507 :610:2006/03/21(火) 21:40:24.69 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜@


ぶどうヶ丘高校、演劇部部室では春の新入生歓迎会に向けての練習が行われていた。
とは言っても今は春休みに入ったばかりで、本格的な練習はまだこれからである。
なので部活に出席する部員もまばらだ。
もっとも今日の練習時間は午前中だけなので、殆どの部員は既に帰ってしまっているが。

「あの〜…高橋さぁん」

練習を一通り終えた高橋愛が独り趣味の読書をしていると、ふいに彼女を呼ぶ者があった。
振り向くと一人の少女が体をクネクネさせながら立っている…亀井絵里だ。

「ん?亀子どうしたン?」

「この前借りたこれ、返します!」
そう言って亀井は一本のビデオテープを差し出した。
それは高橋から借りたもの…いや、正確に言えば無理矢理貸されたもの…
彼女いわく『宝塚のビデオ』だった。

「おゥ!どうだった?面白かったっしょ?」

「は、はい!良かったですよぉ〜!では僕はこれで…」

「ちょっと待った!」
足早に去ろうとする亀井を高橋は呼び止める。


508 :610:2006/03/21(火) 21:41:45.75 0

「具体的にどこが面白かったン?」

「え、え〜とそれは…!!」

「ちなみにあっしがお気に入りなのは北海たら子さんの独唱シーンなんやけど」

「あ、そうそう!僕もそこお気に入りですよ〜!!」

「亀ェ…!やっぱりあんたこのビデオ見とらんな…!」

「え!!なんで分かっ…!!」

「宝塚に北海たら子なんて生徒はいねぇ――ッ!!!」

「わ〜ごめんなさ〜〜いッ!!!
でも僕もう何本も見ましたよッ!最近は見る時間も無いし正直もういいかな〜なんて…」

「宝塚は何度見ても飽きないんやよー!この良さが分からんとは可哀想な奴…!」



509 :610:2006/03/21(火) 21:42:57.00 0

亀井は正直参っていた。
宝塚のビデオを見て、演劇部員として大いに学ぶところがあったのは確かだ。
だがそれを彼女に伝えたのがまずかった!
気を良くした彼女は次から次へと自分の趣味であるビデオを強引に勧めてくるのだ。
だが…自分は特別宝塚が好きな訳ではないのだ!

(高橋さんの情熱とか向上心はすごく尊敬できるけど…
この人、たびたび他人の気持ちとか空気読めないところがあるんだよなァ〜〜)

「じゃあこの本貸してやるヨ!『なるほど THE宝塚・民明書房刊』!!
これなら行き帰りの電車の中でも読めるがし!」

「…結構です…。」

「じゃあこっちの小説もオススメやヨ!虐待の話なんやけど…」

「そんなブルーな本はいいですッ!!」

「あーッ!!そうやった!!」
突然高橋は何かを思い出したように叫んだ。

「な、何なんですか今度は…」

「亀!当然この本は知っとるよね?」
そう言って高橋は通学バッグから一冊の本を取り出す。



510 :610:2006/03/21(火) 21:44:22.91 0

「あ〜『ソラチュー』ですか、それなら僕もこの前読みましたよ!泣けますよね」

「空の中心で恋を叫ぶ」…通称「ソラチュー」は今年ベストセラーになった小説だ。
恋人を失った主人公の苦悩を描いたストーリーで、若い女性を中心に「泣ける小説」
としてちょっとしたブームを起こしている。

高橋は亀井に近づきそっと耳打ちする。
「実はこのソラチューの作者、杜王町に住んでるって知っとった?」

「ええッ!!ホントですか!?」

「昨日不動産屋が話してるのをチラッと聞いたンやよー。」

「へぇ〜すごぉい!写真見たことあるけど、意外と若くてイケメンですよね」

「なァなァ、これからちょっとサインもらいに行かん?」

「え!?いいですよ!僕そこまでファンじゃないし…」

「いいからいいから!遠慮しないで来るがし!」

そういうと高橋は亀井の腕を掴んで強引に引っ張っていった。

(しまった!一瞬でもこの人の話に乗っちゃダメだった!う〜んでもいいか…、
僕もちょっとは興味あるしな…)


212 :610:2006/04/13(木) 00:25:16.35 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜A

「この辺だと思うんやけど…」

「ホントですかぁ?この先は別荘地帯ですよ?」

高橋と亀井は「小説家」の家を探して商店街、住宅街を抜け町の外れまで来ていた。
この先は杜王町別荘地帯となっており、夏は避暑地として賑わうが、その時期以外は
人の姿を見かけることすら殆どない。

「あ!もしかしてここやない?」

高橋はちょうど街と別荘地帯の境目あたりに一軒の家を見つけた。
ごく普通の一軒家だが、見た目も新しく最近建てられたようにも見える。

「なんか人気ないよ…別荘なんじゃないんですか?」

「良く見るがし、2階に電気ついてるやよ!それにホラ!」

高橋は家の門を指差す。
そこには『桜井』と書かれた表札が掛けられていた。

「あっ!それじゃあここが…」

「小説家、桜井和寿先生の家やよ!」


213 :610:2006/04/13(木) 00:26:30.46 0

二人は門を抜けドアの前に立った。
しかし会いに来たとはいえ、いざここまで来ると緊張するものだ。
なかなか玄関のチャイムを押せない。

「よしッ!じゃあチャイム押すやよ…!」

「大丈夫かなぁ…迷惑じゃないですかねぇ…!?」

「ここまで来て引き下がれるかッ!えいッ!」
高橋は意を決してチャイムのボタンに指を伸ばす。


ガチャリ!!!


まさに高橋の指がボタンに触れようとした瞬間、突然ドアが開いた!

「「うわあああッッ!!!!???」」
高橋と亀井は思わず驚きの声を上げる。

中からドアを開けたのは一人の男だった。
その男は黒いTシャツに白いシャツ、ジーンズといった小奇麗な格好をしている。
年齢は20代後半から30歳くらいだろうか?

「…何の用?君たち」
男は不審そうな表情で2人に尋ねた。

「あっ!!その顔は桜井和寿ッ!…先生」
高橋が男を指差して言う。


214 :610:2006/04/13(木) 00:27:35.97 0

「ムッ」
桜井と呼ばれた男は高橋を睨む。
無理もない、人に指を指されていい気分のする人間はいないだろう。

「ちょ、ちょっと高橋さん!失礼だよッ!あ、僕たち怪しい者じゃありません!
ぶどうヶ丘高校の生徒でその…先生のファンなんです!」
亀井が慌てて事情を説明する。

「そ、そうなんデス!それでサインなんか頂けたら嬉しいな〜なんて…でもこの子より
あっしの方が先生のファンですカラ!」
高橋も続く。

「ファン?もしかして僕の住所って世間にバレてるの?」
桜井がキョロキョロと辺りを見回しながら言う。

「いや、そんなことないやよ!ちょっと小耳に挟んだもんで…」

「ふ〜ん…それは失礼、最近色々と面倒な事が多くてね。
まあサインくらいならお安い御用だよ。」

「本当ですかッ!すごい!来てみるもんですね高橋さん!」
「亀ェ、オメー乗り気じゃなかったくせに…」

「そうだ、サインの前に『握手』をしてもいいかな?」
桜井は唐突に尋ねる。

「へ?」


215 :610:2006/04/13(木) 00:28:35.38 0

「ただの握手だよ。僕の方から頼むのはおかしいかな?僕は自分を応援して
くれる人とは必ず握手をする主義なんだ」

「そうなんデスか、こちらこそ先生に握手してもらえるなんて嬉しいやよ!
あっしは高橋愛って言います!」
そう言って高橋は右手を差し出す。

「よろしく高橋さん」
二人は握手を交わす。

…2秒…3秒…普通の握手にしてはやけに長い。
「あの…桜井サン?」
高橋は思わず戸惑ってしまう。

「ふふふ、握手は気持ちを込めてしないとね、それじゃあ君も」

「僕は亀井絵里です。正直高橋さんほど先生の作品は読んでないんですけど…
ソラチュー感動しました!」
そう言って亀井も桜井と握手を交わす。

「…え〜とサインだったね。そうだ、立ち話もなんだから上がっていきなよ。
仕事場でも見ていけば?」
二人と握手を交わした桜井は笑顔でそう言った。

「「ええッ!仕事場入ってもいいんですかッ!?」」
二人は声を揃えて言う。

「もちろん、君達さえ良ければ…」
桜井は優しく微笑んだ。


216 :610:2006/04/13(木) 00:30:03.45 0

「へぇ〜作家さんの仕事場って「畳と机と原稿用紙」ってイメージだったけど
全然違いますねェ〜!!」

「亀ェ、いつの時代の話やよ。でも確かに綺麗やね〜、しかもオシャレやし!」

「そうかい?何の面白みもない部屋だよ」

物書き仕事をするには少々広すぎる感のある15畳ほどの部屋、奥の壁際には大きな机
が2つ並べられ、その上にはパソコンが2台、ファックス、電話などが置かれている。
すぐ横の本棚には大量の本。
その他にも壁際にはいくつもの本棚が置かれており、どれも資料と思われる本で
いっぱいだ。しかし全てが綺麗に整頓されており、乱雑な印象は全くない。
配置された家具も観葉植物もセンスがいいと言えるだろう。
ここが小説家、桜井和寿の仕事部屋である。

「ここで数々の名作が書かれている訳ですね、なんか感動だなぁ〜!」

「え〜と桜井さん、失礼やけどいつから杜王町で仕事してるンですか?」


217 :610:2006/04/13(木) 00:31:02.79 0

「越して来たのは一年くらい前かな…もともと僕の実家はS市にあるんだ。
杜王町にも前に住んでいたしね。東京はゴチャゴチャしていてとても仕事を
する気にはなれないんだ。最近は東京での打ち合わせが多くてなかなか帰って
来られなかったけど、やっぱり杜王町はいい…スガスガしい気分で仕事が出来る」

「へえ〜!そうだったんデスか!あっしは同じ杜王町に住んでることを誇りに
思うやよ!」

「ははは…大げさだよ、照れるなぁ」

「すごい数の本だなぁ〜、古そうなのも沢山あるし…これ全部読んでるんですかぁ?」
亀井は本棚を眺めながら言う。

「亀ェそんなの当たり前ジャン!この人は小説家なんやよ!」

「あれ、この本は新しいですね」
亀井は机の上に置かれた一冊の本を見つけた。

「すぽると☆摩天楼?変な名前の作者ですね」

「あっ!!この本あたし読んだやよ!桜井さんもこういう流行り物、読むんデスね」

「ああ、それかい?それは貰い物なんだけど…彼はなかなかいい小説を書く。
単なる流行り物では終わらないと思うね、僕は」

「うん、確かにその本は面白かったやよ」

「『面白い』か…ところで君たち、『面白い小説』を書くには何が必要か知ってるかい?」


218 :610:2006/04/13(木) 00:32:01.30 0

高橋と亀井は唐突な質問にブンブンと首を振る。

「それは『リアリティ』だよ。『リアリティ』こそがただの文字の羅列に命を吹き込む
エネルギーなのさ」

桜井は続ける。
「小説というのは小説家が頭で想像したものを言葉にするものだと思われているようだが
実は違う。小説家はこの世界に実在するものを小説の世界に移しているに過ぎない。
画家や漫画家が目の前にあるものをスケッチして作品を生み出していくように、小説家
は情景も、人物の心情も、絵ではなく『言葉』を使ってこの世界に実在するものを
描こうとするんだ!
主人公にある人物を設定したとする、すると小説家はその人物の考え方に沿った言葉を
選びつつ、自分の小説の方向性を委ねたり管理したりするんだ、あたかもその人物が
実在するようにね…!」

「それこそが『リアリティ』…面白い小説の条件さ」

「はあ…」
分かっているのかいないのか、高橋と亀井はポカーンとした表情で桜井の話を
聞いている。


219 :610:2006/04/13(木) 00:32:48.28 0

「例えば虐待を受けた人物は一体どんな気持ちになるのかだとか、恋人を亡くした
人物はどんな傷を心に残すかだとか…そのような話を書く場合、小説家は全て知って
いなければならない…」

桜井は机の上にあった本を手にとって言う。
「すぽると☆摩天楼…彼の作品の設定やストーリーはかなり現実離れしたものだが、
何故か不思議と『リアリティ』がある…面白い小説と言えるね」

「へぇ〜すごい…!そこまで考えて書かれているから先生の作品は心に響くンやねー!」

「やっぱり取材とか大変なんでしょうね…感心だな〜ッ!」


220 :610:2006/04/13(木) 00:34:09.34 0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「今日は本当にありがとうございました!」

「スイマセン!急にお邪魔しちゃったのにサインや、それに紅茶とお菓子まで出して
いただいて…桜井さん本当にいい人やね!」

一時間ほど経って、高橋と亀井は桜井邸を後にすることにした。
二人は桜井のもてなしに十分満足したようだ。

「こちらこそ楽しかったよ、気を付けて帰ってね」
桜井は笑顔で二人を送り出す。
二人は玄関から出ようと桜井に背を向けた。

その時…

突如桜井の背後に異形の『モノ』が浮かび上がる!!


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド




221 :610:2006/04/13(木) 00:35:11.52 0

「はッッ!!?」
『何か』の気配を感じ取った高橋は素早く後ろを振り返った。

「…!?」
しかしそこには何ら変わりなく笑顔で手を振る桜井の姿。

「どうしたんですか?高橋さん?」

「いや…何でもないやよ」

「…?それじゃあお邪魔しましたぁ〜!」

…バタム

「高橋さん…か…、彼女はなかなかいい勘をしている。さすがは『つんく』の
教え子といったところか…」

閉じたドアを見つめる桜井は怪しく微笑んだ。


386 :610:2006/04/16(日) 20:50:09.72 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜B

「…ちゃんとしてよ」

高橋と亀井が小説家、桜井和寿の家を訪れた翌日…
ぶどうヶ丘高校、演劇部部室に藤本美貴の冷たい声が響いた。

「ごめんなさい…」
力なく謝るのは亀井絵里だ。
今日も演劇部は新入生歓迎会で披露する特別講演の練習をしていた。
といっても集まっているのは数人だけである。
藤本、小川は終業式の日のケガによりここ最近の練習を休んでいたので
何人かの部員で二人の遅れを取り戻そうと特別練習を開いていたのだった。
だが今日の亀井は歌もダンスもすこぶる調子が悪く、他の部員と全くかみ合わない。

「まあまあミキティ!誰にだって調子の悪い日はあるってばヨ!」
小川麻琴が藤本の肩をポンポンと叩き、なだめる。

「そうそう、亀もサボリ魔に言われたくないよネー」
高橋が言う。

「うるせーなー、だってよォ〜高橋!オメーも思わないか?
今日の亀井はあまりにも酷いぜ?やる気ってモンが感じられねーんだよ。
あたしやマコの方がよっぽど出来てるじゃねーか」

「確かに今日の亀ちゃんはおかしいですね。歌もダンスも妙に縮こまって…
もっと自信を持ってやればいいんですよ。前は出来てたじゃないですか」
紺野あさ美が壁にもたれて座り込んでいる亀井に優しくに諭す。

「自信ないです…」
亀井はうつむいたままボソリと呟いた。


387 :610:2006/04/16(日) 20:51:24.20 0

「みんなはすごいです。歌もダンスもすぐに覚えて自分のものにして…
僕は何回練習してもいっつも上手く行かない、やっぱり才能ないんですよ…」

亀井の言葉を聞いた藤本、小川、高橋、紺野の4人は互いに顔を見合わせる。

「oioi〜〜!急にどうしちまったんだよ亀ちゃんよォ〜!?」

「アホらし!やってられねーぜ、美貴帰ろーっと」
そう言って藤本は荷物をまとめ始める。

「亀、一体どうしたンよ?あっしが前に言ったこと忘れた訳じゃないやろ?
アンタには努力する才能がある!その才能でここまで来たンやろ!?
自分には才能が無いなんてつまらんこと言うなッ!」

「無理なものは無理ですッ…!」
高橋の激しい言葉もむなしく、亀井は膝を抱え込んでしまう。

「本当におかしいですね…。まるで入部したての頃に戻ってしまったみたい…」
紺野も首をかしげる

「この前たった1人で赤西を負かしたのは誰だったんだろうなァ〜!?
少なくともこんな根性無しじゃあ無かったはずだよなぁ〜!」
藤本は通学バッグを肩に掛けながら、亀井に聞こえるように独り言を言った。


388 :610:2006/04/16(日) 20:52:19.52 0

「赤西…?負かした…?」
亀井は不思議そうな表情でつぶやいた。

「そうだゼ亀ちゃん!あんたは赤西にやられたアタシとミキティをたった一人で
助けてくれたじゃんか!しかも最後の勝負はハッタリかまして勝ったんだろォ!?
並大抵の根性で出来ることじゃあないぜッ!!?」

「な…何のこと…!?赤西って2年生の赤西仁くん…?」

亀井の言葉にまたしても4人は顔を見合わせる。

「ふざけんのもいい加減にしろよ〜!赤西仁のスタンド攻撃であたしと麻琴は奴に
心を奪われちまっただろーが!」

「スタンド攻撃…!?分からないよ!スタンドって何…!?」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


4人の顔に緊張が走る。


389 :610:2006/04/16(日) 20:53:35.04 0

「亀子…何言ってるんやよ、アンタも持ってるやろ?サイレント・エリーゼを…!」

「サイレント…!?」
高橋が亀井のスタンドの名を出すが、依然亀井は訳が分からないといった表情だ。

「oioioi〜ッ!!冗談じゃないぜ!自分のスタンドも忘れちまったのかよ!?」

「亀ちゃん…本当ですか?本当に私達が言ってることが分からないんですか?」
紺野の質問に亀井はコクコクと頷く。

「亀…ホントに分からねーのか?…これがよォッ!!!」

ドシュウウウッ!!!

藤本のスタンド、ブギートレイン03が亀井に向かって拳を振り上げる!

「うわあああああああああああああああああッッッ!!!!????」
亀井は悲鳴をあげ壁に張り付く。

「おい…何だよその怯え方は…!」
亀井の悲鳴に藤本は思わず動きを止めてしまう。


390 :610:2006/04/16(日) 20:54:55.40 0

「な…何なんですかその化け物はああああッ!!!??」

「マジかよ…!!スタンドは見えている…でも本人はスタンドのことを忘れている…?
どういうことだよ!?…コ、コンコン!亀井はどうしちまったんだ!?」

「…分かりません、もう少し亀ちゃんに話を聞いてみましょう。
もしかして何らかのスタンド攻撃を受けている…とも考えられる…!」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

4人は亀井に対して色々なことを質問した。
学校のこと…演劇部のこと…スタンドのこと…
その結果出た結論は…

「忘れている…スタンドに関することだけを…!他の事は何ら変わりなく覚えている…」
藤本の顔に汗が伝う。

「『弓と矢』のことも…あたしたちが潜り抜けてきた数々の戦いのことも…
全て忘れているッ…!!」


606 :610:2006/04/21(金) 23:23:05.44 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜C

「ぼ、僕が記憶喪失…!?」
亀井は自分に起きた事が理解できない。

しかし藤本たち4人は理解した。
亀井は『スタンド』という存在そのものの記憶を失ってしまったのだ。
そしてそれに付随していた数々の思い出も…
すなわちスタンドバトルから得た経験や自信を全て失ってしまったのだ。
今日の亀井のどこか自信無さげな態度はそれが原因だったのだ。

「ああそうだぜ!お前はすご〜く大事なもんを忘れちまってる!」
藤本は亀井のおでこに人差し指を押し付けながら言う。
「だ、大事なものってさっきのお化けみたいなやつですか?信じられない…!」

「はぁ〜、問題は何が原因でいつからこうなっちまったのか…
スタンドに関する記憶だけ無くなるなんてどう考えてもおかしいぜ…」
藤本は腕を組んで考え込んだ。

「そうですね…考えられるとしたら…」
紺野が推測を始める。
「昨日の部活は私も出てましたけど、その時は変わった様子はありませんでしたね、
歌もダンスも出来てましたし。スタンドの話はしなかったので確証は持てませんが…、
何かあったとしたら昨日の午後…?」


607 :610:2006/04/21(金) 23:24:31.47 0

「愛ちゃん!愛ちゃんももちろん部活出てたよなァ!?何か心当たりないかイ?」

「心当たり…」
小川の言葉を聞き、高橋は思い出していた。
小説家、桜井の家を訪れたときに感じた違和感を…
(まさか…いや、あの人がこんな事する訳ないよね…)

「何考え込んでんだよ高橋ィ、何か思い当たる事でもあるのか?」

「い、いや何でもないやよ!」
藤本の質問に思わずうろたえる高橋。
彼女は考えたくなかった。自分の尊敬している人物が、自分の友人に危害を加えた
かも知れないということを。

その様子を見た紺野は高橋に尋ねる。
「愛ちゃん、小説家の家には行ったんですか?」

「な、何でその事をッ…?」

「ごめんなさい、盗み聞きするつもりは無かったんですが…、忘れ物を取りに部室
に戻ったら聞こえちゃったんですよ、愛ちゃんと亀ちゃんが話してる声が。
それでその後愛ちゃんが亀ちゃんを引っ張っていったから…」

「そっカ…うん…確かに行ったやよ。でもあの人は…」

「小説家ァ?何だよそれ?」
藤本が高橋の声を遮った。

「いや、実はですね…」
紺野が藤本と小川にいきさつを説明する。


608 :610:2006/04/21(金) 23:25:19.52 0

「怪しいなァ〜!そいつが亀井に何かしたって可能性は十分あるぜ…なあマコ?」

「そうだネェ〜、もしかしたら『スタンド使い』かもナ…!」
話を聞いた2人は早速その人物を疑ってかかる。

「亀ちゃん、小説家の家に行った事は覚えてますか?」
紺野が亀井に尋ねる。
「はい…覚えてますけど…昨日の事ですから」

「そのとき何かされませんでした?」

「いやぁ別に…桜井先生いい人でしたよ?」

「愛ちゃんはどう思いました?その桜井って人…」

「いや…亀の言うとおり普通にいい人やったよ」
高橋は伏目がちにつぶやいた。

「でも手掛かりが無い以上調べてみる価値はあるな…その小説家をよォ〜」

「そうですね…、可能性は高いかもしれませんね」

「よしッ!そうと決まったら行ってみようゼィ!その小説家の家にッ!」
藤本の意見に紺野、小川も賛成する。


609 :610:2006/04/21(金) 23:26:06.32 0

「…そやね」
高橋も仕方なく、といった感じで椅子から立ち上がった。

「あ、あの僕はどうすれば…」
話が飲み込めない亀井はオロオロするばかりだ。

「亀ちゃんはお家ででも待っててください。」

「ダナ!スタンドを使えないんじゃもしもの時危険だからなッ」

「やれやれ、そんじゃあ行くとしますか!高橋、案内頼むぜ」

…かくして4人は桜井の家に向かったのだった。


72 :610:2006/04/24(月) 22:20:50.97 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜D

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ここがその小説家の家か…」

藤本たち4人が見上げる一軒の家。
生活感が無い程に外観は整っているが2階の部屋に灯りがついているのが見える。

「そんじゃあ高橋ピンポン押してくれよ、美貴こういうの結構緊張すんだよね」

そう言って藤本は高橋をドアの前に押し出した。

「おいおいミキティ、アンタが桜井さんが怪しいって言ったから来たんやろ?」

高橋は愚痴を言いながらも前へ出る。
そして複雑な思いを抱えながらチャイムのボタンに指を伸ばす。

ピンポーン!

「どうぞ」

「!」

ベルが鳴ったとたん、すぐさまドアの向こうから返ってくる返事に4人は驚く。

「oi…どうぞって言ってるんだから開けてみようぜィ…!」

4人が息を飲む中高橋がゆっくりとドアを開く。
するとまるで4人を待っていたかのように玄関に男が立っていた。


73 :610:2006/04/24(月) 22:21:57.66 0

(ミキティよォ〜、あたしゃ小説家って聞いてオッサンが出てくるものとばかり
思ってたヨ!なかなか爽やかな兄ちゃんじゃんかよォ〜!)

(まあな…でもこういう神経質そうな顔した奴って結構裏で危ない事やってんだぜ?)

桜井の姿を見た小川と藤本がヒソヒソと話す。

「やあ、いらっしゃい高橋さん…おっと今日はお友達も一緒?」

「うん、そうやよ。昨日話した演劇部の友達やよ」

「はじめまして」

紺野がペコリと頭を下げ、小川、藤本もそれに続く。

「はじめまして。えっと…サインかな、それとも仕事場見ていくかい?」

「いや、サインも見学もいいんスよ桜井さん。それよりイキナリで悪いけど、ちょっと
聞きたい事があるんスよ」

藤本が話を切り出す。

「まあまあ、玄関で立ち話もなんだから上がりなよ」

藤本の言葉を無視し、桜井は2階へと上って行った。


74 :610:2006/04/24(月) 22:23:23.07 0

仕方なく4人も桜井の後に続き、2階の仕事部屋へと入っていく。

「わぁ、綺麗な仕事部屋ですねぇ」
「いい家住んでるな〜!さすが売れっ子作家だなッ!」

紺野と小川は桜井の部屋を見回し目を輝かせる。

「感心してる場合かよ、早く確かめようぜ」

藤本は不機嫌な表情で言い放った。
どうやら彼女は小説などにはあまり興味が無いらしい…

「あの、桜井さん!今日は聞きたいことがあって来たンやけど…」

高橋が再び話を切り出した。
彼女も早いうちに真実を知り、桜井の潔白を確かめたいのだろう。

「ああ、そうだったね。何かな?」

「昨日一緒にお邪魔した亀井絵里のことで聞きたいンやよ。
実はあの後から亀の様子がおかしいんやよ、桜井さん何か知りませン?」


75 :610:2006/04/24(月) 22:24:11.19 0

「様子がおかしい?さあ…僕に聞かれても分からないな」

彼女らは思った…いわばこの桜井の答えは当然だ。
もし桜井が犯人だったとしても「はい、自分がやりました」などとは言わないだろう。

「あ〜まどろっこしい!美貴がハッキリ言ってやるよ!」

痺れを切らした藤本はズイと桜井の前に出る。

「桜井さん、あんた『スタンド使い』だろ!?」

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 

一瞬の沈黙…4人は思わず息を飲む。

「スタンド使い…?ごめん、何を言ってるのか分からないな」

桜井はキョトンとした表情を浮かべ…困ったように苦笑した。

「そうですか…、そりゃスイマセンでした…ねえッ!!!!!!」

ドギュウウンッ!!!!!!!

藤本は突然ブギートレイン03を出現させ桜井に殴りかかる!

ドグシャアアアアアッ!!!!!!

B・トレインの拳はフルスイングのまま桜井の顔面に直撃した!


76 :610:2006/04/24(月) 22:25:45.58 0

「あッ!!!」
「エッ!?」
「oioiッ!!ミキティッ寸止めくらいしろォッ!!」

まさか本当に殴るとは思っていなかった3人は藤本の行動に唖然とする。

「いーや…寸止めなんてする必要は無かったみたいだぜ…!!」
藤本はつぶやく。

「こ…これはッ!」

高橋は気付いた、他の二人もB・トレインの拳の先に目を凝らす。

「あ…当たってねェッ!!」

そう!桜井はB・トレインの拳を避けていた!しかも首を傾けるだけの最小限の動きで…!
だから他の3人には顔面にパンチが直撃したように見えたのだ!

「君はなかなか面白いね…!藤本…美貴さん…!」

桜井の顔に今までとは違う、怪しい笑みが浮かんだ。


330 :610:2006/04/30(日) 15:55:31.62 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜E

「oi…アイツ避けたぜ!ブギトレの拳を…!」
「桜井和寿…やはり彼はスタンド使いだったようですね」
「さくらいサン…」

小川と紺野の表情が闘志を秘めたものに変わる。
一方、高橋の顔には悲しみとも驚きとも取れる表情が浮かんでいた。

「やっぱりあんただったんだな、亀井の記憶を消したのは!桜井さんよォ…!」

藤本はスタンドを消し、桜井を指差しながら言う。

「フ…確かに彼女の記憶を『封印』したのは僕だよ」

桜井はそう言うとストンと藤本から一歩飛び退く。

「なぜ…!なぜそんな事をッ…!?」

高橋が悲痛な声で叫んだ。

「なぜ?僕は彼女を救ってあげたんだよ。『スタンド能力』という邪悪な力からね…」

「救った…?」

4人は怪訝な表情を浮かべる。桜井の言葉を理解できない…

「スタンド能力を身に付けることは不幸だ、と言ってるんだよ」


331 :610:2006/04/30(日) 15:57:32.62 0

「スタンドなどという特異な能力は、本人にも周りにいる者にも不幸しかもたらさない。
君たちも力に溺れ、他人を傷つけてきたスタンド使い達をたくさん見てきただろう?
君たち自身もその力のせいで傷つき、多くの『悲しみ』に触れてきただろう?
僕は彼女をその悲しみから解放してあげたのさ」

「なンやって…!?」

「oioi…随分自分勝手な理由だなァ〜!」

「桜井さん、悪いけど余計なお世話って奴だぜ。美貴たちはこれでも面白おかしく
やってるんだ」

「本当にそうかな?」

「あん?」

「例えば君の親友の後藤真希さん…、彼女も『スタンド能力』という呪縛に取り憑かれ、
多くの悲しみを生んだ加害者…そして被害者でもある…違うかい?」

「なッ!?なんでアンタがそんな事を知って…!?」

藤本はハッとして高橋の方を振り向く。

「いや!あっしは言ってないやよ!そんな事を他人に話すわけが…!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ




332 :610:2006/04/30(日) 15:59:11.99 0

「…桜井さん、あなたは『記憶』を読んだんですね?亀ちゃんの『記憶』を…!」

今まで黙っていた紺野が静かに口を開いた。

「…さすがだね紺野さん、亀井さんの記憶どおりだ。君は普段は何を考えているか分か
らない穏やかな性格、しかしその頭脳は演劇部の中で最も優れ、常に冷静な計算を働か
せている…」

「記憶…!桜井サンの能力は他人の記憶を読み…消去する能力…!?」

「だから何だってんだ!!あんたには何の関係も無い!これはあたし達の問題だ!
第一あんた自身だってスタンド使いじゃねーか!」

「そういう訳には行かないんだよ藤本さん…!この町にこれ以上悲しみを増やすわけには
行かない…!スタンド使いはこの世に存在してはならないんだ!!僕の能力はその為に神
から与えられた物だ!」

「ふざけんなヨ!!ワタシたちはスタンドを決して悪用したりしネェッ!!」

「そんな保障はどこにも無いだろう?人間はちょっとしたキッカケでどう変わるか
分からない不安定な生き物だ…。そして君たちは既にこの町の脅威となりつつある…」

「何だって?どういうことだよ!?」

藤本の顔からは既に怒りが滲み出している。


333 :610:2006/04/30(日) 16:01:43.76 0

「君たちは『つんく』の言いなりになっているじゃないか、自覚はあまり無いようだが
ね…」

つんく…!?

4人は聞きなれない単語に眉をひそめる。
藤本と紺野は頭の片隅に残るその単語を必死に思い出しそうとしていたが…

「そうか…君たちは知らないんだったね。『つんく』ってのは君らの顧問、寺田光男の
昔の呼び名さ」

「寺田先生の…!?あんた先生と知り合いなのか!?」

「彼とはあらゆる面で友人でもありライバルでもあった。だが彼とは考え方が
合わなくてね、決別することにしたんだ。もう10年近くも前の話さ…」

「彼が今この町で何をしようとしているかは知らない、だが彼の過去と亀井さんの
記憶から僕は彼を『悪』だと判断している!そして現に君たちは彼の『駒』として
動いている!だから君たち演劇部の記憶は全て封印させてもらう!」

「まさか桜井サン…!亀の記憶を消したのはあっしらをここにおびき寄せるため…!?」

「そうだよ高橋さん、昨日君たち二人がここへ来た時、君たちの記憶を読み演劇部の
存在を知った。そして亀井さんの記憶を消し、君の記憶はあえて残しておいたんだ。
そして僕の思い通り君たち演劇部員は僕を疑ってここへ来た」

桜井はゆっくりと4人の方へ歩み寄ってくる。


334 :610:2006/04/30(日) 16:04:48.07 0

「何も後藤真希さんのように君達を抹殺しようという訳じゃない、亀井さんと同じ
ように『スタンド』と『演劇部』の記憶を消すだけさ、普通の高校生に戻るんだ。
君たちの為にも、杜王町の未来の為にもこうすることが最善なんだ」

「こいつッ…!!」

藤本は思った。

こいつは…真希ちゃんと同じだ…!おそらく本気で町の未来やあたし達の為を思って
こんな事を言っている!いったい今まで何人のスタンド使いの記憶を消してきたんだ!?
だけど…ッ!!!

「やめろッ!!あたし達は誰もそんなこと望んじゃあいないッ!!!」

「すぐに済むから大人しくしろよ…イノセントワールドッ!!」

シュアアアアアア・・・・

桜井の背後に人型のビジョンが浮かび上がる!
人間とロボットの中間のような、どこか物悲しげな表情を浮かべたスタンドだ。

「待ってください!!」

紺野の声が桜井の動きを止める。

「桜井さん、あなたは今『亀井さんと同じように<スタンド>と<演劇部>の記憶を
消す』と言った!でも亀ちゃんが失ったのは『スタンドの記憶』だけです!
演劇部の記憶は消えていませんし、そもそも消す必要も無いと思います!」


335 :610:2006/04/30(日) 16:06:51.03 0

「いいや、消すのは『スタンド』と『演劇部』両方の記憶さ、この二つは密接に関わっている、
両方消させてもらう!あまり多くの記憶を一度に消すと混乱するだろう?精神が崩壊してしま
うかもしれない。だから『演劇部の記憶』の方は徐々に消えていくようにしたんだ。
亀井さんはこれから徐々に徐々に演劇部の記憶が失われていく…!」

「何だって…!?てめえッ!!!」

桜井の言葉に激昂した藤本はB・トレインを出現させる!!

シュンッ・・・

その藤本の横を風のような速さで通り抜けていく物があった!

ドッシュウウウウウウウッ!!!!!

桜井の顔面スレスレを赤い奇跡が走る!

「何の真似だい?高橋さん…」

「桜井サン…あっしはアンタを許さない!!亀子の記憶を元に戻すんやよ…!
今すぐにッ!!!!!」


538 :610:2006/05/04(木) 00:29:28.39 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜F

「高橋さん、君は僕のファンなんだろ?少なくとも君だけは僕の考えを理解してくれる
と思ったのに…」

「あっしは…常に上を目指したいと思ってる。昨日の自分より今日の自分…今日より明日
…常に『成長』していきたいと思ってる」

悲しんでいるのか?怒っているのか?高橋はうつむき加減で語り始める。

「今まで辛い事、苦しい事もあったけど、それを乗り越える事こそ『成長』なんよ。
そして『成長』する事こそ『生きる』って事だとあっしは思ってる…
今の自分があるのは、今までの努力、経験、思い出があるからなんよ…。
だから何か1コでも欠けたら高橋愛という存在は成り立たないんよ…!」

ビシイィッ!!!

高橋は顔を上げ、自身のスタンド『ライク・ア・ルノアール』と共に桜井を指差す!

「桜井サン、アンタは『生きる』事を否定しているッ!!アンタが亀子にやった事は手足
をもぐ事より残酷な事やよッ!!!」

「高橋愛…自他共に認める演劇部のエース格。彼女をそうならしめているのは向上心、
闘争心に溢れ、常に高みを目指すその性格…」

桜井は哀れむような目で高橋を見つめ、読んだ亀井の『記憶』を思い返す。


539 :610:2006/05/04(木) 00:31:27.32 0

「高橋さん、君は全然分かってない…、世の中には『知らなきゃよかった』って思うこと
ばっかりなんだよ。そして君みたいな人間が一番『悲しみ』を生むんだ、他人にも、自分
自身にもね…。僕が今その悲しみから解き放ってあげよう…!」

そして彼のスタンド『イノセントワールド』と共にゆっくりと高橋に歩み寄る。

「おいミキティ、麻琴、コンコン」

高橋は桜井の方を向いたまま3人に呼びかけた。

「ここはあっし一人でカタを付ける。アンタらは手を出すな」

「…ハァ?何言ってんだ?美貴だってムカついてるんだ、黙って見てられっかよ!」

「そうだゼ愛ちゃん!あんな奴みんなでぶっ飛ばしてやろうぜィッ!!」

「…いいから手を出すなッ!!!」

高橋の言葉に反論する藤本、小川だったが思い掛けない激しい口調に黙ってしまう。

「亀子がああなってしまったんはあっしのせいなんよ…!昨日ここへ来た時に桜井サンが
スタンド使いだって気付く要素は充分あったのに…。」

高橋の肩が震える。


540 :610:2006/05/04(木) 00:33:06.10 0

「今日の練習…亀子はスタンドの記憶を失ったから調子が悪かったんじゃあない、演劇部
の記憶を失ってたからだ…!アイツの自信はスタンドバトルだけで身に付いたモンじゃあ
ない!いつも努力していた!毎日練習して…自信を身に付けてた!」

高橋の言葉に藤本たち3人はハッと気付く。
そして亀井に申し訳ないと思うと同時に、仲間のことをきちんと理解出来ていなかった
自分自身を歯痒く思うのだった。

「確かにな…それに気付かなかった美貴たちも情けねーな…」

「だったらなおさらだッ!!みんなで亀ちゃんの記憶を取り戻そうぜッ!!」

「いや、あっし一人でヤル!」

「ちょ!愛ちゃん…!!」

「マコトッ!!ここは愛ちゃんの言うとおりにしましょう!」

紺野が小川の言葉を遮る。

「愛ちゃん、敵の能力の検討は付いてるんですか?彼はどうやって記憶を読み、消して
いるのか…?」


541 :610:2006/05/04(木) 00:34:09.43 0

「分かってるやよ、おそらく桜井サンの能力は相手に触れることで発動してる。
昨日不自然に触れられた場面が何度かあった…」

高橋は紺野の方を向き、2人は無言で見詰め合う。

「…わかりました。愛ちゃんに任せます」

「サンキュ…コンコン!」

高橋は紺野に微笑みかけると、藤本、そして不服そうな顔をしている小川の方へ向き直る。

「ミキティ!麻琴!あっしがやられたら後は頼むがし!」

「!?」

「へ!?愛ちゃん何を…!?」

ダッ!!!!!

高橋は一気に桜井へと突っ込んでいく!

「おおおおおおッ!!L・A・ルノアールッ!!!!!」



635 :610:2006/05/05(金) 19:24:44.79 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜G

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」

L・A・ルノアールの拳の連打が桜井に襲い掛かる!

「…フン」

桜井は特に身構える事も無く、平然とした顔で立ち尽くしている。

パシパシパシパシパシパシパシパシッ!!!!!!

「なッ…!?」

しかしルノアールのラッシュは全て桜井のスタンド、I(イノセント)・ワールドの手によっ
て軌道を逸らされ、捌かれてしまう!

「…オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアッ!!!!!!」

再びラッシュを繰り出す高橋だが、やはりその拳は全て桜井に避けられ、捌かれ、一発た
りともまともに当たらない。

シュバッ!!!!

攻撃を受け流され体勢が崩れた高橋にI・ワールドの手が掴みかかる!

「ううッ!!?」

高橋はとっさに身をかがめてその手をかわすと、そのまま前転して桜井と距離をとった。


636 :610:2006/05/05(金) 19:25:59.24 0

「フゥ…!アンタのスタンド…あっしのL・A・ルノアールの攻撃を全て防ぐとは、なかな
かのスピードやね…!」

そう言う高橋の目はさっきまでのそれとは違っていた。力強く輝き、口元には笑みがこぼ
れている。
さっきまでの彼女には尊敬していた人物が『敵』だったことによるショックや、自分の
ミスで友人を危険にさらしてしまったことによる気落ちがあった。
しかし、相手と拳を交える…純粋な『戦い』が彼女本来の戦闘本能を呼び覚ましたのだ。

「oiミキティ…あのイノセントワールドとかいうスタンド、愛ちゃんの攻撃を捌くなんて
スゴいスピードと精密性じゃんかヨォ…!」

「そうみてーだな…!だが見ろよマコ、あの高橋の顔!今ようやくエンジンがかかった
みたいだぜ?それにルノアールの能力はまだまだこんなもんじゃない、だろ?」

そう話す小川と藤本の顔にも余裕があった。
彼女らは高橋愛の強さをその身をもってイヤと言うほど知っている。
だから彼女の戦いを「安心して見ていられる」のだ。

「桜井サン、もう一度だけ言うッ!今すぐ亀子の記憶を元に戻し、あっしら演劇部には
二度と関わらないと約束するんやよ!さもないと…力づくでもそうしてもらう事になる
ッ!」

「『力づくでも』か…、やはり君らは危険な存在だ。
僕の方こそ君らを逃がすつもりは無いんだよ。いいからさっさとかかって来なよ」

「…残念やよ!」

高橋は再び桜井に向かって走り出す。


637 :610:2006/05/05(金) 19:27:19.05 0

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!!」

再び放たれるルノアールのラッシュ!
そのスピードは先ほどのものより明らかにアップしている!

「イノセントワールドッ!!!!」

バシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!!!!!!!

しかしそのラッシュさえもI・ワールドは驚異的なスピードで捌ききる!

バシィッ!!!

I・ワールドはルノアールの突きを大きく後方に受け流した!当然高橋もバランスを崩し
前方につんのめる!

「終わりだ、高橋さん」

すかさずI・ワールドが高橋に掴みかかる!


「はぁイ。詰んだ」




638 :610:2006/05/05(金) 19:29:27.90 0

ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!!

高橋の決め台詞とともに桜井の周囲の床、天井が大きく迫り出した!!
床から5箇所、天井から3箇所、槍のような迫り出しが桜井を囲むようにして伸びてくる!
ルノアールは桜井にラッシュを仕掛けると同時に天井や床を殴っていたのだ。
そう、高橋愛の最も得意とする戦法だ。

シュガアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!

迫り出し同士が複雑に交差する!
その中心にいた桜井は、迫り出しによって全身を打ち抜かれている事だろう…!

「ゴメンネ桜井サン…でも手加減したから再起不能にはなってないはずやよ」

勝利を確信した高橋は、目の前で重なる迫り出しに向かってつぶやいた。
そして迫り出しは徐々に元の床や天井に戻っていく。


!!!!!!!!!!!!


次の瞬間…眼前の光景に高橋は絶句した。
迫り出しから徐々に姿を現した桜井は、何事も無かったようにその場に立っていたのだ!
ところどころ服が破れたりはしているが、外傷は全く無くその顔には笑みを浮かべている。
八方から襲った迫り出しは、全て桜井の体を避けるように交差していたのだ!

ガシイイイッ!!!!!

一瞬の隙だった!高橋がショックを受けている一瞬の隙にI・ワールドが高橋の頭を
鷲掴みにする!


639 :610:2006/05/05(金) 19:30:56.23 0

「ようこそ、無垢なる世界へ」

カアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!

高橋を掴むI・ワールドの右手が白く輝く…!

「うあああああああああああああああああああああああッ!!!!????」

「あ・・・」

I・ワールドの手の光が収まると、高橋は力なく床に崩れた。

「た…高橋ッ!!??」

「愛ちゃんンンンンンンンッ!!!!??」

藤本と小川の悲痛な声が響くが、うつ伏せで倒れた高橋はピクリとも動かない…
紺野も険しい顔でその光景を見つめている。

「テメェッ!!愛ちゃんに何をしたッ!!?」

「さっき言ったとおりだよ、彼女から『スタンド』と『演劇部』の記憶を消した。
多くの記憶を一気に消したので一時的に気を失ってしまったようだが…これで彼女は
幸せになれる」

!!!!!!

「ゆ、許さねェ…!テメーはこの小川麻琴がブチのめすウゥッ!!!!!!!」

怒りに震える小川は『FRIED SHIP』を発現させる!


640 :610:2006/05/05(金) 19:35:53.61 0

「マコッ!!ちょっと待ってッ!!!」

今にも桜井に飛び掛りそうな小川を紺野が制止する。

「なんだよコンコン…!?」

「マコ、ミキティ、聞いてください。桜井和寿…彼の能力にはまだ謎があると思うんです」

「アイツの能力は『触れた相手の記憶を支配する』んじゃないのカヨ?現に愛ちゃんも
アイツに掴まれて…!」

「愛ちゃんの攻撃は一発も当たらなかった…、ラッシュのフェイントを含めた迫り出しの
攻撃でさえ、彼は楽にかわして見せた。おかしいと思いませんか?」

「それだけ奴のスタンドのスピードがスゴイってことじゃないのかヨ!?」

「襲い来る8箇所もの迫り出しを殆ど動かずにかわすなんて、いくらスタンドのスピード
があっても不可能です…ミキティ、そう思いますよね?」

「そうだ…美貴もおかしいと思ってたんだ!奴は美貴の最初の不意打ちも余裕でかわしや
がった!美貴は本気で打ち込んだんだ…!間違いだったら『満月の流法』で治して逃げち
まえばいいやって思ってな…!」

「ええ…こんな事は『攻撃がどんなタイミングでどこに来るか』分かっていなければ出来
ないッ!!」

「そ、それってつまりヨォ…!!」

「そうです…!彼は触れずとも、間違いなく私たちの心を読んでいるッ!!」


335 :610:2006/05/15(月) 01:37:34.30 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜H

「oioiマジかよォ!?」

「ええ…!こんな事は予知能力か読心術でもない限り不可能です!
『記憶を読む』という彼の能力の性質から考えておそらく後者だと思われます…!」

桜井の能力を推測する紺野。
小川、藤本はまじまじとその話を聞いている。
そんな3人に対して桜井は言う。

「そう、僕の『イノセントワールド』は相手に触れている間、自由にその記憶を読み、
消去する事が出来る。だけどそれだけじゃないんだ。
側にいる人間の『意志』を感じ取る事が出来る…それがもう一つの能力!なんとなく分か
るんだ、君たちが何をしようとしているのか…。その意志が強ければ強い程はっきりとね」

自分の能力に絶対の自信を持っているのだろう、堂々と自分の能力を解説して見せる。

「おいマコ、ヤツの言ってる事分かったか?」

「う〜ん、つまり強く考えてる事はヤツに読まれるって事ダロ?」

「そういう解釈でいいと思いますよ。『記憶』と『心』を読むスタンドですか…!
これは手強い相手になりそうですね…!」

紺野の表情が強張るが、小川、藤本は顔を見合わせるとニヤリと笑った。

「フン!心を読まれるくらいどうってこと無いゼ!!なあミキティ!」

「ああ、いくら攻撃が読めたってよォ〜!それに『対応』出来なきゃ意味無いもんなぁ〜!
…いくぜマコッ!!」


336 :610:2006/05/15(月) 01:39:08.35 0

「おうよッ!!愛ちゃんのカタキだッ!!!」

ダッ!!!!

二人は同時に桜井に向かって駆け出した!

「ゴールデンゴール決めてッ…VVVVVVVVVVVVVVVVVVッ!!!!!」

「『FRIEND SHIP』ッ!!!!」

B・トレインのラッシュが桜井に襲い掛かる!と同時に小川の姿は残像を残してかき消え
る!

シュババババババッ!!!バシバシバシバシバシバシバシィ!!!!!!!

しかし藤本の攻撃も高橋と同様、全て桜井にかわされ、捌かれてしまう!

(だよなッ…!!ルノアールの攻撃が通じなかったんだ!ブギトレの攻撃が通じないのは
当たり前…!だが美貴は単なる足止めだッ!頼むぜマコッ!!)

シュンッ!!!

藤本の攻撃を受けている桜井の背後に小川が迫る!
『神速』による高速移動!しかも桜井の背後斜め上方、完全に死角からの攻撃だ!

「もらったァ!!!!」

『FRIEND SHIP』の拳が桜井の後頭部めがけて放たれる!!


337 :610:2006/05/15(月) 01:40:54.29 0

バチイッ!!!!

「がはッ!?」

しかし声を上げたのは藤本だった!I・ワールドの放ったジャブがB・トレインのラッ
シュの隙間を抜け、藤本の顔面に直撃したのだ!

ズボオオオオッ!!!!!!

「ぐええええええッ!!!??」

次の瞬間、今度は小川の呻き声が響き渡る!

小川は宙に浮いたまま苦悶の表情を浮かべていた。その身体を支えるのは腹部に深々と突
き刺さったイノセントワールドの足だ。桜井は藤本の体勢を崩した直後に自分の後方、
小川の出現位置に蹴りを放っていたのだ!

「が…!ば…バカなッ…!!」

ドサリと地面に落ちた小川は苦痛と呼吸困難にのたうつ。

「君たちの動きは全て読めると言っただろ?いくらスピードが速くても、攻撃の位置とタ
イミングさえ分かれば迎撃する事は容易い」

「桜井さん、アンタの戦いぶり…ただの小説家じゃない!一体何者なんだ!?」

藤本は流れる鼻血を押さえながら考える。

(こいつ…『心を読む』能力だけが強いんじゃあない!こいつ自身が強いんだ…!
あたしたちの攻撃を完全に封じる『スタンドさばき』といい、攻撃を打ち込む時の迷いの
無さといい…明らかに戦い慣れしている!!)


338 :610:2006/05/15(月) 01:42:16.93 0
「こういう能力を持ってると色々とトラブルに巻き込まれることが多くてね。戦い方は自
然に身に付いたよ。君たちもそうだろ?」

そう言いながら桜井は藤本に近づく。小川はまだ桜井の後ろでうずくまっている。

「もう大人しくしててくれよ。僕は君たちを傷付るつもりはないんだ」

(くそッ!!どうするッ…!?)

「『ニューオーダー』!!!!」

シュバアッ!!!!

そのとき突如桜井の目の前に紺野のスタンド『ニューオーダー』の右手が現れる!
その手は触れるものを破壊する空間の歪みを纏っている!

「フン」

しかし桜井は顔色一つ変えずに体を傾け、あっさりとその攻撃をかわす。

「無駄なんだよ紺野さん。君なら分かるだろ?僕には勝てないって事が」

しかし紺野はニューオーダーの構えを解かない。

「『バニシング・ポイント』&『ワールド・イン・モーション』!!!!」

バババババババババババババババババババッ!!!!!!!!

ニューオーダーの両手が次々に出現しては消える!
しかしそのどれも桜井を捉えることは出来ない!


339 :610:2006/05/15(月) 01:43:51.86 0

「君は僕に攻撃を当てるつもりは無いね? 君の攻撃には『殺気』が感じられない」

桜井は全ての攻撃をかわすと、そう言いながら紺野に近づいていく。
辺りにはワールド・イン・モーションによる空間の歪みが無数に漂っている。

「この攻撃は僕の能力の射程距離を測るため、そしてこの状況を切り抜ける策を考えるた
めの時間稼ぎだ。そうだろ?」

「さすがですね。それもスタンド能力ですか?」

「いいや、僕の『イノセントワールド』は直接相手に触れなければ複雑な思考は読めない。
経験から来る推測と言うやつさ。そして知ったところで無駄だから教えてあげるよ。僕が
意志を読める範囲は半径10メートル、この家の中は全てカバーできる」

「…!!」

2人の距離は既に1メートルあまり。紺野の顔に汗が伝った。

(『意志』だけじゃなく、彼自身の洞察力によって思考まで読まれている…!!
一体どこまでがスタンド能力でどこからが彼自身の能力なのか…!?
それにしても強い…!彼の能力に対抗する策が見つからない!!)

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 

「『ニューオーダー』ッ!!!!」

ズンッ!!!!!!

ニューオーダーが空間の歪みを纏った右手を放つ!
しかしそれより先にI・ワールドの拳が紺野のみぞおちにメリ込んでいた。


340 :610:2006/05/15(月) 01:45:38.51 0

「やぶれかぶれに攻撃してくるとは、君らしくも無い…」

紺野はズルリと床に崩れ落ちる。
そして辺りに漂っていた空間の歪みは次々に消えていく。

「コンコンッ…!!」

「藤本さん、君も抵抗するのはやめろ。余計な苦痛を味わいたく無いだろ?」

「ち、ちくしょう…!」

高橋は記憶を奪われ、気を失って倒れている。小川も攻撃の当たり所が悪かったのか
まだ立ち上がることが出来ない。そして紺野も…
藤本はそんな仲間達の姿を見て考える。

(駄目だ…!コイツは強すぎるッ…!美貴一人じゃもうどうする事も出来ないッ…!)

「どうやら諦めたようだね、君の心から『闘志』が消えていくのが分かる。それでいいん
だ」

そしてI・ワールドは倒れている紺野の頭を掴む。

「まずは紺野さん、君から『無垢なる世界』へ誘ってあげよう」


(コンコンがやられる…!コンコンの記憶が奪われる!その後はマコも、あたしの記憶も
ッ…!)

藤本はその光景を見ながらも一歩も動くことが出来ない。


341 :610:2006/05/15(月) 01:46:30.42 0

(美貴は何で演劇部に入ったんだっけ?スーパースターになる為だよな?それが無理矢理
スタンド能力を目覚めさせられて、訳の分かんねー戦いに巻き込まれて…)

―『普通の高校生に戻るんだ。君たちの為にも、杜王町の未来の為にもこうすることが最
善なんだ』―

桜井の言葉が藤本の心に響く。

(そうかも知れないな…。『スタンド』や『演劇部』の事を全部忘れちまっても…
大スターになるっていう夢さえ忘れなければ…またやり直せるかな?)

カアアア・・・!

紺野を掴んだI・ワールドの手が白く輝き始める…!



342 :610:2006/05/15(月) 01:46:58.19 0



「うわあああああああああああああああああッ!!!!!!!!」






343 :610:2006/05/15(月) 01:48:03.67 0

突然の絶叫に桜井は後ろを振り返る!
藤本がB・トレインを構えて突進してきたのだ!!


ドシュンウウンッ!!!!!!


B・トレインの拳が唸りを上げる!
桜井は紺野の頭を放すとバック宙してそれをかわし、藤本の後ろに着地した。

そして再び桜井と対峙する藤本。その顔には闘志がみなぎっている。

「イヤだ…!忘れてなんかやるもんか!!『あたしの未来』はあたしが決めるッ!!!」


448 :610:2006/05/16(火) 23:32:54.72 0

銀色の永遠 〜無垢なる世界〜I

桜井はもう笑っていなかった。
死刑執行人の様な冷徹な目で藤本を見つめる。

「『時を戻す』能力…、その真の力は世界を支配できる能力と言っても過言ではない。
町の未来のため、必ずその記憶消させてもらう…!」

「町の未来…」

藤本は目を閉じ考える。

『あたしは何のために演劇部に入ったんだ?』

今までも戦いに巻き込まれるたび何度かこんな事を考えたっけ…
へへ…美貴って結構思い悩むタイプなのかな?

でももうとっくに答えは出てるよな!?


あたしは演劇部が好きだ。




449 :610:2006/05/16(火) 23:35:38.20 0

寺田先生の目的は何なのか?スタンド能力は邪悪な力なのか?
そんな事は関係ない!!
美貴は演劇部が、演劇部の仲間が好きなんだ!

『あなたが優しくあれば、いつかきっとみんなが、この町が優しくなれるでしょう』

エネちゃんよォ…忘れてないぜ、この言葉…!
そうだ…!あたしは自分自身が『納得』出来ることをやってきた!!

真希ちゃんにも誓ったじゃないか!

『真希ちゃん・・・・・あんたの意思はあたしが受け継ぐ。方法も考え方も違うだろうけど…
町も!仲間も!!友達も!!!あたしはすべてを守り抜いてみせるさ・・・・今のあたしは
演劇部がなかったらいなかった・・・だからあたしは演劇部はやめない・・・・・・・この<矢>も
破棄しない!!!』

この約束を…美貴は果たさなくちゃならないんだ!!

藤本はそっと目を開いた。

「桜井さんよォ…!あんたが美貴の事をどう思おうが勝手だよ。だけどあたしはこの町が
好きだ。この町を悪いヤツから守りたいと思ってる。この気持ちだけは真実だぜ」

「…何度も言わせるなよ。スタンド使いは…『悪』だ!!」

桜井はスタンドを構え、藤本に向かって歩き出す。

「そうかい…」

藤本も同じように桜井に向かっていく。
二人の距離がみるみる縮まる…!


450 :610:2006/05/16(火) 23:37:59.13 0

「ブギートレイン…オオオオスリイイイィィィッ!!!!!!」

ドバババババババババババババババババババァァッ!!!!!!!!!

再びB・トレインのラッシュが桜井を襲う!

(攻撃は右拳から…狙いは全て顔面!!!)

ゴォッ・・・!!!バシバシバシバシバシバシバシバシバシィ!!!!!!

しかし桜井は藤本の攻撃を完璧に予測し、全ての攻撃を捌いていく!

「ううッ…!ミキティッ…!!」

床に倒れた小川は顔を上げ、息を呑んでその光景を見つめている。

(ダメだッ…!『心を読む能力』…!防ぎようが無いッ!どんな攻撃も予測されてしまう!
そしてその攻撃を捌ききるスピードと精密性を、コイツのスタンドは持っているッ!!)

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」

しかし藤本はラッシュを止めない!
がむしゃらにB・トレインの拳を打ち込み続ける!!

チッ・・・!

「なに!?」

そのとき思いがけぬ衝撃が桜井を襲った。
B・トレインの拳が桜井の頬を掠めたのだ!


451 :610:2006/05/16(火) 23:39:48.72 0

(馬鹿な…!?彼女の『攻撃の意志』は完璧に読めている!常に一手先を読んで避けてい
るんだ!僕の身体に触れるはずが…!!)

B・トレインの拳の雨は止まない!

(次は左拳だ…!斜め下から突き上げるように来る!その次は右ストレート…!顔の中心
目掛けて真っ直ぐに…!)

ジェチィイッ・・・!!

「ううッ!!?」

焦げ臭い匂いと共に桜井の髪が宙に舞う!

(まさか…これはッ…!?スピードがッ…!!)

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!!!」

(上がっている…のか!?僕の『イノセントワールド』よりも…!!)

B・トレインの拳がI・ワールドの腕をすり抜ける…!


ドグシャアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!


ついにB・トレインの拳が桜井の顔面を完璧に捕らえる!
口や鼻から血飛沫をあげて吹っ飛んでいく桜井…!

「ハアーハアー…!!人は『成長』するもんだぜ…『過去の経験』からな!!」


201 :610:2006/05/21(日) 11:32:05.97 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜J

バギバギィッ!!グワラグワラ・・・!

吹っ飛ばされた桜井は激しく仕事机に突っ込み、木製の椅子が音を立てて崩れる。

「や…やった!!奴のスピードを上回るなんてッ!!スゲーよミキティ〜ッ!!!」

小川が何とか上体を起こし、歓喜と驚きの声を上げる。

「へへ…!!自分でも驚いてるぜ!ブギトレにあんなスピードが出せるなんてよォ〜!
ま、『やるときゃやる女』ミキティと呼んでくれィ!」

そう言って藤本は小川に向かってピースサインを送る。
そんな2人の会話を聞き、桜井は朦朧とする意識の中で考えていた。

(そうか…今の攻撃は、彼女自身の予想をも上回るスピードだったと言う事か…!
だから彼女の攻撃しようとする『意志』と実際の攻撃のタイミングにズレが生じ、僕は攻
撃を食らってしまった…)

そして口から流れる血を押さえながら、震える足で何とか立ち上がろうと身体を起こす。

「ミキティッ!!まだ終わってねェ―ッ!!!」

桜井の動きに気付いた小川の声が、藤本を臨戦態勢に引き戻す。
そして素早く桜井の方を睨む。

「ハアーハアー…!!侮っていたよ…君の爆発力を…!!だがそれだけだ!
この一発の被弾は100%僕の油断だ。君ごときが『イノセントワールド』の『スピード』と
『能力』を超える事などありえない…!!」

桜井はスタンドを発現させ、藤本に向かって歩き出す。


203 :610:2006/05/21(日) 11:34:57.72 0

「まだやる気か?もう降参しな!あたし達は別にアンタをブチのめすのが目的じゃない。
高橋と亀井、2人の記憶が戻ればそれでいいんだ」

しかし桜井の足は止まらない。

桜井のダメージは明らかだ。藤本にとって怪我人を痛めつけるのは気が引けたのだが、相
手が諦めずに襲って来るのなら仕方が無い…藤本はB・トレインの拳を硬く握り締めた。
桜井が射程距離内に踏み込む…!

「おらぁッ!!!!」

バキィッ!!!!

「ぐッ!?」

B・トレインで攻撃を仕掛けた瞬間、藤本の顔が後方に弾ける!
桜井は身体を横にぶらして藤本の攻撃をかわすと同時に、I・ワールドの拳をB・トレイン
の顔面に打ち込んできたのだ!

「ちッ!!」

バチイィ!!!

藤本は薙ぎ払うようにB・トレインの腕を振るうが、またしても正確なカウンターを浴びせ
られてしまう!


204 :610:2006/05/21(日) 11:36:07.07 0

「ミキティッ!!ラッシュだ!!さっきみたいに畳み掛けちまえィッ!!!」

「んなこたぁ分かってんだよマコ!!ゴールデンゴール決めてェッ・・・!!!」

藤本の掛け声と共にB・トレインが構える!そして先ほど桜井を打ち負かしたラッシュが
始まる!

「V!」
バキィッ!!!

「V」
バチィッ!!!

「ヴ」
ゴッ!!!

「がはあッ!!!!」

しかし響いたのはまたしても藤本の呻き声だった。

「何だってェ…!?コイツ…!!」

離れて見ていた小川は思わず感心してしまう。
桜井は藤本の周りを着かず離れず円を描くように移動し、攻撃の的を絞らせない。
そして藤本の攻撃の『一発目』に正確にカウンターを合わせ、決して次の攻撃に繋げさせ
ない!『能力』を使っているから出来る業だろうが、瞬時にこの作戦を思いつく桜井の戦
いのセンスに驚嘆したのだ。「藤本の攻撃を受けたのは100%油断のせいだ」と言っていた
のは本当だったのだ!


205 :610:2006/05/21(日) 11:37:00.84 0

「ち、ちくしょう…!!」

桜井の『イノセントワールド』のパワーはそれ程でもない。
だが攻撃を食らい続けた藤本は徐々に動きが鈍ってきていた。
顔には幾つものアザができ、まぶたは腫れあがって左目を塞いでいる。

「どうしたんだい?パンチのスピードが鈍ってるよ。これなら『能力』を使うまでも無い」

バキィッ!!!

今まで完全に『受け』に回っていた桜井が攻撃に転じ始める!

ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!

「うああッ!!!」

I・ワールドの拳が藤本を襲う!体力を消耗した藤本はいつの間にか防戦一方になって
しまっている。

「もう反撃する力も残っていないようだね!そろそろ終わりにさせてもらうよ!」

I・ワールドが藤本の身体を掴もうと手を伸ばす…!

「うッ…!?」

その時だ!桜井の膝が折れ、腰がガクリと落ちた!


206 :610:2006/05/21(日) 11:38:06.75 0

「ミキティ!!チャンスだッ!!!さっきの一発が効いてるんだッ!!」

しばし呆然としていた藤本だったが、小川の声でハッと我に帰る。
そしてすかさずB・トレインの拳を振り上げる!
桜井は避けきれないと判断したのかとっさにスタンドのガードを固める!

「おおらあッ!!!!!」

ドッゴオオッ!!!!!!

藤本は構わずそのガードの上から拳を叩き付けた!

「ぐうッ!!?」

凄まじい衝撃に桜井の身体は後ろに弾かれる!
そこにさらにB・トレインの拳が襲い掛かる!!

ドゴドゴオオッ!!!!!!

「くッ…まだこんな力がッ…!?」

今度は桜井がガードを固めたまま動けない。しかもダメージのせいで身体が動かず、藤本
の動きは読めても反撃する事が出来ないようだ。
そんな桜井に藤本は言う。

「桜井サンよォ…!アンタ殴られた事無いだろ!?」


207 :610:2006/05/21(日) 11:39:00.42 0

「何…!?」

「こんな事自慢したくないけどさァ…美貴は今まで散々殴られてきたんだよね。
アンタの拳は軽いんだよ!!そんなもんいくら食らっても効かないぜッ!!!!」

ドゴオオオッ!!!!

ついにB・トレインの拳がI・ワールドのガードを弾き飛ばす!!
しかも桜井はその勢いで後ろに仰け反り、完全にバランスを崩した!

「終わりだぁッ!!!!」

すかさず藤本は渾身の一撃を叩き込む!!

その時だ…!
バランスを崩していた桜井は一瞬で体勢を立て直し、藤本に向かって拳を打ち込んできた
のだ!!藤本は渾身の力を込めた拳を止めることは出来ない!!

ドシュウウウウウッ!!!!!!!!

2人のスタンドの腕が交差する…!!!

「・・・・!!」

小川が息を呑んでその光景を見つめる。
紙一重…!それぞれのスタンドの拳はお互いの顔面すれすれの所を通過していた。


208 :610:2006/05/21(日) 11:40:38.82 0

「あ…あ…!!」

しかし一瞬の間の後、力ない声を出しながら藤本が一歩、二歩と後ずさる。
そして突然ガクリと両膝を付いてしまう!!

「みッ…ミキティ――ッ!!!??」

小川の叫びにも藤本は全く反応しない。目は虚ろで、まるで桜井に跪くように両手両膝で
身体を支えている。

「意識が無いのか…!?一体何が起こったんだよォッ!!!」

「カウンター…です…!おそらくアゴへの恐ろしく正確な…!!」

小川の疑問に答えたのは紺野だった。
腹を押さえながらも何とか半身を起こしている。

「コンコンッ…!!」

「外れたように見えましたが彼のスタンドの拳はB・トレインのアゴを掠めていたんで
しょう…。アゴの先端は人体急所の一つ…!ここへの衝撃は激しく脳を揺さぶり、一瞬に
して意識を断ち切る…!!」

「バカな…!狙ってやったっつーのか!?ガードを弾かれたのもバランスを崩したのも、
わざとだったっつーのカァ!!?」

「やはり勝負を焦って大振りになったね…!君はまだまだ経験不足だ…!」

桜井は肩で息をしながらもニヤリと笑う。
そして藤本に向かってゆっくりと近づいていく。


209 :610:2006/05/21(日) 11:42:44.64 0

ビシュビシュッ!!!!

その時、弾丸のようなモノが空気を切り裂いて桜井を襲う!
小川が放ったベアリング弾だ!!

ビシビシイッ!!!

しかし無常にもその弾丸は壁にめり込む!
桜井は小川の方を見もせずに弾をかわしていた。

「小川麻琴…もう君の存在など何の障害にもならない。そこで大人しくしていろ」

「ううッ…!!」

(ダメだッ!!ワタシの動きは完全に読まれちまってるッ…!!奴は強すぎるッ!!)

小川は完全に桜井にのまれてしまっていた!紺野もどうすることも出来ない!

「今度こそ終わりだ…!!藤本美貴ッ…!!!」

I・ワールドが藤本に向かって手を伸ばす!


その時だ…床に着いていた藤本の手元が一瞬光を放つ!
次の瞬間!


210 :610:2006/05/21(日) 11:46:24.08 0


ドンドンドンドンドンッ!!!!!!!!


床が鋭く隆起し5本の槍となって桜井を襲う!!

「ぐはァッ!!!?なッ…何ィッ!!?」

床の迫り出しの数本は桜井の胸に突き刺さっていた!!

「これは…愛ちゃんのォッ!!!」

「この場所は…愛ちゃんが迫り出しを作った場所…!それを『満月の流法』でッ…!!」

「馬鹿な…!そんな『意志』は全く感じられなかった…ぞッ…!!」

困惑する桜井は胸を押さえてうずくまる。

「ちょうど高橋の顔が見えたんだ…そこに倒れてる…」

桜井は突然背後から聞こえた声に慌てて振り返る!
そこにはさっきまで目の前に座り込んでいた藤本が立っていた!

「藤本美貴ッ!!いつの間にッ…!?」

「そのとき高橋の声が聞こえたんだ。演劇部が大好きだって、演劇部を潰そうとする奴は
許さないって。だからこれはあたしの『意志』じゃない、高橋がアンタの胸を打ち抜いた
んだ」


211 :610:2006/05/21(日) 11:47:23.33 0

「ふざけるな…!!そんな馬鹿な事が…!」

桜井は再び藤本と距離を取ろうと後ろに飛び退いた。

バリバリィィッ!!!!!!

「ぐあッ!!!?」

その瞬間、突然桜井の肩が裂け、着ていたシャツがまるで何かに巻き込まれるように宙に
舞う!そしてそのシャツは空中でボロボロになっていく!

「こ…これはッ!!紺野あさ美の…!!?」

桜井は周りを見回して気付いた。
空中には紺野の『ワールド・イン・モーション』による空間の歪みが無数に漂っている!
特に桜井の周りには、少しでも動けば触れてしまうほどに密集している!

「『空間』の時間を戻したのかッ…!!僕の後ろに回ると同時に…!?」

桜井の顔に汗が伝う。


212 :610:2006/05/21(日) 11:48:46.21 0

「コンコン見えたかッ!?ミキティとブギトレの動きッ!!!」

「いえ、目で追うのがやっとでした…!スタンドの力は精神の力…!!ミキティを強くし
ているのは演劇部を守りたいという思い…」

藤本と桜井は対峙する…!2人の距離は1メートルにも満たない!

「あたしは後ろに下がるつもりは無いぜ…!もう逃げられないな…お互いにな…!!」

「・・・・!!!」

ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 
  
「互いに後には引けない…!!コンコンッ!この勝負…ついに終わるゼッ…!!」



353 :610:2006/05/24(水) 00:55:34.52 0

銀色の永遠 〜無垢なる世界〜K

張り詰めた空気が部屋に充満する…!
にらみ合う藤本と桜井、2人は互いに傷付き顔や体のいたる所から出血している。

「こんな偶然でこの僕がッ…!!」

想定外の事態に桜井は焦る。

(そうだ…あの『迫り出し』は偶然だッ…!藤本美貴は無意識状態で『満月の流法』を
使ったんだ…!意識の無いまま戦ったボクサーの話を聞いたことがある…それと同じ
だッ!)

彼は少しでも後退したり横に動いたりすれば、破壊を伴う空間の歪み…紺野あさ美の『ワ
ールド・イン・モーション』に触れてしまうだろう。
それはすなわち藤本がこれから繰り出すであろう攻撃を、先ほどと同じ方法でかわす事は
出来ないという事…!
この状況では互いに小細工は出来ない!自分の拳を相手より先に叩き込むのみ!

(許さん…こんな偶然でこの僕が追い詰められるなど…僕のプライドが許さんッ!!!)

「これで勝ったつもりか藤本美貴ッ…!?…なめやがって…!!!
勝つのはこの僕だッ!!!お前らを倒した後!残りの演劇部員!!そして『つんく』!!!
この町のスタンド使いは全て消す!!!」

初めて桜井が感情を露わにして叫ぶ。
そんな桜井を前にしても藤本は冷静に言い放った。

「そんな事はさせない、勝つのはあたしだ…!!決着を付けさせてもらうぜ!『満月の流
法』が切れて空間の歪みが消えちまう前に…!」


354 :610:2006/05/24(水) 00:58:02.69 0

互いにダラリと下げた腕、その指先からスタンドがチラつく。
攻撃に移るタイミングを計る…!!!


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 


ドヒャアアアアアアッ!!!!!!

一瞬の静寂の後、同時にスタンドを出現させ相手の顔面目掛けてその拳を打ち込む!!!

ドガアアアアッ!!!!!!!!!

炸裂音が響き、血飛沫が舞う!

先に届いたのは桜井の拳…!!
小川と紺野の顔が引きつる。

しかし藤本の顔色は全く変わっていなかった。目をしっかりと見開き、攻撃を顔面で受け
止めたかの様にそのまま自分の拳を振り抜く!!

「!!!!!」

バグシャアアアアアアアアアアッ!!!!!!

藤本の渾身の一撃が桜井の顔面を打ち砕いた!!

「ぐばぁッ…!!!」

桜井が血を撒き散らしながら崩れ落ち、飛び散った血はそのままフローリングの床に染み
を作る。2人を縛る空間の歪みはいつの間にか消えていた。


355 :610:2006/05/24(水) 01:00:32.81 0

「や…やった!!!」

目の前で凄絶な光景を見せられた小川は思わず声を上げる。

(前からスゴイとは思っていたけどヨォ…!!ミキティのいざと言う時のこの気迫!!
やる気になった時のミキティに敵うヤツなんていないんじゃ…!!)

「うッ!!!」

勝負は付いた…!誰もがそう思った瞬間、藤本が妙な声を上げる。
そのまま床に崩れ落ちると思われた桜井が、両手で藤本の頭を掴んだのだ!
そして藤本を引き込むように後ろに倒れ込む!
当然藤本は上から桜井に覆い被さる形になる。
藤本の顔の下で、血濡れの桜井はニヤリと笑った。

「ミキティ離れてッ!!!その手を振り解くんですッ!!!」

誰よりも早く桜井の思惑を察した紺野が叫んだ。

「コンコン…!そうか記憶をッ!!ミキティ離れろおッ!!!!」

頭を振って必死に逃れようとする藤本。しかし桜井の手はしっかりと髪を掴み、一向に
外れる気配は無い。


356 :610:2006/05/24(水) 01:02:36.42 0

「てめえッ!!!」

ドゴドゴシャアッ!!!!!

馬乗り状態の藤本は上からB・トレインの左右のパンチを叩き込む!!
それでも桜井の手の力は緩まない。

(こいつッ…!!執念を感じるッ…!!!何が何でも離さないつもりだ!!)

「消してやるッ…!全ての記憶を…!戻るがいいッ!!赤ん坊のような『無垢なる心』に
ッ…!!!」

I・ワールドの手が出現し、桜井の手と一体化する。

「何だってェッ!!!全ての記憶ゥッ!!?」

「ミキティッ!!早く離れてッ!!!」

しかし何故か藤本は抵抗をやめる…。
そして何か決意めいた表情で桜井を睨みつける。

「離れる?いいや逆だぜ…マコ!コンコン!!ここで退いたら美貴は負ける…!こっちも
コイツと同等の『覚悟』を見せるしかねェッ!!!!」

藤本の心に呼応するように、B・トレインが握り締めた拳を広げる…!

「このままブチのめす!!!!!!!」


617 :610:2006/05/28(日) 02:02:34.40 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜K

「イノセントワールドオオォォォッ!!!!!!!」

藤本の頭を掴む桜井の手が輝き始める!

「おおおおおおおおッ!!!!!!VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!!!!!!!!

同時にB・トレインの拳が桜井の顔面に降り注ぐ!

「マコ…これは『覚悟』の勝負です!もう祈るしかないッ!ミキティの記憶が消えるより
早く、彼の意識が断ち切れることを…!!」

「コンコン…!もし、もし間に合わなかったらミキティは…!!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!!!!!!!!

もう何十発の拳が顔面に打ち込まれただろうか!?それでも桜井の手は離れない!
徐々にB・トレインのラッシュの勢いが無くなっていく。

(なんて根性だ…!ミキティッ!限界だッ!廃人になっちまうううううッ!!!!)

ついに藤本とB・トレインの動きは完全に止まってしまう。
以前桜井の手は藤本の頭を掴んだままだ。


618 :610:2006/05/28(日) 02:03:40.82 0

「ミキティィ――――――――――――――ッ!!!!???」

静寂を取り戻した部屋に小川の叫びが響く。
藤本はうなだれたまま動かない…!

「そんな…まさか…!?」
冷静な紺野も不安と動揺を隠せない。

「嘘だろoi…!!ミキティいいいいッ!!!!!!」


「うるせーなッ…!!!」

ふいに藤本の目が小川をギロリと睨んだ。

「「えッ!!?」」
思わず間抜けな驚き顔を晒してしまう2人。

「ぶ…無事なのかよミキティッ!?記憶はッ!?どこもなんともないのか!?」

「ああ無事だよ…オメーのブサイクな顔もちゃんと覚えてるしよ…!」

藤本はそう言ってブン!と頭を振ると、掴んでいた桜井の手は離れ力なく床に倒れる。

「意識は無くなってたみたいだな…とっくに…」

見下ろす藤本の視線の先には、大の字になって動かない桜井がいた…


44 :610:2006/06/11(日) 17:02:48.69 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜L

「やったなミキティ!ハラハラさせやがって〜!!」

ダメージも抜けたのか、小川は立ち上がり笑顔で藤本の元へ歩み寄る。
紺野も腹を押さえながらも立ち上がり小川の後に続く。

「すいません、完全にミキティに助けられちゃいましたね」

「いやぁ、美貴ひとりじゃ確実に負けてたさ。マコがベアリングで足止めしてくれなかっ
たら、コンコンが空間の歪みを作ってくれてなかったら…。そして高橋が迫り出しを作っ
てくれてなかったら…」

「そうですね…それに愛ちゃんが始めに1人で彼に立ち向かってくれたからこそ、私達は
彼の『心を読む』という能力に気付く事が出来た。もし全員でかかっていっていたら全滅
していたかもしれません。たぶん愛ちゃんは最初から嫌な予感がしてたんでしょう」

3人はいまだ気を失って倒れている高橋の顔を見る。そして改めて演劇部の『絆』という
物を実感していた。
たとえ記憶を奪われようと、この『絆』を断ち切ることなど誰にも出来ないのだ…!

「そういえばよォ…!勝つには勝ったけど、愛ちゃんと亀ちゃんの記憶はどうなったん
だァ?これで元に戻ったのか?」

感慨にふけっている最中、ふと小川が口にした疑問に3人は顔を見合わせる。
確かに桜井は完全に気を失っているようだが…?果たしてこれで2人の記憶は戻ったのだ
ろうか?


45 :610:2006/06/11(日) 17:04:31.69 0

「そうですね。亀ちゃんに電話して確かめてみましょ…」

そう言って携帯電話を取り出そうとする紺野だが、その動きがピタリと止まる。
その顔は対面する藤本の後方を見たまま険しい表情に変わっていく。

「どうしたコンコン…!?」

藤本は紺野の視線を追って振り向いた。

「!!!」

なんとそこには桜井が立っていた!
B・トレインの拳をあれだけ受けて…!完全に意識を失っていると誰もが思っていた。
桜井の顔面は元の人相が分からないほどボコボコに変形し、いたる所から出血している。
足も震え、押せば倒れそうだというのに…

不覚にも3人は気圧されてしまった。
桜井は立ち上がってはいるものの、とても戦闘が可能とは思えない。なのにこの執念、
この威圧感…!何が彼をここまでさせているのだろう?

「ハァ…ハァ…!まだだ…!勝つのはこの僕だッ…!!」

桜井は鬼の様な形相で言い放った。


46 :610:2006/06/11(日) 17:12:20.56 0

――10年程前…桜井和寿がS市を離れ、都心で暮らす学生だった頃…

彼は偶然『つんく』と名乗る男と知り合い親しくなった。

桜井は趣味でバンドをやっていたのだが、とあるライブハウスで酔っ払いが暴れている所
をスタンドを使って取り押さえた。それを1人の男が見ていたのだ。
その男は桜井に自分も能力者だということを明かし、自分はスタンド能力について研究し
ている、と言った。しかし自らを『つんく』と名乗った以外は一切自分の正体を明かさな
かった。

『他人の心が読める』幼い頃から無意識にその能力を使っていた桜井は、人間を簡単に
信用する事が出来ない性格になっていた。外見上どんなに自分に良くしてくれる人間で
も、それは上辺だけで、心の中では正反対の事を思っていたりするものだ。桜井にはそ
れが分かっていた。唯一心を許せるのは幼馴染の恋人くらいだった。彼女は幼い頃から
桜井の事を真剣に思ってくれていたのだ。桜井が成長し自分の能力をコントロール出来
るようになったとき、彼は人の心など決して読むまいと誓った。
『つんく』は謎だらけの人物だったが飄々とした彼の態度に好感をもった桜井は、次第に
彼と親しく付き合うようになる。当然心を読む事などしなかった。


47 :610:2006/06/11(日) 17:17:05.12 0

その頃から桜井の周りには奇妙な事件が多発するようになる。急激に行方不明者が増え、
時には殺人事件すら起きた。しかしその原因や犯人は誰にも分らなかった。
そんなある日『つんく』は言った。

「なあ桜井、最近起こっとる奇妙な事件。これは絶対『スタンド使い』の仕業やで。
このまま悪い奴をほっとくわけにはいかへんやろ?2人で何とかせえへんか?」

つんくの提案で2人は町に潜む悪を調べ始める。
スタンド使いは引かれ合う…この原則通り、実際桜井は何人かのスタンド使いとすぐに
出会う事が出来た。つんくの推測通り、そいつらは私利私欲のために『能力』を使う『悪』
だった。桜井は次々にその者達の『記憶』と『能力』を消していった。
その者達は皆スタンド能力に目覚めたばかりで自分の能力を使いこなせておらず、桜井の
敵ではなかった。

なぜ短期間のうちに急激にスタンド使いが増えたのか?不審に思った桜井は彼らの記憶を
読み、あることに気付く。
全員が『矢』のような物を身体に突き刺された記憶を持っているのだ。それがきっかけで
スタンド能力が発現している。桜井はその『矢』がスタンド能力を呼び覚ます道具であり、
何者かがこの町でスタンド使いを増やしている事を知る。


40 :610:2006/06/18(日) 03:28:43.61 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜M

「そうかぁ…ならその『矢』を持っとる奴を早く見つけんとあかんなぁ」

桜井が『矢』のことを告げるとつんくはそう言った。

それから2人は『矢』の持ち主…つまりこの町でスタンド使いを増やしている黒幕を探し
回るのだが、それらしい人物や手掛かりは一向に見つけることは出来なかった。
そしてある日、事件は起こる。
桜井の『彼女』が行方不明になったのだ。どこを探しても見つからない、連絡も取れない。
まさかスタンド絡みの事件に巻き込まれたのでは?そう考えた桜井はますます捜査に力を
入れた。そしてまた一人のスタンド使いを倒し、その男の記憶を読んだ時、彼は知ってし
まう。

『彼女』はその男に殺されていた。

理不尽だった。ただその男の欲望のために、彼女はその命を奪われていた。
桜井はその男の記憶を全て消去し廃人同然にすると、そいつが動かなくなるまで拳を振る
い続けた。

『スタンド使いは悪だ』

桜井にとって一つの真実が生まれた瞬間だった。


41 :610:2006/06/18(日) 03:29:44.76 0

実際桜井がこれまで出会ったスタンド使いは悪人ばかりだった。『矢』を使っている者が悪
人ばかりに能力を与えているのか、それとも悪人だからスタンド使いになれたのか…
それは分からないが、スタンド能力という力が人の欲望のタガを外しているのは確かだ。
スタンド使いは全て消さなければ…!!桜井はそう考えた。

それから桜井は何かに取り憑かれたように町を彷徨い、スタンド使いを探し続けた。
昔は自ら使うまいとしていたスタンド能力も、誰かれ構わず使った。

そしてある雨の夜、桜井は偶然目にしてしまう。

暗い路地裏…男が胸から血を流して倒れている。
その横に立っているのは『つんく』だった。その手には血の滴る『矢』と『弓』が握られ
ている。

「『コイツ』の使い方は十分わかった。『コイツ』の意志に任せればいいんやな…!」

つんくは『弓と矢』を見つめながらそう言った。

「じゃあな桜井、これも『正義』の為なんや」

そしてそう呟くと、つんくの姿は闇に溶け込むように消えていた。


42 :610:2006/06/18(日) 03:30:36.95 0

この町でスタンド使いを増やしていたのは『つんく』だったのか?だとしたら『彼女』を
殺したのは彼も同然だという事になる。一体何の為にこんな事を…?桜井は一つの推測を
する。つんくはこの町でスタンド使いを生み出す『弓と矢』の実験をしていたのではない
か?そしてその結果、増えすぎたスタンド使いを始末するために自分は利用されていたの
だ!確かめなければ…!そして然るべき報いを彼に与えなければ…!!

しかし桜井はつんくを見つけることは出来なかった。手掛かりすら無かった。
ぶどうヶ丘高校の演劇部員が家を訪ねてくるまで――――



43 :610:2006/06/18(日) 03:32:22.51 0

凄まじい執念を見せる桜井を、藤本が神妙な顔つきで見つめる。

「桜井さん…!最初あたしはあんたが本気で町を守ろうとしてこんな事をしてるんだと
思ってたよ。だけどさ…今のあんたからは町を思う気持ちどころか『憎しみ』しか感じられ
ないぜ…!」

「何なんだよアンタッ!?スタンド使いに恨みでもあるのか?それとも寺田にかァ!?」
藤本に続いて小川が叫ぶ。

「両方さ…!僕の大切な人はスタンド使いに殺された…彼女には何の罪も無かったという
のに…!恐らくは、つんくの生み出したスタンド使いにだッ…!!」

「な、何だってェ!?」

「なるほどな…!アンタがスタンド使いを憎む理由はそれかよ…」

「そうだ…!全てのスタンド使いは悪だ!!それを増やしている『つんく』も悪だッ!!
必ずお前らを潰し…つんくを始末するッ!!!」

桜井の姿を見て、藤本、小川、紺野は思い出していた。
『町を守る』その目的の為にスタンド使いを皆殺しにしようとした後藤真希のことを…

「桜井さん、冷静になれよ!あんたは復讐心に囚われて周りが見えなくなってる!」

「…藤本美貴ッ!!お前に何がわかる!!!」

「少なくとも…あんたがその『彼女』を失った悲しみを、スタンド使いを憎むことで紛ら
わしてたことくらいわかるさ」


44 :610:2006/06/18(日) 03:34:17.87 0

「な…んだと…!」

藤本の言葉に桜井は驚いたような表情を見せる。

「やっぱりあんたも真希ちゃんと同じだよ。優しすぎるんだ…」

「なんだその目は…僕をそんな目で見るなッ…!」

藤本は深い哀しみと優しさに満ちた目で桜井を見つめていた。

「あたしはスタンドのせいで傷付いた人間をたくさん見てきた…。あたしは救いたいんだ、
そういう人達をみんな…!目を覚ませよ!!あんたがしなくちゃいけないのは憎むことじゃ
ない!!あんたならもっと別な形で町を守ることが出来るはずだ!そしてあんた自身が
幸せになることも…!!」

「なぜ…なぜ君がそんなことを言う!?『つんく』の駒である君がッ!!」

「…桜井さん、これだけははっきりと言っておくよ。あたしたち演劇部員は決して寺田先
生の言いなりになってる訳じゃない。寺田に従っているのは、アイツの出す『指令』は町
を守る内容のものが多かったし、みんなそれを部活動の一環だと思ってるからだと思う。
だけどあたしを含め不審に思っている部員もたくさんいるんだ」

「そうだゼ!いずれアイツの正体はワタシが必ず暴いてみせるッ!!」

小川はそう言ってニヤリと笑った。

「そういう事です。桜井さん、あなたの能力でもう一度私たちの意志を感じてみてくださ
い。憎しみと言うフィルターを通してではなく、ありのままの心で…」

紺野に言われるがまま、桜井は目の前の3人の意志を感じ取る。


45 :610:2006/06/18(日) 03:35:13.74 0

「これは…」

桜井は今まで感じたことのない感覚に戸惑った。
彼女らの心には一片の悪意も淀みも無い正義の輝きがあったのだ。
そう、それはまるで『黄金』…『黄金の意志』…
桜井はその眩しさに思わず目を閉じてしまいそうになる。

「…どうやら僕の正義は間違っていたみたいだな…。本物の正義は君たちの中にある…」

そう言って桜井はガクリと膝を付いた。しかしその顔にはすがすがしい笑みが浮かんでい
た…。


19 :610:2006/07/01(土) 23:26:25.21 0

銀色の永遠 〜無垢なる世界〜N

「藤本さん、君の言うとおり僕は憎しみに囚われていただけなのかもしれない。
だけど…やはり僕は真実を確かめなければ前には進めない、『つんく』、彼の正体を…」

桜井の目は憎しみに淀んでいた先程とは違う。憑き物が取れたような澄んだ目で藤本を
見つめる。対する藤本も強い眼差しを返す。

「桜井さん、その役目…しばらくあたし達に任せてくれないか?これはあたしの勘だけど
…今あんたと寺田先生が会ったらまずい気がするんだ…。それに演劇部の問題はあたし達
自身で解決したい。時間はかかるかもしれないけど、演劇部と寺田先生の謎は…必ず突き
止める!」

「そうだな…僕が彼と会うのはもう少し気持ちの整理が付いてからにするよ。
君達ならきっと間違った道には進まないだろう」

「あんたの事は先生には黙っておくよ」

桜井と藤本は互いにニコリと微笑みあった。

「そうだ!愛ちゃんと亀ちゃんの記憶を元に戻してくれよ!出来るんだろ!?」

小川が思い出したように叫ぶ。

「ああ…僕の『イノセントワールド』は記憶を消去しているのではなく、『封印』して思い
出せなくしているだけなんだ。既に2人の記憶の封印は解いたよ」

3人は高橋を見るが依然彼女は床に倒れたままだ。

「しばらくすれば意識を取り戻すよ。君たちにはすまない事をした…、高橋さんと亀井さ
んにもそう伝えてもらえるかな?」


20 :610:2006/07/01(土) 23:28:26.91 0

「アンタにも信念があってやったことだろ?ただその信念がちょっと歪んじまってただけ
サ、別に恨んじゃいないヨ。2人にもちゃんと事情は伝えとくよ。愛ちゃんはアンタのファ
ンだったみたいだからナ」

そう言いながら小川は高橋の身体を起こし、自分の背中に背負う。

「じゃあアタシ達はこれで失礼するヨ!アンタもえっと…とにかく頑張れよ!」

「待ってくれ、君たちに伝えなければならない事がある…」

「伝えなきゃなんない事?」

部屋を出ようとしていた藤本が、振り返って桜井の言葉を聞き返す。

「僕が『つんく』について知っている事は全て君たちに教えよう。彼の過去も、彼の『ス
タンド能力』も含めて…!」

「えッ!!!」

3人の顔に再び緊張が走る。
顧問寺田のスタンド能力。それは全ての部員達の謎だった。いや、寺田自身は自らがスタ
ンド使いであるかどうかも明かしていない。厳密に言えば、後藤真希と交戦したという事
実があるからこその推測だったのだ。そしてもちろん彼の過去など誰も知らない。

「君たちは知らないんだろ?彼のことを調べる以上、知っておいた方がいい…
それに、君たちと出会ったことで、彼の目的も僕にはある程度予想がついた…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

「寺田のスタンド能力だって!!アンタ知ってるのカヨ!?お、教えてくれッ!!」


21 :610:2006/07/01(土) 23:31:23.47 0
「ああ、そ、れ、は…」

突然桜井の言葉が途切れ途切れになる。そして次の瞬間、桜井の身体はゆっくりと傾いて
いく。

ドシャアァッ!!

そのまま桜井は前のめりに倒れてしまった。

「ああッ!!」

小川が桜井に駆け寄り顔を覗き込むが、目を閉じた桜井はピクリとも動かない。

「ちッ…!完全に気を失ってるゼ」

小川は少し口惜しそうに言った。

「無理もありません。彼は気迫と執念で身体を支えていたに過ぎません。
それが途切れた今、一気にダメージが襲ってきたんでしょう」

「ああ…仕方なかったとは言え美貴もちょっとやりすぎたかな?まあ、寺田先生のことは
桜井さんの意識が戻ったら改めて聞こうぜ!とりあえず病院に連れて行かなきゃだな…」

そう言いながら藤本は桜井を抱き起こす。

「…う〜ん」

その時小川の背中で小さな呻き声が聞こえた。

「おッ!愛ちゃんのお目覚めだぜィ!」

22 :610:2006/07/01(土) 23:32:58.25 0

………
……


夕日も沈みかけ、辺りは既に薄暗い。

「そういう事やったんカァ…」

桜井を病院に運んだ帰り道、高橋愛はうつむき加減でつぶやいた。
記憶が失われた様子は全く無い、いつも通りの高橋愛だ。

「人は誰でも悲しみを抱えてるもんやよ。大事なのはそれを『乗り越えられるかどうか』
なんやよ…きっと」

「相変わらず愛ちゃんは熱いこと言うねェ〜!うんうん、そうだよナ!」

小川は高橋の言葉に頷いた後、神妙な顔つきでそっと藤本に耳打ちする。

(なァ、ミキティ…!桜井サンが言ったコト、愛ちゃんや他の部員のみんなには黙ってお
くんだったよな!?)

とりあえず高橋にあらかたの事情は説明したものの、藤本、小川、紺野は桜井と寺田の因
縁の事や、桜井が寺田のスタンド能力を知っているという事、そして桜井に『寺田の正体
を突き止める』と約束した事…それは3人だけの秘密にする事にした。


23 :610:2006/07/01(土) 23:34:15.93 0

『寺田が悪人かもしれないから調べる』などと他の部員に言っても混乱するだけだ。
寺田を疑いもせず、純粋に部活動に励んでいる部員だっているのだ。

(ああ…!とりあえずもう一度桜井さんに会って話を聞くんだ。実際まだあたしたちは寺
田の事なんか何もわかっちゃいないんだ。みんなに話すのはまだ早いぜ…)

「あッ!!亀子!!」

そんなやり取りをしていると、高橋が前方を指差して叫んだ。
見ると亀井絵里が道の向こうから手を振って4人の方へ走ってくる。

「おッ!亀ちゃんも元に戻ったみたいダナ!o〜〜〜i!!」

小川と高橋は手を振りかえし、亀井に向かって走って行く。

「あ〜亀井にもこれまでの事情を説明しなきゃなんないのか〜…面倒くせーな〜ッ!
しょうがない、行こうぜコンコン!」

藤本はやれやれ、といった表情で亀井の元へ向かう。

「あれ、どうしたコンコン?」

紺野は1人立ち止まってうつむいていた。その顔はいつもの何を考えているか分からない
無表情とは違い、明らかに不安と困惑の色が浮かんでいる。


24 :610:2006/07/01(土) 23:35:47.39 0

「まあ…不安だよな。最初から怪しいオッサンだと思ってたけど、改めてアイツが悪人か
もしれないなんて聞かされちゃあな…。でも寺田が悪人であろうが無かろうが、今後アイ
ツからどんな『指令』を受けようが…美貴は今までどおり自分が『納得』出来ることだけ
ををやる!真実はいずれ分かるさ、それでいいと思うぜ!?」

藤本は紺野の気持ちを察して言葉をかける。

「ありがとう…でも私は大丈夫ですよ。ふふ!ミキティもたまにはいい事いいますねぇ〜」

紺野はいつもの屈託の無い笑顔を見せた。

「『たまには』は余計だっつーの!ほら行くぜッ!」

そして2人は駆けていった。
何があっても信じられる『仲間』たちの元へ…


39 :610:2006/07/02(日) 02:35:56.83 0
銀色の永遠 〜無垢なる世界〜O

―その日の夜
病院の一室で目を覚ました桜井和寿は、再び自宅の仕事部屋に戻っていた。
医者からは2,3日入院するように言われたが、無理矢理病院を出てきたのだ。

(彼女達のおかげで目が覚めた。今は…彼女達を信じて自分が出来ることをやるだけさ)

桜井は執筆活動に取り掛かった。今のこの気持ちを作品にしておきたかったのだ。
身体は痛むが心は妙に爽やかだった。



ピンポーン!



不意に玄関のチャイムが鳴った。

時刻は夜の10時を過ぎている。
こんな時間に来客とは珍しい…そもそも自分がこの家に住んでいる事を知っている人間は
殆んどいないはずだ。桜井はそう思いながら階段を下りていく。


40 :610:2006/07/02(日) 02:36:58.58 0

「桜井さーん!いるんでしょ!?開けてくださいよー!」

ドアから聞き覚えのある声が聞こえてきた。そう、つい今日聞いた声だ。

「藤本さん?」

ガチャリ!

桜井がドアを開けると、思った通りそこに立っているのは藤本美貴だった。

「どうしたんだい?こんな時間に」

「いや…ちょっとね、まあとりあえず中に入れてくれません?」

藤本はズカズカと玄関に入って靴を脱ぎ始める。

(これは…?)

その時桜井は些細なことだが…実に奇妙な事実に気が付いた。
…藤本美貴の顔が綺麗過ぎるのだ。
美しいと言う意味ではない、藤本は昼間に自分と激闘を繰り広げたのだ。
彼女の顔は腫れあがり、小さな傷もいくつか付いていたはずだ。
なのに目の前の藤本の顔には傷一つ無いのだ。

「藤本さん、その顔…」

そう言いかけた瞬間だった。


41 :610:2006/07/02(日) 02:39:04.75 0



ド シ ュ バ ッ ッ ! ! !





42 :610:2006/07/02(日) 02:40:54.61 0

藤本の腕が風きり音を立て、桜井の額を掠める!

「なッ!!何のつもりだ!?藤本さ…!!」

身構えた瞬間、桜井の身体を強烈な違和感が襲った。身体に全く力が入らない、
意識も遠くなっていく。桜井は壁にもたれてそのまま座り込んでしまう。
まるで魂でも抜かれたようだ。

(な!?なんだ…こいつはッ…!?)

ザ…!ザザッ…!

桜井は見た。目の前の藤本美貴の姿が、まるでテレビに映った画像が乱れるように
『ブレている』のを…!
そしてその手には2枚の『ディスク』の様な物がつままれている…!

「久しぶりやなぁ…桜井」

再び何者かの声が聞こえ、藤本の姿をした『モノ』の後ろに人影が見えた。
もう一人、誰かが玄関から入ってきたのだ。


43 :610:2006/07/02(日) 02:43:06.27 0

「き、君は…」

桜井はその男を知っていた。昔とは多少雰囲気が変わったものの、間違いなく桜井が探し
続けていた男だった。

「まさかお前が杜王町に来とったとはなぁ。しかも藤本たちと接触しとったとは…。
矢口からの連絡が遅かったら厄介な事になっとったわ…」

その男は派手なスーツのポケットに手を突っ込んだまま、ニヤリと口元を歪める。

「アイツらに何を話した?…まあええか、それはお前の『DISC』を読めばわかることや。
とりあえず俺の可愛い部員たちに余計な事を吹き込まれる前に…『始末』させてもらうで
…!桜井…!」

「つん…く…」

桜井はそれ以上言葉を発する事は出来なかった。
彼の意識は闇に溶けた。


44 :610:2006/07/02(日) 02:45:16.79 0

サアアアアアアアア…

小雨が降りしきる夜の街を、2人の男が肩を並べて歩いている。

「すんまへんなぁ神父はん、あんたの手を煩わせてしもうて」

「先生のたっての頼みだ、お安い御用ですよ。こうして『報酬』も頂けたわけだしね」

神父と呼ばれた男は一枚のディスクをかざしてみせる。

「『心』と『記憶』を支配するスタンドか…わたしの『ホワイトスネイク』にも通ずる
ものがある…。なかなか強力なスタンドだ」

神父はそのディスクを大事そうに懐にしまい込んだ。

「ところで先生、ひとつ質問をしてもいいかな?」

「なんや?」

「わたしがさっきの桜井という男から奪ったのは、彼の過去10年分の記憶だ。
それは君にそう頼まれたからだが…。なぜ全ての記憶を奪って始末するようわたしに
頼まなかった?君にとって彼は邪魔者だったんだろう?」


45 :610:2006/07/02(日) 02:46:28.99 0

「いや…それはな…」

「情があるのかい?昔の友人だから?」

「そやな…強いて言えば…『アイツは俺なんや』」

「ほう…それはどういう意味かな?」

「それは秘密やw」

「…つくづく君は面白い男だ。ときどきあなたの頭の中を覗いてみたくなりますよ、
先生…」

「おいおい勘弁してくれや!あんたが言うとシャレにならんわ…」

「ふふ…冗談ですよ、冗談…」


46 :610:2006/07/02(日) 02:48:06.03 0

―数日後―
ぶどうヶ丘高校、演劇部部室
今日も春休みと言えどかなりの部員が練習に精を出している。

ガララッ!!

そんな中、一人の生徒が慌しくドアを開けて入って来た。
亀井絵里だ。

「え〜っと…いた!藤本さん、ちょっとこっち来てよッ!!」

亀井はキョロキョロと辺りを見回し、珍しく真面目に練習していた藤本の腕を掴む。

「おいおい!?なんだよイキナリ!」

「愛ちゃん!コンコン!まこっちゃんも…!」

亀井は次々に部員達を部室の隅に引っ張ってくる。

「どうしたンよ亀子?」

「いいからこれ見てくださいよ!学校来るとき駅で買ってきたんだ…!」

亀井は持っていた新聞を床に広げ、小さな記事を指差して見せた。
紺野がその記事を読み上げる。


47 :610:2006/07/02(日) 02:49:39.77 0

「ええと…『小説家、桜井和寿さん謎の記憶喪失』…エッ!!?」

全員の顔色が変わり、新聞に向かって身を乗り出す。

「oioiマジかよッ!?何だよそれッ…!?」

「どういう事だ…なんで桜井さんが…!?」

この町には、何か黒い陰謀が蠢いている。
そしてそれは、もしかしたら自分達のごく近くにあるのかも知れない。
彼女らはそう感じずにはいられなかった…


藤本美貴
小川麻琴
紺野あさ美
…寺田に対し不信感を強める

桜井和寿 スタンド名:イノセントワールド
『スタンド能力』と『10年分の記憶』を失う
―再起不能

→TO BE CONTINUED