には自分で
作り上げることのできる未来が待っているというのに!!」

「過去は幸せなの・・・・・でも未来には決してさゆみが求めている
幸せは存在しないの・・・・・ッ」

「あなたの幸せはたった一つだけですか?あなたには夢がある・・・・
将来の夢がそこあるのなら!!現実に覚悟することは簡単なハズですよ!!
覚悟・・・・・・小春は出来てます・・・・・・・!!『若かったあの日』といつか笑えるような
毎日を過ごしたいですから・・・・・」

私は道重さんの瞳を見つめた。
彼女もまた、私から視線を逸らさない。
それでも夢の世界を求めるというのなら、もう私に出来ることはない。
だが、彼女はそんな弱い人間ではない。
逃避を求めるような人間ではないッ!!
きっと自分を取り戻してくれるはずだ・・・・・・


・・・・・そうして、思考をそちらにしか回していない私はバカであった。



165 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:27:20.38 0


ドゴォッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


一瞬、なにが起きたのかわからなかった。
「うぐぇ」という勝手に絞り出た自分の声の後に、ジワジワと腹部に現れた鈍痛。
その正体はなんなのか・・・・答えは考える間でもなかった。

『随分と私を放っておいた会話をするんですね・・・・・・いいですか?
私は幸せを願っています。ですがこの世界にはどうしようもないことだってあると
言ったはずですよ・・・・・?』

バクが・・・・・バクのスタンドが私の身体に体当たりを・・・・・?
し、しまった・・・・・夢を見せるという能力ばかりが気になって、直接的な攻撃も
できるだなんて思いもしなかった。
迂闊だったんだ、私は。

「こ、小春ちゃん!!」

『生きるために喰らうこと・・・・私だって生き物です。なにも食べなければ
死んでしまいます。そして、私は生きているウサギやネズミ以外に夢を食べることが
できる・・・・・・・この「バクタリ」でね!!!』


ドガッ!!!!!!!!!


「げぇーッ!!!!」

な、なんてパワーだ・・・・・・その勢いに尻餅をついてしまう。
い、いたいッ!!お腹に強烈なパンチをもらった気分だ。


166 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:28:59.12 0


『誰かを幸せにするということは!その前提で自らが幸せにならなければ
ならないんですよ!!私の瀕死だった身体はこの子の夢の栄養で癒され、
この子もまた幸せな世界に浸ることができた!!』


ゴズッ!!!!!


「ごはっ!!」

ま、まずいぞ・・・・・・思ったより重い打撃だ・・・・・・
び・・・・ビスケッツを戻さねば・・・・・ッ!!!

『幸せ!!そうッ幸せならなんでもいいじゃあないかァー!!後がどうなろうと、
幸せな世界に浸り続けることができるのなら、例えこちらの世界で抜け殻のように
なってしまったとしても、向こうの世界では永遠に幸せでいられるんですから!!!』


ゴキッ!!!


「お・・・・お・・・・・・・ッ」

シロフクロウが何か言っているようだが、意識が朦朧としてきて
もはや耳には入ってこない。

苦しい・・・・・・・・!!!!



167 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:32:41.10 0


『幸せを邪魔するものは消えてしまえ!!』


「小春ちゃん・・・・・ッ!!!シロフクロウさん、ちょっと待っ・・・・・」


『この子の幸せを邪魔する権利など誰もないんです!!』


「う・・・・・・うぅ・・・・・小春ちゃん・・・・・・シロフクロウさん・・・・・・・・」



道重さんが頭を抱え込んでヒザをついてしまったのが見えた。
暴れるバクの猛攻は止まらない。
倒れた私の身体にバクがその重たい巨体を圧し掛けてくる。

い、息が・・・・!!!


「く・・・・・・ハゥ・・・・・ッ!!」



希望は・・・・・希望はないのか・・・・・・・・・




168 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/12(金) 07:33:54.11 0


「み、道重さん・・・・・助け・・・て・・・」


声にならない声を口にしたその時。



ドカン・・・・・・・・・・






バッキィィィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!!!







『くは!!!!!!』


骨まで響くような振動を立てて、シロフクロウのバク型スタンドは
吹っ飛ばされ、私から離れていったのだ!!!!


ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:13:00.41 0


『ヤレーッ!!チクショォーッッッ!!!!!』

聞きなれた声が響き渡る。
この荒っぽい口調は間違いない、ビスケッツのNo.3だ。
No.3はいったい何を・・・・・?


「小春がしげさんを追いかけるってとこまでは予想してたが・・・・・・」


!!

さらに続いた声に、私はハッとなる。
そうか・・・・・・バクをふっ飛ばして私を助けてくれたのは・・・・・・

「部室の窓から校門を眺めてみりゃあ、ビスケッツを出してまで
追いかけようとしてるんだもんなぁ・・・・」

『ハァ・・・・ハァ・・・・・い、いたい・・・・・・あなた、誰ですか?なんと荒っぽい・・・・・』

シロフクロウはスタンドのダメージを受け、地面に墜落してしまった身体を
ようやく持ち上げて彼に言った。

「俺かい?俺は演劇部の部長謙サッカー部のエース、吉澤ひとみさ。
・・・・・・つーか、まぁなんだ。鳥が喋ってるってことに俺は驚いた方がいいのか?
それともスタンド使いだったらなんでもアリってことで納得したらいいのか?
・・・・・・なぁ、こんこんはどう思う?」


ドドン!!!


205 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:14:58.02 0


「そうですね・・・・・理論上はありえない事です。今まで動物のスタンド使いの
事例は人伝に聞いたことが多々ありますけど、どれも人の言葉を口にするなんて
話は聞いていませんし・・・・・」


こ、紺野さんまで!!
いったいどういうことだ・・・・・凄く嬉しいけど、どうしてこの二人がここにいる!?
それもジャージ姿のまんまで!!!
そんな私の疑問を、ミラクル・ビスケッツのNo.3が感じ取ったのか答えてくれた。


『さゆみんを探シテ霊園ノアタリヲうろうろシテル時に、俺ガ見ツケタンダ!!
ドウヤラ俺らに頼ッテマデさゆみんを探シテル小春に疑問ヲ持ッテ、追イカケテ
来タラシイゼーッ!!!』

「ここまで辿り着くのはめちゃくちゃ大変だったよ・・・・・こんこんが『トラサルディー』の
店長と知り合いじゃなけりゃあ霊園にすら辿り着いてないからな」

「偶然が重なっただけですよ。西の方へ向かったのはわかっていましたし・・・・・
たまたま水撒きをしていたトニオさんが『霊園の方へ向かう二人の女子中学生』を
見かけていてくれたおかげなんです」


3人の会話のような説明を聞き、私は状況を把握した。
そうして感じたことはただ一つ。

希望は・・・・・・希望はあるんだ!!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!


206 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:17:11.50 0


『俺以外のミンナもジキニ戻ッテクルゼ!!コハルゥーッ!!!!!!!』

「そう・・・・・それはよか・・・・・ッ」

言いながらなんとか身体を起こそうとするも、耐え間なかった生身への攻撃の
ダメージが重く圧し掛かり、私はすぐに態勢を崩し倒れかけてしまう。
動けない・・・・・・・ッ。

バシィ!!!!

そんな私の背中を倒れないように支えてくれたのは他でもない。
吉澤さんだった。

「やれやれ・・・・・主役の小春がこれじゃあ今日の練習はもう無理そうだな。
せっかくミキティが反省して部室の後片付けをしてくれてるってのに・・・・・・」

「す、すみません・・・・・」

「・・・・・・・しかしよく頑張ったな。お前の行動がなけりゃあ、みんな何も気付かない
まんまだったんだからさ。お前は俺たちに真実の道を明るく照らしてくれた!!!」

そう言うと吉澤さんは真っ直ぐな瞳で正面を見据えた。
視線の先にいるのはシロフクロウ・・・・ではなく、道重さんだ。

「しげさん!!こんなとこで油売ってないで学校に戻るぞ!!!
ミキティには俺からよぉ〜く言っておいたから何も心配するこたぁねー!!
あいつも言いすぎたっつって反省しているッ!!!」

「そもそも・・・・この現状を見る限りじゃあさゆみんは何も悪くなさそうですしね。
さぁ、顔をあげて。みんな待ってますよ」


207 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:19:04.52 0


二人の先輩は道重さんに優しい言葉をかけた。
しかし・・・・道重さんは顔をあげてくれない。
両手両膝を地に付き、頭を垂れているだけだった。


『あなた方が何を言おうと無駄ですよ・・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・彼女は・・・・・ハァ・・・・
向こうの世界を望んでいる・・・・・・幸せを望んでいるッ!!!ハァ・・・・ハァ・・・・
彼女の真実の幸せはこちらの世界には存在しないんだ・・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・
彼女がッ!!求める限りッ!!!私には彼女を幸せにする義務があるッ!!!
ハァ・・・・ハァ・・・・・まったく・・・・手のかかる人だ・・・・・・ッ』


そう言って、シロフクロウは吐血した。
吉澤さんがバクを吹っ飛ばす際に与えた衝撃は、シロフクロウが負っていた怪我を
開いてしまったようだ。
外部に傷がないことから、もともと内蔵にダメージでもあったのだろう。


「なんだか小春みてーな口調で語ってるけどよ・・・・・そんなもん、テメー勝手な
理屈じゃあないのか?幸せがどうとかいったい何の話だか知らねーが、
しげさんは俺たちの仲間なんでね。連れて帰らせてもらう・・・・・・・」

『そんなことは・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・させませんよ・・・・・・誰であろうと・・・・・
彼女の幸せを邪魔することは許されない・・・・・・・・ッ!!!!』



208 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:21:22.11 0


シロフクロウが笑ったような表情を浮かべると、吹っ飛ばされて倒れていた
バクがノソリと立ち上がった。
バクは私を抱えた吉澤さんを睨んでいるようだ。


「こんこんッ!!小春を頼む!!!!」


手早く私の身体を紺野さんに預けると、吉澤さんはバクに向かって走り出す!!
スタンド・・・・『Mr.ムーンライト』を発現させて!!!


「よくも俺の可愛い後輩を・・・・・小春を痛めつけたなあぁぁッ!!!」

『ひっ!!!!!』


シロフクロウは毛を逆立てて目を見開いた。
・・・・・うろたえているのか?
迫り来る吉澤さんに・・・・・恐怖しているのか??
どうやら紺野さんも何かに感づいたようだが・・・・・・・


「蹴り殺してやるッ!!このド畜生がァーッ!!!」

プッツン!



ドゴォッ!!!!!!!!!


209 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:22:30.64 0


『うごぇ!!!』


バクの腹を蹴り上げられたシロフクロウは、返ってきたダメージよって
宙へと浮かび上がる。


「キサマが悪いんだ!キサマがッ!!私を怒らせたのはキサマだッ!!
キサマが悪いんだ!!!!」


ドゴォ!バゴォ!!ドゴォ!!バゴォ!!!!



吉澤さんの蹴りのラッシュは止まらない。

あ、あれは・・・・・マジになっているぞ・・・・・・・

吉澤さんは今、自分の事を『私』と呼んだ!!
彼の一人称が変わるとき・・・・それは彼が本気になっていることを意味する!!!

あの藤本さんもボコボコになぶられたという話だ。

以前、カラスの能力で狂った吉澤さんを目の当たりにしたが、そのときと違って
いまは理性があってこの姿ということが恐ろしい。


210 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:23:46.84 0

「思い知れッ!!」


バキ!!


『くぅッ!!』

「どうだッ!!」


ゴシャ!!


『す・・・・ッ!!!』

「思い知れ!!」


バキ!!


『みぃーっ!!』

「どうだ!!」


ゴシャアアアアアアアアア!!!!!!


『こはッ!!!!!!!』


211 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:24:50.29 0


容赦ない連撃ッ!!
あのシロフクロウ・・・・死んでしまうぞ!!!!

ところがその時だ。


『バク・・・・・・・タ・・・・・・・リィ・・・・・・・ッ!!!』


弱々しい声でシロフクロウがそう口にすると、突然バクの身体に異変が
起きたではないか!!!



バシュ・・・・・ブシュウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!



212 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/13(土) 06:25:32.66 0


「なッ!!!!!」


狂っているようで理性はちゃんとあった吉澤さんも、一瞬警戒するが時はすでに遅かった。
バクの傷口から吹き出した白い粉が、彼を包んでしまったのだ!!
い、いや・・・・・粉なんかじゃあないッ!!!
小春は知っている!!あれは・・・・・あのスタンドが作り出した能力の霧だ!!!


「吉澤さんが・・・・・ま、まずいッ!!!!」

「小春ちゃん、どういうことです?」

「あ、あの霧は・・・・ヤツの世界への入り口!!!一度に一人しか誘えないけど、
絶対無敵の精神攻撃なんですーッ!!!」


あの霧を吸い込んで、術をかけられてしまったら・・・・いくら吉澤さんといえど・・・!!
そして、霧がはれて目に飛び込んできたものは!!!

四肢を伸ばして大地に倒れ伏してしまった吉澤さんの姿であった。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


273 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:00:50.51 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


雲一つない青空だ。
右手に持ったフルーツ牛乳はぬるかった。

ん、なんで俺はフルーツ牛乳なんか飲んでるんだろうな。
いつも清涼飲料水を飲んでいる俺がフルーツ牛乳などと可愛らしいもんを・・・・
誰かに見られたら恥ずかしいじゃあないか。
そんなことを思いつつ、ストローを咥える。


・・・・・・中身は麦茶かよ、なんだこりゃ。

ま、いっか。


そういえばここはどこだ?
見たこともない景色だな・・・・・・でも、ぶどうヶ丘高校の近くってこたぁ〜わかる。
・・・・・学校の近くにこんなベンチあったっけ?
まぁいいか、座り心地いいし。
咥えたストローを意味もなく齧ってみる。
そーいや誰かが『ストローを齧るヤツは欲求不満』だとか言っていたような気がする。


「よっすぃ〜♪」


背後から聞きなれた・・・・けど、懐かしい声が聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは・・・・・



274 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:03:21.02 0


「真希じゃないか」

俺の彼女だった。
あれ、そーいや復縁したんだっけ?
真希は俺の首に腕を回してくる。

「Hしよ☆」

「ぶっ!」

口に含んでいた麦茶を思わず吹き出す。
いきなり何を言い出すんだコイツは。

「おい、勘違いすんなよ。これはフルーツ牛乳に見えて中身は麦茶なんだ」

わけのわからない言い訳をする。
違うだろ、俺。


「つーかお前、どこに行っちまったんだよ。失踪しやがってよぉ・・・・・」

「ぽ?」

「一端の女子高生がすることじゃあねーよなぁ?」

「ってかさ、聞いて聞いて。今年はごとー達同じクラスらしいよ」


どこでそんな情報を入手したんだろう?
三年生は同じクラスか・・・・・嬉しいじゃねーか。


275 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:05:09.27 0

「よっすぃは進学?」

「考えてない。でもお前と一緒じゃあ受験勉強ちゃんと出来っかな?」

「一緒に留年しようよ〜」

「意味わかんない」


キーンコーンカーンコーン・・・・・・・・・


遠くでチャイムの鳴る音が聞こえた。

「おい、いまの午後の授業が始まるチャイムじゃあねーのか?」

そう言うと、真希は俺の首に腕を回したまま肩にあごを乗せてきた。
おいおい、なんだよ?

「真希、授業始まるぞ」

「そんなもの、ないぽ」

そうか、ないのか・・・・それはそれでいいかもしんねーな。
なんだかどうでもよくなってきた。このまま、まったりムードに
身を任せるのも正直悪くないかもな。

「なぁ、今日はこのまま部活もサボってS市でも行こう」

幸せだぜ・・・・・・
俺は世界一の幸せもんだよなぁ〜・・・・・そう思わない?


276 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:05:44.98 0








ガッツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!!!!!!!!!









277 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:07:07.74 0


「いってええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


いきなり真希に後ろからぶん殴られた!!
全然痛くないけど、いてぇ!!


「お、おまえいきなり何するン・・・・・」

腕を振り払って振り返ると、そこに真希はいなかった。
どーいうワケかはわからんが、立っていたのは石川だ。


「なんだよお前ッ。あれ、真希はどこ行った?」

「なによー!!この石川さんがわざわざ来てあげたのよ!愛想よくしなさいよッ!!」

「お前なんかに用はない、シッシッ!」

「そんなことより、あれを見て。ほら・・・・向こうで小春ちゃんが泣いているわ。
転んで足を挫いたんですって。助けてやんなさいよ」



278 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:09:08.20 0


なにぃ〜?

小春はそんな程度で泣くようなヤツじゃあねーだろ。
だが向こうを眺めてみると、確かにスッ転んだまま泣いている小春がいた。


「大丈夫だって、小春にはしげさんがいるから。あ〜、なんかいろいろと
どーでもよくなってきたぜ。石川、隣座れよ。なんかについて熱く語ろうぜ」



メメタァ!!!!!!!



また後頭部に石川のゲンコツをもらった。

こ、コイツこんなヤツだったっけ・・・・・・・・・?

あぁ・・・・・・でも・・・・・・


なんか幸せだぜ・・・・・・・・・・・・・


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


279 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:11:21.09 0


その時、吉澤さんが目を覚ました。
いまの紺野さんの行動、正直驚いたな・・・・・・・私を座らせたかと思いきや、
突然紺野さんがスタンドを出し、さらにその右腕から先が消えたのだから。
そして倒れている吉澤さんの後頭部を二発も殴りつけたのだ!!
二発殴ったところで、吉澤さんはハッと頭を持ち上げた。
さっきからバサバサと羽をバタつかせていたシロフクロウと目があったようだ。

「う、うわあぁぁぁぁッ!!!Mr.ムーンライトッ!!!!!!」

焦っているような声をあげ、吉澤さんはスタンドの拳を振り上げる!!
両足が折れてしまって地面を蹴ることのできないシロフクロウの命運は、
もうないものと思えた・・・・・が!!


「バニシング・ポイント!!!」

ガキョンガキョン!!!!!!!!!!


その拳が、シロフクロウを叩き潰すことはなかった。
吉澤さんの鉄拳は、なぜかシロフクロウを避けて地面を叩いたのだ。

『うおぉッ!!』

「な、なにィーッ!!!?」

その瞬間、紺野さんが走り出す。
スタンド『ニューオーダー』の消えていた右腕は、いつの間にか元に戻っていた。


280 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:13:03.14 0


「こ、こんこん〜ッ!!?」

「どいて下さいッ!!!!!!」

一気に急接近してみせた紺野さんは、バタついているシロフクロウを
ガッシリと左手でつかむと、空高く放り投げたではないか!!!
だがシロフクロウが空へ行くことは不可能だ。
無数の木の枝が、その身体をシャットアウトするであろう。


『うわぁぁぁぁぁッ!!!!』

「ワールド・イン・モーション!!!!!!」


バキャァ!メキョォッ!バキュアォッ!バギバギバギィッ!


だが、そんな予想は見事に裏切られた。
・・・・・・本当にすごい光景だった。
紺野さんが叫ぶと、シロフクロウが飛ばされる先にあった木々の枝が、
バキバキと物凄い音を立てて歪み、折れてしまったのだ。
そうして緑一面だったはずの上の景色にポッカリと穴が開き・・・・・

シロフクロウはその穴から外へ飛び出し、羽ばたいて飛び去っていってしまった。



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


281 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:14:52.15 0


「なんでッ!?なんで逃がしたんだァーッ!!!こんこんッ!!!!」


突拍子もない紺野さんの行動に、吉澤さんが興奮して彼女の胸倉をつかむ。
納得がいかない・・・・そんな感じだった。


「こんこんーッ!!何とか言うんだ!!!」

「落ち着いて下さい・・・・怒りは冷静な判断力を奪うんです」

「なに・・・・?」

「ほら、肩の力を抜いて下さい・・・・・そう、リラックスリラックス・・・・」


紺野さんが胸倉をつかんでいる吉澤さんの震える手に
重ねるようにして右手を置く。
すると落ち着きを取り戻したのか、怒り肩だった吉澤さんの両肩が
ゆっくりと下がっていった。



282 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:16:18.66 0


「・・・・・どういうことだよ、こんこん」

「簡単に言ってしまえば、あの白いフクロウにはもう闘う気はなかったんですよ。
最も、初めから闘争心なんてなかったのかもしれませんけどね」

「そんなバカな・・・・・ヤツの妙な動物のスタンドから出た白いもん吸っちまったら
いきなり眠くなったんだぜ・・・・俺はよぉ。ありゃあスタンド攻撃に違いないんだ」

「えぇ、どうやらあれが白いフクロウのスタンド攻撃のようです」

「だろう?やっぱりあの鳥公には攻撃の意思があったのさ」

「ないです」

「お、おめーなぁ〜ッ!!」


吉澤さんが頭を掻き毟った。
まぁ無理もないだろう。
しかし、眠っていた吉澤さんにはわからなくて当然かもしれない。

そう・・・・だってあの時シロフクロウは・・・・・・



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


283 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:18:57.16 0


「白いフクロウは逃げようとしていただけなんですよ」


紺野さんが自らの能力でめちゃめちゃに破壊した上空の木の枝を見て言った。
そう、逃げようとしていただけなんだ。

「どういうことだよ?」

「あなたが能力で倒れてしまったあと・・・・・白いフクロウはただ逃げようと
羽ばたいていただけなんです。ですが、あなたの攻撃で足を砕かれてしまったようで・・・
大地を蹴ることができなかったんですよ。それに・・・・・最初にあなたが迫っていった時、
あのフクロウが悲鳴をあげたの、気付きましたか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

きっとあのシロフクロウは、最初の一撃でもはや闘争心などなくしていたのだろう。
いや、紺野さんの言う通り、もともとそんなものはなかったのかも知れない。
今だから思えることだが・・・・・あのシロフクロウは必死になっていただけだ。

幸せな夢を見せるため、そして自分の負った傷を癒すために・・・・・・!!

シロフクロウは生きるためにやっていたのだ。
だからシロフクロウが悪くはない、とは言えたものでもないが・・・・・


「けどよ・・・・・あのシロフクロウが、もしまた別の人間を襲ったら・・・・ハッ!!!」


空を見上げながら吉澤さんが呟いた・・・・その時だ!!


284 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:21:35.85 0

ドカン!!バゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!


突然吉澤さんが地面を叩き、何かを上空に蹴り飛ばしたのだ!!
恐らく、能力で取り出した見えない衝撃だッ!!!
いったいどうしたというんだ!?


「ぶ、ブン・ブン・サテライツだとぉ〜!矢口真里ッ!!きさま見ているなッ!!!」


吉澤さんが空に向かって吠える。
ぶ、ぶんぶん・・・・?何を言っているんだ??

「確かに見えたぜッ!!恐らくこんこんが空間を歪めた影響で姿を現したんだ!!
くそッ!!もう消えやがった!!姿を現せッ!!!」

「おちつくんですッ!!さっきも言ったでしょう?それに・・・・・今はあの人のことは
どうでもいいじゃあないですか。害を加えられているわけじゃあないんです・・・・
いま最も大事なことは、すぐ目の前にある・・・・・」

紺野さんは吉澤さんをなだめると、そっと視線を下ろした。


道重さん・・・・・・・・・

彼女はさっきと同じ体制のまま、まったく動いていなかった。
なにかに絶望しているのだろうか・・・・・?


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・・


285 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:23:26.92 0


『コハルーッ!!!』


間もなくして、ここにいるNo.3以外のビスケッツが全員戻ってきた。


『心配シタワヨッ!!小春ちゃん!!!』
『ウオォォォォッ!!ひでーヤラレッぷりジャネーカァ!!』
『小春ちゃーん!!ウエェェェェェン!!!!』
『ユルセネーッ!!』
『オレが傷ナメテヤルヨ!!!イタイノイタイノ飛んでイケーッ!!!』

「み、みんな・・・・小春は大丈夫・・・・・・それより今は・・・・・」


私は彼らを促すように道重さんの方を向いた。
すると、思い出したようにNo.6が道重さんに近付いていったのだ。
きっとあれを渡しに行ったんだろう。


『さゆみん、顔ヲ上ゲロヨ!!小春カラのお届け物ダゼ!!』


パシュッ!!!


No.6が再形成したもの・・・・それは・・・・・



286 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:25:36.00 0


「写真・・・・・ですか?となりに写っているのはさゆみんのお姉さん??」


紺野さんが木の葉のように地面に舞落ちたその写真を見て言った。

そう・・・・さっき更衣室で道重さんが落としていった写真だ。
彼女にとって、とても幸せだった頃の・・・・・


「道重さん、更衣室に落としていったんですよ・・・・」


彼女は何も答えなかった。
ジッと、地面に落ちたその写真を見つめているだけだった。
誰もがそれを静かに見守っていた。


「・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!」


道重さんが一瞬静かに呻く。
そして、私たち三人の目は彼女の右腕に釘付けになった。



287 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:27:46.76 0


ギュルルルルルルルルウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!!!!!


「しゃ、シャボン・イール・・・・・道重さん何をs」


ドゴォォォォォォン!!!!!!



私の声は爆音にかき消されてしまった。
道重さんが突然シャボン玉を放ったのだ!!

お姉さんと仲良さそうに写っている、大切な写真に向かって・・・・・!!!


ドゴン!!ドゴン!!!ドゴン!!!ドゴォォォォォォォォンンン!!!!!!


『ア、アブネエエエエエーッ!!!!』

No.6が大急ぎで私の元に帰ってくる。
道重さんはその間も、地面に舞い落ちる写真を何度も何度もシャボン玉で爆破した。
やがて、彼女の宝物はシャボン玉の乱射により黒い燃えカスと化す・・・・・


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


雄叫びをあげた道重さんはその右腕を天に向け、そして・・・・・


288 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:28:29.27 0


ブシュウウウウウンンン・・・・・・・・
























バッゴォォォォォォォォォォォォォォォォンンン!!!!!!!!




289 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:30:37.65 0


とてつもない威力のシャボン玉を放ち、上空の緑は爆裂・・・・・
空の景色がさっきよりも広がったのだった。



・・・・私は理解した。


頭ではなく、心で理解した。


私だけではない・・・・きっと紺野さんも、吉澤さんも・・・・・私と同じことを
思っているに違いない。



道重さんは、大事にしていた思い出に別れを告げたのだ・・・・・・と。




「・・・・・どんな未来が訪れても・・・・それがかなり『苦痛』でも・・・・・・・
一歩一歩でしか進めない人生だから・・・・立ち止まらないで・・・・・・」



紺野さんの声は、とても小さなものであった。

私にはしっかりと聞こえたが・・・・・道重さんには果たして届いたのだろうか?



290 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:32:18.13 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


学校の方へ戻っていった紺野さん達と別れたあたりで、前を歩いていた
吉澤さんが振り返った。
私の顔をジィーッと見ているようだが・・・・・なんかついているのかな?


「小春って、転んだら泣く?」


突然、そんな質問をされた。
いったい何の話だ?


「さぁ、どう思いますか?」

「泣く」

「そ、即答ですね」

「なんとなく、な」


そう言うと、彼は背を向けて座り込んだ。
今の発言といい、なにがしたいんだかまったく理解できない。



291 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:34:30.00 0


「なんですか?」

「足、ケガしてんじゃねーの?」

・・・・・確かに、さっきバクに痛めつけられたとき左足を捻ってしまったが・・・・
よく気がついたものだ。
それとも、無意識のうちに足を引きずっていたのを見たのかもしれない。
なんにせよ、そんな些細なことに気付くとは・・・・さすがは演劇部の部長といったところか。


「早くしなよ」

「は、い?」

吉澤さんが急かす。
しかし、なにを急かしているのかわからないからどうすることもできない。


「早く乗れよ、おんぶしてやっから」


お、おんぶ!?

「い、いいですよ!おんぶなんて!!!」

「いいから頼れよ、部長命令だッ!!もし、こけて泣かれたりしたら
石川にぶん殴られる・・・・うん、なんだかそんな気がするんだ・・・・・」



292 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:36:21.36 0


「はぁ・・・・・?」


石川さんってそんな人なのか?
なんだかよくわからないが、せっかくの御厚意を踏みにじるわけにもいかない。
私は吉澤さんの背中に全体重をかけた。


「小春んちってカメユーの方であってるよな?」

「お、送ってくれるんですかッ!?」

「うん」

「わ、わざわざありがとうございます・・・・・・」


御厚意はすごく嬉しい・・・・・が!!

これはかなり恥ずかしいッ!!
いろんな意味で恥ずかしいぞ!!!

た、頼むから知り合いと鉢合わせませんように・・・・・・・ッ!!!


自分でもよくわからない色々な感情が交錯し、私はずっと空に祈っていたのだった。



ドォォォォォォォ〜ン!!!!


293 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/14(日) 10:38:47.56 0


シロフクロウはどこへ行ってしまったのだろう。

少なくとも、杜王町からはいなくなったようだ。

あのケガでは・・・・・もう長くはないのかも知れない。


人の言葉を話すフクロウ、か・・・・・・なかなか恐ろしい相手だった。



でも決して安心してはならない。



だって・・・・あなたの町にだって・・・・・・・・ほら!!!



『おぉ・・・・心が痛むというのかい?う〜ん、BABY・・・・それは恋…恋煩いさ。
きっと、彼と出会ったから・・・・君は恋をしたんだね。さぁ、もう大丈夫・・・
幸せはここにあるよ・・・・おいで、踊ろう!!』




TO BE CONTINUED…