425 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/21(水) 01:56:55 0

銀色の永遠  〜ブギートレインは白銀に輝いて〜


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「知っとるか?脱出が不可能な迷路なんてないんや」

『迷路?』

「せや、壁に引っ付いて移動すれば、時間はかかるが必ずゴールに辿りつけるンや。
壁は、外まで繋がっているんやからな」

『なんか違うような気もするが、興味深い話だな』

「しかし、それが通用しない迷路もまた存在するワケやな」

『…君が何を言いたいのかわかったよ。これだろう?君はこのDISCが
欲しいんじゃあないのかい?』

「…神父はん、すんまへん。これが、以前エジプトで手に入れたって言う
『迷路を作り出す』スタンドやろか?」

『ちょっと違うな…正しく言えば「幻覚を作り出す」スタンドだよ。元々、
ある男に仕えていた者が館を迷宮に変えるために使ったようだが…なんだい?
また、ナイフを研ぐつもりなのかい?』

「そうやな、長い間病院に引きこもってまって、大分丸くなってしまったナイフが
一本あんねん。その切れ味を再確認するため…やな」



426 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/21(水) 01:59:32 0

『ほう…おや?なんだいその手は。まさか、無償でこれを譲ってもらおうとでも?』

「違うんか?別に貸してくれるだけでいいんやけど」

『…やっぱり君は面白いヤツだな。君を見ていると人間の本質を見ているようで
とても心が和むよ。実に興味深い』

「正直に生きてりゃいっぱい、感動に出会うさかいな。それとも、ワイの頭から
無理矢理DISCを取り出してみるか?物々交換と称して」

『ふふ、前にも言ったがスタンドとは個人の才能なんだ。強すぎたら誰にも扱えないし、
例え扱えたとしてもまったく同じ能力が発言するとは限らない…それに、私は
君が持っている力に非常に興味を持っている。それは君だから扱える才能なんだ。
だから、今はただ傍観していることにするよ』

「さよか。神父はん、このDISCの…スタンドの名前は?」

『…ティナー・サックス』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


471 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:04:32 0

時刻は8時50分。
今日は9時に、中等部から高等部の生徒は『生徒総会』が行われるので、
それまでに体育館に出向かねばならない。
こんな寒い日に朝っぱらから体育館とかいってな、ご苦労なこった。
けど、あたしはそれには出ないんだ。
もっと面倒くさい事が待っているからだ。

『幼稚園での紙芝居上演』

上演…上演ねー。
まぁ演劇部だもんな、ここ。そんな活動があったっておかしくはないな。
でも、一人で行くってことに気が引けるんだよ。
一クラスずつ回って、紙芝居を見せてあげるのか…どんだけ時間がかかんだろう。
梨華ちゃん曰く、今回の指令は幼稚園のクリスマス会の催し物の一つらしい。
ぶどうヶ丘高校の演劇部が出向くのは、今年が初めてなんだそうだ。
美貴が第一号ってワケさ。
だが、問題はその紙芝居なんだ。
全クラス回った後に、その紙芝居を幼稚園にプレゼントとしてあげなきゃいけない
みたいで、手作りの紙芝居じゃあなきゃならないんだそうだ。
幼稚園側が言うにはその方が価値が出るんだってさ。
め、めんどくさすぎる…



472 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:05:44 0

そんなわけで、昨日クレヨンと画用紙を買って、今こうして早起きしてまで
部室に来て描いている。家じゃ集中出来なかったからだ。
お話は『さるかに合戦』。相手は子供だし、この話でいいだろう。
オリジナルの話を書いている余力なんかないし。
美貴には英語の勉強だってあるからな・・・

ガチャ

部室の扉が開く。
こんな朝っぱらから誰だ?

「はぁい☆」

「なんだ愛ちゃんか」

「こんな朝っぱらから何しとんの?」

「見りゃわかるだろ。紙芝居を描いてたんだ。ちょうど今出来たところさ。梨華ちゃんと
指令代わったからよー。つーかさ、お前こそこんな朝っぱらから部室になんの用だよ」

「カバン置きにきたんよ。今日は『生徒総会』で授業ネェし」

カバンなんか教室に置けばいいのに。
ふと思ったが…コイツ、クラスに友達いんのかな?
なんだか心配になってきた。
ん?そういうあたしはどうなんだって?
まぁ片手じゃ足りねーなw
…両手じゃ多いかもorz


473 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:07:09 0

「ささ、美貴はそろそろ行くとすっかな…なぁ、頼みがあんだけど」

「ン?」

「あたしさ、コレのためにクレヨンと画用紙買ってよ。全財産失っちまったんだよ。
でも、モーニングコーヒーくらい飲みたいじゃん?」

「何が言いたいン?」

「お金貸して下さい」

「ハァ?なんであっしがアンタに金貸さなきゃならンのよ。バカか、おめー。
貯金も何もしてネェアンタが悪いんじゃないのカァ?お貯金しねま」

即答されてしまった。
ちぇっ、このケチンボ宝塚オタクめ。
まぁ期待はしてなかったけどさ。
しかし、ホントこいつは方言が抜けねーよな。
ジー…

「なんよ。そんな見つめちゃって、照れるがし」

「いや、あんたのその方言、面白いなって思ってさ」

「方言?」

あたしの言葉に高橋は眉をひそめ、苦笑いしてこう言った。


「でてえんざ」



474 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:08:34 0

学校を出て、ぶどうヶ丘幼稚園を目指す。
この間、上戸が以前通っていた学校の生徒二人に襲われたときに、カバンを穴だらけに
されてしまったので(やったのは梨華ちゃんだ)、今は紙袋に画用紙と出来た紙芝居、
そして必要最低限のものを入れている。
この紙袋は以前セレクトショップでネルシャツを三枚買ったときのものだ。
他になかったとはいえ、やっぱ女子高生が紙袋持って町を歩くとかカッコわりーな。
あの黒んぼ、どうしてくれんだよまったく…

バサッ!バサッ!!

うるせー羽音だ。
カラスが跳ねながら道路のわきを移動しているようだった。
面白いカラス、空を飛べばいいのに。
ま、なんだかんだでカラスの指令よりはこっちの指令の方がラクそうだよな。
バカな梨華ちゃんw
最も、指令を代わらなきゃならなくなった理由はそれだけじゃないけど…



475 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:09:44 0

幼稚園に着くと、あたしは来客用の玄関から先生に案内されて、事務室に向かった。
やっぱ保母さんって可愛い、美貴ほどじゃあねーけど。
そういえば、美貴は幼稚園のころ事務室のことを『先生室』って呼んでいたなぁ。
へへ、なんだか懐かしい。

「園長先生、ぶどうヶ丘高校の生徒さんをお連れしました」

「こんにちは」

事務室に入ると、あたしはおしとやかに挨拶をして、頭を下げる。
さ、めんどくせーけど自分を作るか。
いつものままじゃ、たぶんいい目で見られない気がするし。

「いやいや、ようこそいらっしゃいました。ささ、ゆっくりおかけになってて下さいね。
十時までは、園児は体育館で劇を鑑賞しているので」

劇を鑑賞かぁ〜うちの演劇部じゃないことは間違いないな。
うちらんとこの演劇部はクリスマス公演が近いからね。

「園長先生、そろそろ体育館の方に…」

「あ、今行きます。十時過ぎに呼びに来るんで、その時はよろしくお願いします」

「いえこちらこそ」

そういうと、園長先生と保母さんは事務室をあとにした。



476 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 04:11:18 0

十時か、あと三十分近くある。
ちょっと早く来過ぎたかな?
することもないんで、持ってきた紙芝居を見返してみる。
…うん、我ながらいい出来だ。
このカニなんか、ちゃんとジョウロ持ってるんだぜ?すごいだろw

ガチャリ

事務室のドアが開いた。
誰か戻ってきたのかな?

「・・・・・・・・・」

男の人だ。でもここの保父さんじゃあないぞ。
…ん?この人、どこかで見たことあるような…


「「あ!」」


あたしらはお互いに指を差し合って言った。
この変な髪形…忘れるわけがない。
一昨日、梨華ちゃんの病院行く時にバスの前座席に座ってた兄ちゃんだ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


503 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 20:13:50 0

「なんだ?なんできみがこんな所にいるんだ?」


それはあたしのセリフである。
この人、どう見ても関係者には見えないが…
むしろ不審者にしか見えない。

「誰です?あんた」
あたしは疑問の眼差しを投げかけて言った。

「その質問に答えて、ぼくに何か得があるのか?」

「質問を質問で返してんじゃあねーよ。あんた一昨日バスで一緒になった人だよな?
なんで幼稚園なんかにいるんだ?関係者か?」

「関係者?いや、違うね。ちょっと『取材』に来ているだけさ」

「取材?」

その兄ちゃんは、あたしの向かいのソファに腰掛けると、スケッチブックのような
形をしたカバンをテーブルの上に置いた。

「ああ、ぼくの職業は漫画家でね…そのための取材なんだ」

「へー…」



504 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 20:14:49 0

そういえば、この間も「取材でくたくたなんだ」とか言われて怒られた気がする。
漫画家って大変なんだな。
しかもこの兄ちゃん、見た感じけっこう若いぞ。

「その絵の束はきみが書いたのか?」

その兄ちゃんがあたしの紙芝居の束を指差して言った。

「そうだけど。あたしが書いた紙芝居」

「へぇ、興味あるな。ちょっと見せてくれよ」

「別にいいけどさ、それこそ何の得もないと思うよ」

あたしは画用紙の束を兄ちゃんに渡す。

「人の『創作物』ってのは、かなり参考になるものなんだよ。そこから新しい発見や
面白いネタが思いついたりするものなのさ。決してパクッたりはしないがね。どれ…」

彼は無言であたしの紙芝居の絵を見つめる。
なんだか恥ずかしい。
でもそんな気持ちとは逆に、何か評価が欲しいと思い始めた自分がいた。

「どうっすかね」

いやぁ素晴らしい絵じゃないか!
このサルなんて悪いやつながらも可愛らしいし、カニがちゃんとジョウロを
持っているところなんか絶賛の評価に値する!!
なーんて言われたりしてな。ってそりゃないかw
まぁ一端の女子高生が描いた絵だ。「ふーん」くらいで終わるかな?
ところが、あたしの想像を遥かに凌駕した返事をその兄ちゃんは返してきた。


505 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/22(木) 20:17:03 0

「なんだこれは」

「はい?」

「リアリティの欠片も感じられないな。こりゃひどい。なんだこのカニは。
ハサミがないじゃあないか。しかも足でジョウロを持っている」

あ、しまった…
カニってそういえばハサミがあったな、すっかり忘れてた。
美貴もなんか足りないな〜なんて思ってたんだけど。
でも、ずいぶんと遠慮なく酷評してくれるヤツだな。
なんかイライラしてきた。

「見るだけ無駄だったな。なんの参考にもなりゃしない」

「見させてもらっておいてそれかよ」

「一つだけ聞かせてくれ。このラストなんだが、唐突に場面変わってるけど、
どういうことなんだ?これ、紙芝居じゃあないのか?カニの倒れてる絵の次は、
もうサルを倒してしまってる絵になるんだが、この辺のフォローはどうなるんだ?」

「えッ!?」

そんなバカな!
カニのお母さんが倒れた次のシーンは、臼や栗や蜂がサルに仕返しをしている
絵があったハズだ!!
あたしは兄ちゃんから紙芝居を引っ手繰って確認してみる。
…ほ、ホントだ、ないッ!!紙袋の中にも入っていない!!!
や、やべ…もしかしたら部室に忘れてきたかも…

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


516 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/23(金) 02:41:27 0

「どうしたんだい?頭なんか抱え込んだりして」

「うっせうっせ!!ちょっと黙っててくれよ!あーんもうッ!!!」

なんてこった、絶対そうだし。
忘れてきたシーンって、実はかなり重要なシーンじゃあないのか!?
悪いサルがお仕置きを受ける場面なのに…これじゃウルトラマンが出て来ない
『ウルトラマン』と同じだ。
でも、幸い時間には余裕がある。取りに帰る時間はないが、ここで書くだけの
時間はあるぞ。

よしッ!そうと決まれば…!!!

あたしは紙袋の中に手を突っ込み、画用紙とクレヨンを取り出し…ん!!?
ない!!クレヨンがないッ!!!
クレヨンまで忘れてきたのか…?
こんなんじゃどんなことも手につかないな…orzガックシ

「どうした?」

「うっせんだよバカ!!」

「ずいぶんな言われようだな。漫画家として言わせてもらうが、カニの母さんが
倒れているシーンとサルを倒した後のシーンの間には、ちゃんとそれまでの
過程となるシーンの絵を挟んだ方がいいと思うぞ」

「だから今それを描こうとしたんだよ。けど…」

「けど?」

「…クレヨンを忘れちまったんだ」


517 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/23(金) 02:43:56 0

そう言って、あたしは頭を垂らした。
これじゃ描くにも描けない。
終わった…こんな大胆にシーンが変わったら、いくら子供でも首を傾げるだろう。
そして、ウザいぐらいにツッコミを受けるに違いない。
なんでサル倒れてるの?
栗や臼たちは何をしたの?…てな。
なんてこった…


カリカリカリカリ…


ネズミが何かを齧っているような音が聞こえ、あたしは顔を上げた。
飛び込んできた光景に、あたしは驚く。

「…あんた、何やってンだよ?」

「見ればわかるだろう?絵を描いているのさ。その紙芝居の、抜け落ちたシーンのね」

ドシュッ!!ドシュドシュ!!ズバッ!!ババババッ!!

その兄ちゃんはすごいスピードで絵を仕上げていく。
は、早い!!漫画家ってみんなこうなのか?
それにしても…鬼気迫る表情で絵を描いてんなぁー。

「今はボールペンしか持ってないから、絵はモノクロになっちまうけど、
そこんとこは勘弁してくれよ。栗と蜂、そして臼がお仕置きしてる場面でいいんだよな」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


518 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/23(金) 02:45:04 0

「できたよ」

「えッもう!?」

い、いくらなんでも早すぎるぞ!!
まだ五分と経っていないんじゃあないかッ!!!

「ほら、受け取りなよ」

「あ、あんた一体…」

彼が描いた画用紙に目を落とす。
こ、これは…


ドオォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!


「えッ!?」

なんだか…画用紙が…絵が輝いているような…


シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!


「う、うわあああッ!!」




519 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/23(金) 02:47:46 0

な…なんだこの気分は?
なんて迫ってくるスリルのある絵なんだこれは!!
まるでこの絵を眺めてるあたしが、逆襲を受けているサルになったような気分だッ!!!
熱々の栗が飛んできた!!蜂に刺された!!臼に潰された!!
と、鳥肌が立って来たぞ…ッ!!!

「か、感動だ!!すげぇ!!すげえよコレ!!!!」

「いいかい?人間以外の生き物を描くときは、その生き物の特徴的な部分を描くんだ。
カニだったらハサミ、そんな感じだ。特に子供なんかには理屈よりも視覚で訴えた方が
いい。知ってるかい?大半の子供が『コクワガタ』と『フンコロガシ』の見分けが
ついていないんだぜ」

「へぇ、そうなん…」

ペリ…

…ん?変な音がしたと思ったら…あたしの…指?
なんか皮が捲れ上がって…

ペリペリペリペリ…ピシィッ!!!

「わっ、わっ…な、なんだこれはッ!!」

「お、おいおい!この絵だけで『本』になっちまうのか、きみは。今はまだ
その気はないというのに…一体どれだけこの『岸辺露伴』と波長が合っているんだ…?」

「う、うああああああああああああ!!なんだあああああああああああああッ!!!!!」


バリバリバリ…ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!


569 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:47:22 0

「あひぃ」

身体の自由が利かないッ!?
あたしの身体…一体どうなっちまったんだ!!?

「これはすまない…別に悪気があったわけじゃあないんだ。どうやらぼくと
きみはかなり相性がいいみたいだね」

「なにをした…?お、おい!!こっちにくるんじゃあねぇ!!」

口は動くのに身体が動かない!!
なんだこれは…あたし『本』になっちまってるのか!?
こいつ…この『岸部露伴』とかいう兄ちゃんは…まさかスタンド使いか!!!?
ん?でも岸部露伴って…なんだか聞いたことのある名前だな。



570 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:48:22 0

「すぐ元に戻してやるよ…ん?何々」

「て、てめぇ!!何を見てやがるッ!?」

「いや、失礼した。職業がら人の『リアリティ』ある人生というものに物凄く興味が
あるんだ。たとえ平凡でも、人の人生を見るのは面白い…」

「や、やめろ…ッ」

「藤本美貴、1983年2月26日、S市内赤十字病院で生まれる。血液型はA型。
友達にはよくO型?と言われるけど、何故だかわからない。キティちゃんが
好きなことから、美貴の『き』とキティの『キ』をつなげて『ミキティ』とあだ名
されている。クラスでは下から三番目の成績だが、自分ではそこまでバカじゃない
だろうと思っている…」

ひぃぃぃ…ッ。
な、なんだコイツはーッ!!!
読んでいる!!あたしの…あたしの今までの人生を読み始めているぞッ!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



571 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:50:28 0

「小学生の時、クラスのガキ大将にスカートを捲られたことにムカついてぶっとばし、
ガキ大将の座を剥奪。中学では早速化粧を覚えて毎日のように担任の先生に怒られ
トイレで顔を洗っていた…きみ、ずいぶんとおてんばな人生を送っているようだな。
青春の一ページってやつか」

「わわわわッ」

「そして高校生、新入生歓迎会で『演劇部』の舞台を見て、自分もあんな風に
歌って踊りたいと特訓開始、大スターを目指す…ふむ、演劇部なのに歌って踊るのか。
かわった部活だな。ま、ここは康一くんに頼んだからいいとして…」

や、やめてくれ…あたしの人生を声に出して読まないでくれーッ!!
恥ずかしい!!
こんな辱めは他にないぞ!!!

「何々?

『亜弥ちゃんの付き合いが悪すぎる』
『ここんとこ真希ちゃんがあまりかまってくれなくて寂しい』
『美貴は吉良吉影が怖い』
『石川うぜー、イライラする。今度おもしろおかしくハメてやろうw』
『マコはあたしよりバカだ、間違いない。でもつえーんだよな』
『亀井をいじるのは楽しい。あいつ絶対そっちの気あるぞ』
『最近デコが広くなった。小春にケガさせられた場所だ。あいつのせいだ』
『あー肉食いたい』
『胸が小さいって言われると、むしょうに物をぶっ壊したくなる』
『ぶっちゃけ、演劇部って信用しきれねーよ』
『彼氏ほしーッ!!よっちゃんさん!!!』

…ほう、きみのようなヤツがあの『殺人鬼』を知っているとはな。
む、次のページに続きがあるぞ」


572 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:52:04 0

岸辺露伴は本になったあたしの顔のページを捲っていく。
くそ…調子にのってんじゃあねーよッ!!!
ブギートレイン03!!出て来い!!!

ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!

あたしの身体から、依然変わらずボロボロのブギートレイン03が姿を現す。
ちッ…まだ治ンねーのか!!!
けど、スタンドは自由に動かせる!!
このヘンテコヘアバンド野郎…ッ!!!!!

「てめーこの能力を今すぐ解除しやがれッ!!見た目はボロボロだけど、
オメーを泣かすことぐれーはできんだかんな!!!」

「泣かす?ふふ、時間も戻せなくなったきみがこのぼくを?」

…え?
こいつ、今なんて言った?

「まさか…スタンドの能力すら読まれてんのか!?」

「満月の流法とやらも、もう自由には使えないよ。ぼくが書いておいたからね。
なんて書いたと思う?この間バスの中で、きみのスタンドのことや演劇部のことが
書いてある…そう、16ページ目の余白にこう書いたんだ。
『スタンドがボロボロになって使えなくなる』…ってね」

「な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!?」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


573 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:54:10 0

み、美貴のブギトレをこんなんにしやがったのは…
岸辺露伴!!こいつの仕業だったのか!!?

「一昨日はびっくりしたよ。単語をブツブツと詠唱しているきみを黙らせるために、
我が能力『ヘブンズ・ドアー』を使ったんだが…いやぁ、本当に使ってよかった。
こんな強力な…いや、凶悪と言った方が正しいかな?この杜王町に時間を戻せる
スタンド使いがいたことを知る事ができたんだからね。何かが起きる前で本当に良かった」

「て、てめぇ岸辺露伴ッ!!あたしを元に戻せ!!スタンドもだッ!!!」

「それは出来ない。きみの能力は人間が手にしてはならない能力なんだ。
このぼくでもそう思う。それに、ここに書いてあるが…演劇部はスタンド使いの
集まりだそうじゃないか。『ライク・ア・ルノアール』『シャボン・イール』『ニューオーダー』
『ミラクル・ビスケッツ』『FRIENDSHIP』エトセトラエトセトラ」

こいつ…いったい何を考えている!?
あたしを…演劇部をどうするつもりなんだ!!?
好きに…好きにさせてたまるかッ!!!

「ブギートレイン!!オラァッ!!!!」

ドゴオァ!!!!!!!!

先制攻撃だッ!!
このままあたしの中を読まれてたまるかよ!!
岸部露伴の顔面をグシャグシャにしてやるんだ!!
…って、アレ?



574 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:55:34 0

「…床?殴ったのは…床だったァーッ!!?」

何ィーッ!!
ど…どうしてブギトレは床を殴っている!?
あたしは顔面をぶん殴るつもりだったのにッ!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


「ミキティ…と言ったな。きみには残念ながら『ブギートレイン03』には
すでに『安全装置(セイフティーロック)』をかけさせてもらったよ」

「えっ…?」

せ、安全装置…
一体どういうことだ…?

「すでに、ぼくが書き込んでおいたのさ…ほらここだよ、このページ。『岸辺露伴を
攻撃することはできない』…ってね!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!



575 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:57:15 0

「な、なんだってぇッ!!!!!」

岸部露伴を攻撃できないだと!?
じゃああたしは抵抗もできないってぇのか!!?

こ…こいつ無敵だッ!!!

難なくスタンドをボロボロにし、尚且つ攻撃することすらできなくしてしまうなんて…
こんなヤツに勝てるワケがない!!!


「ぼくはとことん調べさせてもらうぜ?きみたち演劇部の…そう、寺田とかいったな。
その先公が何を目的でスタンド使いを集めてるのか…そして、恐らくその中でも
最強の能力を持ったきみの力を封じた。ま、きみも自分の部活をあまり信用して
いないみたいだし、ちょうどいいじゃないか…ゆっくり、部活が崩壊していく様を
見届けろよ。そして『今起こったことはすべて忘れる』…と」


「う、うわああああああああああああああああああああッ!!!」


バシュッ…ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!




576 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/24(土) 05:58:31 0

「す、すげえッ!!あんた絵うまいな!!さすが漫画家だなッ!!!」

あたしは心底関心した。
美貴のクレヨンで描いたラクガキとはまるで違う…ペンのタッチがプロそのものだ。
って、プロなのかこの人はw
しかし見たことある画風だな…名前、なんていうんだろう?

「なぁ、名前を教えてよ」

「…岸辺露伴」

岸辺…ろはん?
どんな字書くんだろう。
でも聞いたことある名前だ…今度コンコンにでも聞いてみっか!!

「そうか!あたしは藤本美貴ってんだ。みんなからは…」

「ミキティだろ?もういいよわかったから。絵はそんな感じでいいかい?
悪いが十時なったら起こしてくれ。最近寝不足でね。ぼくもきみに着いていくよ。
取材しなくちゃ…こんど幼稚園の風景を描かなきゃならないのさ」

「あ、ああ…」

そう言うと、変な髪形の兄ちゃんもとい岸辺露伴は、腕組みをして眠ってしまった。
しかしこの人、なんであたしが『ミキティ』って呼ばれてること知ってるんだ…?

…ま、いっか。


606 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/25(日) 05:37:07 0

それから数分後。
いま九時五十分か…もうすぐ十時だ。
露伴の兄ちゃんが十時になったら起こせと言っていたな。
さて、その前におトイレでも行っておきますか…園長さん達が迎えにきたら
行ってる暇なくなっちゃいそうだし。
あたしは露伴の兄ちゃんを起こさないように静かにソファから腰をあげると、
物音を立てぬように事務室のドアを開けた。

「…え?」

な、なんか建物のつくり、変わってねーか?
気の…せいだよな。
目をゴシゴシと擦り、もう一度辺りを見渡す。

「こ、これは…!?」

…錯覚なんかじゃあない!!
建物の構造、雰囲気が、あたしが来たときと変わっているぞ!!
まるで迷宮だ!!
もしやこれは…ッ!!!

「す、『スタンド攻撃』だッ!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



607 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/25(日) 05:39:50 0

「…なんだ?いきなり叫び声なんかあげて…もう十時になったのかい?」

あたしの声で、露伴の兄ちゃんが目を覚ましたようだ。
一般人の彼には、この状況を理解できるのか?
い、いや待てよ?
もしこれがスタンド攻撃だとしたら、この兄ちゃんにはいま目の前に広がっている
『迷宮』が見えていないかも知れないぞ。
ここに入ってきた時と同じ風景が見えているかも知れない。

「な、なんだこれは…さっきとまるで構造が違うじゃないか!?ぼくが通ってきた
廊下はこんなに広くはなかったし、奥行きもなかったぞ?これはいったい…」

…どうやら露伴の兄ちゃんにもこの『迷宮』が見えているようだ。
これはよほど強力なスタンドパワーだ…普通の人にも見えるスタンドだなんて…!!

「おい!これはどういうことか説明しろッ!!」

「あ、あたしだって知らねーよ!!ドアを開けたら、外がこんなんになってたんだ!?」

くそッ!!誰だか知らねーが、敵の狙いは間違いなくこのあたしだ!!
この幼稚園に演劇部を狙ってるスタンド使いがいるのか!!
ん…『迷宮』?
そういえば部室の資料で読んだ事がある…
そうだ!!とあるエジプトの館に、主に仕える一人のスタンド使いが『迷宮』を作り出す
能力を持っていたという記録を、あたしは読んだことがあった!!
スタンドの名は…確かなんかの楽器の名前と同じだったよな!!
けど、その本体は何らかの大きな戦闘の後、行方不明になってしまったハズじゃあ…

「これはスタンド攻撃か…?」

「えッ!?」


608 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/25(日) 05:43:14 0

露伴の兄ちゃん…今なんて言った?
スタンド攻撃って言わなかったか!?

「何を驚いた顔をしているんだ?」

「え?え??今あんたスタンドって…」

「だ〜ッもう、めんどくせぇー女だなぁー!!いいから行くぞ」

「えッ?」

「こんなとこで突っ立っててもラチが明かないってことさ。どういうことなのかは
わからんが、ぼくらが行動を起こさなきゃ何も変わらないんだよ」

「で、でも罠かもしれないぜ?」

「罠?確かにそうかもな。けど、かといってここで立ちすくんでたって
しょうがないだろう。それこそ危険だと思わないか?」

「は、はぁ…」



609 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/25(日) 05:43:49 0

「わかったら先頭歩けよミキティ」

「はぁ!?なんであたしが?」

「ぼくが先頭を歩く義理でもあるってのか?いいから行けよ」


な、なんだコイツはーッ!!
この兄ちゃん、マジで自己中だ!!!!
自分がやりたくないことを人にやらせるって、一体どういう神経してやがんだ!?

だが、それよりも気になることがある。
スタンド…彼はさっき、確かにそう言った。
岸部露伴、まさか…スタンド使いなのか…?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


690 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:05:50 0

不思議な空間だ…さっきまでの幼稚園だとはまるで思えない。
こりゃあ、間違いなく迷路だな。
階段もやたらと多いし、ただならぬ瘴気が漂っている。
劇を見ているという保母さんや園児たちはどこにいるんだろうか?

「おい兄ちゃん、ボールペン持ってたよな?」

「ああ」

「ちょっと貸してよ」

「いいけど、何に使うんだ?」

あたしは露伴の兄ちゃんからボールペンを受け取ると、白い壁に矢印を書いた。
道しるべというヤツだ。
これで、もし迷ったとしても一度ここにきたかどうかがわかるし、
いざという時に帰ってこれる。

「なるほどな」

「美貴、頭いいだろ?」

「誰でも思いつくと思うけど」

…ムッカ〜。
この兄ちゃん、人を褒めるってことを知らないのか?
こんな大人にはなりたくないな。


691 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:06:32 0

「もっと効果的な手段がある」

そう言うと、露伴の兄ちゃんは壁に片手をついた。
何やってるんだろ?

「やはりこれは迷路のようだ…なぜこんなところに突然迷路が出現したのか?それは
今は置いておくとしよう。いいかい?脱出が不可能な迷路なんてものは存在しないんだ。
迷路には必ず入り口と出口がある。内壁は外壁とも繋がっているんだ。だからこうして
壁に沿って歩けば必ず出口に辿り着くことが出来る」

「な〜る。頭いいね、でもそうすっと同じ道を二度通ることになるんじゃない?」

「無駄に歩き回って疲れる思いするよりはマシさ。わざわざ迷い込むなんて
実にくだらないね、バカのすることだ」

ううむ…
なーんか小バカにされてるような感じするけど、言ってる事は間違ってないし…
まぁ、いいか。今はこの人の言いなりになっていよう…
あたし達はさらに奥へ進むんでみることにした。



692 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:07:38 0

ドボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…


「おい、何か聞こえないか?」

「え?あたしには何も…」


ドボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…


…き、聞こえる。
なんだ…この音は…

「水…音?」

「ぼくもそう思った…だが、いったいどこから…」



「それはこの幼稚園のありとあらゆる水道からだよ」



それを言ったのはあたしでも露伴の兄ちゃんでもない、突然あたしたちの前に
現れた男が言い放ったんだ。


693 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:08:24 0

「な、なんだオメェーッ!?」

どこから来た!?
ぶどうヶ丘高校の制服に身を包んでいるぞ…何者だコイツ!!
手には、なぜか溢れんばかりの水が入ったバケツを持っていた。

「おっと、僕に対して牙を剥かないでよ…あくまでこれはテスト…そう、
テストなんだから…」

そいつはあいている手を挙げて、丸腰だという事をアピールした。
テスト…いったい何の事だ?
ただ、一つだけハッキリしていることがある。
それは、この可愛い顔した男子生徒はあたしに用があるらしいということだ。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



694 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:09:24 0

「おいミキティ、きみの知り合いか?」

「いや、こんなヤツは知らない。おい、あんた誰だ?」

「僕の名前は小池徹平、クラスは違うが一応キミと同級生なんだけど…」


小池徹平?
そんなヤツは知らないな。
まぁ他クラスにあまり友達がいないだけなんだけど…


「で、その小池徹平があたしに何の用だよ」

「だからテストだってば。僕ら、寺田先生に頼まれて…というか『取引き』して、
キミの力が衰えていないか試しに来たんだ」

「えッ!?」

寺田先生と取引きだって!?
いったいどういう事だ?寺田先生が部外者にそんなことを頼むなんて…
しかも、あたしは『ブギートレイン03』がボロボロになったことは、寺田先生に
一言も喋っていないぞ?知っているのはあたしの他には梨華ちゃんだけなんだ。
これはいったい…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



695 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:10:27 0

「おいちょっと待てよ。今、きみは『僕ら』と言ったな。きみ以外にも誰かいるのか?
スタンド使いの仲間がいるということなのか?」


露伴の兄ちゃんが小池徹平を指差して言う。
そう言えば、確かに僕らと言っていたな。
ってことは、こいつには仲間がいるってことなのか?
つーか…今の発言からして、露伴の兄ちゃんはやっぱりスタンド使いらしいな。
スタンド使いは引かれあう…よく言ったもんだ。


696 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:10:58 0

「おい、ぼくは質問しているんだぜ?なんとか答えろよ」

「誰ですかあなたは?答える必要はありません」

「ここは幼稚園の中か?」

「そうです」

「幼稚園のどこだ?」

「それは言えません」

「廊下だよな?」

「そうかも…」

「…『スタンド』か?この迷路は」

「そうです」

「きみの能力か?」

「違います」

「きみもスタンド使いだな?」


「Exactly(その通り)!!!!」

バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!



697 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:12:53 0

露伴の兄ちゃんの最後の質問に、小池徹平は手に持っていたバケツいっぱいの水を
答えると同時にあたし達にかけるようにしてぶちまけた!!

「「うわぁッ!!!」」

み、水かと思ったら…これ熱湯じゃんか!!あっちぃ!!!

「それじゃあテストを始めるよッ!!僕らを見つけられたら合格だからね!!
時間はあと30分以内さ!!!まぁ、きみの能力がどんなものか知らないけど
スタンドをフルに使って探すといいんじゃない?」

ガバァッ!!!

そう言うと、小池徹平の立っているすぐ横の壁にポカッと穴が開いた。
よくわかんねーけど、逃げる気だなコイツ!!

「待てッ!!」

「あ、これ殺し合いとかじゃないからお手柔らかに頼むよッ、『石川』さん!!」

ピタァーンッ!!!

逃がしちまった!!!
ヤツが壁に開いた穴に入った途端、穴がピッタリ閉じちまいやがって…クソ!!
制服、濡れちまったじゃねーか…これ、冷えてきたら風邪ひいちまうよ。
しかも、最後にアイツおかしいこと言ってたし…

「あたしは石川じゃあねえええええええええええええええええええッ!!!!」


バババババアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!


698 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:14:27 0

もしかしてこれって、梨華ちゃんのテストなんじゃねーのか?
力が衰えてないか試すテストって…入院してた梨華ちゃんのことなんじゃあないのか!?
そういやあたし達、指令を交換したのを寺田先生に言ってないんだ。
つーか、そんなこと報告する必要もないと思ってたんだけどさ。

「どうする?」

露伴の兄ちゃんがあたしに訊く。
答えはもう決まっていた。

「だりぃから30分待ってる!!」

だってこれ、あたしのテストじゃないもん!!
必死に活動するだけ無駄無駄ァ!!事務室でゴロゴロしてた方がいい。
だが、あたしの答えに露伴の兄ちゃんは不服なようだった。

「ふざけるなよ。なんできみのためにぼくの貴重な時間を裂かなきゃならないんだ!!
なんとかしろよ!!」

「んなこと言ったってあたしにはどうしようもないし!!てかアンタもぶっちゃけ
スタンド使いなんだろ?急いでんならアンタがあいつぶっとばしに行けよ!!」

「あ、おい待てッ!!」

あたしは露伴の兄ちゃんを無視して、来た道を戻っていった。
テストだぁ?そんなもん付き合ってられっかよ!!
だいたい美貴のブギトレはほとんど再起不能状態なんだ。
早く治らないもんかな…って、治るのか?コレ。



699 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:15:26 0

ドボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…


水音が聞こえる…それもさっきより重たい水音だな。
そういえば、この音はなんなんだろう?

ピチャ…

「あちッ!!!」

なんだッ!?何か足に熱いものがかかったぞ!!
こ、これは…

「熱湯…?床に熱湯が撒かれてんのか…?」

「おいミキティ、この迷路…おかしいぞ。見てみろよ」

「え…?」

露伴の兄ちゃんが壁を指差した。
さっきあたしが壁に書いた道しるべだ。

「…あッ!?」

なんと道しるべがグニャリと歪み、新しい道が出来たんだ。
その時である。



700 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:16:53 0

バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!


「うわあああッ!!!熱湯だあああああああああああッ!!!!」

「あつッ!!な、なんだこれはッ!!」

ホント、いきなりのことばっかりでよくわかんないんだけど…
新しい道が開けると同時に、そこから熱湯が湧き出したんだ!!


ドボボボボボボボボボボボボボボボボ…

『そうそう、僕の能力は「水を熱湯に変える能力」!!僕はこれが超能力だと
思ってたけど、これ「スタンド」っていうらしいね!!!最近知ったよ!!』

どこからか聞こえてくる小池徹平の声。
畜生ッ、男のくせにコソコソと隠れやがって!!!

『いいことを教えてあげる!!僕らは男子トイレに隠れているんだ!!!
そこを探し出せたらキミの勝ちさ!!キミに送るよ〜僕からのこの熱湯!!
じゃーねッ!!石川さん!!!』

「だからッ!!あたしは梨華ちゃんじゃあねーってば!!!」

シーン…

…返事がかえってこない。
くそッ、今のセリフは奴に届かなかったみたいだ!!!

ドボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…


701 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:18:59 0

「どうやらこの迷路に『出口はない』ようだな…しかも少しずつではあるが、
水嵩も増してきているようだ。熱いな…なかなか我慢し難いものがある。
ミキティ、これでもまだ30分待ってるとでも言うのかい?」

いま新しい道が現れた際に流れ出てきた熱湯に変わった水は、すでに
足の裏が浸かっているとこまできている。
靴ならともかく、スリッパを履いてるあたし達には厳しいな…
しかも、けっこう水嵩が増していくのが早い気がする。
そーいやアイツ、幼稚園のありとあらゆる水道からどうとか言っていた。
熱い…確かに、我慢し難い。
それに、この様子じゃ事務室までの道ももう変わってしまっているだろう。
迷路は進化しているんだ。

「あたしもなんとかしたいとこなんだけど…」

そう、今のあたしには悔しいが何もできない。
ブギートレイン03は、ボロボロで使い物にならないんだ。
あぁ〜ッ!!満月の流法が使えりゃあ、こんな迷路なんか時間戻して
一端元通りの幼稚園にすることが出来るのに!!!



702 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:19:40 0

「スタンドを使えればいいのか?」

「えッ?」

「きみの能力ならなんとかできるんじゃあないのか?」

なんかこの兄ちゃん、おかしい。
まるで『あたしの能力が何なのか知っている』ような言い回しだ。
もしかして、それがこの人の能力なんだろうか?
いや、だとしたらさっき小池徹平にあんな質問はしていないハズだし…

「確かに、あたしの能力なら突破口は簡単に開ける。けど、今のあたしには…」

そう言いかけた時だった。
露伴の兄ちゃんがあたしの顔を指差したんだ。
そしてこう言った。


「ヘブンズドアーッ!!!!!!!!!」

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!



703 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:21:24 0


「…ん?」

なんだか背中が濡れているようだ。
太ももにあたるスカートの裾が心なしか冷たいような…
んッ?なんかおかしいぞ。バカに冷たすぎる!!
せ、背中を触って確認してみよう…

「えッ?えッ!?」

ぱ、パンツまで濡れてねーか!!?
靴下もビッショビショじゃん!!
なんだ?なんで背面がこんなに濡れてるんだ?
背中に熱湯を大量に浴びた覚えはない。
こんなの、床にぶっ倒れでもしない限りなんねーぞ!?

「気は済んだかい?さぁ早く」

「なにを?」

「スタンドだよ。きみの能力を使うんだ」

「でも、どういうわけかスタンドはボロボロで使い物にならないんだ」

「そんなの、やってみなきゃわかんないだろう。いいから早くしろよ」



704 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:22:08 0

ぜってー無理だと思うんだよなぁ。
まぁここで何かしなきゃどうにもなんないし…
ええいッ!!やぶれかぶれだ!!!


「ブギートレイン03ィッ!!!」

ドッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!


「…え?」

し、信じられない…
あれだけボロボロだったあたしのブギートレイン03が…
前以上に眩しく、白銀に輝いているッ!!!?


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!



705 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:23:29 0

いったいあたしの身体に何が起きたんだろうか?
ボロボロだったスタンドが、ここまで完璧に完全復活を遂げるなんて…!!!
気のせいか、力もやる気もガンガン湧いてきたッ!!
ブギートレイン03の輝かしい姿を見たからだな!!
今のあたしに…敵はいねぇッ!!!


「さぁミキティ、行こうか」

「ああ」


あたしはブギートレイン03の両手を壁につかせた。
さーて、いっちょ行きますか!!


「ブギートレイン03…満月の流法ッ!!!」

ピシュコアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!



706 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 05:24:00 0

満月の流法によって、迷宮と化していた園内は一瞬のうちに元の姿を取り戻した。
なんだか、ちょっとあたし成長したかもしんない。
どれだけ戻したかはわからないが、確実に五分以上前の時間に戻したのは確かだ。


「『敵』ながらさすがだな…恐ろしい能力だよ」

「ん?いま何か言った?」

「いや、こちらのことさ。さっきの彼は男子トイレにいると言っていたね。
ここはスミレ組の教室の前だから…確かあっちだな」

「けっこう近そうだな…よし行こうぜーッ!!!」


あたし達は、男子トイレに向かって歩き出す。
所々に設置された水道からは、すべての蛇口から水が勢いよく流れ出ていた。


ドボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ…

709 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:07:31 0

「おいウエンツッ!迷路とけちゃってるじゃん!!なんで能力を
解除しちゃってんだよーッ!!」

「ちょ!まっ!!俺は何もしてねーしッ!!!」

「バカバカ!これじゃテストになんないじゃん!!石川さん来ちゃうぜ!?」


トイレの外までよく響き渡る声してんな、あいつら。
さて、とっととぶっ飛ばしてテストとやらを終わらせてやるか。
ついでに寺田先生との『取引き』の話も聞きだそう。

「見つけたぞオルァ!!!!!!」

あたしは男子トイレに躊躇なく足を踏み入れると、低い声で怒鳴り散らしてやった。
おー、いるいる。
バケツに水溜めてるバカと、やけにクッキリとした顔だちのアホが。
こいつが、迷宮を作り出していたスタンド使いの仲間か。

「ホラ言わんこっちゃない、見つかっちゃったじゃん」

小池徹平が蛇口をひねり、バケツに水を溜めるのをやめた。

「なになに?これでテスト終わり?」

「そうだよウエンツ。ってかこんな終わり方でいいのかわかんないけど」

「ふーん…まぁいいべ!!あ、きみが石川さん?テストのクリアおめで…」

ドグシャアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!
「ぱぷべッ!!!!?」


710 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:08:51 0

あたしはウエンツとかいうハーフっぽい顔立ちの奴を、有無を言わさずぶん殴ってやった。
こいつもぶどうヶ丘の制服を着てるな、まぁどーでもいいけど。
ウエンツはあたしの一撃で壁に頭をぶつけ、床に伸びてしまった。

「わあああああッウエンツ!!何するんだよ石川さん!!!
これは殺し合いとかじゃあないって言ったじゃんか!!!」

「うるせー!このマヌケッ!!!石川さんだぁ?下調べくらいしといたら
どうなんだボケカスッ!!!!!」

小池徹平は「ハァ?」という眼差しであたしを見つめた。
まだわかってねーようだな。

「これが目に入んねーのかスカタン!!」

あたしは自分のスカートのポッケに入れておいた名札プレートを
小池徹平に投げつけてやった。

「2‐F 藤本美貴?あッ!!」

やれやれ…ようやく気付いたみてーだな。

「あはは…僕ら間違えちゃった?あれ?じゃあ石川さんは?きみ、こんなところで
何してんの?」


711 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:09:39 0

あたしは小池徹平の質問には答えず、トイレの入り口に立っていた
露伴の兄ちゃんに向き直る。

「なぁ露伴の兄ちゃんよぉー…こいつ、どうしたらいいと思う?」

「…好きにすれば?」

さすが…w
あたしは舌なめずりをすると、ブギートレイン03を発現させ、小池徹平に
にじり寄っていった。

「うわあ!きみのそれ、銀色でカッコイイね!!…って、アレ?もしかして
なんか怒ってます?」

「YES!YES!!YES!!!」

「…へ?」

どれ、久々にゴールデンを決めるとすっかな…


「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!」

ドッギャ〜ン!!!!!!



712 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:10:36 0

「ったく、手間かけさせやがって…濡れた制服どうしてくれんだよ!!ああン!?」

あたしはぶっ倒れた小池徹平の胸倉をつかんで言った。
可愛らしかったツラはあたしの突きのラッシュで鼻血まみれになっている。
ふッ…違う意味でイケメンキラーだぜあたしは…

「ぱ、ぱふん…」

「ぱふん、じゃあねーんだよ。おい、寺田先生と『取引き』ってなんの話だ?
しゃべってもらおうか?」

「ひょ、ひょれは…」

だーもうッ!!ちょっとやり過ぎたか?
口動かすの大変そうだもんな。あ〜…油断していたわ、不覚だわ。
でもさ、しょうがないじゃん?久々に元気になっちゃったんだもんよ!!

「おい、いいか?」

「なんだよ兄ちゃん」

「ちょっとどいててくれ」

そう言って露伴の兄ちゃんはあたしを押しのけると、小池徹平の肩を支えた。
そして、人差し指を顔にそえる。

「何をやって…」

「ヘブンズ・ドアーッ!!!!!!!!!!!!!!!」

ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!バラバラバラッ!!!!!!


713 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:11:22 0

「な、なんだあああああッ!!!?」

何が起きたんだ!?
露伴の兄ちゃんが小池徹平の顔に指をそえたら…奴の顔が本みたいに
バラバラと捲れ始めたぞッ!!!

「なんだあんたの能力はーッ!!!」

「こうした方が早いんでね。せっかくだから読んでおこうと思ってさ」

よ、読むだって…いったいなんのことだ?

「小池徹平、1983年1月5日生まれ。血液型はB型。なになに、バスケが好きだが、
相棒のウエンツ瑛士と詞を考えたりギターを弾いていたりする時が最高に
楽しい…ほう、こいつはサッパリしてて使えそうな性格だな。読者も好んでくれそうだ」

露伴の兄ちゃんは小池徹平の本のようになった顔をペラペラ捲って読んでいる。
なんだこの構図は…ぶ、不気味だ!!!



714 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:12:19 0

「人前で僕らの創った歌を披露したい。寺田先生が、仕事を引き受けてくれれば
クリスマス公演の特別枠で歌わせてやると言ってくれたんだ!!やったぁ!!!
…へぇ、純粋に音楽が好きな少年のようだ。だが演劇部に関しての情報はまるでなし…
スタンド能力も『水を熱湯にする』だけのようだな」

そう言って、露伴の兄ちゃんは小池徹平の顔に本を閉じるようにして触れた。
すると、バラバラと捲れていた顔が、元通りに戻る。
どうやら…気を失っているようだが…
あたしには、気になったことがあった。
彼はいま『演劇部に関しての情報はまるでなし』と言ったよな。
どういうこと…?演劇部って、やっぱりあたし達の…?
岸部露伴…あんた一体…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



715 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:13:09 0

「さて、そろそろ『後片付け』を始めるとするか…」

「あと…かたづけ…?」

「ああ…」


露伴の兄ちゃんは立ち上がると、あたしに向き直った。
その背後からは、ハットを被った少年のようなスタンドが揺らめいている。
なんだか見たことあるスタンドだ。
そう、確か少年ジャンプに連載されてるピンクダークの少年に似たようなキャラクターが…


「あ、あんた…そのスタンドであたしに何する気だ…?」

「何をする気だって?別に、元に戻すだけさ」

「元に…戻す?」

「ああ、その悪魔の力…封印させてもらうよ」


ふ…封印するだって!?
一体どういうことだ!!?


716 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:14:02 0

「観念しなよ」

「よくわかんねーけど…それ以上あたしに近寄るんじゃあねーッ!!」

「もう遅い!!ヘブンズ・ドアー!!!!!!!!!!」

ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!バラバラバラバラバラッ!!!!!


あたしは勢いよくぶっ飛んで倒れた。
その時、あたしはすべて思い出したんだ。
さっき、事務室で彼の輝かしい絵を見たときのことを…

「そ、そうだ…アンタが…あたしのブギートレイン03をーッ!!!!!」

「ぼくが直接ワザをかけたのに意識があるとは…よほど強靭な精神力を
持っている人間とみえる。さっきは気を失ったところからすると、やはり
スタンドが関係しているのかな?」

「う…うぅ…ッ」

か、身体の自由がきかねぇッ!!!
そうか…迷路でもきっとコイツはあたしに『ヘブンズ・ドアー』とかいう能力を
使ったんだ。
迷宮と化した幼稚園を元に戻させるために…ッ!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



717 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/28(水) 07:15:22 0

岸辺露伴が近寄ってくる。
や、やられてしまう…またスタンドをボロボロにされてしまう…ッ!!!
そうなったら、あたしは演劇部にいられるのか?
今の居場所にいることは出来るのか?


「安心しろよ…死にはしない。スタンドを取り上げるだけさ、その危険なスタンドをね。
女子高生は女子高生らしいスクールライフを送った方がいい…」


岸辺露伴の指が迫ってくる!!
スタンドをボロボロにされるッ!!!
や、やめてくれーッ!!!!


「う…うああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

ピカッピカッ…

その時、あたしのブギートレイン03が眩いばかりの光を放った。
こ、この光は…知っている!!
まさか…時がッ!?


プワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!


752 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/29(木) 07:04:59 0

「なんよ。そんな見つめちゃって、照れるがし」


…はッ!!!!!!
あたしの目の前には、照れ笑いを浮かべている愛ちゃんがいる。
戻って…きた?

「ミキティ?」

机の上には書き終えたばかりの紙芝居の束が…
や、やっぱり…時は戻ったんだ!!
『ブギートレイン03』の本当の能力が…発動したんだ!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

「なァ、ミキティ」

「…えッ?何?」

「いや、まぁいいや」


とにかく時間が戻ったってことは、あたしはこれから幼稚園に向かわねばならないのか。
あたしは荷物をまとめると、そそくさと部室を出た。
これから起きることを、あたしは知っている。
本来なら行きたくはないが…あたしにはどうしても知らなければならないことがある!!
ヤツらの、寺田先生との『取引き』の全貌を…ッ!!


「亀子も変だけど、ミキティも変になってきたなァー?ここにいると、そっちの気に
目覚めてしまうンかネ?ま、あっしには理解できん世界だケド」


753 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/29(木) 07:06:05 0

町並みは、前の朝となんら変わりない。
うん、すがすがしい朝だ。

バサッバサッ!!!!

羽をバタつかせながら跳ねて移動してる奇妙なカラスがいる。
うるせー羽音だな。
そういえばこのカラス、前の朝にもいたな。
前の朝は何を考えてここを歩いてたっけ?
そうそう、制服でショップの紙袋もって歩くのが恥ずかしい…

「あッ!!そうだ!!!」

そういえば、前の朝であたしは紙芝居の一部分を演劇部の部室に忘れて行ったんだった!
今から取りに戻って間に合うかな…あ、でもどうせ10時まで待たされることになるんだ。
しょうがない、取りに行くか…


754 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/29(木) 07:07:31 0

案の定、部室に紙芝居の一部分は演劇部の部室にあった。
床に落ちていたんだ、だから気付かないで忘れてったんだ。ったく、ちょっよ探しちまったよ。
まぁこれであの漫画家に紙芝居を書いてもらわなくてすんだのだが…
あたしは幼稚園へと続く道を歩きながら考える。
前の朝、あたしは迷宮と化した迷路の中でブギートレイン03を元の姿に
戻してもらったんだ。
よって、それより前の時間に戻ってきてしまった今、あたしのスタンドは
ボロボロの状態に戻ってしまった。
あのいけ好かない漫画家に会わないと、スタンドは元の銀色の姿には戻らない。
かといって、ここに戻ってこれたのはあの漫画家の攻撃を受けたからだし…
いったいどうすりゃいいんだ…?
もうすぐ幼稚園に着いちま…


バリッ…バリッ…


…ん?
なんか、顔の辺りから変な音が…


バリバリバリッ!!!パラパラパラパラ…



755 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/29(木) 07:09:33 0

「えッ!?」

なんだ!!?あたしの顔が…本のように捲くれ始めた!!!
ちょ、ちょっと待てよ!!
これは間違いなく前の朝に食らった『ヘブンズ・ドアー』の攻撃だけど…
あたしは今、一人でここにいるんだぞ!?
チラリと腕時計を見てみる。
ま、まさか…前の朝に食らったスタンド攻撃が、この時間と同時刻だとしたら…
これは戻ってきているのか!?
あたしの身体に…前の朝の攻撃は戻ってきているのか!!?
か、身体に力が入らない…!!あたしはコンクリートに膝をついてしまう。
バカな…本来なら、あたしが関与すれば時の流れは変わるはずなんだ。
今、あの漫画家と会っていないということは、あたしは『ヘブンズ・ドアー』の能力を
食らうことにならないんだぞ!?
なのに、あたしの顔にはあの漫画家のスタンド攻撃の影響がくっきりと出始めているッ!
それだけ…それだけ強力なスタンドということなのか!?
あの男の『ヘブンズ・ドアー』の能力は…ッ!!!


「岸辺…露伴ンンンッ!!!!!!!!!!!!!!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


45 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:41:14.35 0

どうする!?
こんな状況で幼稚園ン中入って事務室に案内されたら…事務室にいるであろう
岸部露伴に何を思われるのだろうか?
きっと、本気であたしを始末しにかかるぞ。ヤツはあたしの能力をすべて読んで
知ってしまっている。

・・・逃げた方がいい。

そんな考えが浮かんだが…あたしは幼稚園の玄関に足を踏み入れた。
ダメだ、今ここで逃げるわけにはいかない。
あたしには知る権利がある。寺田のおっさんの『取引き』のことだ。
仕事を引き受けてくれればあいつらをクリスマス公演で歌わせてやるだって?
バカな、それだけのハズがない。
絶対に何かあるぞ、スタンドに関係した何かがある!!
この事はいずれマコにも教えておくか…あいつ、なんか知りたがってるみたいだし。
寺田のやつ…いったい何を考えているんだ?
それにもう一つ、あたしには考えがあった。
今、こうして岸部露伴のスタンド『ヘブンズ・ドアー』の影響が出てきているとすれば…
あたしはきっと…!!!


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



46 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:42:42.01 0

「あ、もしかしてぶどうヶ丘高校の生徒さんですか?」

前の朝と同じ先生があたしを来客用の玄関で迎え入れてくれる。
あたしは本のようになった顔をおさえて、無様な姿を誤魔化していた。
一般人から見たら、今のあたしは一体どんな風に見えているんだろうな。

「いま事務室にご案内するんで…」

「いえ、ちょっとトイレに行きたいんで、いいですか?」

「え、はい。あ、事務室の場所は」

「そこを左に曲がった小さな曇りガラスのついてるドアの部屋ですよね。
済んだら行きます」

そう言うと、あたしは踵をかえしてトイレに向かう。
園内はまだ迷路化してない…行くなら今しかないんだ。
もちろん、向かうのは園児用の男子トイレだ!!!



「あの子、どうして事務室の場所を知っていたのかしら。トイレの場所も…
きっとここの卒園生か何かなのね」



47 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:45:06.15 0

「これさ、スタンドっていうんだっけ?すごくね?この迷路俺が作ってんでしょ?
マジすごくね?」

「僕も『水を熱湯』にできるんだ。これ超能力だと思ってたけど、寺田先生が
言うには『スタンド』っていうらしいね。僕の場合は変な夢見てからこの超能力を
手に入れたんだけどさ」

「変な夢?」

「うん、なんかかっこいい学ラン来た人…右肩に『兆』って刺繍がしてあったのが
印象的だったな。まぁその人がいきなり僕の部屋に立ってて、弓矢で射抜かれた夢さ。
リアルな夢だったなぁ、死んだかと思ったし。それ以来、水を一瞬で熱湯にできる
ようになってね。お湯沸かさなくてもカップラーメン作れるようになっちゃったよw」

「便利そうだなぁ」

「ウエンツはなんでまたいきなり迷路作り出せる能力なんか身に付けたんだ?
きみとは付き合い長いけど、僕ぜんぜん知らなかったよ」

「いやさ、演劇部の寺田先生の部屋に呼ばれて話してるときに、気を失ったらしくて。
目を覚まして、その時言われたんだ。能力を貸してやるから協力してくれって。
そしたら舞台に立たせてやるって。なんだかよくわかんないけど」

「そういや僕もおかしいこと言われたよ。この仕事が終わったら僕の能力を
『くれ』だってさ。ま、舞台立たせてくれんならいくらでもあげるけど」

「そーいや、なんで寺田先生は徹平が超能力…じゃなくてスタンド使いだってことを
知ってたんだ?」

「さぁ…昔そういうことを調べられる力持った女の子がいたって話だけど。
超能力者って意外と多いんだな。あ、違うかスタンドだスタンド」


48 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:46:57.10 0

「ふーん。つーかさ、石川さんだっけ?未だに迷路に足踏み込んだ感覚が
ないんだけど、まだ事務室にいんのかね」

「マジで?困ったな…これじゃテストになんないよ。つーかウエンツは石川さんって
どんな人か知ってる?」

「知らないな、長期入院してるってことしか」

「そっか。可愛い子だったらいいなぁ〜なんてね」

「てかさ、さっきから気になってることあるんだけど言っていい?」

「何?」

「なんでこの個室だけ、鍵閉まってんの?」


ドガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


「「うわああああああああッ!!なんだあああああああッ!!!!!!?」」


やる気十分!
あたしはスタンドで内側から男子トイレの個室のドアをぶん殴って壊す!!
ボロボロだったブギートレイン03は、白銀に輝いて…藤本美貴サマの完全復活だぜ。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


49 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:50:33.68 0

「…で、よ。あたしはあんたらに聞きたいことがある」

あたしは手加減してボコした小池徹平とウエンツ瑛士を見下ろして言った。
よくよく考えたら、今回はボコす必要なかったんだよな。
どうやらやる気が勢いあまって溢れてしまったらしい。
まぁドンマイだべ。


ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


「い、いひかわひゃん…なんてバイオレンスな…」

…もう面倒くさいから、石川さんと呼ばれてもいいや。

「お前たちさ、寺田の先公との『取引き』ってなんだ?」

「そ、それはこの仕事を引き受けて…」

「そんなこたぁーわかってんだよ!さっき便所でウンコ座りしながら聞いてたからなぁ!
あたしが知りたいのはそんなことじゃあねー!!なんで部外者のお前等がスタンド関連の
ことで寺田から話を持ちかけられるんだよってことだ!!!」

おかしい話だよ、まったく。
今までは部外者のスタンド使いを『警戒』していたような感じではなかったか?
カラスについてもそうだし、現在は演劇部員の一人ではあるが、三年生の
村田めぐみの時だって、美海の指令に『注意して〜』伝々って書いていたじゃあないか。
それがなんでどこで能力を手にしたのかもわからない男子生徒に、テストだなんて
協力をさせる?
寺田先生がスタンド使いにし、二次審査落ちした国分亜美や、三年の倖田來未に
頼むならまだしも…なんか辻褄があわねーよ!!


50 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:51:42.98 0

「おい、なんとか言え!!」

「やめてくれよ…そんなこと僕らの知ったこっちゃあない」

「なに?」

「僕らは舞台で歌いたいだけだ…そのためだったら何だってする…来年は
もう大学受験だし、今しかないんだよ!!!」

「徹平の言う通りだ…チャンスがあるならなんだってするさ。わけがわからんことでも、
それで俺たちの歌を聴いてもらえる機会が作れるのならなぁ!!!」

な、なんだこいつら…
マジでそんなことを考えているのか?
二人の目はマジだ。あたしはちょっと圧倒されていた。
夢のためならなんだってするってぇのか…?
そういえば…あたしにも夢があったな。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



51 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:53:18.22 0

あたしの紙芝居は…大失敗だった。
カニのハサミがないことを園児に突っ込まれた事なら、まだいい方だ。
もっと痛い一言を言われてしまった。

『その話知ってるー!もう飽きた!!』

無邪気だよな、子供って。
きっと、なんの悪気もなく言ったんだろうよ。
自前で画用紙とクレヨン買った自分がバカみてーだorz
そんなあたしを見て、取材に来ていた岸部露伴はうすら笑いを浮かべていた。
きっと心の中であたしをバカにしていたに違いない。
そして、未だにあたしのブギートレイン03がボロボロになっていると思っているんだ…
治したのは…前の朝のお前だよ。
演劇部を狙っている漫画家の男、岸辺露伴か…
こいつとは、また会うことになりそうだな。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


なにはともあれ、あたしのブギートレイン03は完全復活した。
いま、とても気分がいい。
この気持ちを誰かに伝えたい!!
そうだ、よっちゃんさんにでもメールすっかな!!
あたしは幼稚園からの帰り道、鼻歌を歌いながら携帯電話をいじくっていた。



52 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:54:29.61 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『どうだい、ナイフを鋭利に研ぐことはできたのかい?』

「十分すぎるくらいやった…てか、性格変わったんとちゃうかな?」

『どういうことだ?』

「相手は遠距離型のスタンドやったんだけど…なんかフルボッコにされよってなあの二人。
ちょwまっwwwなんで近距離パワー型みたいなことやってんねん石川」

『遠距離型のスタンドが…不思議なこともあるもんだな。ところで、これはもらって
いいんだな?水を熱湯にする能力らしいが…』

「ええよ。アイツも必要ないみたいやからな。でもそんな能力、神父はんに
必要なもんなんやろか?」

『前にも言ったろう?適材適所ってやつさ…ところで一つ聞かせて欲しいんだが』

「なんや?」



53 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:55:20.24 0

『なぜあの二人を始末しなかった?前みたいに』

「神父はん…わいはな、聖職者の前に一人の音楽を愛している人間や。音楽が
好きな少年たち…昔を思い出すなぁ…わいにもあんな頃があった」

『まさか…そんな理由だけで生かしておくのか?』

「それだけで十分やな、奴らはもうスタンド使いじゃあらへんし。あいつらは
音楽以外の事はハナクソほども思ってないんや。だから心配もあらへん。それにこの町、
行方不明の少年少女数、おかしいぐらいに多い。それに関与するってのも…なぁ?」

『何を今さら…要は、きみの気まぐれか』

「簡潔に言うとそうやな」

『フフ…やっぱりきみは、とんだ聖職者のようだ』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



54 :1 ◆I7CTouCqyo :2006/01/01(日) 07:56:54.86 0


岸部露伴
スタンド名:ヘブンズ・ドアー

小池徹平 再起不能
スタンド名:不明(水を熱湯にする能力)

ウエンツ瑛士 再起不能
スタンド名:ティナーサックス

藤本美貴 完全復活
スタンド名:ブギートレイン03


TO BE CONTINUED…