526 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:47:30 0

銀色の永遠 〜風が吹き荒ぶ日〜

ぶどうヶ丘総合病院 533号室

「こんちわーッス。やぁやぁカルボナーラ石川さん」
僕が病室に入ると、石川さんは途端に嫌そうな顔になった。
「なんか用?」
「なんか用って…ひどくない?学級委員&バイト仲間の僕がこうして
お見舞いに来てやったっていうのにさー」
僕の名前は東俣野健太。
2年C組の学級委員さー。石川さんとはクラスメイトであり『マジックレストラン』での
バイト仲間なのだ。
「手ぶらでお見舞い?」
「まさか。ホイッ」
ポンッ。
僕は握った拳の中から大きな赤い造花を出してみせた。
「種も仕掛けもございませんから」
「はいはい。どーせ『能力』でしょ」
「で、おケガの具合はどうですか?」
噂によると、退院間近にして彼女はまた大怪我したらしい。
お腹をザックリやっちゃったんだってさー。
「よくないよ。あーイタタタタタタ」
「おいおい、クラスのファンクラブの連中が早く石川さんに
会いたがってるんだからとっとと治しちゃいなよ」
「なんでアンタにそんなこと。だいたいファンクラブとか言って
気持ち悪いよ。大の大人が…」
「それだけ、石川さんのいる演劇部は人気あるってことさ。奴らの趣味の
範囲はアホほど広いんだ」



527 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:50:33 0

そんな僕も実はファンクラブの一員だったり。
でも石川さんは、何故かこういう形でもてはやされるのを嫌がる。
まあ、たまにいるんだ。ストーカー紛いなことやっちゃうバカが。
たぶん、それの影響で石川さんはこんな感じになっちゃったんだろうけど。
「で、なんか用事があって来たんじゃないの?」
「あ、わかる?」
「だってこの間、もう一人の学級委員の子とお見舞い来たばっかじゃん。
それがわざわざ一人で来るなんて」
さすがに勘がするどい、演劇部のエースと言われてるだけのことはあるな。
「実は、クラスメイト謙バイト仲間として、折り入って石川さんに頼みがある」
僕は床に膝を着き、深々と頭を下げた。
「なっ、なによー」
「お願いです。一年生の亀井えりりん紹介して」
「ハァ?自分から話しかけに行けばいいでしょ?」
「それができたら苦労しないって…」
あれは、ほとんど一目惚れだった。
彼女とケンカ別れして、何ヶ月もやる気が出ず、だらだら生活していた時。
僕は学校から帰る道の途中、あの子に出会った。
いや、出会ったというか、見かけた。
ダンボールの中にいるウサギとマジになって闘っている(ように見えた)女の子を。
付き合ってた彼女以上に可愛い女なんていないと思ってた。
そうやってずっと引きずってた僕の心を、あの女の子は一瞬にして
考え方を変えさせてくれた。
この世には、まだまだ可愛い女の子はいっぱいいる!!
ヒョンなことから人間、生き方や考え方変わるもんだよね。
それ以来、僕は演劇部のファンになってしまった。



528 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:51:35 0

「石川さんは、えりりんと仲良くないの?」
「別に仲良くないってこたーないけど。あ、そーいや亀井ちゃんはつい最近まで
この病院に入院してたのよ。もう退院しちゃったけど。惜しかったね〜、
バッドタイミング乙」
「別に、入院してたって自分から話かけにいく度胸なんかないし」
「そんなんだから皆に『健太ッキーフライド<チキン>』って言われんのよ」
じゃあ…じゃあ僕ぁどーすりゃいいんだよ!!
えりりんと友達になりてーよ。

「石川さーん、検診の時間でーす」

病室に白衣のナースが入ってきた。
「ささ、わかったら帰りなさい。バイト先の人達によろしく言っといてよね」
「ちぇ…明日もくるからな」
「はいはい明日ね。グッチャー」

バタン…




529 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:53:26 0

「はああああああああああああああああ…」
病室を出て、俺は大きなため息をついた。
あー…えりりんと友達になりてーなぁ。
最初は遠くから見てるだけで幸せだったんだが…やはり人間とは
よく深い生き物なんだなと痛感する。
それにしても、メルアドくらい教えてくれてもいいんじゃないの?
「石川のケチンボ」
クソして寝ててくれ。
あ、そういえば、俺のクラスで入院してるのは石川さんだけじゃなかったな。
山Pだ、山Pも入院してたっけ、そういえば。
どれどれ…そこまで親しいわけでもないけど、ちょっくら顔だけでも出して行くか。
アイツ、外科病棟に入院してるハズだから、この階で間違いないよな。
看護婦に聞くのもマンドクセだし、自分で探そうっと。
「ええっと…山下…山下…ん?」
彼の名前を探していると、反対側の角から見たことのある女子高生が現れた。
金色の髪にド派手な制服。そしてこのオーラ。
こ、この女は話で聞いたことがあるぞ。
確か、同じファンクラブのヤツが言っていた…演劇部には以前すごいヤツがいたって。
名前は…そう、後藤真希。
すげえ、噂通りの外見だ。同じ学校なのに、あまり見かけることがなかったが…
なんつーか、ギャルだな。
後藤真希が角を曲がってすぐの病室をノックし、中に入っていく。
「あんな人が、誰のお見舞いしてんだろう…」
気になってしまった僕は、好奇心に背中を押されてその病室の前に行ってみることにした。



530 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:54:34 0

『527号室  山下智久 成宮寛貴』

や、山Pと成宮の病室じゃんか!!
何々?なんでまたこいつらの病室に…お見舞い?
友達なのかな?
うーん…気になる。
かと言って、病室に入るのも気が引けるし…。
「…よし」
よせばいいのに、僕は病室のドアにそっと耳を近づけた。
盗聴ってやつだ。
これ、やばいよな…でも面白そう!
僕は好奇心に負けた。

「ゴマキ…ごめんなさい」
「別に。なんで謝るの?」
「ろくな計画立てないままにヤツらに手を出して、このザマだからさ…
しかも関係ないコイツまで巻き込んで」
「…成宮くんのケガ、やばいの?」
「ケガの方はよくはなったみたいだ。今もこうして呑気に昼寝しているぐらいだし」

うーん…。
なんだか話のスジが読めないな。
ヤツらに手を出したってなんだ?
僕は五感を聴覚に集中させる。



531 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:55:46 0

「でも拙者が不甲斐ないばっかりに、コイツにこんな思いをさせたのは事実だ」
「…山P、教えて。一体誰にやられたの?」
「えぇっと…すまぬ、<亀>と<ホクロ>なんだけど…わかる?」
「<亀>…亀井か。<ホクロ>はよっすぃ〜…じゃないな。あの人が亀井と
一緒にいるわけないか。そうすると…道重かな?」
「そう、それだ。亀井と道重」
「ふ〜ん…わかったぽ」
「わかったぽって…ゴマキ、どうするつもりだ?」
「聞くまでもないと思うけど」
「…ヤるの?」
「そう」
「い、いくらゴマキでもそれは厳しいよ!あいつら…かなり抜け目ないというか…
『とてつもない何か』を持ってるんだ…一人では危ないと思われ」
「山P。ごとーだって、その『とてつもない何か』ってもんに関しては
負ける気しないから。そうだなぁ、次来る時はお土産に手の指を20本
持ってきてあげるぽ」
「猟奇的だなぁ。ところでゴマキ…」

お、おいおい…。
こいつら…一体どういう会話してんだ?



532 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/28(金) 02:56:45 0

「ったくあの台マジで腹立つぜ。チクショー」
「アケミ、テメーはこないだ大勝ちしたんだからいいだろーがよ」
「ふん、まぁいいや。はえーとこ裕ちゃんのためにモモむいてやろーっと」
「オメーは昨日もむいてただろうが!今日はアタシだかんなッ!!」
や、やべッ誰か来る!
僕はすぐさま立ち上がると、急いでその場を離れた。

やつらに手を出してこのザマ?
誰にやられた?
えりりんにさゆみんの名前は出てるし…
しかも…ヤるってなんだ?
指20本持ってくる…?

なんだ…胸騒ぎがする。
あの後藤真希…なんかおかしいぞ。
なんだかすごく、嫌な予感がしてきた…。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


576 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 02:19:14 0

次の日、僕は学校へ来るなり演劇部のファンクラブ仲間に質問した。
「なぁなぁ、後藤真希ってどんな人なの?」
「なに?お前、ごっちんに興味湧いてきたのか?」
質問を質問で返さないで欲しいものだ。
「いや、そういうんじゃなくてさ。なんで演劇部やめたのかなーって」
「ああ〜、俺もよく知んないけど、自主的にやめたとか、やめさせられたとか…
わりぃ、よく知らないわ俺。それよりな、昨日ドゥ・マゴでこんこん見かけてよー…」

自主的にやめたか、やめさせられた…か。
そりゃどっちかに決まってると思うんだけど。

自主的にやめたとしたら、なんでやめちゃったんだろう。
やめさせられたとしたら、何をしでかしたんだろう。
いずれにせよ、何かミステリアスな女だなぁ。
それに、昨日の山Pとの会話も奇妙だし。
「…ってなとこ見ちゃってさ、いやマジあの子がなんか食ってる姿見てると
こっちまで幸せになってくるわ。癒し系マンセー!!っておい、聞いてる?」
山Pは、えりりんとさゆみんに何をされたんだ?
僕は、山Pがスタンド使いだってことを知ってる。
と、なると…やっぱり演劇部って、石川さんだけじゃなく他のメンバーも僕と同じ…
「おい、聞いてんのか?」
「…え、ああ。こんこんになら食われてもいいって話ね」
「ちげーよ…」



577 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 02:20:56 0

ファンクラブの仲間からの情報は大して役に立つものではなかった。
参考程度にはなったかもしれないが、ほとんどの話に推測が混じっていて、
正直、あてにできない。
かといって、後藤真希本人に聞くわきゃいかないし…。
こうなりゃ、誰か後藤と親しいヤツに聞いてみるしかねえかな。

でも、なんだろうな。
僕は一体、何に首を突っ込もうとしてるんだろう。
…考えても仕方ないか。
今は、自分がしたいようにやろう。

仲間の話だと、後藤は演劇部のミキティや、彼女のクラスメイトの松浦さんと
よくつるんでいるらしい。
さて、どっちに聞こうか。
ファンクラブの一人としては、やはり…ミキサマと会話してみたいところだ!!
せっかくだしな!うん!!有名人と会話しようッ!!
で、藤本推しのヤツに自慢するのも悪くないw
彼女らのクラスの前まで行くと、いい感じにミキティが一人でふらふら教室に
戻ろうとしていた。
ハンカチで手を拭いてるとこからして、便所にでも行ってたんだろう。
チャンスだ!
僕は制服の内ポケットから生徒手帳を取り出し、ペンを握った。
気分はほとんど探偵だ。
「あの、藤本美貴さんですよね?」
「え?ああ、そうだけど」
顔小せぇー!!
でも、やっぱ近くで見ると可愛いな。
ちょっと目つき怖いけど。



578 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 02:25:37 0
「あの、聞きたいことあるんですけど」
「つーか、あんた誰?」
「あ、僕『東俣野健太』っていいます。度胸がないから、友達にはよく
『健太ッキーフライド<チキン>』ってバカにされてます、ハイ」
僕は軽く自己紹介すると、頭を下げた。
でも、こうして知らない人に話しかけに行ける僕は、ホントに度胸なしなんだろうか?
「ケンタッキーねwあたしもあそこ好きだよ、でも値段たけェからな。
あたしにとっちゃご馳走かもしんねーなっ」
ミキティの『肉好き』って噂はマジみたいだな。
「で、聞きたいことって何?」
「あ、ハイ。あの、後藤真希さんと仲いいですよね?」
「うん」
「どんな人なんですか?」
我ながら、わけのわからん質問をしたなと思う。
でも、どんな人かわかれば、昨日山Pと話してたことの意味がわかるかもしれない。
ホント、嫌な予感するんだ…妙な胸騒ぎが…。
「どんな人って聞かれてもな。とりあえずクールと言えばクールだけど、
ボケてるっちゃボケてるンだよね。美貴もよくわかんねーや」
よくわかんねーのかよ、友達なのに。
「まぁ、理屈で友達やってるわけじゃないし。つーか何でそんなこと聞くの?」
「えッ!?」
やべ、なんて答えりゃいいんだ?
バカ正直に「実は昨日、後藤さんの話を盗み聞きしたのですが、気になることが
少々…」なんて言えばいいのか?
いや、言えるわけがない。
盗み聞きって時点で言えるわけがない。
それを言ってもし、僕がファンクラブの一員だってことがバレたら…
ファンクラブの立場がまたやばくなる。
ただでさえ、おかしい目で見られたりするってのに…orz
「ねぇ、美貴の話聞いてる?」
うぅっ、答えられない…なんで質問を返されるって予想が出来なかったんだ?
僕は先が読めなかった自分自身を呪った。


579 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 02:28:14 0
「あ、わかった!」
突然、ミキティが笑顔になる。
なにがわかったんだ?
「あんた…えぇっと東二股くんだっけ?」
「東俣野です」
「どっちでもいいよ。きみアレでしょ?真希ちゃんのこと好きなんだろ?」
「ハァ?なんでそう…」
「なんだそういうことか。いや〜でもビックリだよ、きみみたいにマジメそうな人が
真希ちゃんみたいなギャル系に惚れるなんてよー」
は、話が飛躍してねーか!?
やばいやばい、なんか勘違いしてるぞこの人。
「まぁ、アレだな。男ならコソコソとあたしなんかに聞いてないで、正面から
ぶつかってけってんだ」
「いや、あのそういうつもりじゃなくて…」
「んだよ、男らしくねーな。だから『健太ッキーフライド<チキン>』って言われんだよ」
うぅ…知り合ったばっかの人にその名を使われた…。
しかも演劇部のメンバーに…情けない、お恥ずかしいorz
「ちょっと待ってな、今呼んでやるよ」
ミキティは教室の扉を開けると「真希ちゃーん!!!」と、大きな声で後藤を呼んだ。
ば、バカな…なんちゅーことをやってるっちゅーのッ!!!
「んぁ」
昨日盗み聞きした時の冷めた声とはまるで違う、生温いとぼけた声が聞こえた。
「真希ちゃんとよー、話がしたいってヤツが来てんぜー」
「うおッ、あ、あ、あのッ!僕これで失礼します!!!」
僕は生徒手帳を急いでしまうと、ミキティを放置し、駆け足でその場を離れる。
パタッ…
「あ、おい待てコレ…」
盗み聞きをしたっていう後ろめたさもあるし、まともに話なんかできるか!
そもそも別に後藤とは話すことなんかないっての!!
ここはやっぱり、石川さんに聞いたほうが早いかな…。
教えてくれっかな…あの人。


585 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 04:58:55 0

ぶどうヶ丘総合病院 

放課後、僕は後藤真希について調べるため、今日も石川さんの元に
<お見舞い>という名目で訪れたのだが…
いやはや、また面白いことになってきた。
なんたって、後藤もまた、山Pのお見舞いに来ているようだからね。
病院の手前辺りで、後藤が僕の前を歩いていることに気付いたのさー。
僕は、そんな彼女を追い越さないよう、距離をとってゆっくり歩き…尾行した。
これ、ストーカー行為に入るのかな?
そして辿り着いた場所が、ぶどうヶ丘総合病院ってわけだ。
僕は今、昨日と同じように山P達が入院している527号室の前で、聞き耳を立てている。

「ちーッス。元気?あれ、成宮くんは?」
「アイツなら、さっき平山さんがお見舞い来たんで二人で中庭行ったよ」
「ふ〜ん」
「なぁゴマキ、拙者らも…」
「亀井と道重、明日ヤることにするよ。んぁ、今なんか言いかけてなかった?」
「い、いやなんも…え?明日?」
「うん,、その報告に来たぽ」
「いきなりじゃないか…なんでまた明日なんだ?」
「明日…そう、木曜は基本的に演劇部は全員参加の日だからね。ミキティは
毎回バッくれてるみたいだけど」

予想通り、またあの不可解な話だ…。
話のスジからして、『ヤる』ってのは『ぶっ飛ばす』という解釈ができるな。
ところで、演劇部って、木曜全員参加なんだ…いいこと聞いちゃった。
それにしても、こうやって聞き耳立ててる姿は誰にも見られたくない。
絶対誤解されるな…なんだか変にドキドキしてきた。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッド…


586 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 05:01:34 0

「全員参加…?まさか全員相手にするつもりなの?」
「んぁ、んなわけないじゃーん。亀井と道重だけだよ。いや…あと最近
入部したっていう…えぇっとなんだっけ…そう、『久住小春』も含めて3人か。
よく3人でつるんでるらしいからね」
「つるんでるらしいからねって、それでも3人同時じゃないか。平気なの?」
「大丈夫、20秒ありゃ余裕だよ。あえて言うなら久住小春がネックかな…ミキティに
話は聞いたんだけど、こいつの能力がかなり厄介そう。まぁ、負けないけどねー…
そろそろ、ごとーは本気でいくよ。演劇部は…あってはいけない部活だぽ」
「…でも、そんな都合よく3人だけでいるかね」
「そこんとこも平気。あいつら、いつも…」

ガヤガヤ…

やばいッ!人が来た!!!
僕は急いで耳を扉から離し、平然を装って歩き始める。
あああッ…話の途中だってのによぉぉぉぉッ!!!!!!!
でも、今のでわかったことがあるぞ。
後藤は…たぶん演劇部を潰す気なんだ!
そして、まず始めにえりりんとさゆみん、さらに最近入ったくすみんにまで
手をかける気だ…ッ!!
こ、これはヤバイ事を聞いてしまったぞ…止めなくちゃ…そうだッ!
石川さんにこの事を伝えるんだ!
「石川さんッ!!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!!!!!!
僕はノックもせずに、石川さんがいる533号室に飛び込んだ。



587 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 05:04:06 0

「うわああああッ!!!?ビッたぁッッッ!!!!!!!!」

「ひッ!?」
同じ病室に入院していたらしい三好絵梨香が叫ぶ。
一番左端のベッドにいた岡田唯はビクッとした声を出して、ジッと三好を見ていた。
そーいやこの二人も入院してたのか、昨日はいなかったようだけど…。
この二人も演劇部なんだよなぁ、うへへ…って違う違う。
「お前ッ!ここはレディの病室だぞゴルァ!!いきなり入ってくんじゃねーッ!!
唯やんが怯えてンじゃねーかスカタン!!!」
いや、絶対キミの第一声にビックリしたんだと思うんだけど。
「あの、石川さんは?」
「知るか」
ダメだ…三好絵梨香って噂どおり、興奮すると凶暴な性格になるみたいだな。
顔は好みなんだけどな…でも今はこれじゃ話にならん。
そうだな、相手を変えよう。
「すいません、岡田さん。あの友達になって…じゃなかった。石川さんはどこに?」
「え、い、いま外出許可もらって外出ちゃいましたけど」
なッ…マジかよ…。
昨日、明日また来るって言ったのに…。
すっぽかし行為だこれは!ドタキャンよりタチが悪いぞッ!!

コンコン…

誰かが病室のドアをノックしたようだ。
石川さんが帰ってきた?
「ドア…開けるけどいいよね?」
「ふん、好きにすれば」



588 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 05:05:53 0

ガチャッ…

「あ、あんたは…ッ!」
僕は、そこに立っていた人物を見て驚愕した。
金色の髪。ド派手な制服。そして、このオーラ…
こ、コイツは…
後藤真希…ッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

なんで彼女がここに…!!?
「ご…後藤〜〜ッ!?テメェーッ!!何しにきやがったッ!!!?」
叫んだのは、俺の後ろのベッドで横になっていた三好絵梨香だ。
「み〜よ、落ち着いて!!」
興奮した三好を岡田さんがなだめる。
「んぁ。別にあんたらに用はないから。ごとーが用あるのは…」
後藤が僕を上目遣いで見る。
え…何?
「キミ、東俣野健太くんだよね?」
「そ、そうですけど…」
なんなんだ…一体僕になんの用が…
まさか、盗み聞きしてるのバレたんだろうか?
だとしたら…ヤバイ!!

「ほい」

後藤が小さな手帳を渡してきた。
これは…
あれ?僕の…生徒手帳?



589 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/29(土) 05:08:05 0

「これ…」
「うちのクラスの前に落としてったでしょ?ミキティが拾って、ごとーが届けてくれって
いうからさ。いや〜でもすごい偶然だぽ。さっきこの病室に入るとこ見かけたんだ」
「そ、そうなんだ…」
よかった、盗み聞きはバレてないらしいな。
「じゃ、ごとーはこれで。早いとこ出てかないと…そいつ燃え出しちゃうだろうから」
「み〜よ!おちけつ!!もちつけ!!!」
岡田さん、必死でなだめてるみたいだな。
なんだか後藤と三好、仲悪いみたいだ。
彼女達、何かイザコザでもあったんだろうか?

バタン…

後藤が病室を出ると、しばらくして三好は落ち着きを取り戻し始めた。
そんなことより…あれが後藤真希か。
初めて会話したけど…なんつーか…イイな。
あんな女が、本当にえりりん達をヤるっていうのか…?
「岡田さん」
「え、はい?」
「明日、バイト前にまた来るって…石川さんに言っておいてもらえます?」
岡田さんにそう伝えると、僕はそそくさと病室を出た。
ボーッとしてはいられない。
もっと、もっと情報を集めるんだ!!

後藤真希の情報を。


627 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 00:47:38 0

後藤真希は、中学一年生の時に演劇部に入部したらしい。
彼女は、なんというか…ダントツだったそうだ。
他にも優れている人材はいたらしいのだが(その中にぶどうヶ丘高校の
マドンナ・倖田來未がいたってのには驚いた)、後藤はブッちぎりのセンスと
才能で審査を通ってしまったために、彼女以外の入部志願者は落選してしまったらしい。
後藤の他に誰か入れても、その脇役にしかならない…というのが、
顧問の先生の判断だそうだ。
ところが、そんな彼女は高校一年生の時、突然演劇部を退部してしまう。
その理由は定かではない…。

ど、どうだッ!!
一日でこんだけ調べたぜッ!?
今日はすげえ歩き回った…いろんなクラスのヤツに後藤真希のこと聞きまわったからね。
ブッちぎりの才能とセンスか…あんなギャルみたいな外見なのに、
歌やダンス、演技は得意らしい。
まぁ、人は見かけによらないっていうけど、ホントなんだな。
あとは、後藤が演劇部を退部した理由がつかめれば…これは今日、
石川さんに聞きに行けばいいだろう。
昨日はいなかったけど、今日は確実に待っててくれてると思う。
岡田さんに伝言頼んでおいたしね。
それに、口ではあんなだけど、石川さんってけっこう優しいんだ
でも、病院へ行く前に…。
「わるい、僕、帰りのHRふけるわ」
「なんで?ビビりの健太がめずらしいな」
「ちょっと用事があるからさー」
僕はカバンを持つと、そそくさと教室をあとにする。
そして、向かうは後藤のクラスだ。
昨日盗み聞きした話の通りならば、後藤は今日、えりりんやさゆみんに『何か』する。
何をするのかはわからない。
でも何かするってわかってるのに、それを放っておくことは、ファンクラブの
一人として僕にはできなかった。


628 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 00:49:01 0

僕は階段の影に隠れて、後藤のクラスを見つめていた。
帰りのHR中ってこともあり、辺りに生徒は誰もいない、僕一人だ。
シーンとしてるな…
たまに、どこかのクラスから笑い声が聞こえてきたりした。

…僕は何をしているんだろう。
昨日もそんなこと考えたような気がするけど。
いや…これでいいんだ!
どうせ僕には将来の夢も、やりたいこともあるわけじゃない。
それなら、今は…僕が選んだ今を生きるッ!ただそれだけでいいじゃないか!!

やがて後藤のクラスの扉が開き、中から生徒が溢れ出てくる。
他のクラスも同様にだ。
辺りは、途端に賑やかになった。
僕は視覚を総動員して、後藤の姿を探す。
目立つ髪の色をしていたおかげで、彼女を見つけ出すことは容易であった。
どうやら、ミキティと一緒にいるみたいだ。

「じゃ、あたしはこれで」
「んぁ…なに?もしかして部活出るの?珍しい…」
「まさかw亀井の目が完治したからさ、今日は同期の連中でも呼んで
全快祝いでもすっかなーと思って」
「みんなでサボるわけだ」
「そーいうこと。まぁ、んなこと言いつつまだ誰も誘いに行ってないんだけどな」
「ミキティ、金あんの?」
「うん、亀井いるし」
「へぇ。ねぇねぇ、たまにはごとーとも遊んでよ」
「いつでも遊べるじゃん、じゃまたな」
「じゃあね〜」



629 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 00:50:22 0

今、聞こえた(というか聞き耳たてた)会話からするとミキティはこれから
同期の連中とお祝いするそうだ。
ミキティの同期。それは『えりりん』『さゆみん』『れいにゃ』の3人の事に違いない。
と、言う事は…えりりんとさゆみんは部活に出ないことになる。
後藤のヤツ、今日なんかするつもりだったみたいだけど…
諦めて帰るのかな?
ミキティと別れた後藤は、校舎の中をうろつき始めた。
…あの人、どうするつもりだろう?
僕は、彼女にバレないよう後をつけてみることにした。
尾行というヤツだ。決してストーカー行為ではない。
後藤は一階まで降りると、下駄箱の方へ向かうのかと思いきや、上履きのまま
外に出ていった。
ど、どこへ行くつもりだ?
後藤は校舎の裏に回る。さすがにこの辺りに来ると生徒はいない。
僕は後藤にバレない様、木の陰を転々として隠れながら、抜き足差し足で彼女を追った。
こんなとこに来て、一体何をするんだろうか。
ん…待てよ。校舎の裏?
校舎の裏をずっと行くとあるのは…旧校舎だ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



630 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 00:51:37 0

木造の、いかにも時代を感じさせる校舎だ。
入り口には『立入禁止』の看板が立てられている。
まったく使われていないから、いつか取り壊されるんだろうけど…
後藤はここに何しに来たんだ?
もしかして…えりりんやさゆみんを呼び出したのか?
ミキティは『まだ誰も誘ってない』と言っていた。
後藤が先にえりりん達を呼びだしていても、不思議ではないぞ。

…妙な胸騒ぎがしてきた。
直感だけど…何かすごくヤバイッ!!

後藤は『立入禁止』の看板に目もくれず、旧校舎の中に入っていく。
薄気味悪いけど…僕もそのあとを追った。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…

後藤は旧校舎に入ると、廊下をすぐ左に曲がったようだ。
チラッと今、後ろ姿が見えたから確かだ。

何をするつもりかは知らないけど…演劇部を傷つけるつもりなら、僕は許さない。
僕は演劇部の人とは石川さん以外大した関わりがないけど…
でもッ!これだけは言えるッ!!!
彼女らがいたから、僕は苦い恋の経験から立ち直れたんだッ!!
演劇部のメンバーが、僕の考え方を変えさせてくれたんだッ!!
僕の…僕たちの好きな<演劇部>を傷つけさせてなるもんか…。
彼女たちは…みんなのために常に笑顔でなければいけないんだッ!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!



631 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 00:53:12 0

後藤真希…キミが何を今考えているのか、僕にはわからないけど…
キミのしようとしている『何か』は阻止させてもらうぞッ!!
僕は、後藤と同じように廊下をすぐ左に曲がった。
「え…?」
そ、そんな…バカな…。
予想していなかった事態に、僕はうろたえる。

後藤が…消えた。

ここを曲がったら、しばらくは曲がり角も教室もない一直線だ。
いきなりいなくなるなんて…ありえるわけがないんだ。
瞬間移動でもしない限り。
「ど、どこにいったんだ…」
辺りをキョロキョロ見渡すが、人が隠れている気配もない。
まさか…僕は幽霊でも見たのか…?

「ハイエナのように尾行するヤツがいると思ったら…」

僕は背後から聞こえた生温い声に、声も出ないほど驚く。
お、女の声…まさか…ッ!!

「逆尾行してみれば…」

恐る恐る振り返ると、そこに佇んでいるのは…

「これはこれは、東俣野健太くんじゃない」

「ご…後藤真希ッ!!!!!」
ば、バカなッ!?いつの間に後ろに回ったっていうんだよ!!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


636 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 03:51:08 0

この女…昨日病院で会った時はここまで近くでマジマジと見てなかったから
わからなかったけど…案外『さみしそうな顔をしている』と思った。
だが、この表情の裏側では一体何を考えているのか…何を企んでいるのか…
僕には検討もつかない。
彼女は冷えた瞳で僕を見つめていた。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…

「最近、このぶどうヶ丘高の近くに『スポーツジム』がオープンしたそうだけど…」
後藤は髪をイジりながら、語り始めた。
「マジで『会員』になろっかなーって考えたよ。歩き回っただけなのに疲れちゃった。
だいぶ『体力』落ちちゃったみたいだし…でも、あーいうとこの『会員』って
どうなんだろうね?ごとーとしてはプールで『バタフライ』の練習したいんだけど、
バタ足したらやっぱ怒られるのかな?」
何故、あとをつけてきたのか。そう言ったことを聞いてくるのかと思いきや、
後藤が口にしたのは、単なる世間話であった。
それでも、僕にはただ黙ることしかできない。
単なる世間話…それが今の、この状況では逆に不気味だ。
「そうそう『バタフライ』と言えば三年生の倖田來未ちゃん。最近またごとーのこと
追っかけてるって話なんだ。と、なるとこの『体力』のなさじゃやばいね。ところで…」
後藤は僕にズイッと詰め寄ってくる。
香水のいい香りがしたが、この状況で男としての脳が刺激されることはない。
「この頃、ごとーのこと嗅ぎまわってるヤツがいるみたいの。『どんなヤツ』だとか、
『なんで演劇部をやめたのか』とか…ま、噂だけど」
ギクリッ!!
それって、僕のことじゃないのか…?
「東俣野くん、なにか知らない?」
この人、わかってて訊いてるんだろうか…どちらにせよ、質問には答えておこう。
「…さぁ、わからないよ」
僕は嘘をついた。



637 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 03:53:51 0

すると、後藤は僕に顔を近づけてきた。
さすがに、これはドキッとしてしまう。
元演劇部だけあって、可愛い顔してるな。
「世の中にはね…顔の皮膚に出る『汗』の感じとかで嘘か本当か見分けられる人が
いるんだって…汗の味を見ればもっと確実にわかるらしいよ…」
後藤が吐息混じりの声で僕に囁いてくる。
な、なに考えてんだコイツ…まるで誘惑してきているかのようだ。
汗の感じで嘘か本当か見分けるだって?
まさか後藤には、僕が嘘ついてるかどうかわかるってことなのか?
だ、だとしたらやばいぞッ。
「ずいぶん…汗をかいてるぽ」
しまったッ!!
自分でも気付かぬうちに、嫌な汗をかいていた!!
嘘がバレたら…僕はどうなるんだ。
そんなことを考えていたら、汗がどんどん滲み出てきた。
「どれどれ」
ベロンッ。
「ひッ!!!?」
僕は思わず、小さな悲鳴をあげる。
ご、後藤が僕の頬を舐めたんだ!!
女の子に顔を舐められたら…普通なら興奮するのかも知れないけど…
コイツは異常だぞ!!なに考えてんだかわからないッ!!!
しかも、今ので嘘がバレてしまったんだろうか…ッ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



638 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 03:55:58 0

「んあぁぁぁぁ…しょっぱい」
「…は?」
後藤が顔をしかめ、口を制服の袖で拭い始めた。
…なんだ?
「やっぱ汗なんかで嘘か本当か見分けるなんて難しいよね。
うん、ごとーにはわかんないや」
は、ハッタリ…だったのか?
なんだよ…ビックリさせやがって。
でも…なんだか今ので変に落ち着いてきたぞ。
よし、意を決して後藤に直接、それでいて遠まわしに訊いてみるとしよう。
「後藤…さんは、こんなところで何をしてるの?」
訊いちゃった…。
どんな返事が返ってくるんだろうか?
適当なこと言って誤魔化してくるんだろうか?
なんにせよ、彼女がここで何かしようとしてるのは確かなんだ。
それも、演劇部絡みのハズだ。
止められるかも…この僕が、彼女の陰謀(?)を止められるかも…ッ!!
ところが後藤の返事は、僕の予想を大きく超えていた。
「随分と穏やかな表情になったね。何か…すごく安心したような表情だ」
「…え?」
「呼吸もゆったりしていて…キミの周りの『風』はもう乱れてないぽ」
「風…だって?何が…言いたいの?」
まさかコイツ…話を戻してるのか?
後藤が僕から離れる。
そして、静かにこう言った。

「罠に…かかったね」



639 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 03:58:28 0

ドヒュウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!

「うわああッ!?」
その時、一陣の風が吹いた。
僕は思わず腕で顔を覆い、目をつむる。
こんな…こんな乾いた風を感じるのは初めてだ。
僕は、ゆっくりと閉じていた瞼を開くと…そこには…
槍を持った、紫色の悪魔のようなスタンドを発現させた後藤真希が立っていた。

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

「東俣野健太くん。キミが病院で盗み聞きしてたのも、ごとーのこと嗅ぎまわってた
のも、全部知ってるぽ。だから、こうやって誘いこんであげたってわけなんだ」
「えッ?」
ど、どういうことだ…もしかして…

バレていた?

おいおい、僕のこれまでの努力は一体なんだったんだよ。
しかも、後藤はスタンド使いだったのか…予想してたとはいえ、やはりビックリだ。
「その顔。キミには、ごとーの『ゴシップ・セクシーGUY』が見えてるね?」
「う…ぐ…見えてたらなんだってんだよ。この際だから訊くけど、あんた、
えりりんやさゆみんに何するつもりなんだ?返答によっちゃ、僕はこのまま
引き下がることはできないよ」
「引き下げるつもりはないよ。キミは聞いちゃいけない話聞いてしまった
スタンド使いだ。だから…」
後藤のスタンド『ゴシップ・セクシーGUY』が、持っている槍を僕に向けて言った。

「口封じしなきゃならないぽ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


644 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 05:39:07 0

そうか、そういうことだったのか。
後藤がこの旧校舎に足を運んだのは…僕を人気のないここまで
誘い込むためだったんだ。
そして、ゆっくり始末するためなんだ。
なんて抜け目ないヤツ…とぼけていそうな顔しておきながら、彼女は
僕があとをつけているのを知っていたんだ。
『ずば抜けたセンス、才能』
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
「…『ラッキー・ストライク』ッ!!!!」
ドギュンッ!!!!
その言葉をかき消すように、僕は自分のスタンドを声を出して露にする。
能力はバイト中にしょっちゅう使うけど、スタンドの全身像を人前に
さらけ出すことは滅多にない。
僕自身、スタンドの全身像を目の当たりにするのは久し振りだった。
「んぁ、随分丸っこいスタンドだね。近距離パワー型…かな?」
後藤が一歩、身を退いた。
僕はスタンドで誰かと闘ったことなんてまるでないし、これで誰かを傷つけたこともない。
でも、僕のスタンドの能力は十分戦闘に向いているハズだ!!
僕のスタンドは素手だから、槍を装備した後藤のスタンド相手に接近戦は不利。
かといって、近づかなきゃ攻撃はできない。
ならば…スタンドではなく、本体そのものを狙う!!
そのために必要なもの、それは…ッ!!!

ダダッ!!!!

僕は走り出した!!
廊下に使ってない机やイスが、粗大ゴミのように山積みになっていたはずだッ!!!
あれを、あれを使うん…



645 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 05:41:28 0

カチリ

「…え?」
な、なんだ…?今、足元から何かスイッチの入るような音が…。
「気付いてないと思うけど、ごとーはすでに攻撃を完了しているぽ」
後藤がボソリと呟いた。
攻撃を完了しただって?
「何を言って…」
再び駆け出そうとした、その時である。

ヒュン…ビュルオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!!

僕の足元から、物凄く勢いのいい、小さな竜巻が生まれた!!
「ゴシップ・シード(噂の種)ッ!!!ついさっき、そこに『風』を設置しておいたんだな。
風はごとーの意思で吹かせることができる!!ごとーのゴシップ・セクシーGUYは
『風』を自由に操ることが出来る能力ッ!!!!!!!」
「う、うおあああああああああああああああッ!!!!!!!!」

バキィッ!!!!!!!!!

僕は後藤が仕掛けた風で天井に打ち上げられ、強く背中を打ち、そしてまた床に落下した。
「う、うぐぇ…」
い、いてえッ!!
落下した時、ヒジを強く打ってしまったみたいだ…ッ!!
だけど…僕は転んでもただじゃ起きないぞ…。
落ちてきたところが、机やイスがいっぱいある廊下でよかった。
「随分意味のわからないことすんだね。近距離型のくせに、ごとーから
距離をとろうとするなんて…」
「距離…?距離ねぇ…後藤さん、天井、よく見てごらんよ」



646 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 05:43:33 0

「んぁ?」
僕に言われるままに、後藤は天井を見上げた・
「……?」
どうやら、天井の異変に気付いてないようだ。
素人にはわかんないかな…しょうがない、教えてやるとしよう。
「いかれた蛍光灯が一本、なくなってるだろ?」
「…あ」
「どこにいったと思う?」
「知らない。そんな事、なんか関係あんの?」
「悪いけど、僕は<手品師(マジシャン)>だよ?こうしてる今も、僕は
次のマジックのための準備をしてる」
後藤は呆けた顔をしている。
ここまで言っても、よくわかってないらしい。
「わかんないなら教えてやるよッ!ほらッ!!!」
僕は密かに握っていたビー玉ほどの大きさの球体を、スタンド『ラッキー・ストライク』に
つかませ、後藤に向かって投げた。
そして

パチンッ!!

と、指を鳴らしてやると…

ポンッ!!!!

後藤に向かって投げた球体は、蛍光灯に変わった。
「な…蛍光灯ッ!!!?」
「種も仕掛けもございません」



647 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/30(日) 05:45:21 0

蛍光灯は、後藤目掛けて飛んでゆく。
「ちッ…オォォォォォォォォルナイッロォォォォォォンンングッッッ!!!!!!」
彼女がスタンドの槍で蛍光灯を砕いて防御した。
シャキン…バシャンッ!!
砕けた蛍光灯は、辺りに白い粉を飛び散らせた。
「うわッ!!」
よしっ予想通りッ!後藤が一瞬うろたえたぞッ!!
目潰し成功だ!!そして、第二の攻撃も終えているッ!!

パチンパチンッ!!

ポポンッ!!

さらに投げていた二つの球体は、後藤の目の前で二つの机に変わる。
「んぁッ!!?」

ドガシャアアアアアアアアッ!!!

ヒット!!
二つの机を、後藤の身体に勢いよく直撃させてやったぞッ!!
「どうだッ!これが、僕の『ラッキー・ストライク』の能力さッ!!」
物質を小さく丸められる能力!!!そして自由に元の大きさに戻せるんだ!!
僕、手品師だからね。
これでも『マジックレストラン』でアルバイトしてんだッ!!
「ん〜…トレビア〜ン」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

そしてこの隙を逃すものか!!
僕は振り返って走り出すと、すぐさま近くの教室に身を隠した。


698 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:45:14 0

ずっと使ってないだけあって、めちゃくちゃホコリくさいな…。
さっき後藤は「口封じしなきゃならないぽ」と言っていた。
だとすれば、彼女は必ず僕を追ってここにくるだろう。
秘密を知った僕を逃がすことは出来ない…その点に関して、後藤は必死のはずだ。
だが、この教室に入ることの出来た僕は、かなり有利な位置に立ったぞ。
罠にかかったね…だって?
どっちが罠にかかったんだろうなッ!?
後藤なのか、僕なのかッ!!
「ラッキー・ストライクッ!!!!!!」
グニャッグニョッグニッ!!!!
そこら中に散らばっているイスや机を、僕は次々と丸め込み、指の間に挟んだ。
「おっ…こいつは…」
こりゃいい…トドメの一撃用に使うかッ!!
さぁ…来い後藤!!
その教室の扉を開けたときがお前が寝んねする時だッ!!!
そして、じっくり聞かせてもらおうじゃないか…一体あんたが何を企んでるのかをなッ!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

来る…すぐ来るぞ…。

ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ…



699 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:46:36 0

ガラッ…

教室の扉が開く。チラリと金色の髪が見えた。
来たッ!!!!
「カマータイムッ!!!!」
僕はあらかじめ丸めておいたイスを三つ、扉に向かって弾き飛ばす!!

パチンパチンパチンッ!!!!!!!
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!

三つのイスは元の姿に戻り、後藤に迫った!!
だが…僕だってバカじゃない。
あのイスがガードされるのは予想済みさッ。
あれはフェイクなんだッ!ガードして出来た隙をついて、一撃必殺用のコイツを
ぶつけて気を失ってもらうッ!!

後藤真希、敗れたりッ!!!!!!

ところが、後藤が取った行動は僕の予想を大きく上回っていたんだ。
普通なら、スタンドの持ってる槍で切りつけるなりガードするなりするはずだ。
目の前から、イスが飛んで迫ってきているのだから。
ところが…後藤は…

ガシャッバキッガゴォーン!!!!!!!!

無防備のまま、イスの直撃を受けた。



700 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:48:34 0

「な…なんでッ!!!?」
しかもスタンドも出していないぞコイツ…ッ!
彼女は何も喋らない。
いや喋らないどころか…何事もなかったかのような顔をしているッ!!
だが、後藤の額からは、血が流れて頬を伝っているぞ。
なのに…まるで痛みを感じていないようなこの涼しい顔は…!!!
予想外の出来事に驚いた僕は、一撃必殺用のコイツを使うのを忘れてしまった。
「後藤…ッ!お前一体…」
「なんで避けなかったのかって言いたそうな顔をしているね…実際、めちゃめちゃ
痛かったよ今の。叫びたくなるくらい。それでもあえて今の攻撃をまともに
受けたのは、油断していたごとー自身を戒めるため…そして教訓とするためッ!!」
ドヒュウウン!!!!
後藤の背後に、紫色のスタンドが再び現れた。
「でも…それももうおしまいだぽッ!!」
ジリッと、彼女が教室の中に足を踏み入れてきた。
「な、なんだコイツはッ!!うわああああああああああああああああああッ!!!!」
恐ろしいッ!!
背筋がビリビリと嫌な風で冷やされているみたいだッ!!!!
長期戦はまずい!!
直感でそう思った僕は、彼女に向かって丸めて球体にした机を一個、彼女に投げつけた。

パチンッ!!

それは後藤の目前で机に姿を戻す。
「BANGッ!!」

シャキンッ!!

だが、当然のように彼女は槍で机を両断した。
僕は後藤に向かって走りだした。
さっき狙ってたアレをここで使ってやるッ!!


701 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:50:25 0

「はるかな昔…『風』を自由自在にあやつる戦士が地球上に存在していたらしいぽ…
まぁ、もう滅んじまったらしいけどね」
風を自由自在にあやつる戦士…?
何を言っているんだ、風をあやつれるのはお前だろうッ!!
「食らえッカマカマタイムッ!!!!!!!」
僕は後藤に飛び掛る。
とっておきのコイツをぶつけてやるんだッ!

ボォンッ!!

オルガンさッ!!しかもかなり古いタイプのやつだッ!!
「潰れろッ!潰れるんだああッ!!!!」
このクソ重たいオルガンを直接後藤の頭にぃィィッ!!!!!!
その時、後藤が奇妙な体制を取っているのに気付いた。
スタンドは槍を腰にしまい、両手を前方に突き出している。

僕は迂闊だった。
もう勝負はついていたんだ。
彼女に飛び掛った時点で、運命は決まっていたんだ。
後藤は、ボソリと呟いた。

「風の流法<神砂嵐>」

ギャロンッ!ギャロンッッ!!ドゴアアアアッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

後藤のスタンドの左腕が関節ごと右回転。
右腕をヒジの関節ごと左回転。
その二つの拳の間に生じた真空状態の圧倒的破壊空間に呑まれ、
オルガンは粉微塵にひしゃげ、散った。
一緒に巻き込まれた僕は、まるでボロ雑巾のようになりながら、後方へ吹き飛び
窓ガラスを突き破って、外に吹っ飛んでしまった。


702 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:53:35 0
残る力を振り絞って、僕は自分のスタンド『ラッキー・ストライク』の能力で
さっき丸めておいたイスや机を元に戻しバリケードを作る。
両足はズタズタで血が吹き出ているし、指も何本かすっ飛んでしまった。
だが、僕は至って冷静だった。
もう助からない…そう思っているからだろうか。

再び、僕は何をしてるんだろうと考える。
どうして、こんなとこにいるんだろうな…今日、バイトなのに…
このケガじゃ、行けそうもないや。
指がなきゃ、オーダーとりに行けないもんな。
ふじい店長…ごめんなさい。
石川さんにも会いに行く約束があったっていうのに…
石川さん…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

行かなくちゃ。
石川さんのところに行かなくちゃ。
そして、このことを伝えるんだ…後藤真希がえりりん達を…
演劇部を狙っているって!!!
僕しか知らないんだ…僕がやらなきゃ…

やる人がいないんだッ!!!!
な、なんとかしてこの場をやり過ごして…ぶどうヶ丘総合病院へ行くん…

「杜王町の少年少女の行方不明者の数…知ってる?」

「なッ…!!!!」
頭上から、声が聞こえた。もちろん、後藤の声だ。
後藤が…僕の隠れているバリケードの上に…立っていたあああああああああああッ!!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


703 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:55:50 0

「知らないならごとーが教えたげるぽ。誰も気にとめてないようだけど…
全国平均の8倍って数らしいよ」

ブヒョオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!

突風が吹いた。
僕を包んでいた机やイスは、すべて風に吹き飛ばされてしまった。
「う…あ…ッ!!」
日の光に照らされた僕の身体は、絞られた雑巾のようになっていた。
地面は僕の血を吸いきれず、血の池地獄を作っている。

「理由はわからない。殺人鬼でもいるのかな?でもね、ごとーにはわかる。
確実にスタンド使いが絡んでる…って」

石川さんのところへ行くんだ…伝えるんだ…

「ごとーのお姉ちゃんも帰ってこなくなっちゃった」

僕が突き止めたんだ…僕しか知らないんだ…

「これ以上、寺田にスタンド使いを増やさせるわけには行かない…もし、
狡猾で頭のキレる悪党に…強力なスタンドが身についてしまったら…
この町は一体、誰が守るっていうの?」

守るんだ…演劇部を…



704 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:56:58 0

ヒュー…ヒュー…

「…ごめんね。もう虫の息だね。でも、誰であろーと…ごとーの邪魔を
する者は…許さない」

石川さんを…

「今ラクにしてあげるぽ…DRYに抱きしめて…」

……

「ゴシップ・ハリケェェェェェェンンンッ!!!!!」

ビヒョオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!

僕の他に…誰か飛ばされてる?
いや、違うか…一緒に飛んでるのは…僕の千切れた腕や足だ…
あ…細切れになってら…
伝えに…行けるかな…?
こんな姿じゃ…驚くだろうなあ…

イシカワサン…

ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!

「頑張ったあなたに…さよなら」




705 :1 ◆I7CTouCqyo :2005/10/31(月) 01:58:02 0

ぶどうヶ丘総合病院 533号室

「いーなぁ、二人とももうすぐ退院かぁ。あたしも早く退院したいなぁ」
「石川さん、外出ばかりしてるからですよ。留年しちゃいますよ?」
「なによー、わかってるわよー」
チラッ
「石川さん、さっきから時計ばっか気にしてますね」
「うん、もうすぐ友達が会いにくるはずなんだけど…」
「ああ、昨日の変なヤツですか…」
ビュオォォォォォ…
「…唯やん、唯やん!勉強中に悪いんだけどさ」
「み〜よ、なに?」
「ちょっと窓閉めてくんない?なんだか…無性に腹の立つ風を感じたから」


東俣野健太 死亡
スタンド名 ラッキー・ストライク

TO BE CONTINUED…