104 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/02(月) 07:14:01.32
0
銀色の永遠 〜命懸けのランナウェイ〜
吉澤ひとみは高校二年生である。
彼は、ぶどうヶ丘高校のサッカー部のエースだ。
秋の地区大会の登録メンバーには去年と変わらず当然のように選ばれて大活躍したし、
趣味で地元の連中とフットサルのチームも組んでいる。
暇が出来たときに、コートを借りて試合をしたりするのだ。
彼は昔から、かっこいいものが好きだった。
自分がかっこいいと思ったものは何が何でもやってみたくなる、そんな性格なのだ。
スポーツ選手を生で見たとき、マジでかっこいいと思った。
水族館でなんちゃらウツボとかいうヘビのような魚を見た時もかっこいいと思った。
私服も普通のジーパンじゃイヤだと、かっこよくて凝ったデザインのものを穿いている。
最近はケミカルウォッシュよりもパッチワークが施されたデニムがお気に入りだ。
そういえば、れいながスカジャンを持っていたな。
後輩の、しかも女の子とかぶるのもアレだし、スタジャンでも買うか。
彼は石川梨華や道重さゆみのように、決してナルシストではない。
かっこいいものが好きなだけなのである。
だがそんな彼にも、人には言えない心の葛藤があった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
105 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/02(月) 07:14:46.25
0
クリスマス公演が着々と迫ってきた12月も半ばのある日。
普段は集まりの悪い部員たちも、この時ばかりは部室に顔を出していた。
全員出席とはいかないまでも、これは素晴らしいことだ!!
演劇部の部員の大半はそう思うかもしれない。
しかし、サッカー部と掛け持ちしている吉澤ひとみにとっては、普段部活に出ることが
当たり前なので、素晴らしいともなんとも思えなかった。
まぁ部長の俺が出席率いい方じゃあねーし、しょうがないか。
そう割り切ることにした。
だが彼にとっては、みんなの出席率が悪い方がいいのかも知れない。
なぜなら…
106 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/02(月) 07:16:17.26
0
「藤本さん!この衣裳、赤のフリフリが可愛くないですか?」
「お、なにそれ!!亀、ずいぶんいい衣裳に目ェつけたな!!」
「マーヴェラス!おお…マーヴェラスッッ!!!」
「みうな、何だよいきなり。おい愛ちゃんよぉ、マーヴェラスってなんだ?」
「オメ、毎日英語の勉強してたンでしょ?辞書引いて調べてみればァ?」
「そうだな、どれどれ」
「藤本さん、それ国語辞典…」
「ねぇねぇ、これ私着てみたいんだけど」
「待って、見つけたの僕だから僕が先だよ」
「じゃあ、あいだを取って美貴が着てやるよ」
「意味わかんないし!!あれ高橋さん、なんですかこの手は?」
「いや、赤っつったらあっしの色やよ」
「いつからそうなったんだバカ。ルノアールが赤いだけじゃねーか。
じゃあここはあれだな!公平にジャンケンで」
「「「よ〜し!!じゃんけん…ポイ!!」」」
107 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/02(月) 07:17:35.50
0
やかましい。
ニ、三人集ったら姦し姦しというが、今の場合は四人もいる。
青春、いろいろあるさ…
「よっしゃあ!!じゃあ美貴な!!!」
「じゃあ美貴な!じゃないよッ!!勝ったのは僕なのに!!!」
「よっちゃんさん、ちょっと着替えるから出てってくれ」
吉澤ひとみは無言で席を立ち、廊下に出る。
廊下はとても寒かった。
今日で何度目だろうか?
そういえば、さっきまでいた紺野あさみや小川麻琴、新垣里沙にも
ファッションショーをするからと言われ、八回ほど廊下に出されたのだ。
そして、その度に異性である自分に審査を要求してくる。
最後の方はもう面倒くさいかったので「あー前髪可愛い可愛い」とだけ言っておいた。
そして、それが終わったかと思えば今度は藤本、亀井、みうな、高橋の四人である。
今日はあと何回同じ事を繰り返すのだろうか?
女だらけの部活で男一人というのは、肩身が狭い事この上なかった。
あれ?俺…私、部長だよな?
なんでこんな惨めな思いしてんだ?
108 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/02(月) 07:19:49.29
0
しばらくして、部室のドアが開いた。
やっと終わったか、やれやれ。
開いたドアの隙間から、顔を出した亀井がニヤニヤしながら彼を覗き込むようにして
見ている。
「なんだよニヤニヤして。気持ちわりぃな」
「うへへ」
「うへへじゃあねー。ほら、終わったんなら中に入れてくれよ。骨身に
凍みる寒さなんだからよー」
「どうぞw」
なんだこいつは?
亀井は吉澤を見て、イタズラっぽい笑みを浮かべている。
いつもニヤニヤしてるヤツだと思っていたが、なんだかいつも以上に感じた。
「ッ!?」
彼はその光景を見て、目を丸くした。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
192 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:25:00.98
0
「「「じゃああああああああん!!!!」」」
机に並べられた華やかな衣裳の数々。
これらはすべて、部員の思い出がつまった衣裳だ。
誰がどの衣裳を着ていたか、みんな覚えている。
この金色の衣裳は石川梨華が始めて大役を演じたときに着た衣裳、こっちの
桃色の和服っぽい衣裳は、そこにいる高橋愛が舞台で以前着たことのある衣裳だ。
あの銀色でファーのついたド派手でセレブな衣裳は、吉澤ひとみがこの部に入る前で、
当時エースだった後藤真希が着ていたらしいもので…
サッカー部もそうだが、彼にとっては演劇部もなくてはならない
青春の一ページだったのである。
(青春の一ページって地球の歴史からするとどれくらいなんだろう…一年の頃、
口癖のように言っていたな。石川のやつ)
しかし、なんでまたこんな古い衣裳を引っ張り出してきたのだろうか?
こいつらもファッションショーやるとでも言い出すんだろうか?
しかし、それならミキティが着替えてる間にみんなも着替えてりゃいいわけで、
いちいち自分を部室に入れるのは奇妙だ。
吉澤ひとみは並べられた衣裳をジーッと眺める。
…そういえば、これ全部女もんだな。
193 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:26:14.36
0
「どれがいい?」
「え?」
先ほどの赤いフリフリのついた衣裳を着た藤本美貴が、満足気に言った。
どれがいい?
一体何を言ってるんだろう?
着て欲しい衣裳のことでも言ってるんだろうか?
やっぱファッションショーだな…そんなものにつき合わされたくはないんだが…
しかし、女四人に口で勝てるほど、吉澤ひとみは達者ではない。
(しょーがねー、素直に従うか…ったく、んなことしてる暇あんなら台本覚えろっての)
そんな風に口に出せたら、どれだけラクなんだろう。
いつの時代も、男は女に勝てないものである。
「じゃーこれ」
吉澤ひとみは、水色のブレザーがポイントの衣裳を指差した。
これはもともと石川梨華の衣裳であったが、この間の指令(カラスを捕まえろ)の後日、
久住小春とちょっとばかり仲良くなった彼女があげたものだ。
(まぁ着る機会はもうないとは思うけど、小春は喜んでいたなぁ…)
194 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:27:27.63
0
そんな物思いに耽っていると、高橋愛が腕を組んで唸りだした。
「うーん…やばくないかァ?」
「え、なんでだよ。面白そうじゃね?」
「だってミキティ、これ案外スカート短いンよ。下手したら、見たくないもんまで
見てしまうことになるかも知れんし。確実にハミ出してしまうネ」
こいつら、一体何の話をしているんだろう?
吉澤ひとみは、眉間に皺を寄せた。
「ハハハハッ!!それなら尚更面白いじゃんwwwな、亀!!」
「ええッ!?僕は男の人のパンツなんかに興味はな…いや、なんでもありませんorz」
「…そうだったな、あんたに聞いた美貴がバカだったorz」
「え?え?どーいうこと?何の話??」
みうなが二人を交互に見て、興味深々に言う。
何の話かわからないのは、吉澤ひとみも同じだった。
こいつら、一体何やってんだ?
195 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:28:44.66
0
「まぁいいべ、ここはよっちゃんさんの期待に答えてこれという事で」
「ささ、着替えちゃって下さい」
彼の背中をみうなが押す。
何がなんだかワケがわからない。
「お、おい。ちょっと待てよ、なんで俺が部室に入れられるんだ?
別にお前等の誰かが着替えるとこなんて見たかねーよ」
「え、何言ってるんですか吉澤さん」
「え?」
「着替えるのはアンタやよー」
高橋愛は彼を指差して言った。
「な、なんだってーッ!!!?」
俺が…この俺が女の衣裳を…ッッッ!?
この時、彼の心の中で久方ぶりの心の葛藤が始まる。
どうしてこんな孤独な戦いが始まったのか?
それは去年の文化祭の頃まで遡る…
196 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:30:32.31
0
「おい健太ッキー、お前女装だってさ」
「えッ!?やだ!!!」
「いやいや、女子の話だとお前は強制らしいぞ」
「ちょっと待てや…orz」
当時同じクラスだったクラスメイトが、文化祭の出し物で出店する際に、
クラスの女子から制服を借りて、それにエプロンをした上でたこ焼きを作るということに
なったのだ。
「健太、まだ?やっぱあたしのスカートじゃ腰が入らないかしら」
「ごめん石川さん待って、今頑張って…うわーッ!!スカートのチャックが裂けた!!!」
「な、何やってんのオメー!!あわわ…これでどうやって帰れっつーのよ!!
ハーパンで帰れっての!?このダッサいハーパンで!!?」
「石川さんの腰が細すぎるのがいけないんだ」
「本気で切り刻まれたいようね」
「い、いや今のは褒め言葉なんです!ハイ!!」
そんな二人のやり取りを見ていた吉澤ひとみは、こんなことを思ってしまった。
(じょ、女装してみてー…)
197 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:33:44.73
0
ま、待て。
でもそれっていいのか?
確かに面白そうではあるが、それって男としてプライドがない行為じゃあないのか?
しかし…彼には純粋に楽しそうに見えてしまったのだ。
スカートって、履いたらどんな感じなんだろうなぁ…
は、履いてみたいぞ!!
スカート履いてみたい!!!!
そんな折、彼はクラスの女子に声をかけられた。
「ねぇねぇ、よっしぃも女装しようよ!!私の制服貸してあげるからさぁー!!!」
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
お、俺も女装させてもらえる!!
スカート履かせてもらえる!!!
可愛い格好ができるぞ!!!
別にそういう気があるわけではないが、そーいう事には純粋に
『試してみたい』という興味があった。
だが…彼は今までカッコいいものを追い求めてきた男だ。
それなりのプライドがある。
198 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:36:15.03
0
「どうしたの?黙っちゃって」
「…やらない」
「え〜!!でも、よっしぃ絶対似合うと思うよ!!顔だって中性的っていうか、
イケメンというよりも美人…」
「やらねーったらやらねーの!女装だぁ?そんなもん、オカマかプライドのない
バカがやることじゃねーか!!」
「そ、そうだね…ごめんねッ!!」
彼は、せっかくのチャンスを棒に振ってしまった(ただ、その発言がその女子生徒の
心をつかんでしまったようだが、それはまた別の話として…)。
「ちょっとよっしぃー!!ここにはプライドのないバカだっているんだから、
そういう事は言わないのーッ!!」
「石川さん、僕もできる事ならやりたくないんだけどさ…あれ?
ねぇ石川さん?聞いてる?」
199 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:38:45.08
0
それから一年以上が過ぎた今。
彼は未だに『女の子の可愛らしい服装』をしたことがない。
しかし心の奥底では、その願望は生き続けている。
だが成長をするに連れて、その願いはどんどん叶わないものになっていく…
みうなに背中を押されながら、吉澤ひとみは考えた。
(俺は…今年でもう17になったんだ…来年の四月には18さ…これは神様が与えてくれた
最後のチャンスに違いない…)
着ちゃえよ着ちゃえよ…
女装して、石川や道重みたいに「エヘッ☆」とかやっちゃえよ…
彼の中の悪魔が囁く。
(い、いや…待てよ…俺は別にそっちの気があるわけじゃあないんだ…大体俺は
部長なんだぞ…ああ、でもこれを逃したら二度と着る機会ないだろうなぁ…)
人間、誰しも人には言えない悩みを持っているものである。
吉澤ひとみの場合、まさにコレがそうだった。
カッコよくなりたい…でも、可愛い格好も一度はしてみたい…
もしかして、ここにいるヤツらよりも衣裳がサマになったりしてw
そんなことを考えたりする。
(バカか俺は…俺は…ううううううううううううううううううううッ!!!!!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
200 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:40:40.49
0
「あれ、動かない。吉澤さん、どうし…」
「俺はッ!!!着ないぞッッッ!!!!!!!!!!!」
覗き込んだみうなに唾がかかるほど、彼は大声で言った。
女装なんて…女装なんてええええええええッ!!!!
「女装なんてッ!!プライドのねーヤツのやることだ!!!!」
彼の理性は、見事に打ち勝ったのだ!!!
見よ!この男らしい彼の姿を!!!
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!
201 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:43:18.34
0
だが、彼女が黙っちゃいない。
藤本美貴、その人である。
「ハァ?あんた、何マジになってんだ?こんなの遊びだよ、あ・そ・び☆」
「遊びだぁ?大体これ、石川の衣裳だぜ!?小春にはでかかったみたいだけど、
確実に俺には小さいだろーが」
「だから遊びって言ってるンよ。別にサイズがどーとか関係ないがし。
あっしらは、ただ珍しいものが見れればそれでいいんやよーw」
高橋のヤツも、いつの間にこんなお茶目になったんだ?
こいつか?
ミキティのせいなのか?
「と、いうわけだ。着替えてくれ」
「ふ、ふざけんなよお前らあああああッ!!!何が『と、いうわけだ』だ!!!
俺がどんだけ苦しい思いしてると思ってやがんだああああああああッ!!!!!!!」
「…藤本さん、吉澤さんはこんなに嫌がってるけど」
「亀、お前ならわかるよな?美貴は、やるなって言われたらやりたくなっちゃう
性格だってことをよー」
こ、こいつら…何を言っても無駄みたいだッ!!!
特にミキティ!!こいつにはやると言ったらやる…『スゴ味』がある!!!!!!
202 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:45:05.20
0
このままではまずい。
そう判断した吉澤ひとみは衣裳を机の上に放ると、大急ぎで部室から抜け出した。
「あ、逃げた!!」
こんな形で女装してたまるか!!
煮え切らない気持ちで着たって、楽しいワケがないんだ!!!
どうせ着るなら、気分がノリノリに乗ってる時に着たい!!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
ズズ・・・
その時、彼は自分の身体が後ろに吸い寄せられてる感覚に気付いた。
徐々に、徐々に吸い寄せられていく。
彼はこの能力を知っている。
これは…まさかッ!?
「touch my heart !!吉澤さんを『ロックオン』しちゃった!!!」
「白銀の貴婦人…スノー・ドロップだとぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!?」
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
203 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:47:08.38
0
こんなことぐらいでスタンド使うのかよ!?
吉澤ひとみは心の中で叫んだ。
スノー・ドロップの能力にかかると、身体の自由までもが奪われてしまう。
すでに、彼は金縛り状態でみうなの元へ引き寄せられていった。
くそ…全身の…全身の自由が利かなくなってしまう前に…ッ!!!
「でかしたみうなッ!!そのまま部室に引きずり込んじまえ!!!」
「もちろん…ん?アレ??」
周囲の異変に気付き、みうなは視界をもう一度ロックオンしてみるこにした。
こちらに引き寄せられている吉澤ひとみの他に、もう一つ何かをロックオンして
いるようだった。
しかし奇妙なことに、そこには何もないのだ。
「何かしら…いったい…」
みうなは、興味本位でそれも引き寄せてみることにした。
もしそんな気持ちにならなければ、すべて終わっていたのに。
バチコーン!!!!!!!!!!!!!!!!!
204 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 03:49:31.86
0
「ふぎゃッ!!!!!!!」
突然、みうなの視界が真っ暗になる。
目がチカチカして、天井を見ている明るくなった視界は星が舞っていた。
みうなは、派手にぶっ倒れてしまっていたのだ。
それと同時に、ロックオンは解除されてしまったようだった。
「わーッ!!みうな!!大丈夫か!!?」
藤本美貴がみうなの身体を起こすが…どうやら、気を失ってしまったようだ。
吉澤ひとみは額の汗を制服の袖で拭い、言った。
「かかったな…身体の自由がきかなくなる前に<衝撃>を作っておいたんだ…
それにしても俺はツイている。みうなのヤツ、まさか自分から衝撃を引き寄せて
くれるなんてよ…ま、こんなことぐらいでスタンドを使ったお前が悪いんだぜ、みうな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
207 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 04:23:38.79
0
「お、オメーこそそれぐらいでスタンド攻撃してんじゃあねーッ!!」
「そうだ!そうだ!そうだ!まったくその通りッ!!!」
「うるせーぞミキティに亀井!!俺は意地でも女装はしないかんな!!!
どうしてもさせてーってんなら!!俺の首に縄でも括り付けて捕まえるこった
このドテナスビども!!!」
彼は必要以上に怒鳴りつけてやった。
これでビビらせて、変な気を萎ませてやるんだ…そう考えたのだ。
ところが吉澤ひとみにそう怒鳴られたミキティは、ビビるどころが、どうしても
この人に女装をさせたいという衝動に駆られ始めた。
なんで、そんなに女装を嫌がるんだろう…
さっきプライドがどうとか言ってたけど…絶対それだけじゃなさそうだ。
さ…させたい!!
刺激される…好奇心がツンツン刺激される…
どうしても女装させたくなるじゃねーか!!
何かないかな…女装させる方法…
こうなったら…!!!
「よーし…その話のってやんぜ!!よっちゃんさんよぉ!!!!」
「…え?」
「あたしらがアンタを捕まえたら…ぜってぇ女装しろよ?」
ミキティはキラリと瞳を光らせて言った。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…
208 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/04(水) 04:26:37.38
0
(こ、このアマ…マジで俺を女装させたいのか!?)
ミキティだけじゃない…高橋のヤツもニコニコしちゃって、どうやらヤル気は満々だ。
あ、アホすぎる…この公演前っていう大事な時期に、なに無駄な労力使おうとしてんだ!!
「う、うわああああああああああああああッ!!!!!!!」
彼は…猛ダッシュで逃げた。
なんという情けない姿であろうか。
だが、女装するよりはマシだ。女装するのは、自分の気持ちの整理が
ついてからにしたい。
「なんだか僕は気が進まなくなってきたなぁ…あの人が逃げるなんて、そんなに嫌なんだ…」
「何言ってんだか。あたしはな、意地でもよっちゃんさんを女装させたくなったぜ!?
だからアイツが言った通り、首に縄つけてでも絶対ここに連れ戻してやるさ!!」
「うぅ、いいのかな」
「…お?なんだよ愛ちゃん、いつになく楽しそうな顔しちゃってよぉ」
「ン?いやね、部長とマジでやんのもなかなか面白そうだと思っただけやよー」
「オメーはいつだってそうだな。よし、三手に別れて追いかけようぜ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
273 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:39:28.06
0
吉澤ひとみは逃げながら考える。
あいつら、めちゃくちゃ下らない理由で俺のことを追いかけ始めているが…
最も下らないのは、この俺なんじゃないか?
ワケのわからん願望とプライドに挟まれて、その結果が今の状況なんじゃあないのか?
だったら下手なプライドは捨てて、潔く、そして楽しく女装した方が…
うんそうだ、女もんの服を着ることの何が恥ずかしいってんだ。
ファッションだって、レディースの服を使ってコーデしてみたりするじゃないか。
女のXLサイズなら、イコール俺のMサイズと同じなんだ。
ボタンが左右逆になるのがちょっとめんどくさいけど。
「…って違う!!!」
吉澤ひとみは自分にそう言って我に返る。
考え直してもみろ。
ファッションと女装は根本的に違うじゃねーか。
俺はスカートも履いてみたいんだ。そりゃ雑誌でもたまに男がスカート履いて
オシャレしてる度肝を抜いたスタイルが紹介されてたりするが自分は全然イイと思わない。
むしろ、なんで雑誌に載ってるのか不思議なスタイルだ。
俺がやろうとしてるはまさにそれ…いや、完璧な女の子スタイルだから、それよりも
タチが悪い。
ど、どーしたらいいんだ!!!
274 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:41:32.47
0
答えが見つからないので、彼は逃げることしかできない。
情けなく、そしてかっこ悪い姿である。
それを彼自身がよくわかっていたので、腹立たしいことこの上なかった。
「ハァ…ハァ…」
しばらく全速力で走り回っていたせいか、さすがの吉澤ひとみも息が切れ始める。
後ろから誰かが追ってくる様子はまるでない。
完璧に振り切ったか…サッカーで鍛えた足だしな。
それとも必死になっていたのは自分だけで、みんな追ってきてやしなかったりして。
そう思うと、また情けなさが込み上げてくる。
「…アホらしい」
吉澤ひとみは一階のあたりまで来て走るのをやめた。
どうやら必死だったのは自分だけだったようだ。
無駄なことはやめだ、無駄無駄…
その時である。
ガラッ…
「ハァイ。見つけた☆」
廊下の窓が外側から開けられ、そこから顔を覗かせたのは…
ご存知、強い牙を持った狼に飢える、高橋愛である。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
275 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:43:17.26
0
本当に追いかけてきていたとは…
マジになっていたのが自分だけではなくて、内心吉澤ひとみはホッとする。
だが、そうも安心してはいられない。
なんだかんだで、最も遭遇してはならないのがこの高橋愛なんじゃあないか?
そう思ったからである。
「あっしの読みは当たったね」
「読み?」
「そ。アンタがこんな下らない理由でマジメに追いかけっこなんかするわきゃー
ねぇ〜もんなァ?」
そう言うと、高橋愛は腕の力だけで窓から校舎の中に入ってきた。
ちゃんと上履きを履いている。
「どういうことだ?」
「校舎の外に出ることはないと思ってたってワケ」
高橋愛の背後が赤く灯る。
彼女のスタンド『ライク・ア・ルノアール』が発現したのだ。
どうやら、スタンド戦に持ち込もうというらしい。
やれやれ…やっぱりコイツはそうなのか…
276 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:45:50.26
0
「おい、ちょっと待てよ。俺は別にここでお前とやりあう気はねーよ」
「首に縄を括り付けてでも捕まえろって言ったンはだぁれ?」
「アホか猿。いま下らない理由ってお前自身も言ったじゃねーか。そんな理由で
マジに勝負するのは無駄なことこの上ないだろう?この大事な時期にさぁ」
「ああン?確かに下らんネ。けど…いい口実にはなった!!!」
その瞬間、彼女の姿が消える。
いや、消えたのではない。彼の懐に潜り込んだのだ。
なんというスピード!!
これには吉澤ひとみも心底驚いた!!!
「オラァ!!!!!!!!!!!!!!」
メシャアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!
紅い拳は、彼のドテっ腹に容赦なく食い込む。その威力も凄まじい。
ずいぶん成長したな、こいつ。
腹の打撃に苦しみながらも、ふとそんなことを考えてしまう吉澤ひとみには
やはり部長の資格と才能があった。
「おいおい、いきなりそりゃないぜ…これ、不意打ちってんだぜ?」
「不意打ち?攻撃を受ける瞬間後ろに飛んでいたヤツの言うセリフかぁそれが?
こりゃあ面白くなってきたなァ…」
入部当時、あんなに控えめに見えたあの面影はもう見られない。
ったく、髪まで茶っこくしやがってよー…本当に成長しやがったな。
スタンド使いとしても、女としても!!!
だが、それでも彼は…
277 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:48:38.76
0
「おい、なんよアンタ。早くスタンドを出すがし」
「スタンド?そんなもん出す必要ないね。目的があるならともかく、理由もなしに、
しかも『女』相手に拳を作って手を出すなんてマネは俺には出来ない」
「なんだぁアンタ?あっしのこと…甘くみてんのかァーッ!!!!!!!!」
ドン!!!!
咆哮を挙げた高橋愛が再び吉澤ひとみに急接近した。
だが、彼だってバカではない。
次の攻撃には対処しようとした、確かにしたのだが…
彼女が近づいてきたのは、対処するよりも前だった。早い!!
高橋愛は、ライク・ア・ルノアールの殴ったものを凹ませる能力で床を斜めに殴り、倍化して
凸る力を利用して、吉澤ひとみのもとにすっ飛んでいたのである。
(そうか、さっきもこうやって俺の懐に…ッ)
すっ飛んでくるスピードも加わって、彼女の攻撃力も倍化しているというわけか。
高橋愛の攻撃力や能力も恐ろしいが、何よりも恐ろしいのはいつの間にか仕掛けた
大胆かつ巧妙な小細工である。
恐らく、考えてやっているのではない。
本能でやっているのだ。
「おちょきんしねまぁアァアアァアアアァアアアァアアアアッ!!!!!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!
278 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:50:49.91
0
高橋愛は考える。
今までこうしていろんなヤツをぶん殴ってきたが…
コイツ、その中でも最も歯ごたえがない。
仮にも最強の能力を持った集団を統括するだけの力を持っているハズの吉澤ひとみ。
強くなければ部長になんかなれるわけがないのだ。
それに、彼は女じゃあない。
基本的に女子しかとらないぶどうヶ丘の『演劇部』に身をおけるということは…
それだけの力を持っているということ!!
寺田に認められているということだ!!
だが、このザマはなんだろうか?
今はいいように、自分の拳の雨に打たれている。
「なんだァ?アンタ…本当に強いのかァアァァアァァァァァア〜ッ!!?」
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
279 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:53:01.90
0
やがて拳のラッシュをやめ、彼女は膝をついた吉澤ひとみを見下した。
どうやら買いかぶりすぎていたようだ。演劇部の部長…どうやら名前だけだったらしい。
高橋愛はそう思った。
「やれやれ、これこそやるだけ無駄だったようやネー。アンタの実力もよくわかった。
あっしに敵う『男』ではなかった!!その顔は殴らんでおいたよ、あと手加減もして
やったがし」
「手加減か…そりゃあよかったな」
「…ふん、少しでも期待してたあっしがバカだったヨー」
「…ている」
「あン?何か言ったかオメー?」
うざったいとでもいうように、高橋愛は吉澤ひとみを睨んだ。
言い訳か?ホント、男らしくねーヤツ…そう思った。
そして、彼は言った。
「勝ったと思った時、そいつはすでに敗北している」
「オメー、なに言ってン…」
気でも狂ったか?
そう思った彼女だったが、彼がいつの間にやらスタンド出していたことに気付いた。
Mr.ムーンライト…吉澤ひとみの、白いスタンドだ。
その時である!!
280 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 05:56:06.27
0
メメタアァァァァァアアアアァァァァアアアアッ!!!!!!!!!!!!
高橋愛の身体を、なにか見えない重たいものが襲った。
まるでとてつもなく巨大なボールをぶつけられたかのようだ。
その威力は凄まじい。
「な、なんだこれはあああッ!!!ぎゃあああああああああああああ!!!!!」
高橋愛はそのまま後ろへ吹っ飛んでいくと、何も出来ずに壁に激突してしまった。
ドッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!
「ふぅ…いてーな。ま、確かに俺は拳は握らなかったし、手も出さなかったぜ」
「あ、アンタ…なに…を…」
彼女はどうやら急所をつかれたようであった。
倒れたまま、気を失いそうになりながらも彼女は訊くと、彼はこう答えた。
「お前が俺を殴り続けた<衝撃>を取り出して、まとめてお前にぶつけてやった。
使ったのは足だけさ…よかったな、手加減しておいて。そして、急所に目掛けて
<衝撃>を蹴飛ばしたんだが…あの大きさじゃ意味なかったらしい、ははは。
前にコンコンが『急所を的確に狙えば人は簡単に気を失う』なんて言ってたのを
思い出してよ、試したくなって…あれ、おーい…なんだよ、気ィ失ったのか…とにかく、
コイツの様子を見ると、どうやらミキティも亀井もマジになってる可能性があるな…」
彼は気を失って床に倒れた高橋愛を壁にもたれかけさせるように座らせると、
下駄箱へと向かった。
生傷を増やしてまで女装に執着するなんて…どいつもこいつもアホらしい!!!
…俺も含めてな。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
284 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 07:54:24.02
0
「吉澤さんッ!!」
外に出て、校門でさっそくハチ合わせたのは、いつの頃からか一人称が
『僕』になっていた亀井絵里である。
ここのところ、彼女から『女』という空気というか雰囲気というか、
そういうものが感じられなくなったのが、吉澤ひとみにとっては不思議だった。
基本、男言葉が多くてガサツな藤本美貴や小川麻琴の方が、
まだ『女』というオーラを感じる。
そういえば、亀井はミキティやマコっちゃんと一緒にいることが多いな。
もしかして、あの二人に『女らしさ』を吸い取られているのか?
それとも、好きな『女』でも出来たか?
はは、まさかなw
でも、顔のつくりはいいのに女らしいオーラがないのはもったいない…って、
そんなことを考えている場合ではないことに、彼はすぐ気付いた。
285 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 07:55:42.26
0
「吉澤さん止まって!!」
「うるせー!!どけッ!!!邪魔なんだよ!!!!」
「わぁッ!?」
先手で一発突き飛ばし、彼女が尻餅をついている間に彼は逃げることにする。
だが…相手は射程距離の長いスタンドを操るので厄介だ。
吉澤ひとみのスタンドは、本体からせいぜい2mが限界であるが、亀井絵里の
スタンドは50mのACT1から5mのACT3までと豊富だ。
特に、ACT3には用心せねばならない。
サイレント・エリザベス(サイレント・エリーゼACT3)の、蹴ったものを無重力化する
能力にハマッたら、そこでゲームオーバーである。
以前、幽霊部員の藤本美貴を無理矢理つれて来れたのも彼女のACT3だったのだ。
亀井絵里も、そのスタンドも、パッと見た印象としては頼りなく映るかもしれないが…
彼女は、なにかとてつもない爆発力を持っている。
その瞳の奥にキラリと光る…なんというか…サワヤカなものが、部長の
吉澤ひとみにはしっかり見えていた。
(何か…『切り札を持ってるぞ』って感じなんだよな…)
286 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 07:56:37.25
0
そんな吉澤ひとみの背中を見つめ、亀井絵里は焦った。
あっちは…藤本さんが行った方角だ。
僕は吉澤さんに忠告するために待っていたんだ!!
サイレント・エリーゼで吉澤さんと高橋さんが闘っているのが見えたから…
女装の件は最初は面白がっていたけど、あの人が本気で嫌がってるのを見て、
その気持ちが萎えちゃったんだ。
嫌がっている人に無理矢理なことをさせても、大して面白くないもんね。
だから藤本さんには嘘をついて、学校の外に出たことにしておいたんだけど、
吉澤さんまで出て行ってしまったら、僕のウソはホントになってしまう!!
しかし、なんで吉澤さんはそんなに女装することに抵抗を持ってるんだろう?
けっこうその場のノリでやっちゃう男子っていると思うんだけどなぁ。
「吉澤さん待って!!!」
亀井絵里の呼ぶ声に、吉澤ひとみは振り向くことなく走り続ける。
彼は彼で必死なのだ。
「もうッ!!!」
彼女は彼を追って走り出した。
結局、追いかけっこの形になってしまうのである。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
287 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 07:57:34.83
0
「く、くそ…アイツ…ッ!!名前に『亀』って入ってるくせに足速いじゃねーか…」
それもそのはず、S市の中学校に通っていた頃は、彼女は陸上部だったのだ。
亀井絵里の脚力は、そこで大きく力をつけたと言っても過言ではない。
吉澤ひとみの身体は、すでにサイレント・エリザベスの射程距離に入ってしまっている。
(ここまでか…)
ところが、彼女はいっこうにスタンドで攻撃を仕掛けてこない。
何か理由でもあるのだろうか…。
背の低い雑草が生い茂った空き地を横目に、彼は考えつつもひたすら走った。
ふと、雑草の中から白いウサギの耳が見えたのだが、対して気にしなかった。
288 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 07:59:10.63
0
一方こちらは亀井絵里。
「うぅ…さすがにサッカー部と掛け持ちしているだけはあるな…
あと少し、あと少しなんだけど…」
追いつかない!!
奇跡的にも、このあたりを徘徊しているであろう藤本美貴と遭遇していないのが
不幸中の幸いであろうか。
「ハァ…ハァ…」
亀井絵里の体力もそろそろ限界だ。
やっぱり本物の男の子は違う…彼女はそう思った。
(そうだ、ACT3で浮かせてしまおう…そして、僕の話を聞いてもらうんだ)
「サイレント・エリーゼACT3…サイレント・エリザベスッ!!!!!!!」
ドヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!!!
289 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 08:00:34.02
0
スタンドを発現させた亀井絵里は、吉澤ひとみに向かってサイレント・エリザベスを
加速させる。
ふと、前を走る吉澤ひとみが、すぐそこの背の低い雑草が生い茂った空き地を
見ながら走っていることに気付いた。
何を見ているんだろう?
気になった彼女は、彼の背中から視線を空き地へと移す。
(あれは…ウサギの耳じゃあないのか!?)
ウサギ…亀井絵里は、今年の七月に出会い、道重さゆみにプレゼントした
スタンド使いのウサギ、レミーを思い出した。
(そういえば、あの子がいなくなってしまったとさゆから聞いた。落ち込んでいたな…
まさか…あそこにいるウサギは…)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
290 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/06(金) 08:02:21.11
0
ゴシャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!
ウサギの耳に気を取られていた彼女は、派手な音を立てて転んでしまった。
地面にヒビが入っているくらいだ。
「いてて…何もない場所でこけた上に地面にヒビが入ってるなんて…ッ」
なにか奇妙だ。
ちょっとした疑問が生まれたが、今は悠長にはしていられない。
あそこにいるウサギを取るか、吉澤ひとみを取るか…彼女の答えは決まっている。
「あれは…きっとレミーちゃんだ!!」
亀井絵里は身体を起こした。
だが、起こせなかった。
ふざけているのではない。
純粋に、起こせないのだ。
「お、重いぞ…ッ!!僕の身体が…ッ!!!!」
「一般人の男の子を追いかけている理由は知らないけど…」
見覚えのある少年が物陰から姿を現す。
サイレント・エリザベスによく似たスタンドを連れて!!!
「露伴先生の言う通り、そういう部活なのかい?『演劇部』っていうのはさ…」
『射程距離ハ ギリギリ5m内デス S・H・I・T!!』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
321 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 03:09:26.60
0
「亀のヤツ、よっちゃんさんは学校の外に出たなんて言っていたけど…」
藤本美貴は当てもなく杜王町を徘徊していた。
よくよく考えたら、外に逃げられたら捕まえるどころか探し出すことも
難しくなってくる。
(こりゃあ、逃げ切られちまったかな…?)
藤本美貴の視界には、すでに杜王駅の駅ビルが入っていた。
こんなところまで吉澤ひとみが逃げてきているとは、あまり思えない。
逃げ切りやがった…彼女はそう思った。
杜王駅付近にある開かずの踏み切りの前で、藤本美貴は考える。
一時の感情でがむしゃらに追いかけてきてしまったが…実はすごくアホらしいことを
しているんじゃないか?
このまま家に帰りたいところだが、カバンは学校に置いてきてしまったので、
結局取りに戻らねばならない。
また歩いて学校まで戻るのかよ…アホくさ。
バス使ってもいいけど、バス代もったいないし…
「あ、美貴たん」
ふいに後ろから声をかけられ振り返ると、そこにはよく知っている人物が立っていた。
藤本美貴の親友の一人、松浦亜弥である。
彼女やもう一人の親友、後藤真希と一緒なら、そこら辺の女には負ける気がしない…
藤本美貴にとっては、そう思えるほどの存在だった。
322 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 03:11:44.01
0
「亜弥ちゃん、何やってんの?」
「美貴たんこそ。部活、いま大事な時期なんじゃないの?」
「いや、まぁ大事っちゃ大事なんだけど…」
「?」
そうだ、亜弥ちゃんによっちゃんさんを見かけなかったか聞いてみよう。
どうせ彼氏とドゥ・マゴあたりでお茶していたんだろうし、見かけた可能性は
十分にあり得る。
「あのさ、よっちゃんさん見なかった?」
「よっちゃんさん…?ああ、美貴たんがよく言ってるサッカー部の?
かっこいいというか美人な男の子でしょ??」
「そうそう、ちょっと今追いかけててさ」
「うーん…ゴメン見てないや。何?なんで追いかけてるの?アプローチするの??」
「こんな冬場に汗まみれでアプローチなんかしようと思う女なんかいるかよ。
実はいろいろあってよぉ…」
藤本美貴は、松浦亜弥に事の次第を話した。
説明していて思ったが、けっこうアホらしいことに体力使ってるな…と思う。
だが、同時にやはり吉澤ひとみには女装をさせたいという気持ちにもなる。
323 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 03:12:50.14
0
「…つーわけよ」
「へぇ〜あの人が女装かぁ」
「見てみたくね?」
「うん、あの人どっちかっていうと女の子顔だし、頭にリボンとかつけてみたいw」
「うはwそれ絶対ウケるwwwなんかやる気出てきたし。とりあえずさ、見かけたら
電話くれよ。もし捕まえることが出来たら亜弥ちゃんにも見せてあげっからさぁ☆」
「うんわかった!あ、真希たんから聞いてる?今晩三人でカラオケ行こうって話」
「ああ、そういやそうだったな。三人で遊ぶのも久々だな〜どっかの誰かが
彼氏とばっか会うようになってからホント付き合い悪くなったからなぁ」
「あーあー聞こえない。じゃあ、彼のこと見かけたら連絡するね」
「おう、じゃあまた後でね」
「うん、グッバイ☆」
324 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 03:15:24.43
0
タイミングよく遮断機が上がり、藤本美貴は松浦亜弥に手を振るとまた走り出した。
そんな彼女の後姿を眺め、松浦亜弥は思う。
付き合いが悪くなった…か。
それは美貴たんの方なんじゃあないかなぁ?
「でも、あの人の女装は見てみたいな〜」
ブロロロロォォォォォォォォン…
突然、頭の中で何か排気音のような低い音が響く。
トラック?
そう思い振り返るが、車線を通過したのは一台の軽自動車だけであった。
気のせいか…彼女は特に気にとめることもなく歩を進めることにした。
暴走する巨大な棺桶は、今また不気味な唸り声を上げる…
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
327 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 05:48:31.32
0
亀井絵里が派手にこけたため、吉澤ひとみはその隙に彼女との距離をグンと離す。
しかし、なぜ何もないところでヤツは派手にスッ転んだのか…疑問に思ったが、
今は気にしないことにした。
(きっと俺の日ごろの行いがいいんだな)
それにしても、この短時間でむちゃくちゃ体力を使った。
高橋愛に殴られた場所は痛むし、亀井絵里から逃れるのに全速力で走ったので
息は絶え絶えだ。
こりゃあシャトル・ランよりきついぜ…
亀井絵里が追いかけてくる様子もないようなので、彼は一休みすることにした。
丁度いいところに自販機もある。
「ふぅ…何飲もうか。汗もかいたしポカリ…いや、ここは大人ぶって缶コーヒーとか」
コイン投入口に小銭を入れると、彼はポカリと缶コーヒーの間で指を
行ったり来たりさせた。
どちらにしようか悩んでいるのだ。
「そーいえば、ミキティが『悩んだ時は同時押しがいい』と言っていたな」
そうすると、押す直前で自分の本当に欲しい方を無意識に決めて、本当に
欲しい方が買えるんだそうだ。
よし、そいつを試してみよう。
ピッ ガシャン!!!
328 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 05:49:29.23
0
出てきた缶を眺め、吉澤ひとみはそれを握る。
出てきたのは、暖かい缶コーヒーであった。
「ポカリの方がよかったかも」
ミキティめ、騙しやがったな。
心の中で毒づくと、彼は缶のブルタブを開け、それを口にする。
運動した後にコーヒー。
なんだか意味がわからなかった。
ブロロロロロォォォォォォォン…
遠くから低く重たいマフラーの音を耳にしたので見てみると、向こう側から
トラックがこちらに走ってくるのが見える。
こんな狭い路地をトラックでか…ご苦労なこった。
つーかここ、一通じゃねーの?
とりあえず邪魔にならないように塀の側によると、吉澤ひとみは缶コーヒーを
口にしながらそのトラックをなんとなく眺めていた。
「…え?」
それは奇妙なトラックであった。
何が奇妙なのか?
一言で言えば…そう、運転席がガラ空きだったのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
329 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 05:50:09.54
0
目の錯覚かッ?
走り去っていったトラックの後部を見つめ、目を擦る。
なんだったんだろうか…今のは。
「気のせい…だよなぁ」
胃に物を入れたあとは血が胃に行くからな…
もしかしたら、背の低い兄ちゃんが運転していたのかもしれない。
飲み干した缶コーヒーを自販機の側に置かれているクズカゴにいれると、
トラックが走り去っていった方とは逆の方向へ歩き出す。
亀井絵里が追ってくる様子もないし、走る必要もないだろう。
ブロロロロロォォォォォォォン…
低く重たい排気音が聞こえる。
これは先刻のトラックが出していた音だ。
ふと後ろを振り返ると…
「な…ッ!!!!?」
さっきのトラックが、ぐんぐんコチラに向かって迫ってきているではないか!
運転手は…いない!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
330 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 05:51:09.10
0
「な、なんだこいつは…!!」
トラックの中身はからっぽだ。助手席にも人っ子一人座っていない。
ゆ、幽霊トラック…ッ!!!!
しかし、こんな真昼間に幽霊なんて出るのだろうか?
ブオォォォォォォォォォォォォン!!!!
「うおぉぉぉぉッ!!!!!!」
吉澤ひとみに考えている時間はなかった。
どういうことなのかは分からないが、間違いなくこのトラックは俺に迫ってきている!!
直感で気付いた彼は、急いで走り出した。
だが、所詮ひとの足とトラック。
その足の速さの差は歴然である。
「俺を退こうとしている…!?こ、こいつは…ッ!!!!」
トラックまでの距離はもはや数メートル。
あと少し、少しだ…!!!
331 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/07(土) 05:52:45.71
0
「うわああああッ!!!!」
彼はすぐ横の路地裏に飛び込んだ!!!
間一髪だった…もし、この路地裏の入り口が数メートル先であったら…
幽霊トラックは、路地裏に飛び込んだ彼を見失ってそのまま直進していったようである。
「ハァ…ハァ…なんだったんだよ、今のはよー…」
これではなんのために休憩したのかわからない。
それに、飲み物を飲んだ後に急激な運動をしたためか、横ッ腹が痛くなった。
なんだかワケのわからん目にあってしまったなぁ…
しばらくこうして町をふらついて、ほとぼりが冷めた頃に学校へ戻ろう。
彼はゆっくりと歩いて路地裏を出た。
ブロロロロロォォォォォォォン…
彼は視界に入ったトラックに気付いて青くなった。
まるで、待っていたとでも言うように低音で唸るトラックが停車していたのだ!!
もちろん、運転手はいない。
そ、そんなバカな…さっきの道からここまでは、道幅が狭いから車じゃ結構かかる
はずだぞ…来れたとしても、俺を待つことが出きるほど短時間では来れない!!
こ、これは…まさか!!!
「す…スタンド攻撃だッ!!!!!!!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
369 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 05:14:20.58
0
ブオォォォォォォォォン!!!!!!
再びトラックが吉澤ひとみに迫ってくる。
どうする!?
また路地裏に逃げ込むか、それとも…
「たたッ壊してやるか!?」
吉澤ひとみのスタンド『Mr.ムーンライト』が出現すると、地面を一発、力強く殴った。
そこから生まれた<衝撃>を足で取り出すと、それを幽霊トラック目掛けて蹴り飛ばす!!
「テメーの心にッ!!ドライブシューッ!!!!!!!!」
ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンンン!!!!!!!
亀井絵里が以前口にしていた言葉を真似して叫び、力強く蹴り飛ばした
その<衝撃>の威力は凄まじいものだ。
だが…
ボゴーン!!!!
幽霊トラックにはヒットした。
だが、ヒットしただけである。トラックは何事もなかったかのようにこちらへ向かってきていた。
その時、幽霊トラックのナンバープレートが目に入り彼は恐怖する。
「『Good by』だって…う、うおぁああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!!!」
命懸けの逃走者(ランナウェイ)、吉澤ひとみ。
彼にとって最も過酷な追いかけっこは、これから始まるのであった…
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
372 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:47:56.80
0
重くされた身体を抱えて、亀井絵里は考える。
彼…広瀬康一くんがスタンド使いだということを、僕は知っている。
以前、部活をバッくれようとした藤本さんを捕まえたのは、偶然とはいえ彼だからだ。
僕は結果的に捕まえたことになっただけで、真の意味で捕まえたのは広瀬くんなんだ!!
そして、その時に彼の能力も目の当たりにしている。
物を重たくする能力…僕は今、それにかかってしまったんだ!!
けど、どうしてもわからないことがある。
何故…広瀬くんが僕にこんなことをするのかっていうことだ!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「女の子相手に手荒なマネはしたくない…だから、大人しく喋ってもらいたいんだ。
きみが所属している『演劇部』ってヤツがなんなのか…なぜ、いま男の子を
追い掛け回していたのか…」
動けなくなった亀井絵里に、広瀬康一は一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
その姿は普段クラスで彼女が目にしていた、パッとしない『広瀬康一』ではなかった。
何か使命感を帯びた…そういう目つきをしていた!!!
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
373 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:49:30.81
0
「ふ、ふざけるなよ…僕は…ッ!!!」
なにがなんだかわからないけれど、今はきみなんかにかまっているヒマはないぞ!!
あそこにいるウサギを…レミーちゃんを捕まえるんだ!!!
あの子を連れて帰れば、きっとさゆは喜んでくれる…ッ!!!!
亀井絵里の脳裏に、ウサギを抱いて微笑む道重さゆみの姿が浮かんだ。
こうなると、誰にも彼女は止められない。
吉澤ひとみが感じていた亀井絵里の爆発力の起爆剤は、主に道重さゆみだったのである。
「サイレント・エリーゼACT3!!!!!!!」
『リョ、了解シマスタかめりん様…ウゥ、身体ガ重イ…』
スタンドの足が、数回彼女の身体を突付くように蹴る。
すると…
「そ、そんな…『3・FREEZE』で攻撃したのに立ち上がるなんて…ハッ!!まさかッ!?」
「ふぅ…前もこうしたことがあったね、僕と広瀬くんの能力の<相乗効果>ってやつだよ。
きみの目的こそなんなのか知らないけれど…今はきみに時間を費やしているヒマは
ないんだ!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
374 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:51:05.03
0
亀井絵里は走り出した。
ほんの数メートル先で、雑草の茂みから耳をはみ出させたウサギに向かって。
頭隠して耳隠さず…いや、なにか違うな。
「待てッ!!逃げるのか!?」
広瀬康一は、空き地に向かって走る亀井絵里に叫んだ。
なぜ、彼が突然亀井絵里に対してスタンド攻撃をしかけたのか。
そのキッカケは、数日前まで遡る。
375 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:52:35.22
0
『もしもし、康一くん。ぼくだよ、露伴だ…』
「露伴先生…?突然どうしたんですか??」
『ちょっときみに調べて欲しいことがあるんだ』
「え…?」
『おいおい、そう嫌そうにしないでくれよ。きみしか頼める人がいないんだ』
「そう言われてもなぁ…僕、これから学習塾に行かないといけないんです。
ですから手短にお願いしたいんですけど…」
『うん。で、用件なんだがきみの学校の…何だったか…えぇっとそう、演劇部だ。
その演劇部に関してなんだけどさ』
「演劇部?それがどうかしたんですか?」
『ああ、恐らくスタンド使いの集まりだ。それもかなり強力な…』
「!!」
376 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:53:54.12
0
『調べてもらいたいっていうのはそのことさ。演劇部が何を企んでいるのか…
康一くん、きみの友達で演劇部の部員はいるかい?』
「友達ってほどの仲でもないですけど、クラスに一人…あの露伴先生、どうして
そんなことを知ったんですか?」
『ああ、ちょっとバスの中で一悶着あってね…ま、そっちの方はすでに対処をして
おいたから安心してくれよ。ただ、そいつは演劇部員のくせに何もわかってない奴でさ…
その事は今度会った時にでも詳しく話すよ』
「はぁ…」
『大それたことはしなくていい。ただ、演劇部のこと…どんなことでもいいから
わかったら教えて欲しいんだ。取り返しのつかないことになる前にすべて終わらすために』
「そのこと、仗助くんや億泰くんには?」
『話すわけないだろう。あんな直情型のバカ達に任せたら調べるどころの騒ぎじゃ
なくなるじゃないか…康一くん、ぼくはきみだから頼んでいるんだぜ?』
377 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:56:03.12
0
そんな電話が友人の岸部露伴からかかって来てから、広瀬康一はクラスメイトであり
演劇部の部員である亀井絵里の行動に注目してみた。
だが、特に彼女には変な動きはなかった。
逆に自分が変な動きをしているな、と思ったぐらいだ。
(しいて言うなら、亀井さんはいっつも中等部の子とつるんでいるな…クラスに
友達がいないってワケでもなさそうなんだけど)
もしかして、露伴先生にからかわれているのかな?
彼はそう思って、その話を軽く見ていた。
あの電話のあとに岸辺露伴と会って、彼から『時間を戻す能力』をもった女子高生の
スタンドをボロボロにしたという話を聞いたが、その能力の印象がまた強烈すぎて、
どうにも実感がわかず、鵜呑みにしていいものか少し考えてしまった。
だが…彼はちょっぴりだけ気になったのだ。
岸部露伴を信じることにしてみたのである。
(露伴先生が『スタンド』のことでぼくをからかうのはおかしいもんな…背中にとりつく
スタンドの件もあったし…)
378 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:57:21.24
0
そして今日!!
彼がガールフレンドの山岸由花子と一緒に下校しようと校門へと向かっていた時!!!
男子生徒を止めようとして逆に突き飛ばされ、それでも必死に追いかけようとする
亀井絵里の姿を見たのだ!!
(あ、あれは普通じゃないぞ…何があったんだ!?)
きっと何かあるぞ!!
そう確信した広瀬康一は、山岸由花子を置いて、亀井絵里を追いかけることにした!!!
「こ…康一くんッ!どうしたの?」
「由花子さんゴメンッ!用事を思い出したんだ…先に帰ってて!!」
「あ、待って…」
もしかしたら、何もないかもしれない。
けど、露伴先生の言っていたことに、少しでも可能性があるとしたなら…
彼には、追いかけないわけにはいかなかった。
「康一くん…まさか…あの女を追いかけていった…?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
379 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 06:59:04.70
0
そして、追いかけた末に彼が目撃したものは…
必死で亀井絵里から逃げようとする男子生徒に向かって、スタンド攻撃を
仕掛けようとした彼女の姿である!!!
本来なら、康一自ら攻撃を仕掛けるつもりはなかった。
岸辺露伴も、そこまではしなくていいと言っていた。ただ、調べるだけでいいと…
だが、あの状況では致しかたなかった。
あの男子生徒を助けるには、彼女を止めるしかない!!
そう思ったのだ。
こうして、今の状況に辿り着いたというワケである…
しかし、彼女はいったい何を考えているんだろうか?
能力を<相殺>させたかと思いきや、空き地に向かって走り出したではないか!!
逃げる気だろうか?だとしたら…
(それはまずい!!!!)
露伴先生の言う通りだったとしたら、ぼくが彼女を攻撃したことは演劇部に
知られてしまうぞッ!!もしそうなったらぼくは一体どれだけのスタンド使いに
狙われることになるんだ…?
い、いま亀井さんを逃がすことはできないッ!!!
「待てッ!!逃げるのか!?」
彼はスタンド『エコーズACT3』を解除し、かわりに…!!
383 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 08:53:40.53
0
ビタァ!!!!!!!
亀井絵里は右腕に何かが貼り付いたような違和感を感じた。
だが、そんなことを意に介している余裕はない。
彼女はウサギに走り寄るスピードを速める。
『バギ!』
「うっ」
突然、耳鳴りが彼女を襲った。
まるで殴られた時のような音であったが…
『バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!』
「うッ…うわぁ!!!」
な、なんだこの耳鳴りはッ!!
彼女は思わず立ち止まり、耳を塞ぐ。
その時、腕に何か変なものが貼り付いていることに気がついた。
384 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 08:55:19.43
0
「も…文字?『バギ!』って読むのか…この変な文字は…ッ!?」
パンパンはたいたり、ゴシゴシ擦ったりしてみるものの、腕に貼り付いている
『バギ!』という文字が消えることはない。
「き、消えないッ!!」
『バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!』
「お…おぉああああああッ!!こ、これは…ッ!!!身体の内部から聞こえてくる
こ…この『音』はッ!!!」
身体の内部から響き渡る音の攻撃に、亀井絵里は悶絶する。
そんな彼女に、広瀬康一は言い放った。
「エコーズACT1!!きみの身体に『音』をしみ込ませたッ!!!」
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!
385 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 08:56:48.18
0
そ、そういえば…学校で習った松尾芭蕉の名句にこんなのがあった…
『静けさや 岩にしみ入る 蝉の声』
これも…広瀬くんのスタンド能力だっていうのか!?
亀井絵里は心の底から驚いていた。
この能力もそうだが…なにより、彼のスタンドも『進化するスタンド』らしいと
いうことにである。
彼はいま『ACT1』と言っていた…ということはつまり!!
「同じタイプだ…僕と広瀬くんのスタンドは…同じタイプのスタンドッ!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
386 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 08:58:32.72
0
「これ以上きみに苦しい思いはさせたくないッ!!これから言うぼくの質問に
答えるというなら、その『音』を取ってやるよ…!!!」
「うぅぅぅぅ…ま、負ける…もんかッ!!!」
亀井絵里は、無駄だとわかっていながらも耳を押さえて『音』の攻撃に耐えていた。
その精神力に、広瀬康一は圧倒される。
しかし、実は彼は手加減をしていた。
貼り付けようと思えば、まだまだ『音』は貼り付けることが出来るのだ。
それをしないのは、彼の良心が常人より大きいからである。
だが、それがこの闘いをさらに長引かせることになってしまう。
「早く『質問に答える』と言うんだ…ッ!!それ以上ガマンしていると…
実際…ぼくの方もきみの身体がどうなるか知らないんだ!!」
『バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!』
「うあ…ッ!!!!」
「い、意地をはってないで!!『質問に答える』と言ってくれ!!!」
こ、こんなところで僕は…ッ!!
僕は…そこにいるレミーちゃんを意地でも捕まえて、さゆのもとに帰すんだ!!
それを…それを邪魔するっていうんなら…容赦はしないぞッ!!!
『バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!バギ!』
「こ、こんなんで…こんなんで僕をヤろうってえぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
ドッヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!!ポーン…
387 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 09:00:11.87
0
彼女の身体から『バギ!』の文字が剥がれ落ちる。
突然の事態に、広瀬康一は驚いた。
能力を解除した覚えはない、まさか!!
目を凝らして見たその先には…
「さっきとはカタチの違うスタンド…!?か、亀井さん!!きみのスタンドも…ッ!!!」
「サイレント・エリーゼACT2!!また<相殺>したね…広瀬くん!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
サイレント・エリーゼACT2(サイレント・エリドリアン)は『音の概念』を弾き出す
スタンドである。
本来ならば、彼女のACT2で引っ叩いたものは『音の概念』を失うために、
聴覚が麻痺してしまうハズなのだが…
今回の場合、第三者によって貼り付けられた『余計な音の概念』が存在したため、
それを弾き飛ばすことのみで終わった。
結果、広瀬康一のエコーズACT1による『音をしみ込ませる能力』は、亀井絵里の
スタンド能力により、彼女の聴覚はそのままで、はじき出されてしまったのである!!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!
388 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 09:02:01.96
0
「そしてそれだけじゃない…僕のACT2には…ッ!!!」
強力な『しっぽのラッシュ』があるッ!!!
彼女は、広瀬康一に向かってエリーゼACT2を急加速させた。
そして放つ!!
「トゥトゥトゥトゥトゥトゥトゥ…」
トゥキティアァッッッッッ!!!!
そう叫ぶことはできなかった。
しっぽが彼の身体に触れた途端、どういうわけか身体が吹っ飛んだのだ。
エリドリアンの方も亀井絵里とは逆の方へ吹っ飛んだが、もともと射程距離が
10mと長いスタンドなので、その場から消えてしまうことはない。
ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!
「うぅ、いてて…いったい何が…?」
「ぼくの方もACT2を使ったんだよ…エコーズACT2さ!!きみは『吹っ飛ばす文字』に
触れたから吹っ飛んだんだ…『吹っ飛ばす文字』がひっついたぼくに触れたから…ッ!!」
広瀬康一の身体には『ドヒュウウウウウウ』の文字がひっついていた。
だが、そんなことよりも亀井絵里は気になったことがあった。
彼の能力にハマッて吹っ飛んでしまったが…こいつはラッキーだ!!
手を伸ばせば、すぐそこにはレミーらしきウサギがいたからである。
(や、やった!!痛い目に合っちゃったけど…結果オーライだ!!)
389 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/08(日) 09:03:31.18
0
亀井絵里は雑草の茂みをかき分け、ウサギの姿を確認しようとする。
広瀬康一の声が聞こえたのは、それとほぼ同時だった。
「トドメだッ!!!」
エコーズACT2がしっぽを変形させている。
『文字』を生成しているのだ。
そして、それを亀井絵里のすぐ側の地面を目掛けて投げつけた!!
ビッタアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
狙いは正確、見事に亀井絵里のすぐ側の地面にしっぽ文字がひっつく。
彼女の目に飛び込んできたその文字は…
『ドッカーン』
亀井絵里は白くなった。
さっき…彼が説明したとおりの能力だとしたら…
これは爆発する文字だぞ!!!
「う、うわああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
511 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:47:31.66
0
どうする!?
これがさっきの彼のACT1の能力と同じ原理だとしたら、自分のACT2の
能力で文字を弾き出す事が出来るかもしれない。
しかし、そのためにはACT2をここまで戻す必要があるッ!!
そのACT2は、広瀬康一の能力ですっ飛んで、向こう側にいるのだ。
(こっちに戻している余裕はないぞ!!だとすれば…)
広瀬くんを攻撃するしかない!!
彼との距離なら地面が爆発する前に攻撃を仕掛けられるぞ!!
だけど…それでいいのか?
僕がどう足掻こうが、地面がもうすぐ爆発するのは変わりない。
なら相打ち覚悟で…
そこで彼女は思いとどまった。
彼女には、彼を攻撃する理由がないからである。
さっきは頭に血がのぼってスタンドのしっぽで引っ叩こうとしたが…
今それをしてどうなるというのだろうか。
なぜ広瀬康一が自分を攻撃してくるのか、それはわからない。
だが、なんの恨みもないクラスメイトを傷つけるのはもっとイヤだ。
争いは争いしか生まないのだから。
それなら、今の自分にできることは…
彼女は、目の前のウサギを身体で覆うようにして伏せた。
そう、今の自分に出来ることは、なんの関係もないレミーちゃん(と彼女は思っている)を
これから起こる爆発から守り抜くことだ。
バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!
512 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:48:41.63
0
「・・・・・・・・・・・?」
静まり返った空気を感じて、亀井絵里は頭を持ち上げる。
変だな…爆発…しないぞ?
言葉のニュアンス的に『ドッカーン』は爆発音だと思っていたが…
「あッ!!」
彼女は奇妙な光景を目の当たりにして、思わず声をあげる。
地面から『ドッカーン』の文字がはじき出され、それを広瀬康一の『エコーズACT2』が
丸め始めたではないか。
丸めた文字は、やがて尖ったしっぽの先に変わり、エコーズACT2は「ビィ!」と
一声鳴くと、それをしっぽに接続した。
「攻撃を…やめたのか…?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…
「同じような能力か…今きみがとった行動…ぼくを攻撃出来るのに…なのに…
それをしないでそこにいるウサギを庇うことだけに専念したところを見てよくわかったよ…」
広瀬康一はゆっくりとスタンドを解除する。
彼のエコーズACT2は、彼の身体の中に溶け込むようにして消えた。
そして、うつ伏せのまま自分を見つめる彼女に、彼は言った。
「きみは『いい人』だ」
513 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:50:02.15
0
ゴソゴソ…
身体の下から抜けたがっているウサギに気付き、亀井絵里は慌てる。
しまった、必要以上に地面に身体を押し付けて潰してしまっていた。
彼女はゆっくりと身体を起こし、ウサギの身体を抱く。
なんだかんだで、レミーちゃんを捕まえることはできたな…
「レミーちゃ…」
こちらを見たウサギの顔には…黒い模様があった。
あれ…レミーちゃんって、全身が雪のように真っ白だったハズ。
もしかして人…いや、ウサギ違いか?
亀井絵里は脱力のあまり膝をついてしまった。
「…違うじゃん。この子…」
ウサギは彼女の腕から抜け出ると、空き地の奥へと駆けて行ってしまった。
野良ウサギだったのだろうか?
杜王町って野良ウサギとかいるんだ…。
「今のはきみのウサギかい?行ってしまうけど」
「いや、いいんだ。人…じゃなくてウサギ違いだったから。それより…」
514 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:51:11.76
0
亀井絵里は制服のスカートについた砂埃をパンパン払い、広瀬康一に向き直る。
「どうして僕を攻撃したの?それを教えてほしい」
「待ってよ、最初に質問するのはぼくだ」
「演劇部…って言ってたよねさっき。どうしてそんなことを訊くの?」
「だからぁ…質問はぼくが先だってば。演劇部がいったい何をしようと
しているのか…なぜさっき男子生徒を追い掛け回していたのか」
「演劇部が何をしようとしているかだって?きみの質問の意味がよくわからないよ」
「どんなことでもいいんだ」
「…広瀬くんが何でそんなこと訊くのか教えてくれたら話すよ」
「えぇッ!?ずるいぞ!!!」
教えてくれたら話すなんて言いつつも、演劇部が何をしようとしているかなんて、
彼女自身も知っていることではなかった。
演劇なんじゃあないだろうか、だって演劇部なんだし。
でも、たぶん彼が言っているのはスタンドのことなんだろうな。
スタンド使いしかいない…スタンドを持っていることが絶対条件の演劇部。
なんか…おかしいよな、それ。
なぜ、今まで深く気にしなかったのだろう。
亀井絵里は、自分の所属している部活が一体どういうものなのか、少し興味を持ち始めた。
「とりあえず、どっかでお茶しながら話そうよ。広瀬くん」
515 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:52:46.26
0
「ハァ…ハァ…ッ!!!」
吉澤ひとみは走っていた。
日は沈み、空は暗くなり始めているようだ。
だが、依然幽霊トラックは彼を追いかけてくる。
ブロロロロロォォォォォォォ…
敵の正体がわからない以上、大通りに出るわけにはいかない。
関係のない一般人を巻き込む恐れがあるからだ。
幽霊トラックはスタンドだろうから、一般人は避けることも敵わず轢かれてしまうだろう。
「畜生…ッ!!本体はどこにいやがる!!コソコソしやがって…!!!」
だが、彼は感づき始めていた。
おそらく、幽霊トラックの本体はこの近くにはいない。
かといって、遠くから自分を見ているわけでもないだろう。
細い路地に隠れても、あっちこっちに出現するのだ。
そして、その幽霊トラックのとる行動は極めて単純で、自分を轢こうとしているだけだ。
これは…まさか…
…遠隔自動操縦。
516 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:53:59.08
0
この幽霊トラックは、前に亀井と高橋がぶっ倒したらしい押尾学のスタンドと
同じタイプのスタンドなのかもしれない。
目標がブッ潰れるまで追いかけてくる…それでいて本体は何もしてなくていい…
なんてクソったれなスタンドだ。
日は完全に沈み、夜になってしまった。
疲労は極限まで足に来ている。
「こいつはまずいぜーッ…そうだ!!!」
自分の攻撃は単発の打撃なので通用しないが…
小春のビスケッツ達ならどうだろうか?
久住小春の『ミラクル・ビスケッツ』は、道重さゆみのスタンドが吹き出した爆弾の
シャボン玉を分解して持ち歩けるし、プールの水をも分解できるそうだ。
しかも、自分の作り出した<衝撃>も分解して跳ね返したこともある…らしい。
ミラクルな彼女のスタンドには、分解できないものはないのかもしれない。
「そうとわかれば…ッ!!!」
彼は携帯電話を取り出した。
小春を呼んで、トラックを…この幽霊トラックを分解させるんだッ!!!
そして、吉澤ひとみは最大の誤算に気付く。
「あいつ携帯電話もってねえええええええええええええ!!!!!!」
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!
517 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:54:58.85
0
そう、田舎からこちらに引っ越してきた久住小春は、携帯電話というものを
まだ持っていないのだ。
そもそも、中学一年生で携帯電話を持っているやつの方が見た事がない。
高校生でも持ってないヤツいるのに。
吉澤ひとみは絶望に打ちひしがれる。
そんな彼を、さらなる絶望が襲った。
「い、行き止まり…ッ!!!」
万事休すとはこのことか…
ブロロロロロロロロォォォォォォォォ…
幽霊トラックのライトが上向きに変わり、眩しく彼の全身を照らすと、壁に大きな
影を作った。
その絶望の最中。
希望の光が吉澤ひとみの身体に降り注いだ。
518 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:56:01.87
0
「あ、もしもし美貴たん?どうしたの?」
『おう、いま真希ちゃんから電話あってさ。暇だから早く集まろうだって。
カラオケ行く前に<ジョニーズ>で飯でも食おうぜ』
「おッいいねいいね。あそこのオニオン・グラタンスープ大好きなんだよね」
『えぇ〜ッあれ三百三十円もすんじゃん。あ〜金持ちは羨ましいよ』
「ところで、彼は見つかったの?」
『よっちゃんさん?あぁ、見つかんないし、だりーからもう家帰ってきた』
「あ、そうなの」
『うん、じゃあたし風呂入ってから行きたいからもう電話切るね』
「えッ?間に合うの??」
『大丈夫、真希ちゃんも遅れるだろうから。じゃあ後でね…あ、待ち合わせ場所は
変わらず杜王駅だから。一時間早めただけだかんね』
「うん、わかったぁ」
『じゃねー』
ガチャッ…ツー…ツー…
「…さて、ちょっとオシャレしちゃお。オニグラスープ楽しみだなぁ☆」
この時、松浦亜弥は吉澤ひとみの女装が見てみたいと思っていたことを忘れた。
519 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:57:48.47
0
サァァァァァァァァ…
月の光が彼を優しく包み込む。
満月…そうか、今日は満月だったのか…
藤本美貴に新たな力を与えた満月の光。
そして彼の『Mr.ムーンライト』もまた、月の光でパワーアップするスタンドだ。
しかも、満月の光…最高のエネルギー源だ。
「逃げる事ができねーってんなら…たたッ壊してやるぜーッ!!!!!!!」
吉澤ひとみのMr.ムーンライトが、月の光よりも眩しく白い輝きを放って
身体から飛び出した。
幽霊トラックめ…ここまで俺を追い詰めたことだけは褒めてやる。しかし…
「その車体ッ!!れんこんみてーにしてやるぜー!!!
AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!!!!!」
ドッボァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
520 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:58:31.91
0
一瞬のうちに見えない<衝撃>が無数に生成され、彼の周りを跳ねている。
幽霊トラックは目前まで迫ってきていた。
だが、間に合う!!!
「YEAH YEAH YEAH YEAH YEAH YEAH YEAH!!!!!」
ドドゴドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
目にも止まらぬ高速蹴りは、一瞬のうちに生み出した<衝撃>をこれまた一瞬のうちに
すべて蹴り飛ばす。
目には見えないが、すべての<衝撃>は一直線にトラックへと迫っているだろう!!!
「ぶっ壊れろ!!俺の<衝撃>で粉々になっちまうんだ!!このドグサレがああッ!!!」
シュンッ…
ドゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
521 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 05:59:54.96
0
砕けたのは…幽霊トラックの向こう側にあったブロック塀だった。
彼の放った<衝撃>が当たるか当たらないかのところで、なんと幽霊トラックは
消失してしまったのだ。
たちまち、あたりは静かになる。
幽霊トラックが再び出現するような気配は感じられなかった。
終わった…のか?
ドサッっと音を立て、彼はコンクリートの上に寝そべった。
アホか…何やってんだ俺は…
俺は女装がしたくなかっただけだ(したかったけど)。
それで逃げ出したんだ…
それなのに、なんでこんな目に合わなくちゃなんねーんだ。
「それにしても、あの幽霊トラックはなんだったんだろう…一応、寺田のおっさんに
報告だけはしておくか」
視界には、珍しく星空が広がっていた。
最近曇りが多かったからなぁ。
こんなんで、今年はクリスマス公演うまく行くのかな。
ふと、そんな心配をした。
522 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/11(水) 06:03:15.03
0
本体 ???
スタンド名:幽霊トラック(本当の名は謎)
広瀬康一
スタンド名:エコーズ
TO BE CONTINUED…