銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジー@〜

杜王町郊外 利賀岡峠 深夜
地鳴りのような排気音が無音の山間を彩る。
1台は紅。もう1台は漆黒。
フレームを軋ませて限界走行を行う。
速さを競っているでは無い。
潰し合いをしているのだ。
漆黒は己の力の再確認の為
紅は邪魔者の排除の為
交じり合う事の無い
ネガとポジの様に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
杜王町郊外 利賀岡峠 深夜同時刻
「どうですか!れいなの波紋疾走は!すごかもんでしょ?」
件のトラックスタンドはなつみとれいなの連続攻撃によりその動きを止めた。
「動きは止まったけどスタンド自体が消えていない。まだまだ状況は変わって無いっしょ!」
「そんな、あれだけ盛大に波紋をブチ込ンだんですケン。気絶モンのハズと!」
「本体もこれだけ強力なら近くに居てもおかしくないけど、遠距離型ね、アイツみたいに・・・」
「(アイツて?)遠距離型でこんなにパワーが有るとは思えんけん。」
「恐らく単純なキーワードで・・・」
と、言いかけたなつみ達の横を紅と漆黒の愚風が駆け抜ける。
「!・・・・・ラッシュ・フォーメンッ!女の敵ッッッ!!!!」
「ちょおッ?安倍さんッ?」
なつみのスピンターンを合図に疾走劇が再開した。

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーA〜

疾走する紅のYAMAHAドラッグスターC4のサイドカー。それを追う「ラッシュ・フォーメン」。
果てる事無く二台の潰し合いは続いていた。
激しいR・フォーメンの突撃・・・ドラッグスターに当たる前に遮断される。
「・・大丈夫?」
「うん。それよりさっきの、安倍さんと田中さん?」
「みたいね、なんで一緒でココに居るのか解んないケド。」

唸りを上げて坂道を走るHONDAジョルカブ。
「あぁあああぁ。上り坂だから伸びないッッ!!」
「ニケツやけんね。」
「それよりさっきのッ!」
「赤いヤツはMIYOSIって書いとったけど、三好さんにしてはちいさかったと」
「あぁあもう!早く追いつかないと。」
プォン!
「安倍さん・・」
「なにッ?れいなッ!」
振り返ったなつみの目には煌々と煌くトラックのヘッドライトが写った。

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーB〜


「おぉ〜。来た来た。止まってたけど動き出したみたい。」
サイドミラーでソレを確認する。
「あれが岡田さんが言っていた「部外者のスタンド」?」
「三好さんとの約束も有る事だしコイツ、安倍さん達にまかせちゃおうか?」
「ねえ?佐紀ちゃん。」
轟音と共にラッシュフォーメンの自動的な攻撃がドラッグスターを襲う。
「ベリー・フィールドッ!!!!」
掛け声と共に清水佐紀の手から巨大な「傘」が飛び出す。
   ボフゥンッ!!
ラッシュフォーメンは開いた「傘」に激突すると物理的法則を無視したように静止する。
「セクシー・アダルティッッッ!!!」
夏焼雅は左手から「槍」を生成させた。
  ズゴァアアアァアアアァアアアッ!
「槍」はラッシュフォーメンを串刺しにするとそのまま延び続け
幽霊トラックの後方まで弾き飛ばした。
                  グァシャアアアアアアアアアアアンンンンンッ!
派手なクラッシュ音を聞くと、雅は減速しジョルカブに接近する。
「こんばんうっひー!安倍さん、田中さん。」
ジェットヘルの風防を上げて奇妙な挨拶をする夏焼雅に
「『うっひー』じゃないべさッ!あなた達中学生ッしよッ!無免はダーッしょッ!!」
「なんでみやびがバイクもっとっと!れいな持っと無かにっ!」
上級生のそれなりの叱責が待っていた!
「まぁまぁ安倍さん。安倍さんだって違法改造車なうえ原付登録なままじゃないですか!」
「うぐッ・・・・!」
サイドカーの佐紀のもっともらしい言動に簡単に言いくるめられる上級生たちだった。
「なんであんたらがココにいて三好さんのバイクに乗っとっと?」
「あたしと佐紀は三好さんと岡田さんに頼まれたんですよ。」
「頼まれた?何を?」
「うしろのヤツを倒すように。です!」

   プォンッ!

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーC〜


「そういう訳で、あの五月蝿いバイク。お願いできませんか?」
清水佐紀は早急に話をつけてきた。
「ちょっと。話が急すぎるんじゃないの?大体、何で三好と岡田が・・・・」
「ちょーどよかじゃなかですか。安倍さんッ!」
詳しい状況を知ろうとするなつみの言葉をれいなが遮った。
「元々、あのラッシュナントカを安倍さんは倒そうってココにきたんじゃなかと?」
「それはそうだけど、わたしは・・・」
「そういう事で決まりたいッ!」
    ドバァァアアァアアッ!
れいなは話を勝手に切り上げると「座ったままの姿勢」で飛翔し、雅のバイクに
飛び乗った。
「うぁッ!ちょッ!たなかさんッッ!!」
みやびは突然の闖入に思わずハンドルをとられる。
「もう!たなかさん!危険行為は減点モノですよッ!」
「あはは。すまんちゃ!にしても良いバイクたい♪」
上機嫌のれいなはくっつく波紋を使用してなつみの方に身体を伸ばし
「それじゃ安倍さん。こっちの方が面白そうなんでコッチに居ますね。」
「?はぁッ?」

安倍なつみの後方には「ラッシュ・フォーメン」と「GOODBYE・SUMMERGUY」が迫っていた。


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーD〜

「さてはて、これからどうするっちゃ?」
れいなは非常に嬉しそうに笑っている。
「そうですね。運転変わってもらえますか?」
雅がそういったや否やれいなはスピードメーターの上につま先で立っていた。
「そうでなきゃイカンばい!」
にこやかに笑いながらみやびをタンデムシートに追いやった。
「にししし。久々の運転だっちゃわいや。」
その言葉に佐紀は只ならぬ不安を感じた。

なつみの後方には憎き「ラッシュ・フォーメン」がいた。
かつての恋人であった男のスタンド。
節操なく女に手を出すそんな男だった。
自分もその一人だ。と思うと無償に腹も立つし、最近なんだか上手く行っている
女がいる。なんて事を聞かされると理屈ではなく、ブッ飛ばしたかった。
ブッ飛ばすならヤツ一人で充分なのに・・・・
と、後方を見るや
ラッシュ・フォーメンが大根おろしのよーに路面で摩り下ろされていた。
幽霊トラックの車輪の下で・・・・


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーE〜

登り坂。時速73km/h
風は艶やかに髪を旗めかせる。
夏焼雅は後ろに身体の向きを入れ替え、タンデムシートに左足を。
サイドカーの連結部に右足を乗せ身体を固定させた。

朱槍のスタンド『セクシー・アダルティ』を水平に構え標的のトラックに向けて放つッ!

「セイリャァアァァァアアッッ!!」
掛け声と伴に高速で標的に伸びる朱色の凶刃。
        
            >>ガクッンッ!>>

標的に目掛けて襲いかかったや否や。雅の足元が大きく右に滑る!
   「あぁ?」
セクシー・アダルティは大きく標的から逸れ。目の前のなつみのメットをかすめる。
後方に注意を逸らしていたなつみは小さいとはいえ突然の衝撃に驚きハンドルを踊らす。

<<ガクッンッ!<<

「ちょっと!たなかさんッ!!!何してるんですかッッ!??」
清水佐紀はサイドカーから慌てて手を伸ばし田中れいなのハンドリングを止めようとする。
「えッ?あぁ!いつもの癖でついローリングを・・・ばってん後方車への威嚇効果はこれが・・・」

      ぎゃばッ!
「え?」
   「あ!」
     「うそ。」
蛇行運転したYAMAHAドラッグスターC4のサイドカーのタイヤとなつみのジョルカブの前輪が
接触。前輪を薙ぎ払われる形になりジョルカブごとなつみの身体は宙に撥ねた。


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーF〜

ギュンッ!ギュンッギュンッ!!
なつみの身体は空中で錐揉みしながら落下する。

「ォオオッ!ちゅらぁああああッ!!」
     グァッシャーン!
激しい激突音が響く!
アスファルトに激突する瞬間ッ!『チェイン・ギャング』で道路を殴りつけ
その反動で前方に飛ぶ!

「安倍さんッ!」
佐紀はスタンド『ベリーフィールド』を空を泳ぐなつみに突き出す。
「あぁあぁッ・・・・・」
なつみのチェイン・ギャングはその先端に辛うじて触れる。
指先をベリーフィールドに触れながら引力速度でアスファルトにその身を削られる。その瞬間。

       ビュユウウウウュワッ!
唸りを上げて朱の曲線がなつみの身体に巻きつきそのまま浮き上がる。
   「うあぁッ!」
雅のセクシー・アダルティは鰹の一本釣りの要領でなつみを持ち上げる。
「安倍さん!重い・・・早く自力でこっちのバイクに乗ってッ!」
雅の叫び声に慌ててチェイン・ギャングを使ってタンデムシートに着地した。

グァッシャン!グァッシャン!グゥアッシャンッ!ドバキャーッ!

轟音に振り返ってなつみが見た光景は
激しく側転を繰り返し。トラックに跳ね飛ばされガードレールの闇に消えたジョルカブの姿だった。

「ア・・・・あぁあぁああ・・・・」

その日の雨は冷たく全てに厳しかった。
帰り道の廃車置場に打ち捨てられていたスクーター・・・
なつみはそれを見捨てて置けなかった。
「まだこの子、死んでないよ・・・」
その場でそのスクーターを買い付けた
全くの素人であったが勉強し修復に力を注いだ。
バイト代も惜しみなく使った自慢のスクーターが・・・

「れ・・・れいなは悪くなかッ!」
れいなは引き攣りながらなつみのほうを向く
「じゃあ誰が悪んだべさッ!?あぁッツツ!!」
なつみから放たれる殺気に雅と佐紀は動けなくなる。
「・・・トラック・・・じゃ・・・なか・・・と?」
れいなは殺気に気圧され口が回らなくなった。
「あぁ!もうそれでいいべさ・・・・」
それまで周囲に放出していた殺気が一点に引き絞られる。
「ラッシュフォーメン諸共!粉々にしてやるべッッ!!!!!!!」
その言葉が第二ラウンドのゴングになった。


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーG〜

激しい激突音が峠の街道に鳴り響く。
黒光りをさせる艶やかなカウル 轢き卸されたのが嘘のように
『ラッシュ・フォーメン』はトラックスタンド『GOODBYE・SUMMERGUY』に
激しい激突を繰り返す。

・・・・・・・・・・・・・・・・
「いたッ!」
『どったの?』
「ン・・・ん〜ん。なんでもない」
・・・・・・・・・・・・・・・・

「このまま共倒れって事には為らないですかね?」
ピンボールの様にぶつかり合うトラックとバイクを見ながら
雅はそう呟いた。
「トラックの方も随分頑丈みたいだけど・・・・ラッシュフォーメンは・・・とんでもなく頑丈だから」
なつみは後方にいる二体のスタンドを睨みながら答える。

上り坂は終わりを告げ町の明かりが眼下に広がる。
頬を撫でる風が心地よい。

「こんな状況じゃなかったらロマンティックなのに…」
風景に心を泳がした途端。
「あのバイクのスタンド能力を教えてもらえますか?」
佐紀の発言でなつみは現実に戻った
「なんでこの子は・・・・」
「ちゃちゃちゃwまだそんなんとは遠い年頃たい」
肩を落とすなつみの姿にれいなが笑う
「『そんな』って私だって大人ですよッ!」
佐紀はむくれてれいなに食って掛かる。
「佐紀ちゃんは大人だよ。お・と・な。ふふ・・・」
雅はタンデムシートから手を伸ばし佐紀の頭を撫で付ける。
「もうッ!みやまでバカにしてッ!安倍さん。早く教えてくださいよッ!」
耳まで赤くした佐紀は当たり散らすようになつみに答えを急いた。
「あはは。ごめんごめん。アイツは音に反応して攻撃をするの・・」
「音・・・ですか?それじゃあ正確に狙った相手は・・・」
「本体がそういう性格なのよッ!」
なつみは「本体」を知っているだけに余計、感情が篭った。

「音・・・ねぇ。」
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリッ!
突然、ガードレールから引き裂くような不快音が響いた。
標的をガードレールに変えるラッシュフォーメン。

「あはは。超ウケる。ホントに音に反応してますよ。」
雅は身を屈めながら笑気に耐える。
セクシー・アダルティをレコード針の様に突き立てられたガードレールの金属音。
『それ』にぶち当たるラッシュフォーメンの激突音は狂騒曲を生み出していた・・・

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーH〜

ノーマル時の乾燥重量224kg。サイドカーに改装し年頃の乙女を4人も乗せたドラッグスターC4は
その重量で下り坂を加速する。

「もうそろそろで連続カーブにはいるとよ?」
れいなの声に皆、顔を引き締める。
「このままだと間違いなくカーブで突っ込まれる・・・れいな。なんかいい手ない?」
なつみは先ほどのようにれいなの「能力」に賭けていた。
「そう・・ですねぇ?みやび。この先のカーブまで音でアイツを惹きつけておくと。」
「?カーブまで?ですか?」
いきなりのれいなの提案に雅は理解出来ないでいた。
「星になってもらうと。さき!合図したらベリーフィールドっちゃッ!」
「星?ですか?」
佐紀もまたれいなの発言を理解できないでいた。

下りの三連カーブ。最初のカーブは大きい右。二つ目は左。三つ目は右。
一つ目のカーブから段々を小さく狭くなり三連を抜けると直ぐにヘヤピンが待っている。
という難所の街道である。

進入速度70km/h

最初のカーブい差し掛かる。れいなはラインを外したように外側のガードレールにベタ付ける。
  ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ
  ドギャドギャドギャドギャドギャドギャドギャドギャドギャ
音に惹きつけられラッシュフォーメンは自動的な攻撃をガードレールに繰り返している。
コーナーの頂点に差し掛かった瞬間。
「みやび!安倍さん!しっかりつかまるばいッ!!」

「オオオオオッ!デュエル・エレジーズッ!!」
       ボコォオオオオオッ
D・エレジーズの拳はガードレールを硬質化させつつ鋭利に裂いた。
反動でドラッグスターの軌道はコーナーの内側に急転する。
「今たいッ!」
れいなの号令で佐紀はベリーフィールドを展開する。
         ボンッ!!
ドラッグスターの反転に合わせて開かれたベリーフィールドは
後続のラッシュフォーメンに当たりラッシュフォーメンは弾かれ軽く宙に浮く。
浮いた前輪は裂けたガードレールに乗りそのままジャンプ台よろしくガードレールの外に飛び出す。

ラッシュフォーメンは町の明かりにダイブするように峠の空を飛ぶ。
      グォオオオオオオン!
排気音も空しく最短距離で峠道を通過するのであった。

「・・・これ。本気で狙ったの?」
「あたりまえたいッ!博多っ娘をバカにせんでくださいッ!」
なつみの問いかけに意気揚々と答えるれいなだった。

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーI〜


走行時速63km/h

ガードレールを打撃した反動でドラッグスターは急激に走行ラインを変えてしまった。
コーナーカーブを浅すぎる角度での『直線』の軌道。
このカーブはこのままクリア出来ても次の左カーブに入る前にガードレールに激突するラインだ。

「このままだと突き刺さるっちゃッ!!!!!!」
必死でハングオンするれいな。悲しいかなサイドカーの性質上バンク角度は限界がある。
            ドギュュュュュッ!!!!!
「!」
佐紀は摩擦音のしだした後方を見て絶句した。
トラックは「慣性ドリフト」をしていたのだ!
「なんやと〜ッッッ!!?」
後方を目視してれいなが叫んだ!
すぐにでもラインを変更しなければ後、数秒で追突を喰らい崖をダイブしてしまう。
トラックは最速で最短、一番効果が高い走行をチョイスしてきたのだ。

「チェイン・フィンガーッ!!!」
   ドカッッッ!
なつみはチェイン・ギャングの指に力を込め「亀裂」を生む能力を先端に集中させ
落石防止の為にコンクリで固めてある崖に指を突き刺した!
「指を突っ込んでェエェエエエ!!!!」
亀裂に指を引っ掛ける。ソコを支点にドラッグスターは旋回を始める。
ラインは変わり数センチまで迫ったトラックのノーズはどんどん引き離れていく。
「ィギいッ!」
  ビン!
「やったと!あべさん!!」
「れいなッ!次のカーブ!集中しなさいッ!」
なつみはれいなの言葉を叱責で返す。
「安倍さんッ?顔が真っ青じゃないですかッ!!大丈夫ですか?」
良く見れば脂汗まで流しているなつみに雅は声を掛ける。
「大丈夫なワケ無いじゃない・・・何kg有ると思ってんのこのバイク・・・それを片手で・・・」
なつみは肩を押さえる。
「まさか・・・今ので脱臼したんですか?」
「そこまで・・・酷く・・・ない・・かな?」
佐紀の問いをごまかして答える。
「安倍さん!」
そういうや否やれいなはなつみの抜けた腕を掴んで上方に持ち上げる。一瞬の出来事だった。
「イギャ!!!・・・ってあれ?」
「なおしたと。よくよくトラックのやつはトンでもない相手たいね」
そういってれいなは特攻服を脱ぎ始めた。

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーJ〜

進入速度58km/h

ブゥォオオォオォォオオオオム!!!!!
れいなはギヤを落としアクセルを吹かす。
だがライン取りはアウト・イン・アウトを外れ、コンクリで固めた崖に突っ込もうとしていた。
「ちょっと!れいな!!?」
「それでは。皆さん。用意はいいですかぁ?田中大サーカスの始まりたいッ」
     「はぁッ?」
呆気に取られる三人を他所に赤い特攻服を旗めかす。
    ビシィイッ!
「ソリッド・ファイッ!」
デュエル・エレジーズほ能力により硬化する特攻服。
「ふんッ!」
  ドスッ!
硬化した特攻服を投げ刺す。その場所は崖の手前だ。後方に迫るトラック。
狭くなる峠道。このままならばトラックと崖のサンドイッチだ。

「これが本当のオーバードライブだっちゃッ!!」
バォオオオオオオオオオオオオ!!!
ドラッグスターは硬化した特攻服を上り台にし崖に乗り上げる。
ギャリギャリリリォオオオオオオオオオン!
数回の空転をしたあとドラッグスターは重力を無視して崖を走りだす。

「・・・・・田中さん・・・これ・・・は・・・?」
余りに常識外れの走行に雅は目を白黒させながられいなに説明を求めた。
なつみは呆れ顔で佐紀に至っては目見開いたままだ。
「なにも不思議はなかよ。走らせながらくっつく波紋を使って崖とタイヤをくっつけてるだけたい。」
「くっつけるって・・・・」
「油ば使うと波紋伝導率があがるっちゃ!」
「油?」
雅はそっと前輪に目を向ける。
「タナカさん・・・・油ってブレーキングオイルじゃないですか・・・・」
タパタパとタイヤにオイルを与えながらホースが踊る。
「仕方なか!」
「これ・・・抜け切ったら止まれなくなっちゃいますよ・・・・・」
雅は顔を青くしながられいなに確認する
「仕方なか!」

「・・・・crazy・・・」

雅はアタマに浮かんだ単語を口にした。


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーK〜


走行速度53km/h(悪路の為)

崖にへばり付くように走るYAMAHAドラッグスターC4。その隣を通過するトラック。
れいなはアクレスをゆるめ速度を落としながらズルズルと道路に戻る。
「これでアイツの背後が取れたっちゃ!」
周囲の『これからどうブレーキングするのか?』という空気を無視した得意満面な顔だ。
「じゃあ。安倍さん。あと運転頼みますね。」
「なッ?えぇ?」
驚くなつみも気にせず、れいなはいきなり立ち上がりサイドカーのカウルに飛び移る。
ドライバー不在のため暫し蛇行するドラッグスター。
なつみがアクセルを握ったのを確認すると
「次のヘヤピンで終わらそうと思うやけん。皆さん覚悟はよかですか?」
「・・・・・どうする気なの?」
なつみは、またトンでもない事を言い出すのを予感していた。
「殴り倒すのは無理ばってん。ヘヤピン曲がっている最中に崖から叩き落とすっちゃ!」
「落とすって。あんた。」
「カーブば曲がっている時の側面に攻撃を集中させれば出来そうたい。」
そう言うとれいなはポケットからハチマキを取り出し額に巻き始めた。
そこに書かれた文字は「特攻み」。
「・・・・・」
    「・・・・・」
   「・・・・・」
そのセンスは三人を黙らせた。
「それじゃあ。安倍さん。みやび。近距離パワー型が三人もいるばってん。チカラの見せ何処たい!!」
「はい!そうですね!田中さんッ!!」
雅は妙に張り切って答えてみせている。
「やるしか・・・・ないんだから仕方ないべ。」
「安倍さん。ジョルカブ、ジョルカブ。」
そう言って軽くなつみを焚きつけたれいなだったが。
「・・・・・・・・・・」
グゥオオオオオオオオオオオオオオオオッ
その言葉を聞いた途端、無言で加速したドラッグスターにれいなは珍しく『やりすぎたな』と思った。
「田中さん。わたしは・・・」
と田中に指示を求める佐紀に
「正直どんな事態になるか解らんちゃ!どんな状況にでも対応すると!」
と言いトラックに体を向けた。
トラックがヘヤピンまで差し掛かる距離、5m。

コォオオオオオオォオオ!
れいなは波紋の呼吸を整え、吼えた!

「よっしゃ!ぶどうヶ丘中学!田中れいなッ!特攻んで往くんで世露死苦ッッッ!!!!!」

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーL〜

進入速度62km/h

ギュワアアアアアアアァ・・・

アスファルトに白煙を撒き散らしながらトラックが滑り始める。
トラックまでの距離3m。

「よっしゃッ!みやびッッ!」
「1・2・3!」
「よっしぁ!刻むぜ!波紋のビート!」
「いっけぇえ!セクシー・アダルティッ!」
「煌けッッ!橙色の波紋疾走ッ(サンライトオレンジ・オーバードライブ)!!!」
「どぉおぉぉぉぉおおおぉおりゃぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁッ!!!!」


衝撃は唸りを上げてトラックに直撃した。元より加重バランスの崩れたドリフト状態。
その速度のままガートレールにもたれ掛かった。
   ドガガガッガアッガ!!!
「デュエル・エレジーズッ! ソリソリソリソリッ!ソリッド・ファイッ!!!」
れいなはさらにD・エレジーズで攻撃を加えカーブを攻める用意した。
「なんで?なんでデュエル・エレジーズで攻撃なんかしたんですか?硬くしたら・・・」
佐紀の問いにれいなはコンクリの崖にくっつく波紋とはじく波紋を巧みに使い分けながら答えた。
   ギュユ!
崖に沿いながらドラッグスターは危なげなくヘヤピンを曲がる。
「硬いって事はいいことばかりじゃなか。硬さゆえの弱点もあると。」
     ベキバキバキバキバキバキゴシャッッ!!!!
飴細工のようにガードレールがトラックの『硬度』に耐え切れず折れだした。
トラックはドリフトの姿勢のままガードレールを薙ぎ払いその身を闇に投げ出した。

「これで・・・・終わりっちゃッ・・・・」
れいなは強敵の最後を看取ろうと後方を向いた。
「!!!!」

ギュワワワワアッワワ!!!!!!
轟音に目を疑う。
闇から這い上がる様に。トラックは前輪を猛回転させて舗装道路に戻ろうとしていた。

「なんてやつ・・・・ばってんこのままじゃ・・・」

「オォオオオ!!!!!チェイン・ギャングッ!!」
     ドゴォオオオオッ!!
なつみのチェイン・ギャングがアスファルトを強打する。
亀裂はトラックに向かいクッキーのようにトラックの足場は崩壊した。

「これでこの馬鹿騒ぎも・・・終わりだべ!」


峠にはYAMAHAドラッグスターC4の排気音のみが響いた。

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーM〜

帰路 走行速度43km/h

深夜の山道にドラッグスターの排気音が響く。

「はぁ〜。ったく。ジョルカブは大破するし今夜は最悪だべさ・・・・」
なつみは運転を変わりタンデムシートでうな垂れていた。
「そぉーですかぁ?れいなは久々に暴走ったンで凄く気分はよかばい。」
ドラッグスターのハンドルを握るれいなは嬉々とした表情で語った。
「あんたは気楽でうらやましいべさ。」
「そういえば、あんたたち。もう夜遅いんだから早く帰りなさいよッ」
そういってなつみは雅に話しかけた・・・
______シュル_______
雅の襟元から緑色の何かが一瞬出て来た・・・・様に見えた。
あまりに一瞬・・・・なつみは目を凝らしてみてみたがもうそれはない。
「気のせいかな?」
「どうしたんですか?安倍さん?」
雅がこっちを振り向きながら話しかけてきた。
「いや・・・なんでもないべさ・・・それよりあんた達、早くお家に帰らないと。」
「そうですね。あたし明日、日直なんですよ。それだから早く・・・・」
そのあとは極普通の中学生の会話をしだした。
なつみは昔を懐かしみながら話に聞き入っていた。
「あ!そうだ!佐紀ちゃん。千奈に連絡しとかないと!」
話の途中、雅はすっかり忘れていた友人の事を思い出した。
「すっかり忘れてたね。千奈、きっと怒ってるよ。」
佐紀はサイドカーの荷物置きからハンディ無線を取り出した。
ピッピッピー。
バンド周波を約束の数値に合わす。
「CQ。CQ。こちら・・・・」
お約束の合図を発信しようとする佐紀だったが
「もぉ〜遅いよッ!おそい〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
千奈美の怒号に掻き消された。
「はは。ごめんね。もう例のスタンドは倒したから本体の方の監視は・・・・」
  プォン!

佐紀の送信をまたず、周囲が明るく照らされる。

「コイツ・・・なんなんだっちゃッッッ!!!!!」
れいなは後方に向かって叫んだ。
トラックはボロボロになりながら、また後方に付けていた。
「・・・・・千奈美ッ!本体のいる場所はッ?」
佐紀はハムに向かって叫んだ。
「ッ!ふもとのファミレス!『ポイヤル ロフト』!今、出て来たよッ!!」
千奈美の声がハムを通じて皆に聞こえる。
「ちょっと・・・何?・・・本体?・・・知ってるの?」
なつみの問いを流すように
「正体がどうこう言うより、いまは本体を倒すことが先決ですよッ!」
雅はそう。強く言い切った!


銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーN〜

走行速度60km/h

景色は暗い山道から明るい街道に変わっていく。

    ゴシャァッ!ゴシャアアア!
轟音を立ててトラックはドラッグスターに激突を繰り返す。

佐紀の「ベリー・フィールド」のお陰で無傷ではある。
峠の時よりも激しい攻撃。

『本体が近い』事を雄弁に語っているようであった。

『ポイヤル ロフト』の電光看板が夜の闇に燦々と輝く。
      グゥアアアアアアア!!!!!!
ドラックスターの排気音がけたたましく唸る。
「一体誰が本体と?!」
叫ぶれいなに雅は答えない。
「・・・・・・・giru・・・・」
   ___シュルルルルルウルルルウルルルル
「はぁ?何、言っとっと?」
振り向くれいなの目に写ったのは無数の蔦に絡まれた雅だった。
「girugirugirugirugirugirugirugirugirugiru!!!!!!!」
雅のライダージャケットの袖や襟から緑色の触手が風きり音を上げる。
「なんが!こいつはぁーーーーーッッ!!!」
痙攣するような動きから『セクシー・アダルティ』を構える。
      さながら操り人形の様に。
「ちょっと!アンタッ!」
後ろからなつみが取り押さえようとするが猛烈な力で振り解かれる。
「クッ!れいな!バイクを止めなさい!」
・・・・・なつみはれいなに叫んだが返事が無い
「早く波紋とか言うのを使って・・・・」
雅越しにれいなを見る。
「!!」
れいなは雅と同じ様に蔦に巻き付かれた佐紀によって動きを封じられていた。
操縦者の居ないバイクは惰性で街道を突っ走る。
「GIRuGaAAaaaaaAaaaaaaaaa!!!!!!!!」
雅の手から打ち出されたセクシー・アダルティは朱い軌跡を描く。
       その先にいるのは・・・・

なつみは見たことがあった藤本や後藤と一緒に居る。あの子ッ!

銀色の永遠  〜ドライブ・ミー・クレイジーO〜

操り人形の雅から放たれた朱の線はGOODBYE・SUMMERGUYの本体
『松浦亜弥』の背後に高速で伸びていく。

「駄目ェ!逃げてぇ!」
なつみの叫び声は無常にも亜弥の足を止めてしまった。
    なつみの声を聞き振り返る亜弥。
         亜弥のその目に凶刃が映る。
      
      ズドォオッ!
セクシー・アダルティは肉を貫き、辺りを鮮血で染める。

      「美貴ちゃんッッ!」
地面に突き飛ばされた亜弥は友人の返り血を浴びこう叫んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雅のセクシー・アダルティは美貴の胸を深く貫いていた。
「れいなに・・・・安倍に・・・中坊の雅と・・佐紀・・・なんで・・・?」
美貴は己の血に塗れた道路に膝を付いた。
「なんで・・・お前らが・・・・・亜弥ちゃんを・・・殺し・・・たんだ・・・?」
力尽き膝を曲げた状態で後ろに倒れる。
「美貴ちゃんッ!美貴ちゃんんッッ!!」
亜弥は美貴の体を揺するが出血を酷くするだけだった・・・
       「・・・・・ブギー・・・トレイ・・ン・・・・」

                              プゥウウウウァアアァァァ




「ちょっと!れいな!」
田中れいなは久しぶりに他人から声を掛けられた。
振り向いてみると、それは上級生の安部なつみだったのでちょっとがっかりした。
「安部さん?何と?」

「おいッ!ちょっとれいな。こっち来いよ!」
美貴はなつみとれいなに割って入ってきた。
「ちょ!れいなは安倍さんと・・・」
あまりに強引な美貴の呼びかけにれいなは苦言を言おうとその瞬間。
「来いッ!ってんだよッ!ゴルァアッッッ!!!!!!」
美貴の言葉はれいなを固めた。
「お前にアタシの友達を紹介してやるよ! そうだッ!夏焼ってお前の知り合いだろ?」
美貴はれいなに顔を近づける。
「そうたい・・・」
れいなは美貴と目を合わせない様に下を向く。
「ちょっとそいつ呼んでこいよ。」
「え・・・・どうして・・・ですか?」
れいなは美貴の提案に顔を引き攣らす
「だからどーもこーも・・・・あ!こっちこっち!」
美貴は手を振って友人を呼んだ。
「コイツが美貴の後輩の田中れいな。でこっちが」

「松浦亜弥でーす。初めまして。」

・・・これで亜弥ちゃんが『今晩、死ぬ運命』は回避できたかな?

「どったの?美貴ちゃん?怖い顔して?」
亜弥は美貴の顔を覗き込む。
「いや・・・なんでも無い。なんでも・・・」
また亜弥ちゃんを狙うようなら・・・演劇部全員を敵に回す事になるかもしれない。
                        そう決意して美貴は歩き始めた。


TO BE CONTINUED…