銀色の永遠  〜曖昧ミーMIND@〜


石川:「今日の練習は疲れたわねぇ〜」
三好:「ホント。帰りにドゥマゴに寄っていきましょうよ!」
石川:「あぁ!いいね!そうしよ!そうしよ!ねぇ岡田ちゃん?」
岡田:「ちょい待ち!お二人さん!!」
石川:「? どうしたの・・・?岡田ちゃん?」
岡田:「岡田キィーック!岡田キィーック!!岡田キィーック!!!」
    
 ドグゥァアッ!ドグゥゥウア!!ドグァァアァアッッッ!!!

唯の蹴りが梨華と絵梨香に目掛け強かに打ち込まれる!
石川:「何するのよぉ?」
三好:「ちょっと唯やん・・・・」
岡田:「岡田ぎゅ〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」
唯の指が絵梨香の頭部に激しく食い込む!
三好:「イタイイタイ・・・・」
その衝撃に絵梨香はその場でへたり込む。
石川:「ちょっと!何なのよ・・・・・」
岡田:「どうもこうもないで!二人にダメ出しや!岡田ダメ出しやッ!」

  ドォオオォオオン!!!

岡田:「まず三好エリマキッ!」
石川:「絵梨香でしょ!」
岡田:「もっとダンスは情熱的に踊らな駄目ッ!パッションッ!パッションやんッッ!!」
石川:「で・・でも三好ちゃん。全然悪く無かったよ?」
岡田:「石川ッ!だまっときッ!」
石川:「『石川』ッ!???呼び捨て!?」
三好:「石川。ちゃんと聞きなさいよ!」
石川:「三好ちゃんまで呼び捨て!??」
三好:「だって石川はイッコ下じゃん!」
岡田:「そうやで石川はわたしと同じ学年やんか!」
石川:「???????な・・・・なに言ってるの・・・そんな事有る分けないじゃん!」

「そんな事」
       「そんな事」
             「そんな事」
                   「そんな事」

「いやぁぁぁああぁぁあぁああぁあああああッッッ!!!!!!!」

カーテンから漏れる朝日の白さが石川梨華の瞳に沁み広がる。
「ゆ・・・夢?」
梨華は乱れた呼吸を整えながらゆっくりと身体を起こす。
「夢・・・・・だけど・・・現実・・・・」
髪を掻き揚げながらその手で頭を抱える、重みに耐えかねる様に・・・・。

    今日もまた現実の重みが彼女に圧し掛かる。


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDA〜

「はぁぁぁあ・・・・・」
石川梨華は溜息を吐きながら暗い表情で学校に向かった。
肩を落しトボトボと重い足取りが憐れを誘う。
度重なる重度外傷に因る長期の入院に彼女は問題児扱いを受け『留年』を余儀なくされてしまった。

その事に生真面目でプライドの高い彼女はすっかり打ちのめされてしまった・・・・・

屈辱に心が削られるような日々・・・・・・だがこれも自分に都合の良い駒を長く手元に置きたい。
そう言う寺田光男の思惑が盛り込まれたシナリオなのだ・・・・・。

「石川さん!おはようございます!」
梨華の横にさりげない仕草で岡田唯が現れる。
「あ・・・・おはよう・・・唯ちゃん・・・・」
梨華は血圧が低そうな挨拶を返す。
「・・・・矢張り・・・まだ慣れませんか・・?」
唯は梨華の顔を見ずに問う。
「・・・・うん・・・・」
梨華は表情を曇らせた・・・その表情を見ないようにした唯の配慮が嬉しかった・・・。
「・・・冷たい様ですが慣れる以外ありまへんえ。・・・辛いからと言って学校辞めたりせぇへんで
 下さいよ・・・・」
唯は梨華の肩と強く握りながら言った。
その力の強さに梨華は少しだけ救われた気がした・・・。

「おはーッ!お二人さんッッ!!」
二人の後方からカラリと明るい声は響く!
「おはようございます!石川さんッ!!」
そういうや否や三好絵梨華は力強く梨華の身体に抱きつく・・・自分は味方だ。という事を必要
以上に現すように!
「おはよう。三好ちゃん・・・ちょっと痛いってば!」
明るく接して自分の居場所を心地よくしてくれる絵梨華の気持ちが有り難かった・・・。

自らの立っている位置、そしてそれを支えてくれている人たちの存在。
それが折れかけている彼女の精神を繋ぎとめてくれる・・・。
梨華は足に有りっ丈の力を込め、顔を上げた。

「そうだよね!しっかりしてなくちゃ私らしくないよね!!」

独り言の様に呟くと足取りを強め、校舎に向かった。


ザワザワ・・・・・
      ザワザワ・・・・・・
            ザワザワ・・・・・・

「今日、朝なに食べた?」
「あ〜?パンだよ。食パン。やっぱり食パンは『ダブる』ソフトが一番なんじゃね?」



「おい。貸したダビスタ、どうよ?」
「それがさ・・・・ちょっと『2年目をしくじっちゃって』さなんだか大変だよ。」

!!

「そのクツ!すげぇイイじゃん!やっぱりさ有名処だとデキが違うな!」
「バイトした金で奮発したからなぁ・・・『一留』のモノは持ってるだけでもイイ気分だよ。」

!!!!!

「ぷぎゃーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

梨華は突然弾けた様に地面の小石を辺りに投げつけ始めたッ!
「ちょっと!?石川さん???なにやってんのッッ!!」
絵梨華は腕を上下に振って暴れる梨華を取り押さえる。
「落ち着いて!石川さん!!クッッッッ!唯やん!!いつもの!」
腕を振って暴れる梨華を押さえきれない絵梨華は唯に援助を促す!
「当身ッ!!」
  ドッ!
唯は外後頭隆起下部に手刀を叩き込む!
「あ・・・あぁ・・・・」
その衝撃で梨華は空気が抜けるようにその場にへたり込んだ・・・。

「・・・・・・・・   うぅ・・・・うぅぅぅううぅ・・・・」

暫く呆けたかと思うと梨華は目に大粒の涙を浮かべ泣き出した・・・。

「なんで・・・・なんで私だけこんな目に?  惨めだよ・・・あんまりだよぉ・・・」
地面に顔を突っ伏して激しく嗚咽を漏らす。
「梨華ちゃん!しっかりしてよッ!」
絵梨華は梨華の肩を揺すって檄を飛ばす。
「石川さん!あんたがそんなんでどうしまんのッ!チームリーダーがそんなんでどうしまんのッ!」
唯も服を掴んで怒鳴った!怒りの感情ではなく・・・・悲しみの感情で・・・
「ほっといてよ・・・・もう私は駄目なの・・・・もう終わりなのよぉおぉ・・・・」
梨華は耳を塞ぎ頭を左右に振って泣き続けた。
「ぁあッ!もうッ!!解った解ったッ!」
絵梨華は襟首を掴んで梨華を強引に引き起こす。
「うぅ・・・・」
引き起こされながらも梨華はグッタリと項垂れる。
「あんたに必要なのは単位じゃなくてその鬱屈した気分をどっかにやる事!これに決定ッ!」
そう言うや否や梨華の身体を担ぐと校門の方に駆け出した!
「ちょいと!どこいくねん!」
唯は絵梨華を追いかけて駆け出す!
「あぁ?T町!」
絵梨華は憮然と答えた・・・。
「!? それってッ?」
眉を吊り上げて唯は絵梨華に問うた!
「まぁ・・・一石二鳥ってヤツ?」
口端を吊り上げ笑みを作ると三好絵梨華は足早に駅に向かった。


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDB〜

<杜王駅>

「はい!これが梨華ちゃんで・・・これが唯やんの、それじゃあ各自で着替えてね。」
絵梨香はコインロッカーから取り出した紙袋を二人に渡すとトイレを更衣室代わりにする様に促した。
梨華は紙袋の中身を物色すると服や下着、靴まで入っていた・・・・
「・・・・・・なんなの?コレ・・・」
梨華はその用意の良さに眉を顰めたが平日の昼間、制服姿でうろつく事には躊躇いがあったので
促されるままに絵梨香の用意した服に袖を通した。


カチャリ

「ぉおぉ!流石!梨華ちゃん!物凄い似合ってるッ!選んだ甲斐があったなぁーッッ!!」
トイレのドアから出てきた梨華の姿を絵梨華が声を荒げて絶賛した。
「コレ!み〜よ!声がでかすぎんでッ!」
大声を上げてはしゃぐ絵梨香を唯が諌める。
「え〜?別にいいじゃん?この時間は人が居ないんだからさぁ〜!」
絵梨香は悪びれずに唯に笑いかける。
「甘いでッ!『補導員』なんちゅぅのはいつ何時現れるか解らんのやッ!アイツらはホンマ、エゲツ
 ないんやでッッ!!!」
絵梨香の認識の甘さを唯は強く戒める。
「フ・・・・フフ・・・」
二人の遣り取りに梨華の口から笑いがこぼれる・・・・・そして心が軽くなるのを感じた・・。
その表情を見ると絵梨香と唯は安堵の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、笑いも出たところだし『遊びに』いきますか?」
絵梨香は梨華の手を取り乗車口に足を運んだ。

ゴトン・・・・ゴトン・・・・・ゴトン・・・

電車は揺り籠如き安らぎを三人に与える・・・。

ゴトン・・・ゴトン・・・ゴトン・・・

運命は・・・加速する・・・・

「最近・・・何だか活気ずいてきたよねぇ・・・T市って・・・」
梨華は流れる景色を見ながらそう呟いた。
「再開発されてるみたいですからねぇ・・・・・新しくできたショッピングモールとか面白そう
 じゃないですかぁ?」
絵梨香は腕を組んだ姿勢でドアに靠れながら返す。
「お・・・・駅が近づいて来たで・・・・・」
唯が窓を覗き込んで近づく駅を目視する・・・・。

電車に振動が走り停車を告げる。
「お〜着いた着いた!さぁ〜てと、『遊ぶ』ぞぉ〜ッッ!!」
絵梨香はドアが開くのと同時に跳びだす様に降車したッ。
「ちょっとぉ!待ちなさいよぉッ!」
行き成り跳び出した絵梨香を梨華が追いける様に駆け出す。
「あらあら・・・二人とも元気ですなぁ・・・・」
唯は二人を追いながらゆっくりと降りた・・・・。

空は蒼く
 日は輝く  
   そして
     
       街は歪む




<T市ショッピングモール>

平日だがショッピングモールは中々の賑わいを見せていた。
衣類を扱っている店が多いが飲食店や書店など多彩な店舗がそろっている。

三人はウインドーショッピングをそこそこに『マックスナノレド』で羽を休めていた。

「あぁ〜・・・・やっぱり炭酸はいいですネぇ〜・・・・」
岡田唯はメロンソーダを口に含むや否や安堵の溜息を漏らす。
「炭酸好きなのは良いけど程ほどにしないと駄目よッ!」
石川梨華はウーロン茶を口にしながら炭酸飲料ばかりを選り好む唯に苦言を呈した。
「そんな事言われても私は炭酸と生きてきたンです!コレは譲れまへんえッッ!!」
唯は興奮しながらチリドッグを頬張る。
「まぁまぁそう興奮しなさんな。個人の主義、主張は得てして勝手なもんじゃない?」
三好絵梨香は二人を横目で見ながら店内を眺めていた。
彷徨っていた視線がピタリを止まると絵梨香は席を立ち上がると小冊子を手に取り読み始める。
ある頁を読み込み何度か頷くと再び席に戻った。
「何?どうしたのォ?」
一部始終を見ていた梨華は絵梨香の行動を聞きただした。
「え!?これこれッ!今日の星座占いだって!見てみてよ。」
小冊子を広げると絵梨香は12星座占いのランキングを指差した。
「えぇと・・・・何々・・蠍が一番かいな?」
覗き込んだ唯は取り合えず自分の星座を探さず一番上のランキングを見た。
「私!私の星座!かぁーッッ!!テンション上がるナァーーーーッ!!」
絵梨香は上機嫌で声を弾ませた。
「それでそれで・・・・『今日は何もかも思うように上手くいきます』だってッ!スゴイじゃん!」
嬉々としてはしゃぐ絵梨香を尻目に二人は自分達の星座を目で追う。
「7位8位9位10位・・・・うわ・・・やな予感してきたでッ。」
「もうッ!そんな事言わないでって・・・・あぁ・・・」
二人の心空しく12位の場所に山羊座が鎮座していた・・・・。

梨華と唯の誕生星座山羊座はこのランキングでは最下位、ツいていないホロスコープを現していた。

「あぁあぁ・・・・・こんな大雑把な占いでも最下位なんて凹むわぁ・・・・」
梨華はテーブルに突っ伏して呟いた。
「まぁまぁ石川さん。気ィを取り直してください。いい結果であれそうでない結果であれこの次が
 大切やねん・・・・・・『足元注意!考えもしない事態で足元を掬われます』・・・・か・・
 何や具体的のよーで難しぃなぁ・・・・」
唯は『足元注意!』の言葉に引っ掛かりながら炭酸水を飲み続けた。


ガシェーーーーーー・・・・・・

自動ドアが味気の無い音を立てて開く。
小休止を終えた三人は意気揚々と街に繰り出した・・・。

銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDC〜

「さてはてこれからどーするぅ?」
先を歩く絵梨香が振り返りながら問うた。
「そぉーねぇ・・・ブラブラしてるのもなんだし映画なんかいいんじゃないの?」
顎に手を当てながら梨華はそう答えた・・・特に見たい映画などなかったのだが・・。
「映画だと・・・これこれ・・・・『星屑の俺達』が時間的にええんやないの。」
唯は先ほどの小冊子の掲載記事を指差す。
「えー?これってめちゃくちゃ『男の世界』って感じじゃん!もっとオシャレっぽいのにしようよ〜」
絵梨香は唯の提案に思いっきり難色を露わにした。
「・・・・・・まぁこれも・・・こーゆーのも面白いンじゃない・・・・期待もしないで見に行った
 ら面白いってコトも在るかも知れないし、守備範囲しか見ないのも面白味に欠けるよ!」
眩い日差しを仰ぎ見ながら梨華は『男の世界』という言葉に引かれ絵梨香に意見した。

・・・・『男の世界』か・・・・単純そうで羨ましいなぁ・・・・私のもっと単細胞の方が・・・
・・・・・幸せになれるのかもね・・・・・・

「ほいじゃあ決まりですねぇ!映画館は・・・・この地図だとこの先やねん!この先の路地を曲がる
 た所ですえ!」
掲載されている地図を頼りに三人は映画館に足を運ぶ。




「あれ?もうじきのハズやけど・・・・・どうなってん?」
唯は辺りを見回しながら景色と地図を照らし合わせようとする。
「ちょっとちょっとちょっとぉ〜!何?道に迷ったの?」
唯の言動に絵梨香は激しく動揺しいた。
「ちょっと!落ち着きなさいよッ!こーゆー時は大体、道を一本外れたるだけなんだから!」
梨華はそう言いながら小冊子を覗き込み位置を確認し左の路地に入っていった。
「こっちね!二人共こっちよ!」
そう言い張って道を進む彼女の後を二人は追った・・・・・。

「ホントにコッチでいいの?梨華ちゃん?」
心配そうに尋ねる絵梨香の問いに梨華は無言で笑みを浮かべて答えた。
「まぁ・・・言い出したら聞かンのやからね・・・付いて行くしかないわなぁ・・・」
唯が苦笑した瞬間!物陰から人影が飛び出す!!

「通せん坊!」

物陰から現れた少女は両腕を広げ路地一杯に伸ばし行く手を阻んだ・・・・


ドドドドド ドド ドドドドドドドドドドドドドド


「な・・・何なの・・この娘・・・?」
突如現れた少女の行動に梨華は度肝を抜かれた。
「『何なの?』じゃねぇ〜でしょ?梨華ちゃん?」
絵梨香はしれっとした態度で歩みだす。
「まぁフツーに考えればこんな所で「通せん坊」とか言ってきたら頭のカワイソーなヤツにしか
 思えないよねぇ?そんなのとは係るのはゴメンだけどコイツはそ〜じゃねぇ・・・」
絵梨香は歩みを止め立ち止まる。
「お前・・・・私達が『ココ』に来るの・・・知ってたろ?」
空気が歪ませ絵梨香の狂気が大気に混じる。
「だから通せん坊!」
少女は三好の狂気を笑って往なす。
「やっぱり『指令』どーりの展開か・・おい!お前ッ!名無しのまま死ぬのもなんだろ?
 名前を聞いてヤンヨ・・・・名乗れよ・・・・」
左足を半歩ほど前に進めながら絵梨香は相手の名前を問う。
「『指令』?いま『指令』って言ったの?ちょっとッ!どういう事なの?」
聞かされてもいない『指令』。梨華はその事を問いただそうと絵梨香に近づこうとするが唯に制止される。

「芽以・・・・黒川芽以。」
芽以と名乗った少女は見た目の年齢より幼い印象の笑みを浮かべる。
「可愛い名前だね・・・・出会いが違ければ良かったけど・・・・・・死ねよ!」
     ズビゥッ!!
熱波を撒き散らしながら三好絵梨香の『シーズンオブディープレッド』の拳が黒川芽以の顔面へ向かう!
「せっかちねぇ?」
そう言うや黒川芽以は身体を反転させて避ける様な動作を取る。
    ピュッ!
鋭い風きり音に黒川芽以の黒髪や服がふわりと浮く!
「何ッッッッ!!!!!」
瞬時に『S・O・ディープレッド』の拳が大きく弾かれるッ!絵梨香の身体はその反動で大きく後ろに
体勢を崩されたッ!!
「せっかちな癖に随分とトロいのね?」
黒川芽以の背後に「潜水服を装着したような」人影が灯る・・・・。
「それがお前のスタンドか?スピードばっかりでてんで軽い攻撃だなぁ・・・ええ?」
弾き飛ばされた拳に残る衝撃が全く残ってない右手に絵梨香は目を遣った
他愛もない打撃。それを一瞥するために移した視線・・・・・
     ・・・・?
その先に妙な物は見える・・・・掌の手相・・・ではなく自分の靴の爪先だッ!!!
掌がクッキーの型でくり貫かれた様に穴が開いているのだ!!!!!
「何だ・・・・これ・・・・・ッ!!!」

  ゴゴゴゴゴゴゴ    
            ゴゴ
     ゴゴゴゴ

「余所見してていいの?せっかちさん。」
動揺した絵梨香を見下す様に黒川芽以は笑い掛けた。
「テメェ・・・・・三好絵梨香を見縊るンじゃねぇぞ・・・・」
沸き立つ怒りが絵梨香の精神を支配する!
抑える事を知らない激情の化身が大気を歪める。

「ドロドロのグチョグチョ!そんなので私の『ファットBOYスリム』に勝てる気なのかなぁ?」
黒川芽以のスタンド、『ファットBOYスリム』はボクサーの様に身体を左右にウェービングさせる。
「勝てるとか勝てネェとかじゃねぇんだよ・・・・・お前がこの場で焼け死ぬ・・それだけだろ?」
絵梨香は殺意の全てを目の前の存在に降り注ぎ飛び掛らんと足に力を込める

「! 駄目よッ!一旦間合いを切りなさい!相手の能力を見極めるのが先決よッッ!!」
敵に躍りかかろうとする絵梨香の軽率な行動に梨華は叫び声を上げるッ!
「うるせぇよッ!三好絵梨香にバックギアは無えんだよッ!!直ぐに解体してカタが着くッ!!!」
梨華の警告など耳に入らない程興奮状態にある絵梨香はその場を動こうとはしなかった。
「く・・・・・ッ!この解らず屋ッッッ!!!!だったら動くんじゃねーーわよッッ!!!!」

空を切り金色の煌きが絵梨香の服を掠めながら吹き過ぎるッ!

石川梨華のスタンド『ザ☆ピース』の十本の指が唸りを上げて黒川芽以に打ち込まれる!
「行ったわよッ!『Bセット』ッ!!『ポテト』をつけといてッ!!」
ザ☆ピースのチャーミングフィンガーを避けた瞬間をS・O・ディープレッドの近接攻撃で対象を潰す。
中間距離型、近距離型とお互いの個性を補いあった彼女達『チーム』の得意の連携であった。
『よろこんでッッッ!!!!』
絵梨香は弾けんばかりの暴力を叩き付けようとした途端、強烈な違和感に囚われる!
穴の開いた右手が『重い』!動かせないのだ!
動かさなければ重みなどは感じない・・・が動かそうとすると強烈な抵抗を生んでいる。
「こ・・・小癪な・・・・この穴で・・・空間でも固定してるのか!???」
絵梨香は動けないまま黒川芽以を睨みつける!
黒川芽以は涼しい笑顔のままチャーミングフィンガーを避けようとはしなかった。

「アイツ・・・・あの『笑い』・・・・」
その涼やかな笑いに裏を感じた岡田唯は右手を銃の様な形にして狙いを定める。
「久々やでッ!『ハイドレイジャ コード1』!」
唯の右手から現れた緑色の蕾から大量の種子が射出された!
「石川さん。何か『裏』がありまっせ!引き帰さんとマズイでッ!」
梨華の肩を唯は掴んで後ろに引いた瞬間、周囲の壁を高速で蠢く存在に気付く!
「遅かってん・・・・・」

ボゴォボゴォボコォオオオオオォオ

壁の中を『何か』が暴れ廻り表層がグロテスクに変形する!
「やっぱり・・・・『あと一人』居たんやなッ!」
唯は奔走する隆起を目で追う!
「いや・・・・違うわ!唯!この編成だと・・・・早く絵梨香を回収しないと!」

グボボボボボオボボオボボオボボボボオボボボボオボ

壁から突き抜けた『何か』は黒川芽以を巻きつく様に取り囲み「チャーミングフィンガー」と
ハイドレインジャの「種子」を受け止めそのままの勢いで壁に再び着水した!

足元に落ちた『壁の素材』とハイドレインジャの『種子』に目を落すとニヤリと笑みを浮かべる。
その笑みは幼い愛くるしいモノではなく背筋に奔る様な冷笑だった・・・・。

「なんだか・・大した事ないみたい・・・・あおいさん、『二人』でも大丈夫じゃないのかなぁ?」
黒川芽以は胸元で手を合わせ指をストレッチしながら独り言のの様に呟く。
影が伸びるように黒川芽以の背後から人影が増える・・・・。

「そういう問題でもないよ。ライナーノーツは私達三人を指定してきた訳だし、直に真希も到着するみたいだしね・・・・。」
あおいと呼ばれた少女は表情を変えずに朴訥した空気を醸しながら名も知らない敵に目を遣った。


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDD〜


「見えましたか?今の壁から出てきたやつ。」
唯はスタンド本体に当たった筈なのに何故か地面に転がる『種子』を苦々しく見つめる。
「長い魚みたいなヤツだったわね・・・・・あの体躯であのスピード・・・・・・やりずらいわね!」
壁に潜む敵の存在に梨華の顔に緊張が走る。
「そうですね、『コード3』を使えば潜水服のヤツには一発で致命傷をブチかませる自信はあるんやけど・・・・」
「壁から出てくる奴にヤツに遮られるわね!」
梨華は唯の言葉を断ち切る様に答えた、スピードと大きさ、に優れている筈の『壁に潜む魚』
だのに何故?攻撃してこないのか?射程距離だけで考えれば『潜水服』より長い筈・・・何故?
「・・・・ソコが謎なのよ・・・・唯!謎解きのヒントが知りたいわ。いいかしら?」
梨華は小指を噛み締めながら唯に指図する。
「はいな!じゃぁしっかり見取ってくださいよォ?」
長い髪を掻き揚げ脳髄に骨針を打ち込む。
「おぉぉ・・・・『コード3』・・・・・」
苦悶の言葉を漏らしながら唯は身体を大きく左右揺らしながら標的に視線を合わせ・・・・加速する!

トォオオオオォオォオオオオォオン

踏み込んだコンクリを凹ませながら人体が弾き飛ばされた様な速度で宙を舞う!

「ッッッ・・・・・・コ・・・コイツッッ????人体の能力を上げるスタンド?」
その飛距離、速度に気圧された黒川芽以は指一つ動かせない。
「スっトロいでんなぁッッッ!!!!!」
唯は移動速度そのままに蹴りを繰り出す!
「トロいのはどっち?」
唯の言葉を嘲笑うようにあおいの手が動く!

蹴りが空を斬り標的に当たらんとした瞬間、壁が蠕動し『壁に潜むモノ』が高速で黒川芽以を取り囲む!

ゴッ・・・・・!

唯の蹴りは『壁に潜むモノ』に当たり足にはスタンドではなく固形物を蹴った感触が残った。
「・・・壁・・そのもの?」
『コード3』で人体性能を極限まで引き絞った唯の目に蹴り壊される瞬間の画像がスローモーに映る。
ゆっくりと崩れる『壁を潜むモノ』の表層・・・・素材は壁・・・そして剥がれ落ちた後には白骨の
様な白いモノが見える・・・・・・
「・・・・・なるほどねぇ・・・・それが全てン答え・・・・・」
敵スタンドを蹴った反動を利用し身体を後方に捻りながら唯は叫んだッ。
「み〜よッッ!!ガードしぃッッ!!!!!!」
『コード3』の能力で絵梨香を飛び越して敵に飛び掛った唯の言葉に躊躇しながら絵梨香は防御姿勢を取る!

ゲィィンッッ!!!!
骨が軋む鈍い音が響く。
「ぎゃぁッ・・・・・!!!」
呻き声を上げて絵梨香が宙を舞う・・・。


唯の繰り出したドロップキックは鈍い音を立てて絵梨香を梨華の居る場所まで弾き飛ばした!
「敵の能力の見極めとみ〜よの回収!完了やで!」
そう言いうや否や唯は高速の世界に消えた・・・・。


<ロケーション:ビルディング>

再開発予定地区に逸早く建設されたビルディングの屋上。
高層の風がハタハタと吹き荒ぶ中、少女はフェンスに寄りかかるように在る場所を凝視していた。

「芽以さんの『ファットBOYスリム』も仕込みが終わったみたいだし、あおいさんの『オリジナル・プランクスター』も陣取りは済んだみたいだし・・・そろそろ私の番ね・・・・・」
少女はコトリと手にしていた双眼鏡をコンクリの地面に置くと長い前髪を掻き分けて方角を確認した。
指を差しながら入念に方角を確認するとフェンスから離れ後方に目一杯距離を置く。
相向かいのフェンス近くまで駆け出すと深く深呼吸をして振り向き手を腰の位置に上げた・・・。

『ゼブラ・ヘッド』

少女の言葉に感応するようにその手にチェスのナイトの様な馬の形をした突起の付いた『鉄球』が
浮かび上がる、鉄球は異様な光沢を発しており流れる雲が映りこむようだった。

「発動まで・・・そうね・・・53秒。」

そう呟くと少女は『鉄球』を頬に当てその場でくるくると廻りだした。
遠心を溜めるその動きは次第に前方に移動していき遂にはねずみ花火の様な勢いで飛び出した!
「たッ   たッッ    たぁぁぁぁっぁぁあッッッ!!!!!!!!」
少女は猛烈な勢いでフェンスに激突しその勢いの全てを得た『鉄球』は町に吸い込まれていった・・・。
「これで・・・・あの人達は終わりね・・・・名前も知らないけど・・・・これもあの人の命令だもの・・・・・ね・・・・」


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDE〜


「うおぉぉおぉぉおおぉおおッッッ!!!!!!」

肩が外れる様な衝撃に耐えながら三好絵梨香は宙を舞う!
左腕には岡田唯が放った蹴りの衝撃!
右腕は地面に引かれる様な力に!
「クッ・・・・ソ!あの潜水服の能力・・・・どうなってんだ?」
固定する能力なら既に腕ごと千切れているだろう・・・ならば・・・・重力?否、違う・・・
『動かさなければ』重みを感じることも無かった・・・・『動かさなければ』・・・
キーワードだ・・・・考えろ・・・・動かす事で生まれる力・・・・・
  ・・・・・?   
   穴が開いてソレが生まれるのは・・・考えずらいケド・・・多分それか・・

絵梨香の考えが終着に辿り着いた所で再び右腕に強い衝撃が奔る!
「ぐぉッ!!!」
身体は地面に触れているのに穴の開いた右手だけは宙に釣られたまま・・・絵梨香の思案どうり
『空気抵抗』を受けて下がってこようとはしなかった。

「お帰りなさい。あなたが突っ走ってくれたお陰で謎解きは出来そうよ!」
宙吊りのままズルズルと地面に近づく絵梨香を石川梨華は笑顔で迎えた!
「・・・・そりゃどーも・・・」
痛む肩を抑えながら絵梨香は久々に感じる地面の感触を味わった。
「遠間から見た限り絵梨香に攻撃を加えたのは「近距離だけど攻撃型では無い」わね?」
梨華は小指を噛み締めたまま眼光を光らす。
「そうですよ・・・この『穴』を明けるだけが能力みたいですね・・・・動かさなければ何とも無い
 ケド・・・・」
そう言いながら絵梨香は『穴』の開いた右手を振ってみせる・・がその動きは鈍重そのものだった。
「『穴』を明けた所の空気抵抗を増大させるっつー能力・・・小川麻琴と逆の能力・・・・手だけでも
 動くのに一苦労ッスから足とかに喰らったら厄介ですね。」
「良く観察出来てるわッ!上出来ッ。それで唯が接触した「防御担当のヤツ」はどうかしら?」
梨華の問いかけに吐寫物を拭いながら唯は答える。
「壁からの出現は壁を触媒にする為ですねん。スタンドそのものは『骨標本』みたいなヤツで防御能力
 も無いようですが・・・・壁を『身に纏っている』限り、スタンドへの直接攻撃は無駄でんな。」
唯の言葉に梨華は噛み締めていた小指を口から離すと獰猛に口端を吊り上げる!
「ご苦労様。謎解きは八割がた終わったケド、疑問が残るわね?そうでなければ『チーム』ではないもの」
梨華は『敵チーム』に人差し指と向けるとソレを合図の様に絵梨香と唯は左右に分かれる。

その挙動が空間に緊張感を満たす・・・・。










ポォウン




空間を緩ませる様に上空から振り落ちてきた銀色の『鉄球』がバウンドする。


「ゼブラ・ヘッド      スタートアップ」










スタンド名:ファットBOYスリム
本体:黒川芽以

破壊力:E
スピード:A
射程距離:C
持続力:A
精密動作性:C
成長性:E

能力…殴ったモノに刳り貫いたような穴を作る。
穴からは気流の乱れが生じ、挙動の際には強い抵抗を与える。

スタンド名:オリジナル・プランクスター
本体:宮崎あおい

破壊力:D
スピード:A
射程距離:C
持続力:A
精密動作性:C
成長性:E


能力…魚類の骨格の様なスタンド。
スタンドそのものはビジョン道理、脆くて貧弱だが『壁や鉱物に潜航しそれらを身に纏う』能力
を有しており『身に纏って』いる間はスタンドそのものを攻撃する事は困難である。




ゴゴ
     ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ゴゴゴゴゴゴゴ


「ゼブラ・ヘッド      スタートアップ」

球体からその音声が響くと馬の形をした突起物の目が赤く輝く。
    
      プシュッッ!!!

ガスが抜ける音を排出しながら『ゼブラ・ヘッド』は上下にスライドし隙間から扇の様な刃物が
展開される・・・・・・。

「いよいよ来たわね・・・・攻撃担当が・・・」
梨華の言葉を掻き消すように『ゼブラ・ヘッド』の刃は高速回転しゆっくりと飛翔し始めた・・・。

「へ・・・・どんなヤツが来るのかと思えば・・・スっとろくて蝿だって止まラネェェェエッ!!」
「『やめなさいッ!絵梨香ッ!!』なんて言わないわッ!!唯もイクわよッ!」
「はいなッ!!」
 

「焼き潰してくれゥゥゥウッ!『怪焔王のモード』ッッッ!!!!!!!」
「砕けッ!!C・F・P(チャーミング・フィンガー・プラス)ッッ!!!!!!」
「吸い尽くしてやるでッ!ハイドレインジャ:コード1ッッ!!!!!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ〜あ、あんなに盛り上がっちゃって・・・無駄なのに・・・・」
「『ゼブラ・ヘッド』があの位置にある限り後は持久戦ね・・・・だからと言って気を抜いたら
 駄目だよ・・・芽以・・・一人潰したらまたマーキングする必要が有るんだから・・・」
宮崎あおいは慈悲の輝き一つ無い暗い瞳で踊る標的を見据えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ンなッ!!??」
「お・・・・・押し返す????」
「アカンッ!!着弾せぇへん!?ッッッ石川さん???これは????」

『ゼブラ・ヘッド』は三人の攻撃を解さない様にゆっくりと飛行し続ける!

梨華はゆっくりと後ずさりしながら再び小指を噛み締める。
「な・・・・何で?何で・・・攻撃を『受けつけない』の・・・・・本体が姿を見せないのだから、
 遠距離?だのにこんなにパワフルなの?り・・・・理解出来ない・・・理解出来ない・・・」
「ちょ・・・・しっかりして下さいよッ!!石川さんッ!」
「み〜よの言う通りでっせ・・せやけど・・この頑強さは何やねん・・・こんなん初めてやで・・・」


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDF〜


<ロケーション:ビルディング>

「時間通り、キッカリ発動したみたいだけど・・・・芽以さんもあおいさんもゆっくりやるのは
 勝手だけどキッチリ誘導してもらわないと困るンだけどな・・・」
堀北真希はフェンスに寄りかかりながら双眼鏡を光らせた。
「全て『ライナーノーツ』の注文通り・・・・
     注文通りだけど・・・・コレが本当に
            『正義』・・・・・なのかな?」

高層の風が吹く中、少女は一人呟いた・・・・。


<ロケーション:路地>

Barararrarararararaaaaa・・・・・・・・

高速で回転するギロチンの刃が路地の空気を切り裂く。

「コイツ・・・・マジウザいッ!!!」
憤る絵梨香の周囲の世界が歪む。
「み〜よッ!『流法』をそれ以上使い続けるのはヤメやッ!!それより・・・」
唯は絵梨香を宥めながら梨華に問いかける。
梨華は唯の言葉に促される様に小指を口から離し眉を歪める。
「・・・・少ない例だけどこう言う『スタンド』のタイプ・・・居たわ・・・・」

ドドドドド
       ドドドド
ドド

「・・・・『自動追跡型』やね・・・」
「そうね・・・自動追跡型よ・・あの鉄球自体にはダメージを与えられないって事ね。」
「ダメージを与えられない?!!そんな概念のスタンド有り得ないでしょ!??」
梨華はゆっくりと近づく凶刃を睨む・・。
「残念だけど・・・現実なのよね・・・・ソレを証拠に『防御担当』は動きもしないわ・・
 戦闘中に高見の見物なんてね・・・・唯ッ!『コード3』を展開しなさいッ!」
「ッッ!!どうしますのンッ?」
「鉄球が飛んできたのはあの方向ね?あの方向のビル群の何処かに本体が居るはず!位置を確認して!」
「はいなッ!!!」
ズギュ・・・・
肉を裂く鈍い音が唯を限界領域まで引き上げるッ。
「おぉ・・・・コード3・・・・・・」

ギュン   
          ギュン
   ギュュン

瞳孔が激しく拡大と縮小を繰り返しヒトの限界視力まで引き絞られる!

「どこやねん・・・・室内かいな?・・・いや・・・状況を知る必要が有れば・・・高台・・
 一等高い所かい?!!」

キラリ

輝く光が唯の目を射す!
その光を絞り込む先に双眼鏡を覗き込む少女のビジョン・・・・・
「見つけたで・・・・本体・・・」
「・・・・本体の距離は?」
唯の言葉を逃さぬ様に梨華は距離を問いただす!
「580y・・・・位ですねん。」
「そう・・・それじゃあ今すぐ『本体』を倒してきてッ!」
「な・・・・・石川さんッ!唯だけで戦わすのは危険すぎる!途中で限界が来たら・・・」
梨華に食って掛かる絵梨香を静止しつつ唯は笑みを浮かべた。
「はいな!直ぐに!・・・・・・必ず帰ってきますきに・・・心配せえへんといてや!」

トォオオオォオオオオォオオオオン

唯の身体はコンクリの地面を凹ませながら弾丸の様な勢いで上昇した!

「あ・・・あおいさん!アイツ・・・・まさか真希を狙って????」
芽以は『高層ビルの最上階に居る仲間を狙う』という発想に着いて行けず激しく動揺した。
「落ち着いて!だから私が居るんじゃないッツ!」
対照的に落ち着きを払っているあおいは唯の軌道を目で追う!
「五月蝿い蝿!叩き落してやる!!」

壁が爆ぜる様な動きをすると潜航している『オリジナル・プランクスター』が超速で唯の影を縫う!

血管の様な鉱物の隆起が唯の周囲を取り囲む!
「壁から離れる事が出来経んくせに生意気なッッ!!!」
そう呟くと壁を蹴りつけ上昇力を方向の転換を得る・・・・そのはずだった・・・・・

ズルン

「な・・・・・・・!????」
唯が蹴りつけた壁面から『何故か』油が染み出しており唯の身体は空中で大きく体勢を崩した!
『隙有りッ!!!!』
壁面から浮上した『オリジナル・プランクスター』は勢いのまま唯の身体に激突した!
「ぐ・・・・・ぇ・・・・」
魚類・・・と言うより首長竜の頭部の様な塊が唯の脇腹に突き刺さる・・・・。
間を置かずその塊はピシピシと音を立てて剥がれ落ち骨格標本のような脆弱なスタンド本体が露わになる!
「く・・・・この・・・・骨野郎ッ!!!!!」
怨嗟の呻きを漏らすと唯の身体は弾かれた勢いのまま投げ出されたオモチャの様に吹き飛んだ。
『あの方向・・・・・偶然だけど都合はいいね・・・・本当に上手くできてる・・・』
『オリジナル・プランクスター』・・・宮崎あおいはそう言い残すと再び壁に着水した。














粉々になった壁の破片が絵梨香の頭上に降り注ぐ・・・・・・。
「ゆ・・・・・唯ッッッ!!!!!!!」
絵梨香は唯が飛び去って行った方角へ駆け出そうとする。
「何処に行くのッ!!!戦闘中なのよ!!!」
梨華は服の袖口を掴んで絵梨香の足を止めた!
「は・・・放せよッ!!あたしが行かなけりゃ・・・唯が・・・・」
「あの娘は『必ず帰ってくる』・・・・そう言ったのよ!」
「でも・・・・」

「あの娘は必ず敵を倒してくる!私はそう信じてるわ・・・・あなたも信じなさい。
 『仲間を信じる事』がチームの一番の仕事よッ!!」
梨華は力強い瞳で絵梨香を見つめた。
その眼差しからは劣等感からの陰りは消え失せ、黄金の意志が光輝いていた!
「・・・・「あの時」言われた事をまたココで言われるなんてね・・・・やっぱり石川さんには
 勝てないワ・・・・」
梨華の輝きに魅せられた様に絵梨香の瞳から不安の色が消えた・・・。
「理解ったらイクわよッ!『信じる事が」
「『信じる事が勇気をくれる』でしょ?・・・・・・それじゃあ唯やんが敵を倒すのが速いか
 あたし等が速いか・・・・競争でもしますか?」
「そ〜ね・・・とっとと終わらせてチキンでも貪る?」
「ソレ・・・なんか品がないですよ・・・」
梨華と絵梨香の目前にギロチンの刃が空を切る・・・・
二人は臆しもせず笑みを浮かべながら歩きだした。


銀色の永遠  〜曖昧ミーMINDG〜


風を切りながら人の身体が宙に舞う。

「く・・・・間に合わへんッ!!!」
唯は『落下地点』を見定めると身体を丸め衝撃に備えるッ!!
廃屋の様なマンションに激突する刹那、唯は今日の『運勢の悪さ』というのに幾許か憤りを覚えた。
「『足元注意!考えもしない事態で足元を掬われます』・・・・あんな所で足を滑らせて隙突かれる
 なんてホンマろくでもないで・・・」

窓ガラスの硬質な感覚が肩に触れ爆ぜる!

ガッシャヤッヤッヤヤァアン!!!!!!

窓ガラスの破壊音が鳴り響く!
唯は強引に着地しようと慣性をコントロールする為身体を高速回転させる!

ギュアァ・・・・・      ドガァアアアアアアッ!!!!!!!!!

「ぎゃあぁああぁああああぁッ!!!!」
唯の身体は『何か』に激突し断末魔が廃屋に木魂する・・・・・・。
「な・・・何やねん・・・・」
グチィィイッ!
肉の潰れる音・・・流れ出す『血の赤』・・・・床に叩き付けられた唯の傍に血河が流れる・・・。

「・・・・女が窓から突っ込んで来るとはな・・・・オメ〜と居るとホント退屈しないぜ・・・」
唯が声を追う様に見上げるとそこには赤い髪をした男と学生風の少年が立っていた・・・。
赤い髪の男は顔に飛び散った血液を親指で弾くと何事も無かったかの様に涼しい顔をしている。
足元には唯の激突で血塗れになった男が倒れている・・・。
なのに・・・・この状態でなんでこんなに涼しい表情で居られるのか!?
唯は叩き付けられた衝撃で混乱気味の意識を制しながら立ち上がる・・・・。

「だ・・・・伊達さんッ!この人・・・演劇部の人ですよッ!でも何でココに・・・こんな所に?」
目の前に立つ男達を・・・唯は資料で見た事が有った・・。
「ミスクリエイション(出来損ない)の片倉景広に・・・『愚者』の伊達・・・自分等、何で
 一緒におんねん・・・・『ココに』ちゅーんはどうゆう事やねん・・?」

「イテテ・・・・・お前等ね・・・・何で「大丈夫か?」の一言も無いんだよッ!!」

倒れていた男がスックリと立ち上がる・・・。
床にも、身体や服にもベッタリと付着していた血液が無くなっている・・・・・・

「だってオメ〜・・・死なないだろ?」
「そうですよ!菅沼さんは死なないんだから心配するだけ無駄じゃないですか!」
「死ななくたって痛いモンは痛いンだよッ!!!!」

唯の身体が硬直する・・・・・
コイツ・・・
コイツが・・・何でおんねん・・・・

「?・・・・お前・・・確か『オカダユイ』・・・お前が何でここに・・・・」
男は唯の方を振り向くと何かが解った!・・・そんな表情をした。
「そうか・・・・・「また」そうなのか・・・」
菅沼英秋は口端を吊り上げると唯との間合いを詰める。
「おい!菅・・・オメ〜何一人で納得してんだ?俺達にも解るように話せッ!」
菅沼英秋は首だけ伊達謙の方に向け答えた。
「端的に言えばコイツと『ライナーノーツ』の野郎とが結託して騒ぎを起こしてるっつー事だよ!」
「そんなッ!この人は演劇部に所属してるのにッ!仲間を売ったって事ですかっ!?」
片倉景広は菅沼に食って掛かった!
「じゃあ何で今から『ライナーノーツ』の大親分の所に殴りこもうって時にコイツが来るんだよ?」
菅沼はピシャリと片倉の額を叩きながら言い放つ。

冷たい汗が首筋を伝う・・・。
「な・・・・何、言うてんねん・・・・付き合いきれんワ・・・・」
唯はその場から離れ様と破壊した窓ガラスへと飛び出すッ。

「おっと逃がすかよ!『Man Han Quan Xi』ッ!」

菅沼の背後から銀色の煌きが奔る!

トッ・・・・

飛び出したはずの唯の身体は廃屋の床に叩きつけられた。
「????何やねん・・・・窓から飛び出したハズ・・なのに・・・何で床が・・・」

ゴゴゴゴ
          ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



ひゅんひゅんひゅん

菅沼の頭上に長大な鉈の様な物体が旋回するッ!
「逃がさないッて言ったろ?」
唯は床に這いつくばりながら菅沼を睨みつける。
「・・・・く・・・・こんな・・・急がな・・・あかんのに・・・・・・」
菅沼はその視線を心地良さそうにニヤつく・・・
「何、急ぐ事は何も無ぇーよ・・・・」
瞳の色を失った菅沼の肩を伊達が強く掴む!
「・・・・・・・・菅・・おめ〜・・・調子に乗って殺すなよ・・・・・・ッ!」
「・・・・はいはい・・・・・こんな悪人まで許すなんてお前は相変わらず心が広いね・・・・・」
「伊達さんの意見が人道的なだけで菅沼さんの行動が余りにも道を外れてるだけですよッ!」
その言葉に菅沼は無言で片倉の額を打つッ。

「さてさて『オカダユイ』さんよぉ・・・・・・・覚悟はいいかい?」

そう告げると菅沼は力強く床を踏みしめ

走り出したッッ!!!!!







菅沼達の『意志』を貫く闘いは続く!!!!!!!!!!



御愛読ありがとうございました。前スレ83の次回作に期待ください!!