109 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:12:20.52 0


銀色の永遠 外伝  〜Shall we love?〜



「なんで後藤真希って演劇部やめたの?」

「顧問の言う事聞かないからやめさせられたんじゃあないの?」

「そうなの?バイトしたくてやめたって噂なら聞いたけど」

「なんにしても、あんな入るのが大変らしい部活をやめるなんてねー」

「入れない人だっていんのにね。藤本さんみたいに」

「バカ、あんなガラの悪い女が演劇部なんて可愛らしい部活入れるわけないでしょw
入部できたら世も末よ、それこそ空から恐怖の魔王が降ってくるしwww」


後藤真希が演劇部を退部した!!
それは、ぶどうヶ丘高校・中学の演劇部に興味を示す者達にとって、
大事件だったのだッ!!!
最も、知らない人間から見ればいったい何の話やらといった感じであろうが…



110 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:14:03.90 0


ある朝、後藤真希は一人で登校していた。
遅刻ギリギリの時間で、学校へと道を歩いている生徒は一人もいない。
こりゃあ走ったほうがいいかな…そう思っていた時だ。


「待ちなよ、後藤真希ッ!!!」


木陰から色っぽい声で彼女を呼び止めたのは、これまた色っぽい
身体をした女子高生である。
後藤真希は、彼女を知っている。
このムチムチしたネーちゃんとは、なんだかんだで付き合いは長いのだ。


「んぁ、倖田先輩じゃあないっスか。待ってたの?朝っぱらから何のようだぽ?」

「オメー、演劇部やめたそうじゃない」

「ええ」

「ええ、じゃあねーんだよ。あたしはとぼけたあんたをぶっとばさなきゃあ
ならなかったのに、勝手にやめられたら困るんだ」

「それこそ勝手な話じゃん。ごとー、遅刻できないんでもう行きまスよ」


111 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:17:32.94 0

後藤真希はさっさと学校へ向かうことにした。
部活をやめてから生活がフヌケと化してきた彼女は、今日遅刻してしまうと
通算8連チャンの遅刻となってしまう。
さすがにそろそろ呼び出しをくらってもおかしくなさそうだ、それは避けたい。

「そうはいかないね…出ろぉーっ!!バタフライッ!!!!!」
ドッバアアアン!!!!

「んぁ?」

倖田來未が発現させたそのスタンドは、鮮やかなブルーの羽を持っていた。
見慣れたスタンドではあるが、以前よりも『何かが変わった』気がする。

「また…成長したの?」

「ああ、そうさ。もう少し成長すれば…きっとあたしは空を自由に飛ぶことも
出来るだろうよ。だけど!!この『風に乗せて加速させる能力』を使えばッ!!!
あんたを翻弄することは容易!!!さぁ、早くスタンドを出しなぁーっ!!!!
あんたの『ゴシップ・セクシーGUY』をよぉ〜ッ!!!!!!」

会うたびに成長している倖田來未には、後藤真希も感心するしかない。
恐らく、彼女の『負けん気』が成長に拍車をかけているのだろう。
そして倖田來未が攻撃を仕掛けてくる時というのは、大抵成長した時なのだ。
だが、後藤真希は考える。

もし、寺田がいなければ…この人は『負けん気』をもっと別の場所で発揮して、
大きなことをする人間になれただろうに…

倖田來未…彼女は、寺田により審査という名目でスタンド使いにされるだけ
されてしまった不幸な人間だと、後藤真希は思っていた。
スタンド使いになった倖田來未には、もう平穏や安息はないのだから。


112 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:20:25.56 0


「…おい後藤!!早くスタンドを出せって言ってンのよ」

「やだ」

「な…ッ!」

後藤真希は、彼女の宣戦布告を拒んだ。
いつもなら多少は付き合ってやっているところだが、演劇部をやめた今、
彼女はスタンド使いと関わることも、スタンドを使うこともやめようと決意したからだ。

「やだだと…?そっちがその気ならよォ…意地でも闘う気にさせてやんよッ!!!
・・・・・きたきた!!いい風が吹いてきたわッ!!!羽ばたけるわ!!バタフライッ!!!」

スタンド『バタフライ』を自らの背中に取りつかせ、倖田來未は羽ばたいた!!
まるで、蝶になったかのような彼女であったが…


ドヒュウウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!!!


倖田來未は勢いよく後藤真希の脇を通り過ぎ、派手に地面を滑走した。
どうやら、自分自身を『風に乗せる』ことに慣れていないらしい。
彼女は地面と濃厚なキスをかわしていたのだ。


プギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!!!!!


113 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:24:19.15 0


「・・・・・もっと練習しなよ・・・・」


後藤真希は哀れみを込めて言った。
それがまた、倖田來未の『誇り』に傷をつけ『負けん気』に拍車をかける。
しかし、風に乗った勢いのままスッ転んだので、痛いものは痛い。
彼女はもう立てなくなった。


「さよなら」


倒れている倖田來未に一声かけ、後藤真希は学校へと歩いていった。
今ので確信できたことがある。
それは、その気になればスタンド使いだったとしてもスタンドを使わない
生活ができるということだ!!
彼女は演劇部をやめたあの日、あの時、あの瞬間から決意していたのだ。

ごとーはもう、スタンドなんて使わないんだ!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!!


114 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 02:25:33.99 0


一方、倖田來未は…

「うっ…うっ…不覚だったわ・・・・・・この本番になると失敗するムカつく性分…
治さなくちゃ…諦めることは・・・・・・・・まだ早いのッ!!!!」

純粋な闘争心を、熱く燃え滾らせていた。


「・・・・・・あなた、大丈夫?転んだの?」

近所のおばさんが、倒れている倖田來未に声をかける。
たぶんゴミ出しの帰りか何かだろう。

「あッ、大丈夫です。なんでもありません」


倖田來未は顔や制服についた砂埃をパンパン払うと、急ぎ足で学校に向かった。


120 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 05:49:29.91 0


「うおぉぉッ!!亜弥ちゃん急げ!!テリヤキチキンサンドが売り切れちまう!!」

「美貴タン大丈夫だよッ!!サンジェルマンは逃げないからさぁ〜!!」


睡魔に襲われっぱなしであった午前の授業が終わり、生徒の皆が待ち望んでいた
昼休みがくると、後藤真希は屋上へ向かうことにした。
演劇部をやめて以来、昼休みに行く宛てを失った後藤真希は、
こうしてヒマを潰していたのだ。
そして、クラスに友達という友達がいないことに気付く…


「・・・・・んぁ」


寂しくないよ。

寂しくなんかないよ。

寂しくなんか、ないよ。

ないよ…




121 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 05:51:24.18 0


屋上へ向かう途中のことだった。

「おいゴマキィ」

ニヤニヤと声をかけてきた女子生徒に、後藤真希は反応した。
彼女はその生徒を知っていた。
同じクラスの渡引智美、彼女は中等部からの知り合いだ。
なぜ彼女と知り合いなのか。それは…

「あんた演劇部やめたらしいなァ?え?」

「んぁ…?」

「どうしたのサ?練習についてけなくなった?それとも…
『スタンド能力』がなくなっちゃったのかい?」

渡引智美は、スタンド使いであった。
後藤真希が演劇部に入部した同時期、倖田來未と同じように一次審査を通過するものの、
二次審査で落ちてしまったのである。
ちなみに、渡引智美の能力を後藤真希は知らない。
そんな彼女が今さらいったい自分になんの用なのだろうか?
後藤真希は疑問を感じた。
高等部2年の倖田來未のように頻繁に突っかかってくるならともかく、
今までろくに会話もしたことがなかったようなヤツが突然話をかけてくるなんて…
イヤミでも言いにきたのだろうか?


122 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 05:52:47.24 0


「ごとーになんか用?」

「なんか用?じゃあねーんだよ、質問してるのは私なんだ。おい、どうなのさ」

「・・・・・・別に。関係ないじゃん」

「関係ない…確かに関係ないわなぁ。ま、御高く止まってんのも大概にしな。
あんたはもう学園のアイドルじゃあねーのさ…落ちこぼれたタダのギャルよ。
次はあんたが惨めな思いをする番だぜェ…」


そう言って、渡引智美は教室に戻っていった。
あの女…何がしたかったのだろうか?
先にも述べたように、渡引智美とはろくに会話をしたことはない。
ただ、お互いが知っているのは『スタンド使い』ということだけである。
やめた今になってあんな痛い台詞を吐きにくるとは…自分が単独で演劇部に
入部したことを、実は相当根に持っていたらしいな。
後藤真希はそう思うと、彼女がなんだか惨めに思えたのだった。



123 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 05:56:34.57 0


ミーン・・・ミンミンミンミンミンミンミンミンミンミ〜ン…


九月に入ったというのに蝉時雨が耳障りだが、それが夏はまだまだ
終わらないのだなぁと実感させる。
そういえば、むかし演劇部で夏休みの強化合宿を行ったことがあった。
今年はやったのかな…
自分には関係のないことではあるが、彼女はふとそんなことを考えた。

グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・

後藤真希の腹の虫が、空腹に耐えかねて鳴いた。
だが小遣いがピンチの今、昼ご飯を買うことは破産の道へと近付いてしまう。
ガマン、ここはガマンするぽ・・・景色でも見て気を紛らわそう。
彼女は空腹に耐えることにした。

「うわぁ〜!」

なんとなく眺めた景色だったが、その絶景に彼女は思わず感嘆の声をあげる。
杜王駅を中心にして円形に広がった町並み。
杜王港の方角はちょっと見えづらいが、それでも海の反射する太陽の光は
キラキラと眩しかった。
もっと見渡せば、向こう側に至S市内の建物がチラリと頭を覗かせている。

「素晴らしい町だぽ・・・杜王町って!!」

こんな素晴らしい町が他にあるかな…いや、絶対にない!!!
そう思うくらい、後藤真希は杜王町が大好きだった。
この町に生まれたことを誇りに思い、そして感謝していたのだ。


124 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 06:00:33.05 0


ガシャン…


屋上の扉が開いた音が聞こえた。
誰かが来た!?


「まさかあたしらの特等席が奪われてるとはなぁ〜」

「まぁまぁ、テリヤキチキンサンドは買えたんだからよかったよ」

「日ごろの行いがいいからな、あたし。にしても、あの中等部のガキんちょの制服は
すごかったな。『麗奈』とか刺繍してあったけど、ありゃあ暴走族かなんかか?」

「さぁ?でもなんだか寂しそうだったねぇ〜」


あれは確か…同じクラスの『藤本美貴』と『松浦亜弥』だ。
いつも二人でつるんでいるのをよく見かける。

「ヤンキーとブリッ子の二人組みかぁ…胸の大きさといい、なんて凸凹コンビなんだろう…」

藤本美貴は演劇部に入部したいらしいのだが、一次審査も受けさせてもらえないという、
後藤真希から見たら幸せな人間だった。


125 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/25(土) 06:01:48.96 0


「あれ?ねぇねぇ美貴タン、あそこにいるのって…」

「ん・・・?おっ、ありゃあ同じクラスの…最近演劇部をやめったっつー…」


二人がこちらに気がついたようである。
やれやれ…もう少しゆっくりしたかったんだけど…
後藤真希は、その場を立ち去ることにした。


「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」


二人の側を通り過ぎる、まさにその時。



       「待ちなよ」



藤本美貴が後藤真希を呼び止めたのだ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


201 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 06:57:06.15 0


「こんなとこで一人かよ、何してたんだ?」

藤本美貴は、そんな質問をした。
別に関係ないじゃん…そう思ったが、さすがにそれはケンカを売るようなもの。
だが、後藤真希は他に答えが思い浮かばなかった。
なぜなら、何もしていなかったのだから。

「飯食ってたのか?にしちゃあ弁当箱も、パンの空袋も見えねーが…」

「だって、ご飯食べてたんじゃないもん」

「なんで?」

「なんでって…」

なんだこの女は〜ッ!!
いったいそんな質問が彼女にとってなんの利益があるというのだろうか?
さっさと二人でそこら辺に座ってくだらない談笑でもしながらご飯食べればいいのに。
そう思った後藤真希は、早々と立ち去るために適当な理由をつけた。

「別に、ごとーお腹空いてるわけじゃないし」

本当は空いている。
だが、お金ないから…などと言うのも気が引けたのだ。
いくらなんでも、カッコ悪い。
彼女のプライドが、そんな歯止めをかけていた。
ところが・・・


202 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 06:59:30.80 0


グウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・


身体とは正直なもので、さすがの後藤真希も生理的欲求に逆らう術は
持っていなかったのだ。
彼女の腹に巣くう虫は、食物を求めて唸りを上げてしまった。

「お腹の虫はずいぶんと苦しんでるみたいだねw」

「やっぱ腹減ってんじゃねーかwww」

「んぁ・・・・・・」

松浦亜弥と藤本美貴が、彼女の腹の虫の音を聞いて笑う。
クールを気取った手前この有様だ。
恥ずかしさが込み上げてくる。


グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・


また腹の虫の鳴き声が聞こえた。
だが、今回は後藤真希のものではない。

「美貴タンwww」

「うっせーなwあたしは腹が減ったからこうしてサンジェルマンで
パンを買ってだな…」



203 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:01:52.50 0

グゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・


「んぁ…」

今度は誰の腹の虫が鳴いたのだろう。
後藤真希、藤本美貴とくると、やはり・・・・・・

「亜弥ちゃんと見た!!」
「だって、すんげぇすんげぇお腹空いてンだもん」

なんだよ、みんな腹へってんじゃあねーか!!…と、藤本美貴は笑った。
この状況に、思わず含み笑いを浮かべている後藤真希がいる。
あぁ…自分も演劇部なんかに入っていなければ、こんな日常を送ることもできたのか…
そう思うと、この時間がとても貴重なものに思えてきた。

「ねぇねぇ、ウキウキなランチタイム希望!!」

松浦亜弥が言った。
そうか、この子たちはここでお昼ご飯を食べるつもりで来たんだよな。
昼食を持っていない自分は、ここで退場というわけだ。

・・・・一瞬だったけど、なんだか楽しかった。心からそう思う・・・・・・

「よっしゃ、飯にしよーぜ!!」
「うん!!」

「じゃあね」

後藤真希は意気込む二人に別れを告げると屋上のドアノブを握る。
その時であった。


204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:04:16.63 0


「えっ?あれれ??」

「おいおい、あんた今なんて言ったんだ?」

「んぁ?」

藤本美貴の質問の意味がわからない。
『じゃあね』と言ったのだ。それ以上の意味と説明があるというのだろうか?
黙っている後藤真希に、松浦亜弥が言う。

「一緒にご飯食べるんじゃあないの?」

「んん…?でも、ごとーお昼ご飯持ってない…」

「ここにあるよ、クリームパンでよけりゃーな」

「クリームパンはわたしのだよ!!美貴タン、今日は奮発だァーとか言って
焼きそばパンとかコロッケパン買ってたじゃん!!パン系なんて、どーせ
口渇いて3つも食べれやしないんだから、どっちかあげなよ!!!ねぇねぇ、
焼きそばパンとコロッケパンとテリヤキチキンサンド、どれがいい?」

「だーッ!!テリヤキチキンサンドを選択肢に組み込むなァーッ!!!」


なんだ、この漫才は。
大して話したこともない自分にどうしてそんな会話ができるんだ?
この二人、理解不能・・・・・・・・・

だけど・・・・・・・・



205 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:05:41.78 0



「くくっ・・・・・」



「「??」」



「んははははははははははははははッ!!!!!!」



後藤真希は、笑った。

意味もなく笑いが込み上げてくるなんて、ヒサブリだ。

…最後にこんな風に笑ったのはいつだっただろう・・・・・・・


そして、笑いながらテリヤキチキンサンドと言った。



206 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:08:14.49 0


昼食を食べ終え教室へ戻ると、クラスの人間が物珍しそうな顔で3人を見た。


「あれーッ!?あやや達って後藤さんとも仲良かったの??」

「いつもは2人でモサモサしてるくせに、珍しいな!!」


クラスメイトの何人かが、藤本美貴や松浦亜弥に話をかけてくる。
と言っても、そのほとんどが松浦亜弥に話をふっているようだ。
藤本美貴も友達がいないわけではないようだが、不良のようないで立ちと
その目つきから、あまり好意的に話しかけてくる人間はいないように後藤真希は感じた。


「おいおい、ミキティまた眉毛ねーぞ・・・」

「それに比べてあややはやっぱたまんねーよなっ」

「うっせーぞスッタコ!!聞こえてんだよ!!!」

「「ひッ!!」」


教室の隅で陰口を叩く男子を、藤本美貴は一括した。
男子も戦く彼女のオーラは一級品である。


207 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:11:03.70 0


「後藤、あんまミキティみたいな野蛮と付き合っちゃあいけねーよ。
あややオンリーにしとけって」

「そうそう。この子、メイクすれば私と同じくらい可愛いかも知れないけど、
身体に流れてる血は肉食動物そのものよ」

「なんでミキティなんかと遭遇しちゃったの?」

クラスメイトが後藤真希に話しかけてくる。
どの人も、今まで話した事がない人達ばかりだ。
こんなことが、かつてあっただろうか・・・・・・後藤真希は少し困惑した。

「オメーらもうるせぇッ!!ったく人をケモノみてーな言い方しやがって!!!
おい真希ちゃん!!こいつらの話は嘘だッ!!」

「そうだよ、嘘だよ!!」

「おぉッ!亜弥ちゃんからもドンドン言ってやれ!!」

「うん!8割方ホントだけど!!!」

「全然フォローになってねーじゃねーかッ!!!」

その瞬間、クラスが笑いに包まれた。
・・・どうやら、本気で藤本美貴を嫌っている人間はいないみたいである。
あくまで近寄りがたい、ただそれだけのようだ。
この笑っているクラスメイト達を見ればわかる。

そして、その中には後藤真希もいた。



208 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:13:56.50 0


その日から、後藤真希の学校生活が変わり始めたッ!!
昼休みは、決まって校舎の裏で3人で昼食をとるようになったし、
藤本美貴や松浦亜弥のツテではあるが、後藤真希は段々とクラスメイトと
打ち解けるようになっていった!!!
そして、ついには『ごっちん』というあだ名まで手に入れることができたのだ!!!


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


演劇部にいたころまでの『ゴマキ』という愛称は、もう捨てた!!
彼女は、これからは『ごっちん』という新しいニックネームと共に、
楽しい高校生活をおもしろおかしく送っていこうと決意したのである!!!

そう、藤本美貴や松浦亜弥と一緒に・・・・・
この二人がいれば、きっと毎日が楽しくなるんだッ!!!!

後藤真希は、高校生活に『希望』の二文字を見つけることが出来たのだった!!!!



209 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/02/27(月) 07:15:29.10 0



だが・・・・・・・



ここに、それをあまり快く思わない輩がいたのもまた事実・・・・・・・




「ゴマキのヤツ…あんたは惨めな思いをしなきゃあなんねーんだ…
『友達』なんてあんたの人生には必要ねぇンだよ・・・・・それをわからせてやる・・・」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


301 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:35:59.86 0


それから何週間か経った、ある朝のことである。

後藤真希は松浦亜弥と二人で登校していた。
青空には雲一つなく、それはまるで後藤真希の心の中を
象徴しているかのようだった。
ちなみに、今この場にいない藤本美貴はどうやら寝坊でまた遅刻ギリギリになるらしい。

「真希タンはさぁ〜なんで部活やめちゃったの?」

「んぁ?」

「演劇部、なんでやめちゃったの?」

松浦亜弥の質問に、後藤真希は返す言葉がない。
それは言ってもわからないことだろうし、あまり触れて欲しくはない話題だったからだ。
しかし、それを避けて通ることは出来ないのもまた事実。
なぜなら、もう一人の親しくなった友達は、演劇部に入りたがっているのだから。

「二人とも、おっはよー☆」

答えを渋っている後藤真希の後ろから、妙に明るい声が聞こえた。
それによって話の腰が折れたのは、彼女にとってラッキーではあったのだが…

「わ、渡引…」

そう、二人に挨拶してきたのは、このあいだ妙な威嚇を見せてきた
渡引智美だったのだ。
あんなことを言ってきたところをみると、てっきり自分の事を嫌っているもんだと
思っていたが…これも松浦亜弥と藤本美貴のマジックだろうか?


302 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:37:36.68 0


「あ、お、おはよ…」

松浦亜弥がそう言うと、渡引智美はニコッと笑い、後藤真希の肩に手を乗せる。

「ゴマキ、おはよう♪」

「んぁ…うん」


そんな挨拶をかわすと、渡引智美は走っていってしまった。
あの子、いまごとーのことを『ゴマキ』と呼んだ…
後藤真希は、その部分がどうにも気になってしまった。まるで遠まわしに
イヤミを言われたような、そんな感じである。

だが、彼女は考えた。
自分が『演劇部』を意識しすぎてるだけじゃあないのか…と。
もしあざとい考えで渡引智美を見ていたとしたら…それは愚かなんじゃあないか。
そう思った後藤真希は、そこで考えるのをやめた。
こんなことに頭を使っていたら、学校生活がつまらなくなってしまう。

ところが、松浦亜弥が突然奇妙なことを言い出した。


303 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:38:57.65 0


「真希タン、あの子と友達なの?」

「んぁ、どういうこと?」

「いや、あの子…渡引さんだっけ?あの子とはクラスメイトだけど、
話したのは今のが初めてだからさぁ〜びっくりしちゃった」

「え…?」


話したのが初めて…?
ということは、あの子は自分に挨拶しに来たようなもの…という事なのだろうか。
妙な胸騒ぎが後藤真希を煽る。


あの子・・・・・・いったい何を考えてるんだ・・・・・・・・・・?


「あ、つーかさ、こないだ貸したCD早く返してよ」

「んぁ・・・・・・わかってる・・・・・」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


304 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:40:59.48 0


学校へつくと、クラスの様子がおかしかった。

「あややおはよぉ〜」
「あやや元気?」
「おはよーあやや」
「私もあややっちゃおうかな〜w」

クラスの男女が次々と松浦亜弥に声をかけていくが…
誰も後藤真希に挨拶するものはいなかった。
ほんの数週間か前までは、それもおかしくなかった…いや、それが普通だったが…
今日までの間に彼女はクラスで友達を増やしたハズなのだ。
ところが、昨日一緒にノンノを見ていた友達も、後藤真希と目を合わそうとしない。
むしろ避けている。

「ふ〜間に合った〜!!あ、ごっちんにあやや。駐輪場でミキティと
会ったんだけどさ、アイツ体操着忘れたとか言ってまた家戻ってったぞw」

息を切らして教室に入ってきた男子生徒が言った。
どうやら、彼はいつもと変わらず自分にも話を振ってくれているようだ。

「んぁ、そうなんだ」
「美貴タン、これで何回連続で遅刻なんだろう…?」

「さぁ?あいつ、女のクセに男みてーなだらしなさがあr」

ピクンッ!!!!!!

そう言いながら、彼が一瞬痙攣したような動きを見せたのを後藤真希は見逃さなかった。
どうしたんだろう、大きい方でももよおしてきたんだろうか。


305 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:42:29.04 0


「ミキティ、何時ごろ学校来るか言ってた?」

後藤真希は、彼にそう訊いた。
だが、どういうわけか彼は何も答えない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねぇ、ごとーの話聞いてる?」

「・・・・・うっせぇ」

「ぽ?」

「・・・・・あ、いや、なんでもない・・・・で、なんだっけ?」

「あ、うん、ミキティどんくらいで学校着くの?」

「んなこと俺が知るかよスカタン。てめーで連絡とって聞けやボケギャル子」

「え・・・・?」

後藤真希は我が耳を疑った。
彼、なんか今すごくひどいこと言わなかったか?
しかも真顔で普通に。

「・・・・・ん、なんだ俺…どうしたんだろう・・・・ごっちんわりぃ、なんだか
急にイライラしてきてさ、当たるつもりはなかったんだ…ごめん・・・・」

当たるつもりはなかったというが…
言っていいことと悪いことがあるんじゃあないのか!?


306 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:44:32.90 0

「ちょっと〜。早く教室入ってくれなぁい?」

「ん、渡引かよ。お前いつから俺の後ろ立ってんだ?気付かなかったぜ・・・・」

彼はそう言うと、そそくさと自分の席についた。
それにしてもすごい当たり方してくるんだな・・・・・・クラスに慣れ始めたばかりの
後藤真希にとっては、ちょっとつらいものがあった。
この微妙な気持ちをどうにかしたい・・・・・きっとこの子なら・・・・・

「ねぇ亜弥ちゃん」

「・・・・・・・・・・」

後藤真希を向いた松浦亜弥の表情は、とても嫌そうに見えた。
亜弥ちゃんが・・・・・・ごとーを見て嫌そうな顔をした・・・・・・??
だがそれも一瞬だけで、すぐいつもの可愛らしい笑顔に戻る。

「ん?どうしたんの?」

「い、いや、なんでもないぽ・・・・・・」

様子が変だ…
後藤真希は逃げるように自分の席につくと、カバンの中に顔を埋めた。
おかしい・・・・・・今日はなにかおかしいぞ・・・・・
何かが奇妙だ・・・・・・ごとーの第六感がそう言ってる・・・・・・ッ!!
晴れていたハズの彼女の気持ちは、しだいに雲行きが怪しくなってきていた。

そんな後藤真希を、渡引智美は嬉しそうに見つめていたのだった。


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…


307 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:47:05.60 0


「体育かぁ〜これのために美貴は学校遅刻しちまったんだよなァ」

「今日から器械体操だって」

「マジかよ、あたしとしてはミニサッカーのまんまで良かったんだけど」


遅刻してきた藤本美貴と松浦亜弥が、楽しそうに会話しながら着替えている。
自分も混ざりたいが・・・・・・今日はなんかダメだった。
松浦亜弥には話をかけるたび嫌そうな顔をされるし、さっき藤本美貴に
挨拶したときもかなり微妙だった。
向こうから話かけたりしてくることはある。だが、なんだか無理に自分と
会話してるんじゃあないか・・・・そんな空気を漂わせていた。
そのせいなのかはわからないが、松浦亜弥は自分と話している時、
すごく疲れたような顔をするのだ。
藤本美貴も自分と話すとき、目が笑っていなかった。
だが、この二人はまだマシな方だ。
クラスメイトの大半が、もはや後藤真希を避け始めている。
ただ一人を除いて。


「ゴマキィ〜元気ないじゃあん♪どうしたのさ?」

「渡引・・・」

「いつもの二人とも全ッ然会話してないようだしィ?・・・・・・・惨めだねぇ」



308 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:49:07.12 0


最後にイヤミったらしくボソリと呟いた渡引智美は、友達を連れて
更衣室を出て行った。
くそ・・・・・・・あいつ、ごとーに対して悪気があるな・・・・・ッ!!
しかし、間違ったことを言われたわけでもなかったのだ。


実際惨めだッ!!
クラスのみんなはごとーと目も合わそうとしてくれないし、あの二人だって
ごとーが混ざってるとすごく迷惑そうな顔をするッ!!!

くそぅ・・・・・ごとーが・・・・・・いつ何をしたってんだよーッ!!!!

思えば、今日は朝からおかしかった!!
普段、話もしない渡引が挨拶をしてくることが何かの前兆だったんだ!!!
その証拠に、アイツが挨拶してくるまでは亜弥ちゃんと普通におしゃべりしていたッ!!

そうか、渡引!!渡引だな!!!

あいつがごとーの不利なデタラメを吹き込んだのだッ!!
何週間か前に突然話しかけてきたときも、アイツはごとーにイヤミを
言ってきたじゃあないか!!!
アイツはごとーを陥れようとしているッ!!どんどん侵略される気分だッ!!!


くそッ!!渡引!!!

渡引!!渡引!!!渡引ィッ!!!!!


ドッバアァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!!!


309 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 05:51:38.86 0


「さて、館履きも持ったし行くか!!」


一人心の中で震える後藤真希の耳に、藤本美貴の声が聞こえた。
うぅ・・・・・・気まずいし、彼女らと一緒に行動しづらい・・・・・
そう思った後藤真希は、静かに更衣室を出ることにした。
ところが・・・・・

「美貴タン、真希タンは?」

「あ、そういやぁそうだったな。アイツどこだ…お、いたいた」

「んぁ・・・・」

更衣室のドアノブを握る後藤真希を見ると、藤本美貴は一瞬顔を引きつらせたが
すぐにいつもの表情に戻る。

「おいおい何一人で行こうとしてんだよ、一緒に行こうぜ」

「う、うん・・・・・」


やっぱり、なんかガマンしてるな…
後藤真希は、二人の表情を見てそう感じた。


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!


314 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:35:10.93 0


器械体操!!
それは鉄棒!平均台!!そして跳び箱や吊り輪などの器械を使い、
自らの四肢を駆使して行う運動であるッ!!!
そして、人間の運動神経が最も現れやすい競技といっても過言ではない!!!


「うわぁ〜ミキティかっこいい!!」
「ミキティなんで跳び箱なんか跳べるの!?」
「ミキティ〜台上ハンドスプリングやって〜!!」

バレーなどの球技が得意な藤本美貴は、ここでも本領を発揮していた。
根が体育会系なのだろうが…しかし・・・・・・・

「女にモテたって、ちィ〜ッとも嬉しくないぜ」

「美貴タン、男に生まれてたら人生だいぶ変わってたかもねw」

「だから嬉しくないって!!だいたい跳び箱なんて真希ちゃんもガンガン
跳んでるじゃあねーか。なぁ?」

「あ、つぎ真希タンの番だよ」

「んぁ、う、うん…」



315 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:36:58.40 0


後藤真希は相槌を打ち、走り出すものの…
今、この二人とどんな会話をすればいいのかわからないッ!!
嫌われてるかもしれないと思うと、何も会話できなくなってしまうのだ!!!
こ、このごとーが・・・・・友情が壊れることに怯えている・・・!?
くそぉ〜っ渡引!!
いったいみんなに何を吹き込んだのかは知らないけど、それは予想以上の
効果をあげているぽッ!!!!!!


ダァンッ!!!!!!!!!!!!


踏み切り板が、彼女の悔しさを象徴するかのように大きな音を立て、そして・・・


ビュン!!!!!!シュタッ・・・・・・・


綺麗な開脚跳びで、マットの上に着地した!!
だが、それを絶賛するものは誰もいない。
みんな冷ややかな目で、列に戻る後藤真希を見ている。
今にも「なんだアイツ」の一言が聞こえてきそうだ。


316 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:38:21.46 0


「真希ちゃん、ブラボー…おぉ…ブラボー」

「ミキティ…」

「真希タンすごいね…わたしもあんな風に跳べるかなぁ…はは」

松浦亜弥は苦笑いしながら言った。
この苦笑いは跳び箱を跳べるかどうかという不安の苦笑いではない。
会話もしたくないヤツと無理やり口を利いているかのような顔だ!!
根拠はないが・・・・・・後藤真希はそう感じのである。
しかし、同時に気付いたことがあった。

「あ、亜弥ちゃん…すごく顔色が悪いぽ・・・・・」

「え、そう・・・?わかんないや」

これは…普通じゃないんじゃあないか?
ついさっきまで、血の通った水っぽい肌をしていたのに、まるで地面が
干からびたようにカラッカラだ。
鈍感で有名な藤本美貴ですら、その異常に気付いたぐらいである。

「おいおい、真希ちゃんの言う通りだぜ…保健室行った方がいいんじゃあないか?」

「ヘーキヘーキ」

「ぜ、全然平気に見えないぽ…どれ、熱は…?」

後藤真希が松浦亜弥のおでこに触れようとした、その時!!
松浦亜弥は、普段の彼女からは想像もつかないような行動に出たのだ!!!


317 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:39:09.36 0









「さ・・・・・さわんじゃあねェーよッ!!このパツキンがぁああぁッ!!!!!」


バシィッ!!!!!!!!!!











318 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:40:37.33 0


なんと、その顔とキャラにまったく似合わないセリフを吐き、
後藤真希の腕を引っ叩いたのである!!

「んぁッ…?」

これにはさすがの後藤真希もショックを隠せない。
藤本美貴もびっくりしているようだ。

「お、おい・・・・・何事だよ…」

「・・・・・・・・・・・・・・ハッ!!わたしってば何を…?ま、真希タンごめんッ!!!
なんか止まらなかったの!!止めちゃいけない気がしたの!!う、うう・・・・・」

顔色が優れないまま、松浦亜弥は頭を抱えた。
彼女は思わずやってしまったのだ。
後藤真希を引っ叩こうと思って叩いたのではないのだ。
手だけが先に出てしまった…手が延びてきた瞬間、耐え難いイラつきに襲われたのである。
友達を…それも女の子を引っ叩くなんて…そんな自分にもショックを受けていた。
今日はなんだか変だ。
後藤真希と顔をあわせる度、妙なイラつきと嫌悪感に襲われる。
かといって、後藤真希は友人である。それも、最近仲良くなってきた
大事な友達なのだ。冷たい態度なんて取りたくはない。
おかしい…朝、一緒に学校へ来たときはなんともなかったのに・・・・
そんなことを考えている自分は、実はめちゃくちゃ性格悪いんじゃあないか…?

こんなの…初めてだよ・・・・・・ッ!!!

松浦亜弥は意味不明なイラつきと自己嫌悪に苦しんでいた。
そして、さらに体調が悪化している気がする。


319 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:42:02.67 0


「おい亜弥ちゃん、あんたの出番だけどよぉー…やめといた方が
いいんじゃあね〜のか…?」

「だ、大丈夫っ美貴タン!!わたしイケるッ!!!!」

「お、おいッ!!」

藤本美貴の制止も聞かず、松浦亜弥は走り出した!!
ウジウジ考えていてもしょうがないッ!!!
今のことは!!これを跳んでから真希タンにもう一度謝りに行けばいい話だッ!!
そうだ、コレを跳べれば…真希タンはきっと許してくれる・・・・・!!


バァン!!


踏み切り板を力強く踏み、彼女は高くジャンプするッ!!


バスンッ!!


その勢いを利用し、台の遠くを叩くようにして手を突く!!
そして・・・・・・



松浦亜弥は急激な眩暈に襲われ、全身の力が抜けた。



320 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:44:07.94 0


ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!


跳び箱が崩れる音と共に、次々と黄色い悲鳴があがった。


「きゃああああああああッ!!!あややがーッ!!!!」

「跳び箱を跳びながら・・・・・・気を失ったんだわッ!!!!」

「血が・・・・・・頭から血を流しているゥッ!!!!!」



「んぁ・・・・・・あ、亜弥ちゃんッ!!!」


「ど、どくんだ・・・・みんな・・・・・美貴を前へ・・・・・邪魔だ!!そこをどいてくれ
みんな!!!亜弥ちゃん・・・・・おい・・・・・しっかりしろぉぉぉぉッ!!!!!!!」



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!



321 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/01(水) 07:45:21.09 0










「バカな奴…拒まずに受け入れれば『花』は枯れていくだけなのに・・・・」








428 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:48:07.98 0


その後の授業は、まったく集中できなかった。
藤本美貴と体育の先生が二人で松浦亜弥を担いで保健室へ連れて行ったのだが…
亜弥ちゃんは大丈夫なのか…?
ミキティと一緒に、無理にでも跳ばせなければ良かった・・・・・・
後悔の波が彼女に押し寄せていた。
けっきょく授業は自習になり、チャイムが鳴るまで藤本美貴が戻ってくることはなかった。

授業が終わると同時に、後藤真希はさっさと制服に着替え、二人分の制服を抱えて
保健室へと駆け込んだッ!!

「あらあら、そんなに慌ててどうしたの?」

「けーちゃんッ!!亜弥ちゃんはッ!!?」

けーちゃんとは、保健室の番人である保田圭先生のことだ。
中等部のころからケガの多かった後藤真希は、彼女と仲が良かったのだ。

「よぅ真希ちゃん、来たのか…」

「ミキティ・・・・・・」

「亜弥ちゃんなら心配ねーよ…ちょっと頭を強くぶつけただけだそうだ…
縫う必要もないって・・・・・一安心だなァ。お、制服サンキュー」

後藤真希の手から、藤本美貴は制服を受け取る。
縫う必要はない…確かに、それは一安心だ。
しかし、そう述べる藤本美貴を見ていると全然安心できなかった。


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…


429 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:51:05.65 0

「か、顔色が…ミキティ、顔色めちゃくちゃ悪いぽ…ッ!!!」

「そーかぁ?今朝は全速でチャリこいだからよぉ〜…だいぶ腹が減ってんだろうなぁ…
あ、わりーんだけど真希ちゃん、生徒ホールの自販機に並んでてくれよ。
あそこ、けっこう込むだろ・・・・・?」

「じ、自販機って…」

「だいじょーぶ!!金ならちゃんと払うよ、着替えてたら時間かかっちまうからな…
そうだな…亜弥ちゃんの分もいれて3人分か。亜弥ちゃんは午後ティー、あたしは…
コカ・コーラでいいや。あたしもすぐ生徒ホール行くからさ…早くつけりゃあ
自分で買うよ、割り込むカタチになっから周りがうるさそうだけどな・・・・・・」

「んぁ…で、でも…」

「いいから行けっての」

「う、うん…」

後藤真希は松浦亜弥の制服を保健室に置くと、財布を握り締め生徒ホールへ向かった。
くそ…くそッ!!くそッ!!!くそッッ!!!!!!!!
なんだってこんなことになってしまったんだ…すべてにおいて空回りだ!!!
松浦亜弥がケガしたのは誰のせいでもないだろうが、それも誰かにぶつけて
やりたいという腹立たしさでいっぱいだッ!!!

「畜生ッ!!!」

後藤真希は、自らの非力さを噛み締めながら、生徒ホールに入っていった。


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


430 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:53:06.58 0

どうやら、やや出遅れてしまったらしい。
自販機はすでに長蛇の列である。
10分、20分待つわけではないから別にいいのだが、一人で順番を
待っているというのはいったいどんな風に振舞っていればいいのだか…
後藤真希はちょっとだけ挙動不審になった。


「あら、後藤真希じゃない」


背後からかけられた声に反応して振り向くと、そこに立っていたのは…

「んぁ…なんだ、來未ちゃんか」

「なんだとはご挨拶ねェ。つーかアンタ、先輩のあたしに『ちゃん付け』?
…あたしのこと、下に見たわね…ッ」

「別にどっちだっていいじゃん。用がないなら帰って。それと前から
思ってたんだけど、セーラー服マジで似合ってないよ」

「セーラー服は関係ねーんじゃあないのッ!?そもそもあたしはただ
飲み物を買いに来ただけなのよ??」

「あっそ。ちょっと今いろいろ考え事してるんだから話しかけないで」

「て、テメェ…やはりアンタとは決着をつけねばならないようね…
後藤、あんたに決闘を申し込むわッ!!オモテに出なよッ!!!」

「…ごめん、恥ずかしいからもっと小声で喋ってもらえる?」

「む、ムッカァ〜・・・・・・・・・ッ!!!」


431 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:55:56.30 0


そう、今はバカの相手をしている余裕はない。
亜弥ちゃんのケガが軽かったのは安心だけど…ミキティもなんだか
顔色悪くなってたし…
それに、渡引だ!!
アイツのせいで、なんだかとてもクラスにいづらい!!!
うぐぐ…今日は最低だぽ・・・・・・もしかして『天中殺』ってヤツなんだろうか。

「真希ちゃん、わりぃ」

倖田來未を無視して思案していた後藤真希に話しかけたのは、制服に着替えた
藤本美貴だった。

「ッ!!?」

だが驚くことに、その顔は水気も帯びていないようなカサカサの肌で、
目は虚ろで死んでいるようだ。輝きがない。
後藤真希は彼女の短時間で変わり果てた姿に、一瞬言葉を失ってしまった。

「み、ミキティ…大丈夫・・・・・・なの?」

「ん、何が?」

「何って、その顔色…」

「顔色?なぁに言ってんだよ…一人で順番待ちってつまんねーだろ?真希ちゃんよぉ…」

藤本美貴は後藤真希と倖田來未の間に割って入ろうとする。
しかし、そこで彼女は大きく体勢を崩した。
足がもつれたのだ。


432 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:57:35.81 0


「おっと…」


急激な眩暈に襲われた藤本美貴は、倖田來未に思わず持たれかかってしまった。
普段は粗暴である藤本美貴も、さすがに見ず知らずの人間に迷惑をかけて
しまったことに多少ながら焦る。

「わ、わりぃな…アンタ」

「別に・・・・・・・ん?」

倖田來未は素っ気無く答えた。
彼女はジッと藤本美貴の首元を見つめ、割り込んだことに関しては
特に何も言ってこなかった。

「ミキティ、やっぱ保健室戻ったほうがいいぽ。まだちょっと待ちそうだし」

「そ、そうか…そうだな、そうすっか…」

藤本美貴は入ったばかりの列を抜けると、フラフラと生徒ホールの人ごみを
掻い潜っていく…
あれは…絶対平気じゃない…亜弥ちゃんもミキティも、どうしちゃったんだ…
あの顔色・・・普通じゃないぽ!!!
後藤真希は、去っていく藤本美貴の背中を見つめていた。


433 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 01:59:09.38 0


「ねぇ」


再び倖田來未が声をかけてきた。
後藤真希は何も反応しないが、彼女は構わず続ける。

「今のヤツ…なんだかおかしかったわよ」

「・・・・・・そんなん見りゃわかるぽ」

「バカね、そりゃあ顔色だけ見て言ってるんでしょう?今…あの子が倒れ
掛かってきた時に制服とうなじの隙間からチラリと見えたんだけど…」

「んぁ…?」


そして、倖田來未は藤本美貴の後ろ姿をアゴで指しながら言った。


「あの子、背中から妙チクリンな『花』を咲かしていたわ。あの感覚…
あのビジョンは間違いない・・・・・・背中に『スタンド』が咲いていたのよ」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


434 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 02:01:15.97 0


「妙チクリンな…花…スタンド?」

「ええ」

「そんなバカな…もしそれが本当だとして…なんでミキティがスタンド攻撃を
受けてるんだ…?」

「みきてーっていうの?ま、そんなこと、このあたしが知ったこっちゃないけど」


そう言うと、倖田來未は興味なさそうに大きなアクビをした。
バカな、有り得ない…スタンド攻撃だなんて有り得ない!!
だいたいミキティはスタンド使いじゃあないんだ…そんなあの子が
スタンド使いに攻撃を受けるなんてことがあるのだろうか?
そういえば…亜弥ちゃんも今のミキティと同じような顔色とカサカサの肌になって
気を失ってしまったようだけど…
だとしたら亜弥ちゃんもスタンド攻撃を受けているということか?

いや違う!!それはないッ!!!

一般人に何が目的でスタンド攻撃をするヤツがいるというんだ。
きっと二人は体調が悪いだけさ!!!
背中に花が咲いていたなんて、來未ちゃんやっぱりバカなんじゃあないのか?
目が腐っているに違いないぽ!!ふん!!!
後藤真希は無理に自分を納得させたのだった。
あの二人が『スタンド』と関わるなんて…考えたくないぽ!!


435 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 02:03:16.35 0


「あーらら…藤本のバカもずいぶんな顔色してたねぇw」


列の先頭でジュースを買って、缶ジュース片手にわざわざ後藤真希に
近付いてきたのは…渡引智美である。
彼女は突然、小声で話しかけてきた。

「渡…引ッ!!」

「あのバカはいったい何がしたいんだか…自分の気持ちに素直になれば、
あんな苦しい思いしなくて済むのにねぇ」

「ま、まさか…きみは…ッ!?」

こいつが…こいつがミキティ達にスタンドを!!?
そうだ、こいつは一次に受かってるんだ!!スタンド使いなんだ!!!

「て、テメェ…ッ!!!」

「何だよ、その目は…私、なんか『気にかかること』でも言ったかな?
ま、藤本達を大事に思うんならさぁ、もうあの子らには近付かないこったねw」



436 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 02:05:43.55 0


そう言い残すと、渡引智美は友達を連れて生徒ホールを出て行った。
あの女…あの女が何かしたのか!!!?
後藤真希は怒りに震える…今にも風を起こしてしまいそうだ。
一般人であるミキティにスタンド攻撃を行ったのか…な、なんてゲスなヤツ!!!
まさか亜弥ちゃんにも…!?

「ほほぉ、あの子がさっきの『花』のスタンド使いなのかしら?」

後ろに立っていた倖田來未がポツリと呟いた。
どうやら渡引智美とは面識がないらしい。

「聞いてたの…?」

「聞きたくなくても耳に入ってきたわ。なに?アンタ、宣戦布告されてんの?」

「んぁ…ッ」

宣戦布告…?
果たしてそうなのだろうか。なんだかイヤミを言われているだけなような
気がしなくもない。
嫌がらせというか…なんというか…
だが『気にかかること』を言っていたのも事実なのだ。

自分の気持ちに素直になれば・・・苦しい思いをしなくて済む・・・・・・?



437 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/03(金) 02:07:01.80 0


「まぁアンタのスタンドなら、あんな弱そうなやつソッコーで倒せそうな
気もするけどねぇ」

「・・・・・・・・」

「ん、なに黙ってんのよ。今の雰囲気からして、どーせアイツとヤリあうんでしょ?
それとも自信ないの?」

「ちょっと黙ってて欲しいぽ!!」

「ふん…前、空いたわよ」

とにかく落ち着こう…後藤真希は自分をなだめた。
今は二人に缶ジュースを持ってってやることが先決だ。
藤本美貴も松浦亜弥も、おかしいぐらいに水気のない肌をしていた。
もしかしたら、水分を取ったら多少よくなるかもしれないじゃあないか。
後藤真希は三人分の缶ジュースを買い終えると、急ぎ足で保健室へ向かった。

そんな彼女を見て、倖田來未は思わず呟く。

「後藤真希のヤツ、なんか変だわ…あんなフヌケだったかしら…?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



513 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:42:11.25 0


保健室へ戻った後藤真希は唖然とした。
手に持っていた三本の缶ジュースを落としてしまいそうになるくらいだ。

「真希ちゃんおかえり」

「み…ミキティ・・・・・・ッ」

そこには、力なくうつ伏せになってベッドに倒れた藤本美貴がいたのだ。
さっきよりも顔色が悪いような気がする。
青ざめている後藤真希をよそに、保田先生は呑気にこう言った。

「二人揃って貧血ね、コレは。貧血になるのも二人揃ってだなんて、
あなた達どんだけ仲がいいのよw」

貧血…バカな!!
そんな甘っちょろいもんなわけがないッ!!!!
今日一日見ていたからわかる!!
この二人は、ジワジワと弱っていった気がするぽ!!!
まるで、どんどん朽ち果てていくような…『花』が枯れていくようなッ!!!
後藤真希は無言で机の上に缶ジュースを置くと、藤本美貴と彼女を介抱しようと
している保田先生の間にドカドカと割って入った。
もし倖田來未ちゃんの言う通りだとするのなら・・・・・・・ッ!!!!

「ちょ、ちょっとごっちん?どうしたの?」

「けーちゃんどいてッ!!ミキティ…し、失礼ッ!!!」


ドォォォォォォォォォォォン!!!!!!!


514 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:44:31.12 0

「おいちょっと…真希ちゃんよぉ、オメーそっちの気があったのか…?」

いきなり藤本美貴の制服をたくし上げた後藤真希に、彼女の声は耳に入っていない。
なんということだ…これは・・・
藤本美貴の背中に根を生やして咲いているこの花は…!!
間違いない!!血のように真っ赤なこの赤い花はッ!!!!!!

「す、スタンド攻撃だぽッ!!!!」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!

うろたえる後藤真希であったが、その場にいる保田先生や藤本美貴には
彼女が何を言っているんだかわかるハズがなかった。
それもそのはずだ、彼女たちには何も見えていないのだから。
藤本美貴の背中に咲く赤い花を見て、後藤真希はいても立ってもいられなくなった。
きっと亜弥ちゃんもコレにやられているんだ!!そうに違いないッ!!!

「ちょ、ちょっとごっちんッ!!どこへ行くの!!!」
「教室!!」
「このジュースはどうするのよ!!」
「けーちゃんにあげるッ!!!!!!!」

後藤真希は鬼のような速さで教室へと駆け出す。
途中、先生に『廊下を走るな!!』と怒鳴られたが、そんなことに
いちいち耳を傾けている余裕などなかった。
やりやがった…あのクソったれめッ!!!
あのアマ!!やっちゃあいけねーことをやりやがったぽ!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


515 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:46:29.64 0


バァンッ!!!!!!

「渡引ッ!!!おまええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!」


教室のドアを乱暴に開けると、彼女は早々に渡引智美につかみ掛かった!!
後藤真希の並々ならぬ気迫に、ざわついていた教室は氷水で冷やしたかのように
一瞬で静かになる。

「ちょっとちょっと、いきなり何すんのよ『ゴマキ』」

「てめぇッよくもヌケヌケと飯なんか食ってられんな!!能力を解除しろ!!
今すぐにだッ!!!」


まわりの人間には、おそらく彼女が喋っていることは到底理解できないであろう。
ただ一人、渡引智美を除いて。


「何で私がそんな指図受けなきゃなんないんだ?ン??」

渡引智美は小声で、しかしバカにした口調で後藤真希を挑発する。
お前なんかがキレたって怖くもない…そんな感じだ。
その表情や口調が、また後藤真希の怒りに油を注いだ。


516 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:47:39.96 0


「てめぇ…ぶっ殺し…」

ぶっ殺してやる!!
ゴシップ・セクシーGUYッ!!!!!

言いかけて、彼女はその言葉を呑んだ。
なぜ、後藤真希はスタンドを出すのをやめたのだろうか?
教室には人がたくさんいるから?
いや違うッ!!!
彼女は葛藤していたのだ。

いま、ここで…コイツをぶちのめすためにスタンドを出したら・・・・・・
演劇部にいた頃と何もかわりゃしないじゃあないか・・・・

ごとーは・・・・・・ごとーは平凡な高校生活を送ろうとしてるんじゃあなかったか?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


517 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:49:57.19 0


「ちょっと、渡引さんからその小便くせー手を離しなさいよ」


突然、一人で弁当を食べていたクラスメイトが言った。
そのクラスメイトは普段から大人しい生徒であり、小便などという台詞を
吐くような人には見えなかったのだが…


「そうだよ『後藤』、いきなりつっかかってきてうるせーんだよ。こっちまで唾とんできたし」
「マジ、ご飯まずくなるんですけど」
「つーか『後藤』ってあんなうぜーキャラだったんだな」
「な、女のヒステリーとか手に負えないぜ…」


静かだった教室が、後藤真希の批難で溢れかえる。
それも、直接ぶつけてくるものから影でボソボソッというものまで多彩だ。
だが何よりもショックだったのは、昨日まで『ごっちん』と呼んでくれていた
クラスのみんなが名字だけの呼び捨てになってしまっていたことだった。
ごとー…けっこう頑張ったんだけどな・・・・・・
しかし、感のいい後藤真希は同時に奇妙な現象にも気付く。

みんな、ごとーに何かイチャモンつけた瞬間やけに気持ち良さそうな顔してるぽ…
なにか『出し切った』ような…そんな感じの・・・・・・・


518 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 03:53:10.77 0


「惨めだね『ゴマキ』ィ・・・・・それにしても、ホント自分に素直な子たちばっかだなぁ…ふふっ」


渡引智美は嬉しそうに呟いた。

「後藤ッ!!いつまで智美ちゃんにつかみかかってんだよ!!」
「早く巣に帰れッ!!!」

「まぁまぁ、みんな、落ち着いて」

批難轟々の生徒達をなだめるのは、意外にも渡引智美であった。
なんだこいつは…後藤真希は不思議に思う。
何がしたいのかわからない。

「渡引さんッ!!それでいいの!!?」
「許しちゃダメだよ!!!」

「い・い・か・ら!!彼女は私に用があって来たのよ。どれ『ゴマキ』、
じぃ〜ッくり話を聞いてあげるから…おもてに出なよ」

「んぁ…」

渡引智美は後藤真希の手を振り払うと、彼女の肩に手をポンと乗せ、
後藤真希にだけ聞こえるように、こう囁いた。


「私の『サクラリッジ・フラワーズ』について…しっかりと説明してやっからさぁ…」


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…




538 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:32:03.32 0


後藤真希は自分を落ち着かせて考えていた。
今、こうして渡引智美に着いて行き校舎の裏に向かっているわけだが…
おもてに出なよとは…つまり、ヤツは自分と戦闘をする気なのだ。
スタンドについて説明してやるというのは、そういうことに違いないのだ!!
しかしどうする…スタンドは…スタンドだけは使いたくない…
校舎の裏につくと、渡引智美はベンチに座って立っている後藤真希を眺めた。

「唯一の誤算は…」

「んぁ…」

「そう、唯一の誤算は藤本と松浦の二人だったな…まさか、私の
『サクラリッジ・フラワーズ』に抗うことが出来るとは…どれだけ強靭な
精神力を持っているんだか…最も、それは身を滅ぼす行為ではあるけれど」

「きみ、何を言ってるんだ?言っとくけど、そんな戯言を聞いてやってるほど
ごとーは気長じゃあないんッスよ…能力を解除しろ!!…ただそれだけだぽ」

「この田吾作が…まだ説明は途中なんだよ。ゴマキィ、お前…生物の
授業は得意か?そうだな、花で例えるとすると…花には雄しべと雌しべが
ある。花とは雄しべに付着している粉、まぁ花粉って言えばわかりやすいかねぇ」


渡引智美は、説明しながら自らの右肩を左手で覆い撫でた。
すると…


パッシュン!!!




539 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:35:03.62 0

ヤツの右肩に、全身が薄緑色の頭から細い触手を何本も生やした
スタンドが出現したではないか!!
これが渡引智美のスタンド!!
まるで猿のように彼女の肩につかまっている。

「『サクラリッジ・フラワーズ』!!教えてやるよッ!!!雄しべに付着している
花粉が雌しべに接触することによって受粉!!花を咲かせるわけだけど、私のスタンドは
まさに雄しべのスタンド!!人の心という雌しべに受粉して花を咲かせる能力よ!!!」

『マギィッ』

そう言って、渡引智美は満悦の表情になる。
だが、その花を咲かせる能力が藤本美貴たちに何の影響を与えているのか。
知りたいのはそこだ。

「ふふ…理解していなさそうな顔をしてるなぁ。私はね、受粉させてやったんだよ。
今朝おまえの髪の毛を一本失敬して!!お前の髪の毛から花粉を生成したのだッ!!
クラスの全員に受粉させたその花はッ!!お前に対する負の感情で成長していくのさ!」

「な、なにッ!!!」

「最も、あんたに対して負の感情を吐き出してしまえば花は栄養源を失い、
次第に枯れていくだけなんだけどね。逆に、抗い続ければ花はグングン成長して
そいつはただの絞りカスになっていくってわけだ」

後藤真希は驚いた。
それは渡引智美の能力にでも、その気迫にでもない。
ヤツは藤本美貴と松浦亜弥の他にも、なんとクラスの全員にも受粉させたと言ったのだ。
渡引智美の言う受粉とは、スタンド攻撃をしかけたということなのだ!!!
だから…だからみんなの態度が変わったというわけか!!
ごとーを罵倒することで、負の感情を吐き出しているんだ!!!


540 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:36:29.50 0


しかし、この女・・・・・・いったいなんのためにそんなマネを!?

聞かずとも、渡引智美は述べ始める。


「・・・・・・あんたは惨めな思いをしなきゃあなんねーのさ。有名人ぶったクズが。
けど演劇部をやめた今、あんたは歯糞にも満たないカスなんだよ…オメーには
二次落ちした私以上に惨めな思いをしてもらわにゃあ、気がおさまんねーんだ」


「ま、まさかきみ・・・・・そんな下らない理由のために・・・・・?」


「ゴマキ!!あんたからはまず友人たちを取り上げるッ!!!孤独は人間を
カラッポにするからねぇ!!あんたを無気力なフヌケにしてやるのさ!!
そして次第にあんたからすべてのものを取り上げ、この学校から追い出してやるよ!!」



バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!


541 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:38:00.66 0

もし、演劇部にいた頃までの後藤真希なら…ここでスタンドを発現させ、
彼女に切りかかっていただろう。
いや…この状況は、演劇部の頃では有り得ないものか。
なぜなら、誰かを守り抜きたいと思ったことがほとんどなかったからだ。
守りたいものは、みんな自分と同じで『能力者』だったから当然だ。
そして、誰かが傷ついたときにはもう遅いのだ。
後藤真希の脳裏に、あの日の惨劇がフラッシュバックする。
ボロボロになった市井紗耶香の目も当てられぬ姿を思い出す!!
そして、自分が起こした竜巻に飲み込まれた敵や味方…友達の断末魔の悲鳴!!!
思い出しただけで狂ってしまいそうだ。
あんな無力感はもうごめんだ…しかし!!
この悪魔のような力を発現させることもしたくない!それでは何も変わらないのだ!!
だが、渡引智美はいくら口で言ってもスタンドを解除するようにも見えない。
そうなると・・・・・もはや彼女が行える行為はただ一つだった・・・・・

「・・・・・・ム?」

渡引智美は、後藤真希の行動を怪訝そうに見ていた。
唐突だったので、一瞬呆気に取られたが・・・・
なんてことない・・・・後藤真希は・・・・・

私に土下座しているのだ!!!!


「お願いだぽ・・・・・ミキティに亜弥ちゃん・・・・・それにみんなに仕掛けた
スタンド攻撃を解除してほしい・・・・・」

後藤真希は震える声で言った。


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


542 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:42:17.25 0


言いながら、後藤真希は唇を噛み締める。
このごとーが・・・・・・・こんなクソッタレの味噌煮込み女に頭を下げているなんて・・・
彼女は怒りに震えていたのだ。
だが、他に方法はなかった。みんなを、ミキティや亜弥ちゃんを助けるには
自分が犠牲になるしかない…そう思ったのだ。
スタンドは決して使わない。
スタンドを使うこと…それは真の意味での解決策ではないからだ!!!
第一コイツなんぞのために、信念を曲げてまでしてスタンドを使うのがアホらしい。

「お、面白いっ!!ベリィィィィ…ッ!!インタレスティグってヤツだよおい!!!
元演劇部の後藤真希が土下座だもんなぁ!?こりゃあ笑わずにはいられねーよのぉ!?
えぇッ!!?おいおいwww」

渡引智美はご機嫌な声をあげて手を叩いている。
恐らく、最高にハイってヤツなのだろう。

「いやぁ〜…『スタンドがなくなった』ヤツってのがこうも無力になるとは…
私が手を下すまでもなく、あんたはフヌケ街道まっしぐらだったってわけだ☆」

スタンドがなくなった?
どうやら何か勘違いしているようだが、スタンドを使わないと自分に誓っている以上、
似たようなもんか・・・・・・と、後藤真希は考えた。

「そんなに私の『サクラリッジ・F』を解除して欲しいかよ・・・w」

嬉々とした声で言いながら、渡引智美はつま先で土下座している
後藤真希の顔を持ち上げた。
彼女を見下ろす渡引智美の目は、侮辱と優越感に浸っている。


543 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/04(土) 12:43:34.81 0


「いいよいいよ・・・・私だってそぉんなにイジワルじゃあないからねぇ〜♪
それじゃあまず、ルーズについた埃でも取ってもらおうか…そしたら考えてもいい」

なるほど、解除してやるかわりに面白おかしくコキ使ってやろうってわけか…
だが面倒な話だ。他人を屈服させて喜ぶようなやつは、味をしめると調子に乗って
なかなかそれをやめようとしなくなる。
しかし…今は従うしかない。これもクラスのみんな、それにミキティと
亜弥ちゃんをコイツの呪縛から解放するためなのだから。
後藤真希は、渡引智美に言われたとおり彼女のルーズソックスの埃を
取ろうとするが・・・・・・

「んぁ?埃なんてどこにもついてな・・・・・」


ドゲシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!


「ぉぶげえぇッ!!!」

突然、顔面に鈍痛を覚え一瞬だけ視界が真っ暗になったのだ。
目の前には、石が転がっている・・・・・・その理由は一瞬で理解できた。
渡引智美が、ルーズソックスを覗き込んだ後藤真希の顔面を容赦なく横蹴りしたのだ。



「ほら、今ので砂埃がついただろう?それを綺麗にするんだよ、ゴマキィ」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



9 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:16:52.08 0


二人の女子生徒が廊下を闊歩している。
前を歩いている生徒は頭髪こそ黒いが、その表情は何かいいことでもあったのか
輝くほど明るく、逆に後ろを歩いている生徒は金色の頭髪と反比例するかのごとく
表情は暗い・・・・・・いや、それは語弊であった…恐らくクールなのであろう。
二人はどこへ向かうつもりもなく、昼休みの校舎を徘徊していた。

「おいゴマキ、背中がかゆい。かけ」

「・・・・・・・・・・」

廊下の真ん中で黒髪の生徒、渡引智美は後藤真希に命令した。
後藤真希は、ただジッと渡引智美を睨んでいる。

「おい、オメー耳つんぼかよ。私の背中をかけ、そしたら能力を解除してやる
気になるかもよぉ?」

嘘だ。
さっきから命令ばかりしては同じようなことを言ってくるが、
いっこうに能力を解除する気配はないじゃないか。
初めッから能力を解除する気なんてないくせに…
後藤真希は頭に血が登っていくのを感じた。
だが、逆らうこともできない。
おお・・・・・・なんともどかしいのであろう!!!


ポリポリポリ・・・・・


後藤真希は、無言で渡引智美の背中をかいてやった。


10 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:18:53.09 0


「ンッン〜そこそこ…もうちょい左・・・・・」

渡引智美は悦な声を出す。
いつまでコイツの下僕みたいなことをやってなきゃいけないのだろう…
そう思うと、こんなことをしている無力な自分に腹立たしさが込み上げてくる。
いや・・・・・・無力などということは決してないのだ。
できることなら、このまま一思いにスタンドの槍でズバズバ背中をかいてやりたい。

肩胛骨をブチ割って!!
上半身を腰寛骨まで鰺の開きのようにカッ裂いてやりたい!!!!

だが、それは出来ないことなのだ。
使わないと心に決めたのだから。
今は、コイツの言いなりになっているしかないか…ムカッ腹は立つが、
そうすることによってミキティや亜弥ちゃん、それにクラスのみんなが
今以上にひどい事にならなくて済む。
後藤真希は無心になったつもりで、渡引智美の背中をかいていた。

ポリポリポリポリポリ・・・・・ボリッ・・・・・

背中に爪を立ててしまった。
あまりにイライラしたのでワザとやってやったのだ。
こんな屈辱を受けて、無心になどなれるわけがない。
だがその瞬間。

ドガァッ!!!!
「はぶッ!!」

渡引智美は振り向きざまにエルボーを放ってきた。
勢いのついたヒジは、後藤真希の右のコメカミをもろにとらえる。


11 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:21:39.52 0


「オメー、爪立ててんじゃないよ。今のはお返しだからな・・・・・・」

「て、メ・・・・・・ッ」


ジンと痛むコメカミを押さえ、後藤真希は渡引智美をキッと睨んだ。
いい加減、手を出してしまいたくなってくる・・・・・・握った拳が震える!!!


「お?おぉ??ずいぶんとご立腹のようだねぇゴマキ。でもよ、やられたら
やり返すってぇのは『女の世界』じゃあ基本だよなぁ〜?ま、我慢出来ないようなら
手を出しても構わないけど?ホレ、顔殴って見る??それともお腹かな?」

「渡引・・・・・・ッ!!!」

「渡引サマ、だろッ!!!!」


ドボォッ!!!!!!!

「ぇぐッ!!!!」


腹に拳骨をもらった後藤真希は、苦悶の表情を見せた。
二人を通り過ぎていく生徒が、何事かと振り返っていく。


12 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:22:38.72 0


「テメーのせいで廊下にいるヤツらが私達を見てるじゃねぇかよゴマキ。
やり返す度胸がねーんだったら初めからこの私を睨むんじゃあないよ。もっとも、
やり返したところで藤本達のドサンピンがどうなるかは知らないけどねぇ〜♪」

「う、う・・・・・・」

「イライラを溜め込むってツライだろう?藤本や松浦もあんたに相当イライラしてる
ハズなんだ…私の能力にかかってるんだからねぇ。でも、仲良しの二人と同じ気分に
なれるなんて良かったじゃん。花が咲かないだけアンタの方が体調はラクだけどね」


こ、この性根が腐れきった女・・・・・・ッ!!!
こんなヤツのスタンド攻撃をみんなは受けているのか?早く…早くこの腐った
性根のスタンドを植えつけられたミキティたちをラクにしてやりたい!!!

しかし・・・渡引の能力がミキティ達に『ごとーをイライラさせている』ものだと言うなら…
あの二人は、どうしてイライラしてるのにごとーに笑いかけてくれていたんだろう・・・



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


13 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:25:06.74 0


それからも、後藤真希は悲惨な目にあっていた。
階段で「ソリになれ」と言われたら、その場で横になり、渡引智美を乗せて三階から
一階までソリになって何度も床に頭をぶつけ、便器が詰まってると言われたら
何も詰まっていない便器の水の奥深くまで手を突っ込まされ、頭を足で踏みにじられた。

もはや心も身体もボロボロだ。

これが、以前演劇部の舞台で眩いばかりのオーラを見せ付けていた
学園のアイドルの姿なのか。
後藤真希は、休む暇もなくプライドに傷をつけられまくっていた。

制服のスカートについた埃を払っていると、渡引智美はまた後藤真希に
くだらない指示を出し始める。


「お、あそこにいんのは…上級生の倖田來未だな。そーいやさっき生徒ホールでも
チラッと見かけたが・・・アイツ、学園のマドンナって呼ばれてるそうじゃあねーか。なぁ?」

「んぁ・・・・・」

「ふ〜ん…確かにダイナマイトボディじゃんか。通り過ぎる男子が振り返ってるよ。
あんなブタゴリラのなにがいいんだか…気にくわない、調子に乗ってるな」


そう言いながら、渡引智美は右手の親指の爪を噛んだ。
ブタゴリラかぁ・・・・・・後藤真希にはただの僻みにしか聞こえなかった。
そして、調子に乗っているのはきみの方だ…そう思った。


14 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:29:13.49 0


「おいゴマキ、アイツのあのフザけた制服を引っぺがして来い」

「んぁ?」

「んぁ、じゃあねーんだよボケッ!!身ぐるみを剥いでこいって言ってんだよ。
被剥ぎってやつサ。廊下のど真ん中で素っ裸になる学園のマドンナ…見モノだねぇw」

「身ぐるみ剥ぐって言ったって、抵抗されるに決まってるぽ」

「後ろから不意打ちかけりゃあいいだろうがァ〜ダボがッ!!あの露出度の
高い制服だ!!後ろから首根っこふんづかまえて引きおろしゃあいいんだよ!!」

「わ、わかったぽ・・・・・・」

後藤真希は言われるがままに、廊下を静かに、だがド派手に歩く倖田來未に
近付いていく。その背中が近くなるにつれ、後藤真希の心の躊躇は大きくなっていった。

この子は・・・・・ごとーをライバル視して、いつもギラギラと付け狙ってくるウザい子だ。
けど、ライバル視をするという事は、相手をどこかで敬っているということ!!
この子はごとーをそういう目で見ているところがあるハズなんだ。
そして、負けても負けても立ち向かってくる來未ちゃんには目を見張るものがある!!
そんな相手に、こんな無礼なマネをするのか・・・・・ごとーは。
ハッキリ言って、弱い人間のすることだぽ・・・・・
渡引に屈服してしまっているごとーは、間違いなく心の弱い人間である証拠…でもッ!!!!
やらなきゃやられるッ!!
ミキティや亜弥ちゃんが、渡引の味噌クソのせいで苦しむハメになるんだ!!!

來未ちゃん、ごとーの無礼・・・・・・許してくれッ!!!!!


15 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/05(日) 09:30:34.07 0


後藤真希は、その右手を高らかに振りかぶって・・・・・



ガオン!!!!!パシィッ!!!!!!!!!!



「・・・・・・・・・・・・ッ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


後藤真希の右手は倖田來未の制服を引っつかむことなく、倖田來未の
左手によってつかまれていた。
振り向かずして迫りくる手をつかんでみせるとは・・・・・!!!!


「風の気配が変わったかと思えば・・・・・後藤真希じゃないの。あんたともあろう
女が、このあたしの背後からいったい・・・・・?」



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・



82 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 06:59:34.52 0


「ちッ、しくじりやがって・・・・シマンネ」

渡引智美は、廊下の角から静かに舌打ちをした。


一方、後藤真希と倖田來未は無言で見つめあっている。
背後から音もなく迫っていた自分の存在を、倖田來未は風で感じ取っていたようだ。
風で気配を感じ取る・・・・むかしのごとーのようなマネをしてみせるとは・・・
倖田來未か。この子は間違いなく、日に日に力をつけているらしいな。
この奇妙な成長性、いつか脅威になる日が来るんじゃないだろうか。
後藤真希は、直感でそう感じた。
だが、今はそんなことに関心している状況ではない。
とりあえず彼女は倖田來未の手を乱暴に振り払っておいた。
さて・・・・・どうしたらいいんだろう・・・・・・
答えが見つからない後藤真希は、倖田來未を見つめることしか出来ない。
二人のあいだに沈黙が生まれた・・・・・・


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


83 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:01:30.21 0


「・・・・・・・・今日のアンタはとても奇妙だわ」

沈黙を破ったのは倖田來未であった。
訝しげな表情で、後藤真希を見ている。

「生徒ホールにいた時も思ったけど・・・・・何か焦っているような」

「んぁ…?」

「その『もうどうしたらいいんだかわかんないぽ』って言いたげな表情も
ルーザー(負け犬)そのものね。いつからそんなフヌケになったのさ、アンタ」

倖田來未は冷たく吐き捨てた。
その目は、まるで汚物を見ているようにも見える。
ルーザー・・・・・・負け犬・・・・・それがとてつもなく悔しいッ!!
言われたから悔しいのではない・・・・・そう思われたことが悔しいのだ!!!

「ごとーは・・・・・・負け犬なんかじゃあねぇッ!!!」

「必死な顔してなに言ってんだオメー?アンタがそこまでにムキになるなんて、
何かそれほどのことがあったっての?目も泳いでるしよォ〜…」


くそ・・・・・くそッくそッくそッくそッ!!!!!!
後藤真希は心の中で何度も毒づきながら、下唇を噛んだ。
來未ちゃんの目をまともに見れないだと!?
このごとーが・・・・・ッ!!!!!



84 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:02:31.59 0


「ゴマキ、行くよ」


悔しさでいっぱいになり立ち尽くす後藤真希の腕を、廊下の角から姿を現した
渡引智美が無理やり引っ張り歩かせる。
後藤真希の腕をつかむその手には、必要以上の力が入っていた。

「おい後藤真希ッ!」

倖田來未が彼女の背中に呼びかけるが、後藤真希は答えることも
振り返ることもしなかった。
情けない・・・・・情けなさすぎるッ!!!!!
後藤真希の心は、悔しさと弱い自分に対する腹立たしさでいっぱいになっていた。

そして、渡引智美に対する怒りもピークに達しようとしていた・・・・


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


85 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:04:15.76 0


屋上に連れてこられた後藤真希は、ドアを出た途端に背中を
足蹴にされて派手に転んでしまった。


ドシャアアアアアアアアアアッ!!!

「いて」


「ったく失敗しやがって!!今ので私はとぉぉぉ〜…ッても気分を害した!!
お前が私の気持ちをこの青空のように晴れ渡らせるまで決して能力は解除して
やんねェーんだからな!?わかってんのかねぇ、ゴマキさんよぉ!!!」

能力を解除する気なんて毛頭ないくせに。
後藤真希は静かに立ち上がると、渡引智美の言う事に反応もせず、制服の埃を
払うこともしないで、内ポケットから生徒手帳を取り出した。

カリカリ

どうやら何かを書き込んでいるようだ。
そのわけのわからない行為が、再び渡引智美をイライラさせる。

「てめー私の話をシカトしてんじゃないよぉぉッ!!何を書き込んでんだ!?」

渡引智美は後藤真希の手から生徒手帳を引っ手繰ると、その文面に
目を落とした。
そこには・・・・・・・



86 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:05:32.74 0


『顔を蹴飛ばされた』

『靴下についた砂埃を叩かさせた』

『背中をかかされた』

『顔に肘鉄された』

『腹にパンチされた』

『ソリにされて上に乗られた』

『そのせいで3回あたまをぶつけた』

『便器に手を突っ込まされ、頭を踏みにじられた』

『腕を強くつかまれた』

『背中を蹴られて転ばされた』



87 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:06:27.92 0


「ゴマキィ・・・・・なんだこれはよぉ・・・・・・」


「んぁ・・・・・・きみにかしてるツケさ。必ず払ってもらうぽ・・・・・・ごとーは
忘れっぽいからね・・・・・メモってたんだよ・・・・・」


後藤真希は静かな声でそう言うと、

パンッ!!!!

と、平手で殴られ、青空を向いた。


88 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:08:32.47 0


「スタンドもなくなったカスのくせに・・・生意気なヤツ・・・・ッ!!」

渡引智美が逆上している。
ささやかな抵抗を見せてみるものの、どうしたものであろうか。
渡引智美のように、人の弱みに付け込み他人を屈服させて喜んでいるような輩は
相手をコケおろしてもいい『境界線』を知らない。
こういうヤツには、いずれ巡り巡ってその制裁が下るのだろう。
因果応報というやつだ。
だが、今の後藤真希には自らが制裁を下す手段はない。
スタンドを使わない以上、スタンド使いの渡引智美を思い知らせることはできないのだ。

ふと、渡引智美が裏庭の方を見下ろして言った。


「あッ!!藤本に松浦!?なんで私の能力を逃れて二人で飯食ってんだッ!!?」

「えッ!!!!?」


ミキティと亜弥ちゃんが・・・・?
起きれなくなっていた二人がお昼ご飯を食べているだって!!?
もしかして、コイツのスタンドの射程距離の外に出たのか!?
射程距離外・・・・・その可能性はじゅうぶんにあるッ!!!!
後藤真希は、二人の姿を確認するために屋上の手すりから軽く身を乗り出す。



89 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:09:22.09 0



ドンッ!!!!!!!!!




「・・・・・・ぽ?」


彼女の足が、屋上から離れた。
まるで鉄棒で前まわりをするような感覚に陥る。
重心は乗り出した上半身に傾き、そして・・・・



「んぁあああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」



後藤真希は、屋上から身を投げ出した形となった!!!



ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンン!!!!!!


90 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:11:49.63 0


ガシィッ!!!

だが、すんでのところで右手で手すりにつかまり、自由落下を防ぐ。
我ながらすごい反射神経だ・・・・・そう思った。

「ぐぅ・・・ッ!!」

しかしこの体勢はつらい・・・・・何せ、右手一本で自分の全体重を支えているのだから。
そういえば前に見た映画でこんなシーンがあったな。
クリフハンガーだっけ?内容こそよく覚えていないが、女の人がヘリだかなんかから
落っこちそうになり、助けも虚しく山脈に落下していってしまうシーンだけは
なぜか鮮明に覚えている。
チラリと下を見ると、吸い込まれるような地面が後藤真希の落下を待ち受けていた。
もちろん、藤本美貴や松浦亜弥の姿はどこにもなかった。

「だ、騙したな・・・・・渡引ィッ!!!!!」

「ふん、こんなわかりやすい嘘にハマッたアンタがマヌケなんだよ!!!
おいおいおい、ブラブラしてるだけじゃあ私はなんも面白くないんですけど?」

ガンッ!!!
「ぎゃあッ!!!!」

なんと渡引智美は、後藤真希の唯一の命綱である彼女の右手の指に膝蹴りを入れたのだ!
耐え難い苦痛が後藤真希を襲う。

「心配すんなってぇ〜・・・・・・この世には9階から落ちても死ななかったヤツとか
いたりするんだからさぁ・・・・・」


91 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:13:32.83 0


ゴンッ!!!!!
「あぐぅッ!!!!!」

これはやばすぎるッ!!
ほとんど気力だけでつかんでいるようなものだ。
だが、その華奢な指は渡引智美の膝蹴りにより何度も何度も痛めつけられる。


ガン!!ゲンッ!!ゴン!!!ガンッ!!!

「あぎゃああああああああああッ!!!!!!!」


次第に指は腫れ上がっていき、爪は割れ、内出血を起こし、さらに傷つき、
ついにはポタリ、ポタリと爪の先から血が滴り始めた。


ズル・・・ズル・・・・・


そして、なんということであろうか。
流れ出た血が潤滑油となって、手がすべり始めてきたのである!!!

「ち、血ィ・・・・・・?バカなッ!!」

そんな後藤真希を待ち望んでいたように、渡引智美は嬉しそうな顔になっていく。
ど、どこまで歪んだヤツなんだ!?
コイツの妬みや僻み・・・・・尋常じゃあない!!
なんて・・・なんて毒々しい花を心に咲かせたヤツなんだッ!!!


92 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:14:16.76 0


「いい加減、飽きてきたよ〜ゴマキィ」


グシャ!!!ズルン・・・・・


「んぁ・・・・・」


そのとき、後藤真希はこの間の化学の授業を思い出していた。
ニュートンは、リンゴが木から落ちるのを見て万有引力に気がついたらしい。
ごとーは、自分が落ちていくのを感じて地球に引力があることを実感するわけだけど・・・


93 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:15:01.82 0




ドヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!!!!!






94 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/06(月) 07:18:52.91 0

その時、強い風が吹いた。
風。
風は風でも、後藤真希の風とはまた違う、風。
引力に逆らい持ち上げられた後藤真希の身体はグンと宙に浮かび上がると、
その加速した世界に呑まれ、まっさかさまに屋上の床に叩きつけられる。
そして、その時見えた。
あれは・・・・あの大きくて鮮やかな青い羽のスタンドは・・・・・


「まったく、素直じゃないのねぇ・・・・・助けて欲しいんなら、誰かに
『助けて』って言えばいいじゃないの。あんたを助けてくれるよーなヤツなんて、
いくらでもいるんじゃあないの?演劇部とかによぉ〜…」

「だ、誰だッ!こ、これは・・・飛んでいるスタンド!?」


渡引智美が叫ぶ。
スタンドが飛んでいく方向を目を追いかけると、屋上の出入り口に行き着いた。
後藤真希は知っている!!
ダイナマイトなボディの背中にしがみ付いた青い大きな羽を持ったスタンドと、
その本体を知っているッ!!
スタンドを背中につかまらせた彼女の姿は、まるで人の姿をした妖蝶だった。


「アンタをぶっとばすために鍛えた能力でアンタを助けることになるとは・・・・・・
なんなのよいったい、皮肉すぎるわ。こんな、現実には眩暈さえする・・・・」

「倖田・・・・來未・・・・ちゃん」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!




146 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:25:32.57 0

「な、なんだ・・・・・・?2年生の倖田來未がなぜゴマキを助ける・・・・
しかもスタンド使いだったなんて・・・・・ッ」

渡引智美は、目の前に現れた新手のスタンド使いにうろたえた。
優勢の地位に立っていたハズの彼女の足場に、ヒビが入り始める。
彼女の焦り方は、尋常ではなかった。
明らかに、キョドッている。
スタンド使いであるなら、もっとドッシリ構えてもいいのではないか・・・・・・?
ただ、それは彼女の能力では難しい話であった。

「見たところスタンド戦をしてたワケでもなし・・・・・・でもそいつが
スタンド使いなのは知ってる。生徒ホールで見たからね、花のスタンドをよぉ」

「う・・・・ぬぬ・・・ッ!!さ、サクラリッジ・フラワーズ!!!!」
「バタフライ!!!!」

ドビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!

渡引智美の右肩に雄しべのスタンドが発現するが、倖田來未のスタンドの方が
その動きは何倍も早い。
彼女の背中にいるスタンド『バタフライ』が、その羽を揺らめかすようにして
羽ばたくと、風が巻き起こった。
いや、巻き起こっているように見えるのだ。
実際は、屋上に吹いている風をスタンドが羽ばたき起こした風にのせて、
風自身を加速させているのだ!!だから風が巻き起こったように見えるッ!!!

「うげぇッ!!風がァーッ!!!!」

倖田來未が起こした(ように見える)風は、渡引智美を正面から襲う。
だが、同時に倖田來未はある仕掛けを施していた。
渡引智美の表情が、みるみるうちに歪んでいく。


147 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:28:23.48 0

「な、なんだこれは・・・・・・息が・・・・く、苦しいッ!!!!!!」

なんと、呼吸困難に陥り始めたのだ!!
羽ばたく際、押し出す羽は風を加速させ正面からヤツを襲い、戻る羽は風を引き戻し
渡引智美の左右に真空状態を作り出す!!

「ジュエル・エアー・ロック!!理科の授業をヒントに開発した技、アンタで
試してみたが・・・・う〜ん、あたしの能力じゃあやっぱ難しいか。真空状態を
作るのがしんどいわ…真空状態を容易に生み出す能力があれば・・・・・・」

「あ・・・・・がおぉぉ・・・・・・・っ!!!」

「まぁそれでも苦しんでるようね。後藤、アンタこんな弱っちいヤツに
追い詰められてたの?フヌケにもほどがあるわ」

後藤真希は彼女の暴言を無視したが・・・・・・
この風の使い方、また倖田來未は成長したのだと思わざるを得なかった。
まぁこの程度では、まだまだ闘ったところで負けるどころか追い詰められるのではという
気も全然しないが(そもそも戦闘する気がない)、彼女の『成長性』ってヤツに
関しては素直に認めよう。
そして倖田來未の風により追い詰められた渡引智美は、埋めることの出来ない
力の差に観念したのか、心が負けを認めたのか、苦しみながら
とうとうスタンドを解除してしまった。

パッシュウゥゥン・・・・・・・・・・

それに気がついた倖田來未は、もう攻撃の意思もないだろうと判断し・・・・・
ジュエル・エアー・ロックを解除したのだった。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!


148 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:30:14.19 0


「ハ、ハヒョー・・・・ハヒョー・・・ッ!!!!」

渡引智美は必死に呼吸し酸素を体内に取り入れる。
自分の限界以上に水中に潜っていて、ようやく陸に上がれた…そんな気分だった。
そんな彼女を気にもとめず、倖田來未は地面に手をついている後藤真希に向き直る。

「後藤よぉ、別にアンタがあたし以外の誰かに攻撃されようが、やられちまおうが、
そんなことはあたしにゃあ関係ないのよ。あんたにはくたばって欲しいからね。
だけど・・・・・あたしより弱いヤツにやられるってなぁ〜どういうこった!?
あたしはそこにムカッ腹が立つ!!!!」

「んぁ・・・・・・・ッ!!!」

「とぼけた返事してんじゃね・・・・・」


ファサッ・・・・・ファサッ・・・・・・


いいかけて、倖田來未は身の回りの以上に気付く。
何かが身体に付着した。
これは・・・・粉?金色の・・・・・

後藤真希は、とぼけた返事をしようとしたワケではなかったのだ。
倖田來未のムチムチした足のあいだから、再びスタンドを発現させ
その頭を振らせている渡引智美に気がついたのである・・・・・


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


149 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:31:50.92 0


「倖田・・・・・てめぇ私を侮辱したなぁ・・・・・弱っちいヤツだと言ったなぁ・・・・?
確かに私のスタンドは弱い・・・・力もなけりゃ動きも遅い・・・・だがな、能力はあんのよ」

「これは・・・・粉?おまえ・・・・・あたしに何をしてんだ・・・・?」

「私のスタンドはバトル向きじゃあねー、それだけなのさ。そんな私を相手に
弱いだって?てめー蟻とか踏み潰して喜んでる人間だろ?あン??」

「なにを言っているの?」

「私は腕っ節で喜ぶ人間じゃあねーのさ!!倖田ッ!!!お前は力の弱い
私を力で侮辱したッ!!!だからその力を私が有効活用させてやんよ!!!!
この私の能力でなぁ!!!!」

「ハァ?さっきから言ってることが支離滅裂よ、アンタ」

「何を言ってももう遅いねッ!!お前に後藤真希の髪の毛から生成した『花粉』を
受粉させてやった!!!ゴマキを助けたその力で、お前はゴマキを殺すんだァ〜ッ!!!
見よ!!花は咲き乱れるッ」


渡引智美は、勝ち誇ったように叫んだ。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!


150 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:34:53.81 0


そんな風にして喜んでいる渡引智美を見て、後藤真希の怒りはピークに達した。
こいつだけは許せないと。
そして、もう二度とそんな口が聞けないようにしてやる・・・・そう思った。
だがその前に、目の前にいる倖田來未が脅威となりそうだ。
恐らく、彼女は自分にイライラし始めている。
クラスのみんなはごとーに対する暴言で花を咲かせないようにすることは
出来たようだが・・・・・目の前にいるブリブリのねーちゃんはスタンド使いだ。
その力で、自分を攻撃してくるだろう。
スタンドを使えば5秒とかからず倖田來未を黙らせることはできるが、
成長した彼女を『スタンドを使わずに』かわせるか・・・・・かなりの難題であった。

「ほらほらッ!!ゴマキにイライラしてきたころだろうッ!?私の能力は
本物だからな!!!ほれほれ!!!無理してると花が咲いてアンタがつらくなるよ!?
ホラホラホラホラホラァァッ!!!!!!」

渡引智美が喜々として叫んでいる。
もはやここまでか・・・・倖田來未は自分の足元にも及ばないであろうが、
どう考えてみてもスタンドを使わずかわせるようなタイプの能力じゃあない。
この前みたく自滅してくれればいいが、今の彼女を見る限りそれはなさそうだ。
チッ・・・・・使いたくはなかったが・・・・・・

「ほらほら!!なにガマンしてンのサ倖田!!!さっさとゴマキをやった方が
ラクになるんだぜ〜ッ!!イッた時みて〜によぉぉぉぉぉッ!!!!!」



「・・・・・・アンタ、何を言ってるの」



151 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:35:32.99 0








「・・・・・・・・へ?」











152 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:36:50.45 0


渡引智美は固まった。
バカな、ありえない・・・・・・そんな顔をしていた。
だが彼女がそう思うのも無理はない。
なぜなら倖田來未は・・・・・・

「花ってコレ?ずいぶんバサバサだけど」

水気たっぷりの顔で、背中で枯れていたスタンドの花を毟ったのだ!!
握られた花は水気がなく、倖田來未の手の中で粉々になって風に吹かれてしまった。


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!



「な、なんでッ!!?あんたはまだゴマキに何もしてないし、言ってもない!!!
なぜゴマキにイライラしないッ!!?」

渡引智美は、動揺している。
無理もない、自信たっぷりに仕掛けてやった唯一の攻撃がアッサリと
効かずに終わったのだから。

「コイツにイライラ?じゅうぶんしてるわよ、後藤絡みでイライラしないことなんて
ないわね。コイツを倒して初めて!!あたしのイライラは解消され!!サクセスライフは
スタートされるんだ!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!!!


153 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:41:39.04 0

後藤真希は気がついた。
渡引智美のゲスな能力は、確かに倖田來未に発動したのであろう。
だが、元から彼女は後藤真希を敵視し、攻撃を仕掛けてくるような女だ。
今さらイライラしようがないのである。
すでにイライラしており、それをぶつけることには躊躇いもクソも感じてはいないのだ。
彼女の根底に眠っているムカつきは、ぶつけたい時にぶつけられるものなのだ。
だから能力は発動してもそこから花を咲かせることはできない。
イライラしていても普段からそれをためていないというわけだ。
つまり、倖田來未には渡引智美の能力は効かない!!

「あ、あ・・・・そんな・・・・私のサクラリッジ・フラワーズが効かないなんて・・・・」
「あなた、そろそろ『ウザい』わよ」

ビュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!

風が、彼女を煽った。
倖田來未はその風に乗り、自らを加速させて渡引智美に突っ込んでいく。

「ひ、ひイィィッ!!!!!!!!」
メメタァ!!!!!!!!!

加速して勢いのついた倖田來未の膝蹴りは渡引智美の顔面にヒットし、
彼女は気を失ってしまった。
こうして、スタンド能力は本当に解除されたのだ。
これで彼女の花粉によって受粉したクラスのみんな、そして藤本美貴と松浦亜弥は、
渡引智美の呪縛から解き放たれであろう・・・・・

「いい・・・・イイわよ。この調子なら、もっともっと輝けるわ・・・・バタフライ」


ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


154 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:45:19.07 0

すっかりのびてしまった渡引智美に背を向け、倖田來未は再び後藤真希に向き直る。

「と、いうわけで・・・・・・あたしは今非常に絶好調のようだわ。あんたをぶっとばさせて
もらってもいいかしら?フヌケのあんたに勝っても喜びは半分以下でしょうけどね」

倖田來未は、唐突に後藤真希に宣戦布告する。
だが後藤真希は何も答えず、ノソノソとこちらに歩いてくるだけだ。

「ちょ、アンタ。やる気があってこっち歩いてくんの?なんとか答えなさいよ。
無言で近付いてくるとか意味がわからな・・・・」

「まだ足りない・・・・・・」

「え?」

後藤真希は、そのまま倖田來未を素通りすると、倒れている渡引智美に近寄っていく。
まだ足りない・・・・・いったい何のことであろうか?
疑問に思う倖田來未に、後藤真希は渡引智美を見下ろしながら説明した。

「ホント、下らない(年上の)女だよ。倖田來未ちゃん、きみはわかってない」

「・・・・・・なんですって?」

「ちょっと年下のごとーにもこんなくらいわかるんだよ・・・・・本当の勝利っていうのは!」


グワシィッ!!!


突然、後藤真希は倒れている渡引智美の髪の毛を鷲づかみにした!!!
そして、髪の毛を引っ張り頭を持ち上げさせたのだ!!!


155 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:48:26.13 0


「ご、後藤・・・・・アンタなにを・・・・」


「いいかい!!本当の勝利っていうのは!!!!」


その時!!
髪の毛を引っつかみ持ち上げた顔を、後藤真希は容赦なく地面に叩きつけた!!!!



ゲシャアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!



「ふがあああああああああああああああああああッ!!!!!」


激痛で目を覚ました渡引智美の痛みに塗れた声が響き渡る。


「お、オメーなにやってんだあああああああああッ!!!!」

「相手を恐怖に陥れることなんだよ倖田來未!!二度と『コイツとは戦いたくない』って
思わせることが本当の勝利なんだ!!きみは全然なまっちょろいんだよ!!!!
そんなんでこのごとーとやろうって?このバカちんがあああああああッ!!!!!!」




156 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:49:46.35 0


ゲシャッ!!メシャッ!!!ガキッ!!!!


何度も何度も、つかんだ頭を地面に叩きつける。
彼女の額から鮮血が迸った。
激痛で目を覚ました渡引智美は、激痛によって再び気を失いそうになっていた。
後藤真希は、そこで叩きつける手を休める。


「んぁ・・・・・・なに気ィ失おうとしてんだよ・・・・・・テメーにはツケがあるんだぽ・・・・
しっかり払ってもらわないとね・・・・・・ごとーの分も、ミキティや亜弥ちゃんの分も・・・・」


そんな後藤真希を見て、倖田來未は戦慄を覚えた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


157 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:52:34.79 0

「侮辱・・・・・・きみはさっき侮辱って言葉を使ったなぁ〜?自分の弱いスタンドに
対して戦闘タイプのスタンドは侮辱だとかわけわかんね〜言い訳してたよなぁ!?」

「あ・・・・・・・ひっ・・・・・・・・」

後藤真希はドンと彼女の頭を乱暴に突き飛ばし、再び渡引智美を地面に転がすと、
その無防備な背中を力強く蹴り飛ばした!!!

バキィッ!!!!!!!
「ゲェッ!!!!!」

「テメーはスタンド持ってないみんなにスタンド攻撃かましたんだよなぁ!?
忘れたとは言わせねぇぽッ!!お前はッ!!一般人のミキティと亜弥ちゃんに
スタンド攻撃を仕掛けて!!二人を苦しめたんだッ!!!!!!」


グシャアッ!!!!!!
「おぅえッ!!!」


「お前はスタンドを持たないクラスのみんなを侮辱したんだ!!!!」


メキョ!!!
「が・・・・・」


「蹴り飛ばしたって殴り倒したってなんか足んない、なんか足んない!!!!
侮辱なんて出来ない魔法かけてやるぽ!!テメーの身体になぁ〜ッ!!!!!」

ドガッ!ドガッ!!ドガッ!!!ドガッ!!!


158 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 11:56:08.45 0


後藤真希は、もはや痛めつける場所もないくらいに渡引智美を蹴り潰した。
血まみれの彼女は、すでに気を失っている・・・・・が、後藤真希は一心不乱に
彼女を蹴り飛ばす。


ドキャッ!!メシッ!!!バキッ!!!グチャッ!!!!!!


「ご、後藤やめろ・・・・・・・そいつ死んじまうぞッ!!!」

「んぁ・・・・・・これでわかったかな。倖田來未・・・・これは教えだぽ。
勝利っていうのはね、相手の心をへし折って初めて勝利というんだ・・・・・
コイツと二度と戦いたくない、出会いたくないって思わせるのが本当の
勝利。きみにわかるかな?平然とごとーにケンカふっかけてくるきみは、
まだ真の意味でごとーに負かされたわけじゃあない・・・・・」

倖田來未はゴクリと唾を飲んだ。
あまりの惨さに、呼び捨てにされていることにも反応できない。
紺のハイソックスを血で濡らし、上履きを赤く染めた後藤真希の姿は
とても奇妙で、その目は獲物を捕らえた爬虫類を思わせた。

「手加減してやってたんだぽ。きみは強くなれる人間だ、スタンド使いとして
再起不能にするのは惜しいと思ってたのさ・・・・このクズと違ってね!!!」


グシャッ!!!!


そう言って、後藤真希は最後にもう一度だけ渡引智美を蹴り飛ばした。
渡引智美が後藤真希を目の敵にすることは、これから先、二度と決してないであろう。


159 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 12:02:13.29 0


「最も、もうごとーは滅多なことがない限りスタンドを使う気はないけどね」

「なんですって?使う気はない??」

「あくまで『滅多なことがない限り』だって。今日それを学んだよ。コイツに
いいようにされて思い知ったんだ。ごとーの友達を・・・ミキティや亜弥ちゃんを
傷つけようとするヤツには容赦しない。スタンドを私利私欲に使うような
耳クソ以下の脳ミソしか持ってないアホもだ。あ、実際このアホを倒したのは
きみだから、きみの名前も書いておくよ」


後藤真希は生徒手帳にサラサラとペンを走らせると、それをビッと破り
倒れている渡引智美に投げ捨てる。


「ツケの領収書だぽ。ま、腫れ上がったその顔じゃあ字も読めるかどうか
わかんないけど・・・・・これでごとーは前みたいに『笑える』…」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


160 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 12:08:09.80 0


倖田來未は屋上を去る後藤真希の背中を見つめて思う。

やはり、アイツはフヌケになった・・・・・・・と。
動けない相手を叩きのめして何の意味がある?そんなもの、単なる
弱い者イジメではないのか?
自分が望んでいるのは誇り高い勝利だけだ。
後藤真希を倒すこと、ただそれだけなのだ。
二度と戦いたくないと思わせる・・・・・・そんなものの何が勝利か。
敵があってこそハリのある人生・・・・・ヤツは戦士だと思っていたのに・・・・・

アイツ、友達のためならどこまで出来るのだろう?
ここに転がってるヤツの有様を見て思ったが・・・・あの女、いつか人を殺したりするんじゃあないか?
それも、友達というワケのわからん正義のために・・・・人を裁くんじゃあないのか!?
いや、もしかしたら・・・・すでに・・・・

もう、ヤツを狙うのはやめようか・・・・


パサッ・・・・

ちょっと弱気になったその時、後藤真希の投げ捨てた『ツケの領収書』が風に吹かれて
倖田來未の足にひっかかった。

ふと目を落としたそれには、こう書かれていた。



161 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 12:10:01.43 0



『後藤真希』


『達田来末』

















「やっぱアイツぶっとばすわ。どんな手を使ってでもスタンドを使わせて
あたしと闘わせてやる」










162 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/03/07(火) 12:16:36.56 0



そして、きたるべき1999年12月21日。

後藤真希と倖田來未は、各々のスタンド能力をフルに使い、激しい戦闘を繰り広げた。


二人の『風』を操るスタンド使い。

その因縁の決着は・・・・・・




渡引智美  再起不能
スタンド名 サクラリッジ・フラワーズ


TO BE CONTINUED・・・・・