196 :1:2005/10/02(日) 23:33:16

銀色の永遠 〜指令;「エースを狙え」(中編)〜

めんどくさいことになった。
演劇部に入部する時、梨華ちゃんをぶっ飛ばしたじゃん?
あたしもあん時は必死だったもんだから、全力でボコボコにしちゃったんだよね。
右手の指5本もぐっちゃぐちゃにしちゃったし。
で、あの子は今も入院してんだけど、どうも秋の文化祭までに完治しそうに
ないみたいなのね。
それで、しょうがないから彼女は演劇部の別枠である『美勇伝』っていう
活動に専念することにしたみたいなんだけど(つっても、その一人である三好絵梨華も
ぶっ飛ばして病院送りにしちゃったけどw)…。
どうも、そのツケが今になって返ってきた。
学校に来て早々寺田先生に呼び出されてさ、今のメンバーじゃ人数が足りないって
言われてさー。
最近『ラッキー7オーディション』っていう名のコードネームで新入部員を模索した
らしんだけど、その該当者になれそうな生徒も、後輩のれいなが再起不能にさせちゃって
『該当者なし』って結果に終わっちゃったのよ。
さゆに聞いた話だと、れいながボコした生徒、なんと三日間も部室で石になってたらしい。
アイツは怒らせちゃいけねーな。危ねぇ危ねぇ。



197 :1:2005/10/02(日) 23:37:59

まぁそんなわけで、梨華ちゃんを再起不能にして『人数不足』っていう事態を
巻き起こしたあたしに、寺田先生から直々に部員の勧誘を行えという指示が出た。
勧誘といっても、杖助や億泰の時のようにちゃんと相手は決まっているらしい。
ただ一つ彼らのときと違うのは、絶対に入部させなければならないという事だ。
なんか、失敗は許さないとか言われたし。
「久住小春…か」
あたしは昼休みの屋上で、その中等部の女子生徒の唯一の手掛かりである写真を眺めていた。
「なんだか昔のアイドルみてーな顔だな」
寺田先生はこの女の子に一体何を見たんだろう。
話によれば、この子は昨日転入手続きを済ませて、今日からこの学校の中等部に
通い始めたらしい。
うーん、ホントあの先生はこの子に何を見たんだか気になってくる。
まさか、こーいう子が趣味なんじゃないか?
よくよく考えると、この学校の演劇部のメンバーって、あのおっさんの趣味で
成り立ってるような気がしなくもない。
って、んなわけないか。俺らはナイフをどうとか言ってたしね。
たぶん、スタンド使いなんだろうなこの久住小春って子。
一目見て気にいるほど強力なスタンドを持ってるに違いない。
「スタンド使いと関わんのはゴメンなんだけどな…ちぇッ」
こんなとこで愚痴っててもしょうがないか。
時間もまだまだあるし、会いに行ってみっかな。

206 :1:2005/10/03(月) 00:38:25

そういえば、最近中等部の2年生が行方不明になったと先日朝のHRで聞いた。
教室の机の上には教科書や筆記用具はそのまま残されていたという。
昼休みになってもその生徒は帰って来ず…まるで一瞬のうちにこの世から
消えてしまったとでも言うような…そんな奇妙な事件だ。
両親は捜索願いを出したらしいが、未だ発見されてないらしい。




207 :1:2005/10/03(月) 00:40:37

「すいません」
あたしは久住小春が転入したクラス、中等部の1年A組の教室に入り、
1つの机の周りを囲んでいた一角の一人に話しかけた。。
「あ、はいッなんですか…ッ」
なんだコイツ。なんかオドオドして、変なヤツだ。
「ごめんなさい、お財布学校に持ってきてないんです」
あのな。
「いやそうじゃなくてさ」
「ハイ?」
なんなんだ?あたしがカツアゲでもすると思ったのか?
そりゃあ、目つきがとんでもない時があるって言われることはあるけどさ…。
今のは傷ついたぞ。
「今日転校してきた久住小春ちゃんって、いる?」
「え…あぁ、この子ですけど…」
そのオドオドした女子生徒は人だかりの中心にある机に座っている少女を指す。
この80年代後半の顔…間違いない、写真と一緒だ。
「あンたが小春ちゃん?」
「はい、そうです」
「あのさ…」
演劇部に入らない?なんて、この人だかりで言うのもアレだよな。
うちの部、一部じゃ評判わりーし。
「ちょっと話したいことあんだよね。屋上、一緒に来てくれる?」
「何の話でしょうか?」
「来ればわかるよ」
やっぱりこういう話は二人きりの方がいいだろう。
あたしは久住小春を引き連れ、さっきまでいた屋上に向かった。

「あの子、転入してきて早々何したんだろうね?」
「ねッ…すごい怖そうな先輩だったねェ」
209 :1:2005/10/03(月) 01:25:59

やっぱり屋上はいつ来てもいい所だ…今日は風も緩やかだし、申し分ない。
こんないい場所に、今あたしと久住小春しかいないのが奇妙でならない。
「それで、話ってなんですか?」
最初に口を開いたのは久住だった。
「あのさ、演劇部に入らない?あ、演劇っつってもここの演劇部、他の学校と違って
歌も唄うしダンスも踊ったりすんだけど…ミュージカルっつーのかな?
まあ、そんな感じなんだけどさ」
勧誘も2度目となると、スムーズに言葉が出てくるな。
「演劇部ですか。その件なら昨日お断りしましたが」
「え、そうなの?」
おいおい聞いてないぞ。
あたしが勧誘する前に誰か勧誘してたのかよ。
「話はそれだけでしょうか?なら私は教室に戻らせていただきます」
「ちょ、ちょ待ったッ」
失敗は許されないって言われた手前だってのに、ものの数秒で断られちまった。
が、ここで折れては藤本美貴の名が廃るッ!
「なんでしょう?」
「あんた、昨日あたり引っ越してきたらしいじゃん?で、顧問の先生にあんたを
演劇部に誘えって言われたんだけどね。うん、人数が足りないのよ。でさ、
うちの演劇部って入部すんのにちょっとした条件があるんだけど」
「ですから、演劇部には入部しません」
「まあ最後まで聞いてよ。寺田先生がいきなりあんたを入れろって言ったって
ことは、すでにあんたは条件をクリアーしてると、あたしは踏んでるわけ」
「条件?」
「そう、コレだよ…『ブギートレイン03』ィッ!」

ドギャンッ!!!!!

なんか久々にスタンド出した気がする、気のせいかな?


210 :1:2005/10/03(月) 01:31:01

「こ、これは…?」
やっぱり…久住には見えてるみたいだな。あたしの『ブギートレイン03』が。
「見える?久住ちゃん」
「電車がくっついてる…時計も…何ですかコレは?」
ん、もしかしてこの子、『スタンド』って言葉を知らないんじゃないか?
よーし、それじゃあこのミキティが教えてやるか。
「これは『スタンド』って呼ばれるもんだよ」
「スタ…ンド?」
「うん、演劇部のみんなも持ってる。『スタンド』は『スタンド』を使うものにしか
見えない。これが見えるってことは、あんたも『スタンド』を持ってるからだね。
どう?何か不思議な能力に覚えはない?」
あたしは、久住を導くようにして訊いた。
「あると言われればありますが…いつもなんとなく出しているのでどうやって出せばいいのか」
「簡単だよ。あたしみたくスタンドの名前言って、『出そう!』と思えばいいんだ」
「わかりました」
まあ初めのうちは、怒りとかで出ちゃうもんだったけど、慣れてくるとけっこう
自由に出せるもんだ。
そして、久住が叫ぶ!!
「『ブギートレイン03』ィッ!!」
ズコーッ!!!
こ、こけるかと思ったぞッ!!
「違う違うッ!あたしのスタンドの名前だよそれはッ!!叫ぶのは自分のスタンドの
名前だよッ!あるだろ!?それを言えばいいんだよ」
「自分の…ああ!!『彼ら』がスタンドなのか!わかりました、今理解しました」
「そうか、じゃあ見せてみ」
『彼ら』ってのが、ちょっと気になったけど…。
「出ておいでッ!小春の『ミラクル・ビスケッツ』!!」

バヒュウウウウウンッ!!!



211 :1:2005/10/03(月) 01:32:47

「へえぇ…これが…」
ひーふーみーよー…七体もいる!
小さいスタンドだが、確かに七体だ!!みんな同じような形をしてるみたいだけど、
唯一違うのはそれぞれの頭に数字が書いてあることだ。
うん、『No.1』から『No.7』までいるってことか。
つーかさ、コレ…。
「か、可愛いッ!!」

223 :1:2005/10/03(月) 02:44:10

可愛いじゃねえかよーッこのスタンド!!
すげーマスコットっぽい!美貴のブギートレイン03なんて、男くさくて
しょうがないってのに!!
「は、初めてです…『彼ら』が見える人がいるなんて…嬉しいですッ!!」
『コハルゥーッ!良カッタワネェー!!』
『オレタチモ嬉シイゼ!!コハルゥーッ!!』
『コハルゥーッ!コノマブイ女ダレ?』
『コハルタン!!抱キツイテモイイ?』
す、すげーッ!!
このスタンド、意思があるみたいだ!!!
すげーッ!マジですげえぇぇぇぇぇッ!!!!!
「そうか、あんたは今までスタンド使いに出会ったことがないんだね?」
「スタンド使い…?そう呼ばれてるのですか?そうですね、ありません。
物心ついた時から私は『彼ら』と一緒に時同じくしてきたのです。
そして、私の友達には『彼ら』が見える人がいませんでした」
なるほど…じゃあ久住がこの杜王町にやってきたのは運命なのかもしれないな。
スタンド使いとスタンド使いは引かれ合うっていうルールに基づいた、悲しき運命…。



224 :1:2005/10/03(月) 02:47:42

「あなたが…あなたが初めてなんです!お願いです!!名前を…
是非名前を聞かせて下さいッ!!」
久住は感涙しながら、あたしの手を握り言った。
「大げさだなぁ〜高等部2年の藤本美貴だよ。演劇部にはあんたのスタンドが
見えるヤツがワンサカいるんだかんね」
「ですが」
久住の態度がおかしくてあたしはヘラヘラしていたが、そのあたしの一言を久住は
冷静な表情と言葉遣いで返してきた。
「演劇部には入部いたしません。何故なら私には夢があるからです」
…夢?
「な…なんでだよ。夢ってなに?」
すると久住はこう言った。
「そう…私は『ミラクルな大スター』になるからです」

ドッバッバッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!

「そのため、寄り道はできないのです。遠回りもしません。そんな私には、
部活をしている暇などないのです。はっ今日も駅前で音楽を奏でねばッ」
ミラクルな…大スター?
「それならあんたと美貴は同じ夢を追う者ってことになるね。あたしも実は、
将来大スターになりたくてこの演劇部に入ったわけよ」
あたしがそう言うと、久住はノンノンと人差し指を振った。
「私がなるのは大スターなどではありません。『ミラクルな大スター』です。
そんじょそこらの大スターとは格が違うのです」
は、はぁ…?
「まあ待てよ、とりあえず放課後案内すっからさ。見学くらいして行けよ」
「くどいですね。私は寄り道はできないと言ったばかりだというのに。
でも、私はあなたの事は忘れません。では、さようなら」
「お、おい…ッ」
な、なんてものをハッキリいうヤツなんだ…!?
中学一年生とは思えないぞ?今の言動ッ!!


225 :1:2005/10/03(月) 02:54:02
おいおい、ここで返したら失敗だぞ…勧誘って大変なんだなぁ。
なんか、訪問販売員のエリック亀造を尊敬したくなってきた。
でも、諦めねえッ!!こーいうのは、根気のあるヤツの勝ちなんだッ!!!
「まあちょっと待ちなよッ!」
あたしが久住の背中にそう言うと、答えたのは久住ではなかった。
『サッキカラ、ウルセーゾオメェーッ!』
『コハルガ迷惑シテルジャナイノヨォーッ!!』
『アッチイケバーカ!』
『オイッオマエラ言イ過ギダゾッ!!』
『ソウダッ!No.5の言ウトオリダゾッ!コンナイイ女ニッ!!』
頭にNo.6と書かれた久住のスタンドの一人が、ピューッと近寄ってきて
あたしのお腹に抱きついてきた。
「う、うわなんだッ!?」
『ウワーッ!No.6ノ変態ッ!女ノ敵ッ!!』
『ウラヤマシイゼチクショーッ!!』
こ、こいつら…それぞれが性格や性別も違うのか?しかも射程距離は…?
これは…確かにミラクルなスタンドかもしれない…ッ!!
『アレ?コノ女、ムネガネーゾォ?腹ニ抱キツイテ、デカイムネヲ
見上ゲルノガ好キナノニヨォーッ!!チッチェエ!!』

プッツーン…

『ナ、No.6ッ!!早クソノ女カラ離レロッ!!何カ…ヤバイッ!!!』
「誰の…胸が…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「ちっちぇえだとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!!!!!!?」
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!

あたしの中で、火山が大噴火した。
もう誰にもこの藤本美貴を止めることはできないッ!!!!!

254 :1:2005/10/03(月) 17:08:14

スタンドとはそれを操る者の精神のビジョン!
つーことは、この『No.6』と呼ばれるミラクル・ビスケッツの一人が吐いたセリフは、
イコール久住小春のセリフってことだ!!
このガキ、あたしと話しながら『んな事』考えてやがッたのか!!?
「待ちなッ!!久住小春!!」
「ですから演劇部には入ら…ってうわあああッ!!ピンク!?」
階段を下ろうとする久住に、あたしは必殺藤本ミキック(要は跳び蹴りだ)を
お見舞いしようとするが、うまい具合に身を屈められ、かわされた。
あたしは階段の上に着地する。ちょっと危ねぇッ!!
「な、何をするんですか!スカートで跳び蹴りだなんて、そのなりふりかまわない
不意打ちはッ!!はしたないッ!!!」
「てめええええッ!!さっきからあたしが上品に構えてりゃいい気になりやがって!!
誰の胸がちっちぇえだ?あ!?」
「何を言っているのですか?この久住小春にはなんの話だかサッパリ」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねえッ!!」

久住小春…。
てめーは美貴を怒らせた。

「ブギートレイン…オォォォォォスリイィィィィッッ!!!!」

ドギャアアアン!!!!


255 :1:2005/10/03(月) 17:10:26

久住のスタンド、数は多いが、一人一人の力は相当弱いはずだ。
遠隔操作みたいだし。
「な、なにを…?」
「あんた今日転校してきたばっかだったな。ちょっと『ヤキ』入れさせてもらうかんなッ!
そのナメた態度、更正してやる!!!」
あたしは指の骨をパキパキならす。
端から見たら完ッ全に美貴が悪モンに見えそうなもんだが、あたしを怒らせたのは
他ならぬこいつだッ!
この藤本美貴容赦せんッ!!
「おぉぉぉぉッ!!ゴールデンッゴ…」
「あなた、覚悟はできてますか?」

ピタッ…。

な…に…?
「あんた…何を言っている…?」
あたしは思わず殴りかかろうとする腕を止めた。
「藤本さんと言いましたね。あなた覚悟は出来てるんですよね?私に『ヤキ』を
入れようとしてるという事は、逆に『ヤキ』を入れられるかも知れないという
覚悟の上で、私に『ヤキ』を入れようとしているんですよね?」
な、なんだコイツ…。
さっきも思ったけど…この女、久住小春は本当に中学一年生か…?
コイツ、他の厨房とは違う…何か違う。
久住の発言には…オーラには…そこらへんの厨房とは違う『スゴ味』があるッ!!



256 :1:2005/10/03(月) 17:13:13

「…つまり久住、あんたはあたしとヤるってことだな?」
「ヤるっていう表現は正しくないですね。正確に言えば…ミラクル・ビスケッツ『No.4』から
『No.7』のみんな!お願いッ!!!」
久住がスタンドを呼んだ!!
す、スタンドは…どこからくる!?
そういえば、コイツの能力ってなんなんだ?
「なんだ…何も起きないじゃん」
もしかして、コイツまだうまくスタンド出したりできないんじゃないか?
いつもなんとなく出してるって言ってたし…。
なんか寺田先生がこの久住小春にいったい何を見たんだか…ますますわからなくなってきたぞ。
「まあいいや、逆転サヨナラ…」
『イィヤッハアアアアアアアアッ!!!!』
『ブッ潰レチマイナサイヨォォォォッ!!』
突然、頭上から久住のスタンドの声が聞こえた。
「…え?」
思わず見上げたあたしの目に入ったのは…。
「つっ机がああああああッ!?」
しかも置き勉しまくってて教科書が詰まってる机みたいだ!!
中味がパンパンのカバンまでぶら下がってるぞッ!!
その机が、いつの間にかあたしの頭上にあって、それなりの高さから落ちてきていた!!!
「うおあああッ!ブギトレッ…」
ダメだ間に合わないッ!!!

ガッツウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!!!!!!!!!!



257 :1:2005/10/03(月) 17:16:23

「つぅ…があぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あまりの激痛に、あたしは大絶叫した。

あ、頭に…もろに…。
い、いてえ…目の前が…くらくらする・・・。
なんかホッペがヒンヤリするなあ…。
あれ…?ホッペが冷たいと思ったら…これ、床じゃん。
ちげえ、これ、階段だ。この体勢、辛いな。
「あ…う」
ダメだ、立てネェ…身体に力が入らねぇ…。
やべ、変な汗がいっぱい顔つたってやがんな。
げ、口の中に入った。やけに鉄っぽい味すんなぁ…。
「…って…血か…よ」
はは、頭から血が出てんのかよ、あたし。
あ…意識が…遠く…。
「く…すみ…」

ガクッ…

「そう、ヤるっていう表現は正しくない…正確に言えば、これは正当防衛です。藤本さん」
ザッザッ…

それから二時間後、あたしは保健室で目を覚ました。
頭には包帯を巻かれていた。
あの中途半端な痛みと苦痛じゃ、時間も戻せなかったらしい。


TO BE CONTINUED…