756 :364 :2007/02/22(木) 23:19:35.80 0

銀色の永遠 〜久住小春は年齢(トシ)を気にする〜


<久住小春>

ふぅ…今日の部活も終わった。
私は部活が終わると、バスの時間が少々危なかったのもあって早々に
着替えて学校を飛び出した。
新垣さんや道重さんはこのあとも自主練習を続けるそうだが。
前回の主役に続き、今回も高橋さん、石川さん、藤本さん、吉澤さんに続いて
まぁそれなりの役をもらうことができている。
しかもあの吉澤さんの息子な役なのだ!
吉澤さんとこれまで以上に話ができる!親しくできる!
それだけでこの久住小春の胸は踊っているのだ!!
もちろん、ミラクルなスターを目指す私はそんなことだけで満足するわけがない。
演技を完璧にこなし、吉澤さんを含めた多くの人に高い評価を受けるのだ。
そして、いくらビッグになったからといっても、決して家族を疎かにはしない。
帰宅が遅くなって家族を心配などさせてはいけない。
ああ、なんと私はミラクルな大スターであり、ミラクルな家族想いなのだろう!

『コハルゥー、オレタチノコトモワスレテモラッチャコマルゼ!!』
『ソウソウ、ワタシタチダッテコハルノカゾクナンダカラネ!!』
『コハル、オレタチハオマエトイッシンドウタイナンダカラナ』
『エル・オー・ヴィ・イー・ラヴリー・コハルゥ!!』

ふふ…もちろんだよ、『ミラクル・ビスケッツ』のみんな。
君たちだって私の大事な家族の一員だ。
だから…私の成長を見守っていておくれ。
「さぁみんな早く帰ろう!今夜はみんなも私も大好きなカレーらしいよ!」
私は家族と夕飯に心ときめかせながら駆け足を早めた。



757 :364 :2007/02/22(木) 23:20:14.00 0


     ◇     ◇     ◇



「…あれ?あれは…吉澤さん?」



停留所までの道を走っていると、見覚えのある後ろ姿を見かけた。
一瞬見かけたところで、すぐに曲がり角を曲がってしまったので見えなくなったけど、
今のは確かに吉澤さんだった。
今日はサッカー部に出ていたのか演劇部には顔を出さなかったけども。
お陰で今日は小川さんと二人での練習だった。
こんな帰り道に出会えるなんて…私はツイている。

『コハル、オレハラヘッタヨォー』
『コラNo.5!!ブスイナコトイワナイノ!』
『ソウダゼ!オマエニハコハルノコノウレシソウナカオガワカラナイノカ!?』
『デ、モチロンオイカケルンダロ?コハル』
「そうだね…ごめんねNo.5。ちょっと…20分だけ我慢して!」
私は頭の中で、次のバスの時間を計算すると、角を曲がっていった
吉澤さんを追いかけて道路を改めて走りだした。
今日の部活の報告をして、自分の演技の上達具合を教えて…
明日は演劇部に来るか聞いてみて、来るなら台本持って立ち稽古お願いしてみようかな。
それからそれから…そうだ、こっちの方向には『レインボー』があるじゃないか!
アイスを食べながら雑談できたら…!
私は期待に胸を膨らませながら曲がり角を曲がった。

「吉澤さ………」



758 :364 :2007/02/22(木) 23:20:48.18 0





!!!!!!!!!!??????





私が吉澤さんを呼ぼうとする声は、途中で止まってしまった。
というか、それ以上声が出なかった。

何で…どうして…?


吉澤さんが………




女 の 人 と 一 緒 に 歩 い て る ん だ ! ! ?





私はあまりのことに足を止めて立ちすくんだ。





759 :364 :2007/02/22(木) 23:22:58.95 0

どういうことだろう、吉澤さんが女の人と歩いてるなんて…。

姉妹…いや、吉澤さんは姉妹はいないはずだ。
それなら…まさか…考えたくはないけど……彼女?
そんなバカな!そんなはずはない!!

確かに吉澤さんはモテる。
バレンタインのときだってファンの人や他の部員からたくさんチョコをもらっていた。
ミラクルな大スターを目指す私はそんなことにうつつを抜かすなど
馬鹿げていると思っていたのでチョコは渡さなかった。
吉澤さんへの思いに気づいてからはそんな自分に心底後悔したものだ。
けど、ついこないだ、誰かと付き合ったりとかそういうのは今はしてないって言ってたのに!!


電信柱の影に隠れて二人の後をつける。
『コハル、オレハラヘッタヨォー』
『オレモォー』
「ごめん、No.3、No.5。もうちょっと我慢して」
『エェー』
『オイ、チョットダマッテロヨフタリトモ!!』
『ソウヨ!アンタタチニハコハルノキモチガワカラナイノ!?』
『ソウダゼ!コハルノコンナツラソウナカオ…ミテラレナイゼ!』
『コハル…オレタチノコトハキニセズ、スキニウゴクトイイ』
「ごめんみんな…ありがとう、No.1」
無意識のうちに顔に出ていたらしい。
私は身を隠しながら、ごちゃごちゃになった頭で必死に二人の関係を想像しながら二人の後を追い

かけた。




760 :364 :2007/02/22(木) 23:23:57.08 0



吉澤さんと女の人は私には気づかず、どんどん歩いていく。
この方向は杜王駅の方向だ。
でも同時に名簿で見たことある吉澤さんの家の方向だ。
二人は多分どっちかに行くんだとは思うんだけど…。
まままさか!?ふっふたりで吉澤さんの家に!?
いやいやいや、まさかそんな…。
それにしても、あの女の人はナニモノなんだろう。
後ろ姿だけど、その姿を改めてじっくりと眺めてみる。

背は少し高めだけど吉澤さんより低いし、私ほど高い、というわけではなさそう。
私服姿で、チューブトップの上からカーディガンを羽織り、ミニスカートにブーツ。
この季節には少々早いような気もする少し露出の多い服装だけど、
スタイルがいいからそんな格好がよく似合ってる。
髪はけっこう長めで、大人っぽい。
ぶどうヶ丘の生徒ではなさそうだけど…。
年はハタチくらいかな。

…まさか吉澤さんって、年上が好きなの!?
13歳…夏で14歳になるコドモよりもやっぱりああいうオトナな人が好きだってこと!!?
だとしたら…。
いや、確かに年の差は縮まらないけど、スタイルとかなら…。
藤本さんが毎日やってるという豊胸にいいというトレーニングを教えてもらうことにしよう。

そんなことよりも今はあの二人のことだ。
吉澤さんにはミラクル・ビスケッツが見えるため、ビスケッツを近づけて
会話を聞くことはできない。
遠くからこうして様子を見ているのがこんなに歯痒いとは思わなかった…!



761 :364 :2007/02/22(木) 23:24:28.10 0


テクテクテクテクテクテク………


吉澤さんと女の人が歩いていくのを私はゆっくりと、遠くから追いかけている。
二人は何が楽しいのか、時々声を上げて笑っているみたいだ。
うぅ…気になるっ!
それ以上に吉澤さんとあんなに親しくして…イライラする!
認めたくないけど、ミラクルな大スターを目指しているこの久住小春が、嫉妬をしている!!

『コハルゥ、ダイジョウブ?キョウハカエッタホウガイインジャナイノ?』
『バカイウナヨNo.2!ココマデキテカエレルカヨ!』
「うん…」
『ダガ…コハルモツライノデハナイカ?』
『ソリャソウダケドヨ、アノオンナガナニモノナノカハッキリシナイトコハルノコイジノコレカラニカカワルゾ?』
「うん…彼女とかじゃないと、思うけど…」
『モウガマンデキネェ!オレノコハルニコンナオモイサセヤガッテ!』
『オイNo.6!ハゲシクドウイダガオマエノジャナイ!ミンナノダ!!』
「あっ!No.3!No.6!!」

突然No.3とNo.6が私の周りから飛び出していった!
No.3はそのまま隣の壁を超えてどこかへ消えていき、No.6は吉澤さんたちに近づいていく!
あんまり派手に動くと吉澤さんにバレるのに!!
「ちょっ…みんな!あの二人を止めて!何をする気なの!?」
『No.1、No.5ハNo.3ヲ、No.4トNo.7ハNo.6ヲオサエルノヨ!!』
『オウ、イクゼNo.1!!』
『ウム…イヤマテ、No.3ガナニカヲブンカイシタヨウダ…』
「分解!?何か分かる!?」
『ン…コレハ『バナナノカワ』ダワ!』
バナナの皮…?
あの二人、まさかっ!!


762 :364 :2007/02/22(木) 23:25:06.47 0


キュゥゥゥゥゥゥゥン!!


No.6が一気にスピードを上げて二人に近づく!!
あっという間に二人を追い抜くと、二人の1m程前で急転回して二人の前を横切り始めた!
地面スレスレの超低空飛行だから二人は足下のNo.6にはまだ気づいてない!
No.6はそのまま女の人の前を通り過ぎる!
その瞬間っ!!!


パシュゥゥゥ!!


バナナの皮を再形成させたんだ!
ちょうど女の人が通る道筋に!
女の人はそれに気づいてない。
このまま行けば、バナナの皮を踏んづけて転んでしまう!!
吉澤さんの前で恥をかいてしまうだろう。
悪いことはダメだけど、ちょっと溜飲が下がるかも…!

No.6がまた転回して私のほうに戻ってくる。
今や私たちと、いつの間にか戻ってきたNo.3も固唾を飲んこれからの展開を見守っている。
女の人がバナナの皮を踏む…!



ズルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!





763 :364 :2007/02/22(木) 23:25:39.50 0




ガシィィィッ!!




…嘘。

そんなぁ……

あの女の人がバナナの皮を踏んづけて派手に滑った瞬間!!

吉澤さんが転びそうになる女の人を腕一本で抱きとめたんだ!!

さすが吉澤さん、運動部で鍛えてるから女の人を抱きとめるくらい…ってそうじゃなくて!!
あれじゃあ滑る行程を見てない人には人前で堂々と抱き合ってるみたいに見えるじゃないか!!
抱き合ってるの長いって!転ばなかったんだからもう離れて!
吉澤さんから離れてよ!

え、ちょっと、二人とも何を見つめ合ってるの?
やだ、ちょ、そんなの見たくないよ。
吉澤さ、ちょ、待ってって。
やだってば、そんな二人の顔が近づいて…


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!!





764 :364 :2007/02/22(木) 23:26:38.86 0






<吉澤ひとみ>

「全く…足下くらいちゃんと見なって」
「ごめんねぇ〜、ついおしゃべりに夢中になっちゃってて」
「でもおかしいな、俺は前ちゃんと見てたけど、バナナの皮なんてあったかな?」
「ま、アタシは転ばなかったし、よっちゃんに抱きしめられてちょっと嬉しかったり?」
「バーカ、変なこと言ってんなよ、大丈夫か?立てる?」
「うん、ありがとね、よっちゃん」

「あ、ちょっと待った、睫毛にゴミついてる」
「ホント?どこ?」
「あー、こするなこするな、俺が取ってやるから」
「うん」
「…って何で目ェ閉じてんだよ」
「…雰囲気?」
「バカなこと言ってんなって、ほら、取れた」
「ありがとー、よっちゃん」
「ん、でも気をつけろよ、『絢香』」


16 :364 :2007/03/02(金) 23:36:52.72 0

<久住小春>


私は恐る恐る目を開けた。
吉澤さんのあんなシーンを見る勇気がなかったからだ。
演劇部の唯一の男子部員ということもあって、吉澤さんが他の部員と抱き合ったり、
き、キ、キスシーンとか、舞台でやったり昔の公演のビデオで見たことはある。
けど、本当に生であんなシーンを見ることには耐えられなかった。

『オマエラ、ナンテコトスンダヨ!コハルニアンナトコロミセヤガッテ!』
『ソウヨ!コハルチャンガカワイソウジャナイ!』
『スマン…ソンナツモリジャ』
『アヤマッテスムモンダイカヨ!』
『ヘン!コハルニハアンナヤツヨリオレサマノガオニアイダゼ!』
『No.6!!アンタネェ!!』
『ヤメロヨ、オマエタチ…』
「………」
ビスケッツたちが口論しているが、私は上を向いて涙が溢れてくるのを必死でこらえていた。

正直、ショックだった。
ほんの数秒の間に吉澤さんが自分の手の届かない遠くに行ってしまったような感じだ。
もっと積極的にアプローチするべきだったんだろうか。


あの人は誰なんだろう。
部員のみんなは知ってるんだろうか。
せめてあの人が何者なのかをはっきりさせないと納まりがつかない!
このままじゃ私はただのピエロじゃないか!
私は袖で強く瞼をこすると、遠くへ歩いていっていた吉澤さんたちを追いかけた。



17 :364 :2007/03/02(金) 23:37:40.57 0


     ◇     ◇     ◇


吉澤さんと女の人は手を振りながら別れると、吉澤さんは横道に入っていった。
あの方向は吉澤さんの家の方向のはず。
ということは、少なくとも今日は吉澤さんの家に2人で行くことはないってことだ。
とりあえず一安心といったところだけど…。

どちらの後を追うか…。
吉澤さんを追いかけて話をするのは簡単だけど、今はあまり会いたくない。
あんなシーンを見たあとだけに、どうにも気まずいし、泣いてしまいそうだ。
それよりは、あの女の人を追いかけるのが先決!
あの人が何者なのか突き止めないと!
私は女の人に狙いを定め、その後をさらにつけていった。

そのまま女の人はまっすぐ杜王駅の方向に歩いていく。
やっぱり電車でどこかに移動するのかもしれない。
S市方面だといいんだけど……。

…あれ?どうしたんだろう。
女の人が足を止めて、急に左右をキョロキョロ見回し始めた。
まるで周囲の様子を伺ってるみたいな…。
何だ…何をするつもりだ…?

…ッ!!
突然女の人は駆け足で横道に入った!
周囲を伺ってのあの行動、駅じゃなくてあの人の家があの辺りだったとしても、不自然だ!
私も駆け足で追いかけると、女の人が曲がった角を曲がっていった。


118 :364 :2007/03/06(火) 00:39:37.64 0


タッタッタッタッタッタッタッ………


路地の中を私は女の人を追いかける。ブーツだというのに女の人はけっこう早い。
私は道が分からないのもあり、ついていくのに必死だ。
さっきからの不可解な行動…怪しい、ものすごい怪しい!
もはや私も尾行ではなく、女の人を走って追いかけるだけになってしまっているが…。

それにしても、随分と入り組んだ路地だな。さっきから何度角を曲がったか分からない。
また先を走る女の人が路地を曲がる。
無事に通りに戻っていけるだろうか。
まぁ、その時にはミラクル・ビスケッツに上から見渡してもらえば大丈夫か。
そうだ!もう吉澤さんはいないんだ、ビスケッツたちに追跡をお願いすれば
いいじゃないか!
「ハァ…ハァ…ハァ…ミラクル・ビスケッツのみんなっ!!」
『ワカッテルゼコハルゥゥ!!』
『『アノオンナ』ヲツケルンダロ?』
『フォォォォォ!サッキカラアノオンナモマヴイトオモッテタンダ!』
『No.6!アンタイイカゲンニシナサイヨ!!』
「ハァ…ハァ…みんな、お願いねっ!」
私がみんなにそう声をかけた瞬間だった。




ズドォォォォォォォン!!!!






119 :364 :2007/03/06(火) 00:40:42.33 0

な、何だ今の音は!?角を曲がった女の人が向かった方向からだったみたいだけど…
あの女の人に何かがあった?それとも?
「みんなちょっと待って!私も行くからみんなで一緒に行こう!!」
私はビスケッツたちに制止をかけると、みんなを連れたまま女の人の曲がった角を曲がった。



角を曲がると、その奥のほうはほどなく袋小路の行き止まりになっている。
そんな!?あの女の人は確かにここを曲がったはず!どこに消えた!?
通りにある家に入るとかしないとここまで完全に見失うことはないはず。
だけどさっきの様子じゃこの辺りがあの人の家、とは考えにくい。
電柱の影とかに隠れている様子もない。


『コハルゥ!ナンカアノコウエン、アヤシイゼ!』
突然、肩口に乗っていたNo.7が話しかけてくる。
通りのずっと向こうばかり見ていたが、角を曲がってすぐのところに小さな公園がある。
低い金網で道路から仕切ってあって、砂場とベンチとブランコくらいしかない、小さな公園だ。
立ち木とかトンネルとか、人が隠れる場所とかはなさそうだけど…。
「変ってどういうこと?普通の公園に見えるけど?」
『コウエンノナカニヘンナ「クボミ」ガアルノヨ!』
『スナトカミタカンジ、マダアタラシイゼ!』
『サッキノオト、コノ「クボミ」ガデキタオトジャナイカ?』

言われてみれば。
公園のちょうど真ん中くらいに、1メートルほどの大きさに、浅く窪んだ場所がある。
よく見ると、ほんの僅かにだけど、土煙が街灯にチラチラ照らされている。




120 :364 :2007/03/06(火) 00:41:32.80 0

近づいてみると、なるほど10センチほどの深さに窪んだ地面はまだ湿っている。
新しくできた穴、といった感じだ。
しかし何だろう?この穴は何だろう?
こんな浅い穴で落とし穴、ということもないだろうし、公園にはもちろん誰もいない。
さっきの女の人に関係があるのだろうか?
そうだ、あの女の人はどこに消えた?
うまく捲かれたにしても少々不自然なことが残る。
……まさかこれは、誰かのスタンド能力……?





「誰が着いてきてるのかと思ったら、まだ中等部の女の子じゃない」





………ッッ!!!
突然背後から掛けられた声に心臓が飛び出るほど驚いた。
慌てて窪みの前から立ち上がって振り返ると、公園の出口を塞ぐように
さっきまで私が後をつけていたはずの女の人が立っていた。
バカな!!角を曲がった先、間違いなく隠れるような場所はなかったはず!
いくらこうして公園というわき道に入っていたといっても、
先に走って行ったこの人が後から角を曲がった私の背後を取るなんて不可能だ!!
狼狽と動揺に言葉を失った私に、女の人はさらに口を開いた。


「さっきからずーっと後をつけてたけど、どういうつもり?」


265 :364 :2007/03/11(日) 00:29:54.23 0

女の人がやや不機嫌に私を睨んでくる。
それはそうだろう、私だっていきなり見ず知らずの人に後をつけられたりしたら
不快だし、不審にも思うだろう。
だけど、まさか「あなたと吉澤さんが気になって後をつけてました」なんて言えるはずがない。
上手い言い訳が浮かばず、口を噤んでいる私に女の人は少し近づくと、さらに言い募る。
「ねぇ、黙ってたら分かんないんだけど…ぶどうヶ丘の中等部の生徒さんだよね?
 ってことは、さっきのバナナの皮の悪戯もアナタの仕業?」
バナナの皮のことまでばれてる!?
ということは、少なくとも、あの時点で私が後をつけてたのもばれてたことになる!
それよりも、だ。
バナナの皮のことがばれている、ということはこの人はまさか…!?

「なんであんなことしたのか分かんないけど、…ちょっとお仕置きが必要かな…!」

ドギャンッ!!

女の人がスタンドを出す!!やっぱりこの人はスタンド使いだった!!
人型の、見た目では近距離パワータイプっぽいスタンドだ。
「ねぇ、何であんなことしたの?」
「………」
私は口を噤む。流石に何も言わないとこの人は納得しないだろう。
だけど…言えるわけがない!しかも吉澤さんとあんな風になってた人に!
私にだってプライドはあるんだ!!

女の人がゆっくりと近づいてくる。
私は何も言えないまま、それに合わせてゆっくりと後ずさりをする。
「やっぱり…『見えてる』んでしょ?スタンドをあんな風に使うなんて…」
女の人はさらに不機嫌になる。
このまま何もしなかったら、この人はどうするだろうか、スタンドで攻撃してくるだろうか。
来るだろうな、痛い目は見たくない、嫌だけどやはり謝るのが得策か。



266 :364 :2007/03/11(日) 00:30:53.74 0

「……あれ?もしかしてあなた、『久住小春』ちゃん?」



!!!!!!!!!!????????????



な、何でこの見ず知らずの女の人が私のことを知っている!?
私はもともとそんなに目立つほうではないし、こんな知らない人に顔を知られるような
真似をした覚えもない。
私が私の知らない人に顔を知られている理由があるとしたら…。

「アナタも演劇部なんだよね?」
予想通りだったけど、やはり演劇部だということを知っている。
私が私の知らない人に名前を知られている理由は、演劇部絡みしかありえない。
私の出ている公演でも見たのか、それとも…
「そっかそっか、演劇部なんだ、そっかぁ…なるほどねぇ…」
女の人は足を止めると、何か得心がいったのか、自分で相槌を打っている。
そして、突然不敵な笑みを浮かべると、口を開いた。



「私とよっちゃんのことでも気になった?」



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





267 :364 :2007/03/11(日) 00:32:11.80 0

ななななな、何だって!?見透かされた!?
いや、吉澤さんが演劇部だと知っている人ならば、同じ演劇部で後輩の私が後をつけている
というこの状況、そういう結論にたどりついたとしてもおかしくない。
それにしても、この人は何者なんだろう。
どうやら私たち演劇部の一部の部員の情報とスタンド資料が他所に流出している、
という噂は聞いたことがある。
栄高の戦いや、あるいは道重さんと亀井さんが昔襲われたスタンド使いも
そうした資料を持っていたことがある。
あるいはこの人がスタンドを敵のスタンド使いで吉澤さんを唆し、演劇部の内部からの
崩壊を目的としている可能性も無きにしも非ず、のはずだ。
亀井さんが岸辺露伴に攻撃されたときも、敵とは認識されない、普通の人の振りをして
亀井さんに接触してきた、というし、ありえない話ではない。
吉澤さんは演劇部の部長だ、いくら敵が何食わぬ顔で近づいてきたとしても
そうやすやすと敵の策略に嵌るとも思えないけど。

ただ、この人は吉澤さんのことを「よっちゃん」と呼んでいた。
藤本さんやみうなさんのように、ある程度親しい人は吉澤さんのことを「よっちゃん」と呼んでい

る。
敵のスタンド使いがそんな馴れ馴れしい表現を本人以外に使うだろうか。

いや、この人が敵のスタンド使いではないとしても、だ。
この人は「吉澤さんと自分の後をつけている久住小春」に気付いてしまった。
万一この場を上手く切り抜けたとしても、この人がこの出来事を吉澤さんに言わないだろうか。
そんなはずがないだろう。
次に吉澤さんに会ったときに、きっとこのことを言ってしまうだろう。
『部の後輩の躾がなってない』ってな!!
吉澤さんに伝わってしまったら全てが終わりだ。
吉澤さんに全てばれてしまう。それだけじゃあない。
ミラクルな大スターを目指す私が姑息な覗き見をしたというレッテルが貼られてしまう!
もう演劇部に居られなくなってしまう!!




268 :364 :2007/03/11(日) 00:34:15.37 0

「あれれ…その顔は図星かなぁ?」
激しく狼狽した私の表情を見た女の人は怪しい笑みを浮かべている。
どうする…この場を切り抜けるだけじゃダメだ!
『この件を吉澤さんに知られないようにした上で』この場を切り抜けなきゃならない!

「ねぇ…何も言わないんだったら、よっちゃんのこと呼ぶけど、いいの?」
ダメだ!それだけは絶対にさせちゃいけない!!
吉澤さんに伝わることだけは避けなきゃいけない!
纏まらない頭で咄嗟に私はとんでもないことを口走っていた。


「あ…あなたが何者かとか、敵か味方かとか、そんなことはどうだっていい!
 吉澤さんの後輩として、女としてあなたに負けるわけにはいかない!!」


私の思わぬ(彼女にとっては意味不明な)発言に女の人が目を丸くする。
そして今、切り抜ける方法も思いついた!
『大谷雅恵さん』だ!!
大谷さんの相手に『記憶を忘れさせる』能力で、今日ここで会った出来事をあの人に忘れさせる!


スタンドをこういう風に使うことを私は決して好まない!
私利私欲のためにスタンドを使うなんて、絶対にやっちゃいけないことだ!
だけど今!絶対に彼女を阻止しなければならない!私の未来のために!!

大谷さんとは私はあまり親しくない。何度か訪ねていって記憶を忘れさせられたことしかない。
大谷さんの連絡方法を知っているのは、寺田先生、藤本さん、紺野さん、卒業した柴田さんだ。
今私が携帯で連絡を取れて、こんなことを相談でき、絶対に他言しないのは紺野さん!
何とかこの女の人の動きを抑え、紺野さんに連絡を取る…
それしか今は方法がない!

「出ておいでっ!!小春の『ミラクル・ビスケッツ』!!」


552 :364 :2007/04/09(月) 06:21:25.45 0

バヒュゥゥゥゥゥゥン!!!

『コハルゥ!マジニヤッチャウノカァ!?』
『ヒャッホォォォォォゥ!ウデガナルゼェェ!!』
『オマエラ!ムダグチタタイテナイデハヤクハイチニツケ!』
『ホラNo.5、No.7イクワヨ!』
『ハーイハーイハイハイハイハイ!』
「みんな、お願いっ!!No.1、No.2もお願いね!」
私の声でビスケッツたちが四方に散っていく。No.1とNo.2は背後に、No.4とNo.5は前方に。
相手が近距離パワータイプだったら私のスタンドでは真っ向からぶつかるのは得策じゃない。
No.1とNo.2にはどこかで武器や使えそうな道具を探してきてもらい、それを再形成組で
再形成して武器として使う。
相手に近づかせないで戦うのが私の戦い方だ。

「言い逃れできなくなったら力ずく…よっちゃんはアナタのことを随分買ってたのに、Too Bad!」
「……ッ!」
女の人の一言一言が私の心を突く。
私だってこういうやり方は本心では本意じゃあない!だけどこうしないといけないんだ!
私は唇を噛みしめ、女性の言葉に耐える。


『テメェェ!コハルノコトヲワルクイウナヨォォ!!』
『コハルノコトナンニモシラナイクセニィ!』
「What’s!?」


パシュゥゥ!!




553 :364 :2007/04/09(月) 06:24:45.05 0

No.4とNo.5が突然女の人の頭上から叫ぶ。
そしてそのまま再形成した『漢和辞典』を女の人に向けて落とす。
授業で使うので重たいが持ってきた。まさかこんな形で使うとは思わなかったけど。
「WOW×3!ガードしてっ!!」

バッサァァ!

女の人がスタンドで漢和辞典を叩き落とす。
WOW×3…それがあの女の人のスタンドの名前!
直接拳で弾いたところを見ると、銃や剣みたいな武器は持っていないタイプのスタンドみたいだ。
以前藤本さんの勧誘を断ったときのようにもっと重たい物を落とせばこれで勝負は決まったかも
しれないけど、今回は怪我をさせる事が目的じゃない。
女の人が上空にスタンドを向けた一瞬に、No.7が一気に差を詰める。
No.7が再形成したもので動きを封じる!


「SHIT…Behave Yourself(調子に乗るな)!!」

バシィィ!!


『ブギャッ!!』
女の人のスタンドが構えると、No.7が『何かに打ち落とされた』かのように突然地面に落下する。
何だ今のは!?あれがあの女の人の能力!?

ドスゥゥ!!

「ぐぅっっ!!」
私のお腹に目に見えない小さな堅い弾丸のような物がめり込む。
間違いない!No.7を叩き落としたのも今のもあの人のスタンド能力だ!!



554 :364 :2007/04/09(月) 06:25:49.66 0

ドスゥゥ!バシィィ!

「うっ…ぐっ!!」
女の人のスタンドの弾丸がさらに私にぶつかってくる。
見えないからかわせないし、ビスケッツに分解してもらうこともできない。
このままじゃあ体力を削られて返り討ちにされてしまうのがオチだ!
自分からケンカを売っといて負けちゃうなんて冗談じゃない!
『コハルゥゥ!!コレツカエ!!』
「くっ…これは!?」


パシュゥゥ!!  カーン!カキーン!!


私の肩に乗っかっていたNo.6が再形成したのは『鍋の蓋』だ。
前にかざしたそれに、女の人が打ってきた弾丸は防がれる。
清水佐紀ちゃんの『ベリー・フィールド』みたいに完全に衝撃とダメージをゼロにはできないけど
少なくとも直接あの謎の攻撃を受けるよりは随分とマシだ。
高橋さんがやってるゲームで鍋の蓋が一番弱い装備になってたりするのを見ると、
「鍋の蓋が盾?」と思ってはいたけど、意外と役に立つじゃないか!!

『コハルゥ!No.2ガロープヲミツケテブンカイシタミタイダゾ!』
No.6とは逆の肩に乗っているNo.3が伝えてきてくれる。
これで準備は整った!もう1回反撃するっ!
「これでもくらえっ!!」


ブンッ!!




555 :364 :2007/04/09(月) 06:26:35.07 0

鍋の蓋をフリスビーのように投げつける。
同時に上空を漂っていたNo.6以外の再形成組が一斉に女の人に殺到する。
さっきからの攻撃を見てる限り、この見えない弾丸は連射はできるみたいだけど
『同時に2発』打つことはできないみたいだ。
鍋の蓋とビスケッツ3人の4発の攻撃、同時に打ち落とすのは不可能!
そしてビスケッツが1人でもあの人のところまでたどり着ければ、
再形成したロープであの人を縛り上げてゲームセット!
さぁ…どう来る!?


「WOW×3!!REPEL(弾け)!!」


WOW×3、というらしいスタンドが手のひらを振りかざし、斜めに一気に振り落ろす!
スタンドの手のひらには何か黒い網目状のものがついている。
あれは…スピーカー?
だとすると、この謎の弾丸の能力は、「音」に関係する攻撃…?


カキーン!!ベシッベシベシッ!!


『フギャッ!』
『アグッ!』
『イッタァーイ!!』

鍋の蓋と再形成組が吹き飛ばされる。
いや、何か「壁のような物」に激突したような感じだ。
「見えない物」に激突した…さっきの「見えない弾丸」と同じような能力!?
「見えない弾丸」…「見えない壁」…WOW×3の能力は、もしかしてっ!?



556 :364 :2007/04/09(月) 06:28:17.46 0


ドバッシィィィィィン!!


突然私は吹っ飛ばされた。
前方からやってきた、恐らくはビスケッツたちと鍋の蓋を吹き飛ばしたのと同じ
「見えない壁」が激突したせいで。
だけどこれでハッキリした。
「音」に関係していて、目に見えなくて、それでいて多彩な形…。
あの女の人の能力は、『衝撃波』だ!!
『衝撃』を生み出す吉澤さんと似たような能力をこの人が持つなんて…。
また私の心が嫉妬に締め付けられる。
ビスケッツたちが衝撃波の壁にぶつかったことで手足が少し打ち身のようになっているけど、
大きな怪我にはなってない、まだビスケッツたちも戦えそうだ。
私はゆっくりと立ち上がり、女の人をまっすぐに見据える。
「Are You All Right?大丈夫かなぁ?
 ワケわかんないまんまついやっちゃったけど、どうする?まだやる?」
女の人が余裕ぶって話しかけてくる。

「えぇ…吉澤さんのためにも、私は負けるわけにはいきませんから…『木村絢香』さん?」
女の人…いや、アヤカさんの目が驚きに見開かれる。
「私の名前…WHY!?」
私は右手に持っていた物をかざしてアヤカさんに見せる。

「それは…!?私の手帳…!?」
ミラクル・ビスケッツ…手元を離れていた分解組のNo.2がロープを探している間に
No.1を背後からアヤカさんのカバンの中に忍び込ませた。
「ちょっとお借りしました。お返ししますよ」
No.3に目配せすると、すぐさまアヤカさんの手帳を分解する。
次の瞬間、アヤカさんの上空に漂っていたNo.5が再形成した手帳がアヤカさんの目の前に落ちた。


617 :364 :2007/04/12(木) 02:23:08.49 0

「Damn!!God damn her!!」
アヤカさんは慌てて手帳を拾い上げると、パラパラとめくって異常がないか見ている。
当然だけどものすごい怒ってる。私でもこんなことされると怒るだろうけど。
「久住小春ちゃん…アナタどういうつもりなの!?
 カメイちゃんやミチシゲちゃんから聞いたあなたはそんな子じゃなかったのに…」
この人、亀井さんと道重さんも知ってる…?
いや、聞いたってことは会ったことがあるってことだし、吉澤さんとも親しいとすると
何かしらで演劇部と関係がある人なのか…?


「Fummmmmmuuuu………まぁ…いいか、どっちでも」
え?…どっちでも…いい?

「今…私の目の前に居る『久住小春』ちゃんは、私が話に聞いた『久住小春』ちゃんとは
 別の人…偽者か、誰かに操られてるのかもしれないし…」
何を言ってるんだ?この人…。

「誰かスタンド使いが『久住小春』ちゃんを操って、ぶどうヶ丘の演劇部を
 内側から攻撃しようとしてるのかもしれないし…」
何だか雲行きが怪しくなってきたぞ、これ…。

「『操られている』なら久住小春ちゃんを裏で操っている何者かがいるわけだし…
 『町に害を成す者』は排除しないとね…!」
「町に害…?」
私の呟きは聞こえなかったようでアヤカさんがWOW×3を構える。
町に害を成す…どういうことだ?



618 :364 :2007/04/12(木) 02:24:14.12 0

「『町に害を成す』スタンド使い…放っておくと町を脅かす存在になるかもしれない…
 『久住小春』ちゃん…どんな理由があれ、アナタは無関係な人間にスタンドで手を出した。
 …再起不能になってもらって…話はその後させてもらう!!」
この人…本気だ!さっきのあのスタンド…正直、手加減して勝てるような相手じゃない。
動きを封じるだけでは…勝てないかもしれない。
そして、こうなってしまったら…もう説得もできないだろう。
『町にの害を成す』という意味はよく分からないけど…。
でも、一つだけハッキリさせて、言っておかなきゃいけないことがある!

「アヤカさん……すみません。後を尾けて、いきなりあんなことをして…
 正直、申し訳ないとは思ってます。私が悪いのも分かってますが…でも、私は退けません。
 退いたら…自分の気持ちを裏切ることになるから!絶対に退きません!!」
私は7人のビスケッツたちと一緒にアヤカさんをまっすぐに見つめる。
目を逸らしたら負け、なぜだかそんな気がして、目を逸らせなかった。


「……言いたいことは終わり? なら…WOW×3!Break!!」
アヤカさんが手を振り上げ、指を鳴らす!
同時にWOW×3がスピーカーのある手のひらをこちらに向けてきた!
さっきと同じ見えない衝撃波が来るっ!!

でも私に同じ手が通じると思ったら大間違いだ!
去年のさくら組vsおとめ組の演習、そしてカラスを捕まえる指令の経験から考えた
仮想吉澤さん相手の戦術、今こそ見せてやる!!