銀色の永遠 〜指令;「エースを狙え」(前編)〜


私はいつの頃からか、不思議な能力を身に付けていた。
それは生まれついてのものなのか、私にはわからないが、楽しい時、嬉しいとき、
辛いとき、淋しいとき、いつも私の側にいて、支えてくれた。
その七人の小人は、性格こそ皆違えど、どれも私の大切な一部だった。

私は親の転勤で、とある町に引っ越すことになった。
その町の名は杜王町。
S市に勤めることになったお父さんは、S市のベッドタウンであるこの町を、
とても絶賛していた。
ちなみに町の花はフクジュソウ。
特産品は牛タンの味噌漬けである。
だが、中学生の私にはどれもどうでもいいことばかりで、引っ越してきた
当日は座敷布団の中で故郷を、仲間を思い出し、泣いていた。
『コハルゥー、泣カナイデヨー、アタシマデ悲シクナッテキタヨーウワーン!!!』
『元気ダセヨォー、オレタチガ居ルジャネーカヨォー』
『コハルゥー』
『コハルタン!ハァハァ!!』
そんな私を彼らはいつものように慰めてくれた。

彼らは、私が唯一心を許している友達だ。彼ら以上の友達はいない。
なぜなら、私の友達には彼らが見えないからだ。奇妙なことだが…。

145 :1:2005/10/01(土) 21:39:11

私はぶどうヶ丘中学に転入することになった。
どうやら高校と繋がっているらしく、高校の人たちとの交流も多いらしい。
転入手続きで学校へ行った際、ある一人の先生に不思議に出会った。
「君、ええな」
その一言だけ言って、彼は去っていった。
なんだというのだろうか?そっちの気がある先生なのだろうか?
だが、私はそんな些細なことを気にする女ではない。
人の好みなど十人十色、よくあることだ。
そんなことより、この学校には私の『彼ら』が見える人はいるのだろうか?
きっと、いないであろう…。




146 :1:2005/10/01(土) 21:40:59

私はよく、80年代後半のアイドルみたいな顔をしていると、よく言われる。
好きなファッションもそうだ。何気ないシャツとGパンをさらりと着こなす。
そしてセットアップのGジャンを羽織り、私は杜王町の駅前で一人、ギターを奏でていた。
私は、いつかミラクルな大スターになるのだ。
最初は、帰宅のために人がいっぱいいる駅前で緊張してまともに唄えると思えなかった。
ギターのコードも間違えるだろう、と思っていた。
だが、そこは未来のミラクルな大スターの私だ。
極度の緊張も、唄い始めればすべて消え去った。
『素敵ヨォーコハルゥー!!』
『カッコイイゼコハルゥーッ!!』
『サスガハ俺タチノ御主人ダゼ!!』
『キット<ミラクル>な大スターにナレルッ』
『コハルタンハァ━━━━━━ン!!!!!!!!!!!』
彼らも私を見守っていてくれる。
そうして私は、駅前で自分の歌に酔いしれていた。
今でこそ誰も私を気にもとめないが、いつかは釘付けにしてやる。
スカウトでもなんでも来い。私はいつかミラクルな会場で、ミラクルな舞台のもとに、
ミラクルな衣裳をまとい、ミラクルな数の観客を前にして、ミラクルビームを放つのだ。



147 :1:2005/10/01(土) 21:44:09

「つぎ〜のォ…やぁすみ〜にぃ…『すこし』会えるかなぁあ〜…♪」

パチパチパチパチパチパチ…
私がサビへ入ろうとしたまさにその時、一人の男性が私に壮大な拍手を送ってきた。
「ブラボーッ!!おぉ…ブラボーッ!!!!」
冷やかしだろうか?サビくらい唄わせて欲しいものだ。
…いや、それくらいでギターを弾く手を止めた私がまだまだアマちゃんなのかもしれない。
「君、やっぱええな」
「…あなたは確か」
そうだ、思い出した。
転入手続きで学校へ行ったときに、私に「君、ええな」と奇妙な台詞を吐いた男性の教師だ。
「久住小春ちゃんやな?」
「そうですけど」
「やはり、ワイの見込んだ通りや…」
端から見たら、危ない光景である。
派手なスーツの茶髪男性教師と、私服の中学一年生。
は…るの…木漏れ日の…中で…そんなフレーズが思い浮かんだ。
危ない、危なすぎる。
お巡りさんが来たら、私には言い訳する自信はない。
「うむ、そのお口もチャーミングや」
「何の用ですか?」
「俺な、ぶどうヶ丘高校中学の、演劇部の顧問や。どや、演劇部に入らんか?」
なんだ、部活の勧誘か。
たかだか部活の勧誘に顧問が出てくるとは、よほど部員がいないのだろうか?



148 :1:2005/10/01(土) 21:45:54

「今の演劇部じゃな、まだ力不足なんや。ワイは『ミラクルエース』を探している」
ミラクルエースか。
この男性教師には私がミラクルに見えたのだろうか。
だとしたら…ふふ、よくわかっている。
見る目がある。
だが。
「すいません。私は部活をやる暇などはありません。何故なら私はミラクルな大スターに
なるという夢があるからです。よって、中学校の部活動に時間を裂く事はできないのです」
私は、例えどんなに年上の男性だろうと断る時はちゃんと断る。
ミラクルな大スターになる私に『曖昧』の二文字はない。
さて、帰宅のラッシュも緩やかになってきた。
今日は帰ろう、晩ご飯なにかな。
「なんや、もう終わりかいな」
「さようなら」
私はギターをケースにしまい、肩にかけると杜王駅を後にした。

「えーっと…確かこの路地裏を突っ切った方が家近いんだったな」
新しい町というのは慣れるまでが大変だ。しっかり覚えて歩かなくては。
私は人気のない路地へと身を進めた。




149 :1:2005/10/01(土) 21:46:51

(久住小春か…ヤツには才能がある…直感でわかる…アイツは…『後藤真希』と
同じ匂いがする…どれ…このエジプトで老婆から貰い受けたこの弓矢で、お前も能力を
発現させるんや…矢はすでに久住、お前を選んでいるッ!!)

ビュンッ!!!
パッキィィィィッン!!!!
「いてッ!!」

(な、なにいッ!!?矢が突き刺さらないやと!?あの女…どうなっってるんや…
矢に選ばれたというのに…弾くなんて…!!!??)


「ん、うなじから血が出てる、どっかにひっかけたのかな?」




150 :1:2005/10/01(土) 21:59:23

私はこの杜王町で、また故郷・新潟と同じようにミラクルな大スターを目指すのだ。
明日からは、夢のバス通学が待っている。
ジャージ、ヘルメット、自転車の3神器を使わなくなるのは淋しいが、それも
私がミラクルな大スターに着実と近づいている証だろう。
「『ミラクル・ビスケッツ』!!」
私は彼らを呼んだ。
『ドウシタノ?コハルゥー』
『イカシテルゼコハルゥー!』
『ドウシタ?首スジ怪我シテンゼッ!コハルゥー!!』
『ハァハァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
君たちは、私の誇りだ。
「ミラクル・ビスケッツのみんな…私はこの町で『ミラクルな大スター』に
なるからね。しっかり見ていて」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!

『ヒャッホオォォォォォウッ!!イイゼコハルゥーッ!!』
『期待シテルワヨッ!コハルゥーッ!!!』
『コハルタン!ハアァァァァァァァァァァァッッッッン!!!!!!!!!!!!!!!』

私には七人の小人『ミラクル・ビスケッツ』がついている。
私は、絶対にミラクルな大スターになるッ!!!!!!!!!!


TO BE CONTINUED…