銀色の永遠  〜わたしはサイボーグ〜


あれは…あたしが高校一年で、期末試験の終わった夏休み前ぐらいの出来事だったかな。
まだバリバリ元気でキュートに部活に励んでいた頃だった。

「こないだ練習試合でS市の高校まで行ったんだけどさぁ〜」
「うん」
「あの糞顧問、俺のこと一回しか試合に出さなかったんだよ〜。しかも最終試合の
後半だけよ。『お前は掛け持ちしてるから』だとか『サッカー一筋のヤツだっている
んだから』とか…『お前はまだ1年なんだから』とかクドクドとよぉ〜」
「何それ。よっすぃ、そんなんでサッカーやってて楽しいの?」
「楽しいわけねーだろバカ。まぁ、その後半戦は俺のおかげで見事逆転かまして
やったがね。あれは笑ったよ、負け試合だと思って俺を試合に出したんだろうが、
こんな結果出されたんじゃ〜あんな顔にもなるわ。石川にも見せてやりたかった」
「ところで、今日はどっちに出るつもり?」
「サッカー。どーせ演劇部の方は今日もなんもやんねーだろ。じゃ、俺こっちだから」
「たまには部室に顔出しなよ、よっすぃ強いんだから。グッチャー」
「はいはい」

「演劇部で唯一の男子部員…か」
今話していた彼は、同期の吉澤ひとみ。
本来ならば男子というだけで、ぶどうヶ丘高校・中学の演劇部に入部は出来ないのだが、
何も知らずに演劇部をチラッと除いた彼を顧問の寺田先生が大層気にいってしまい、
こうして特別に演劇部に入部してしまったようだ。

「おい」

ま、よっすぃは男の子だけど、よく見ると女の子顔負けの美人だし〜いいんじゃない?
あたしほどじゃないけどね〜。

「おいコラ!!」
「え?」

いきなり誰かが後ろからあたしの肩を掴み、壁に押し付けた。
「いったーい」
このクソッたれヤンキーが…女の子に何すんのよーッ!!
しかも二人掛かりだなんて。

「何?お前、吉澤の女なの?」
「なんですかあなた達?」
「おいスッタコ。質問を質問で返してんじゃねー。俺の質問に答えろダボが」
「まぁまぁ落ち着けよ。俺達よぉ〜あいつにカシがあんのよ。ワビとオトシマエは
キッチリつけるのが男ってもんだよなぁ〜?なぁお姉ちゃんよぉ」

こいつら…二年生の不良ね。
そういえば、最近よっすぃが二年生の不良に恐喝されていたあたし達と
同じ学年の男の子を助けたって話を友達から聞いた覚えがある。
よっすぃは何も言ってなかったけど、本当だったんだ。
かっこいい!やるじゃん!!

「だいたいアイツは誰の許可もらってあんなカッコウしとんの?あァ?」
「つーかこの姉ちゃんも幸薄そうな顔して随分と派手な格好してんなぁ〜?
スカートも短すぎじゃないの?え?」
不良の一人があたしのスカートの裾をつまむ。
「この女ダシに使えば吉澤の野郎、助けに来るかもなァ」
「ちょ、ちょッ!何なの?スカートから手を離しなさいよー!!」
汚い手で…きったねぇ手であたしに触ろうとしてんじゃねええええええええッ!!

…刻んでやるか。あたしの『ザ☆ピース』で。

一般人相手にスタンドを使うのは気が引けるが、こいつらが悪いんだ。
このあたしにイタズラかまそうとした、このド低脳共が悪いんだ。

「よく見るとこの子可愛いなァ。俺、色黒の子ってけっこう好みなんだよなー」
「2、3発やらせてもらおーぜ」
「テメーら…いい加減にしなさいよ。ザ☆ピー…」


「おい、そこのボンクラ共。すぐその子から離れなよ」


突然、その場に現れた女子生徒。
あたしも、不良二人も呆気に取られてしまう。
いつの間にここに来たの…?

「だ、誰かと思えば…オメーはC組の柴田じゃねぇか!」
「なんだなんだ?テメーも俺らと遊びてぇの…」

ゴバスッ!!!!!!
「おっばあああああああああああああッ!!!」

ヘラヘラと近づいていった不良の顔面に、柴田という女子生徒は容赦なく
パンチを叩き込んだ。
す、すごい…こんな可愛らしい顔して、なんて怪力の持ち主なの…?

「あ…あおあ…あおあああああああッ!!!」
「だ、大丈夫かよタツ!!ひでぇ…アゴが外れちまってるじゃねーかぁ!!」

「おい、コイツの顔…脂でギトギトじゃん。わたしの手が汚れちまったよ…
こっちの方はどーしてくれるんだ?ア?」

あれ…?彼女の腕に、何か纏わりついているようだけど…。
これは…スタンド!?
スタンドがスーツのように彼女の右の拳からヒジにかけて、纏わりついてるわッ!!
それはヒジのあたりから薄くなって消えてしまっているみたいだけど…。
これは…新しいタイプのスタンドだ!!

「おい、訊いてるんだけどな。テメーを殴って拭いていいかなぁ?」
「う、うわあああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
ドダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ…

とにもかくにも…女一人で不良を二人も追っ払っちゃった。

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

「あなた、大丈夫?」
「スタンド使い…」
「え?」
「あなたスタンド使いねッ!!」

演劇部以外にもスタンド使いがいたなんて…あたし聞いてない!!
この人は演劇部じゃあないッ!
なのにどうしてスタンドを…ッ!!

「スタ…ンド?何それ?」
「あなたの腕についてんのがそれよッ!!」
「どれよ?あの不良の顔脂のこと言ってんの?」
「シラを切る気ね…ザ☆ピース!!」
ドギャン!!

あたしは黄金のスタンドを発現させる。
美しい…なんて美しいスタンドなの…自分でも惚れ惚れしちゃうわ〜。
これでピンクがポイントで入ってたら最高ねッ!!

「なに言ってンのあんた。『ざぴーす』って何よ」
「何よじゃないわよ。見ればわかるでしょーッ!」

演劇部は、意外と敵が多いらしい。
通常の活動の他に、見に振る火の粉を払ったりしなければならないのだ。
なんのためにかは知らないけど…

「見てもわかんないから言ってるんじゃんよ。あんた、さては痛い子でしょ?」
「つべこべ言わないでッ!行くわよーッ!!チャーミング・フィンガー!!!」

先制攻撃よッ!!
あたしは鋭い右手の指先を彼女に向け、伸ばし放つ。

ズッキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウンンン!!!!!!

ところがだ。
彼女は私の指先が眼前に迫ってきているというのに…まったく動じないの。
視線は常にあたし。
迫り来る黄金の指先には興味もないようだ。

ビタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

あたしは寸でのところで指を止めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あなた『これ』が…見えないの?」
「…は?」

み…『見えてない』わ。
この人…『スタンド使い』じゃない?
だとすると…この人の腕にさっき見えた『スタンドのビジョン』は一体…?

「…どういうことなの?ねぇ、あなたなんなの?なにその腕のヤツ。
ねぇねぇ教えてよー」
「あんたが何なのよ。さっきからワケわかんないことばっか言いやがって…
大体わたしは変なやつらからあんたを助けてやったんだよ?ありがとうの一言くらい
あってもバチはあたらないと思うけどねッ!」
そう言うと、彼女はわたしに背を向けて歩き出した。
「あ〜やめたやめた。人助けなんか嫌い」
「ちょ、ちょっと待って!!あなたの…あなたの名前をフルネェーィムで聞かせて!!」

「お礼も言えない奴になど誇りある我が名を教える必要なし!」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!


184 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:44:50 0

「こんにちわー」

部室に来たはいいけど…よっすぃの言うとおり、何もすることがなかった。
今日だって、あたしを含め3人しか出席していない。
ごっつぁんは窓から校庭を眺めてるだけだし、安倍さんは寺田先生の部屋に入ったっきり。
帰ろうかな〜あたし喉の調子悪いんだよねー。

それにしても、さっきの女の人はなんだったのかしらね。
あの腕を覆っていたものは間違いなく『スタンド』だわ。
でも、だとしたらなんであたしの『ザ・ピース』が見えなかったのかな。
見えないフリをしてたようには見えないし…
あぁ、謎が謎を呼ぶわ。面白いィーッ!!

「梨華ちゃん知ってる?」

ごっつぁんが突然口を開いた。

「うぅん、知らない」
「まだ何も言ってないぽ。今朝の新聞に書いてあったんだけどさー、超凶悪殺人犯の
判決、死刑に決まったらしいよ」
「ちょーきょーあくさつじんはん?そんなのいたの?」
「<片桐安十郎>って知らない?アンジェロってあだ名で有名じゃーん」
「あーあー知ってる、IQがすごく高い奴でしょ?あれ?でもアンジェロが捕まったのって
かなり前だよね?」
「ごとーが小6の時だから4年前かな?でさ、新聞に書いてあったんだけど…
アンジェロって杜王町出身らしいぽ」
「ええええええッ!!怖い!!!」
「ま、死刑になったんだからいいじゃん」



185 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:46:44 0

ガチャッ

そんな他愛もない会話を交わしている中、それを遮るように
寺田先生の部屋の扉が開いた。

「あ、安倍さんこんにちは」

この人は高等部2年の安倍なつみ先輩。
最近ダイエットに成功したものの、リバウンドの恐怖に戦いているらしい。
「なっち、寺田先生なんだって?」
安倍さんはごっつぁんに、手に持った紙をピラピラ見せた。
「なんですか?その紙」
「指令だべさ。ホラ」
あたしは安倍さんからその紙を受け取り、読んでみる。

     安倍なつみに命ずる。
     本校高等部2年C組『柴田あゆみ』を調査せよ。 
   
     可能であれば、彼女を演劇部に勧誘すること。
     その際、手段は問わないものとする。

                                 寺田      

「…柴田?」
どっかで聞いたわね、この名前。
えぇっと…えぇっっと…
「梨華ちゃん。それ、いい?」
「ちょっと黙ってなさい!!」
「いつもの梨華ちゃんじゃないべ」
柴田…柴田…



186 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:49:05 0

『だ、誰かと思えば…オメーはC組の柴田じゃねぇか!』

「ハッ!!!!」
そういえば、さっき変な二人組に絡まれたとき…不良があの女の人を『柴田』って
呼んでいなかったっけ!!!
うん、間違いないわ!!C組とも言っていた!!!
あたしの中に、トラブルに首を突っ込みたくなる悪い衝動が生まれる。
知りたいわ…柴田あゆみって人のこと、もっと知りたい!!!

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…

「安倍さん!!この指令、あたしと代わって下さい!!!」
「けね」
「…けね?」
「ダメってこと。これはなっちに与えられた指令だべ。それにこの指令は調査と勧誘、
中距離から遠距離が得意の梨華ちゃんのスタンドには不向きだべさ」
「じゃ、じゃあ中距離から勧誘します」
「はんかくせでぃあ、この。けねじゃ」

うぅ…なんて言ってんのか知らないけど、要するにダメってことなのね。
「寺田の奴、またスタンド使いを増やしたの…?」
「え?」
「えっ?ううん、なんでもないぽ」

とにかく、なんだかあたしには柴田あゆみって人が気になってしょうがなくなった。
安倍さんに代役を断られたのが、余計にその衝動に拍車をかけている。
よし…ちょっとやばいかもしんないけど、単独で調査しちゃおうかしら!えへッ!!

そしてあたしは身をもって知ることになる。
『スタンド使いは引かれあう』という、運命的なルールを。


187 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:53:02 0

翌朝。

ああ、チュンチュンとスズメの鳴き声が清々しいわー。
夏の日差しは、朝だっていうのにジリジリとあたしを照りつける。
海行きたいなぁ、お昼ご飯、バーベキューとかしたりして。
よっすぃ連れてってくれないかな…あ、でもあいつバイクとか絶対持ってないだろうな。
あたし元々肌の色黒目なんだけど一応演劇部のアイドルだし、日焼けしちゃやばいかな?
ねぇどう思う?日焼けしてもいいと思う?

ん、あの前を歩いてるのは…A組の塚本くんだ!

アイツ苦手なんだよなぁ〜、一時期はちょっと好きだったけど何か違う感じ。
なんかいきなり付き合ってることにされたのよね、別にそこまでじゃないっての。
気持ちは嬉しいけど、ちゃんと言ってもわかってくれないから困る。
顔合わせたくないな…遠回りだけど、こっちから学校行こうっと。
あ、そうだ!ついでに『レインボー』でアイスでも買っていこうかしら!!
あそこのストロベリー&チョコチップアイスをペロペロしながら登校するのは
憂鬱な朝の心の慰めになるのよね〜っ!!
ま、今日もテスト返しだけだから大して苦じゃないけどさー。


188 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:55:33 0

ここのアイスクリーム屋さん、ぶどうヶ丘高校の生徒にけっこう人気なの。
あたしのように、ここでアイスを買って登校しながら食べ歩く生徒も少なくない。
「ストチョコあるかしら。たまにしか食べられないからなかったらショックよね〜」
せっかく高い(あたしにとっては)お金を払うんだ、バニラなんて定番商品は頼みたくない。

店に入ると、お〜っいるいる…ぶどうヶ丘高校や中学の生徒たち。
みんな好きねぇ。気持ちはよくわかるよ。
あたしは最後尾に並び、順番を待つ。
この分じゃストチョコはやられちゃうかな、そしたらミント&チョコクッキーでいいや。
そして、ようやくあたしの前の人まで順番が回ってきた。

「いらっしゃいませ、ご注文の方いかがなされますか?」
「えーっと、メロンで」
「トッピングの方は?」
「なしでいいです」
「かしこまりました。お会計250円になりまーす」

メロンかぁ、メロンのトッピングなしなんてあったんだ。
…って、あれぇ?この声、なんか聞いたことあるな。
それにこの後ろ姿…



189 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:57:40 0

「お待たせしました、こちら『メロン』になります」

その時、事件は起きた。
前にいる女子生徒の腕に…赤いスーツのようなものが…!!
これは…昨日見たばっかりだから覚えてるわよ!!
…柴田あゆみ!!まさかこんなところで会えるなんて!!!

う、嬉しいッ!!!

でも、なんでスタンド出してるの?この人。
彼女はスタンドを纏った手でアイスを受け取ろうとしている。
いったい何を…
そして、店員からその手でアイスを受け取った。

グシャッ!!!!!!!!!!!

「あッ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

柴田さんと店員のお姉さんは無言で見詰め合った。
この人…なにやってんの?

いきなりアイスのコーンを握りつぶすなんて。

まるで紙くずを丸めるかのようだった。
コーンは粉々。メロンのアイスはベットリと彼女の右手に落ち、
カウンターの上にボトリと垂れた。



190 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 10:59:03 0

「…すいません。メロンもう一つ下さい。あと、ティッシュを持ってきてくれると
嬉しいんですけど…」
「か、かしこまりました。250円になります…」

柴田さんは左手でグッチの財布出し、アイスをつけないように右手の指先だけで
財布の口を開ける。

バリィィィィィィィッ!!!!!!!!!!!

グッチの財布は、ボタンの所から大胆に裂けた。
も、もったいない…もったいなさすぎるわ!!!
あたしなんてお金ないからポーターの財布で我慢してるってのに…
って、そうじゃない!!!
この人、いったいスタンド使って何がしたいってのよ!?

「お、お客様…?」
「う…ごめんなさい、やっぱいりません」

そう言うと柴田さんは、顔を真っ赤にして足早に店から出て行ってしまった。
どうやら後ろに立っていたあたしには気付かなかったようだ。
「ちょ、ちょ」
声をかけるが、それでも彼女は気付かない。
まぁいいや…とりあえずアイス買おう。
で、すぐ追いかけよう!!


191 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 11:01:10 0

「柴田さぁーん」
「・・・・・・・・・」
「ハァ…ハァ…柴田さーんッ!!!」
「ん?」

ふぅ、追いついた。
ちょっと時間かかっちゃったからな、見失わなくてよかった。

「…なんだ、昨日のあんたじゃない。何よ」
「ハァ…ハァ…何よとはご挨拶ねー。朝の挨拶はグッモーニン☆でしょ?」
「はいはいはいはい。そんなことわざわざ言いに来たわけ?」
「なわけないじゃない。はいコレ」

あたしは彼女にアイスクリーム屋で買ったメロンアイスを差し出した。
「…え?」
柴田さんがあたしとアイスの顔を交互に見る。
ふふ、驚いてる驚いてる。
「ほら、早く受け取りなさいよ。あたし、二つもアイス食べられないよ」
「…う、う」
「え、何?」

「うぅ…シクシク…」
「えッ!?」


192 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 11:03:48 0

な、なによ、なに!?
もしかして泣いてるの!!?
こ、これは意外だわ…涙なんか流さなそうな顔してるくせに。

ヒソヒソ…

…なんか周りの目が気になるんですけど。
まるであたしが泣かしたみたいじゃない!!!
これでもあたしの方が歳は一個下なのよ!?

「うっ…うっ…」
「し、柴田さんちょっと…」

と、とりあえず場所を変えなくちゃ!!
あたしのチャーミングなイメージまで崩されちゃたまったもんじゃないわ。
こっからなら…ぶどうヶ丘公園が近いわね。
とりあえずあそこで落ち着かせよう…これじゃ遅刻は確定ねorz
あーぁ…今日テスト返却なのになぁ…。

207 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 16:10:02 0

公園のベンチに座り、しばらくしてから落ち着いた柴田さんは、
あたしに驚愕の告白をした。

「わたし、改造人間なの」

か、改造人間ンンン!?
改造人間っていうとアレでしょ?仮面ライダーとかそーいうのじゃないの?

「どういうこと?」
「そう…あれは二日前の出来事だったわ…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

期末試験の結果が最悪だったわたしは途方に暮れていたの。
一学期からこんなんじゃヤバイ…留年って言葉が頭をチラついたよ。
そんな学校からの帰り道に"新たなパワーを手に入れる!"っつーポスターを
見かけてね。わたしはもう『これしかない』と思って、ダメもとでその研究所に行ったわ。
最初は薬とか飲んで滋養強壮!みたいな感じだと思ってた。
ところが…そんな生ッちょろいもんじゃなかったのよ…
部屋中に置かれた拷問具、拘束具…わたしは部屋の真ん中にあった『いかにも!』な
ベッドに拘束されて…

「汚い矢でいきなり突き刺されたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!!



208 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 16:12:10 0

「矢で刺されたですって!!?」
あたしは知っている!!
汚い弓矢を、あたしは知っている!!!!
あたしも寺田先生に矢で喉を射られたからだ!!!
その矢はあたしの精神から新たな力『幽波紋(スタンド)』を引き出したもの!

「そうよ!刺されたの!!胸に一発ブスリとね!!!『血は命なり!!』とか
叫びながらよ!何かの宗教みたいだったわ、仮面かぶってて。生け贄にされた気分だった。
そして、目が覚めると…そこにも何もなかったわ。拷問具もなにも…あったのは、
わたしの通学カバンだけ…胸には傷一つ残ってなかった」

間違いない…間違いないわ…。
この人、間違いなくその時『スタンド使い』になったんだわ…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「で、それからなのよ。生活してて無性にパワーがみなぎって来る時があるの。
昨日、不良殴った時もそうだし、今朝も歯ブラシ折っちゃったわ。
そうそう、タンスの角に小指ぶつけたらタンスの角が吹っ飛んだな。しかも小指の
痛みがいつもの十割り増しくらいの激痛でさ、すんごい悶えた。折れたかと思ったし。
やっぱりわたし、あの時改造人間の手術を受けてしまったのよ」
「その力、自分ではコントロール出来ないの?」
「うん、いきなり湧いてくる力だから」
「その時さ、身体に何か赤いのとか見えない?」
「赤いの?何それ」

そうか…だんだんわかりかけてきたわ…!!
この人、もしかして…スタンド使いに目覚めつつある人なんじゃないかしら…。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…



209 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 16:14:49 0

「このままじゃ学校どころか人生もお終いよ。誰がこんな怪力女を
お嫁にもらってくれるっての?」
そう言って、柴田さんは頭を抱えた。

「柴田さん…いや、柴ちゃん。これが見えるかしら」
ズヒュン!!
「これ…?どれ?」
やっぱり…まだ見えないのか。
あたしの『ザ☆ピース』が。

「見えてないから何言ってんだかわかんないだろうけど、決してバカにしてるとか
じゃないからね。これはスタンドと呼ばれるものよ。演劇部のみんなも持っている…
『スタンド』は『スタンド』を扱うものにしか見えない。柴ちゃん、あなたには
見えてないようだけど、あなたは無意識で能力を使うとき、赤いスーツのようなものが
腕を覆っているの。その能力はあなたが研究所に行ったとき身についたものだわ」

「まぁ仮にその話を信じるとして…どうしたらそれが見えるようになるの?」

「簡単なことよ。スタンドを自分の意思で扱えるようになればいいの。空気を吸って
吐く事のように出来て当然と思う事が大事ね。スタンドを操るっていう事は出来て
当然だと思う精神力が大事よ。むしろあなたの場合、それが出来ないと…」

「…出来ないと?ゴクッ」

「そのスタンドが害になって…死ぬかもしれないわ」

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!


213 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 17:27:54 0

「マジで言ってんの!?」
「あたしが嘘を言っているように見える?」
あたしは柴ちゃんの目をじっと見つめた。

この人のスタンド能力、果たして全貌はどんなものなのかしら。
話から察するに、超パワーを持つスタンドかしら。
この人は自分が改造人間だと思っているようだけど…
見てみたい…この人のスタンド、あたし見てみたいッ!!!!

「…協力してあげてもいいわよ」
あたしはボソリと呟いた。
「柴ちゃんが、ちゃんとスタンドを扱えるようになるように」

「…なんで、昨日知り合ったばっかの名前も知らない子がわたしに
そんな気を使ってくれんのよ」

「んー…少しの真心あればいいっていうか…ホラ、昨日助けてくれたじゃない。
そのお返しよ。感謝の気持ちがあればいいでしょ?」

あーあ、あたしってば、なんっっっていい子なんでしょ。



214 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/21(月) 17:30:30 0

「…そーいえばあなた、名前は?」

「梨華、石川梨華。みんなからはこの美しさゆえに、チャーミーって呼ばれてる。
あなたは柴田あゆみさんでしょ。愛嬌を込めて柴ちゃんと呼ばせてもらうわ」

「ふん…どこで知ったのか知らないけど、なんとでも呼んで」

そう言って、柴ちゃんが立ち上がろうとベンチの背もたれに左手をかける。
ん?左手になんか赤いものが…
そして、その左手で背もたれをグッと押すようにして立ち上がると…

ドゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

「ちょっがああああああああああああああああ!!!!」
「いでええええええええええええええええええええええええええッ!!!」

木のベンチは地面の土から引っこ抜け、景気よくヒックリ返り、あたしと
柴ちゃんは地面にキスした。


「いてて…これは早い内にコントロール出来るようになってもらわないと…
いずれ死人が出るわね」


235 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 02:05:12 0

放課後。
つっても今日は午前しかなかったから時間的にはまだ早いんだけど。
今から学校行ってもしょうがないんだけどねー、まぁワケがあってねー。

「あれ、石川さん今来たの?遅っ」

「あッ東二子玉川くん!超会いたかったの!!」

「えっ!ぼ、僕に!?マジで!?ねぇマジで!!?」

「うん!!今日あたしバイト行けないから店長にそう伝えといて!!」

「んだよそんなことかよ!!やだよ!!!石川さんいないと僕が新規で
オーダー取りに行かなきゃいけなくなっちゃうじゃん!絶対無理だって
まだ入りたてなのに!!しかも東俣野だから!!!」

「そんなんだからみんなから『健太ッキーフライド<チキン>』なんて呼ばれるのよ。
何事もチャレンジよチャレンジ!!」

「調子のんな!無理だーッ!!!!!」

よし、これでバイトは休みとれたわ。



236 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 02:07:19 0

さて…次は演劇部ね。

「どーもーッ!!」
「あ、梨華ちゃん」
「あれ、安倍さんだけですか?」
「んだ」

安倍さんは机の上で名簿を広げ、何やら調べ物をしているようだった。
なにしてるのかしら?
そう思い、ちょっと覗いてみる。

「柴田…あゆみ?なんで?」
「なんでって…なっちが指令受けたからだべ、だからこうやって地道に調べてんの。
それより、彼女の期末試験の点数やばいよ…ほとんど赤点。こりゃ追試だらけだべよ。
なっちでも今回の英語は50点とったんぎゃ」

うわ…ホントにひどいな。
2年の英語ってそんなに難しいのかしら。
数学、16点って…w
いけない!!
笑っちゃったら友達失格よ!!!!

「さて…こんなことはどうでもいいべ。問題はこの子が、いつスタンド能力を
身に付けたのかが問題だべ。寺田先生は彼女を射てはいないようだし…
そしてその能力は…うーん、やっぱ直接会うしかないんだべか」

「確かに、柴ちゃんって他にはどんな能力を持ってるのかしら…」



237 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 02:09:02 0

「え?」

安倍さんがあたしの顔を怪訝そうにマジマジと見た。
し、しまった…口が滑った…ッ!!

「あッ…いや、この人ってどんなスタンド持ってるのかなーと思ってッ!」

いけないいけないッ!!
あたしが単独で柴ちゃんのこと調べてるのバレたら…けっこうヤバイ。
安倍さんって妙なハングリー精神があるみたいで、仕事とか取ったりすると
マジギレするって…ごっつぁんが言ってたんだよね。

「梨華ちゃん、昨日からなんか変…な(お前)さなんか隠してんじゃね?」
「な、なに言ってるんですか!!知りませんよ!!!あ、あたし今日は用事あるんで
から部活休みますね!!それだけ言いに来ましたッ!!!ささ、指令に励んで下さい☆」
「用事ね…なんの用事なんだか…」

柴ちゃんの訓練に付き合う用事だよーん!えへッ♪
そう心の中で叫び、あたしはそそくさと部室をあとにした。
これで心置きなく柴ちゃんに付き合って上げられるわ〜ッ☆



「あいつ…なんだか様子がおかしいべ…」

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…

241 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 03:55:37 0

あたしは柴ちゃんを連れ、ぶどうヶ丘公園の雑木林の中に来ていた。
ここなら心置きなくスタンドの訓練を行えるハズ。
木がサワサワと葉を擦らせている音が、なんだか囁いているようだわ。
うん!!なんかすっごく『修行』って雰囲気ね!!!

「で、わたしはどうしたらいいの?」
「そうね、さっきも言ったけど、出来て当然って思うことが大事なの。
こんな風にね…ザ☆!!!ピィィィィィィーッス!!!!!!」

ズギュン!!!!!

あたしの背後に黄金に輝く美しいスタンドが発現した。
いつみても美しいわ…まるであたしのよう…。

「こんなあたしを誰か丸ごと愛してくれないかしら?」
「何言ってんのあんた」
「おっと、こっちの話。で、どう?わかった?」
「わかった?って言われてもねぇ…何も見えないからさ」

そうなよね…見えなきゃ手本もクソもあったもんじゃないわ。
あ、あたしはクソはしないけど。

「とりあえず、そうね〜…『自分の身を守ろうとする』とか『あいつを
こらしめてやる』って気持ちになれればいいのよ。そうすればあとは本能よッ!
柴ちゃんの精神力独特のスタンドがハッキリと現れるハズ!!」
「わ、わかった…よし…ッ!!」

で、出るわ…ついに…ついに彼女のスタンドの全貌が明らかに…
えへッ!安倍さんより早く突き止めちゃったわ…

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ…


242 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 03:58:01 0
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・ワクワク」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!」
「・・・・・・・・・・・・ねぇ、まだ?」

いつまで経ってもスタンドを出さない彼女に、あたしは痺れを切らした。

「無茶言わないでよ…別になんもないのに『自分の身を守ろう』とか
『あいつをこらしめよう』とか思えないしさー」

まぁ、それもそうよね…。
うーん…難しいなぁ…。

「梨華ちゃん、なんか他にないの」

「うーん…これ、あたしの推測なんだけど、今まであたしが見た中で柴ちゃんが能力を
使った時って、どれも目的があったわけじゃない?」

「目的?」

「うん。不良を殴った時も『ぶん殴ってやる!』と思ったでしょ?
今朝もアイスクリーム屋アイスを受け取る時『受け取ろう』って思ったんじゃない?
財布に関しても『開けよう』って」

「ふむふむ」

「あそこのベンチぶっ壊した時も、『立とう』と思ったんだと思うのよ。無意識に」

「はぁ。タンスの角に小指ぶつけた時は?」

「そんなのあたし見てないし。とにかく、やっぱり『スタンドを出そう』と
当然のように思う事が…近道だと思うのよねぇ〜」


243 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 03:59:55 0

そう、あたしなりの自論を柴ちゃんに聞かせる。
それでも彼女は、いまいちよくわからないと言った表情だ。
柴ちゃんが言う。

「なんつーかさ、その『スタンドを出す』っていう概念自体ピンとこないのよね。
つまり、わたしは別に改造人間ではないってこと?」

「あのね、この世に改造人間だとか、サイボーグだとかいるわけないでしょ?
漫画や特撮じゃないんだから」

あたしにそう言われ、柴ちゃんはポケーッとあたしを見つめた。
今の顔、ちょっと可愛いな…ま、あたしほどじゃないけどね。
そして、ちょっとした沈黙の後、彼女が先に口を開いた。

「…何言ってんのあんた。さっきも言ったじゃん。矢で胸を刺されたのに、
目が覚めたら傷も何もなくなってたんだよ?あの痛みは夢なんかじゃない、
心臓が破裂したようなとんでもない痛みよ」

…ん?なんか言ってることが変だわ。
わかってないのかしら。



244 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 04:01:16 0

「だからそれはスタンド使いになったからで…」

「そのスタンド使いになったら傷が跡形もなく塞がるっての?あんたね、今は
科学の世の中なのよ?わたしが思うに、これは特殊な外科手術か何かよ。
たぶん、この身体の中に機械が詰まってて…」

な、なんだこの女はーッ!!
話がおかしい方向に向かいつつあるわ。
そして終いにはこんなことを言い始めた。

「とにかく、わたしをサイボーグに改造した悪の秘密結社の行方を追う事が、
一番の近道だと思うんだけど、どう?そこらへん」

こ、こいつ…ッ!!!

「そ、そこらへんもラッキョウもあるかー!!なんだそのハナクソみてーな話はッ!!
大体『悪』の秘密結社ってなによ?いつから『悪』になったのよ?オメーが
フラフラとその研究所に行ったんじゃねーのかッ!ボケナス!!!!!」

「い、言ってくれるわね。一応これでもわたしはあんたの先輩に当たるハズなんだけど。
少し言葉遣いに気をつけたら?」

「そんなもん学年的なものでしょーが!みみっちい事気にしやがって…
それでも年上かタコ坊主ッ!!!」

「ほほう…言ってくれるじゃないの石川梨華の嬢さん…」

パキ…ポキ…

柴ちゃんが指の骨を鳴らし始めた。


245 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 04:03:10 0

うふふ…作戦成功〜☆
どうしても闘争本能が自分で引き出せないっていうなら…あたしが起爆剤になってやるわ。
そして、どうやらその導火線に火は点いたようね!!
彼女の両腕が、赤い何かに覆われている。
さっきまでは、どっちか片方だったのに…これは結構ドタマ来てるみたいだわ。
あーあ…あたしってホント素晴らしい女の子ね。
わが身を犠牲にする覚悟をしてまで彼女をスタンド使いとして目覚めさせようと
しているなんて…。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

でも、なんであたし、柴ちゃんにここまでしてあげてるのかしら。
『柴ちゃん』なんて馴れ馴れしく呼んでるけど…実際始めて会ったのは昨日なのよね。
なんか、この人といるのがすごくラクでしょうがない。
なんだろう、この感じは…まぁいいか。

「さぁ!柴ちゃんかかって来なさい!!」
「言われなくたってェッ…ん!?」

柴ちゃんの動きが止まった。煽りたりないのかな?

「なに?もしかしてこのチャーミー石川の美貌に怖気づいたのかしら!?」
「静かにッ!!聞こえる…」



246 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 04:04:01 0

ザワザワ・・・

「木がそよいでる音しかしな…」

わーたしーは真っ赤なりーんごーです〜…

「ホラ!聞こえるでしょ…ッ」
「え…?」

おー国〜はさーむい北のぉ国〜…

「こ、この歌は…」

りーんご畑〜の晴ぁーれた〜日にー

かーごに〜詰めーられ〜…

「この…この東北地方くさい歌詞の歌は…ッ!!!!」

ザッ!!!!!!!!!!!

そして、現れた招かれざる客。
って、ホントはこんな言い方しちゃまずいんだけど…



247 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 04:06:54 0

「時代はそれぞれ頑張って来たよね」

「あ、あんたは…確かA組の」

「…なっちも頑張って来たんだべ。そして、これからも」

「あ、安倍さん!!!!?どうしてここに…ッ!?」

ドギュウウウウウウウウウン!!!

チェ…『チェイン・ギャング』!!!
安倍さん…まさか!!!!!!!!!

「さて…梨華ちゃん、そこを退きなよ。こっからはなっちの仕事だべ…」

「あ、安倍さん。あの…」

「退け言うとるべさ!!なさ、なに人の仕事勝手にぶんだくってんだコラ!!
けねぇ…けねじゃああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!」

や、ヤバイ!!
この人…マジに怒ってるわ!!!!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〜ン!!!!


265 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:46:40 0

ピンクと白が綺麗な安倍さんの『チェイン・ギャング』。
彼女はスタンドを引きつれ、ジリジリとにじり寄って来る。
鋭いその視線の先にいるのはあたしじゃない…柴ちゃんだわ。
安倍さんは…直接スタンドをぶつけて柴ちゃんを試す気なんだ!!

「ま、待って下さい!!安倍さん…」
「梨華ちゃん…それ以上邪魔を続けてると…いくらなっちでも…怒るよ?」

もう怒ってるじゃないの!!
眉間に皺寄せちゃってさぁーッ!!!

「違うんです!邪魔とかじゃないんです!!柴ちゃんは…まだスタンド使いとして
目覚めきってないんです!!!」
「だから?」
「自分のスタンドさえまだ見えてないんです!!」
「で?」

で?…って言われても…困っちゃう。

「するってーと…あれ?『あたしがスタンドを見えるように訓練するから
ちょっとだけ時間を下さい』…って言いたいのかな?」
「え、ええ…そういう感じです」

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…



266 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:48:31 0

ふ…と安倍さんが息を吐いて軽く笑った。
よかった…わかってくれたみたいね。
さすがは年上のお姉さん物わかりが…

「だからッ!!!それまるまるひっくるめて!!!全部なっちの仕事なんだってのッ!!
仕事ぶん取った泥棒猫ォッ!!!!!もぉ〜ッ!!それ以上戯言抜かしてると本気で
ヒビ入れちゃうよ?この指リンゴ!!!!!!ちゅらららああああッ!!!!!!!」

ダガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!

「ひぃぃぃーッ!!」

あたしは情けない声をあげる。
安倍さんがスタンドで怒り任せに地面を叩くと、地面の土に亀裂が入った。
まるで地割れのようだわ…ッ!!

この人・・・物わかりよくねえぇェェェェェェェッ!!!!!!!!!!!!!!


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


267 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:50:50 0

「梨華ちゃん…あんた」

柴ちゃんが後ろでボソッとあたしを呼んだ。
気のせいかしら、声のトーンがめちゃめちゃ低い。

「わたしを…ハメたの?」

「…え?」

「わたしをこんな人気のないとこで捕まえといて…あたしと似たような
改造人間連れてきて…」

「い、いやそんなんじゃないのよ柴ちゃん!!信じて!!!!!」

「・・・・・・・・・」

柴ちゃん…なんか誤解してるわ!!
わああッ!!!あたしを悲しそうな目でジッと見つめないで!!!!
つーかまだ改造人間とか言ってたのかよ!!!

なんでどいつもこいつも、こう物わかりが悪いのよ!!!!!!!



268 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:52:21 0

「そう、そういうこと…そうよね。自分で力を使いこなせない改造人間なんて、
ただのミスクリエーション(出来損ない)だもんね。処分しに来たってわけか…」

「し、柴ちゃん?」

「すごく仲良くなれるような気がしてたのに…悔しいよホント。
さ、煮るなり焼くなり好きにすれば?別にわたし逃げないから。つーか…
いい事しても悪い事しても嫌な気分になるこんな世界で生きてる価値なんてないし」


すごく仲良くなれるような気がしてたのに…
すごく仲良くなれるような気がしてたのに…
すごく仲良くなれるような気がしてたのに…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


プッツーン…

あたしの中で、何かが弾け飛んだ。
柴ちゃんの一言が頭の中を…ううん、体中を駆け巡る。
なぜならそれは…

あたしも同じ事を思っているから!!!!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!



269 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:54:29 0

「改造人間…?なんだべさそれ。まぁいいや…嬲り殺されて終わりっていうんなら、
所詮それまでの使い手ってわけだから」

ザッ…ザッ…

「これがなっちの『チェイン・ギャング』だよ。柴田あゆみさんって言ったね…
見えてないンだか見えてないフリしてんだか知ンないけど…一発叩き込ませてもらうべ」

安倍さんが柴ちゃんに近づく。
柴ちゃんは微動だにしない。
スタンドも纏わず、まったくの無防備だ。
よほど…よほどのショックを受けたのね…怒りを通り越してしまうくらいに!!

「行くべチェイン・ギャング!!!ちゅらああああああああああああああッ!!!!」

安倍さんのスタンドが拳を振り上げた。

柴ちゃん…あたしの友達ッ!!!!!

ザザザアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!

ダガガァン!!!!!!!




「う…おぇ…」
「…梨華ちゃん?」
「あんた…一体どういうつもりなの…この子を庇うなんて…ッ!!!!?」

バババババアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!


270 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/22(火) 17:58:17 0

ドザァッ!!!

チェイン・ギャングの一撃を食らい、あたしはすっ飛んで倒れた。
い、いったーい…お腹に入ったわ…
布地の制服に亀裂が入っている。
なんだか奇妙な光景ね。

「負けない…このくらい…なんてことはないッ!!!」
「梨華ちゃんッ!!あんた…」
「柴ちゃん…これでわかってくれたかしら…あたしはあなたの味方よ…ッ」

フラフラと、腹を抱えてなんとか立ち上がる。

「愚かだべ…一体なんの利益があってそんなことするの?なっちにはわかんない」
「安倍さん…ごめんなさい。彼女を…柴ちゃんを傷つけるというなら!あたしはッ!!」

ヒュンヒュンヒュン…ギュルルルルルルルンッ!!!

「ンンンッ!?」

何本もの金色の糸が、安倍さんの足や胴体、首に絡まり、近くの木に
巻き込むようにして安倍さんを無理矢理結びつけた。


「今はあなたの敵にまわるしかないッ!!!!!!!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!


326 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:19:32 0

「梨華ちゃんのスタンドがここまでとは…ガッチリ抑えつけられて動けねじゃ」

安倍さんが、胴体を紐状に伸ばしたあたしのスタンドの拘束から逃れようと
身体を捩るが、それも無駄な足掻き。
あたしは容赦なくザ☆ピースの締め付けをさらに強いものにした。

ギュッ…ギュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!!!!!!!

「や、やるじゃない…さすがは演劇部でも時期エース候補に挙がっているだけはあるべ」

「これだけじゃないですッ!!見なさい!!!!」

ギュリュリュリュリュリュウウウウウウウウウン!!!!!!!!

「な、なんだべさ…スタンドの両手が…ッ」

ザ☆ピースの両手の5本指がギュルっと絡み合い、ドリルの形に変形する。

「ザ☆ピース<エンド・マーク>!!指をまとめてドリルに変えたあたしの刃は、
すでにあなたを捉えている!!もう、動くことも許しません!!!!さぁ…
大人しく学校に戻ると言いなさいッ!!!!!!」

もしちょっとでも抵抗を見せれば、突き刺す!!
あたしは、目でそう訴えた。
しかし…演劇部のみんなにも黙っていたこの技を、まさか安倍さんに使うことになるなんてね。
とにかくこの勝負、圧倒的優位に立ったわ…ッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



327 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:21:51 0

「安倍さん、あなたの指令を邪魔するつもりはありません。ですけどね、柴ちゃんは
まだスタンド使いとして目覚めきってないんですよ。指令を遂行するのは、
それからでも遅くないんじゃないかしら?うふふッ」

「甘いべ」

「え?」

「なっちの腕もガッチリ縛らなかったのが運のつきだってことだよ、梨華ちゃん」

スゥゥゥゥゥゥゥ…

安倍さんの肩から白とピンクの腕が生える。
チェ、チェイン・ギャングの腕だわ…!!!!
だけど!!あたしのスタンドの紐状に薄く伸びきった足、胴体を攻撃すれば、
それは安倍さんの身体自身をも同時に攻撃するということになる!!!

「動くのをやめなさいッ!!!」

「梨華ちゃん、今あんたはこう考えている。この紐を攻撃することは、
なっち自身を攻撃することだ…と考えている!!!確かに、こんなに薄っぺらい
紐じゃあ攻撃の衝撃は間違いなくなっちにも伝わってくる…けどッ!!!!!」

ウィーンウィーン…

チェイン・ギャングの…指が光りだしたわ!!
なにか激しいスタンドパワーを感じるッ!!
まさか…まさか安倍さんのスタンドも…<それ>を使うというの!!?



328 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:23:49 0

「ザ☆ピース…どこまでも伸び続け、紐のようにもなれるスタンド…
だが、その弱点は伸びている部分の強度が著しく下がってしまう!!!
…ねぇねぇ、なっちのお腹に巻きついてるこの部分、梨華ちゃんのどこの部分かな?
足?お腹?もしかしたら胸かもね〜」

「う、動くのをやめなさいと言っているのよ!!!!本当に突き刺すわよ!!!!」
「本当に突き刺す…?」
「そ、そうよ!!それが嫌なら大人しく学校に戻ると言いなさい!!!」

あたしがそう、安倍さんはふふっと笑えて答えた。
な、なんなのよこの威圧感は!!!
そしてその余裕はーッ!!!
おかしいわ…あたしの方が優位に立っているはずなのに…!!!!

「…梨華ちゃん、まだまだだべ。『脅し』なんか使っているようじゃ半人前だよ」
「お、脅しなんかじゃ…」
「なっち達<演劇部>はね、そこら辺のコンビニなんかにたまってタバコ吹かしながら
『ボコす』『ぶっとばす』言ってる歯クソ以下のガキどもとはワケがちがうんだよ」

安倍さんのチェイン・ギャングの指がさっきよりも輝きを増しているわ!!!
で、でもこの拘束を解くことはできない…
ど、どうしよう!!!

「よぉく聞きなさい梨華ちゃん!!!『突き刺す』と心の中で思ったならッ!!!
その時スデに行動は終わっているんだべッ!!!!!!」

ブスッ!!!!!

「チェイン・フィンガー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ダガガガッダガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!!!!!

329 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:24:55 0

一瞬だった。
あたしが「あ」と思う間もなく、安倍さんは躊躇も何もせず、つき立てた親指を
紐状に伸びたあたしのスタンドに突き刺した。
紐には亀裂が入り、そして…

ブシュッ!!!!パキン!!!
「う、うげッ!!!!!!!」

「お、この部分は梨華ちゃんのモモだったのかぁ」

右の太ももに小さな穴が開き、そこから血が吹き出る。
傷自体は大したことはない…だけど、どういうわけか…

ドサッ!!

あまりの激痛に、あたしは膝をついた。

「あれれ?まだ紐が解けないね。今のでモモの骨に亀裂が入ったはずなんだけどなぁ」

安倍さんに指を突き立てられた部分に…ヒビが入ってるわ!!!
やりやがったな…やりぁがったなこのドクサレがああああああああああああッ!!!
あたしはザ☆ピースのドリル化した指をゆっくり安倍さんに近づけた。

ドッドッドッドッドッドッドッドッ…



330 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:25:51 0

「あれ?もしかして今頃なっちを突き刺すつもり?」

「ハァ…ハァ…ッ」

「梨華ちゃんの指となっちの指、どっちが早いか勝負する?」

「ハァ…ハァ…ハァ…」

「梨華ちゃん、身体中の骨にヒビ入っちゃうかもね。さぁ…おいで」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

この状況、確実に安倍さんをヤレる。
だけど…この人は絶対抵抗するッ!!!!
あたしもただじゃ済まないわ!!!

「ハァー…ハァー…ッ!!!」

身体中にヒビを入れられたら…あたしどうなっちゃうの?

「ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ガタガタガタ…

「さぁ!!!やるの!?やらないの!!!?ハッキリと言葉にしなさい!!!!
石川梨華!!!!!!!!!」

「う…ぐ…う…」


う…ううううううううううううううううううううッ!!!!!!!!!


331 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/23(水) 23:26:44 0

や、やってやる!!!
あたしは…あたしはチャーミー石川なのよ!!!!!!!!!
<エンド・マーク>と叫んで…技を発動させてやるわ!!!!
叫んでやるわよ!!!!!


エンド・マーク!!
エンド・マーク!!
エンド・マーク!!
エンド・マーク!!
エンド・マーク!!


「エ…エ…ッ!!!!!」

だめだ…恐ろしい…ッ!!!!!!

シュウウウウウウウウウウウウウウウウウンンン…

「技の解除どころか…スタンドまでしまっちゃったかぁ…梨華ちゃん、こんなことで
ビビッてるようじゃ…まだまだだべ」


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


350 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:34:18 0

チェイン・ギャングの指先に『亀裂』を生み出す能力を一点集中!!!
その力は決して軽い物ではなく、強烈なものであった。

パンチなんかよりも絶対強いわ…水鉄砲は穴が小さい方が勢いよく飛ぶってことかしら。

右のモモの骨にヒビが入ってるみたい…これならまだ闘える、軽傷だ。
けど精神的には重傷だった。
安倍さんは「スタンドをしまっちゃったか」なんて言ってるけど…それは違う!
スタンドが消えたのは…あたしの中から闘争心が消えてしまったからよ。
この人と闘って勝つという考えがなくなってしまったからなの。
身体中を嫌な汗で濡らしながら、あたしが思うことはただ一つ。

この人に…この人に勝てる気がしない…ッ!!!


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



351 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:36:06 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さて…邪魔者が動けなくなったところで…」

安倍なつみがわたしに向き直る。
まるで獲物を追い詰めた女豹のようだ。

さっき、いきなり木にへばり付いた安倍なつみ。
梨華ちゃんの太ももから突然噴出した血。
そして、精気を失ってしまったような表情で地面に手をついている梨華ちゃん。

わたしは…なにか悪い夢でも見ているんだろうか。

それもこれも、昨日彼女を不良から助けたからだ…
もし梨華ちゃんを助けていなければ、わたしは今頃梨華ちゃんと知り合うことがなかったから
一緒にいないだろうし、彼女も足をケガをすることはなかった。(何をされたのかはわからないが)

そうよ…梨華ちゃんもわたしを助けようとしなければそんなケガせずにすんだのよ。
いったい人助けってなんなの?
ホント、昔っからこの疑問は絶えない。



352 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:38:56 0

あれは、わたしが中学1年生の時。

夏祭りの帰り道、夜道で小学生に絡んでる学校でも有名な上級生の不良三人組を
見かけてしまったわたしは、関わり合いになりたくないと思い、ビビって
コソコソと歩いていた。
したらね、上級生がいきなりバシッと小学生を殴ったのよ。
その時、小学生が手に持っていたお面が、わたしの足元まで飛んできたの。

これ、確か今小さい子に人気のヒーローだ。少ない小遣いで買ったのね。
確か、改造人間にされてしまった青年が主人公の…

うわあああああッ!!と小学生が泣いた。
どうやらそれが、わたしの正義感に火をつけちゃったようだ。

年下を…自分より弱い奴をいじめて面白がってるなんて…ッ!!!

「弱いものイジメはやめろ!!!!」
そう叫んで飛び掛ったわたしは…見事袋叩きにされた。
小学生も走って逃げていってしまった。


その時だね、初めて人助けってなんなんだろうって思った時は。
人助けってのは、他人のリスクを一緒に背負うことなのかな。
ひどい時は自分が傷つくしさ。

それでも、困っている人…特に誰かに傷つけられようとしている人間を見ると思い出す。
あの夏祭りの日に見た、少年の持っていたヒーローのお面を。



353 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:43:34 0

「訊いていい?」
「何かなぁー?」
「安倍って言ったよね。ねぇ、人助けって何?」
「…強い者にだけ許される行為だよ。つまり自分の身も守れない奴が誰かを
守れるわけがないってこと。ホラ、今の梨華ちゃんを見ればわかるっしょ?」

梨華ちゃんは幸の薄そうな顔で地面に手をついている。
昔早読みした、なんかのボクシング漫画の主人公のように、白くなってしまっている。

「じゃあそろそろ始めちゃうぞ〜ッ!なっちのチェイン・ギャングで…」

…これといって何も見えないな。
わたしは、サイボーグとしては不完全なのかも知れない。
だけどあの子は…さっきわたしを守ってくれた。
したら、強い弱いなんて言ってられないじゃん。

「ちゅらららららららあああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

ドガバキ!!!!!!

「ぐべえええッ!!!!!!」

み、見えない何かが殴って…ッ!!!?
わたしの身体はその衝撃ですっ飛び、近くの木に激突した。



354 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:44:43 0

「ありゃあ〜…本当に見えてないの?」

安倍がジリジリと近づいてくる。
なす術なんか、あるわけがなかった。

「そんなんじゃあ…勧誘どこじゃないべさ…」

「わからない…どうすれば…どうすれば誰かを守る事が出来んの!?
わたしには…改造人間として出来損ないのわたしには何も出来ないよ!!!!!」


「甘えるんじゃないわよ!!!!!!!」


その時だ。
足をガクガク引きずらせながら、梨華ちゃんが立ち上がり叫んだの。


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!




355 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:47:01 0

「あららら。梨華ちゃーん…まだ動くつもり?やれやれ…」

「何も出来ない…?冗談じゃないわ。柴ちゃんあなた、まだ何もしてないじゃない」

安倍が梨華ちゃんに近寄っていく。
まだ彼女に何かする気なの!?

「う、ぐ…でも…わたしにはどうしたら…力をコントロールできないわたしには…
うううううううッ!!!!!」

わたしには、もう頭を抱えることしか出来ない!!
どうしたら…どうしたらあの子を守れる!?


「<スイッチ>よ!!!」

梨華ちゃんが叫んだ。
スイッチ…だって?

「スイッチを入れなさい!!!!」

「梨華ちゃん…そろそろ黙るべ」

「改造人間には…みんな力を引き出すための動きがあるじゃない!!」

力を引き出すための…動き?


「やりなさいよ早く!!!あなたは…サイボーグなんでしょ!!!!!!!!!」




356 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/24(木) 05:49:52 0

バギィッ!!!
「がぼッ!!!!!」

梨華ちゃんが安倍に殴られて倒れた。
それを見た瞬間、わたしはバッと身体を動かしていた。
無意識だった。
自分でも、それがなんのポーズなんだかわからない。

けど、これだけは言える!!
わたしが…わたしが梨華ちゃんを助けるんだ!!!!!!
そして、自然と口にした言葉。

「変んん…身ッ!!!!」


ビカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


15 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 02:39:30 0

柴ちゃんのお腹の辺り(ベルト?)が赤く眩しい光を放ち、全身を包み込む。
やがて光が収まり、彼女の変わり果てた姿があらわになった。
…そういうタイプの『スタンド』だったのね。

「な、なんだべさ!これは!!!」

安倍さんが驚くのも無理はない。
こんなタイプのスタンドは…記録にはない『新種』だから!!!!

「身にまとうタイプのスタンド…ッ!?こんなヤツは初めてだべ…」

「柴ちゃん、赤いわ…なんて淫らな赤色なのかしら」

天に届くぐらいに、誇り高く背筋を伸ばした彼女の姿は、まるで摩天楼を思わせる。
そうね…『スカイスクレイパー・M.D.R(MI DA RA摩天楼)』とでも名づけようかしら。

「力が…力がみなぎって来るッ!!そして…見えるッ!!安倍…あんたの
その白とピンクの背後霊みてーなヤツが!!!!!」


バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!



16 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 02:40:57 0

「どうやら目覚めたみたいだねェ〜。スタンド使いとして…完全に!!」

「これ以上梨華ちゃんを傷つけることは…この柴田あゆみが許さないッ!!!」

「そう思うのは勝手だけど、あんたには色々訊かなきゃならないことがたくさん
あるんだよ。これも部活動だからさ。いったいどこでスタンド使いになったんだか…
なっち、本気でいくからね」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




「…ミュン!!!!!!!!!!!!!」

「ちゅらああああああああああッ!!!!!!」


安倍さんに飛び掛っていく柴ちゃん。
戦闘の火蓋は…切って落とされた!!!!!!!


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…!!!!!!


33 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 18:30:04 0

ヒュンッ!!!!!!!!!!

一瞬だった。
信じられないことだけど、柴ちゃんがあたし達の目の前から消えたのよ。
スタンドの拳を突き出した安倍さんも呆然としている。


ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!


そして、後ろから派手な音が聞こえた。

「いでええええええええええええええええッ!!!!!!!!」

叫んだのは…柴ちゃんだった。
あたし達のはるか後ろに立っていた木に突っ込んだようだ。
折れてしまってた木の下で、柴ちゃんが頭を抱えてのた打ち回っている。

…なにやってんの?

「そんなバカな…わたしはちょっと踏み込んで間合い詰めようとしただけなんだ!!
つーかわたしがこんな早く走れるわきゃないんだ!!しかも何なのよこのベリィハードな
痛みは…ッ!!!!」

…あのスタンドは柴ちゃん自身の能力を何倍にも上げてるんだわ。
十倍くらいかしら。
しかも、柴ちゃん自身がまだその『力』に不慣れなもんだから、うまく扱えないのね!!



34 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 18:32:00 0

「なんだぁ〜ッ!あんたまだその能力まともに使えないんじゃん!!」

「う、うるさいッ!!!!」

柴ちゃんが再び安倍さんに向かっていく。


ガツッ!
「うるおぉぉぉぉッ!!!?」
ドシャアアアアアアアアッ!!!!


だが、結果は同じ。
柴ちゃんは躓きズッこけ、顔面で地面を滑っていき、木に激突した。

「痛い…イタイイタイイタイッ!!!!!」

「あんたね…例え乗っているのがどんなモンスターマシンだったとしても、
それを操縦する技術がないウスラボケが乗ると、ただの鉄クズなんだよ?」

安倍さんの言う事は悔しいが最もだわ。
『スタンド』というのは車やバイクを運転するのと同じことかもしれない。

「安倍…あんまムカつくこと言ってんじゃないよ。今までのはちょっとした準備運動よ」


嘘だ!
絶対負け惜しみだ!!
今だってすごい声あげて転んでたじゃないのよ!!!

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!


35 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 18:37:37 0

「やれやれ…あんたを演劇部に勧誘するつもりだったけど…
これじゃ役にたちそうもないべ」

「ところで安倍ちゃんよぉー、随分いい腕時計してんだなぁー。
これ、トゥモローランドでしょ?」

柴ちゃんが指にピンク色のベルトの小さな時計をぶら下げている。

「…ハッ!!!!」

あれは…安倍さんがいつもつけている彼女お気に入りの腕時計!!
まさか転ぶ直前に安倍さんの腕から引きちぎったとでも言うの!!?
あの一瞬で…早い!!!早すぎるッ!!!!
でも、あれを壊したんじゃ安倍さん怒ってるわよ絶対…。


「その腕時計をダメにしたこと…後悔させてやるべ柴田ァ…ッ」

「そうカッカしないでよ。どうせもう叩き壊して見れなくすんだからさァー…
あんたの顔面の方をね」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


41 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 20:05:45 0

柴ちゃんったら、この短時間でもう自分のスタンドをモノにしようとしているのッ!?
素質は…スタンド使いとしての素質は十分にあるわ!!!


シュンッ!!!


赤い残像を残して柴ちゃんが動いた!!!
早いッもう安倍さんのふところに潜り込んでいるッ!!!!

「確かに早いべ…だがッ!!攻撃パターンが甘い甘い甘すぎるよぉーんッ!!!」

「ミュンミュンミュミュンミュンンミュンミュンミュン!!!!」

不良を一撃でノックアウトした柴ちゃんの突きのラッシュ!!
けど…あんな正直すぎる真っ向からの攻撃じゃ簡単にガードされちゃうよ!!

「攻撃とは一手先を読むもんだよバーカ!!そんなもんガードしてカウンターで…」


ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!



42 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 20:07:24 0

「な、なんだべッ!!!!」

し、信じられない…安倍さんのチェイン・ギャングが柴ちゃんの力任せの
ラッシュに押されている!!!
パンチ力が強すぎてガードが役に立たないってことなの!?
十倍のパンチ力!!!
いったいどんな威力だっていうのかしら…?


「…ミュンッ!!!!」
バキィィィィィィィッ!!!!!!!!!!!!!!!

「ぶべぼーッ!!!!!!!!」


そして…ついに吹っ飛ばされた!!!
あの安倍さんが…演劇部のエースが吹っ飛ばされたわ!!!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!!!!!!!


「うぐぐ…そんなバカな…なっちの…なっちの『チェイン・ギャング』が…ッ」

「あんた、攻撃は一手先を読むもんだって言ったなァ。だったら…
わたしは一手で終局させてやるよ。そうすりゃ先もクソもないでしょ?」


ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…


52 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:08:17 0

「一手で終局させるねェ…だとしたらあんたの負けだべ、柴田あゆみ。今の
その一手でなっちを再起不能にできなかったあんたの負け」

「わたしの拳は…その気になれば恐らく分厚い鉄板ですらレンコンみてーに穴だらけに
することができるわ、たぶんね。どうしたの?口調は強気でも顔が歪んでるじゃん。
ずいぶんとその両腕痛そうだね〜。骨にヒビでも入ったんじゃない?ギブアップする?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

この調子なら…柴ちゃん勝てるわ!!
あの安倍さんがペースに飲まれてしまってるもの!!!
でも、もしこれで安倍さんが再起不能になったらあたしはどうなるのかな?
たぶん演劇部は続けていけないわね。
でも…それでも柴ちゃんには負けて欲しくない!!!

「ギブ・アップ…かぁ」

安倍さんは力なく呟き座り込むと、左腕を地面に置き、そして…


「チェイン・ギャング!!!!!」
ボキィィィィッ!!!!!!!ダガッ!!!!


「ッ!?」
お、折った…?
自分のスタンドで自らの左腕を…右の拳で叩き折りやがったわ!!!!!!


ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!


53 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:10:01 0

「な、なにやってんだオメーッ!!!!!!!!!」

「見てのとおりだよ。たぁたぁきぃ折るぅ…痛い…すごく痛いよ…涙は出てくるし
痛すぎてゲロ吐きそうだよ、もぅ。これじゃ今年の夏は海にもプールにも行けないねェ…
来月、誕生日だったんだけどなァ。でもね、これは決してトチ狂ってやったわけじゃ
ないんだ。これはあなたに対して少しでも軽く見てたなっち自身へのお仕置きであり…
その教訓とするため!!!そして全身全霊で相手するとしよう…残ったこの右腕で…
あんたを叩き割るべ!!!!」

なんて人なの…自分で腕を叩き折った上に…さらにその腕でまだ闘おうだなんて!!
両腕でも柴ちゃんの攻撃は耐え切れないのに、片手で耐えられるわけないじゃない!!
安倍さん…あなたはいったい何を考えているんですか…?

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「…オメー頭脳がマヌケか?それとも脳味噌がクソになってるの?ハンデのつもり?
両腕でも吹っ飛ばされたあんたが、片手でわたしに勝てるわけないでしょう?」

「御託はいいべ…さぁ、おいでよ」

「ふん、望むところだ…ミュン!!!!!!!」

柴ちゃんが飛び掛っていった。
安倍さんはそのスピードに反応してないのか、動かない。
再び、直線的に迫っていく。

その時、あたしは見逃さなかった。
安倍さんの口元がキュッとつり上がったのを。

だ、ダメだわ…直線で攻めるのはまずいッ!!!!!!!!!



54 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:11:14 0

「柴ちゃん下がって!!!!!!」

「ぱっと裂いて…散らせてあげるべさッ!!!!!!!」

バリバリッ!!!!!!

柴ちゃんの動きが止まった。
地面の異変に気付いて。
でも、異変に気付いたときにはもう遅かったのかもしれない。

「しまったッ!!足を取られた…ッ!!!!!」

そんなバカな!!
おかしいわ…安倍さんの亀裂を入れる能力は叩いたものに効果があらわれるハズ!!
なのに、なぜ?
なぜ触れてもいない地面にヒビが入っているの…?

「気付かなかったみたいだね。なっちが何故、自分の腕を『地面に乗せて』叩き
折ったのか…」

そ、そうか!!!
自分の腕を犠牲にして殴った時…スタンドパワーが腕から地表に伝わせ、
地中に亀裂を入れていたのね!!


ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


55 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:12:39 0

「地表に亀裂を作らないように地中に太い亀裂を一直線に作って置いたんだべ。
そしてその亀裂は、あんたの爆発的な脚力により地面が軽く掘られて露出!!!
足がハマッたというわけだよ」

「ば、バカな…なんでわたしが一直線に来るなんてわかったんだ…なぜ!?」

「ここはすぐ周りに木がいっぱい生えてるからねぇ!!まだ目覚めたてのあんたには、
そのスタンドで小回りきかせて木と木の間をぬうなんてマネ、出来ないと
思っちゃったのさッ!!!そして…なっちは言ったはず!!!攻撃とは一手先を
読むもの!!!ごちゃごちゃ言ってるヒマがあるなら…」

安倍さんが柴ちゃんに急接近!!!
柴ちゃんが…やばいわ!!!
マジにやばすぎる!!全身にスタンドをまとっているタイプだからこそ…
やばすぎる!!!

「ガードしてから後の事ぐらい考えなァーッ!!!!!!!
ちゅららららららららあああぁああぁあぁぁあぁおぁぁあぁぁぁッ!!!!!!!!!」


ダガッ…ダガガッダガダガッダガダガガッ…バリイィィィィンッ!!!!!!!!!



56 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:14:20 0

「うぎゃああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」

それは目も当てられぬ光景だった。
柴ちゃんがあたしの所まで吹っ飛んでくる。

チェイン・ギャングの右腕一本のラッシュを柴ちゃんは両腕でガードしたんだけど…
安部さんの能力は…物質はもちろん『スタンド』にすら亀裂を入れられる!!!
そんなスタンドパワーのこもったパンチを、スタンドをまとった両腕で
ガードしてしまった柴ちゃんの腕は…

「あああああああッ!!!!腕があああああああああッ!!!!!!!!!」

赤く染まっていた。
これはスタンドが発色していた淫らな赤色じゃないッ。
ドス黒い血液の赤だ。
まとっていたスタンドの腕の部分が…剥がれるように落ちて柴ちゃんの
傷ついた腕があらわになっているわ!!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

「本体の能力や感覚を十倍にするスタンド…ね。それにその苦しみ方も普通じゃない…
どうやら『痛み』も十倍になって返ってきてるみたいだねェ…ん?」

「…ッ!!!」

柴ちゃんが…立った!?
まさか…まだ闘うつもりなの!!!?
絶対無理だわ!!勝てっこない!!!



57 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:15:55 0

「柴ちゃん!もうやめてッ!!!」

「梨華ちゃん…これが終わったら一緒にスイカでも食べない?もう夏だしさ。
そうね…こんな真っ赤な身のヤツじゃなくて…梨華ちゃんから感じ取れる
『黄金の精神』みたいな金色のクリームスイカがいいなァ。あ、でも一個1380円も
するからさ、スーパーでカット売りしてるヤツにしよーよ。安いし」

「柴ちゃん…」

「あんたをそこまで突き動かすもんは何?…凄まじい精神力だべ。
柴田あゆみ…さん。つい最近まで、普通の女子高生として生きてきたあなたに
とってはこの状況は理解することすら難解なハズ。それでいて何故…立ち上がる事が
出来るの?自分の身が可愛くはないの?」

「そうね…けどわたしは女子高生である前に…サイボーグとして生まれ変わった身」

ろくに動かせるハズのない腕で、柴ちゃんは安倍さんに向き直り、構えをとった。

「梨華ちゃんを…人を助けるために!守るために生まれ変わった!!!
この身体…この命はその為のものだッ!!!!!!!!」

な、なんという誇り高き精神!!
自分の命をも顧みない熱く燃え滾る魂!!!
柴ちゃん…あなたは間違いなく…ヒーローだわ…ッ!!!
あなたには『スタンド使い』なんて言葉は似合わない。

あなたは…サイボーグしばた!!!!!!

ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!



58 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:17:01 0

「人を助けるため…守るため…かぁ」

安倍さんが跳んだ。
チェイン・ギャングと共に、柴ちゃんに迫っていく。

「そういう奴から死ぬべさ…けど、わりとそういうの好きだよ。なっちはね」

柴ちゃんも安倍さんも、お互いの目を見つめあい逸らさない。
これが…二人の最後の一撃になるわね…。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…



「ミュン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ちゅらあああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!」



バリバリバリバリ…ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!




59 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:19:10 0

ミーンミンミンミーン…ミーンミン…

「暑い〜…」

「そりゃあ夏だからねェ」

「そうじゃなくてッ!!二人分のカバン持ってるから暑いのよーッ!!
つーか何この荷物。なんで終業式の日にこんなまとめて持って帰ろうとするわけ?」

「だって、物持てないから持って帰れなかったんだもん」

そう言うと柴ちゃんは、あたしに包帯グルグル巻きの両腕を腹立つくらいに
見せびらかしてきた。

柴ちゃんは演劇部に入部することになった。
これ、安倍さんの推薦なの。
寺田先生もそれをすんなり許可した。やっぱ部を設立した頃からいた部員は
先生からの信頼もあたし達とは度合いが違うわよね〜。
寺田先生は柴ちゃんを『スタンド使い』にした石仮面の男のことを
ひどく気にしてたようだけど…。

あの闘いの時、安倍さんは亀裂を入れる能力を使わずに柴ちゃんのミゾオチを殴った。
そこに十倍のダメージなんか跳ね返ってくりゃあ…気も失うよ、うん。
ちなみにその時、柴ちゃんは何も出来なかった。

それにしても安倍さんが柴ちゃんを気にいるとは…。
まぁあの人も『なんとか戦隊なんとかジャー』みたいなのに憧れてるとこあるし、
似たようなもん感じ取ったのかなwww



60 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/11/25(金) 23:22:07 0

「梨華ちゃん、試食行こうぜェ試食!!」
「えぇ〜今日も?」

昨日も一昨日も来たから入りづらいなぁ…でも中は涼しいだろうから入っちゃおう。

「ふ〜涼しいね。お、柴ちゃんの好きなスイカの試食よ。どれどれ…」
「・・・・・・・・・」
「まだ青いわコレ…ん、どうしたの?」
「あの、わたし爪楊枝持てないんですけど」
「じゃあ我慢したらー」
「うぜェ…あ、いや嘘です。梨華さま姫様さま御嬢さま」
「よろしいッ!はい、じゃ『あーん』して。サービスで二ついっぺんにドゾー」
「て、テメー!!隣のパインと混ぜて食わそうとしてんじゃねぇッ!!!」



青春の1ページって地球の歴史からすると…どのくらいなんだろう?
とにかく、去年の夏はあたしに親友が出来た夏だった。

…今年のあたし、病院のベッドの上で何やってんのかしらorz




柴田あゆみ
スタンド名 スカイスクレイパー・M.D.R(MI DA RA摩天楼)

次回につづけ!!!