銀色の永遠 〜悪意の種@〜

12月20日 ぶどうヶ丘総合病院 533号室

「失礼します」
そう言って岡田唯は病室のノブを捻った。

「あらぁ。唯ちゃん!来てくれたの?」
石川梨華はベッドから立ち上がり後輩を出迎えた。
本来ならば梨華の方が怪我をして早く入院していたのだが
完治寸前でまた大怪我をしてしまい、後から入院してきた後輩達の方が
早期退院してしまったのだ。

「その分だと今年中に退院できますね。」
唯は笑って梨華に話しかけた。
「元気、元気!あなた達が居なくなったからもうヒマでヒマで大変よ〜。」
梨華は唯の訪問を心から喜んでいた。
「で、み〜よは?一緒じゃないの?」
仲間の三好絵里香が来ていない事を問う
「み〜よは今日、バイトで・・・」
「あ〜・・そうなんだ・・」
梨華は軽く肩を落とした。

「わたしも今日はこれで・・・」
そう言うと唯は病室を出た。

「行っちゃった・・学校で何か面白いことが起きてるか聞きたかったのになぁ〜・・」

「・・・・でもあの子、なんで手袋ずっとしてたんだろ?病院暖かいのに?」



ぶどうヶ丘総合病院 527号室 

そこは病室とは思えない程、活気があった
「ほりゃ!」
コロン!コロン!!
ダイズカップから飛び出したサイコロは
Eと@の目を出した。
「よ〜し!」
 成宮寛貴は黒い駒を7つ進めた。
「このまま、このバックマンが逃げ切れば俺のベアオフは目前だぜ!」
「つうか拙者の駒の前じゃん!1がでたらヒットだぜ!」
息を巻く友人に山下智久は忠告する。
「いいんだよ。目が6コあっても1は1コしか無いんだぜ!サイコロ2コでも2コしかないんだから!」
山下はカップを揺らしてサイコロを振り出す。
「あ!」
「え?」
出た目は@と@のゾロ目だった・・
「え〜とじゃあまずコレをヒットして・・・」
山下は成宮の駒を除いてバーの上に乗せた
「マジかよぉおおッッ!!!!」
「で〜ゾロ目は四回行動だからココをこうでこうでと」
山下は自分のインナーボードを白の駒で埋める。
「よし。ここでダブル!どうする?受ける?」
「・・・降りる・・」
成宮の降参でゲームが終了する!
「かぁ〜!これで何回お前にジュース奢ってるんだよぉ〜」
「はは・・・」


銀色の永遠 〜悪意の種A〜


コンコン!

突如、ドアを叩く乾いた音が響く。

「すいません。」

そう言って知らない女の子入ってきた。
突然の侵入者に緊張を走らせた二人だったが『女』と解ると緊張を緩ませた。

「え〜と、君は〜誰だっけ?」
成宮は言葉につまる。
同じ高校の制服を着ていたがあまり馴染みの無い顔だった。
もっとも何ヶ月も高校には行ってないので今思い出せないのは
よっぽど印象に薄い子だったのだろう。
「う〜ん」
山下も真剣に思い出そうとしていた。
これだけ立派な胸の子だったら忘れるはずないのに・・・

「まぁ、中に入ってよ。見舞いに来てくれたの?」
ともかく成宮は中に入るように勧めた。
「ん?どうしたの?病院ってほら。暖かいじゃん。暖房でさ。なのに手袋なんかして・・・」
山下の問いに『彼女』は笑い掛けると突然、視界から消えた。

「なッ!」
成宮と山下の感嘆符が響き終わる前に
二人のコメカミに『彼女』の指が置かれていた。

「・・・・ハイドレインジャ・コード2。」
ズギューン!
     ズギューン!
         ズギューン!
脳髄を貫かれるような衝撃に二人はベッドから飛び落ちた。
「ぐぅうぅ・・!お前・・スタンド使い・・か?」
成宮はアタマを抑えながら立ち上がった。
「成宮!コイツ!そうだ!思い出した!コイツは演劇部の・・!」
そう言い掛けた途端

      カッ!

山下と成宮の足元にナイフが投げつけられた。
「それを拾いなさい。」
「な・・・・?」
「何故だ・・・?」
二人の身体はその命令に従ってナイフを拾いだした。
「そのまま右手で刃は横にして水平に構えなさい。」
関西なまりのあるその言葉道理。二人の身体は抵抗なく構えた。
「お前・・・こんな・・・能力を・・」
そう山下が言い掛けた瞬間。蔦がその口を固定した。
「ただ処理するのも退屈であかん!」
「そうや。これ、使おうか?」
そういってボードに置いてあった白と黒のサイコロを取り出した。
「二人共サイコロの目に沿ってお互いのほうに歩きなさい。」

サイコロが手から落ちる・・・
コロン!

「白B。黒C。」
その言葉に山下は3歩。成宮は4歩。
ナイフを構えたままお互いの方に歩き出した。

コロン!

「白A。黒D。」
山下は2歩。成宮は5歩。近づいた。
ナイフはお互いの衣服に触れている。
必死に呪縛から逃れようとするも身動きひとつままならない。

「ふふ。あと1が出たら『お互い刺し殺しあう』感じになりますなぁ。」

コロン!

「あら。@のゾロ目やわぁ。」


銀色の永遠 〜悪意の種B〜


心臓に刺さったナイフの躍動が収まっていくのを目視した唯は527号室を後にした。

指紋を残してはいない。細工はすで施してあり暫くの間この病室には誰も近づかない。
彼らは『失血死』を逃れられない・・・・。

出会い方が違ければこんな事にはならなった・・これも運命なのだ・・・

病院を抜けて三好絵里香の待つ場所まで歩いた。

「さて・・・とりあえずは二人・・・」
バックから取り出した手帳にチェックを入れる。
記入を終え手帳をバックに戻そうと視線を落としたその時
  ドッ!
突然誰かが当たってきた。
「きゃ!」
いきなりの事に唯は声を上げる。
「あ・・!すみません!すみません!」
当たった相手は皮のジャケットを着た男だった。
年は・・なんだか若く見える年齢不詳気味で無精髭・・
やたらと頭を下げてその場を去った。
「ふぅ・・何なんやろ?アレ・・まさか・・ね」

唯は絵里香の元に急いだ。
路地を曲がった所に絵里香のバイク、ドラッグスターが止めてあった。
「唯やん!石川さんどうだった?」
絵里香はバイクに跨ったまま唯に話しかけた。
「元気そうやった。この分だと年内に退院できそうやで」
そう言って唯はドラッグスターの副座席に乗り込む。

「・・・で、首尾のほうは?」
「上々。あのままなら助からんわ・・」
「そう・・それは良かった・・」

バイクは排気音を響かせ走り出した。


銀色の永遠 〜悪意の種C〜

  ―スポルトマティク―

「あぁ〜。あの子可愛かったなぁ〜。俺が学生の時分には居ないタイプだな。」
そう言って俺は彼女の後ろ姿を見送って歩き始めた。

俺?俺は菅沼英秋・・・いや今は「名無し」だ。
少し歩くとベンチがあった。
「よいしょ。」
座るのにも声が出てしまう、年だなこりゃ・・・いやまだ20代後半なんだけど。

襟をつまんで臭いを嗅いで見る。まだ大丈夫だな?
ここ4日ばかり着たきりなもんでね。
ジャケットは合皮だ。合皮の臭いがする。

空を見上げる。
冬の空は冷たさを増している。

「な〜にしてんだべ?俺は?」

俺はここ「杜王町」にふらっと来たんだが・・まぁ旅行じゃないな。
どっちかというと「失踪」か。

仕事に嫌気が差したーなんつうと有り触れた事情だが。
もうなんだか疲れちまってな。
興味もない仕事を『世襲』とかいうコトバで押し付けられて
あとは悲惨な限り。修行とかいって知らん所に投げられて
とにかく金にならない仕事を毎日必死でやらされる。
同い年の奴には親から金貰って生活してるやつもいるのにな。
そんな事を10年も続けてるといいかげん身も心も擦り切れてくる。
どんな事にも、どんな言葉にも揺り動かされることが無くなる。
   無感になるんだ。
人が信じられなくなる。自分自身もな。
あぁ〜こんな事は続けてたら潰れるなぁとか考えていて
まぁそんなこんなで気がついたら貯金通帳、手に持ってココにいたって訳だ。

俺はポケットからチョコレートを取り出して少し齧って口の中でゆっくりと溶かした。

自分自身の人生、いつが一番楽しかったかな?
なんだかいつでも辛い思いばかりしいていた気がするよ。
他人の人生もそうなのかな?

力があれば人は幸せになれるなのか?
違うね!
そんなことは無い!

なんでそんな事、断言できるのかって?

俺も『能力』を持っているからさ
その俺が言うんだ、間違い無い!


銀色の永遠 〜悪意の種D〜

冬の町に排気音が響く。

「で?これからどうするの?」
「そうやね。後藤真希。藤本美貴。小川真琴。紺野あさ美・・・この4人を潰したいやけど・・」
三好絵里香はアクセルを捻る。
「そんなのアタシ一人で充分じゃん!『流法』も試したいし!」
「み〜よ、蟲毒って知ってる?」
「コドク?なにそれ?」
絵里香は唯の言った聞きなれない言葉を聞き返した。
「昔のね、まじないをするのに毒虫を壺に入れて殺し合いをさせて最後に残った虫をまじないに使ったん。」
「最後に残ったのが、一番強い虫ってワケ?」
「そう。み〜よはそういうの好きやん?強い奴を叩きのめすん?」
「あは!それ面白いよ!やろうやろう!!」
「じゃぁ。種蒔きから初めんとねぇ」

悪意は排気音を響かせ加速する。

12月21日  ぶどうヶ丘高校

演劇部は12月25日のクリスマス公演の準備で多忙を極めていた。

「チケット。チラシ。ビラ。パンフ。紙関係はこんなものなのカナぁ?」
小川麻琴はブルーシートの上に発行物を並べ枚数を数えていた。
「ちょぉ!小川さぁん手伝ってもらえますぅ?」
「!」
麻琴は声の主に軽く緊張を走らせた。
岡田唯だ。
友人の紺野からは為るだけ係わり合いを避ける様に言われている。
2ヶ月程前も、どこかで戦闘したらしく負傷して入院している。

「・・・今はコッチの仕事が忙し〜から無理カナ?」
警戒をして相手の要求を断った。これでいい・・・
「そんな事言わんと〜。アッ!」
唯は真琴に近寄った際。積み上げていたパンフレットをつまずいて崩してしまった。
「oioi。困るヨ〜。」
麻琴はそう言ってしゃがみながら散らばったパンフレットを拾い始めた。
「堪忍!かんにんなぁ〜」
唯はそういって真琴に近づく。
「別に・・ここは私がやるから。もう持ち場に戻れば?」
そう言った瞬間。麻琴は後頭部を鷲づかみされた。
「な!・・・てめえッ!何をしてんの!離しなよ!離せッ!」
慌てて引き剥がそうとするが強烈な力で押し付けられる。
「ほんま・・・堪忍なぁ・・」


銀色の永遠 〜悪意の種E〜

「これだけ遅れてくれば仕事も大してしなくて済むだろ?」
準備が有るにも係らず藤本美貴は遅刻して来た。無論仕事をサボるためだ。

だいたい公演をやるのは結構な事だ。それなりのパートも宛がわれた。
だけれども公演準備までこんなに忙しくやらされるのは心外だ!
とりあえずやりたくない事はやらない主義なのでそうさせて貰おうか。

        ガラッ!

部室の戸を引き開ける。
誰か居たらテキトーに誤魔化して準備が終わるまでダラダラしているか・・・


なんだ?この臭い?
美貴は眉をしかめた。
誰かが居る?誰だ?
逆光で判別が着きづらい。
「・・・麻琴?・・なんでそんな所に突っ立ってるんだよ?もう仕事終わったのか?」
「・・・・・・」
麻琴は何も答えなった・・
「おい!どうしたんだよ・・」
美貴は麻琴に近づこうと部室の中に入る。
足元はなぜか液体が撒かれていた
「なんだ?この赤いのは・・・」
それが何か解るまで時間は掛からなかった。

「麻琴・・・お前・・どういう事だよ・・」


床一面の大量の液体は麻琴の足元に倒れる
紺野あさ美の血液だった・・・・


銀色の永遠 〜悪意の種E〜

「だから何?聞きたい事って?」
色黒の女は腰に手を当てて前に居る人物を睨んだ
「えへへ。だからですね〜」
ショートカットの女は笑いながら答える
「アタシも忙しいんだからさ!とっとと終わらせて欲しいんだけど!」
見下すように色黒の女が髪を払うとショートカットの女は顔を歪めて叫んだ。

「お前が『後藤真希』と似たような能力を持ってるかって事だよッッ!!!」

ゾォドッ!ゾォドッ!ゾォドッ!

無数の『管』が足に突き刺さり痛みに声を上げる。
「ぎぃいいいいいぃいいッッ!!」

「何だ?お前?なんでこんなのも避けられないンだよ!あぁ?倖田來美ィィイイ!!!」
怒りに周囲の空間を歪ませながら彼女のスタンド『シーズン・オブ・ディープレッド』が姿を現す。
「コラァア!!三好絵里香を馬鹿にしてんのかァッ!!!!?????」
ゴボォゴボォゴボォッッツ!!!
「ひぎいぃいいぃッ!」
來美は足に刺さった『管』から沸き立つような激しい痛みを感じその場に倒れた。
「足が・・・足が煮立っている?!!」
    
     ゾォドォッ!!!

「寝てんじゃねェエッ!」  
シーズン・オブ・デープレッドの指先から出た『管』が來美の脇腹に突き刺さりその身体を起こす。
「ほらほらぁ!本気出して見ろよォ!でなきゃテメエの身体を内側からグツグツのシチューにしてやるゥ!」
     ゴボッツゴボッゴボォオ!
突き刺された血管針から注入される高熱のヘドロのショックに來美の身体は跳ね上がる。
「あぐ・・・もう・・・ゆる・・・して・・・」

「あぁッ!?」

「もう・・・ゆる・・」
そう言い掛けた來美の顔面は後方に弾かれる。
「テメエ!それで『後藤真希』と似たような能力だ!何て言ってんじゃねェゾォオ!」
激昂した絵里香の連撃は続く。
ゴシャ!ゴシャァ!ゴシィイャァ!!
「ええエ?どの口でそんな事言ってんだァ?答えろよォ!」
ゴスゥッ!
    ゴキンッ!
「あぇえぇッッ!」

「・・・・・」

「答えろッて言ってンのに顎外してンじゃねェェェェエ!!!!」
   ゴボボボボボボボォ!!!!
「S・U・R・I・V・E・R−−−−−−−ッ!」
絵里香の激情をそのまま具現化したヘドロは來美の内臓を焼き尽くした。
「ゴベェエッッ!」

「・・・このッ・・ゲロってんじゃねェ!!!!!」

ゴスッゴスッドゴッドゴッ・・・ゴブシュ!

「あっ!・・・・・なんだよ・・これで終わりか?」
殴り続けるには不可能なほど熱によって解け始めていたのだ。
「足りない・・・熱を操る流法・・・『怪焔王の流法』をもっと使いたい・・・」
気化する死体を眺めながら絵里香はそう呟いた。
「唯やんの所に戻るか・・」
そう言って踵を返した。

学校に戻ると玄関で唯が看板に紙の花を付けていた。
「手伝うよ!」
「なんやねん!今までどこほっつき歩いてたんッ?」
「ヒマ潰し・・・・実際、退屈しただけだけど。」
絵里香は苦笑しながら答えた。


銀色の永遠 〜悪意の種F〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室

「麻琴ッ!オメェ!何してんだよッッ!!!」
美貴の咆哮に何も反応せず麻琴は立ち尽くしている。

あさ美の身体から流れ出ている血液の余りの多さ。
出血は床一面に広がっている。

「どけ!どけってんだよ!!」
あさ美を真琴から引き離そうと近づく。

「!!」
それに反応する様に麻琴の体が痙攣するように美貴のほうを向く。
「何なんだ!?その動き方??!!」
まるで操り人形の様だ。と美貴が言いかけたその時。
真琴はポケットから取り出した皮の袋の中身を空中に撒いた。

黒い粒が真琴の上空を舞う!

「???・・・・!!!ッ」
美貴は黒い粒を目で追った。
その瞬間。麻琴のFRIENDSHIPの裏拳が黒い粒を打ち下ろす!
      「oiiiiii」
黒い粒は空気抵抗を無くし高速で美貴に降りかかる。
    
「??なッ!!コレ!ベアリングじゃねのかァッ!!!」
   ズビュッ!ズビッ!ズギュン!!!
瞬時にガードするも金属球は美貴の腕や腹の肉を抉り骨を削ろうとしていた。

「おぉお!!!満月の流法ッッ!!!」

B・トレインO3の満月の流法は時間をベアリングが肌に触れる前に戻す!
「リャアァア!!!」
宙に浮く『当たる寸前』のベアリング弾を薙ぎ払う!
腕や腹に痛みが走る、があのまま金属弾に身体を貫かれたらこの程度では済まなかっただろう。

「麻琴!!テメェー!」
痛みに眉を歪めて真琴を睨みつける。
が、睨みつけるはずの相手が居ない。
「な?」
「oiiiiiiiiiiiiiii」
その一瞬の虚を突かれた美貴は床を『滑る様に』低空で移動してきた麻琴の一撃を腹部で味わった!
 「ぐァッ・・・!」
  メキョォオ!!
美貴の体はくの字に曲がったまま後方に高速で平行移動する。
「す・・・滑る!止まらないっ?!」


銀色の永遠 〜悪意の種G〜

「がぁぁあああああ!!!」
麻琴は勢いを殺さずに美貴の体を押し飛ばす。
音もせず美貴の体は部室の扉に激突する。
  ガシャンッ!!
打ち付けられた勢いで扉が外れる。
ガラスが砕ける音を響かせながら扉は床に叩き付けられた。
遮蔽物が取り除かれるとなおも美貴な体は滑り続ける。
「このッ!どこまで?」
美貴の体は廊下の窓際に叩き付けられ静止した。
「うぐぅ!」
強かに背中を強打した痛みに思わず呻き声を上げる。
気丈に真琴に向かって戦闘態勢を取ろうとする美貴の頬を何かが霞めた。
霞めた所から血が滲む。
「な・・なんだ?」
疑問に答えるようにベアリングの突風が美貴を襲う!
「しまったッッッ!!!!」
美貴はベアリング弾を弾く為、B・トレインO3の連撃で弾幕を作る。
シュバァアアアアァッァア!
空を泳ぐブギートレインの拳。
ベアリング弾は全弾、美貴を外して後ろに流れた。
「へッ!ビビラしやがって!この・・・」
   グァッシャン!!!
砕ける音が響いた。美貴の背後の窓ガラスが粉粉に砕け散ったのだ。
「え?何?」
その音に気を取られた一瞬。
麻琴のFRIENDSHIPの拳が美貴の顔面を捉える。
  グショォオ!!!
弾かれるように後ろに仰け反る、が仰け反った先は窓、先程破壊された窓だ。
美貴の上半身が地上3階の空間を泳ぐ。
「お・・・・落ちる」
必死に窓枠を握ろうとするが指が『滑る』。

「こんな・・嘘だろ?」

そう言っている間にも体はずり下がる。
足が宙に浮き頭が後方に下がる。
「オルァ!!」
落下を凌ごうと美貴は腹筋を使って上体を上に揚げ様と体を起こす
体を起こした美貴の目に映ったのは蔦に絡まった真琴だった
「girugirugirugiru-------------!!!!!」
「蔦?・・・まさかッ!」
      ズルン。

「うぁああぁああぁああぁああアアあぁああああぁぁああああああああ・・・・・・」

美貴の体は空気抵抗を失い高速で落下した。


銀色の永遠 〜悪意の種H〜

弾丸のような速さで美貴は落下する。

迫る地面。

ブギートレインO3の能力が発動すればまた『やり直せる』。
だけど・・どう『やり直せば』二人を助けられるんだァアアァアアァアアァアアァァ!!!!!

美貴の額が地面に触れた。
その瞬間。

ガクンッ!

       ずぁああああぁあぁあぁぁああッ!

L字の軌道で校舎に引き寄せられる。
窓ガラスを突き破り。立てかけてあった看板を5枚ほど破壊して美貴は死地から生還した。
「グゥウウウウウ・・・・」
落下の代償に受けた衝撃に蹲る美貴。
「大丈夫!!?藤本さん!!?」
「大丈夫な風・・に・・見えるのかよ・・・もっと・・丁寧に助けろよ・・・」
美貴は壁を伝って立ち上がる。
「でも・・感謝してるよ・・お前の『引き寄せる』能力・・・スノー・ドロップに・・ありがとよ・・みうなッ!」
ガラス片を叩き落として足を引きずりながら歩きだす。
「ちょっと!そんな体で何処へ行くんですかッ!?」
「うるせェッ!触ンなッオルァ!」
引き止めようとするみうなの手を美貴は撥ね飛ばす。
「大体ッッ!!なんで落下してきたんですッ!?」
美貴は深呼吸をすると背中越しに言った。
「・・・信じらんねェーだろうけど麻琴に叩き落とされたんだッ!」
「・・・・ッ!!」
「操られている・・多分・・それにコンコンがヤラレてる!」
「コンちゃんが!?」
「麻琴にヤラレたんだよッ!ヒドい出血だ!だから早く・・早く行かなきゃならないんだッ」
「待ってください!一人じゃ無理ですよッ!」
「そー思うンだったらまずは肩貸せよッ!」

美貴はみうなの肩にもたれ掛かって階段を上がり始めた。
同じタイミングで誰かが降りてきた。
「!!」
美貴とみうなに緊張が走る。

「『友達』っていいよね。困ったとき、大変なときに助けてくれるなんてさ・・」
その人物は一人ごちながら降りてきた・・
「あたしもそーいうのに憧れるぽ!」


銀色の永遠 〜悪意の種I〜

「・・・・真希ちゃん・・止まれッ!」
「ぽ?」
「ソコを動くなッて言ってんだよッ!!」
美貴は真希に向かって激しく威嚇する。

「ちょっと?美貴ちゃん?」

「みうな・・・ロックオンしてみろッ。」
「え?え?何で?」
みうなは狼狽するばかりだ。
「引っ張って来なくていい。『何個』ロックオンしているか、ソレを教えろ!」
「うん・・ちょっと待ってて。」
「10秒以内にやれッ!」

「ロック数は『1』。『1』だよッ!」
「・・・・そうか・・・悪かった、真希ちゃん。」
深くため息をついて真希に詫びる。
「気が済んだ?」
「ごめん神経質になりすぎていた・・」
真希は上段から美貴に手を差し伸ばした。
「『人に取り憑くスタンド』・・・・アイツがまた出たんだ・・」
「・・・・そんなヤツが?」
美貴を引き上げる真希の手に力が入る。
「仲間が大変なんだ。真希ちゃん・・・手を貸してくれないか?」
「水くさいんじゃない?あたし達、『友達』じゃん?」
真希は薫るような笑顔で答えた。

「でも何で後藤さんはこんな場所に居たの?」
単純な疑問をみうなは真希に聞いた
「風が教えてくれたんだ。友達がピンチだってね!」

そう答えた真希の周りを黒い風が渦を巻いた・・・・みうなにはそう見えた。


銀色の永遠 〜悪意の種J〜

12月21日  ぶどうヶ丘高校 演劇部部室前

扉の破壊された部室。中には血塗られた床とあさ美の仰向けに倒れた身体が見える。

「コンちゃん!」
中に入ろうとするみうなを美貴が止める。
「中に入ったらダメだ!ここに来るまでも、そして今も麻琴を見ていない。待ち伏せされているかも知れない」
「でもそれじゃあ!」
「だからお前の能力を使えっての!」
みうなは美貴に促される様に『引き寄せる能力』を使ってあさ美の身体を部室の外に運びだした。
「どうだ?」
「息も脈もある・・大丈夫みたい。コンちゃん?コンちゃん?」
「うぅ・・・・・・・・」
みうなの呼びかけにあさ美は微かだが反応した。
とりあえずは最悪の場面だけは避けられた事に場の空気は少しだが落ち着いたものになった。

美貴とみうなはあさ美の身体を抱えあげた。

「まずは一人。助ける事が出来た・・・みうなのお陰だよ・・」
「そんな・・・あは♪」
あさ美の出血を考慮して速度を落として刺激いないように歩いた。
数歩、歩いた所でその足は止まった。

「・・・・やられた・・・」

麻琴は階段への道を断つ様にソコに立っていた。
部室で待ち伏せていたわけではないのだ。
『あさ美を回収した後の私達』を・・・
『仲間を見捨てて逃げる事の出来ない私達』を狙ってここに居たのだ。

こいつを操っている奴、こんな命令を出す奴はどんなにムナクソ悪いヤツなんだろう・・
亜弥ちゃんの時もそうだ・・・このスタンドの本体・・本ッ当にゆるせねェッ!

「美貴ちゃん。この子が・・件の「操られている」子?」
真希は美貴達の前に立ち、麻琴を軽く睨んだ。
睨まれた麻琴の顔には隈取のように蔦が走っている。

「・・・最近の演劇部の戦力・・・見せてもらおっか?」
真希を包む風のうねりはどこまでも漆黒に色づいた・・・・


銀色の永遠 〜悪意の種K〜

「はぁあぁあッ!ゴシップ・セクシー・GUY!」
     ズギュンッ!!!
真希のスタンドは黒い翼をはためかせ黒風の渦を身に纏う

「おぉッ!!FRIENDSHIPッ!!」
    ゴギャン!!
麻琴のスタンドは緑のビロードの様な輝きを放ちながらその滑らかさを魅せた

空気は張り詰める。

距離は4m。

互いに『決定打』を叩き込むには距離が少し遠い。

間合いを牽制し合う・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ズビュッ!ズビュッ!!ズビュュッ!!

空気を切り裂く音が静止した時を動かした!

麻琴の金属球の散弾が真希達に降り注ぐ。
文字道理、空気を切り裂きながら高速で接近する金属弾!

「何かと思えば・・・・・こんな子供騙しでッ!!」
   ビュゥンッ。
真希は足元に竜巻を生成しその渦でベアリング弾を絡め取る。
 ギュンギュンギュンンッ。
「お返しッ!!」
渦の遠心力でさらに加速した金属弾を麻琴に向かって撒き散らす。

「ぽッ!?」

金属弾の目標が居なくなっている。
消えてしまっている事に真希は思わず感嘆符を放つ。

「真希ちゃんッ!下だッ!」
美貴の声が響く!
声も空しく
真希の身体は強烈に縦回転をしながら宙に舞った。


銀色の永遠 〜悪意の種L〜

床を高速で滑走した麻琴のスライディングを喰らい真希は縦回転しながら宙に舞う。
「く・・ムンッ!」
膝を抱え上げ回転を制御し着地する。

麻琴の滑走攻撃は美貴やみうなにも及ぶ!

「みうなッ!」
あさ美を抱えたみうなを壁際に突き飛ばす。
美貴はその反動で反対側の壁に背をつき麻琴の滑走を遣り過ごそうとした。

グッ! ギュン!!

麻琴の軌道が急変した!

ザァアァアァアァアアアアアアッ!!

「コイツ・・壁を・・・壁に登ってッ!」

麻琴は地面を滑走した勢いをそのままにエクストリームスポーツのトリックの様に垂直の壁を滑る。
「oioioioioioioioioioioioiッ!」
すれ違い様の連撃!
美貴はこれを防御したがその反動で麻琴はますます加速する

  ギュッギュギィイユュン!

麻琴は天井を伝い壁そして床と凄まじい速度で螺旋状に滑走する。

「何なんだ。コイツ・・こんな事出来るなんて・・・」
・・・いや出来ても言わなかった。それだけか。
いつものマヌケな言動は擬態だとしたら・・コイツは何の目的で演劇部にいるのか?
そんな考えも纏まらないまま麻琴は方向転換をしてきた。
体勢はスライディングからスケートの様に立ち上がりスピードはさらに加速する。

「また攻撃を受けたらさらに加速する・・・長丁場には出来ない!どう出る。真希ちゃん?」
「・・・時間ってだれが決めたんだろうね?」
「・・・・・?何・・・言ってるの?」
「ごとーは時間が経てば経つほど人はやり直しが効かなくなる、そう思っている」
「言っている意味が・・」
「だからワタシはここで終わらせる!」

ギャロン! ギャロン!

ゴシップ・セクシー・GUYの左腕を関節ごと右回転!右腕をひじの関節ごと左回転!

そのふたつの拳の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間を生成した!

「風の流法<神砂嵐>ッッ!!!」

 ドワァアァァアァァアアァアン!
     オパゥ!
砂嵐の小宇宙は滑走をする麻琴を無情にも呑み込んだ。
    ゴシャァャヤ!!!!
麻琴の身体は風圧の歯車に蹂躙される。

「やめろォオォオォッ!!!」
   ガシッィ!

砂嵐は消え、麻琴の身体はボロボロになりながら落下した。

「何するんだぽ・・・美貴ちゃん?」
真希は殴られた左頬を押さえながら美貴に問うた。
「何じゃねぇよ!・・なんて事してんだ!麻琴はただ操られて居ただけなんだ!それをッ!」
「ごとーは美貴ちゃんが助かればそれで良かった・・それだけぽ」


銀色の永遠 〜悪意の種M〜

「んぅッ!」
コメカミを軽く痙攣させて岡田唯は飾り付けの花を手から落とした。
「どうした?唯やん?」
となりに居た三好絵里香は心配そうに顔を覗かせた。
「いや・・・大丈夫。なんや『駒』がやられてもうたみたいで・・」
「ふぅん。じゃあ藤本が勝ったのか・・・あぁ!今からでも潰しに行きたいなぁ〜!」
「気は早いよ!み〜よ。それより面白い事になってきたで!」
「オモシロイこと?」
唯は落とした紙の花を拾いながら答えた。
「その場に故意か知らんけど後藤が居たんよ」
「はぁ?なんで?」
「でなぁ。ふふ・・・最後に面白い絵が見れたで」
「へぇ!どんな?」
絵里香は嬉々とした表情で唯に聞く。
「この事、石川さんが知ったら・・・どうなるやろねぇ。」


紺野あさ美 重傷
スタンド名 ニューオーダー

小川麻琴  重傷
スタンド名 FRIENDSHIP



TO BE CONTINUED・・・・・