422 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:12:20.04 0


<恐怖の白昼夢シリーズ>

銀色の永遠  〜 熱い鼓動のSEXY ISLAND 〜



探し物はなんですか?


見つけにくいものですか?


カバンの中も机の中も


探したけれど見つからないのに…


まだまだ探す気ですか?


それよりぼくと踊りませんか?


夢の中へ  夢の中へ  



逝ってみたいと思いませんか?



423 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:14:12.27 0



『ひょっこりひょうたん島?あぁ、こんこんも行きましたよ。以前麻琴と一緒にね。
あそこは素晴らしい所です・・・・・豊富な山海の幸、高級S牛、おいしかったなぁ〜。
そうそう、あとオススメの食べ物は・・・・・・』



その場所に来て亀井絵里は、友人の紺野あさ美の言っていたことを思い出した。

四月初頭の春の陽気が漂うある日のこと。
亀井絵里、新垣里沙、高橋愛、田中れいなの4人はS市から東へ10キロ離れた
O羽山脈のふもとにある、有名なレジャーアイランドに来ていた。
その名を『ひょっこりひょうたん島』という。
なんでも新垣里沙の知人…いや、友人が経営しているらしい。

「去年頂いた手紙には来春にはオープンすると書いてあったが・・・この春になるまでに
設立してしまっていたとは・・・・・なんという行動力!!」

施設に入ってすぐ、新垣里沙は感動していた。
今回ここに訪れたのは他でもない。
今年から高校に進学する田中れいなと道重さゆみの『進学祝い』だった。
新入生歓迎会が近いとはいえ、可愛い後輩達が新しいステップを踏み出すであろう
大事な時期。部活に打ち込んでいるだけではもったいないという、新垣里沙の
計らいだったのだ。
なにより、舞台に立つとはいえ彼女らも『新入生』なのだから。
そのついでに、演劇部のみんなも誘ったらしいのだが・・・・・



424 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:15:49.34 0



『うぅ…気持ちは嬉しいけど行けないのorz最近動けるようになったばかりだから
練習みんなよりだいぶ遅れちゃってるし・・・・ごめんなさいなの』



『レジャーランド!!い、行きたい・・・・ですが・・・・私はついこの間まで入院していた身。
しかも春の舞台でもらった役は名誉ある主役なんで・・・・今の私にはうつつを
抜かしている余裕はなさそうです。すいません』



『ひょうたん島、また行きたいですねぇ〜。でも・・・・今回の劇の脚本を書いた
こんこんが部活休むわけには行きませんから・・・・いわば監督なんで』



『あー、行ってみてぇけど・・・・俺の役、小春と絡みが多いんだよな〜。
俺が休んじまうと小春の練習になんないしよぉ・・・・・ってのは実はいいわけでさ、
ホントはサッカー部ばっか出過ぎて全然台本覚えてないんだわ。おみやげよろしくw』



425 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:19:53.04 0


亀井絵里は考える。
こんちゃんや吉澤さん・・・・それに小春ちゃんはまぁいいとしよう。
でも、さゆがいないってのはなんだ!?
進学祝いって、まさにさゆに該当することじゃあないのか!!?
今日の主役が一人お休みだなんて・・・・・・おみやげ買っていこうorz

「絵里?なんでそんな浮かない顔しとると??」

「いや、なんでもないよれいな。ちょっと歩き疲れただけさ」

春の雑木林を散策しながら、一行はこの島の名物でもある『海』を目指す。
浜辺には屋台が並んでいるらしく、地元でとれた豊富な海の幸が食べられるらしい。
ちなみに、山の幸はつい先ほど食べたばかりだ。

「ガキさん、あれからけっこう歩いたけど・・・ホントにこの道であってる?
なんだか道に迷ってるような気がしてならないんだけど…」

「たぶん」

「たぶんって」

「もともと『無人島』のスタンドだからなぁ。遭難したように感じても無理はないのだ。
でも大丈夫!!あそこに山が見えるでしょ?あれは火山なのだ。うぅむ懐かしいな。
で、あの火山が西にあるということは・・・・・」

新垣里沙が島の地図と睨めっこを始める。
その姿を見て亀井絵里はなんだか不安になってきた。
そういえば、さっきまでワンサカ溢れかえっていた他のお客さん達が全然見えない。
もしかして、変な方向へ来てしまったのではないだろうか?
当てもなく歩き続けてもしょうがないので、4人はすぐ側のベンチに腰掛け小休止をとることにした




426 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:21:46.96 0


「妙なのだ・・・・・以前迷い込んだ時はともかく、現在ここはレジャー施設として
経営している島。マサさんがわざわざ入り組ませるようなマネをするとは思えない」

ぼやきながら、新垣里沙は地図と現在位置を照らし合わせる。
・・・・・おかしい、なにかが奇妙だ。
この『春の雑木林』を越えれば、すぐそこには島の行き止まり、すなわち『夏の浜辺』が
広がるはずなのだが・・・・・・

「雑木林が長すぎる気がする・・・・・いや、雑木林と浜辺の間が長すぎるような・・・・
地図によれば、火山が北西の位置に来るあたりで浜辺に出るはず・・・・でも、その場所は
とっくに通り過ぎた。どうなってるのだ?」

「アレじゃないかな?ここ、無人島が疑似体験できるレジャーランドだし、
わざとそう作ってるんじゃない??僕はそう思うよ」

「うーん。田中っちはどう思う?」

「・・・・こんなこと言うのもあれなんやけど・・・・迷ってるっていうこの状況が
れいなにとっちゃ楽しいからどうでもよかw」

「あーなんかわかるw小学生の頃を思い出すのだ。愛ちゃんはどう思う?」

「地図の書き間違えじゃネ?」

「もっともすぎる意見なのだ」



427 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:23:40.35 0


「ってかここスゲーなぁ?なぁ亀子ォ、見てみ。この葉っぱも、木も、この大地までもが
スタンドなんだよナァ?どんだけ強力なスタンドエネルギーがあればここまで出来ンだろうなァ??



高橋愛に言われた亀井絵里だったが、この『ひょっこりひょうたん島』のことよりも、
実は高橋愛のことが気になって仕方がなかった。
滅多なことじゃまず部活を休まない愛ちゃんが、他人の娯楽に付き合うなんて
珍しいこともあるもんだ・・・・・ちょっと失礼だけど、雪でも降るんじゃないのか?
そう思った。

「このバラもスタンドかネ?一般人にも見えるスタンドかぁ」

高橋愛はベンチから立ち上がると躊躇することなく茂みの中に入っていく。
まるで何かに誘われているような、そんな感じであった。

「なんだぁ?このバラは。ずっとあっちまで続いてンのなぁ」


ザザッ・・・・・


「ちょ、愛ちゃん。どこへ行くのだ・・・・・あ、あれ?」


新垣里沙はたった今高橋愛が足を踏み入れた茂みを見やり、声をかける。
だが不思議なことに、すでに高橋愛はいなくなっていた。

「愛ちゃん、ずいぶんと足が速いのだ・・・・・・もう」


428 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:25:38.03 0

チャッチャッチャッチャラリーラ〜・・・・


「ん?」
「なんか聞こえるばい」
「しッ・・・・・二人とも静かに・・・・・・」


チャララッチャッチャッチャチャラリ〜ラッチャッチャ〜・・・・


3人は無言で顔を見合わせた。
どこからともなく軽快なリズムの音楽が聞こえてきたのだ。
その曲調は、まさに『レジャーランド』と呼ぶに相応しかった。
しかし・・・・・いったいどこから・・・・?

「こっちから聞こえる・・・・」

「意外と近いかもしれんね」

亀井絵里と田中れいなは音の出所が気になり歩き始める。
気分はすでに探検家だ。さすがは無人島が疑似体験できることだけはある。

「二人とも待つのだ。移動するなら愛ちゃんが戻ってから・・・・・」

新垣里沙がそう言うと、二人は足を止めた。
なかなか物分かりがいい・・・・・と思ったのも束の間、彼女らが足を止めたのは
別の理由であるということに、彼女はすぐ気がついた。
言ってしまえば、歩く必要がなくなったのだ。
すでに、その場所についたのだから。


429 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:27:33.43 0


「い、いきなり道が開けたと思ったら・・・・・」

「遊園地たい!!!!」


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


その光景に田中れいなは感嘆の声をあげた。
色とりどりのゴンドラをぶら下げた観覧車、空に大きく円をかいたローラーコースター、
宮殿の形をしたメリーゴーランド・・・・・どれも彼女の心をくすぐるのに十分であった。
遊園地があるという話は聞いていなかったので、想定外の出来事に感動も
一入といったところか。

「さすがはレジャー施設っちゃ!!なんでも揃ってるって感じやね!!!」

そんな田中れいなの後ろで、新垣里沙は眉をひそめる。
おかしい・・・・・やっぱりなにか奇妙だ・・・・・

「遊園地・・・・・はて。そんなもの以前迷い込んだ時はなかったハズ・・・・」

「開業するにあたって新しく作ったんじゃないの??」

亀井絵里はそう言うが、それはおかしな話である。
2人はマサさんのことをよく知らないと思うが・・・・・・彼のスタンドはあくまで無人島を
作り出すスタンド。ものを持ち込むことは出来る(だから屋台が開ける)が、
何かを建築するというのは無理ではないだろうか?
スタンドをずーっと出しっぱなしにでもしていない限りありえない。
そして、それは不可能なことだ。


430 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:30:20.82 0


「うーん」


新垣里沙は腕を組み考える。
ひょっこりひょうたん島・・・・・名づけの親ではあるものの、把握してないことが
なかなか多すぎるな。


「まぁそう難しく考えてもしょうがないのかな」

「そうだよ、ここはレジャーランドだしね。どんなアトラクションがあったって
何も不思議じゃあないよ」

「あのローラーコースター、面白そうたい。あれ乗りたいと〜」

「じゃあ…ちょっと海に出る前に遊んで行こっか。あの観覧車から景色を見渡して
海の方向を確認するってのもアリかもしれないのだ」

「それなら愛ちゃんには僕から連絡しとくよ、Eメールで。あとでここに来てもらえばいいよね?」


そうして、3人は遊園地へと足を踏み入れたのだった。



431 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/04/17(月) 18:31:48.14 0


・・・・・・この冬はいろいろなことがありすぎた。

クリスマスの頃から、心も身体も休まるヒマが演劇部の彼女たちにはなかったのだ。

新入生歓迎会の練習にも追われ、最近は四州の提のことも、小説家との事件もあり・・・・

一日を丸々使って思いっきり羽を休めるは、珍しいことであり貴重なものであった。

楽しまなきゃ損である。

そういった彼女たちの無意識な思いが、普段の注意力を削っていたのだった。



そして、そんな彼女たち3人を怪しげなピンク色の『着ぐるみのウサギ』が遠くから見つめている…



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


465 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:26:36.93 0


そこはとても美しい場所であった。
多くのアトラクションはパステルカラーで彩られており、優しい空気を
醸し出している。
夢の街・・・・・・そんな表現がよく似合う所だ。
しかしどこか寂しげで、冷たい瘴気を放っているのは何故だろうか。
それは恐らく、人が彼女達をのぞいてどこにもいないからだ。
猫一匹見当たらない。

「ねぇ、もしかしてここ・・・まだ開園してないんじゃあないの?」

あまりの人の温もりのなさに、亀井絵里はそう言った。
開園どころか、オープン前という可能性も考えられる。

「れいなはそうは思わんと。仮に入っちゃいけない場所だったとしたら
『立ち入り禁止』の看板ぐらい立っていてもいいはずばい・・・・・そもそも、
入り口なんてものはなかったと」

「だとしても、従業員もいない遊園地だなんて説明がつかないじゃないか。
これじゃあ遊ぶにも遊べないよ・・・・・・ねぇガキさんはどう思・・・・あれ、ガキさんは?」

すぐ側にいたはずの新垣里沙の姿が見えない。
振り返って見ると、彼女は立ち止まって腰ぐらいの高さの鉄柵から身を乗り出し
何かを眺めているようだった。

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・ガキさん、何してるの?」

亀井絵里の質問にも答えず、彼女は下の景色を意味深に眺めているようだ。
何を見ているのか気になって、新垣里沙の視線の先に目を落とすと・・・・・・・


466 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:27:11.79 0





 ピコッ ピコッ ピコッ ピコッ ピコッ ピコッ ピコッ ・・・・・・・・・・・







467 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:30:03.00 0


ウサギがいた。
しかし本物のウサギではない。
あれはショーか何かで使うような、大きなウサギの着ぐるみだ。
その毛色は、この遊園地のアトラクションの塗装よりも一際濃い蛍光ピンクで
とても眩しかった。
どうやら手に持ったオモチャのハンマーでピコピコと自分の頭を
叩いているようだが・・・


「あそこにアホがいるね・・・・・」

「あ、怪しい・・・けど、なんだかたそがれているようにも見えるのだ」


哀愁漂うとはまさにこのことであろう。
従業員だろうか?
しかしあの着ぐるみはないだろう・・・・二人はどうしたらいいかわからず、
ただただその姿を見守っていた。
見なかったことにしてここを去ろうか、そんなことを考えていた矢先・・・・


「あぁッ!!なんね、やっぱ人いたんか!!!」


空気を読まずに叫んだのは田中れいなである。
いつもよりテンションが高い彼女は、ピンク色のウサギを指差して喜々としていた。
田中れいなの声に反応してか、ウサギは一瞬ピタリと動きを止め、すぐに
こちらに来るための階段に向かい走り出す。


468 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:31:54.67 0


「あ、こっちに気付いたのだ」

「が、ガキさんッ!!走ってくるよ!いいよ、こっちこなくていいから!!!」

異様な光景に亀井絵里はうろたえた。
逆に田中れいなのほうはと言うと、それを見て笑っている。

「なんねあのウサギ!!マジうけるwキャワwww」

テンションが違う彼女達はそれを見て思うこともやはり違っていた。
ウサギは何やらスケッチブックのようなものを持っているようだ。
それをこちらに向かって突き出して、近付いてきている。

「なんか書いてあるのだ」

「・・・・・なになに」



  『 だれがアホやっちゅーとんねん ボケ コラ シバくぞ 』



怒!?
その文体が読めた頃には、ウサギはすでに彼女達の前に立っていた。

「も、もしかして僕に言ってるのかな?」



469 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:33:07.99 0


するとウサギはもう片方の手で持っていたおもちゃのハンマーをふりあげ、


ピコッ!

「いてッ!」


軽く亀井絵里の頭を叩いた。
彼女としては、あまりいい気のするものではない。
亀井絵里のセリフに気付いていたということは、彼女達がここから見ていたのも
気が付いていたのだろうか?
ちょっとムカついた亀井絵里はウサギを指差し、

「だからウサギだっつーの!ばかちん!!」

と言ってやった。
そんな抗議をする亀井絵里をスルーし、ウサギは新たなページを着ぐるみの
太い指で器用に開いていく。

「新しいページが・・・・・・あらわれたと」

そこにはこう書いてある。



ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・・・


470 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:34:48.62 0


  『 ようこそ 夢の街へ  ふっふっふっ・・・ 』


「ようこそ夢の街へ、ふっふっふっ。だって」

着ぐるみのウサギだからか、彼(彼女?)は口を聞かないようである。

「あの〜・・・・・・あなた誰ですか?ここの従業員?どうして誰もいないのだ?」

新垣里沙の質問に、再びウサギはページに指をかけた。
そこにはこう書かれている。


  『 質問は ひとつずつに してくれないかね 』


3人がそれに目を通したのを確認すると、さらにページをまくる。


  『 ウサギは この街の案内人 』


「なるほどッ!!この遊園地を案内してくれるってワケやね!!!」

「ちょ、そんな解釈でいいの?」

「へ、変なヤツ!!だいたい何でそんなスケッチブックにセリフ書き込んであるのだ?
わたし達との会話を予測していない限り無理じゃ・・・・・」



471 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:36:26.30 0


  『 質問はひとつずつだってばさぁ ガキさん 』


「ッ!!ど、どうしてわたしの名前を知っている!?」


  『 さっき その子が そう呼んでいたから☆ 』


ページを捲って、ウサギは亀井絵里のほうへ身体を向けた。

「ぼ、僕?そういえば呼んだような・・・・」

「・・・・・・・従業員にしてはなんか怪しいのだ。行こうみんな」

きっと物好きなバカなんだ。
なんだか関わってはならないような気がして、新垣理沙は二人にそう促す。
だが、亀井絵里も田中れいなも動き出そうとしない。

「二人とも早く行くよ?」

「ガキさん、ちょっと待って。ウサギがページ捲ろうと頑張ってるみたいだ」

どうやら先ほどまでとは違い、うまくページが捲れないらしい。
紙同士がくっついてしまっている様だ。



472 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:38:41.49 0


「しょうがないなぁ〜、れいなが捲ってやるばい」


ペラッ・・・・・・

  『 帰っちゃうの!? ( ̄口 ̄;)ガーン 』


「・・・・・だってw」

「コレ可愛い☆」

田中れいなは顔文字の部分を指差して言った。
亀井絵里もその空気に慣れてきたのか、ちょっとイラついた気分を忘れて
しまったらしく、いつものようにニヤニヤし始めている。


  『 遊んでってよ〜 お願い お願い 』


「遊んでってよ〜お願いお願い、だってさw」
「このウサギうけるっちゃwwwれいな気にいったばい!!」

「ちょ、ちょっと二人ともッ!!」

どうやら二人はこの状況を面白がっているようだった。
確かに面白い趣向の案内人ではある。
きっとスケッチブックにはいろいろなパターンのセリフが用意されていて、
彼女達のセリフに合わせてページを選んでいるのだろう。
まどろっこしい・・・・・新垣里沙はそう思った。


473 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:40:44.07 0

「・・・・・あの失礼ですけど、その着ぐるみ脱いでくれませんか?いや全身じゃなくて
いいのだ。その頭の部分だけでも・・・・ここは地図にも載ってないし、いろいろと
聞きたいことが・・・・・・」

新垣里沙が言い終わる前に、ウサギは新たなページを開く。


『 やら !! 』


「やらって・・・」

どうやら着ぐるみを脱ぐ事を頑なに拒否しているらしい。
あ、怪しい・・・・!!
ジロジロとウサギを観察する新垣里沙は、その背中に白い紐のようなものを発見した。
恐らく、着ぐるみを脱ぐ際に使用するものであろう。
ウサギは脱ぐつもりがないようではあるが、延々と紙に書いてある文字で会話されても
いつかネタが尽きるはずだ。そんなことをされていては日が暮れてしまう。
せっかくの休日・・・・聞きたい事をさっさと聞いて次の行動に移りたい・・・・・
そう思った新垣里沙は着ぐるみを脱がそうと、その白い紐を引っぱった!!


ギューッ!!!

すると、ウサギはわたわたと両手をあげ、後退りしてくる。
なかなか脱げない。

「それそれ、さっさと脱いでしまうのだ」


ギュ〜!!!


474 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:42:41.65 0


「ちょっとガキさん!可愛そうだからやめるっちゃよッ!!」

「あ、新しいページが・・・『いててて!!』って言ってる」

「紐を引っぱられて痛いと訴えるとは・・・・・用意周到というか、職業熱心というか」


思わず関心してしまう新垣里沙を振り返り、ウサギはスケッチブックを
見せ付けてきた。


  『 今日オープンしたばっかなんです ゼェ ゼェ あー痛かった 』


なるほど、だから人がいないのか。
それなら地図に載っていないことも頷ける。
そして、新たなページが開かれた。


  『 オープン記念 どれでも好きな乗り物を どーぞ 』


「えッ!えッ!?これどういうことッちゃ!!?」

「タダで乗っていいってこと?」

新垣里沙の発言に、ウサギは無言でコクコクと何度も頷く。
どうやら、そういうことらしい。


475 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:44:41.21 0


「や、やったああああああ!!!れいな達ついとるばい!!グレートっちゃ!!!」

「ホントにいいの!?それなら僕、メリーゴーランドがいいなぁ。
ねぇみんなで乗ろうよ」

「メリゴーランド〜?ちょッ!れいなは不良っちゃよ・・・!!『メリーゴーランド』なんて
女子供の乗るものなんてチャンチャラおかしいばい」

「そうかなぁ・・・・って、れいな女の子でしょ」

「やっぱ遊園地って言えばアレやね!!絶叫マシーンっちゃ!!!
ホラ、あのループが三回転あるヤツがよか!!!」

そう言って田中れいなは向こうにあるピンク色のローラーコースターを指差す。
レールがトンネルを通して池の中にも繋がっている、なかなか大きなやつだ。


  『 グッド!! 』


ウサギは親指を立てて見せた。
持っていたはずのおもちゃのハンマーはいつの間にかどこかへしまったようだ。

「ほらほら、ウサギもこう言ってると」

「ぜ、絶叫マシーンンン〜!?僕、あんま得意分野ではないなぁ〜・・・
乗れないことはないけどさ」

「しかしあのローラーコースター、けっこう遠いのだ。どうせなら近いものから・・・」



476 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:46:20.09 0


その時、ウサギが人差し指を「チッチッ」と言っているかの様に振ってみせた。
さらに親指を下に下げ、


『 チッ チッ チッ ♪ 』


と、ご丁寧にスケッチブックもそのページに合わせたようだ。

「なにが言いたいのだ?」

「何かいい手段でもあるのかな?」


  『 YES I AM !! チッ♪ チッ♪ → 』


ページを捲ると、軽快なセリフの下に大きな矢印が書かれていた。
3人はその先に視線をやる。

「あぁッ!!あれは・・・・・・!!!」


ゴーカートだ!!


色違いのものが四台用意されている。
どうやら、あれに乗ってローラーコースターへ行こうという事らしい。


477 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/17(水) 06:49:34.16 0


「す、すげーばい!!やることのスケールがでかいっちゃね!!!
さすが夢のレジャー施設、ひょっこりひょうたん島・・・・れいな紫のがいいたい!!!」

ゴーカートに駆け寄り、田中れいなは紫色のゴーカートに飛び乗る。

「じゃあ僕はこの黄色いヤツでいいや」

「わたしはこの緑ので・・・・・ってアレ、ウサギも乗るの?」

一台あまった赤いゴーカートにウサギが乗っていた。
案内人なのだから当然なのかも知れないが、着ぐるみを着たままでは
運転なんてしづらいのではないだろうか?


  『 あ そうそう これ競争ね 』


「競争・・・・どういうことなのだ?」

横に一列に並ぶ3人に、ウサギはスケッチブックを掲げて見せる。
3人がマジマジと見ているところでさらにページを捲ると、
そこには太く丸い字でこう書かれていた。


  『 ウサギに負けたら 《罰ゲーム》 ダ・カ・ラ ♪ 』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


32 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:01:05.00 0


その頃・・・高橋愛は一人、雑木林を彷徨い途方に暮れていた。
迷子になった、といっても決して語弊ではない。
辿っていたハズのバラの花はもうどこにも咲いていなく、そもそも何故ゆえに
自分はバラの花なんか追いかけていたんだろう・・・そんなことを思い始めていた。


「ぐあぁ〜・・・・・亀子のせいやよ。遊園地がどうとか勝手に移動すッから・・・・・
さっきの場所にも戻れなくなってしまったがし。ココドコ・・・・orz」


元々勝手に移動したのは彼女自身だが・・・・・
まぁ人のせいにしていても仕方が無いし、立ち止まっていてもしょうがない。

高橋愛は、さらに奥へ奥へと歩き続けるのだった。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:04:19.81 0


「2着ゥーッ!!」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


田中れいなは高らかに名乗りを上げる。
人がいない遊園地・・・・・おかげでゴーカートを大胆に運転することができた。
こんなに幅広い道をゴーカートで爽快に走り抜けるという経験は、
なかなかできることじゃあない。

だが・・・・・・


「ずるいーッ!!!こらウサギッ!!卑怯なのだ!!!!」


到着したローラーコースターの下で、3着の新垣里沙は1着のウサギを責める。
それもそのはずだ。
ウサギはこの遊園地の案内人なのだから、コースを知り尽くしているに決まっている。
よって彼女達3人は、どうしてもウサギを追いかける形になってしまったのだった。


  『 ふっふっふっ じゃあ罰ゲーム♪ 』


「罰ゲーム♪じゃあないのだッ!!」

憤怒する新垣里沙を見ると、ウサギは口元を押さえ、まるで含み笑いを
しているようなポーズをとった。


34 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:06:42.19 0


「いやぁ何にしても面白かったばい、あの疾走感!!たまらなかったと」

「うぅ・・・スタートの時アクセルとブレーキ間違えて踏んじゃったよ、おかげでビリだし」

「絵里がスタート地点で燻ってたのはそういうワケやったんかw」

「うん、あ〜あ・・・『F-MEGA』は得意だったんだけどなぁ〜」

「随分古いレースゲームっちゃね〜。むかし兄ちゃんが持ってたから
れいなもやったことあるたい」

「マジで?僕、A車使いなんだ〜ねぇねぇ今度うちで対戦しようよ」

「えぇっ!絵里がれいなを家に招待ッ!?か、感激っちゃ・・・・・」



35 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:09:10.93 0


二人が他愛のない話題で盛り上がっている中、新垣里沙はまだウサギに対し
反発している。


「罰ゲームなんかイヤなのだ!!」


  『 まぁまぁ 落ち着きんしゃい 』


さらにスケッチブックのページを捲る。


  『 とりあえず この絶叫マシーンに 乗ってもらいましょか 』


「とりあえずこの絶叫マシーンに乗ってもらいましょか、だって」

「調子のいいウサギなのだ」

「よっしゃ!!早く行くばいッ!!!どうせならこの遊園地の乗り物、
ぜェ〜んぶ制覇したいと!!!」


かなりテンションがハイな田中れいなは身体中の興奮を抑えきれず、
思わず駆け出してしまう。

今日は最高の一日だ・・・・彼女は心からそう思っていた。


36 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:11:00.23 0


「あ、れいな待ってよ〜!!ガキさん行こッ!!!」

「うぅむ・・・・あんなにハイテンションな田中っちを見るのは始めてかも知れない・・・
あそこまで楽しそうにされていると、ホントにこの島に連れてきてよかったと
思えるのだ、うんうん」


亀井絵里と新垣里沙の二人はゆっくりと階段を上り、大はしゃぎする
田中れいなを追いかけるのだった。
そのすぐ後ろにはウサギも続いている。

3人は気が付かなかった。

つい先ほどのページの片隅に・・・・ウサギの指で隠れてしまっていたのだが・・・・・
こんなメッセージも書かれていた事を・・・・


『 後悔すんなよ ボケ 』



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


37 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:13:48.50 0


3人はレールと同色であるパステルピンクの車両の座席にそれぞれ乗り込む。
一番先頭が亀井絵里と田中れいな、その後ろに新垣里沙が腰を下ろした。
当然、彼女達以外はこのローラーコースターに乗っている者はいない。

「ちょ、ちょっと待って。これ誰が発進させるの?従業員いないじゃん」

あまり慣れない絶叫マシーンに乗るせいか、亀井絵里はややテンパリ気味だ。
彼女の質問に、ウサギはしきりに自分を指差した。

「う、ウサギが発進させるんだ・・・・平気なのかな・・・・・」


  『 だいじょーぶ 全自動だから スイッチ一つでポチッとな 』


「そんなもんなんだ・・・・」



ガシャン!!!


黒いセイフティーバーが下り、彼女達の身体をちょっときついかぐらいに支えた。
いよいよ発進である!!

しかし変だ。

スイッチ一つで・・・なんて言っておきながら、ウサギはまだ何もしていないではないか。
だが目の前のスリルにとらわれ緊張している3人は、そんな些細な疑問に頭が回らなかった。


38 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/18(木) 17:16:42.75 0


「は、発進するばいッ!!こわぁぁ〜!!!」

「大丈夫かな?ねぇ大丈夫かな?あ、やばいやばいやばいやばい!ねぇ大丈夫かなぁ!?」


  『 バニッシュ!! 池に車両が突入すると 同時に水しぶきが高く舞い上がり
    瞬時に水中に消え去るという 未だかつてないセンセーショナルなシーンが 
    待ち受ける超エキサイティングな ローラーコースター !! 』


「そんな解説しなくていい〜ッ!!ばかぁ!!!」

「亀、少し落ち着くのだ」


ガッコン・・・・・・・


かくして、3人を乗せた絶叫マシーンは重い音を立てて動き出したのだった。
ウサギが見守っている中・・・・さっそくローラーコースターは最初の坂を
ゆっくりと、緊張を煽るように・・・・焦らすように・・・・上り始めている。


「そういえば・・・罰ゲームとは一体なんのことだったんだろう・・・・」

ふと、そんなことを思い出した新垣里沙であった。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


276 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:51:45.25 0


例えば・・・・・そう、迷宮ならこう言える。
脱出不可能なものはないと。
宮殿内の壁は宮殿の外壁と繋がっており、壁づたいに歩けばいずれ外に出れる。

しかし、だ。

砂漠やジャングルはそうはいかない。
外には壁など存在しない。
なので目印がなければ、目標にたどり着くことは困難だ。
そもそも外にいるということは、到着だの脱出などという概念はないのではないか?
今踏みしめている地面は、すでに目的の場所と繋がっている。
自分が浴びている風も、目的地と常に繋がっている・・・・


「・・・・やめたやめた。くだらん」


そこまで考えて、高橋愛は無駄だと気付きやめた。



277 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:53:52.97 0


しばらくすると道が開けたので、ようやく『遊園地』についたのかと思ったのだが、
そこは『遊園地』ではなかった。


「植木鉢がこんなに・・・・・いったい何を育ててるンだァ?」

横にいくつも並べられた植木鉢を覗いてみる。
『ミニトマト』・・・・・と、フニャフニャした字で書かれた札が刺さっていた。
高橋愛は思い出す。

「そういえば、コンコンが『ここのトマトは美味しい』って言っていたなァ〜。
トマト嫌いなヤツでも、ここのを食べれば変われるとかなんとか・・・・・」

しかし、なんでわざわざ植木鉢なんかで栽培しているのだろうか。
ビニールハウスを建てたほうが、より楽に美味しいトマトを栽培できそうなものだが・・・

「いや、無理かナ・・・・ここ、スタンドやし・・・・・・」


ガサガサッ・・・


「ン?」

先ほど彼女が来た道から、草を掻き分ける音が聞こえた。
誰か来たようである。
振り返ると、そこにはいかにも農家の人らしいいで立ちの男性が立っていた。
しかし、彼がどうしても普通の農家のおじさんに見えないのは、
その整った顔立ちのせいであろう。
少なくとも、日本人ではないようだ。


278 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:54:44.78 0


「・・・・・・!!!」


彼は高橋愛の姿を見るなり、ハッとした表情を浮かべる。
何かに驚いている・・・・そんな感じに見えた。


(どうして、そんな目ェ丸くしてあっしのこと見てんだァ・・・・)


高橋愛は男の全身を舐めるように見つめた。


(・・・・ん?)


その時、彼女は気づいたのだ。
彼の姿を見て・・・・・この場所を見て気付いたのだ!!


(ま、まさか・・・・・・まさかッ!!!!!)



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・


279 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:56:25.73 0


「す、すいませンーッ!!!」

「・・・・・・・・・・え?」

高橋愛は男に深々と頭を下げる。
男は呆気に取られているようだった。

「なんつーか・・・・言い訳っつーのも見苦しいンすけど・・・・・・・恥ずかしい話・・・・
道に迷ってしまいましてネェ・・・・」

「・・・・・?」

「ココ、立ち入り禁止っスよねぇ??いや〜・・・・めんぼくないッス。
でも、好きでここに来たわけじゃないんよ。道に迷ってしまったがし」

そう言って、彼女は頭をかいて見せた。
きっとここは関係者以外立ち入り禁止の場所に違いない。
そして恐らく、ここで栽培されているトマトがこの島で料理されるのだろう。
なるほど、採りたてを食べられるというわけだ。

「そうですか。道に迷ったのですか・・・・・・」

男は被っていた麦藁帽子を深々と被りなおす。
まるで顔を隠そうとでもしているかのように。
だが、男は高橋愛よりも頭一つ以上長身なので、見上げられてしまえば
まったく意味のない行為であった。


280 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:58:26.14 0


「青い目・・・・・」


高橋愛は吸い込まれるように男に近付いていった。
まるで宝石のように深く青い瞳をしている・・・・やはり外人のようだ。
そして、あたりに漂うバラの香り。
高橋愛はその香りを、鼻ではなく肌で感じ取った。
この感覚は・・・・どこかで・・・・・・

彼女の頭の中で記憶がフラッシュバックされる。

本屋で高いとこにあった宝塚の本を取ってくれたスーツの男の姿が浮かんだ。
取られた・・・・と思いきや、その本を自分に渡してくれたあの人だ。
それだけのことが何故かとてつもなく懐かしくて、思わずキュンとなる。


(それだけ・・・・・本当にそれだけカァ?あっしの中で何かがスッポリと
抜け落ちているような・・・・・居心地のいい何かをなくしてしまったような・・・・・)



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・


281 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 20:59:47.47 0


だが、そんなことをいつまでも考えていてもしょうがない。
彼女はさっさとこの場を去ることにした。


「あ、ところで聞きたいことあるンすけど」

ふと、彼女は軽い質問を男に投げかける。
もう会うこともないだろうし、生じた疑問は打ち砕いておきたい。
その高橋愛の疑問とは・・・・・


「遊園地、どこっすかネ?ずっと探してるんスけど、見つからないンよ・・・・・」

「遊園地・・・・・ですか?」

「うん、友達が待ってるンよ。こっからどう行ったらいいンすか?」


男は首を傾げた。
もしかして、知らないのだろうか。
よくよく考えてみれば、彼の装いは従業員には見えない。

わからなくて当然か・・・・・


282 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/22(月) 21:04:56.45 0


「遊園地・・・・・うぅむ・・・・」

「あ、あ。なんでもないがし。たぶん自力でも探せますカラ・・・・・それじゃあ」


そう言うと高橋愛は来た道を戻っていった。

それにしても不思議な場所であった。
胸に直球で突き刺さるあの懐かしさはなんだったのだろう?
あの場所は・・・・いいや!あの外人(ひと)は・・・・


そんな高橋愛の背中を見つめて、男は麦藁帽子を脱いで呟く。


「この島に遊びにきていたのですね・・・・・元気そうで何よりです。
しかし・・・はて、遊園地・・・?この島には遊園地など存在しませんよ?・・・・愛さん」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


425 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:40:23.11 0


3人を乗せたローラーコースターは、レールをぐんぐん登り、
次第に頂点へと近付いていく・・・・


「ごめん、僕やっぱり無理っぽいや。降りたい」

「何を言っとるとね絵里は・・・・今さら間に合うわけなかwそもそも乗ってから
途中で降りられるローラーコースターなんて聞いたことない・・・・おぉッ!!?
地面があんなに遠くにッ!!こわ〜!!!」


田中れいなは地面を見下ろすと興奮した声を上げた。
それにつられて、亀井絵里もチラリと下界を見やる。
小さな世界・・・・地面に吸い込まれそうな感覚・・・・
彼女は先ほどまで踏みしめていた眼下の大地が無性に恋しくなってきた。


「あぁぁ・・・・テンションに飲まれて僕は何をしているんだ・・・・・さゆ・・・・さゆ・・・・
死ぬ時はさゆの膝枕って決めてたのに・・・・」


そんな大げさな事を想いながら、彼女は好きな少女の名を念仏のように唱えた。
車両はやがて頂上に到達する。
いよいよ、絶叫する時がきたのだ。



426 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:41:06.58 0


その頃、新垣里沙は・・・・・


「・・・・2列目に乗ったのは失敗だったのだ・・・・・亀の頭が邪魔で前が見えない・・・・
いつ落ちるのかわからない!!覚悟ができないッ!!!」


今さらながら動揺していた。
そして・・・・・



ガシャッ・・・・・・ドゴォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!



ローラーコースターは地面に向かって傾き、一気にスピードを増す!!
絶叫マシーンは唸りをあげて始動したのだッ!!



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


427 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:43:00.64 0


「うわぎゃああああああああああああああああああああッ!!!」

「うひゃあぁぁ〜ッ!!ダメッダメッ!!!無理無理無理無理ィッ!!!!!」

「か、風つよ・・・・・息が・・・・・・がほッ!!!!」


もはやどれが誰の声なのかわからないほどの黄色い声が姦しく空気を震わす。
これぞ絶叫マシーン!!!
3人は、その恐怖から来る快感を体験していたッ!!!


「早いよ早い!!早すぎるッ!!!とばされるーッ!!!」

「た、楽しいッ!!絶叫マシーンに乗ってこんな楽しい気分になるのは初めてばい!!」

「前髪が崩れてしまうのだ!!切ったばかりの前髪が〜ごほッ!向かい風で息が・・・」


凄まじいスリル!!
しかし3連続のループを終えて間もなくして、早くも3人はこのローラーコースターに
順応し始めているのだからすごい。
なんだかんだで、3人とも絶叫マシーンには強いのであろう。

さて、そろそろ池に繋がるトンネルに突っ込むという、このローラーコースターの
最大の醍醐味であるポイントとなるが・・・・・


428 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:45:00.22 0

その時、田中れいなの視界に奇妙なものが映ったのだ。

これから滑走しようとしている向こう側のレールになにか落ちている?
だがこのスピードでは振り向いても確認しきれない。
気のせいか・・・・?考えるヒマもなく車両はすぐさまそのレールをわたり始めた。

・・・・・・・やはり前方に何か落ちている!!?

(落ちているだって・・・?いや違うっちゃ!!あ、あれは・・・・ッ!!!)


「ちょッ!ちょっと!!アレ!!!」

亀井絵里もその存在に気がついたようだ。
だが、気がついたからどうとなるものでもない。
ローラーコースターの先頭車両は、一気に『それ』との距離を縮めていく!!


「な、なんやあれは〜!!どうしてあんなところにーッ!!!!」

「うわあああああッ!!轢いちゃうッ!!!!」

「田中ッち!亀ッ!!どうしたのだ!?亀の頭が邪魔でよく見えな・・・・・」

ダシャアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


新垣里沙は先頭の車両から振動を感じた。
今のは明らかにレールを滑走しているために起こる振動ではない。
何か、強い衝撃を受けたような振動だ。
一体何が起きたのか・・・・・答えはすぐに現れた!!


429 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:46:24.42 0


  『 それじゃ 罰ゲーム♪ 』


「ウ・・・・・・サギィ!?」

なんと、先ほど自分達を見送ったハズのウサギが先頭車両の先っぽに立っていたのだ!
田中れいなの視界に入ったのは、いつの間にかそこに佇んでいたウサギの姿だったッ!!


  『 とっておきの罰ゲームを ご用意しております 』


ウサギは突風の中、難なくスケッチブックを捲って見せた。
いったい何者なのだ!?このウサギはッ!!?
このスピードと振動で体制を崩さず佇んでいることもそうであるが、
コイツは猛スピードで向かってくるローラーコースターに軽々と飛び乗ったのだ!
もはや人間業ではないッ!!!

「な、なんやねッ!!コイツはぁぁぁぁーっ!!!!!!!!」

田中れいなはアトラクションの本来の意味とは違う意味で絶叫し、亀井絵里と
新垣里沙は突然のことに頭の整理がつかない・・・・・その時だ!!!


ガコッ・・・・・


奇妙な音が鳴った。
なんだ今の音は・・・・・鳴ったというよりも響いたという方が正しいといえる、
『何かが外れてしまった』ような音・・・・・両肩に響いた振動・・・・・


430 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:47:53.41 0


「え・・・・・?」

田中れいなは肩のあたりがスゥーッと軽くなっていくのを感じた。
彼女だけではない。他の二人も、肩に圧し掛かっていた重いものから
開放されていくのを感じた。
ゆっくりと、それは上がっていく。

「ガードが・・・・・セイフティーガードが!!!」

「「上がるッ!!!?」」」

突如、彼女達の身体を支えていた黒い安全ガードのロックが外れ、
上に持ち上がり始めたのだ!!
これが完璧に身体から外れてしまったらどうなる!?
下り斜面なら重力と風圧の関係で、身体が投げ出されることはないであろう・・・・が!!
この先の池に飛び込めば、待っているのは急な上り斜面・・・・・
下りでスピードをつけた車両は、急な上り斜面で一時的に減速してしまうだろう!!
するとどうなるのか・・・・やや低速度となった車両にかかる風圧は軽くなり、
彼女達の身体なぞ砲弾のように勢いよく飛ばされてしまうだろう。


  『 さ 絶叫してもらいましょーか ふっふっふっ 』


「な、なんだコイツはッ!!うわあぁぁぁぁぁッ!!!!!!」

亀井絵里は上がってしまいそうになるガードを必死に戻そうと腕に力を込めるが、
ガードの持ち上がる力の方が遥かに強く、どうすることもできない。


431 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:49:39.10 0

「う、うおぉ・・・・やばいと!!!」

「なんなのだこの現象は・・・・・それにウサギッ!!こ、こいつはぁぁぁッ!!!!」

三人の歪んだ表情を見て、ウサギは口に手を当てると笑っているような
仕草を見せ付けた。
慌てている3人を余所に、車両はやがて下り斜面に入る。
池に突入してしまう!!!

「わけわからんけど・・・・このままじゃダメばいッ!どうにもならん・・・・
こうなったらああああッ!!!」


ドギュンッ!!


田中れいなの身体から発現した緑色の両腕!!
その両の拳は、叩き潰すように安全ガードを殴りつけたのだ!!!

「どらぁッ!!デュエル・エレジーズ!!!」

バギィッ!!ピキッ・・・・・ピキピキピキ・・・・・・・・!!!

殴りつけた安全ガードが石化を始めた!!
石化はガードだけではなく彼女の身体をも伝い、さらにシートまで繋がる!!
田中れいなは安全ガードと自分の身体、そしてシートを石に変えて一つにしたのだ!!
これなら飛ばされることはないッ!!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


432 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:52:02.70 0


「ラブ・シード(愛の種)ッ!!生まれよ!!!生命よッ!!!!!!」

バゴンッ!!


新垣里沙の活き活きとした生命力溢れる茶色のスタンドがシートを叩いた!!
シートだけではない・・・・・あがっていく安全ガードも叩く!
すると・・・・・


ミョミョミョミョミョミョミョ・・・・・・・・・・


木の蔓は爆発的な勢いで成長し、彼女の身体にきつく巻きついていった!
座っているシート、そして安全ガードを巻き込んでだッ!!!
そう・・・・彼女はシートや安全ガードにスタンドの豆を叩き込んだのだ。
頑丈なパワーと強度で支えられた彼女の身体は、決して空に
投げ出されることはないであろう!!



ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


433 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:53:20.20 0


  『 な なんだってー!! スタンドか!? 』


ウサギは驚いていた。
なんの変哲も無い、どこにでもいる女子高生の観光客だろうと思って手を出したのだが・・・
まさか自分と同じスタンド使いだとは夢にも思っていなかった。
もっとラクに女の子が『絶叫』するサマを拝めると思っていたのに・・・・・残念だ。
スタンドの能力を使った2人は、こんな状況でもまるで絶叫していない。
あっけなく対処してしまった。


なんて精神力の強い女の子達なんだ!!

だからこそ・・・・・だからこそ・・・・・


『 意地でも 《絶叫》 させたい・・・ その表情を 
ゲドゲドに崩して 泣き叫ばせたいッ!! 』


もう・・・・・殺してしまいたいくらいに!!!


434 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:54:16.75 0


ウサギの目的は何なのだろう・・・・・・?

そもそも目的なんてものはあるのだろうか??


なんにせよ・・・・・・


3人のうち1人は、ウサギの心の器に有り余るほどの叫び声を上げていた。



「うわああああああああああああああああッ!!なにもできないよッ!!!!」


それは、為す術もなく上がってしまいそうになるガードを必死に元に戻そうと
取っ手にしがみ付いている亀井絵里であった。



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


435 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:55:24.81 0


「え、絵里がッ!!しまったあああああああああああああああああッ!!!」


  『 この瞬間ッ!! この瞬間を待っていたんだウサギは〜ッ!!! 』


たまらない!!と言ったように、ウサギはそのスケッチブックを3人に見せる。
もっと、もっとだ。
もっとこのショートヘアーの娘が泣き叫ぶサマを見ていたいッ!!
そう強く思うウサギであったが、すでに池につながるトンネルが迫っている。
一度離脱しなくては・・・・・


サラサラサラッ


ウサギはスケッチブックに物凄い速さで何かを描く。
白黒でかかれたはずのそれに、勝手に色がついてゆき・・・・・そして・・・・・

フワッ・・・・・フワッ・・・・・

それは無数の風船となり、スケッチブックから飛び出したのである!!!


「なにぃッ!!スタンド!!?」

新垣里沙が声を発したのとほぼ同時に、ウサギは無数の風船の紐をつかむと、
ローラーコースターから飛び降りた!!
漫画やアニメのように、ウサギはゆっくりと降下していく。


436 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:56:27.86 0


「あんなもの、普通はあり得ない・・・・・スタンド使いに違いないッ!!」

だがそんなことよりも、今は目の前で焦りと恐怖に取り乱している友人を
救うことが先だ。
亀井絵里の能力では、この状況を乗り越えることは不可能だった。


「た、助けてれいなッ!!ガキさん!!い、いやだ・・・・・・・怖い!!!!」


「まずいのだ・・・・このままではトンネルに入ってしまう・・・・!!田中っち!!!
亀も同じように『デュエル・エレジーズ』でッ!!!」

「言われなくてもやるっちゃよーッ!!!どららぁッ!!デュエル・エレ・・・・・」


ガゴン!!!!


「・・・・・・・・・・・・・え?」

亀井絵里は力尽きた。
指先の力は抜け、手にかいた汗で取っ手を離してしまった。
安全ガードは完全に上にあがってしまったのだ。
もはや石化能力ではどうすることもできない。
呆然とした亀井絵里の表情が見えた。
その瞬間は、3人にとってまるで時が止まっているようであった。


437 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:57:17.42 0


バッチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


思考を巡らすヒマもなく、大きな水飛沫とともに田中れいなの視界は
真っ暗闇に覆われてしまう。

・・・・・・池の中のトンネルに入ってしまったのだ!!

田中れいなの隣には、安全ガードをつけていない丸腰の亀井絵里がいる。
真っ暗なのでわからないが、彼女は今どんな表情をしているのであろう・・・・

(救わねばならんばい・・・・・なんとしても・・・・・ッ!!!)

トンネルが開けてしまえば急な上り斜面・・・・・そこまでになんとかしなければ
亀井絵里は上空に投げ出され、転がるように自由落下してしまうだろう。

(どうする!?どうする!!?どうするーッ!!?)

考える時間は数秒もない。
すでにトンネル内の緩やかな斜面を上り始めている・・・・目の前の明かりは
グングン大きくなっていく!!


「絵里が飛ばされてしまうッちゃ!!うああああああああっ!!!
えッ!絵里が空の大海原にいぃぃぃぃぃぃーッ!!!!!!」


田中れいなは、もはや叫ぶことしかできなかった。
そして、無情にも眩しい太陽の光が彼女らを突き刺す・・・・・


438 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 04:59:55.32 0


(絵里が・・・・・・次の瞬間絵里は空に投げ出されてしまうばい・・・・・何とかしなければ・・・
何とか・・・・・い、いったい何をどうすればいいとね!?)


ガシャンッ!!


急斜面に入り、車両は一瞬だけ減速する。
隣にいる友人の身体が浮いたのがわかった。


(守れなかった・・・・・・?友達を・・・・れいなは・・・・・・・)




その時である!!!


「うぐぅうぅぅぅうぅッ!!!!!!!!!」

ビスビスビスビスビスビスッ!!!


背後から搾り出したような声が聞こえた。
言うまでもなく新垣里沙の声だ・・・・・いったい彼女は何を・・・・・・!!?


439 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 05:01:29.02 0


「引き寄せるのだッ!!ラブ・シードォッ!!!!」

ガシィイッ!!!!!!


亀井絵里の身体が、後ろから伸びてきた蔓によってシートにグッと引き寄せられる。
物凄い力で彼女を身体を縛り付けているようだが、彼女は痛みを訴えなかった。
気絶しているのだろう、グッタリと頭を垂らしている。


「よ、よかった・・・・・ガキさん、ナイスですたいッ!!グレイトっちゃ!!!」


さすがは先輩、機転が利く人だ・・・・・自分の手で守ることは出来なかったが、
それでも危機を脱したことが素直に嬉しかった。

ローラーコースターも終盤に差し掛かり、速度も緩やかになったところで
田中れいなはあることに気がつく。


(なんの植物やろか・・・・絵里に巻きついてるこの蔓は・・・・・赤い液が付いてるっちゃ)


気になった彼女は首だけで新垣理沙に振り向いてみる。
・・・・・・信じられない光景であった。


440 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 05:03:03.25 0


「ガキさん・・・・・あ、アンタ・・・・・・ッ!!!」


田中れいなは、その姿を見て驚愕せざる終えない。
後ろでこんなことが起きていたなどと、思いもしなかったのだ。


「何しよったね!?その腕はァーッ!!!植物・・・・・ガキさん、あんた自分の両腕に
ラブ・シードの豆を・・・・・・・ッ!!?」

なんと、新垣里沙は両腕にスタンドの豆を植え込み!!
それを成長させて亀井絵里の身体を固定する蔓を生み出したのだッ!!!


「わたしの身体は蔓で固定してしまっていたから身動き取れなかったし、
時間もなかった・・・・・これが一番手っ取り早い方法だったのだ・・・・というより、
真っ先に思いついた方法か・・・・・!!!」

「ち、血が出てるばい・・・・・・平気なんスかッ!!?」

「わたしの身体の中で育った可愛い植物がわたしの友人を救う・・・・・・・
平気どころか、最高に素敵なのだ・・・・・・ニィ・・・・・」


彼女は額に汗を滲ませながらも、歯を剥きだして見せたのだった。



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


441 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/25(木) 05:06:25.12 0

そしてようやく、ローラーコースターは終わりを迎えようとしていた。
スタート地点に戻ってこれたのだ(つまりゴールである)。
亀井絵里は、いまだにグッタリとして意識を失っているようだ。

「あのウサギめ・・・・・・マジで許さんばいッ!!!」

ようやく戻ってきたスタート地点で、ピンクのウサギは佇んでいる。
あの憎たらしいウサギッ!!絶対コテンパンにしてやるッ・・・・・!!
だが、その時彼女は違和感を感じた。

「・・・・・・コレ、なんで減速し始めないとね?」

止まれるのか?
このスピードで本当にスタート地点に止まれるのか?

そして、ウサギがスケッチブックを掲げる。


  『 反則したから これはもう一回ね♪ むふ 』


「「なんだってえええええええええええええええええええッ!!!!!」」

3人を乗せたローラコースターは、駅を通過する急行列車のように
スタート地点をすっ飛ばし、2周目に入ってしまったのであった!!

絶叫は・・・・・まだ終わらない!!


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!!!


739 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:26:22.86 0


「あのウサギの目的はなんなのだ・・・・なにがしたくてこんな事をーッ!!!」


3人を乗せたローラーコースターは二週目に入ってしまったのだった。
あのウサギはスタンド使い・・・・・そのスタンド能力は把握しかねるが、
間違いなくこのアトラクションを操作しているのはヤツの意思であろう。

「どうしたものか・・・・・このローラーコースターから脱出しない限り・・・・
わたしたちが一方的に不利なのだ・・・・・くそッ!!!」

安全ガードが上がってしまった今、彼女達の命綱は自身のスタンド能力のみ。
今はまだいいが、いずれそれも疲労でままならなくなってしまう。
しかも新垣里沙はこの状況で対処すべく能力を持たない亀井絵里を守っているため、
その疲労は田中れいなの二倍である。

「亀は依然気を失ったままか・・・・可愛そうに。恐怖で失神してしまったに違いない」

グッタリと頭を垂れている亀井絵里の後姿を見て、新垣里沙は歯を食いしばった。


三回転のループを超え、そろそろ池の中のトンネルに突入するポイントだと
いうところで、おもむろに田中れいなは叫んだ。

「ガキさんッ!!葉っぱをたくさんれいなによこして欲しいっちゃ!!!」

「葉っ・・・・・・ぱ?」

「そうたい!!樹木に生い茂る木の葉をれいなにィーッ!!!」

後輩の突然の発言の意味を、彼女は理解しかねた。


740 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:29:15.85 0

「何を急に・・・・?言いたいことはわからないけど、田中っち・・・・それは無理な
話なのだ・・・・・この車両に木を生やすことはできる・・・しかしッ!!わかってると
思うけど、この強風じゃあ・・・・木の葉は風に舞い、散ってしまうのだ・・・・!!!」

「何も木を生やさなくてもいいと!!例えばッ!!!れいなの足元に枝を
這わせてそこで木の葉を茂らせれば、この風の中でも多少は飛ばされず残るはず・・・」

「・・・・・いったい何をするつもりなのだ・・・?」

ローラーコースターは猛スピードで緩やかななカーブを曲がり、池のポイントへと
距離をグングン縮めていく。

「早くするとよぉぉぉぉぉッ!!!ここから脱出せねばならんっちゃ!!!
これしか方法がなか!!!早くッ!!!!!」

「何が何だかわからんが・・・・田中っち!!きみを信じるのだッ!!!
おぉぉぉぉぉぉっ!!ラブ・シードッ!!愛の種を撒き散らすときなのだ!!!」


ズリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜ン!!!


新垣里沙のスタンド『ラブ・シード』の種は車両の床に蒔かれ、彼女の意思で
それは莫大な成長力を見せる。
生まれた木の枝は、シートの隙間をぬって田中れいなの足元まで伸びた。

「デュエル・エレジーズ解除ッ!!!」

葉っぱが生み出されたのを確認すると、なんと田中れいなは自分の命綱である
石化能力を解除してしまったのだ!!
いったい何を考えているのであろうかッ!!?


741 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:33:04.54 0

「な、何をやっていのだァーッ!!?田中っち!!!」

「シートにくっついたまんまじゃ木の葉が拾えんと・・・・まだ足りんばい・・・・
この程度の量じゃ全然足りないと!!ガキさんッ!もっとばい!!」

そう言いながら、彼女は足元の木の葉を毟る。
レールに伝わってくる振動や緩やかなカーブの影響で身体がフラフラと
揺られているが、それでも田中れいなは必死で木の葉を毟り続ける。

「う、うおぉぉぉぉぉぉッ!!!わたしはどうなっても知らないよぉぉぉぉッ!!!」

ズリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜ン!!


「もっと!!もっとばいッ!!!!」


ズリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜ン!!


「まだ足りんッ!!もっと生み出すっちゃああああああああッ!!!!!」


ズリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜ン!!


「脱出したけりゃもっとたくさんッスよぉぉぉぉぉッ!!もっと!もっと!!
早く成長させるばいーッ!!!!」


ズリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュリュ〜ン!!


742 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:36:21.03 0


次々と木の枝が生まれ、田中れいなの足元で色とりどりの木の葉をつける。
だが、やはり風は強い・・・・・その強風でほとんどが吹き飛ばされてしまったようであった。
そして間もなく池に突入するところまで来てしまった。
もう目の前だ・・・・車両は斜面を下り始めている。

「ダメなのだ・・・・・やはりこの強風の中では木の葉は枝を離れてしまう・・・・!!!
田中っち!!早くスタンドで身を・・・・・そのままではトンネル後の斜面で
空に投げ出されてしまうッ!!!」

「そう・・・・それがいいんばい・・・・・投げ出されるのがいい・・・・・脱出経路は
出来上がったと!!!やはり木の葉がよかったッ!!コォォォォォォォォ・・・・・・!!!」

バチバチバチッ!!!!

何かが空気で弾ける音がした。

「いいっすか・・・・・池に入ったら身体に巻きつけてるその『蔓』を解除するんッスよ・・・
もちろん絵里のも・・・・・その身を自由にして・・・・・そして力いっぱいれいなに
つかまるとよッ!!絵里はれいなが引き受けた!!!」

「な、何だって・・・・こんな状況で解除すr」


バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


言い終わるより早く、ローラーコースターは演出である水しぶきをたて
池の中のトンネルへと飛び込んだ!!


743 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:38:22.72 0


「解除するっちゃああああああああ!!!れいなにッ!!れいなにつかまるばい!!!」


暗闇の中で、田中れいなは張り裂けそうなほどの声をあげた。
命綱であるスタンドを解除する・・・・・一瞬迷いが生まれる新垣里沙であったが、
このままではどうにもならないことも十分承知している。

それなら・・・・・・目の前の後輩にすべてを賭ける!!!


「解除するのだ!!蔓は花を咲かせ一生を終えッ!!静かに朽ち果てる!!!」


サァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・


彼女と亀井絵里の身体に巻きついていた蔓はツヤツヤの緑色から赤褐色に変わり、
粉々になって風に吹かれて行く・・・・・
そして早くも目の前にはトンネルの出口が迫っていた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!?」


新垣里沙は『ラブ・シード』で再び蔓を生み出すと、それを田中れいなの
胴体に巻きつけ、彼女につかまった!!!
そして、視界は明るくなる!!車両はトンネルを抜けるッ!!!!!


ガッコオォォォォォォォォォォン!!!!!!!!


744 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:40:34.93 0


急斜面を上り始め、身体が宙に浮いたのがわかった・・・・その時!!!


「刻むばい・・・・・血液のビート!!!」



グォングォン・・・・・ドバザザザザザザザザザザザザザザザアァァァッ!!!!!!!



唸るような音、そして葉が激しく擦れあうような音が聞こえたとき、
三人の身体は宙に浮いていた。
斜面を登る際の一瞬の減速で、身体が空に押し上げられてしまったのだ。
青い空の海原に投げ出されてしまった・・・・・だが!!!

彼女達の身体が引力に引かれて自由落下を始めることはなかった!!!!


「た、田中っち!!これはァーッ!!?」


「生命磁気への波紋疾走!!木の葉に波紋を流し込んで生命磁石として
くっつけたばいッ!!!グライダーのように空を滑空して!!このままゆっくり
降下するっちゃ!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


745 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:43:53.72 0


「す、すごいのだ・・・・・さゆのシャボン玉さえも割らずに触れることが
出来ると聞いているが・・・・・波紋・・・・これほどとは・・・・ッ!!!」


そして、それを使いこなしている後輩の田中れいな。
こんな戦い方ができるのは演劇部でも彼女だけだ。


(・・・・・この子は間違いなく『天才』なのだ・・・・・高校生になるばかりだと
いうのに・・・・・演劇部を背負うエースの1人となるのもそう遠くはないな・・・・・)


新垣里沙は心の中で大いに感心し、同時に彼女が味方にいることに安心を覚えた。
敵に回したくない・・・・・それほどまでに思うほどであった!!!


ギャンギャンギャンギャン・・・・・・・・・


波紋を流している木の葉が密集して唸っている・・・・
片手で亀井絵里を抱え、片手で葉っぱに波紋を流し続けるッ!!

そして、地上はもうすぐ・・・・・安堵していたその時だった。


746 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:46:37.94 0


ビュルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!


突然、下から巻き上がった突風に、田中れいなは姿勢を崩してしまう。
まるで地下鉄の通風孔から吹き上げる風だ!!

「うおぉぉぉッ!?風!!?」

風に翻弄された彼女は一瞬、なんと波紋の呼吸を乱してしまった!!!


バサァ・・・・


手に吸い付いていた葉っぱは磁力を失い、風に舞い始める。

「おぉぉぉ!?し、しまったばい!!!!」

波紋の呼吸を整え、なんとか残っている葉っぱが舞ってしまわないようにするが・・・・
下から吹き上げてくる風は先ほどの絶叫マシーンに乗っているときよりも遥かに強い。
次第に呼吸がしづらくなり、息も間々ならなくなる!!


「あ、あれは・・・・・!!!」


その時、田中れいなは見た。
自分達の真下で、ウサギが佇んでいたのだ!!
その手にはスケッチブックがあり・・・・・紙面から何かが吹き出している!!!


747 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:49:32.23 0

「風・・・・・あのスケッチブックから風が!!?なんなんね!?あのウサギの能力は・・・・
あ、あぁっ・・・・・・くぅ・・・・・波紋の呼吸が・・・・・葉っぱが散ってしまうとッ!!!!」

飛行して低空まで降りてきたとはいえ、まだ宙に浮いているのだ。
このまま落下しては確実にケガは必須!!!
なす術はない・・・・・・さらに風は強くなるッ!!!


「な、な・・・・・なんねコイツはッ!!うわああああああああああああッ!!!」

ブァッサアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!


あまりの息苦しさに、田中れいなはとうとう波紋の呼吸を止めてしまった!!
当然葉っぱには波紋が流れなくなり、風に吹かれて宙に散っていく。
スタンド能力の蔓で彼女につかまっていた新垣里沙も、あまりの風の勢いに
その手を離してしまった。

身体が引力に引かれるのを感じながら、田中れいなは考える。

(マンションで言うと二階よりちょい高いぐらいっちゃ!!ガキさんならスタンドを
駆使すれば着地できない高さじゃないと・・・しかしッ!!絵里は気を失っているッ!!!
着地する術はあらんばい!!!もし頭から落ちていってしまったりしたら・・・・ッ!!!)

だとすれば、彼女の取るべき行動は一つだった。


「絵里は・・・・・友達はッ!!この田中れいなが守るッ!!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!


748 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:55:01.10 0


結局空に投げ出されたカタチとなってしまった新垣里沙は冷静に状況を見据え、
そしてスタンドを構え、そして・・・・解き放つ!!!


「生まれよッ!!生命よぉぉぉぉ!!!」


スタンドの指先から放たれた豆はコンクリートの地面に穴を開けて
めり込むと、爆発的な成長力で枝の多い木に成長した。
新垣里沙の身体はその枝の密集地帯に向かって落ちていく。



バキッ・・・・・・バキバキバキバキィッ!!!!!!!



落下する身体はいくつもの枝を折りつつも減速し、やがて彼女は地上に足をつけた。


「いてて・・・・生み出した木の枝に落ちることで落下速度にブレーキをかけたが・・・・
や、やはり痛いのだ・・・・・亀を助ける際に腕に蒔いた種の跡も含めて・・・・
うぅ、2万もしたマカフィーのジャケットが・・・・・・って、そんなことより!!
田中っちはどうなった!!?」


749 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:55:55.86 0



「うわぎゃああああああああっ!!!!!!!!」




女の子のものとは思えない悲鳴が背後から聞こえた。
なんだ!!今の叫び声は・・・・・ッ!!?
新垣里沙は恐る恐る後ろを振り向く・・・・・・・!!!


「ッ!!!」


田中れいなは、こちらに背を向けて立っていた。
いや、踏ん張っていたのだ・・・・腕には誰かを抱きかかえた状態で!!!
『誰か』とは言うまでもなく亀井絵里なのだが、そこまで高くない位置から
着地したとはいえ人を抱きかかえた状態で着地などと、足にかかる負担は計り知れない。
しかも・・・・・田中れいなはほんの一月弱前に、『後藤真希』によって両足を
砕かれたばかりである。

いくら波紋の効力で足が繋がったのが早かったとしても、まだ完治しては
いないハズなのだッ!!!


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


750 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 17:57:49.19 0


ミシミシ・・・・・

「げえええええええッ!!!足がッ!!!」

ドッシ〜ン!!!!


両足が悲鳴を上げているのを感じ、田中れいなは思わず尻餅をついてしまう。
その振動で、気を失っていた亀井絵里はようやく目を覚ましたのだった。


「・・・・・・ハッ!!あれ・・・・・僕はローラーコースターに乗っていて・・・・・
地上?どうして僕は地上にいるんだ・・・・いつのまに?」

「え、絵里・・・・・ようやくお目覚めやね・・・・・」

「れいな・・・・な、なんで僕がれいなを下敷きに・・・・・ご、ごめんよッ!!!
でも、いったい何が・・・・・」

「話はあとっちゃ!!今はあそこでせせら笑っているウサギをッ!!!」

田中れいなが指差す先には、あの忌々しいピンク色のウサギが口に手を当てて
笑ったようなポーズを取っている。
持っているスケッチブックにはでかでかと、


  『 おつかれさま 』


と書いてあるようだった。


751 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 18:00:17.30 0


「そうだ!!あのウサギッ!!!あいつがあのローラーコースターで
僕らを怖い目にーッ!!許さないぞ!!!」

「そうなのだ・・・・亀!!ヤツを許してはならない!!!追いかけるのだ!!
ヤツは逃げようとしているッ!!!」

「よぉしッ!!行こうガキさん!!!」


亀井絵里は立ちあがると、新垣里沙と共に走り出したウサギを追いかけ始める。
田中れいなもそれに続こうとしたが・・・・・足に力が入らない。

「いて・・・・まぁでもこれぐらいなら大丈夫たい・・・・波紋で痛みを和らげて・・・」




「ちょ、ちょっと待つのだ!田中っち!!亀は今誰と話をしていた!!?」


波紋の呼吸を始めたまさにその時、背後から聞きなれた声が聞こえた。
いや、バカな・・・・そんなハズはない。
あの人は今、絵里と共にウサギを追っていったではないか。
後姿だってまだ確認できる。
空耳か・・・・・?そう思いながらも、田中れいなは振り向いた。

「・・・・・ッ!?」


そこには、腕から流れ出ている血をハンカチで拭っている新垣里沙がいたのだ!!


752 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 18:03:24.21 0


「えッ!?え・・・・なんで!!?」


田中れいなは前方を走りゆく新垣里沙と、自分の後ろで腕の止血をしている
新垣里沙を交互に見比べた。
前方を走っている新垣里沙は、腕にケガをしていないようであるが・・・・


(そういえば・・・あの絶叫マシーンに乗っている時、ガキさんは絵里が飛ばされないよう
腕にスタンドの豆を植えつけてなかったか・・・・・・・??)


だとすれば、無傷は明らかにおかしい。

結論付けるようにして、目の前にいる新垣里沙は額に汗を滲ませて叫んだ。


「あれはわたしじゃあないのだッ!!!」


「な・・・・・なにィーッ!!!じゃあ絵里はいったい誰についていってるんやあああッ!?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・!!!


753 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/05/30(火) 18:05:11.63 0


「こ、これは罠なのだッ!!追いかけねば・・・・・亀を止めなければッ!!!」


新垣里沙は血で濡れたハンカチを放り投げると、遥か先を行く
亀井絵里を追って走り出す。


「待つばいガキさ・・・・・うおぉぉッ!?」



ドシャアアアアアアアッ!!!!!



足がもつれて転んだ田中れいなに、彼女は気付かず走っていってしまう。
本当に大丈夫なのか?
あのウサギの逃げ方・・・・・迷いが全く見えない!!
まるでどこかに誘い込もうとしているような・・・

そもそも、どうやってやっているのかは検討もつかないが、新垣里沙の『偽者』を
使っていることが既に怪しい。



「まさか・・・・・ウサギはわざと『追いかけさせている』んじゃあなかとね!!?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


54 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:03:38.72 0


ウサギの逃げ足は速かった。
やはりウサギなだけに『足は速い』のだろうか?


いや違う。


ウサギには目的があったからだ。
目指す場所があったからだ。

ただ逃げ回るのと、目的があって逃げるのとでは、格段にその早さは変わってくる。
何も考えずに逃げ回ると言う事は、考えて逃げるのとは比べ物にならないほど
頭の回転を必要とするのだ。

決断力の速い人間ならそれでも早く逃げ回れるが、あらかじめ逃走経路を
たてているのといないのとでは、やはり天と地の差なのである。


「あのウサギ!!逃げる事を一つの目的として頭に入れているばいッ!!
あの足の運びを見ればわかるッ!!ヤツは二人を『追いかけさせている』!!」


田中れいなは得も知れぬ悪寒を覚えた。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・


55 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:05:50.04 0


(あのウサギは何を考えているんだ?・・・・・そして何がしたいんだ!?
さっきのローラーコースターだって・・・・・僕は恐怖で失神してしまったから
その間のことは知らないけれど・・・・・明らかに生死に関わる状況だったッ!!)


亀井絵里は新垣里沙(の姿をした者)と共にウサギの背中を睨みつけて考える。


(アイツの目的はわからない・・・・けどッ!!あのウサギの行動には確かな
悪意を感じる!!さ、殺意すら窺えるぞ・・・・・!!?)


ゾゾゾゾゾ・・・・・

そう思うと、背筋が凍る思いだった。
眩暈さえしてくるほどだ。
しかし、考えてみれば自分達が狙われる理由などないではないか。
ましてや偶然辿りついた遊園地にいた着ぐるみのウサギに狙われるなどと・・・・

だとすれば、あのウサギの『中の人』に秘密がある。
着ぐるみに身を包んでいる中の人が、自分達に恨みを持っているのかも知れない。
例えば、以前闘ったことのある『スタンド使い』であるとか・・・・

(いいや・・・・それはないか。スタンド能力は1人ひとつ。あのウサギの能力は
見たことないし、そもそもその能力自体が把握しきれない・・・・だとしたら・・・・)


・・・・・・・愉快犯。

そう、通り魔的な愉快犯ではないのか?


56 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:07:19.15 0


(じょ、冗談じゃないぞ・・・・・まさか・・・・・そうだ、そんなワケ・・・・
そんなくだらない理由で攻撃されてたまるもんか!!!)


だが、他に妥当な答えが見つからない。
亀井絵里の中で、その思いは徐々に膨れ上がっていった。

それにしても、なんと足の速いウサギであろう。
走るのが苦ではない亀井絵里にとっても、ウサギの足の速さは癪に障る。


(着ぐるみを着てるくせに・・・・・どうして追いつけない!?)


やられた仕打ちも相まって、彼女のイライラは余計に募っていく。
そして、イライラした感情は彼女から大事なものを忘れさせていた。
友人である、紺野あさ美のいつかの言葉を忘れてしまっていた!!


怒りとは、人から冷静な判断力を奪う・・・・・



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


57 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:09:25.94 0


「か、亀・・・・・なんて足の速さなのだ・・・・中学時代は陸上部だったと
聞いてはいるが・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・」


それでも新垣里沙は亀井絵里に追いつかんと必死にその足跡を追う。
すでに大声を出せば気付いてくれるであろう距離だ。
しかし全速力で走り息切れしている新垣里沙に、それは難しい話であった。


(どうして気付かないのだ!?わたしが亀と同じ速さで走れるわけがないというのに・・・
なぜ亀はそれを疑問に感じていないッ!?判断力がポッカリ欠けてしまってないか!!?)


やがて、彼女の視界に大きな屋敷が広がってくる。
ウサギはそこを目指して走っているッ!!
どうやら屋敷の中へ逃げ込もうとしているようだった。


『戦慄迷宮』


屋敷の看板には、大きくそう書かれていた。
まるで廃病院を思わせるその建物を目指して、ウサギは走っていたのだ。


58 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:11:06.69 0


ズギュン!!


ウサギはその開いたままの入り口に、その姿を隠してしまった。
闇の中に飲み込まれた・・・・そんな表現がよく似合う。

その屋敷の前で、ようやく亀井絵里と新垣里沙の姿をした輩は立ち止まった。
何やら言い合いをしている・・・・新垣里沙の姿をした輩は中へ入ろうと
亀井絵里に促しているように見えた。


(自分と同じ姿をしているものを見ることが、ここまで精神的にくるものだったとは・・・
遠目からだというのにこの胸糞悪い気分・・・・・・くそッ!!)


あの自分と同じ姿をしているものがウサギの仕業だとするのなら、
ヤツは亀をあの屋敷に誘い込もうとしているッ!!!

そう判断した新垣里沙は、残る力を振り絞って叫んだ!!!


59 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:12:07.22 0









「亀えぇぇぇぇぇッ!!!戻るのだ!!!そいつはわたしじゃあないッ!!!!」












60 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:13:45.47 0


彼女の金切り声に、ようやく亀井絵里はもう一人の新垣里沙の声に気付く。
口がパクパクと動いている・・・・・恐らく

『あれ・・・・どうしてあそこにもガキさんがいるんだ・・・・・?』

などと、のたまっているに違いない。


そして次の瞬間!!!!



バシィッ!!ズギュウゥゥゥンンン!!!!!!!



新垣里沙の姿をした輩が突然亀井絵里の腕をつかみ、彼女を闇の中に
引きずり込んでしまったのだ!!
目を丸くして驚いたような表情を一瞬だけ見せ、亀井絵里は屋敷の入り口に
飲み込まれてしまったッ!!


「か・・・・亀エェェェェッ!!?バカなッ!!!!」



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


61 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:16:46.99 0


まさかの事態に打ちひしがれる新垣里沙に、ようやく田中れいなが追いつく。
足は引きずっていない・・・・・波紋の呼吸は骨折の激痛をも和らげる!!
骨にヒビが入っているようだが、その程度ではどうということはないのだ。


「が、ガキさん・・・・・絵里はッ!!?」

「やられた・・・・・やられてしまったのだ田中っちぃ〜ッ!!ヤツの策にハマッた!!
ペースはあのウサギのものなのだ!!亀はあの屋敷に引きずりこまれたッ!!!」


田中れいなは新垣里沙の見つめる屋敷を眺める。


「せ・・・・『戦慄迷宮』・・・・!!!」

ドォォォ〜ン!!!


屋敷から放たれる冷や汗も滲むような異様に重苦しい瘴気に、
田中れいなはすぐその屋敷がどういった趣向のものなのか理解した。


「お化け屋敷・・・・お化け屋敷っちゃ・・・・・それもかなり巨大なッ!!!どうやら
あのウサギ、どんな手を使ってでもれいな達を『絶叫』させたいようやね・・・ッ!!」



ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・・


62 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:18:58.52 0


「入れば恐らく攻撃を受けてしまう・・・・・だが亀もウサギもあの屋敷の中なのだ。
わたしの偽者も!!どうするべきか・・・・・ッ!!!」

「決まってるばいッ!!絵里を助けに行く!!!」


田中れいなは即答した。
そんな彼女に、新垣里沙はつらつらと冷静な意見を述べる。


「確かに答えはそれしかないのだ・・・・しかしッ!!あの屋敷の中は
この遊園地を知り尽くしているであろうウサギのホームグラウンドなのだ!!
迂闊に飛び込むのは危険すぎる・・・・・ッ!!!」

「だからっつって・・・・ほっとけるワケなか!!れいなに絵里を見捨てろとでも
言うんスか!?ガキさんンンッ!!!!!」


田中れいなは思わず両手に握り拳を作ってしまう。
友達の危機に何もしないなんて、絶対に許されない行為だ!!
そう思っているのだ・・・・・が、目の前にいる先輩の意見も決して
間違ってはいないということはよく理解していた。

ウサギはあの屋敷に誘い込もうとして逃げるフリをしたのだ!!
明らかに罠なのだ!!!


だから・・・・・もどかしいッ!!!!


63 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 06:23:17.34 0


「どうすればいいたいッ!!れいな達はどうすれば・・・・・・!!!」


もう考えるのが億劫だ・・・・このまま感情に任せて屋敷に飛び込んでしまおうか?
あとのことは、攻撃を受けたときに考えればいい・・・・
そう思い行動を起こそうとした瞬間、新垣里沙は口を開いた。


「あの屋敷に入る・・・・それはわたし達の中では確定事項なのだ。
そうでしょう?田中っち・・・・・きみがこのまま亀をほっとくワケないもんねぇ?」

「え・・・・・・・?」

「誰だってそーする。わたしもそーする。もし、この場にミキティやマコッちゃんが
いたら、二人もきっとそうしていたに違いないのだ。二人だけじゃない・・・・
この場にいたのが愛ちゃんだとしても、さゆだったとしても・・・みんなそうしている!!」

「ガキさん・・・・!!」

「確かに、あの屋敷は罠に違いない・・・・・だが、ウサギも同じ建物の中に入ったのだ。
つまり、ヤツは自ら鳥かごの中に入ったも同然!!亀は逃げながらヤツと闘う・・・・
わたしたちは追いながらウサギと闘う・・・・・つまり、挟み撃ちの形になるのだ・・・・!!!
だから・・・・・・行くよ田中っち!!ヤツを追い詰めるなら今しかないッ!!!」


「が、ガキさんッ!!!!!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


83 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 20:56:03.76 0

二人は屋敷の入り口の前に立つと、その奥を睨みつける。
なにも見えない・・・・太陽の光すら差し込まない入り口は、まるで黒い
水でも張っているかのような印象を受けた。

「入れるんやろか・・・・いや、意地でも入るたいッ!!」

今頃、屋敷の中では亀井絵里が攻撃を受けているに違いないだろう。
早く加勢しに行かねばならない!!

「待つのだ!!」

「なんねガキさん!」

「入り口は真っ暗闇・・・・だとすればこの中も当然何も見えない暗闇なのだ。
見えないというのはまずい・・・・お互いはぐれてしまう可能性があるからね。
それに五感が一つでも欠けると人間は冷静でいられなくなる」

そう言うと、新垣里沙は左手を田中れいなに差し出した。
『手を繋ごう』という意思が、言われずとも理解できた。

「欠けた視覚を補うには、聴覚・嗅覚・味覚・触覚のうち一つを機敏に働かせるのがいい・・・
今回の場合は『触覚』だが・・・・こうすればお互い離れることはなく亀を探すことができる。
なにより、人肌というものは暗闇の中でも安らぎを与える・・・不思議なものなのだ」

「うん。いよいよ出発っちゃ・・・・」


「「行くぞッ!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


84 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 20:58:15.35 0


暗闇の中でも決して離さぬように、しっかりとお互いの手を握り締めた
二人は、暗黒に広がる屋敷の入り口に足を踏み入れた!!


いったい中ではウサギのどんな攻撃が待ち受けているのであろう。

見えぬ目でどこまで対応しきれるであろう。

だが・・・・・それでもいい様にされてたまるか。

絶対にあのウサギを追い詰めッ!!

ごめんなさいと言わせてやる!!!


多少の不安を抱えながらも、田中れいなは意気込んでいた。



が・・・・・・・



85 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 20:59:56.46 0


パァ・・・・・・・・・・・・


田中れいなは、突き刺さるように差し込んだ光に目がくらんでしまった。


「な、なんね・・・・・いきなり明るく・・・・・・?」


屋敷に入った途端、暗くなり何も見えなくなるはずの視界がパァッと明るくなる。

いや、明るくなったのではない・・・・

向こうには、先ほどウサギに第一の攻撃を受けたローラーコースターが見えた。


「出ている・・・・・?や、屋敷から出てしまっているたいッ!!」


そう、彼女が立っていた場所は、たった今まで立っていた屋敷の入り口だったのだ!!
田中れいなは入り口から出てきたのだ!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


86 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:01:30.62 0


「な、なんやこれは・・・・・ハッ!!!」


そして気がついた。
新垣里沙の左手を握っていたはずの右手が・・・・・空をつかんでいたことに。


「な、なんばしよってん!?れいなは確かにガキさんの手を握っていた!!
しっかり握っていたはずなのにッ!!どうして手を離してしまっていると!!?」


どこで手を離した!?
いや、離してなどはいないッ!!
そもそも、入り口に足を踏み入れたというのに入り口から出てくることがおかしい!!


「も、戻らねば・・・・今すぐ中に戻らねばァッ!!!!」


田中れいなは再び屋敷の中へと駆け込む!!
彼女の身体は沈むように屋敷の中に溶け込み、そして・・・・


パァ・・・・・・・・・・・・・

「ま、また入り口から出て・・・・ッ!!入れないッ!!どうして屋敷に
入れないンやあああッ!!!これじゃあ挟み撃ちも何もないと!!」



87 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:02:59.90 0


もう一度だ!!
彼女は右手を屋敷の入り口に突っ込む・・・・・すると!!!


ズボッ!!!


「・・・・・・・う、うわッ!!!」

信じられない光景だった。
闇の中から、突如手が生えてきたのだ!!!
田中れいなは驚き、思わず後退してしまうところだったが・・・・・

「ま、待つっちゃ・・・・・この手は・・・・見たことある・・・・・いや、あるなんて
もんじゃあない!!いつも・・・・毎日見ている・・・・・これは・・・・・ッ!!!」

屋敷の入り口に突っ込んだ右手を握り、そして開く。
すると入り口から突き出た手も、それと同じ動作をした。


「れ、れいなの手でしたァーッ!?これはああああああ!!!!」


今度は上半身だけのめり込むようにして入り口に入る。
すると・・・・・


88 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:04:11.00 0


パァ・・・・・・・・・・・

「なにィーッ!!!!」


すぐ横に、入り口に上半身を突っ込んでいる自分の下半身があった。

「は、入れないと・・・・・入り口が出口になってしまっているばい!!!
なんやこれはッ!!!ガキさんは・・・・ガキさんはどこへ行ってしまったと!!?」


その時だ。

驚愕する彼女の視界に、ピンク色の何かが映った。
自分のすぐ脇だ。
すぐ真横だ!!


「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!」


物凄い至近距離でウサギの顔を見た彼女は、思わず尻餅をついてしまう。
すると視界は変わり、目の前には真っ暗な入り口と・・・・その入り口から顔を出して
田中れいなを見つめるピンク色の無機質なウサギがいたのだった。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


89 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:05:38.88 0


一方、新垣里沙は・・・・・・


「な、なぜだ・・・・・・屋敷に入った途端・・・・・田中っちの手が消えた・・・・・?
いったい・・・・・いったい何が起きたのだ!?田中っちはどこへ行った!!?」

暗闇の中、早々に仲間を見失った新垣里沙は一瞬、取り乱しそうになるが
すぐ冷静になって考える。

「これもヤツの・・・・ウサギの仕業なのだろうか・・・・何らかの方法で
わたし達をはぐれさせようと・・・・・ッ!!」

突然いなくなってしまった田中れいなは無事なのか?
まだ入ったばかりだが、ここは一度入り口に引き返したほうがいいのかもしれない・・・・・
そう思い、彼女は振り返った。

「な、なに・・・・・・・!?」

振り返った先に光はなかった。
段々目が慣れてきたのでわかるが、後方には道が続いているだけだ。
壁はボロボロで、いたるところにある扉はほとんど崩れている。

「そんなバカな!!足を踏み入れたばかりなのにッ!!わたしは真っ直ぐに
数歩歩いただけだッ!!なのにどうして・・・・・来た道は入り組んでいるのだッ!!?」



ドォ〜ン!!!!


90 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:07:47.48 0

「と、とにかく・・・・戻れないのなら進まねばなるまい・・・・・亀がこの中に
いることは間違いないのだから・・・・・・・!!!!」

新垣里沙はゆっくりと足を進め始めた。
目が慣れてきたとはいえ、暗くてやはり見えづらい。
壁伝いに歩こう・・・・・そう思い、壁に寄っていったときだ。


ドギャス!!!


何か大きい物体に躓いてしまった。
そして・・・・・・


「うわぎゃああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」


突然、躓いたその物体が絶叫した。


「わあああああああああああ!!!なんなのだああああああああッ!!!!!!!」


新垣里沙も、その声に驚き絶叫してしまう。


「やだやだやだやだやだ!!悪霊退散ッ!!!僕に近寄らないでくれぇ〜ッ!!!」


その物体は聞いた事のある声と一人称を使った。


91 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:09:05.27 0


「か、亀・・・・・・・?亀なのか・・・・??」

「うぅぅぅぅぅぅ〜ッ!!!・・・・・が、ガキさん?」


そう、その物体とは・・・・恐怖のあまり通路でうずくまっていた亀井絵里だった!!!

こんなに早く見つけられるとは・・・・・あまりの呆気なさに新垣里沙は声が出ない。
亀井絵里を見る限り、今のところは何かしら攻撃を受けていたわけではないようだ。
それは喜ぶべきか・・・・・やがて、亀井絵里は口を開いた。


「ガキさん・・・・・ガキさんだよね?どうして二人いるのさ・・・・・どっちが本物なの?
きみは僕を屋敷の中に引っぱった方?それとも僕を追いかけてきた方?」

「後者なのだ・・・・・そして、わたしは本物なのだ」

「ホントに?」

「うむ」

「ホントにホント?」

「本当」

「ホントにホントにホントにホン・・・・・」


「本当だと言ったら本当なのだ。と言っても証明できるものもないけど・・・・」


92 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/02(金) 21:11:37.77 0


沈黙が訪れる。
オドロオドロした雰囲気の中、先に口を開いたのは亀井絵里だった。


「・・・・・・・・・・・・豆ってなんの味がするの?」

「人の肉の味」

「サボテンって何で出来てるの?」

「95%は水で出来ている」

「おっぱい」

「うえぇッ!?ちょッ!なっ!!何言ってんの亀はァ〜!はしたないから!!
女の子がそんなこと言っちゃダメッ!!めッ!やめれ〜!!!」

新垣里沙はわたわたと何かを払いのけるように空を仰ぐ。
下ネタはダメだ。
下ネタには対処しきれない。


「本物のガキさんだ・・・・・下ネタを言うと面白い取り乱し方をする・・・・」

「・・・・・・からかうのはやめるのだ」



プギャアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!


222 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:27:36.33 0


新垣里沙は床にすっかり腰を下ろしてしまっている亀井絵里に
手を差し伸べると、彼女の身体を引き、立たせる。


「ところで・・・・わたしの姿をした偽者はどこへ行ったのだ?」


亀井絵里をこの屋敷に引きずり込んだ張本人の姿が見えない。


「わからないよ・・・・この屋敷に入った瞬間に忽然といなくなっちゃったんだ。
あれはいったい何だったの?」

「それこそわからないのだ・・・・・敵は二人いるということなのか?」


その時、新垣里沙は以前部室で読んだ資料の中に『顔のスタンド』が
載っていた事を思い出した。
能力は変身であり、なんでも『エジプト9柱神』の一つだという。


(だがわたしの偽者は違う・・・・体系、髪型、すべてにおいて瓜二つだったような
気がする。今日のわたしの服装とまったく同じ・・・・・・うぅむ・・・・・・)



223 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:29:15.44 0


暗闇の中で冷静に腕を組み考える新垣里沙をよそに、
亀井絵里は挙動不審にあたりをキョロキョロと見渡していた。


「どうしたのだ亀?」

「が、ガキさん・・・・・怖いんだよぅ!!」

「へ?」

「さっきから視線を感じるんだ・・・・ジワジワと背中や肩を撫でられているような
気分なんだッ!!誰かいるぞッ!?ゆっくりと僕らに近付いてきている気がするッ!!」

「視線?」


新垣里沙はキョロキョロとあたりを見回す。
暗くてよくわからないが、誰かがいる気配はなかった。


「気のせいなのだ」

「いいや!!気のせいなんかじゃないやいッ!!!背後に圧力を感じるぞ・・・・
生温い圧力を感じる!!こ、怖い・・・・誰かが近付いてきているッ!!!」


去年、とある小道で似たような経験をしたが・・・・彼女にとって今回のそれは
その時の比ではなかった。
辺りが暗いせいもあるのだろうが、亀井絵里の中にあるマイナス思考が
恐怖を煽り立てているのであろう。


224 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:31:53.97 0


フワッ・・・・・・と、彼女達を包むように、ぬるい風が吹いた。


「わあああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

「わああああああああああッ!!いきなり叫ぶな亀ェッ!!!!!!」

「お化けだッ!!!!ぎゃあああああああああああ!!!!」


そう叫ぶと、亀井絵里は頭を抱えて大慌てで駆け出す。
だが慌てているせいか、すぐ側の瓦礫に躓き勢いよく転んでしまった!!


 ズッシ〜ン!!!


「いててーッ!!!」

「もう・・・・・今の風は恐らく入り口か出口に吹き込んだ風がここまで届いて
しまっただけに過ぎない・・・・・と、思うのだ。ってか今わたしを置いてこうと・・・
まぁ、それはいいか。ほら、早く立って」

「無理無理無理無理ィッ!!」

「無理っつったって・・・・・進まなきゃここから出られないんだよ?それに・・・・
田中っちが心配なのだ。あの子はわたしと屋敷に入った直後にはぐれてしまったのだ」

「じゃあれいなを待ってようよッ!!怖い・・・・・怖くて震えるよハート!!
燃え尽きたよビートッ!!!うぅぅぅぅ・・・・さゆ・・・・・」


225 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:34:20.85 0


恐怖のあまり、亀井絵里はすっかり気弱になってしまっていた。
怖いか怖くないかなんてものは気の持ちようだが、一度気弱になってしまった
心の回復はなかなか難しい。
だからといって、彼女が落ち着くまで待っているほど時間に余裕もないだろう。
新垣里沙は渋々彼女を元気付けることにした。


「亀、大丈夫だって」

「無理だよ〜ッ!!もう足に力入んない」


やれやれ・・・・・・
新垣里沙はしゃがみ込むと、亀井絵里に視線の高さを合わせ、
彼女の頬を軽くペッシペッシと叩く。

「亀、亀、亀、亀よォ〜・・・・いい?よく聞いて。この世にはルールがあるのだ。
赤信号は止まれだとか、ボールを持ったら三歩歩いちゃダメだとか、そういう
類のルールじゃあない。根本的なルールってのがこの世には存在するのだ」

そう言うと、彼女はコツンと亀井絵里のおでこに自分のおでこをぶつける。

「鳥が人と話せないように、鏡の中に世界など存在しないように・・・
この世にはルールがある」

「ルー・・・・・ル?」


「そう。それらのルールと同じように、お化けは人に触れちゃいけない
ルールになっているのだ」


226 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:36:20.11 0


「な、なにそれ・・・・・?」


あまりにぶっ飛んだ考え方に、亀井絵里は理解に苦しんだ。
心でも理解できない。


「だから大丈夫ッ!!」

「何が大丈夫なのさ!!!」


そして理解できぬまま、新垣里沙は勝手に話を閉めてしまう。


「とにかく、こんなところで立ち往生していてもしょうがないのだ。
出たいでしょ?ここから早く抜け出して太陽の光を浴びたいでしょ??」

「う、うん・・・・・」

「じゃあ立ち上がるのだ・・・・・でも、だからって闇雲に歩き回ったりは
しないからね。考えずに行動するのはバカのすることなのだ・・・・
わたしにはちゃんと考えがある!!ラブ・シードッ!!!!!」


ズリュウ〜ン!!!!!!


227 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:38:03.95 0


新垣里沙の背後に茶色の木人形が現れる。
これで何をしようというのだろうか?


「生まれよ・・・・・生命よ!!!」


ズボッ!!

彼女のスタンドが床に指を突き刺すと、そこから細い植物がいくつも
壁や天井を伝い、爆発的に成長した。


「ガキさん・・・・これは??」


「ラブ・シードの指先から直接ツタを生み出しているのだ・・・・・屋敷の中の壁は
屋敷の外の壁面と繋がっているハズだし、床は外の地面へと繋がっている・・・
これで脱出経路を探るのだ!!ツタが外に出れば、生命の息吹がそれを教えてくれる・・・」



ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


228 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:40:22.08 0


ラブ・シードの生み出すツタは成長を続け、屋敷の中でグングン伸び続けていた。
だが、植物を枯らさずに成長させ続けるというのは多くのスタンドパワーを消費する。
三分を過ぎたところで、新垣里沙は精神的な疲労を感じてきた。


「クソ・・・・・なんて広い屋敷なのだ・・・・歩いたら抜け出すのに
一時間はかかるんじゃあないのか?ってぐらい広いようなのだ」

「出口はまだ見つからないの?」

「今、小さな抜け道も見逃さぬよう隅々までツタを走らせている・・・・
床も壁も埋め尽くすほどにね・・・・・なのに・・・・見つからない!!」



ザワッ・・・・・・・



その時、亀井絵里は足元に何かが触れたのを感じた。


「ッ!?」


それに思わず息を呑んでしまう。


229 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:41:45.24 0



(な・・・・なんだ・・・・・いま・・・・・・僕の足に何か触れたぞ・・・・・まるで虫か何かが
足を這っているような・・・・・・お、お化け!?い、いや・・・・・落ち着くんだ・・・・・ッ!!)



亀井絵里は恐る恐る足元に目をやる。

するとそこには・・・・・



サワサワサワ・・・・・・



驚きのあまり、彼女は声を出すことができなかった。




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


230 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:43:41.09 0


「出口はまだか・・・・・いや、もう少し根気よく待とう。花を育てる時だって、根気よく
水をやって話しかけたりしてあげるから芽が出たときに感動が生まれるわけで・・・
ん?何かにツタが触れている・・・・・これは物質ではない・・・・生命の鼓動がする何かに
ツタが絡み付いているのだ・・・・・・」


はぐれてしまった田中れいなだろうか?
いや、もしかしたらこの屋敷に潜伏しているであろうウサギかも・・・・・
ツタを通じて感じる鼓動を聞くように、新垣里沙は精神を研ぎ澄ます。



「ガキさん・・・・・ちょ、ちょっと・・・・」


「静かに・・・・・今ツタが生きた何かに絡み付いているのだ・・・・」



「ガキさん」



「シッ!!気が散るから・・・・・・・うぅむ・・・・・ツタに絡まっている感触からして
随分とイイ身体をしているのだ。ムチムチしている・・・・これは田中っちではないな・・・・
いったい誰なんだろう?」


231 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:44:30.41 0


サワサワサワ・・・・・・・・


後ろで何やら葉っぱが擦りあっているような音が聞こえた。
集中している新垣里沙にとって、それはとても耳障りな音だ。


「亀っ!!耳障りな音を立てるんじゃあない・・・・・・ハッ!!!!!!!」


振り返ると、すぐそこにいた亀井絵里は・・・・・



「僕だよォ〜ガキさんッ!!ガキさんのツタに絡まっているのは僕なんだァ〜!!!!」



全身にツタを這わせていたのだった。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


232 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:47:03.67 0


ツタはグングン亀井絵里の身体を這い上がり、その身体を包んでいく。
スタンドのツタが絡み付いていたのは他でもない、亀井絵里だったのだ!!

「早くこのツタをなんとかして〜ッ!!気持ちが悪い!!!」

「そ、そんなバカな・・・・・なぜ生み出したツタが亀に・・・・後ろに回ってきてるのだ?
ツタは依然、外の空気に触れている気配はない・・・・・ということは・・・・・
グルッと屋敷を一周してこちらに回ってきたということなのか!?」

それが指し示すことは、もはや考える間でもない。

「ど、どういうことなのさ。それは・・・・閉じ込められたってこと?」

「そういうことだが・・・・・ただ入り口と出口を塞いだだけではあり得ないことなのだ!!
ツタというものは、どんな隙間をも見逃さず入り込み、外へと出ようとするッ!!
だが、この屋敷にはミクロ単位の隙間もない!!外に繋がっていないッ!!」

「じゃあ・・・・僕らの吸ってる酸素もいつかなくなってしまうんじゃあ・・・・・・」

「いや、それはないのだ・・・・なぜなら、さっきぬるい風が吹いて亀を驚かせたじゃないか。
今だって・・・・・ほら。風が吹き込むという事はどこかが外に通じているからなのだ。
しかしッ!!ツタはそこを這うことなくわたし達の所に戻ってきてしまっている!!」

「ど・・・・・・どういうことなんだいそれは!!?全然ワケわかんないよッ!!!」

「屋敷はメビウスの輪のように!!クラインの壷のようにッ!!裏も表も
外も中もなくなってしまっている!!!脱出経路が存在しないのだッ!!!」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


233 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/06/05(月) 04:51:35.83 0

表面を指でたどっていく・・・・・
さらにズズッと・・・・・一度も指を離さず表面をたどっていくと、
いつの間にか裏面に入り・・・・・一周してスタートした地点に戻る。

これが19世紀にドイツの数学者が発見した『表裏』のない形ッ!!
彼の名を冠して『メビウスの輪(帯)』と呼ぶ!!
『クラインの壷』とは、同じように表裏のない立体であるッ!!!


「なんてことなのだ・・・・見事に閉じ込められてしまったッ!!!」

「脱出経路がないなんて・・・・・・どうするのさ!!そ、そうだ・・・・・
ガキさんのスタンドならこの屋敷を破壊するくらいの成長力を持った
大木を生み出せるんじゃあないの?それをやってよ!!!」

「残念だけどそれは不可能なのだ・・・・・植物とは光合成をして始めて成長に
必要なエネルギーを作ることができる・・・・・しかし、この屋敷は薄暗くて
そのための光が存在しないッ!!!」

「そんな・・・・・・・」

亀井絵里はガクリと力なくヒザをつき、その場にへたり込んでしまう。
心の茎は折れてしまった。


「この場所でわたしが生み出せる植物といえば・・・・いま屋敷全体を
調べるために生み出した、この弱々しい夕顔のツタくらいのもんなのだ・・・ッ」



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!


219 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:49:01.46 0


田中れいなは考える。

今日という日のことを。

先輩である新垣里沙が自分と友人の道重さゆみの進学祝をしてくれると知った時、
彼女は心の底から喜んでいた。
誰かが自分のために何かをしてくれることなど滅多にないと思っていたからだ。

滅多にない・・・・などということはないかも知れない。
しかし、こういった『友情』や他人の『親切』を心の底から感じられるように
なったのは、演劇部に入ってからだ。

同じ時を共有する仲間ができてからだ。

その仲間が・・・・友達が、自分やさゆのために祝ってくれると言ったのである。
嬉しくないわけがない。

道重さゆみは来れないと言ったとき、進学祝はお流れか・・・・と不安になった。
ところがそんなことにはならず、自分ひとりだけでも祝ってくれることになったのだ。

彼女は感激した。


こんな自分のことでも、ちゃんと頭にいれてくれているんだ・・・・・と。


きっとその日は忘れられない日になるはず。
とても楽しい日になるはず。

心から・・・・・そう彼女は思っていた。


220 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:49:43.79 0


田中れいなは目の前にいるウサギを見て考える!!


今日という日をぶち壊したのは、そう!!
目の前に立っている、表情をピクリとも変化させないこのピンク色のウサギだッ!!!
いったい何が目的でこんなことをする!?

なぜ、友達を傷つけるッ!!!!!!!!!


ウサギは・・・・・田中れいなの逆鱗に触れてしまっていた。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・


221 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:51:18.55 0


れいなはお尻をパンパンと払いながら、ゆっくりと立ち上がった。
その瞳はウサギをとらえて離さない。
彼女はゆっくりと口を開く。

「二人は・・・・絵里とガキさんをどこへやったと?」

その質問に、ウサギはスケッチブックを掲げて答えた。


  『 罰ゲーム たくさん絶叫してもらいまひょ 』



「罰ゲーム・・・・か。あんたが何のためにこんなことをしているのか?そんなことは
もうどうでもいいっちゃ。もし、この屋敷の中に二人を閉じ込めているというのなら、
二人を解放するばい。2秒間だけ待ってやると。1(ウーノ)、2(ドゥーエ)。
それ以上は待たん。タイムリミットを過ぎた瞬間、れいなの弾丸のような拳が
あんたの頭をぶち抜くっちゃ」

そう言ったれいなに対し、ウサギは何もアクションを起こさない。
ただただ、彼女を大きな作り物の瞳で見つめているだけだ。


222 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:53:02.49 0


「れいなの『意思は固い』っちゃ。やると言ったらやると・・・・1(ウーノ)!!!」


カウントは始まった。
それでもウサギは動かない。
距離があるから安心しているのだろうか?


「2(ドゥーエ)!!!」


2秒経過を告げ、拳に力を込めたその時だ。
ウサギがアクションを起こした。
新しいページを捲ったのだ。
そこには、こう書かれていた。



   『 きみのような 強気な女が 泣き叫ぶところが一番 ぞくぞくする 
    死に怯える 表情が ウサギに火をつける  わくわく    』



223 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:54:13.87 0


ドンッ!!!!!!!!!!!!


れいなの動きは素早かった。
戯言をいちいち読んでやるほど彼女は優しくない。
握った拳は空を裂き、ウサギに向かって吸い込まれるように撃たれる!!


(関節を!関節をはずして腕をのばすッ!!その激痛は波紋エネルギーで和らげる!!)


その技の名はズームパンチ!!
波紋戦士の基本の技であり、彼女の得意技の一つ!!!
しかも『デュエル・エレジーズ』の石化能力付きだッ!!!!


ググウゥゥゥゥゥゥゥン!!!!


れいなの右腕と共に、スタンドの腕もウサギに向かって伸びてゆく!!!
ヤツは無防備でスキだらけッ!!

この攻撃を逃れる術はないッ!!!!



224 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:55:11.19 0


バッシ〜ン!!!!!!!


ヒットォォォォッ!!!
拳に衝撃が伝わる・・・・が!!


(今のは違う・・・・・今のは殴った衝撃やないとッ!?)


拳に感じた違和感に彼女は気付いた。
まるで手の甲を弾かれたような、そんな感じがしたッ!!!
伸びた腕がシルシルと元の長さに戻り、腕の関節がハマる・・・・
そして、彼女は自分の拳に何が当たったのか目視した。

「な・・・・・なんばしよっとね!!?」

れいなが驚くのも無理はない。
いや、こんな光景を見せられて驚かない方が不自然だ。

スケッチブックから・・・・・自分と同じ姿をした者が上半身だけ身体を出していたのだ。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


225 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 03:58:49.05 0

まったく同じ姿だった。
顔も、服装も、髪型も、首にぶら下げてる赤い宝石のついたアクセサリーも・・・・
目の前にいるのは、正真正銘『田中れいな』なのだ!!!

「なんやね・・・・その能力はァッ!!!」

自分とまったく同じ姿をしているヤツが、スケッチブックから飛び出している。
コイツがズームパンチを弾いてウサギを守ったのだ!!
鏡以外で自分自身の姿を見る・・・・精神的に何かくるものがあった。
鏡と違って、左右すら逆になっていないからであろうか。
ウサギは黙ったまま(元より一度も声を出していないが)、れいなと同じ姿をした
輩が飛び出しているスケッチブックを掲げている。

ググッ・・・・・ググッ・・・・・

その時、スケッチブックから飛び出している『田中れいな』が異変を起こした。
小刻みに動いている・・・・・動きながら、どんどん小さくなっている!!
いや違うッ!!!小さくなっているのではない・・・スケッチブックに吸い込まれているのだ!!
立体的だったその姿は、やがて二次元の世界へと戻っていく・・・・・

「絵・・・・・?まさか・・・・今のれいなと同じ姿をしていたのは・・・・・ッ!!!!」

  『 絵だよ ウサギの能力は このスケッチブック  コレに描いたものは
   ウサギの意思で すべて 具現化される 無敵の能力  うひょ
   その名も  《絶叫!!コマーシャル》  後悔しても もう遅いで ボケナス 』

そんなメッセージが、れいなの絵の吹き出しとしてスケッチブックに
ふんわりと浮かび上がった。


ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


226 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:00:05.60 0


『絶叫!!コマーシャル』ッ!!
これがこのウサギのスタンドの名前か!?
あのスケッチブックに描いたものを具現化させる能力・・・・・!!


  『 さて きみにも 絶叫!! してもらいましょ 』


無機質な顔で、ウサギはスケッチブックを掲げた。

「・・・・・・ひるむと思うと?それしきのことでよォ・・・・!!」


  『 (゚∀゚)イイ!!!! その強気な態度 ぐしゃぐしゃにねじ伏せてやりたし !!』


バンッ!!

先に動いたのは田中れいなだ。
急接近!!彼女は一気にウサギとの間合いを詰めたのだ。

(ヤツの能力が『スケッチブックに描く』ことで初めて発動するというのならッ!!!
描く暇を与えなければいいだけの話!!!大接近ばいッ!!!!)



227 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:01:15.90 0


「どらぁーッ!!!『D・エレジーズ』AND『波紋』ッ!!!」


れいなの拳と『D・エレジーズ』の拳ッ!!
二つの拳がウサギに迫る。
その疾風のごとき速さで放たれた拳を見てから交わすことは不可能ッ!!
ウサギに防御する暇すら与えない・・・・ハズだった!!!


ズシャンッ!!


「・・・・・・・え?」

二つの拳は、虚しく宙を切った。
ウサギの身体は・・・・瞬きするよりもはやく、目の前から姿を消したのだ!!
あるのは、ウサギが持っていたスケッチブックだけ。
ウサギの手から離れたスケッチブックは、地面へと落下を始めていた。

その時、れいなは見たのだ。

地面に落ち行くスケッチブックを。
スケッチブックに描かれているウサギの絵を!!


「ま、まさか・・・・・こいつッ!!スケッチブックのスタンドの中に入り込んで・・・ッ!!」



228 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:03:28.10 0


バゴムッ!!!


目を丸くしていた彼女が次に感じたことは、左脇腹の痛みだった。
何が起きたのかは考えなくてもわかる。
れいなの目にはしっかりと映っていたのだ。

スケッチブックから、ピンク色の拳が飛び出してきている・・・・・


「ゲェーッ!!」


予期せぬ攻撃とは、これから攻撃を受けるという覚悟がない分
威力は必然的に上がるものだ。


「お、女の子を・・・・・殴るなん・・・・・・て・・・・・・・ッ!!!!!!」


自分のセリフを滑稽に思いながら、れいなは脇腹を押さえ、よろよろと後ずさる。
その時、ふくらはぎの辺りに何か固いものがぶつかった。
いや、ぶつかったのではない・・・・れいな自身がぶつかりに行ったのだ。
バランスを崩した彼女は尻餅をついてしまう。
ところが、れいなを受け止めたのは硬い地面ではなく、弾力性のあるシートだったのだ。



229 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:04:30.01 0


「い・・・・・すゥッ!?」


再びスケッチブックから出現したウサギは、それを掲げてこう述べていた。


  『 言ったろう  描いたものを具現化する と 』


「こ、これは・・・・・」

れいなは自分の座っているシートを、背もたれを、そして、すぐ後方で
天高くそびえている青いタワーを見上げて唾を飲んだ。


「な、なんねこれは・・・・・さっきまでこんなものはなかった・・・・・・
こんな『絶叫マシーン』は建っていなかったッ!!!」


  『 描いたものを具現化させる 次のページに描いてある この夢の町の
    地図に いま 新たな絶叫マシーンを 描き加えて置いた !! 』



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


230 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:06:31.01 0


「や、やばいッ!!早くこいつから降りなくてはッ!!!」


ガコン・・・・・ッ

れいながシートを立とうとするより一瞬早く、安全ガードが身体を拘束してしまう。
先ほどのローラーコースターの例もある・・・・恐らくこれは安全装置には
なり得ないものであることは想像に難しくない。


  『 《ブルーフォール》!! 35階建てのビルに相当する高さ107mから
  最高時速125km 最大加重4Gで 一気に落下するッ!!!
  地面に直撃してッ!! ゲドゲドの恐怖に濡れた表情を ウサギに見せんしゃい 』



ガッシャン!!!!

全身に振動が伝わり、絶叫マシーンは作動し始めた。

こいつ・・・・マジだ。
マジでれいなを恐怖の絶頂に立たせる気だ。

「・・・・・・・愉快犯が・・・・・・ッ!!!」

地上から足がグングン離れていく・・・・
それと比例するように、れいなの心を支配して行ったのは・・・・・


恐怖ではなく、勇気であった。


231 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:07:59.41 0


「もう一度だけ・・・・もう一度だけ言うばい・・・・・ひるむと思ってると?
これしきの・・・・ことで・・・・!!!!」


ドギャン!!!!!

出現した緑色の影は、れいなの『D・エレジーズ』だ。


「れいな達は・・・・何事もなくこの休日を楽しむんっちゃ・・・・・
それをテメーごときにッ!!!」


れいなは地上にいるウサギを睨み叫んだ。
この声は果たしてウサギに聞こえたのだろうか?それはわからないが・・・


彼女は行動に移ったッ!!!!



232 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/06(木) 04:10:02.46 0


「どららららららららららあああああああああああッ!!!!!!!!!!!」

ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガッ!!!!!!


バッキィ〜ン!!!!!!!!!


  『 !!!!? 』

彼女が叩き続けた安全ガードは、その圧倒的な破壊力の前に砕け、
その破片は石に変わり地上へと落下していく・・・・・

何を考えているんだ!彼女は!!

れいなの身体を押さえつけていたガードがなくなったという事は、
彼女の命綱がなくなったということなのだ。

れいなは自ら命綱を捨て去ったのだ!!!


そして、それだけではなく!!
彼女は・・・・ああ、彼女はあろうことか!!!


その身を自らの意思で空に投げてしまったのだッ!!!



ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!



279 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 05:58:34.94 0


れいなのスタンドに飛行能力はない。
波紋法でも、その能力だけで空を飛行するという芸当はできない。
彼女の身体は、引力にひかれて地上へと距離を縮めていく・・・・!!!

これ以上ないスピード感だった。
恐らく、今までに乗ったどんな絶叫マシーンよりもスリルがあったであろう。
顔、腕、胴、足・・・・指の先まで風が吹き抜けていくこの爽快感。
空に押し戻されるんじゃないかというぐらいの錯覚を覚える空気抵抗。

れいなの身体は降下スピードをさらにグングンあげていった。

見よ!四肢を伸ばして落下していく田中れいなの姿を!!
このまま地面に叩きつけられれば、決してタダでは済まないのは目に見えている!!
結局、ウサギの思惑通りになってしまったのだ・・・・・


だが!!


だからといって、れいながこの物語の舞台から降りるということは断じてない!!

なぜなら・・・・・!!!


「この位置・・・・・グレートにピンポイントばい・・・・・・!!!」

れいなは笑っていたのだから!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・


280 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:00:16.66 0


ウサギの瞳の奥にうつるれいなの姿は、何も諦めていやしない。
決意を固めた、そんなオーラを全身から放っていた。
そして、れいなの姿が位置する場所は・・・・・

ウサギの直上だったッ!!!


    『 まさかッ!! ウサギの上に落ちてきて その身もろとも 
     ウサギを地面に 叩きつける気 なのかーッ! バカか コイツ!! 』


自爆して巻き込む気なのか!?
れいなの降下スピードはかなり速い。

かわしている暇は・・・・もうないッ!!

あと一秒もしないうちに、スピードをつけたれいなの身体はウサギを
巻き込み捻りつぶしてしまうだろう。

自ら死ぬ気なのか!!!


『 まずい!! スケッチブックの中に 逃れるんだッ!! 』


すでにれいなは目と鼻の先だ。
表情までよく見えた。

『固い意志』を持った、その表情が!!



281 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:01:32.58 0


ウサギは持っているスケッチブックに手を差し込み逃れようとする。


「スケッチブックの中には逃がさんとッ!!!コォォォォォォォ・・・・・・・ッ!!!!」


ウサギの眼前にれいなの足が迫り来る!!

どっちが早いッ!!?



ウサギが逃げ込むのが先か!?

それともれいなが降ってくるのが早いかッ!!!



ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







バアシィ!!!!!!!!!!!!!



282 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:02:53.20 0


ウサギは・・・・・・


スケッチブックの中にエスケイプすることは出来なかった。

あと一歩のところで、それを防がれてしまった。

れいなとウサギの時間は、まるで時が止まってしまったかのような
沈黙があった。


「・・・・・・・・・」


   『  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ! ! 』



ウサギは両手を広げていた。
『ハッピー』・・・・・今にもそんな声が聞こえてきそうなポーズだ。


そう・・・・・れいなの両足は!!!

ウサギの両腕に器用に引っかかり、広げさせていたのだッ!!!



ビイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!


283 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:04:13.87 0


ウサギの中で、それから先の時間の流れはゆっくりだった。

れいながニヤリと口の端をつり上げ、両腕を振りかぶり・・・・・



放たれた言葉が耳を劈くまでは!!!



「必殺!!稲妻空烈刃(サンダー・スプリット・アタック)ッ!!!」



ドォォォォォォンッ!!!!



ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!



284 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:05:13.09 0


れいなの手刀と『D・エレジーズ』の手刀・・・・合計4つの手刀が
ウサギの脳天を打ち砕いたッ!!!!!!

波紋とスタンド能力の同時攻撃ッ!!その威力は絶大である!!!!



   『 ビリッと きたあああああああああッ !!! 』



れいなは技の反動を利用し、器用に宙返りを華麗に決めて着地・・・・・
ヒザをついてウサギの状態を確認する。


「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・ッ!!!」


息を切らすれいなの瞳に写し出されたのは・・・・・


   『 モガ・・・・・ モガガ・・・・・・ !!! 』


石化した頭を抱えてよろめいている、ピンク色のウサギの姿だった!!!



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


285 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:06:44.62 0


「ハァ・・・ハァ・・・地に足が着くって事が・・・・こんなにも安心感のあることだった
なんて・・・・・れいな、初めて知ったばい・・・・ハァ・・・ハァ・・・・」


ウサギはすべてを見失い、あたふたと足をもつれさせている。
そして、派手に転んで見せた。


   『 タ タンマ !! 』


ウサギは片手を地に付けたまま、スケッチブックをれいなに見せ付ける。
石化したことにより頭が重くなったのか、立ち上がるのがしんどいようだ。


「・・・・・なんね?」


   『 ウサギの負けだ 完敗 反省するから これなんとかして orz 』


それは敗北者の懇願だった。



286 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:09:16.99 0


「反省・・・・?あんた、れいな達と遭遇したからこういう結果になったものの・・・・
スタンド能力を持たない女の子相手にも、こんな茶番を繰り広げようとして
いたんじゃなかとね?あんた愉快犯やろ?」


   『 そういう 性癖なんだ  致し方なかった 』


「性癖?グレートな性癖っちゃね・・・・・大体そんなもんこっちは知らん。
その心に歯止めをかけず、欲の赴くまま好き放題、実行に移したお前は
間違いなく『悪』っちゃ」


人という生き物は人生の半分以上『我慢』と闘い続けているといっても過言ではない。
少なくとも、れいなはそう思っていた。
そして、そういった『我慢』を出来ずに人を傷つけるような欲を暴発させる輩は・・・・
ただの自己中心的な、自分の非を他人のせいにしかできない『悪』だ。


  『 もう 君たちには 手を出さない だから 見逃してちょ 』


「ウサギ・・・・・あんたは間違いなく人を殺すところだった・・・・・相手が
れいな達だったから誰も死なずに済んだけど・・・・そんなあんたに・・・
"またこの次なんてあるわけないじゃん"」



287 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:10:15.71 0


   『 こ この 夢の町の乗り物を すべてタダで乗せてあげるよ 
     ああ〜ッ 今なら シール付きのチョコレートの駄菓子もつけちゃう 』
















「・・・・・・・・もうテメーには何も言うことはねぇっちゃ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とても哀れすぎて・・・・・・・・・」



288 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:11:04.77 0










                  何 も 言 え ん 











289 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 06:13:08.56 0


「どららららららららららららららららららあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」

ドゴボゴドゴボゴドゴボゴドゴボゴバゴベゴバゴベゴオォォォォォォッ!!!!!!!


   『 ドベエエエエエエエエエッ か かた ま  ・ ・ ・ ! ! ?  』


「おつかれいなあああああああああああああああああああッ!!!!!」

ドッギャ〜ン!!!!!!!


れいなの激しい猛ラッシュを雨あられに受けたピンクのウサギは・・・・・


パッキーン!!!


   『 ア  ギ  ・ ・ ・ 』


「・・・・石になって反省してろ。アホんだら」


奇妙な石のオブジェと化したのだった。



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン


293 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:16:34.99 0


夢の町は消えた。

そもそも、夢の町なんてなかったのだ。

すべては、あそこの木の影で石になっているウサギが作り出した夢幻の世界・・・・



れいながウサギを倒した直後、広がった景色は森の中だった。

そしてすぐ隣には、座り込んで半泣き状態の亀井絵里をなだめている
新垣里沙の姿もあった。


遊園地が消えた・・・・・


いや、消えたのではない。

遊園地は、今もウサギと共に石となったスケッチブックの中に存在している。



永遠に・・・・永遠に・・・・・・・・・・・・・・






294 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:18:51.40 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「けっきょくさ、僕らがいた場所はなんだったの?ねぇガキさん」


亀井絵里は、海岸でトウモロコシを齧りながら呟いた。


「わたしにはわからないのだ。でも、この世界には知らないことが
ありすぎる・・・・・例えば夢の中とか」

「ああ、なんかわかるよ、それ。寝てる時にデコピンしたら『う〜ん』って
なるけど、起きてるときにデコピンして『う〜ん』ってなったら
おかしいもんね。不思議だなぁ〜」

「亀、それなんか違う。それよりも・・・・・あーあ・・・・」


新垣里沙は破れたジャケット見て溜息を吐いた。
空気より重たい息だ。


「ま、でもなんだかんだで面白かったと。みんな一緒だったらもっと
楽しかったんだろうなぁ〜」


今日の主人公、れいなは大きなタコの入ったたこ焼きをほお張りながら
微笑を浮かべていた。



295 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:20:54.32 0

「みんな・・・・みんなか。僕はこのメンバーで良かったですよ、ぶっちゃけ。
あんなカッコ悪いところ、さゆに見られなくてホント良かったよ」

「え?さゆがなんと??」

「いや、こっちの話・・・・・・ちょっと、ガキさん。なに難しい顔してんのさ!
静かになっちゃって。ジャケットなんてまたお金貯めて買えばいいじゃん」

「そうじゃなくて・・・・・ものすごく重大なことを思い出したのだ。咲いた花が
またツボミに戻ってしまったような、そんな気分・・・・・」

新垣里沙は苦笑いしながら言った。
れいなと亀井絵里の二人は、彼女が何を言わんとしているのか
想像できない。


              「・・・・どうしたの?」



      「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛ちゃん」





            「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!!」」



3人の時間は止まった。


296 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:22:01.50 0




     「みんなッ!!いったいどこにいるンだーッ!!亀子ッ!!遊園地って
     どこにあるんよ!!クソッ!!!どこにいるんよみんなはァッ!!ぬあーッ!!!」



ドッギャ〜ン!!!





297 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:23:09.33 0


…その日の夜。

施設が閉館した頃のことだ。

このレジャー施設のオーナー、遠見塚正宗が建物の戸締まりをしていると・・・


「あぁ、なんだべ・・・・・こりゃ」


広い室内に、ポツンと残されている置物があった。
店を開いていた人間の忘れ物だろうか?
それにしては大きすぎるシロモノだ。
自分の身長と同じ・・・いや、下手したらそれ以上の高さだ。

もっと近付いてよく見てみる。

それは、一言で言うなら変なポーズをとったウサギの石像だった。
右手に持っているのはスケッチブックか何かだろうか?

遠見塚正宗・・・・・マサさんは困った。
処分するにも処分できない大きさだし、何より人の魂が宿っているような
気がしてならなかったのだ。


だからマサさんは、そのウサギの石像をほったらかして置くことにした。




298 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/07/07(金) 07:24:28.03 0


後に、このウサギの石像はレジャー施設『ひょっこりひょうたん島』の
シンボルキャラクターとなる。

そんなウサギの石像が持っているスケッチブックに書かれているメッセージに
気付かない観光客は少なくないらしい。






      『  れ ・ ・ ・  れ い な に  や ら れ た ・ ・ ・ 』







着ぐるみのウサギ  再起不能

スタンド名  絶叫!!コマーシャル



TO BE CONTINUED…