90 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:42:16.22 0

銀色の永遠  〜山岸由花子は嫉妬に狂う〜


「亀井さん、テストどうだったかしら?」
「僕ですか?いやぁ、今回は結構よかったんですよ」
「…ウソッ!!95点!?信じられない!!!」
「真剣に驚かないで下さいよ…orz今回はE組の新垣さんに勉強を教わったんです」
「ああ、家が塾の人でしょ?」
「ハイ」

テスト返しの終わった放課後。時間は早いがもう放課後である。
亀井絵里は同じクラスの学級委員である女子生徒とテストの結果を
見せ合いッこしていた。
先輩である藤本美貴が英語で苦しんでいた姿を内心笑っていたが、
テスト間近になって他人事でもないことに気付き、彼女は同じ学年にして
部活の先輩にあたる新垣里沙にテスト範囲の勉強とヤマを教えてもらい、
短い期間でここまでの結果を出したのだ。

自分でこの点数だ、新垣さんは満点に違いない…
高橋さんは70点あたりかな?紺野さんは点数高そうだなぁ〜!!
小川さんは…ノーコメント。

92 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:45:26.04 0

「あら康一くん。あなた今日一人で教室掃除の当番だったの?」
「うん、もう一人の子がこれからアルバイトなんだって。だから一人で掃除してるんだ」

学級委員の女子生徒が、一人で掃き掃除をしていた広瀬康一に声をかけた。
教室はそこまで広いものではないが、一人で掃くのと二人で掃くのとでは、かかる
時間がかなり変わってくる。

ガシャンッ!!

よそ見をしながら話をしたため、広瀬康一はゴミ箱を蹴っ飛ばして中味を
散乱させてしまった。

「あッ!」
「もうなにやってるのよ。いいわ、あたしも手伝ってあげる。康一くん、
掃除用具ロッカーからちりとり取ってきて」
「えっ!そんな悪いよ」
「いいから!ほら、ホウキよこしなさいったら。学級委員のあたしが怒られるよ!もう…」

そう言いながら、広瀬康一からホウキを受け取った彼女が、突然顔色を変えたことを
亀井絵里は見逃さなかった。

あの子、何を見ているんだろう…教室から廊下の方を見ているようだけど…
別に何もないじゃないか。

彼女が気付いた事といえば、この学校でもかなり美人と噂される山岸由花子が
廊下に立っていることぐらいである。

「亀井さん、その…悪いんだけど康一くんのお掃除手伝ってあげてくれないかしら」
「別にいいですけど…どうしたんですか?顔色悪いですよ?」
「な、なんでもないわ。さよなら」


93 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:48:00.35 0

学級委員の女子生徒は亀井絵里にホウキを渡すと、そそくさと教室から
出て行ってしまった。何か急用でも思い出したのだろうか?

そういえばあの子、一学期の化学の授業のあと教室に戻ってきたとき、
なぜか後頭部をまる坊主にして教室入ってきたんだよな。
あの時はビックリしたなぁ〜僕以上のイメチェンだと思ったよ。

「あれ?きみが手伝ってくれるの?」
「うん、あの子帰っちゃったんだ。用事でも思い出したんじゃあないかなぁ?」
「そう、まぁいいや。わざわざ手伝ってくれてありがとうね」
「いいよいいよ…あッ!あのさ、演劇部のこと少しだけど調べておいてあげたよ」
「えッ本当に!?どうだった!!?」
「ちょ!声が大きいよ…ホントはあまり部内のことベラベラしゃべるわけには
いかないんだ…でも、僕も自分の部活の実態は多少気になるしさ。う〜んそうだね、
ここじゃ部員の誰かに聞かれる可能性が無きにしもあらずだから…今日の三時に
カフェドゥ・マゴでどう?」
「三時?わかった、いいよ」
「僕、昼からの練習早退するからさ。一度家でお昼ご飯食べてからくるといいよ」

こうして、亀井絵里は2日前と同じように広瀬康一とお茶をすることになるのだが…
それが、これから起こる紛争の火種になるということに、彼女は気付くよしもなかった。



94 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:51:28.50 0

掃き掃除を終わらせると、広瀬康一があとは自分でやると言うので、
彼女は部室へと向かうことにした。
お腹の虫が、グゥの音をあげている。

練習もほとんど佳境に入ってきたし、今日のメインは大道具の製作かなぁ…
さゆはもう部室にいるんだろうか?
大道具、今日も一緒に作りたいなぁ〜いっぱい話せるもんね。うへへ…
あ、でも今日は早退しなくちゃならないのか。言いだしっぺとはいえ、なんだか
もったいない…まぁ、そのぶんいっぱい話せばいいんだよね!!

そんな時間に夢を膨らませながら廊下を歩いていると、突然後ろから誰かに
呼び止められた。

「ちょっとあなた」

振り向くと、そこには女子生徒が立っていた。
亀井絵里はこの女子生徒とは友達ではないが、美人で有名なので名前だけは知っている。

「あれ?山岸さん…ですよね?同じ学年の…僕になにか?」
「康一くんにちょっかい出すの…やめてくれませんか?」
「康一くん?…広瀬くんのこと?ちょっかいって…一体なんのことですか?」

彼女は、自分の目の前に立っている山岸由花子の言っている意味がわからなかった。
それもそのハズ、亀井絵里にとっての『ちょっかい』とは、普段藤本美貴にされているような、
飯おごってと集られたりするといった類のものだと思ったからだ。
そんな彼女には、クラスメイトとはいえ、ここ二日前に話すようになったばかりの
広瀬康一にちょっかいを出した覚えなど、当然あるわけがない。
亀井絵里は、さっぱりわからないといった表情で、山岸由花子を見つめた。


95 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:53:48.84 0

「『何くわぬ顔してとぼける』…泥棒猫ってみんな、そんな態度をとるのよねェー」
「ど、泥…」
「あたしにはわかるのよ…!!だってあなたから泥棒猫のにおいがプンプンして
きますもの!!汚らわしいったらありゃあしないわ…」

なにを言ってるんだこの人は…
なんで今まで一度も話したことのないような女の人に、そんなこと言われなきゃ
ならないんだ?

「なんなんですか?山岸さん、僕にいったい何を因縁つけているんだ?」

少しイラッときた亀井絵里は、やや厳しい口調と表情で言った。
だが、山岸由花子はそれにまったく動じることなく、逆にギロリと目つきを変えて
彼女を睨む。その気迫に、圧倒されずにはいられない。
そして、山岸由花子は言った。


「いいわね…!!今後また康一くんのまわりをうろついたりしたら…あなたのこと…」

ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…

「ただじゃあおきませんからね…」



96 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/17(火) 14:55:29.89 0

そう言い残すと、山岸由花子は背中を向けて行ってしまった。

なんだったんだろうか…あの人。
確かに美人だけど…すごく怖い感じの人だったな。

「あれは藤本さんとはれそうだぞ…」

いつまでも、そこに突っ立っていてもしょうがないので、彼女は部室に向かうことにした。

スッテーン!!!!

ところが、前に出そうとした足が何かに引っかかって、見事に転んでしまう。
最近転ぶことが多いな、何に足を引っ掛けたんだろう?
身体を起こし、亀井絵里は自分の足元を確認する。
そこには、思ったよりも異常な事態が起きていた。


「う、うえぇッ!!なんだこれ!!髪の毛…か?なんでこんなものが僕の足首に
いっぱい絡みついてるんだよ…気持ち悪い!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


160 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/19(木) 02:17:08.77 0

クリスマス公演間近ということもあり、部室は普段の何倍も活気があった。


「ガキさんやったぜ!!英語のテスト、赤点どころか平均点以上とれたんだよーッ!!!」
「ホントっすか?それはよかったのだ!!」
「亀井ーッ!おめーにも礼を言わなきゃな。単語帳貸してくれてありがとよ!!」

二年生も今日英語の答案返されたみたいだな…
どうやら、我らが藤本美貴は、今回のテストによる留年は免れたようである。
まだ三月に学年末テストが控えているので油断は禁物だと思うが。

「亀子ォ、テストどうだったァ?」
「高橋さん。僕はけっこうよかったんですよ、うへへ」
「ほ〜、いくつ?」
「95点です」
「げ、マジかヨ」

亀井絵里の点数を聞いた高橋愛は、驚いた顔をしてみせた。
自分がここまでの点数を取るとは思わなかったのだろう。
そして恐らく、点数は高橋愛よりも上だという事が彼女の表情からわかる。

「ヘェ〜亀ちゃん、95点もとったのカイ?やるじゃねぇかよ、oi」
「新垣さんのおかげなんです。小川さん何点でした?」
「98点」
「ハイ?よく聞こえなかったです」
「98点だよ」


161 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/19(木) 02:19:15.80 0

う…うそをついてるに決まっている…
かるいうそさ…
ほら…しゃべり出すぞ…
今にきっとネタばらしをする…
小川さん…そうでしょ?…
うそだって言ってくれるんでしょう?
うそだと言ってくれ!
頼む…小川さん!!

「oioi、なんでそんな訝しげな顔してんだヨ。聞いてるかイ?98点だって」
「ッ!?」

バ…バカな…
か…簡単すぎる…
あっけなさすぎる…

「う、ウソだ!!」
「ウソじゃねーよoi」
「そんなの僕の小川さんのイメージじゃあないッ!!!」
「お…オメーなんじゃそりゃああッ!?」



162 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/19(木) 02:23:16.59 0

そんなやりとりをかわしつつ、亀井絵里は部室を見渡した。
おかしい、自分のハートをつかんでやまないあの子の姿が見えない。
それに、その子を慕っている後輩の姿も。
どこにいるんだろう…彼女は、一人でトロトロとお弁当を食べている
紺野あさ美に訊いてみることにした。

「紺野さん、さゆは?」
「さゆみん?あぁ、小春ちゃんと一緒に今日は部活休むって言って帰っちゃいましたよ」
「えぇッ!!?」
「もう大それた練習も何か『非常事態』でも起きない限り本番前の
リハくらいですからね。問題ないでしょう」

そんなバカな。
それなら自分だってわざわざ出てきた意味がないじゃないか。
大した練習がないのだから尚更だ。
楽しみにしていた時間を取り上げられた亀井絵里を、激しい脱力感が襲った。
さゆと小春ちゃん、二人で何をしてるんだろう…
っていうか、小春ちゃんずるいよ!!抜け駆けだ!!!

「すごく不満そうですねw」
「そりゃまぁ…って別にいいですけどね。僕も今日はどうせ早退するんで」
「…あの、すごい唐突に話題変えるんですけどいいですか?」

紺野あさ美はそう言うと、箸を置き、パックのウーロン茶を一口飲んだ。


163 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/19(木) 02:26:43.92 0
なんだかマジメそうな顔をしている。
あの独特で妙な説得力のある『紺野節』でも出るのだろうか、亀井絵里はそう思った。

「…なんですか?」
「別に大したことじゃあないんですけどね。亀ちゃんの言葉遣いのことなんですけど」

こ、言葉遣い…?
もしかして、言葉遣いが悪いとかそういうことだろうか?
そんな心配をしていた彼女は、次の紺野あさ美のセリフに呆気に取られてしまう。

「そろそろ、敬語とかやめません?」
「へ…?」
「はい。同い年なのに敬語使ってるのはおかしいと思いませんか?付き合いが
短いわけでは決してないハズです」
「はぁ…でも紺野さんこそ僕に敬語じゃないですか」
「あ。まぁでも私のはクセですから」

紺野あさ美の言う通り、亀井絵里は彼女に対していつも敬語を使っていた。
彼女だけではない。高橋愛も新垣里沙も、そして小川麻琴に対しても、みんな自分と
同じ高校一年生という同学年であるのに、亀井絵里は一人だけ皆に敬語を使っていたのだ。
それは紺野あさ美のような『クセ』ではなく、まるで目上の人間を尊敬するような、
そういった意味合いでの敬語である。
亀井絵里が同学年の彼女ら四人に敬語を使うことに理由がないわけではない。
それは、やはり自分よりも早いうちにこの部に入部していたというのもあるが、
なにより、それぞれが自分より秀でた人間と思っているからだ。

「このこと、実は私以外の三人も言っているんですよ。まぁマコは
『いきなりバリバリなタメ語になったらそれはそれで気持ちわりぃなァ、oi』
なーんて言ってましたけどね」

そう言うと、彼女は笑いながら再び箸を持ち、残った弁当に手をつけ始めた。


164 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/19(木) 02:28:17.39 0

ここで弁当を食べてる紺野さんを始め、あそこでいつものように雑誌を読んでいる
高橋さんも、窓際の植物鉢に話しかけてる新垣さんも、藤本さんとバカをやってる
小川さんも、みんなそんなことを思っていたなんて…

みんな、僕のことを考えてくれているのか…

そう思うと、嬉しさがこみ上げてくるのだった。
期待に答えよう…それが、四人の先輩たちに対する礼儀だ。
亀井絵里は、目の前でゆっくり弁当に箸をつけている同い年の先輩を見つめて言った。

「こ、こんちゃん…」
「なんですか?」
「あの…えと…う、うわぁぁッ!!やっぱり無理です!!!」

自分でもなんとも言い表すことのできない恥ずかしさが込み上げてくる。
今まで敬語で話していた相手に、突然タメ語で話すなんて器用なマネは、
彼女には出来なかった。
だが、そういったスイッチの切り替えがなかなかできないということは、彼女が
それだけ紺野あさ美を含めた四人を尊敬しているということなのである。
紺野あさ美は、照れて頭を掻き毟っている同い年の後輩を、温かい目で見つめたのだった。


242 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/21(土) 14:10:57.75 0

午後の三時に部活を抜けた亀井絵里は、広瀬康一とカフェドゥ・マゴにて落ち合った。
なんだか持っている通学カバンがやけに軽く感じたが、お弁当が空になったからだと
解釈し、特に気にしなかった。


「そもそも僕らの演劇部ってのはね、名前こそ『演劇』なんだけど、それ以上に
活動はハードなんだ。歌も唄えなきゃならないし、ダンスもめちゃイイ感じでなければ
ならない。演劇部を立ち上げた昔のメンバー…僕は三年生の安倍さんしか知らないけど、
それは並大抵な努力じゃなかったって話さ」

「…それはわかったけど、それときみたちがスタンド使いなのと、一体どういう
関係があるの?」

「僕も聞いた話だからよくわかんないけど…こっから先は僕に演劇部について
憶測ながら教えてくれた先輩…いや、友人の話なんだけどね。舞台に立つための
精神力を見てるんじゃないかって言うんだ?」

「精神力を見てるだって?」

「そうだよ。スタンドとは自らの精神力の強さの象徴!スタンド使いになれるだけの
精神力を持った人間だけを部員にしてるのかも知れないってことさ。その際、発現した
スタンド能力はそれの副産物なんじゃないかっていうね。ただ…」

「ただ?」

「入部する時の『審査』といい、部員に与えられる『指令』といい、どう考えても
スタンド能力は副産物だとは思えないんだ。なんかこう…寺田先生は演劇よりも
スタンドに重点をおいた活動をしているような気がしなくもないし…」



243 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/21(土) 14:11:47.80 0

「うーん…きみ、その部活の友達一人にしか話を聞いてないんだろう?他の人には
聞いたりしなかったの?」

「広瀬くんは『新垣さん』のこと、あんまり知らないと思うけど…あの人以上に
演劇部について『知っている』人ってのは考えられないよ」


亀井絵里はちょっとしたウソをついた。
一人だけいたのだ、新垣里沙よりも演劇部を『知っている』かもしれない人間が。
それは、演劇部の部長である吉澤ひとみである。

吉澤さんなら演劇部が一体なんの目的で活動してるのか知ってるような気がするんだけど、
なんだか聞きづらかったからやめたんだよなぁ〜。
なんでそんなこと聞くんだよ、な〜んて言われたら、どう言い訳すればいいのか
僕わからないし…

今、こうして自分が部外者に演劇部について話しているのがバレたとしたなら、
どうなるんだろうか…亀井絵里はふと心配になった。



244 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/21(土) 14:12:53.35 0

「とりあえず、きみの話からわかることといったら…部員はみんな能力を持っては
いるけど、部活の目的は知らない…いや、もしかしたら目的なんてものはないのかも
知れないね。けど、それはそれでとても危険なことだよ」
「どうして?」
「演劇部がある限り、この町のスタンド使いは増えていく一方にあるってことじゃ
ないか。スタンドが発現するだけならまだいい。でも、スタンドと共に野心が
身についてしまったら…」

広瀬康一は思った。
もしまた『吉良吉影』のような悪党で、『キラー・クイーン』のような凶悪なスタンドを
持つ者が現れたとしたら…それは恐ろしいことだぞ…ッ。

「最後に一つだけ教えてよ。きみは…どうやってスタンド能力を身につけたんだ?」
「『弓と矢』だよ。広瀬くんもそうなんでしょ?」

スタンド能力を引き出す『弓と矢』を所有している者が、自分の学校にいる。
この町にいるスタンド使いは、ほとんどが『弓と矢』によって能力を引き出された
スタンド使いなのだ。
虹村形兆から音石明の手に渡った『弓と矢』は、現在SPW財団の保護下において
研究が進められているが、吉良吉影の父の分も含め、杜王町に三組もの『弓と矢』が
あったなんて…広瀬康一は驚きを隠せない。

露伴先生の読みは正しいのかもしれないぞ。
けど、目の前に座っている彼女は決して悪い人じゃない。
演劇部を潰すことよりも、彼女を…部員たちをスタンド使いにした部活の顧問から
『弓と矢』を奪って破壊する方いいんじゃないのか?
とにかく、話を聞く限り部員たちには『スタンドを使ってどうこうしよう』といった
野心は無いように感じられた。
それを知っているのと知っていないのとでは、天と地ほどの差だ。
それを知った露伴先生はどういった行動にでるんだろうか…
広瀬康一は妙な胸騒ぎを覚えた。


245 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/21(土) 14:15:32.17 0

カフェドゥ・マゴを出て、亀井絵里は一人思案していた。
果たして、これでよかったのだろうか…と。

演劇部のことを部外者に洩らしたことが知れたら、僕はどうなるんだろう?
強制退部かな?けど、それぐらいで済むのか…?
僕は何をやってるんだろう。いくら広瀬くんが悪い人に見えないからといって、
部内のことを調べて話してしまうなんて…正直どうかしてるな。

そんなことを考えながら、杜王駅に向かう。
…ふと、道重さゆみに会いたくなってきた。
わけもなく急に沸き起こった感情だ。

今日、小春ちゃんと部活休んでたから会えなかったんだよね。
こんな気分だからなのかわからないけど、ものすごく会いたくなってきたぞ!!
二人とも、さゆの家で遊んでるのかなぁ〜…

彼女は目の前の杜王駅に向かうのをやめ、方向転換すると道重さゆみの家を
目指して歩き始めた。
それが、彼女の運のなさであった。
すぐそこの角を曲がったところで、今日初めて話したばかりの人物に出くわしたのだ。

「山岸由花子…さん?どうしてこんなところに…?」
「駅に向かっていこうとした時はどうしようかと思ったわ。人のいっぱいいるところじゃ
ゆっくりお話できませんものね」

亀井絵里が彼女を丸い目で見つめたその時である。
彼女の長く美しい髪の毛が、まるで意思を持ったかのように妖しく蠢き伸びて、
あっという間に亀井絵里の身体にきつく巻きついてきたのだ!!



246 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/21(土) 14:21:36.59 0

シルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシルシル…

「うぐーッ!!なんだこれはぁ〜!!!」
亀井絵里を拘束した髪の毛は、そのまま彼女を塀に叩きつけるようにして飛んでいく。


ドゴシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


「ぐげェーッ!!!!!」

背中をぶつけたその痛みの中、亀井絵里は気付いた。
あの人は…山岸由花子はスタンド使いだ!!
髪の毛が動くスタンド!!!
しかしわからないのは、どうして僕がこんな仕打ちを受けなくちゃ
ならないんだってことだ!!

「ゆ…由花子さんッ!?」

「亀井さん、あなた…あたしの言ったことが『まるでわかっていない』ようね…
わたしは忠告したハズなんですからね、二度と康一くんの回りをうろつくなって。
そして、こうも言ったわ…ただじゃおかないってね!!!」

山岸由花子は、左まぶたをピグピグと痙攣させて言った。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


304 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:33:17.27 0

蠢く髪の毛は、尚も亀井絵里の身体を縛り続ける!!
だが、彼女にとってはその髪の毛のスタンドのパワーよりも、山岸由花子から
放たれる圧倒的なオーラに戦いていた。

な、なんなんだこの人はーッ!!!
僕はこの人に恨まれるようなことをした覚えはない…けど…
広瀬くんが何か関係しているのか?
もしかして…

「左まぶたが痙攣しているわ…由花子って子供の頃から興奮すると『眼輪筋』が
ピグピグいって、ちょっと暴力的になるのよ。さっき康一くんとあんたがカフェで
楽しそうにおしゃべりしてるのを見て、よく感情的にならなかったものだと自分自身に
びっくりしているわ。そんなことをしたら、康一くんに嫌われてしまうものね」

「そ、そうか…わかったぞ…!!きみ、広瀬くんのことが好きなんだろう!?」

「だったらどうするっていうの?あたしがあなたを二度と康一くんに近づかないように、
そのコスずるい性根をじっくりと叩き直してあげることにはかわりないんですからね!」


山岸由花子は罵声を浴びせ、亀井絵里に近付いていく。
この女…なんかヤバイぞ…
直感だけど…なにかヤバイ!!!



305 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:34:21.12 0

「サイレント・エリーゼACT3…サイレント・エリザベス!!出ろッ!!」
『R・O・G・E・R!!了解シマスタ!!』

ブチブチブチィッ!!!!

サイレント・エリザベスの脚力で、彼女を拘束していた山岸由花子の髪の毛の
スタンドを引き裂き、髪の毛の拘束から脱出する!!
パワーはないのが亀井絵里のスタンドの特徴であるが、ACT2のしっぽ、および
ACT3の蹴りは、藤本美貴のVVのラッシュほどではないが、それなりのパワーは
持っているのだ。


「どうだッ!!抜け出してやったぞ!!!」

「それは…そのガキんちょみたいなものは…亀井さんあなたも!!あたしと同じような
能力を持っているのッ!!!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



306 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:35:28.61 0

山岸由花子の『ラブ・デラックス』、それに対抗するのは亀井絵里の
『サイレント・エリーゼACT3』であるが…


「あなた、話にきくところ『演劇部』に所属しているようね…」

山岸由花子は亀井絵里を指差して言った。
口調こそまだ女性らしいものの、彼女の怒りは空気をピリピリさせ、亀井絵里の
背筋をガクガクと震わせる。

「そ、それがなんだよッ」
「クリスマスに公演を行うそうじゃない…あたし、康一くんに誘われたから
見に行くことにしていたわ。あの康一くんから由花子を誘ってくれたのよ。
こんなに嬉しい事って他にある?」
「なんだかよくわかんないけど、よかったじゃないか」
「・・・・・・」
「…どうしたの?」
「あなた、あたしの言っていることがまるで理解出来ていないようね。康一くんから
あたしを誘ってくれることなんて、今までなかったことなの。そんな彼がどうして
由花子を誘ってまでクリスマス公演に行こうとしたのか…わかったわ」
「どうして?」

「きっとアンタを見るためよこのボケナスビ!!!いったいどんなことをして康一くんを
罠にはめて誘惑したのか知らないけど!?そんなもんに付き合わされるぐらいなら
アンタをそこのコンクリートにすり潰して舞台に立てない身体にしてやるわッ!!!」



307 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:36:52.82 0

ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


叫ぶと同時に、山岸由花子の髪の毛が異様な長さに伸びて亀井絵里に向かってくる。
あの髪の毛に拘束されるのはかなりきついものがあった。
恐らく、あれで絞め殺すつもりなのかもしれない…山岸由花子の目は殺気で
満ち溢れているように見える。

「康一くんはあたしのもの…」
ピグピグ…
「あたしのものなのに横取りするなんて絶対に許せない…」
ピグピグピググ…ッ

「あたしの…あたしのものなのにィィィィィィイッ!!!!!!!!!!!!!!」

ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…ッ!!!!!!!!!


髪の毛の塊が亀井絵里に迫り来る。
だが、同じ手が二度通用するほど亀井絵里も柔ではない。

「サイレント・エリーゼACT3!!!!」

あの髪の毛がスタンドだとしたら、ACT3の『モグモグ・ウェーウェー』で
自由を奪ってやるんだ!!!

バサァッ!!!
『SONOFA BEEITCH!!』

ところが、ACT3が放った蹴りは、髪の毛を捉えることは出来なかった。
蹴り飛ばしても、バラバラに広がるからヒットしないのである!!


308 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:38:37.93 0

「空振り!?しまっ…」
「このクソったれがあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


ギュッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


「うぎゃああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」

先ほどとは桁違いの量の髪の毛が、亀井絵里の身体に巻きつき締め上げる。
こ、こんなに髪の毛が伸びるなんて…どういう精神力をしているんだ!?
このままでは…マジで絞め殺されてしまうッ!!!

「さっきも気になったけど…あなたのスタンド『ACT3』っていうの?
もしかして康一くんと同じように『進化したスタンド』なの?」
「うっうっ…だったらなんなんだ!!」
「無性に腹が立つわ…あなたのその目…その瞳の奥に光るものも…そのスタンドも!!
康一くんに似ているからイラついてしょーがないのよ!!クソガキッ!!!!!」


髪の毛の力だけで、縛り上げられた亀井絵里が宙に浮いた。
そして適度な高さまで持ち上げられると、そのまま地面に叩きつけられる。

ゴシャアッ!!!
「うげえええっ!!!!」


309 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:39:29.46 0

「その舐めきったオーラ!!絶対に許さないわ!!!そんなに康一くんと
お似合いだと思われたいの!?舐めやがってこのフトモモがああああああああ!!!」

ドシャ!!!
「ぎゃあっ!!!」


こ、この女、狂っているぞ!!
愛情が歪んでいる!!それも相手に対してじゃなくて第三者に対してだ!!!
どういうわけだかよくわからないけど、僕は由花子さんの『情熱』に恨みを
買ってしまったんだ!!!!

地面に叩きつけられながら、亀井絵里は必死で考える。
今ここで抵抗しても、おそらく彼女はムキになって、最悪どちらかが再起不能に
なってしまうかもしれない。
山岸由花子にとっては何の問題もないのだろうが、亀井絵里にとっては、大した
恨みもない相手を叩きのめすようなマネはできなかった。
例え、最初に手を出したのが向こうであっても。
そう考えると、いまこの場を落ち着かせるためには…



310 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:41:29.36 0

「このエリックかめりんには夢がある!!!」


三度叩きつけられた後、彼女は唐突に叫んだ。
そんな亀井絵里を見て、山岸由花子も目を丸くする。

「エリッ…て?何言ってるの?あなた…気でも狂ったの?」

気が狂ってるのはあなたの方じゃないか。
そう思ったが、場を落ち着かせるために口には出さないことにした。


「ぶりっこで、どうしようもないナルシストで、いまだに白馬の王子様なんか
信じちゃってる痛い子だけど…僕はあの子を愛しているッ!!!男の子になんて
絶対渡さないんだ!!!僕が…この亀井絵里があの子だけの男の子になるからだ!!!」

「・・・・・・」

「僕が王子様になるんだ!!今は友達としてしかあの子は見てくれていないけど…
いつか必ず『女の子同士の壁』を越えて見せるッ!!!!!」


ドッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!

311 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:43:10.73 0

どうだ!!唐突だけど言ってやったぞ!!!
僕は別に広瀬くんに気があるとかそういうことではないんだ!!!
今言ったように、好きな子だっているッ!!!
それが今ので彼女に伝わってくれてればいいんだけど…

「それで?」
「へ?」
「それで、どうするのって聞いているのよ」

山岸由花子の反応は妙に寒いものであった。

「どうするって、だから…」
「女の子同士の壁?あなた女の子が好きなの?別にあたしは同姓愛を批判するつもりは
ないわ。愛にはいろんなカタチがありますものね。むしろ蔑むなんてとんでもない、
素晴らしいことだわ」
「あ、じゃあ…」
「けどね、あなたがどう思おうと、康一くんがあなたを本気で求め始めてしまったら、
そんな話は意味がなくなるのよ。いくらあなたが女の子に好意を持ってようが、
男の人はそんなことお構いなしなの」

も、もしかして…わかってくれてないのかーッ!?
身体に巻きついていた髪の毛に、再び締め付ける力が加わり始める。

「だからね…康一くんがあなたを本気で求めてしまう前に…」

この女…話で納得させられるような女じゃないぞ!!
言ってもムダとはこのこと…なのか?

「悪い『芽』は摘んでおきませんとネェェェェッ!!!!!!!!!!!!!」

312 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/22(日) 19:45:23.71 0

山岸由花子の怒号が空気を振動させた!!
や、やられる…ッ!!!!!


ドリュドリュドリュドリュドリュッ!!!!!!!!!!!!


その時だ。
突如、山岸由花子と亀井絵里をつないでいる部分の髪の毛から、
いくつもの枝が爆発的な勢いで生えてきたのだ!!

「な、なによこれはッ!?」

その枝が邪魔をして、髪の毛を使ってうまく亀井絵里を持ち上げることが出来ない。
こ、この能力は…僕は知っている!!!
そして、塀を乗り上げて現れた一人の女子高生が言った。


「確かに…悪い『芽』は摘んでおかないといけないのだ…成長を邪魔する前に」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!


399 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:52:19.38 0

「なに…?あなた」

そう言いながら、山岸由花子は亀井絵里を拘束していた髪の毛のスタンドを
解除して元の長さに戻す。
美しい髪の毛に混ざっていた『枝』が地面にポトポトと落ちた。

「やれやれ…お前、ぶどうヶ丘の生徒だな?わたしの友人に一体なんのようなのだ?」

塀を登りきった新垣里沙は、その塀の上に腰掛けて山岸由花子を見下ろした。
その背後には、彼女の中〜遠距離スタンド『ラブ・シード(愛の種)』が浮かんでいる。

「に、新垣さんッ!!どうしてここに!?」
「亀〜をた〜すけにきました」
「えっ?」
「なんてね、ほら」

新垣里沙が持っていたカバンを亀井絵里に向かって放り投げた。
それをうまくキャッチすると、彼女の腕にほどよい重みがズシッと伝わる。
その重みで、彼女は気付いた。

「これは…僕のカバンだ。どうして新垣さんが?それじゃあ僕の持っているカバンは…?」
「亀が間違えてわたしのカバンを持って帰ってしまったのだ。だから家まで届けに
行こうとしたのだが…いやぁ良かった。S市まで行かなくて済んだのだ。それに…
わたしのカバンの中には『ビビちゃん』の晩御飯が入っている…持って帰られては困るのだ」


400 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:53:11.59 0

ビビちゃん?…あぁ、新垣さんのハムスターのことか。
すごくいきなりで驚いたけど…新垣さんがここに現れたのはそういうワケだったんだ。
けど、この場はどうすればいいんだろう…?

「新垣さん、これ」

亀井絵里は、新垣里沙のカバンを塀に座っている彼女に差し出す。
この中、ひまわりの種くらいしか入ってないのかな?
どうりで軽いわけである。
ところが、新垣里沙は差し出されたカバンを受け取ろうとしない。

「悪いが持っていて欲しいのだ」
「え?」

そう言うと、彼女は視線を山岸由花子へと戻す。

「さて、お前。お前はスタンド使いだな?髪の毛を操るスタンドか…いったい何の
目的で亀を襲っているのだ?」
「あなた、誰?いきなりしゃしゃり出てきたかと思えば…あなたもスタンド使いなの?
わたしはそちらの彼女に用があるのよ。邪魔をしないでもらいたいものだわ」
「質問を質問で返すなぁあッ!!わたしはお前の目的を聞いているのだ!!!
返答次第によっては…」

新垣里沙のスタンドが、スゥッと山岸由花子を指差す。

「ただで帰すわけにはいかなくなるのだ…ニィ」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


401 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:54:10.13 0

亀井絵里は考える。
確かに、無茶苦茶な理由で襲われていたけれど…

「新垣さん、待ってください」
「…なんなのだ?」
「あの…助けてもらっておいてこんなこと言うのもアレなんですけど…
その…僕らには由花子さんを攻撃する理由はないです。誤解されてるだけなんですよ」

そう、実際は誤解されているだけなのである。
だから無理に暴力という手段に乗り出す理由もない、話し合いでなんとかなるかも
しれないではないか。
彼女だって子供じゃないんだ。さっきは理解してもらえなかったけど、もっとじっくり
話せばわかってくれるかもしれないぞ。
亀井絵里はそう思った。

「誤解…誤解か。亀、お前の言いたいことはよくわかるのだ。だが…」

すると新垣里沙は、塀の上に立ち上がって言った!!


「こいつは亀を傷つけた…わたしにはこの女を攻撃する理由があるのだッ!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!



402 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:56:20.72 0

そんな新垣里沙に、山岸由花子は苛立ちを覚え始めていた。
自分達の問題に割って入ってこられ、終いには自分を攻撃するとまで言い出しているのだ。

(あたしは康一くんにまとわりつく変な虫を払いたいだけ…)

だが、その変な虫に広瀬康一を取られてしまうかもと思うと…怒りが込み上げてくる。
だから、その変な虫を守ろうとする新垣里沙に対しても、彼女は眼輪筋をピグピグと
いわせてみせた。

「あなた…さっきあたしに目的を訊いてきたわね。そうね…敢えて言うなら…
『愛のため』かしらねェッ!!!!」


ドシュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!!!!


山岸由花子の髪の毛が、物凄いスピードで伸びて新垣里沙に迫っていく。
そして、いともかんたんに彼女はその髪の毛に拘束されてしまった。


ギュルバァァァァァァッ!!!!!!!


「このケツ穴女ッ!!!えらそうな口叩いておいてこの程度じゃないのッ!!!」


403 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:56:58.68 0

「ああッ!!新垣さん!!!」

驚愕する亀井絵里をよそに、山岸由花子は容赦なく新垣里沙を締め付け、そして
硬いコンクリートの上に叩き付けた!!!


ドッシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!


だが、手ごたえがおかしい。
地面に叩きつけてやった。叩きつけてやったのだが…

「か…代わり身…これはッ!?」

地面で砕け散ったそれは、木のクズだけであった。
山岸由花子が拘束して地面に叩きつけてやったのは、人の形をした木の人形だったのだ!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



404 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:57:54.27 0

「髪の毛を操るスタンド…か。そしてそのイカレた情念。お前らしいスタンドなのだ。
髪の毛を使う闘い方、とても気にいった。だが、所詮それだけなのだ。わたしの
ラブ・シードの相手ではないな」

いつの間に山岸由花子の背後に回ったのか、新垣里沙は彼女の耳元で囁いた。
新垣里沙の能力は、スタンドが生み出す『種』や『豆』を使って植物を生み出す能力で
あるが、彼女の闘い方を見て、亀井絵里はそういった能力だけではなく、戦闘の経験が
ものを言っているような気がしてならなかった。

新垣さんは変な人だけど、一度キレたら手がつけられないってさゆが言っていたな。
入部前に小春ちゃんが半殺しにされかけたらしいし…

新垣里沙の闘い方をじっくり見たことはまだない。
どんなものなのか見てみたい気もするが…
だが、これは意味のない闘いではないか。

こ、これは僕が招いてしまった闘いなんだ!!
あの人の誤解も多少はあるけど…どうすれば、あの二人を止めることができる…!!


「そして、ラブ・シードの『スプラッシュ・ビーンズ』の照準はすでにお前を
捉えている。植えてもらいたいか?ン?わたしの『豆』の植木鉢になりたいか?ンン?」

「こ、この鼻ッたれがあああああああッ!!!!!」

「植えてやるのだ…苦しめ」


405 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 01:59:54.26 0

ああ…撃たれる!!
由花子さんの背中に新垣さんの豆が放たれる!!!
僕のことを友人といって助けてくれたのはすごく嬉しい!!…だけど…
その人は誤解してるだけなんだ!!!

でも…なんでだ?なんで僕はこんな由花子さんの身を心配してるんだ?

勝手に勘違いして僕を攻撃をしてきたのはあの人じゃないか。
どうして和解しようとしてるんだ?
なんか違うんじゃないか?
まさか…


『女の子同士の壁?あなた女の子が好きなの?別にあたしは同姓愛を批判するつもりは
ないわ。愛にはいろんなカタチがありますものね。むしろ蔑むなんてとんでもない、
素晴らしいことだわ』


もしかして、この一言に僕は喜んでいるんじゃないのか?
救われた部分があったんじゃあないのか?
言われたときは気付かなかったけど…深層心理のところで僕はさっきの一言に…!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


406 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 02:00:53.49 0

「くらうのだ!!!スプラッシュ・ビー…」
「に、新垣さん…」

待ってくれーッ!!!
そう思ったその時だった。



「あ〜いたいた!!亀井さん!!!」



ピリピリした空気の中、そんな空気を読まない爽やかな少年の声が響く。
…広瀬康一であった。

「いや〜ゴメンね。どうも間違えてきみのカバン持って行っちゃったらしいんだ。
ぼくたまにやっちゃうんだよね、女の子のカバンなのに間違えて持って帰っちゃうの…
ってアレ?そこにいるのは由花子さんじゃない?みなさん、何してるんですか?」

彼の姿を見て、新垣里沙はスタンドを引っ込める。
だが、山岸由花子は逆に髪の毛を蠢かせているように見えた。


407 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 02:01:52.43 0

「何してるんですか?じゃあないわ…」
「へ?」

あの感じ、さっき僕に対して怒っていたときと同じだ…
もしかして由花子さん、広瀬くんに怒っているのか?

「誰のせいでこんなことになってると思っているの?」
「え、こんなことって…?」

「どういうことなのッ!!あたしというものがありながら他のメス犬とウツツ抜かしてる
なんてーッ!!!!なんなのよあんた!!!悪いとこがあったら教えなさいよ!!!
ねぇ!!ねぇぇッ!!!真剣に訊いているのよ!?あたしのことホントは一体
どう思っているの!!?愛してるの!?愛していないの!?さっさと答えなさいよ!!!
こんなに愛してるのに!!!!!!!!!!!!!!!」


怒鳴りつつ、山岸由花子は広瀬康一につかみかかる。
す、すごい気迫だ…あんなお嫁さんをもらったら苦労しそうだなぁ。
女の子である亀井絵里だったが、ふとそんなことを思った。

「ひぃッ…由花子さん!!」

「…ハッ!!!あ…あの…つい夢中になってしまったわ…由花子ったら…何勝手なこと
ばかり言っているのかしら…ご、ごめんなさい!!!!!シクシクシク」

鬼のようになったかと思えば、今度は突然嗚咽を洩らす。
亀井絵里も、山岸由花子とはそれなりの付き合いの広瀬康一も開いた口が塞がらない。
なんだか膨らんだ風船がしぼんでしまった気分であった。


408 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 02:03:16.29 0

「ところで…亀井さん」

静かな声で、山岸由花子が呼んだ。

「は、ハイ…ッ?」
「あたしが『一番最初に言ったこと』…忘れないで下さいね」
「!!!!」

そう言うと山岸由花子は走り出して、駅の方へと向かってしまった。

「あ、由花子さん待って!!亀井さん、ぼくのカバンは?」

最初に新垣さんのカバンと間違えて、その後広瀬くんにカバン間違えられて…
アレ?どれが広瀬くんのカバンだ??

「こっち…う〜ん…こっち?」
「これ?わざわざごめんね、あれ?ずいぶん砂埃にまみれてるけど、どうしたの?」
「え、あぁ、うん。転んだんだ」
「そうなの、おっちょこちょいなんだねwじゃあまた明日!!!」

広瀬康一はカバンを取り替えると、山岸由花子の走り去っていった方に追いかけて行った。
なんだか…嵐のように時間が過ぎていったなぁ…


409 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 02:04:14.39 0

「亀、いったいあの女はなんだったのだ?敵ではないのか?」
「…ハイ、少なくとも悪い人ではないみたいなんですけど…」

なんだか、許してくれてなかったっぽいんだよなぁ〜…
それが彼女にとって気がかりだった。
まぁでも、ようは広瀬くんと大げさに仲良くしてなきゃいい話だよね!!
由花子さんのほとぼりが冷めるまで、広瀬くんに協力するのはやめよう…
亀井絵里はスカートの砂埃を払いながら、心の中で静かに決心した。

「あれれッ!?亀ぇ!!これ両方ともわたしのカバンじゃないのだ。さっきの
少年が持っていってしまったのかもしれない!!!」
「えッ!マジですか?」
「すまないが、追いかけてくれない?」
「えーッ!!!?」
「だって、わたしはあの少年と知り合いじゃないのだ」

…決心は、ものの数秒で崩されるのだった。




410 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/25(水) 02:05:53.52 0

亀井絵里   山岸由花子に目をつけられる
スタンド名  サイレント・エリーゼ

山岸由花子
スタンド名  ラブ・デラックス


TO BE CONTINUED…