594 :364:2006/07/13(木) 23:37:52.11 0
銀色の永遠 〜欠けた満月@〜

「なぁ見てみろよミキティ!月がキレーだぜ!」
「あー、ホントだー」
「オイオイ、何だよその気のない返事はよ」
「だってさぁ、夜なのにわざわざ指令なんてやってらんないんだもん」

今、美貴とよっちゃんは2人で杜王港の埠頭近くを歩いている。
何でそんな郊外を2人だけで歩いているかっていうと、『演劇部の指令』のせいだ。
去年の秋、そして今年の春に杜王町に現れた吸血鬼がまた現れたらしい。
それを美貴とよっちゃんの2人で始末するのが今回の指令ってことらしい。
本来は吸血鬼絡みの指令はれいなが差し向けられるはずなんだけど、美貴たちが選ばれた。
何でも、「吸血鬼を波紋以外で倒すことができるかどうかの確認」をするためらしい。
極力用心するように、とは言われたけど、わざわざ生徒をそうやって
差し向ける辺り、やっぱり寺田の奴はイマイチ信用しきれない。
まぁ、それでも吸血鬼ってやつを野放しにしとくのもそれはそれで危険な話なんだけどさ。

でもご丁寧に満月の夜に指令出さなくたっていいじゃん?
いくら美貴とよっちゃんのスタンドが満月でパワーアップするっていっても。
満月の夜に男の人とお散歩。はた目にはデートにも見えそうなシチュエーション。
だけど相手はよっちゃんだしなぁ…。
だからこんなことを言ってやる。
「せめてよっちゃんが『でもミキティのほうが奇麗だよ』とでも
 言ってくれればもうちょっとやる気もでるかもしれないんだけどなぁ」
「バーカ、ミキティにそんなこと言って何の得になんだよ」
これだもん。よっちゃんは演劇部のことだとマジメだもんなぁ…。
ま、確かにカッコいいけど、真希ちゃんの元カレだし。今は狙おうとは思わないしな。

真希ちゃん、生きてるんだろうか……いや、生きてるよな、きっと、どこかで…。



595 :364:2006/07/13(木) 23:38:57.24 0

もっとも、口で言っているほどやる気がないわけじゃあない。
吸血鬼に血を吸われた人間は吸血ゾンビになるっていうし、今回の指令、
吸血鬼が『2体』確認されているらしい。
それが両方とも吸血鬼なのか、吸血ゾンビなのかは分からないけど、
既に被害が出ているのは間違いない。
れいなのように波紋能力のない美貴たちは、万一負けたとしても
いつものように再起不能では済まない。
最悪、美貴たちだって吸血鬼になってしまう可能性すらあるんだ。
これは気を引きしめてかからないといけないな……。
美貴は胸のうちでこっそりと気合を入れなおした。
ちょうどその時だった。


「キャァァァァァァァァァーーーーーッ!!」


悲鳴だ!女の人の!!
まさか吸血鬼に襲われて…!?
「よっちゃん!!」
「ああ!急ぐぞ!!」
美貴とよっちゃんは顔を見合わせると、悲鳴の聞こえたほうへ一気に駆け出した!!


トトトトタタタタタタタタタタタタターーーーーーーーーーッ!


全力で走る美貴たちの前に、こちらに向かって走ってくる女の人の姿が見えた。
腕を縛られている所を見ると、本当に吸血鬼から逃げてきたのかもしれない。
美貴たちが足を止めると、女の人はそのままよっちゃんに抱きついてきた。



596 :364:2006/07/13(木) 23:39:58.32 0

「ひぃぃぃっ…!ゆ、ゆるしてください〜〜〜っ
 血を吸わせないでェ〜〜〜私の血を吸わせないでェ〜ッ」
女の人はだらりと右腕が垂れ下がっている、折れてるか、脱臼してるのか。
「ちょ、落ち着けって、俺らは吸血鬼じゃない
 落ち着け!助けてやるから!俺らは味方だよ」
「味方……」
女の人の目に安堵の色が写る。
「ハアハアハア、味方?ほ…本当に味方なのですか?
 本当に助けてくれるのですか?」
「あぁ、味方だよ」

メシャァァァッ!!

よっちゃんが出した『Mr.ムーンライト』で女をいきなり殴り飛ばす。
「めぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ただし…正義の、味方だよ」
「そのとおり、てめーが地獄に落ちるのを、助けてやるよ」
女…は信じられない、と言う顔で美貴とよっちゃんの顔を見比べている。
「ど、どうして!?私の完璧な能力が・・・!?」
「自由に肩を外すのがお前の『能力』か?
 だったらせめてそれっぽく『痛そうに』するんだな」
そう、この女は走ってくるときから右腕がだらりと下がったまま、左手で
押さえずにそのまま右腕を振り回しながら走ってきたんだ。
普通ならそんなことは痛くてできるはずがない。
痛覚が麻痺している…『吸血鬼』ってやつだ。




597 :364:2006/07/13(木) 23:42:43.00 0

「殺さないでよ、よっちゃん、案内させようよ」
「バレちゃあしょうがない…ぶっ殺す!!
 アタシの身体にももう、あの方の血が入って不死身になってるのよーーー!!」
女がよっちゃんに飛び掛ってくる!!
「ほう、今、不死身といったのか。つまりアンタも吸血鬼ってわけだ。
 寺田のおっさんの指令もあるし、参考のためにその不死身度を思いっきり試してみようか…」

ギュァァァァァァァァッ!!

よっちゃんがスタンドを出す。
両手を広げて天を仰いで…月の光をいっぱいに浴びてる。
そのスタンドは白く輝き始める!!
あれは全力でやる気だね。『満月』のよっちゃんの全力のラッシュ。
オーマイゴッド。この吸血鬼もかわいそうにw

「Be Up&Doing!!!!!!
 AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUーーー!!!!」
「どぎゃーーーーーーーーーーー!!」
メシャボコバキズガズシャボゴバゴバガドガドゴバギィッ!!!!!!!

「あ、あぁ………」
よっちゃんの全力のラッシュで吹っ飛んだ女は、ボコボコになってたけど
なるほど再起不能にもなってない。不死身ってのはホントらしい。
でもいいなぁ、全力でやっていいなら美貴もやればよかったw
「なるほど、不死身だね…」
よっちゃんが吸血鬼女を掴み起こす。
「でもいくら吸血鬼でも、私たちはアンタを粉々にもできるんだからな。
 さぁ…お仲間の所に案内してくれないか」
そう言うとよっちゃんはまだガクガクいってる吸血鬼女を突き飛ばした。
…美貴、何もやってないなぁ…よっちゃん独りでよかったんじゃないの?


64 :364:2006/07/19(水) 23:46:35.74 0
銀色の永遠 〜欠けた満月A〜

吸血鬼女の先導で美貴たちは杜王港構内を歩く。
特に縛ったり袋に詰め込んで逃げないようにしてるわけじゃあないけど、
吸血鬼女は大人しく美貴たちを案内している。
始めは何度となく吸血鬼女は逃げようとしたんだけど、そのたびに2人で
ボコボコにしたからなぁw
すっかり抵抗する気も失せたらしい。
でも、吸血鬼は脳を破壊しないと胴体を痛めつけても無駄、というのは
ホントみたいだ。
普通の人間よりも身体能力も上がってるし、けっこう手間取るかもね…。
できれば一撃で仕留めたい。とすると……

「よっちゃん、美貴と戦った時に使ったあの『衝撃』をリフティングで
 増幅して蹴りこむ技あったじゃん、あれって使うのにどれくらいかかる?」
「リフティングで増幅?あぁ、愛のビッグバンドのことか。
 そうだなぁ…威力にもよるけど、十分な威力持たすなら1分くらいかな」
1分かぁ…満月だし、今の美貴なら余裕かな。

美貴とよっちゃんのスタンドは同じタイプだけど、正直それほど
相性がいいわけじゃない。
よっちゃんの『衝撃』を『満月の流法』で戻しても衝撃はMr.ムーンライトの
元へ戻るだけだからよっちゃんにダメージを与えることになるだけだし。
それだったら、美貴が接近戦で時間を稼いで、
その間に増幅した『衝撃』で一撃で仕留めるほうが確実なはず。
「じゃあ美貴が時間稼いで、よっちゃんがとどめ、でいい?」
「ま、状況次第だけどな。無理だけはすんなよ」
あったり前じゃん。美貴だって死にたくないし。


65 :364:2006/07/19(水) 23:47:33.16 0


倉庫が立ち並ぶ通りを曲がると、男の人が立っているのが見えた。
男の人は20代くらいで少し痩せた感じ。
片手にビデオカメラを持っていて、こちらに向けているみたいだけど…。

「あぁ!テルヒコさま!テルヒコさまぁぁーーーッ!」
突然に吸血鬼女がその男に向かって走り出す。
名前を呼んでいるところを見ると、あいつがもう1人の吸血鬼、ってわけか…。

「あぁっ!テルヒコさまぁぁ…あいつらが!あいつらが!!」
吸血鬼女が吸血鬼男に抱きついてそのままメソメソと泣き崩れる。
「おぉ、どうしたというんだ、そんなにボロボロになって…」
吸血鬼男が勿体つけた口調で吸血鬼女にしゃべってる。
エネちゃんもそうだったけど、吸血鬼ってそういう口調になるものなのかな?
でも…口調は確かに紳士的だけど、滲み出るオーラは暗い。
おまけに、ビデオカメラで吸血鬼女を写しながらしゃべってる。
何か異様な光景だ。

「あいつらが!あいつらが私をこんな姿にィィ〜〜〜!
 テルヒコさま、どうかあなたのお力であいつらに仕返しをおぉぉ〜〜!」
吸血鬼女がギラついた目で美貴たちを睨む。
「そうだな…見たところ、ただのデート中の高校生、というわけでも
 ないらしい……KUKUKU、久々の若い血も美味そうだ…」
やっぱり!こいつは吸血鬼!!
改めて見ると感じる、こいつらのこの悪の気!
きっとこいつらは何人もの人の血を吸って殺めてきたんだ!


66 :364:2006/07/19(水) 23:48:40.06 0

「おぉぉぉぉっ…ブギートr…」
「待った、ミキティ。もうちょっと様子を見よう」
「よっちゃん、でも…」
高揚する気持ちに合わせて美貴がスタンドを出そうとするのをよっちゃんが止める。
「落ち着け、冷静さを欠いたら負けに、死に繋がる」
よっちゃんに諭されてスタンドを引っこめる。
よっちゃんはスタンド使いとして長い分、美貴よりも場数を踏んでる。
状況に対応する能力は美貴よりも持ってるだろうし、従って損はないか…。

吸血鬼男は吸血鬼女を地面に仰向けに寝かせている。
でもビデオカメラは手に持ったまま、吸血鬼女を写し続けている。
「テルヒコさま、何をなさるんです?
 あいつらは不思議な力を使います、いくら離れているといっても油断していると…」
「すぐに済む…すぐに…なっ!!」


ズギュゥゥゥン!!


いきなり吸血鬼男の腕が吸血鬼女の胸を貫いた!!
「ガハッ!!」


67 :364:2006/07/19(水) 23:49:26.50 0


ズギュゥゥン!ズギュゥゥン!


「ガ…は……て、テルヒ……ま…」
みるみるうちに吸血鬼女が痩せ細り、顔もやつれ、老けていく。
…血を、吸い取ってる……?
「KUKUKU…いい素体だったが、こんなに傷だらけになっては台無しだ…」
「そん…ミ………ま………」
吸血鬼男はさっきまでの甘い表情とはうって変わった、
まるで養豚場の豚でも見るような冷酷な目で吸血鬼女を見下ろしている。
…その様子を、撮影している!!
「KUKUKUKUKU…やはりイイ…希望が絶望に変わるその一瞬の表情は最高に美しいィィiiiii!!」


ズギュゥゥン!ズギュゥゥン!! ……ドシュゥゥゥゥゥゥゥ!!


吸血鬼女はどんどん痩せ細り、骨と皮だけになり…
衣服だけを残して、消えてしまった。
これが…吸血鬼に血を吸われきった人の、末路……。
美貴もよっちゃんも、あまりのことに呆然と立ち尽くしていた。


68 :364:2006/07/19(水) 23:50:48.80 0


「Nnnnnnmuuuuu、いい表情をしているな…」
いつの間にか吸血鬼男が立ち上がってこちらを向いている。
ビデオカメラをこちらに向けている。録画している!?
思わず身構えて顔を隠す。
「ミキティ落ち着け、アレはただのビデオカメラだ。スタンドじゃない」
よく見ると、確かに普通のビデオカメラだ。
ハンディだけどけっこういい機種なんじゃないのか?あれ。

「人間の命は短い…それゆえ美しい表情を見せる……
 不死の命を得て数十年生きてきた私にはもはやそんな表情は作れない。
 だから私は人の表情に憧れ、こうして録画して記録に残すことにしている…」
「テメェは…そうやって何十年も、他人の命を虐げて生きてきたのか…?」
よっちゃんの顔色が怒りでいつも以上に白くなってる。
「美しさを探求する、というのは人間の究極の目的ではないのか?
 古くはワラキア公ブラド・ツェペシュ、エリザベート・ハプスブルグ…
 今でも女は魅惑の粧で自分を飾り、男も自分の肉体を鍛え上げる。
 私は、人の美しい表情を記録に撮りたいだけ…
 吸血鬼の食料たる人間のに対して、私は永遠に記録に留めるという敬意を表しているのだよ?」


この口の中がザラつく感覚!同じ吸血鬼でもこいつはエネちゃんとは違う!!
生まれついての悪だ!!!
ゲロ以下の臭いがプンプンする!!
コイツは何十年もの間、人間を恐怖に貶めながら生きてきたんだ!!


69 :364:2006/07/19(水) 23:52:39.98 0

「自己紹介させてもらおうか……久世光彦、年は…65歳くらい、だ。
 失礼、年を数えるのをやめて久しいものでね…
 趣味は映画の脚本製作と撮影だ…
 Fmuuuu、オマエたち、やはりなかなかの美男美女ではないか…
 …私の映画に出演させてやろう……私の忠実なしもべとなってな!!」

ギュァァァァァン!!

久世の周囲にボーリングボールほどの球体が2個浮かび上がる。
スタンドだ!!
そういえば前にれいなが倒した吸血鬼も、辻ちゃんが倒されて
美貴が時間を戻した吸血鬼もスタンド使いだった!

「『ムー・ファミリー』…」

吸血鬼な上にスタンド使い……!
何十年も捕まらずにいるんだ、こいつ…手ごわいぞ……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



2 :364:2006/07/20(木) 21:28:25.82 0
銀色の永遠 〜欠けた満月B〜

「いけ!!ムー・ファミリー!!!」

ギュンッ!ギュンギュンッッ!!

吸血鬼男、久世のスタンドがこちらに向かって飛んでくる!
遠隔操作タイプで、直接ぶつかってくるボール型のスタンド!!
一つは美貴に、もう一つはよっちゃんに向かってきてる!
「ブギィィィィィトレェェィンッ!!オォォスリー!!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!Mr.ムゥゥゥゥンラィッ!!!!!」

バギィィッ!ドシュゥゥゥッ!

美貴は飛んできたボールスタンドをブギトレで殴って叩き落し、
よっちゃんは『衝撃』を蹴り込んでスタンドに命中させ、軌道をずらした。
っつーか痛ってェェェっ!!
なんつー硬さだよ!本体の美貴の腕まで痺れるなんて…。
本体にダメージがないところを見ると、それだけ頑丈なスタンド、ってことらしい。

「おぉぉぉぉぉぉッ!ミスタァムゥーンライッ!今夜誓うぜぇぇぇぇぇっ!!!」

ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!

よっちゃんの掛け声と激しい音に振り向くと、Mr.ムーンライトが
激しく地面をラッシュで殴りつけていた。
美貴は知ってる!満月の夜にしか使えないよっちゃんの必殺技を美貴は知ってる!!
複数の『衝撃』を生み出して一気に相手に蹴り込むあの技を!!


3 :364:2006/07/20(木) 21:29:52.90 0

「要!CHECK IT OUT!!ツェー!デー!エー!エフ!ゲー!アー!ハー!」

ドゴドガバキャメキメキャバキメキョバキャッ!!!!!!

無数の『衝撃』が、不意打ちを防がれて驚いた表情の久世に襲い掛かる!
「GUAAAAAAAAAaaaaaaaaaa!!!!!」
目に見えない衝撃の連打を受けて久世は吹っ飛んだ。
けどさっきの吸血鬼女のタフさを見る限り、これだけで終わるとは思えない!
美貴は月の光を浴び、叫んだ!!
「満月の流法…rrrロマンティック浮かれモードォォォ!!」

コァァァァァァァァァ!!

『ムー・ファミリー』の突撃を食らう前の時間に美貴の身体が戻る。
スゥッと腕の痛みも治まった!
「よっちゃん!ビッグバンドの用意を頼んだ!!その間は……美貴が押さえつけといてやる!!」
美貴はよっちゃんの返事を待たず、久世のほうへと走り出した!!

「ブギートレイン!満月の流法!!」

ズキュゥゥゥン!

久世が吹っ飛んだ辺りの地面の時間を2分戻した。
これで1分30秒ほど経ったら、あの場所には再びよっちゃんの『衝撃』が降り注ぐことになる!!



4 :364:2006/07/20(木) 21:30:43.33 0

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!ゴールデンゴール決めてぇぇっ!!
 VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!」

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴァァァァァッ!!!!

スタンドを出す間も、ガードする余裕すら与えないほどの美貴の満月状態の全力のラッシュ!
ラッシュは確実に久世に命中している。
だがその久世自身の表情には何故か余裕が見られる。
いくら痛覚が麻痺してたって、これだけのラッシュだ、余裕な顔なんてしてられないはずなのに!


ズギュゥゥゥゥン!!


「VVVVVVVV………うぐぅッ!!」
腕に鈍い痛みを感じて美貴は思わずラッシュの手を止めてしまう。
腕を見るが、攻撃されたような跡はない。大体あのラッシュの中反撃なんて不可能だ。
だとすると、さっきの『ロマンティック浮かれモード』の失敗!?
いやでも、まだ戻してから1分も経ってないはず。失敗しても5分は固定されるはずなのに!
「どうした、それで終わりかね?」
久世がゆっくりと起き上がる。その腕部は鈍い色の鉄板のようなもので覆われている。
そうか!自分のスタンドを自分の体に仕込むことで美貴のラッシュに耐えたのか!!
動揺した美貴に久世が掴みかかろうとしてくる!!
まずいっ!!離れなければ!!
美貴は痛む腹を押さえ、バックステップで数歩下がろうとした。


ドゴドガバキャメキメキャバキメキョバキャッ!!!!!!



5 :364:2006/07/20(木) 21:31:33.39 0

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
突然無防備な美貴の背後から、衝撃の嵐が降りそそいだ。
モロに食らった美貴はそのままうつ伏せに倒れこむ。
い、いてぇ……この衝撃、この場所……『美貴が満月の流法で戻したよっちゃんの衝撃』だ…
でもどうして?
この衝撃が再び襲うのにも、まだ30秒以上はタイムラグがあったはずなのに…。
「KUKUKUKU……何が起こったか知らぬが…これでまず1人!!我がしもべとなれ!」
吸血鬼が倒れている美貴に向かって腕を振りかざす!!

「おぉぉぉぉぉ必殺!!愛のぉぉ!!ビッグバンドォォォォッ!!!!!」
美貴を襲おうとする久世によっちゃんがリフティングで溜めていた『衝撃』を蹴りつける!!


パァァァァァン!!


衝撃は蹴り飛ばされなかった。
Mr.ムーンライトの蹴りのモーションに合わせて軽い音が聞こえて…。
まるで、衝撃が蹴りで粉々に砕け散ったみたいな……。
「FMuuu、一瞬驚いたが、こけおどしか。砕けろ!!ムー・ファミリー!!」
久世のスタンドが美貴の頭上にいる!!このまま落ちてきたら美貴は…!
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「Mr.ムゥゥンライッ!Be Up & Doing!」
いつの間にか距離を詰めていたよっちゃんが、Mr.ムーンライトで
直接ムー・ファミリーを蹴り込み、久世に叩き込んだ!!

ドゴァァァァァァッ!



6 :364:2006/07/20(木) 21:35:09.92 0

「GYAaaaaaa!!」
久世はそのまま吹っ飛んでいく。

「ハァ…ハァ…ハァ…よっちゃん、助かった……」
「大丈夫かミキティ…しっかし、この状況はまずいぜ…
 まさか俺たちのスタンドにこんな弱点があるとはな……」
よっちゃんが顔をしかめながら呟く。
「弱点…?」
そういえば、美貴もよっちゃんもスタンドでの攻撃に失敗してる。
美貴のロマンティックもそうだけど、満月の流法すら正確に時間を戻せてない。
よっちゃんの衝撃だってそうだ。いや、よっちゃんが失敗するのも初めて見た。

今日、スタンドを使うのに、いつもと違うことは?
時間?場所?それとも天気?
…満月?
満月はブギートレインとMr.ムーンライトをパワーアップさせるのに?
思わず空の月を見た美貴はそのまま絶句した。


月が、満月が…欠けていた。


「げ…月食だとぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

ドバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!



40 :364:2006/07/21(金) 20:06:58.14 0
銀色の永遠 〜欠けた満月C〜

こ、これはヤバすぎる!
月食ってのは、どんな順番かは忘れたけど、太陽と地球と月が何か1列に並んで
影を作るとかいう現象だろ!?
「なんてこった……偶然にしても出来過ぎじゃないか?」
まさか寺田のやつ、ここまで計算して…
いや、今回の吸血鬼の始末と調査は寺田にとっても重要な情報収集任務のはず。
とすれば、今日が月食なのは全くの偶然だろう。
だけど…冗談じゃない!!

ドガッ……パァン!

もう一度よっちゃんが『衝撃』を生み出すが、やっぱり蹴ろうとすると砕けてしまう。
美貴も、満月の流法で戻せなくはないけど、正確に、ってのは無理そうだな。
満月の流法で怪我を治すのを諦めた美貴はゆっくり立ち上がって久世を見やった。

久世が仰向けの状態から両手を突き、四つんばいの状態になる。
けどそのまま動かない。何か破片のようなものをかき集めてるみたいだけど…。

「カメラ、が……人間の表情を撮ってきた、私のカメラが…!」
どうやらさっきまで回していたビデオカメラが蹴り込まれたスタンドと
吹っ飛んだ衝撃で粉々に壊されたらしい。
せっせとかき集めて、元通りに組み立てようとしてる、けど当然元に戻るわけもない。
「Woooooooooooooon!!あんまりだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!
 HEEEEEYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!おぉ〜いおいおいおぃおぃおぃおぃ……」
久世が突然大声を張り上げて泣き出した。
な、なんだってんだコイツ!!やっぱり異常だ!!


41 :364:2006/07/21(金) 20:07:50.42 0

カチカチカチカチカチカチ……


ふと横を見ると、よっちゃんが携帯をカチカチ弄ってるのが見えた。
「よっちゃん、何してんのさ?この状況でメールとか何考えてんの!?」
「田中を呼ぶ。正直、今の状況でこの2人では厳しい。
 アイツの家からだと、チャリで飛ばせば15分足らずでここまで着くだろ」
よっちゃんは美貴のほうを見ないでそう答えると、パタンと携帯を閉じた。

「まさかよっちゃん…このまま…一時退却ってことはねぇだろうな…
 れいなに押し付けて……言っとくけどよっちゃん!
 美貴はこのままおめおめと逃げ出すことはしないからなっ!」
痛む傷をおして、美貴はよっちゃんに掴みかかる。
「俺だってミキティと同じ気持ちだよ。だけど状況が変わった!
 俺もミキティも満月が生かせないどころか、平常時以下のパワーしか
 出せないことは確実なんだよ!
 確実!コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実なんだよ!」
よっちゃんは美貴の腕を押さえながらも、美貴の目を見てくる。
「いやだっ!美貴は逃げることはできない!あいつは人を吸血鬼にして殺してるんだぞ!
 よっちゃん、あんたをスタンド使いとして指揮官として尊敬してるけど
 逃げるって案だけは従えない!何のためにここまできたのさ!?
 美貴は逃げるってことだけは…しないッ!!」

美貴はよっちゃんを突き飛ばすと、吸血鬼に向かって走り出した。
「待てェ―――ッ!ミキティ!!」
よっちゃんの制止の声が聞こえたけど、振り向かなかった。


42 :364:2006/07/21(金) 20:08:32.80 0

見損なったよよっちゃん!!確かに戦況は圧倒的に不利!
でもだからって、いくら他の人が選ぶとしても、よっちゃんだけは逃げは選ばないと思ってたのに!!
美貴は絶対に逃げない!
満月の流法が自在に扱えないなら、そうした戦い方をするだけだ!!

キィィィィン

走りながら、ブギートレインが握りこんでいた物に満月の流法を発動させる。
そしてそれをそのまま久世に投げつける!
「おいっ!吸血鬼野郎ッッ!!」
「Muuuu? ……ッガ!!」
美貴の叫びに振り向いた吸血鬼に、投げつけた『衝撃』が命中する。
さっきよっちゃんが試し蹴って砕けた『衝撃』のカケラをひとつ拾っておいた。
思ったとおり、よっちゃんの蹴りのように『衝撃』自体に衝撃を与えなければ『衝撃』は砕けない!
そして久世がのけぞった隙に美貴は一気に距離を詰める!!
「ゴールデンゴール決めてッッ…!VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!!!!!!」


ドッギャァァァァァァ〜〜〜〜〜〜ン!!!



43 :364:2006/07/21(金) 20:09:33.46 0

吹っ飛んだ久世は倉庫の壁に叩きつけられた。壁には派手にヒビが入ってる。
けど、手ごたえは、なかった。
多分また、スタンドをプロテクター代わりにして防御したんだと思う。
クッソ…美貴の怪我さえなければ今ので決まってたはずなのに…
「どうする…何か、アイツにとどめを刺すだけの威力のあるものは…」
美貴は周囲を見回して満月の流法を使えそうなものを探す。

そんな美貴の目に倉庫の隅にあるドラム缶が写った。
よし…アレだ。

ドシュゥゥゥン!! ブォン! ブォォン!!

久世の身体からムー・ファミリーが射出される!
2つの巨大な弾丸は左右に分かれると美貴に突っ込んでくる!!
「クッ!ブギートレイン03!!」
飛んできたスタンドをブギートレイン03でガードする。
うぐぁ!やっぱり、重てぇ……
2つのムー・ファミリーはそのまま宙を回転しながら久世の元に戻る。
いつの間にか立ち上がった久世は膝をつきそうになっている美貴にゆっくりと近づいてきた。

「少々度肝を抜かれたよ…あの目に見えない攻撃はさっきの彼のものかね?」
「答える必要はないね」
久世は余裕ヅラしてる。やっぱりさっきのラッシュもそれほど効いてないみたいだ。
「随分辛そうじゃあないか。私のしもべになると誓えばその傷も癒してやるが…?」
「ごめんだね、アンタの被写体になって使い捨てられる人生なんて
 美貴の大スターになる夢に比べたらカスほどの価値もないよ!!」
美貴が吐き捨てた言葉に久世が顔色を変える。


44 :364:2006/07/21(金) 20:12:21.77 0

「NUuuuuuuuuu!!価値がないだとぉぉooo!!! 私の敬意を無にするというのだな!!
 ならば徹底的に痛めつけ!苦しめ!!苦悶の悲哀の絶望の表情に顔が固まるまで!!
 自分から『殺してくれ』と懇願してくるまで痛めつけてくれよう!!」
久世がいきなり地面を殴りつける!!

バギバギャバギャメキャ!!

骨の折れる嫌な音が響いた。
コイツ、殴りつけた勢いで自分の指から腕まで骨がバキバキに砕けてやがる!!
何を考えてるんだ!!?
その疑問は、ほんの数瞬で答えが出た。


ズドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!


久世が殴りつけた所を中心に、地面が陥没して崩れる!!
バカな!!どんなパワーで殴ればこんなことができるっていうんだ!!
ひび割れた地面に脚を取られてバランスを崩した美貴は尻餅をついてしまう。

「喰らうがいい!!ムー・ファミリィィィィィィィィィィィッ!!!」

ギュァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!


45 :364:2006/07/21(金) 20:13:28.09 0

体制の崩れた美貴にムー・ファミリーが突っ込んでくる!!
「うぉぉぉぉ!ブギートレイン03!!!」



バギィィィィィィィィィィィィィッ!!!!






うぐ……そ、そんな、バカな……
美貴は目の前で起きた現象と自分の身体のダメージに信じられないでいた。
美貴は確かにブギートレイン03でムー・ファミリーを叩き落した。
けどその叩き落したムー・ファミリーの死角にもう一発、同じ軌道でムー・ファミリーが飛んできてたんだ。
そいつの直撃を受けた美貴は吹っ飛ばされて後ろにあった倉庫の壁を
突き破ってこうして倉庫の中で倒れてるんだ。
クッソ、いてぇ…身体が動かない…

「この程度では済まさん……カメラと侮辱の分、しっかり苦しんでもらわなければな…」

美貴が破った壁の穴から覗き込んでる久世の声が、やけに遠く聞こえた。


291 :364:2006/08/16(水) 06:15:11.79 0


コツ…コツ…コツ……


倉庫の中を、ゆっくりと久世が歩いてくる。
「どうやら、お前の能力は時間を巻き戻す能力…だが、正確に戻すことはできないようだな」
うるさいよ!今日が特別で普段は戻せるんだよ!!
真っ暗な倉庫で明かりは美貴がブチ破った穴しかないから久世の表情は見えない。
とりあえずこの状況はヤバい…。何とか切り抜けないと…
満月の流法で壁を破った時のダメージは治した。
あとは時間の流れが戻る前に奴の気を逸らせて逃れなきゃいけない。
どうする…?
「KUKUKUKU…女、お前は今、どうやってこの状況から逃れようか考えているな?
 例えば!「その壁の時間」を戻して暗がりに乗じて逃げる!とか!!」
やべぇ!読まれた!!


ドッゴァァァァァァン!!


手元に転がっていた壁の破片の時間を戻して倉庫の穴を塞ぐ。
けど一瞬の後に、久世は転がっていた資材を背後の壁に投げつけ、さっきより大きな穴を開けてしまった。

久世が美貴の首に手を掛け、持ち上げる。
うっぐ…苦し……息、が…!
「FuMuuuuuuuuuuu…さすがにそれ以上はもう策もないようだな…
 私も随分とダメージを受けた、まずはその血を頂くとしようか!!」


ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


292 :364:2006/08/16(水) 06:15:47.35 0


ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
こ、この感じ…吸い取られる…!み、美貴の血…ガ…!?
しかモ久世の顔色がどンどんよクなッて…!!
やばい!やばイ!!こ…こノ…まま…じゃ…
「ぶギ…トれィ……フルム……ォド……!(ブギートレイン03満月の流法!)」


バギバギバギッ!!


「Guuuuuaaaaaaaaaaaaaaa!!!」
美貴の首を掴んでいた久世の腕の骨がバギバギと砕けだす。
力が抜けた腕を振り解いて、美貴は久世が開けた穴へと走り、倉庫を抜け出した。
「ゲホッ!ゴホ!!美貴の身体に触れてるってことは、ブギートレイン03からも
 触れれる距離なんだよ!あんたは『地面を殴って腕が砕けた時間』に戻った!」

あ、危なかった…!
一瞬で吸い尽くされていたら、そして1分足らずとはいえ久世の腕が砕ける時間まで
戻せなかったらアウトだった…!
とりあえずよっちゃんと合流しないと…さすがにこの状況はヘヴィだ…。




293 :364:2006/08/16(水) 06:16:50.70 0


バン…バン…バン……


倉庫の角を曲がってすぐのところで、よっちゃんを見つけた。
『衝撃』をリフティングして威力を高めてるみたいだ。
「だから言ったんだよミキティ。無茶だってさ」
未だに無傷で説教してくるよっちゃんが腹立たしい。
でも、何も言い返せないから仕方ない。
この怪我だって美貴が先走ったせいでできたようなものだし。
それに、こうして衝撃を蹴ってるってことは何だかんだ逃げるつもりもなかったんだろう。
「厄介なスタンドだよね、本体だけでも厄介なのに、遠隔操作で攻防一体なんてさ」
「とりあえず2人がかりで全力で食らわしてみるか?策があるなら別だけど…
 ………って言ってるヒマもなさそうだ、来るぞミキティ!!」


ドッゴァァァァァァァァァァァァァァァァン!!


久世が倉庫の壁をぶち抜いて現れる!
もう腕の怪我は治ってる、もう満月の流法は切れたらしい。
「Guaaaaaaaaaaa!!!小癪な真似を!!
 人間などという私の食料でしかない存在が!!私の敬意を踏み躙りやがってェェ!!」
そのまま美貴たちに突っ込んできた!
「頭蓋を砕き!脳漿を啜ってくれるわァァァァァッ!!」
猛スピードで突っ込んでくる!!やべ、かわせない!!
「ぶ、ブギートレイン…!」



294 :364:2006/08/16(水) 06:17:56.22 0

「おぉぉぉぉぉっ!!愛のっ!ビッグバァァァンドッ!」
よっちゃんがボールを蹴りつける!でも月が欠けてる今は…!
「無駄無駄無駄無駄ァァ!その技も効かないのはッ…」


ズバババババババババババババババババーーーン!!


「Muguuuuuuuuuu!?」
いきなり久世の動きが止まり、両腕で身体を庇いだす。
砕けた衝撃が細かい散弾になって襲いかかってるんだ!!
衝撃の欠片とはいっても、その数と威力は尋常じゃない!
身を庇ってる久世はスキだらけだ!!


「いくぞミキティーッ!! Hey!!C'mon Every Bady Say!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!ゴォォーーールデンッゴォォール決めてッッ!!」


「AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!」
「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」
「AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!」
「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」
「AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUーーーーー!!」
「VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV!!!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!


30 :364:2006/08/17(木) 05:13:40.79 0

美貴とよっちゃんの容赦ないラッシュが久世に降り注ぐ!!
休みなく何十発、何百発ものラッシュを打ち込む。
これで倒せればいいんだけど、手ごたえがない。やっぱりスタンドでガードしてやがる。
このままれいなが来るまでこうして打ち続けてれればいいんだけど、それもなぁ…

ピシッ…

やべ、言ってるそばからきやがったよ。


ピシピシ……バリバリバリ…ドッパァァァァァァン!!


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
満月の流法が元の時間の流れに戻り、美貴の身体の傷も元に戻る。
あまりの痛さに美貴はラッシュの手を止めて崩れ落ちてしまう。
くそ…こんなときにっ!!

「下がってろミキティ!!
 AUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAUAU!!!!!!!」

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!

よっちゃんがさらに休みなくラッシュを打ち込む。
確かに、これだけの怪我してたら今は美貴は足手まといだ。
ゆっくりとよっちゃんと久世から距離を開けていく。
壁伝いに歩きながら、先ほど見つけたドラム缶のところまで(といっても十数mだけど)辿り着いた。
ひとまずはこの辺まで離れてれば大丈夫かな?


31 :364:2006/08/17(木) 05:14:12.70 0

ラッシュを止めたことで「防御」している久世の姿がよく見える。
久世の身体の表面を、鉛色に波立つ金属のようなものが覆っている。
なるほどね…球の形だけじゃなくて、ああして身体全体を覆うプロテクターにもできるんだ。
柴っちゃんと同じく身に纏うタイプ…いや、これはもう、身体と一体化してるっぽいな。
よっちゃんにラッシュを食らってる部分に波立ってるスタンドが集まって分厚くなっている。
何だか液体とかスライムみたいな感じでグロテスクだなぁ…

…あれ?久世の身体の前面に集まったスタンドが迫り出して…ヤバイ!!
「よっちゃん危ない!!ガードしてっ!!」
「AUAUAUAUAUAU……なっ!?」

ドゴァァァァァァァッッ!!

「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
久世の身体から「射出」された「球体」のムー・ファミリーによっちゃんが吹っ飛ばされる。
まだ久世の身体の表面にも鉛色のプロテクターが残っているが、それも1箇所に集まり、
球体となって久世の周囲に浮かび上がった。
「やってくれたな…さすがにかなり痛かったよ!!
 『ムー・ファミリー』!男を抑えておけ!!」

球体が飛ぶ!よっちゃんを吹っ飛ばしたのと2個の球体は先ほどの久世のように
よっちゃんの身体の表面を覆い、地面に磔にしてしまった。
「くっそ…離せ…!」
「無ゥゥゥゥ駄無駄ァァァァ! 暫くそこで大人しくしているがいい!!」
よっちゃんはもがいてるけどびくともしない。
Mr.ムーンライトは出せるみたいだけど、それでも引き剥がすことはできないみたいだ。


32 :364:2006/08/17(木) 05:14:45.08 0

「邪魔者は消えた!!今度こそ我がしもべとしてくれる!!
 URYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「ぶ、ブギートレインッッッ!!」

メキャァァァァァァァァァァッ!!

う、うぐ……
突っ込んできた久世の腕をガードしたけど、そのまま吹っ飛ばされる。
並んでるドラム缶に叩きつけられて、ドラム缶の中の液体が周囲に撒き散らされて美貴と久世を濡らした。
何とかドラム缶の残骸につかまりながら立ち上がる。
でもその時には既に目の前に久世が立っていた。
こりゃあ…もう逃げれないなぁ…

また久世が美貴の首を掴む。
「今度はさっきのように腕を砕くような真似もできるまい…一瞬で吸い尽くしてくれる…」
だけど美貴も怯まない。
これは……賭けだ!
「このままここで美貴の血を吸ったら、あんたも死ぬよ」
「何ィィ……?」
「気付いてないの?この臭い。美貴とあんたの身体から漂うこの臭いに!!」
久世がギクリと周囲を見回す。




「この臭い……まさか灯油!!?」





33 :364:2006/08/17(木) 05:15:32.70 0

「そう、あんたが後ろのドラム缶を破って灯油を浴びせたんだ…
 ここに火を投げ入れれば……どうなるか、わかるよな…?」
美貴は懐から、さっき倉庫でくすねておいたチャッカマンを取り出してみせる。
「バカな!!?お前も死ぬぞ!!?」
久世は美貴の首から手を離すと、じりじりと後ずさりを始める。
「どの道こうしなきゃ、血を吸われて美貴は終わりでしょ?」
久世と距離を開けないように、ゆっくりと美貴も久世に向かって歩く。

シュボッ………

チャッカマンに火を灯す。
気化した灯油に引火したら本当に終わりだけど、久世の顔は真っ青だ。
「どうした?美貴の血を吸うんじゃなかったの?」
「く、来るなぁぁぁぁAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
久世がとうとう背を向けて逃げ出した!!
最後の賭けは……美貴の勝ちだ!!
「ブギートレイン03!!!」
美貴は、火がついたままのチャッカマンを、灯油で濡れた地面に落とす。



ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!



「ミキティィィィィィィィィィィィィーーーーーーーー!!!!」
よっちゃんの叫ぶ声が聞こえた。




34 :364:2006/08/17(木) 05:17:40.25 0










「………ハァッ!ハァッ!!ハァッ……!」


間一髪だった!
本当に危なかったが、美貴は火の海からかろうじて脱出することができた。
火を灯油の海に落とす瞬間、美貴の身体を満月の流法で「灯油を浴びる前」に戻した。
油を被ってない状態だったから、美貴は火だるまになる前に脱出できた。



ゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウゴウ…
メラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラメラ…





35 :364:2006/08/17(木) 05:18:13.13 0


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


久世は火の海の中で転げ悶え、苦しんでる。
いくら吸血鬼の治癒能力が凄まじいとはいっても、これほどの炎には耐えられないだろう。

「全く無茶ばっかりしやがって…ホントに死ぬ所だぞ?」
スタンドが消えて拘束から逃れたよっちゃんがようやく近づいてきた。
「遅いよよっちゃん。悪いけど、肩貸してくれる?」
「バーカ、今救急車呼ぶからそこに転がってろw」
「ちぇっ、もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃん」
つまんない冗談を言えるのも、ようやく一息つけたと感じているからだろう。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!火を!火を消さなくてはっ!!海に飛び込んでっ…!」


ドッボァァァァーーーン!


いつの間にか火の海から這い出た久世が、そのまま身体の火を消そうと海に飛び込んだらしい。
「クッソ…なんてしぶとい奴……でも弱ってる今なら…」
よっちゃんがMr.ムーンライトを発現させて構える。
「大丈夫だよよっちゃん、もう勝負はついた、美貴たちの勝ちだよ」
「あぁ?何を言って……」




36 :364:2006/08/17(木) 05:18:51.69 0

「Nuuuuuuuuuuuuuuu!!火が消えてしまえばこっちの物!!
 小細工できぬよう『ムー・ファミリー』で固定してから血を吸ってやる!!
 水から上がったらすぐに……Mu??」

「アイツはもう、水から上がることはできない」

「身体の動きが鈍い?いや…身体が浮かない!沈んでしまう!!」

「満月の流法…さっき、灯油を浴びる前に防御したときに
 あいつの身体をスタンドと一体化して防御していた時間に戻した」

「GOBOGOBOGOBO!!し…沈む!!私の…ゴボァ!からッ…ダが…GUBOoooooooooo!!」

「美貴のダメージが戻った後もよっちゃんがラッシュで防御させといてくれなきゃ
 勝てなかった…よっちゃんのお陰だよ、勝てたのは」

「GOBOGOBOBOBOBOBOBOBOBOBOBOBOBOBOBO……BOBO………BO………」




「…やっと終わったか…」
「ホントしんどかった。普通の満月の日ならよかったのに」
吸血鬼はそのまま浮かんでこなかった。
満月の流法が切れるのを少し危ぶんだけど、それも杞憂だったみたいだ。

「吉澤さーん!!美貴ねぇーーー!!!どこにおるとーー!?
 吸血鬼キラーのれいなが来たとよーーーーーー!!!」
「おせぇよ…バカれいな……」
美貴とよっちゃんは地面に座り込んだまま苦笑いした。



37 :364:2006/08/17(木) 05:19:33.25 0

     ◇     ◇     ◇

「…そんなことがあったとですか…」
「あぁ、俺たちも自分のスタンドにこんな弱点があるとは思わなかったからさ」

れいなが到着してから、美貴たちはれいなに戦いの顛末を話して聞かせていた。
もうすぐ救急車も来るだろう。
寺田のおっさんへの報告はよっちゃんとれいなに任せればいいや。
「でも、それやったら近距離タイプのスタンドなら波紋無しでも
 倒せないことはないってことですよね?愛ちゃんやマコっちゃんでも」
「ああ、今回の奴は防御にも特化したスタンドだったから厳しかったけどな」
「ま、吸血鬼はれいなに任すのが無難だと思ったよ、今回ので。
 あーあ、また入院だよ…演劇部に入ってからだけで何度目だろう美貴…」
ホントそうだよな。入部して1年そこそこなのに。
「そのうち東方先輩に頼んで治してもらえばいいとよ。今度頼んでみるっちゃ。
 …吉澤先輩?どうかしたと?」
れいなの声に見ると、いつの間にかよっちゃんは月を見上げたままボーっとしていた。
「ん…や、何でもない…悪いけどれいな、ミキティについてってくれるか?」
「え、いいとですけど…何でですか?」
「や、大した用じゃねぇよ。ちょっと月を眺めたいのと…
 月食のときのスタンドの状態もちょっと調べておきたいしな」
「あ、分かりました…」
「無茶だけはしないでよ、吸血鬼倒したとはいっても、吸血ゾンビとかいるかもしれないんだしさ」
「分かってるよ、頼むな、れいな」
それだけ言うと、よっちゃんは埠頭のほうへ歩いていってしまった。
あーあ、マジで疲れたなぁ…怪我はするし。もうすぐ夏休みだってのになぁ…


ピーポーピーポーピーポーピーポー……



38 :364:2006/08/17(木) 05:20:11.02 0

     ◇     ◇     ◇

「前にミキティに言われたことがあったな…『スタンドのこと分かってるのか』って。
 月食のときにどれだけスタンドパワーが出るのか…
 平常時のように扱えないか……
 まだまだ分からないことも多いんだな…なぁ、『Mr.ムーンライト』…」








藤本美貴 重症
スタンド名:ブギートレイン03
吉澤ひとみ その後皆既月食の終わった深夜2時までトレーニングを続けた
スタンド名:Mr.ムーンライト

久世光彦 死亡
スタンド名:ムー・ファミリー