264 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:49:07.47 0


 銀色の永遠  〜 決裂、心の姉妹 〜



もうすぐ中等部の卒業式ばい。
先日、高等部の卒業式が行われて、次は中等部っちゃ。
れいなの学校、高等部の方が卒業式早いけんね。
その大事な卒業式の前に大怪我して入院してしまったんやけど・・・・・・

明日退院するたい!!!!

卒業式は明後日だからギリギリで間に合ったと!!
両肘、両足を骨折してたけど、もう松葉杖なしでも歩けるっちゃ!!!
ん?治るのが早すぎだろって??
そりゃれいなも奇妙に感じたと。
でも理由はだいたいつかめてるたい、バカにせんといて。
腹式呼吸…じゃなくてコレばい!!
波紋の呼吸たいッ!!!
肺の中の空気を!!1t残らずしぼり出すッ!!!
れいなの呼吸は骨折の痛みを消したとよー!!!!!!


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンン!!!!!


265 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:51:17.56 0


卒業式、出れるようになってよかったと…
まぁれいなはそのままぶどうヶ丘高校に進学やから、校舎が名残惜しいとか
そーいう気分は味わえないけど…もう会えなくなる友達だっているかも知れん。
よその高校に行ってしまう人達を送り出す意味でも、卒業式には
出なければならないという使命があるっちゃ!!!

「田中さん良かったですね、明日には退院ですか。なんという回復力」

同じ病室で、一昨日顔の包帯が取れたばかりの小春ちゃんも、
れいなを祝福してくれていると。

「おかげさまでね。小春ちゃんも早いとこケガ治すんっちゃよ。
退院したら、部室でまた回文して遊ぶたい。おやすみ」

「おやすみなさい」

さて、消灯時間になったことだし寝るばい。
波紋の効力で骨が繋がり痛みもなくなったとはいえ、完治するまでは油断できん。
少なくとも、卒業式が終わるまでは・・・・・・



266 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:53:13.20 0

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・




267 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:56:42.80 0


う〜ん…寝苦しい夜っちゃね。
目ェ閉じてから、もう2時間は経ったんじゃあないか?
昨晩、小春ちゃんと夜中まで回文して遊んでいたのが悪かったばい…
朝ごはん食べてからまた昼過ぎまで寝てしまっていたからなぁ。



「・・・・・・・スン・・・」



・・・・・なんか声が聞こえたと。
小春ちゃん、寝言やろか?


「・・・・・クスン、クスン・・・・・ヒッ・・・・・・・ジュルッ!!!!」


な、なんばしよったんや!?
おもいっきり鼻水すすった音が聞こえたけど・・・・・


「ヒッ・・・・・ヒクッ・・・・・・・・」


これは・・・・嗚咽ってヤツじゃあなかとね?
なんで泣いてるんやろか…ってぇか、小春ちゃんって泣く子やったん?


268 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:57:30.25 0


「小春ちゃん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


あれ、止まったばい。
れいなが声をかけた瞬間、ウンともスンとも言わなくなったと。
おかしいたい…確かに小春ちゃんの泣き声らしきものは聞こえとったんやけど…
でも、よくよく考えたら小春ちゃんが泣くとか…なかなかあり得ん話たい。
中学一年生とはいえ、この子は演劇部の中でもぶっちぎりで大人な子。

・・・・・だとすると・・・・・・・れいながたった今聞いた泣き声は・・・・・


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


269 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/09(木) 10:58:36.09 0


ガバァッ!!!

れいなは思わず布団を頭にかぶったと!!!
あわわ…そんなバカな!!なんで入院最終日にこんな目に遭わなきゃならんと!?
いや、だけどここは病院…今までそんなことがなかったという方がおかしかった!!
早いとこ眠りについて…って、あああああッ!!
こんな時にトイレ行きたくなってきたばい!!ざけんな!!!!
波紋の呼吸で誤魔化すっちゃ!!


「コォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・」


これを使えば…腹も空かないし、小便もしたいと思わない・・・・
ああっでもッ!!これじゃあたいして眠くもならないと!!!
こ、こうなれば根性たい!!
自分を無理やり寝かしつけて、夢の世界へと旅立つとよ!!!

猫が1匹、猫が2匹、猫が3匹、猫娘。が…
だあああああッ!!妖怪は許可しないィーッ!!!!!


368 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:26:37.09 0


翌朝…

「田中さんおはようございま・・・・・うわ、どうしたんですか?なんだか
すごく機嫌悪そう」

よく寝た私は、スッキリした顔で田中さんに挨拶した。

「あ…ありのまま、昨晩起こった事を話すばい!れいなは…い、いや、
これはまだ入院する子に言う事じゃなかったと!!忘れるっちゃ」

「何をブツブツ言ってるんですか。そこまで話しておいて投げっぱなしとか」

「・・・・・・な、何を言ってるのかわからないと思うやろが、れいなも何を聞いて
いたのかわからなかった・・・・・物音だとか空耳だとか、そんなチャチなもんじゃあ
断じてないと。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったばい・・・・・」


いったい何を言いたいんだろうこの人は。
もしかして、久々に流してしまった私のアレのことだろうか。
病院が寝静まった頃、一人ですすり泣いているところでなぜか起きていたらしい
田中さんが声をかけてきたので必死で堪えていたのだが…
うん、そうだ。きっとそうに違いない。
弱ったな…あれが私のものだと思われるのは非常に困る。
私にだってプライドがあるのだ、恥ずかしい。
それにしても、あんな涙は杜王町に引っ越してきた当日以来だな…



369 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:30:23.66 0

朝食を食べ終えて、私は田中さんの荷物をタクシーが着ている病院の
入り口まで持って行ってあげることにした。
田中さんは病人にそんなことさせるのは悪いっちゃなどと言っていたが、
私の気遣いに水をさしてくるとはいい度胸をしている。

「ミラクル・ビスケッツ!!!」
『ヤレヤレダゼ…荷物持ちカヨ』
『マァれいなは怪我人ダシ、コノクライハ御安い御用ヨネ』

ビスケッツ達がベラベラとおしゃべりしながら、田中さんの荷物を取り囲んだ。
彼らは案外ケチで、荷物を運んでくれたりとかは滅多にしてくれないのだ。
本当にどうしようもない時は『分解』して運んでくれるのだが、私がめんどくさがって
体操着などの荷物を運ぶよう頼むとすぐお説教してくる。
なんでもかんでも人任せにすると『ダメな大人になるから』らしい。
まぁ、きっと大人になったとき彼らに感謝する日がいつかくると信じて理解しているが。

『ワタシとNo.1でコッチノ鞄ヲ運ブワ』
『ジャア残った俺サマはコノ小さな紫色のショルダーバッグを』
『ソレナラ俺ハ、れいなを口説き倒シテクルゼ』
『待テーイNo.6!!お前には「再形成」スル作業が残ッテイル!!!』

そんなこんなで病室を出る。
ああ、今日からこの部屋には私しかいないんだ…田中さんと二人部屋だったのだが…
今日から一人でこの部屋に入院するんだ。

「・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたと小春ちゃん?なんだかすごい不満そう」
「いえ、なんでもありません。行きましょう」

そういえば、今日は高橋さんも退院するんだったな。
下で落ち合う予定なので、さっさと向かおうとした時であった。


370 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:31:07.82 0



「やなのやなの!!今日限りでさゆみも退院するの!!!」


「ダメよさゆみちゃん!まだ右腕の包帯だってとれてないんですからね!!」






371 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:34:13.36 0


どこぞの病室から聞きなれた声がきこえてきたのだ。
この声は私と同じくらいのケガを負った道重さんに違いない。
どうやら看護婦さんと口論しているようだ。
その声が聞こえてきた病室から、キャップを被った高橋さんがとても機嫌の
良さそうな表情で出てきた。
右腕にはギブスが巻かれ、とても不自由そうである。
それでもニコニコしているということは、退院できることが余程嬉しいのであろう。

「おはヨー、二人とも」

「高橋さん、今日退院だそうですが」

「そうやよー」

「もう骨折の方いいんですか?って全然良さそうに見えませんけど」

「骨折がなんだってェ?動かないのは右腕だけやざ。部活に出れる力があんのに、
病院でスヤスヤ寝てなんていられないんよ。あっしはイシカーさん(石川さん)とは違うんだ」

「はぁ」

彼女は意気揚々に答えた。
だいぶ良くなったとは言っていたが、見た目以上にけっこうひどい骨折だと聞く。
それに、ケガは右肩だけではなかったハズだが…
彼女の気力が治癒能力を高めたのだろうか?



372 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:36:10.41 0


「ところで、なんでさゆは病室でわめいてるんスか?」

「あぁ、アンタら明日卒業式なんっしょ?卒業式、絶対出るのーッてさわいどるんよ。
でもあのケガじゃあまだ無理だよナァ?だいぶ包帯は取れたみたいだけどサ、
ここで無茶して傷口の膿が熱持ったらシャレにならんもんなァ〜」

「そっか…さゆ、卒業式出れないっちゃね…」

なるほど、それでか。
だが、道重さんは確か田中さんと同じでぶどうヶ丘高校へそのままエスカレーター式に
進学するんじゃあなかったか。確か冬には推薦入学が決まっていたはずだ。
中学を卒業してもまた通う学校なんだし、名残惜しいことなどないだろうに…

あ、そうだ。

どうせ道重さんもまだ入院してるんだ、看護婦さんに言って私の病室を
変えてもらおう。高橋さんが退院することで空きができるハズだし。
そうだ、それがいい。そうすれば、一人ぼっちにならなくて済む…

しばらくして、ションボリとした顔でパジャマ姿の道重さんが病室から出てきのだった。



373 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:37:55.16 0


二人を見送ったあと、私は看護婦さんに病室を変えてもらうように頼み、
部屋を移動することができたのだが…

その、昼過ぎのことである。
道重さんのテンションがやけに低いのだ。
私達二人を除いてみんな退院してしまったからか?
まさか私といるのが不服だとか、そういうことではないと思うが…
しばらくして、いきなり布団から起き上がった道重さんは、ベッドの周りに
あるものを整理し始めた。

「道重さん、何をしてるんですか?」

「小春ちゃん、突然だけどさゆみは退院することにしたの。自主的に」

「退院…じ、自主的にって・・・・・・何を言ってるんですか?」

「さゆみは何としても卒業式に出たいの…いや、出なければならないの!!!
もう会えなくなる人達だっているッ!!ぶどうヶ丘高校に進学する人たちはいいけど、
よその学校行っちゃう友達にはちゃあんと別れの挨拶をしておきたいの!!」

そう言いながら、道重さんはどんどん身支度を済ませていく。
私は…その姿を見て・・・・・激しくアホらしいと思った。

「同じ町に住んでるのに、もう会えなくなるだなんて…そんな大げさな」

「小春ちゃんも三年生になって、卒業する時になればわかるの!!三年間、
とても短いようだけど、それまでに育まれた友情はなにものにも代え難いの!!
って、テレビで金八先生も言ってたの!!!」


374 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:40:58.67 0


何をわけのわからないことを言ってるんだ?
きっとこの人は、本当に『会えなくなる』って意味をわかってないんじゃあないのか?
私はその意味をよく知っているつもりだ。
新潟のみんなは、元気にやっているだろうか…

「とにかく退院するの」

「ダメです」

「え?」

思わず口から出てしまった。
だが、ダメなものはダメだ。

「ダメって?」

「道重さん、せっかく治りかかってきてるのに今無理してなんになるというんですか。
ケガの治りが遅くなるなるだけですよ。退院が延びたら部活にも支障をきたします。
春の新入生歓迎会で舞台に立ちたくないんですか?」

「そりゃあ立ちたいの」

「じゃあ大人しく入院してましょう、私と一緒に。あなたは病人なんですからね、
右胸につけられた傷も治りきってないし、松葉杖もついているでしょう?火傷も
ほぼ治りかけなのに、無理しちゃいけませんよ」



375 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:44:08.01 0


そう言うと、道重さんは手を止めて俯いた。
ふぅ、これで思いとどまってくれただろうか。
いま無理をして春の舞台に立てなくなったら…イヤに決まっている。
私だって、道重さんの立たない舞台にヘラヘラと立ちたくはない。
舞台にはみんなで立つんだ、休むことなど許されるものか。
それに、たった一人で入院なんて…!!!
手を止めたところを見ると納得したように見えた道重さんだったが、なにかを
思いついたように、またおかしな事を言い始めた。

「でも、それとこれとは話が別なの」

「なにが別なんです?」

「そもそも卒業式に出るのは私利私欲のためじゃないの」

「…どういうことですか?」

「卒業式って言ったらアレなの。学園に伝わる裏庭の伝説の木の下で愛の告白を
受けるのが女の子の役目。たぶん最低でも3人はさゆみに呼び出しをかけてくるはずなの。
そんな男の子のためにも、やっぱりさゆみは卒業式に出なくちゃ」

そうして、道重さんは再び手を動かし始めた。
な、何を言ってるんだこの人はぁぁぁぁッ!!!!
だいたい、ぶどうヶ丘高校・中学には学園に伝わる裏庭の伝説の木なるものが
存在するなんて初耳だ。
漫画の読みすぎなんじゃあないのか?


376 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:46:23.28 0


「まぁ、もし卒業式後に体調が悪くなったらまた病院くればいい話だし」

「道重さん、何を無茶苦茶な…『バカ』な発言も大概にして下さいよ。体調が悪く
なったら入院すればいい?何を『バカ』なことを、そんな『バカ』らしい理屈で
『バカ』みたいな行動を取って迷惑がかかるのは演劇部のみんななんですよ?
『バカ』なマネはやめて下さい、考え直すんです」

なんで私がこの人にこんな説教をしなければならないんだ、ほんとバカらしい。
一人で入院したくないという私情も多少はこもってはいるが…

「な、なんかムカつくの小春ちゃん!!あなたは今5回も『バカ』と言ったッ!!
さゆみに対して『バカ』とーッ!!!!」

「自分でもそう思いませんか?あなたが行おうとしているのは無駄なことだと。
もしまた体調が悪くなったらどうせ入院沙汰になりますよ。だったら、今は
大人しくしているべきです。それがわからないのなら、救いようがないです」

「む、ムカーッ・・・・・小春ちゃん…前から思ってたけど、ぶっちゃけいつも
一言多いの!!すげぇー腹立ってきたの!!!」

「腹が立つ?なんてお門違いな。私はあなたの身を案じて言ってるまで!!
加えて演劇部の活動に少しでも早く参加するためッ!!」

「演劇部の活動の遅れは努力でいくらでも取り戻せるのッ!!でも中学の卒業式は
一生に一度しかないの!!!」

「だからなんだというんです?そのたった一度の行事のために、すべてを失うことに
なったらどうするつもりですか!?」

「は、話が飛躍しすぎてるの小春ちゃん…」


377 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:50:07.85 0


「とにかく、今は療養中なんです。わかったら荷物を戻してベッドに戻って下さい」

「わからないって言ったら?」

「なんですって?」

「小春ちゃんは、さゆみの気持ちをわかってないの。そんなんで説得しようと
してんじゃあねーのッ!!だいたいさゆみの身を案じてるとか言ってる人間が、
さゆみの好きな『たらこスパロール』を食べちゃうわけがないの!!!」

たらこスパロール…ああ、先日亀井さんがみんなのお見舞いに来たとき
サンジェルマンで買ってきたアレか。
私が齧りついたとき、やけに不満そうな顔をして焼きそばロールを食べていたな。

「あれは早いもの勝ちだったハズです。その証拠に、小川さんはテリヤキチキン
サンドを、紺野さんはハニーパイをそれぞれ二つも食べている」

「早いもの勝ちだとか関係ないの!!小春ちゃんはさゆみがたらこスパロールを
大好きだと言うことを知っているッ!!それなのに何の断りもなく食べちゃうなんて、
先輩を敬う気持ちが足りなさすぎるの!!後輩なのに!!!」

「先輩を敬う気持ちですか?ありますよ、私が『バカ』だと思う人に対しては
別ですけどね」

なんだか口論の論点がズレているような気もするが…
なんにしても…これだけは譲れない!!!



378 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:52:29.46 0


「・・・・・・・・小春ちゃんの気持ちはよぉ〜く理解したの。頭ではなく心でね。
そこから判断するに、どうやらさゆみとあなたは性格的に『あわない』ようなの。
そんな人の言う事なんか聞く価値はないの」

「な・・・・・・・」

道重さんは吐き捨てるようにそう言うと、ドサドサと乱暴に荷物をまとめて、
パジャマの上からフードにファーの付いた可愛らしい白いダウンジャケットを羽織った。
この人、本気で帰る気なのか?

「どうやって帰る気ですか?タクシーに乗るお金なんてないんじゃないんですか?」

「歩いて帰る、さよならなの」

そう言うと道重さんは、左肩に大きな鞄を引っ掛け松葉杖をつき病室から出て行った。
足の火傷、まだ包帯取れてないじゃないか。擦れて痛いからスリッパが履けないらしく、
そのために松葉杖をついているらしいが…
まったく…歩いて帰るとか、ただムキになってるだけじゃあないのか?
仕方ない、力ずくで・・・・・・・・

「ミラクル・ビスケッツ!!お願い!!!」

『オシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
『まだまだ全然追イツク距離ダゼーッ!!!!』



379 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/11(土) 07:53:49.09 0


3人のビスケッツは病室から出て行き、そして残った4人のビスケッツは
道重さんのベッドの周りを浮遊する。そして…

『パスパスパ〜スッ!!キタゼェ〜ッ!!!!』
『ナ、ナァ…コノ中にはアレも入ッテルンダヨナァ?』
『アレ?ナンノコトダNo.6』
『アレダヨ。さゆみんの着替えトカ、ぱんつ』
『ば、バカなこと言ッテナイデ早ク「再形成」スルゾッ!!』
『ソウヨッ!!コノ女の敵ッ!!!』


ドサッ!!!!!!!!!!


そして再形成されたものがベッドの上に音を立てて落ちた。
それからしばらくして…


ガチャッ!!!!


「・・・・・・・おかえりなさい、道重さん。杖ついてるわりには早かったですね」


「ハァ…ハァ…小春ちゃん・・・・・・さゆみのカバン返すの!!!!」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



16 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:05:22.04 0

「ビスケッツを使ってさゆみの荷物を奪うなんていい度胸してるの!!でもッ!!
いくら小春ちゃんがさゆみを止めようとしても!!さゆみの気持ちは変わらないッ!!」

道重さんは荷物をむんずっとつかむと、荒っぽい杖の突き方で再び病室を出て行った。
まったく…やれやれだ。無駄なのに。
そうだ、友達が持ってきてくれた数学の課題でもやろう。
う〜ん…でもわざわざ式たてて計算するのもめんどくさいな。
ソロバン使って計算しちゃえ。

ドサッ!!!

再び道重さんのベッドに『再形成』された荷物が落ちた。まったく彼らはいい働きをしてくれる。
さてと…3/4÷9/16は・・・・・・・う〜ん・・・・・どうやって打てばいいんだ?

ガチャッ!!!!
「こ、小春ちゃんんんッ!!!!!!!!」

ソロバンと睨めっこする私に、戻ってきた道重さんが言った。
下唇を噛んで私を睨んできている。

「おかえりなさい…もう気は済みましたか?」
「うるさいの!!邪魔すんじゃあねーのッ!!!」

道重さんは懲りずに荷物をつかむと、三度病室を出ようとする。
物分りの悪い人だな・・・・・・ならば、しょうがない。

「ビスケッツのみんな!!!」
『アイジャスフォーリンラーッ!!!』
『ヤンヤーヤヤーヤー!!!』

ドアノブを握る道重さんの周りを、私のミラクル・ビスケッツの3人がまとわりついた。


17 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:07:24.96 0


「び、ビスケッツぅ…!!まださゆみの邪魔をッ!?」
『スーモモーモモモモーモモー!!!』

バシュッ・・・・・・・・

道重さんの肩にかけていたカバンは、またもやビスケッツが分解した。
だが、今回は容赦しない…無駄なことは嫌いなんだ。無駄無駄…

『巷デ噂ノッ』
『セクシーwウェウェッwww』

ビスケッツの再形成組である4人が道重さんの周りを挑発するように
唄いながら跳び始めた。
まったく、お茶目なんだから。

「カバンが再形成されない…?いや、しようとしていないの!?小春ちゃんッ!!
あなたって子は・・・・・・ッ!!!!」

「道重さんのことだから、どうせ荷物を再形成させたらまた持って帰ろうと
するんじゃあないかと思ったんですよ。でも私だってヒマじゃないんです、あなたの
ダダっこに付き合ってビスケッツ達に無駄な体力を使わせたくもありません。だったら
再形成させなければいいだけの話。荷物も持たずに帰るわけにはいかないんじゃあ
ないですか?道重さん・・・・・・・」

「う、ぬ・・・・・ぬーッ!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


18 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:10:40.30 0


「さぁ、大人しくベッドに入って下さい。そうすれば、荷物も返してあげますから。
荷物も持たないで帰るわけにはいかないでしょう?一緒に療養しましょう」

「荷物がなければ帰れない…?それは大きな勘違いなの小春ちゃんッ!!
さゆみの目的は卒業式に出ること!!そのために必要なのは、三年間着続けた
さゆみだけの世界に一つしかない制服と心の準備のみッ!!!」

「え…?」

「そして、そのさゆみの可愛らし〜んぃ制服はお母さんが持って帰ったから
自分の部屋のハンガーにかかってるハズ!!これが何を意味するか…わかるよねェ?」


し、しまった…不覚だった・・・・・・・ッ!!
この人の狙いはあくまで卒業式に出席すること!!!
と、いうことは・・・・・

「そうッ!!さゆみには荷物なんていくらでも後回しにすることができるの!!!
荷物を渡さないというのなら別に構わないの・・・・・・荷物なんかなくてもッ!!!
あくまで卒業式に参加することに意味があるッ!!!!」


バッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!!!



19 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:11:45.99 0


道重さんは病室のドアを乱暴に開け放つと、身軽になった身体で足早に
立ち去っていった。

な、なんということだ〜ッ!!!

このままでは、道重さんが帰ってしまう!!
今のあの人には、目先の卒業式しか見えていないみたいだな…きっと口や態度で
知らしめても止めることは出来ないだろう…
それに、ああ見えてあの人は頑固なんだ。私はそれをよく知っている。
くそぅ・・・・・・ソロバンなんか打ってる場合じゃあないッ!!!

『追イカケルノカ!?コハルゥーッ!!』

「もちろんッ!!」

私は数学の課題を放り出しビスケッツに道重さんの荷物を再形成させると、
ベッドから飛び起きたのだった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


20 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:15:52.77 0


病室を出ると、松葉杖を使って大股で早歩きしている道重さんの後ろ姿が見えた。
うむむ・・・・・ケガをしているわりには歩く速度が早いな。
だが、私は松葉杖のお世話にはなっていない。そのぶん、歩みは道重さんを
遥かに上回る速さだ。すぐに追いついける!!!
松葉杖のあの人が向かうところとすれば・・・・・おそらくあそこだ!!!
最短距離で1階へ辿り着くために、あそこにむかっているんだ!!

『さゆみんノヤツ、エレベーターの方へ向カオウトシテイルゾ!!』
『小春ッ!!先回リスルカ?』

「いや、ギリギリまで待つんだよ!!あの人を止めるには精神的に
追い詰める他はないッ!!!」

私はわざと歩みを遅めた。
道重さんはチラチラと振り返り、私の姿を確認している。
逃げ切れる・・・・!!そんな顔をしているぞ。私がわざともたついている様に
見せていることにも気付かずに。
そしてエレベーターの前まで来たところで、道重さんは下りのボタンを押した。
エレベーターは偶然私達の病室がある5階で止まっており、ドアはすぐに開く。

「道重さん…あなたは今、非常にラッキーだと思っている・・・・・エレベーターの扉が
すぐに開いてツイていると思っている!!けどッ!!本当にツイているのは小春です!!
ビスケッツのみんな!!!」



21 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:17:12.54 0


本当にラッキーだ。
5階にとまってるという事は、誰も乗っていないということだからな…!!
私は分解係の3人を、いざエレベーターの個室に立ち入らんとしている
道重さんに急接近させた!!!
だけど、本当の狙いは道重さんではない!!
ビスケッツは道重さんの脇を通り過ぎ、彼女より先にエレベーターの中に侵入する。

そしてッ!!!!!


「ビスケットを叩き割るように…砕いてッ!!!」


『マタコノ次ナンテッ』

『アルワケナイジュワン!!!』



バッシィィィィィィィィィィ〜ン!!!!!!!!!!!!!!


22 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:20:14.06 0


「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!?」


道重さんが妙な奇声を発しながらエレベーターの前でジタバタする。
それもそのはず、たったいま立ち入ろうしていたエレベーターのゴンドラが一瞬で消え去り、
そこはただの落とし穴と変わってしまったからだ。
体重を前へ傾けていた道重さんはその穴の手前で踏ん張り、ペタリと尻餅をついた。

「え、エレベーターを分解するなんて・・・・・ッ!!!死ぬかと思ったの!!」


振り返った道重さんが、怒りに震え上がった声で私を怒鳴りつける。
ここは5階だ、落ちたらひとたまりもない。

だが・・・・・・道重さんがこんなことぐらいでうっかり穴に飲み込まれるなんてことは
断じてないと思ったからやったまでだ。

彼女なら絶対に落ちることはないと信頼していたからやったのだ。

しかし、道重さんも今のビスケッツの行動には相当驚いたハズ。
彼女が私に怒鳴ってきたことが、それを物語っている。
そろそろ、敵わないと諦めるか・・・・・・?



23 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:22:21.68 0


「くぅッ!!こんなことで・・・・・・!!!!」


道重さんは松葉杖を巧みに扱い、立ち上がる。
どうやらすぐ側にある階段を使おうとしているらしい。

まだ懲りないのか?


『コハルーッ!!エレベーターって箱ノくせニ、ケッコウ質量アルゼェ〜ッ!!!』

『分解ハ一瞬デ完了シタガ、再形成ニハ最低デモ3人は必要ダワ!!デナイト、
修復シキレナクッテエレベーターソノモノガぶっ壊れてシマウノ!!!』

「3人?じゅうぶん過ぎるよッ!!あとは分解組とNo.7さえいれば・・・」


私は小走りで階段をノタノタと下り始めている道重さんを追いかけた。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


24 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:25:15.05 0


「道重さんッ!!もはや無駄な足掻きだということがまだわからないんですか!?
松葉杖を必要としていない私から逃げ切れるなどとーッ!!!」

「うっさいのうっさいの!!さゆみは帰るったら帰る!!!」

彼女はぶっきらぼうにそう答えた。
このワガママ姫がぁ〜ッ!!
あそこまでしたっていうのに、本当にまだわからないのか!?

「あなたはこの病院内で小春を出し抜くことなど出来ないッ!!屋内でもこうして
スタンドを巧みに操れる私とは違い、威力、攻撃範囲、共に高いシャボン・イールを
この場で扱うことは不可能!!宝の持ち腐れとはこのことですね!!!」

そう言うと、私はミラクル・ビスケッツNo.1を道重さんに接近させ・・・

パシュッ
「あッ!!!」

道重さんは、階段で大きく体勢を崩した。
それもそのはず、つこうとしていた松葉杖が突然なくなっただから。
前方に重心を傾けていた彼女は、身体を支えるものがなくして
勢いよく階段を転げ落ちた。

ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!

「・・・・・・・・実力行使ですよ、道重さん。意地にならなければ、そんな痛い思いを
しなくて済んだものを・・・・・・・」


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


25 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:27:59.44 0


「あうう・・・・・・・ッ!!」


彼女は階段の踊り場で、苦痛にもがいている。
でも、これも道重さんのためなんだ。いわば愛のムチ…

さて・・・・・彼女を病室に連れて行くか・・・・・肩を貸してあげよう。
二人で仲良く入院しましょうね。

私は、階段を一段下りた。



ズルンッ!!!!!

「うへーッ!!!!!!!!!」

ドッシ〜ン!!!!!



穏やかな気持ちで階段を下りようとしていた私であったが、足元にあったブニュッとする
何かを踏んづけて、勢いよく滑ってしまった。
しかも、お尻を階段の段差の角にぶつけてしまったのだからたまらない。

「いッた〜い!!尾てい骨が!尾てい骨がァーッ!!うぅ〜!!!!」

と、とんでもない痛さだ!!汗が滲み出てくるッ!!!
小春のおしり、割れちゃったんじゃあないか!?いや、それは元からか…
もうッ!!いったい何を踏んづけたんだろう?


26 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:31:36.08 0


ニョロ…


「え?」


視界に入った紺色の物体は、不可思議な動きをしてみせた。
なんだ…これは・・・・・この動きは・・・・・



ニョロロ・・・・・・・



太もものあたりに絡みついてきた。

この動きは・・・・・ま、ま、まさか・・・・・・・・・・・!!!

私は視線をその紺色の物体に落とす。
そして、顔のあるソレと目が合った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・


27 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:32:24.01 0







「うわぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」









28 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 07:35:40.54 0


ヘビだ!!!


「ヘビだーッ!!!!わあああああああああ!!おかあさぁーんッ!!!!!!!」

『な、ナンテコッタ…さゆみんのスタンドは遠隔操作ガ可能ナノカ!!』
『シカモソレヲへびのヨウニ動カシテミセルナンテッ』
『小春はコイツヲ踏ンヅケテシマッタンダ!!ヌルヌルと滑ルさゆみんのシャボン・イールを
踏ンヅケテシマッタンダアアアアアッ!!!!』

「No.1ンンンッ!!!早くこいつを分解してえぇぇぇぇッ!!!!」

『ま、待てコハル!!俺ノ分解シタ「松葉杖」は再形成サレテナイカラ無理ダ!!!』
『ソモソモコレはヘビジャナイワ!!さゆみんノ「シャボン・イール」ヨ!!!』

「いやーッ!!ヘビ怖い!!!!!!!!」

『コ、コハルどこへ行クンダ!?さゆみんハ、ドウスルンダ!!!』
『素数ヲーッ!素数ヲ数エルノヨ!!小春チャン!!!!』


「ハァ・・・・・ハァ・・・・・いてて・・・宝の持ち腐れ、か。さすが、いつも一緒にいるだけあって
さゆみのスタンドの苦手な空間というものを知っている…けど、どうやら小春ちゃんには屋内でも
絶大な効果を発揮できるようなの…ちょっとムカつくけど、とにかく追っ払ってやったことだし・・・・
戻るの!!シャボン・イールッ!!!!」


ズリュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンンン!!!!!!!!!


39 名前:1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 13:45:56.08 0


「ハァーッ!!ハァーッ!!!ヒィーッ!!!…は、反則だよッ!!あんなの!!!」

自分の病室に戻ってきてしまった私は、シーツを頭からかぶり震えていた。
ヘビは…ヘビはダメなんだッ!!!
あのニョロニョロした動きを見ると、どうしても小学校の行事で行った動物園での
忌まわしい記憶が蘇るッ!!!
あの時のヘビは、とても大きな金色だった!!!
ふれあいコーナーで遊んでいる私に、担任の佐藤先生が首にかけてこようとしたんだ!
それで必死で逃げてたら迷子になっちゃったんだ!!!
毒は抜いてあるからヘーキだなんて、そんなことは問題じゃあないッ!!
なにが悲しくてヘビとふれあわなきゃあならないんだって話だ!!!
あんなヤツは二重に袋詰めにして、檻の中にぶち込んでおけッ!!!

「うわ〜ん!ヘビはみんな死ね!!氏ねじゃなくて死ね!!!」

『コハルーッ!正気ニ戻ッテクレヨー!!』
『アレグライの大きさナラ全然平気ダッテコハル!!梨華チャンのスタンドガへびミテーに
伸ビタ時ト比ベタラ、アンナン屁デモネェダロ?』

「やだやだ!!!」

『小春チャンッ!ワガママバッカ言ッテチャダメヨ!!ソレニ、へびダッテ生キテルンダカラ!!!
命アルモノに対シテ簡単に「シネ」ナンテ言ッチャダメ!!!』
『オッ!!!No.4ガ今スゲーイイコト言ッタァ!!!!!!』

「う、うぅ・・・・・・う〜ッ!!!!」

ビスケッツのみんなは、あのギロンギロンした目にマジマジと見つめられたことが
ないからそんなことが言えるんだ!!
ヘビの前じゃあ小春はカエル同然になってしまうぅ・・・・・ッ!!!


40 名前:1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 13:48:36.14 0


『呆レルワ、小春チャン。ソウヤッテ一生へびにビクツイテ生キテイクツモリナノ?』
『オイNo.2!!』
『単細胞ノNo.3ハ黙ッテテ!!・・・・イツにナッタラへびに臆病ジャなくなるノ?ネェ??』


「あ・・・・あしたには・・・・・!!」

『あしたッテ、いつのあしたヨ?』

「あ、あしただよ・・・・・・・」

『小春チャン、アナタの怖イものッテナァニ?』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」


パッシィィィィィィィンンンンン!!!!!!!!!!


その時、急に肌寒くなった。
その原因が、私を包んでいたシーツが弾ける音と共になくなってしまったからだと
気が付くのに、さほど時間は必要なかった。
No.2が・・・・・・分解した!?

『へびグレェーでソンナびくびくシテイテドウスルノ小春チャン!!!アナタにはモット
怖イモノがアルンジャアナイノ!?タカガへびゴトキのタメに…コノ病室で「一人ぼっちに
なってしまう」コトの方がモット怖イコトとは思ワナイノ!!?』


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンン!!!!!


41 名前:1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 13:51:02.07 0


そうだった・・・・・・ヘビに翻弄されててすっかり忘れていたけれど・・・・

小春は一人になりたくなかったんだった!!!

短期の間にぞくぞくと退院していく先輩達の姿を見て、ここに取り残されて
しまうような気がしていたんだッ!!!
それは、新潟を離れて杜王町に引っ越して来た頃の感覚にすごく似ているものだった!!
その寂しさゆえか、初めて高等部の藤本さんに出会ったとき、同じ『能力者』である
ことに涙してしまったぐらいだったんだ。

そういえば『スタンド』という呼び名を教えてくれたのはあの人だったな…

今、こうして道重さんのスタンドをヘビだと認識してビクビクしているようでは、
あの人は悠々と病院の外に出てしまう!!

そしたら、この病室に一人ぼっちだ・・・・・・・・


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


42 名前:1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/13(月) 13:52:46.52 0


ガバァッ!!!


私は起き上がった。
ヘビにビクついて、もっと怖い思いをするなんて絶対に嫌だ!!!
ヘビがなんだってんだ。
だいたい道重さんのスタンドはいつも見ていたじゃあないか。
ヘビだって認識しなければいいんだ、うん!!
道重さんだって、あれはウナギ型のスタンドだって言っていた!!!


『オォォォォッ!!コハルが正気に戻ッタゾ!!!』

『小春チャン、素敵ダワ。ソレデコソ私タチノご主人!!ソシテ「ミラクル・エース」!!!』


「みんな!!私は目が覚めたッ!!もうヘビなんかにビクビクするもんか!!!
そして・・・・・・・ありがとうNo.2!!あしたって、今さ!!!」



ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!



200 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:48:56.21 0


『イタゾ!さゆみんがイタッ!!2番の診察室ノ前ダァー!!!』
『壁ヅタイにチンタラ歩いてイヤガルゼーッ!!!』

息を切らして2階へ辿り着いた私にミラクル・ビスケッツがそう告げた。
言われた場所に行ってみると、そこには・・・・・

「み、道重さん・・・・・ッ!!?」

なにを考えてか、口に鉛筆をくわえた道重さんがこちらに向かって歩いてきていた!!
どうやら、鉛筆を噛み締めているようだ。
その強い眼差しは私を見つめており、まるでクギに打ち付けられたような
気分になる。

「ガギッ…!!やはひ・・・えんひふあお…ひあ、あんよふへーははう・・・オーフヘンあ、
あはいあああ・・・・・・・・グギッ!!!」
(やはり・・・鉛筆なの・・・木は、弾力性がある・・・ボールペンは硬いからな・・・・・・・)

何を言っているんだかさっぱりわからないが、彼女の表情が苦痛で歪んでいるのは
確かだ。その苦痛の原因は、右足を引きずっているその足取りを見てすぐに理解した。



201 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:50:00.01 0


「足首だ…歩くと擦れて痛いからスリッパも履けないと言っていたあの右足首から
出血しているんだ・・・・!!!」

おそらく、先ほど階段から転げ落ちたときに傷がついたんだ!!
足首に巻かれた包帯には、血が滲んでいる。
その血を見て、ふと赤い花弁が印象的な『フリージア』の花を思い浮かべた。

まさかあの人・・・・・・鉛筆を強く噛み締めることで苦痛に耐えているのか!?

額に汗をにじませて、頬が赤く染まるほど身体中の力を振り絞り、私の後ろにある
曲がり角のすぐ側の階段を目指して・・・・・病院を抜け出そうというのか!?
確かに、あの足のケガではこの階段を下ることは苦痛に邪魔されて不可能だ。
それに人もわりと多い2階から1階にかけては、シャボン・イールをソリのようにする
ダイナミックな下り方も目立ってしまって不可能だろう。

使えるのは、彼女自身を支えているあの両足のみ!!

その傷ついた右足の痛みに耐えるために、この階の子に鉛筆を借りて、
道重さんは鉛筆を食いしばりながら階段を下ろうとしているんだ!!

そこまでして…そこまでして卒業式に出たいというのか!!!?


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


202 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:51:35.51 0

しかし、ゆっくりでも痛みをこらえて階段を下れるよう鉛筆をくわえ込んだ
その対処法…どうやら彼女にとってある意味逆効果だったようだ。
通路を歩いている人や、椅子に座って診察の順番を待つ患者さん達が、
道重さんを奇異な瞳で見つめていた。
パジャマの上から白いダウンジャケットを着て、鉛筆を口にくわえ歩く少女。
目立たぬワケがないッ!!!

「もう・・・・・終わりにしましょう!!ミラクル・ビスケッツ!!!」
パシンッ!!パッシーン!!!

ビスケッツのNo.1が道重さんのダウンを、No.3がくわえていた鉛筆を
それぞれ分解した。
これで、誰がどこから見ても道重さんは病院に入院している患者だ。
分解したダウンと歯型のついた鉛筆が再形成され、私の足元に転がる。

「ハァ…ハァ・・・小春ちゃん・・・・・ッ」

「鬼ごっこは終わりです、道重さん。しかし・・・・・・正直恐れ入りました。
シャボン・イールの妙技で私を翻弄し、鉛筆を噛み締め苦痛に耐え抜こうとする
その姿勢・・・・・・あなたの気持ちはじゅうぶん小春に伝わってきましたよ。数々の無礼な
発言、すべて頭を下げて謝っても足りません。ですから私ができることは・・・・・・
肩を貸して病室に戻ってあげること、たった一つのみ」

「・・・・・・・ッ!!!!」

「おっと動かないで下さい。それ以上抵抗するというんなら、さらに分解させて
もらいますよ。パジャマの上着、ズボン・・・・・・・この人が多い場所で、容赦なく
『恥かしめ』を受けてもらいます。そう、容赦なく・・・!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


203 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:53:39.99 0


勝ったッ!!!
私はこの鬼ごっこに勝利することが出来たのだ。
道重さんのスタンドに翻弄された時はマジで震え上がってしまったが・・・・・
いくら信念があったところで、彼女は15歳の乙女だ。
こんな所で、身ぐるみを失うことはあまりにも恐ろしいことだろう。

「さぁ、道重さん。戻りましょう」

「まだ」

「はい?」

「まだ終わってないの・・・・・・シャボン・イールッ!!!!!!!!」


プワン!!プワン!!プワンッ!!!


彼女の右腕に出現したウナギ型のスタンドが、なんと三つのシャボン玉を
吐き出したのだ!!!
バカなッ!?ここは屋内だぞ!!?
しかも、体調不良を訴えている人々が集まっている病院の中なんだ!!
自分の欲望のために、関係ない人をも巻き込もうというのかッ!?
私が攻撃を受けるのはいい!!
だが、そのために犠牲を払うなどと、決して許されることではない!!!!
とち狂ったのか!?



204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:55:09.20 0


「なんて・・・・なんてバカなことを!!!道重さんッ!?」

「発射したシャボン玉は全部で三つ。どれも低圧力で吹き出したシャボン玉なの」

低圧力で噴き出されたシャボン玉は、微々たる風に乗って宙を揺らめいている。
圧力が低いという事はッ!!それだけシャボン玉はいつもよりモロいということ!!
そして、ゆっくりと吹き出されたぶん!!いつもよりシャボン玉の大きさがでかいッ!!
さらに!!シャボン玉がでかいということは・・・・・その破壊力は言うまでもなく・・・・・!!

「あ、あ・・・・あなたって人はぁぁぁぁぁッ!!!ミラクル・ビスケッツ!!!!」

『オ、オマエラッ!!割ラナイヨウニ分解シル!!』
『ワカッテイルワヨッ!!』
『愛のシャボンに抱カレタラ最後ダ!!吹ッ飛バサレチマウゼー!!!』


パスン!パスン!パスンッ!!


分解完了・・・・・・・くぅ〜ッ!めちゃくちゃ緊張した!!
まるで爆弾の解体作業でもしたような気分だ。握った手のひらに汗をかいている。
しかし、私のミラクル・ビスケッツは無敵だ。どんなものだろうと分解する!!
今のシャボン玉は『負け犬の遠吠え』と解釈しよう。

…これは、本当に彼女を叱らねばならないようだな。二つも年下の私が
彼女にお説教する時がやって来るなんて、奇妙な話ではあるが。
病室に戻ったら、今の場を弁えぬ行動を叱責しよう。


205 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 03:57:51.62 0


「気は済みましたか…?」

「さすがは小春ちゃんのミラクル・ビスケッツ。繊細なその能力で鮮やかに、
滑らかに・・・・・ビスケットを砕くように・・・・・シャボン玉を分解してくれたの。
さすが、さゆみが信じているだけはあったの」

「何を言ってるんですか?あなたは・・・・・・熱でもあるんじゃあないですか?
さっきから道重さんの言っていることが、私には理解不能です」

「屋内でシャボン玉を使えないっていう状況、今までも何度かあったけど…
マジな戦闘の時ってすごくイライラするの。自分の力が50%も出せないんだから。
例えるなら・・・・・そう、教室でキャッチボールをしているような『心の圧迫感』なの。
まぁ今回はマジでやる気はないからいいんだけどね。小春ちゃん、あなたも
さゆみと同じ『心の圧迫感』を味わうがいいの」

「心の・・・・・圧迫感?」

さっきから何を言ってるんだ?この人は。
心の圧迫感?いったいなんのことだ・・・・・・?
と、その時だ!!
道重さんが突然こちらに向かって走り始めたのだ!!!

「バカな!?その足で走れるわけがッ!!!」

「さゆみは絶対卒業式に参加するッ!!足の痛みなんてもはや意に介してる
ヒマはないのッ!!!」

クッ!!彼女を止めなければ・・・・
ビスケッツで彼女のパジャマを分解して強制的に動けなくしてやる!!
赤っ恥をかくだろうが、あなたが悪いんだ!!!


206 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 04:00:57.86 0


「ミラクル・ビスケ・・・・・はッ!!!」

ふと、分解したシャボン玉を再形成してなかったことに気付く。
分解組の3人が分解したシャボン玉を再形成させない限り、ビスケッツが
再び分解を行うことは不可能だ。
だが・・・・・・ここでは爆発物であるシャボン玉を再形成して
捨てることはできないッ!!!

私のビスケッツが…屋内で自由に操れない!?

私はその時初めて理解した。
道重さんがシャボン玉を放ったその理由を。
あれは・・・・・・オトリだったのだ!!道重さんは初めから私にシャボン玉を分解して
消させるつもりでシャボン玉を放っていたのだッ!!!それを再形成させなければ
新たに分解をすることは不可能!!そして、ここでは再形成は出来ないッ!!!
私の能力を信じてシャボン玉を分解させ・・・・・ビスケッツの分解能力を封じたというのか!?
これが・・・・・心の圧迫感!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


207 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 04:02:48.76 0


「そんな圧迫感ごときに小春はああああああああッ!!!!!」

私はその場で仁王立ちになった。
こうなれば我が身をもってして止めるッ!!
イメージとは裏腹に身長が高い道重さんだが、それは私だって同じこと!!
それに、私はこれでも故郷のバレーのチームでキャプテンだったんだ!!
運動能力は彼女を上回っているハズだ!!!
だから・・・・・力ずくで・・・・・止めるッ!!!

「こ、ここは通しません!!!」

道重さんは進路を変えることなく迫ってくる!!
そして・・・・・



ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

「オガーッ!!!!」



吹っ飛ばされたのは・・・・・私の方であった。
あんな・・・・あんな女の子女の子した人が・・・・・なんてパワフルな・・・・ッ!!

「運動の能力の差は質量で補うッ! これが剛よく柔を断つということなのッ!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


208 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 04:04:15.90 0


私は倒れてしまった。
尻餅をついてしまったのだ。
道重さん、足首から血が流れているが・・・・・痛くないのか?
鉛筆をくわえ込むほど痛かったんじゃあないのか!?
いったいなにが彼女をそこまでさせているんだ・・・・・そんなに卒業式に・・・・・


ブニュ


ふと、お尻に奇妙な感触を覚えた。
こ、この感触は知っている!!この…今にも潰れそうで潰れない、芯が入ったような
この感触は・・・・・

「へ、ヘビ・・・・・ッ」

いや違う!!道重さんのシャボン・イールだ!!!
だが、今度はさっきと違ってヘビのように動くことはない。
だから私も正気を保っていられるのだ。
これのおかげで、固く冷たい床にお尻をぶつけなくて済んだが…
まさか・・・・・クッションのかわりにしてくれたのか?
間もなくして、シャボン・イールはドッヒュ〜ン!!と、凄い勢いで道重さんを
追いかけていった。

あの人は・・・・・・行ってしまった・・・・・ッ!!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


209 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 04:05:44.88 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「やったのッ!!小春ちゃんを出し抜くことが出来たの!!!!」
ドデデデデデデデデデデデデデデ・・・・・・

「しかし強敵だったの・・・・・屋内とはいえ、さゆみをここまで追い詰めるとは・・・・」
タッタッタッタッ・・・・・

「くぅ・・・・足がすごく痛むの・・・・・・・家に着くまで・・・・・なんとか耐えて・・・」


バシィッ!!!!


「だ、誰なのッ!?さゆみの腕をつかんでるヤツは・・・・アッ!!!!」

「さゆみちゃん!!病院の中で走り回っちゃだめでしょ!?足首の火傷だって
まだ治ってないのに無理して!!まったく・・・・オテンバなんだから!!!!」

「し、島田さんッ!!ちょ、ちょっと待っ・・・・・・」

「包帯取り替えてあげるから大人しくしなさい!!ホラ、病室に戻りますよ!!!」

「な・・・・・バカなあああああああああああああああッ!!!!!」

「バカじゃありません!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


226 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:04:05.11 0


「ひーん」

ソロバンをパチンパチンと指で弾く私の耳に、頭から布団の中に潜った
道重さんの嗚咽が聞こえてくる。
それにしても驚いた。
部屋に戻ってきてすぐ、道重さんが看護婦の島田さんに連れてこられたのだから。
一通り小言を言われたあと、右足首の包帯を替えてもらっていた。
ちょっと膿んでたらしい。

「えぐん、えぐん」

「道重さん、そんな涙が枯れそうになるほど泣かなくてもいいじゃないですか」

「だって、卒業式出たかったンだもぉんんんんんんお〜いおいおいおい・・・・」

弱ったなぁ。
いくら私でも泣く子には勝てない。

「じゃあこうしましょう。明日、私と二人で卒業式をするんです」

「どこで?」

「この病室で」

「そんなの卒業式じゃないの!!卒業証書は?紅白饅頭は?男の子の告白は?」

「卒業証書は私が書きます!紅白饅頭は亀井さんにでも連絡して買ってきて
もらいましょう!!告白は・・・・そうそう、ビスケッツの一人が道重さんの大ファンで…」

「うわ〜ん!!」


227 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:05:21.98 0


ダメだ、打つ手がない。
それにしても、あと一ヶ月もしないうちに高校生ともなる人が、よくもまぁ
卒業式に出れないという理由で涙を流せるものだな。
しかも、声に出すほどの泣き声で。

・・・・・・・・・それだけ、心が純粋というなのか。私と違って。

なんとかしてやりたい気持ちも起きてきたが…どうすることも出来ないな。
耐え抜くんです、道重さん。
あなたには、肉体的な痛みを克服する精神力があったのだから。


コンコン


しばらくして、病室の扉がノックされた。
面会時間は終了ギリギリだ。
誰が来たんだろう・・・・・私が返事をする前に、扉は開け放たれた。

「あ、田中さん!!」

「そうたいめんたいトンコツばい」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


228 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:06:35.93 0


今日退院したばかりの彼女がこの病室に来るなんて、いったいどういうことだ?
忘れ物でもしたのか?
いや、それはない…だって私は田中さんと入院していた病室から
移動してきたのだから。

「二人とも、大人しく療養しとると?」

「え、ええ、まぁ」

さっきまで、血の滲むような(道重さんは実際に滲んだ)せめぎ合いをしていた
なんて知ったら、田中さんはどんな顔をするだろう?

「あの田中さん」

「小春ちゃん。ノンノン、れいな先輩って呼んでみるッちゃ」

「はぁ」

「さぁさぁ」

「れいなせんぱい」

「ブラボー!!おぉ…ブラボー!!!」

どうしたんだ、この人。
何をそんなに浮かれ狂っているんだ?
最高にハイッてやつなんだろうか?


229 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:08:24.95 0

「で、どうしたと小春ちゃん?あ、これお見舞いの梅の駄菓子。甘いヤツっちゃ」

「あ、コレ大好きなんです!!ありがとうございます!!!いえ、なんでまた急に、
それも退院したその日のうちに病院へ戻ってきたのかと」

「ンッン〜よく聞いてくれたばい!!さゆ!!!」

田中さん・・・・・・じゃなくてれいな先輩は道重さんが潜っているベッドに
近付いていった。

「さゆ!さゆ!!寝とーと??」

「う、う・・・れいな。何しに来たの?」

「うわぁ!!目が真っ赤ばいッ!!!何泣いてるっちゃ!!?」

「自分の無力さに打ちひしがれてるの。ほっといて欲しいの。
卒業式、さゆの分まで楽しんできてねなの」

そう言うと、道重さんは再び頭を布団の中に沈めてしまった。
そうとう行きたかったらしいな、卒業式。

「いや、その卒業式なんやけど…さゆ、卒業式出たい?」

道重さんは、口で答えるかわりに布団の中でモゾモゾと動いた。

「なら、起きるとよ」
ガバァッ!!!!!!

なんと突然、れいな先輩が道重さんの布団を乱暴にはいだのだ!!
まるで、ミラクル・ビスケッツNo.2に叱咤激励された時の私のように…


230 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:09:14.97 0


「れ、れいな?何を・・・・・・」

道重さんが目を丸くした、その時!!


「パウッ!!」

ギャン!!!ドッズウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!


れいな先輩の右手が、道重さんのみぞおちに深々と突き刺さった。

「な、何をしてるんだああああああッ!!あなたはあああああああああ!!!!!」

叫ぶ私に、彼女は何も答えない!!
道重さんは驚きの表情でれいな先輩の腕を見つめ、やがて・・・・・

「おぅえぇッ!!!!」

と、苦悶の声をあげた。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


231 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:10:19.28 0


「み、道重さんンンッ!!!」

「か、かふッ!!!」

「そうそう・・・・肺の中の空気をすべて・・・・・・1t残らず搾り出すばい!!!」

「くふッ・・・・・こ・・・・・・あへッ!!!!」


そうしてしばらくした後、彼女はようやく道重さんのみぞおちからその右手を抜いた。

「しばらく呼吸はできんばい・・・・・・けど、心配はいらないっちゃ」

れいな先輩がそう言ったその途端!!

ブショッ!!!
「うッ!!!!!」

道重さんが妙な声をあげた。
な、なんだ!?見えない何かを抱くように、両腕をしめているぞ!?
今にも何かに変身してしまいそうな勢いだ。

メリメリ・・・・・ブシャアアッ!!!!!
「はうッ!!!!!」

ミリミリ・・・・・フシャアアアアアアッ!!!!
「な、なんなの・・・・さゆみの身体が・・・・・・熱い!!!!!」



232 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:14:00.97 0


何が・・・・・道重さんの身体に何が起こっているんだ!?
私はれいな先輩をジッと見つめた。

「れいなはさゆの横隔膜を指で突き、さゆの呼吸を調節したとッ!!今のれいなと
同じように『特別』な呼吸法にしたっちゃ!!!」

呼吸・・・・・・・特別な・・・・・呼吸・・・・・?
れいな先輩と同じような・・・・・・特別な呼吸!!そ、それはッ!!!

「は、波紋の呼吸法!!!」

「イッツォーライッ!!!太陽はすべてお見通しなれいなの波紋の呼吸法たい!!!
なんでれいなも気付かなかったんやろか・・・・・れいなのケガの治りが早かったのは
この波紋法のおかげ!!それなら波紋を知らないさゆだって、無理やりだけどこの呼吸の
リズムと同じものにしてしまえば・・・・・・・さゆの回復力も一時的に大きなものとなるッ!!
そう思ってスッ飛んできたとよ・・・・・このナイスアイディアをさゆに使うために!!!」

「な、なるほど!!しかし・・・・・どうして何も言わずにそんなことを?
いきなりのあの行動・・・・もはや不意打ちにしか・・・・・」

「ぶっちゃけ、れいなも自信なかったとよ。横隔膜を押すために指を突っ込まねば
ならないその一点は小さい・・・・もし怖がって動かれたりしたら急所をついてしまうかも
しれんかった!!!・・・・・そして、どうやら波紋の効果はすべて現れたようたい。
さゆ、看護婦さんに言って包帯を取り替えてもらうといいばい。今、れいなが
呼んでこよう・・・・一緒に卒業式に出るっちゃよ」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


233 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:15:01.87 0


次の日・・・・・・
外出許可のおりた道重さんは、めでたく卒業式に出席した。
右足首のケガ及び右胸の傷は塞がっていないようだが、安静の領域は超えたのだ。
包帯の下に隠れた火傷は、もうどこも膿んでいない。
波紋のエネルギーが、すべて外に放出したのだと、れいな先輩は言っていた。
おそらく、あと一ヶ月もしないうちに火傷の痕は元通り綺麗な白い肌に
回復することであろう。

私の方はというと、れいな先輩が道重さんにおこなった『治療法』をお断りした。
失敗されて苦しい思いはしたくなかったからだ。
それに、爆発に飲み込まれた道重さんと違い、私はあくまで爆風に吹っ飛ばされた際に
負った火傷。元々そのケガの重さが違う。
なにもしなくても、道重さんより治りは早いのだ。

夕方、病院に帰ってきた道重さんは、すごく嬉しそうな顔をして、私に明け方まで
卒業式の話をしてくれた。
ちなみに、5人に告白されたそうだ。

そして、さらにその翌日・・・・
道重さんは、元気に退院していったのだった。



234 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/17(金) 10:17:14.03 0


タクシーに乗った道重さんを見送った私は、自分の病室へ戻り2時間眠った・・・・

そして・・・・・・・目を覚ましてからしばらくして・・・・・・

みんなが退院してしまい、一人ぼっちになったことを思い出し・・・・・・泣いた・・・・・・



その時・・・・嗚咽を洩らす私の目に偶然入ったもの・・・・・・それは・・・・・・・・



ガバァ!!!


「れいな先輩が持ってきてくれた…食べ残しの駄菓子だ!!!」

ムシャ ガブ アム ベチャ グチャ ガブ・・・


「やったね!!」



TO BE CONTINUED…