634 :1:2005/10/11(火) 02:39:07

銀色の永遠 〜スポイル・クロウ〜


三日前に二人組のスタンド使いに襲われて、さゆは大怪我しちゃったの。
背中にナイフを二本刺されたし、左腕も自ら犠牲にしたとはいえ
一本グサリとやられちゃって、七針も縫ったの。
いや…縫われてる時はマジで…死ぬかと思ったの。超ッ!泣き叫んだの。
今年の初めに行われた健康診断で、注射されて大泣きした事を思い出したの。
そういえばあの時は、同じクラスの男の子にバカにされたっけなぁ。
マジ、ムカつくの。
男の子ってカスが多いの。お兄ちゃんもキモいし。
いつになったら、さゆの元に王子様は来てくれるんだろう?



635 :1:2005/10/11(火) 02:41:05

ぶどうヶ丘総合病院 523号室

最初は入院って聞いたとき、ホームシックにかかりそうでイヤだったけど、
さゆの永遠の相方ってみんなに言われてる<親友>の絵里も同じ病室で
入院することになったから、全然さびしくないの。
絵里とも付き合い長いな〜。最初に知り合ったのは確かお姉ちゃんと
絵里のお父さんがお食事する時で…。
それももう二年くらい前の話なんだぁ〜…年月が経つのって早いの。
絵里は、朝食を食べたら隣のベッドでまた眠ってしまった。
右目には包帯が巻かれているけど、もう少し経てば包帯が取れるらしい。
もう昼の十一時なの、早く起きろなの。
でも、たまにはこういう静かな時間もいいかも知れないな。
絵里って、話してる時たまに変なことしてくるから。
まあ悪い気はしないけど、この子は彼氏出来たらベッタベタに
なついちゃうタイプなんだろうなーって感じがした。
今日も四時くらいに小春ちゃんがお見舞い来るだろうし、
今のうちに一人の時間を楽しんでみることにするの。

コンコン

さっそく邪魔されたの。



636 :1:2005/10/11(火) 02:43:19

「どーぞ」
扉を開けて入ってきたのは…ああ、なんて久々に見るんだろう。

「ちゃんちゃかちゃーん!どーもーッ!!チャーミー石川です!!!」

石川さんは、ギブスをしていない左手で独特な動きをしてみせた。
「石川さん、ここは病院なの。静かにしろなの」
「なによー」
石川さんは、この階の上の533号室に入院している。
それにしても入院して何日経ったんだろうな、この人。
まあ、本気の藤本さんにボコボコにされたわけだし…恐ろしいの。
「右手の<指>の調子どうですか?」
「ああ、これなら超超超いい感じ。もうすぐギブスとれるっぽいんだ」
「へえぇ〜よかったじゃないですか」
「ホントねー。早いとこ退院しないとアルバイトも出来ないからね。
あたし、バイト先のレストランで『カルボナーラ石川』って呼ばれてて…って
そんな話はどうでもよかったわね」
どうでもよすぎて、あんまり真剣に聞いてなかったの。
ところで石川さん、何しに来たんだろう?
顔でも見せに来たのかな。



637 :1:2005/10/11(火) 02:44:39

「あの、ぶしつけな質問なんですけど、何しに来たんですか?」
「ホント可愛くない質問するのね〜」
「私は今日も可愛いですよ」
「ハイハイ…で、単刀直入に言わせてもらうとね。鳥を捕りにいくの」

シーン…

…え?
今のって、もしかしてギャグ?
「さ、寒いのッ!!!!!」
「うるさいわねー!!これは入院してて、わりと元気なあたしとさゆに寺田先生から
与えられた指令なんだよ。それを伝えに来たんだからね」
「指令…ですか?」
なんだか最近、随分と私のところにも仕事が転がってくるようになったみたいだ。
うん、これは頑張らないといけないの。
「先生から聞いたんだけど、事の経緯はこうらしいよ。この間、寺田先生が帰り道で…」
石川さんは、ベッドの隣に置かれているイスに腰掛け、話し始めた。

661 :1:2005/10/11(火) 23:48:14

「…と、いうわけよ」
「へぇ〜…」

石川さんの話を簡潔に説明すると、小春ちゃんがぶどうヶ丘中学に
転入手続きをしに行った日、偶然出会った寺田先生は彼女の中にある
<ミラクル>なオーラを感じ取り、小春ちゃんを演劇部に勧誘したそうだ。
だが、あっさり断られてしまい、それでも彼女をどうしても演劇部に入れたいと
思った寺田先生は、手荒い方法ではあるが彼女の背後から
私たちを『スタンド使い』に変えた矢を放ったらしい。
ところが奇妙なことに、矢は小春ちゃんの首を貫かずに弾かれてしまったそうだ。
なぜ、矢が彼女に刺さらなかったか。
それは今問題ではないの(気になるけど)。
問題はここからなの。
標的を見失った矢は、なんとその上空で空を散歩していた<カラス>を貫いて
しまったらしいのだ。
カラスはバリバリ血を吹いたが、墜落して地面に激突する寸前で、
羽ばたき空に舞っていったらしい。

これが意味すること、わかる?
石川さんは言った。
「たぶん、そのカラスはスタンド使いになったのよ」
私の家にも、絵里が誕生日にくれたスタンド使いであるウサギのレミーちゃん(♂)が
いるけど…動物のスタンド使いって、いまいちピンとこないの。



662 :1:2005/10/11(火) 23:50:05

「でも、そのカラスさんはどこへ行っちゃったんですか?」
私が訊くと、石川さんは待ってましたとばかりに答えた。
「それなの!あたし達のお仕事はッ!!」
「え?」
どれなの?
「指令を伝えるわよ。『スタンド使いになったカラスを<生きたまま>捕獲しろ』…ッ!!」
え…えええええええええええええええええええええええッ!!
どうやって!?
む、虫取り網でも平気かな?ドキドキ
「ホントだったら亀井ちゃんも連れて行きたかったンだけどね〜。この子の
『サイレント・エリーゼ』って周りの音消せるし。でも、相手はどんなスタンド使いか
わからない。右目を失ってるに等しい彼女にはちょっと危険すぎるじゃない?」
「で、でも、そしたらなんで私が行くことになったんですか?」
私のスタンド『シャボン・イール』の基本的な能力は、主に爆撃。
そりゃ多少、威力は調整できるけど、相手はカラスとはいえ鳥さんなの。
焼き鳥にしちゃう可能性大なの。
石川さんは言った。
「最後の手段ってやつよ」
「最後の手段?」
「そうよ。万が一の時、一撃で殺すための…ね」
…これはもしかしたら、厄介な仕事かもしれないの。
「お昼ご飯食べたら早速行くからね。外出許可、ちゃんともらっとくんだよ」
自慢の指が使えない右手で石川さんは手を振ると、病室から出て行った。




663 :1:2005/10/11(火) 23:53:04

今、私と石川さんは清掃員みたいなカッコをしている。
「あの、訊いてもいいですか?石川さん」
「なぁに、さゆみん?」
「なんでゴミ拾いしてるんですか?私たち」
病院を出て、さゆ達が初めにとった行動は、なんとゴミ拾いだったの。
鳥カゴと網は持ってる。
でも、ゴミ袋も持ってる。
「すごく、くさいんですけど。このゴミの詰まった袋」
マジ、私には相応しくない仕事なの。
ゴミ拾いと今回の指令、一体なんの関係があるんだか…ふざけんななの。
「ブツクサ言わないの。どうもね、地球が微熱らしい…正義を掲げなきゃ」
あっちぃ地球を冷ますんだ!とでも言いたいのかな。
でもこんな活動が、いったい何の意味が…指令の方はどうする気なんだろう。
あーあ、やってらんねーの。
私は適当にゴミを拾っては、一つのゴミ袋に突っ込んでいた。
「ちょっとちょっと。燃えるゴミとアルミ缶を一緒にしないでよ」
「どーせ、もうアルミ缶は十円と換えられない時代なの。こんなもん捨てるの。ポイ」
「だから燃えるゴミと一緒にすんなっつってんの!」
うぅ…いちいちウルサイ人なの。
私はホッペを膨らまして石川さんを睨んだ。
「なによー、その顔は」
「さゆは演劇部の活動のために来たの。ゴミ拾いするために来たんじゃないの」

こんなことしてるだけなら、もう帰るの。



664 :1:2005/10/11(火) 23:55:20

そう言おうとしたところで、石川さんは一息吸うと、私の肩に手を置いた。
「意味もなく、こんなことしてるわけないでしょー?」
「へ?」
そうなの?
じゃあ一体なんの意味が?
「わからないって顔してるね…じゃあ教えるよ。これはね、カラスを
一箇所に集めるための作業なのよ」
「一箇所に?」
「そ。ほら、あそこのゴミ捨て場を見てごらん。一つだけ、ゴミ袋があるでしょ?
あれは決められた時間に出さなかった生ゴミみたいね…うん、やっぱり。
カラスは生ゴミに集まるのよ。それくらいはわかるでしょ?」
ああ、そうかもしれないの。
学校行く時、たまに生ゴミ突付いて道路を散らかしてるカラスを見かけることがあるの。
「まずはこの生ゴミ…拾ったヤツも含めて一箇所にまとめるのよ」
「それじゃあ…よいしょっと」
私は持っていたゴミの詰まった袋をゴミ捨て場に置いた。
「ちょっちょ!さゆみん待ちなさい。まとめるのはここじゃあないのよ」
「え、そうなんですか?」
「うん、ここはカラスにとって都合のよくない場所だからね」
「どうしてわかるんですか?」
「止まる木や電線がないからよ。人が多かったり、落ち着けないところには
カラスって集まらないからね。まあ燃えないゴミはここに捨ててッちゃおっか」
へぇ〜、なんやかんやでさすがは年上のお姉さん。
石川さんは燃えないゴミのつまった袋を捨てると、ポケットから大きな霧吹きを
取り出して、シュッシュッとそれを撒いた。
「なんですかそれ?」
「クレゾール石鹸液…まあ石鹸水みたいなもんよ。これでここにはカラスが寄って
来ないわよ。さ、どんどん行こうか」
うーん、なんかチマチマしてて、さゆには向いてない仕事に思えてきたの。


671 :1:2005/10/12(水) 02:03:39

そうやってゴミ拾いをしながら、指令を真っ当するためにちゃくちゃくと
準備を進めている時、私はゴミ捨て場で生ゴミを食い散らかしている
1匹のカラスを見つけたの。
「い、石川さん!!カラスがいるのッ!!」
私は1匹のカラスを指差し、石川さんに教える。
「つ、捕まえるのッ!!」
捕獲用の網を構える私だったが、石川さんがそれを制した。
「待ちなさい、まだあのカラスが『そう』と決まったわけじゃないのよ。
とりあえず様子を見てよーよ」
カラスっていうのは度胸があるの。
私たちが5メートルくらいの距離にいるのに、悠々ときったない生ゴミを
漁って、もはや食べ物とは言えない物を嘴で突付いている。
「あのカラスが『そう』だとしたら、ちょっと困るわね…」
石川さんが小声で言う。
「どうしてですか?いきなり遭遇なんて、グレートじゃないですか」
「それじゃ、あたしの完璧かつ巧妙な作戦の準備がすべて意味の
ないものになるじゃない…」
そっちの心配かよ。
私はそんな石川さんをほっといて、目の前にいるカラスの行動をじっと観察した。

カツッ…カツカツッ…

見た感じ、あまりもう口に出来るものはなさそうな感じなの。
あ、魚の食べ後まで出てきた。
カラスは、ジッと身のついてない骨だけの魚をジッと見つめる。
そして骨になった魚を一発、カツン!と突付いた。
なんか、惨めなの。骨なんか食べられないだろうに…



672 :1:2005/10/12(水) 02:04:54

ところが、信じられないことが起きた。
「さ、さゆ…ッ!?」
「え、え?」
カラスが魚の一発突付くと、数秒してからその骨がドロッと溶け出したようだ。
そして、それをカラスが頬張る。
…ちょっと展開早すぎて過ぎてよくわかんなかったの。
『カァーッ!』
唐突に聞こえたその鳴き声は、目の前のカラスのものではなかった。
「石川さんッ!電線にもカラスが…ッ!?」
「慌てないで。もうちょっと近づいて見るわよ」
電線につかまっているカラスは、ゴミを突付いているカラスを見下ろしていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

バサッ!!

「うわッ!」
私たちの気配に気付いたのか、ゴミを漁っていたカラスが羽ばたいた。
び、びっくりしたの。
そのカラスは、そのまま電線まで上昇し、もう1匹のカラスの隣につかまった。
嘴には、何か丸っこい汚そうなものが咥えられている。
あれは…さっきまで魚の骨だったはずなの。
『カァーッ』
『クワァーッ』
2匹のカラスはお互いを求めるかのように鳴き始めた。
まるで甘えるような、ねだるような…でもどこかやっぱりダミ声で。



673 :1:2005/10/12(水) 02:07:31

「あれは求愛みたいね」
ポツッと石川さんが呟く。
「求愛…ですか?」
「うん。私、生物の授業でやった事があるから知ってるの」
「ええッ!!高校の理科の授業ってそんなことするんですか!?
みんなの前で!!?」
「な、何か勘違いしてない?やったってのはカラスの求愛についてだかんね!?」
なんだ、ビックリした。
一瞬、高校行くのやめようかと思っちゃったの。
「常識でモノ考えてよねまったく…そうそう、カラスの話だったね。
カラスの求愛ってね、そう、あんな風に彼女のカラスが口を空けて餌をねだってね…」
どっちも同じに見えるけど、女の子らしいカラスは、さっきまで生ゴミを漁っていた
カラスになにやらねだってるようなの。
確かに、石川さんの言った通りみたいなの。
「あ、口移しで食べ物あげたの」
まるで、あの2羽のカラスがキスしたみたいだった。
いいな、いつかさゆも王子様と…ってなんで私、カラスに浪漫感じてるんだろう。
「あれで、契約成立ってわけよ。これ、なんつったかな…そうそう求愛給餌って
いうんだよ」
へー。
2羽のカラスがイチャイチャしている。
いいな〜。カラスもなかなか可愛らしいの。



674 :1:2005/10/12(水) 02:08:12

そういえば、さっき魚の骨を溶かしていたのはなんだったんだろう。
まぁそれは大したことじゃないか。
あ、彼氏側のカラスが彼女のカラスをツンと突付いたの。
『カッ』
彼女カラスの動きが止まる。
…ん、どうしたんだろう?
その時だったの。

『ガアアアッ…ギィィィッ…!!!!!!!!』

それはいきなり起きた。
彼女のカラスは、醜い声の断末魔と共に電線から落ちたの…ッ!

げしゃああああああッ!!!!!!

地面に落下したカラスは、肉片を飛び散らせ…死んだ。
『カァ…』
もう一匹のカラスは電線からそれを眺め、嬉しそうに鳴いたのだった。

702 :1:2005/10/13(木) 02:55:50

なにが…一体何が起きたって言うのッ!?
不安になった私は無意識のうちに石川さんの服の裾を掴んでいた。
「おかしい…この高さから落ちて…こんなグシャグシャになるわけない」
石川さんが、グシャグシャにとろけたカラスの死体に近づく。
『ガアアアアアアアアアッ!!』
「ひっ!!?」
いきなり鳴くななのッ!!
カラスは咆哮をあげ、電線から地面に急降下した。
そして、死体の前に折り立つと、カラスは石川さんをジッと睨む。
まるで「俺の獲物だ邪魔するな」とでも言うように。
「な、なによーッ!?」
そんな石川さんを無視して、カラスは腐ったカラスの死体を嘴で突付き始めた。

カッカツッ…パクパク

こ、こいつ…食っている!!
今し方、自分に求愛してきたメスのカラスを食ってるのッ!!
「お、おえッ…」
気持ち悪い…吐きそうなの。
カラスは死んだメスのカラスの目玉を嘴でつまみ口の中に入れると、
舌で転がしているようだった。
それを見て、石川さんも動揺を隠せないようだ。
「部室に置いてある資料に書いてあったわ…十年以上前、エジプトに
氷を操る鳥のスタンド使いがいたって。こいつも間違いないわ…
カラスのスタンド使いよ…ッ!」
カラスのスタンド使い…。
どんな能力を持ってるかは知らないけれど、一つわかってることがある。
それは、私たち人間と会話ができないということ。
意思を伝え合うことはできないの。
…攻撃されるかもしれない。



703 :1:2005/10/13(木) 02:57:04

カラスは尚も、グシャグシャになって死んだカラスを捕食し続けていた。
「自分の空腹を満たすためなら彼女だろうと殺して食う…てめーさえよけりゃ
いいなんて…これは野放しにはしておけないわね」
石川さんは捕獲用の網を構え、叫んだ。
「『ザ☆ピース』ッ!!」
ドギャン!!
金色で、ヒラヒラがついた乙女チックな石川さんのスタンドが発現する。
ちょっと…お姉ちゃんのスタンドに似てるの。
だがスタンドの右手は、自慢の金色の光を放つことなく、茶色くよどんでいた。
「捕まえるわよ…さゆみんッ!鳥かご開けて用意しといてちょーだい!!」
「は、はいなのッ!」
石川さんはスタンド『ザ☆ピース』に網を持たせると、スタンドをゆっくり
カラスに近づけていく。
そうだった、そういえば石川さんのスタンド『ザ☆ピース』は遠隔操作型だったの。
足音を立てることなく、石川さんは食事をしているカラスに忍び寄っていった。
『!?』
カラスが何かの気配に気付き、こちらを向いたの。
ザ☆ピースを見つめている…?
スタンドが見えてないとしたら宙に浮いてる網を?
でも、やっぱりスタンド使いなんだろうか。このカラスは。
「大人しくしてなさいよ…お縄につかせてやるんだから」
石川さんが小声で呟いたその時だ。

バサッ!!

カラスが羽ばたいて…
「こっちにくるの!!!」
「うおあッ!!ザ☆ピースッ!!!!!」
ザ☆ピースが飛んで迫り来るカラスに、網の入り口を向けた。



704 :1:2005/10/13(木) 02:59:07

ところが…。
「なにッ!?コイツ、自ら網に飛び込んでくるッ!!?」
『キュイイイイイイッ!!!!!!』

バスッ!!ジュボッ!!!

「うわあああああああッ!!網がッ!!!」
べちゃ。
なんと、カラスは網に飛び込むそのままのスピードで網を突き破ったの!!!
そして、そのまま私のほうに突っ込んできた!!
その時、確かに見えたの。
カラスの嘴から羽の先にまとわれている、このカラスのスタンドを。

ガッシャアアアアアン!!

「きゃあッなの!!!」
持っていた鳥かごに突っ込んできたの!!
ぶ、ぶっ壊れてる…なんて突進力なの!!?
カラスはバサッと羽を広げ、近くの塀に止まった。
「な、なんてヤツ…なの」



705 :1:2005/10/13(木) 02:59:49

『アホー』

カラスが私を見て、一声鳴いた。
「なんか…今の無性に腹がたったの。ん…?」
ふと、壊れて地面に落ちた鳥かごを見ると、突然ドロっと溶けたの。
いや違う…溶けたんじゃない。
これは…腐っている!?
石川さんが持っていた捕獲用の網も、網の部分から腐っているようなの。
そうだ、コイツ最初に見たとき、魚の骨を突付いて溶かさなかったか!?
メスのカラスも突付いて数秒した後に苦しみ叫び悶えて地面に落ちたの!
腐らせる…こいつは口にとりついているスタンドで突付いたものを、
数秒おいて腐らせる能力ッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


706 :1:2005/10/13(木) 03:00:46

「そうやってエサを捕ってる…恐ろしいヤツなの…ッ。性根も腐ってるの。
『スポイル・クロウ(腐ったカラス)』とでも呼ぶべきか…ねぇ、石川さん」
「…」
石川さんが何も答えないの。
下を向いたまま、何かブツブツ言っているようなの。
「石川さん?」
「クソが…」
え?
何を言っているのかよくわからないの。
でも、なんかすごい怒ってる気がする…怖いの。
石川さんが顔を上げた。
「あッ!!」
か、顔に…顔に…ッ!!

「ウンコついてるの!!」

カラスのウンコが石川さんの頬を汚してるの!!
き…きったねええええええええええのッ!!!!!!!!
「カラスのたれたクソが…あたしの顔に…?」
お、怒ってる怒ってる。



707 :1:2005/10/13(木) 03:02:02

「なんであたしの顔に…?なんであたしが…こんな目に遭わなきゃいけないのよ…」
クスン…と、石川さんが半べそをかき始める。
そんな石川さんを見て、カラスがまた鳴いた。

『アホー』

「あああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!?」
「い、石川さんッ!?」
今の一鳴きは、石川さんの堪忍袋の尾を切るのには十分だったようなの。
「ザ☆!!!!!!ピイィィィィィィィィィィィッッッッス!!!!」
石川さんが叫ぶと、ザ☆ピースの胴体がカラスに向かって急激な速さで伸びた!!
その左手は、キラキラと瞬いている。
「この屈辱…死んで償いなさい!!!」
石川さんがキレてるの!!
こんな時にアレだけど、なんで演劇部の先輩達ってキレると目の前が見えなくなる
人達ばっかなんだろう。
「直接私の<チャーミング・フィンガー>を叩き込んでやるわッ!!!」
鋭く尖った左手を構えたザ☆ピースがカラスに迫る。
だが、ヤツは動かないのッ!!
「おおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!目ン玉かたっぽくり抜いてッ!!!二度と
あたしがクソをたれねーようにケツの穴に突っ込んでやるわッ!!!!!!」
ザ☆ピースが左手の<指>を振り下ろす!!
『カッ!!』

バキュイイイイイイッン!!!!!




708 :1:2005/10/13(木) 03:03:23

カラスは一瞬のうちに身をひるがえし、低空飛行で滑空した。
そして、石川さんに…いや、胴体を伸ばして無防備になった石川さんの
ザ☆ピースに迫る。
「早く!!元に戻して防御するのッ!!!」
「わかってるけど…ぬっ…抜けないわ!!指が!!!」
ザ☆ピースの鋭い指が、さっきまでカラスが腰を下ろしていた場所に突き刺さって
抜けなくなってしまったらしいの。
でもカラスはもうそこまで来てるの!!
「だああああああああああああッもう!!!!!」
ビュリュンッ!!
私は石川さんの前に出ると、スタンド『シャボン・イール』を発現させた。
さゆがこのカラスを打ち落とすしかないのッ!!
「焼き鳥にしてやるの!!シャボン玉あああああああああああッ!!!!!!」

ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!!!!!

高圧力でスタンドが吹き出した爆弾シャボン!!
木をへし折るくらいの威力はあるのッ!!

ヒュンッヒュンッ…

「な、なにィーッ!!!!!?」
く、空中で旋廻…ッ!!!?
全部避けやがったの!!!!!!!



709 :1:2005/10/13(木) 03:04:27

『カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!』
カラスが咆哮する。
「うわああああああああッ!!!」

ガシィッ!!!

コ、コイツ…ッ!私の左腕に捕まってとまったの!!で、でかい…
『カァ〜』
カラスが鳴いた。
喉に開いた小さな丸い穴から。
そして、カラスは大きく仰け反り…

グサッ!!!!!!

「ぎゃあああああああああああああああッ!!!!!」
私の左肩に、深々と嘴を刺した。
スタンドをまとった嘴で。

716 :1:2005/10/13(木) 05:11:48

「あああああああああああああッ!!!!!」
とてつもない痛みに、私は絶叫する。
私を見るカラスの目は、何にも恐れをなしてない、異様なオーラに包まれている。
まるで、黒いビー玉の様なの…ッ。

グチュグチュッ!!

「ぎゃああああッ!!痛い…痛いのッ!!!!!」
な、なんて残忍なヤツ!!
この糞カラス、刺したまま傷口をほじくりやがってるの!!!
痛みで目の前がチカチカするの。
『ギッギッギッ…』
こ、こいつ…あたしも腐らせるつもりなんじゃ…ッ!?
「もうやめてッ!!!!!!!」

ブシュンッ!

私はシャボン・イールの口をカラスに向け、シャボン玉を発射したの。
突然の私の攻撃に、カラスは反応しきれない。
『ゴゲッ!?』

ボゴオォッ!!

爆発。
黒い羽がたくさん抜け、空に舞った。



717 :1:2005/10/13(木) 05:13:39

『ガッガッ…』
でも威力を弱くしたから、致命傷には陥ってないか…
ホントだったら思いっきり爆破してやりたかったけど、コイツが私にくっついているため、
高い威力にしたら私まで巻き込まれてしまうの。
だけど、こいつにとっては相当な痛手になったはず…ッ!
『ゲッ…』
これはまずい、と判断したのか、カラスは私の左腕から飛び立つ。

バサッ!

「うっ…」
怪我してるくせに、蹴り上げるその力も強烈なのッ!!
飛び立った先には石川さんのザ☆ピースの伸びた胴体が…ッ!!!!

ズシャッ!!

カラスは、広げたそのスタンドをまとった羽で、ザ☆ピースの伸びた胴体を切りつけた。
当然、ダメージは本体の石川さんに返ってくる。
しかも話に聞くところ、伸びた部分の強度は通常の状態より格段に
弱くなっているらしいの。

バリッ…ブッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!

「うげえええええええええええええええええッ!!!!!!」
石川さんの脇腹が大きく裂け、血しぶきで地面を赤く染めた。
口からも血を垂らし、石川さんはガクリと膝をついてしまった。



718 :1:2005/10/13(木) 05:16:20

『クケッ!!』
カラスはそのままよろよろと空を飛び、私たちから遠ざかっていく。
に、逃げられる…ッ!!
それに石川さんも心配だ。
だが、そんな私も今、カラスのスタンドに突付かれていたのッ!!
ヤツは突付いたものを数秒おいて腐らせる…このままじゃ、さゆは
刺された左肩の傷口から腐っちまうの!
どうする…ッ?
えええええええええい!!!迷ってる暇はないのッ!!!!!!!!
私はスタンドの口を、嘴で刺された傷の辺りに当てた。
「シャボン玉ッ!!」

ボムッ!!!!!!!!!

左肩の傷口を、威力と圧力を調節した<シャボン玉>で吹っ飛ばす!!
傷口ごと、私の左肩の肉片の一部が吹っ飛んだ。
「ぅあああああああああああああッ!!!!!!」
その痛みもまた、尋常じゃない。
飛んだ私の肉片は、地面に落ちる前にドロッ溶けて腐った。
「石川さん…ッ。大丈夫ですか…?」
「ハァハァ…ゆ、<指>は抜けたけど…お腹が…ッ!さゆはッ!?」
「だ、大丈夫なの。でも危なかった…あと少し躊躇してたら、さゆの身体まで
腐っていたの…あ、イタッ…。それよりカラスを…ッ!」
「わかってる、今ザ☆ピースを這わせて追ってるわ。ヤツは怪我をしている…
そんな遠くまでいけないハズよ…ッ!!」
石川さんは「GJ!!」と言って、左手の親指を立てた。



719 :1:2005/10/13(木) 05:17:25

『カアアアアアッ…カアアアアアアアアッ…』

遠くの空から、カラスの鳴き声が聞こえた。
「あの糞カラス、駄菓子屋へ入ってったわ」
駄菓子屋へ…どういうことだろう?
まさか駄菓子屋のおばちゃんが、あのカラスを飼っているとか…?
「な、これは…そんな…ッ!!!」
石川さんが一人でうろたえ始めた。
「どうしたんですかッ!?」
「カラスが…8…9…いやッ10羽は軽く超えているわッ!!そいつら全羽、
駄菓子屋へ入って行くみたいよッ!!!」
そんな数のカラスが駄菓子屋へ…?
い、嫌な予感がするの…ッ!!!
「くそ…これ以上は射程距離が限界でいけない!」
「石川さんッ!!」
「わかってるッ!行くわよさゆみんッ!!!」
血の流れる脇腹を押さえ、石川さんは立ち上がった。



720 :1:2005/10/13(木) 05:18:14

この駄菓子屋は知ってるの。
三日前に、敵スタンド使いの本体を探すためにシャボン玉をくすねた店だ。
その駄菓子屋の中で、私たちは信じられない光景を見たの。
『カアアッ』
『ギッグギッ!!』
『クワアアッ』
たくさんのカラスが何かに群がっているのッ!!
恐る恐る近づいて見ると、それは…

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「あ…あ…」
腐ってドロドロにとろけている人間だった。
「お、おばちゃん…ッ!?」
咄嗟に出た私の言葉に、その腐りかけた人間は答える。
「カ…ラス…ッ…黒…い…首に…あ…ながッ…!!!」
「おばちゃんしっかりして!!」
「飛んで…い…った…空に…飛んごばべぼがばばばあああ」

ぐしゃああああああああああああああああああああ…

言い終える前に、駄菓子屋のおばちゃんらしき人は腐り、溶けて何も言わなくなった。



721 :1:2005/10/13(木) 05:21:21

「なんて…ことなの…」
ヤツは…あの糞カラスは…無関係の人間まで殺すなんて…ッ!!
たくさんのカラスが、腐ってとろけた人間の死体に群がり始める。
『クワッ!』
『キィィッ!!!』
こ、こいつら…ッ!!!!!
「チャーミング・フィンガーッ!!!!!!!!!!!!!」

ドスドスドスドス…

石川さんのスタンドの指は、その場にいたカラスを全羽、一撃で串刺しにした。
『ギ…』
『ガ…ゲ…』
カラス達の呻き声が駄菓子屋に響き、次々と息絶えていったの。
「この中に…さっきのスタンド使いのカラスはいないわ」
石川さんは静かに言った。
確かに、いま石川さんが皆殺しにしたカラス達には、喉に穴があいたヤツがいない。
「カラスって、やっぱり頭がいいみたいね。仲間をエサで釣って集め、ヤツ自身は
そのどさくさに紛れて逃げたんだわ…」
な、なんてことだ…ッ!!
怪我をしているとはいえ、もう近くにはいないだろう。
獰猛な殺人カラスに…逃げられたっていうの!?
身体中が…ワナワナしてくるのッ!!!
「さゆみん…あたし達、気をつけたほうがいいわ。恐らくだけど…あのカラス、
いつか逆襲しにくるわよ」
カラスは執念深い生き物だから…と、石川さんは言ったの。
「卑怯なのッ!!!出て来るのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!!」

さゆの絶叫は、たくさんのカラスと一人の人間の死体が埋もれた駄菓子屋に
虚しく響き渡ったの…



722 :1:2005/10/13(木) 05:22:21


カラス(名前はオセロ)
スタンド名:スポイル・クロウ

石川梨華 道重さゆみ
指令;カラスを捕まえろ…失敗