264 :1:2005/10/03(月) 18:38:00

銀色の永遠 〜指令;「エースを狙え」(後編)〜

今日はとても濃い一日であった。
その中でも最も色濃い出来事は、やはり『彼ら』が見える人物に出会ったことであろう。
名前は藤本美貴さん、高等部の2年生らしかった。
だが、彼女は演劇部の部員であり、その勧誘行為を受け、それを断った途端、
彼女の態度は豹変し、私に襲い掛かってきた。
そして、私は初めて、『彼ら』を人を傷つけるために使ってしまった。
許して欲しい…私の『ミラクル・ビスケッツ』…。
そして藤本さん、あなたのことを、私は決して忘れないであろう。
だが、誰であろうと私の『ミラクルな大スター』への道を邪魔することは許されない。
私は、『ミラクルな大スター』になる女なのだ!!

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!



265 :1:2005/10/03(月) 18:39:58

私は下校の時ももちろんバスを利用する。
今朝は定期を間違えてバスカードを入れる機械に突っ込んでしまい、
運転手に笑われたが、下校時はそんなこともなく、スムーズにバスに乗車し、
一番後ろの座席の隅に座った。
『ミラクルな大スター』になる私は、一度犯したミスを繰り返すということは決してない。
これが、そんじょそこらの大スターとは違うという事を意味しているのだ。
ああ、なんだかお腹空いてきた。
お家から持ってきた『でんろく豆』でも食べよう。
「パクパク…ボリボリ」
うむ、うまい。

キィ〜ッ!
「あっ」
ポテッ…コロコロ…

私は明鏡止水の心で『でんろく豆』を食べていたのだが、バスが次の停留所で
止まった時、そのブレーキの衝撃で指でつまんでいた『でんろく豆』を一粒、落としてしまった。
まったく、無粋な止まり方をするバスだ。
まあいい、私は尚も『でんろく豆』を食べ続けた。



266 :1:2005/10/03(月) 18:42:24

「これ…キミの?」
バスが発進したところで、今し方乗車してきた女子高生が、私に話をかけてきた。
この制服は、ぶどうヶ丘高校の制服だ。
この人も、藤本さんと同じように制服に装飾品が激しい。
多いのだ、この学校には制服を改造してる輩が。
だが、誰であろうと私のミラクルな装飾品が施された制服の右に出る者はいないだろう。
「キミのみたいだねぇ、このでんろく豆。返す?」
この女、私に落ちたもんを食えとでも言っているのだろうか?
「いえ、いりません」
「そう、じゃあわたしがもらうね」
まあ落ちたもんだし、いいだろう…って、えぇッ!?
そんなもん、もらってどうするつもりなんだ?この女は…。
「もうけもうけ♪」

パクッ…ボリボリ…。

た、食べてしまった。
この女、不特定多数の人間が乗車したバスの床に落とした豆を…。



267 :1:2005/10/03(月) 18:44:39

「豆はいいね、栄養があるからね。最も、豆ってのは人の肉の味がするって言われてるけど…」
その女は、私によくわからない雑学を語り始めた。
「あんた、誰です?」
私は知らない人間とくだらない話をする気はない。
話とは、相手に時間をもらうということだ。過ぎた時間は返って来ないのである。
だから、知らない人間と話をする時は相手のことをわかるつもりで話さなければならない。
「名前を聞かせて下さい」
私が訊くと、その女子高生はこう答えた。

「『藤本美貴』が机に頭をカチ割られて屋上へ繋がる階段でぶっ倒れていたのだ…
意識は戻ったようだが、なかなかの重症だったのだ」

藤本美貴の名前を出すとは…。
なんだか、嫌な予感がする。
「誰が『やった』のか!調べているのだ…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

283 :1:2005/10/04(火) 02:20:58

「実は今、わたし達の部活は人手不足でね。かと言って『別枠』から
助け舟をもらうことはできないのだ…わたしたちの部からメンバーを貸すことは
稀にあるのだが…」
話から察するに、この女も演劇部に違いない。
そんなに私を入部させたいのか?
いったい私の何を見て、こうもしつこく勧誘してくるのだろうか?
ミラクルなオーラでも出ているのだろうか?
とにかく、私の夢に弊害を起こすようなものとは関わり合いたくない。
すっとぼけることにしよう。
「なんの話をしてるんでしょうか?」
「藤本美貴…もっさんを潰すことのできる者はそういたもんじゃないのだ。
結局彼女は目的を果たせずにのびちまったが…彼女は君を勧誘するハズだった」
勧誘なら、来たな。
最後は無茶苦茶だったが。
「藤本美貴という名の女から、勧誘は来なかったかな?」
そう言うと、彼女は私の目を見つめてきた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



284 :1:2005/10/04(火) 02:23:52

だが、私はそんな眼差しに屈服するほど弱い女ではない。
「いいえ、来ていません…『藤本美貴』なんて人も知りません」
私はウソをついた。
「…そうか。その目、嘘は言ってないようだね」
彼女はすんなりと納得する。
意思の弱い女だ。
「ならいいのだ、手間を取らせたね。うちの部、けっこう狙われてるようだから、
たぶんどこかからの『刺客』でも現れたのかも知れない」
プシューッ…
バスが、停留所で停まった。
「それでは、さよならなのだ。また会える事を祈ってるよ…久住小春ちゃん」
そう言って、彼女はバスから降りていった。
…弊害は、除去できたようだな。
バスが発進してから、私は再びでんろく豆の袋に手を入れた。
「……」
…おかしい。
何かがおかしいぞ。
何か奇妙だ。
さっきの女…なぜ私の名前を知っていたんだ?
私は思わず窓から外を見る。
バスはもう走り出しているので、あの女を見つけることは不可能だ。
不可能なはずなのだが…。
「な…なんだ…?窓にひっついてるこれは…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




285 :1:2005/10/04(火) 02:26:50

何か『木の根っこ』のようなものが窓の桟からハミ出しているが…。
私は思わず窓を開け、外の状況を確認してみる。
「…ッ!!?」
信じられない光景だった。
バスから太い木の枝が一本生えていたのだ。
そして、その枝の上に座っている女子高生…。
「やあ、また会えたね。久住小春ちゃん」
「こ…これは…まさか」
スタンド能力というヤツなのではないのか!?
「我が名は新垣里沙…演劇部のメンバーさ。お前のその目、嘘をついてる
目なのだ。もっさんをヤッたのは久住小春、お前だな。ニィ…」
ドギャン!!
新垣里沙…そう名乗った女子高生は茶色い人の形をした『何か』を出した。
これは、昼休みに見た藤本美貴の…なんとか03に似ている。
『スタンド』とか言ったか…確か。
私は思わず彼女のスタンドを見つめてしまっていた。
「人の目というものは決して嘘はつかない…いや、つけないのだ。お前、
わたしの『ラブ・シード』が見えているな?そうとわかればッ!」
新垣のスタンドが彼女の座っている木の枝に触れる。
「ラブ・シード!!!」
彼女が叫ぶと同時に、爆発的な勢いで触れた所から木の枝が生えた。
その枝は、窓からバスの中に進入し、私の身体に絡みつく。
「うわっ!」
そして、そのまま私は窓の外に引きずり出された。
一瞬の出来事だった。
恐らく、バスの乗客は私が窓からダイブするように外へ吐き出されたことに
気がついてはいないだろう。
今、何キロでバスは走っていた…?
その速さによっては、空中へ投げ出された私は無事では済まないぞ…?
思案してる内にも、地面はどんどん迫ってくる。



286 :1:2005/10/04(火) 02:29:20

そして…

ドッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!

私は芝生の上に勢いよく落ちた。
い…痛い…肩を強く打ったみたいだが…大した怪我はないようだ。
こんな状況になっておいてアレだが、やはり、私にはミラクルな運勢が
味方しているようだな。
「その丈夫な身体…確かに演劇部には『向いている』のだ」
いつの間にバスから降りていたのか、新垣里沙は私を見て言う。
走り去ってゆくバスを見ると、バスから生えていた木の枝は消えていた。
「しかし、まだ疑問が消えたわけじゃないのだ。もっさんのスタンドはあまりにも
強く、わたしにはとてもかなわぬスタンド…それを破ったお前は、一体どんな
能力を持っているというのだ?」
「一つだけ、訊きたいことがあります」
質問を質問で返すというのはあまり好きなことではないが、これだけは
ハッキリさせておかねばなるまい。今後の私のために。
「…ん?」
「あなたの目的はなんですか?勧誘?それとも…敵打ちですか?」
すると、彼女はあっはっはと手を叩いて笑った。
「おいおい、もっさんは死んじゃいないんだから、敵打ちはちょっと違うね。
まあ、あえてそう仮定すると…うん、そうだな。その質問の答えは…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「両方なのだ」


322 :1:2005/10/05(水) 00:43:07

勧誘と敵打ちの両方か。
意地でも私を演劇部に入れたいらしいな。
「そうですか…」
私は立ち上がると、『すべての行動を完了』した。
そんな私を、新垣里沙はじっと見つめる。
「お前のその目…なにかあるな?まるでもう、道はすでに切り開いたとでも
言うような目なのだ」
この女、人を見透かす目だけは持っているようだな。
よく…わかってるじゃないか!!!!
「ミラクル・ビスケッツNo.4からNo.7のみんなッ!!!!」
『アイアイッサアアアアアアアッ!!!!!』
『イックワヨオォォォォォォォッ!!!!』
『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
昼休みの時のように一瞬でケリはつけさせてもらうッ!!
「何なのだッ!?上ッ!!?」
新垣は頭上を見上げるが、もう遅い。
私の行動はすでに、完了していたのである。

ズシイィィィィッン!!!

「な、なんなのだ?これは…この不可思議なボックスは!?」
唐突な私の先手に、透明なボックスに閉じ込められた新垣は狼狽しているようだ。
「ご存知、電話ボックスの『外枠』です。あなたを中心に、地面にやや埋まるように
うまく落とさせました…怪我はさせません。恨みを買うのは時間の無駄ですから…
そう、無駄無駄。ですが、わかってももらえないと思うので、そこに拘束させて
いただきました」



323 :1:2005/10/05(水) 00:46:20

そう、さっきの質問は、これを行うための時間稼ぎだったのである。
近くに電話ボックスが見当たらなくて、私としたことがちょっと焦ってしまったが。
「こ、この能力は一体…?」
「それを答えて、私に何か特があるとでも?」
そう言って、私は彼女に背を向け歩き出す。もう終わっただろうからだ。
さて、これで今日もまたミラクルな大スターを目指すことができる。
今日も杜王駅の駅前でギターと歌のハーモニーを奏でなければ。
曲目は、もちろん『ふるさと』である。
「…もっさんの時のように、一撃で決めていればよかったものを」
新垣を閉じ込めた電話ボックスの中から、彼女の曇った声が聞こえる。
「え?」
なんだ?今の言葉が意味するものは…意味のない言葉など存在しない。
私は思わず彼女を振り返る。
「伸びろッ!!!!ラブ・シイィィィィィィィッッッド(愛の種)ッ!!!」

ズリュリュリュリュリュリュウウウウウウウウウウウウウウッ!!!!!!

彼女が地面を拳で叩くと、バスの時と同じように爆発的な勢いで木が伸びる。
ズボッ!!
なッ、電話ボックスの外枠が木の成長の勢いで抜けてしまった!!
「ふうぅぅぅ…ザッとこんなもんなのだ」
電話ボックスの外枠は、彼女の生み出した木の枝にひっかかっている。
パチンッ。
新垣が指をならすと、木は一瞬で枯れ果て、電話ボックスの外枠の重みに耐えられ
なくなった枝は折れて、地面に落下した。

ズシャアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!

新垣里沙…こいつ、意外とやるじゃないか!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


324 :1:2005/10/05(水) 00:50:00

「さて小春ちゃん。ぬしの能力はよくわからないが、それは入部後にわかる
ものだとして…とりあえず今はお縄についてもらうのだ」
すると、新垣のスタンド『ラブ・シード』の構えた両手がキラキラと光り始めた。
なんだ、何が起ころうとしているんだ…?
「見えるかな?この生命の煌きが…大地の息吹がッ!!!食らうのだ!!」
なにかが来るぞ!!きっと何かを放つ気だ!!

「スプラッシュ・ビーンズ(鬼は外)ッ!!!!!!!!!」
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!!!!!!!!!!!!

無数の豆粒がスタンド『ラブ・シード』の指から発射されたッ!!
だが避けられない弾速ではない!
私はこんなこともあろうかと、身をかわすくらいの準備はしていたのだ。
地面に新垣の放った豆が落下すると、何かをからみ取ろうとするように、
うねるツタが一瞬のうちに生えてきた。
なるほど、これで私を拘束するつもりなんだな。
さて、これをどう防ぐか…。
ふと向こう側の先に、少年野球のチームが草野球しているのが見えた。

…よし、あれだ。



325 :1:2005/10/05(水) 00:52:03

No.2にNo.3、君たちはあそこに違法駐車している車を。
『ガッテン!!』
『マカシトイテヨッ』
No.1はあの少年の握ってるバットを頼むよ。
『…承知シタ』
ふふ、No.1は相変わらずクールだ。


「なかなかのいい身のこなしなのだ。そしてその目つき、やはりお前は演劇部に
むいている…。だがわたしのスプラッシュ・ビーンズに弾数の制限はない。
いつまでそうやって、かわしていられるかな?」
言っているがいいさ。
相手が勝ったと思った時、すでにそいつは敗北しているんだぞ。
怪我はさせないつもりだったが、状況が変わった。
ミラクルな私の巧妙な連続技を見よ、新垣里沙!!


「ストライークッ!!バッターアウトッ!!!」
「あれッ?俺っちのバット、どこへ消えちまったんだあ?」

333 :1:2005/10/05(水) 02:01:33

新垣のスタンド『ラブ・シード』の構えた両手がまた光り煌いた。
「生まれよ生命よ…小さくつぶらな芽から…成長するのだッ!!くらえ!!!」
ヤツがまた豆を放つぞ!!
私はそのスキを逃さず、新垣に向かって正面からダッシュして近寄る!!
「なにッ、むかって来るだと!?くそッ…スプラッシュ・ビーンズッ!!」

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…

ふふ、これを待っていたんだ、私は。
「愛して急接近!!出してッ!!!No.4、No.5、No.7!!」
『急ゲミンナ!!』
『ワカッテルワッ!!』
『ウワアアアアアアアッ!!!!』

ドギャンッ!!

私の目の前に、先ほど発見した違法駐車してる車が現れた。




334 :1:2005/10/05(水) 02:03:34

これが私、久住小春の『ミラクル・ビスケッツ』の能力だ。
この能力に気がついたのは…そう、小学校一年生の、一学期の終業式だった。
友達はみんな、前々から最終日に荷物がかさばらないよう、お道具箱の中身を
コツコツと持って帰っていたのだが、ミラクルを目指す私としたことが、うっかり
それを行わなかったのだ。言い訳のセリフならいっぱいあった。
だが、そう思っても、すでに後の祭り。
私は両手からあふれんばかりお道具箱(中味入り)を抱えて、半泣き状態に陥っていた。
そんな時、彼らは言った。
『僕ラニマカセテ!!』
『コハルチャン、今ラクニサセテアゲルカラネ!!』
『…イクヨ』
そして彼らのうちNo.1、No.2、No.3が、私の大きなお道具箱を一瞬で砕いたのだ。
まるで、ビスケットを粉々に割るかのように…。
私は、ビックリして、結局泣いてしまった。
『泣カスナヨ、オ前タチ!』
『モット優シクヤンナキャダメジャン!!』
『コハルチャンゴメンネ。アタシ達ガ、スグ治スカラネ』
『コハルチャンチュキチュキー!!』
そしてNo.4、No.5、No.6、No.7が、まるでパズルのピースを組み合わせるかのように、
一瞬のうちにお道具箱を復元させたのだった。
それ以来、私はお道具箱を運ぶ時は彼らに手伝ってもらっていた。



335 :1:2005/10/05(水) 02:04:46

これが私の『彼ら』の能力…ミラクル・ビスケッツだ!!!
『No.1』から『No.3』のみんなが分解をッ!!
『No.4』から『No.7』のみんなが再形成を行うッ!!
「車だとッ!?一体どこから出したのだ!?」
ビスビスビスッ!!
新垣の放った豆は、空しく車のドアに食い込んだ。
鉄から生える植物などないッ!!!
私は目の前に現れた車に足をかけ、天井に上ろうとしたが足が届かなかったので
ボンネットに足を乗せて叫んだ。
「No.6ッ!!ちょうだいッ!!!」
『コハルタンキャワワ!!!!!!!!!!!!!!ヤッチマイナアアアッ!!!!!!!!!!!!』
バヒュンッ!!
私は右手に再形成されたバッドを握り締める。
少年たち、礼を言う。
「食らいやああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!」
ボンネットから新垣目掛けてジャンプし、私はバッドを振りかぶってぇ…

バキィッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

『打ッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!』
ミラクル・ビスケッツNo.3が、興奮気味に叫んだ。
340 :1:2005/10/05(水) 02:40:53

手ごたえは、あった。
新垣はスタンドの腕でバットを防いだようだが、かなりの勢いで殴ったのだ。
痛くないハズがない。
だが新垣は痛がるどころか…。
「…ニィ」
ピンピンしていた。
「やはりな…久住小春、お前はやはりまだまだ初心者なのだ」
「な…なぜ…ッ!?」
痛くないわけないのに!!
鉄のバットで殴ったんだぞ!?
腕に青タンの一つできてるはずだ!!
なのに、なぜコイツは涼しい顔をしているッ!!!!!?
「スタンドにはルールがあるのだ。スタンドを攻撃するということは…スタンドで
攻撃しなければならないということッ!!物質での攻撃は生身ならともかく、
スタンドには通用しないのだッ!!!」

ガッ…ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!

そ、そんなの聞いていないぞッ!!!?
なんという、じれったいミスショット!!
私は激しくうろたえた。
「その目、同様している目なのだ。そしてお前は、我が『必殺技』の射程距離に入った」
ひ、必殺技だって!?



341 :1:2005/10/05(水) 02:42:22

新垣の顔を見ると、眉毛の辺りがモシャモシャと揺らめいている。
まずいッ離れなくては!!!!
「もう遅い!!食らえ必殺ッ!!まゆげビイィィィィィィムッ!!!!!!!!」

ドリュリュリュリュリュリュリュリュリュウウウウウンッ!!

眉毛のモシャモシャが爆発的に鋭い木の枝に成長した。
こいつッ!自分の眉毛にラブ・シードの種を植え込んだのかッ!?
鋭く伸びた木の枝は私の顔の左右をかすめ…。

ドスッドスッ!!

『ウワギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』
『ア…ア…』
「あぁっ!二人ともッ!!!」
すぐ後ろにいたNo.4とNo.5を貫いた。
その刹那。

ブシュブシュッ!!

私の右腕と右のわき腹から血が吹き出した。
「お…お…これは…」
なにが起こったというんだ…No.4とNo.5がやられた途端、私の身体まで…ッ。



342 :1:2005/10/05(水) 02:46:53

「そして、スタンドへのダメージは本体へ返って来るのだ。お前の場合、
その『ミラクル・ビスケッツ』とやらが全滅した時、お前の命も潰えるという
ことなのだろうが…」
そういって、新垣は私に近づき…

バゴオォォォォッ!!

「おぐ…ッ!!!」
ラブ・シードの腕で私の腹に一撃、パンチを決めた。
威力は人並みだが、それでも苦しいものは苦しい。
私は思わず地面に膝をついた。
「今、お前の身体の中に、我がスタンド『ラブ・シード』の種を植え込んだ…
種はわたしの意志で成長し、身体を突き破る」
なんということだ。
ミラクルな大スターになる私が…命を握られているだとおぉッ!!?
「抵抗すれば、お前の身体の中の『種』を成長させる。これが、わたしの
大好きな『演劇部』にドロを塗った報いなのだ。ニィ…」
バキッ!!
「がふッ」
ドカッ!!
「うげッ」
バコッ!!
「が…ひッ…」
この女、狂っている!!
まともじゃない…異常だ!
コイツの心の中がバリバリ裂けるドス黒いクレバスだッ!!
な、なぶり殺されてしまう…このままじゃ…。
350 :1:2005/10/05(水) 03:29:09

『モウヤメテェェェッ!コハルガ死ンジャウ!ウワーン』
私のミラクル・ビスケッツNo.2が叫んだ。
確かに…このままじゃヤバイ!
一発一発、新垣の素手という事もあってか、威力はでかくない。
だが、このままじゃ私はきっと…痛みのショックで死んでしまう!!
くそ…まさかこんなことをすることになるとは思ってなかったが…
やるしかないッ!!!


351 :1:2005/10/05(水) 03:31:04

『コハル…オ主、何ヲ考エテイル!?』

No.1、やってくれ…頼む。

『ダメヨオォォッ!ソンナ事シタラ…』
『ドウナルノカ…ワカッテイルノカッ!!』

わかっているよ、No.2、No.3。

『No.4とNo.5ハ、モウ動ケナイッ!!危険スギルッ!!俺タチ「二人」ダケデハ…ッ』

No.7、私はあなた達を信じている。

『ミンナ!!コハルガ頼ンデルンダ!!ヤルシカネェッ!!』

No.6…ありがとう。

『アア…マジニ愛シテルゼ、コハル…』




352 :1:2005/10/05(水) 03:34:49

私は新垣を睨みつけた。
「…またその目か。その目、なにか『策がある』という目なのだ…こんな状況で
久住小春、お前は何を考えている…?」
「……」
よぉし…。

覚悟を決める時だ!!!

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!!
いけえぇぇぇぇぇぇッ!!!私の『ミラクル・ビスケッツ』!!!!!!!!!!!!」
私は今まで生きてきた中で、出したことのないような声で叫んだ!!
『コハルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!』
『アッ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!!』
やってくれッ!!No.1、2、3ィィィィィィッ!!!!!
私の身体を…


砕け!!!


ゲシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!ポトポト・・・




353 :1:2005/10/05(水) 03:36:08

「な、なんてヤツなのだ…ッ!自分の身体を…粉々に…?体内にしかけた
『種』がすべて地面に落ちてしまったのだ!!これが久住小春のスタンド…
ヤツは…ヤツはどうなったのだ!!!!!!!!?」

『ウオアアアアアアアアアアアアアッ!!!コハルウウウウウウウウウウウッ!!!』
『急グンダNo.7!!!!コハルヲ…早クコハルヲ再形成スルンダッ!!!!』
『コハルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!』


バリバリバリバリ…ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!



354 :1:2005/10/05(水) 03:40:39


「…お前は…とんでもない奴なのだ…」
「ハァ…ハァ…」
「自分の身体を粉々にし、種を除去…そして一瞬のうちにわたしの射程距離外での
再形成…なぜそんなことができるのだ?なぜやろうと思いつくのだ?脳味噌が
クソにでもなってるというのか?」
新垣が…何か言っているようだけど…
とにかく…よくやってくれた、みんな。
それにNo.6とNo.7…たった二人での私の再形成、見事だった。
やはり『ミラクル・ビスケッツ』は伊達じゃない…だが。
…かなりしんどいな、今。
「まぁ、お前のスタンド能力がなんなのかわかったのだ。そして、もう一度
くらうがいい、我が必殺技を…スプラッシュビーンズッ!!!!」

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…

…今度はアレを食らってしまうのか?
一難去ってまた一難というのは、こういう事を言うんだろう…。
さて、どうしたら…

「シャボン玉ァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!」
バグオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!

その時、私に迫ってきた無数の豆粒が、突如空中ですべて爆破した。
何者かの掛け声と共に。
359 :1:2005/10/05(水) 04:59:26

爆煙がはれると、そこに立っていたのは中等部の生徒であった。
学年はわからない…だが幼さの中に、どこかお姉さんのような空気を感じた。
この人が、今の爆発を起こしたのか…?
一体何者なんだ、彼女は。
「さゆ!!なぜ邪魔をするのだ!!!」
「新垣さん、もう審査は終わったの。それ以上の『暴行』は、まったくもって
意味をなさないの!」
審査…?
なんだそれは?
「審査だって?わたしはそんな話など聞いてないのだ」
「新垣さんは『演劇部』のことになると目の前が見えてなさすぎなの!」
そうか、わかってきたぞ…
この人も演劇部なんだ。どうやら口論をしているようだが…。
「少しは冷静になるの!落ち着くの!!」
「落ち着く…だって?もっさんはコイツにやられたのだ…演劇部の仲間を傷つける
ということ、それは演劇部を冒涜したことに値するのだ。確かに、この小娘を
演劇部に入れる事には賛成だ。スケールの大きい決断力もある、そして、
とてもいい目をしているのだ…だが、誇り高き演劇部にドロを塗った『オトシマエ』は
キッチリつけてもらうのだ!!!!!!!!!!」
「それはあなた一人の『感情』に過ぎないの!感情でモノ言ってんじゃねーのッ!!
だいたい彼女の審査員に選ばれたのは、さゆなの!新垣さんには、それに無条件に
したがってもらうのッ!!」
ドギャン!!
さゆという名の生徒が、スタンドを発現させた。
そのスタンドは、彼女の右腕から胴体、そして腿に絡み付いている。
…ん?
これってまさか…。



360 :1:2005/10/05(水) 05:00:47

「さゆ…わたしとやろうっていうのか?」
「これは寺田先生からさゆに与えられた指令なの。従わない場合、さゆの
独断と偏見で『演劇部を冒涜』したと見なし、あなたを再起不能にさせてもらうの…」
「なんだって…わたしが…演劇部を冒涜…?」
「わかったらスタンドをしまって欲しいの」
「くっ…」
シュン…
「それでこそ、新垣さんなの…ところで…あなたが久住小春ちゃん?」
さゆという名の生徒が振り向く。
この動き、大きさ…。
まっまっ…間違いない!!!!!!!!!
ヘビだ!!!!

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」



361 :1:2005/10/05(水) 05:02:15

ヘビだ!!!!!
ヘビだヘビだ!!!!!!!

「小春ちゃん、どうし…」
ヘビが近寄ってきた!!!!

「やああああああああああああめええええええええええええ
てええええええええッ!!!!」

「え?」

「来ないでえええええええッ!!!お願いだからああああ
あああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

イヤだ!!!!!!!!!!!
ヘビ怖い!!!!!!!!!!!!!!!
私はもつれる足で逃げ出す。
が、疲れきっていてうまく身体が動かず、転んですぐ目の前が芝生の
緑で、いっぱいになった。

「うわあああああああああああん!!!!!ヘビ怖い!!!!!!!」
この女ヘビのスタンド使いだ!!!!!!

「へ…ヘビじゃないの!!うなぎなの!!!!!ちょっと失礼なの!!!!!」




362 :1:2005/10/05(水) 05:03:20

30分後。
私は木陰に座り、スタンドをしまった道重さゆみさんになだめられ、
落ち着きを取り戻していた。
新垣里沙は、あの騒ぎの後、すぐに帰ってしまったらしい。
「小春ちゃんは、どうして演劇部に入りたくないの?」
「入りたくないというのは…語弊がありますね。正確に言わせてもらうと、
私は『ミラクルな大スター』にならなければならないのです。そのため、
部活動に時間を裂くことはできないのです」
昨日、今日で何度目のセリフだっただろうか。
自分でも覚えていない。
「どうして?演劇部に入ったら、夢が一歩近づくかもよ?」
「いえ、それは時として遠回りとなり、迷い道となってしまうかもしれません。
それだけは避けなければ…かと言って、近道をしようなどと考えてはいませんが」
「そっか。残念なの…」
道重さんは、本当に残念そうな顔をしていた。
「さゆにもね、夢があるの」
人の夢…か。
そういうのを聞くのも、たまにはいい刺激になるかも知れない。
「なんですか?」
「えへへ…お姫様w」
「はぁ…」
違った意味で、スケールの大きい夢だなとは思う。
まぁ頑張って欲しい。



363 :1:2005/10/05(水) 05:04:53

「さゆは将来、絶対お姫様になるの。そのために、今のうちにそれに見合う
『経験』をつまなきゃならないの。確かに、今の自分の場所は憧れのお姫様とは
ほど遠い場所にいるの。だけど…」
彼女は立ち上がり、私を見つめて言った。

「さゆは敢えて遠回りをするのッ!回り道もするのッ!!その経験ですら、
すべて自分のものにする自信が、さゆにはあるのッ!!!」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!!

な、なんという気高き精神!
一見、夢見がちな少女に見えるかもしれない…が。
私にだって、彼女に負けないだけの夢を持っているのだ。
だから、彼女の言う事が、頭でなく心で理解できるッ!!!!!
さらに、道重さんは言う。
「選んだ道が、もし行き止まりなら…そこで迷えばいいの」
行き止まりなら…迷えばいい。
迷った経験ですら吸収し…克服する精神力。
どんな問題ですら、すべてを自分の糧にする、寛容な人間…。



364 :1:2005/10/05(水) 05:06:19

「さーて、さゆはそろそろ行くの。演劇部のことで、いろいろ巻き込んじゃって
ごめんなの。じゃあ、また会える日まで…会えるといいの」
彼女は、夕日を背に歩き出した。

私は、感じた。
あの人の偉大なる夢を。
そして、人生の教えを学んだ。
彼女は…素晴らしい人間だ。
私は…ああいう壮大な心意気をもった『ミラクルな大スター』になりたい!!!

「待って下さいッ!!」

私は偉大なるその背中に向かって叫び、追いかけた。

『道重さゆみ』

この瞬間、彼女は私の『心の姉』となったのである。

365 :1:2005/10/05(水) 05:06:53

久住小春  演劇部に入部
スタンド名:ミラクル・ビスケッツ

新垣里沙
スタンド名:ラブ・シード