銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けに@〜

月曜日の昼休み

その日は秋の終わりにしては暖かく、洗濯ものを干せばよく乾きそうなそんな陽気だった。
そんな陽気とは関係なくここ『サンジェルマン』では目当てのパンを巡って激しい争奪戦が起こっていた・・・

「え〜とあたしと道重さんは『明太スパロール』で〜。亀井さんが〜・・・なんだっけ?」
久住小春は自分と先輩達に頼まれたパンを購入しようと選んでいる最中だった。
「邪魔ッ!」
    ドンッッ!
小春は急に横から押しのけられる。
「なッ!?」


嗣永桃子は久々にパンを購入する金が出来た。
見得を張るわけではないが、たまには贅沢に昼食はパンにしたかった。
     久しぶりのパン食。
だったらおいしいパンを食べたい!そう思った桃子は『サンジェルマン』に急いだ。
相変わらずの混みようだ。桃子は急がねば!と思い人波を掻き分ける。
目当ては『ヤキソバパン』だ。数も少ない。早くGETしなくては。
ただでさえ混んでいるのに。配慮が足りなのではないか!
通路の真ん中でどれにするか迷っている子がいる。
迷惑を考えない彼女に腹が立った桃子は
「邪魔ッ!」
と言ってその子を横から押しのけた。


鈴木愛理はいつもの様に『サンジェルマン』に来てパンを選んでいた。
「タコスサンドはこの間、食べたから・・・今日はヤキソバパンかな?」
そう言って『ヤキソバパン』に手を伸ばした。
それは最後の一個だった・・・・・・


「わぁあッ!!」
押しのけられた小春はよろけて棚に手を付いた。
「コハルチャン!ダイジョブカ?」
「コハルヲツキトバスナンテ!ナンテワルイヤツ」
「コハルタン。ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!」
小春のスタンド『ミラクル・ビスケッツ』は小春の頭上を飛び交い
口々に小春を心配する。
「ん!大丈夫だよ。ビスケッツ!・・・・それにしても」
いきなり突き飛ばすなんてなんて乱暴な事をするのだろう。
小春は注意をしなければと思い声を掛けた。


桃子は足早にパン棚に駆け寄ると『ヤキソバパン』に手を伸ばす!
      最後の一個だ!
       ガシィ!!
すると、どうだろう。ヤキソバパンの半分を握っている手が在った。
一個のヤキソバパンを半分ずつ分けているような。そんな形であった。
桃子は急いで横を見る。
   「愛理・・・・」
獲物を狙っているのが知り合いだと解ると桃子は顎を引いて話しかけた。
「愛理・・放しなよ。これはあたしのパンだ。」
「はぁ?何言ってんの?取ったのは同時だったじゃない。」
愛理の言葉を解さないように
「愛理は毎日パン食べてんだから。あたしに譲りなよ。そこの甘食でも食べてれば?」
と一個100円の甘食を指差した。
桃子の勝手な言い分に愛理が言い返そうとした時
「ちょっと!突き飛ばすなんて酷いんじゃないッ!」
 微妙なタイミングで
小春が後ろから声を掛けた。


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにA〜

小春の声に反応して桃子が振り向いた。
「何?あなた?・・・・どっかで見た顔みたいだけど?誰だっけ?」
桃子は顔に馴染みは有る様だが誰だか思い出せないで居る。
「ほら。桃子!ミラクルの新入りだよ!」
愛理の耳打ちで思い出す。
「あ〜ぁ。あなたがミラクル!へぇ〜。じゃ、ごきげんよう!」
そう言うと愛理とパンの取り合いを再開した。

「!!!!!!」
こっちは突き飛ばした事を謝って貰いたいのにッ!
「ちょっと!」
小春は顔を紅潮させて桃子に怒鳴った!
「な・・・何なの!いま私は食べるか食べれないかで大変なの!話なら後にしてよ!!」
桃子は空腹に耐えかね始め、小春に怒鳴り返す!
「だから!謝ってって!言ってんの!」
小春も負けず言い返す。
状況が絡まり始めた!
「・・・・・!」
絡まった状況に乗じて愛理が口を開く。
「じゃあさ。桃子。ゲームをしょう!それで勝った方がパンを選べる!どう?」
桃子は少し考えてから
「負けたら?どうするの?」
と敗北の処遇を聞く。
「負けた方は甘食でいいんじゃない。勿論総オゴリで!」
愛理は目を細めて桃子を見る。
「んふ!乗った。やる!やる!」
そういって桃子は体をくねらせた。
「だから謝ってって!」
完全に無視されている小春は必死に喰ってかかる。
「はいはい!ゲームが終わったらいくらでも〜」
そういって桃子と愛理は会計を済ましてしまった。
「ま・・・待ちなさいよ〜。」
そういって小春は適当に亀井の分のパンを手に取って二人を追った。


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにB〜

「困りますよッ!会計を済ませてからにして下さい!」
小春はサンジェルマンの店員に止められる。
「お金ッッ!・・・これで大丈夫ですよね!じゃあッ!」
小春は店員にポケットの金を全額渡した。
実際の金額より130円多かったのだが二人を追跡するのに夢中になっていた。

駆け出したのはいいが一瞬の遅れが二人を見逃した感じになってしまった。
「あ〜・・・もう。確かここを曲がってたな。」
曲がり角を曲がるとそこは校舎の裏に繋がる道だった。
「こんな道が有ったんだ・・・」
小春は周りを見回しながら独り言を言った。
暫らく歩くと広い所に出た。
「居たッ!!」
見ると何か棒のようなものを持って二人で何か話している。
    「何だ?  あの棒?」

桃子は愛理に先導され校舎裏に来た。
「で?勝負するゲームは?何やるの?」
桃子は軽い笑みで愛理を威嚇する。
「ふふ、焦らないで。コレを使ったゲームだよ。」
そう言ってポケットから赤と白のプラスティックで出来たボールを出した。
「赤?白?」
手に持ったボールを突き出しどれを使うか聞き出した。
「ん〜。じゃ、赤!」
桃子はそういって赤いプラスティック球をつまみ取った。
「これ使って何すんの?」
桃子はボールを玩びながら愛理に問うた。
  「コレを使って・・・」
  「これ?どれ?」
愛理は近くの立ち木に手を触れた。
     スッ!!!
手は立ち木にの中に入りそこから『ゴルフクラブ』を抜きだした。

銀色に輝くアイアンを桃子の目の前にかざした。
「さぁゲームを始めようか?」
愛理は自信たっぷりな目で桃子を見た。

「・・・なるほど・・自分の得意な『ゴルフ』で勝負ってワケ?」
桃子の目に闘志が宿る。
「だったらなお更、負けられないカナッ!?」


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにC〜

愛理は5mほど前に進むとそこにチリトリを地面に置いた。
「いい?ルールはこのチリトリの上にボールを乗っけた方が勝ち。簡単でしょ?」
「そんなルールでいいの?」
桃子は笑みを浮かべていた。
何故なら、この手の「食べ物を賭けた勝負」では負けたことが無いのだ。
所詮、餓えていない人間とはモチヴェーションが違うのだ!それが持論だった。

「先行は私でいい?」
愛理はそういって構え始めた。

ゆっくりとバックスィングを取る。
ヘッドは綺麗な軌道を走る。
   ドシュ!
打ち出されたボールは放物線を描く。
   コッッン!
快音を響かせチリトリの上にボールが着地した。

「まぁまぁかな?・・・次は桃子の番だよ!」
そう言って桃子にアイアンを渡す。
最初に自分のベストプレイをみせてプレッシヤーを与える。そういう作戦だった。
自分の領域で最大の圧力をかけて戦う。
卑怯ではない。
嗣永桃子と戦うと言うことはここまでしなくてはならないのだ。

「う〜ん。私、初めてだから絶対うまくなんか出来ないよぉ〜」
アイアンを握りながら身体をくねらせる。
笑顔だが目は笑っていなかった・・・・

「よーし。チャー!」
桃子はかなり早い速度でバックスイングをした。
「シュー!」
身体の軸がズレ、スイングがぐら付く。
「めんッ!」
ゴッ
ボールに当たる目前でアイアンのヘッドが地面に激突し打ち出された球は完全に当たり損ねだった!

ボールは目標から右にそれる。
「クッ!」
桃子は突然しゃがみ込んだ。

すっぽぬけた当たりのボールは大した勢いも無くチリトリとは離れた所に落ちようとしていた。
   パンッ!
突然、破裂音が聞こえたかと思うと桃子の打ったボールは『着地した地面に弾かれるように』
直線に飛び、チリトリに突進する。
   ガンッ!!!
謎の勢いが付いた桃子のボールは愛理のボールを弾き出しチリトリに到着した。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
「やったー♪」
かなりの間を置いてから桃子は飛び跳ねて勝どきを上げた!


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにD〜

「コハルゥ!イマノミタカ?」
小春の周囲をミラクルビスケッツが飛び交う。
「うん!あの子・・・」
「スタンドヲツカイヤガッタ!」
「ズルダ!ズルシヤガッタ!!」
「アンナヤツ!ユルシチャダメヨ!」
「勝負にスタンドを使って勝つなんてッ!」
「コーハールッ!ヲイ!コーハールッ!ヲイ!」
私は「決闘を侮辱する」あの行為が許せなかった

「見てたよッ!今さっきの!スタンドを使って球の軌道を変えたでしょ!」
小春はそう言いながら桃子達に近づいた。
「あんた、まだ居たの?昼休み終わっちゃうから早く帰れば?」
桃子は首を右45度に傾けた。
「ズルイよ!その子はちゃんと実力で勝負してたのに!」
「もういいよ。負けは負けだから・・・・」
指差された愛理は気まずそうに答えた。
「なんだか状況が飲めて無いようだけど、愛理は自分が100%勝てるゲームを指定して来たんだよ?」
桃子はオーバーに両手を広げて続けた。
「その出来レース染みた勝負と私がスタンドを使ったのってどっちが卑怯なの?」
「うぅ・・・・」
ゲーム自体にそんなカラクリがあったことが分からなかった小春は思わず呻いた。
「それにスタンド使い同士が勝負をして何も起こらないほうがおかしいんじゃないの?」
「それは・・・」
言い返そうとする小春に桃子が急に近づく。
「それ以上どーたらこーたら言うんだったら、そのチンケなスタンドごとブチ潰すよッ!」
桃子は目を細めて小春を威嚇した。
「あぅ・・・」
その気迫に呑まれた小春は何も言い返せなかった・・・・

「じゃ!そーゆー事で!230円儲かっちゃった!ありがとね愛理!」
愛理から受け取ったヤキソバパンを片手に桃子は上機嫌で校舎に向かった。


愛理もその場を去り、小春だけが残された。


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにE〜

「どうしたの?随分遅かったじゃない?」
「実は・・・・」
小春はサンジェルマンの一件を道重さゆみと亀井絵里に話した。

「そんな事があったの・・・」
「あの時、私はどう答えたら善かったのか解らなくて」
悩む小春に
「でもそれは勝負事。勝ち負けはお互いが納得してるのなら口出しは出来ないよ」
と絵里はそう言った。
「小春はどうしたかったの?」
「わたしは闘うのなら正々堂々やるべきだと・・・でも相手の不利な状況を選んで闘うのも違うと思います。」
小春はさゆみの問いかけにこう答えた。
「そう・・・じゃあ決まったの!」
「え?」
「小春が嗣永ちゃんと闘って答えをだすのッ!」
  ギュンッッ!
「ええッ!?」
「・・・さゆ?その考え、無理が無い?」
「考えて答えが出ないようなら、闘って答えが出るハズ!これは指令なの嗣永桃子と闘って来るの!!」
    ドンンッッ!!

        キーンコーンカーンコーン

  電子音のベルが学生の一日の終わりを告げる。

「んぅ〜ん。今日も一日終わったぞぉ〜。んふ!」
桃子はネコのように身体をくねらせながら椅子から立ち上がった。
手早く帰り支度を済ませて下駄箱に向かう。

「嗣永さんッ!」
後ろから声を掛けられて振り向く。
「あぁ。久住・・ちゃん?何かなぁ?」
「あのね。嗣永さん。お願いがあるの。」
「お願い?なに、なんなの?」
親しくも無い小春の発言に桃子は思わず眉をひそめた。
「わたしとゲームをしてもらいたいんだ。お昼の時みたいに。」
「・・・久住ちゃんねぇ。いきなりそんな事、言われても」
小春の提案に思いっきり難色を示す。
「じゃぁ、勝負を受けるだけでアイスを奢る!嗣永さんが勝ったらもう一個で!どう?!」
ッッッッ!しまった!こんな子供騙しで相手が乗ってくる訳無い。
小春は心の中で自らを責めた。

「アイスかぁ〜。んふ!乗った!やる!やるよ!」
「えぇ・・・?」

拍子抜けする小春を尻目に、桃子の両目は妖しく輝いた


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにF〜

「で?なに?何のゲームなの?」
桃子は手を胸に当てるとその身をよじる様に左右に振った。
    スッ!
「これで勝負しよう!」
小春は魔法のように空間からゴルフクラブを召喚した。
  彼女のスタンド『ミラクル・ビスケッツ』の能力だ!
「鈴木さんから借りた・・・さっきのクラブだよ!」
銀色の輝きに小春は闘志を乗せる。

「ふ〜ん・・・じゃあルールと場所は私が決めるね♪」
桃子はその目を細めて小春を見る。
予想外の展開に小春の顔が硬直する。
「えぇ?嗣永さんがルールを?」
「だって、ゴルフで勝負。ての決めたの久住ちゃんでしょ?だったらルールと場所は私!これが対等でしょ?」
もしかしたらこちらが不利になるルールを決められるかも知れない。
場所も相手が指定。これは考えてもいない事だった。

「んふふ♪」

桃子に先導されて来た場所は学校から外れた倉庫街のような場所だった。
「ここなら思いっきりやっても誰も注意はされないから!良い場所でしょ?」
桃子は両手を広げながら飛び上がって見せた。

密集する倉庫群。確かにここなら多少騒いでも文句は言われないだろう。
  だけど・・
ここでどんなルールでゴルフをやるのだろうか!?
この勝負はたかが何百円程度の賭けだが・・・これが命を賭けるような勝負だったら?
桃子の術中にハマってしまった自分の軽率さに後悔した。

「じゃあ久住ちゃんの居るところが打つ場所で〜〜〜〜」
桃子は手を変な風に振りながら10mほど駆け出した。
「でね!この線!」
ゴリゴリと落ちていた石で地面に線を引き出した。
「そこからこの線に球をどれだけ近づけるか!そういうの!線を越えたらダメだよ〜〜」
開始点にいる小春に桃子は両手を振って叫んだ。

「それって・・・・チキンレース・・・?」
「ふふ、そうだよ。」
小春の問いかけに終点から戻ってきた桃子が答えた。
「あ!それから!!スタンドで直接ボールに触れるのは禁止!だかんね!」
桃子は笑みを浮かべて小春に言った。


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにG〜

「わたしはスタンドはモガッ!」
使わない!と言いかけた小春の口を桃子が手で塞いだ。
「あんたさ〜。面白味に欠ける性格だよね!何の為のゲーム?何の為の能力?」
桃子は小春の目の前で一指し指を左右に振って続けた。
「楽しまないと!ゲームが盛り上がりに欠けるじゃん♪」
「・・・・楽しむって・・・私は・・・そんな心算じゃ・・」
小春の答えに
「え?なにそれ?ゲームを楽しむのに私を誘ってくれたんじゃないの?」
桃子は歯切れの悪い答えに眉をしかめる。
「私は答えを探しに来たの。あなたと闘えば・・答えが見つかる。そう言われたから。」
「何だかちょっと解らないケド・・・桃と闘えば・・答え?が見つかるの?」
桃子は小春の顔を覗き込む。
「だったらなお更!全身全霊で闘わなければ答えなんて見つからないんじゃない?」

小春の中で何かがハジけた。
そうか。言いくるめられている気もするが自分自身で手を抜いたら解るモノも解りえない。
桃子の言う通り。全力でなかったら答えなんて見つかる訳もないのだ。

「それじゃ先攻、後攻。決めよっか!」
桃子はポケットから10円玉を出した。
   ギィイィィィイン
空に打ち出された硬貨は回転をしながら落下した。
     パンッ!
桃子はソレを右手の甲で受け止め左手で伏せる
「表?裏?」
「私は表!」
「裏!」
桃子は表、小春は裏を選ぶ。
そっと桃子は左手を退かす。
「はい!はずれ〜〜ッ!」
桃子はすばやく10円玉をポケットにしまった。
「私が先攻ね。うふ♪」
右手をポケットに入れたまま左手をL字にしてポーズを取った。
ポケットの『二枚重ねの』十円玉を元に戻しながら・・・


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにH〜

桃子はボールを地面に置き、素振りを始めた。

ひゅ
   ゴッ!
「・・・・」
ひゅん
   チッ
「・・」
ヒュンッ!ヒュンッ!!
「なるほどぉ。こーやって振れば良いンじゃん!」
「な・・なんでッ!?」
小春は思わず叫んだ。
昼間、愛理とのゲームが嘘のようにしっかりとしたスイングをし始めた。

「・・・・コイツハドンデモナイキョウテキダナ。」
「NO,1・・・」
「ダガシンパイスルナ。スデニNO,2トNO,3ガシコミニハイッタ!」
「そうだね。私とみんなが力を合わせれば絶対勝てる!よね。」

「よぉ〜し。うまく出来るかなぁ〜。自信無いよぉ〜。」
そう言いながら、身を捩じらせて桃子は構える。
スッ
  ゆっくりとクラブを振り上げる。
   シュ
    綺麗な円を描いてクラブが奔る。
   キィィイン
ボールは高い軌道を描き線には届かずに落ちた・・・
       パン!
昼間の様にまたもボールの落下地点の地面が爆ぜボールを進ませた!
    ・・・・・コロコロコロコロ
ボールは線の10cmの所まで近づいて止まった。
「よぉ〜し!うまくいったかなぁ?」
桃子は片足を後ろに跳ね上げガッツポーズを取って見せた。

「今の!見えた?」
「アア。イシコロヲナグリトバシテラッカチテンニアワセヤガッタ。アジナマネヲシヤガル!」

「次は久住ちゃんの番だよぉ。」
桃子は小春にクラブを渡した。
渡されたクラブをギュと握って軽く振ってみる
ヒュンッ!
悪くない、良い感じだ。
「よしッ!」
小春は構えに入った。
スッ
 気持ち早めに振りかぶる。
   ギュン
小春の身体が激しく捩れる。
  カァアン!
快音を上げてボールが飛び立つ、が
「しまった!」
        コォオオォン!
ボールは左に流れ倉庫の壁に当たり跳ね返る。
反動を得たボールは勢い良く線を越えようとしていた!

「ハァーイイ!オマタセェ!コハルゥ!」
「ウリャ!ヲイ!ウリャ!ヲイ!」
線の上空にNO,4とNO,5が出現した。
「NO,4!NO,5!」
「オレタチモイルゼェ!」
「NO,2!NO,3!」
「ソリャー!イクゼ!!」
NO,2とNO,3が分解し、NO,4とNO,5が再構成して出現させたもの。
それは倉庫からくすねて来た『テーブルクロス』だった。
ボールの軌道線にソレを広げる。これに当たればボールは勢いの殺し、線の上に見事に落下だ。
「ヨーシ!キタキターーー」
   ヒュゥウウン
「カクドヨシ!イツデモコイヤーーー」

    パァン!
「ハ?・・・ハァーーーン」
突如、NO,5が弾き飛ばされた。
三点支持の布の壁はボールを止める事が出来ず。布を嘗めるようにボールは飛んでいってしまった・・・

ボールは線を1m程越えて落下、静止した。

「・・・・・」
絶句している小春に桃子は
「2回戦目、始めようか?」
目を細めてそう言った。


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにI〜

「2回戦?いきなり・・何言ってんの?」
「だから三本勝負ってルールだよ♪久住ちゃん。」
「始める前はそんな事言ってなったじゃない!」
小春に桃子は笑いかけた。
「一回負ける毎に、ペナルティは倍付けってルールだから♪」

「だから。そんなルールが通る訳が・・・・!!」
小春の顔に桃子の顔が急接近する。
「だから。私がルールを決めるって言ったじゃん。その事に久住ちゃん、何も言い返さなかったよねぇ?」
「はぅッ!」
桃子は指を折って数え始めた
「次勝てばぁ久住ちゃんは私にアイスを三つ買う事になっちゃうね〜。んふ!」

「さぁ!2回戦目!始めようよ!!」

桃子はポケットから10円を出した。
「じゃ、またコイントスで」
コインを指に掛けたその瞬間。
「待って!それは私がやるッ!」
小春は桃子のコイントスを制した。

先ほどの打球でミラクルビスケッツが攻撃されたのも、勝手にルールを作られているのも。
私がはっきりしなかったからだ!
この嗣永桃子はコチラが食い下がらなければどこまでも勝手にやる!
そんな事はもうさせないッ!!

上着のポケットから100円玉を取り出し、宙に放った。
  「よしッ!」
コインを受け取り桃子の目を見た。
「私は裏!嗣永さんは?」
「表しか残ってないよぉ。」
  スッ
手を除けると・・・『表』!
「なッ?」
「よっしゃ〜!また先攻。今日はついてるなぁ。」
桃子は上機嫌でアイアンを振り回した。
「今日は何個アイスが食べれるのかなぁ?」
笑顔だがその目は獲物を狙う猛禽の目であった・・・


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにJ〜

ボールを地面に置くと桃子は再び素振りを始める。
「さっきは少し狙いすぎて・・・距離が出なかったナ・・」

 ゆっくりと振りかぶりそこで思い切り溜めを作る!
  ビュン
   先程の倍は有ろうかと思われるヘッドスピード!
     ギィイィィィン!
     球は低い弾道で飛ぶ!
「マズイッ!強く打ちすぎたッッ!!・・・・FLYHIGHッ!!」
               ガッ!
桃子のFLYHIGHはアッパーカットの要領で地面にころがる石をボール目掛けて打ち出した。
石は飛行するボールの上方に高速接近する。
「タイミング善し!このまま破裂させて地面に叩きつけて止めるッ!」
 
FLYHIGHの能力で『爆ぜる力を得た石』がボールに接近、その使命を果たさんとしたその刹那。
 「ワンパナンダヨ!モノゴッツイ!!」
             パシュ!!
石は消滅し、ボールは修正を加えられず線を越えて落下した。

「嗣永選手!第2球はラインオーバー!ゲーム失格!!」
小春は桃子を審判のモノマネをして指差した。
「あなたッ!今ッッ!」

「何?ルールじゃボールに『スタンドが触れる』のが反則じゃなかったっけ?」
得意げに桃子を見て挑発する。
「く〜〜〜ッ!」

「それじゃあ。打たせて頂きます!」
「コハル。アイテハシッカクシテル!カルクイケカルクッッ!」
「うんッ!NO,3!」

スッ
 小春はかるくバックスイングし軽く打ち出した。
小春の打球が線を越えさえしなければこのゲームは勝ちなのだ。
   コォオオォオン
ボールは線の2m手前で落下し止ろうとしていた。

「・・・・・押し込んでやる。」
    プシュ!
FLYHIGHは止まろうとしている小春の球目掛け石を打ち込んだッ!

       「バレバレナンダヨォッ!」
           ドギュン!!
桃子が打ち出した石のコースに『消滅したはずの石』が飛び出してきた。
        パァン!
破裂音が二つ鳴り響き、桃子の攻撃が終わりを告げ。小春の打球は線を越えずに静止した。

        「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」
     「よぉし!2回戦は私が勝利!さぁ!!3回戦にいこうか!?」
     地団駄を踏む桃子に小春は息を巻いて2回戦の勝利を宣言した!


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにK〜


「これで一勝一敗。イーブンね!」
「・・随分と息を吹き返したみたいじゃない?」
桃子は小春を睨み付ける。
「それはどういたしまして!」
小春はその視線を受け流す。
「まぁ・・その位じゃないと面白くもないケドね。」
視線はそのままで口元を歪め、桃子は笑顔を作った。

「3球目は私が先に打たせてもらうねッ!」
桃子は地面にボールを置き構え始める。
「・・・・・どうぞ。」
小春はそう言うと『ミラクル・ビスケッツ』達を散開させた。

スタンドを使ってイカサマやるんだったら、やればいい!
そんな卑怯な手は私がやらせないッッ!!!!

どんな手に来るか。対応に神経を傾ける。

スッ
  ひゅん
    コォオオォオン

桃子のスイングはなめらかにボールを捉え快音を響かせた。

コォオン コ コン
軽い音を立ててボールは静止した。

「うん!丁度、線の上に乗ったかなぁ?」
桃子はボールの確認に線に向かって歩きだした

「おぉ〜。やっぱり!線の上ぴったりだぁ!あはッ♪」

「そんな・・・インチキしてないのに・・」
「3球も打てば距離は掴めるよ?」
桃子は小春に向かって言った。

「こーゆう『真剣勝負』がしたかったんじゃないのぉ?」


銀色の永遠  〜アルバトロスは夕焼けにL〜


・・・・夕焼けがとても綺麗だ。

私は壁にもたれて空を見上げていた。

結局、プレッシャーに負けた私は今こうして嗣永桃子にアイスを奢っている所だ。
とはいってもその場に居て買っているのを見るのは癪だったのでお金だけ渡して
私は壁にもたれかかっている。

そもそも何でこんな事になったんだっけ?
道重さんに言われた『闘わなければ解らない』事なんて解んないよ。

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」

私は深くため息を吐いた。

「はい!」
突然私の目の前にアイスが飛び出した。

「・・・え?」

「はい!あなたの分だよ!」
「なんで?アイス2個は嗣永さんのモノじゃ・・・」
小春の問いかけに桃子は笑って答えた。
邪気のない晴れやかな笑顔だ。
「なんだかあなたの事、気に入っちゃってさ。
私と勝負するとすぐ泣いちゃったりして勝負になんないのに・・・・
久々に追い込まれちゃった♪やるじゃん!」

「ねぇ。友達になろうよ!」
桃子は小春に手を伸ばした。
「嗣永さん・・・」
「桃子でいいよ!小春!」

「うん!」

     私の世界は茜色に輝いた。



指令:嗣永桃子との戦闘 遂行

 嗣永桃子との友情を得る
           

TO BE CONTINUED・・・・・