684 :1:2005/09/21(水) 00:17:12 0
銀色の永遠 〜藤本美貴は幽霊と遭遇する〜

だるい授業が終わり、あたしは一人下校していた。
今日は演劇部には顔を出さない。どうせ亀井が一人で体を
クネクネさせてるだけだろうし。
そういえば、最近真希ちゃんの付き合いが悪い。どうも他クラスの
男と会っているようだが、彼氏ができたなんて話は聞いてないし…。
まさか、抜け駆けか?
あたしに内緒で男とイチャこいてんのか?
ああ、そう考えるとうっぜえな。
そうだ、今日は週間少年ジャンプの発売日だ。
コンビニで『ピンクダークの少年』でも立ち読みして帰るか〜。あの漫画の絵、
女のあたしが読むには気持ち悪いんだけど、何か惹かれるものがあんだよなぁ〜。
なんて書いてる人の名前なんだっけ…岸辺なんとかだっけな。
下の名前、漢字難しくて読めないんだよね。



685 :1:2005/09/21(水) 00:20:35 0
あたしはコンビニ『オーソン』の前まで来て、見知った人物と出会った。
「あれ、藤本さん」
「亀井…ちゃん」
おかしいな、普段ならコイツ、今頃部室で体くねらせてるハズなのに。
「何してるんですか?」
あたしが訊きたい。
「別に。立ち読みでもしよーかなと思ってただけ」
そういうと亀井は「そうなんですか〜」と言ってヘラヘラしていた。
あたし、こーいうやつなんか苦手なんだよなぁ〜。
別に嫌いだとか、ムカつくことされたわけじゃないんだけど、
なんか話しててイライラしてくる。
やっぱ、前世でなんかあったんだろうな。
さすが、エリック亀造の娘だ。顔からにじみ出るオーラがそっくり。
「あんたこそ、こんなとこで突っ立って何してんの?」
「いや、ちょっと気になったことがありましてですね…」
気になったこと?
ま、コイツの気になってる事なんてど〜でもいいけど。
「僕、S市から学校通ってるんですけどね」
「マジで?電車通学かよ」
つーか、こいつ今自分の事『僕』って言わなかったか?
「ハイ。で、あまり杜王町のことは知らないンですよ。学校の近くだし、
いろいろ知っておこうと思って今こうして探検してるんでけど…」
「へ〜」
ハイ。で、あまり杜王町の…ってとこまでは聞いた。
今日の晩飯何かなぁ〜…焼き肉がいいな。
魚だったら家出しよ。



686 :1:2005/09/21(水) 00:21:21 0
「それでですね、気になったっていうのはこの町内地図の看板なんですけど」
「ああ、ちょっときったねーよな。その看板」
「まあそれもそうなんですけど、とても奇妙なんですよ」
「奇妙?」
町の看板が奇妙とか。
コイツ、いつも何考えて生きてンのかな。
楽しいのかな。
「いいですか?薬屋の『ドラッグのキサラ』があって、隣にコンビニ『オーソン』が
あるじゃないですか」
「ハア?」
何を言ってるんだ、コイツ。
「でも実際に見ると…」
亀井がコンビニ『オーソン』と薬屋『ドラッグのキサラ』の方を指差すので、
あたしもそれを目で追った。
「…ん?」
…。
あれッ?
道がある。
小さな小道だ。
「あの道、地図に書いてないンですよ。藤本さん、杜王町に住んでるンでしたよね?
あの道、どこに向かう道なんですか?」
「あれは…」
どこに向かう道だっけ?
つーか、よくあのコンビニで立ち読みしてるけど、隣にあんな道なんてあったかな?

702 :1:2005/09/21(水) 11:53:32 0
「もし知らないなら、一緒に行ってみませんか?」
はああああああ?
あたしが?
アンタと?
「どうせいつも家帰ったってすることなくて寝てるだけなんですよね?」
カッチィ〜ン。
コイツ、悪気なさそうな顔して言ってるけど、今のはなんか頭きた。
「ああ、じゃあ行こーか。どーせ美貴は暇人ですよ」
「藤本さん、なんか怒ってます?」
あたしはそんな亀井を無視して、その小道に入っていく。
「あ、待ってくださいよぉ〜」
それにしても、ホント、こんな道あったかな。



703 :1:2005/09/21(水) 11:56:20 0
小道に入って右に曲がると、赤いポストがあった。
う〜ん、やっぱ見覚えはないな。
「あッ!?藤本さんこれ!!」
「ん?」
亀井が声をあげるので、見に行ってみると…
「ウンコだ!犬のウンコですよ藤本さんッ!うえ〜っ子供の
足跡ですねこれは」
「ハァ!?バッカじゃないの?」
くっだらね〜!!
あーあ、やっぱりコイツと一緒に行動するんじゃなかった。
ストレスがたまるし。
自販機でジュースでも買って帰ろっーと。
「あれ?」
自販機にお金を入れようとしたところで、あたしはその自販機が動いて
いないことに気づいた。
「うわぁ、ちょっとこの自販機、古いタイプですね。懐かしいなぁ」
「あ、言われてみれば…」
ここいらで見かけなくなった自販機だな。
早く新しいのにとっかえればいいのに。
「それより藤本さん、ちょっと気になったことがあるんですけど…」
「気になったこと?」
「ここら4〜5軒、人が住んでる感じがしないんです」
あたしは近くにあった『沼倉』って人の家を門から覗いてみた。
窓ガラスは割れてるし、ガラクタが外にまで散らばっている。
こりゃ、空き家だな。ここだけじゃなく、周りの家も、みんなそんな感じのようだ。
ここら一体に空き家が集中してるのも奇妙な話だけど。



704 :1:2005/09/21(水) 11:58:57 0
ちょっと歩くと、またポストが目の前に現れた。
なんだよここ、こんな短い距離で二つもポスト置かれてンのかよ。
「あれ?」
亀井がまた何か気になったようだ。
「今度はなんだよ」
「ここ、一番最初に曲がった角のとこじゃないですか?」
一番最初に曲がった角って、そんなバカなw
「あたしらは三回しか曲がってないんだぜ?元の場所に戻ってくるわけ…」
ポストに近づいてみると、亀井の意見が間違ってないことに気づいた。
「ガキが踏んづけた犬のフンだ」
「お、おかしくないですか?いつの間に最初のとこ戻ったんだろう…」
「まあいいや。亀井ちゃん、行くよ」
え〜っと、まず空き家が4〜5軒あって…犬小屋があって…さらに電気の
切れた自販機だろ?で、そこを右に曲がると…
「…あれ?」
またポストだ。犬のクソつきで。
「な、なんだか気味悪いなぁ…僕ら、左左右って3回しか曲がってないのに」
「まあ待てよ、進んでダメなら戻りゃいいだろ。戻ったときに気づく新しい発見って、
けっこうあるもんさ」
あたしは亀井を連れて、来た道を戻る。
そして、しばらくして…。
「う、嘘だろ…」

ドォォォォォ〜ン

「ど、どうなってんだ…あたしらは犬のクソ付きポストから引き返してきたハズッ!」
「ふ、藤本さんッ!この道…何かおかしいですッ!!」
709 :1:2005/09/21(水) 13:41:35 0
あたし達は再び赤いポストの場所に戻ってきてしまってのだ。
「な、なんだってんだよッ!!」
それからあたし達は三回ほど行ったり戻ったりを繰り返した。
他の道を見落としてないか、丹念に調べながら歩いてはみたが、
結局最後には赤いポストと犬のクソのある場所に戻ってきてしまっていた。
「あ〜…もう疲れた」
あたしは塀を背にして、もたれかかり座り込む。
完ッ全に道に迷ったな、これは。
「藤本さん、ちょっと休んでからまた行動しましょーよ。同じ景色ばっか
見てたから疲れちゃった」
言われなくたって休むっての!!
亀井はカバンからペットボトルのお茶を取り出すと、それをゴクゴクと喉を
鳴らして飲み始めた。
…美貴も、喉が渇いたわけだが。



710 :1:2005/09/21(水) 13:43:43 0
「あ、そうだ!」
亀井はゴソゴソとカバンの中をあさると、一冊の手帳を取り出した。
「これ見て下さいよォ〜」
プリクラ手帳?別にアンタのプリクラなんて興味ないんですケド。
そんなあたしにはお構いなく、亀井は近寄ってきてプリクラ手帳を広げる。
コイツには、あたしの不機嫌そうな顔が目に入ってないのか?
無理やり見せられたプリクラ手帳には、さゆと亀井の2ショットでいっぱいだった。
たま〜にれいなが混ざってたりしている。
中には亀井が二人とさゆが二人、四人で写ってるプリクラもあった。
あ、これエリックとプリンセスさゆみんか。
まあ、何にせよ興味はないが。
「これさゆがうち泊まりに来たときのなんですよ〜!で、これが…」
う、うぜぇ…。
この状況でよくこんな騒げたもんだ。だからこういうヤツってイライラする。



711 :1:2005/09/21(水) 13:46:24 0
「ねえねえ藤本さん」
「うるさいよ」
「はい?」
あたしは押し付けてくる亀井の手を引っ叩くようにして振り払った。
ドサッとプリクラ手帳がコンクリートの上に落ちる。
「うるさいんだよ!あたしはアンタみてーな女が騒ぐとムカつくんだッ!!」
「…ご、ごめんなさい」
ああッ!もうマジ全部コイツのせいだッ!!!
こいつのセリフなんかにムキになるんじゃなかった!!これなら部屋で
よだれ垂らして眠りこけてた方がマシだッ!!!!
もし、あたしの『ブギートレイン03』が自由に時を戻せるのなら、コイツと
会う直前まで戻って、真っ直ぐ家に帰るのになぁ…。

「ずいぶんと小さくて可愛らしい写真ね。今の女の子たちの間じゃ、こういうのが
流行ってるのかしら」

「!?」
声がした方を見ると、カチューシャをした女の子が亀井のプリクラ手帳を拾い、
それを眺めていた。
年頃は、あんま変わらないと思う。
「これ、あなたのでしょ?返すわ」
「あ、ど、どうも…」
その女の子は亀井にプリクラ手帳を渡した。
この女…どこから現れたんだ?
あたし達はずっとここを行ったり来たりしてたんだぞ…?
ま、まさか…スタンド使いッ!?

774 :1:2005/09/23(金) 02:50:00 0
「あなた達…道に迷ったの?」
その女は、何食わぬ顔であたし達に訊いてきた。
さらにこう続ける。
「案内してあげようか?この辺、似たような路地が多いのよ」
案内だって…?
「さ、さっきからどう歩いてもこのポストに戻ってきちゃうんだけど…」
そう言いながら、あたしはこいつが何を企んでいるのか考えてみようと試みたが…。
何をどう考えればいいんだ…ッ!?
クラスで下から三番目の脳味噌しかもってないこのあたしが!!
ふと側の電柱を見上げると、カラスが電線にとまっていた。
あ…目が合ってる…睨んでんのかな…?
「クァッカアアアアアアアアアアアアッ!!」
「げえッ!!!」
カラスに睨まれて鳴かれたッ!!!
あたしは急いで路上に落ちている石を拾い、それを自分の股の下からカラスに
向かって投げつける。
投げた位置は…的確ッ!カラスは石を避けるようにして、バサアッと羽音をたてて飛んでいった。
ほっ…あせったぜ。
「藤本さん…何してるんですか?」
「『股の間からヤツに向かって石を投げる』…これをやればカラスの呪いから
逃れられるんだ」
こんな急な事態にあたしも何をしてるんだろうか。
だが、こういう時こそ、こういったことは徹底せねばッ!



775 :1:2005/09/23(金) 02:52:11 0
「なあに、それ?占い?」
カチューシャの女は何事もなく訊いてきた。
「まあ…そんなもんかな」
この女、敵なのか?
あたしらを油断させようってのか?
「あたしも占いなら知ってるわよ。そこのあなた、試しにそっちの端を持って」
その女は、どこから取り出したのかポッキーの箱から一本、それを
取り出すと、先端を亀井に向ける。
「ほら早く」
「えッ僕?」
亀井がポッキーの先端を軽く持つ。すると…
ポキィッ!
ポッキーが折れた。いや、この女が折ったのか。
「あっあ〜♪あなたッ!『女の子』にフラレるわよっ」
なんだそりゃ。
「ええッ!!!!!!?」
突然亀井が大声を出す。
な、なんなんだイキナリ。
「そんなの困るッ!!!絶対無理!!!!」
お前は女だろうが。何をそんなに慌てる必要があるんだか。



776 :1:2005/09/23(金) 02:57:34 0
「それ、一体何なの?」
なぜか焦っている亀井のかわりに、あたしがその女に訊いてみた。
「『ポッキー占い』よ。あなた『占い』って信じる人でしょ?これは折れた
感じで占うんだけどね」
うーん、さっきのカラスにやったことは占いというか魔除けみたいなもんなんだが。
「まあ占いならあたしも知ってるよ」
まあこれはどっちかっつーと心理テストだけど…あたしはその女の爪を指差した。
「あんたみたいな、うすいピンクのマニキュアの女ってのはさぁ…」
「『恋に臆病』…『肝心なところで恋を逃す』…でしょ?」
「な、なんだ、知ってたのかよ」
わかっていて、その色のマニキュアをつけてるとは、ご苦労なこったねぇ。
「露伴ちゃんから聞いたもの。それよりあなた達、道に迷ったんなら
あたしが案内してあげるわ。ついて来て!」
「別に行き方だけ教えてくれりゃいーんだけどさ」
「ダメダメ。説明だけじゃわかんないんだから!」
そう言うと、その女は前を歩き出した。
着いていくしか…ないのか??
でも、大丈夫だろうか…。

89 :1:2005/09/25(日) 23:36:44 0

「ねえ、行く前にちょっと訊きたいんですけど…」
亀井がその女(名前なんていうんだろう?)に尋ねる。
「どうしてここら一帯、空き家ばっかなんですか?自販機の電気も切れてるし…」
別にいいじゃねーかよ…そんなこと。
と、いつものあたしなら思うところだが、実はけっこう気になってたりする。
自分が昔っから住んでいるこの杜王町に、こんな通りがあったような記憶が
どうしてもないからだ。
その女は、すぐそこに建っていた大きな家を指差した。
『杉本』って書いてあるけど…。
「この家ね、15年ほど前に殺人事件があったの…」
「殺人事件?…ですか?」
15年前っていうと…あたしが1歳の時かぁ。あたし、早生まれなんだよね。
「今は誰も住んでいないわ、これ、隣のおばあちゃんから聞いた話なんだけど…」
すると、その女は話を始めた。
こ、怖い話とか勘弁だかんなッ!!
「夜中に女の子が寝室で寝てるとね、ピチャリ、ピチャリって音で目が覚めたんですって。
何の音だろう…いつものようにベッドの下に手をやると、愛犬の『アーノルド』があまえて
手を舐めてくれたから安心してたんだけど、しばらくしても音がやまなかったのよ」
なんか、怖い話っぽいな。



90 :1:2005/09/25(日) 23:38:14 0

ピチャリ…ピチャリ…

おかしいな、美貴こんな怖がりじゃないんだけど…

ピチャリ…ピチャリ…

幻聴まで聞こえてきやがった。
「パパ!ママ!って呼んでも返事もなくて、気になった女の子は何の音か
調べに行くことにしたの」
「その音の正体って、なんだったんですか?」
「その正体はね、首を切られて死んだアーノルドが壁のコート掛けにブラさがって
血を滴らせていた音だったの…」
なんだろう…まだ昼間だし、大して怖くない話なのに、何か不気味だ。
この女の話には、それがフィクションではないとでも言うような凄みがある。
「でも待てよ。なんかその話矛盾してない?ベッドの下に手をやったら愛犬の…
アーノルドだっけ?そいつに手ェ舐められたんだろ?じゃあいつ犬は殺されたんだよ」
そう言うと、女は黙った。
ほれ見ろ。なんだかんだで美貴をビビらそうなんて甘いんだよッ!!

91 :1:2005/09/25(日) 23:40:19 0

「突然ッ!!!!!!!」

「うおぉぉぉッ!!?」
文字通り突然叫んだ女に、あたしと亀井は体が仰け反るほどビビる。
「な、なんだよッ!?」
心臓止まっかと思ったじゃねーかよ!!

「突然ベッドの下から声がしたの!お嬢ちゃんの『手』ってスベスベしてカワイイね、
クックックッ〜ン!!両親もすでに殺したぞ…ってね」

手…?
手に可愛いとか、そんな表現の仕方をするヤツを、あたしは知っている…
手に異常な執着を持つ男を、美貴は知っているッ!!!

「女の子の手を舐めていたのはその男だったのよ。そして、その女の子も
殺されたのよォッ!!」
「ええッ!?そ、それ、ホントの話なんですか?」
「…アハハッ!本当に聞こえた?…あ、あなた、どうしたの?」
「あれ?藤本さん、どうしたんですか?すごい汗ですけど…?」

「あ…あ…」

あたしは自分でも気づかないうちに汗をびっしょりかいて、震えていた。
「どうしたの?顔色悪いわよ」
あたしは…美貴は知ってるんだよ!そいつを…ッ!!!!!

92 :1:2005/09/25(日) 23:41:40 0

ピチャリ…ピチャリ…

ま、また幻聴が…。
「う、うわあああッ!!!!!」
亀井が突然叫んだ。
「なんなんだよ!!今度は!!!!」
「ふ、ふじもzdみ6gh3k@fふじこッ!!」
あたしが亀井の視線の先に目をやると…。
「ッ!!!!い、犬…ッ!!!!!!?」

ピチャリ…ピチャリ…

幻聴なんかではなかったんだ…この音は。
あたしたちの目の前で、首元をバッサリ切られた犬が、血をピチャリ…ピチャリと
地面に滴らせながら、こちらを見ていた。
「あ、あんたはッ…!!?」

「そう、その女の子っていうのはあたしのことよ…。あたしとアーノルドは『幽霊』なの」

101 :1:2005/09/26(月) 00:37:38 0
「ゆ、幽霊だって…?」
あたしは震える声で、その女に言った。
「そう、あなたたちは15年前のあたしが死んだ場所に迷い込んだのよ。あたしと
波長があったのね…ここは『あの世』と『この世』の境目なの」

「うわあああああああああああああああああああああああああッ!!!!」

突然、亀井が絶叫した。
「さゆうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!!!!!!」
そして、走り出す。
「か、亀井…ッ!!?ちょっ待ってよッ!!」

あたしを置いて逃げる気かよッ!!!!!!!!!!!!

「だからお前ムカつくんだッ!!!!!!!!」
「エリィィィィィゼエェェェェェェェェェッ!!!」
ギュウウウウウウウウウウンッ!!
逃げながら、亀井がサイレント・エリーゼACT1を出して、再び上空に飛ばす!!
でも…。
「あう…わああああああっ!!?」
ドシャアッ!!!
さっきと同じように、亀井は飛び上がって無様に地面に落ちた。
「だ、ダメだぁッ!!エリーゼを飛ばせないッ!!僕が…僕が飛んでしまうッ!!!」
「ここから出るにはたった一つの方法しかないのよ。それはあたしが知ってる」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




102 :1:2005/09/26(月) 00:40:15 0
「あンたは…敵ではないの?」
「別にあんたらに危害なんか加えてないじゃないのよ。あんた達が
勝手こいてブルってるだけでしょ?」
た、確かにそうだけど…。
「あたしがここに閉じ込めたんじゃないの。スタンドって言うのよね、
そう、たぶんあなた達のその能力で紛れ込んだのよ」
スタンド使いは引かれ合う…今頃病院のベッドで昼寝してる梨華ちゃんが
そんなこと言ってたけど、幽霊とも引かれあっちまったよ。
「あたしを殺した犯人ね、この杜王町にいるわ」
何だってッ!?
「ええッ!?まだ捕まってないんですか?」
「そうよ、犯人はこの町に溶け込んでいるの」
もし、もしそれがすべて事実なら、その犯人は以前サンジェルマンで遭遇してしまい、
あたしと真希ちゃんを一度爆死させた…あいつなんじゃないのか…?
あの姿、名前…忘れるものか。

吉良吉影…ッ!!!


103 :1:2005/09/26(月) 00:43:33 0

「あなた達、この町の少年少女の行方不明者の数知ってる?全国平均の
8倍って数なのよ」
「ど、どういうことですか…?」
「全員とは言わないけど、ヤツにひっそりと殺されているわ」
何ッ!!
もしその男があたしの思うとおり『吉良吉影』だったとすれば…ヤツは…
めちゃめちゃ凶悪な殺人鬼じゃないのか!?
しかも、それでいて平穏に暮らしてるというのか!?
そ、そんなヤツがこの町にいるなんて…あたしと遭遇していたなんて…
時間は戻ってなかったことになったとはいえ、鳥肌が立ってきたぞ…ッ!
み、認めたくない!!
「で、でもッ!あんたは殺される時そいつの顔は見たの!!?」
「見てないわ」
「じゃあ何でそいつの仕業だってわかんだよッ!」
「ここの上空を…ああッ!!!!!!!!!!!!!!!!?」
「ワオオオォン!!ワオオオォン!!」

その時、彼女の死んでいるハズの愛犬、アーノルドが空に向かって吠えたのだ。



104 :1:2005/09/26(月) 00:45:36 0
彼女とアーノルドの視線の先を、あたしと亀井も見る。
な、なんだあれは…ッ!!?

ドッヒョオォォォォォォォォォォォォォォォォォウ!!!!!!!!!!!!!!

雲が…人の…女の子の形をした雲が…飛んで行くッ!!!
「あ、あの子は…ッ!!」
亀井は信じられないという形相で、その飛んで行く人型の雲を見つめる。
「亀井…どうした?」
「あの子は…僕は知ってるッ!!石村舞波ちゃんだッ!!ど、どうしてあの子の形を
した雲が…ッ!!?」

『あっあ…』
ズバッ!!!

石村舞波の形をした雲に亀裂が入った。

『あああああううぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!!』
バリバリバリバリッ!!!!

「砕けていくッ!?舞波ちゃんが…」
「なんてことなの…まただわ…また『アイツ』だわ…ッ!!『アイツ』にやられた
『魂』が飛んでいく…ッ!!!」
「お、おい!どういうことだよッ!!まさか…あの舞波って子は…ッ!?」
「『アイツ』と出会ってしまったのねッ…!!!!」
その女は、涙を流しながら叫んだ。

『うぅっ…ぅ…』
ズババババババババアアアアアアアアアアアアアアアアン…

…そして、雲は吹き飛んで跡形もなく散った。

174 :1:2005/09/27(火) 17:29:27 0

「…これでわかったかしら。あたしと『同じ殺され方をした人の魂』が今みたいに
よく飛んでいくのよ…今日だけで二人よ。あの子の前にも、あなたたちが
ここに来る前に、『アイツ』にやられた女性の魂が飛んでいったわ…」
「ちょっ、ちょっと待って下さいよッ!じゃあ、石村舞波ちゃんは…ッ!?」
「あなたの知り合いだったのね…酷な話だけど、あの子は『アイツ』に殺されて
しまったわ…」
そんな…と、亀井はその場に膝をついてしまった。
「あの世へ行く『魂』をあたしは何度も何度も見たわ…あたしには『アイツ』の趣味が
わかるの!そう丁度あなたや…その子の小さな写真に写っていたスーツの女性
なんかがそうなのよ!!」
その女は、あたしを指差して断言した。
スーツの女性っていうのはたぶん、プリンセスさゆみんのことだと思う。
「あたしの大好きな杜王町で、15年に渡って殺人が行われている…こうしてる
今も、きっと誰かが狙われているわ…!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「あなた達生きている人間がッ!町の誇りと平和を取り戻さなかったらッ!!
いったい誰が取り戻せるって言うのよッ!!!!!!!!!」

バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

その女は目に浮かべた涙を頬にボロボロと零して言った。



175 :1:2005/09/27(火) 17:30:54 0
さっきの女の子、石村舞波はたぶんスタンド使いだったんだ。
じゃなきゃ、亀井が知ってるわけないと思うし…。
そして、この女が言うことが真実だとするなら、石村舞波は『アイツ』と出会ったんだ。

吉良吉影…間違いない。

あたしの中で、推測が掴み所のある事実に変わろうとしている。
まさか、プリンセスさゆみんが行方不明になった件も、吉良吉影が絡んでいるんじゃ…。
「ごめんなさい、ちょっと熱くなりすぎたわ…あたしの話は終わりよ」
「この町でそんな恐ろしい事があったなんて…僕、許せない…ッ!」
亀井の目は、まるで何かを守ろうとしている少年のように、正義の心で満ち溢れている。
が…無理だ。
あんたのスタンドじゃあ、あの男は倒せない。
一瞬で消し飛ばされる。
このあたしも、何も出来なかったんだ。あんなヤツと遭遇するのは…もうゴメンだッ!!

26 ::2005/09/30(金) 01:42:27

「さて…あたしを殺した『アイツ』の話はこれくらいにして…いよいよ
この先に出口があるわよ」
女はさっきまでの沈みつつも熱い態度をさっと切り替え、ポストを指差した。
「どこですか?」
「ポストの先を左に曲がるとすぐよ」
よ、よかったあぁッ!
「じゃあ行こうぜ」
「待ってッ!」
その女が歩き出すあたしの腕を掴んで止める。
「なんだよ」
「あわてないで、えぇっと藤本さんっていったわね。ポストの先を通るにはね、
ちょっとしたルールがあるのよ」
ルール?
あたしと亀井はキョトンとして、その女を見た。
「あのポストを越えて曲がった後、20メートル先に出口が見えるわ。でも約束して。
そこまで何が起ころうと『決して後ろを振り向かない』って」
決して後ろを振り向かない…?
「それがルールなんですか?」
「そうよ。約束して」
「あたしさ、『するな』とか『やるな』って言われると逆にしたくなっちゃうんだけど、
なんでそんな約束しなきゃなんないの?」
あたしが抗議すると、その女はアーノルドの頭を撫でながら答えた。
「それが『ルール』だからよ。時間は過ぎたら何があろうと戻らないでしょ?
それと同じよ。振り向いて見ちゃダメなの、決してね」
うーん、美貴はたまに偶然とはいえ時間を戻しちゃうけど。
まあここを早く出たいし、そんぐらいの約束はするか。


27 ::2005/09/30(金) 01:44:51
「もし振り向いたらどうなるんですか?」
亀井がその女に訊いた。
「あなた達の魂があの世へ引っ張られてしまうわよ」
し、死ぬってことか…。
ゴクリッ。
ちょ、ちょっと怖いんだけど。
「僕、怖いな」
「そんな怖がらないで!要は振り返らなきゃいいのよ。簡単でしょ?」
簡単でしょ?って、そんな簡単に言われてもさぁ…。
ま、まあ振り返らなきゃいいんだなッ!
簡単だ、大丈夫だ。
あたしは手のひらに『人』と言う字を書いて、それを飲み込んだ。
ビビるな、藤本美貴!あたしは大スターになる女だぞ!!
「いい?じゃあ、ポストを越えるわよ」
コツ…コツ…コツ…
あたし達3人は、並んでポストを越えた。

ズキュウウウウン!!

「!!?」
「ちょっちょッ…今ッ…!!!!!」
ポスト越える時足の間を何か通り抜けたぞッ!!!
きもい…きもいきもいきもいきもいきもいきもい!! 
「振り向いちゃダメよッ!!落ち着いて…ゆっくり歩くの…」
あたしと亀井はそれに従うが…。


28 ::2005/09/30(金) 01:48:48

ヒタリ…ヒタリ…

今度は…な、な、な、な、なんかついて来てねーかッ!?
「藤本さん…なんか後ろからついてきてません?」
「わかってる!!」

ヒタリ!

す、すぐ後ろになんか来た!!
『ブファ〜スン…スン…ハァハァ…』
「い、息かかってる息かかってるッ…!!」
と、取り乱しちまいそうだ…!怖いッ!!
「うえ〜…なんか痴漢と同じ息遣いだ」
か、亀井のヤツ、そこまでビビってなさそうだな。
「気にしないで!いつもこうやって、ちょっかい出して振り向かせようとするの。
でも振り向かなければ何もして来れないから平気よ、気をしっかり持って!!」
「んなこと言われたってよおぉぉぉぉぉッ!!」

べちょ。

「うおぉぉぉぉぉッ!!?首筋になんか垂れてきたッ!!!!!!」
「慌てないで、大丈夫よ!」

バギン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「fdsdyんk@xsjふじご/rッ!?」
さらに耳元で大きな音。
死ぬほどビビったあたしは思わずしゃがみ込んだ。


29 ::2005/09/30(金) 01:51:01
「どうしたの?歩かないと出れないわよ?」
「もッもッもう我慢できねーッ!!頼むからここから出して!!!!」
「だから、あそこまで行けば出られるのよ」
「イヤだ!後ろになんかいるんだもん!!息かけてくるんだもん!!
首にもなんか変なもん垂らされたもんッ!!脅かしてくるし!!
もうやだあああッ!ウワーン!!オカァサーン!!!!!!!!」
ひいぃ…出たいよ、早く出たいよお〜ッ!!
でも怖い!!立ったら、きっとまたなんかされるよッ!!
このままじゃ、いつか美貴振り向いちゃう…ッ!!
「藤本さんでも泣くことあるんですね…意外だなぁ」
もう亀井の言う事にいちいち反応してる余裕もない。
「じゃあ、なにも聞こえなくなれば大丈夫ですね?」
亀井はしゃがむと、あたしの手を握った。
「しばらくの間、藤本さんから『音の概念』を消しますよ。大丈夫だよ、僕がついてる
からね。もう安心して…サイレント・エリーゼACT2…サイレント・エリドリアン!!」

ポーン…



30 ::2005/09/30(金) 01:53:20

それからまったく耳が、音が聞こえなくなった。
唾を飲み込む微かな音も、歩いてて足に伝わってくるはずの振動も感じなくなった。
そうなったあたしが前を見失わないように、亀井があたしの手を引っ張ってくれた。

静かな世界だなぁ…。

ふと気づけば、ドラッグのキサラと、コンビニ・オーソンのある通りに出ていた。
そこで、あたしの中に『音』が戻ってきた。
「藤本さん、『音』を戻しましたよ。コンビニと薬屋の間の小道…なくなっちゃいました」
「も…戻れたんだ…」
ち、力が抜ける…。
「あの女の人も…どこに行っちゃたんだろう…」
まさか…白昼夢だったんじゃないだろうか。いや、そんなわけない。

「あたしたち、ずっとここにいるわ…『犯人』が捕まるまで…」

「え?」
確かに今、あの女の声が聞こえたけど…あたしと亀井が振り向くと、そこには誰も
いなかった。
そういえば名前…聞いてなかったな。


31 ::2005/09/30(金) 01:55:33

殺人鬼…か。
石村舞波は本当に死んでしまったのだろうか?
そして、彼女を殺したのは、かつてあたしと真希ちゃんを殺したあの男なのか…。
でも、あの男と関わるのは…絶対にゴメンだかんな。

あたしは、タイミングを逃して亀井にお礼を言い忘れた。
落ち着いてから気がついたんだけど、照れくさくて言えなかった、ただ一言。

…ありがとう。

TO BE CONTINUED