銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>@〜

8月15日

ぶどうヶ丘高校 校舎

:??? ????

ぽた・・・・・

    ぽた
・・・

ぽ   た

噴出した血が止め処なく床に降りかかる・・・・・・

「しっかり『押して』おきましたぇ。・・・・これであの時の様なチカラがでまっせ?」
声の主は頚椎から血に塗れた指をぬるりと抜き出す。
頚椎に指を突っ込まれていた少女の身体は空気が抜けたようにバタリと倒れ動かなかった・・・・・。

「♪表が有れば裏がござる♪・・・・くく・・・あの藤本の番いがこの段階で暴走したら・・・くく
 寺田も困るでっしゃろなぁ・・・・・・ほんま笑いを耐えるのが辛いわ・・・・・」

伽藍堂の空間に少女の押し殺した笑いが響く

く   くく  くく  くくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく





あーーーーーーーーーーーッはははははははははははははははははははははははははははッッ!!!!!

狂気に満ちた笑い声は落ちる鮮血の雫の如く周囲を染めた・・・・・・・


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>A〜


8月15日

帰路

:柴田あゆみ 紺野あさ美 小川麻琴 夏焼雅 中島早貴

ガタン・・・・ガタン・・・・
真紅に彩られたワゴン車が車体を揺らしながら夜の闇を駆け抜ける。

「・・・・とりあえずみんな、あたしン家に来て貰うよ。」
柴田あゆみはバックミラーで車内を見ながら言う。
手前の二列には戦闘のダメージが抜け切れていない紺野あさ美、小川麻琴の顔が見え最後列の三列目には
枯堂榮に倒されぐったりとしている中島早貴が横たわっており夏焼雅が看病する様に横に座っている。
「異論はないよね?そのままじゃ家には帰れないだろうしね・・・・」
あゆみはアクセルを踏みしめ家路に急いだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・



車内に沈黙が続く・・・・・・。


「何で?」
あさ美の言葉が沈黙を破る。
「ミュン?」
自らにかけられた言葉にあゆみは呼応した。
「何で・・・・・柴ちゃんはあの場所に来たの・・・・本当は別に『目的』が有ったんじゃあないですか?」
あさ美は前の席で運転しているあゆみを覗き込むように問う。
「そうだ是!御都合主義がトクサツの原則ったって幾ら何でも無理がアリアリだ!」
麻琴もあさ美の言葉に同調する。
「・・・・・まぁ・・・・あの場に居合わせたのは偶然だミュン!・・・・私達の動きを逐一『記帳<レコード>』
 してるヤツが居たから暫く黙らせる為にね・・・・・」
あゆみは両手でハンドルを握り直しながら答えた。
「そッ!それって!」
『レコーダー』という言葉に反応した雅が声を荒げる。
「そうだミュン!ソイツが・・・・いや元演劇部の『矢口真里』ってのが情報屋気取りで集めたのが『リアル・
 レコーダー』だミュン!」
バックミラーで雅の顔を見ながらあゆみはそう答えた。
「でも・・・・まだ・・・解りかねます。『目的』が有ったのに私達の所に駆けつけてきた・・・・・
 それにこの大型車・・・柴ちゃん一人で行動してないでしょう?数人の『チーム』での行動だった。
 違いますか?」
深く座席に掛け直しながらあさ美は尚もあゆみに問う。
「流石・・・・っつーか恐ろしい洞察力ミュン!私達もある『組織』と戦ってるのよ!こっちの情報だと部内に
 その『組織』の内通者が居るってんでね・・・・まぁだから絵梨香には聞きたい事があったのに・・・・」
ヤレヤレといったリアクションを取りながらあゆみは車窓の闇を眺める。
「組織?・・・・もしかしてその組織って・・・・?」
自らも『組織』との戦いに身を投じている雅が問い掛ける。
「・・・・・・『ライナーノーツ』」
あゆみはその単語だけ答えた。

「・・・・・・ええッ?!」

ピリリリリリリリリリr・・・・
雅の言葉を遮る様にあゆみの携帯が着信音を放つ。
ピッ。
「あ・・・・ミュン?ひとみん?うん・・・そう解った・・・・今、あたしン家に向かってるトコ・・・・
 そう・・それで何人か怪我してるの、家で治療するから暫くは・・・ッッッ!!!!ミュン!!!行き成り
 変わらないでよッ。五月蝿いなァーッ!だから済まないって。ちょっとの間、ほかで時間潰しててよ・・。
 ロイポ辺りでさ・・・・・その方がひとみんと一緒に居れるミュン。・・あぁそう・・知ってた・・・・。
 あ〜・・・そう言えば榮クンに逢ったけど・・うん・・そう。じゃあ話が纏まったらそっちに行くミュン!」
ピッ。
「ゴメンネ!話の途中に電話で・・・・・で?何?雅ちゃん?」
あゆみは携帯を仕舞いながらミラー越しに雅を見る。
「・・・・いえ・・・それより電話の相手は誰だったんですか?榮さんの知り合いみたいでしたけど?」
雅の問いかけにあゆみは軽く笑って答えた。
「ミュン!あたしの『仲間』・・・・そうだ!話が終ったら逢うと良いよ!」

ドッドッドッドッ・・・・・

ワゴン車がスピードを落し一軒家の前に停車した。
「さて、到着・・・・此処があたしン家・・・・まぁ詳しい話は中でしようよ・・・」
あゆみの呼びかけに一同は降車し柴田家の門を潜った。

ーーーーーーーーーーーーッ。

「ッッ??アレはッ。」
あさ美が思わず声を上げたッ!玄関の隣から威圧する様な二つの光が見えたのだ。
「あぁ・・・・アレね。『ばし』、この子達は私のお客さんだよ!」
「『ばし』?」
一同に疑問符が飛び交う。
ばしと呼ばれた柴犬は吠えもせずに小屋らしき板切れの集合体に戻りその身を伏せた。

玄関の傍に粗末な板切れの集まり・・・・・それに記入された文字・・・『しばたばし』

「『しばたばし』・・・・ウチで飼ってる・・・というか居ついてる犬だミュン!」
あゆみは一同に告げると玄関の鍵をガチャガチャと開け始めた。
「『ばし』ですか?・・・・随分と個性的な名前ですね?」
眠るように目を閉じ地面に伏せる柴犬をみながらあさ美は呟いた。
「逆さから読んでも『しばたばし』!なんちってね?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・

夏の夜の蒸された空気が一瞬でうすら寒くなる・・・・

「アレ?・・・何?皆・・・・面白くない?・・ばしの名前の話は・・・絶対スベらないハズなんだけど?」
あゆみの顔に戦闘では見られない緊張の色が奔る。
「・・・・思いっきりスベってるヨ!そんな下らない冗句の為に変な名前付けられた犬が可哀想だ是?」
呆れ顔のまま麻琴はあゆみの肩を叩く。
「い・・・・いやそんなこと無いッ!気にいってっるって!気に入らなきゃ8ヶ月もウチに居つかないから」
あゆみは動揺の色を隠せないまま犬小屋を叩く。
「・・・・8ヶ月・・?ですか?」
『何か』引っ掛かる・・・・そんな表情をしながら雅はあゆみに問うた?
「?・・・そう今年の初めになんか知らないけど野良のコイツが玄関の所に居つき始めたミュン!」

「あの・・・部の仲間・・・梨沙子も犬を飼い始めて・・・・それに舞美も・・・千聖も・・・・
 今年の初めから飼い始めたみたいで・・・・こんな『偶然』が有るんですか・・・・・ね?」

「ミュ〜ン・・・・何なんだろうねぇ・・野良の一群が・・・年末に杜王町に引っ越してきた来たトカ?」
そんな冗談めいた事を言いながらあゆみはガラガラと玄関の引き戸を開けた。


8月15日

あゆみの部屋

:柴田あゆみ 紺野あさ美 小川麻琴 夏焼雅 中島早貴

「え〜と、これがパイロールでこれがキズアワワ・・・・・あとは箱から適当に見繕ってね!」
柴田あゆみは薬箱に床に広げた。
「こりゃどーも・・・・あたしは火傷っぽいからパイロールで・・コンコンはキズアワワで良い?」
麻琴は薬缶を手にするとあさ美にスプレー缶を手渡した。
「ありがとう、麻琴。・・・・私達はこれで事足りますが・・・彼女・・中島ちゃんはどうしましょう?」
あさ美は傷口にスプレーを噴霧しながら中島早貴を見た。
早貴は依然、気を失って昏睡状態に在った。
「ミュン!・・・・榮クンの事だからそんなに強く打撃を与えてる事は無いと思う。」
あゆみは早貴の顔に手を触れる。
「で・・・・・雅ちゃんいいかな?」
「あ、はいどうぞ。」
雅はあゆみに催促されるままに『リアルレコーダー』を手渡した。
「どれどれ〜・・・存在する事は知っていたけど見るのは初めてミュン!」
ペラペラとファイルを捲るあゆみにあさ美が声を掛ける。
「私が読みます。・・こう見えても速読は特技なんですよ?」
「そう?じゃあ内容の真偽・・・・というか私達が知りえなかった所がないか見て欲しいミュン!」
あゆみからファイルを手渡されたあさ美は凄まじい勢いでファイルを捲りあげるッ!
「・・・・oioi 。紺コン?それでちゃんと読めてるのかヨ?」
麻琴の言葉も何処に吹く風とばかりにあさ美は涼しい顔を崩さず答えた。
「心配は無用ですよ。ちゃんと読んでます!・・・・・・麻琴が能力を身に付けて愛ちゃんと戦った日、
 私と会話をしたことまでしっかり書かれています」
「・・・・・そういえばそんなことも有ったナ?昔の事で忘れちまいそ〜だったケド。」
麻琴は片目を閉じてその時の事を思い出しているようであった。
「矢張り、そうでしたか・・・・。」
「何だよッ!冗談でそー言っただけでワタシはそんなに馬鹿じゃあ無いゾッ!」
あさ美の言葉に麻琴は憤る!
「・・・・麻琴の事じゃあ有りません。矢張り私達が睨んだとおり『松浦さん』はスタンド使いでした!」

「「「な・・・・・・・何だってェーーーーーーーーーーーッ!」」」

「松浦さんて・・・・・・藤本さんの友達ですよね?前に逢って挨拶した事が・・・・・・・でも何で?
 藤本さんからそんな事、聞いてないし・・まさか部員でもない人に寺田が『弓と矢』を使うなんて事が?」
雅は慄きながら自分の意見を述べた。
「そのまさかです。この記述に依ればミキティとほぼ同時期に『弓と矢の試練』を受けさせられた様です。
 その後は何故か戦闘試験は行なわず『スタンド能力を付けさせた』と言う段階で留まってますね。」
あさ美の言葉にあゆみは眉を顰めて問う。
「ミィュン〜!?なんだかオカシい話じゃあない?私やむらっちゃん、マサの時は指令まで出して引っ張ってきた
 位なのに?自分でスタンド使いにしておいてそのまま放置?理解出来ないミュン?」
その問いに返答するようにペラペラとあさ美はファイルを捲くる。

「戦闘記録は・・・・ここです。『岡田唯との戦闘:勝利するがその後に異変、スタンドの形状が変化す』
 との事です。記述の日程によればこの日にミキティと後藤真希が三好絵梨香と戦闘をしています。
 事前に岡田さんの攻撃を受けた事でミキティの戦闘能力は相当ダウンさせられたようですね・・・・・
 そこへ後藤さんが助太刀に現れた様ですが三好さんに返り討ちに合い倒されています。そして一騎打ちに
 なった時に岡田さんのスタンド能力が解け三好さんを撃破。となっています、この時に岡田さんが倒された
 のでしょうが・・・・・・・『スタンドの形状が変化す』・・・ここは妙に引っ掛かりますね?」

「oioi・・・・・スタンドの形状が変わるって・・・・亀ちゃんのエリーゼシリーズみいに『進化』したって
 事カイ?」
麻琴はすでに3段階の変化を遂げた友人、亀井絵里の名を出す。
「スタンドが・・・進化?」
聞いた事の無い言葉を雅は問う。
「極まれの様ですが・・・・・本体が窮地を脱しようと精神的に『成長』した時、その象徴たるスタンドも
 また姿や能力を変える現象です。・・・・・が、この場合は少し違うようですね?」
あさ美はベラベラと勢い良くページを捲る。
「このファイルにはその後、制御不能の完全自立型スタンドになり松浦さんはスタンド使いである事を『忘れ
 てしまった』かのように振舞っている・・・・・スタンドは町を徘徊し都市伝説として語られている・・・・・・・・だそうです」
「都市伝説・・・・・最近だと『幽霊トラック』の話ですよね?」
此処最近は頻繁に聞かなくなった『怪談』を雅は口にした。
「ミュン!・・・・『幽霊トラック』・・・・いや『あの時』の黒塗りのトラックの本体が松浦って子!?でも
 ・・・・・でも何で?」
過去に自らの必殺技を押し返した強敵をあゆみは思い出した。
「そこの詳細は記入されていません・・・・意図的に記入されていないのかもしれません・・・・・しかし
 岡田さんを倒せるくらい強力な能力を持っていながらそのコントロールを失う・・・・・これはおかしい
 ですね・・・・それとここも妙です」
あさ美の指が2,3ページ進んだ所で止まる。
「『指令』を受ける回数・・・・ミキティは多すぎます・・・しかもどれも危険な物ばかり・・・一回、石川さんと
 交換した指令では石川さんは病院送りになるほどの重症を負ったことがあります・・・・まるでミキティの能力
 を試すようなムチャなものばかりですね。」

「それじゃあ・・・・寺田はミキティを危険な目に逢わせて経験を積ます心算だったのかヨ?」

「ええ・・・・まるで刃物を鋭く研磨するように・・・・・」
その言葉に合わせあさ美はファイルの端に指を這わす。
「何のため?寺田の本当の目的は・・・・ヤツの盲信しているエゴイズムを満たすだけだろ?その手足に
 なるヤツが必要なだけで・・・・もしだ・・・もし経験を積んで自分を凌ぐ・・・・なんてヤツが・・
 ・・・・出たらアイツはどうする心算なんだ?矛盾するだろ?」
あさ美の言動の矛盾・・・・・・普段はありえない言動に麻琴は奇妙な感覚を覚える。
「・・・・その為の松浦さんなのかもしれません。」
冷たくあさ美は呟く。
「・・・・・・ッ!その為って・・・」
その呟きに雅は恐ろしさを感じ声が震えた・・・・。
「ここは私の憶測でしかありませんが・・・寺田光男は自分の能力が高くても完璧にはコントロールするのが
 難しいようです・・・・だから自らの代行者を欲しています。その代行者は・・・・・『ミキティ』」
ファイルから目を離しあさ美は一同の目を見ながら語り始めた。
「いやそれはコンコンの意見で憶測じゃあないだろう?」
麻琴は何時も聞いているあさ実の言葉に突っ込みをいれる。

「ここからが憶測です。『彼』の性格上、万が一暴走したり自らに反旗を翻した時に切るカードとして・・・
 『松浦亜弥』というカードを用意していた。という事です」

「カードってまさか・・・?」
あゆみがそのキーワードに引っ掛かりを覚える。
「ミキティを始末する為に。です。親友であればミキティは倒すのを躊躇う!そのスキマを狙う為でしょう」

「oioi・・・・話が跳躍しすぎだゼ?その推理は余りにもワンダーすぎる・・・・妄想だろ?」

「じゃあ問いますが・・・・麻琴はなんで最初に愛ちゃんと戦う事になった。のでしょう?」
呆れたような表情の麻琴を真剣な眼差しであさ美の目が穿つく!
「ッ?」
その真剣さ・・・麻琴の背筋に冷たいモノが奔る。
「それは麻琴が最初から寺田を危ぶんでいたから。最初から始末する心算だった。審査を切り抜ければ強力な
 手駒になり『高橋愛』の精神も敗北感を利用すればコントロールしやすくなりその敗北感でより一層、強い手駒
 になる・・・・・どちらに転んでもよかったんですよ・・・・・・。」
あさ美はファイルを閉じ床に置いた。
「そんな・・・・ワタシはあの時ですら・・・アイツの手の平で踊らされていたってのか?」
戦慄きながら麻琴は両手を握り締め声を絞り出す・・・・・。
「あの男はそういう人間です・・・自分の手すら汚そうとはしない・・・・・いや『躊躇』する。」

「そしてその『躊躇い』が彼の強さ・・・・・なのかもしれません」

「ッ!そんなの強さな訳が無いだろッッ!」
あさ美の言葉が麻琴を逆上させる。
「手を汚す事の怖さを『知る』からこそ汚す事を『躊躇う』・・・・・だからこそ『彼』は『負ける事が無い』」
逆上した麻琴を冷ますようにあさ美は呟いた。
「・・・・・・・・・・」
あさ美の言葉に一同は声を失う・・・・。

「岡田さんとの戦闘の後・・・・恐らく松浦さんはどこかで寺田光男の計画を知ったのでしょう・・・・・
 そして自らの運命を知った彼女はスタンド能力を拒み、完全自立型スタンドに変えその記憶も封印した。
 のでしょう・・・・ですがこれもまた寺田の筋書き通り・・・・・・利用出来る時まで放置しても危害や
 リスクを負う事が無くなった、と言う事です。」

「・・・・・・プレイヤーは自分への危害やリスクから隔離された世界でのうのうとゲームを楽しむつもりなのか?
 ・・・・・・・どこまで・・・・どこまで腐り果ててるんだッ!!!」
吐き捨てる様に言うと麻琴がギリギリを歯を喰いしばり始めた!

「逆に考えましょう!」

「ミュン?逆?」
突然のあさ美の言葉にあゆみは困惑して問う。
「そうです、カードが手に無ければ使えない訳では有りません。カードがアチラに握られているなら・・・・ そのカードを頂きます!」
あさ美は右手を強く強く握り締める・・・。
「頂くって???トランプじゃあ無いんですよ?どうやって・・・・。」
ババヌキを連想した雅はあさ美に言葉の真意を問う

「私達の仲間になって貰います!」

「は・・・・・・はは・・・・・流石はコンコンだ・・無茶苦茶だ!・・だが・・・先手を切るには
 その方法が一番効果的かもな?・・・・・寺田が仕込んだ歯車が動く前に仕掛けを先に動かしちまえば計画はブチ壊れだ・・・・・
 アイツの吠えズラが目に浮かぶ!!!」
出された答えに麻琴はケラケラと笑いながら・・・・・・だがその目は新たな希望に輝いていた!

あさ美は立ち上がり一同の顔を見ながら強く言葉を発した。
「私と麻琴は寺田光男の邪悪から町を護る為、しばちゃんと雅ちゃんは敵対組織『ライナーノーツ』の野望
 を打ち砕く為。そして松浦さんは自分自身を取り戻す為・・・・私達は手を取り合わなくては成らないのです!」

あさ美の言葉を聞きあゆみは満足そうな表情で答えた。
「手を取り合わなくては・・・・か・・・・。ミュン!私は何ら不都合は無いッ!寧ろ大歓迎だミュン!雅ちゃんは?」
あゆみに声を掛けられた雅も心に熱いモノを宿し答えた。
「はいッ!私は・・・・ずっと不安でした・・・・けれど皆さんとならどんな事も容易くやれそうです!」

二人の答えを聞き麻琴は右拳を左手でパンパンと受けながら笑みを浮かべた。
「へへ・・・・・何だよやる気マンマンじゃあないか・・・・もっと早くこう言う出会い方をしてればよかった是!」

「そうと決まれば行動を急ぎましょう!明日にでも・・・・」

チャラン・・・・チャラン

「?」

金属が擦れ合う・・・妙な音が『小さく』響いた・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・!
暗がりから伸びる白銀の鎖・・・・一同はその伸び行く先を凝視した!
視線の先、白銀の鎖が毒蛇の様に『リアルレコーダー』に絡みついていたッ!

「ッ!!!!!」
スタンドの鎖、その本体!昏睡状態に陥っていたハズの中島早貴は音も無く立ち上がっていた!

「・・・・・な・・・・中さきちゃん・・・・?・・・・何時の間に・・・・」
意識の無かったハズの早貴の状況を知っていた雅は有り得ない状況に言葉が詰まる・・・。

「触れさせない!何人たりとも『リアルレコーダー』にはッ!」
早貴の執念を支えるように緑の蔦が早貴の身体を覆う・・・・。
「こ・・・この『蔦』はッ?」
木乃伊の如く蔦でぐるぐると巻きつけられた姿の異様さにあゆみは声を震わせる。
「・・・・『コード2』・・・・?」
あさ美は『岡田唯』のスタンドの名を呟く。
「コードシリーズ・・・・岡田のスタンドか!アイツは他人を弱らせたり操作したり本当に腹黒い女だゼ!」
FRIENDSHIPを発現させ麻琴は臨戦態勢に移るッ。
「岡田さんまで・・・・・こんな・・・・・・」
先輩である岡田唯が一回だけ見せたスタンドの形態・・・・雅は目を疑った。

「柴ちゃんッ!無理を言うようですが彼女を傷付けずに蔦を除去する事・・・・出来ますか?」

「はぁ?誰にモノいってんのさ? 私はヒーロー!ヒーローに不可能はッッッ!!!!無い!!!!!!!」
あさ美の言葉に闘志を燃やしたあゆみはPDAに『キーワード』を打ち込むと勢い良く腹部のベルトに装着させた!

『standing by・・・』

・・・・・キュンキュンキュン。
あゆみの身体を紅の閃光が包む!

「キュフ!潰してやる!ファイルごと!お前等達も!何もかも潰してやるゥゥウウウ!!!」
早貴は狂ったように絶叫し鎖を引き絞る。
「やめて!早貴ちゃん!そのファイルにはまだ知らなくちゃなら無い事が・・・・・」
雅の懇願も虚しく鎖はファイルに食い込む。
ミチ・・・・・・ミチミチミチッ!!
紙が捻じ切れ紙片が宙にに舞うッ。

「次はお前等だケロぉぉぉおおおぉおぉぉおおおぉ!!!」

「クロックアップッ!」
あゆみはカチャンと右ベルトのボタンを叩く!

 
 紙 片 が 床 に 落 ち る 一 瞬 で あ っ た !


〜〜

〜〜

〜〜

〜〜

全ての動きがまるでコマ送りになった世界をあゆみは自在に動く・・・・・・・・・

「コレね?」
早貴の頚部の異変をあゆみは素早く引っこ抜く!
その動きは機械以上に正確に力強い!その力はまさに常人の十倍ッッッ!!!

「クロックオーバー・・・。」

「え?」

「あ?」

「ハァッ?」

瞬間移動の様に何メートルか移動していたあゆみ。
その背後で蹲る早貴。

突然現れたその構図に三人は絶句した・・・・・・。

「ミュン?何なの?その監督が更迭されて番組の路線がねじ曲げられたみたいな顔して?」
あゆみは人差し指と中指をチャッチャと振るう・・・・・・。
その指の間には『コード2の芽』が挟まっていた!

「ッッッ!!!」

「岡田唯の『ハイドロレインジャ:コード2』・・・・攻略させて貰ったミュン!」
ポギュ!
あゆみはコンデンサのような形態をした『芽』を握りつぶした!



中島早貴は倒れ紙片が床一面を覆う・・・・・。
「・・・・ボドボドだ・・・・・折角、榮さんが苦労して持ってきてくれたのに・・・・・」
ボロボロになったファイルを雅は悲しそうに見つめた。
「そうだね・・・・でもまたテープで貼り付ければ復元できるよ・・・。」
あゆみは引き千切られた紙片を床から拾う・・・・。
「しばちゃん。こう言う細かい作業は得意なので私に任せてください!」
あさ美はあゆみの手から紙片を取ると細切れの紙片を一枚残さずかき集めた。
「・・・・・・・・」

「雅ちゃん。去年の分のファイルは破られてしまいましたが今年のファイルは直ぐさに
 隠したので無傷です!今度は敵対組織『ライナーノーツ』について考察しましょう!」
あさ美は無傷の『もう一つのファイル』を出して雅を元気つけようと笑顔を見せた。
「ミュン?隠せるほどの余裕があったのに何で二つとも隠さなかったの?」
その笑顔をあゆみは冷たく見やる。
「・・・・・?」
あゆみはあさ美の腕を掴む!
「・・・・・さっきから気になってたんだけどさ・・・・自分から率先してファイルを読んだりとかさ??
 何だか妙に引っ掛かるんだケド・・・?
 本当は・・・・・破られたファイルには紺ちゃんが読まれては困る事が書いてあるんじゃないの?」
握る手に力が篭る!
「oioi!やめろよッ!コンコンに限ってそんな事が・・・・」
二人の間に麻琴が割ってはいる!
「・・・・・・そうですよ?柴ちゃん・・・・考えすぎですよ・・・・・。」
あさ美は自嘲的な笑みを浮かべてそう答えた・・・・・。

ピリリリリリリリリリr・・・・

電子音が響きあゆみは携帯を取る。
「ミュン!?・・・・あぁ・・・仕事なの?じゃあしょうがない!今日はこれで!そんじゃぁ・・・」

ピッ!
「さてと・・・今日はここまでにしょうか?」
携帯電話を切るとあゆみはそう告げた。

「ええ・・・・そうしましょう。破損したファイルは明日までに復元しておきます。」

「・・・・お願いするミュン。『仲間』として」

「oioi・・・・誤解してるだけだろ?そんな突っかかる言い草は無いんじゃあ無いカ?」

「やめてくださいよ・・・・・・・そんな事より手を貸してください!」
早貴を肩に担ぎながら雅は言い争う先輩達に割って入る。
「ごめんね・・・・・送っていくよ」
あゆみは雅に謝まりながら早貴の肩を持ち上げる
「さてと・・・・あぁそうだ。雅ちゃん。悪いんだけれどあと今年のファイル貸してもらえる?」

「え?でも・・・・・私も早く内容を知りたいですし・・・・・」
敵の情報を早く知りたかった雅は露骨に嫌な顔をした。
「じゃあ明日の朝一に取りに行くから何時間か貸して貰えない?」
あゆみはなおも食い下がりファイルの貸し出しを懇願した。
「はぁ・・・・そこまで言うのなら構いませんが・・・・何故ですか?」

「ミュン!一人仲間になって欲しい人物を説得するのに必要なんだミュン!」


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>B〜


8月16日

:藤本美貴

「うぇ〜・・・・蒸しアチィ・・・・・こんな時はクーラーの効いた場所でゆっくりしたいもんだぜ・・・・・・・」
美貴は纏わり付く熱気を払うように手で額を拭った。

商店街の歩道が乾いた音を響かせる・・・・
「まったくよォ〜・・・・久方ぶりに連絡が来たと思えばメシ喰いに行こうだなんて・・・・・
 誘ったんなら時間前に来てろよなァ・・・・・・・」
暑さに蒸され、美貴は悪態を吐きながら待ち合わせ場所をブラブラしていた。

プァン!

「おッ?」
クラクションに振り向いた美貴に紅いワゴン車が近づく・・・・・。


8月16日

:柴田あゆみ

「美貴ぃ〜〜〜!こっち!こっち!」
あゆみは車窓を開けると路地に立つ美貴に手を振る!
「遅ェよォ!暑さで解けてバターに成る所ぜェ?」
そう言うや否や美貴は助手席に回りこむと素早く車内に潜り込んだッ。

8月16日

:柴田あゆみ 藤本美貴

「極楽!極楽!・・・・やっぱり車は良いね!美貴も免許欲しーぜ!」
空調の風に前髪を揺らしながら美貴は幸せそうに微笑んだ!
「ミュン?簡単に言うけれど結構ォ〜〜〜〜〜〜大変ミュン!免許取るのって!」
指をチッチと揺らしながらあゆみは美貴を戒める!
「へへ〜ん。アンタが取れてんだから美貴に取れないワケね〜ジャン。」
美貴は舌を出して悪戯っぽい表情で返す!
「ヤレヤレ・・・・・」
あゆみは呆れながら赤信号で停車した。

「なぁ?今日は何処へ食べ行くの?トニオさんとこ?」
ぎしぎしと身体を揺らしながら美貴は退屈そうに赤信号を待つ。
「そうだね・・・・今日は少し遠くへ行こうか?話があるミュン!」

信号が青に変わりあゆみはワゴンを発信させる・・・・・・。
「話?」
美貴の言葉を置いていく様にワゴンは山間部に向かって行った。

排気音を響かせワゴンは峠道を行く!

「山ン中に何か美味い処って有ったっけ?」
美貴は遠くの山をぼんやりと見つめながらあゆみに問うた。
「ねぇ美貴?最近、菅沼クンに逢った?」
問いには答えずあゆみは山道を見ながらボツリと呟いた。
「ッッッ!????」
突然、投げ出された言葉に美貴は目を見開いてあゆみを見るッ。

「そんなに驚かないでヨ!彼から美貴との事は聞いてるよ〜・・・・・ホラ、彼って普段は
 自分の事、喋らないけど飲むと聞いても居ないのにベラベラベラベラベラベラ喋るからねぇ
 ・・・・」
あゆみはアクセルを吹かし山道を飛ばす。
「なんで・・・・・なんでアンタとアイツが繋がるんだよッ?どういう・・・・一体どういう事
 何だッッッ!!!」
理解を超える展開に美貴は苛立ち怒鳴り散らした!

「ミュ〜ン・・・・・・うるさいなァ!菅沼クンとは共通の敵対してる組織があってね。そこで
 ちょっとシクッた時に彼らの『チーム』に助けられたのが縁で付き合いがあるの。ドゥーユー
 ・アンダァースタン(理解出来た)?」
と言い切ると美貴に向かって指をクルクルと回した。

「敵対する・・・・『組織』?彼らの『チーム』だと?」
クルクルと回る指を追いながら美貴は聞いたことの無い『言葉』を問う!
「敵対組織は『ライナーノーツ』。聞いたこと無いの?中等部の子等や梨華ちゃん達が交戦した
 んだけれど?」
指を引きハンドルに戻しながらあゆみは『敵対組織』を説明した
「ランナーノーツ?」
眉と口元を歪め美貴は問う。
「何だ?美貴は本当に自分以外に興味が無いミュンねぇ?」
呆れた口調であゆみはサイドポケットにある『ファイル』を美貴に渡した。
「・・・・?何だこりゃ?」
手渡された『ファイル』を訝しんで縦や横にして見る!
「『リアルレコーダー』ミュン!美貴達『演劇部』の行動記録・・・・だけでなくこの町、この
 辺境で起こったスタンド能力者の行動の全てが書き記されている行動記帳ミュン!」


同日 同刻

「・・・・それが人に物を頼む態度でっか?」

「じゃあ・・・・これで満足か?」
男は地べたに手を付けると頭を地に付け伏せた。

「土下座・・・・私の邪魔を散々してきたアンタがホンマいい気味やで・・・・・」

ひゅんと軽い音が空を斬り革靴が男の顔面に激突したッ。
「グッ・・・・・・・・」
サッカーボールの様に顔面を蹴り上げられた男は地面から引き剥がされ後方に弾かれる!
「阿呆が!誰がお前なんかと手を組むかッ!冗談も休み休み言いやッ!!!」

「交渉決裂か・・・・・・・じゃあ・・・・死ねよ・・・・」
男の言葉に反応したように胸元に垂れた首飾りが揺れる。

「?」

ボッ  ボッボッ!!
空気が揺れたかと思うと女の服に穴が型を抜いたように綺麗に空く!
そしてその身体が銃で撃たれたかのように反動に震える・・・・・。

「幽霊の『釘』だ・・・・見ることは出来ないがお前の身体を串刺しにした・・・・終わりだな
 ・・・・・・・岡田唯。」

男は足を振り上げると反動で起き上がる。
その視線の先に居る女・・・・岡田唯は『見えない釘』に貫かれた筈・・・・で在ったがそんな
素振りを見せず平然と立っていた。

「・・・・・はぁ?何なんだ?・・・・おい!篤好!真面目にやれよ!お前の『サディスティック
 ・デザイア』で釘をブチ込んだ筈だろッ!」
男は首飾りにまるで人が住んでいるかのように掴み上げ怒鳴り散らす!
その道化染みた男の姿を岡田唯は嘲る。
「無駄でっせ!無駄!・・・・・・ヤレヤレでんな?『協力の申し出』を断った途端、殺しに掛か
 るその両極端さ・・・・・相変わらずの偏狂ぷりやな・・・・菅沼英秋ッ!!!」

ジリ・・・ジリ・・・

夏の日差しに焼かれる木立の中を二人の獣が対峙する・・・・・。

「服には貫かれた痕があるのに・・血が・・・・・出て無いな?」
冷静さを取り戻した菅沼が唯の状態に気付く。
「生憎、私は生娘じゃ無いねんて。」
菅沼の言葉そのものが汚らわしいとばかりに唯は吐き捨てる。
「下らない冗句だな?・・・・おそらく『釘』はお前の身体を貫通していない、いや触れても
 居ないのだろうな。違うか?」
ゆっくりと左手を挙げ人差し指で唯を指すッ!
「はッ!今度は推理モノでも書きはるつもりですか?センセイ?」
敵の言葉を茶化しながら唯はニヤニヤと笑い挑発する。
「てめぇ・・・・一人で来いッて言ったのに『仲間』が居るなッ!?」
素早く周囲に目を配るが菅沼は人の気配を探すことは出来なかった。
「アンタかて『幽霊』のお供が居るやろ?条件は一緒や無いんかいッ。」
その首を振り周囲を見る姿をさも可笑しいと言った顔で唯は恫喝する。
「くッ・・・・この・・・・」
唯の恫喝を・・・菅沼は返せなかった・・。
「まぁええ。アンタの非礼は許したるわ・・・・私は心が広いさかいなぁ・・・・・。」
唯が手を上げると木蔭からガサガサと音を立て少女が顔を出した。
「この娘の『能力』がある限り、アンタの攻撃は一切合切通じまへんえ?」
そう言いながら唯は菅沼に向かって歩き出す・・・まるで攻撃を誘う様にッ。
「そんな事はやってみなくちゃ解らないだろうッッーーーー!」
憤りそのままに銀色の煌きが奔る!

ガキッ・・・・・・・ギギ!

銀色の巨大な鉈・・・菅沼のスタンド『Man Han Quan Xi』が軋む・・・。
「な・・・なんだ?いや・・・・何で俺のスタンドで斬れない?」
空間をも切り開く能力を持つ鉈が唯の首にマフラーの様に巻かれた『鉄骨』に阻まれる。
「時間の無駄やな?こんな事して良いんか?」
斬撃を受けながら唯は涼しげに問う。
「?」
その問い、菅沼は思い当る節も無く只只困惑するだけだった・・・・。
「『石和城 和定』・・・・いや『石和城警部』のほうが良いんか?」

「てめぇ・・・・・何でその名前を・・・・・」
突然、出されたその名に菅沼は激しく動揺する・・・・。
「はぁ?何、言うてんねん?コレがアンタが土下座までしても知りたかった『ライナーノーツの
 首領』の名前やろ?」
拍子抜けした菅沼の受け答えに眉を顰めて唯は解した。
「・・・・・・・何を・・・出まかせを言うな・・・・石和城警部は俺達の仲間だ・・・・・
 あの人の情報が無ければここまで来れなかった・・そんな・・・・そんな訳が・・・・」
唯の言葉に菅沼の瞳から光が消える・・・・・。
「相変わらず御目出度いでんなぁ?良いように使われて石和城にとっての『敵』の始末をして
 ・・・挙句に警察に追われて・・・・ホンマ面白い道化やで?」
クスクスと聞こえるように笑い声を上げながら唯は菅沼を嘲る。
「・・・・・それじゃあ・・・俺が・・・俺が手に掛けた『ライナーノーツ』は・・・・誰だった
 んだ・・・・。」
ワナワナと震えながら・・・・菅沼は己の掌を見た・・・・。
「そんなん知るかいな!アイツの次のターゲットは『伊達謙』、『枯堂榮』やで・・・・・
 その内『ジォルジュ・エネスコ』や『遠見塚正宗』も引っ張る気やろ・・・・最後は孤立した
 アンタを社会的に抹殺する心算やろなぁ・・・・・・?」
まるで空想に取り付かれたような瞳で唯は夏の空を遠く見た。
「・・・・・・ッッ!!!!」
菅沼は強く強く歯を喰いしばる。
「その表情・・・・最高やわ・・・・・さぁ遊んどらんととっとと消えや?」
憎悪に満ち満ちた菅沼の表情を楽しみながら唯は促す。

菅沼は無言で踵を返すと山道を駆け下りた・・・・・。
どんどんと小さくなっていく菅沼の後ろ姿を冷めた目で唯は見送った・・・・・。









そして、同日 同刻

8月16日

:柴田あゆみ 藤本美貴

「こんな・・・モノが・・・マジ信じられねぇ・・・・・・」
美貴はファイルの文字を乱雑に追う!
「・・・・・・・・美貴?ちゃんと読んでる?」
あゆみはファイルに適当に目を通している美貴を叱る!
「ちゃんと読んでるよ・・・・・・あッ菅沼のアホの事が書いてある何々?」
久しぶりに見た知り合いの名を美貴は指で追う。
「え〜3月14日。ブはッ!何だコイツ!?ホワイトデーに何やってるんだよッッw!
 で・・・・・・同系列中等部の片倉景広、伊達謙との接触によりスタンド使いと
 しての資質に目覚める?この片倉ってれいなと同じクラスのヤツ?それに伊達謙?・・・
 『謙』って言ったら・・・『あの時』の赤髪の男か?待てよ?ぁあ?何で菅沼の記述に
 コイツの名前が・・・・・変わった流れでは知り合っても居ない筈なのに・・・・・?
 ・・・・・・コレが『運命』だってのか?」
夏だと言うのに寒気が走りブルブルとその身を震わせる。
「This is 運命!」
震える美貴にあゆみはピッと指を指す!
「茶化すんじゃねェッ!アンタの言ってた菅沼の『チーム』ってのはコレのことなのかよ!」
茶化された事に激怒しながら美貴はあゆみに問う!
「五月蝿いなぁー!その先もちゃんと記述されてるんだから自分で読みなよ!」
怒鳴り声にあゆみは指し出した指を耳に差し込んでオーバーにポーズを取る。
「うるせー!うるせーよ!・・・・・・言われなくたってそうする!」
そのオーバーなリアクションにまた腹を立てながら美貴はファイルに顔を突っ込む。
「っと・・・・・・え〜・・・『同日、些細なトラブルから片倉景広と伊達謙は『ラーイナーノーツ』
 のメンバー「五条杜馬」と戦闘になる。五条杜馬は本来の目的は戦闘では無い様だったが『空間、物質をジェル化』する
 能力は凄まじく片倉・伊達の両名は文字通り手も足も出なくなる。戦闘開始から5分後、要注意人物である「菅沼英秋」が
 何故か出現し?状況も解らないまま片倉・伊達を助けようと行動するが去年の報告通り、『彼の神父』によって彼の
 ・・・・・『スタンド能力』と『再生能力』はDISC化され失っているいる為?ものの数秒で致死に至る。
 ・・・・・・が?不測の事態が起き何故か菅沼英秋の『スタンド能力』と『再生能力』が復活し?五条を倒す。
 菅沼英秋の身に何が起きてその現象が起きたのか?
 それは未だ不明だが藤本美貴、岸辺露伴そして今回の件で片倉・伊達とも
 繋がる彼は今後とも『注意』が必要と思われる。』・・・・って何だ・・・この内容・・・?」
思わず美貴はあゆみの顔を見た・・・・。

「ミュン?書いてあるとおり!そん時に伊達クン等と知り合って『チーム』を作ったんだって。」

「そんな事、聞いてるんじゃ無ェッーーーーーー!『彼の神父』って何者だって聞いてるんだ!」
あまりにもシレっと答えるあゆみに美貴は当たり散らす・・・いや当らずには居られなかった。

自らの知らない所で自分が想像していたより遥かにドス黒く巨大なモノの蠢き・・・・その蠕動に
身の内側から不快感を与えられている・・・・そんな感覚が彼女を浸食し始めてた・・・。

「あ〜・・・『プッチ神父』の事?寺田の仲間っつーか協力者みたいなヤツで一緒につるんでた
 時期もあったみたいだけど・・・・・・随分前にアメリカに行ったって事までは調べたケドね。
 私等の知ってる情報はここまで・・・・『スタンド能力』はそこに書いてある事位しかね・・・
 その「DISC化」ってヤツ?」


「「!!」」

あゆみのワゴン車が大きく揺れる!

「な・・・・・何が・・・!????」
美貴の身体が断続的に前に投げ出される。
ワゴン車は後方からの衝撃で突き飛ばされがら走行していた・・・。
「・・・・・ミュン!・・・・・予定が・・・随分と早まってんじゃないの?」
あゆみは衝撃に歯を喰いしばりながらバックミラーを動かして後方の『敵』を目視したッ。

幅の狭い鏡に映る漆黒の車体・・・・
そしてソレを駆る者は・・・・・。

「あ・・・・・亜弥・・・・・ちゃん・・・・・」
サイドミラーに映った親友の姿に美貴は言葉を失った・・・・・・・・。
 

銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>C〜



ドギャッ!ドグァッーーーーーーー!

金属が潰れる音を立てながらあゆみのワゴン車は蛙の様に道路を跳ねながら走る!
「ミ・・・ミュ〜ンッッッ!!!!!!中古だからってこの車が幾らしたと思ってんのよッッ!!!」
あゆみの言葉を無視するが如く松浦亜弥の『GoodbySummerGuy』が容赦無く追突を繰り返す!

ミシャ・・・・・バリバリバリッーーーーーーーーーー!!!

リアガラスが派手な音を立てて粉砕した・・・・。
「チッ・・・・・・聞く耳持たずってか・・・・・板金どころの話じゃねーーー・・・・・・
 フレームも逝っちゃってるミュンッーーーーーーーーー!」

「何で・・・・なんで亜弥ちゃんが・・・・・・」
美貴は顔を蒼白させ俯いた。
「何で?コッチが聞きたいミュン!紺ちゃんの話ならこうなるのは随分先になるハズだってのに!」
あゆみは口を曲げながら暴れるステアリングを押さえつける。
「紺コンが?あぁ?どう言う事だァッ!説明しろォォオ!」
美貴はあゆみに食って掛かる!
「この状況でそんな事が・・・・・・!?ッ」
襟首を引っ張られたあゆみの視線が揺らぐ。

美貴との会話に気を取られた一瞬・・・・・。
車体がガードレールに激突し後輪が大きく横滑りをしたッ。

ゴシャ!

真横を向いたあゆみの真紅のワゴン車に『GoodbySummerGuy』の一撃が叩き込まれた!
その一撃!
ワゴン車は横転しながら悶えた。

「痛たた・・・・・・運転中に・・・・話かけるから・・・・」
強打した頭部を押えながらあゆみは美貴を責める。
「うるせえ・・・・アンタが中途半端な答え方するからだろ・・・・」
責められた美貴は逆切れをする!
ボン!

車内の二人の視界が歪む!
あゆみのワゴン車は潰れる音を鳴らしながら転がった・・・
地面を這うワゴン車を『GoodbySummerGuy』は尚も追い込むッ。

「このままじゃあ車ごとブッ潰される!美貴!外に出るミュンッ!」

「ア・・・・・・アンタに言われなくたって!」

その身を捩りながら二人は鉄の塊と化したワゴン車から這い出た。
 
「美貴ッ!」
あゆみは素早く立ち上がり美貴に手を差し出す!
「おうよッ!」
出された手を素早く掴み立ち上がる。
立ち上がり体勢を整えた二人は黒い車体を睨みつける!


『GoodbySummerGuy』のドアが開き車内から黒衣を纏った松浦亜弥が姿を見せた。


「亜弥ちゃん・・・・・・。」
美貴はその血色の無くなった顔を見ながら名前を呟く。

「・・・giru・・・・」
亜弥は奇妙な呻き声を上げ
黒衣の端から緑色の蔦がシュルシュルと顔を出す・・・・・・

『あの時』の様に・・・・・・・
「岡田唯・・・・・・・ハイドレインジャかッ!・・・・あの腐れホルスタインッ。」
怒りに染まった美貴はギリギリと拳を握る。
「ミュンミュン!まさか同じクダリが2回も続くとはね?」
あゆみはヤレヤレとばかりに両手を広げた。
「ぁあ?アンタあのスタンドと戦った事があるのかよ?」
その台詞に美貴は眉を顰めた!
「楽勝、楽勝!オリーブオイルの瓶が地面に落ちる前に決着が・・・・・・」
と・・・・言いかけたあゆみの顔が強張る!


ギゴ・・・・・ガゴゴッ!

『GoodbySummerGuy』の部品がズレ、再構成したかの様に『立ち上がった』・・・・・。

「『GoodbySummerGuy』・・・・・いや、この形態は『Gistens Absolute Muse(G・A・M)』だ・・
 コイツの前でもそんなクチだ叩けるのか?柴田あゆみ?」

ズシ・・・・・
 
 ズシ・・・・・・

 ズシッ!

その重圧に地面が揺れ巨大な影が美貴たち二人を覆う・・・・。

「これが・・・・・・亜弥ちゃんの・・・・スタンド?」
そのスケールに美貴は息を呑むッ・・・・

トラック型のスタンドの質量そのままの巨大な人型・・・・・・・。
大きさは4〜5mはあろう体躯が美貴を見下ろす。
見下ろされた美貴はその巨躯を見上げ戦慄を覚えた・・・・・・

「呑まれてんじゃない!しっかりしろ!藤本美貴ッ!」
硬直した美貴にあゆみは激を飛ばす!
「だが・・・・やヴぁい事にはなんら変わりは無い・・・・・・速攻で行くッ!」
素早くPDAを取り出し認証コードを打ち込む。

『S K Y S C R・・・・・

PDAを弾くその指が止まる・・・・・。
「く・・・あ・・?何だ・・・・・そりゃ・・・・」
『G・A・M』の足元にいた亜弥の身体がズブズブと自らのスタンドに吸い込まれる・・・・
「ふふ・・・・あなたも『そう』なんでしょ?だったらそんなに驚く事は無いじゃない?」
目を見開いて驚くあゆみを松浦亜弥はせせら笑う。
「何が起きてる?亜弥ちゃんはどうなってる説明しろ!」
目の前の出来事を理解出来ない美貴はあゆみの身体を激しく揺すって問う!
「あの子の身体がスタンドに吸収されてる・・・否、あの子はスタンドを『身に纏っている』!」
美貴の方を向かずあゆみは呟くように答えた・・・。
「だからソレが!」
煮え切らない答えに美貴はなおも問い質す!
「昨日、ハイドレインジャを・・・攻略出来たのは本体が剥き出しだったからミュン・・・・」
PDAを強く握り締めながらあゆみは言葉を紡ぐ。
「はぁ?!」
その言葉に美貴は眉を顰める。
「だから・・・スタンドで覆われているあの子から『コード2』を取り出すのは・・・・無理ミュン・・・。」

「無理だと?ふざけるんじゃねえッ!」
その大きさに気圧されて血の色の引いたあゆみを美貴は叱咤するッ!
「・・・無理ミュン・・・・このスケール・・・ましてや本体は奥深くに潜んでるのに・・・」
美貴の言葉を否定しながらあゆみはその巨躯を見上げる・・・・・。
「いっつも言いたい放題、毒吐いてムチャやってるヤツが都合の良い時だけビビリ上がってんじゃ
 ねえゾぉぉおおぉ!!!!!!」

ビタァアァアァンッ!

「ッグ・・・・」
美貴の平手を喰らいあゆみの身体がぐらりと揺らぐ。
「勝手にしてろ!亜弥ちゃんはミキが助けるッ。アンタはスッコんでろ!」
そう怒鳴りつけると美貴は踵を返して巨人に向かって駆け出す!
「勝手だと・・・・?どっちが・・・・・・だ?」
あゆみは美貴に張られた頬を触る。
「思い切り叩きやがって・・・・・・・ミュン、良い気合が入ったッ!」
指が軽やかに動きPDAにコードキーを打ち込む!

『cord:SKYSCRAPER』

紅い光を放つPDAを静かにベルトに嵌め込む・・・・。

『complete』

認証音が鳴りあゆみの身体は紅の光に包まれた。

「速攻で勝負を付けるッ!」
その意思をダイレクトに伝える様に指が動く!
カチッ
「A」
カチッ
「変換登録:モード変換『アマゾン』」
カチッ
「Enter」

「Complete」

アァーーーーーーマァーーーーーーーゾオォォォオオオォォオオオンッ!

山間に雄雄しい咆哮が鳴り響き「まだらの赤」が夏空を切り裂いた!


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>D〜

8月16日:杜王町 ぶどうヶ丘総合病院


「今日も来たのかい?」

「・・・ええ・・・学校の・・・部活の先輩なんです・・・それに何か・・・気になって・・」

「部活か・・・・・『演劇部』だったかな?確か・・・・・」

「はい、そうですが・・・?」

「彼女はね、3年前にも部活動で怪我をしてここに・・・・今と同じ様な重傷の状態で運ばれたんだ
 ・・・・」
医師は思い出すようにぶら下がる管を見ながら呟く。
「怪我・・・・ですか・・・・?」

「酷い怪我だった・・・・・・ここに運ばれた時はもう助からないと本当にそう思ったよ・・・
 医師がそんな事を言うのは不謹慎だがね・・・ここ解るかい?目頭の少し上、ここに・・・
 そう・・・・『矢』の様なモノが打ち込まれ、引き抜かれた裂傷が脳にまで達していてね・・」

「『矢』・・・」
岡井千聖は『その』言葉に息を呑む。
「あぁ・・・・あの傷は酷かった・・・何でも練習中の事故で目撃者は誰も居ないらしくてね。
 『ソレ』が何で傷付けられたものか解らず仕舞いだった。オマケに異常な発熱や様々な状況が
 彼女を危篤に追いやった・・・・・・・脳波、心拍数共に弱くなって手の施し様が無くなって
 しまったんだが次の日あっさりと全快してしまってね・・・・我々は奇跡としか言い様がなかっ
 た、彼女は『試練を乗越えれた』と・・・そんな事を言っていたがね。」

「試練?・・・・・弓と矢の・・・試練?」

「?・・・・・まぁそんな事が起きた後だから精密検査も気紛れに受けには来るんだが・・」
医師はその先を濁す。
「・・・・・・・・あ・・・あれ・・先生!」
千聖はICUのガラスに指を立てる。
指先の三好絵梨香の指が微弱に上下し、顔は覚醒し始めたような仕草を取っているッ。
「・・・・・有り得ない・・・・彼女の脳は大部分が壊死してるはずなのに・・・また奇跡が起き た・・・・・とでも言うのか・・・・」
駆けつけた看護師達が泡多々しく処置に奔走する中、医師は立ちすくんだ。


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>E〜


「ス ー パ ー 大 切 断 」

空轟かせ、あゆみの手刀が松浦亜弥のスタンド『G・A・M』の脳天に叩き込まれたッ!
急所えの渾身の一撃、手応えは十分に有る・・・・・十分ある筈だが巨人はグラリとも揺らが無い
・・・・。

「クッ!やっぱり押し切れないッッッ!!!!」

「このォォオオォVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVッッッ!!!!!」

BT03が足首を狙ってラッシュを決めるがダメージを与えるどころか美貴の拳から鮮血が噴出した。
「うぎ・・・・・・痛ェ・・・・何てェ堅さだッ!!!」

『そんな脆弱な拳で・・・・・・この町の『正義』を司る心算なの?』

『G・A・M』の内部から松浦亜弥の声が響き巨人の腕が空高く振り上げられた・・・。
天高く振り上げらた拳は雷の様に降り注ぐッ!

「ッッこんなにデカブツなのに速いッ!?」
美貴は退避姿勢を取るが『G・A・M』の拳はそれより遥かに速いッ!
「ケケーーーーーーーッ!」
空中を泳ぐ様に掻い潜りながらあゆみは逃げ遅れた美貴を抱え込むッ。

ズゴォォオオォオォオオォーーーーーーーーーーーッッ!!!
『G・A・M』の拳が山道に突き刺さる。
その破壊痕、さながら爆撃された様な無残な穴が残る。

「デカくて硬くてオマケにとんでも無いスピード・・・・・グレートなスタンドだぜ・・・・・
 亜弥ちゃん・・・・」
打撃を逃れた美貴は乱れた呼吸を整えながら亜弥のスタンドを分析した。
「グレートなのは良いけれどね・・・・・仲間になってもらう心算が戦うハメになるとは・・・・
 『お約束』とは言え笑えない状況ミュン!」
ニヤリと笑いながらあゆみは口を拭う。
「はぁ?『仲間になってもらう』?」
その言葉に美貴は眉を顰めた。
「紺ちゃんがね!寺田の企みをブッ潰すのにってね!細かい事はコトが終ってからにするミュン!」
独り言の様に言いいながらあゆみは腹部のPDAを弾く。

カチッ
「Z」
カチッ
「変換登録:モード変換『斬鬼』」
カチッ
「Enter」

「Complete」

コード認証音と共にあゆみの身体が赤銅色に変わる。

「おいッ。アンタ、何する心算だ?」
美貴の言葉を無視する様にズイズイと巨人に向かって歩き出す。
「手加減して倒せると思ったのが間違いだったミュン!」
あゆみは『スカイスクレイパー・M.D.R 』で構成された斧の様なモノを振りかざす!
「コレで炙り出してやるミュン!!!」

「何だ・・・ソレ?シャベル?」
あゆみの得物の特異な形状を美貴は問う。
「ミュン?まぁ見てれば解るサ・・・・・・。」
そう言うとあゆみは『得物』のを天に翳す様に構え深く息を吸う!

「どっせぇええぇええぇえええぇえぇえぇぇぇぇええぇいッッッ!!!!!!」
大上段の構えを取りながらあゆみは目前の巨人に向かって一気呵成に駆け出したッ。

『ゴァアァアアァアアァ!』
足元を弾け飛ぶ赤銅に亜弥の『G・A・M』の拳が振り下ろされる。
その石柱の様な落下物を素早く身交わすとあゆみはその腕を伝い肩口まで一気に駆け上がった。
「ミュン!」
気合一閃!あゆみは得物を『G・A・M』の首筋に突き刺すと得物を抱え込む様なポーズを取るッ。

「音撃斬・雷電斬震ッッッ!!!!」

『♪ーーーードギェウウウウウゥウウウーーーーーーーーーン

ドリュデーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 
ーーーーーーーーーーーーーードリュデ 
ーーーーーーーーーードリュデ
              ドリュ 
ドリュドリューーーーーーーーーーーー
ドリデデドリデデドリデドリデドリデ

リレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーリレリレ
リレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドリデーーーーーードリュラドリュラドリュラドリュラドリュラドリュラ
   ドリュ
ドギュギララーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー♪』

爪弾く爆音が響く!
その破壊音は振動となり巨人の身体に余す所なく注がれるッ!

「ぎゃあやぁやあや・・・・・・・・・」
巨人の体内から亜弥の叫び声が漏れる。
「この手応え・・・・・行けるッ!直ぐにでもこの悪夢を・・・・断ち切ってやるって!」
あゆみは『スカイスクレイパー・M.D.R 』で構成された得物を握り直すと更に激しくソレを掻き鳴らしたッ!!!

『♪ ギゥ ウゥ      ーーーーーーーーッ
     ュ   ゥゥウウ           !!!!!!!!♪』  

突き抜ける高音ッ。ビリビリと空気を振動させる音に連動するかの様に『G・A・M』の巨躯がフラフラとよろけ遂には
山道にその膝をガクリと落す・・・・・。
「よっしゃッ!このままノックアウトしてやるミュンッーーーーーーーーーーー!」
勝機を感じたあゆみは尚も破壊音を奏でた・・・・・・・が、直ぐに違和感に気付く・・・・。
「ミュンッ?!これはッ?」
眼下に見える黒い裂け目・・・・山道に亀裂が入り崩れ始めていた・・・・。
そしてその山道にガッシリと伸びる柱・・・・・否、『G・A・M』の腕があゆみの『音撃』を地面に逃す為に山道に深く突っ込まれていたのだ・・・。

あゆみが状況を察知した瞬間。その身体は握りつぶされる様に巨人の身体から引き剥がされコンクリに叩き付けられたッ!
玩具のようにバウンドしたあゆみの身体に『G・A・M』は容赦なく拳を走らせる。

「ッぉぉおおぉぉおぉおおおお!!!!!!!!」
迫り来るプレス機の様な圧撃をあゆみは地面を転がり何とか避けた・・・。

「あゆみッ!!」
友人の劣勢に堪らず美貴は駆け出す!
「ミュウン!コイツは強すぎるッ!!あたしらだけでは歯が立たないッ。」
あゆみは得物を地面に突き立てよろける身体を支えた。
「ッな?! 何言ってんだァーーーーーーーッ!」
あゆみの無責任な発言に美貴の絶叫が木魂する。
「元より『仲間』と落ち合う予定だったミュン!だから落ち合うポイントまで突っ走るゼェーーー!」

『ギャリババッバババアバーーーーーーーーーーッッ!』

地面に突き立てた得物を凱歌の如く爪弾く。
振動は山道に亀裂を創り、蜘蛛の巣の様に『G・A・M』に伸びる。

「ッ!?」

『G・A・M』の周囲は脆く崩れ始めあっという間にその身を封じた!

「おっしゃッ!美貴!ズラかるぜッ!!!!!!!!!」
状況を確認するとあみゆは力強く大地を蹴り駆け出した。


『どうしても・・・・・どうしても亜弥ちゃんを助けたい・・・。
 ・・・・倒すしか・・・・方法はないのか・・・・?

 でも ミキの『スタンド』で倒せるのか・・・・・・。
 ・・・・・ミキの『BT03』では・・・全然勝てる気がしない。』


美貴は唇を噛み締め、あゆみを追った。



銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>F〜

8月16日

:菅沼英秋

「クソッ!糞ッ!!くそッ!!!クソダボがッッッ!!!!!!!!!!!!」

俺は怨嗟を吐き出しながら荒れた山道を駆け抜けた!

『石和城 和定』こそが倒すべき敵だった・・・・・この事実が俺を憎悪に染める。
そう・・・あの性悪の言葉には説得力があった・・・何故ならば『そう』考えれば辻褄がピタリと合うからだ!
今まであの男が提供してきた情報や状況は最初からあの男が『お膳立て』をし、俺達の力を
利用していた・・・・・そう考えれば全てのピースは上手く嵌る・・・・。

俺達が倒してきた『スタンド使い』は器物損壊や暴行事件の扱いでアイツが逮捕していた。
法で裁けぬ彼等を自らが説き伏せて犯した罪を償わせる・・アイツはそう言っていた!
・・・・・『悪の道に傾いてしまったスタンド使いを更生したい』だとッ!?
『異能者の苦悩が理解るのは同じ異能者だけ、彼等の苦しみを取り去ってやりたい』だとッ!?
アイツのあの言葉は何だったんだッ!?
『攻撃能力の無い自分の為に利用できる他の『スタンド使い』をストックしておきたかった』
その考えがパチリと音を立てて空間を生める・・・。

そうなのか!?

頭の中が怒りで爆発しそうだ。
今すぐにでもあの野郎を掻っ捌いて生きたまま腑分けしてやりたいッ!
俺の中の獣が今にも身体を突き破って暴れだしそうだぜッ!!!!!!!


「ウォォオッォォオオオオォォォォオオォォォォッッ!!!!」

雄叫びを上げながら俺は藪の中を抜ける。
漆黒の殺意、血への渇き!衝動が止まらない!
駆け足のリズムが俺のテンションを上げ続けるッ!!
夜の闇に落ちた獣にヒトの法は通用しない・・・・・・
あの時と同じさ・・・・・・・腹の中に巣食う黒い獣が俺自身だッ。

『どう取り繕おうがこれが俺の本性なのだ』
観念にも似た感情がヒトとケモノを行き来する俺を突き放す。
所詮、俺<半端者>は俺<半端者>にしか成り得ない・・・・・・

ジャサッ!

山の斜面を抜けると舗装された道路に出た。
・・・・・・柴田との落ち合う時間にはまだまだ早いだが待ってなんか居られるかッ!
だが、この山間から警察署のある市街地まではかなりの距離がある。
オマケにフラフラしていれば俺を付け狙う奴らとの『戦闘』になりかねない・・・。
戦って勝つ自信は有る、が勝ち負けの問題じゃあ無い。
『刺客』は恐らく石和城の息が掛かった能力者・・・・・・アイツの思う壺だろうな?

「ッ!」

このゾクリとした感じ・・・・俺はその空間を目だけで追う。
「また幽体離脱してんのか?爺さん」

『・・・・・・・・・・・・』

「何か喋れよ!夏焼雅十郎ッッ!!!」
虚空に浮かぶ幻影に叫ぶ!
このジジィはこういう場面にばかり面出しやがって・・・・・本当に嫌な奴だぜ・・・。

『フン!・・・・・もう直にお前の仲間が来る・・・・オマケを付けてな。』

「・・・?・・・オマケだと?」
俺が言葉を言いきらない内に車の排気音が聞こえてきた。
が・・・・・何だ?
この音の大きさ?
一台じゃない?

グォォオオオォオオオォオォオオォオオオ・・・・・・・・・・・・・・

坂道を蹴り上げる排気音!
伊達のバンの音、他に3台か?

ゴッバァッ!ゴッダァーーーーーーー!

車から吐き出される排気の不協和音が俺を苛立たせた。
『石和城 和定』への怒りが何時も押えつけているタガを緩くしている・・・・。

「ギャバルルルルルルルルルルル・・・・・・・・」
ライナーノーツの先兵との戦闘で死に瀕した俺に再び能力を与えた『黒曜石』!
確かに俺は生き延びる事が出来た・・・・だが『二度目』は・・・・・・・持て余す程、強力な能
力を俺に与えた・・・・・。
ビギ・・・・・・・ビキビキビキビキ。
身体の節々が音を立てて形を変える・・・俺が衝動に染まる!
「ギャァアァァアァアァアオォオォオオォオオオオォーーーーーーッ!」
絶叫と共に俺は不快な『音』を消す為、走り出したッ。


8月16日

:伊達謙 枯堂榮

「くッ!・・・・・うっとおしい野郎共だなッ!」
伊達はシフトノブを押し込む。
「どうしますか?一発ブチ込んで黙らせましょうか?」
榮は『ステイ・メロウ』を発現させて伊達に問う。
「イヤ・・・手は出すな!俺達はサツから逃げてるんじゃネエ。菅の回収だッ・・・・あの阿保ゥ
が暴走する前に・・・・・」
そう言いかけた伊達の視界に異形が映る。
「ッ!?」
その異形の姿に伊達はギリリと歯を喰いしばる。
「・・・・・・・・遅かったみたいスね・・・。」
榮は深い溜息を吐いてハンチングを被り直した。
二人の苦い表情を余所に白いバンの横を禍々しい黒の疾風が駆け抜けた・・・・。


8月16日

:菅沼英秋

「ギャバァアアァアアアァアァアアアアアア!!!」
俺の口から獣の咆哮が吐き出される。
精神だけが身体から切り取られ加速している・・・・。
『黒曜石』を二度打ち込まれたこの身体は心が傾けばあっという間に獣の姿に俺を変える!

伊達のバンに近づく・・・・・伊達の口がゆっくりと動き俺を罵倒していた・・・。
すまないなぁ・・・相棒・・・・俺は・・・・・・・。

バンの横を抜け『追撃者』に飛びかかる。
ゆっくりとボンネットに着地、『Man Han Quan Xi』を振りかざすッ。
車内の男達の蒼ざめた貌が見える。
そうだろう。
こんなに禍々しい姿の獣は見たことが無いだろう?

「ウギャアアアアァアアアァアアァア!!!!!」

俺は激怒して吠えたのか?悲しくて啼いたのか?
それも解らぬまま『Man Han Quan Xi』を叩き付けた!

   斬
 斬 
  斬
       斬 
    斬  

『Man Han Quan Xi』で切り裂かれたセダンはバラバラになってアスファルトに激突した。
ブツ斬りにされた鉄塊は煙も出さずオイルも漏らさずガリガリと火花と散らしながら舗装道路を滑るッ。
俺は何個かの鉄塊を飛び石の様に使い、跳ねながら次のセダンに襲い掛かったッ!


 斬 斬斬
斬 斬     斬

バターの様に滑らかな切り口で車を滅多斬りにしてやった・・・・・・。

まだまだだ・・・・・まだまだ足りないーーーーーーーーーーーーーー!!!


   斬斬

斬 斬

斬斬斬 斬斬 斬
斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬



「ハァ・・・・・・・ハァ・・・・ハァ・・・。」
充電が切れた・・・・・そんな重ッ苦しい倦怠感に襲われ、ガクリと膝を着き空を仰ぐ・・・。
精神の昂りが収まり獣化は引き潮のように消え去り後には嫌悪感だけが残った。

ジャリジャリと・・・・革靴が砂を踏みしめる音が鼓膜に響く・・・・。
謙・・・・・それに榮か?

ドバキャッ!!!!

「ぐげッ!!!!」
右頬に叩き込まれた衝撃に俺は顔を顰めた。
「・・・大概にしろ!阿保ゥがッ。」
謙の言葉が突き刺さる。
「まぁまぁ・・・伊達さんその辺で・・・・・菅沼さん!迎えに来ましたよォ〜」
間を割ってはいる様にノッポの榮が俺の前に立つ。
「『迎え』だと!?あぁ?お前等まさか・・・・いや『知っていた』のか?こうなる事を?」
俺はビクンと身体を震わし立ち上げたッ!!!
「察しの通りですよォ〜?菅沼さんッ。石和城が俺達を騙してることは前々から気が付いてました
 けどねェ〜・・・・まぁ完全に息の根を止める機会ってのを窺ってたんスケド・・・・・」
榮が手を上下させながらへらへらと答える。
「まさかこのタイミングで俺と榮に仕掛けてきたのは想像していなかったが・・・あのクソ野郎
 ・・・・・・『何か』に焦ってやがるな?」
怒りを目に含ませながら謙は口端と吊り上げる。
「そうですねェ〜、俺達をパクれなかった時点でどう考えてもこれはポカだ・・・・・何かありま
 したね?それとも・・・・『誘ってる』っつーんスか?コレ?」
釣られる様に榮も笑みを作る・・・・。
「ギギギ・・・・」
俺は歯を喰いしばり奇声を上げる。

ズル・・・・・
      ズル・・・・・・


ズル・・・・・・


「さて!菅沼さんの能力も終りかけてるコトだし談笑の時間は終わりにしますか。」
ポン!と手を叩き榮が俺の背中を押してバンに誘導する
「あぁ・・・・・・こんな所で何時までも喋ってる場合じゃ無かったな・・。」
ズルズルと地面を這いずり『再生』してゆく破片を見ながら押されるがままにバンに向かった。

・・・・俺の新しいスタンド能力『Man Han Quan Xi』は物質やスタンドは勿論、空間までも切り裂
く事が可能なトンデモ無い能力だ・・・・・が切り裂かれた物は一定の時間が経つとくっつく・・
・・というか『何事も無かったかの様な』状態になるという訳の解らない能力だ・・・・結局、物
理的ダメージは与えられない・・・・まぁ人体やスタンドを斬り付けた場合は『斬られたという苦
痛』による精神的ダメージを『相当』与える様なので伊達の追っ手はこのまま半日は気を失ったま
まだろうがなッ。

俺のどんな心理状態が反映したものだか・・・・・・・前にも増して・・・俺は半端だな・・・。
こんな斬れない刃で石和城の野郎を俺は殺れるのか?


「どうしましたァ〜?菅沼さん?便所にでも行きたいんでスか?」
上からヌッと榮の顔は出てきたッ!
「・・・・ッチ!!行き成り話かけるなッ!考えが纏まんないだろッ!!」
榮にしてみれば気をつかって冗談を言ったのだろうが俺には受け止めるほど余裕が無かった。
「あぁ!?テメーこそウダウダやってる場合じゃねえだろッ!!!とっととバンに・・・・」
俺の心の内を知ってか伊達が怒鳴り散らす・・・・そうだぜウダウダやってる場合じゃ無いぜ!

「お〜いッッ!!!!榮クンに伊達クン!!!オマケに菅沼クン!!!!!」

「え?あれ?なんでアユミがここに?」
目を細め榮が声の主を確認する・・・・。
「いや俺と落ち合う予定だったが・・・・が何で徒歩なんだ?
 ッッて!?
              なんだあのデカブツはッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>G〜


8月16日

:菅沼英秋 伊達謙 枯堂榮 柴田あゆみ 藤本美貴     松浦亜弥


・・・・・・・・ドンッ
   ドンッ
      ・・・・ドンッ
一歩、一歩の踏み込みがアスファルトを揺らしている様な錯覚に襲われる。

『見上げ入道』

見上げれば見上げるほど大きくなる妖怪・・・・・・
最初にソイツをみた印象はソレだった・・・・

「柴田ッッ!!!!!うしろッ!うしろッ!!」
俺は柴田あゆみに向かって叫ぶ!
が、あゆみ状況を解っているのか後ろを見ずに此方に駆けて来る。
隣にいる女はフジモトミキか?
あの二人が『逃げてる』っつーのはあのデカブツは相当ヤバいスタンドってことか・・・?

緊張と興奮で俺の呼吸が速くなる。

「菅!てめぇ、正面からやり合う心算じゃねえだろうな?」
謙の鋭い視線が俺を穿つく。
「!?」

「そうですよ〜デカイかもしれんがあれじゃ逆にそれが仇になっているはず!あゆみと連れの子
 の保護を優先しましょう!」
榮はそそくさと長身をバンに折り込む。
「そうだな。あんなデカイ図体で本体を『守りながら』戦えはしないだろう。」
切れる二人の意見、俺はニヤリと笑いながらバンのドアを勢い良く開けた。

ギュリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!

謙がキーを捻りこむとバンが急発進する。
「いいか?菅!あの二人にギリギリまで近づいて拾う!ブレーキは踏む心算は無ねェッ。気ィ引き
 締めろよッッ。」

「おうよッ!準備万端だぜッ。」
俺は二人を拾う為にサイドドアを開いたまま待機した。
違法に改造したバンは車体を左右に揺らしながら突進する、揺れる車体に負け時と踏ん張りながら
その瞬間を待つ!


唸りを上げて軽バンが爆走するッ。

「柴田ッ!コッチだァーーーーーーーーーーッ!!!」

「ミュンッ!!」

俺の言葉に反応した柴田がフジモトを抱えたままバンに飛び込んだ。
その勢いでバンは激しく揺れると揺れたままの反動で滑る様に方向転換する。
「そのまま突っ込んでくるなんて・・・他にもっとおしとやかな入り方があるだろうッ!?」
柴田の弾丸タックルの直撃を喰らった俺は胸を押さえ破損部再生をジッと堪えた・・・・・。
「コッチだっつーからソッチに行ったんじゃないかよー!寧ろオマエが避けろよ!」
柴田は目を閉じながら激突した額を押えている。
「馬鹿話はそこまでにしろよッ!頼む菅沼ッ亜弥ちゃんが・・・・親友が操られてるんだ!
 手を貸してくれ・・・・・助けてくれよ!!!!!!!!!!!!」

「・・・『操る』・・・岡田唯のスタンドだな・・・・良いだろう、手を貸す!岡田のスタンド
 の支配は・・・柴田。オマエ「昨日出来た」と言ったな?」
俺は柴田の昨日の話の確認を取る、装置みたいなのを引っこ抜けば良いらしいが・・・・
「ミュン!」
思いのほか柴田の力強い返事・・・・・イケるな。
「ホ!それじゃー『本体』を探せば直ぐ済む、カンタンな仕事ですねェ。」
榮が首だけを回して後ろを向く、まぁ確かに本体を探せれば簡単なのだろうが、この二人がそれ
を出来ていないっつー事は『何か』あるぜ?
「そういう訳にも行かないんだ・・・・亜弥ちゃんは・・・あのスタンドの本体はあの巨体の中に
 着ぐるみみたいに入ってるんだ・・・・・『中』から引っ張り出さなければ支配を解く事が出来
 ない・・・・・どうしたらいいのか」
フジモトは唇を強く噛み締めながら俯いた、この強情っぱりにこんな表情をさせる『友人』てのは
よほど付き合いの深い人間なのだろう・・・・・そんなヤツを『利用』するたぁー・・・な。
「要は中から出せば良いんだろ・・・・菅!おめえの出番だぜッ!!」
謙はそう言い放つとバンを急旋回させて巨人に向かい突っ走り始めた。
「・・・・・まぁ『シンプル』に考えればその役は俺が適任だな・・・柴田行くぜ!?」
俺は確かめる様に柴田を見た。
「やれる気がするミュン!今日はアンタとアタシでダブルライダーだからな?」
柴田は俺の方を見てそう言うとバンのノブに手を掛けた。
「また時代な台詞だな?オイ?」
ハッと息を吐くと俺はドアを開け車外に飛び出した。

「ギャァアァァアァアァアオォオォオオォオオオオォーーーーーーッ!」


スパ  
  スパ スパ

スパパパパパ

空間に無数の切れ目を入れ塞がる前に手足を突っ込み梯子の要領で空高く陣取る。
「でけぇ『スタンド』だな・・・・・・チト痛むが許せよ?」

階段をポンと一段飛び降りる・・・・・・心持で一気に斬り付けるッ!!!!!!
音も無く空間と巨躯のスタンドだけが真っ二つに割れた・・・・・中心部から小さい影がズルリと
滑り落ちる。

「今だッ!!!柴田ァアアァアアアァ!!!!!」

「ミュン!『クロックアップ』ッッッーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

カチン

柴田の能力が発動し時間はゆっくり・・・・ゆっくりと流れた・・・・・。


銀色の永遠  〜『間奏曲』<メロディーズ>H〜


8月16日

:菅沼英秋 伊達謙 枯堂榮 柴田あゆみ 藤本美貴 松浦亜弥


:S市警察署付近


白いバンが停車し一斉にドアが開放される。

「うし!それじゃあ・・・・・・・行こうか?」
菅沼英秋は服の裾を払うと鋭く官舎を睨んだ
「あのメガネに目にモノみせてやりましょう。ねぇ伊達さん?」
枯堂榮はにやにやと嬉しそうな顔を伊達に向けた。
「・・・・・・。」
伊達謙は無言で足を進める。

「ちょっとッ!!!!何であんた等だけで話を進めてるのよッ!!」
取り残された柴田あゆみはバンから飛び出す。
車内に居る藤本美貴は意識を失っている松浦亜弥を抱えながら悔しそうな表情を窓から覗かせた。

「怪我人が頭数に数えられると思っているのか?アユミ?」
背後に居る柴田あゆみを榮は振り返らず告げた。
「・・・・クッ。」
先の戦闘で自らや藤本美貴、松浦亜弥は負傷をしている・・・・・その事を思い出させる言葉に
あゆみは表情を苦くした。
「別にお前が足手纏いって訳じゃあ無い・・・俺達が帰ってこなかった時には頼んだぜ?柴田?」
菅沼は決める様にあゆみを指差す。
「そういう事だ。・・・不覚を取る心算は更々無いがな、車番でもしておけ!」
伊達が言葉を言い終わると三人は踵を返し黒い建物に向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

スパ

コンクリの壁に『切れ目』が入る。

「!」
石和城和定は切れ目を見るや否やその切れ目に近づいた。
切れ目はパカっとひろがり硬い壁がこんにゃくの様に柔らかく湾曲する・・・・・。
「まさか直接ココに来るとは思ってませんでした・・・今回の『件』は伊達さんや榮さんに大変な
 ご迷惑を・・・・・今、この場所は私しか居ませんので早く中へ・・・」
石和城は恭しく頭を下げると来訪者を部屋の内部に招いた。

「・・・・・・・。」
招かれた来訪者達は無言のまま部屋に足を踏み入れた。

「伊達さん、枯堂さん・・・今回、アナタ方にまさか捜査が及ぶとは思ってませんでした・・・
 直ちに再捜査要求をして御二人が無関係な事を証明します・・・・だからこの通り私の力の足り
 なさを許していただけませんか?」
石和城は伊達と榮に謝罪をして深く頭を下げた・・・・・。

「・・・・まぁまぁ・・・頭を上げてくださいよォ〜・・・・石和城さん。俺達はアンタに『話』
 が有って来たンスよォ〜!」
榮は身体を折り曲げて石和城の後頭部に話しかける。
「『話』?『話』・・・・ですか?」
石和城は顔を上げると疑問符に満ちた表情をした。


「・・・・人は心に疚しいモノが有る時、同じフレーズを2回繰り返す。」
菅沼は腕を組んだ姿勢のまま石和城を睨み付けたッ。
「え?な・・・・ちょっと?菅沼さん?」
その眼光に気圧される様に石和城は半歩後ずさりをする。

「石和城和定・・・・芝居してんじゃねえぞッ!!!!」
石和城のその仕草に伊達謙は怒りを爆発させる!
「・・・・・ひぃ!」
伊達の怒号に石和城は小さく悲鳴を上げる。
「まだ続ける心算か?こっちはもう全部解ってるんだよ!貴様がどう言う魂胆で俺達に近づき行動
 をさせたかをなッッッ!!!!!」

「・・・・・・・・ったく・・・・・・でけえ声で喚くんじゃねえよッ。このクソ虫が・・・!」

   ドドド
     ドドドド   ド ドド
  ドドド ド
ドド ドドド


石和城和定は眼鏡を外し口を曲げ笑みを作る。
醜く吊り上げられた口は石和城和定の本性を露わにしていた・・・・。

「よォ〜やく『話』が出来る状態になりましたねェ?あぁ?石和城和定さんよォ?」
榮は石和城の醜い表情を見ながら標的を狙う様な顔つきに変わる。
「クソ虫が気安く話しかけるんじゃねぇッ!!!」
その挑戦的な表情が石和城の怒りに火を注ぐ。
「薄汚い言葉使いだな・・・お前みたいなのが法の番人を気取ってると思うと吐き気がするぜ!」
腕を組んだ姿勢を崩さず菅沼は石和城の吐く言葉の不快感に顔を歪める。
「薄汚いのはお前等下等市民の存在だろうが?クソ虫は我々キャリアの為に税金を払うだけの存在
 ・・・・・意見出来る平等が有ると思うな!」
自らの持つ選民思想が当たり前と言わんばかりに空を見、両手を広げる!
「・・・・・・・どこまで勘違いしてるんだ?この世間知らずは・・・・。」
石和城の言動に伊達は侮蔑の眼差しを与えた・・・・。

「クソ虫がこの俺にそんな目付きをして良いと思ってるのか?」
石和城は胸ポケットから『白い粉』の入った袋を伊達に翳す。
「伊達謙ッ!麻薬の密輸、売買の容疑に付け加えて麻薬所持の現行犯だな?てめーをこの罪だけで
 20年は出れねー様にしてやるぜッー!!!!」

「無茶苦茶ですねェ〜?それアンタが持ってったモノでしょ?だったら警官のあんたが麻薬の不法
 所持ってコトじゃねェ〜のかよ?」
榮はスンを顎を上に向け石和城を睨む。

「俺に意見か枯堂榮?お前も伊達同様麻薬の密輸、売買、麻薬所持の現行犯に仕立ててやるぜッ!
 お前等を社会的に潰してくれるゥ!アハハハハハハハハッ。」
石和城の醜い笑い声にやれやれと首を振りながら榮は問うた。
「石和城警部補ォ〜?俺の事ちゃんと調べたの?」

「あぁ!?」

「だから『枯堂 榮』なんて名前『偽名』っぽいと思わなかったのかって問うてるの?」
榮は尚も石和城に問う。
「な・・・・に?てめぇにはちゃんと本籍も有るだろうが!?三味線弾いてるんじゃ・・・・」
動揺を隠そうと石和城は威圧するように榮ににじり寄る。
「それが居るんですよォ!籍がありながら実際には存在しない人間が!!」
チチ。榮は指先を左右に振る。
「ッッ!?」
その言葉を理解しえない石和城に榮は腰ポケットから抜いた手帳を突き出す
「国家公安委員会潜入捜査官!コードネーム:S.A.K.A.Eッ!!対馬醍薫だ! M県S市警察署所属
 石和城警部補!貴方を殺人教唆、未成年者略取、麻薬取締法違反の疑いそして麻薬所持の現行犯
 で・・・・・・・20年は出れねー様にしてやるぜッ!」

「公安・・・・潜入・・・だ・・・と?」
突き出された手帳も重みに石和城はヘナヘナと崩れる。
「・・・・・・ッ?ぇえ?」
組んだ腕をだらりと下げ菅沼は呆然と『榮』を見る・・・・・。
「・・・・・どう言う事だッ?榮!?」
近づく伊達に対馬醍薫は手を挙げ敬礼をした。
「菅沼英秋氏!伊達謙氏!両名の調査協力、御苦労でありましたッ!!!」

「最初から『そう言う』心算だったのか?」
ギュッ。
捻るように伊達は対馬の襟首を捩じ上げたッ。
「いえ・・・偶然ですよ貴方達との出会いは・・・伊達さんの立場を利用する心算なんて有りませ
 んでした・・・・・。」
対馬は俯いて本心を話し始めた・・・。
「だったらなんで・・・?」
二人の間に割って入った菅沼が対馬に訳を問う。
 「・・・・・・本来なら事は隠密裏に行うのが常道。正体や・・・・ましてや本当の名前を
 明かすのはタブーです・・・・でもどうしてもここで打ち明けなければ本当に2人を利用した
 事に成ってしまう・・・・・。」
襟首を捻り上げていた伊達の手が徐々に緩む・・・・。
「俺が潜入先で『毒』にやられて暴走してたのを止めてくれた2人には本当に感謝してるんです・・
 ・・・『枯堂 榮』としての人生は本当に楽しかった・・・・・この件が終ればまた顔も名前も変
 わりますが、このスタンドだけは変わらない『絆』・・・・ですよ!」
対馬は『スティ・メロウ』を発現させ銀色の輝きを2人に翳した。
「それが『絆』か・・・・?悪くないな・・・なぁ菅?」
伊達は菅沼の方を向きニヤリと笑い掛ける。
「あぁ・・・『俺達らしくて』いいんじゃないか?」
菅沼もまた釣られる様に笑みを浮かべる。
「『俺達らしく』か・・・・・さすが菅沼さん・・・気に入りましたよ。そのフレーズ!」
対馬醍薫・・・・『枯堂 榮』は心底嬉しそうな笑みを浮かべると襟を正しながら石和城に視線を
落す!
「こ・・・・・公安が・・・・なんだって言うんだ・・・・怖なんか有るモノかッ!!!!」
石和城は声を震わせながら虚勢を張っていた。
「いえいえ・・・これは潜入捜査官、対馬醍薫としてではなく『枯堂 榮』としての質問ですよォ〜
 ・・・・・・石和城警部補?」

「はァ・・・・・はァ・・・・」
榮の放つプレッシャーが石和城の息を荒げる。
「『スタンド能力者を作り出すウイルス』を持つあの毒蛇、アンタの手元に無いでしょ?
 どこかにやりました?・・・・・・それとも『誰か』に盗られましたかァ〜・・・?」

「ヒィーーーーーーーーーーーーー・・・・・」
堪らず石和城は逃走しようと床をもがく。
「俺達から逃げれると思ってるのか?」
 
        スパッ

「イギャーーーーー足が・・・・・・俺の足がァーーーーーーー・・・・・」
菅沼の斬撃で切り落とされた右足がゴトリと鈍い音を立てて床に落ちる。
その足を抱かかえながら石和城は激痛に悶える。

ザン!

悲鳴を上げる石和城の前を伊達が立ち塞がるッ。
「てめぇに対する慈悲の気持ちはまったくねぇ・・・てめぇをカワイソーとは全く思わねぇ・・
 しかし・・・このままてめぇをナブって始末するヤリ方は俺の流儀に反するぜ・・・・」
そう言いながら伊達は石和城に向かって歩き始めた。
「!!」
顔を引き攣らせて石和城は伊達を見上げる。
「菅の能力は直に解除されその足は『元に戻る』」
一歩一歩、伊達と石和城の距離が縮まる・・・・。
「石和城。てめぇのスタンド『トリガー・ハッピー』の射程距離は1・5m。能力は『射程内のスタン
 ドのコントロールを得る』だ・・・・・」
伊達は石和城の射程内に足を踏み入れ自らのスタンド『アビー・アド・フォルミーカム・フォルミ
ー』を発現させた。
「その足が元に戻った時が合図だ・・・・・かかってきな!西部劇のガンマン風に言えば・・・
 『抜きな!どっちが素早いか試してみようぜ!』と言うヤツだ・・・・」

「こ・・・こけにしやがって・・・・・」
石和城はそれまで躓くことのなかった人生を思い出し取るに足らない人物に見下されている現実に
足の痛みより強い屈辱に打ち震えていた・・・・。
振るえのリズムが波を打ちその波が切り離された右足を打ち寄せるように元に戻す。
菅沼英秋のスタンド能力『Man Han Quan Xi』の効果時間が終わりを告げ足がくっ付き始めたのだ
・・・・・・・。

メリメリと薄い氷を踏むように『その』時間が近づく・・・・・・。


  !!
      !!!!!!!

ビャッ!

刹那ッ。『アビー・アド・フォルミーカム・フォルミー』に銃のグリップの様なモノが生えそれを
石和城の手がしっかりと掴むッッッ!!

「ヒャハ・・・取った、取ったぞ!これで・・・俺の勝ちだ!」

「敢て先手を取らせた・・・・その事も理解らないのか?これでお前と俺とは対等に成った。」
大喜びをする石和城を冷静な瞳で伊達は見つめる。
「な・・・・負け惜しみを!俺が!俺が引き金を引けば全てが終る。」
その瞳に心の底を冷やされた石和城が己を奮い立たせんと吠える!
「やってみろよ・・・・お前は俺に100年経っても勝てない、それを明してやる・・・引き金を
 引け・・・・・・」
伊達の目の焦点が決まるッ。
「うぅ・・・・・・・・はぁーーーーーッ・・・・・・・はぁーーーーーーーーッ・・・」
射すくめられた石和城の呼吸は安定をしなくなる・・・・・。
「引き金を引けェェェェ!!!!!!!!石和城和定ッッッ!!!!!!!!」

「うわーーーーーーーーーーーーーーー・・・・・・・・・」

「蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻!!!」
「ひゅげ?」
「蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻!!!!!!!!」
「引き・・・・金・・・が・・・・・・引け・・・・・・・」
「蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻蟻
 『アビー・アド・ファルミーカム・オー・ピゲル(蟻の下へ去れ、怠惰な者よ!)』ッ!!」


 ドォオオォォオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!

「そ・・・・そん・・・な・・・」

「てめぇの敗因は・・・・たったひとつだぜ・・・・石和城・・・・たった一つの簡単な答えだ
 ・・・・・・『てめぇは俺を怒らせた』」

         ゴォオォォォ

「いや違うな!謙!」
菅沼が指を左右に振ると銀色の煌きが奔る。
「アバッ。」
石和城の首が胴体から斬り離されて床に転がる・・・。

「コイツは『俺等を怒らせた』だろ?」
ビッ!と歌の振り付けのように菅沼は伊達を指差した!
「そいつは違いないッ。」
その仕草を可笑しそうに伊達は噴出す。
「ずるいなァ俺にもやらせて下さいよォ?」
盛り上がる二人に榮は『スティ・メロウ』を発現させいそいそと近づく!

ドゴォオォォオォオオーーーーーーーーーーーッ!!!!

猛スピンを加えられ飛翔する悪党の首に三人はゲラゲラと大笑いをした・・・・・。
笑い声は夏の空に高く何処までも響いた・・・・。



TO BE CONTINUED・・・












CONTINUED?










時は流れる・・・・・・



8月29日

:杜王町 ぶどうヶ丘総合病院

:紺野あさ美 小川麻琴

「なんだか哀れだな・・・・あんなに凶暴だったヤツがすっかりおとなしくなっちまうなんて・・
 ・・・・・・」
小川麻琴は病院の壁に手を付いて独り言の様に呟いた。
「家族の方にも反応が無いそうです・・・・毎日、顔を見せる岡井さんとは会話をするそうですが
 ・・・・・・何れにせよ『彼女を頼る』という選択肢は消えましたね・・・・・矢張り私達が・
 ・・・・いや『私と麻琴で』決着を着けなければ成らないと言うコトです。」
壁に靠れかけた紺野あさ美はロビーの天井を見つめながらそう紡いだ。
「あたし達二人でかYO?・・・・・厳しいな・・・・だけれどソレがあたしと紺コンのなじむ道
 ・・・・・・か。」
そう呟くと麻琴は踵を返し歩き始めた。
「行きましょう・・・・・信じる『光』の中へ・・・・」
その言葉を詩の様に噛み締るとあさ美は足早に麻琴を追った・・・・。