銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウト@〜

12月22日 AM7:00

「あ〜・・・だりぃ・・」
美貴は重いカラダを引きずりながら部室に向かう・・
戦闘ダメージがまだ身体から抜けず、ダルイ!
そんな事もおかまいなしに早朝からの電話係争でミーティングに呼び出されたのだ。

正直、昨日の事を考える部活なんてやる気がしなかった。
麻琴を操って親友同士で闘わせたゲロ野郎の事・・・
容赦なく麻琴を潰そうとした真希ちゃんの事・・・
何が起きているのか・・起き様としているのか・・?
・・・わかんねーよ!マジで。
それでも何かしら前に進まなければ・・・ヤバイ気がしてワタシは部室に向かった

昨日の戦闘でガタガタになった扉を引き開ける。
『早く来すぎたかな?』とか思っていたのは美貴だけで全員が揃っており
美貴が一番最後の様だった・・・。
「美貴姐ッ!」
横かられいなが話掛けてきた。
「何だよ・・・アレ?亀とさゆは・・?」
見回して二人が居ない事に気付く。
「それが・・・・」
れいなが何か言い掛けた所で吉澤が部室の奥から出て来た。


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトA〜

吉澤は恭しく部室中央に歩み寄ると深くため息を付いて話を切り出した。
「え〜。もう話を知っているヤツも居ると思うが昨日、紺野、小川に続き亀井、道重も入院しました。」
部員達は知っているモノ、知らないモノ各々が軽くざわつき始める。
「これはアクシデントであり、我々が外部からの妨害もしくは攻撃を受けている。そう俺は判断している。」
吉澤の発言に高橋が挙手をして問いただす。
「何をもって外部と?確証はあるンですカ?」
吉澤は腕を組みながら自論を語る
「一人は紺野、小川の件。その場にいたミキティの発言を信じるとすれば
 俺達も知らないような『人を操る』能力を持つヤツ・・そんなやつは部員に居ない!
 目的も不明だけどウチの部員がやられたのは事実。俺はコイツを許さない!」
吉澤の発言で部内に歓声が上がる。
「あと一人。亀井達を襲ったヤツ!コイツは街を徘徊している・・・俺達だけじゃない!
 杜王町にも危害を及ぼす!コイツが一番危険かもしれない!」

・・・・な・・なんだってェーーーーー!
ゲロ野郎のほかにまだそんなヤツが・・・・もしかして『爆弾』を使うアイツ・・・・・なのか?

「よっすぃー!!亀達を襲ったヤツ!なにか手懸りは無いのかよッ!」
美貴は手をバタつかせて吉澤に問うた。
「ああ。あるよ。俺も昨日ソイツに襲われたから・・・・」
部室に衝撃が走る。
「アイツは『鋏』を使う。『スポルトマティク』それがアイツの名前らしい。」

・・ハサミ?・・スポ?なんだ?そのふざけた名前は・・でも・・キラでは・・無かったのか
美貴は吉良吉影が妨害者で無かった事に少々の安堵を覚えた。

「ヤツの目印は革のジャケットを着ている。それとこれは亀井と道重の描いた人相書きだ。
 参考にしてコイツには気を付けて欲しい!」
配られたコピー用紙には何とも言いがたいイラストが2つ。
全くもって参考にはならない描きっぷりだった!

「それでは、本題に入りたい!人数の減少の対策に独断であるが外から人を借りて対処したいと思う!」

ざわ・・・・
     ざわ・・・・・
         ざわ・・・

ざわつく部員を無視して吉澤は続ける。
手招きをして奥から人を呼び出した。
「まずは俺の友人の木村絢香!英検研究会の部長だ。それとテニス部の里田まい!
 国体選手だから知っているやつも多いだろう?この二人は俺が責任を持って推選した!
 皆が思うような不安はまずない。安心して欲しい!」
絢香と里田は拍手で迎えられた
「そしてもう一人。知っているやつも居るな?数年前まで演劇部に在籍していたからな・・・」
吉澤は再び手招きをしてもう一人を呼んだ。
「な・・・」
出てきた人物に美貴は自分の目を疑った

「今回、俺達の窮地を察して参加してくれる事になった!後藤真希だ!」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトB〜

時間は少し先進む・・・

12月22日 pm1:30

〜菅谷梨沙子〜

「蟻がいっぱいいるもん!黒いのに、白いのと赤いの!白とか赤って初めて見たもん!」
梨沙子は棒で蟻達を追いかける。
「・・・・あれ・・あたし・・・何しに来てたんだっけ・・・?」
しばし虚空を見つめる・・
「あばばばばば!そうだ!みんなで買出しに出てたんだっけ!」
周りの見回す・・・
「どーしよー・・・」
カメユーに向かったはずなのに違う所に居る。
うろうろと足を運ばせると公園の中に入ってしまった。
「あば!ここは・・・ハ・・ハサミ女の出る所だもん!」
コクン!
緊張で咽喉が動く・・・
迷子になった孤独感と公園に纏わる怪談の恐怖・・
梨沙子の目がから涙が零れてきた。
「うえぇ・・・・うえぇえぇえぇ・・」
一目散で公園から逃げ出そうとして走りだした。
ログハウスを抜けてベンチを通りすぎようとしたその時
   
  グギュ!

何か硬いモノを踏みつけた?

「痛ぇええええええッ!!」
人の叫び声がし、
ベンチに乗っかっていた革のボロキレが起き上がってきた!


12月22日 pm1:30

―スポルトマティク―

俺は昨晩、寝ず甚八だったので昼まで暖かい日差しを受けながらベンチで身体を休めていた。

・・・・この街に逃げてきた事。昨日の出来事。自分と同じ『能力』を持った人間が居た事。
そして自分が『能力』を身に付けた時の事。そしてこれからの事・・・

そんな事を考えながら日差しに甘え、あまやかな時間を楽しんでいた・・・

      グギュ!

足首に激しい痛みが走る!投げ出していた足を誰かが踏みやがったのか?
俺は突然与えられた痛みに思わず思わず叫び声を上げてしまった。
「痛ぇええええええッ!!」
反射的に身体が起きる!
この野朗!俺の折角の睡眠をッ!そう思って相手を睨みつけた!
・・・・が・・なんだ?
ガキじゃねぇのか?

こっちを見てワンワン泣きやがる!
「おい・・・どうした?」
「うぇええぇええぇ・・・」
「だからどうした?あぁ?」
「うぅうぅううぅう・・・」
なんだよ〜。俺か?俺が泣かしちまったのかぁ?
まいったな?こりゃ!
「ほら!泣くのをやめろよ。チョコ食うか?」
俺はポケットからチョコを差し出した。
「あぅう・・」
なんとか泣き止んでくれた・・。チョコは万能だな!
「あむ!あむ!あむ!」
ッッッ!!!!
「お前!そんなに喰うなよ!大体チョコってのはちょっとつづ。こう口の中で溶かしてだな・・」
「・・・おじさんケチだ・・・」
おじさんて・・・オマエな!
「ったよ!好きなだけ喰えよ。それと俺はまだ30前!解るか?まだ若いの!お兄さん!解るか?」

コクッ!

・・・・首だけで返事しやがって。最近のガキは・・!
「甘くないゆー!」
「甘いものばっか喰ってるとバカになるって知ってるか?お前?」
「お前じゃなくて『りさ子』だよ!」
はいはい、りさ子りさ子。
全く何をやっているんだ?俺は?

突然、りさ子の顔が青ざめる。
「何だ?どうかしたか?」
「あそこの木の影・・人が見ている・・」
木の方を指さして震えている
「なんだ?お前にも『美紀』が見えるのか?」
「・・・美紀?」
「あぁ。なんでもここにいる幽霊らしくてな!昨日の夜にここに来たら一晩中闘う羽目になった」
「・・・で・・どうなったの?」
「闘いの中で生まれる友情って奴か?俺はココにいても良いって事になったよ・・」
「あ・・あたしもココにいてもいいのかな?」
「じゃあ聞いてみるか?オーイ美紀?この子もここにいてもいいかぁッ?」
俺は声を張って美紀に届けた。
美紀は頷いて見せた。
「良いとよ。よかったな!美紀はああ見えても優しい奴なんだよ・・」
「でも・・・あの人、人殺しの幽霊だよ・・・」
「そんな話があるのか?・・優しさ故・・・逆に許せない・・・まぁ色々あるんだよ・・大人は・・」
「あたし・・大人じゃないから解らないよ・・」
・・・・ごもっとも!


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトC〜

12月22日 pm1:45

「あ〜!いたいた!コレだよ」
千奈美は右手の甲に浮かぶ計器を仲間に見せる。
「本当!カンベンして欲しいよね!買出しの度に迷子になるなんてサ!」
雅は眉を顰めて深くため息をつく。
「まぁ良いジャン♪見つかったんだしさ♪」
桃子は空気を和らげようとする。
「早く帰らないと!急ごう!」
佐紀は時間を気にして計器の示す場所に急ぐ。
「ここってアソコ?」
友理奈はその公園を指差す。
「ハサミ女の出る所だねッ!」
茉麻は力強く答えた。

12月22日 pm1:48

―スポルトマティク―

「そういえば、お前の制服・・・この近くの学校のヤツなのか?」
「あば?」
「いや・・昨日ちょっとな・・・もしかしたらお前の知り合いかもなって・・・」
「お前じゃなくてりさ子だよッ!」
はいはい・・そうだったなぁ。

ベンチの背もたれに体重を預けて空をゆっくり眺める・・・今日も冷えるかな?
公園の入り口がにわかに騒がしくなる。
「・・何だ?」
あの制服・・・
「りさ子の友達か?」
「うん!みやーーーーー!!!!」
千切れんばかりに手を振るりさ子。いいなぁ友達か。俺にも居たな。何時から居なくなったんだっけ?
・・・あぁ・・あの時か・・・。

・・・・?・・・・
なんだ・・・入り口の所で固まってなにか話し合っているのか?
・・・妙だな?

そう思っていると2m程離れた場所に妙なものが・・・・潜望鏡?
ソコ・・・地面・・だよな?

「おじさん・・・シークレット・デーヴァが見えるの?」
りさ子の言葉に俺は唾を飲み込んだ。
「嘘だろ?りさ子・・・お前も『能力』が有るのか?」
そしてコイツのトモダチも・・・昨日のアイツ等も・・・・繋がる・・・偶然じゃ無ェ!
・・・・この街のにもアレがあるのか?

「みんなーーーーッ!!!このおじさんスタンド使いだよーーーーッ!!!!!」
りさ子は大声で仲間に俺の秘密を暴露してくれた。

だからなんなんだよ、そのスタンドって?昨日のボクもそう言ってたし・・
『能力』の総称がスタンドっていうのか?
「!!」
俺はヒジョーに嫌な予感がしてきたので素早くベンチから立ち上がった。
その瞬間。地面からシャープペンシル程の物体が俺に向かって飛び出してきた!

「ぉお!スポルトマティクッッッ!!!」 
  
   銀の軌跡が走る!
  シャキィイン!  シャキィイイン!
軽い金属の開閉音とともに四つの影が飛ぶ!
瞬時に飛行物は爆裂した・・・・
「・・・問答無用だな。」
「凄い!おじさんのスタンド!!すぽるとまてぃくって言うんだ!・・・アレ?どこかで聞いたような?」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトC〜

12月22日 pm1:55

「ハサミ型のスタンド・・・間違いないよ・・・アイツは『スポルトマティク』だッ!」
「で?どうしょうか?佐紀ちゃん?」
「どうもこうもこのままアイツを見逃す訳には行かないんじゃない?」
「ここらで一発キメ時なんじゃないの?」
「何時までも半人前みたいな扱いを受けるの癪だしね!」
「んふふ♪楽しみ〜♪」
12月22日 pm1:55

―スポルトマティク―

「おい!りさ子この街では能力を持っているヤツを見ると腕試しするのが慣わしなのか?」
・・・・いきなり襲われたのは何回目だ?
能力を身に付ければ人を傷付けずにいられない・・・
やっぱりアレはあっては為らないモノなんだよ!
「あば?ん〜でもなんでちなこはおじさんに向かってミサイル撃ってきたんだろ?」

・・・祝砲じゃないだろうな!

こっちに近づいて来やがった。
『スタンド』使いが6人か・・・
ガキだからって見くびる心算は無ェ!

・・・逃げるか!

  グッ!

「!?」

てめぇ!りさ子!何、俺の手掴んでるんだよ?
・・・俺は逃げるタイミングを逸した!

「ねぇねぇ皆!このおじさん面白いンだよ!ハサミ女と仲良しなんだ!凄くない?」
「梨沙子!こっちに来なさいよ!ソイツが何者だか解っているの?」
・・・ソイツとはご挨拶じゃねえか!切れ長のキツそうな・・・コイツがリーダー格か?
「あば?みや・・・なにいってんの?おじさんはおじさんじゃないの?」
「ソイツは昨日、部長や亀井さん達を襲ったスタンド使いなんだよ!悪者なんだよッ!」
「うそ・・・ちがうよね!おじさんは良いヒト・・・だよね?」
俺は、俺の顔を覗き込むりさ子に答えることが出来なかった・・・
酔っていたからとは言え・・昨日スタンドを使って暴れたのは事実・・・だからだ。
「何か言ってよ!」
「・・・・」
「ほら。答えられない!これでハッキリしたじゃん!コイツが革ジャケットのスポルトマティクなんだよ!」
「んふ♪オシオキの時間と行きますかぁ♪」
「亀井さんの話だとこのヒト連続殺人犯なんでしょ?」
「え〜!マジで!」
「じゃあ舞波を殺したのもコイツなのッ!?」
「絶対許せないッ!」
「皆、殺したら先輩達の所に持っていけないから殺すのはダメだからね!」
口々に俺に宣戦布告をしてくれた。
・・・・・全くよォ
「昨日のボクと言い、顎の姉ちゃんと言い本当にお前等、問答無用だな!」
俺は軽く少女等を睨み付けた。
「!」
「あばッ!駄目だよ!みやに顎とか顔が長いとかフランスパンとか言っちゃダメなんだよ!」
「!!」
「顎?フランスパン?」
「!!!」
「だから言ったら駄目なの!顎とかフランスパンとか!」
「!!!!」
「顎とかフランスパンとかお前が言ってんだろ?」
「!!!!!」
「ほら!おじさんが顎とかフランスパンとか言うからみやの顔が真っ赤になっているよ!」
「!!!!!!」
「だから俺は昨日闘う羽目になった顎の姉ちゃんも問答無用だって話をだな・・」


「いいかげんにしろォォオォォォォォオオォォォォオオ!!!!!!!!」

何だ?
フランスパンのガキの手から?
何か赤いものが・・・・?
物凄く早い?
コレ・・・ヤバい?

「お  ぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトD〜

12月22日 pm1:58

キキッ   キキキキッ

公園に金属の軋む音が響く。

「あのなぁ・・・こうやって切らずに挟むのって・・難しいんだぞッ!」

スポルトマティクはセクシー・アダルティの突撃を挟み込んで制止している。
「ふぅうぅうぅうぅうううううッッ!!!」
制止を突き破ろうとセクシー・アダルティがギリギリと押出される。
セクシー・アダルティの表面がスポルトマティクの刃で削られる・・

「く・・・このぉ・・」
雅の腕から血が滴り始めた・・・
菅沼はその血雫を悲しそうに見つめる。
「だから言わんこっちゃ無い・・・俺は闘う気なんか無いんだよ・・・」

「ふざけるな!!だったら昨日の事はッ?先輩達を襲ったくせにッ!」
痛みに眉をしかめ、雅は咆哮する。
「あれは・・・」
「ダメだよ、みや♪このヒトきっとどうしょうも無いくらいのウソツキなんだよ・・」
口ごもる菅沼に桃子が近づく・・
「そう・・・どうしょうもない位のネ・・そんな口叩けくなるよ・・直ぐに・・」
桃子は口端を上げて笑顔を作ると背後に人影は灯らせた。
「お兄さんから・・アイツに繋がるかも知れないし、ね。」

・・・アイツ?・・・

「おい・・・・また何か勘違い・・・」
「ウォォオオオオォオオォム!!バル!バル!バル!バル!」
言い澱む菅沼に桃子のFLYHIGHの連撃が降り注ぐ!

な・・・スポルトマティクで空間を切り取れば避けられる・・が
スポルトマティクで槍を挟み込んでいる・・放せば突かれるッ!
ヘタに避けたら・・りさ子を巻き込むかもしれない!

「ヤ・・ヤバイッ!よ・・避けられないッッ!!!」


12月22日 pm2:05

―スポルトマティク―

迫る『スタンド』の拳撃。回避することは出来ない!俺は・・・覚悟を決めた。

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!

打撃音が響く!

「い・・・痛ぇ・・・」と言おうとしたが・・痛く・・無い?
瞑っていた目を薄く開けると・・・
俺に殴りかかった貧乏臭いガキの顔が青ざめている。

お前が俺を庇ってくれたのか?

「美紀・・・」

俺の前には彼女等が畏怖する怪談の主人公が立っていた。

シャキィイィン!シャキィイィイン!!
金属の擦れる音が公園の空気を変える・・
さしもの『能力者』達も『恐怖そのもの』の前には気力を失うようだ。
近づくハサミ女に後ずさりを始める。
美紀は顔を横に向けると顎を三回ほど突き出した。

今のうちに逃げろってか・・・すまねぇ・・やっぱりお前は優しい奴だよ。

美紀の気持ちは無駄に出来ない!
「りさ子!いつまで握っているんだよ!早く放せ!」
「だめだもん!皆、勘違いしてるだけだもん!逃げたらダメ!話せばきっと解ってくれるもん!」
「話し合いの段階はとっくに終わっているんだよ!」
俺はりさ子の手を無理やり剥がそうと引っ張った・・・が、なんだコレ?
手が溶接されたように引きついて離れない・・・
「なんで俺の手とお前の手がくっ付いてるんだよ?」
まさか?
・・・こうやってモノをくっ付けるのがコイツの能力なのかッ?
「だから!おじさんと皆は闘ったらダメなの!」
腕をバタつかせて贖う!
クソ!ラチが明かない!
「このッ!」
「ギャッ!」
俺は体を回転させ一本背負い投げの要領でりさ子の体を背負い公園から逃げ去った。


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトE〜

12月22日 pm2:10

―スポルトマティク―

俺はりさ子を背負いながら人通りの多い商店街を選び駆け抜けた。
「おじさん!降ろしてよ!こんな事しても何の解決にもならないもん!」
「五月蝿ェ!あんなテンパったヤツラに話が通じるかよッ!そんな事より早く能力を解けッ!」
「やだもんッ!おじさんが話し合いをするまで解かないもんッ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

人を背負って走りながらこんな血圧の上がる会話をした所為だろうか・・・息が上がってきた。
走る速度も目に見えて落ちてきている。
・・・・まだ年の所為にはしたくないぜ!

後ろから叫び声が聞こえてきた!
「早すぎる!もう美紀がやられたのか?」
俺が一晩かかっても倒すことが叶わなかった強敵なのに・・
「あたしが思うに・・ハサミ女って公園から出れないじゃないの?」
「あぁ?」
「公園以外に出てきたこと無いもん!」
・・自縛霊ってやつか?
「だったら俺は一晩中何してたんだ・・・」

その瞬間、梨沙子は「あぁこの人は馬鹿なんだ。」という結論にたどり着いた
だが一晩でハサミ女の心を動かしたのも真実!
この人は絶対悪人ではない!という思いを堅くした。

「何か言ったか?」
「ううん!りさ子は何も言って無いもん!」

クソ!あいつ等の声が近くなってくるぜ・・・・
こう重い身じゃあ小回りが利かない。
じゃぁどうするか?
こうするまでだ!!!!

「スポルトマティクッ!」

銀の鋏が踊る!

勢いが付くように大目に空間を切り取る!
切り取った空間は消え去りその間を埋めるように空間が縮まる!
すまない!赤毛の兄ちゃん、コレも逃げる為なんだ・・
「うぉ!な・・・なんだッ!」
赤毛の男がスーパーのディスプレイに引き寄せられる。
近くにいたオールバックの中年の女と黒い髪の若い女を巻き込みながら・・・
三人が激突するとディスプレイは派手に四散した。
三人の言い争いが始まり人だかりが出来る。

・・・・巻き込みすぎたか。済まない!
騒ぎに乗じて俺は脇道に消えた。

「おじさん!こんな事ばっかりしちゃダメだよッ!」
「うるさい!黙れ!こんな能力が有るからこんな目に逢ってるんだろッ!
 畜生!あんな石に触らなければ・・俺は普通に生きれたのに!」
「あば?石・・・?」
「お前達だってそうだろ!『触ると死ぬ石』!それに触って能力を身に付けたんだろッ!」
「お・・おじさん・・おじさんは・・・何者なの?」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトF〜

12月22日 pm2:30

―スポルトマティク― 

「ここまで逃げれば・・・もう大丈夫だろう・・」
俺は走ることをやめてりさ子を降ろした。
「おじさん・・・」
「少しの間・・・昔話をしよう・・・」

俺の故郷には触ると死ぬ石の伝説があった・・・
山奥に絶対近づいては行けない場所がありそこに『石』がある
その石には魔物が封じ込まれて「眠って」いて触って生きているものは一人も居ない・・そんな話だ・・
昔話は1989年の事だ・・・

山道に迷った俺は偶然その場所に出てしまった。
「触ると死ぬ石」の話は子供の時の寓話・・・覚えてすら居なかったんだ。
その黒光りする石に魅了された俺は思わずその石に触れてしまった・・
石の表面は研がれた様に鋭利で俺は手に小さな傷を作った。
その後は意識が朦朧としてハッキリ覚えては居ない。
俺の意識が回復したのは一昼夜明けてからだ。
俺は混濁する意識のなか下山したが帰り道、野生化した野良犬の集団に襲われて
・・その時、自分の中に生まれた『能力』に気付いたんだ・・・

「どうだ?これが俺の昔話だ・・お前等も『そう言う』石に触れたんだろ?」
「何なの・・それ?」
「あぁ?」
「ワタシは・・・演劇部の審査で・・・」
「演劇部の・・・審査?」
なんだよ・・それ?
といいかけた所で俺の足が止まった。

目の前に聳え立つ白い壁。
ここは通り抜け出来たハズ!
何で・・・行き止まりになっているんだ?

俺はその白い壁に手を触れる。
妙な手応えと共に壁が音を立てて崩れさる。
「なッ!何だァッ!!コレはッッ!!??」

「それはワタシのスタンドだッッ!!!」

崩れ行く壁の向こうに見覚えの有る唇の厚いガキが・・・
先回りされた?俺の居場所がなんで?
「はい!しず蟹ーーーーーッッ!!!」
後ろからキンキンと張った声が俺を刺す!
振り向くと三人ばかりのガキが後ろに・・・

何だよコレ?嘘だろう?俺が逃げ切れない処か・・挟み撃ちにされるなんて?


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトG〜

12月22日 pm2:35

「ふふふ♪私達を甘く見ましたねぇ〜♪お兄さん?」
「残念ながら動きはこちらで把握していましたカラ!」
「ほらこのレーダーで! ? アレ? 何?何なの?」

12月22日 pm2:36

―スポルトマティク―

 足元に水が湧き始めた
「今日で6日目・・・まぁ良く探せるものだなぁ?」
「あば?」
 湧き出た水は広がって行き水溜りを形成する
「そこの黒くて細いの!お前がどんな状況か一番解っているんじゃないのか?」
「・・・こんな・・・何で・・・」
 水溜りは膨れ上がる様に隆起する・・・・
「お前達・・・帰ったほうがいいと思うぞ!」
俺の言葉に返って来たのは殺意を帯びた視線だった。

・・・決裂か・・・

 液体は飴細工のように形を成し始める・・・
「しょうがないなぁ・・・そう思うだろう?『がんずき』?」
「エヒッ!エヒッッ!!」
飴細工の終焉はなんとも情けない顔をした『犬』を作り出した。
「おじさん、なに・・この犬・・水みたいになのから変身した・・・の?」

「さっき話したろう?『能力』を身に付けた時に野犬に襲われたって・・」
「あばばば!も・・もしかして?」
「そうだよ!そいつ等は全員『能力を持った野犬の群れ』だったのさ!」

「がんずきが居るって事はお前らも居るんだろう!出て来いッッ!!」
 路地を取り囲む様に犬が次々と顔を出し始める。

「喜丸!ボルト!ブレイブ!志麻!がんずき!整列ッッッ!!!!」
犬種の疎らな犬達が一斉に列を作り背筋を伸ばす。

「さて?お嬢さん達?ドッグショーはお嫌いかな?」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトH〜

12月22日 pm2:40

「さて?お嬢さん達?ドッグショーはお嫌いかな?」

菅沼は指揮者の様に手を虚空に躍らせる。
「さっきと随分態度が違うんじゃないの?」
雅は革ジャケットを睨みつける。
「まぁな!コイツラが来てくれたお陰だよ・・」
「犬なんかに助けを求めるなんてお前、犬以下なんじゃないのッ!」
「言うねぇ・・ノッポ・・確かに・・犬以下なのかもなぁ・・・・俺は・・・・・」
友里奈の挑発をさらりと流した菅沼はウロウロと歩き出しながら犬の頭を撫でて行く。

「ふふ。コイツは純血統の柴<喜丸>そしてマスティフの<ボルト>イビザン・ハウンドの<ブレイブ>
 ゴードン・セッターの<志麻>で・・・雑種の<がんずき>だ。お前等!お嬢さん達に挨拶だ!」
菅沼の合図に犬達は高く吠える!

「最後にもう一回聞こう!何も無かった事にして俺を見逃してくれないか?」
菅沼の意見は壊れんほどに張り詰めた空気で返答された。



「じゃぁ・・・しょうがないな。お前達、『殺すこと』と『爪や牙を使うこと』は禁ずる。

 ・・・・あとは許可する。    行け」

                     菅沼の号令は犬達の叫吠に掻き消された  

<Dog's Sied>

<喜丸> 
『聞いたか!お前等!我等が主の甘ったれた要求を!!』
<ブレイブ>
『主の命令は絶対だ!馬鹿にするなら俺が許さんよ!』
<志麻>
『おいおい・・喧嘩だったら終わってからやれよ・・』
<ボルト>
『熊殺しの件以来、久方ぶりの戦闘命令だろう?下らん事で足並みを乱すなよ!』
<がんずき>
『あ・・・主!おで・・・おで、がんばるでェーーーーー!!』

犬達の叫吠は路地に響き、その身は乾いた空気に踊る。



12月22日 pm2:43

「おじさん・・・・やめてよ・・・こんな事・・」
菅沼を咎める梨沙子の手首がひやりとする。
「りさ子・・・早く能力を解け。でなきゃお前の手を切り落とす!」
「!!!!!」
「脅しなんかじゃない・・・・俺の良い所はどんなに下らん事でも貫き通す所だ。
 悪い所は何でも簡単に見限る所・・・そしてその事を省みない。」
「・・・言っている事が・・」
「俺はお前の手を切り落とした所でココロなんかは痛まない・・そういう事だよ。」
「おじさんは悪い人じゃないでしょッ!こんなの違うよッ!!」
梨沙子は涙ながらに菅沼を叱責する。
菅沼は軽く溜息を吐いて答えた。
「何か思い違いをようだがな。俺は善人なんかじゃぁ無い・・・・結構『殺し』てるんだよ・・・」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトH〜

12月22日 pm2:43

土煙を上げて獣の身が踊る。

「このド畜生がッ!」
雅のセクシー・アダルティの一線。
獣は凄まじい反応でソレを避ける!

『ほう?小娘。面白い玩具だな!』
喜丸は獣の言語でそう言うと額に能力を込める
   
    ぬろぉおおぉぉおッ!
 
額から一角獣の様に鋭い角が飛び出す。
これが彼、喜丸の能力『Brown Metallic』なのだ。

「気持ち悪いンだよッッ!!」
角を生やした奇怪な犬に向かって雅の朱の連撃は虚空を朱く満たす。
『フン!何ともお粗末な・・・』
喜丸の角は高速の突きを事も無く払いのける。
「・・・このォッ!!」
避け続けられる連撃を止め、雅は一撃に全ての力を込める!!
速度だけを求めた連撃とは違い、重さをも加味した一撃。払いのけるものか!

ギャリッ!

槍と角が触れた瞬間。
微妙な振動が雅の手に伝わる。
重心が崩れ体が引き込まれる。
「な?・・・まさか?」

『螺螺螺螺螺螺ァァア!!』

喜丸は角で槍を絡め取りながら頭を大きく振りかぶる!
頭の振りに合わせて雅は宙に投げ出される。
「ぎゃあぁああ!!」
雅の体は3〜4m程、吹き飛ばされた。
「何で犬が・・・『合気』なんか・・使えるのよ・・」
立ち上がろうする雅の咽喉に突起物が押し当てられる。

『その程度で主に楯突くとはな・・・片腹痛い・・いや、おめでたいヤツよ・・』
「くッッ!」
獣の言葉を理解しない雅でも言わんとしている事を感じた。
『主がその気なら貴様などは瞬きで死ぬ!主が腑抜けで本当に助かったな・・・』
そう言うと喜丸は踵を返し、主の方に足を運んだ・・・


『口では何と言おうと主の事はお前が一番慕っているくせに・・』
ブレイブは喜丸を一瞥すると目の前の敵に集中する。

「雑種だか血統書付だか解らないけどなぁ!食べちゃえば味なんか変わらないんだよッ!!」
桃子のFLYHIGHの拳は唸りを上げて獣に向かう。

『ハァッッツ!』
ブレイブは自らの能力『Barrio chino』の『翼を生やす能力』を使い宙に舞う。
体中に生えた翼を駆使しFLYHIGHの拳を風に舞う木の葉の様に避ける。
桃子の連打は紙一重でかわされ続ける・・・
「犬ッコロの分際で!お前等は私に喰われる存在でしかないんだよッ!この食料風情がァ!!」
逆上した桃子は姿勢を低くしてブレイブに突っ込む様に間合いを詰める。
『・・・甘いな。』
ブレイブは桃子を飛び越すようにジャンプする。
「そう来ると思ったんだよ!この駄犬ッ!」
桃子は低い姿勢から螺旋状に体を捻りながら立ち上がりその反動を拳に込める。
「ウォオオォォオオム!バルバルバルバルバルバルバル!!」
低空で疾走したスピード×体を捻りながら立ち上がったスピード×拳速
これなら如何に空を自在に舞う事が出来る能力とて捉えることは可能!
桃子の渾身の連撃がブレイブに降り注ぐ。

『いい拳だ!・・・だがそれだけだな。』
FLYHIGHの拳がブレイブの頬をかすめる、その瞬間ブレイブの身体は桃子が拳を引き戻すより
早く加速し制服の襟元に牙を立てる。
「ひぃッ!」
桃子が悲鳴を上げるや否やブレイブは身体を捻って投げ飛ばす。
制服は破れ、桃子は背中から地面に叩きつけられる。
叩き付けられた衝撃で呼吸が乱れた桃子の首にブレイブは牙を軽く当てた。
『素質は有るかもしれないが戦い方は3流だな。戦士として生きたかったら強く為る事だ・・』
獣の言葉で桃子にそう告げブレイブはその場から離れた。
『つい少女の『拳』に敬意を払って『牙』を使ってしまったな・・主に怒られるなぁ・・・』
そんな事を溢しながら主である菅沼の下に急いだ。

12月22日 pm2:45

「みやッ!!」
佐紀は角を生やした犬に蹂躙される雅に向かって叫んだ。
『おっと!お嬢さんの相手は俺だぜ!』
雅に駆け寄ろうとする佐紀の行く手を志麻が塞ぐ。
何かを溜めるような動きを見せる志麻に佐紀の手が汗ばむ。

『ケケーーーーーッ』
 
    コォ!

志麻の口が大きく開きソコからロープの付いた銛が勢い良く射出される。
志麻の能力『El Diablo』だ!

「ベリー・フィールド!!」

佐紀の手から巨大な傘が出現し『志麻の銛』を弾き飛ばす。
『おぉ!やるな!お嬢ちゃん!』
獣の言葉で佐紀の反応速度を賞賛する。

佐紀は巨大な傘に身体を隠し絶対防御姿勢を取る。
防御を固めて相手の攻撃をひたすらに凌ぐ。
こちらが防御しかしなければ相手の攻撃は必ず雑に、荒くなる。
その隙だらけ瞬間を待って手痛い反撃を喰らわすのが必勝の戦型。

『ほぉ?中々見所は有る様だな?・・・だがまだまだ甘いな!』

『ケァーーーーーーッ!!!』

    ヒュコォ!!!

志麻の銛は佐紀のベリーフィールドの上部に当たり空に向かって大きく弾き飛ばされる。
「何回攻撃をしてもベリー・フィールドが展開していれば結果は同じなのに・・・」
佐紀は弾き飛ばされた銛を目で追ってそう一人語とを言った。
『いい高さだ・・・ヒャーーーーーッ』
志麻は空高く弾き飛ばされた銛を勢い良く引き戻す。
中程まで引き戻ると志麻は身体を後方に翻し銛に遠心力と付ける。
後ろ足を踏ん張ると遠心力をそのままに再度、銛を打ち込む。
打ち込まれた銛は横殴りに地面スレスレに飛行する。
志麻の狙いまで高速で奔る。

ギュルギュルギュルギュル・・・・・

「?????」
突如、佐紀は足元が拘束される。
傘の盾の死角を突かれたのだと。そう気付いた時にはその身体は宙に浮いていた。
「ぐぅううぅッ!」
強かに身体を地面に打ちつけ佐紀は思わず呻き声を漏らす・・・
『傘は丸いだろ?中央は広いが上下は狭い!其処を考えなくちゃ!まぁ、足元注意って訳だよ。お嬢ちゃん!
 ・・・・・・なぁ、お前もそう思うだろ?がんずき?ッッておい!がんずき!』



12月22日 pm2:45

口からヤリを打ち出す犬が佐紀に襲い掛かる。
攻撃力に乏しい佐紀を援護すべく千奈美は「シークレット・ディーヴァ」の
魚雷を犬に向かって連続射出する。
  ドビシュ!ドビシュ!ドビシュ!ドビシュ!ドビシュ!
地面から等間隔で魚雷が飛び出る。
無音で飛行する魚雷に気付かず犬は佐紀に向かって攻撃を続けている!
 
   『ハヒィァアッ!』
突如。地面から飛沫が舞い上がり犬に向かっていた筈の魚雷群が切断される!
「何で?ソナーは何も反応がないのになんで?」
千奈美は沸きあがる水溜りに固唾を呑む。
『ハ・・ハヒィ!お・・おでの仲間を傷付けるのはヤメロォ!』
自らの身体を完全に液体に変換する能力『あぶく』を解き
がんずきはその姿を現した。

「ぐぅううぅッ!」
呻き声が響く。志麻は無事、仕事を終わらせたようだ。
『へ・・へ。あ・・主はやめろって言ったのに、い・・言う事を聞かないから怪我すンだぁ!』
がんずきは千奈美を獣の言葉で非難した。

   サァアアァァアア・・・・・
『ハヒィ?』
がんずきの周りを白い粒子が囲み始めた。
『ヒ?な・・何この白いの?』
白い粒子ががんずきの前足に触れる・・・
『ヒギャァアァア!痛い!この白いの痛いッ!た・・・助けてェ!主!助けてェエ!!』

白い粒子・・・
友理奈の「フィール・イージィ」の脱水攻撃に足を焼かれたがんずきは泣きながら跳びはねる!
『っておいがんずき!』
無茶苦茶に跳び廻って逃げるがんずきに志麻が声を掛ける。
『し・・志麻!助けてェエ!』
がんずきは『身を焼く白い粒子』を引き連れ志麻に向かって駆け出した。
『ちょ!!!お前!!!!』
志麻の悲鳴にも似た咆哮が木霊した。


12月22日 pm2:50

『ヒィイ!!志麻ァ!』 
『解った!解ったから!落ち着け!』
近づくがんずきに志麻は間合いを取って走りだした。
『み・・・見捨てないで!助けてよォ!』
『見捨ててなんかいるもんか!もう少し。もう少しヤッコさんを引き付けるンだよ!』

「ちなッ!追い込むから先回りして足止めして!」
「駄目だよ!仕込まれている!早くスタンドを戻して!」
千奈美の発言に友理奈は眉をひそめた。
「なにそ
言いかけた瞬間、友理奈の身体は車に撥ねられた様に吹き飛ぶ。

『ふん!身体から離れる能力のヤツはこれだからイカンな!』
友理奈にブチかましを決めたボルトは首をコキコキと振りながらそう言う・・・

「よくも!友理奈を!このぉッ!!!!」
相棒の友理奈をブチのめされた千奈美は怒りを砲撃に込める!
「全弾ッ発射ッッッツ!!!いっけぇええぇえぇぇえッ!!!」
地中からボルトに向かって魚雷のスコールが降り注ぐ!
高温の油の中に水分を飛ばした様な激しい音と火薬の臭いが辺りを満たす。

硝煙が視界を奪う・・・
「こ・・・これだけ・・・打ち込めば・・・無事な訳がない・・・」
千奈美は乱れた呼吸を整える。
煙の中に影が揺らめく
「のにゅ?」
影は低く唸ると獣の言葉で繋いだ
『戦いの最中、呼吸を乱すとは・・・戦闘と言うモノをまるで理解していないようだな!』
煙の中から姿を現したボルトのその姿は体中に金属の塊を埋め込まれたような異様な風体・・・
それこそがボルトの能力『金龍酒家』だった。


12月22日 pm3:00

剥き出しの金属塊から青い紫電が大気に奔る
硝煙を身体に絡めたボルトは雷雲から姿を現した様だった・・・

「ひぃいッ!バ・・・バケモノぉ・・・」
ボルトの異様さに千奈美は後ずさる。
『悲鳴を上げたなッ!貴様それでも戦士かァッ!!』
敵ながら千奈美の不甲斐無さにボルトは一喝を入れる。
その野太い獣の咆哮に千奈美は腰が抜けてしまう。

『ふん!この程度では相手には為らないな・・・まずは心を鍛える事だ・・・』

ボルトは千奈美を一瞥すると踵を帰した

ドゴッ!
『がッ!?』
振り向き様のボルトを立方体が強打した。
不意打ちを喰らいボルトはその場で軽くめまいを起こす。
『く・・・不意打ちとは面白い・・』
暈けた視界が戻る。
大柄な少女。
『コイツか・・・』
ボルトは新しい敵に笑みを押さえられず低く唸る。

「このバケモノッ!よくもみんなをッ!」
茉麻は目の前の奇怪な犬を睨みつける。
倒された仲間の分の怒りを視線に込め

『そうやって感情を戦いに待ち込むのは関心しないな・・・判断が鈍るぞ!』
ボルトは獣の言葉で茉麻の視線を注意する。

「その耳障りな唸り声もすぐに負け犬の遠吠えになるんだッ!!!」

  ゴゴゴゴゴ  ゴゴゴ ゴゴゴ

妙な地響きにボルトは目配せをして警戒する。
「何処見てんだよッ!行けェ!トゥデイ・イズ・マイバースディイッ!!!」
茉麻の掛け声にボルトの足元が賽の目状に割れる
『!!!!!』
割れた地面はボルトの回避を許さず握り潰すようにボルトの身体を圧縮した。
 

12月22日 pm3:02

ボルトの立っていた地面全体から召喚された茉麻の「トゥデイ・イズ・マイバースディ」は
音を立ててボルトの身体を握り潰す。

  ギリ!ギリイイイ!
「一個一個が小さい立方体だって集まればこんなに強力になるんだッ!」
茉麻の作る握り拳に同調してT・I・マイバースディの圧縮は強くなる。
『ふふ・・・いいぞ!そうこなくてはな・・』
獣の低い唸り声が聞こえた

 ドグォンッ!!

激しい爆裂音と共にトゥデイ・イズ・マイバースディの呪縛は四散した。
熱波が茉麻に吹きすさぶ。
「爆発?コイツ・・コイツの能力は・・・」
窮地から脱出したボルトは首を左右に振り茉麻の方を見た。
『少し下品だったがメタンガスに電気干渉を加えて爆発をさせて貰ったよ!』
ボルトは胃から出したメタンガスを「金龍酒家」の『高圧電流を放つ能力』で爆発させたのだ。

ボルトは身体から電流を弾かせながら茉麻を威嚇する。
『さぁ!貴様が戦士としてどれだけやるか・・見せて貰おうか?』


  犬と少女
お互いを囲む空間に闘気が満ちる。

チリチリとする肌触りにボルトは歓喜を抑えられず口端を緩め舌なめずりをする。
『いいぞ!この空気感・・・これこそ戦闘よ・・解るか?』
ボルトの低い獣の声が鳴り止まぬうちに風切り音が響く。

『がぁ!!!』

音を察知しボルトはその身を躍らす。
砂塵が舞う
ボルトの横には立方体が地面にのめり込んでいる・・
突如、空間から出現した展開図はボルトの足元の土をエグり取りながら立方体を成形したのだ。

『ほう?俺の身体をこうやってエグリとる心算だったのか?・・・・面白い!』

「お前の唸り声は・・・もう聞きたくないッ!!」

茉麻が腕を広げると無数の展開図がボルトの頭上に出現した!

「消えろッ!!!!!」

茉麻の言葉を合図に展開図が一斉にボルトのパッケージングを始めた。
右へ左へ。ボルトは音を読み身体を翻して立方体の形成を避ける。
『悪くは無い!悪くは無いぞォ!だがな・・!』
ボルトはその場でターンして自分の代わりに地面をエグり取った立方体に頭突きを喰らわした!
   ぐぉおおぉん!!!
弾き飛ばされた立方体は勢い良く茉麻に向かって飛行する!
「この!足掻いて!!!」
弾き飛ばされた立方体を茉麻は腕で殴りつけ弾き返す。
音を立てて横に弾き飛ばした立方体の影から金属の塊が飛び掛る!

  『 絶 ! 雷 電 鎚 衝 !! 』

バチバチと空気を焼く音が響き電撃を帯びた塊が茉麻に直撃した!


12月22日 pm3:06

ボルトの体当たりを受けた茉麻の身体は三度程地面を跳ねて停止した
叩き付けられる度に辺りに舞った砂塵がモウモウと立ち上がる。

『ふふ・・・追い詰められた時にこそ真価が問われるものだ・・・立つがいい!』

ボルトは知っていた激突時の妙な感覚を、戦いの最中目覚めた新しい茉麻の戦い方を!

「うぅ・・・!皆の為にも・・そして私自身の為にも・・・負けられないんダッ!」
茉麻は電撃で痺れの残る身体を震えるながら起こす・・・
腹部から数個の立方体がバラバラと落ちる。
立方体は相当な強度を持つはずだがどれもひしゃげてしまっている。
「これがあの犬の攻撃力・・・」
茉麻はボルトの攻撃が当たる瞬間、プロテクターの様に立方体を集めて直撃を免れていたのだ。
破壊された立方体を握り締め茉麻はボルトと対峙する。

『立ったか!それでこそ戦士よ・・・』
ボルトの声が聞こえるかのように茉麻は答える
「犬よ・・・あなたは強い!・・・だが私はあなたを倒す!」
ボルトは茉麻の言葉を聞き打ち震える
『ひよっこが!この数分でいい目をするようになったな!』
金属塊が紫電を放ち鋭利に隆起する。ただでさえ異様なボルトの姿は最早、犬の範疇を超えていた。

「トゥデイ・イズ・マイバースディ!」
細かい立方体が幾重にも茉麻の身体を覆いつくす。
立方体の鎧を身に纏った茉麻は古代の戦士の石像のようだった!
白亜の石像の様な茉麻を見て満足そうに口元を緩めてボルトは吼えた!
『力の片鱗を御見せよう!戦士殿!』
そう言い跳躍したボルトの身体は重力を無視するように軽やかに宙に舞った。


ボルトは身体を丸め高速回転を始める。
回転を始めたボルトの身体は落下する事無く宙を漂う様に浮遊する!
『戦士よ・・・俺の最高の技で沈めて見せよう!』
ボルトから発せられる電撃は激しく大気に撒き散らされる。
視覚を焼く様なその光景に茉麻は目を逸らす事は無かった。
「あ ぁ ぁあ ああああああああッ!!」
身体に幾重にも絡みついた立方体が右腕に集まる。
その腕は何倍にも膨れ上がり巨人の腕を連想させるほど巨大化する!

   『 断 ! 天 裂 雷 襲 !!!!』

   「ストレィト・グレイヴッッ!!!!!!」

   電撃と白亜が激しい炸裂音を立てて激突する。

空中で存分に遠心力を蓄えたボルトの回転撃を茉麻は立方体で固め装甲した右腕で殴りつける!
お互い、遅れる事の無い程の力と力がその場に会した。
 
衝突音の響きが収まった瞬間

「トゥディ・イズ・マイバースディ」の拘束が解け雪の様に舞落ちる。
茉麻の身体はその場で崩れ落ちた。
回転撃は叩き受けたが高圧電流の迸りが茉麻の身体に大きなダメージを与えていた。
「あぁああぁ・・・・うぅ・・」
電撃の迸りに茉麻は呻き声を上げる。
地に伏せた茉麻の視界に犬の影が映る・・
『俺の名はボルトだ!覚えておけ!・・・また強くなって俺に挑んで来い!戦士よ!!』
「ぼ・・・る・・ト・・・」
薄れていく意識の中、獣の言葉を茉麻は『心』で理解して気を失った・・・
『ふふ・・・これだから闘う事はやめられんよ・・・』
満足した表情でボルトは主の下に歩き始めた。

12月22日 pm3:10

菅沼の手から梨沙子の手が滑り落ちる。
「だから言ったろう?止めとけって・・・」
菅沼はその場にへたり込んだ梨沙子に目線を落としてそう言った。
「酷いよ・・・こんなの・・・」
梨沙子は制服に涙の染みを作る
「最後にもう一回、聞きたい・・・」
銀色の刃は梨沙子の咽喉に触れる。
「お前はどうやって『能力』を身に付けた?」
梨沙子を見る菅沼の目は色を失っていた。
「え・・・演劇部の入部試験で・・・・」
「試験で?」
「担任の寺田先生に・・・矢で打ち抜かれて・・・」
「矢で?打ち抜く・・・・なるほど、それが『石』と同じ様な力を持っているのか・・・
 良く解った。それじゃぁな!りさ子!」
それだけ言うと菅沼は後ろを振り向き歩き始めた。
その後を5匹の犬が駆け寄る。
梨沙子はその後ろ姿を涙で滲ませながら見送る事しか出来なかった。
その後ろ姿は余りに悲しすぎて掛ける言葉が見当たらなかった・・・


『主よ。あれで善かったのか?小娘は思い違いをするぞ!』
「いいんだよ!喜丸!俺は役目を果たす。それだけだ・・・」
『主!「結構殺している。」とか言っていたがアレは私達を助けた時の事では無いのか?』
「ブレイブ・・・・・お前等の同胞を大して訳も解らず殺しまくったのは事実だろ?」
『主ィ!気を揉みすぎだぜ!あいつ等は能力を身に付ける過程で気が触れちまったんだよ!
 あの時、主が体を張ってくれなきゃ俺等は全滅だったんだぜ!』
「志麻よ・・避けれたかもしれないだろ?殺さなくても済んだのかもしれない・・
 熊の時だってそうさ・・・・・人間の・・・・・俺のエゴで殺したんだよ。」
『主よ!あなたは間違ってはいない・・・自分ばかりを責めるな!』
「ありがとうよ・・ボルト!お前にまでそう言って貰えるとそう思えるよ・・・」
『あ・・・・主!!!!』
「なんだ?がんずき・・・ってお前なんで小便漏らしてんだよ!!」


銀色の永遠  〜フー・レット・ザ・ドッグス・アウトI〜


12月22日 pm3:40 ぶどうヶ丘公園

―スポルトマティク―

「ほ〜ら!ほら!どうだ?欲しかろうッ?」

液体が飛び散る。

わふ!わふ!!わふ!

犬達が我先にと液体に群がる。

「はっはっは!ほらほら!急げよ!」
  ガン!
「ゲッ!」
後ろから攻撃を喰らい俺の動きが止まる。
 ガン!ガン!
「痛ぇ!やめてくれ!俺が悪かった!もう醤油とか撒かないから!許してくれ!!」

俺の請いが通じたらしく美紀の鋏の柄で殴る攻撃が止んだ。

犬どもは戦闘が終わると必ず塩分を強請る。
まぁ自然界では塩分は貴重だからな。
俺は糖分のが良いと思うのだが・・・

俺の周りを犬どもが囲む。
「解っているとは思うが・・・俺達がこの街に引き寄せられたのは偶然じゃない!
 『あの石』と同じものがこの街に有る!俺は・・・・・」

ザザザザザ・・・・・
「ん?」
ザザザザザザザ・・・・・
「何だ?この黒いのは?」
ザザザザザザザザザザザザ・・・・・・
「あ・・・・・蟻ィイィ?」

「見つけたぞッ!テメェ!!!」
公園の入り口で叫び声が聞こえる!
俺は素早く視線を奔らせた!
・・・・あ・・・あいつは・・・
「テメェのお陰で債務者逃がしちまったろォ!覚悟しやがれ!」
逃げる時に騒ぎを起こすのに使った赤髪!
「全くふざけやがって!ただじゃ済まさないヨッ!!!」
オールバックのおばちゃん?
「おしおきりんこッ!!」
コンビニで騒いだ女?あそこに居たのか?

「テメェがあの時、スタンド使って俺達をスーパーの飾りにブチ当てたのは解ってんだよ!!」

?・・・アイツ今なんて言った?
スタンド?・・・ってまさか・・・

「アビー・アド・フォルミーカム!ニグラッ!フォルミーッ!!」
え?
「ハートビート・シティ!!!」
ええ??
「プリンセス・コリン!!」
えええ???

『『『 ブチ殺す!!! 』』』

「・・・・ま・・・またこのパターンかぁッ!?」


TO BE NEXT SIDE・・・・・