930 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 03:56:23 0

銀色の永遠 〜憤怒のシュペルノーヴァ〜


〜『彼』の場合〜

「いやぁ、この子供の頃のさゆの写真、可愛いなぁ…何かに怯えてるみたいだね。
って、あれ?さゆ、この写真立てに入れてたのって、さゆの写真だったっけ?
空条承太郎って人の写真じゃなかった?」

「しまったの」

「どうして?」

「失恋したの」

「えッ!?」

「…子持ちだったの!!しかも六歳の女の子だって!!!うぅ…orz」

「えぇッ!そうなの!?ありゃあ〜そーなのぉ〜ホントにぃ〜♪」

「絵里、なんか嬉しそうなの。ムカついてきたの」




931 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 03:57:40 0

道重さゆみの部屋の隅っこで、ウサギの彼は考えた。

俺はもともと夜行性だったはずだ。
そういえばアホな人間の飼い主に捨てられた当初は、ダンボールの中でこれから始まる
自由気ままな生活に夢を膨らませていたなぁ。
昼間は寝たいときに寝て、遊びたくなったら近くの幼稚園や小学校の飼育小屋の前で、
いい女(♀ウサギ)と柵越しから『決して結ばれることのない愛のラブストーリー(ごっこ)』を
してイイ気になる、そんな平和な一生を送ろうとしていたよなァ。
まさか人間の女との『小さな闘い』で負けて拾われるなんて、当時の彼は考えてもいなかった。
亀(のような姿のスタンド)に負けたことは、彼の自信に痛烈な一撃を加えて崩したのだった。

ウサギの彼は考える。

なんだか人間の生活に慣れきってしまっているが、こんなままでいいのかな、俺は…と。
こんな蝶ネクタイまで締めて、イザって時に野生に戻れるんだろうか。
そんな心配を抱えていた。



932 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:01:09 0

だが、そんな気持ちとは裏腹に、彼には守りたいと思うものがあった。
アホみたく自分を可愛がる、この少女。
自分とは会話なんか出来やしないのに、その日にあったことをやたらと話しかけてくる
頭ん中がメルヘンな、お姫様を目指しているらしいこの『道重さゆみ』だ。
いつも一緒に寝たがるこの娘には、相当困らされたものだ。
生活リズムは崩れたし、ベッドの中でトイレを我慢しすぎたので便秘になったこともある。

こいつ、どーしようもなく面倒くせェーガキだな。

普段ならそう思って、決してなつかない事にしているのがいつもの彼だ。
だが、そうもいかなかった。
鏡の前で勘違い発現を連発するその裏で、この少女がよく涙を流している事を彼は知っている。
寝言で何度「お姉ちゃん」と聞かされたことか。
この間も、肩をケガして帰ってきたと思えば、突然彼の前でワンワン泣き出したのだ。
やはり「お姉ちゃん」と、しきりに叫んでいた。

俺には無関係だ…人間の女が泣こうが叫ぼうが俺の知ったこっちゃねぇ。

なぜそう思えなかったのか、それは彼自身にもわからない。
だが、一つだけ言えることがある。
それは、彼は常に『可愛い女の子の味方』だということだ。
今日、この日までは…




933 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:02:09 0


「空条承太郎…さんって、今何してるの?」

「なんか海岸で見たヒトデに関する論文で『博士号』をとったらしいの」

「もう杜王町にはいないの?」

「うん。てかさ、どーでもいいかもしんないけど絵里、なんか顔近いの」



934 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:04:26 0

そんな彼女らの会話に包まれながら、彼は部屋の窓の外から聞こえる
奇妙な声を耳にしていた。
泣き声だろうか?
聴力の優れた彼の耳には、すすり泣いている子供の泣き声が聞こえてくる。

「いたいよー…いたいよー…母さん…」

この泣き声は知っている。
彼の嫌いな動物、カラスのものだ。
以前、カラスには散々な目に合わされたので、あまり関わりたくはない。
そもそも、鳥という生き物自体が嫌いだった。
特にあの何を考えているんだかわからない瞳が嫌いだ。

弱肉強食は自然界の掟さ。バカな奴が死ぬんだ。
無用心な奴が悪いんだ。生き残るためには、一人で強くなんなきゃならねーんだ。
弱い事が罪なんだよ…それが一番、命を粗末にしてる行為なのさ。

彼は、常々そう思っていた。
だが、それなのに彼は部屋の窓を開けたのだ。
カラスのクソガキが土曜の昼間っから何事だ?そんな軽い気持ちだったのだろう。


彼は、人間の生活に慣れすぎてしまっていた。




935 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:05:24 0


「あれれ、レミーちゃん…外行っちゃうよ?」

「ああ、大丈夫なの。お利口さんだからちゃんと帰って来るの。それよりさ、
さっきからちょっとくっつき過ぎなの。離れろなの」

「うへへ…ごめんごめん。ところで小春ちゃんや吉澤さん達、うまくやってるのかなぁ?」




936 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:06:54 0

〜『彼女』の場合〜


「あ、高橋さんじゃないですか。今日も来てたんですね」

土曜の放課後、部室を訪れた彼女を迎えたのは、高等部一年の高橋愛であった。
部活では彼女の先輩にあたる。部活に顔を出すと、必ずいるのがこの高橋愛だ。
彼女が思うに、高橋愛はこの部活でも一、二を争う実力の持ち主であろう。

「おぉー小春ちゃん。生徒総会、だるかったなァー。ネェ?」

生徒総会は本当にだるいものであった。
土曜の朝から中等部から高等部までの生徒をわざわざ寒い体育館に出向かせて…アホらしい。

ハッキリ言って、私には関係のないことだ。

彼女はそう思っていた。
恐らく、彼女の前にいる高橋愛もそう思っているに違いない。
なにが『議題』だ。
人の意見を尊重する、なんて言っておきながら、多数決という言葉一つで、たった一人の
たった一つの意見を踏みにじるではないか。
彼女は『議題』というものにはシナリオが存在するものと考えている。
『ミラクルな大スター』なるものを目指す彼女には、そんなシナリオに付き合っているほど
暇ではなかったのだ。



937 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:08:51 0

彼女は、机の上に置いてある可愛らしいクレヨンを目にした。
わりとまだ新しめである。買ったばかりのものだろうか。

「わあぁ、クレヨンだ。懐かしいなぁ…小春、いつもピンク色だけすぐなくなっちゃって
たんですよ。白だけはいつも長いままでしたけど。コレ、高橋さんのですか?」

彼女の質問に、高橋愛は首を横に振る。

「あっしのじゃあないヨー。それ、ミキティのクレヨンなんよ。ほら、今日の
アンタらの指令、石川さんと代わったジャン?今朝、そこで熱心に紙芝居書いてたよ」

ああ、そういえばそうだった。
彼女の脳裏に必死で画用紙に向かう、先輩の藤本美貴の姿が浮かんだ。
あの人は亀井さんに並んで絵がヘタクソだと聞いている。
きっと四苦八苦したに違いない。

「アイツ、そのクレヨンと画用紙買って全財産なくしたンだと。そしたら、あっしに
コーヒー代でいいから貸してくれとか言い出したンよ。だから言ってやったのサ。
貯金してねェーアンタが悪い、お貯金しねまッてなァー」

あの人らしいな。
彼女の口元から自然と笑みがこぼれた。



938 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/13(火) 04:11:48 0

「でも、うらやましいですね。藤本さん、幼稚園に行ったってことはかったるい
生徒総会に出なくて済んだんですもんね」

いや、それは違うか…彼女はすぐに考え直した。
いつもだるそうにしてるあの人の事だ。仮に指令がなかったとしても、
生徒総会には出てこなかっただろうな、きっと。

指令…指令か。
指令にも、議題と同じで『シナリオ』が存在するんだろうか。
彼女は、ふとそんな事を思ったが、そんな考えはすぐ頭から振り払った。

「そんなわけはないな。そしたら何のための『指令』なんだ…」

「ン、どうした?」

「いえ、なんでもありません。指令、頑張ってきますね。寺田先生から指令を
受けることなんてて滅多にないことなんで」

「そーかァ。そーいや今まで、ほッとんどさゆみんで動いてたもんな、アンタ」

「ハイ。じゃあ、私はこれで」

カバンをロッカーに突っ込むと、彼女は待ち合わせ場所へと向かった。
石川さん…そして吉澤さんはもういるんだろうか?
彼女は一歩一歩進んでゆく。


こうして、彼女もまた深みにはまっていく。


971 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:13:13 0

「いいか。石川たちの例もあるし、たかが鳥公だといって舐めてはかかれない。
捕獲用のカゴは小春、お前が持つんだ」

「あ、ハイ」

久住小春は、部長の吉澤ひとみからやや大きめの鳥かごを受け取った。
カラスを捕まえるだけあって、ずいぶんと大きな鳥かごだ。
片手じゃ抱えられない。

「…おいおい、小春。何やってんだ?」

「カゴを持ってます!!」

「そーいうことじゃあねぇ。お前の『ミラクル・ビスケッツ』でしまっておくんだYO!!
そんなもん抱えてたら自由に動けないだろ?」

「あ、そうか」

「しっかりしてくれよ、ミラクルちゃん」

小春は『彼ら』を呼び出すと、抱えていたカゴを一瞬で分解させた。
彼らとは、彼女のスタンド『ミラクル・ビスケッツ』のことである。

『全員一緒ニみらくるミラクル!!』
『ゼーインイッショニミラコーナイッ!!』

騒がしい者達ではあるが、小春はこの7人と共に人生を歩んできたのだ。
彼らは、久住小春の<誇り>だった。



972 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:16:21 0

「しッかし…担当がミキティから石川に代わったのは返って好都合だったな」


吉澤ひとみは、持っていた捕獲用の網を石川梨華に差し出しながら言った。
その言葉を聞いて、石川梨華は満面の笑みになる。


「え、何々?よーやくその気になったの?ねぇ?ねぇねぇ?いやぁ、そう言われると
あたしもよっしぃーのためにリハビリして退院した甲斐があったってもんよ。エヘッ!!」

「エヘッ!!じゃあねぇーッ!!!誰がその気になるんだよアホ。遠距離から
近づけるなーってことだ。ほら、早く持てよ。捕獲はお前の担当だ」

「何よ、何なのよ。持てばいいんでしょ…シクシク」

「泣いて済むなら泣きやがれ」


小春が聞いた話によると、作戦はこうらしい。
目標のカラスを見つけた際、まず石川梨華のスタンド『ザ☆ピース』に網を持たせ、
遠距離から近づいて、まず網で一時的に捕獲する。
だが『腐らせる能力』を持つカラスの前例があるので、それだけでは爪が甘い。
そこで吉澤ひとみのスタンドで弱らす。

「まぁカラスって丈夫そうだしよ、衝撃の一発や二発当てたところで死にはしないだろ」

と、小春に言っていた。
彼のシュートは正確だ。網に入った瞬間、カラスに一発お見舞いしてくれるに違いない。
あとは小春が分解した鳥かごを再形成して、その中に弱ったカラスを突っ込み
完璧に捕獲する。
それで、任務完了というわけだ。


973 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:17:53 0

だが、小春はこの作戦に軽く不満を持っていた。

これじゃあ私、ただの荷物持ちじゃあないのか?
…まぁ、所詮新参の仕事なんて最初のうちはこんなものなんだろう。
私は『ミラクルな大スター』になる女だ。
そのためなら、なんだってやってやるさ。

小春はそう思うことで、一人納得した。


「つっても状況によっちゃ殺さなきゃなんなくなるかもしれないけど、
その時はサポートよろしくな、二人とも。よし行くぞ」

吉澤ひとみは最後にそう付け足した。




974 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:19:05 0


三人で街中を歩いていると、先頭を歩いていた吉澤ひとみが口を開いた。


「カラス見つからないな」

「「…?」」

「問題は、どうやってそのカラスを見つけるか、なんだよなァー」

「「!!!!?」」


小春と石川梨華の間に衝撃が走る。
この人は、今なんと言ったんだ?
二人は「よし行くぞ」と歩き出した吉澤ひとみについて行っただけなので、
彼の発言には驚いた。
まさか、なんの考えもなく20分も歩いていたというのか?


「ちょっと、よっしぃー。何それ。聞き捨てならないんだけど」

「え?ああ、そーいや石川、前にカラス探し当てたとき、どうしてたんだ?」


尊敬する先輩の一人である部長の吉澤さんでも、ボケたことするんだな。
小春の表情が自然と緩む。
それは中学一年生の顔つきだった。


975 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:20:30 0

だがこの発言には、普段おしとやかを気取っている石川梨華がキレた。

「ど…どうしてたんだ?じゃあねェーッ!!アンタなんの考えもなしに女の子二人を
寒空の下歩かせてたの!?こんなでかい網持たされてるあたしの身にもなってよ!!!
みんなあたしを振り返って見てゆくわッ!!は、恥ずかしい!!!!」

ピリリリリリリリリ…ピリリリリリリリリリリ…

「あ、メールきた」

「なによ!人が真剣に話してるのに!!電源切ってよ!!!」

「ミキティからだ。何々…」

吉澤ひとみの携帯電話に受信したメールには、こう書かれていた。


『絶好調!!誰も美貴をとめることはできない。
あー、でっかい声で叫びたい。幸せのOH!YAH! OH!YAH!!』


「…ぷっ。紙芝居うまくいったのかな?よかったじゃないか石川、
いい仕事してくれたようだぜ」

「ちょッ!!なに!?ミキティとメールしてんの!!?」

「えーと『終わったらすぐ電話する』…ッと」

「質問を無視するなァーッ!!!」



976 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:22:44 0

小春は二人の夫婦漫才を見て、初めて石川梨華という先輩がどんな人物なのか知った。
彼女が演劇部に入った当初から石川梨華は長期入院していたので、顔合わせは
今日が初めてと言っても過言ではない。
どんな人か不安だったが…いらぬ心配だったと、小春は安堵の息をつく。
おもしろい人じゃあないか。
彼女は純粋にそう思ったのだった。


「うっせーな怒鳴るなよ。そんな眉間に皺寄せてちゃ折角のチャーミングな
お顔が台無しだぜ?」

「…あなたはズルいわ。いつもそうやって女の子を弄んでるんでしょ…あ、いいとこに鏡が」

石川梨華は、塀にくっついていた鏡を見つめてウットリし始めた。
・・・?
なぜ、塀に鏡がくっついているのだろうか?



977 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/14(水) 04:25:39 0

「<ひ>めのように可愛いあたし。<つ>まりそれって…<ジ>コ満足よ☆」

(奇妙だ…こんなところに鏡があるなんて)
小春も吉澤ひとみもすぐに気がついた。
いや、気がつかない方がおかしいのだ。

(塀に鏡がくっついている?いや、違う!!塀が一箇所だけ、おかしいくらいに光ってるんだ。
なにかで研磨されたかのようにピカピカだ…でも、この塀はレンガ石で出来ているみたい。
レンガ石をいったいどれだけ磨いたら、人が写るくらいまでにすることができるんだ?
そもそも、一部分だけがこんなに光っているなんて…絶対おかしい!!)

小春の脳裏を色々な考えが過ぎる。そして、ある結論に行き着いた。
これは何か尋常じゃない事態であると。
鏡(?)を見て自分の顔にウットリしてる場合ではないだろう…と。

「石川さ…」

「<ひ>っこんでろっ<つ>ってんだろ!!<ジ>ャマなんだよーッ!!!!!」

小春が言うより先に、吉澤ひとみが石川梨華を鏡から突き飛ばす。
石川梨華は派手に尻餅をついて「いった〜い!!」と言った。
さすがは部長なだけはある、判断が自分より早い。
とにかく、この鏡はやばい。なんかやばいのだ。
…ミラクルエースだと言うのに、私もまだまだだな。
こんなままじゃ、皆を引っ張ることは当分の間は無理だ。
そう思いながら、小春は演劇部の部長を尊敬の眼差しで見つめた。


30 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:16:41 0

たまげたな…なんて輝きを放ってやがるんだ。俺の『Mr.ムーンライト』でさえ、
月の光を浴びたところでここまで光ったりしないぜ。
吉澤ひとみは塀の光っている部分に触れてみることにした。

ツルツル…

曇り一つない、鏡そのものだ。
いや、鏡という表現はちょっと違うかもしれない。

「いきなり突き飛ばすなんてひどいじゃないのよ!!」

「こ、これは完璧な無菌状態だ…塵一つついてない、汚れ一つないパーフェクトな
抗菌コートだぜ」

抗菌コートなんて言われると、小春はなんだか歯ブラシを思い出してしまう。
ミラクルエースなどと言われているが、そういったところはまだ幼いようだ。
それは、本人も自覚はしていた。

カツッ!!!

「「「ッ!!!?」」」

突如、どこからともなく何かをつついた音が聞こえてきた。
三人は揃ってお互いの顔を見合う。

カツッ!!カツッ!!!

ま、まただ!!
三人は、暗黙の了解で小声を使い会話を始めた。



31 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:19:46 0

(小春ちゃん、よっしぃ…今の音は…?)
(確証はつかめないけどよ…何かをつついてる音に聞こえなくもねぇーよなァ…)
(音がしたのは、この塀の…さらに向こう側の塀ですよ)

カッツーン!!!!!

(ま、まただわ…ッ)
(石川、おちけつ。まだ俺らが追っているカラスと決まったわけじゃない…
カラスなんて杜王町には五万といるからな。そもそもカラスなのかもわかんねー。
様子を見に行きたいとこだけど…)
(吉澤さん、そういうことなら私に任せて下さい…No.1、2。よろしくね)

スタンド『ミラクル・ビスケッツ』の二人が塀の裏側にまわる。
射程距離が50メートル近くある彼女のスタンドは、こういった偵察にも使えて便利だ。
やがて、頭にNo.2と書かれたミラクル・ビスケッツの一人が小春の元に帰ってくる。

(お疲れNo.2…ふむ、ふむふむ…)
(小春、どうだったって?)
(間違いありませんね。カラスです…しかも嘴にスタンドを確認したそうですよ)

嘴にスタンド!!!
小春のその言葉を聞いた石川梨華は、以前捕獲に失敗したスタンド使いの
カラスを思い出した。

思えば、あのクソったれカラスのせいであたしは退院が延びたのよ。

あの時、石川梨華は『カラスは縁起が悪い鳥』という古い言い伝えを身をもって
知ったのである。
嫌な気分だわ…彼女はだんだん不安になってきた。



32 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:22:14 0

(ビンゴだな。スタンド使いは引かれあうたぁよく言ったこった…なぁ、石川)
(…えッ?)
(え?じゃないだろ。お前の出番だよ)

吉澤ひとみは、石川梨華と彼女が持っている網を交互に見る。

(監視しているNo.1の話によれば、カラスとの距離は五メートルもないようです。
偶然とはいえ、こんな至近距離で遭遇できた事はまたとないチャンスですね。
石川さん、お願いします)

小春もまた、彼女とその持っている網を交互に見た。

(え?え??)

石川梨華は、その手に持っている捕獲用の網を見つめる。

そういえば、あの時もあたしが網を持っていた。
あたしが網で捕まえて、さゆに持たせていた鳥かごに突っ込もうって作戦だったな。
でもカラスは網を突き破り、終いにはあたしの脇腹を漆黒の翼でバッサリ霞めていったのよね。
あれは、とても痛かったわ。

石川梨華の脳裏には、その時の光景がフラッシュバックされていた。
今からやろうとしている作戦は、あの日のものとほぼ同じなのだ。
違うことといえば、人数が一人増えたことぐらいか。
彼女はだんだん怖くなってきた。



33 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:23:45 0

(石川、どうした?)
(…んッ?い、いや、なんでもないわ)


だが、弱音を吐くことも出来ない。
なぜなら彼女にもプライドがあるからである。
それに、彼を気にいっている反面、どういうわけか昔から『コイツには負けない!』という
妙な対抗意識を持っており、それが彼女を余計に強がらせていたのだ。


(…あたし行くわ)
(おう、頼んだよ)
(石川さん、ファイトっ)


シュウウウウウウウウウウウ…
彼女の背後から音も無く現れた金色の乙女、ザ☆ピース。
これが石川梨華の精神のビジョン、スタンドである。
彼女は自らのスタンドに網をもたせると、ザ☆ピースを地面に這わせ、胴体を
まるで『ヘビ』のようにくねらせながらカラスに近づいていった。

そこで、まず一つ目の誤算が生じる。



34 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:27:48 0

「お…おおぉws;k@^r*kふじこーッ!!!!!」


叫んだのは他でもない、我らがミラクルエース、久住小春である。
突然発狂した小春に、石川梨華も吉澤ひとみも驚きを隠せない。
吉澤ひとみは道重さゆみの言っていたことを思い出した。

「ハッ…そ、そうだった!!小春のヤツ、ヘビが大ッ嫌いなんだった!!!」

「ちょ、ちょっと…一体何を見てヘビを連想したのよその子は!?ま、まさか…」


そう、小春はザ☆ピースのニョロニョロと地を這うその艶かしい動作に、
大嫌いなヘビを重ねてしまったのだ!!!


「ぶ、侮辱もいいところだわッ!!!」

「いやーッ!!ヘビ怖い!!!」

「い、石川はカラスに集中してろッ!!静かにしろ小春!!!」


このままでは、カラスに悟られてしまう!
せっかく運良く遭遇できたのに、逃げられてしまう!!
そう思った吉澤ひとみはポケットからタオルハンカチを取り出すと、躊躇することなく
彼女の口にズボォォォッ!!!っと、それを力強くねじ込んだ。




35 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:29:35 0

「モ、モモンガ…」

「小春、落ち着け。お前、ヘビが苦手なんだったな。今、石川がカラスを網に捕まえる。
そしたらお前の出番だ…カラスを鳥かごに入れるのはお前の役目なんだからな…
しっかりしてくれよ…ッ」

「ム…モ…ッ」

「何?落ち着かない?なら素数を数えるといい。素数は1と自分の数でしか割ることの
できない孤独な数字さ。きっと小春に勇気をくれる」


い、息ができないーッ!!
小春としては落ち着くどころか落ちそうなのだが、吉澤ひとみはそれに気付く様子もない。
ハンカチが喉に詰まってしまう…ッ!!
素数?何それ!?

そして、二つ目の誤算が生じる。



36 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:30:58 0

「よっしぃ…」

石川梨華は震えた声で言った。

「石川、どうだ?捕まえたのか?」

「いや、まだなんだけど」

「何かあったのか?」


石川梨華は無言で頷いた。
それを聞いて、吉澤ひとみはゴクリと唾を飲んだ。
小春は一人で必死に口からハンカチを取り出そうと頑張っている。


「何が…あった?」


恐る恐る訊く彼に、彼女は答える。


「目がね、あっているの…ザ☆ピースと目が合ってるのよ」

「…なんだよ、そんなことかよ。慎重にやれよ、慎重に」

「それだけじゃあないの。このカラス…ゆっくりではあるけれど…ザ☆ピースに
近づいて来てるのよ…ッ!!!」



37 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:35:52 0

そんなことがあるのだろうか?
カラスとはいえ野鳥である。
ゆっくり近づいてくる余裕があるほど人間慣れしているカラスなどいるんだろうか?
石川梨華はスタンドの動きをピタッと止めた。

「ハァ…ハァ…」

網を振り下ろすには、まだ数センチ遠い。腕を伸ばせば距離は稼げるが、
万が一、カラスが突進してきたとき、そのスピードに負けてしまうかもしれない。
カラスがよそ見した時だけ、ほんの何ミリか近づく。
まるで『だるまさんが転んだ』をやっているようだ。
今、この伸びた状態の身体を傷つけられたら…また病院に逆戻りだろうな。
脇腹を切られたあの時のことを思い出すと、ふさがったハズの脇腹の傷が痛くなってきた。

このカラスの能力はなんなんだろうか。
その正体はわからないが、カラスが食い散らかしたゴミが、やけに新鮮なことが気にかかった。
あの食べかけの魚なんて、生ゴミにしてはやけに表面がツヤツヤでうまそうだ。
それだけじゃあない。
地面のところどころが、太陽の光を反射して、眩しいくらいに輝いている。

「こいつは…いったい…」



38 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:38:51 0

その時である。
バサッ!!っと大きな羽音をたてて、カラスがこちらに飛んできたのだ。
『飛んだ』というよりも『跳ねた』に近い。


「oみょlaXP+*jmふじこッ!!!!!!!!」


カラスに恐怖心を抱いていた石川梨華にとって、これほどの衝撃はなかなかないものであった。
カラスが網の射程内に入る。
いつもの彼女なら見逃すはずのない大チャンスだ。
網を振り下ろすなら今しかない!!
だが彼女は力の限り網を投げつけた。
そして、早まった行動を取ってしまう。

『カカッ!?』

「こ、こっちくんじゃあねーわよッ!!チャーミングフィンガーッ!!!!!!!」

ザシュッ…
『クケーッ!!!』

捕獲という目的を忘れ、彼女はなんとカラスをその『指』で引っかいてしまったのだ。
斬られて驚いたカラスは、その勢いでヨロヨロと飛んで行った。
傷は浅かったようである。
息を切らしながら、石川梨華は思った。
なんだか前のカラスより小さかった気がする、と。
まぁよかったわ。ケガさせられなくて…彼女は安堵の息をついた。



39 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:42:33 0

とは言ったものの、結局それは予定外の行動。
吉澤ひとみを怒らせるには十分だった。


「お、オメー何やってんだァーッ!!誰が攻撃しろと言ったんだッ!?」

「だ、だって怖かったもんだから、つい♪」

「つい♪じゃあねーだろッ!!しゃくれんぼ!!!俺まだなんもしてねーよ!!
あーッ!!見失っちまったじゃねーか!!!」

「しゃ、しゃくれんぼって…orz」


二人の言い合いを耳にしながら、やっとの思いでハンカチを吐き出した小春は
ミラクル・ビスケッツの三人にカラスを追跡させる。
中学一年生にして、言われなくてもこういう機転の利いた行動をとれる彼女は、
やはりミラクルエースたる資格があるのだろう。



40 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 02:45:44 0

だが、しかし。
小春の中で、素朴な疑問が生まれ始めていた。
私達は、今追っているあの小さなカラスに直接何かされたわけではない。
以前現れたカラスとも違って、スタンドで何か悪さをしているわけでもないようだ。

では、なぜ私達はカラスを追っているんだ?
なぜ私達にそんな指令が下されたのだ?


小春は吉澤ひとみに尋ねてみた。

「あぁ?なんで指令が出たかだって?あれだろ、病気はなった後よりも、なる前の対処が
一番大事っていうじゃないか、たぶんそれさ。それより、お前のスタンドでカラスを
追いかけ…え?もうやってるって?さすがはミラクルだな。でかしたッ!!!」


病気はなった後よりなる前。
悪い芽は早いうちに摘むというわけか…
なら、それは一体なんのために?
考えれば考えるほど、小春は壁にぶつかってしまう。
おかしい…何かが矛盾している。

「これは…あのカラスが突っついていた刺身の食いかけだな。なんだこりゃ、
どれも綺麗じゃないか。全然腐ってない…新鮮だぜ」

「つーかさ、土曜日に生ゴミ捨てるバカはどこのどいつなのかしら?顔見てみたいわ」

二人のやり取りを眺めながら、久住小春は考える。
私は本当に『ミラクルな大スター』になるためのサクセスロードを歩めているのか?
彼女の疑問は、この日から始まった。


81 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 22:41:08 0

〜『彼』の場合〜

「おい、そこのお前。そう、お前だよ。悪いがあまり大きな声出して泣かないでくれないか?
昼寝は俺の大事な日課なんでね、気になって眠れないんだ」

ウサギのレミーは窓から木の枝に飛び移ると、ケガをしたカラスの子供を見下ろして言った。
おそらく、巣立ちして間もないカラスであろう。
木の枝から飛び降り、スタンドを使ってうまく着地すると、カラスの子供が
表情を一変して感嘆の声をあげる。

「す、すごい!!それ、人間が乗ってるショベルカーっていうヤツじゃあないですかッ!?」

聞き捨てならないセリフだった。
こいつ、今なんて言った?
見えてるってのか…俺の『ブック・サーカス』がよー…。
鳥公ときて、しかもスタンド使いとくると、三ヶ月くらい前に出会った、
あの狂気に満ちた化け物カラスを思い出す。
彼はそれ以来、鳥が今まで以上に嫌いになった。

「・・・・・」

レミーの赤い瞳は、カラスの子供の傷ついた首を映していた。
なんだこれは、引っかき傷か?
爪あとのように見えるが…大方、どっかの枝にでも引っ掛けたんだろう。
なるほど…それで泣いてたいたというわけか。
でも、この程度の傷で泣くとは…こいつ、ママっ子野郎(マンモーニ)か?
彼はカラスの子供に話をかけてみることにした。



82 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 22:42:28 0

「坊主、名前は?」

「僕…ですか?」

「ああ」

「僕は『ダイヤモンド』っていいます」

「へぇ」

「お姉ちゃんは『チェス』っていいます」

「いや、お姉ちゃんの名前なんて聞いてな…」

「お兄さんは『囲碁』っていいます」


人の話を聞かないヤツだな。
しかし、別に家族構成などに興味はないがすごい名前もあったもんである。
まるで、盤上ゲームの名前のようだ。
さらにカラスの子供、ダイヤモンドは続ける。


「それから、お父さんが『オセロ』っていいます」


戦慄が走った瞬間だった。



83 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 22:43:21 0

オセロ。
以前出逢った凶悪な殺人カラスの名前だ。
自分が食うためには人間だろうが仲間のカラスだろうが容赦なく皆殺し。
自分さえよければいいという…もはやこの地球上に生きていていい生物ではなかった。
それを葬ったものがいる。
雪のように白い毛と赤い瞳、それからピンと張った長い耳、そして首に巻かれた蝶ネクタイ。
道重さゆみに飼われている、このウサギの『レミー』がそうだ。
なんで『レミー』と名づけられたのか、本人は知らない。
まぁ意味なんてないとは思うが。

このガキ、あの糞カラスの子供なのか…?

あの凶悪カラスは、腹を空かせば例え恋人だろうとその牙(嘴)にかけるカラスである。
そんなヤツが、子供を作っていたとは奇妙な話であった。
『オセロ』にとって、自分以外の生き物は単なる『道具』であり『食料』だったので
なぜ『ダイヤモンドの母親』がオセロに始末されずに『ダイヤモンド(達)の卵』を
出産できたのか?その経緯は誰も知らない。
そして、これから先も知ることは出来ない。
なぜなら…すべてを知っていた『ダイアモンドの父親』は、ここからちょっと先の
茂みを乗り越えたところで、今も眠っているからだ。
今でもまだ、土に還ることも叶わず、コンクリートに潰されている。



84 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/15(木) 22:45:19 0

「僕、お父さんを探してるんです。僕が孵る前に失踪しちゃったらしいんで」

「…なんで親父を探してるんだ?」

「あの、お恥ずかしい話なんですけど…僕、いじめられッ子なんです。
空も満足に飛んでられないし、電線にぶら下がったり出来ないんです。あれ、すごい
楽しそうですよね」

ダイヤモンドは続ける。

「お母さんは、お父さんのことを『ロクでもない人』なーんて言ってたけど…
やっぱ、会ってみたいじゃあないですか。それにロクでもないってことは、僕とは
正反対だと思うんです。会ったら何か変われるような気がするんです…って初対面の、
しかもウサギさんに何を話してるんでしょうね僕は。すみません」

カラスの少年『ダイヤモンド』はキラキラした黒い瞳でそう語った。
不思議なものである。
あのどす黒いオーラに包まれた凶悪なカラスから、こんな爽やかな子供が生まれるとは。
この少年が、自分の父親の暗黒な行いをどこまで知っているのかどうかはわからないが、
一つだけ、レミーには言える事があった。


こいつの父親は…俺が殺した。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…


101 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:26:29 0

〜『彼女』の場合〜


「小春、ビスケッツの方から連絡は?」

「まだです」

「そうかぁ…」

ベンチに座り、吉澤ひとみは缶ジュースのブルタブを開けた。
ついさっき、向こうの自動販売機で買ったのだ。

「ゴクッゴクッ…プハーッ!!ま、小休止ってヤツだ。小春もいる?」

吉澤ひとみは飲んでいた缶ジュースを小春に差し出す。
だが、小春はそれを断った。

「いえ、遠慮しておきます。間接キスって苦手なんです」

「そうか。サッカー部じゃ当たり前なんだけどな。ゴクッゴクッ…」

うむ、さすが運動部に所属しているだけあって、いい飲みっぷりだ。
しかし、こういった『時間を持て余した行為』は彼女の嫌うことの一つだ。
こんなところで油を売ってないで、自分もビスケッツ達と一緒にカラスを捜索したい…
そう思っていた。
だが、小春も人間である。生理的欲求には叶わない。
清涼飲料水を喉を鳴らして飲む吉澤ひとみを見ていたら、喉が渇いてきてしまった。
私も何か飲もうかな。
向こうの自販機でジュースを買っている石川さんが戻ってきたら、自分も何か買いに行こう。
そう思い石川梨華の方を見ると、小春は石川梨華の後ろで並んでいる一人の青年に
気がついた。


102 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:27:48 0

「なにやってるんだろう…並んでるにしてはやけに距離が近いような」

気になってよく見てみる。
その青年の手には何か握られているようだ。
あれは…携帯電話?
でも持ち方が奇妙だ。まるでスカートの中に潜り込ませているような…


ピロリロリン♪


軽快な短い電子音が聞こえたような気がしなくもない。
そして、ミラクルエースである前に、女の子である小春には、その青年が
何をしていたのか直感でわかった。

…盗撮したの?

小春の方まで聞こえた電子音だ。
すぐ近くにいた石川梨華が気付かないわけがない。

「やべッ…」

彼女が振り向くと同時に、青年…いや、盗撮犯は逃げた。



103 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:29:11 0

「…杜王町にこんな『汚らわしい』クソカスがいるとは。しかも真昼間からねぇ」

石川梨華は一言ぼやくと、ザ☆ピースを地面に這わせ、盗撮犯めがけて一直線に伸ばす。
金色の手は、盗撮犯の足をつかんで地面に転ばせた。

「げッ!」

その盗撮犯である青年には、なぜ今自分が転んだのか、一生知ることはないだろう。
彼の前に、無表情の石川梨華が立ちはだかる。

「す、すいませんッ!!出来心だったんです!!!」

「・・・・・・・・・『汚らわしい』」

石川梨華は黙って青年の顔を見つめると、いきなり彼の髪の毛をつかみ、
引っ張るようにして起き上がらせた。

「ひッ!!?」

「テメー今あたしのパンツを隠し撮りしたよなァ?このビチグソがぁ〜!!」

遠目からそれを見ていた小春は、石川梨華のただならぬ雰囲気に違和感を感じていた。
なんか…あの人おかしいぞ。
一般人にスタンドを使って、しかも追い討ちをかけようとしている…?
元からそういう人なのか?いや、そんな人には見えないが。

「ヘドぶち吐きな」
ゲシャッ!!!

石川梨華が青年の顔に膝蹴りをかました。
これは他でもない、まさに異常事態ではないか。


104 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:30:23 0

「吉澤さんッ!?」

「わ、わかってる、石川のヤツ何やってんだ?」


遠目からその光景を見て驚いている二人をよそに、石川梨華の暴行は続く。

「『汚れた』ことしてくれちゃってよぉ…『汚らわしい』鼻血たらしやがって…
このチンボコしごいて喜んでるサル以下のイカ野郎のくせに…」

「お、お…」

「あたしのパンツを!!」

石川梨華は青年を持ち上げ肩に乗せた。
信じられない光景だった。
女子高生が、男性を肩に担いでバックブリーカーをかましているのだから!!

「その便所でクソして洗ってねェ手で触った携帯で隠し撮りしようなんてよぉぉぉッ!!!」

バキッメキッ!!

「こいつはメチャ許せないわよねぇぇぇぇッ!!!!!」

「あがが…うげッ」

ボギョンッ!!!!!!!!

「ゲボォォォォォッ!!!!!!!!!!!!」



105 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:31:47 0

小春は驚いた。
本当にこれが、さっき鏡を見てウットリしていた石川さんなのか?
それに、あんな下品なセリフをあの人が吐くなんて…

「おい!なにをしてんだ石川、死んじまうぜ…やめろ、血を吐いてる」

吉澤ひとみが彼女を止める。
だが石川梨華は、それをあざ笑うかのようにしてさらに両腕の力を込めた。

「ほーらほらほら!!!」
メキャメキャボキャッ!!

「ガボッゲボッ」

なんという状況だろうか。
さすがのミラクルエースも目を当てていられない。

「石川ッ!!!」

「止めないでよぉ…フン!!こいつはあたしのスカートを隠し撮りした、とっても
『汚らわしい』ヤツなのよ…フン!フン!!こらしめて当然でしょ…フン!!」

バキョ!メキャ!!

「お、お前…よくそんなスッキリした顔でそんな事ができるな!!」

「違いますかねぇ…吉澤ひとみちゃん!!」

バキィッ!!!

「ゲボッ!!」


106 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:33:29 0

な、なんだこの人は…さっきまでと、まるで態度が違う…狂ってしまったかのようだ。
基地外とは、こういう人をいうんじゃないだろうか?
小春は石川梨華に対し、軽く恐怖を覚えた。喉の渇きも忘れてしまった。

「やめろと言ってるのがわからねェのかッ!!!」

吉澤ひとみは石川梨華を突き飛ばすと、息も絶え絶えの青年を地面に下ろした。
血を吐いてピクピクしているが、青年の意識はあるようだ。
地面に尻餅をついた石川梨華は、精気のない表情で空を見つめている。

「てめー石川。どうかしてるぜ…興奮してるのか?」

「・・・・・・・・・」

彼女は何も答えない。
目がイってしまったあとのようだった。

「ポケーッとしてんじゃあねーぞ石川!!!」

「…ハッ!!?」
彼の怒鳴り声で、石川梨華は我に返る。

「えッ!えッ!!なに?」

「何じゃねえ!お前…」

「いやあああああああああッ!!何よその人は!!!」

口から血を吐いている青年を指差し、石川梨華は絶叫した。
わけがわからないとでも言うように、彼女は震える。
だが、本当にわけがわからないのは小春と吉澤ひとみの方だった。


107 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:35:25 0

「…石川さん。あなた、自分が何してらっしゃったか覚えてないんですか?」

「…わからないわ、あたしはただレモンティーを買おうとして…そしたら写メの
シャッター音がして…盗撮されたってことは気付いたわ。それで『こいつ、なんて
汚らわしい』って思って…あれ、その後あたし、何したのかしら?」

「マジで?本当に何も覚えてないのかよ」

「心当たりはノーノー。だけど心にポッカリ穴が開いているようだわ…なぜ?
ただ言えるのは…」

とても『汚らわしい』と思ったのよ。
石川梨華容疑者は、そう供述した。

吉澤ひとみは考える。
こいつ、なんだかんだでキレると人を殺しかねないヤツだが…一般人に対して
ここまで猛威を振るうところは初めて見たぜ。
それに、さっきバックブリーカーしている時に見せた、まるで汚いものを掃除して
気分がスッキリしているかのようなあの表情。
これは…何かある。
私たちが気付いていない何かが…。
彼の目は、演劇部の部長の目の色に変わっていた。


108 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/16(金) 01:38:30 0

小春はそんな吉澤ひとみに気付いていた。
目つきが変わったからだ。
サッカーの試合でも、こんな目つきになったりするんだろうか?
吉澤さんは、恐らく自分と同じ事を考えているのであろう…小春はそう思った。
石川さんが普段どんな人なのか、そんなことは今はどうでもいい。
だがさっきのイカレっぷりは、錯乱しているだけとは言えないものがあった。
何か信念があるように感じたのだ。
そういえば、しきりに『汚らわしい』とか言っていたな…そこに何かありそうだ。



『コハルゥ!!偵察ニ行ッタNo.3達ガ、からすヲ見ツケタト言ッテイルッ!!』
『ドウイウいきさつナノカ知ラネーガ、さゆみノうさぎと一緒ナンダソウダ!!』

「道重さんのウサギと?一体どういうことだろう…」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


153 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:30:19 0

〜『彼』の場合〜


「お前、その首のケガどうしたんだよ?」

「さっき、ゴミ捨て場に大きなお人形さんがいたんです。金色に光ってて…
僕、光りものって大好きなんです」

「それとケガと、なんの関係があんだよ」

「あまりに輝かしかったから、もっと近くで見てみたくなっちゃって。そしたら突然
動き出したんです。ビックリしました…その時、そのお人形さんに引っかかれたんです。
あ、いてててててッ。そーいやご飯も食べそこねちゃったな」

大きな金色の人形?
なんのことだかわからないが、人形が独りでに動き出すわけがないことは、
ウサギのレミーも知っている。そこまでバカじゃあない。
だとすると、俺のもつ『アレ』と同じものかもしれない。
人間が『スタンド』と呼んでいるアレだ。
俺の『ブック・サーカス』も見えていたようだし、やはりこの坊主スタンドを…



154 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:32:31 0

そういえば、なんでこのカラスの少年は一人でゴミ捨て場なんかにいたんだろうか?
カラスというものは、秋から冬の間は群れをなして生活する。
大人のカラスは大人だけで、子供のカラスは子供だけで集団行動をとるのだ。
今、季節は12月である。
このカラスの少年『ダイヤモンド』はこの時期にたった一羽で何をしているんだろうか。
レミーはそのことを訊いてみた。


「みんな僕のことを嫌っているんです。僕がいると、争いごとが起きるから」

「争いごと?」

「はい、どういうわけか知らないんですけど…僕の潔癖症がみんなにうつるんです」


そう、カラスとして生まれたダイヤモンド少年だったが、彼は極度の潔癖症だった。
カラスが潔癖症とはナンセンスではあるが、彼には腐ったものなんか口にすることは
我慢ならなかったのだ。端から見れば贅沢な性格に見えるかもしれない。
兄と姉を持つダイヤモンド少年は、父親とは似ても似つかぬ性格に生まれたのだった。
だが、その父親の血を色濃く受け継いだのも末っ子である自分であることに、
カラスの少年は気付いていなかった。
その賜物である、自分の能力の『本当の力』さえも。



155 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:33:30 0

「坊主、お前いくつだ?」

「9週間です」

「9週間ンッ?おめーカラスといやぁ5週間くらいで巣立ちするもんなんじゃねーの?」

「巣立ちはしましたよ。でも、僕…うまく空飛べなくて」

「ふーん…どこから来たんだ?」

「あそこは確か…人間が『S市』と呼んでるところですね」


S市といえば都会ではないか。
あんなところから空を飛ばずに来たのか…ご苦労なことである。


「まぁ短距離なら羽ばたいていられるんですけどね」

グウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…

気の抜ける濁音がレミーの耳に入る。
これは、腹の虫の鳴声に間違いないだろう。
このカラスの少年は、腹を空かせているようだった。

「あ、すいません。さっきも言いましたけど、ご飯食べ損ねちゃったもんで…」

バツが悪そうにダイヤモンド少年は頭を下げる。
(こいつ、本当にあのクソッたれカラスの子供なのか?)
レミーにはそれが不思議でならなかった。


156 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:34:34 0

「話を聞いてくれてありがとうございます。あの、よかったら名前を教えて下さい」

「名前?俺には名前なんてねーよ…けど、ここの家の連中には『レミー』って呼ばれてる」

「そうですか。ウサギのお兄さん、あなたのことは忘れません…では」

そう言うと、ダイヤモンド少年はお辞儀をして、跳ぶ。
そして着地、その反動でまた跳ぶ。

「あんな風にしてここまで来たのかよ…」

あれは、普通に『飛ぶ』ことより難しいんじゃないんだろうか?
俺は空飛んだり出来ないから一生わかんないことだけどな。
それより…

「おい、坊主」

レミーはダイヤモンド少年に呼びかける。
すると彼は跳ねるのをやめて、彼に向き直った。

「なんですか?」

「飯、探しに行くんだろう?そっちにはゴミ捨て場もなきゃ目ぼしい食いもんも
落ちてねーだろうよ」

「…そうなんですか」



157 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:36:47 0

ダイヤモンド少年は俯く。
こんなままじゃ僕は、冬をこせないな…そう思った。
そんな少年の目に、今知り合ったウサギが背中を向けて振り返っている。


「なに、ボーっとしてんだよ」

「え?」

「着いてこいよ。ここらへん、マナーの悪い住人が住んでてな。いいゴミ捨て場知ってるんだ」


ゴミ捨て日がまったく守られていないゴミ捨て場が果たしていいゴミ捨て場なのかは
わからないが、少なくともカラス達にとってはお宝の山であろう。
レミーはカラスの立場になって、話を合わせたのだ。

「あ、ありがとうございます!!」

ダイヤモンド少年は、喜々と跳ねてレミーに着いていった。
だが、その歩み(跳ねているが)は遅い。
レミーの足の方が数倍速かった。


「ハァ…ハァ…」

「…ったく、しょおぉーがねぇ〜なあぁ。俺に乗れよ、特別だぜ」

「な、何から何まですいません…それじゃあ遠慮なく」

バサッ…グワシィィィ!!


158 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:38:51 0

「い、いてぇーッ!!!お前ッ!!頭に乗るヤツがあるかあッ!!!」

「ご、ごめんなさいぃッ!!!」

「もういいよ…ケッ。しっかりつかまってろよ!!」

この俺が人助け…いや、鳥助けをするとはな…しかも大ッ嫌いなカラスをよぉー。
かくして、頭に幼鳥のカラスを乗せた白いウサギは走り出した。

走りながら、彼は考える。
この坊主、たぶん長生きしないな。
外の世界で生きるには、性格が優しすぎる。
じゃあ、それを手助けしてる俺は何なんだ?
同情か?
俺がこいつの父親殺したから…その罪滅ぼしのつもりなのか?

(ちっ…わっかんねぇよ…)

動物の世界での基本的な考え方が狂ってしまった彼が、その答えを見つけることは
かなわない事であろう。
ウサギのレミーはそのことにすら気付くことはなかったのだった。



159 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:40:24 0

ゴミ捨て場に着くと、ダイヤモンド少年は感嘆の声をあげた。

「す、すごい!!ちょっと臭いですけど、これならお腹いっぱいに出来そうです!!」

少年はそう言うと、レミーの頭から飛び降りて適当なゴミ袋をつついた。
なんだかんだ言ってカラスだ。あさり方がうまい。
ダイヤモンド少年は、ゴミ袋をつついて穴をあけ、奥から嘴でナマモノを引っ張り出す。
取り出したものはシャケの食べ残しの皮だ。だが、それは茶色く腐っている。

「汚いなぁ」

「カラスのお前が何を言ってるんだよw」

「僕、潔癖症だからこのままじゃ食べれないんですよ…エイッ!!!」


カツッ…


ダイヤモンド少年は、シャケの皮を地面に置いて突付いた。

(こ、こいつは…)

その姿は、自分が殺した少年の父親『オセロ』とダブっていた。



160 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:41:47 0

どうやら彼の中に流れている血は、あのカラスと同じものであることは間違いないらしい。
だが、もっと驚くべきことが起こる。

(な、なんだ…今こいつが突付いた魚の皮が…綺麗になっていく!!)

茶色く汚れて今にもハエがたかってきそうだったのに、少年の一突きで
それは油の乗った新鮮なシャケの皮に変わってしまった。

「ほら、綺麗になったでしょう?あむっ…ウマー!!!!」

そう語る少年の嘴にスタンドがついていることをレミーは見逃さなかった。
この坊主…腐ってるもんを新鮮なもんに戻しやがった。
あのクソッたれカラスとは逆の能力だ…ものを…ものを綺麗にする能力!!

(そうだな…コイツの親父にちなんで『フレッシュネス・クロウ』とでも呼ぶべきか…)

それにしても、なんと嬉しそうに啄ばんでいるのだろう。
それを眺めているレミーまで気分がよくなってくるほど、少年は嬉しそうに
食事を口にしていた。



161 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 00:42:51 0

人…じゃなくて鳥助けも悪くないな。
そう思ったその時である。



『ミツケタゾォォォォッ!!!からすヲ見ツケタ!!!』
『スタンドヲ出してイルッ!!間違いネェッ!!』
『ワタシ、コハルに知ラセテクルワッ!!あのコ結構近クニイルミタイヨ!!!』



「なんだアイツら…あれは確かよくさゆみの部屋に来る小春の『ミラクル・ビスケッツ』。
こんなとこで、いったい何してんだ…?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


168 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:03:50 0

〜『彼』と『彼女』の場合〜

「小春、カラスが見つかったみたいだな」

「はい、吉澤さん。ここからすぐ近くみたいです。ただ…」

「ただ?」

道重さんのウサギと一緒なんだそうです。
小春はそれを言うのをやめた。
なぜかはわからない…だが、行けばわかることだ。
今は石川さんがテンパっている状況だし、余計なことをいうのはよそう。

「…いや、なんでもありません」

「…?まぁいいか、おい石川!いつまでも座り込んでないで行くぞ」

「えッ!えッ!?」

「えッ!!じゃあねぇよ。ほら立てよ」

「で、でもさ、この人どうする?救急車呼んだほうがいいんじゃないかしら」

石川梨華にそう言われた吉澤ひとみは、口から血を流している青年を見下ろした。
痛みのせいか息が荒いようだが、どうやら命に別状はなさそうである。

「石川が度の過ぎた事しちまったみたいで…わりーことしたな兄ちゃん。でも、まぁ
あんたは人の女のスカートん中を隠し撮りしたんだから、これでおあいこってことでさ…
こらえてくれ」

かくして、三人は小春のミラクル・ビスケッツの指示する場所に急いだのだった。


169 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:05:27 0

その現場は驚くほど近かった。
曲がり角を2回、右に曲がっただけである。
するとそこには、ゴミ袋に穴を開けてナマモノを取り出している小さなカラスと、
それを眺めている白いウサギがいるではないか。
白いウサギの首には、蝶ネクタイでオシャレが施されていた。
間違いない、道重さんのウサギだ。
名前はえぇッと…そう、<レミーちゃん>といったか。


『に、人間だぁぁ…う、ウサギさんッ!!』


カラスの子供、ダイヤモンド少年は突然目の前に現れた人間に怯えた。
だが、レミーには三人現れた人間のうち、一人に見覚えがあったのだ。
あいつは…やっぱり。
小春じゃねーか。すると一緒にいる男と女はアレか。
さゆみと同じ、演劇部とかいうヤツか。
しかし、いったいこんなところに何しにきたんだこいつら。


『ど、どどどどどどどっどうしましょうッ!!』

『お前な。相手は人間だぜ?カラスのお前がビビッてどうすんだ。それに、
こいつらたぶん悪いヤツらじゃあねぇ。安心しな』


だが、その言葉はすぐに撤回しなければならない状況となる。



170 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:07:07 0

「あーあー。ずいぶん好き勝手やってんなぁこの鳥公。地面が所々光ってるぜ」

そう言うと吉澤ひとみは、カラスのダイヤモンド少年を指差して石川梨華に指示した。
こりゃあ早いとこ決めなきゃあな…彼はそう思ったのだ。


「HEY!LET'S HAVE A DANCE、MY DEAR」

「…YOU KNOW!!」


バヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!

答えると同時に石川梨華の背後から網を持った金色のスタンド『ザ☆ピース』が出現する。
さっきと違い、彼女は臆することなくスタンドをカラスに向けて伸ばした。
彼女は成長する女なのだ。さすがは演劇部の元エースである。

『な、何をする気なんだこいつら…』

『わ、わわわウサギさん!!さっき話したアレです!!!金色の人形です!!!!』

『金色…な、なんだってえええええッ!!?』

どういうことなんだろうか。
先ほど、首の傷は金色の人形に負わされたと、レミーはダイヤモンド少年から聞いている。
ということは…彼女らには坊主に敵意がある?
そういうことなのか?


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


171 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:09:04 0

『ぼ、坊主ッ!!!』

『う、うわあああああああッ!!!』


ビュンッ!!!!パサパサ…


ダイヤモンド少年が羽ばたく。
空に逃げることはかなわなかった…だが。

『翼にもスタンドが…網を切り裂いたのか…?やっぱり、やっぱりコイツは…』

間違いない、あの凶悪カラス『オセロ』の子供だ。
レミーは実感した。

『僕を…捕まえる気なの?よくわからないけど…僕は…僕は父さんに会うんだ!!!
強くなるんだ!!もう誰にもマンモーニなんて言わせないためにもッ!!!!』

ダイヤモンド少年の叫びは、小春たちに伝わることは決してない。
だが、ウサギのレミーには痛いほど通じていた。

そんなにあのクソッたれカラスの事を…
俺は…こいつに真実を告げなければならない。
それができなきゃ、俺はあそこに落ちている犬のフン以下だ…。



172 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:10:34 0

「石川さんッ!!大丈夫ですかッ!!!」

網を切断された石川梨華を心配した小春が叫ぶ。
また失敗かッ!?
そう思った小春を裏切るように、余裕の笑みを浮かべた石川梨華がそこにはいた。


「小春ちゃん、もうすぐあなたの出番よ…そしてよっしぃ!!残念だけどあなたの出番はないわ!」

「えッ!なんだって!?」

「引き寄せなさいッ!!ザ☆ピース!!!」


ピーン…


『…え?』

右足を何かに引っ張られる感覚に襲われたダイアモンド少年は、恐る恐る自分の
右足を見てみる。

『き、金色の…糸?』

ダイヤモンド少年の足には、ザ☆ピースの伸ばした人差し指が巻きついていたのだ。
それが、カラスの子供と人間の女子高生を一直線につなげていた。

「あの網はオトリにしたわッ!!小春ちゃん今よッ!!!鳥かごに入れちゃいなさいッ!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!


173 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:12:18 0

『と、鳥かごだと…?こいつら、坊主を捕まえる気か!?おい坊主!!!』

『は、はいッ!!?』

『その足に巻きついてる糸を切れ!!お前の翼で!!!』

『こ、これをですか!?』

『そうだッ!!そいつを切ればそのダメージはそれを操る本体、つまりあの人間の女に
戻っていくのさ!!さぁ、やれよッ!!!』


レミーのアドバイスに、ダイヤモンド少年は翼にスタンドをまとわせる。
恐らく、無意識で出したのだろう。
ところが少年は、なかなか実行に移さない。
そうしている間にも小春のビスケッツ達は近づいてくる。何をする気なのかはわからないが、
このままじゃやばいのはウサギの目からも明らかだった。


『何やってんだ!!早くしろ!!!』

『で、出来ませんッ!!!』

『な、何ィッ!?』


信じられない一言だった。
この坊主、こんな状況で何を考えているんだ!!



174 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:14:19 0

『な、何言ってんだオメーッ!!!』

『だって…これを切ったらあの人間の女性はどうなってしまうんですか!?ダメージが戻るって
事は…あの人を傷つけることと同じじゃないですか!!!』

『そうだよ!だからどうしたってんだ!?』

『僕には出来ない!!いくら住む世界が違う生き物だからといって…
傷つけることは出来ない!!!』

何を言っているんだコイツは!!
今まで生きてきた中で、人間にも人間以外のヤツにもこんなセリフを吐いた者を、
レミーは見た事がなかった。
この状況下において、そんな綺麗事は通用しないことを少年は知らないのである。

そして、小春の声が辺りに木霊した。


「お願い!ミラクル・ビスケッツのみんな!!」

『マカセテコハルゥーッ!!!』
『オラァ!!とっととオナワにツケヤ!!コノ鳥公メッ!!!』
『愛シテ急接近ッ!!』
『未来ニ大接近ンンンッ!!!!』


バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!



175 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:16:18 0

突如、空中に出現した鳥かごの中に、ダイヤモンド少年は捕らわれた。
少年にはワケがわからない。
突然目の前に柵が現れたと思ったら、自分は鳥かごの中にいたのだ。
狭くて息苦しい場所だ…そう思った直後、どす黒い恐怖に襲われる。

『うわあああああああッ!!なんだこれはあああああッ!!!』

『バカ野郎ッ!!!くそッ!!ブック・サーカス!!!!!』
ドギュウウウウウウンンン!!!

「レミー…ちゃん!?」

突然スタンドを発現させたウサギのレミーに、小春だけでなく、石川梨華も吉澤ひとみも、
そしてダイヤモンド少年も驚き目を丸くした。
レミーのスタンド『ブック・サーカス』は、近くの電柱をまるでトイレットペーパーを
巻き取るかのように剥がし、鳥かごに力強くぶつけたのだ。

ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

鳥かごは、いとも簡単に破壊された。

「ちっ、逃がすもんですか!!」

石川梨華は右手の中指も伸ばすと、少年の足に巻きつけているその金色のロープを
より太いものにする。
だが、このままでは長くは持たない。指が千切れてしまいそうだ。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド…



176 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:18:53 0

『ナンダコレハ…スゲェ光ッテル。アノ鳥公がヤッタノカ…?』

そんな中、小春の『ミラクル・ビスケッツ』の一人であるNo.1が、ダイヤモンド少年が
生ゴミを突付いたときに地面に出来た、奇妙に反射する場所を覗き込んでいた。

『コレハ鏡ッテヤツカ…スゲェきれいダナ…』

ピキーン…


「おいッ!!あのウサギはなんだ!!」

突然の事態に吉澤ひとみが叫ぶ。
無理もない、任務を遂行したと思った直後に思いがけない邪魔が入ったからだ。
小春は自信を持って答えた。

「道重さんのウサギです!!」

「なんでこんなとこにアイツのウサ公がいんだよ!!!」

「わかりませんッ!!くッ…このままでは石川さんがまずい…とりあえず
ビスケッツのみんなを呼び戻して…あれ?」

小春は奇妙な違和感に気がついた。
呼び戻したビスケッツの、人数が足りないのだ。
ひーふーみーよーいつむー…あれッ!?

「いない!!No.1がいないよ!?」



177 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:20:24 0

『ウオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』


小春は、聞きなれた声を耳にした。
他のビスケッツ達も驚いて振り向く。
どういう…ことだ?
みんなの中で最も無口で沈着冷静なNo.1が…叫び声など…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


『ケ…け…「汚ラワシイ」ンダヨォォォォッ!!!!!』

ミラクル・ビスケッツNo.1は、一直線に<それ>に近づいていった。
それとは…

『犬のウンコガァァッ!!あががががががががッ!!!!!』

…であった。



178 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:23:09 0

「な、No.1…いったい何を…?」

『イバアアアアガガガアアアアアアアアアアッ!!!!』

小春の声も聞かず、No.1は道端に落ちていた犬の糞の前に立つと、
なんと狂ったように犬の糞を殴り始めたのだ。


『クソッ!クソッ!チクショウ!!イヌのウンコッ!!!蝿がタカッテ
キモチワリーンダヨ!!!「汚ラワシイ」コノ犬のくそガアアアアアッ!!!!!』


ボムッボムッ…


犬の糞を殴っているNo.1を見つめながら、小春は考えた。
これは…この狂い方は…似ている!!
さっきの石川さんのようだ。しきりに『汚らわしい』と叫び狂い、その汚らわしいと
思っているであろうものを容赦なく痛めつけている。
なんなのだ…これは…

『テメーノヨウナ「汚らわしい」イヌのクソハッ!!!!』

『お、オイNo.1…マ、マサカッ』
『マサカ…コイツ、「分解」スルつもりジャ…ッ!!!』
『や、ヤメロNo.1!!頼ムカラやめてクレエエエエエエッ!!!』
『誰ガ「再形成」サセルと思ッテンノヨォォォォォォォッ!!!!!』

『「分解」シテヤルゼーッ!!!イヌっころのクソクセェこのくそ野郎ガアアアッ!!!!』



179 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:25:27 0

ボカッ!!!


その時、寸でのところで狂ったNo.1をNo.6が殴って止めた。

『ヤメロ!!気デモ狂ッタノカNo.1!!!』

『…あ、アレ?ミンナ…ドウシタノダ』

『No.1…オマエ、今何シテタノカ覚エテナイノカ?』

『オレは…アノ鳥公の作ッタラシイ鏡を見テ…綺麗ダナッテ思って…
ソシテ犬のクソが目に入ッテ…「汚らわしい」と思ッタトコロまでは覚エテイルガ…ン?
ナンダコレハッ!!!オレの手ガ犬のウンコマミレダァァァァァァッ!!
ギャアアアアアアアアアアアッ!!!』


No.1の悲痛な叫びが涙ぐましい。
そんなNo.1の話を聞いていた小春は、一つの答えに辿り着こうとしていた。

まさに石川さんと同じだ…
No.1も石川さんも、なぜかはわからないが一時的に『汚らわしい』ものに
異常な敵対心を持った。
じゃあ、何故そうなったんだ…この二人の共通点はなんだ…?


180 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:26:23 0



「<ひ>めのように可愛いあたし。<つ>まりそれって…<自>己満足よ☆」


『オレは…アノ鳥公の作ッタラシイ鏡を見テ…綺麗ダナッテ思って…』






181 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 04:29:37 0

ま、まさか…!!
小春は地面で光っている一部分をチラリと見た。
日の光を反射して輝いているようである。
二人の共通点は…そうだ、あの作り出された鏡をじっくり見つめたことだ!!
もしかして、あの鏡は『汚らわしい』と思うものに対し、異常な排除感をもたらすのではないか?
アレを見つめた者を、一時的に狂っているほどの潔癖症に変えてしまうとか…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ちょ、ちょっと待て!!!
もし私の考えている通りだったとしたら…
あの作り出された鏡を『じっくり』見た者がもう一人いるッ!!

「『汚らわしい』んだよ…」

低い声が聞こえた。
まさか…本当に私の推理した通りなの…ッ!!!
小春は彼の形相を見て驚愕した。

「ウサギとカラスが手ェ組むたぁーめでてぇが…所詮いつもクソ垂らして歩いてる
生き物同士じゃあねーか…クソったらしの動物スタンド使いが…お前等みてーのが
いるからよォ…俺の杜王町がどんっどん『汚れていく』んじゃあねーのかゴルァ!!!!!!」

こうして悲劇は始まる。


199 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 23:04:37 0

まさか…私の憶測でしかないと思っていたが…
人の『心』に干渉してくるスタンド能力があるなんて。
そういえば、亀井さんのお父さんは人の『欲』に取り付くスタンドだと聞いたし、
この杜王町には人の『罪悪感』を具現化する錠前のスタンド使いもいるという話を
誰かから聞いた覚えがある。
そう考えると、カラスが人の『心』に干渉するような能力を持っていたとしても、
なんら不思議ではない。

「Mr.ムンラアァァァァイッ!!!今夜誓うよォォォォォォッ!!!!!!!!!!!!」

吉澤ひとみの白いスタンドが、彼の雄叫びと共に現れ地面を叩く。
そして、次の瞬間には見えない何かを蹴っていた。
月が出ていない昼間でも、ここまでのスピードを持っているとは…
月夜に本気を出したら、いったいどれだけの速さとパワーを持つのだろうか。
小春は、彼が味方にいることに安心する。
だが、今は悠長にしていられない。
推測の通りだったとするなら、彼は全力で道重さんのウサギとスタンド使いのカラスを
排除しにかかるだろう。
しかし、指令はあくまで『捕獲』だ。
場合によっては『殺害』も免れないと聞いたが、今は明らかにその時ではない…ハズ。

ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

そして、小春の推測は大当たりだった。
派手な音を立てて、ウサギが吹っ飛んだのだ。
彼がスタンドで地面を殴って取り出し、蹴飛ばした『衝撃』は見事にレミーを捉えたのである。

『うげええええええええッ!!!!!!!!?』

ウサギの彼には、何が起きたのかわからない。
目の前が突然歪み、まるで殴られたかのような衝撃に襲われたのだ。


200 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 23:06:26 0

『ウサギさんッ!!』

『い、いてぇ…な、なんだ今のは…何も見えなかったが…ぼ、坊主!!気をつけろ!!!』

『え?』


レミーの視界に、再び何かを蹴り飛ばしたような動作をとった吉澤ひとみの
姿が入ったのだ。
さっきはあの動作から数秒の後、強い衝撃と共に吹っ飛ばされた。
またあれがくるぞ!!
事情はわからないが、小春たちは俺達に敵意があるッ!!!
だが、迫ってくるものは目には見えない『衝撃』だ。
ダイヤモンド少年には、いったい何に気をつければいいのかわからなかった。


ゴシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!



『あ…え?』

突然、強烈な威力の衝撃が少年を襲う。
黒い羽を撒き散らして、ダイヤモンド少年は地に落ちた。



201 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/17(土) 23:07:45 0

「ヒットォ!!直撃じゃないのよっしー!!!でも危なかったわ。直前で指の拘束を
外してなきゃあたしの指まで千切れて飛んでッちゃってたわね。さぁ小春ちゃん出番よッ!」

「鳥かごはもうありませんよ!さっき壊れました!!」

「あ、そうだったわね。よっしぃ、どうするの?」

「・・・・・・・・・・『汚らわしい』」

「ん、何よ?」

「『汚らわしい』っつってんのーッ!!!!!!!!」


吉澤ひとみは咆哮する。
これは…違う!!
いつもの誇り高いよっしぃーじゃない!!!
彼が普段と違うことに、石川梨華はようやく気がついた。


「I`M HERE!!今ここでブチ殺すぜぇーッ!!!」


吉澤ひとみはウサギのレミーを指差して言った。


212 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:52:10 0

なんだこの男は…俺を…殺る気なのか…!?
レミーは直感でそう思った。
吉澤ひとみのスタンド『Mr.ムーンライト』は近距離パワー型である。
まともにやりあえば、レミーは無事では済まないだろう。
亀井絵里の『サイレント・エリーゼ』の時とはワケが違うのだ。
状況も、殺気も…

「AU!!!」


ドゲシャッ!!!


『おごッ!!!』

ま、まただ!!見えねぇ!!!
見えない攻撃を身体に受け、レミーは体制を崩すが何とか立て直す。
この状況の突破口が見えない。
とにかくヤツの攻撃の正体を見極めるんだ…!!!
レミーは思った。
やばい状況なのには変わりはないが、ヤツが俺を攻撃の目標にしてくれたのは
ラッキーだったな。今のうちにカラスの坊主をどこかに隠れさせよう。

『坊主…生きてるな!!俺がコイツの相手してる間に隠れろ!!!』

『う…さぎ…さん、あなたは…?』

『ウサギの心配してる場合か!!早くしろッ!!!』

ダイヤモンド少年は力なく立ち上がった。



213 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:53:03 0

「タフなウサ公だぜ…すぐラクにしてやろうかと思ったんだがなぁ〜」

吉澤ひとみがウサギのレミーににじり寄る。


シュルシュルシュルシュルシュル…ピシーン!!!


「…あン?」

彼の上半身は、突如自由が利かなくなった。
金色のロープが彼を拘束したのだ。
その両腕を伸ばして作られたらしい金色のロープは、吉澤ひとみをスタンドごと縛っている。
こんなことが出来るのは一人しかいない。

「…石川ァ。なんのマネかなぁオメー」

「部長ともあろう者が目先の指令忘れて何『動物虐待』なんかしてんのよ…
ほら、カラスが逃げてしまうわ。鳥かごはもうないのよ、どうすればいいの?
あたしと小春ちゃんは部長であるあなたの指示を待ってるのよ」

「そんなもんテメーらで考えろ!!俺はこの『汚らわしい』ウサギをブチのめさなきゃ
ならないんッスよ石川さんよォ…思えばコイツの邪魔が入らなきゃ指令はとっくに
終わってたもんなぁー?」

「過ぎたことを言ってもしょうがないじゃない。目を覚ましなさい」

「…この紐、いいかげん邪魔だぜ!!!」



214 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:54:45 0

ググッ!!!

吉澤ひとみは両腕に力を込めた。
紐が軋んだ音をたて始める。
まさか、このまま引きちぎろうとしているのでは…そう思った小春は、
石川梨華に警告を促した。

「石川さんッ!!スタンドの拘束を解いて下さい!!!」

「だ、ダメよッ!!今離したら、アイツ、何をするかわからないわ!!」

「吉澤さんはスタンド攻撃を受けているんです!!彼に何を言っても無駄です!!
さっきのあなたと同じように!!!」

ビリッ…

石川梨華は、腕に痛みを感じた。
吉澤ひとみを縛っている伸ばしたザ☆ピースの腕に、亀裂が入り始めたのだ。
さすがは近距離パワー型、といったところか。

バリバリバリ…ブシュッ!!!!

さらに亀裂が走ると、本体である彼女の腕が血を噴き始めた。

「あ…あ…」

「石川さん!!早く彼を放すんです!!そうしなければ…あなたの腕が
千切れ飛びますよ!!!!」

「い、イヤ…ッ!!!」


215 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:55:29 0

シュウウウウウウウウウウウウ…


「…やれやれ、やっとラクになれたぜ」

石川梨華は、地面に血だらけの手をついて愕然とした。
純粋に恐ろしくなって、スタンドを解除したのだ。
あのまま拘束を続けていたら、彼女の腕は身体から離れてしまっていたに違いない。


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ・・・



216 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:56:44 0

まずいことになった。これでは指令どころではないではないか…
今は狂った彼を止めることが先決なのでは…?
そう考えた小春であったが、いったい何をどうすればいいのかわからない。
あの小さなカラスも立ち上がり、逃げ出そうとしているようだ。
この指令は失敗か…その時、小春はふと思った。

いったい、この指令はなんのためのものなんだろう…?

あのカラスの能力は恐らく『鏡のように映りこむほど綺麗にしたものを見つめた者を
精神的な潔癖症にする』ものだ。
これでさっきの石川さんやビスケッツのNo.1、そして現在の吉澤さんの説明がいく。
だが、果たしてあのカラスがそれを狙ってかけたものかと言われると、
そうだとは言いがたいものがある。
なぜなら、攻めは常に小春たちであったからだ。
最初に発見した時も、カラスはゴミを漁って啄ばんでいただけで、ついさっき
ここに辿り着いたときも、カラスはゴミを啄ばんでいただけだ。
あの『鏡のように光っている場所』だって、恐らく狙って作り出されたものじゃない。
最初のゴミ捨て場の状況から察するに、このカラスは食べられるものを新鮮にしていたんじゃ
ないだろうか。地面の鏡は、たぶんその時に出来たのだ。
石川さんが眺めた壁の鏡は、虫か何かを突付いたんだろう。
それに、よく考えたら、鏡を覗き込んだ事はカラスが誘導したわけじゃあない。
石川さんが勝手に覗き込んだだけだし、その石川さんを突き飛ばしてやめさせた
吉澤さんも偶然見つめてしまったに過ぎない。No.1だってたまたま目にしただけなのだ。
すると、どういうことなんだろうか。
あの小さなカラスには、人間に対して敵意はないということになる。
それに、そんなカラスと一緒にいる道重さんのウサギ。

違う…何か…間違ってる!!!



217 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:58:21 0

久住小春は考える。
今まで道重さゆみの指令でしか動いたことのない彼女には、寺田の指令が
普段どういったものなのかあまりよく知らない。
そういえば、この演劇部に入部したのは道重さゆみがキッカケであった。
元はこんな部活に入るつもりはなかった。
本当なら、毎日駅前でギターを奏でて、ミラクルな自分を世に見せつけるつもりだった。
だが、小春は彼女の一言で考え方を改めたのだ。


「さゆは敢えて遠回りをするのッ!回り道もするのッ!!その経験ですら、
すべて自分のものにする自信が、さゆにはあるのッ!!!」


あの時受けたお姫様になるという壮大な心意気を、小春は忘れることはないだろう。
そう、彼女は『ミラクルな大スター』になるために、あえて『演劇部』という
遠回りを選んだ…ハズだった!!!

『…アノ男、気でも狂ッタのか?ナゼうさぎナゾニムカッテイク…?』
『ネェ…アレ、さゆみん家のうさぎジャナイ?』
『ワワワ…あのウサギやばくネーカ?』
『狂ッテル!!彼モNo.1のヨウニ狂ッテイルンダワ!!』
『オイ、カラスが逃ゲチマウゾ…』
『コハル…オマエ、何か迷ッテイルンジャナイノカ?』
『コハルゥ!!俺タチはドウシタライインダ!?』

久住小春は『ミラクル・ビスケッツ』を見て考える。
私は…何かを傷つけるために演劇部に入ったわけじゃない!!
それに今回の指令は何かおかしすぎる!!
何もしていないカラスを捕まえろだなんて…これは…ただの虐待じゃあないのか!!?

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


218 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 01:59:49 0

小春の心の葛藤をよそに、戦闘は開始されようとしていた。
一人の人間と一羽のウサギの、奇妙な闘いである。

『ちっ…どうやら俺もヤツもスタンドは近距離パワー型。近づく必要がある…
だが、ヤツは見えない飛び道具を持っている…ッ!!』

あの男に近づくには、それを避けなければならない。
だが、見えないものを避けるにはどうすればいいんだろうか?
がむしゃらに突っ込んで行きたいところだが、なにぶん見えない攻撃は
その一撃一撃のダメージがでかい。
そんなものを、すでに二発も食らってしまったのだ。
あと何発耐えられるのか…それとも次で終わりだろうか…
敵は、呑気にリフティングのような運動をしていた。

『ウサギさん…』

『な…坊主、お前まだいたのか?なにやってんだよッ!』

『置いていけませんよ…こうなったのは僕のせいなんですから。僕がウサギさんを
巻き込んでしまったんです…やっぱり、僕の周りにいると争いごとが起きるんだ』



219 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 02:01:04 0

『話はあとで聞いてやる。だから逃げ…』

『危ないウサギさん!!!』


その時、突然ダイヤモンド少年がレミーを蹴り飛ばした。
突然のことに、彼は驚く。
いったい何を!?こんな時にいきなり俺を蹴るなんて…転んじまったじゃねーか!
レミーは頭を上げた。


ドゲシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

『うぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』


そして次に見た光景は、自分が元いた場所で見えない何かをまともに食らい、
黒い羽を宙に散らして断末魔の叫びをあげるダイヤモンド少年であった。
いきなり起きた出来事に、彼は何も考えられなかった。

『ウサギさん…逃げ…』

パタッ…


『ぼ…坊主ううううううううううううううううううううッ!!!!!!!!』

人間たちには決して理解することの出来ない叫び声が、そこには響いていた。



220 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 02:01:57 0
ここまで!!
今日中にできるかな…汗
風呂ってきますノシ


221 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 03:20:13 0

こいつから…倒れた坊主から感じるこの感覚は!!
ああ…なんてこった…くそッ!!

『ぬけがら』
『魂のぬけがら』
『冷たい消滅』
『命の消滅』

畜生…ッ!!!
俺は…まだ伝えるべきことを伝えてない!!!

「甘いんだよなァー…別に殴らなくたって『衝撃』は取り出せるんだぜ。歩くだけでも、
『衝撃』ってのは生まれるのさ…あとはそれをリフティングしてやりゃー、強い衝撃を
作り出すことくらいわけない」

『ウサギの俺にそんな説明してんじゃあねえええええええええええええッ!!!!』

レミーは走り出した。
何も知らないくせに…坊主を…ダイヤモンドを殺しやがって…!!!
絶対に許さない!!!

「やっぱウサギに人間の言葉は通じねぇーか!?あああああああン!!!!?」

吉澤ひとみは地面を殴りつけ、強力な衝撃を取り出す。
渾身込めて地面を叩いたのだ。とりだした衝撃の威力も測りしれない。

「この『汚らわしい』ウサ公風情がああああああああ!!!!」



222 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 03:22:29 0

バムッ!!!!

何かを蹴った動作をした!!
見えない衝撃が向かってくる!!!
だが、レミーはこれを待っていたのだ。

『ブック・サーカス!!!!』

バリバリバリバリッ!!!!

これが彼の、ウサギのレミーが最も得意とする能力の使い方である。
地面を、まるで本のページを捲るようにして剥いだのだ。

バコッ!!

それは巨大な盾となり、見えない攻撃からレミーを守った!!

『狙いは俺に定まっていたから、例え見えない攻撃であってもガードすることぐらい
なんてこたぁーねぇんだよ!!!』

チャンスだ。
さっきまでのヤツの攻撃から察するに、見えない攻撃は連発して放つ事が出来ないとみたぜ!
次の攻撃までのブランクがチャンスなんだ!!

ガシッ!!!!

ところが、まだ地面を閉じる前だというのに、何かに蝶ネクタイをつかまれた。


223 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 03:23:22 0

「このウサ公がああああああああああッ!!!!」

『な、何ィーッ!!!!?』


レミーの蝶ネクタイをつかんだのは吉澤ひとみであった。
彼が地面を捲った瞬間、吉澤ひとみは走り出し、一気に間合いを詰めていたのだ。
捲れた地面を死角にして!!


『バカなッ!!うああああああああああああああああああああッ!!!!!』

「命はもらったああああああああああああッ!!!!!」

吉澤ひとみはレミーをそのまま持ち上げると、大きく振りかぶって…


ゴシャアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!


地面に叩きつけた。



224 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 03:24:26 0

『うげげ…ッ』

「ここまでだウサ公!!テメーみてーなオリにも入らねーで人間様困らす
歩きながら『汚れた』クソ垂らすオメーにはッ!!!」


スタンドで地面を殴り、再び見えない何かを取り出す。
また、見えない攻撃を放つつもりだ…
だが、この身体では避けることはできないだろう。
叩きつけられたとき、背中に受けたダメージが半端ない。
なんということだ…レミーは気を遠くした。


「こいつをお見舞いしてやるぜえええッ!!!」

バンッ!!


吉澤ひとみの蹴った衝撃は、一直線にレミーへと向かって行く。
ここまでか…そう思った時だった。
誰もが予想し得なかった事態が起きたのだ。



225 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 03:25:43 0

「ミラクル・ビスケッツ!!!!!」

『モウ泣クノハイヤダ!!』
『ウンウンウン…笑ッチャオ』

バシュッ…

見えない衝撃は一瞬だけ、この場から消えた。
だが一瞬だけだ。

『オラァァァァ!!いつまでもアホやってネーデ目ェ冷マセヤ!!!』
『待ッテイタッテ戻ラナイィィィィヤァッハアアアアアア!!!!!』


小春がレミーの前に配置したミラクル・ビスケッツは、なんと見えない衝撃を砕いて
『分解』したのだ!!
それをすぐにまた『再形成』、吉澤ひとみに跳ね返したのである。


「これは賭けでした…衝撃は見えないから…!!でも、当たった直前に
分解することができれば、衝撃を私のものにすることは可能なんです…」


バッシイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!


「ぱ、ぱみー…ッ」

跳ね返っていった見えない衝撃は、吉澤ひとみの顔面に直撃し、
彼は何がなんだかわからないまま地面にひっくり返った。


265 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:00:31 0

〜『彼ら以外』の場合〜


吉澤ひとみが目を覚ますと、そこには胸があった。
後頭部には弾力を感じる。
あれ、俺は何をしてるんだ?
確か俺は小春や石川とカラスを追い詰めて…そうだ、小春が出した鳥かごを
ウサギにぶっ壊されたんだよな。
それでムカついて…あの歩きながらクソ垂れてるウサギを『汚らわしい』と思って…
いてて…なんかおでこがめちゃくちゃ痛い。
腫れあがってンのかな?

「気がついた?」

誰かが覗き込むように彼を見る。
石川梨華だ。
そうか、俺は膝枕されてるのか…って、なんで?
指令はどうなった?
だが、吉澤ひとみは何も思い出せなかった。

「大変だったのよ。ここまでおぶってくるの。女の子にこんな面倒かけるなんてまったく…」

彼はこの景色を知っていた。
ここはぶどうヶ丘公園だ。
なんで指令を遂行中の自分がこんな所にいるのか?
やはり吉澤ひとみは思い出す事ができない。



266 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:01:48 0

「指令は…?」

「もう終わったわ。あなたが退治したのよ。スタンドを使ってね」

「えッ俺が?嘘だろ?カラスはどうなったんだ?」

「今言ったでしょ、退治したって。つまり殺したのよ」

驚くべき発言だ。
指令はカラスを捕まえることなのに、それを殺してしまっただって?
しかも自分が?
しかし、彼にはそんな記憶すらない。

「仕方なかったのよ。あなた狂わされてたから…ってあたしはよくわかんないけどね。
小春ちゃんがそう言ってたの」

そういえば、小春の姿が見えない。
彼女はどこに行ったんだろうか?
吉澤ひとみは石川梨華にそれを尋ねた。

「そこにカラスを…簡素だけどちゃんと埋葬して、行っちゃったわ。ウサギを追うんだって」

「ウサギを…」



267 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:03:29 0

そういえば、小春があれは道重さゆみのウサギだと言っていた。
なんでアイツのウサギがあの現場にいたんだろう…そう疑問に思ったが、
今となっては知る事はできない。

「あの子、何を考えているのかしら…」

石川梨華は怪訝そうに首を傾げた。
小春か…。

「石川、お前あの空の向こうに何か見えるか?」

「え?いきなり何よ…別になにも見えないけど。よっしぃ、何か見えるの?」

「見えない」

「あんたね」

「でもな、何も見えないからって、あそこに何もないとは言い切れないぜ?
大人になっちまうと見えなくなるものがいっぱいあるんだからな」

ちゃんとした大人から見れば自分もまだまだ子供かもしれないが…
きっと小春は、俺や石川には見えなかった何かを見たに違いない。
吉澤ひとみはそう思ったのだった。



268 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:04:56 0

〜そして『彼』の場合〜


ずいぶん走ってきた。
彼は逃げ出してしまった。
気の弱い一羽のカラスの少年の亡骸を置きざりにして。
すべて…俺のせいだ。
俺が坊主を殺したようなもんだ。
思えば、今日の自分自身の行動はおかしかった。
ケガをして泣いていたカラスの子供を助ける…それがすべての過ちだったのだ。
鳥助け…なんて思っていたが、それは違う!!
弱い者を助けて、俺はいい気になっていたんだ!!
か弱い者を助ける。それは確かにいい事なのかもしれない。
だが、それは人間の世界で言えばの話だ!!
動物の世界ではそんな綺麗事は通用しないのだ!!!


「俺の甘さが坊主を…ダイヤモンドを殺した!!!!」


彼は後戻り出来ないところまで来てしまっていたのだ。


269 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:05:57 0

バサバサッ…


耳障りな羽音が彼のすぐ上空から聞こえる。
この重たい羽音は…!!
音の主は、彼の前に舞い降りてきた。


坊主!?生きてたのか!!


一瞬そう思ったが、すぐにそれは間違いであることに気付く。
なぜなら、目の前に舞い降りたカラスは、女だったからだ。
ダイヤモンド少年によく似たカラスであった。

「すいません、あの…ウサギさん」

カラスの少女は彼に話しかけた。
俺の人生、カラスばっかだな…ズタボロの俺になんの用だろう?

「私、まぁ見ればわかると思うんですけど、カラスです。名は『チェス』って言います。
そこで幼鳥の群れをなしているんですが…弟がいなくなってしまったのです」

「…弟?」

チェス?
彼には聞き覚えのある名前だった。


270 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:07:19 0

「最近、群れの中でちょっとした仲間割れがあって…どういうわけか弟が責任を感じたらしく、
今朝、みんなが目を覚ます前に群れから抜け出してしまったようなんです。あの子、
まだ満足に空を飛べないんで…兄も心配しています」


群れの中で仲間割れ。
まだ満足に空を飛べない。
兄、姉。
間違いない、きっとダイヤモンド少年の話だ。


「野良のウサギさんでしょうか?…首輪をしているからご主人様と散歩中でしょうか?
あの、ここら一帯で跳ねながら移動しているカラスを見ませんでしたか?体格は
まだ小さめで、顔は私みたいな感じで」

「見てねぇ」

「はい?」

「見てないっつってんだよネボスケ。一つ忠告してやる。この世界は…他人の心配を
してる余裕なんかねぇぜ。ガキの、それも女のカラスにはまだわかんねーだろうがよ。
ほら、人間の足音が聞こえてきた…こっちにくるな。わかったらさっさと行けよ。
焼き鳥にされちまうぞ」

「…すいませんでした」



271 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:10:12 0

バサバサ…ッ

カラスの少女が羽ばたいていくのを見送ると、彼もまた木陰に身を隠す。
ウサギが呑気に街中を歩いていたら、人間がビックリするからだ。

『オカシーナ、確かにココラヘンで見カケタンダガ』
『シッカリシテヨNo.3!アナタ、ソコデ寝こけてるノラ猫ト勘違いシタンジャナイノ?』
『イイヤ!!アレハ確カニさゆみントコノ<レミー>ダッタゼ!!』
『信用デキナイワ』
『アァ?てめーヤンノカNo.4!女ダカラッテ容赦シネーゾ!!!』

「ケンカはやめてよ二人とも。今はそんなことしてる場合じゃないでしょ?
早く見つけなきゃ…あの子、人間に絶望してるかも知れない。きっと家出する気なんだ」

『人間ニ絶望?動物ノくせニ今さらダナァー』

「とにかく、レミーちゃんは道重さんの家に帰らなきゃダメなの。ウサギだって
人間だって、孤独になると死んじゃうかもしれないんだから」

『マァ、オレはコハルがソウ言うナラナンダッテヤルゼ』
『No.6ッテ、コハルのタメナラ死んでもイイ!!トカ言い出スたいぷヨネ』
『何ヲイウ。ソレハお前らダッテ同じことダロウ?』
『ヨクわかってるジャナイ』



孤独になると死んじゃう…か。
そうだな、一度さゆみの部屋に戻るか…
彼は思った。

俺の守りたいものって…なんだったんだ?


272 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/12/18(日) 21:12:34 0

亀井絵里を玄関まで見送った道重さゆみは、自室へ向かおうと階段を上っていた。

「あーあ、今日の絵里はなんだか変だったの。妙にベタベタしてきすぎだったの」

さゆみをそっちの世界にでも誘い込もうとしているんだろうか?
はは、まさかなw考えすぎなの。
部屋の扉を開けると、冬の冷たい空気が室内を支配していた。

「レミーちゃんったら…帰ってきたら部屋の窓くらい閉めるの」

だが、肝心のその姿が見えない。
隠れているんだろうか?
いや、それはないだろう。あの子はそんなお茶目な性格ではないからだ。
ふと、彼女の机の上に普段見慣れていたものが置かれていた。
蝶ネクタイだ。
何か強い力で引きちぎったようだが…

「…レミーちゃん?」
ビュオォォォォォォッ!!

一際冷たい風が彼女の部屋に吹き込み、その身体を冷やした。



カラスの少年 ダイヤモンド 死亡
スタンド名 フレッシュネス・クロウ

白いウサギのレミー  失踪…行方不明
スタンド名 ブック・サーカス

TO BE CONTINUED…